加温用針電極針及びこれを用いた加温装置
【課題】 局所的に加温することができるとともに、さまざまな形状の癌に対応することができ、かつ加温領域を拡大することができる加温用針電極針及びこれを用いた加温装置を提供する。
【解決手段】 加温用針電極1を、形状記憶合金で形成するとともに、皮膜部となった本体部1Aと、無皮膜部となっている先端部1Bを有する構成とし、この先端部1Bを、当該先端部1Bが所定温度に達したとき、加温領域が拡大する方向に変形するように記憶させた構成とした。
【解決手段】 加温用針電極1を、形状記憶合金で形成するとともに、皮膜部となった本体部1Aと、無皮膜部となっている先端部1Bを有する構成とし、この先端部1Bを、当該先端部1Bが所定温度に達したとき、加温領域が拡大する方向に変形するように記憶させた構成とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加温用針電極針及びこれを用いた加温装置にかかり、特に、針電極を形状記憶合金で形成した加温用針電極針に関する。また、これを用いた加温装置に関する。そして、医療技術の癌温熱治療に用いると好適である。
【背景技術】
【0002】
従来より、特定の部位を加温する局所加温は、各種の技術分野で広く行われている。例えば、医療の分野では、高周波エネルギーを人体の患部に与えて加温し、血行障害、炎症性疾患、神経痛等の治療を行っている。
【0003】
特に、癌(悪性腫瘍)は、熱に弱く、42〜43℃の温度で一定時間加温すると死滅することが医学的に認められているため、この熱的特性に着目し、上述した高周波エネルギーによる熱エネルギーを癌組織に加えることによってその温度を上昇させて治療する温熱治療法(ハイパーサーミア)が行われている。
【0004】
上記のように、電磁波を用いたハイパーサーミアは、使用する電磁波の周波数によって、(1)マイクロ波加温方式(数百MHz帯)、(2)RF(Radio Frequancy)加温方式(数百MHz)に大別される。前者(マイクロ波加温方式)は、人体の表面付近(皮膚に近い箇所)に発生する表在性癌の治療には有効であるが、生体内での電磁波の減衰が大きいため、人体の内部深くに発生する癌組織を加温することが困難であり、深部癌に対してはその効果が期待できない。
【0005】
一方で、図25に示すように、後者(RF加温方式)の装置50は、一対の平面電極(接地電極)56で人体Aを挟んで加温するため、比較的深部に発生する癌組織を死滅させることは可能である。しかし、被加温体である人体Aには、その体表面に脂肪層が存在し、この脂肪層組織は電気抵抗が高いために他の組織よりも強く加温される。従って、電極56から離れた人体Aの深部組織に関しては十分に加温することが困難となり、依然として深部癌には有効に対応することができない。
【0006】
そこで、針状の電極を人体の深部に刺入して、その針状の電極を加温する構成のハイパーサーミア用アプリケータが知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1に開示されたハイパーサーミア用アプリケータは、図26に示すように、組織内に刺入するために鋭利な先端部100Aを有する針状電極100として形成され、この針状電極100は、高周波ケーブル101を介して高周波コネクタ102に接続されている。また、針状電極100の先端部100Aを除く部分は、電磁波の放射領域を制限する部材として絶縁体103によって被覆されている。
アプリケータは、以上のような構造となっているので、針状電極100の先端部100A付近のみの組織が選択的に加温される。すなわち、局所的な加温が可能となっている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−277163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されたハイパーサーミア用アプリケータでは、加温中の針状電極100の直径や長さ等、形状が一定しており、その一定した状態で加温されるため、さまざまな形状をしている癌に対応した加温パターンが得られない、という問題がある。
また、アプリケータが針状電極100であり、その周囲のみしか加温されないので、加温領域が狭く、効果的な治療が困難である。そこで、針状アプリケータを使用して加温領域を拡大制御するためには、複数の針状アプリケータを使用しなければならず、この場合、正常細胞および患者に大きな負担がかかり、また、困難な治療が要求されている。
【0009】
このため、本発明では、上記従来例の不都合を改善し、局所的に加温することができるとともに、さまざまな形状の癌に対応することができ、かつ加温領域を拡大することができる加温用針電極針及びこれを用いた加温装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明である加温用針電極を、先端部を被加温部に刺入した後加温する加温用針電極において、前記加温用針電極を形状記憶合金で形成するとともに、前記先端部を、当該先端部が所定温度に達したとき加温領域が拡大する方向に変形するように記憶させた、という構成とした。
【0011】
このような構成にすることにより、針電極を形状記憶合金により形成し、その先端部が設定された温度で加温領域が拡大する方向に変形する。そのため、予め各種形状の癌に対応させた形状の針電極を準備しておくことで、各部位に発生した浅部および深部癌に対して、最適の形状の針電極を用いることができる。その結果、癌の形状に対応した加温制御を行うことができる。
また、設定された温度で針電極の先端部が変形するので、加温中に、加温領域を拡大することができる。そのため、設定温度を42〜43℃前後としておけば、針電極の拡大した部位の周囲の癌を効率よく死滅させることができ、特に、脳腫瘍のハイパーサーミアに対して有効となる。
【0012】
このとき、先端部の変形を、直線状の本体部に対して屈曲させることが好ましく、この屈曲形状としては、釣り針状とすることが好ましい。
また、上記先端部の屈曲を、本体部に対して直交する方向に屈曲するL字状とすることが好ましい。
【0013】
これにより、いずれの場合も加温領域が拡大されるので、さまざまな形状の癌に対応することができるとともに、拡大した加温領域の周囲の癌を死滅させることができ、効率のよい治療ができる。
【0014】
また、加温用針電極の先端部をスパイラル状に変形させることが好ましい。さらに、加温用針電極を中空部材で形成するとともに、その先端部を径方向に膨出するように変形させることが好ましい。
これにより、加温領域を拡大することができ、特に、加温用針電極を中空部材で形成し、その先端部の直径を変えるようにした場合、先端部の直径が大小に変化するため、癌の形状に対応することができる。
【0015】
さらに、加温用針電極を脳腫瘍の治療用として用いるとともに、加温用針電極の先端部を、42〜43℃前後で変形するように記憶させることが好ましい。
これにより、加温用針電極が脳腫瘍内に刺入された後、42〜43℃前後に加温されると、加温用針電極の先端部が、加温領域が拡大する方向に変形するので、加温領域の周囲の癌を死滅させることができ、特に、脳腫瘍の治療に用いると有効な効果を得ることができる。
【0016】
また、本発明である加温装置の構成として、前記針電極用の高周波を発振する高周波発振器と、この高周波発振器から発振される高周波および当該高周波の増幅とその出力レベルを可変制御する主制御部とを備えている、という構成を採っている。
【0017】
これにより、主制御部により高周波および出力レベルを可変制御しながら、高周波発振器から針電極に高周波が供給されるので、針電極周辺を、容易、かつ確実に、癌を死滅させることができる温度に加温することができる。
また、針電極を用いており、脳腫瘍等、深部の癌であっても、針電極を刺入し、加温することができるので、特に、脳腫瘍の治療に用いると有効な効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上のように構成され機能するので、針電極を形状記憶合金で形成し、針電極の先端部が、例えば42〜43℃前後で加温領域が拡大する方向に変形するように記憶させておくことにより、針電極が、例えば脳腫瘍部に刺入された後、拡大する。従って、局所的に加温することができるとともに、さまざまな形状の癌に対応することができ、かつ加温領域を拡大することができる、という従来にない優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、被加温体(主に人体)に取り付けられた針電極に高周波電力を供給して、針電極に生じた電磁界の作用によって、被加温体を局所的に加温する加温装置、および加温装置用針電極に関するものである。
【0020】
特に、本発明は、針電極を形状記憶合金で形成するとともに、その先端部を所定温度で加温領域が拡大する方向に変形するように記憶させてあるので、被加温体が、例えば人体の腫瘍部である場合には、その腫瘍部を癌組織が死滅する温度42〜43℃前後で局所的に加温することができ、このような用途において特に優れた効果を有する。
(第1実施形態)
【0021】
まず、図1,2に基づいて本発明の加温装置用針電極(以下、単に針電極という)1および加温装置10を説明する。図1は加温装置10の全体概略図であり、図2(A)、(B)は針電極1の全体側面図である。
【0022】
加温装置10は、図1に示すように、針状部材で形成された前記針電極1と、この針電極1に高周波を発振する高周波発振器11及びRFアンプ12と、この発振された高周波電力を制御するマッチングボックス13と、装置全体の動作を制御する主制御部であるコンピュータ14と、被加温体である人体Aを乗せるベッド15に配置される体外電極、つまり接地電極16と、を備えて構成されている。なお、符号14はモニターを示す。
【0023】
針電極1は、図2(A)、(B)に示すように、例えば直径1mmの針状の形状記憶合金で形成されている。この針電極1は、本体部1Aと先端部1Bとで構成され、このうちの先端部1Bは無皮膜部となっており、その寸法Lが、例えば30mm程度に設定されている。寸法Lは30mmに限定されず、癌Bの大きさ、形状に対応させるため、30mm以下、あるいは30mm以上のものを準備しておいてもよい。
そして、先端部1Bは、予め、設定温度としての例えば42〜43℃前後に加温されたとき、加温領域が拡大する方向に変形するように形状を記憶させてある。
【0024】
すなわち、図2(A)に示すように、針電極1の形状が、通常の状態、つまり設定温度以外の温度の状態では直線状であるが、設定温度である42〜43℃前後に加温されたとき、図2(B)に示すように、本体部1Aに対して先端部1Bが釣り針状に変形するようになっている。
そして、釣り針状の平行する部位間の距離Dは、例えば7mmとされ、釣り針状の短い部位の立ち上がり寸法hは、例えば10mmとされている。上記距離Dは、離れすぎると加温領域が2つに分かれるため、例えば4mm〜18mmに設定すると好適である。
【0025】
その結果、先端部1Bで、あたかも2本の針電極を用い、しかもそれらの一端部同士を、横方向の3本目の針電極で繋いだ状態を作り出すことができるので、釣り針状の間隔を最適にすることで、1本の針電極を用いた場合の加温領域に比べて少なくとも2倍以上の加温領域とすることができる。
【0026】
ここで、針電極1における加温原理を説明する。
RF加温方式における発熱は、印加されたRFのエネルギーが、生体組織(ここでは前記人体A)に吸収され、熱エネルギーに変化することによって生じる。高周波電流は、電気伝導率によって分布が変化するので、生体組織内においてその分布は、物性値等によって異なる傾向になる。そして、生体生体内に高周波電流が流れることによって、ジュール熱が生じ、組織が加温される。
本実施形態では、針電極1と接地電極16との間にはRF帯の高周波が流れているので、上記原理のように、針電極1の周辺にジュール熱が生じ、そのエネルギーによって針電極1の周辺が加温されることになる。
【0027】
以上のような加温装置10の使用方法は、例えば脳腫瘍の治療を受ける患者(人体A)をベッド15の上に寝かせた後、施術担当医が、さまざまな準備を整えておいて、脳腫瘍部Bに向けて針電極1を差し込み、針電極1の先端部1Bを脳腫瘍部Bに刺入する。
次いで、高周波発振器11及びRFアンプ12から供給される高周波電力をマッチングボックス13で、針電極1の先端部1Bが42〜43℃前後となるまで制御しながら電力を供給し、先端部1Bの周辺を加温する。
【0028】
針電極1が形状記憶合金で形成されており、その先端部1Bが42〜43℃前後に加温されたとき変形するように記憶させてあるので、電力が供給され、先端部1Bの温度が42〜43℃前後となったとき、先端部1Bは釣り針形状に変形する。
その結果、あたかも2本の針電極を刺入したのと同様の結果を作り出すことができ、加温領域が大幅に拡大する。
【0029】
以上のような第1実施形態によれば、次のような効果が得られる。
(1)針電極1が形状記憶合金で形成され、その先端部1Bが42〜43℃前後に加温されたとき釣り針形状に変形する。その結果、あたかも2本の針電極を刺入するとともに、それらを横方向に刺入した3本目の針電極で繋いだ状態と同様の結果を作り出すことができ、加温領域を大幅に拡大させることができ、釣り針形状の先端部1Bの加温により、その周囲の脳腫瘍部Bの癌細胞を死滅させ、大きな治療効果を得ることができる。
【0030】
(2)癌Bの形状に応じて、癌Bの例えば片側から針電極1を刺入した後、その針電極1を加温したとき、先端部1Bが反対側に釣り針状に変形するので、癌の形状に対応させることができ、より一層の治療効果の向上を図れる。
【0031】
(3)針電極1の先端部1Bの変形が釣り針状であり、比較的簡単な形状なので、記憶させる段階での作業が容易である。
【0032】
前述のような第1実施形態において、先端部1Bが釣り針状となっている針電極1の加温領域が拡大することの実証は、以下に述べるコンピュータによるシミュレーションと、実験結果とから確認される。
【0033】
(第1回目のコンピュータによるシミュレーション)
図3には、実験用の加温装置20が示されている。この加温装置20は高周波発振器22を備え、高周波発振器22から13.56MHzのRF帯の高周波電流が出力され、高周波電流は接続ボックス23によって、電極に分配されるように構成されている。
【0034】
解析のための実験方法として、ファントム24を、径方向で二つに切断したものを使用し、針電極21を切断したファントム24の断面部の中心に挟み込むとともにバンド25で縛りつけ、ファントム24の断面部に空気が入らないようにして加温実験を行った。
ファントム24としては、人体Aを模擬した筋肉等価寒天ファントムを使用した。この寒天ファントム24のパラメータを表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
ここで、正規化温度0.8以上を有効な加温ができる範囲とした。
これは、本発明で目標としている温度が、腫瘍組織が死滅する42〜43℃前後であり、ここで、人体の体温を37℃、加温の最高温度を43℃前後として、これらの条件を基に正規化を行った場合、42℃は正規化温度0.83となるからである。
【0037】
まず、図4に示すように、直径(φ)180mm、高さ(H)135mmの円筒状の寒天ファントム24に対して、針電極21を2本、間隔Dをあけて縦に刺入し、加温した。
ここで、図4では間隔Dが4mmで、針電極に電圧をかける部分、つまり無皮膜部となった先端部21Bの長さLを30mmとした。また、針電極21の先端部21Bは先端をそろえて刺入してある。さらに、先端部21Bに100V、接地電極16に0Vの電位境界の条件を与えた。
【0038】
温度分布の測定には、図示しないサーモカメラを使用した。この際、ファントム輪郭の温度分布が明確でないと検討が困難なので、ファントム24の周辺にファントム24に比べて温度が低い布をおき、ファントム24とその周辺の温度差にメリハリをつけた。また、加温条件としては、加温出力を4W、加温温度を5分とした。
【0039】
次に、以上のようにして実施されたコンピュータのシミュレーションの温度分布解析を説明する。
図5には、第1回目のシミュレーションから得られた、2本の針電極21,21の間隔Dが4mmの場合の温度分布画像が示されている。この図5で分かるように、2本の針電極21,21の間隔Dが狭いため、加温領域が1つであることと変わりがなく、針電極間も高温に加温されていることがわかる。
【0040】
なお、解析は、間隔Dが4mmの他、8mm、12mmの場合も行った。
そして、間隔Dが8mmの場合、図示しないが、間隔Dが4mmの場合と比較して針電極間の温度上昇が小さく、高温に加温されているとはいえない結果が得られた。
また、間隔Dが12mmの場合、図示しないが、加温領域は完全に2つに分かれ、間隔Dが4mm、8mmのそれぞれの場合より低くなっており、高温に加温されているとはいえない結果が得られた。
【0041】
以上の解析結果をそれぞれ正規化してグラフ化したものが、正規化温度プロファイルとして図6に示されている。そして、この図6から、どの場合も(間隔Dが4mm、8mm、12mm)、針電極21の周辺は高温に加温されているが、針電極間隔Dが大きくなるにつれて、針電極21,21間の最低温度が低くなっていることが読み取れる。また、いずれの場合も、針電極間中心(ファントム中心)が針電極間最低温度点であることが分かる。
【0042】
図7には、針電極間隔Dが4mm、8mm、12mmの場合で、針電極間中心(ファントム中心)の温度をとってグラフ化したものが示されている。
この図7から、針電極間中心温度は、針電極間隔が大きくなると、それにほぼ比例して低くなっていくということが分かる。
【0043】
以上の説明から明確なように、針電極間隔Dが12mmではホットスポット、つまり加温領域が完全に2つに分かれてしまい、加温領域の拡大は見込めないことが分かる。また、図7から分かるように、針電極間隔Dが7.5mm以上になると、針電極間最低温度が正規化温度0.8を下回ることが予測できる。その結果、針電極間隔Dが7.5mm以下であれば、針電極間に挟み込んだ腫瘍を高温に加温して死滅させる等、大きな治療効果を挙げることができると考えられる。
【0044】
また、図示しないが、2本の針電極の先端を、針電極の長手方向にずらした状態での解析も行った。この場合、ずれの寸法を複数に設定したが、いずれの場合も下にずれた針電極付近の方が、より高温に加温されていた。
これは、下にずれることにより、接地電極16との距離が短くなり、電気力線がずらした針電極により集中するからであると考えられる。また、これらのことから、刺入深さのずれが10mmあっても両方の針電極付近で有効な加温はできるが、そのずれが大きくなると加温特性に偏りが生じ、片側の針電極付近の加温領域が小さくなることが考えられ、2本の針電極付近でほぼ同等の高温加温領域を得たい場合、刺入深さのずれは極力小さいものでなければならないということが分かっている。
【0045】
(第1回目の実験結果)
次に、前記とほぼ同じような条件の下に実施した第1回目の実験結果を説明する。
実験では、前記実験用加温装置20を用い、図8に示すように、前記寒天ファントム24を実験モデルの寒天ファントム24Aとして使用し、その寒天ファントム24Aに2本の前記針電極21,21を縦に刺入して、針電極21,21のそれぞれの先端部21B,21Bの周辺を加温し、その結果を得た。
ここで、間隔Dを13mm、先端部21Bの長さLを30mmとした。また、針電極21,21の先端部21B,21Bは先端をそろえて刺入してある。加温条件としては、加温出力を4W、加温温度を5分とした。
【0046】
次に、前述のような第1回目の実験結果から得られた温度分布解析を説明する。
図9には、2本の針電極21,21の間隔Dが13mmの場合の温度分布画像が示されている。この図9でわかるように、間隔Dが13mmの場合、針電極21,21間は高温に加温されており、ホットスポットが1つになっていることが分かる。
また、図示しないが、間隔Dが17mmの場合、上記間隔Dが13mmの場合と同様に、針電極21,21間は高温に加温されており、ホットスポットが1つになっていた。
20mmの場合も実験した結果、針電極21,21間が高温に加温されておらず、ホットスポットは2つに分かれていることが分かっている。
【0047】
以上の実験結果をそれぞれ正規化してグラフ化したものが、正規化温度プロファイルとして図10に示されている。そして、この図10から、針電極間隔Dが17mm、13mmの場合には、針電極周辺は高温に加温されているが、針電極間隔Dが20mmの場合だけは、正規化温度0.8を下回っていることが分かる。
【0048】
また、図11には、針電極間最低温度と針電極間隔Dとの関係グラフ化したものが示されている。
この図11から、針電極間最低温度を正規化温度0.8以上にするには、針電極間隔Dを約18mm以下でなければならない、ということが分かる。
【0049】
次に、図12に基づいて、本発明の針電極の第2実施形態を説明する。
本実施形態の針電極2、および以下に述べる第3、4実施形態の針電極3,4は、前記第1実施形態の針電極1と同様の部材で形成されている。
本第2実施形態の針電極2は、その形状が、通常の状態、つまり設定温度以外の温度の状態では、図2(A)に示すように直線状であるが、設定温度である42〜43℃前後に加温されたとき、図2(B)に示すように、先端部2Bの一部が本体部2Aに対して直行する方向に屈曲し、全体L字形状に変形するようになっている。
ここで、先端部2Bの寸法Lは、例えば30mmとなっており、そのうちの立ち上がり部の寸法が10mm、横方向延出部の寸法が20mmに設定されている。
【0050】
その結果、先端部2Bの立ち上がり部と横方向延出部とにより、縦の加温部と横の加温部とを作り出すことができるので、加温領域を拡大することができる。
【0051】
以上のような第2実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の作用の他、(1)〜(3)とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0052】
前述のような第2実施形態において、先端部2Bが本体部2Aに対して直交している針電極1の加温領域が拡大することの実証は、以下に述べるコンピュータによる第2回目のシミュレーションと、実験結果とから理解できる。
【0053】
(コンピュータによる第2回目のシミュレーション)
コンピュータによるミュレーションは、前記と同様の設備を用い、また同じ条件等で行った。
【0054】
解析のための実験では、まず、前記2本の針電極21,21を、前記寒天ファントム24Aに対して水平と垂直に刺入し、コンピュータによる解析を行った。
ここで、図13では垂直な針電極21に対して水平な針電極21の先端が離れた状態であり、その距離aが4mmで、針電極21,21に電圧をかける先端部21Bの長さLを30mmとした。さらに、先端部に100V、接地電極16に0Vの電位境界の条件を与えた。
【0055】
次に、以上のようにして実施されたコンピュータの第2回目のシミュレーションの温度分布解析を説明する。
図14には、上記距離aが4mmの場合の温度分布画像が示されている。この図14でわかるように、2本の針電極21,21の先端付近は共に高温に加温されていることが分かり、また、垂直に刺入した針電極付近よりも、水平に刺入した針電極付近の方がより広範囲にわたって高温に加温されていることがわかる。
【0056】
なお、解析は、距離aが4mmの他、6mm、8mmの場合も行った。
そして、距離aが6mmの場合は、図示しないが、距離aが4mmの場合と同様に、水平に刺入した針電極付近の方がより広範囲にわたって高温に加温されていることが確認された。しかし、距離aが4mmの場合と比べて最高温度は低くなっていた。
さらに、距離aが8mmの場合は、図示しないが、距離aが4mm、6mmの場合と同じ傾向が確認された。しかし、距離aが6mmの場合と比べて最高温度は低くなっていた。
【0057】
以上の解析結果をそれぞれ正規化してグラフ化したものが、正規化温度プロファイルとして図15に示されている。この図15は、水平に刺入した針電極の中心でr軸方向にプロファイルをとったものである。
そして、この図15から、距離aが4mmの場合にのみ針電極先端間最低温度が正規化温度0.8以上であり、先端間距離aが大きくなるにつれて先端間最低温度が低くなっていることが分かる。
また、距離aが6mm、8mmの場合において、正規化温度0.8以上の高温加温領域は、針電極が移動した分だけずれているだけで、加温領域の大きさはほぼ変らないことが分かる。
【0058】
図16には、水平に刺入した針電極の中心でz軸方向に正規化したプロファイルをとったものが示されている。正規化を行う際、最高温度には、全体の最高温度(水平に刺入された針電極付近の最高温度)が用いられている。
そして、この図16から、先端距離aが大きくなるにつれて垂直に刺入された針電極付近での最高温度も高くなり、正規化温度0.8以上の領域も広くなっていることが分かる。
【0059】
図17には、針電極先端距離と針電極間最低温度の関係グラフ化したものが示されている。
この図17から、針電極間最低温度は、針電極先端距離aが大きくなると、それに比例して低くなっていくということが分かる。
【0060】
以上の図15の説明から明確なように、先端間距離が大きくなると針電極間最低温度が低くなり、その結果、ホットスポットが2つになってしまうので、加温領域の拡大が見込めないことが分かる。
また、図17から分かるように、正規化温度0.8以上を得るためには、先端間距離aが4.9mm以下でならないことが予測できる。
【0061】
なお、図示しないが、垂直に刺入した針電極を水平に刺入した針電極から離して行く場合のシミュレーションも行った。
この結果では、両針電極の距離が5mm以下の場合に、加温領域の拡大が期待できることが示された。
(第2回目の実験結果)
【0062】
次に、前記のような垂直と水平方向から刺入したのとほぼ同じような条件の下に実施した第2回目の実験結果を説明する。
実験では、前記実験用加温装置20を用い、前記寒天ファントム24Aに2本の針電極21,21を、垂直と水平方向から刺入して、針電極21,21の先端部21B,21Bを加温し、その結果を得た。
図18には、実験モデルの寒天ファントム24に、2本の針電極21,21を刺入した状態が示されている。
ここで、図18では先端部距離aが4mmで、先端部の長さLを30mmとした。加温条件としては、加温出力を4W、加温温度を5分とした。
【0063】
次に、第2回目の実験結果で得られた温度分布解析を説明する。
図19には、2本の針電極の先端距離aが4mmの場合の温度分布画像が示されている。この図19でわかるように、先端距離aが4mmの場合、ホットスポットは1つであり、水平に刺入した針電極付近の方が垂直に刺入した針電極付近よりも、より高温に加温されていることが分かる。
【0064】
また、図示しないが、先端距離aが7mmの場合、ホットスポットは1つであり、垂直に刺入した針電極付近の方が水平に刺入した針電極付近よりも、より高温に加温されていることが分かっている。
さらに、図示しないが、先端距離aが11mmの場合、ホットスポットは2つに分かれ、垂直に刺入した針電極付近の方が水平に刺入した針電極付近よりも、より高温に加温されていることが分かっている。
【0065】
図20には、水平に刺入した針電極の中心でr軸方向にプロファイルをとったものが示されている。
そして、この図20から、距離aが4mm、11mmの場合は、水平に刺入した針電極付近で正規化温度0.8以上の高温加温領域は確認できるが、距離aが7mmの場合は、水平に刺入した針電極付近で正規化温度0.8以上の高温加温領域がほとんどないことが分かる。また、距離aが11mmの場合のみグラフの山が2つになっており、これより加温領域が2つに分かれていることが確認できる。
【0066】
図21には、垂直に刺入した針電極の中心でz軸方向にプロファイルをとったものが示されている。
そして、この図21から、距離aが4mm、7mm、11mmのいずれの場合も、垂直に刺入した針電極付近で正規化温度0.8以上の高温加温領域は確認できるが、距離aが7mm、11mmの場合に比べ、距離aが4mmの場合は、高温加温領域が小さいことが分かる。
【0067】
図22には、針電極先端距離と針電極先端間最低温度の関係グラフ化したものが示されている。
この図22から、針電極先端距離aが大きくなっていくにつれて、針電極先端間最低温度は低くなっていくということが分かる。
【0068】
以上の図19〜22の説明から明らかなように、針電極先端距離aが4mmでは水平に刺入した針電極付近に最高温度観測点があり、先端距離aが7mmの場合は垂直に刺入した針電極付近に最高温度観測点があることが分かる。
【0069】
このことから、針電極先端距離aが4mm程度以下であれば水平に刺入した針電極付近の方がより高温に加温され、先端距離aが7mm以上であれば、垂直に刺入した針電極付近の方がより高温に加温されることが考えられ、これが切り替わる点は、先端距離aが4mm〜7mmの間にあることが予測できる。また、先端距離aが4mmの場合にホットスポットが1つであり、両針電極付近で高温が確認されていることから、針電極先端距離aが4mm程度以下であれば、加温領域の拡大が期待できることが考えられる。
以上のように実験結果で得られた情報は、コンピュータのシミュレーションでの情報と方向性がほぼ一致している。
これにより、前記第2実施形態で針電極2の先端部2BをL字状とした形状が、加温領域の拡大を図れることが実証されている。
【0070】
また、図示しないが、2本の針電極のうち、垂直針の先端を水平針の先端から距離をあけた状態での実験も行った。
この場合、針電極先端間距離が1mmであれば、水平に刺入した針電極付近の方が、より高温加温領域が大きく、針電極先端間距離が5mm程度以下であれば、垂直に刺入した針電極付近の方がより高温加温領域が大きくなると考えられ、これが切り替わる点は、先端間距離が1mm〜5mmの間にあることが予測できる。
【0071】
上記結果より、針電極先端間距離が大きくなると針電極間最低温度が、正規化温度で0.8を下回り、ホットスポットが2つに分かれてしまうため、加温領域の拡大は見込めないことが考えられる。この場合、針電極先端間距離が1mm程度以下であれば、針電極間最低温度が正規化温度で0.8を下回らず、加温領域の拡大が期待できると考えられる。
【0072】
次に、図23に基づいて、本発明の針電極の第3実施形態を説明する。
本実施形態の針電極3は、その形状が、通常の状態、つまり設定温度以外の温度の状態では、図23(A)に示すように、本体部3Aと先端部3Bとが直線状となっているが、設定温度である42〜43℃前後に加温されたとき、図23(B)に示すように、先端部3Bがスパイラル状に、かつ本体部3Aとの間でL字形状を形成して変形するようになっている。
【0073】
その結果、先端部3Bがスパイラルの外径寸法φの大きさとなるので、加温領域を拡大することができる。
なお、この第3実施形態の針電極3について、コンピュータのシミュレーションおよび実験は行っていないが、前記第1、第2実施形態に対応するコンピュータのシミュレーションおよび実験結果から、針電極3でも加温領域の拡大が図れることを推察することができる。
【0074】
以上のような第3実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の作用の他、(1)、(2)と同様の効果を得ることができ、さらに次のような効果を得ることができる。
(4)スパイラルの外形寸法φの大きさを、先端部3Bの長さ方向において適宜変えることで、癌の形状に対応させることができ、より効果的な治療が可能となる。
【0075】
次に、図24に基づいて、本発明の針電極の第4実施形態を説明する。
本実施形態の針電極4は、外径寸法が例えば1mmの中空部材で形成されている。そして、針電極4の形状は、通常の状態、つまり設定温度以外の温度の状態では、図24(A)に示すように、本体部4Aと先端部4Bとが直線状であるが、設定温度である42〜43℃前後に加温されたとき、図24(B)に示すように、先端部4Bの一部、あるいは全部が、径方向に膨出して変形するようになっている。
ここで、径方向の膨出寸法は、先端部4Bの全長にわたって一定でなくてもよく、径寸法が異なっていてもよい。
【0076】
その結果、先端部4Bが径方向に膨出して変形するので、加温領域を拡大することができる。
なお、この第4実施形態の針電極3について、コンピュータのシミュレーションおよび実験は行っていないが、前記第1、第2実施形態に対応するコンピュータのシミュレーションおよび実験結果から、針電極3でも加温領域の拡大が図れることを推察することができる。
【0077】
なお、第4実施形態では、針電極4の本体部4Aと先端部4Bとが直線状に連続する形状となっているが、前記第1〜4実施形態と同様に、釣り針状、L字状となるように変形させ、あるいはく字状になるように記憶させ、それぞれの状態で径方向に膨出するように記憶させてもよい。
【0078】
以上のような第5実施形態によれば、前記第1実施形態とほぼ同様の作用の他、前記(1)、(2)、(4)とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0079】
なお、本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記各実施形態では、針電極1〜4を、主に脳腫瘍の治療用として用いていたが、これに限らない。例えば、被加温体を食品とし、かかる食品を局所的に加温することに本発明を用いてもよい。また、松等の植物の幹内に針電極1〜4を刺入し、加温することで内部の松くい虫等を駆除するために使用してもよい。
【0080】
また、前記第2実施形態の針電極2では、本体部2Aと先端部2Bとが、全体L字形状となるように変形させたが、必ずしも全体L字形状でなくてもよい。例えば、全体く字形状に屈曲して変形するようになっていてもよい。要は、加温領域を拡大できる方向に変形するものであればよい。
そして、このようにしても、加温領域を拡大することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明である加温用針電極針及びこれを用いた加温装置は、供給される高周波電力により、加温用針電極針を加温することができ、局所的に加温することができるので、例えば腫瘍の治療、特に脳腫瘍の治療用として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の加温装置の構成を示す全体概略図である。
【図2】本発明の加温装置用針電極の第1実施形態を示す図であり、図2(A)は通常の状態、図2(B)は設定温度に達して変形したときの状態を示す図である。
【図3】一般的な針電極の性能を検査するための実験機を示す全体概略図である。
【図4】一般的な針電極を2本使用して加温状態を観察するために用いられる解析モデルを示す断面図である。
【図5】第1回目のシミュレーションから得られた温度分布画像を示す図である。
【図6】第1回目のシミュレーションで得られた正規化温度プロファイルを示す図である。
【図7】第1回目のシミュレーションで得られた針電極間隔と針電極間中心温度の関係を示す図である。
【図8】第1回目の実験に使用される実験モデルを示す断面図である。
【図9】第1回目の実験から得られた温度分布画像を示す図である。
【図10】第1回目の実験から得られた正規化温度プロファイルを示す図である。
【図11】第1回目の実験から得られた針電極間隔と針電極間中心温度の関係を示す図である。
【図12】本発明の加温装置用針電極の第2実施形態を示す図であり、図12(A)は通常の温度での状態、図12(B)は設定温度に達したときの状態を示す図である。
【図13】2本の針電極を、方向を違えて使用した解析モデルを示す断面図である。
【図14】第2回目のシミュレーションから得られた温度分布画像を示す図である。
【図15】第2回目のシミュレーションで得られたr軸の正規化温度プロファイルを示す図である。
【図16】第2回目のシミュレーションで得られたz軸の正規化温度プロファイルを示す図である。
【図17】第2回目のシミュレーションで得られた針電極間隔と針電極間中心温度の関係を示す図である。
【図18】第2回目の実験に使用される実験モデルを示す断面図である。
【図19】第2回目の実験から得られた温度分布画像を示す図である。
【図20】第2回目の実験から得られたr軸の正規化温度プロファイルを示す図である。
【図21】第2回目の実験から得られたz軸の正規化温度プロファイルを示す図である。
【図22】第2回目の実験から得られた針電極間隔と針電極間中心温度の関係を示す図である。
【図23】本発明の加温装置用針電極の第3実施形態を示す図であり、図23(A)は通常の状態、図23(B)は設定温度に達したときの状態を示す図である。
【図24】本発明の加温装置用針電極の第4実施形態を示す図であり、図24(A)は通常の状態、図24(B)は設定温度に達したときの状態を示す図である。
【図25】一般的なRF誘電加温装置を示す概略図である。
【図26】従来の針状電極を用いたハイパーサーミア用アプリケータを示す概略図である。
【符号の説明】
【0083】
1,2,3,4 加温要針電極
1A,2A,3A,4A 本体部
1B,2B,3B,4B 先端部
10 加温装置
11 高周波発振器
12 RFアンプ
13 マッチングボックス
14 コンピュータ
16 接地電極
A 被加温体である人体
B 加温対象部である腫瘍部
【技術分野】
【0001】
本発明は、加温用針電極針及びこれを用いた加温装置にかかり、特に、針電極を形状記憶合金で形成した加温用針電極針に関する。また、これを用いた加温装置に関する。そして、医療技術の癌温熱治療に用いると好適である。
【背景技術】
【0002】
従来より、特定の部位を加温する局所加温は、各種の技術分野で広く行われている。例えば、医療の分野では、高周波エネルギーを人体の患部に与えて加温し、血行障害、炎症性疾患、神経痛等の治療を行っている。
【0003】
特に、癌(悪性腫瘍)は、熱に弱く、42〜43℃の温度で一定時間加温すると死滅することが医学的に認められているため、この熱的特性に着目し、上述した高周波エネルギーによる熱エネルギーを癌組織に加えることによってその温度を上昇させて治療する温熱治療法(ハイパーサーミア)が行われている。
【0004】
上記のように、電磁波を用いたハイパーサーミアは、使用する電磁波の周波数によって、(1)マイクロ波加温方式(数百MHz帯)、(2)RF(Radio Frequancy)加温方式(数百MHz)に大別される。前者(マイクロ波加温方式)は、人体の表面付近(皮膚に近い箇所)に発生する表在性癌の治療には有効であるが、生体内での電磁波の減衰が大きいため、人体の内部深くに発生する癌組織を加温することが困難であり、深部癌に対してはその効果が期待できない。
【0005】
一方で、図25に示すように、後者(RF加温方式)の装置50は、一対の平面電極(接地電極)56で人体Aを挟んで加温するため、比較的深部に発生する癌組織を死滅させることは可能である。しかし、被加温体である人体Aには、その体表面に脂肪層が存在し、この脂肪層組織は電気抵抗が高いために他の組織よりも強く加温される。従って、電極56から離れた人体Aの深部組織に関しては十分に加温することが困難となり、依然として深部癌には有効に対応することができない。
【0006】
そこで、針状の電極を人体の深部に刺入して、その針状の電極を加温する構成のハイパーサーミア用アプリケータが知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1に開示されたハイパーサーミア用アプリケータは、図26に示すように、組織内に刺入するために鋭利な先端部100Aを有する針状電極100として形成され、この針状電極100は、高周波ケーブル101を介して高周波コネクタ102に接続されている。また、針状電極100の先端部100Aを除く部分は、電磁波の放射領域を制限する部材として絶縁体103によって被覆されている。
アプリケータは、以上のような構造となっているので、針状電極100の先端部100A付近のみの組織が選択的に加温される。すなわち、局所的な加温が可能となっている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−277163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されたハイパーサーミア用アプリケータでは、加温中の針状電極100の直径や長さ等、形状が一定しており、その一定した状態で加温されるため、さまざまな形状をしている癌に対応した加温パターンが得られない、という問題がある。
また、アプリケータが針状電極100であり、その周囲のみしか加温されないので、加温領域が狭く、効果的な治療が困難である。そこで、針状アプリケータを使用して加温領域を拡大制御するためには、複数の針状アプリケータを使用しなければならず、この場合、正常細胞および患者に大きな負担がかかり、また、困難な治療が要求されている。
【0009】
このため、本発明では、上記従来例の不都合を改善し、局所的に加温することができるとともに、さまざまな形状の癌に対応することができ、かつ加温領域を拡大することができる加温用針電極針及びこれを用いた加温装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明である加温用針電極を、先端部を被加温部に刺入した後加温する加温用針電極において、前記加温用針電極を形状記憶合金で形成するとともに、前記先端部を、当該先端部が所定温度に達したとき加温領域が拡大する方向に変形するように記憶させた、という構成とした。
【0011】
このような構成にすることにより、針電極を形状記憶合金により形成し、その先端部が設定された温度で加温領域が拡大する方向に変形する。そのため、予め各種形状の癌に対応させた形状の針電極を準備しておくことで、各部位に発生した浅部および深部癌に対して、最適の形状の針電極を用いることができる。その結果、癌の形状に対応した加温制御を行うことができる。
また、設定された温度で針電極の先端部が変形するので、加温中に、加温領域を拡大することができる。そのため、設定温度を42〜43℃前後としておけば、針電極の拡大した部位の周囲の癌を効率よく死滅させることができ、特に、脳腫瘍のハイパーサーミアに対して有効となる。
【0012】
このとき、先端部の変形を、直線状の本体部に対して屈曲させることが好ましく、この屈曲形状としては、釣り針状とすることが好ましい。
また、上記先端部の屈曲を、本体部に対して直交する方向に屈曲するL字状とすることが好ましい。
【0013】
これにより、いずれの場合も加温領域が拡大されるので、さまざまな形状の癌に対応することができるとともに、拡大した加温領域の周囲の癌を死滅させることができ、効率のよい治療ができる。
【0014】
また、加温用針電極の先端部をスパイラル状に変形させることが好ましい。さらに、加温用針電極を中空部材で形成するとともに、その先端部を径方向に膨出するように変形させることが好ましい。
これにより、加温領域を拡大することができ、特に、加温用針電極を中空部材で形成し、その先端部の直径を変えるようにした場合、先端部の直径が大小に変化するため、癌の形状に対応することができる。
【0015】
さらに、加温用針電極を脳腫瘍の治療用として用いるとともに、加温用針電極の先端部を、42〜43℃前後で変形するように記憶させることが好ましい。
これにより、加温用針電極が脳腫瘍内に刺入された後、42〜43℃前後に加温されると、加温用針電極の先端部が、加温領域が拡大する方向に変形するので、加温領域の周囲の癌を死滅させることができ、特に、脳腫瘍の治療に用いると有効な効果を得ることができる。
【0016】
また、本発明である加温装置の構成として、前記針電極用の高周波を発振する高周波発振器と、この高周波発振器から発振される高周波および当該高周波の増幅とその出力レベルを可変制御する主制御部とを備えている、という構成を採っている。
【0017】
これにより、主制御部により高周波および出力レベルを可変制御しながら、高周波発振器から針電極に高周波が供給されるので、針電極周辺を、容易、かつ確実に、癌を死滅させることができる温度に加温することができる。
また、針電極を用いており、脳腫瘍等、深部の癌であっても、針電極を刺入し、加温することができるので、特に、脳腫瘍の治療に用いると有効な効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上のように構成され機能するので、針電極を形状記憶合金で形成し、針電極の先端部が、例えば42〜43℃前後で加温領域が拡大する方向に変形するように記憶させておくことにより、針電極が、例えば脳腫瘍部に刺入された後、拡大する。従って、局所的に加温することができるとともに、さまざまな形状の癌に対応することができ、かつ加温領域を拡大することができる、という従来にない優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、被加温体(主に人体)に取り付けられた針電極に高周波電力を供給して、針電極に生じた電磁界の作用によって、被加温体を局所的に加温する加温装置、および加温装置用針電極に関するものである。
【0020】
特に、本発明は、針電極を形状記憶合金で形成するとともに、その先端部を所定温度で加温領域が拡大する方向に変形するように記憶させてあるので、被加温体が、例えば人体の腫瘍部である場合には、その腫瘍部を癌組織が死滅する温度42〜43℃前後で局所的に加温することができ、このような用途において特に優れた効果を有する。
(第1実施形態)
【0021】
まず、図1,2に基づいて本発明の加温装置用針電極(以下、単に針電極という)1および加温装置10を説明する。図1は加温装置10の全体概略図であり、図2(A)、(B)は針電極1の全体側面図である。
【0022】
加温装置10は、図1に示すように、針状部材で形成された前記針電極1と、この針電極1に高周波を発振する高周波発振器11及びRFアンプ12と、この発振された高周波電力を制御するマッチングボックス13と、装置全体の動作を制御する主制御部であるコンピュータ14と、被加温体である人体Aを乗せるベッド15に配置される体外電極、つまり接地電極16と、を備えて構成されている。なお、符号14はモニターを示す。
【0023】
針電極1は、図2(A)、(B)に示すように、例えば直径1mmの針状の形状記憶合金で形成されている。この針電極1は、本体部1Aと先端部1Bとで構成され、このうちの先端部1Bは無皮膜部となっており、その寸法Lが、例えば30mm程度に設定されている。寸法Lは30mmに限定されず、癌Bの大きさ、形状に対応させるため、30mm以下、あるいは30mm以上のものを準備しておいてもよい。
そして、先端部1Bは、予め、設定温度としての例えば42〜43℃前後に加温されたとき、加温領域が拡大する方向に変形するように形状を記憶させてある。
【0024】
すなわち、図2(A)に示すように、針電極1の形状が、通常の状態、つまり設定温度以外の温度の状態では直線状であるが、設定温度である42〜43℃前後に加温されたとき、図2(B)に示すように、本体部1Aに対して先端部1Bが釣り針状に変形するようになっている。
そして、釣り針状の平行する部位間の距離Dは、例えば7mmとされ、釣り針状の短い部位の立ち上がり寸法hは、例えば10mmとされている。上記距離Dは、離れすぎると加温領域が2つに分かれるため、例えば4mm〜18mmに設定すると好適である。
【0025】
その結果、先端部1Bで、あたかも2本の針電極を用い、しかもそれらの一端部同士を、横方向の3本目の針電極で繋いだ状態を作り出すことができるので、釣り針状の間隔を最適にすることで、1本の針電極を用いた場合の加温領域に比べて少なくとも2倍以上の加温領域とすることができる。
【0026】
ここで、針電極1における加温原理を説明する。
RF加温方式における発熱は、印加されたRFのエネルギーが、生体組織(ここでは前記人体A)に吸収され、熱エネルギーに変化することによって生じる。高周波電流は、電気伝導率によって分布が変化するので、生体組織内においてその分布は、物性値等によって異なる傾向になる。そして、生体生体内に高周波電流が流れることによって、ジュール熱が生じ、組織が加温される。
本実施形態では、針電極1と接地電極16との間にはRF帯の高周波が流れているので、上記原理のように、針電極1の周辺にジュール熱が生じ、そのエネルギーによって針電極1の周辺が加温されることになる。
【0027】
以上のような加温装置10の使用方法は、例えば脳腫瘍の治療を受ける患者(人体A)をベッド15の上に寝かせた後、施術担当医が、さまざまな準備を整えておいて、脳腫瘍部Bに向けて針電極1を差し込み、針電極1の先端部1Bを脳腫瘍部Bに刺入する。
次いで、高周波発振器11及びRFアンプ12から供給される高周波電力をマッチングボックス13で、針電極1の先端部1Bが42〜43℃前後となるまで制御しながら電力を供給し、先端部1Bの周辺を加温する。
【0028】
針電極1が形状記憶合金で形成されており、その先端部1Bが42〜43℃前後に加温されたとき変形するように記憶させてあるので、電力が供給され、先端部1Bの温度が42〜43℃前後となったとき、先端部1Bは釣り針形状に変形する。
その結果、あたかも2本の針電極を刺入したのと同様の結果を作り出すことができ、加温領域が大幅に拡大する。
【0029】
以上のような第1実施形態によれば、次のような効果が得られる。
(1)針電極1が形状記憶合金で形成され、その先端部1Bが42〜43℃前後に加温されたとき釣り針形状に変形する。その結果、あたかも2本の針電極を刺入するとともに、それらを横方向に刺入した3本目の針電極で繋いだ状態と同様の結果を作り出すことができ、加温領域を大幅に拡大させることができ、釣り針形状の先端部1Bの加温により、その周囲の脳腫瘍部Bの癌細胞を死滅させ、大きな治療効果を得ることができる。
【0030】
(2)癌Bの形状に応じて、癌Bの例えば片側から針電極1を刺入した後、その針電極1を加温したとき、先端部1Bが反対側に釣り針状に変形するので、癌の形状に対応させることができ、より一層の治療効果の向上を図れる。
【0031】
(3)針電極1の先端部1Bの変形が釣り針状であり、比較的簡単な形状なので、記憶させる段階での作業が容易である。
【0032】
前述のような第1実施形態において、先端部1Bが釣り針状となっている針電極1の加温領域が拡大することの実証は、以下に述べるコンピュータによるシミュレーションと、実験結果とから確認される。
【0033】
(第1回目のコンピュータによるシミュレーション)
図3には、実験用の加温装置20が示されている。この加温装置20は高周波発振器22を備え、高周波発振器22から13.56MHzのRF帯の高周波電流が出力され、高周波電流は接続ボックス23によって、電極に分配されるように構成されている。
【0034】
解析のための実験方法として、ファントム24を、径方向で二つに切断したものを使用し、針電極21を切断したファントム24の断面部の中心に挟み込むとともにバンド25で縛りつけ、ファントム24の断面部に空気が入らないようにして加温実験を行った。
ファントム24としては、人体Aを模擬した筋肉等価寒天ファントムを使用した。この寒天ファントム24のパラメータを表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
ここで、正規化温度0.8以上を有効な加温ができる範囲とした。
これは、本発明で目標としている温度が、腫瘍組織が死滅する42〜43℃前後であり、ここで、人体の体温を37℃、加温の最高温度を43℃前後として、これらの条件を基に正規化を行った場合、42℃は正規化温度0.83となるからである。
【0037】
まず、図4に示すように、直径(φ)180mm、高さ(H)135mmの円筒状の寒天ファントム24に対して、針電極21を2本、間隔Dをあけて縦に刺入し、加温した。
ここで、図4では間隔Dが4mmで、針電極に電圧をかける部分、つまり無皮膜部となった先端部21Bの長さLを30mmとした。また、針電極21の先端部21Bは先端をそろえて刺入してある。さらに、先端部21Bに100V、接地電極16に0Vの電位境界の条件を与えた。
【0038】
温度分布の測定には、図示しないサーモカメラを使用した。この際、ファントム輪郭の温度分布が明確でないと検討が困難なので、ファントム24の周辺にファントム24に比べて温度が低い布をおき、ファントム24とその周辺の温度差にメリハリをつけた。また、加温条件としては、加温出力を4W、加温温度を5分とした。
【0039】
次に、以上のようにして実施されたコンピュータのシミュレーションの温度分布解析を説明する。
図5には、第1回目のシミュレーションから得られた、2本の針電極21,21の間隔Dが4mmの場合の温度分布画像が示されている。この図5で分かるように、2本の針電極21,21の間隔Dが狭いため、加温領域が1つであることと変わりがなく、針電極間も高温に加温されていることがわかる。
【0040】
なお、解析は、間隔Dが4mmの他、8mm、12mmの場合も行った。
そして、間隔Dが8mmの場合、図示しないが、間隔Dが4mmの場合と比較して針電極間の温度上昇が小さく、高温に加温されているとはいえない結果が得られた。
また、間隔Dが12mmの場合、図示しないが、加温領域は完全に2つに分かれ、間隔Dが4mm、8mmのそれぞれの場合より低くなっており、高温に加温されているとはいえない結果が得られた。
【0041】
以上の解析結果をそれぞれ正規化してグラフ化したものが、正規化温度プロファイルとして図6に示されている。そして、この図6から、どの場合も(間隔Dが4mm、8mm、12mm)、針電極21の周辺は高温に加温されているが、針電極間隔Dが大きくなるにつれて、針電極21,21間の最低温度が低くなっていることが読み取れる。また、いずれの場合も、針電極間中心(ファントム中心)が針電極間最低温度点であることが分かる。
【0042】
図7には、針電極間隔Dが4mm、8mm、12mmの場合で、針電極間中心(ファントム中心)の温度をとってグラフ化したものが示されている。
この図7から、針電極間中心温度は、針電極間隔が大きくなると、それにほぼ比例して低くなっていくということが分かる。
【0043】
以上の説明から明確なように、針電極間隔Dが12mmではホットスポット、つまり加温領域が完全に2つに分かれてしまい、加温領域の拡大は見込めないことが分かる。また、図7から分かるように、針電極間隔Dが7.5mm以上になると、針電極間最低温度が正規化温度0.8を下回ることが予測できる。その結果、針電極間隔Dが7.5mm以下であれば、針電極間に挟み込んだ腫瘍を高温に加温して死滅させる等、大きな治療効果を挙げることができると考えられる。
【0044】
また、図示しないが、2本の針電極の先端を、針電極の長手方向にずらした状態での解析も行った。この場合、ずれの寸法を複数に設定したが、いずれの場合も下にずれた針電極付近の方が、より高温に加温されていた。
これは、下にずれることにより、接地電極16との距離が短くなり、電気力線がずらした針電極により集中するからであると考えられる。また、これらのことから、刺入深さのずれが10mmあっても両方の針電極付近で有効な加温はできるが、そのずれが大きくなると加温特性に偏りが生じ、片側の針電極付近の加温領域が小さくなることが考えられ、2本の針電極付近でほぼ同等の高温加温領域を得たい場合、刺入深さのずれは極力小さいものでなければならないということが分かっている。
【0045】
(第1回目の実験結果)
次に、前記とほぼ同じような条件の下に実施した第1回目の実験結果を説明する。
実験では、前記実験用加温装置20を用い、図8に示すように、前記寒天ファントム24を実験モデルの寒天ファントム24Aとして使用し、その寒天ファントム24Aに2本の前記針電極21,21を縦に刺入して、針電極21,21のそれぞれの先端部21B,21Bの周辺を加温し、その結果を得た。
ここで、間隔Dを13mm、先端部21Bの長さLを30mmとした。また、針電極21,21の先端部21B,21Bは先端をそろえて刺入してある。加温条件としては、加温出力を4W、加温温度を5分とした。
【0046】
次に、前述のような第1回目の実験結果から得られた温度分布解析を説明する。
図9には、2本の針電極21,21の間隔Dが13mmの場合の温度分布画像が示されている。この図9でわかるように、間隔Dが13mmの場合、針電極21,21間は高温に加温されており、ホットスポットが1つになっていることが分かる。
また、図示しないが、間隔Dが17mmの場合、上記間隔Dが13mmの場合と同様に、針電極21,21間は高温に加温されており、ホットスポットが1つになっていた。
20mmの場合も実験した結果、針電極21,21間が高温に加温されておらず、ホットスポットは2つに分かれていることが分かっている。
【0047】
以上の実験結果をそれぞれ正規化してグラフ化したものが、正規化温度プロファイルとして図10に示されている。そして、この図10から、針電極間隔Dが17mm、13mmの場合には、針電極周辺は高温に加温されているが、針電極間隔Dが20mmの場合だけは、正規化温度0.8を下回っていることが分かる。
【0048】
また、図11には、針電極間最低温度と針電極間隔Dとの関係グラフ化したものが示されている。
この図11から、針電極間最低温度を正規化温度0.8以上にするには、針電極間隔Dを約18mm以下でなければならない、ということが分かる。
【0049】
次に、図12に基づいて、本発明の針電極の第2実施形態を説明する。
本実施形態の針電極2、および以下に述べる第3、4実施形態の針電極3,4は、前記第1実施形態の針電極1と同様の部材で形成されている。
本第2実施形態の針電極2は、その形状が、通常の状態、つまり設定温度以外の温度の状態では、図2(A)に示すように直線状であるが、設定温度である42〜43℃前後に加温されたとき、図2(B)に示すように、先端部2Bの一部が本体部2Aに対して直行する方向に屈曲し、全体L字形状に変形するようになっている。
ここで、先端部2Bの寸法Lは、例えば30mmとなっており、そのうちの立ち上がり部の寸法が10mm、横方向延出部の寸法が20mmに設定されている。
【0050】
その結果、先端部2Bの立ち上がり部と横方向延出部とにより、縦の加温部と横の加温部とを作り出すことができるので、加温領域を拡大することができる。
【0051】
以上のような第2実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の作用の他、(1)〜(3)とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0052】
前述のような第2実施形態において、先端部2Bが本体部2Aに対して直交している針電極1の加温領域が拡大することの実証は、以下に述べるコンピュータによる第2回目のシミュレーションと、実験結果とから理解できる。
【0053】
(コンピュータによる第2回目のシミュレーション)
コンピュータによるミュレーションは、前記と同様の設備を用い、また同じ条件等で行った。
【0054】
解析のための実験では、まず、前記2本の針電極21,21を、前記寒天ファントム24Aに対して水平と垂直に刺入し、コンピュータによる解析を行った。
ここで、図13では垂直な針電極21に対して水平な針電極21の先端が離れた状態であり、その距離aが4mmで、針電極21,21に電圧をかける先端部21Bの長さLを30mmとした。さらに、先端部に100V、接地電極16に0Vの電位境界の条件を与えた。
【0055】
次に、以上のようにして実施されたコンピュータの第2回目のシミュレーションの温度分布解析を説明する。
図14には、上記距離aが4mmの場合の温度分布画像が示されている。この図14でわかるように、2本の針電極21,21の先端付近は共に高温に加温されていることが分かり、また、垂直に刺入した針電極付近よりも、水平に刺入した針電極付近の方がより広範囲にわたって高温に加温されていることがわかる。
【0056】
なお、解析は、距離aが4mmの他、6mm、8mmの場合も行った。
そして、距離aが6mmの場合は、図示しないが、距離aが4mmの場合と同様に、水平に刺入した針電極付近の方がより広範囲にわたって高温に加温されていることが確認された。しかし、距離aが4mmの場合と比べて最高温度は低くなっていた。
さらに、距離aが8mmの場合は、図示しないが、距離aが4mm、6mmの場合と同じ傾向が確認された。しかし、距離aが6mmの場合と比べて最高温度は低くなっていた。
【0057】
以上の解析結果をそれぞれ正規化してグラフ化したものが、正規化温度プロファイルとして図15に示されている。この図15は、水平に刺入した針電極の中心でr軸方向にプロファイルをとったものである。
そして、この図15から、距離aが4mmの場合にのみ針電極先端間最低温度が正規化温度0.8以上であり、先端間距離aが大きくなるにつれて先端間最低温度が低くなっていることが分かる。
また、距離aが6mm、8mmの場合において、正規化温度0.8以上の高温加温領域は、針電極が移動した分だけずれているだけで、加温領域の大きさはほぼ変らないことが分かる。
【0058】
図16には、水平に刺入した針電極の中心でz軸方向に正規化したプロファイルをとったものが示されている。正規化を行う際、最高温度には、全体の最高温度(水平に刺入された針電極付近の最高温度)が用いられている。
そして、この図16から、先端距離aが大きくなるにつれて垂直に刺入された針電極付近での最高温度も高くなり、正規化温度0.8以上の領域も広くなっていることが分かる。
【0059】
図17には、針電極先端距離と針電極間最低温度の関係グラフ化したものが示されている。
この図17から、針電極間最低温度は、針電極先端距離aが大きくなると、それに比例して低くなっていくということが分かる。
【0060】
以上の図15の説明から明確なように、先端間距離が大きくなると針電極間最低温度が低くなり、その結果、ホットスポットが2つになってしまうので、加温領域の拡大が見込めないことが分かる。
また、図17から分かるように、正規化温度0.8以上を得るためには、先端間距離aが4.9mm以下でならないことが予測できる。
【0061】
なお、図示しないが、垂直に刺入した針電極を水平に刺入した針電極から離して行く場合のシミュレーションも行った。
この結果では、両針電極の距離が5mm以下の場合に、加温領域の拡大が期待できることが示された。
(第2回目の実験結果)
【0062】
次に、前記のような垂直と水平方向から刺入したのとほぼ同じような条件の下に実施した第2回目の実験結果を説明する。
実験では、前記実験用加温装置20を用い、前記寒天ファントム24Aに2本の針電極21,21を、垂直と水平方向から刺入して、針電極21,21の先端部21B,21Bを加温し、その結果を得た。
図18には、実験モデルの寒天ファントム24に、2本の針電極21,21を刺入した状態が示されている。
ここで、図18では先端部距離aが4mmで、先端部の長さLを30mmとした。加温条件としては、加温出力を4W、加温温度を5分とした。
【0063】
次に、第2回目の実験結果で得られた温度分布解析を説明する。
図19には、2本の針電極の先端距離aが4mmの場合の温度分布画像が示されている。この図19でわかるように、先端距離aが4mmの場合、ホットスポットは1つであり、水平に刺入した針電極付近の方が垂直に刺入した針電極付近よりも、より高温に加温されていることが分かる。
【0064】
また、図示しないが、先端距離aが7mmの場合、ホットスポットは1つであり、垂直に刺入した針電極付近の方が水平に刺入した針電極付近よりも、より高温に加温されていることが分かっている。
さらに、図示しないが、先端距離aが11mmの場合、ホットスポットは2つに分かれ、垂直に刺入した針電極付近の方が水平に刺入した針電極付近よりも、より高温に加温されていることが分かっている。
【0065】
図20には、水平に刺入した針電極の中心でr軸方向にプロファイルをとったものが示されている。
そして、この図20から、距離aが4mm、11mmの場合は、水平に刺入した針電極付近で正規化温度0.8以上の高温加温領域は確認できるが、距離aが7mmの場合は、水平に刺入した針電極付近で正規化温度0.8以上の高温加温領域がほとんどないことが分かる。また、距離aが11mmの場合のみグラフの山が2つになっており、これより加温領域が2つに分かれていることが確認できる。
【0066】
図21には、垂直に刺入した針電極の中心でz軸方向にプロファイルをとったものが示されている。
そして、この図21から、距離aが4mm、7mm、11mmのいずれの場合も、垂直に刺入した針電極付近で正規化温度0.8以上の高温加温領域は確認できるが、距離aが7mm、11mmの場合に比べ、距離aが4mmの場合は、高温加温領域が小さいことが分かる。
【0067】
図22には、針電極先端距離と針電極先端間最低温度の関係グラフ化したものが示されている。
この図22から、針電極先端距離aが大きくなっていくにつれて、針電極先端間最低温度は低くなっていくということが分かる。
【0068】
以上の図19〜22の説明から明らかなように、針電極先端距離aが4mmでは水平に刺入した針電極付近に最高温度観測点があり、先端距離aが7mmの場合は垂直に刺入した針電極付近に最高温度観測点があることが分かる。
【0069】
このことから、針電極先端距離aが4mm程度以下であれば水平に刺入した針電極付近の方がより高温に加温され、先端距離aが7mm以上であれば、垂直に刺入した針電極付近の方がより高温に加温されることが考えられ、これが切り替わる点は、先端距離aが4mm〜7mmの間にあることが予測できる。また、先端距離aが4mmの場合にホットスポットが1つであり、両針電極付近で高温が確認されていることから、針電極先端距離aが4mm程度以下であれば、加温領域の拡大が期待できることが考えられる。
以上のように実験結果で得られた情報は、コンピュータのシミュレーションでの情報と方向性がほぼ一致している。
これにより、前記第2実施形態で針電極2の先端部2BをL字状とした形状が、加温領域の拡大を図れることが実証されている。
【0070】
また、図示しないが、2本の針電極のうち、垂直針の先端を水平針の先端から距離をあけた状態での実験も行った。
この場合、針電極先端間距離が1mmであれば、水平に刺入した針電極付近の方が、より高温加温領域が大きく、針電極先端間距離が5mm程度以下であれば、垂直に刺入した針電極付近の方がより高温加温領域が大きくなると考えられ、これが切り替わる点は、先端間距離が1mm〜5mmの間にあることが予測できる。
【0071】
上記結果より、針電極先端間距離が大きくなると針電極間最低温度が、正規化温度で0.8を下回り、ホットスポットが2つに分かれてしまうため、加温領域の拡大は見込めないことが考えられる。この場合、針電極先端間距離が1mm程度以下であれば、針電極間最低温度が正規化温度で0.8を下回らず、加温領域の拡大が期待できると考えられる。
【0072】
次に、図23に基づいて、本発明の針電極の第3実施形態を説明する。
本実施形態の針電極3は、その形状が、通常の状態、つまり設定温度以外の温度の状態では、図23(A)に示すように、本体部3Aと先端部3Bとが直線状となっているが、設定温度である42〜43℃前後に加温されたとき、図23(B)に示すように、先端部3Bがスパイラル状に、かつ本体部3Aとの間でL字形状を形成して変形するようになっている。
【0073】
その結果、先端部3Bがスパイラルの外径寸法φの大きさとなるので、加温領域を拡大することができる。
なお、この第3実施形態の針電極3について、コンピュータのシミュレーションおよび実験は行っていないが、前記第1、第2実施形態に対応するコンピュータのシミュレーションおよび実験結果から、針電極3でも加温領域の拡大が図れることを推察することができる。
【0074】
以上のような第3実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の作用の他、(1)、(2)と同様の効果を得ることができ、さらに次のような効果を得ることができる。
(4)スパイラルの外形寸法φの大きさを、先端部3Bの長さ方向において適宜変えることで、癌の形状に対応させることができ、より効果的な治療が可能となる。
【0075】
次に、図24に基づいて、本発明の針電極の第4実施形態を説明する。
本実施形態の針電極4は、外径寸法が例えば1mmの中空部材で形成されている。そして、針電極4の形状は、通常の状態、つまり設定温度以外の温度の状態では、図24(A)に示すように、本体部4Aと先端部4Bとが直線状であるが、設定温度である42〜43℃前後に加温されたとき、図24(B)に示すように、先端部4Bの一部、あるいは全部が、径方向に膨出して変形するようになっている。
ここで、径方向の膨出寸法は、先端部4Bの全長にわたって一定でなくてもよく、径寸法が異なっていてもよい。
【0076】
その結果、先端部4Bが径方向に膨出して変形するので、加温領域を拡大することができる。
なお、この第4実施形態の針電極3について、コンピュータのシミュレーションおよび実験は行っていないが、前記第1、第2実施形態に対応するコンピュータのシミュレーションおよび実験結果から、針電極3でも加温領域の拡大が図れることを推察することができる。
【0077】
なお、第4実施形態では、針電極4の本体部4Aと先端部4Bとが直線状に連続する形状となっているが、前記第1〜4実施形態と同様に、釣り針状、L字状となるように変形させ、あるいはく字状になるように記憶させ、それぞれの状態で径方向に膨出するように記憶させてもよい。
【0078】
以上のような第5実施形態によれば、前記第1実施形態とほぼ同様の作用の他、前記(1)、(2)、(4)とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0079】
なお、本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記各実施形態では、針電極1〜4を、主に脳腫瘍の治療用として用いていたが、これに限らない。例えば、被加温体を食品とし、かかる食品を局所的に加温することに本発明を用いてもよい。また、松等の植物の幹内に針電極1〜4を刺入し、加温することで内部の松くい虫等を駆除するために使用してもよい。
【0080】
また、前記第2実施形態の針電極2では、本体部2Aと先端部2Bとが、全体L字形状となるように変形させたが、必ずしも全体L字形状でなくてもよい。例えば、全体く字形状に屈曲して変形するようになっていてもよい。要は、加温領域を拡大できる方向に変形するものであればよい。
そして、このようにしても、加温領域を拡大することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明である加温用針電極針及びこれを用いた加温装置は、供給される高周波電力により、加温用針電極針を加温することができ、局所的に加温することができるので、例えば腫瘍の治療、特に脳腫瘍の治療用として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の加温装置の構成を示す全体概略図である。
【図2】本発明の加温装置用針電極の第1実施形態を示す図であり、図2(A)は通常の状態、図2(B)は設定温度に達して変形したときの状態を示す図である。
【図3】一般的な針電極の性能を検査するための実験機を示す全体概略図である。
【図4】一般的な針電極を2本使用して加温状態を観察するために用いられる解析モデルを示す断面図である。
【図5】第1回目のシミュレーションから得られた温度分布画像を示す図である。
【図6】第1回目のシミュレーションで得られた正規化温度プロファイルを示す図である。
【図7】第1回目のシミュレーションで得られた針電極間隔と針電極間中心温度の関係を示す図である。
【図8】第1回目の実験に使用される実験モデルを示す断面図である。
【図9】第1回目の実験から得られた温度分布画像を示す図である。
【図10】第1回目の実験から得られた正規化温度プロファイルを示す図である。
【図11】第1回目の実験から得られた針電極間隔と針電極間中心温度の関係を示す図である。
【図12】本発明の加温装置用針電極の第2実施形態を示す図であり、図12(A)は通常の温度での状態、図12(B)は設定温度に達したときの状態を示す図である。
【図13】2本の針電極を、方向を違えて使用した解析モデルを示す断面図である。
【図14】第2回目のシミュレーションから得られた温度分布画像を示す図である。
【図15】第2回目のシミュレーションで得られたr軸の正規化温度プロファイルを示す図である。
【図16】第2回目のシミュレーションで得られたz軸の正規化温度プロファイルを示す図である。
【図17】第2回目のシミュレーションで得られた針電極間隔と針電極間中心温度の関係を示す図である。
【図18】第2回目の実験に使用される実験モデルを示す断面図である。
【図19】第2回目の実験から得られた温度分布画像を示す図である。
【図20】第2回目の実験から得られたr軸の正規化温度プロファイルを示す図である。
【図21】第2回目の実験から得られたz軸の正規化温度プロファイルを示す図である。
【図22】第2回目の実験から得られた針電極間隔と針電極間中心温度の関係を示す図である。
【図23】本発明の加温装置用針電極の第3実施形態を示す図であり、図23(A)は通常の状態、図23(B)は設定温度に達したときの状態を示す図である。
【図24】本発明の加温装置用針電極の第4実施形態を示す図であり、図24(A)は通常の状態、図24(B)は設定温度に達したときの状態を示す図である。
【図25】一般的なRF誘電加温装置を示す概略図である。
【図26】従来の針状電極を用いたハイパーサーミア用アプリケータを示す概略図である。
【符号の説明】
【0083】
1,2,3,4 加温要針電極
1A,2A,3A,4A 本体部
1B,2B,3B,4B 先端部
10 加温装置
11 高周波発振器
12 RFアンプ
13 マッチングボックス
14 コンピュータ
16 接地電極
A 被加温体である人体
B 加温対象部である腫瘍部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部を被加温部に刺入した後加温する加温用針電極において、
前記加温用針電極を形状記憶合金で形成するとともに、前記先端部を、当該先端部が所定温度に達したとき加温領域が拡大する方向に変形するように記憶させたことを特徴とする加温用針電極。
【請求項2】
前記請求項1記載の加温用針電極において、前記先端部の変形を、直線状の本体部に対して屈曲するように形成したことを特徴とする加温用針電極。
【請求項3】
前記請求項2記載の加温用針電極において、前記先端部の屈曲を釣り針状としたことを特徴とする請求項2記載の加温用針電極。
【請求項4】
前記請求項2記載の加温用針電極において、前記先端部の屈曲を、前記本体部に対して直交する方向に屈曲するL字状としたことを特徴とする請求項2記載の加温用針電極。
【請求項5】
前記請求項1ないし4のいずれか一つに記載の加温用針電極において、前記先端部をスパイラル状に変形させることを特徴とする加温用針電極。
【請求項6】
前記請求項1ないし5のいずれか一つに記載の加温用針電極において、中空部材で形成するとともに、その先端部を径方向に膨出するように変形させたことを特徴とする加温用針電極。
【請求項7】
前記請求項1ないし6のいずれか一つに記載の加温用針電極を脳腫瘍の治療用として用いるとともに、前記加温用針電極の先端部を、42〜43℃前後で変形するように記憶させたことを特徴とする加温用針電極。
【請求項8】
前記請求項1ないし7のいずれか一つに記載の加温用針電極針を備えて構成された加温装置であって、
前記針電極用の高周波を発振する高周波発振器と、この高周波発振器から発振される高周波および当該高周波の増幅とその出力レベルを可変制御する主制御部とを備えていることを特徴とする加温装置。
【請求項1】
先端部を被加温部に刺入した後加温する加温用針電極において、
前記加温用針電極を形状記憶合金で形成するとともに、前記先端部を、当該先端部が所定温度に達したとき加温領域が拡大する方向に変形するように記憶させたことを特徴とする加温用針電極。
【請求項2】
前記請求項1記載の加温用針電極において、前記先端部の変形を、直線状の本体部に対して屈曲するように形成したことを特徴とする加温用針電極。
【請求項3】
前記請求項2記載の加温用針電極において、前記先端部の屈曲を釣り針状としたことを特徴とする請求項2記載の加温用針電極。
【請求項4】
前記請求項2記載の加温用針電極において、前記先端部の屈曲を、前記本体部に対して直交する方向に屈曲するL字状としたことを特徴とする請求項2記載の加温用針電極。
【請求項5】
前記請求項1ないし4のいずれか一つに記載の加温用針電極において、前記先端部をスパイラル状に変形させることを特徴とする加温用針電極。
【請求項6】
前記請求項1ないし5のいずれか一つに記載の加温用針電極において、中空部材で形成するとともに、その先端部を径方向に膨出するように変形させたことを特徴とする加温用針電極。
【請求項7】
前記請求項1ないし6のいずれか一つに記載の加温用針電極を脳腫瘍の治療用として用いるとともに、前記加温用針電極の先端部を、42〜43℃前後で変形するように記憶させたことを特徴とする加温用針電極。
【請求項8】
前記請求項1ないし7のいずれか一つに記載の加温用針電極針を備えて構成された加温装置であって、
前記針電極用の高周波を発振する高周波発振器と、この高周波発振器から発振される高周波および当該高周波の増幅とその出力レベルを可変制御する主制御部とを備えていることを特徴とする加温装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2007−260310(P2007−260310A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92539(P2006−92539)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】
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