説明

加湿器の製造方法

【課題】水分交換効率を向上させることができ、簡単な工程で製造することができる加湿器の製造方法を提供する。
【解決手段】第1流体が中空糸膜内を通流し、第1流体と異なる湿度の第2流体がケース20内における中空糸膜12外を通流する加湿器1の製造方法であって、ケース20の内面における中空糸膜束11の軸線方向に絞り勾配を形成することで第2流体の流速を向上させるための流速向上部Aを形成する第1工程と、ケース20における第2流体の流入部R1に、第2流体の流れを必要な方向に分散する分散部を形成する第2工程と、を含み、第1工程における流速向上部Aと、第2工程における分散部とをインジェクション成形によりあわせて形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池等に供給される空気等の流体を加湿する加湿器の製造方法に関し、詳しくは、水分透過性の中空糸膜を有する加湿器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)等の燃料電池においては、燃料電池を構成する電解質膜の湿潤状態を確保するべく、水素(燃料ガス)、酸素を含む空気(酸化剤ガス)を加湿する加湿器が必要とされる。このような加湿器は、中空糸膜を束ねてなる中空糸膜束と、中空糸膜束を収容するケースとを備え、例えば、燃料電池に向かう加湿すべき空気(第1流体)が中空糸膜内を、燃料電池のカソードから排出された多湿のカソードオフガス(第2流体)が中空糸膜外を、それぞれ通流する(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−273687号公報
【特許文献2】特開2004−311287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、加湿器は、その加湿効率を向上させるために、例えば、中空糸膜束が軸線方向に長く形成されて配置されることが好ましい。しかしながら、中空糸膜束が軸線方向に長く形成されて配置されると、オフガス流入部からケース内に流入したカソードオフガスがケースの端部等に行きわたり難く、水分交換率の低下する領域がケースの端部等に形成され易いといった問題があった。
また、オフガス流入部からケース内に流入したカソードオフガスをケース内に良好に分散させて加湿効率を向上させたいという要請があり、さらに、そのような構造を備えた加湿器を簡単な工程によって製造したいという要請があった。
【0005】
そこで、本発明は、水分交換効率を向上させることができ、簡単な工程で製造することができる加湿器の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、複数の中空糸膜が束ねられてなる中空糸膜束と、前記中空糸膜束を収容する筒状のケースと、を備え、第1流体が前記中空糸膜内を通流し、前記第1流体と異なる湿度の第2流体が前記ケース内における前記中空糸膜外を通流する加湿器の製造方法であって、前記ケースの内面における前記中空糸膜束の軸線方向に絞り勾配を形成することで、前記第2流体の流速を向上させるための流速向上部を形成する第1工程と、前記ケースにおける前記第2流体の流入部に、前記第2流体の流れを必要な方向に分散する分散部を形成する第2工程と、を含み、前記第1工程における前記流速向上部と、前記第2工程における分散部とをインジェクション成形によりあわせて形成したことを特徴とする。
【0007】
このような加湿器の製造方法によれば、ケースの内面における中空糸膜束の軸線方向に絞り勾配を形成することで、第2流体の流速を向上させるための流速向上部が形成されるので、その流速向上部によって第2流体の流速を向上させることができ、中空糸膜束に沿わせて第2流体を有効に流すことができる。したがって、ケース内の端部等においても水分交換を良好に行うことができ、水分交換効率の向上された(加湿効率の高い)加湿器が得られる。
【0008】
また、第2工程により、ケースにおける第2流体の流入部に、第2流体の流れを必要な方向に分散する分散部が形成されるので、第2流体の流れを、中空糸膜束の軸線方向に沿うように分散させることができ、水分交換効率の向上された加湿器が得られる。
【0009】
また、第1工程における流速向上部と、第2工程における分散部とをインジェクション成形によりあわせて形成したので、製造工程が削減されて加湿器製造の簡易化を図ることができる。したがって、加湿器の製造のコストダウンを図ることができる。
【0010】
また、本発明は、前記インジェクション成形により、前記中空糸膜束と前記ケースの内面との間において、前記中空糸膜束の軸線方向に延在して前記第2流体が通流する流体通流部をさらに形成する構成とするのがよい。
【0011】
このような加湿器の製造方法によれば、第2流体が、流体通流部を通流して中空糸膜束の軸線方向に好適に流れるようになり、中空糸膜束の軸線方向に沿わせて第2流体を有効に流すことができる。したがって、ケース内の端部等においても水分交換を良好に行うことができ、水分交換効率をより一層向上させた加湿効率の高い加湿器が得られる。
【0012】
また、本発明は、前記インジェクション成形により、前記ケースにおける前記第2流体の流出部において、前記第2流体の推力による前記中空糸膜束の変位で前記流出部が閉塞するのを抑制する変位抑制部をさらに形成する構成とするのがよい。
【0013】
このような加湿器の製造方法によれば、第2流体の流出部に形成された変位抑制部によって、第2流体の推力による中空糸膜束の変位で流出部が閉塞するのを抑制することができ、第2流体のスムーズな流出を確保することができる。このことは、流入部側における第2流体のスムーズな流入を促すこととなり、ケース内における第2流体のスムーズな流れを形成して、水分交換効率の向上された加湿器が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水分交換効率を向上させることができ、簡単な工程で製造することができる加湿器の製造方法を提供することを課題とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る加湿器の製造方法の実施の形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を図1から図5を参照して詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る加湿器の製造方法により製造される加湿器1が組み込まれた燃料電池システム100について、図1を参照して説明する。燃料電池システム100は、図示しない燃料電池自動車(移動体)に搭載されており、燃料電池スタック110と、水素タンク121と、コンプレッサ131と、加湿器1とを備えている。
【0016】
燃料電池スタック110は、固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)であり、MEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)をセパレータ(図示しない)で挟持してなる単セルが複数積層されて構成されている。MEAは、電解質膜(固体高分子膜)と、これを挟持するカソード及びアノードとを備えている。各セパレータには、溝や貫通孔からなるアノード流路111およびカソード流路112が形成されている。
【0017】
そして、水素が、水素タンク121から、配管121a、アノード流路111を介してアノードに供給され、酸素を含む空気が、外気を吸気するコンプレッサ131から、配管131a、加湿器1、配管131b、カソード流路112を介してカソードに供給されると、アノードおよびカソードに含まれる触媒(Pt等)上で電極反応が起こり、燃料電池スタック110が発電可能な状態となる。
【0018】
このように発電可能な状態の燃料電池スタック110と、外部負荷(例えば図示しない走行用のモータ)とが電気的に接続され、電流が取り出されると、燃料電池スタック110が発電するようになっている。
【0019】
また、アノード流路111から排出されたアノードオフガスは、配管121bを介して、希釈器132に排出されるようになっている。一方、カソード流路112から排出されたカソードオフガスは、配管131c、加湿器1、配管132aを介して、希釈器132に排出され、希釈器132においてアノードオフガス中の未消費の水素を希釈するようになっている。そして、希釈後のガスは、配管132bを介して、車外に排出されるようになっている。
なお、カソードオフガスは、カソードにおける電極反応により生成する水蒸気(水分)により多湿である。また、生成した水蒸気の一部は電解質膜をアノード側に透過するので、アノードオフガスも多湿である。
【0020】
次に、加湿器1の構成について、図2,図3を参照して説明する。ここで、明確に説明するために、図2を基準として、前、後、左、右、上、下を設定する。
【0021】
加湿器1は、コンプレッサ131(図1参照、以下同じ)からカソード流路112(図1参照、以下同じ)に向かう加湿すべき空気(第1流体)を、カソード流路112から排出された多湿のカソードオフガス(第2流体)で加湿するものである。すなわち、カソード流路112に向かう空気の湿度とカソードオフガスの湿度とは異なっており、カソードオフガスの湿度の方が高くなっている。加湿器1の外形は図2示すように略直方体を呈している。
【0022】
図3(a)に示すように、加湿器1は、中空糸膜束11と、中空糸膜束11を収容する四角筒状のケース20とを備えている。なお、中空糸膜束11とケース20との軸線方向(長手方向)は一致している。
【0023】
中空糸膜束11は、ポリイミド等から形成され、水分透過性を有する中空糸膜12が、複数本(例えば10〜10000本)にて束ねられたものである。なお、各中空糸膜12は、水分を含むと膨潤し、多少伸張する。
【0024】
ケース20は、その内部に中空糸膜束11を収容する四角筒状の容器であり、例えば、PC(ポリカーボネート)やPPO(ポリフェニレンオキサイド)等の硬質樹脂からなり、後記するインジェクション成形により一体的に形成されている。
【0025】
ケース20の上壁21および下壁22は、厚みが一定に形成されている。上壁21は、中空糸膜束11の軸線方向において、前後端からそれぞれ中央部に向けて下り傾斜状に形成されており、また、下壁22が、同じく軸線方向において、前後端からそれぞれ中央部に向けて上り傾斜状に形成されている。これによって、ケース20の上壁面(内面)21Aおよび下壁面22Aは、ケース20の中央部分がケース20の両端部よりも絞られ、その中央部の輪切り方向の断面が、ケース20の両端部における輪切り方向の断面よりも小さくされて、軸線方向に絞り勾配を有した流速向上部Aが形成されている。つまり、中央部が絞られて、その絞られた部分である流速向上部Aに後記する流入部R1からカソードオフガスが流入して流速が向上され、前後の両端部へ向けてカソードオフガスが勢いをもって流れやすくなっている。
なお、本実施形態では、上壁21および下壁22を前記のように傾斜状とすることで流速向上部Aを形成したが、上壁21および下壁22の肉厚を中空糸膜束11の軸線方向に漸次変更してケース20の内面が傾斜面となるようにして絞り勾配を持たせるように形成し、これによって前記したような流速向上部Aが形成されるようにしてもよい。
【0026】
本実施形態では、ケース20の軸線方向における上面中央部に、カソードオフガスの流入部R1が形成されているとともに、その直下となるケース20の下面中央部にカソードオフガスの流出部R2が形成されている。つまり、ケース20の中央部に形成される流速向上部Aの上下に、流入部R1および流出部R2が形成されている。
流入部R1は、上壁21の中央部を一段低くした段差壁21aを有しており、この段差壁21aと上壁21との高低差による段差を利用して、段差壁21aと上壁21との間には、ケース20内に通じる流入口として機能する開口21b,21bが形成されている。
本実施形態では、この段差壁21aと開口21b,21bとによって、流入部R1に流入したカソードオフガスの流れをケース20内の必要な方向に向けて分散する分散部を構成している。段差壁21aは、上面が平らに形成されており、この上面に対して、配管131c(図1参照)からカソードオフガスが略直交する方向に流入するようになっている。
ここで、流入部R1の周りは図示しない導入口を構成する周壁で囲まれるようになっており、段差壁21aに直交する方向に流入したカソードオフガスは、図2(b)に示すように、段差壁21aの上面に当って流れる方向を変え、前記した開口21b,21bを通じてケース20内に流入するようになっている。つまり、段差壁21aはカソードオフガスの流れを必要な方向に向けて分散するじゃま板の役割をなしている。
なお、必要な方向とは、ケース20内において、カソードオフガスの水分交換が良好に行われる方向であり、具体的には、主としてケース20の中央部から前後の両端部に向かう方向である。
【0027】
ここで、ケース20内には、図3(a)に示すように、ケース20内に後記するようにして配置される中空糸膜束11の上面と上壁21の内面との間に、中空糸膜束11の軸線方向に延在する流体通流部S1,S1(隙間)が形成されている。この流体通流部S1,S1は、前記した開口21b,21bにそれぞれ連通しており、これによって、開口21b,21bからケース20内に流入したカソードオフガスは、流体通流部S1,S1を通じてケース20内に分散されて流れるようになっている。
なお、上壁21の上壁面21Aに沿うように図示しない内壁を形成し、また、下壁22の下壁面22Aに沿うように図示しない内壁を形成して、これらの間に、流体通流部S1,S1を設けるようにしてもよい。この場合に、各内壁には、カソードガス通流用の孔やスリット等を形成して、流体通流部S1,S1から中空糸膜束11内へのカソードガスの通流を図るように構成する。
【0028】
また、段差壁21aは、その下面が断面三角状に下方へ緩やかに膨出して前記した流速向上部Aの一部を構成しており、ケース20の軸線方向に絞り勾配を形成している。
【0029】
一方、流出部R2は、下壁22の中央部を一段高くした段差壁22aを有しており、この段差壁22aと下壁22との間には、ケース20内に通じてカソードオフガスの排出口として機能する開口22b,22bが形成されている。
本実施形態では、この下壁22の中央部を一段高くした段差壁22aによって、カソードオフガスの推力(カソードオフガスが中空糸膜束11を下向きに押圧する力)による中空糸膜束11の変位(流出部R2へ向かう変位)で流出部R2が閉塞するのを抑制する変位抑制部を形成している。
段差壁22aは、前記した段差壁21aの上下を反転させた形状を呈しており、その上面が断面三角状に上方へ緩やかに膨出して前記した流速向上部Aの一部を構成し、ケース20の軸線方向に絞り勾配を形成している。つまり、段差壁22aは、変位抑制部としての機能と流速向上部Aの一部を構成する機能とを併せ備えている。
【0030】
また、ケース20内には、ケース20内に後記するようにして配置される中空糸膜束11の下面と下壁22の内面との間に、中空糸膜束11の軸線方向に延在する流体通流部S2,S2(隙間)が形成されている。この流体通流部S2,S2は、前記した開口22b,22bにそれぞれ連通しており、これによって、ケース20内の中空糸膜12外を通流したカソードオフガスは、流体通流部S2,S2から開口22b,22bを通じて流出部R2に排出されるようになっている。
【0031】
次に、中空糸膜束11は、その前側および後側が、エポキシ樹脂等から形成されるポッティング部13、13(封止部)を介して、ケース20に固定されている。そして、中空糸膜束11の軸線方向中央部は、前記した段差壁21aおよび段差壁22aで上下から挟まれるようにして絞られている。すなわち、中空糸膜束11は、その中央部が上下方向に絞られており、前側および後側に向かうほど上下方向に拡がる状態でケース20内に配置されている。
なお、前記した上壁21と段差壁21aとの段差およびポッティング部13の高さ方向の厚みで流体通流部S1の隙間が設定され、また、前記した下壁22と段差壁22aとの段差およびポッティング部13の高さ方向の厚みで流体通流部S2の隙間が設定される。
【0032】
ケース20の前部には前キャップ14が取り付けられており、ケース20の後部には後キャップ15が取り付けられている。
そして、コンプレッサ131からの空気は、図3(b)に示すように、後キャップ15の空気流入部15aから後キャップ15内を通って各中空糸膜12内に流入し、各中空糸膜12内を前方に向かって通流した後、前キャップ14内を通って、前キャップ14の空気流出部14aから外部(配管131b、図1)に流出するようになっている。
【0033】
一方、カソードオフガスは、図3(b)に示すように、ケース20の流入部R1から下方に向かって、つまり、段差壁21aの上面に向かって流入し、段差壁21aで前後方向(必要な方向)に分散されて各開口21b,21bからケース20内の流体通流部S1,S1に流入する。そして、充分分散されたカソードオフガスは、流体通流部S1,S1から中空糸膜束11の上面の略全体に流入し、中空糸膜12外であってケース20内を下方に向かって通流した後、流体通流部S2,S2に流出するようになっている。その後、カソードオフガスは、流体通流部S2,S2から開口22b,22bを通じて流出部R2に流出し、流出部R2から外部(配管132a、図1)に流出するようになっている。
【0034】
すなわち、加湿すべき燃料電池スタック110に向かう空気が中空糸膜12内を前方に向かって通流し、多湿のカソードオフガスがケース20の中央部から前後両端へ向かって通流するように構成されている。
そして、ケース20の内面は、前記のように、ケース20の中央部からケース20の両端部へ向けて中空糸膜束11の軸線方向に絞り勾配を有して流速向上部Aを有しているので、流入部R1から流入したカソードオフガスは、流速向上部Aで流速が向上されて両端部へ流れる。
一方、カソードオフガスが段差壁21aによって前後方向に分散され、流入部R1から流出部R2に向けて短絡的に流れることが防止される。これによって、カソードオフガスを中空糸膜束11の全体に行き渡らせることができる。
【0035】
このように成形されたケース20を有する加湿器1によれば、ケース20の内面に中空糸膜束11の軸線方向に絞り勾配を形成することでカソードオフガスの流速を向上させるための流速向上部Aが形成されるので、その流速向上部Aによってカソードオフガスの流速を向上させることができ、中空糸膜束11に沿わせてケース20の中央部から前後の両端部へ向けてカソードオフガスを有効に流すことができる。したがって、ケース20内の前端部や後端部において水分交換を良好に行うことができるようになり、水分交換効率を向上させた加湿器1が得られる。
【0036】
また、ケース20におけるカソードオフガスの流入部R1に、カソードオフガスの流れを必要な方向に分散する段差壁21aと開口21b,21bとからなる分散部が形成されているので、カソードオフガスを、この分散部で中空糸膜束11に沿う方向、つまり、ケース20の中央部から前後の両端部へ向けて有効に流すことができる。これにより、水分交換効率を向上させた加湿器1が得られる。
【0037】
また、ケース20に流体通流部S1が形成されるので、カソードオフガスが、流体通流部S1を通流して中空糸膜束11の軸線方向に好適に流れるようになり、中空糸膜束11に沿わせてカソードオフガスを有効に流すことができる。したがって、ケース20内の前後の両端部においても水分交換を良好に行うことができ、水分交換効率をより一層向上させた加湿器1が得られる。
【0038】
また、ケース20の流出部R2に変位抑制部としての段差壁22aが形成されるので、この段差壁22aによって、カソードオフガスの推力による中空糸膜束11の変位で流出部R2が閉塞するのを抑制することができ、カソードオフガスのスムーズな流出を確保することができる。このことは、流入部R1側におけるカソードオフガスのスムーズな流入を促し、ケース20内におけるカソードオフガスのスムーズな流れを形成して、水分交換効率を向上させた加湿器1が得られる。
【0039】
次に、図4,図5を参照して、インジェクション成形による加湿器1のケース20の製造方法について説明する。
図4(a)〜(c)は、ケース20の製造方法について説明する図であり、ケース20の縦断面方向における模式断面図である。なお、ケース20の各部については図3(a)を適宜参照する。
まず、図4(a)に示すように、ケース20の勾配のある内面を形成するための前後型(可動金型)40,41を図中矢印方向にそれぞれスライド移動させて、前後型40,41の対向部同士が当接する状態に組み合わせる。そして、図4(b)に示すように、ケース20の上壁21を含む上部側を形成するための左上型(可動金型)42、右上型(可動金型)43を前後型40,41に向けて下降移動させて組み合わせるとともに、ケース20の下壁22を含む下部側を形成するための左下型(可動金型)44、45を前後型40,41に向けて上昇移動させて組み合わせる。
続いて、図4(c)に示すように、ケース20の流入部R1を形成するための中央上型(可動金型)46を前後型40,41の当接部位の上部へ向けて下降移動させて組み合わせるとともに、ケース20の流出部R2を形成するための中央下型(可動金型)47を前後型40,41の当接部位の下部へ向けて上昇移動させて組み合わせて、これらの型を閉める。
【0040】
その後、図5(a)に示すように、上中央型(可動金型)46および下中央型(可動金型)47に形成した湯口46a,47aを通じて、例えば、PC(ポリカーボネート)やPPO(ポリフェニレンオキサイド)等の樹脂を射出する。これにより、樹脂が湯口46a,47aから各部に回り、段差壁21a(分散部)、段差壁22a(変位抑制部)および上壁21、下壁22が同時に形成されて、流速向上部Aが形成されるとともに、上壁21が形成されることによる流体通流部S1の上壁面21Aの形成、下壁22が形成されることによる流体通流部S2の下壁面22Aの形成が同時に行われる。
その後、樹脂が冷えたところで脱型し、図5(b)に示すようなケース20を得る。
【0041】
このように、流速向上部Aと、分散部とをインジェクション成形によりあわせて形成したので、流速向上部Aの形成および分散部の形成を一つの工程で行うことができるようになり、製造工程が削減されて製造の簡易化を図ることができる。したがって、加湿器1の製造のコストダウンを図ることができる。
【0042】
また、インジェクション成形により、ケース20に流体通流部S1が形成されるので、カソードオフガスが、流体通流部S1を通流して中空糸膜束11の軸線方向に好適に流れるようになり、中空糸膜束11に沿わせてカソードオフガスを有効に流すことができる。したがって、ケース20内の前後の両端部においても水分交換を良好に行うことができ、水分交換効率をより一層向上させた加湿器1が得られる。
【0043】
また、インジェクション成形により、ケース20の流出部R2に変位抑制部としての段差壁22aが形成されるので、この段差壁22aによって、カソードオフガスの推力による中空糸膜束11の変位で流出部R2が閉塞するのを抑制することができ、カソードオフガスのスムーズな流出を確保することができる。このことは、流入部R1側におけるカソードオフガスのスムーズな流入を促し、ケース20内におけるカソードオフガスのスムーズな流れを形成して、水分交換効率を向上させた加湿器1が得られる。
【0044】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を図6から図8を参照して説明する。
本実施形態が前記第1実施形態と異なるところは、流速向上部(ケース50の絞れられた領域)A’が、ケース50の前部側に形成されており、その上方に流入部R1’が形成されているとともに、後部側に流出部R2’が形成されている点である。
【0045】
図6(a)に示すように、流入部R1’は、ケース50の前端部よりもやや後方側に位置しており、ケース50内における流入部R1’の下方領域が、軸線方向の他の領域に比べて絞られることで、流速向上部A’が形成されている。
ケース50の上壁51は、ケース50における中空糸膜束11の軸線方向において、前後端から流入部R1’に向けて下り傾斜状に形成されており、また、下壁52は、軸線方向において、前後端から流入部R1’の直下へ向けて上り傾斜状に形成されている。つまり、ケース50は、流出部R2’側から流入部R1’側へ向けて絞られている形状となっている。これによって、ケース50の内面は、中空糸膜束11の軸線方向に絞り勾配を有したものとなっており、流速向上部A’で、ケース50が絞られて、流入部R1’から流入したカソードオフガスの流速が向上するようになっている。
【0046】
流入部R1’は、上壁51の中央部を一段低くした段差壁51aを有しており、この段差壁51aと上壁51との高低差による段差を利用して、段差壁51aと上壁51との間には、ケース50内に通じる流入口として機能する開口51bが形成されている。これにより、流入部R1’からのカソードオフガスが開口51bを通じてケース50内に流れ込むようになっている。
また、段差壁51aには、ケース50の左右方向(図6(a)の紙面に直交する方向)にスリット51cが形成されており、段差壁51aの上面に対して、略直交する方向に流入するカソードオフガスがスリット51cを通じてケース50内の必要な方向に分散するようになっている。本実施形態では、段差壁51a、開口51b、スリット51cによって分散部が構成されている。
なお、段差壁51aの前部側には、後記するインジェクション成形時に開口51bが同様に形成されるが、ケース50内に中空糸膜束11を収容する際に、ポッティング部13で閉じられるようになっている。
【0047】
ケース50内には、開口51bに連通する流体通流部S1が中空糸膜束11の上面と上壁51の内面との間に軸線方向に延在して形成されており、開口51bを通じてケース50内に流入したカソードオフガスが、流体通流部S1を通じてケース50の後部へ向けて分散されて流れるようになっている。
【0048】
一方、流出部R2’は、下壁52の後端部に貫通孔52aを形成することで構成されており、ケース50内の中空糸膜12外を通流したカソードオフガスが、貫通孔52aを通じて排出されるようになっている。本実施形態では、流出部R2’が後端部のポッティング部13に近い位置にあることから、中空糸膜束11の後部側での変位が生じ難くなっており、第1実施形態で説明したような段差壁22a(図2参照)を設けていない。なお、段差壁22aに相当するものを適宜設けるようにしてもよい。
なお、中空糸膜束11の下面と下壁52の内面との間には、若干の隙間S3が形成されており、中空糸膜束11の下面が下壁52の内面に密着することが防止されている。
【0049】
コンプレッサ131からの空気は、第1実施形態と同様に、後キャップ15の空気流入部15aから後キャップ15内を通って各中空糸膜12内に流入し、各中空糸膜12内を後方に向かって通流した後、前キャップ14内を通って、前キャップ14の空気流出部14aから外部(配管131b、図1)に流出するようになっている。
【0050】
一方、カソードオフガスは、前記したように、その一部が段差壁51aのスリット51cを通じてケース50内に流入する。また、カソードオフガスは、段差壁51aで後方向に分散されて開口51bからケース50内の流体通流部S1に流入し、流体通流部S1から中空糸膜束11の上面略全体に流入する。中空糸膜束11に流入したカソードオフガスは、中空糸膜12外であってケース50内を下方に向かって通流した後、流出部R2(貫通孔52a)から外部(配管132a、図1)に流出する。
【0051】
すなわち、加湿すべき燃料電池スタック110に向かう空気が中空糸膜12内を前方に向かって通流し、多湿のカソードオフガスが中空糸膜12外を後方に向かって通流するように構成されている。つまり、空気の通流方向とカソードオフガスの通流方向とは対向しており、空気が効率的に加湿されるようになっている。
【0052】
そして、ケース50の内面は、前記のように、ケース50の前部からケース50の後部へ向けて中空糸膜束11の軸線方向に絞り勾配を有したものとなっており、前端部に流速向上部A’を有したものとなっているので、ケース50の前端部の流入部R1’から流入したカソードオフガスは、スリット51cおよび流体通流部S1から中空糸膜束11内に流入した後、絞られた流速向上部A’で流速が向上されて後部側へ向けて流れつつケース50内を下方に向かって通流し、流出部R2’から流出する。これにより、流入部R1’から流出部R2’に向けてカソードオフガスが好適に流れ、カソードオフガスを中空糸膜束11の全体に行き渡らせることができる。
【0053】
このように成形されたケース50を有する加湿器1’によれば、流速向上部A’によってカソードオフガスの流速を向上させることができ、中空糸膜束11に沿わせてケース50の前端部から後端部へ向けてカソードオフガスを有効に流すことができる。したがって、ケース50内の後端部において水分交換を良好に行うことができ、水分交換効率を向上させた加湿器1’が得られる。
【0054】
また、カソードオフガスを、分散部で中空糸膜束11に沿う方向、つまり、ケース50内の前端部から後端部へ向けて有効に流すことができる。これにより、水分交換効率を向上させた加湿器1’が得られる。
【0055】
また、ケース50に流体通流部S1が形成されるので、カソードオフガスが、流体通流部S1を通流して中空糸膜束11の軸線方向に好適に流れるようになり、中空糸膜束11に沿わせてカソードオフガスを有効に流すことができる。したがって、ケース50内の後端部において水分交換を良好に行うことができ、水分交換効率をより一層向上させた加湿器1’が得られる。
【0056】
次に、図7を参照して、インジェクション成形による加湿器1’のケース50の製造方法について説明する。
図7(a)〜(c)は、ケース50の製造方法について説明する図であり、ケース20の縦断面方向における模式断面図である。なお、ケース50の各部については図6(a)を適宜参照する。
まず、図7(a)に示すように、ケース50の勾配のある内面を形成するための前後型(可動金型)60,61を図中矢印方向にそれぞれスライド移動させて、前後型60,61の端部同士が当接する状態に組み合わせる。そして、図7(b)に示すように、ケース50の上壁51を含む上部側を形成するための左上型(可動金型)62、右上型(可動金型)63を前後型60,61に向けて下降移動させて組み合わせるとともに、ケース50の下壁52を含む下部側を形成するための下型(可動金型)64を前後型60,61に向けて上昇移動させて組み合わせる。
続いて、図7(c)に示すように、ケース50の流入部R1’を形成するための上型(可動金型)65を前後型60,61の当接部位の上部へ向けて下降移動させて組み合わせて、これらの型を閉める。
【0057】
その後、図8(a)に示すように、上型(可動金型)65に形成した湯口65aを通じて、例えば、PC(ポリカーボネート)やPPO(ポリフェニレンオキサイド)等の樹脂を射出する。これにより、樹脂が湯口65aから各部に回り、段差壁51a(分散部)、および上壁51、下壁52が同時に形成されて、流速向上部A’が形成されるとともに、上壁51が形成されることによる流体通流部S1の上壁面51Aの形成が同時に行われる。
その後、樹脂が冷えたところで脱型し、図8(b)に示すようなケース50を得る。
【0058】
このように、流速向上部A’と、分散部とをインジェクション成形によりあわせて形成したので、流速向上部A’の形成および分散部の形成を一つの工程で行うことができるようになり、製造工程が削減されて製造の簡易化を図ることができる。したがって、加湿器1’の製造のコストダウンを図ることができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、例えば次のように変更することができる。
前記した各実施形態では、空気が中空糸膜12内を通流し、カソードオフガスが中空糸膜12外を通流する構成を例示したが、空気が中空糸膜12外を通流し、湿度の高いカソードオフガスが中空糸膜12内を通流する構成でもよい。
【0060】
また、第2実施形態において、空気およびカソードオフガスの通流方向が、逆向きである構成を例示したが、同方向でもよい。
【0061】
さらに、第1実施形態において、カソードオフガスが、加湿器1の上壁21側から流入し、加湿器1の下壁22側から流出する構成を例示したが、カソードオフガスの流入・流出方向はこれに限定されず、例えば、下方から流入し、上方に向かって流出する構成でもよい。
また、第2実施形態において、カソードオフガスが、加湿器1’の上壁51側から流入し、加湿器1’の下壁52側から流出する構成を例示したが、カソードオフガスの流入・流出方向はこれに限定されず、例えば、図9に示すように、下方から流入し、上方に向かって流出する構成でもよい。
【0062】
さらにまた、第1流体が空気、第2流体がカソードオフガスである構成、つまり、第1流体および第2流体がガスである構成を例示したが、例えば、第2流体が水(液体)である構成でもよい。
【0063】
また、第1実施形態において、段差壁21aは、上面が平面とされた板状としたが、第2実施形態で示したような、カソードオフガスが通流可能なスリットを形成しいてもよい。また、スリットに代えて、複数の連通孔を形成してもよい。
【0064】
また、中空糸膜束11およびケース20,50は、輪切り方向の断面形状が、四角形状としたが、これに限定されず、円形状、楕円形状、長円形状、多辺形状の筒状としてもよい。
【0065】
前記した実施形態では、加湿器1が空気とカソードオフガスとの間で水分交換し、燃料電池スタック110に向かう空気を加湿する構成を例示したが、その他に例えば、水素とアノードオフガスとの間で水分交換し、燃料電池スタック110に向かう水素を加湿する構成でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第1実施形態の加湿器の製造方法により製造される加湿器が適用される燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る加湿器の製造方法により製造される加湿器の斜視図である(一部拡大図示)。
【図3】(a)は同じく加湿器の断面図、(b)は同じくカソードオフガスの流れを模式的に示した断面図である。
【図4】(a)〜(c)は同じく加湿器のケースの成形を示す説明図である。
【図5】(a)は同じく加湿器のケースの成形を示す説明図、(b)は同じく成形されたケースの断面図である。
【図6】(a)は第2実施形態に係る加湿器の製造方法により製造される加湿器の断面図、(b)は同じくカソードオフガスの流れを模式的に示した断面図である。
【図7】(a)〜(c)は同じく加湿器のケースの成形を示す説明図である。
【図8】(a)は同じく加湿器のケースの成形を示す説明図、(b)は同じく成形されたケースの断面図である。
【図9】その他の例を示す加湿器の断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 加湿器
11 中空糸膜束
12 中空糸膜
13 ポッティング部
20,50 ケース
21,51 上壁
21a,51a 段差壁
21b,51b 開口
22,52 下壁
22a,52a 段差壁
22b,52b 開口
51c スリット
100 燃料電池システム
110 燃料電池スタック
A,A’ 流速向上部
R1,R1’ 流入部
R2,R2’ 流出部
S1,S2 流体通流部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空糸膜が束ねられてなる中空糸膜束と、
前記中空糸膜束を収容する筒状のケースと、を備え、
第1流体が前記中空糸膜内を通流し、前記第1流体と異なる湿度の第2流体が前記ケース内における前記中空糸膜外を通流する加湿器の製造方法であって、
前記ケースの内面における前記中空糸膜束の軸線方向に絞り勾配を形成することで前記第2流体の流速を向上させるための流速向上部を形成する第1工程と、
前記ケースにおける前記第2流体の流入部に、前記第2流体の流れを必要な方向に分散する分散部を形成する第2工程と、を含み、
前記第1工程における前記流速向上部と、前記第2工程における分散部とをインジェクション成形によりあわせて形成することを特徴とする加湿器の製造方法。
【請求項2】
前記インジェクション成形により、
前記中空糸膜束と前記ケースの内面との間において、前記中空糸膜束の軸線方向に延在して前記第2流体が通流する流体通流部をさらに形成することを特徴とする請求項1に記載の加湿器の製造方法。
【請求項3】
前記インジェクション成形により、
前記ケースにおける前記第2流体の流出部において、前記第2流体の推力による前記中空糸膜束の変位で前記流出部が閉塞することを抑制する変位抑制部をさらに形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の加湿器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−151339(P2010−151339A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327773(P2008−327773)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】