説明

加湿装置

【課題】 噴霧ノズルを少なくし、加湿水量を抑制したとしても加湿効率を高める。
【解決手段】 加湿装置は、大気が通過するケーシングと、ケーシング内で大気を加湿する加湿部とを備えている。加湿部は、大気に対して水粒子を噴出する複数の噴霧ノズルを有している。複数の噴霧ノズルは、大気の通過方向に対して交差する一平面上に所定の間隔を開けて配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加湿装置に係り、特に大気浄化システムに組み込まれる加湿装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市部交差点やトンネル換気所等には、大気汚染物質である浮遊粒子状物質SPM及び窒素酸化物NOx(NO、NO)を同時に除去するべく大気浄化システムを設置することがある。この大気浄化システムとしては、大気を加湿する加湿装置と、加湿された大気から窒素酸化物を除去する脱硝装置とを備えたものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図9は、従来の大気浄化システムの概略構成を示す模式断面図である。この図9に示すように大気浄化システム100には、大気を取り込むダクト101と、ダクト101の下流に配置された加湿装置110と、加湿装置110の下流に配置された脱硝装置120とが設けられている。
加湿装置110には、ダクト101から脱硝装置120までの大気の流路を形成するケーシング111が設けられている。このケーシング111の内壁に沿って、大気の流路を囲むように噴霧ノズル112が多数配置されている(図10参照)。各噴霧ノズル112には水供給管113によって水が供給されている。
脱硝装置120には、加湿装置110を通過した大気を取り込む複数の取込口121と、各取込口121に対応して設けられた吸着剤122及び脱硝トレイ123と、各取込口121から各吸着剤122まで大気を案内する複数のガイド部124と、脱硝トレイ123内の吸着剤122を通過した大気を外部に排出する複数の排出口125とが設けられている。
【0004】
そして、ダクト101から流入した大気(図9の矢印)は、噴霧ノズル112から水粒子が噴出されているために、加湿装置110を通過する際に加湿される。加湿された大気は、取込口121から脱硝装置120に流入し、脱硝トレイ123内の吸着剤122を通過することで、窒素酸化物が除去された状態で、排出口125から排出される。これにより、大気が浄化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−243289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで近年においてはコスト削減のため、噴霧ノズル112の設置個数の低減や、加湿水量の低減及び加湿効率の向上が望まれている。
このため、本発明の課題は、従来よりも噴霧ノズルを少なくし、加湿水量を抑制したとしても加湿効率を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明に係る加湿装置は、
大気が通過するケーシングと、
前記ケーシング内で前記大気を加湿する加湿部とを備え、
前記加湿部は、前記大気に対して水粒子を噴出する複数の噴霧ノズルを有し、
前記複数の噴霧ノズルは、前記大気の通過方向に対して交差する一平面上に所定の間隔を開けて配列されていることを特徴としている。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1の加湿装置において、
前記複数の噴霧ノズルは、前記大気の通過方向に対して直交する平面に沿ってマトリクス状に配列されていることを特徴としている。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の加湿装置において、
前記加湿部の上流側には、前記加湿部に至るまでに前記大気を旋回流とする旋回手段が設けられていることを特徴としている。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の加湿装置において、
前記噴霧ノズルは、前記通過方向に対する噴射角度を調整自在であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明者は、大気の通過方向に対して交差する一平面上に、複数の噴霧ノズルを配列することで、従来のものよりも噴霧ノズルを少なくしたとしても、加湿効率を高めることを見出した。つまり、請求項1記載の発明のように、大気の通過方向に対して交差する一平面上に所定の間隔を開けて複数の噴霧ノズルを配列すれば、従来よりも少ない噴霧ノズルにして加湿水量を抑制したとしても加湿効率を高めることが可能となる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、大気の通過方向に対して直交する平面に沿って複数の噴霧ノズルがマトリクス状に配列されているので、各噴霧ノズルが均等に配列されることになり、より効率的に大気を加湿することができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、加湿部に至るまでに大気を旋回流とする旋回手段が設けられているので、大気がケーシングを通過するまでの時間を長くすることができる。これにより、大気が水粒子に晒される時間を長くすることができ、より効率的に大気を加湿することができる。
【0014】
請求項4記載の発明によれば、噴霧ノズルにおける通過方向に対する噴射角度が調整自在であるので、噴射角度を調整することで環境に応じた蒸発時間に調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の加湿装置を備えた大気浄化システムを示す模式断面図である。
【図2】図1の加湿装置に備わる噴霧ノズルの概略構成を示す断面図である。
【図3】図2の噴霧ノズルの先端部を示す正面図である。
【図4】図1の加湿装置に備わる噴霧ノズルの配列位置を示す正面図である。
【図5】図1の加湿装置に備わる噴霧ノズルの角度調整を示す側面図である。
【図6】図2の噴霧ノズルの噴射角度と蒸発時間との関係を示した説明図である。
【図7】図4の噴霧ノズルの配列位置の変形例を示す正面図である。
【図8】図1の大気浄化システムにおける加湿装置の変形例を示す模式断面図である。
【図9】従来の加湿装置を備えた大気浄化システムを示す模式断面図である。
【図10】図9の加湿装置に備わる噴霧ノズルの配列位置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を参照して実施形態を詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る大気浄化システムの概略構成を示す模式断面図である。この図1に示すように大気浄化システム1には、大気を取り込むダクト2と、ダクト2の下流に配置された加湿装置3と、加湿装置3の下流に配置された脱硝装置4とが設けられている。
【0017】
脱硝装置4には、加湿装置3を通過した大気を取り込む複数の取込口41と、各取込口41に対応して設けられた吸着剤42及び脱硝トレイ43と、各取込口41から各吸着剤42まで大気を案内する複数のガイド部44と、脱硝トレイ43内の吸着剤42を通過した大気を外部に排出する複数の排出口45とが設けられている。
【0018】
加湿装置3には、ダクト2から脱硝装置4までの大気の流路を形成するケーシング31と、ケーシング31内で大気を加湿する加湿部32とが設けられている。
加湿部32は、大気に対して水粒子を噴出する複数の噴霧ノズル33と、複数の噴霧ノズル33を支持する支持フレーム34とを備えている。
支持フレーム34の内部は、水の供給路となっていて、各噴霧ノズル33に対して水を供給できるようになっている。
【0019】
図2は、噴霧ノズル33の概略構成を示す断面図であり、図3は、噴霧ノズル33の先端部を示す正面図である。図2に示すように、噴霧ノズル33は、筒状の本体331と、本体331の噴射側壁332の内面に固定したノズルチップ333とを備えている。本体331は、円筒状の周壁334の一端を噴射側壁332で閉鎖し、その中央に噴口335を設ける一方、周壁334の他端は開口336とする。開口336は、供給路と連通していて、この開口336を介して本体331の中空部337に水が流入している。
【0020】
ノズルチップ333は、略円板形状であり、本体331の成形時にモールドして、本体331の噴射側壁332の内面に固定されている。ノズルチップ333は、本体331の噴射側壁332の中心の噴口335と連通する噴射孔338を中央に備え、噴射孔338から噴口335を通して水を霧状として噴射するようになっている。噴射孔338は、流入側から縮径するテーパ状穴部339と、テーパ状穴部339に連続して噴口335に連通する小径穴部340とからなる。図3に示すように、ノズルチップ333の内面には、90度間隔を空けて円弧状に湾曲された複数の旋回溝341が形成されている。これら旋回溝341の内周端はテーパ状穴部339の周縁と連通されており、旋回溝341を通して水を旋回させながら流入するようになっている。
【0021】
噴霧ノズル33では、供給路から本体331に流入する水が、噴射側においてノズルチップ333の旋回溝341を通り、旋回流となって噴射孔338のテーパ状穴部339に流入する。流入した水は、テーパ状穴部339の内周面に沿って旋回しながら衝突するため、水滴が微細化される。テーパ状穴部339より噴射側の小径穴部340に流入し、さらに、連通した本体331の噴口335から10〜30μmの微粒子の水滴を含むセミドライフォグを噴射するものとしている。
なお、噴霧ノズル33に供給する水の圧力は、0.1〜10MPa程度に設定されていることが好ましい。また、上述した噴霧ノズル33は、あくまで一例であり、これ以外の噴霧ノズルを適用することも可能である。
【0022】
図4は複数の噴霧ノズル33の配列位置を示す正面図である。この図4に示すように複数の噴霧ノズル33は、大気の通過方向X(図1参照)に対して直交する一平面に沿ってマトリクス状に配列されている。m段にn列噴霧ノズル33が配置されている場合には、噴霧ノズル33の総数はm×nとなる。
【0023】
ここで、各噴霧ノズル33は、通過方向Xに対する噴射角度θが調整できるように、支持フレーム34に対して回転自在に取り付けられている(図5参照)。図6は、噴射角度と蒸発時間との関係を示した説明図である。なお、図中、噴霧ノズル33から延びた線(噴射された水粒子の経路を表す)の色が濃いと蒸発時間は短く、薄いと蒸発時間が長いことを表している。この図6に示すように、大気の通過方向Xに対する噴射角度θが0度の場合は、蒸発時間が最も長いことがわかる。そして、噴霧ノズル33を上方に回転させると、噴射角度θが60度になるまでは蒸発時間が短くなっていく。そして、噴射角度θが90度になると一端蒸発時間が長くなるが、さらに噴射角度θが135度、180度となるとまた蒸発時間が短くなる。このように、噴射角度θを調整できれば、あまりスペースが取れない場所であっても、そのスペース内で完全に蒸発することのできる蒸発時間に調整することが可能である。
なお、上記の例では、180度までを示しているが、噴射角度θは360度まで調整することが可能であり、この場合においても蒸発時間の調整が可能である。
【0024】
次に、本実施形態の作用について説明する。
ダクト2から流入した大気(図1の矢印)は、噴霧ノズル33から水粒子が噴出されているために、加湿装置3を通過する際に加湿される。加湿された大気は、取込口41から脱硝装置4に流入し、脱硝トレイ43内の吸着剤42を通過することで、窒素酸化物が除去された状態で、排出口45から排出される。これにより、大気が浄化される。
【0025】
ここで、上記実施形態の加湿装置3について気流解析シミュレーションにより、実機モデルの解析を行った。解析モデルとして、形状は3D、乱流モデルはk−ε、定常/非定常は定常モデル、熱計算はありとした。また、ダクト2の正面視の入口寸法は1200mm×1400mmとし、ケーシング31の正面視の内部寸法は、1950mm×2200mmとした。送風条件は、入口流速:8.92m/s、入口湿度:20.0RH%、入口水分量:0.24vol%、入口温度:10℃とした。ノズル条件は、平均粒子径:20μm、最大粒子径:70μm、冷却水量:2.50l/hr・本、タイプ:1流体空円錐、噴霧角度:通過方向Xに対して0度、ノズル本数:42本(7×6)とした。これらの条件を基に、解析ソフト(FLUENT V6.3)を用いて、水粒子の気流中での挙動を計算した。このとき、メッシュは非構造格子とし、メッシュ数は約80万個で形状作成を行った。また、境界条件は入口/出口から吸引させ、ケーシング31の壁面は断熱として、壁面に付着した水粒子は対象外とした。
【0026】
一方、上記実施形態の加湿装置3と同様の気流解析シミュレーションにより、従来の加湿装置110に対しても解析を行った。なお、ノズル配列位置以外に、上記解析と比して異なる条件は、ノズル条件である冷却水量2.64l/hr・本、ノズル本数:112本、噴霧角度:通過方向Xに対して90度である。
【0027】
【表1】

【0028】
表1は本実施形態の加湿装置3の解析結果と、従来の加湿装置110の解析結果とを示している。なお、加湿効率=蒸発水量/(冷却水量×ノズル本数)で求められ、壁面付着割合=壁面付着水量/(冷却水量×ノズル本数)で求められ、脱硝トレイへの付着割合==吸着剤水量/(冷却水量×ノズル本数)で求められる。
【0029】
表1に示すように、従来の加湿装置110であると加湿効率は約38%であり、大部分は加湿に用いられないまま壁面及び脱硝トレイ123中の吸着剤122に付着する結果となっている。
一方、本実施形態の加湿装置3では、従来よりも噴霧ノズル33の設置個数を1/3程度にして、噴霧水量も1/3程度に削減したとしても、加湿効率が97%以上と大幅に高められていることがわかる。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、大気の通過方向Xに対して交差する一平面上に所定の間隔を開けて複数の噴霧ノズル33が配列されているので、従来よりも少ない噴霧ノズル33として噴霧水量(加湿水量)を抑制したとしても加湿効率を高めることが可能となる。
さらに、大気の通過方向Xに対して直交する平面に沿って複数の噴霧ノズル33がマトリクス状に配列されているので、各噴霧ノズル33が均等に配列されることになり、より効率的に大気を加湿することができる。
【0031】
なお、本発明は上記実施形態に限らず適宜変更可能であるのは勿論である。
例えば、上記実施形態では、複数の噴霧ノズル33が大気の通過方向Xに対して直交する一平面上に配列されている場合を例示したが、少なくとも通過方向Xに対して交差する一平面上に配置されていればよい。
また、複数の噴霧ノズル33は、マトリクス状に配列されていなくとも、一平面上に所定の間隔を開けて配列されているのであれば如何なる配列位置であっても構わない。例えば、図7の一点鎖線に示すように、多数の三角形を一平面上に配列しその各三角形の頂点に噴霧ノズル33aを配置することが挙げられる。なお、三角形以外の多角形であってもよい。
【0032】
さらに、図8に示すように、加湿部32の上流側に、加湿部32に至るまでに大気を旋回流とする旋回手段8を設けてもよい。この旋回手段8には、大気の流路となる部分に当該大気を旋回流とする複数のフィン81が配置されている。このように、加湿部32に至るまでに大気を旋回流とする旋回手段8が設けられているので、大気がケーシング31を通過するまでの時間を長くすることができる。これにより、大気が水粒子に晒される時間を長くすることができ、より効率的に大気を加湿することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 大気浄化システム
2 ダクト
3 加湿装置
4 脱硝装置
8 旋回手段
31 ケーシング
32 加湿部
33 噴霧ノズル
34 支持フレーム
41 取込口
42 吸着剤
43 脱硝トレイ
44 ガイド部
45 排出口
X 通過方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気が通過するケーシングと、
前記ケーシング内で前記大気を加湿する加湿部とを備え、
前記加湿部は、前記大気に対して水粒子を噴出する複数の噴霧ノズルを有し、
前記複数の噴霧ノズルは、前記大気の通過方向に対して交差する一平面上に所定の間隔を開けて配列されていることを特徴とする加湿装置。
【請求項2】
請求項1の加湿装置において、
前記複数の噴霧ノズルは、前記大気の通過方向に対して直交する平面に沿ってマトリクス状に配列されていることを特徴とする加湿装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の加湿装置において、
前記加湿部の上流側には、前記加湿部に至るまでに前記大気を旋回流とする旋回手段が設けられていることを特徴とする加湿装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の加湿装置において、
前記噴霧ノズルは、前記通過方向に対する噴射角度を調整自在であることを特徴とする加湿装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−122682(P2012−122682A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274424(P2010−274424)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年6月10日 西松建設株式会社 技術研究所発行の「西松建設技報 第33号(冊子及びCD−ROM)」に発表
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(390002118)株式会社いけうち (26)
【Fターム(参考)】