説明

加熱炉、光ファイバ母材の製造方法

【課題】 複数の炉心管を接続してなる炉心管の接続体を備えた加熱炉を用いた光ファイバ用多孔質母材の加熱処理において、複数の炉心管の接続部からのガス漏れを防止する加熱炉、およびこの加熱炉を用いた光ファイバ母材の製造方法を提供する。
【解決手段】 第一の炉心管21と第二の炉心管22を接続して、炉心管接続体20を形成する接続部材30と、ヒータ51とを備えた加熱炉10において、フランジ部21a、22aの外周と接続部材30の間に空間部33を形成し、接続部材30に空間部33にガスを導入するための第二のガス導入口34と、空間部33からガスを排出するための第一のガス排出口35、および、空間部33内の圧力を測定する圧力計を設ける。光ファイバ用多孔質母材の脱水工程および焼結工程において、空間部33内の圧力を、炉心管接続体20内の圧力よりも10Pa以上高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用多孔質母材を加熱処理して光ファイバ母材とする加熱炉、およびこの加熱炉を用いた光ファイバ母材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ母材の製造方法としては、VAD(Vapor Phase Axial Deposition)法に代表されるスート法で作製された光ファイバ用多孔質母材を加熱処理(脱水、焼結)して透明ガラス化する方法が、一般的に用いられている。
【0003】
光ファイバ用多孔質母材を透明ガラス化するための加熱炉は、一般に、光ファイバ用多孔質母材を収容するための炉心管と、炉心管内に収容された光ファイバ用多孔質母材を加熱処理するためのヒータと、ヒータの制御装置と、光ファイバ用多孔質母材を炉心管の長手方向に沿って昇降させるための昇降装置とから概略構成されている
【0004】
このような加熱炉の炉心管内に光ファイバ用多孔質母材を収容し、この光ファイバ用多孔質母材を脱水する脱水工程の後、光ファイバ用多孔質母材を焼結して透明ガラス化する焼結工程を経ることにより、光ファイバ母材が得られる。
【0005】
この光ファイバ用多孔質母材の脱水工程、焼結工程において、炉心管内の雰囲気は、一般的にヘリウム(He)ガス雰囲気となっている。また、脱水工程においては、炉心管内に、脱水剤として塩素系のガスが導入されることが多い。このようなことから、光ファイバ用多孔質母材の加熱炉を構成する炉心管は、耐熱性や化学的安定性に優れる石英ガラスまたはカーボンで形成されていることが多い。
【0006】
ところで、近年の光ファイバ母材の大型化に伴って、長尺の炉心管が必要となってきている。そのため、取り扱いの容易さや製造コストなどの点から、複数の炉心管がフランジ面などの接続面で接続されてなる大型の炉心管が用いられることがある。
【0007】
このように複数の炉心管を接続して用いる場合、その接続面において、気密性を確保する必要がある。
【0008】
特許文献1には、炉心管の接続面となっているフランジ部全体を覆うクランプを接続部材として用いる方法が開示されている。特許文献1には、この接続部材に、クランプ内部に不活性ガスを導入するためのガス導入口を設け、クランプ内部の圧力を大気圧より高くすることにより、大気中の酸素が炉心管内へ侵入することを防止し、炉心管において高い気密性が確保できると記載されている。
【0009】
ところが、特許文献1に開示されている方法を用いても、炉心管の接続面における気密性の確保は十分ではない。特許文献1に開示されている方法では、クランプ内部の圧力が一定となるように、クランプ内部に不活性ガスを導入している。このように不活性ガスをクランプ内部に導入することにより、クランプ内部の圧力を大気圧よりも高く調整することができるため、大気中の酸素が炉心管内へ侵入することを防止することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では、炉心管内部に導入されたガスが、炉心管の接続面から外部に漏れる可能性について考慮されていない。実際の光ファイバ母材の製造においては、一般に炉心管内部の圧力は大気圧より高く、また、炉心管内部の圧力は変動するので、炉心管内部に導入されたガスがその接続面から外部に漏れ易い状態で、炉心管内部の圧力の均衡が保たれている。
【0011】
また、脱水工程において、脱水剤として塩素系のガスを用いる場合、炉心管内部から外部へ塩素系のガスが漏れると、安全性や作業性が損なわれるばかりでなく、加熱炉本体を形成する金属が腐食することがある。加熱炉本体の腐食によって、加熱炉本体から乖離した金属成分が炉心管を汚染し、結果として、光ファイバ母材の品質が損なわれるおそれがある。そのため、加熱炉を用いた光ファイバ用多孔質母材の脱水工程および焼結工程においては、炉心管内部に導入されたガスが、炉心管の接続面から外部に漏れることのない構造の加熱炉が必要である。
【特許文献1】特開2002−137932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、複数の炉心管を接続してなる炉心管の接続体を備えた加熱炉を用いた光ファイバ用多孔質母材の加熱処理において、複数の炉心管の接続部からのガス漏れを防止する加熱炉、およびこの加熱炉を用いた光ファイバ母材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、複数の炉心管と、該複数の炉心管のフランジ部を当接した状態で、前記フランジ部の外周の全域を覆い、前記複数の炉心管を接続して炉心管接続体を形成するための接続部材と、少なくとも前記炉心管接続体の外周の一部を囲むように配されたヒータとを備えた加熱炉であって、前記フランジ部の外周と前記接続部材の間には空間部が形成され、前記接続部材には前記空間部にガスを導入するためのガス導入口、および、前記空間部からガスを排出するためのガス排出口が設けられている加熱炉を提供する。
【0014】
上記構成の加熱炉において、前記接続部材には、前記空間部内の圧力を測定するための圧力計が設けられていることが好ましい。
【0015】
本発明は、上記の加熱炉を用いて、該加熱炉を構成する炉心管接続体内に光ファイバ用多孔質母材を収容し、光ファイバ用多孔質母材を脱水する脱水工程と、該脱水工程の後に、前記光ファイバ用多孔質母材を焼結する焼結工程とを備えた光ファイバ母材の製造方法であって、前記脱水工程および前記焼結工程において、前記炉心管接続体をなす複数の炉心管のフランジ部の外周と、前記複数の炉心管を接続している接続部材との間に形成された空間部内の圧力を、前記炉心管接続体内の圧力よりも高くする光ファイバ母材の製造方法を提供する。
【0016】
前記脱水工程および前記焼結工程において、前記空間部内の圧力は、前記炉心管接続体内の圧力よりも10Pa以上高いことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フランジ部の外周と複数の炉心管を接続して炉心管接続体を形成するための接続部材の間に空間部を形成し、接続部材には空間部にガスを導入するためのガス導入口、および、空間部からガスを排出するためのガス排出口を設けることにより、光ファイバ用多孔質母材の加熱処理の際に、ガス導入口から空間部内に不活性ガスを導入して、空間部内の圧力を、炉心管接続体内の圧力よりも高く設定することができるから、炉心管接続体の接続面から、炉心管接続体内に導入された塩素系のガスが漏れることや、この接続面から炉心管接続体内に大気中の酸素が混入することを低減できる。これにより、加熱炉を構成する他の部材が腐食するのを防止することができる。その結果、光ファイバ母材を安定に製造することができるので、光ファイバ母材の製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施した加熱炉、およびこの加熱炉を用いた光ファイバ母材の製造方法について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る加熱炉の一実施形態を示す概略構成図である。図2は、図1に示した加熱炉の一部を示す模式図である。
【0020】
図1および図2中、符号10は加熱炉、20は炉心管接続体、21は第一の炉心管、22は第二の炉心管、21a,22aはフランジ部、23は接続面、24は第一のガス導入口、30は接続部材、31は第一の部材、32は第二の部材、33は空間部、34は第二のガス導入口、35は第一のガス排出口、40は排気カバー、41は第二のガス排出口、51はヒータ、52は筐体、60は圧力計をそれぞれ示している。
【0021】
この実施形態の加熱炉10は、光ファイバ用多孔質母材の脱水工程および焼結工程に用いられる。
加熱炉10は、光ファイバ用多孔質母材を収容するための炉心管接続体20と、炉心管接続体20を形成するための接続部材30と、接続部材30の外周の一部を囲む排気カバー40と、炉心管接続体20の外周を囲み、炉心管接続体20内に収容された光ファイバ用多孔質母材を加熱処理するためのヒータ51と、ヒータ51を収容している筺体52とから概略構成されている。
【0022】
炉心管接続体20は、第一の炉心管21と第二の炉心管22が、それぞれのフランジ部21aとフランジ部22aを当接した状態で、これらの外周の全域が接続部材30によって覆われるように接続されてなるものである。この接続部材30によって、第一の炉心管21と第二の炉心管22を接続することにより、炉心管接続体20は、第一の炉心管21と第二の炉心管22の接続面23において気密性が確保されている。また、フランジ部21a、22aの外周と接続部材30の間には空間部33が形成されている。
【0023】
第一の炉心管21と第二の炉心管22は、大きさがほぼ等しい円筒形の部材であり、石英やカーボンで形成されている。また、第二の炉心管22には、フランジ部22aと反対側の端部に炉心管接続体20内にガスを導入するための第一のガス導入口24が設けられている。
【0024】
接続部材30は、第一の部材31と第二の部材32とから構成されている。第一の部材31は、第一の炉心管21のフランジ部21aおよびその近傍を覆うように配設されている。また、第二の部材32は、第二の炉心管22のフランジ部22aおよびその近傍を覆うように配設されている。そして、第一の部材31と第二の部材32が、第一の炉心管21と第二の炉心管22の接続面23とほぼ同一の面上で当接するようになっている。
【0025】
第一の部材31には、空間部33にガスを導入するための第二のガス導入口34、および、空間部33からガスを排出するための第一のガス排出口35が設けられている。
第二のガス導入口34を設ける位置は特に限定されないが、炉心管接続体20の外部から空間部33内に導入されたガスが接続面23に直接当たるように、第二のガス導入口34は接続面23と対向する位置に設けられていることが好ましい。また、第一のガス排出口35を設ける位置は特に限定されないが、第二のガス導入口34から空間部33内に導入されたガスが滞留することなく、空間部33から排出されるようにするために、第一のガス排出口35は、第一の炉心管21の外周と第一の部材31の間に設けた間隙であることが好ましい。さらに、この間隙は、第一の炉心管21の外周に沿って間隔を置いて不連続に設けられていても、第一の炉心管21の外周に沿って連続に(全周に渡って)設けられていてもよい。
【0026】
また、空間部33の形状や大きさは特に限定されないが、第二のガス導入口34から導入されたガスが、フランジ部21a、22aの外周を経て第一のガス排出口35へと流れるように、フランジ部21a、22aの形状や大きさに応じて適宜設定することが好ましい。
【0027】
排気カバー40は、第二のガス導入口34の第一の部材31に接続されている側と反対側の端部を除いて、接続部材30をなす第一の部材31の外周を全て覆っている。また、排気カバー40には、第一の排出口35を通って、空間部33から排出されたガスを、炉心管接続体20の外部の所定方向に排出するための第二のガス排出口41が設けられている。
【0028】
また、接続部材30には、空間部33内の圧力を測定するための圧力計60が設けられていることが好ましい。圧力計60による空間部33内の圧力測定位置(圧力計60の圧力測定部(検知部)を配置する位置)は、空間部33内が静止状態とみなせる位置が望ましく、具体的には、第二のガス導入口34および第一のガス排出口35から離れた位置が望ましい。なお、本発明における圧力は、大気圧を基準にしたゲージ圧である。
【0029】
なお、この実施形態では、炉心管接続体20としては、第一の炉心管21と第二の炉心管22を接続部材30で接続してなるものを例示したが、本発明の加熱炉はこれに限定されない。本発明の加熱炉にあっては、炉心管接続体が3つ以上の炉心管を接続部材で接続してなるものであってもよい。
【0030】
また、この実施形態では、接続部材30が第一の部材31と第二の部材32で構成されている例を示したが、本発明の加熱炉はこれに限定されない。本発明の加熱炉にあっては、接続部材が1つの部材で構成されていても、3つ以上の部材で構成されていてもよい。
【0031】
また、この実施形態では、第二のガス導入口34および第一のガス排出口35が、第一の部材31に設けられている例を示したが、本発明の加熱炉はこれに限定されない。本発明の加熱炉にあっては、第二のガス導入口または第一のガス排出口のいずれか一方、あるいは、第二のガス導入口および第一のガス排出口の両方が第二の部材に設けられていてもよい。また、第二のガス導入口34は、二方向からガスが導入できるように示しているが、本発明の加熱炉はこれに限定されない。本発明の加熱炉にあっては、二方向以上から第二のガス導入口にガスを導入できるように構成されていてもよい。
【0032】
また、この実施形態では、第一の部材31の外周が排気カバー40で覆われている例を示したが、本発明の加熱炉はこれに限定されない。本発明の加熱炉にあっては、空間部内にガスを導入する第二のガス導入口の接続部材に接続されている側と反対側の端部を除いて、接続部材の外周の全域が排気カバーで覆われていてもよい。
【0033】
さらに、この実施形態では、ヒータ51が炉心管接続体20の外周の一部を囲んでいる例を示したが、本発明の加熱炉はこれに限定されない。本発明の加熱炉にあっては、ヒータが炉心管接続体の外周の全域を囲んでいてもよい。
【0034】
次に、図1および図2を参照して、本発明に係る光ファイバ母材の製造方法の一実施形態について説明する。
【0035】
この実施形態の光ファイバ母材の製造方法では、まず、VAD(Vapor phase Axial Deposition)法、OVD(Outside Vapor Deposition)法などの公知の方法により、光ファイバ用多孔質母材を形成する。
【0036】
次いで、第一のガス導入口24から炉心管接続体20内にヘリウムガスおよび塩素系のガスを導入するとともに、第二のガス導入口34から空間部33内に不活性ガスを導入する。この状態で、ヒータ51により炉心管接続体20を加熱して、炉心管接続体20内の長手方向に沿う温度分布を所定の分布に形成する。この後、光ファイバ用多孔質母材を炉心管接続体20内に収容し、光ファイバ用多孔質母材を加熱して、脱水する(脱水工程)。
【0037】
この脱水工程において、空間部33内の圧力を、炉心管接続体20内の圧力よりも高くなるように、炉心管接続体20内に導入するガスおよび空間部33内に導入するガスの流量や流速を制御する。
脱水工程において、空間部33内の圧力が、炉心管接続体20内の圧力未満では、第一の炉心管21と第二の炉心管22の接続面23から、炉心管接続体20内に導入したヘリウムガスおよび塩素系のガスが漏れてしまう。その結果として、光ファイバ用多孔質母材の脱水が十分に行われないばかりでなく、塩素系のガスにより加熱炉10を構成する他の部材が腐食するおそれがある。
【0038】
具体的には、脱水工程において、空間部33内の圧力は、炉心管接続体20内の圧力よりも10Pa以上高いことが好ましい。空間部33内の圧力と炉心管接続体20内の圧力の差が10Pa未満では、第一の炉心管21と第二の炉心管22の接続面23から、炉心管接続体20内に導入したヘリウムガスおよび塩素系のガスが漏れてしまう。
なお、空間部33内の圧力と炉心管接続体20内の圧力の差の上限は特に制限されないが、実用的には、空間部33の圧力を、炉心管接続体20内の圧力+1kPa以内とすることが望ましい。空間部33の圧力が、炉心管接続体20内の圧力+1kPaを超えると、空間部33内に導入したガスが、炉心管接続体20内に入り込む可能性がある。その場合は、空間部33内に導入するガスとして、炉心管接続体20内に導入したガスと同種のヘリウムガスを用いることが好ましい。
【0039】
また、脱水工程において、第二のガス導入口34から空間部33内に導入される不活性ガスとしては、光ファイバ母材の製造コストを低減することができることから、窒素(N)ガス、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウムガスなどが好ましい。
【0040】
次いで、第一のガス導入口24から炉心管接続体20内への塩素系のガスの導入を停止し、第一のガス導入口24から炉心管接続体20内へのヘリウムガスの導入、および、第二のガス導入口34から空間部33内への不活性ガスの導入を継続したまま、ヒータ51による炉心管接続体20の加熱も継続して、炉心管接続体20内の長手方向に沿う温度分布を所定の分布に形成する。この状態で、光ファイバ用多孔質母材を焼結し(焼結工程)、光ファイバ母材を得る。
【0041】
この焼結工程においても、上述の脱水工程と同様に、空間部33内の圧力を、炉心管接続体20内の圧力よりも高くなるように、炉心管接続体20内に導入するガスおよび空間部33内に導入するガスの流量や流速を制御する。具体的には、脱水工程において、空間部33内の圧力は、炉心管接続体20内の圧力よりも10Pa以上高いことが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
図1に示すような加熱炉を用意した。
この加熱炉において、外径310mm、石英ガラス製の炉心管を用いた。炉心管のフランジ部は、外径が360mmであり、接続面の中心線平均粗さRaが6.3μmであった。
このような炉心管を2つ用意し、フランジ部の接続面同士を合わせて、フランジ部を接続部材で固定して、炉心管接続体を形成し、加熱炉の所定の位置に炉心管接続体を配置した。
次に、炉心管接続体に設けられた第一のガス導入口から、炉心管接続体内に塩素ガス0.4SLMとヘリウムガス8SLMとからなる混合ガスを導入した。この時、炉心管接続体内の圧力は190Paであった。
次に、接続部材に設けられた第二のガス導入口から、炉心管接続体のフランジ部と接続部材の間の空間部内にアルゴンガスを3リットル導入した。この時、空間部内の圧力は200Paであり、炉心管接続体内の圧力よりも10Pa高かった。
炉心管接続体内に混合ガスを導入してから1時間後、塩素ガスの検知器により、炉心管接続体の接続面から空間部内への塩素ガスの漏れ量を測定した。その結果、塩素ガスは全く検知されなかった。
次に、この加熱炉を用いて、100本の光ファイバ用多孔質母材の加熱処理(脱水、焼結)続けて行い、100本の光ファイバ母材を作製した。
この後、再び、塩素ガスの検知器により、炉心管接続体の接続面から空間部内への塩素ガスの漏れ量を測定した。その結果、塩素ガスは全く検知されなかった。
次に、得られた100本の光ファイバ母材を順次、溶融紡糸して、光ファイバを製造した。得られた光ファイバの伝送損失を測定したところ、損失の増加は確認されなかった。
【0044】
(実施例2)
炉心管接続体内の圧力を230Pa、炉心管接続体のフランジ部と接続部材の間の空間部内にアルゴンガスを5リットル導入した以外は実施例1と同様にして、塩素ガスの検知器により、炉心管接続体の接続面から空間部内への塩素ガスの漏れ量を測定した。この時、空間部内の圧力は330Paであり、炉心管接続体内の圧力よりも100Pa高かった。
塩素ガスの漏れ量を測定した結果、塩素ガスは全く検知されなかった。
次に、この加熱炉を用いて、100本の光ファイバ用多孔質母材の加熱処理(脱水、焼結)続けて行い、100本の光ファイバ母材を作製した。
この後、再び、塩素ガスの検知器により、炉心管接続体の接続面から空間部内への塩素ガスの漏れ量を測定した。その結果、塩素ガスは全く検知されなかった。
次に、得られた100本の光ファイバ母材を順次、溶融紡糸して、光ファイバを製造した。得られた光ファイバの伝送損失を測定したところ、損失の増加は確認されなかった。
【0045】
(比較例1)
炉心管接続体のフランジ部と接続部材の間の空間部内にアルゴンガスを2リットル導入した以外は実施例1と同様にして、塩素ガスの検知器により、炉心管接続体の接続面から空間部内への塩素ガスの漏れ量を測定した。この時、空間部内の圧力は190Paであり、炉心管接続体内の圧力と同じであった。
次に、実施例1と同様にして、塩素ガスの検知器により、炉心管接続体の接続面から空間部内への塩素ガスの漏れ量を測定した。その結果、炉心管接続体の接続面の近傍において、塩素ガスが0.3ppm検知された。
次に、この加熱炉を用いて、100本の光ファイバ用多孔質母材の加熱処理(脱水、焼結)続けて行い、100本の光ファイバ母材を作製した。
次に、得られた100本の光ファイバ母材を順次、溶融紡糸して、光ファイバを製造した。得られた光ファイバの伝送損失を測定したところ、上記の加熱炉を用いて作製された80本目以降の光ファイバ母材から得られた光ファイバでは、650nmから1380nmの波長域において、伝送損失の増加が確認された。
そこで、加熱炉の温度を下げた後、加熱炉の状態を観察したところ、炉心管接続体の接続面付近にある、ヒータが収容されている筐体などの加熱炉を構成する他の部材が錆びていることが確認された。
【0046】
(比較例2)
炉心管接続体内の圧力を220Pa、炉心管接続体のフランジ部と接続部材の間の空間部内にアルゴンガスを1リットル導入した以外は実施例1と同様にして、塩素ガスの検知器により、炉心管接続体の接続面から空間部内への塩素ガスの漏れ量を測定した。この時、空間部内の圧力は80Paであり、炉心管接続体内の圧力よりも140Pa低かった。
次に、実施例1と同様にして、塩素ガスの検知器により、炉心管接続体の接続面から空間部内への塩素ガスの漏れ量を測定した。その結果、炉心管接続体の接続面の近傍において、塩素ガスが1.1ppm検知された。
次に、この加熱炉を用いて、100本の光ファイバ用多孔質母材の加熱処理(脱水、焼結)続けて行い、100本の光ファイバ母材を作製した。
次に、得られた100本の光ファイバ母材を順次、溶融紡糸して、光ファイバを製造した。得られた光ファイバの伝送損失を測定したところ、上記の加熱炉を用いて作製された60本目以降の光ファイバ母材から得られた光ファイバでは、650nmから1380nmの波長域において、伝送損失の増加が確認された。
そこで、加熱炉の温度を下げた後、加熱炉の状態を観察したところ、炉心管接続体の接続面付近にある、ヒータが収容されている筐体などの加熱炉を構成する他の部材が錆びていることが確認された。
【0047】
(比較例3)
炉心管接続体内の圧力を230Pa、炉心管接続体のフランジ部と接続部材の間の空間部内にアルゴンガスを導入しなかった以外は実施例1と同様にして、塩素ガスの検知器により、炉心管接続体の接続面から空間部内への塩素ガスの漏れ量を測定した。この時、空間部内の圧力は0Paであった。
次に、実施例1と同様にして、塩素ガスの検知器により、炉心管接続体の接続面から空間部内への塩素ガスの漏れ量を測定した。その結果、炉心管接続体の接続面の近傍において、塩素ガスが3ppm検知された。
次に、この加熱炉を用いて、100本の光ファイバ用多孔質母材の加熱処理(脱水、焼結)続けて行い、100本の光ファイバ母材を作製した。
次に、得られた100本の光ファイバ母材を順次、溶融紡糸して、光ファイバを製造した。得られた光ファイバの伝送損失を測定したところ、上記の加熱炉を用いて作製された50本目以降の光ファイバ母材から得られた光ファイバでは、650nmから1380nmの波長域において、伝送損失の増加が確認された。
そこで、加熱炉の温度を下げた後、加熱炉の状態を観察したところ、炉心管接続体の接続面付近にある、ヒータが収容されている筐体などの加熱炉を構成する他の部材が錆びていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の加熱炉および光ファイバ母材の製造方法は、光ファイバ母材以外の用途に用いる石英ガラスの製造にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る加熱炉の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1に示した加熱炉の一部を示す模式図である。
【符号の説明】
【0050】
10・・・加熱炉、20・・・炉心管接続体、21・・・第一の炉心管、22・・・第二の炉心管、21a,22a・・・フランジ部、23・・・接続面、24・・・第一のガス導入口、30・・・接続部材、31・・・第一の部材、32・・・第二の部材、33・・・空間部、34・・・第二のガス導入口、35・・・第一のガス排出口、40・・・排気カバー、41・・・第二のガス排出口、51・・・ヒータ、52・・・筐体、60・・・圧力計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炉心管と、該複数の炉心管のフランジ部を当接した状態で、前記フランジ部の外周の全域を覆い、前記複数の炉心管を接続して炉心管接続体を形成するための接続部材と、少なくとも前記炉心管接続体の外周の一部を囲むように配されたヒータとを備えた加熱炉であって、
前記フランジ部の外周と前記接続部材の間には空間部が形成され、前記接続部材には前記空間部にガスを導入するためのガス導入口、および、前記空間部からガスを排出するためのガス排出口が設けられていることを特徴とする加熱炉。
【請求項2】
前記接続部材には、前記空間部内の圧力を測定するための圧力計が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の加熱炉。
【請求項3】
請求項1または2に記載の加熱炉を用いて、該加熱炉を構成する炉心管接続体内に光ファイバ用多孔質母材を収容し、光ファイバ用多孔質母材を脱水する脱水工程と、該脱水工程の後に、前記光ファイバ用多孔質母材を焼結する焼結工程とを備えた光ファイバ母材の製造方法であって、
前記脱水工程および前記焼結工程において、前記炉心管接続体をなす複数の炉心管のフランジ部の外周と、前記複数の炉心管を接続している接続部材との間に形成された空間部内の圧力を、前記炉心管接続体内の圧力よりも高くすることを特徴とする光ファイバ母材の製造方法。
【請求項4】
前記脱水工程および前記焼結工程において、前記空間部内の圧力は、前記炉心管接続体内の圧力よりも10Pa以上高いことを特徴とする請求項3に記載の光ファイバ母材の製造方法。



【図1】
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【図2】
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