説明

加熱炉

【課題】構成を複雑化させることなく、且つ、熱損失を抑制しつつ、被加熱物を熱処理室内における位置によらず均一に加熱することのできる加熱炉を提供する。
【解決手段】熱風発生循環部20は、風向切換弁60、給排気流路30,40を介して、熱処理室10と接続されている。第一給排気流路30は、熱処理室10の一方側に連結され、第二給排気流路40は、当該熱処理室10の他方側に連結されている。風向切換弁60を第一状態に切り換えると、熱風発生循環部20からの給気熱風PWは、熱処理室10内において第一給排気流路30から第二給排気流路40へ向かって通過する。また、風向切換弁60を第二状態に切り換えると、熱風発生循環部20からの給気熱風PWは、熱処理室10内において第二給排気流路40から第一給排気流路30へ向かって通過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理室へ熱風を供給する加熱炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の加熱炉として、例えば特許文献1のような電子部品製造用の連続式脱バインダ炉が知られている。この加熱炉は、熱風発生器で発生した熱風を炉内で循環させると共に、熱処理室内のセッターに載置された電子部品のセラミック成形体を熱風加熱することによって、セラミック成形体中に含まれるバインダ成分を除去している。この加熱炉においては、熱風は炉内において一方向に向かって循環している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−097888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の加熱炉にあっては、炉内で熱風が一方向に向かって循環している。すなわち、熱処理室内では、熱風の流れの上流と下流が定まっている。熱処理室の上流側は、下流側に比して供給される熱量が大きいため、上流側に配置されるセラミック成形体と下流側に配置されるセラミック成形体との間で加熱状態(脱脂状態)に差異が生じる。これによって、従来の加熱炉で熱処理されたセラミック成形体において、焼成時にクラックや変形などの不良が発生していた。従って、被加熱物の加熱状態を熱処理室内の配置によらず均一とすることが求められていた。更に、加熱炉の構成を複雑化させることなく、且つ、熱損失を増加させることなく、均一に加熱することが求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、構成を複雑化させることなく、且つ、熱損失を抑制しつつ、被加熱物を熱処理室内における位置によらず均一に加熱することのできる加熱炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る加熱炉は、被加熱物の熱処理を行う熱処理室と、熱風を発生させると共に、熱処理室に対する給排気を行う熱風発生循環部と、熱処理室から独立して設けられると共に、熱処理室の一方側に連結され、熱処理室と熱風発生循環部とを接続する第一給排気流路と、熱処理室及び第一給排気流路から独立して設けられると共に、熱処理室の他方側に連結され、熱処理室と熱風発生循環部とを接続する第二給排気流路と、第一給排気流路と第二給排気流路との間に配置されると共に、第一給排気流路と熱風発生循環部、及び第二給排気流路と熱風発生循環部とを接続する風向切換弁と、を備え、熱風発生循環部は、熱処理室へ給気される熱風を通過させる給気流路と、熱処理室から排気される熱風を通過させる排気流路と、給気流路と排気流路との間に配置される熱供給源と、給気流路及び排気流路における何れかの位置に配置される送風手段と、を備え、風向切換弁は、熱風発生循環部の給気流路と排気流路との間に配置され、第一給排気流路を給気側とすると共に第二給排気流路を排気側とする第一状態と、第一給排気流路を排気側とすると共に第二給排気流路を給気側とする第二状態とを切り換えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る加熱炉によれば、熱風発生循環部は、風向切換弁、第一給排気流路及び第二給排気流路を介して、熱処理室と接続されている。第一給排気流路は、熱処理室の一方側に連結され、第二給排気流路は、当該熱処理室の他方側に連結されている。風向切換弁を第一状態に切り換えると、第一給排気流路が給気側となり第二給排気流路が排気側となり、熱風発生循環部からの給気熱風は、熱処理室内において第一給排気流路から第二給排気流路へ向かって通過する。また、風向切換弁を第二状態に切り換えると、第一給排気流路が排気側となり第二給排気流路が給気側となり、熱風発生循環部からの給気熱風は、熱処理室内において第二給排気流路から第一給排気流路へ向かって通過する。このように、熱処理室内で熱風の風向きが切り換わるため、熱風の供給方向による被加熱物の熱処理状態のばらつきを低減することができ、熱処理室内における位置によらず複数の被加熱物を均一に加熱することができる。また、熱風発生循環部と熱処理室とは、互いに熱処理室から独立して設けられた第一給排気流路及び第二給排気流路によって接続されている。従って、熱風発生循環部からの給気熱風は、排気側へ漏れることなく、独立した給排気流路を通過して熱処理室へ供給される。また、本発明に係る加熱炉の構成によれば、熱風の循環方向は、風向切換弁よりも下流側の熱処理室、第一給排気流路及び第二給排気流路のみで切り換わり、熱風発生循環部では循環方向は常に一定とすることができる。例えば、送風手段において風向きを変化させる構成や循環方向に応じて複数の熱供給源及び給排気経路を設けるような場合は、構成が複雑化する。しかし、本発明の加熱炉では、熱風発生循環部で常に一定方向で熱風を循環される構成としておき、風向切換弁を切り換えるだけで被加熱物を均一に加熱することができるため、構造の複雑化を抑制できる。また、例えば、風向切換弁からの排気熱風が再び熱供給源に至るまでの排気流路が二つ存在し、一方の排気流路を排気熱風が通過しているときは他方の排気流路に排気熱風が通過していない構成とした場合、排気熱風が通過していない他方の排気流路は熱が失われ温度低下してしまう。この状態で循環方向を切り換えて他方の排気流路に排気熱風を通過させると、温度低下した排気流路にて熱損失が発生する。一方、本発明においては、熱風発生循環部は常に同じ状態で熱風を循環させることができ、第一状態及び第二状態において同一の排気流路を用いることができるため、排気流路での熱損失を抑制できる。以上によって、構成を複雑化させることなく、且つ、熱損失を抑制しつつ、被加熱物を熱処理室内における位置によらず均一に加熱することができる。
【0008】
本発明に係る加熱炉において、熱処理室は、水平な仕切壁で仕切られ形成される複数段の熱処理空間を有し、熱風発生循環部からの熱風を各段の熱処理空間に分岐させて通過させ、各段の熱処理空間における第一給排気流路との接続部には、熱供給源からの距離が大きいほど第一給排気流路側に長く突出する湾曲形状の第一熱損失調整板が配置され、各段の熱処理空間における第二給排気流路との接続部には、熱供給源からの距離が大きいほど第二給排気流路側に長く突出する湾曲形状の第二熱損失調整板が配置され、第一熱損失調整板と第二熱損失調整板とは、熱処理室を介して対称に配置されていることが好ましい。湾曲形状の熱損失調整板が設けられていることにより、各段の熱処理空間に対して均一に給気熱風を供給することができる。熱損失調整板は、熱供給源からの距離が大きいほど長く突出しているため、熱処理空間の位置によらず、均一に給気熱風を供給することができる。また、第一熱損失調整板と第二熱損失調整板とは熱処理室を介して対称に配置されているため、第一状態と第二状態を切り換えても、給気熱風の供給状態を第一給排気流路側と第二給排気流路側において同じにすることができる。
【0009】
本発明に係る加熱炉において、風向切換弁は、一枚の切換板を備え、切換板は、熱風発生循環部の給気流路からの熱風を一方の面に当てることによって第一給排気流路及び第二給排気流路のいずれか一方へ案内し、第一給排気流路及び第二給排気流路の他方から排気される熱風を他方の面に当てることによって熱風発生循環部の排気流路へ案内することが好ましい。切換板の他方の面に排気熱風が当たることによって、他方の面における温度低下が抑制される。従って、切換板に当たったときの給気熱風の熱損失を抑制することができる。
【0010】
本発明に係る加熱炉において、第一給排気流路の長さと第二給排気流路の長さは同一であることが好ましい。これによって、第一状態と第二状態を切り換えても、給気側と排気側のそれぞれの流路長を不変とすることができるため、給気熱風の供給状態を第一給排気流路側と第二給排気流路側において同じにすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構成を複雑化させることなく、且つ、熱損失を抑制しつつ、被加熱物を熱処理室内における位置によらず均一に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る加熱炉の概略構成を示す正面図である。
【図2】図1に示すII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1に示す熱風発生循環部を側方から見た概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る加熱炉の好適な実施形態について詳細に説明する。図1、図2及び図3に示す加熱炉1は、セラミック電子部品の製造工程において、焼成処理前のセラミック成形体を加熱して脱脂処理を行う脱脂炉として用いられる。図1は、本発明の実施形態に係る加熱炉1の概略構成を示す正面図である。図1では、熱処理室及びその周辺部は断面が示されている。図2は、図1に示すII−II線に沿った断面図である。図3は、図1に示す熱風発生循環部を側方から見た概略構成図である。
【0014】
加熱炉1は、断熱壁で囲まれセラミック成形体の被加熱物Wを収納する熱処理室10と、熱風を発生させると共に熱処理室10に対する給排気を行う熱風発生循環部20と、熱処理室10と熱風発生循環部20とを接続する第一給排気流路30と、熱処理室10と熱風発生循環部20とを接続する第二給排気流路40と、熱風の給排気の循環状態を切り換える風向切換弁60と、を備えている。熱処理室10内では熱風発生循環部20からの熱風が何れか一方から吹き抜けるようになっており、熱処理室10内の被加熱物Wは、熱風に晒されることにより、加熱され脱脂処理される。この脱脂処理によって、焼成処理に先立って、セラミック成形体中の樹脂成分(バインダ)が除去される。本実施形態に係る加熱炉1は、風向切換弁60によって、熱処理室10に対する熱風の供給方向を切り換えることで、第一状態と第二状態に切り換えることができる。図1(a)及び図2(a)は第一状態に係る加熱炉1を示し、図1(b)及び図2(b)は第二状態に係る加熱炉1を示している。加熱炉1は、図1に示すように、正面から見て左右対称な構成を有している。
【0015】
熱処理室10は、複数の水平な仕切壁11で仕切られており、熱処理室10内には、鉛直方向に重なる複数段(ここでは、5段とする)の熱処理空間13a〜13eが形成されている。仕切壁11はステンレス製の板であり、上面に被加熱物Wを載置することができる。このように、各段の熱処理空間13a〜13eに、それぞれ被加熱物Wを収納可能とすることで、熱処理室10に被加熱物Wを効率的に収納し、加熱炉1における処理効率向上が図られている。熱処理室10は、両端側が開口しており、いずれか一方の開口から給気熱風PWを給気され、当該給気熱風PWを各熱処理空間13a〜13eに通過させ、他方の開口から排気熱風EWを排気する。熱処理室10のより詳細な構成については後述する。
【0016】
図3に示すように、熱風発生循環部20は、熱処理室10への給気熱風PWを通過させる給気流路21と、熱処理室10からの排気熱風EWを通過させる排気流路22と、給気流路21と排気流路22との間に配置される熱供給源23と、加熱炉1内における空気の流れを発生させるブロワ(送風手段)24と、を備えている。
【0017】
熱風発生循環部20は、上側流路20Aと、垂直流路20Bと、下側流路20Cと、接続流路20Dと、接続流路20Eと、を備えている。上側流路20Aと、垂直流路20Bと、下側流路20Cと、接続流路20Dと、接続流路20Eとは互いに連通しており、第一給排気流路30、第二給排気流路40及び熱処理室10から独立した管によって構成されている。上側流路20Aは、風向切換弁60の上側において第一給排気流路30及び第二給排気流路40と直交する方向(ここでは、風向切換弁60よりも後側へ向かって延びている)へ延びている。垂直流路20Bは、上側流路20Aの後端より下方へ延びている。下側流路20Cは、風向切換弁60より下側において垂直流路20Bの下端から第一給排気流路30及び第二給排気流路40と直交する方向(ここでは、風向切換弁60へ向かって前側へ向かって延びる)へ延びている。下側流路20Cは、風向切換弁60と熱処理室10との間の高さ位置で延びている。接続流路20Dは、下側流路20Cから上方へ延びて、下側流路20Cと風向切換弁60とを接続している。接続流路20Eは、上側流路20Aから下方へ延びて、上側流路20Aと風向切換弁60とを接続している。接続流路20Dと風向切換弁60の下部との接続部分における気密性、及び接続流路20Eと風向切換弁60の上部との接続部分における気密性は、十分に確保されている。従って、風向切換弁60と熱風発生循環部20との間の気密性が確保されている。このように、熱風発生循環部20は、第一給排気流路30、第二給排気流路40及び熱処理室10から独立して循環する管によって構成されており、風向切換弁60との接続部分の気密性は十分に確保されているため、発生させた給気熱風PWを漏れなく風向切換弁60へ供給できる。
【0018】
上側流路20Aと垂直流路20Bとの間の角部には、熱供給源23が配置されている。この熱供給源23は、図3に示すように循環流路の外側にヒータ23aを配置し、配管23bを介して循環流路内に熱を供給してもよい。このとき、熱供給源23は、熱風を供給することで系内における循環の流れを形成することで、送風手段としても機能することができる。あるいは、循環流路内にヒータを直接配置し、循環流路内で熱を発生させ、図3に示すようなブロワ24を配置して熱風を発生させてもよい。ブロワ24は、上側流路20Aの前端側に配置し、接続流路20Eを介して風向切換弁60へ向かって下方に送風する(循環流路外の熱供給源23の送風のみによって循環させる場合は、ブロワ24を省略してもよい)。下側流路20Cと垂直流路20Bとの間の角部には、排気熱風EWの一部を循環流路の外側へ排気するための、排気管25が配置されている。
【0019】
このような構成によって、熱供給源23と風向切換弁60との間の上流側の流路、すなわち、上側流路20A及び接続流路20Eが、給気流路21として機能する。一方、熱供給源23と風向切換弁60との間の下流側の流路、すなわち、接続流路20D、下側流路20C、及び垂直流路20Bが、排気流路22として機能する。熱供給源23またはブロワ24による送風により、給気熱風PWは、上側流路20A、接続流路20Eを流れ、風向切換弁60を介して熱処理室10へ供給される。また、排気熱風EWは、風向切換弁60を介して熱処理室10から排気され、接続流路20D及び下側流路20Cを流れて排気管25で一部排気される。更に、排気熱風EWは、垂直流路20Bを流れ、熱供給源23で熱を供給されることで、再び給気熱風PWとして循環流路内を循環する。熱風発生循環部20での循環方向は、風向切換弁60での切換状態に関わらず、常に同一方向である。
【0020】
熱供給源23の配置は、図3に示す位置に限定されず、流路20A〜20Eにおけるいずれの位置に配置されていてもよい。その場合、熱供給源23と風向切換弁60との間の上流側の流路が給気流路21として機能し、熱供給源23と風向切換弁60との間の下流側の流路が、排気流路22として機能する。送風手段としてブロワ24を配置する場合、ブロワ24は、給気流路21及び排気流路22における何れの位置に配置されていてもよく、循環流路内で熱風の流れを作ることのできる位置であれば、特に限定されない。排気管25は、排気流路22であれば、何れの位置に配置されていてもよく、あるいは設けられていなくともよい。
【0021】
図1及び図2に示すように、第一給排気流路30は、熱風発生循環部20、熱処理室10及び第二給排気流路40から独立した一本の管によって構成されている。第一給排気流路30は、加熱炉1の一方側(紙面右側)において、風向切換弁60を介して熱風発生循環部20と熱処理室10とを連結している。具体的には、第一給排気流路30の上側の端部は、風向切換弁60の一方の側部に連結され、第一給排気流路30の下側の端部は、熱処理室10の一方の側部に連結されている。第一給排気流路30は、風向切換弁60の一方の側部から水平に延びると共に下方へ垂直に屈曲し、下端部分における側壁が開口し、当該開口部が熱処理室の一方の開口部に接続される。第一給排気流路30と風向切換弁60との接続部分における気密性、及び第一給排気流路30と熱処理室10との接続部分における気密性は、十分に確保されている。このように、第一給排気流路30は、熱風発生循環部20、熱処理室10及び第二給排気流路40から独立した管であり、風向切換弁60との接続部分、及び熱処理室10との接続部分における気密性が十分に確保されているため、熱風発生循環部20からの給気熱風PWを漏れなく熱処理室10へ供給することができる。
【0022】
第二給排気流路40は、熱風発生循環部20、熱処理室10及び第一給排気流路30から独立した一本の管によって構成されている。第二給排気流路40は、加熱炉1の他方側(紙面左側)において、風向切換弁60を介して熱風発生循環部20と熱処理室10とを連結している。具体的には、第二給排気流路40の上側の端部は、風向切換弁60の他方の側部に連結され、第二給排気流路40の下側の端部は、熱処理室10の他方の側部に連結されている。第二給排気流路40は、風向切換弁60の他方の側部から水平に延びると共に下方へ垂直に屈曲し、下端部分における側壁が開口し、当該開口部が熱処理室の他方の開口部に接続される。第二給排気流路40と風向切換弁60との接続部分における気密性、及び第二給排気流路40と熱処理室10との接続部分における気密性は、十分に確保されている。このように、第二給排気流路40は、熱風発生循環部20、熱処理室10及び第一給排気流路30から独立した管であり、風向切換弁60との接続部分、及び熱処理室10との接続部分における気密性が十分に確保されているため、熱風発生循環部20からの給気熱風PWを漏れなく熱処理室10へ供給することができる。
【0023】
第一給排気流路30と第二給排気流路40は、風向切換弁60及び熱処理室10を介して左右対称となっている。従って、第一給排気流路30の長さと第二給排気流路40の長さは、同一である。また、第一給排気流路30と第二給排気流路40との、対応箇所における断面形状や流路面積も同一である。図1(a)及び図2(a)に示すように、第一状態において、第一給排気流路30が給気側となり、第二給排気流路40が排気側となる。すなわち、熱風発生循環部20からの給気熱風PWは、第一給排気流路30を通り、熱処理室10からの排気熱風EWは、第二給排気流路40を通る。図1(b)及び図2(b)に示すように、第二状態において、第二給排気流路40が給気側となり、第一給排気流路30が排気側となる。すなわち、熱風発生循環部20からの給気熱風PWは、第二給排気流路40を通り、熱処理室10からの排気熱風EWは、第一給排気流路30を通る。
【0024】
図1及び図3に示すように、風向切換弁は、熱風の風向きを切り換える切換板61と、切換板61の回動軸62と、弁の外壁を構成する円筒状のシリンダ63と、を備えている。シリンダ63の外周壁は、上側で熱風発生循環部20の接続流路20Eと連通し、下側で熱風発生循環部20の接続流路20Dと連通し、水平方向の一方(図1の紙面右側)で第一給排気流路30と連通し、水平方向の他方(図1の紙面左側)で第二給排気流路40と連通している。回動軸62は、シリンダ63内において、当該シリンダ63の軸線上に配置されている。切換板61は、シリンダ63の内部空間を周方向に二つの空間に区切るように配置された、一枚の板部材である。なお、ここでの「一枚」とは、切換板61全体が一体に形成された一枚の板で形成されている場合も、複数の板を重ね合わせ、あるいはつなぎ合わせて一枚の切換板61とした場合も含まれる。切換板61は、中央位置を回動軸62で軸支され、回動することによって、加熱炉1の第一状態に対応する位置と、第二状態に対応する位置に切り替わる。切換板61の外縁部は、シリンダ63の内面と隙間無く配置されており、気密性が確保されている。風向切換弁60は、図示されない制御装置と電気的に接続されており、当該制御装置により、第一状態と第二状態を所定の時間間隔で切り換える。熱処理室10の被加熱物Wが場所によらず均一に熱処理されるように、第一状態の時間と第二状態の時間が等しくなるように制御されることが好ましい。具体的に、熱処理室10での熱処理の合計時間が10時間〜60時間であるのに対し、10分間〜60分間の時間間隔で状態の切換が行われることが好ましい。
【0025】
図1(a)に示すように、第一状態においては、切換板61は、他端部が上向きになるように傾斜し、当該他端部が熱風発生循環部20の接続流路20Eと第二給排気流路40との間に配置され、下向きの一端部が熱風発生循環部20の接続流路20Dと第一給排気流路30との間に配置される状態となる。これによって、給気流路21を構成する接続流路20Eが、第一給排気流路30と連通され、第二給排気流路40と遮断される。また、排気流路22を構成する接続流路20Dが、第二給排気流路40と連通され、第一給排気流路30と遮断される。切換板61は、給気流路21に係る接続流路20Eからの給気熱風PWを第一面61aに当てることによって、第一給排気流路30へ案内する。また、切換板61は、第二給排気流路40から排気される排気熱風EWを第二面61bに当てることによって、排気流路22に係る接続流路20Dへ案内する。排気熱風EWは第二面61bに当たることによって、切換板61が温度低下することなく高温に保つことができる。このような構成により、給気熱風PWが第一面61aに当たったときに熱を奪われることが抑制される。シリンダ63と切換板61との間の気密性が確保されているため、給気熱風PWが排気流路22側へ漏れること、及び排気熱風EWが第一給排気流路30側へ漏れることは防止される。
【0026】
図1(b)に示すように、第二状態においては、切換板61は、一端部が上向きになるように傾斜し、当該一端部が熱風発生循環部20の接続流路20Eと第一給排気流路30との間に配置され、下向きの他端部が熱風発生循環部20の接続流路20Dと第二給排気流路40との間に配置される状態となる。これによって、給気流路21を構成する接続流路20Eが、第二給排気流路40と連通され、第一給排気流路30と遮断される。また、排気流路22を構成する接続流路20Dが、第一給排気流路30と連通され、第二給排気流路40と遮断される。切換板61は、給気流路21に係る接続流路20Eからの給気熱風PWを第二面61bに当てることによって、第二給排気流路40へ案内する。また、切換板61は、第一給排気流路30から排気される排気熱風EWを第一面61aに当てることによって、排気流路22に係る接続流路20Dへ案内する。排気熱風EWは第一面61aに当たることによって、切換板61が温度低下することなく高温に保つことができる。このような構成により、給気熱風PWが第二面61bに当たったときに熱を奪われることが抑制される。シリンダ63と切換板61との間の気密性が確保されているため、給気熱風PWが排気流路22側へ漏れること、及び排気熱風EWが第二給排気流路40側へ漏れることは防止される。
【0027】
一般に、セラミック成形体の被加熱物Wには、樹脂成分が含まれており、加熱炉1では、被加熱物W中の樹脂成分が長時間をかけて徐々に除去されていく。樹脂成分の除去速度は、熱風として被加熱物Wに接触する雰囲気ガスの温度、風量、及び雰囲気ガス中の樹脂濃度、に依存する。ここで、熱処理室10内の各位置ごとに、雰囲気ガスの温度、風量、及び樹脂濃度のバラツキがある場合、熱処理室10の各位置に配置された被加熱物Wごとに樹脂の除去速度がバラつくことになる。例えば、樹脂の除去速度が速すぎる場合、被加熱物Wにクラックが発生するおそれがある。また、樹脂の除去速度が遅すぎる場合には、処理終了後も被加熱物Wに樹脂成分が残存してしまう。従って、熱処理室10内のすべての被加熱物Wについてムラなく良好な脱脂を行うためには、熱処理室10内の温度分布、風量分布、樹脂濃度分布のバラツキを小さくすることが必要である。
【0028】
そこで、加熱炉1は、5段の熱処理空間13a〜13eにそれぞれ対応するステンレス製の熱損失調整板A51a〜A51e,B51a〜B51eを備えている。このうち、第一熱損失調整板A51b〜A51eは、それぞれ、対応する熱処理空間13b〜13eにおける第一給排気流路30との接続部31に設けられている。各熱処理空間13b〜13eを区画する上壁をなす仕切壁11の端部に、各第一熱損失調整板A51b〜A51eが固定されており、各第一熱損失調整板A51b〜A51eは、それぞれ、第一給排気流路30内に突出するように延びている。そして、第一熱損失調整板A51b〜A51eは、先端が上方に向くように湾曲している。このような湾曲形状により、各第一熱損失調整板A51b〜A51eは、第一状態における第一給排気流路30からの鉛直方向の給気熱風PWをそれぞれ案内して水平方向の熱風とし(図1(a)を参照)、各々の熱処理空間13b〜13eに熱風を円滑に導き入れる。なお、第一熱損失調整板A51aは、熱処理室10の下壁面に固定されているが、他の第一熱損失調整板A51b〜A51eと同様の構成により、熱処理空間13aに給気熱風PWを円滑に導き入れる。
【0029】
第一熱損失調整板A51a〜A51eにおける、第一給排気流路30側に突出する長さは、第一熱損失調整板A51e,A51d,A51c,A51b,A51aの順に長い。すなわち、各熱損失調整板A51a〜A51eの長さは、下に位置するものほど長くなっており、更に換言すれば、熱供給源23からの距離が大きくなるほど、第一熱損失調整板A51a〜A51eが長くなっている。第一熱損失調整板A51a〜A51eの幅及び厚さは、すべて同じである。
【0030】
第二熱損失調整板B51a〜B51eは、熱処理室10を介して第一熱損失調整板A51a〜A51eと左右対称な構成を有している。第二熱損失調整板B51b〜B51eは、それぞれ、対応する熱処理空間13b〜13eにおける第二給排気流路40との接続部41に設けられている。各熱処理空間13b〜13eを区画する上壁をなす仕切壁11の端部に、各第二熱損失調整板B51b〜B51eが固定されており、各第二熱損失調整板B51b〜B51eは、それぞれ、第二給排気流路40内に突出するように延びている。そして、第二熱損失調整板B51b〜B51eは、先端が上方に向くように湾曲している。このような湾曲形状により、各第二熱損失調整板B51b〜B51eは、第二状態における第二給排気流路40からの鉛直方向の給気熱風PWをそれぞれ案内して水平方向の熱風とし(図1(b)を参照)、各々の熱処理空間13b〜13eに熱風を円滑に導き入れる。なお、第二熱損失調整板B51aは、熱処理室10の下壁面に固定されているが、他の第二熱損失調整板B51b〜B51eと同様の構成により、熱処理空間13aに給気熱風PWを円滑に導き入れる。
【0031】
第二熱損失調整板B51a〜B51eにおける、第二給排気流路40側に突出する長さは、第二熱損失調整板B51e,B51d,B51c,B51b,B51aの順に長い。すなわち、各熱損失調整板B51a〜B51eの長さは、下に位置するものほど長くなっており、更に換言すれば、熱供給源23からの距離が大きくなるほど、第二熱損失調整板B51a〜B51eが長くなっている。第二熱損失調整板B51a〜B51eの幅及び厚さは、すべて同じである。
【0032】
更に、各熱処理空間13a〜13eにおいては、熱処理室10の両側の開口を塞ぐように二重に重ねて配置された2枚のメッシュ材がそれぞれ設けられている。このうち熱処理室10に対して外側のメッシュ材を第一メッシュ材53とし、内側のメッシュ材を第二メッシュ材55とする。第一メッシュ材53と第二メッシュ材55とは、被加熱物Wの載置位置と第一熱損失調整板A51a〜A51eとの間、及び被加熱物Wの載置位置と第二熱損失調整板B51a〜B51eとの間に位置している。第一メッシュ材53と第二メッシュ材55とは、所定の開口率(約60%程度)を有するステンレス製の金網状の部材であり、各熱処理空間13a〜13eに導入される給気熱風PWは、第一メッシュ材53と第二メッシュ材55とを順に通過する。各段の第一メッシュ材53及び第二メッシュ材55は、上から見てすべて同じ位置に配置されている。ただし、各段の第二メッシュ材55を、上段にいくほど徐々に内側にずれるように配置されていてもよい。また、各段の第二メッシュ材55は、例えばネジ止め等により着脱自在に仕切壁11に取り付けられる構成により、前後方向に位置調整が可能である。各段の第一及び第二メッシュ材53,55の開口率は、段ごとに調整され互いに異なっている。第一給排気流路30側のメッシュ材53,55と、第二給排気流路40側のメッシュ材53,55とは、熱処理室10を介して左右対称に構成されている。
【0033】
このように、各段の第一メッシュ材53は、上から見て同じ位置に配置されるので、各熱処理空間13a〜13eにほぼ同じ条件で熱風を導入させ、第2メッシュ材55を位置調整することで、各熱処理空間13a〜13eからの輻射熱にバラツキが生じても第二メッシュ材55に対する影響を、各段の熱処理空間13a〜13e同士で共通に揃えることができる。また、各段のメッシュ材53,55の開口率は、段ごとに調整され互いに異なっている。このように、メッシュ材53,55の開口率を各段ごとに調整することで、各段の熱処理空間13a〜13eごとの温度分布をより精密に調整することができる。
【0034】
更に、各熱処理空間13a〜13eにおいては、両側における第一メッシュ材53と第二メッシュ材55との間の空間に、複数枚(ここでは、6枚とする)のステンレス製の熱分布調整板57が設けられている。熱分布調整板57は、仕切壁11の上面(或いは熱処理室10の底壁面)に設けられており、図1における奥行き方向に水平に配列されている。熱分布調整板57は、上方から見てやや傾斜することで、被加熱物Wの設置位置における熱風の流動に影響を与える。すなわち、熱分布調整板57は、上方からみて中央付近の給気熱風PWを外側に導くように傾斜している。この構成により、各熱処理空間13a〜13eにおいては、熱風に直交する面内における風量のバラツキが低減される。第一給排気流路30側の熱分布調整板57と、第二給排気流路40側の熱分布調整板57とは、熱処理室10を介して左右対称に構成されている。
【0035】
第一メッシュ材53は、通過する熱風の分布を分散させることにより、結果として温度分布を等しくする。また、第一メッシュ材53の通過後にも残存する水平方向の温度バラツキは、蓄熱材として機能する熱分布調整板57によって補償されるので、熱処理空間13a〜13eにおける水平方向の温度分布が均一化される。また、第二メッシュ材55は熱処理空間13a〜13eからの輻射熱が熱分布調整板57に直接影響を与えることを抑制し、且つ輻射熱を第二メッシュ材55の面内で分散させる。これにより、熱分布調整板57の温度が急激に変化することなく安定し、第二メッシュ材55を通過した熱風における、流れに直交する断面の温度分布が均一化される。
【0036】
また、熱損失調整板A51a〜A51e,B51a〜B51eと、メッシュ材53,55と、熱分布調整板57とは、ステンレス製である。このように、保温性の高い(熱伝導の悪い)ステンレスで、熱分布補償部材としての熱損失調整板A51a〜A51e,B51a〜B51eと、メッシュ材53,55と、熱分布調整板57とを構成することにより、外乱が生じてもこれらの熱分布補償部材が急激に温度変化せず、熱処理室10内における一定の温度分布を維持し易い。
【0037】
熱処理室10は、炉体に対して挿脱可能な被加熱物収納マガジン12を備えている。この被加熱物収納マガジン12は、炉体側に固定されている熱損失調整板A51a〜A51e,B51a〜B51e、メッシュ材53,55、熱分布調整板57が設けられている部分とは別体とされており、被加熱物Wが載置されている領域のみを取り外し可能な構成となっている。また、炉体と被加熱物収納マガジン12との間の気密性が確保されており、他の熱処理空間へ漏れることなく各熱処理空間13a〜13eへ給気熱風PWを給気することができる。このような構成により、被加熱物Wの熱処理室10への出し入れが容易になる。
【0038】
続いて、上述の構成に基づく加熱炉1の作用効果について説明する。
【0039】
第一状態においては、図1(a)、図2(a)、図3に示すように、熱供給源23からの熱供給及び送風により、給気熱風PWが、給気流路21に係る上側流路20A及び接続流路20Eを流れ、風向切換弁60の切換板61の第一面61aに当たる。第一面61aによって案内された給気熱風PWは、第一給排気流路30を通過し、第一熱損失調整板A51a〜A51eで案内されながら熱処理室10の各段の熱処理空間13a〜13eに分岐して流入する。その後、熱処理室10から排気される排気熱風EWは、第二熱損失調整板B51a〜B51eで案内されながら再度合流し、第二給排気流路40を通る。排気熱風EWは、風向切換弁60の切換板61の第二面61bに当たり、熱風発生循環部20の排気流路22へ案内される。排気熱風EWは、接続流路20D及び下側流路20Cを流れて排気管25で一部排気される。更に、排気熱風EWは、垂直流路20Bを流れ、熱供給源23で熱を供給されることで、再び給気熱風PWとして加熱炉1内を循環する。
【0040】
第二状態においては、図1(b)、図2(b)、図3に示すように、熱供給源23からの熱供給及び送風により、給気熱風PWが、給気流路21に係る上側流路20A及び接続流路20Eを流れ、風向切換弁60の切換板61の第二面61bに当たる。第二面61bによって案内された給気熱風PWは、第二給排気流路40を通過し、第二熱損失調整板B51a〜B51eで案内されながら熱処理室10の各段の熱処理空間13a〜13eに分岐して流入する。その後、熱処理室10から排気される排気熱風EWは、第一熱損失調整板A51a〜A51eで案内されながら再度合流し、第一給排気流路30を通る。排気熱風EWは、風向切換弁60の切換板61の第一面61aに当たり、熱風発生循環部20の排気流路22へ案内される。排気熱風EWは、接続流路20D及び下側流路20Cを流れて排気管25で一部排気される。更に、排気熱風EWは、垂直流路20Bを流れ、熱供給源23で熱を供給されることで、再び給気熱風PWとして加熱炉1内を循環する。このような第一状態と第二状態の切換は、同じ時間間隔で行われる。
【0041】
以上により、本実施形態に係る加熱炉1によれば、風向切換弁60を第一状態に切り換えると、熱風発生循環部20からの給気熱風PWは、熱処理室10内において第一給排気流路30から第二給排気流路40へ向かって通過する。また、風向切換弁60を第二状態に切り換えると、熱風発生循環部20からの給気熱風PWは、熱処理室10内において第二給排気流路40から第一給排気流路30へ向かって通過する。このように、熱処理室10内で給気熱風PWの風向きが切り換わるため、給気熱風PWの供給方向による被加熱物Wの熱処理状態のばらつきを低減することができ、熱処理室10内における位置によらず複数の被加熱物Wを均一に加熱することができる。また、熱風発生循環部20と熱処理室10とは、互いに熱処理室10から独立して設けられた第一給排気流路30及び第二給排気流路40によって接続されている。従って、熱風発生循環部20からの給気熱風PWは、排気側へ漏れることなく、独立した給排気流路を通過して熱処理室10へ供給される。
【0042】
また、本実施形態に係る加熱炉1の構成によれば、熱風PW,EWの循環方向は、風向切換弁60よりも下流側の熱処理室10、第一給排気流路30及び第二給排気流路40のみで切り換わり、熱風発生循環部20では循環方向は常に一定とすることができる。例えば、送風手段において風向きを変化させる構成や循環方向に応じて複数の熱供給源及び給排気経路を設けるような場合は、構成が複雑化する。しかし、本実施形態の加熱炉1では、熱風発生循環部20で常に一定方向で熱風PW,EWを循環さる構成としておき、風向切換弁60を切り換えるだけで被加熱物Wを均一に加熱することができるため、構造の複雑化を抑制できる。
【0043】
また、例えば、風向切換弁からの排気熱風EWが熱供給源に至るまでの排気流路が二つ存在し、一方の排気流路を排気熱風EWが通過しているときは他方の排気流路に排気熱風EWが通過していない構成とした場合、排気熱風EWが通過していない他方の排気流路は熱が失われ温度低下してしまう。この状態で循環方向を切り換えて他方の排気流路に排気熱風EWを通過させると、温度低下した排気流路にて熱損失が発生する。一方、本実施形態に係る加熱炉1においては、熱風発生循環部20は常に同じ状態で熱風PW,EWを循環させることができ、第一状態及び第二状態において同一の排気流路22を用いることができるため、排気流路22での熱損失を抑制することができる。以上によって、構成を複雑化させることなく、且つ、熱損失を抑制しつつ、被加熱物Wを熱処理室内における位置によらず均一に加熱することができる。
【0044】
ここで、例えば、熱処理室での熱風の風向きを変える加熱炉の比較例として、熱処理室の上部に一つの大きな開口部を設けておき、当該開口部の位置で傾斜方向を切換可能な切換板を配置し、熱処理室の外側であって開口部及び切換板に対向する位置に熱風発生源を配置し、熱処理室及び熱風発生源全体を壁面で取り囲んだ加熱炉を考慮する。熱風発生源は、切換板の表面(熱処理室から見て外側の面)に熱風を当てるように熱風を発生し、切換板を開口部で回動させることで、熱処理室内での風向きを切り換える。具体的には、切換板が一方に傾く(切換板の一端側が熱処理室内に入り込み、他端側が熱処理室内部から遠ざかるように傾く)と、給気熱風は切換板の表面に案内されて、切換板の一端側より熱処理室内へ入り込む。入り込んだ熱風は熱処理室内を一方側から他方側へ流れて熱処理を行い、切換板の裏面に案内されて、切換板の他端側より熱処理室の外側へ排出される。熱処理室から排出された排気熱風は、加熱炉の他方側の壁面で案内されながら移動(このときの移動経路が、一つ目の排気流路として機能する)し、再び熱風発生源に戻される。切換板が他方に傾く(切換板の他端側が熱処理室内に入り込み、一端側が熱処理室内部から遠ざかるように傾く)と、給気熱風は切換板の表面に案内されて、切換板の他端側より熱処理室内へ入り込む。入り込んだ熱風は熱処理室内を他方側から一方側へ流れて熱処理を行い、切換板の裏面に案内されて、切換板の一端側より熱処理室の外側へ排出される。熱処理室から排出された排気熱風は、加熱炉の一方側の壁面で案内されながら移動(このときの移動経路が、二つ目の排気流路として機能する)し、再び熱風発生源に戻される。
【0045】
しかしながら、比較例に係る加熱炉では、熱風発生源からの給気熱風を切換板の表面に当てたとき、一部の熱風は熱処理室内へ案内されることなく他の部分へ流れてしまい、給気熱風の全量を熱処理室へ供給することができない。更に、排気のための流路を確保する必要があるため、熱風発生源と切換板との間を管などによって塞いで気密に接続することで、給気熱風の逃げ道を無くすこともできない。従って、給気側において熱損失が発生する。また、上述のように、熱処理室から排出された排気熱風に対しては、風向きによって二つの排気流路が存在する。一方の排気流路に排気熱風が通過しているときは、他方の排気流路の温度が低下する。従って、排気側においても熱損失が発生する。一方、本実施形態に係る加熱炉1においては、熱風発生循環部20の給気流路21と風向切換弁60とを気密に接続することができる上、風向切換弁60と熱処理室10との間も独立した給排気流路30,40にて気密に接続することが可能である。従って、給気熱風PWの全量を熱処理室10に供給することが可能となり、給気側における熱損失を抑制することができる。更に、風向切換弁60から熱供給源23へ至る排気熱風EWの移動経路も、風向きによらず熱風発生循環部20の排気流路22の一本にまとめることができる。従って、排気熱風EWの温度低下が抑制され、排気側における熱損失を抑制することができる。
【0046】
本実施形態に係る加熱炉1において、熱処理室10は、水平な仕切壁11で仕切られ形成される複数段の熱処理空間13a〜13eを有し、熱風発生循環部20からの給気熱風PWを各段の熱処理空間13a〜13eに分岐させて通過させることができる。また、各段の熱処理空間13a〜13eにおける第一給排気流路30との接続部31には、熱供給源23からの距離が大きいほど第一給排気流路30側に長く突出する湾曲形状の第一熱損失調整板A51a〜A51eが配置され、各段の熱処理空間13a〜13eにおける第二給排気流路40との接続部41には、熱供給源23からの距離が大きいほど第二給排気流路40側に長く突出する湾曲形状の第二熱損失調整板B51a〜B51eが配置され、第一熱損失調整板A51a〜A51eと第二熱損失調整板B51a〜B51eとは、熱処理室を介して対称に配置されている。
【0047】
このような構成により、各熱損失調整板A51a〜A51e,B51a〜B51eは蓄熱材として機能し、熱供給源23からの流路長が長いほど熱損失調整板A51a〜A51e,B51a〜B51eが長く設定されており熱容量が大きくなる。従って、各段の熱処理空間13a〜13eには、熱風の熱損失量が大きいほど、大きい熱容量の熱損失調整板A51a〜A51e,B51a〜B51eに接触した熱風が導入されることになる。例えば、一番下の熱処理空間13aに導入される熱風は、熱供給源23からの流路長が長いことから、熱損失も大きい。この熱風が、熱容量が大きい熱損失調整板A51a,B51aに接触し、温度が補われた状態で熱処理空間13aに熱風が導入される。このように、各段ごとに長さを変え熱容量を変えた熱損失調整板A51a〜A51e,B51a〜B51eによって、各段の熱処理空間13a〜13eに導入される熱風の温度が均一化され、熱処理空間13a〜13eごとの温度分布が均一化される。また、第一熱損失調整板A51a〜A51eと第二熱損失調整板B51a〜B51eとは熱処理室10を介して対称に配置されているため、第一状態と第二状態を切り換えても、給気熱風PWの供給状態を第一給排気流路30側と第二給排気流路40側において同じにすることができる。
【0048】
本実施形態に係る加熱炉1において、風向切換弁60は、一枚の切換板61を備え、切換板61は、熱風発生循環部20の給気流路21からの給気熱風PWを第一面61aに当てることによって第一給排気流路30及び第二給排気流路40のいずれか一方へ案内し、排気熱風EWを第二面61bに当てることによって熱風発生循環部20の排気流路22へ案内することができる。切換板61の第二面61bに排気熱風EWが当たることによって、第二面61bにおける温度低下が抑制される。従って、切換板61に当たったときの給気熱風PWの熱損失を抑制することができる。
【0049】
本実施形態に係る加熱炉1において、第一給排気流路30の長さと第二給排気流路40の長さは同一である。これによって、第一状態と第二状態を切り換えても、給気側と排気側のそれぞれの流路長を不変とすることができるため、給気熱風PWの供給状態を第一給排気流路30側と第二給排気流路40側において同じにすることができる。
【0050】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、熱風発生循環部や給排気流路30,40の配管長や形状、配置は実施形態に示すものに限定されず、適宜変更してもよい。また、熱風発生循環部20と熱処理室10の位置関係も適宜変更してもよく、熱風発生循環部20を熱処理室10の横側に配置してもよく、下側に配置してもよい。また、上述の実施形態では、特に好ましい例として加熱炉1を左右対称な構成としたが、左右対称でなくともよい。例えば、第一給排気流路30と第二給排気流路40の長さや太さが異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…加熱炉、10…熱処理室、20…熱風発生循環部、21…給気流路、22…排気流路、23…熱供給源(熱供給源、送風手段)、24…ブロワ(送風手段)、30…第一給排気流路、40…第二給排気流路、A51a〜A51e…第一熱損失調整板、B51a〜B51e…第二熱損失調整板、60…風向切換弁、61…切換板、61a…第一面(一方の面)、61b…第二面(他方の面)、W…被加熱物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物の熱処理を行う熱処理室と、
熱風を発生させると共に、前記熱処理室に対する給排気を行う熱風発生循環部と、
前記熱処理室から独立して設けられると共に、前記熱処理室の一方側に連結され、前記熱処理室と前記熱風発生循環部とを接続する第一給排気流路と、
前記熱処理室及び前記第一給排気流路から独立して設けられると共に、前記熱処理室の他方側に連結され、前記熱処理室と前記熱風発生循環部とを接続する第二給排気流路と、
前記第一給排気流路と前記第二給排気流路との間に配置されると共に、前記第一給排気流路と前記熱風発生循環部、及び前記第二給排気流路と前記熱風発生循環部とを接続する風向切換弁と、を備え、
前記熱風発生循環部は、
前記熱処理室へ給気される熱風を通過させる給気流路と、
前記熱処理室から排気される熱風を通過させる排気流路と、
前記給気流路と前記排気流路との間に配置される熱供給源と、
前記給気流路及び前記排気流路における何れかの位置に配置される送風手段と、を備え、
前記風向切換弁は、
前記熱風発生循環部の前記給気流路と前記排気流路との間に配置され、
前記第一給排気流路を給気側とすると共に前記第二給排気流路を排気側とする第一状態と、前記第一給排気流路を排気側とすると共に前記第二給排気流路を給気側とする第二状態とを切り換えることを特徴とする加熱炉。
【請求項2】
前記熱処理室は、水平な仕切壁で仕切られ形成される複数段の熱処理空間を有し、前記熱風発生循環部からの熱風を各段の前記熱処理空間に分岐させて通過させ、
各段の前記熱処理空間における前記第一給排気流路との接続部には、前記熱供給源からの距離が大きいほど前記第一給排気流路側に長く突出する湾曲形状の第一熱損失調整板が配置され、
各段の前記熱処理空間における前記第二給排気流路との接続部には、前記熱供給源からの距離が大きいほど前記第二給排気流路側に長く突出する湾曲形状の第二熱損失調整板が配置され、
前記第一熱損失調整板と前記第二熱損失調整板とは、前記熱処理室を介して対称に配置されていることを特徴とする請求項1記載の加熱炉。
【請求項3】
前記風向切換弁は、一枚の切換板を備え、
前記切換板は、前記熱風発生循環部の前記給気流路からの熱風を一方の面に当てることによって前記第一給排気流路及び前記第二給排気流路のいずれか一方へ案内し、前記第一給排気流路及び前記第二給排気流路の他方から排気される熱風を他方の面に当てることによって前記熱風発生循環部の前記排気流路へ案内することを特徴とする請求項1または2記載の加熱炉。
【請求項4】
前記第一給排気流路の長さと前記第二給排気流路の長さは同一であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の加熱炉。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−97969(P2012−97969A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246248(P2010−246248)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】