説明

加熱脱離装置

【課題】捕集管両端のキャップを外すことなくパージガスの流路に接続することができる加熱脱離装置を提供する。
【解決手段】加熱脱離装置において、両端がキャップ5で封止された捕集管1をパージガスの流路に接続する接続具2が接続対象となる捕集管1の管軸方向に向けて突設された突き針23を備えると共に、突き針23は接続完了時に前記キャップ5を刺通するに足る長さを有するように構成する。このように構成することにより、接続が完了する直前まで捕集管1は封止された状態に保たれ、接続が完了する直前に突き針23により捕集管1の封止が破られて捕集管1内部とパージガス流路とが蓮通する。これにより捕集管1内に室内空気が混入することが防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捕集管に捕集された試料成分を加熱脱離させて後段のガスクロマトグラフ等の分析装置に導入するための加熱脱離装置に関し、特に捕集管の接続具に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の環境汚染物質、例えば各種の揮発性有機化合物(VOC)はシックハウス問題等の原因物質としてその測定技術の確立が急務とされている。空気中のVOCはその濃度が極微量であり、そのままではガスクロマトグラフ等の分析装置に導入しても一般に検出は不可能であるから、分析の前段階として試料濃縮装置を用いるのが普通である。
【0003】
試料濃縮装置としては、固相吸着/加熱脱離方式のものが従来から用いられている。この方式は、吸着剤等の捕集剤を充填した低温の捕集管に試料となる気体(例えば空気)を通過させ、気体中に含まれるVOC等の測定対象成分物質を捕集剤に吸着させて捕集し、その後にこの捕集管を加熱すると共にパージガスを流して捕集されたVOC等を追い出して分析装置に導入するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図4は、上記の試料濃縮装置の従来の構成例を示す。この例は試料濃縮装置とガスクロマトグラフを組み合わせた分析装置として構成されたものである。
この試料濃縮装置の動作は捕集過程と脱離過程に分けられる。
同図において、先ず捕集過程では、試料空気はポンプ14に吸引されて試料導入口13からバルブ15を経由して冷却加熱装置11で冷却されている捕集管1を通過して流れ、試料空気中の測定対象成分物質が捕集管1に捕集される。この間、ガスクロマトグラフィのキャリアガスは、キャリアガス源18からバルブ15を経てカラム16および検出器17へと流れている。次に脱離過程に移り、捕集管1を加熱すると共にバルブ15を切り換えると、キャリアガスはパージガスとして捕集管1に迂回して流れるようになり、捕集管1内に捕集された物質を追い出してカラム16に導入し、ここで成分分離が行われる。分離された各成分は検出器17で電気信号に変えられ、データ処理装置19で適宜処理されて記録される。
【特許文献1】特開2004−77384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来例は、捕集過程と脱離過程がバルブの切り換えにより1台の装置内で行われるものであるが、この2つの過程がそれぞれ別の装置で行われるように構成する場合もあり、その場合、脱離過程を行う装置は加熱脱離装置と呼ばれる(捕集剤として吸着剤を用いる場合は加熱脱着装置とも呼ばれるが、ここでは加熱脱離装置の名称で統一する)。
一般に加熱脱離装置は実験室内にガスクロマトグラフ等の分析装置と接続された状態で設置しておき、大気汚染調査等のため調査地点で試料を捕集した捕集管を実験室に持ち帰り、加熱脱離装置にこの捕集管を装着して上記の脱離過程と同様の操作により試料成分を捕集管から追い出して分析する。このような場合、捕集管を持ち帰る途中で空気が捕集管に混入することを避けるため、捕集管の両端にキャップを被せて空気を遮断しておき、加熱脱離装置にこの捕集管を装着する直前にキャップを取り除くようにする。
【0006】
しかし、手作業で捕集管を1本ずつ処理する場合はこれでよいが、多数の調査地点から集められた捕集管を受け入れ、順次に自動的に加熱脱離処理を行うように構成された加熱脱離装置においては、装置に装填された捕集管が実際に処理されるまでに長い待ち時間が生じることがあるから、キャップを被せたままの捕集管を装置に受け入れ、その捕集管が処理されるために装置内の加熱処理部に搬送される段階で自動的にキャップが取り除かれるように設計される。しかし、それでもなお、捕集管の両端がパージガスの流路に接続されるまでの数秒〜数十秒の間にキャップが外された捕集管内部の試料が実験室内空気により汚染される可能性は否定できない。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、捕集管両端のキャップを外すことなくパージガスの流路に接続することができる加熱脱離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、加熱脱離装置において、両端がキャップで封止された捕集管をパージガスの流路に接続する接続具が接続対象となる捕集管の管軸方向に向けて突設された突き針を備えると共に、その突き針は接続完了時に前記キャップを刺通するに足る長さを有するように構成する。
このように構成することにより、接続が完了する直前まで捕集管は封止された状態に保たれ、接続が完了する直前に突き針により捕集管の封止が破られて捕集管内部とパージガス流路とが連通する。これにより捕集管内に室内空気が混入することが防止できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上記のように構成されているので、捕集管をパージガスの流路に接続するときに室内空気が捕集管内に混入することが防止でき、室内空気による試料の汚染が避けられるばかりでなく、接続に先立ち捕集管両端のキャップを取り外す操作が不要となるので、特に自動化された加熱脱離装置においてはコストダウンが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明が提供する加熱脱離装置の第1の特徴は、キャップを被せたままの捕集管をパージガス流路に接続するように構成した点にあり、第2の特徴は、捕集管をパージガス流路に接続する際に、接続具に備えられた突き針によりキャップが破られることで接続が完成するように構成した点である。
従って、最良の形態の基本的な構成は上記2件の構成を具備する加熱脱離装置である。
【実施例1】
【0010】
図1に、本発明の一実施例である加熱脱離装置における捕集管とパージガス流路との接続部を示す。同図(A)は接続前の状態を、(B)は接続途中の状態を、(C)は接続完成後の状態を示し、いずれも捕集管の片方の端部を示すが、他方の端部についてもこれらの図と対称的に構成されるものとする。
図1(A)において、捕集管1は加熱ブロック4に挟持されて加熱される状態にあり、その内部に吸着剤等の捕集剤3が充填され、また、その端部はキャップ5で封止されている。キャップ5は、耐熱性樹脂またはアルミ箔等で成型される。石英の直管から成る捕集管1のサイズは、一例として直径6mm、長さ90mm程度である。
【0011】
接続具2は、ステンレス製のソケット21を主要構成体とし、ソケット21の内周面21aに耐熱性のOリング22を、底面21bには本発明を特徴付ける突き針23を備え、また底面21bに穿設された貫通孔21cは配管24を介してパージガス流路に連通している。突き針23は、先端を適度に尖らせた棒状金属体であり、ソケット21に嵌入される捕集管1の管軸方向に向けて突出するようにソケット21の底面21bの中央付近に植え込まれている。
【0012】
このように構成された本実施例の動作を次に説明する。
まず、図1(A)の状態で、図示しないバルブ等を開いてパージガスの送給を開始し、パージガスによりソケット21の内部空間の空気を追い払いつつ接続具2を図の右方向に進めると、同図(B)のように、捕集管1の端部がソケット21に嵌入され、Oリング22により接続具2と捕集管1の間がシールされ、空気が追い出されたソケット21の内部が外気から遮断される。さらに深く接続具2を押し込むと、同図(C)の状態となり、突き針23がキャップ5を刺通することによりキャップ5に生じた破れ目を通ってパージガスが捕集管1内に流通することで接続が完成する。突き針23は、図(C)の状態、即ち接続完成時に前記キャップ5を刺通するに足る長さを有することが必要である。
【実施例2】
【0013】
図2に本発明の他の実施例を示す。同図は、図1(C)に相当する接続の完成した状態を示すもので、図1と同符号を付すものは図1と同一物であるから再度の説明を省く。
本実施例が図1と相違する点は、突き針23の代わりに中空針25を用いたことである。中空針25は、例えば注射針のような、内部を流体が通過することのできる金属製の針である。中空針25の内部空間は配管24を介してパージガス流路に連通しており、針先がキャップ5を刺通した後はパージガスが針の内部を通って捕集管1内に流通する。
本実施例は上記実施例1に比べて構造が簡単であり、中空針25の内部を通してパージガスを安定的に流すことができる。
【0014】
図3は、中空針25の形成法を示すための拡大図である。中空針25は、同図(A)に示すようにソケット21と一体に成型してもよいし、また、同図(B)のように別の管状部材をソケット21に植え込み、溶接により固定してもよい。
【0015】
上記実施例は基本的構成を示したものであり、付帯的な構造については追加、または変更を加える余地が多々ある。例えば、接続後にパージガスの内圧により接続がはずれることの無いように接続具2にロック機構を付加したり、或いはスプリング等により接続具2を捕集管1に対して押圧する機構を追加することは設計段階で容易に考えられる事項である。また、自動化された加熱脱離装置に本考案を適用する場合は、モータ等の動力機構により接続具2を捕集管1に対して相対的に移動させる駆動機構を設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、例えば空気中の微量環境汚染物質等の分析において用いられる加熱脱離装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す図である。
【図3】実施例2の部分拡大図である。
【図4】従来の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
1 捕集管
2 接続具
3 捕集剤
4 加熱ブロック
5 キャップ
11 冷却加熱装置
13 試料導入口
14 ポンプ
15 バルブ
16 カラム
17 検出器
18 キャリアガス源
19 データ処理装置
21 ソケット
21a 内周面
21b 底面
21c 貫通孔
22 Oリング
23 突き針
24 配管
25 中空針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部を刺通可能なキャップで封止し、試料成分を捕集した捕集管をパージガスの流路に接続して加熱することにより捕集された試料成分を脱離させて後段の分析装置に導入するように構成された加熱脱離装置において、前記捕集管を前記パージガスの流路に接続する接続具を設け、この接続具には接続対象となる捕集管の管軸方向に向けて突設された突き針を有すると共に、前記突き針は接続完成時に前記キャップを刺通するに足る長さを有することを特徴とする加熱脱離装置。
【請求項2】
突き針が中空管から成り、前記中空管内部がパージガスの流路に連通することを特徴とする請求項1に記載の加熱脱離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−212325(P2007−212325A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33359(P2006−33359)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)