説明

加熱調理用油脂

【課題】本発明の目的は加熱調理する際に使用する油脂において、トランス酸含量を低減させながら、硬化油を用いて加熱調理した際と同様の「硬化油風味」を付与することのできる、加熱調理用油脂を提供することである。
【解決手段】ラード1〜20重量及び/又は実質的に融点20〜40℃の硬化油1〜20重量並びに任意の非硬化油からなる、トランス酸含量が3重量%以下の加熱調理用油脂であり、加熱調理用油脂中、パーム由来の油脂が50重量%以上である加熱調理用油脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱調理する際に使用される油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂は優れた熱媒体としての特性があり、焼く、炒める、揚げる等のさまざまな加熱調理に利用されている。
これら加熱調理に使用される油脂として、大豆油、コーン油、菜種油、ゴマ油、紅花油、オリーブ油等の常温液体油が主に用いられているが、フライなどの加熱調理に使用する際の、熱、酸化に対する安定性、風味の面から大豆油、菜種油、パーム油、ヤシ油、パーム核油、あるいは魚油、牛脂、豚脂等の動植物油脂を原料に触媒を用いて水素添加した硬化油が使用されることが多い。
【0003】
さらに、油脂には加熱調理した際に、食品に独特の加熱香味、香気を付与し、食品の嗜好性を高めるといった特性もあり、特に、硬化油を加熱調理に用いた際に、食品に付与された、熟成されるねっとりとした甘さ、香味は「硬化油風味」と呼ばれる特有の良好な風味として知られている。
【0004】
一方で、硬化油を加熱調理に用いると、加熱により、「水添臭」と呼ばれる異臭を生じることも知られており、この「水添臭」を改善するための方法として、パーム油に液体植物油、極度硬化油、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加した、水添臭のないフライ用油脂(特許文献1)、パーム系油脂にハイエルシン菜種極度硬化油をエステル交換し、融点25℃以上の油脂を含有するようにした酸化防止効果および水添臭を低減したフライ用油脂組成物(特許文献2)、パーム油系油脂にハイエルシン菜種極度硬化油をエステル交換し、融点25℃以上の油脂を含有するようにした酸化防止効果および水添臭を低減したスプレー用油脂組成物(特許文献3)、乳製品粉末および還元糖の加熱反応由来の油溶成分を含有する、旨さ、コク味を付与すると共に水添臭が低減した風味油(特許文献4)などが提案されているが、これらはいずれも、硬化油を加熱調理に用いた際の、「水添臭」の改善を目的とするものであり、「硬化油風味」と呼ばれる良好な風味の付与に関しての記載はない。
【0005】
また、最近は健康志向への強まりから、トランス脂肪酸(以下単にトランス酸という)を多く含む硬化油が好まれない傾向があり、加熱調理用油脂においても、トランス酸含量を低減させた油脂が要望されている。
【0006】
しかしながら、硬化油を用いて加熱調理される食品の中でも、とりわけドーナツに付与された何とも言えない甘い香味は、消費者の購買意欲を惹起し、製品そのものに重要な価値を生み出すものであり、硬化油以外で、これに匹敵する香味、香気を付与できるような油脂は開発されておらず、代替油脂に対する有効な解決方法が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開平9−322708号公報
【特許文献2】特開平11−155483号公報
【特許文献3】特開平11−262358号公報
【特許文献4】特開平7−46961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は加熱調理する際に使用する油脂において、トランス酸含量を低減させながら、且つ、従来硬化油を用いて加熱調理した際と同様の「硬化油風味」を付与することのできる、加熱調理用油脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、意外にもラード又は軽度の水素添加にとどめた硬化油を少量使用した油脂が、加熱調理に用いた際に、従来の硬化油を用いたときと同様の「硬化油風味」を食品に付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の、第一は、ラード1〜20重量%及び/又は実質的に融点20〜40℃の硬化油1〜20重量%並びに任意の非硬化油からなる加熱調理用油脂である。
第二は、トランス酸含量が3重量%以下である、第一記載の加熱調理用油脂である。第三は、加熱調理用油脂中、パーム由来の油脂が50重量%以上である、第一1記載の加熱調理用油脂である。第四は、パーム由来の油脂がパーム油、パームオレインである第三記載の加熱調理用油脂である。第五は、硬化油が菜種硬化油である第一記載の加熱調理用油脂である。第六はドーナツフライ油である第一記載の加熱調理用油脂である。第七は、第一記載の加熱調理用油脂でフライされたドーナツである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の加熱調理用油脂を用いると、トランス酸含量を低減させた加熱調理用油脂でありながら、従来の硬化油を用いて加熱調理したときと同様の「硬化油風味」が付与された食品を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の加熱調理用油脂は、ラード1〜20重量及び/又は実質的に融点20〜40℃の硬化油1〜20重量%並びに及び任意の非硬化油からなることを特徴とし、ラード又は硬化油の単独使用あるいはこれらを組み合わせて使用することができ、これにより加熱調理に用いた際に、「水添臭」は低減させ、且つ、トランス酸含量を低減させながらも、良好な香味としての「硬化油風味」を付与することができる。
【0013】
本発明に使用するラードとは、豚の何れの部位から得られたものであってもよく、特に制限されない。純製ラードが望ましいが、同等の風味を持つもので、且つ物性等の性状が純製ラードに近いものであれば調製ラードでも使用が可能である。さらには、純製ラードと同等の風味を持つものであれば分別ラード低融点画分も使用が可能である。
【0014】
本発明に使用する硬化油は、大豆油、菜種油、パーム油、ヤシ油、パーム核油、あるいは魚油、牛脂、豚脂等の動植物油脂を原料として、ニッケル触媒の存在下、120〜200℃で、水素添加する方法などにより得ることができるが、良好な「硬化油風味」得るためには、硬化油の原料は液体油であることが好ましく、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、カポック油、ゴマ油、月見草油などが挙げられ、これら単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
本発明に使用する硬化油は、上昇融点20〜40℃の硬化油、より好ましくは上昇融点30〜35℃の硬化油を用いると、加熱調理に用いた際に、良好な「硬化油風味」を食品に付与することができる。融点が20℃未満の硬化油を用いると、加熱調理に用いた際に、「硬化油風味」を付与する効果が弱く、融点が40℃を越える硬化油を用いると、「硬化油風味」ではなく、不快な「水添臭」が強くなるため、好ましくない。
【0016】
本発明の加熱調理用油脂は、ラード1〜20重量%、より好ましくは、2〜10重量%及び/又は硬化油を1〜20重量%含有し、より好ましくは、2〜10重量%含有する。加熱調理油脂中のラード及び/又は硬化油の含有量が少なすぎると加熱調理に用いた際に、良好な「硬化油風味」を十分に付与することが出来ないため好ましくない。また、加熱調理油脂中のラード及び/又は硬化油の含有量が多すぎると、「獣臭」及び/又は「水添臭」といった不快な風味が強くなり、良好な「硬化油風味」を付与することが出来ないため、好ましくない。
【0017】
本発明の加熱調理用油脂は、ラード1〜20重量%及び/又は実質的に融点20〜40℃の硬化油1〜20重量%並びに任意の非硬化油からなるが、非硬化油としては、特に限定されず、例えば、大豆油、菜種油、サフラワー油、コーン油、ヒマワリ油、綿実油、米油、オリーブオイル、パーム油、ヤシ油、ごま油、牛脂、魚油、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの任意の食用油、あるいはこれらに分別、エステル交換等を施した加工油脂などが挙げられ、これら単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
加熱調理用油脂に使用することができる油脂としては、上記のように特に制限されないが、加熱調理用油脂中のトランス酸含量が3重量%以下となるように、油脂を選択することが好ましい。トランス酸は自然界においても、乳脂肪中には5重量%前後含まれており、トランス酸の摂取による健康への影響は小さいと考えられているが、本発明により、トランス酸含量を低減させながら、「硬化油風味」を付与させることができる加熱調理用油脂を得ることができる。
油脂中のトランス酸含量はAOCS Official Method Ce 1f−96(Revised 2002)に準じて、測定することができる。
【0019】
また、本発明の加熱調理用油脂はパーム由来の油脂を含有することが好ましく、パーム由来の油脂を用いることで、加熱調理用油脂としての熱安定性と、プレーンなパーム油風味をベースに良好な「硬化油風味」を付与することができる。パーム由来の油脂は加熱調理用油脂中50重量%以上含有することが好ましく、より好ましくは、60重量%以上、もっとも好ましくは80重量%含有することがよい。
【0020】
パーム由来の油脂としては、パーム油、パームオレインが好ましく、特にパーム油を配合した加熱調理用油脂を用いることで、ドーナツの加熱調理に用いた際の、ドーナツのべたつきを抑えることができる。
【0021】
さらに、本発明の加熱調理用油脂として使用する硬化油は、菜種硬化油であることが、もっとも好ましく、加熱調理用油脂中に菜種硬化油を一部配合することにより、加熱調理に用いると、「水添臭」がなく、より良好な香味である「硬化油風味」を食品に付与することができる。
【0022】
以上のように、本発明の加熱調理用油脂は、ラード1〜20重量%及び/又は実質的に融点20〜40℃の硬化油1〜20重量%並びに任意の非硬化油からなることを特徴とするが、必要に応じて、乳化剤や抗酸化剤、消泡剤、着色剤等の添加剤を使用することができ、さらには香料などを添加することもできる。
【0023】
本発明の加熱調理用油脂は、焼く、炒める、揚げるといった加熱調理や、食材にスプレーあるいは塗布し、オーブン加熱などによる加熱調理といった用途に好ましく適用でき、加熱されることにより、「硬化油風味」が発現し、食品に良好な、「硬化油風味」を付与することができる。
【0024】
本発明の加熱調理用油脂は、例えば、ドーナツ、パン類のフライ油として用い加熱加工などの調理を行ったり、あるいは本発明の加熱調理用油脂をこれらドーナツ、パン類又はこれらのプレミックスケーキ、パイ、チョコレートなどの菓子類に直接配合し加熱調理を行なったりすることにより、これらドーナツ、パン類あるいは菓子類に良好な「硬化油風味」を付与することができる。

【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例を例示して、本発明をさらに詳細に説明する。なお、例中%は重量基準を意味する。
【0026】
<実施例1>
パーム油 85重量%に純製ラード 15重量%を混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は0.8重量%であった。
【0027】
<実施例2>
パーム油 96重量%に純製ラード 4重量%を混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は0.8重量%であった。
【0028】
<実施例3>
パーム油 95重量%に純製ラード 3重量%と 菜種硬化油(上昇融点35℃) 2重量%を混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は1.4重量%であった。
【0029】
<実施例4>
パーム油 90重量%に菜種硬化油(上昇融点35℃) 10重量%を混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は4.4重量%であった。
【0030】
<実施例5>
大豆油(不二製油株式会社製) 98重量%に菜種硬化油(上昇融点35℃) 2重量%を混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は1.9重量%であった。
【0031】
<実施例6>
パーム油 78重量%、大豆油 20重量%に菜種硬化油(上昇融点35℃) 2重量%を混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は1.5重量%であった。
【0032】
<実施例7>
パーム油(不二製油株式会社製) 97重量%に綿実硬化油(上昇融点35℃) 3重量%を混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は1.6重量%であった。
【0033】
<実施例8>
パーム油 98重量%に大豆硬化油(上昇融点35℃) 2重量%を混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は1.3重量%であった。
【0034】
<実施例9>
パーム油 97重量%に菜種硬化油(上昇融点22℃) 3重量%を混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は1.5重量%であった。
【0035】
<実施例10>
パームオレイン(不二製油株式会社製) 98重量%に菜種硬化油(上昇融点35℃) 2重量%を混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は1.3重量%であった。
【0036】
<実施例11>
パーム油 98重量%に菜種硬化油(上昇融点35℃) 2重量%を混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は1.4重量%であった。
【0037】
<実施例12>
パーム油 95重量%に菜種硬化油(上昇融点35℃) 5重量%を混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は2.6重量%であった。
【0038】
<比較例1>
パーム油 100重量%からなる加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は0.7重量%であった。
【0039】
<比較例2>
パーム油 95重量%に菜種硬化油(上昇融点10℃) 5重量%混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は0.7重量%であった。
【0040】
<比較例3>
パーム油 97重量%に菜種極度硬化油(上昇融点61℃) 3重量%混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は0.7重量%であった。
【0041】
<比較例4>
パーム油 70重量%に純製ラード 30重量%を混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は0.8重量%であった。
【0042】
<比較例5>
パーム油 70重量%に綿実硬化油(上昇融点35℃) 30重量%混合し、加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は9.5重量%であった。
【0043】
<比較例6>
綿実硬化油(上昇融点35℃) 100重量%からなる加熱調理用油脂を得た。得られた加熱調理用油脂中のトランス酸含量は30.5重量%であった。
【0044】
(ドーナツの製造)
原料として無塩バター 40g、砂糖 40g、小麦粉(薄力粉) 200g、塩1つまみ、ベーキングパウダー 小さじ2、ベーキングソーダ 小さじ1/2、卵1個、牛乳 50cc及びグラニュー糖適量を常法に従い、混合及び捏ね合わせドーナツのドウを調製し、実施例1〜12及び比較例1〜6の加熱調理用油脂をフライ油として使用し、温度180℃にてドーナツをフライした。
【0045】
(官能評価)
上記、加熱調理用油脂を用いてフライしたドーナツ(実施例1〜12及び比較例1〜6)について、その風味をよく訓練された10名のパネラーにより官能評価した。パネラーは次の評価基準により得点付けを行った。
(評価基準)
甘さとコクが感じられ良好・・・3点
甘さとコクが感じられるがやや薄い・・・2点
甘さとコクが感じられない・・・1点
また、「硬化油風味」の香味についても次の評価基準により評価した。
(評価基準)
非常に良好・・・◎、良好・・・○、あまり感じられない・・・△、感じられない・・・×
さらに、パネラー全員で総合的な官能表現をまとめた。これらの結果を表1、2及び3にまとめた。
【0046】

【0047】

【0048】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラード1〜20重量%及び/又は実質的に融点20〜40℃の硬化油1〜20重量%並びに任意の非硬化油からなる加熱調理用油脂。
【請求項2】
トランス酸含量が3重量%以下である、請求項1記載の加熱調理用油脂。
【請求項3】
加熱調理用油脂中、パーム由来の油脂が50重量%以上である、請求項1記載の加熱調理用油脂。
【請求項4】
パーム由来の油脂がパーム油、パームオレインである請求項3記載の加熱調理用油脂。
【請求項5】
硬化油が菜種硬化油である請求項1記載の加熱調理用油脂。
【請求項6】
ドーナツフライ油である請求項1記載の加熱調理用油脂。
【請求項7】
請求項1記載の加熱調理用油脂でフライされたドーナツ。

【公開番号】特開2009−5681(P2009−5681A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74814(P2008−74814)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】