説明

加熱調理用温度管理インジケータ

【課題】食材等の被検査物の内部の加熱具合を、目視可能で明瞭な色調の変化により感度よく正確に表示でき、有害金属である水銀を含まず安全で、長時間連続して使用したり繰返して使用したりする耐久性に優れ、安価に製造できる簡易な構造の加熱調理用温度管理インジケータを提供する。
【解決手段】加熱調理用温度管理インジケータは、電子受容性化合物と、この化合物に接触し可逆的に電子を供与して変色する電子供与性化合物と、検知すべき加熱温度で溶融して該接触させる熱溶融性物質とを混合しつつ内包するマイクロカプセル20が、該加熱温度の熱を経時的に内部へ伝播して順次該溶融させる立体状の樹脂成型材16に、埋没されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材内部の加熱具合を、色調の変化によって視覚的に表示する加熱調理用温度管理インジケータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
卵、麺類、野菜類、魚介類、肉類等の食材を茹でたり煮たりする加熱調理の際、それの茹で具合や煮え具合を目視で確かめるために、その加熱温度や加熱時間に応じて可逆的に変色する示温材を有している温度管理インジケータが、用いられる。
【0003】
温度管理インジケータは、例えば示温材として、銀のような貴金属を含んだハロゲン含有水銀錯体化合物がある。このインジケータは、貴金属を共存させるものであるから高価であるうえ、赤色から黒赤色へ、又は黄色からオレンジ色へ、可逆的に色調が変化するものであるからその限られた色調の所為でデザインの制約を受け、実用性に乏しい。しかも人体に有害な水銀が過熱や破損により漏れ出して食材に入り込む恐れがあるので、人体に対する安全性や環境保全の観点から、このインジケータを加熱調理の際に使用するのは敬遠されている。
【0004】
可逆的に変色する水銀非含有の温度管理インジケータとして、特許文献1に、電子供与性呈色性有機化合物と、フェノール性水酸基含有化合物と、アルコール性水酸基含有化合物とを成分とする示温材料が、記載されている。特許文献2に、電子供与性呈色性有機化合物及び電子受容性化合物を内包したマイクロカプセルとバインダーとを主成分とする熱可逆性記録層を基材上に有する熱可逆性記録シートが、記載されている。また、特許文献3に、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が光重合性組成物中に分散状態に固着された可逆熱変色性樹脂層上に、光遮蔽性オーバーコート層が積層された耐光性可逆熱変色性紫外線硬化型積層体が、記載されている。
【0005】
これら水銀非含有の温度管理インジケータは、組成物や薄いシートであるため、食材等の被検査物の表面での温度を検知できるが、表面よりも深部での温度を検知できない。しかも、繰返して使用することによる耐久性が低い。
【0006】
そのため、このような温度管理インジケータを用いても、半熟状態の茹で卵、僅かに芯が残るアルデンテのパスタのような人の好みに応じた茹で具合、ほうれん草等の野菜類のように短時間で茹で上がる食材の茹で具合、蟹・海老等の魚介類、煮魚、ミートボールやロールキャベツのように途中でほぐしたり切ったりせずに煮る食材の内部の煮え具合等の加熱具合を、目視で簡便に確かめることができない。
【0007】
【特許文献1】特公昭51−44706号公報
【特許文献2】特開平5−32045号公報
【特許文献3】特開2003−118044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、食材等の被検査物の内部の加熱具合を、目視可能で明瞭な色調の変化により感度よく正確に表示でき、有害金属である水銀を含まず安全で、長時間連続して使用したり繰返して使用したりする耐久性に優れ、安価に製造できる簡易な構造の加熱調理用温度管理インジケータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の加熱調理用温度管理インジケータは、電子受容性化合物と、この化合物に接触し可逆的に電子を供与して変色する電子供与性化合物と、検知すべき加熱温度で溶融して該接触させる熱溶融性物質とを混合しつつ内包するマイクロカプセルが、該加熱温度の熱を経時的に内部へ伝播して順次該溶融させる立体状の樹脂成型材に、埋没されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の加熱調理用温度管理インジケータは、請求項1に記載されたもので、該マイクロカプセルが、インジケータ基材に付されつつ、該内部に該埋没されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の加熱調理用温度管理インジケータは、請求項2に記載されたもので、該マイクロカプセルを含む変色性インキで、該加熱温度を表示する文字及び/又は図柄が該インジケータ基材に印刷されて付され、又は該インジケータ基材に印刷されて付された該マイクロカプセルを含む変色性インキの層上に、該加熱温度を表示する文字及び/又は図柄が、不変色性のインキで、印刷されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の加熱調理用温度管理インジケータは、請求項1に記載されたもので、該マイクロカプセルが、該樹脂成型材に練り込まれて該埋没されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の加熱調理用温度管理インジケータは、請求項1に記載されたもので、該樹脂成型材が、球状、半球状、柱状及び錘状の何れかの該立体状であることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の加熱調理用温度管理インジケータは、請求項1に記載されたもので、水銀非含有であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の加熱調理用温度管理インジケータは、検知すべき食材等の被検査物の内部の特定な温度と、その内部への熱伝達程度とを、簡便かつ正確に表示することができる。そのためこのインジケータを用いると、食材等の被検査物をほぐしたり切ったりしなくてもその内部の半熟・生煮えのような微妙な茹で具合や煮え具合を、目視可能で明瞭な色調変化や加熱温度を示す文字・図柄の出現により、正確に感度よく表示することができる。
【0016】
この加熱調理用温度管理インジケータは、水銀のような有害金属を含有しないので、人体に対して安全であるうえ、環境を汚染しない。しかも、電子受容性化合物と電子供与性化合物とを内包するマイクロカプセルが、樹脂成型材中に、埋没されているので、空気酸化や紫外線による劣化を惹き起こさないから、このインジケータは、耐久性に優れ、堅牢であり、長期間繰返して使用できる。
【0017】
また、この加熱調理用温度管理インジケータは、簡素で小型の構造でありしかも安い原材料を用いて安価かつ簡便に製造できるうえ、任意の形状にすることができるので、汎用性がある。
【0018】
しかも、この加熱調理用温度管理インジケータを用いると、過剰に加熱することによる時間とエネルギーとの無駄を、無くすことができる。また、高価で大掛かりな温度測定器や温度計を用いなくとも、食材等の内部の温度を簡便に確認することができる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
本発明の加熱調理用温度管理インジケータ1について、実施例に対応する図1を参照しながら説明する。
【0021】
加熱調理用温度管理インジケータ1は、同図(a)の断面図に示すように、薄いシート状の可逆性示温材15が、半球状で透明又は半透明の立体状樹脂成型材16の内部に、埋め込まれたものである。可逆性示温材15は、同図(b)の一部拡大断面図に示すように、電子受容性化合物と電子供与性化合物と熱溶融性物質とを混合しつつ内包するマイクロカプセル20を含む変色性インキが、インジケータ基材10に印刷されて付され、変色性インキ層11が形成され、その上に不変色性のインキで、加熱温度を表示する文字及び/又は図柄が印刷された不変インキ層12が形成され、それが粘着層13を介して透明フィルムのような保護基材14で被覆されたものである。
【0022】
この加熱調理用温度管理インジケータ1は、以下のようにして製造される。
先ず、電子供与性化合物1重量部、電子受容性化合物の0.1〜50重量部、熱溶融性物質の10〜3000重量部、添加剤として退色防止剤の0.1〜10重量部を混合し、加熱溶融させて、均一な混合物を調製する。または、溶媒を10〜300重量部混合してもよい。この混合物とマイクロカプセル形成用原材料とから、マイクロカプセル20を調製する。マイクロカプセル20の1〜10重量部、バインダーの1〜20重量部、及び溶媒の1〜100重量部を混練して、変色性インキを調製する。透明又は半透明のインジケータ基材10の観察面側へこのインキを印刷により塗布し、変色性インキ層11を形成する。温度が変化しても変色しない不変色インキで、加熱温度を表示する文字や図柄を変色性インキ層11に重ねて印刷して、不変インキ層12を形成する。そこに粘着剤を付して粘着層13を設ける。それに保護基材14を貼付すると、図1の(b)に示すような可逆性示温材15が得られる。
【0023】
次いで、例えば半球状のような所望の凹部を有し離型剤が塗布された金属製又はガラス製の鋳型に、透明又は半透明の硬化性樹脂原料を鋳型の凹部の8分目程度まで流し入れ、加熱又は光照射により硬化させる。そこに、可逆性示温材15の観察面側を鋳型側に向けつつ、可逆性示温材15を、載せる。さらに樹脂原料を流し入れ、可逆性示温材15を樹脂原料に完全に浸らせた後、樹脂原料を加熱又は光照射により硬化させる。その後、鋳型から、半球状の硬化樹脂成型材16を取り出すと、加熱調理用温度管理インジケータ1が得られる。
【0024】
加熱調理用温度管理インジケータ1は、図2に示すように、所定の加熱温度に達したことを判断できるように不変インキ層12が、その加熱温度を示す文字や図柄を表示するものであってもよい。不変インキ層12の文字や図柄は、例えば茹で卵の内部の温度に応じて、固茹でを示す「HARD」、中間を示す「MEDIUM」、半熟を示す「SOFT」等の表示である。
【0025】
加熱調理用温度管理インジケータ1は、以下のようにして使用される。
【0026】
このインジケータ1と食材等の被検査物とを、同じ環境下に晒して加熱する。その使用の具体的態様と、そのときの加熱調理用温度管理インジケータ1が可逆的に変色する機構とを、図1及び2を参照して説明すると、以下の通りである。
水を張った鍋に、生卵と一緒にこのインジケータ1を入れる。鍋を加熱する前の低温状態では、加熱調理用温度管理インジケータ1は、マイクロカプセル20中で、熱溶融性物質が凝固している所為で、電子供与性化合物と電子受容性化合物とが、接触できず、電子供与性化合物が電子受容性化合物へ電子供与できないから、図2の(a)に示すように、電子受容性化合物自体の色が、現れている。
【0027】
鍋を加熱し始めた初期加熱状態では、加熱に伴う熱が、加熱調理用温度管理インジケータ1の樹脂成型材16の表面から内部へ経時的に伝播し、それの表面に近いほど温度が高く、それの深部ほど温度が低くなっている。それに伴いこの熱は、可逆性示温材15にも経時的に伝播する。
【0028】
その伝播した熱が、熱溶融性物質の融点例えば80℃以上になると、マイクロカプセル20中で、熱溶融性物質が溶融するのに伴い、電子供与性化合物が、電子受容性化合物へ接触して可逆的に電子を供与し、電子受容性化合物の電子密度の変化を引き起こす結果、電子受容性化合物が、有色色調から別な色調へ変色する。樹脂成型材の表面近傍から内部への経時的な熱の伝播に応じ、この変色は、樹脂成型材の表面近傍ほど早く、深部ほど遅い。従って加熱調理用温度管理インジケータ1は、その変色範囲が広いほど樹脂成型材16の深部まで十分に加熱されていることを、示す。
【0029】
その結果、図2の(b)に示すように、インジケータ1の可逆性示温材15は、その周辺部から徐々に変色し始め、不変インキ層12により「SOFT」と表示されている目印まで、変色する。このとき一緒に茹でている卵を取り出せば、半熟卵として、得られる。さらに加熱を続けると、同図の(c)に示すように、可逆性示温材15は、不変インキ層12により「HARD」と表示されている目印まで、変色する。このとき卵を取り出せば、固茹で卵が得られる。
【0030】
さらに加熱を続け沸騰したまま放置すると最終的には、樹脂成型材16の表面と深部とが同温になり、可逆性示温材15の全体が同じ色調になる。
【0031】
加熱調理用温度管理インジケータ1が再び低温に戻ると、熱溶融性物質が凝固するのに伴い、同時に電子供与性化合物が電子受容性化合物から引き離され、電子受容性化合物が可逆的に元の電子密度の状態になる結果、可逆性示温材15の変色性インキ層11が、元の色調に戻る。
【0032】
なお、加熱調理用温度管理インジケータ1は、変色性インキ層11の組成、インジケータ表面から変色性インキ層11までの樹脂成型材16の厚さ、樹脂成型材16の樹脂組成等を適宜調整することにより、加熱開始から変色するまでの時間又は変色する温度を調節することができる。
【0033】
加熱調理用温度管理インジケータ1として、変色性インキ層11上に不変インキ層12が設けられた可逆性示温材15を用いた例を示したが、不変インキ層上に変色性インキ層が設けられた可逆性示温材を用いたものであってもよい。例えば、可逆性示温材15が、図3(a)のように低温時で有色色調例えば赤、青又は緑を示す変色性インキ層で不変インキ層を隠蔽したものであり、加熱途中で同図(b)のように周辺から順次、有色色調から無色へ変色した変色性インキ層で不変インキ層12の図柄を一部現し、さらに加熱して同図(c)のように不変インキ層12の図柄を全部現すものであってもよい。
【0034】
不変インキ層12は、重ね印刷されたものであってもよく、上塗り印刷されたものであってもよい。不変インキ層12、粘着層13及び/又は保護基材14は、設けなくてもよい。
【0035】
加熱調理用温度管理インジケータ1は、可逆性示温材15の観察面側が半球状樹脂成型材の湾曲面側を向いている例を示したが、半球状樹脂成型材の平面側を向いたものであってもよい。
【0036】
加熱調理用温度管理インジケータ1は、食材等の被検査物の形状に合わせて、任意の立体状、例えば、茹で卵に合わせた真球や楕円球のような球状やそれの半球状であってもよく、うどんやパスタ等の麺類に合わせた太さのもので細くて長い円柱状であってもよく、角柱状、錘状であってもよい。
【0037】
可逆性示温材15は、加熱調理用温度管理インジケータ1の形状に合わせたシート状のものの例を示したが、図4に示すように円柱状の樹脂成型材16よりひと回り細くて小さくマイクロカプセル20が練り込まれている樹脂製の円柱状のものであってもよい。そのインジケータ1は、例えば、パスタ程度の太さの細くて長い円柱状のものであると、麺類やパスタの茹で上がりを管理するインジケータとして利用できる。同図(a)のようなインジケータを所期の温度以上に加熱すると、インジケータの表面部から徐々に変色する。変色途中で、茹でているパスタを取り出すと、アルデンテのパスタが得られる。さらに加熱し、インジケータ内部の温度が所期の温度に達すると同図(b)のようにインジケータ全面が変色する。完全に変色してから茹でているパスタを取り出すと、十分に茹であがったパスタが得られる。
【0038】
加熱調理用温度管理インジケータ1は、図5に示すように、樹脂成型材16の断面よりも僅かに狭い面積の樹脂板17にマイクロカプセル20を練り込んでいる可逆性示温材15が、樹脂成型材16に埋没しているものであってもよい。
【0039】
変色性インキ層11の構成物質は、具体的には以下のとおりである。
【0040】
電子供与性化合物は、酸化還元に伴い、可逆的に、電子受容性化合物に電子を供与して変色する有機染料である。例えば、トリフェニルメタンフタリド類、フルオラン類、スピロピラン類、フェノチアジン類、インドールフタリド類、ロイコオーラミン類、ローダミンラクタム類、ジアリールフタリド類、ポリアリールカルビノール類、アシルオーラミン類、アリールオーラミン類のようなロイコ染料が挙げられる。中でも、トリフェニルメタンフタリド類としてクリスタルバイオレットラクトン、マラカイトグリーンラクトン;フェノチアジン類としてベンゾイルロイコメチレンブルー;フルオラン類として2−ジエチルアミノベンゾフルオラン、2−シクロヘキシルアミノフルオラン、3,6−ジエトキシフルオラン;インドールフタリド類として2−(フェニルイミノエタンジリデン)−3,3−ジメチルインドリン、1,3,3−トリメチルインドリノ−7'−クロル−β−ナフトスピロピラン;ロイコオーラミン類としてN−アセチルオーラミン、N−フェニルオーラミン;ローダミンラクタム類としてローダミンβラクタムが好ましい。
【0041】
電子受容性化合物は、電子供与性化合物から電子を供与されるもので、例えばフェノール性水酸基含有化合物、より具体的には、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アリール基、アシル基、アルコシキカルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよいモノフェノール類、ポリフェノール類、ヒドロキシクマリン類が挙げられる。中でも、4−ヒドロキシクマリン類として、4−ヒドロキシクマリン、3−ベンゾイル−4−ヒドロキシクマリン、3−シアノ−4−ヒドロキシクマリン、3−メトキシ−4−ヒドロキシクマリン、3−エトキシ−4−ヒドロキシクマリン、ジクマロールが好ましい。
【0042】
熱溶融性物質は、所定の融点での溶融又は凝固に伴い、電子供与性化合物と電子受容性化合物との電子授受反応を制御して、可逆的に呈色又は消色させて変色するものである。この融点近傍で呈色と消色とが起こる。熱溶融性物質は、脂肪酸高級アルコール類、脂肪酸類、酸アミド類、エステル類、エーテル類が挙げられる。中でも、電子供与性化合物と電子受容性化合物との相溶性に優れる脂肪族高級アルコール、例えばn−オクチルアルコール、n−ノニルアルコール、n−デシルアルコール、n−ラウリルアルコール、n−ミリスチルアルコール、n−セチルアルコール、n−ステアリルアルコール、n−エイコシルアルコール、n−ドコシルアルコールが好ましい。
【0043】
添加剤の一種である退色防止剤は、変色濃度が経時的に少しずつ退色してしまうのを防止するもので、例えば亜リン酸エステル類、具体的には亜リン酸トリフェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸ジフェニルクレジル、亜リン酸トリクレジル、亜リン酸トリ−n−ドデシルが挙げられる。
【0044】
マイクロカプセル20の原材料は、ゼラチン、カゼイン、アルブミンのようなタンパク質;アラビアゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、セルロース誘導体のような炭水化物;ポリエチレンスルホン酸,ビニル化合物と無水フタル酸の共重合体、ポリ尿素のような高分子が挙げられる。マイクロカプセルは、例えばコアセルベーション法、界面重合法、in situ重合法、相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法のような公知方法によって、粒径1〜数100μmにしたものである。
【0045】
変色性インキに用いられるバインダーは、ブチルゴム、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸ビニル、塩化ビニル、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ナイロン、ポリビニルアルコールが挙げられる。インキビヒクル例えば市販のPAS800メジウム(十条ケミカル(株)製:商品名)、ハイセットマットメジウム((株)ミノグループ製:商品名)であってもよい。
【0046】
マイクロカプセルや変色性インキに用いられる溶媒は、例えば水、メタノール、エタノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸イソアミル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、ジエチルベンゼン、トルエン、ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、シクロヘキサノン、イソプロピルアルコール、セロソルブアセテート、ミネラルスピリットが挙げられる。
【0047】
インジケータ基材10は、高分子フィルム、高分子板、ガラス板、ガラスクロス、金属箔、金属板、紙、合成紙、布、繊維状シート、不織布、セルロースなど、可逆性示温材15の変色が外部から確認できる基材であればよく、特に透明又は半透明の高分子フィルムが好ましい。例えばポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、セルローストリアセテート、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、セロファン、ナイロン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリオレフィン、ポリイミド、又はポリ酢酸ビニルで膜状に形成されたものが挙げられる。高分子フィルムは、これらを単独で又は複合して形成されたものであってもよく、共重合させて形成されたものであってもよい。
【0048】
保護基材14は、前記インジケータ基材10に用いるのと同様の材料を使用することができる。また、透明、半透明に限らずインジケータのデザインによっては有色フィルムであってもよく、白色PETやユポ合成紙など可逆性示温材15の変色色調を鮮明にする不透明フィルムであってもよい。
【0049】
粘着層13に使用される粘着材は、アクリル系、ゴム系、ビニルエーテル系、シリコーン系、エポキシ系及びそれらの複合体又は共重合体が好ましい。粘着材例えば市販の感圧性接着剤(住友スリーエム(株)製)であってもよい。
【0050】
不変インキ層12を形成する不変色性インキは、平版インキ、グラビヤインキ、凸版インキ、スクリーンインキなど市販のインキであってもよく、顔料とビヒクルとを用いて製造したインキであってもよい。
【0051】
樹脂成型材16を形成する樹脂は、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド、ポリアミノビスマレイミド、シリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリメタクリル酸メチル、ポリフェニレンオキシド、ポリウレタン、アイオノマー樹脂、セルロース系プラスチック、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂を使用することができ、これら樹脂を単独で使用してもよく、複合体を使用してもよい。これら樹脂に顔料や染料を加え、着色してもよい。
【実施例】
【0052】
以下、加熱調理用温度管理インジケータを作製した例を、実施例1に示す。
【0053】
(実施例1)
電子受容性化合物としてクリスタルバイオレットラクトン2g、電子供与性化合物として4−ヒドロキシクマリン5g、熱溶融性物質としてステアリルアルコール(日本油脂(株)製)の50g、退色防止剤として亜リン酸トリフェニル1gを混合し、70℃に加熱して溶融させ、均一な混合物を調製した。この混合物と、エピコート828(油化シェルエポキシ(株)製:商品名)の5gとを混ぜ、90℃に熱した1.5%アルギン酸ナトリウム水溶液1000mL中に分散させて撹拌した。その分散液にエピキュアU(油化シェルエポキシ(株)製:商品名)の10gを添加してマイクロカプセルを得た。マイクロカプセル60gと、バインダーとしてインキビヒクル金銀用バインダー((株)ミノブループ製:商品名)の150gと、水性蛍光塗料スカーレット(シンロイヒ(株)製:商品名)の30gとを混練して、変色性インキを調製した。インジケータ基材であるポリエステルフィルムに、このインキを塗布し、溶媒を乾燥させ、インキ塗布面に感圧接着剤を付け、保護基材としてポリエステルフィルムを貼り、直径50mmの円形の可逆性示温材を形成した。
【0054】
不飽和ポリエステル−ユピカ(日本ユピカ(株)製:商品名)の200gにパーメック(日本油脂(株)製:商品名)の3gをよく混ぜ、ガラス製の半球状凹型成形型に注いだ。この樹脂液中に、前記で得られた可逆性示温材を樹脂液に完全に浸るように入れた。成形型を60℃で8時間加熱して樹脂を硬化させた。硬化後、成形型から樹脂を取り出して形を整え、半径80mmの半球状の加熱調理用温度管理インジケータを得た。このインジケータは、紫色を呈していた。
【0055】
作製した加熱調理用温度管理インジケータ、生卵数個及び水を調理鍋に入れ加熱すると、水温の上昇に伴い、インジケータがその表面部から内部に向けて、紫色からピンク色に変色し始めた。表面部から内部への半分程度の位置までピンク色に変色した時に、卵を取り出したところ、半熟卵が得られた。更に加熱を続け、インジケータ全体がピンク色に変色した時に卵を取り出すと、固茹で卵が得られた。
【0056】
その後、この加熱調理用温度管理インジケータを室温まで冷却すると、ピンク色から紫色に色調が戻った。この加熱調理用温度管理インジケータを再使用し、生卵と一緒に加熱調理する試験を10回行ったところ、10回とも同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の加熱調理用温度管理インジケータは、加熱調理時の温度管理及び食材の加熱状況を確認するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明を適用する加熱調理用温度管理インジケータの断面図である。
【図2】本発明を適用する加熱調理用温度管理インジケータの使用途中を示す平面図である。
【図3】本発明を適用する別な加熱調理用温度管理インジケータの使用途中を示す平面図である。
【図4】本発明を適用する別な加熱調理用温度管理インジケータの使用途中を示す断面図である。
【図5】本発明を適用する別な加熱調理用温度管理インジケータの断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1は加熱調理用温度管理インジケータ、10はインジケータ基材、11は変色性インキ層、12は不変インキ層、13は粘着層、14は保護基材、15は可逆性示温材、16は樹脂成型材、17は樹脂板、20はマイクロカプセルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子受容性化合物と、この化合物に接触し可逆的に電子を供与して変色する電子供与性化合物と、検知すべき加熱温度で溶融して該接触させる熱溶融性物質とを混合しつつ内包するマイクロカプセルが、該加熱温度の熱を経時的に内部へ伝播して順次該溶融させる立体状の樹脂成型材に、埋没されていることを特徴とする加熱調理用温度管理インジケータ。
【請求項2】
該マイクロカプセルが、インジケータ基材に付されつつ、該内部に該埋没されていることを特徴とする請求項1に記載の加熱調理用温度管理インジケータ。
【請求項3】
該マイクロカプセルを含む変色性インキで、該加熱温度を表示する文字及び/又は図柄が該インジケータ基材に印刷されて付され、又は該インジケータ基材に印刷されて付された該マイクロカプセルを含む変色性インキの層上に、該加熱温度を表示する文字及び/又は図柄が、不変色性のインキで、印刷されていることを特徴とする請求項2に記載の加熱調理用温度管理インジケータ。
【請求項4】
該マイクロカプセルが、該樹脂成型材に練り込まれて該埋没されていることを特徴とする請求項1に記載の加熱調理用温度管理インジケータ。
【請求項5】
該樹脂成型材が、球状、半球状、柱状及び錘状の何れかの該立体状であることを特徴とする請求項1に記載の加熱調理用温度管理インジケータ。
【請求項6】
水銀非含有であることを特徴とする請求項1に記載の加熱調理用温度管理インジケータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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