説明

加硫ゴム及びその製造方法

【課題】タイヤ製造に用いられる、粘弾性特性を改善した加硫ゴムの製造方法、及び、該製造方法により得られる加硫ゴムを提供する。
【解決手段】S−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩とゴム成分と充填剤と硫黄成分とを混練する第1工程と、前工程により得られた混練物を熱処理する第2工程とを有する加硫ゴムの製造方法、及び、該製造方法により得られる加硫ゴム。上記の第2工程の熱処理における温度条件は、120〜170℃の範囲であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の要請から、自動車の燃費向上(すなわち、低燃費化)が求められている。そして、自動車用タイヤの分野において、粘弾性特性を改善させることにより、自動車の燃費が向上することが知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本ゴム協会編「ゴム技術入門」丸善株式会社、124頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤの分野において、粘弾性特性が改善された加硫ゴムが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、このような状況下、鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
<1>S−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩とゴム成分と充填剤と硫黄成分とを混練する第1工程と、前工程により得られた混練物を熱処理する第2工程とを有する加硫ゴムの製造方法;
<2>第2工程の熱処理における温度条件が、120〜170℃の範囲である前項1に記載される製造方法;
<3>前項1に記載される製造方法により得られる加硫ゴム;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、粘弾性特性が改善された加硫ゴムが提供可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
まずは、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩とゴム成分と充填剤と硫黄成分とを混練する第1工程について説明する。
【0010】
本発明に用いるS−(2−アミノエチル)チオ硫酸の金属塩は、下記式
(HN−(CH−SSO・Mn+
(式中、Mn+は金属イオンを表し、nはその価数を表す。)
で示される化合物である。
【0011】
S−(2−アミノエチル)チオ硫酸の金属塩は、例えば、2−ハロエチルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法;フタルイミドカリウム塩と1,2−ジハロエタンとを反応させ、得られた化合物とチオ硫酸ナトリウムとを反応させ、次いで、得られた化合物を加水分解する方法;市販のS−(2−アミノエチル)チオ硫酸と金属水酸化物とを反応させる方法;等の任意の公知の方法により製造することができる。
【0012】
n+で示される金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオンおよび亜鉛イオンが好ましく、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンがより好ましい。nは金属イオンの価数を表し、当該金属において可能な範囲であれば、特に限定されない。例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオンのようなアルカリ金属イオンの場合、nは通常1であり、コバルトイオンの場合、nは通常2または3であり、銅イオンの場合、nは通常1〜3の整数であり、亜鉛イオンの場合、nは通常2である。上記の製法によれば、通常、ナトリウム塩が得られるが、必要に応じてカチオン交換すればよい。
【0013】
S−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩の平均粒径は、好ましくは0.05〜100μm、より好ましくは0.05〜50μm、さらに好ましくは0.05〜30μmの範囲である。かかる平均粒径は、レーザー回析法にて測定することができる。
【0014】
ゴム成分としては、天然ゴムのほか、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン・ブタジエン共重合ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム(NBR)、イソプレン・イソブチレン共重合ゴム(IIR)、エチレン・プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)、ハロゲン化ブチルゴム(HR)等の各種の合成ゴムが例示されるが、天然ゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ポリブタジエンゴム等の高不飽和性ゴムが好ましく用いられる。特に好ましくは天然ゴムである。また、天然ゴムとスチレン・ブタジエン共重合ゴムの併用、天然ゴムとポリブタジエンゴムの併用等、数種のゴム成分を組み合わせることも有効である。
【0015】
充填剤としては、ゴム分野で通常使用されているカーボンブラック、シリカ、タルク、クレイ等が例示されるが、カーボンブラックが特に好ましく使用される。カーボンブラックとしては、例えば、日本ゴム協会編「ゴム工業便覧<第四版>」の494頁に記載されるものが挙げられ、HAF(High Abrasion Furnace)、SAF(Super Abrasion Furnace)、ISAF(Intermediate SAF)、FEF(Fast Extrusion Furnace)等のカーボンブラックが好ましい。また、カーボンブラックとシリカの併用等、数種の充填剤を組み合わせることも有効である。かかる充填剤の使用量は特に限定されるものではないが、ゴム成分100重量部あたり10〜100重量部の範囲が好ましい。特に好ましくは30〜70重量部である。
【0016】
硫黄成分としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、及び高分散性硫黄等が挙げられる。粉末硫黄および不溶性硫黄が好ましい。
【0017】
また、上記のS−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩とゴム成分と充填剤と硫黄成分以外に、酸化亜鉛や加硫促進剤を配合し、混練することが好ましい。
【0018】
加硫促進剤の例としては、ゴム工業便覧<第四版>(平成6年1月20日社団法人 日本ゴム協会発行)の412〜413ページに記載されているチアゾール系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が挙げられる。
【0019】
各成分を混練する手順としては、ゴム成分と充填剤とを混練し(以下、「手順1」と記載することもある。)、次いで、手順1で得られた組成物と硫黄成分とを混練する(以下、「手順2」と記載することもある。)という手順が挙げられる。
【0020】
S−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩は、手順2で配合し、混練してもよいが、手順1で配合し、混練することが好ましい。S−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩の使用量は、ゴム成分100重量部あたり0.1〜10重量部の範囲が好ましい。より好ましくは0.5〜3重量部の範囲である。
【0021】
酸化亜鉛を配合するときは手順1で配合することが、加硫促進剤を配合するときは手順2で配合することが、それぞれ好ましい。
【0022】
従来よりゴム分野で用いられているプロセスオイルやステアリン酸等の脂肪酸類を配合し、混練することも可能である。これらは手順1で配合することが好ましい。
【0023】
従来よりゴム分野で用いられている老化防止剤やモルフォリンジスルフィド等の加硫剤を配合し、混練することも可能である。これらは手順2で配合することが好ましい。
【0024】
手順1における温度条件は200℃以下が好ましい。より好ましくは120〜180℃である。手順2における温度条件は60〜120℃が好ましい。
【0025】
また、しゃく解剤やリターダーを配合し、混練してもよく、さらには、一般の各種ゴム薬品や軟化剤等を必要に応じて配合し、混練してもよい。
【0026】
次に、前工程で得られた混練物を熱処理する第2工程について説明する。
【0027】
熱処理における温度条件は120〜170℃が好ましい。熱処理は、通常、常圧又は加圧下で行われる。
【0028】
本発明の製造方法は、通常、第1工程で得られた混練物を第2工程での熱処理に供する前に、該混練物を特定の状態に加工する工程を含む。本発明の加硫ゴムは、かかる特定の状態に加工された該混練物を第2工程での熱処理に供して得られる加硫ゴムを含む。
【0029】
ここで、該混練物を「特定の状態に加工する工程」とは、例えばタイヤの分野においては、該混練物を、「スチールコードに被覆する工程」「カーカス繊維コードに被覆する工程」「トレッド用部材の形状に加工する工程」等が挙げられる。また、これらの工程によりそれぞれ得られるベルト、カーカス、トレッド(キャップトレッド又はアンダートレッド)等の各部材は、通常、その他の部材とともに、タイヤの分野で通常行われる方法により、さらにタイヤの形状に成型され、すなわち該混練物をタイヤに組み込む工程を経て、該混練物を含む生タイヤの状態で第2工程での熱処理に供される。かかる熱処理は、通常、加圧下で行われる。本発明の加硫ゴムは、かくして得られるタイヤの上記各部材を構成する加硫ゴムを含む。
【0030】
かくして、本発明の加硫ゴムが得られる。該加硫ゴムを含むタイヤが装着された自動車の燃費は向上し、低燃費化が達成できる。また、該加硫ゴムは、上述したタイヤ用途のみならず、エンジンマウント、ストラットマウント、ブッシュ、エグゾーストハンガー等の自動車用防振ゴムとしても使用できる。かかる自動車用防振ゴムは、通常、第1工程で得られた混練物を前記各自動車用防振ゴムの形状に加工した後に、第2工程の熱処理に供することにより得られる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例、試験例及び製造例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
製造例1:S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩
反応容器を窒素置換し、そこに、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸(和光純薬工業製、製品名:S−(2−アミノエチル)チオスルホン酸)5.0g(33mmol)および水20mlを仕込み、5℃まで冷却した。水2mlに水酸化ナトリウム1.27g(33mmol)を加えた溶液を、5℃まで冷却し、先に調整した溶液に室温で2時間かけて滴下、攪拌した。反応液のpHが9−10であることを確認し、溶液を減圧下、濃縮した。エタノールを用いて再結晶を行い、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩を得た。(収率96%)
H−NMR(270.05MHz,DO)δppm:2.9(2H,t,J=6.6Hz),2.6(2H,t,J=6.6Hz),1.9−2.0(2H,m)
【0033】
<第1工程>
(手順1)
バンバリーミキサー(東洋精機製600mlラボプラストミル)を用いて、天然ゴム(RSS#1)100重量部、HAF(旭カーボン社製、商品名「旭#70」)45重量部、ステアリン酸3重量部、酸化亜鉛5重量部および上記製造例1で得たS−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩1重量部を混練配合し、ゴム組成物を得た。該工程は、各種薬品及び充填剤投入後5分間、50rpmのミキサーの回転数で混練することにより実施し、その時のゴム温度は160〜175℃であった。
(手順2)
オープンロール機で60〜80℃の温度にて、手順1により得られたゴム組成物と、加硫促進剤(N−シクロへキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド)1重量部、硫黄2重量部および老化防止剤(N−フェニル−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン:商品名「アンチゲン(登録商標)6C」住友化学株式会社製)1重量部とを混練配合し、ゴム組成物を得た。
<第2工程>
第1工程(手順2)で得たゴム組成物を145℃で加硫処理を行い、加硫ゴムを得た。
【0034】
参考例1
実施例1において、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩を用いない以外は、実施例1と同様にして加硫ゴムを得た。
【0035】
試験例1
以下のとおり、引張特性および粘弾性特性を測定した。
(1)引張特性
JIS−K6251に準拠し、測定を行った。
引張応力(M200)は、ダンベル3号形を用いて測定した。
レジリエンスは、リュプケタイプの試験機を用いて測定した。
(2)粘弾性特性
株式会社上島製作所製の粘弾性アナライザを用いて測定した。
条件:温度−5℃〜80℃(昇温速度:2℃/分)
初期歪10%、動的歪2.5%、周波数10Hz
【0036】
参考例1で得た加硫ゴムを対照とした場合、実施例1で得た加硫ゴムは、レジリエンスが6%向上し、引張応力(M200)が12%向上し、粘弾性特性(tanδ)が9%低下し、いずれの試験においても各種物性の改善が確認された。
【0037】
製造例2:S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のカリウム塩
反応容器を窒素置換し、そこに、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸(和光純薬工業製、製品名:S−(2−アミノエチル)チオスルホン酸)6.0g(38mmol)および水20mlを仕込み、5℃まで冷却した。水2mlに水酸化カリウム2.14g(38mmol)を加えた溶液を、5℃まで冷却し、先に調整した溶液に室温で2時間かけて滴下、攪拌した。反応液のpHが9−10であることを確認し、溶液を減圧下、濃縮した。エタノールを用いて再結晶を行い、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のカリウム塩を得た。(収率99%)
H−NMR(270.05MHz,DO)δppm:3.1(2H,t,J=6.3Hz),2.9(2H,t,J=6.3Hz)
【0038】
実施例2
実施例1の第1工程(手順1)において、上記製造例1で得たS−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩に代えて、上記製造例2で得たS−(2−アミノエチル)チオ硫酸のカリウム塩を用いる以外は、実施例1と同様にして加硫ゴムを得た。
【0039】
試験例2
試験例1と同様に引張特性および粘弾性特性を測定したところ、参考例1で得た加硫ゴムを対照とした場合、実施例2で得た加硫ゴムは、レジリエンスが3%向上し、引張応力(M200)が9%向上し、粘弾性特性(tanδ)が5%低下し、いずれの試験においても各種物性の改善が確認された。
【0040】
製造例3:S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のリチウム塩
反応容器を窒素置換し、そこに、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸(和光純薬工業製、製品名:S−(2−アミノエチル)チオスルホン酸)6.0g(38mmol)および水20mlを仕込み、5℃まで冷却した。水2mlに水酸化リチウム0.91g(38mmol)を加えた溶液を、5℃まで冷却し、先に調整した溶液に室温で2時間かけて滴下、攪拌した。反応液のpHが9−10であることを確認し、溶液を減圧下、濃縮した。エタノールを用いて再結晶を行い、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸のリチウム塩を得た。(収率96%)
H−NMR(270.05MHz,DO)δppm:3.1(2H,t,J=6.6Hz),2.8(2H,t,J=6.6Hz)
【0041】
実施例3
実施例1の第1工程(手順1)において、上記製造例1で得たS−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩に代えて、上記製造例3で得たS−(2−アミノエチル)チオ硫酸のリチウム塩を用いる以外は、実施例1と同様にして加硫ゴムを得た。
【0042】
試験例3
試験例1と同様に引張特性および粘弾性特性を測定したところ、参考例1で得た加硫ゴムを対照とした場合、実施例3で得た加硫ゴムは、レジリエンスが5%向上し、引張応力(M200)が4%向上し、粘弾性特性(tanδ)が7%低下し、いずれの試験においても各種物性の改善が確認された。
【0043】
実施例4
実施例1の第1工程(手順1)において、上記製造例1で得たS−(2−アミノエチル)チオ硫酸のナトリウム塩に代えて、S−(2−アミノエチル)チオ硫酸(和光純薬工業製、製品名:S−(2−アミノエチル)チオスルホン酸)を用いる以外は、実施例1と同様にして加硫ゴムを得た。
【0044】
試験例4
試験例1と同様に引張特性および粘弾性特性を測定したところ、参考例1で得た加硫ゴムを対照とした場合、実施例4で得た加硫ゴムは、レジリエンスが9%向上し、引張応力(M200)が12%向上し、粘弾性特性(tanδ)が19%低下し、いずれの試験においても各種物性の改善が確認された。
【0045】
実施例5
実施例1〜4それぞれの第1工程(手順2)で得た混練物で、黄銅メッキ処理が施されたスチールコードを被覆することにより、ベルトが得られる。得られるベルトを用いて、通常の製造方法に従い、生タイヤを成形し、得られた生タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、加硫タイヤが得られる。
【0046】
実施例6
実施例1〜4それぞれの第1工程(手順2)で得た混練物を押し出し加工し、トレッド用部材を得る。得られたトレッド用部材を用いて、通常の製造方法に従い、生タイヤを成形し、得られた生タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、加硫タイヤが得られる。
【0047】
実施例7
実施例1〜4それぞれの第1工程(手順2)で得た混練物を押し出し加工して、カーカス形状に応じた形状の混練物を調製し、ポリエステル製のカーカス繊維コードの上下に貼り付けることにより、カーカスが得られる。得られたカーカスを用いて、通常の製造方法に従い、生タイヤを成形し、得られた生タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、加硫タイヤが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明により、粘弾性特性を改善されたタイヤが提供可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
S−(2−アミノエチル)チオ硫酸またはその金属塩とゴム成分と充填剤と硫黄成分とを混練する第1工程と、前工程により得られた混練物を熱処理する第2工程とを有する加硫ゴムの製造方法。
【請求項2】
第2工程の熱処理における温度条件が、120〜170℃の範囲である前項1に記載される製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載される製造方法により得られる加硫ゴム。

【公開番号】特開2011−46858(P2011−46858A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197863(P2009−197863)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】