説明

加飾パネルの製造方法

【課題】水圧転写によりパネル基材の表面に形成される塗膜層の絵柄が乱れないようにする。
【解決手段】第1及び第2開口部11,13を形成する第1及び第2開口予定部19,21が基材本体部23に切取り可能に設けられたパネル基材3′を用意する。パネル基材3′の表面に、塗膜が形成された転写フィルムを使用して水圧転写により塗膜層を形成した後、第1及び第2開口予定部19,21を切り取って第1及び第2開口部11,13を形成してセンターパネルを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水圧転写により塗膜層が形成された加飾パネルの製造方法に関し、特に、加飾パネルが開口部を有する場合の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、パネル基材の表面に塗膜の水圧転写により塗膜層(加飾面)を形成して加飾パネルを得ることが行われている。この水圧転写の要領は、水溶性フィルムに塗膜が形成された転写フィルムを水面に浮かべて上記水溶性フィルムを溶解させ、水面に浮かんでいる塗膜にパネル基材の表面を押し当てて該パネル基材を水中に没入させることにより、没入時に受ける水圧でパネル基材の表面に塗膜を転写して塗膜層(加飾面)を形成するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−28281号公報(第3頁、図1,2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の特許文献1では、パネル基材に開口部が形成されているため、水圧転写時に水面に浮かんでいる塗膜が開口部に流れ込んで水流に乱れが生じ、パネル基材に形成される塗膜層の絵柄が乱れて加飾パネルの意匠性が低下する。特に、絵柄が水流の乱れの影響を受け易い直線の組み合わせからなる幾何学模様の場合等に乱れが顕著となる。
【0004】
この発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水圧転写によりパネル基材の表面に形成される塗膜層の絵柄が乱れないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、この発明は、水圧転写後に開口部を形成することを特徴とする。
【0006】
具体的には、この発明は、開口部を有し表面に塗膜層が形成された加飾パネルの製造方法を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0007】
すなわち、請求項1に記載の発明は、上記開口部に対応する開口予定部が基材本体部に切取り可能に設けられたパネル基材を用意し、上記パネル基材の表面に、塗膜が形成された転写フィルムを使用して水圧転写により塗膜層を形成した後、上記開口予定部を切り取って開口部を形成することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、開口予定部には、水圧転写時にパネル基材の裏側へエアを逃がす逃がし孔が形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、逃がし孔は、開口予定部外周に沿ってスリット状に複数個形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、基材本体部と開口予定部とを連結する隣り合う逃がし孔間の連結部は、上記基材本体部の裏面に連結されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、水圧転写時にはパネル基材には開口部が形成されていないため、該パネル基材を水中に没入させても、水面に浮かんでいる塗膜が開口部に流れ込むことによる水流の乱れが生じず、乱れのない絵柄を有する塗膜層がパネル基材に安定して形成される。その後、開口予定部を切り取ることで開口部を有する意匠性の優れた加飾パネルを得ることができる。したがって、特に、絵柄が水流の乱れの影響を受け易い直線の組み合わせからなる幾何学模様の場合等に有効である。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、水圧転写時に水面に浮かんでいる塗膜とパネル基材の表面との間に介在するエアが逃がし孔からパネル基材の裏側へ逃げるため、上記塗膜とパネル基材との間にエア溜まりが生じず、エア溜まりによる塗膜層の浮き上がりをなくして良好な絵柄を有する塗膜層を得ることができる。特に、パネル基材が広い平面を有する場合やパネル基材の表面が凹形状をなす場合等に有効である。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、開口予定部外周がスリット状の複数個の逃がし孔により間欠的に連続しているため、上記開口予定部が切り取り易く、開口部を正規の形状に確実に形成することができる。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、基材本体部と開口予定部とが隣り合う逃がし孔間の連結部で基材本体部の裏面に連結されているため、開口予定部は基材本体部から凹陥していて、該基材本体部に上記開口予定部に対応する凹部が形成されている。したがって、水圧転写により形成される塗膜層が上記凹部の側壁にまで形成され、つまり、上記開口予定部を切り取って形成された開口部内周面にまで形成され、基材本体部(パネル基材)の地肌が加飾パネル表側から見えず、外観見栄えを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0016】
図7及び図8は自動車のインストルメントパネルの一部を構成する略矩形のセンターパネル1を示し、このセンターパネル1がこの発明の実施形態に係る製造方法により製造された加飾パネルである。
【0017】
まず、センターパネル1の製造方法を説明する前にその構造について説明する。
【0018】
上記センターパネル1は、樹脂製パネル基材3と、該パネル基材3表面に形成された塗膜層5とで構成されている。上記パネル基材3は略矩形の平面壁7を備え、該平面壁7の略中央には、オーディオ機器が装着される横長矩形の第1開口部11が形成されているとともに、該第1開口部11の上方及び下方には、各種の調節つまみが装着される円形の第2開口部13が2個ずつ合計4個形成されている。上記平面壁7の外周縁には、第1周壁15が平面壁7の裏側に向かって略直角に延びるように一体に突設され、上記第1開口部11の内周縁にも、第2周壁17が上記第1周壁15よりも若干短く平面壁7の裏側に向かって直角に延びるように一体に突設されている。上記塗膜層5は後述する水圧転写により形成されたものであり、上記パネル基材3表面の全体、つまり、平面壁7表面、第1周壁15表面、第2周壁17内周面及び第2開口部13内周面に形成されている。この実施形態では、絵柄が直線の組み合わせからなる幾何学模様の塗膜層5を例示するが、これに限らない。
【0019】
次に、上述の如く構成されたセンターパネル1を製造する要領について説明する。
【0020】
まず、図1及び図2に示すように、センターパネル1の第1開口部11に対応する蓋状の第1開口予定部19と、第2開口部13に対応する蓋状の第2開口予定部21とが基材本体部23に切取り可能に設けられたパネル基材3′を用意する。なお、ここで、パネル基材として符号3′を付しているのは、パネル基材3′が第1及び第2開口予定部19,21を有していて、未だ第1及び第2開口部11,13が形成されていない状態のものであり、完成品であるセンターパネル1における第1及び第2開口部11,13を有するパネル基材3と区別するためである。また、上記パネル基材3′の基材本体部23は、完成品であるパネル基材3と同義であるが、パネル基材3′には第1及び第2開口予定部19,21があるため、該第1及び第2開口予定部19,21が設けられている対象を特定するために基材本体部23と称呼したものである。それ以外は、完成品のセンターパネル1のパネル基材3と同じ箇所には同じ符号を付して表す。
【0021】
上記第1開口予定部19は、パネル基材3の第1開口部11を塞ぐためのものであり、該第1開口部11内周縁に連続する第2周壁17先端に外周縁が一体に連結され、基材本体部23から第2周壁17の突出寸法だけ裏側に位置して第1凹部25を凹陥形成している。また、上記第1開口予定部19には、水圧転写時にパネル基材3′の裏側へエアを逃がす逃がし孔27が第1開口予定部19外周に沿って直線スリット状に複数個形成されている。そして、上記基材本体部23と第1開口予定部19とを連結する隣り合う逃がし孔27間の連結部29は、図3にも示すように、上記基材本体部23の裏面、つまり第2周壁17先端に連結されている。
【0022】
上記第2開口予定部21も、パネル基材3の第2開口部13を塞ぐためのものであり、該第2開口部13内周縁の裏面に外周縁が一体に連結され、基材本体部23からその厚み分だけ裏側に位置して第2凹部31を凹陥形成している。また、上記第2開口予定部21にも、水圧転写時にパネル基材3′の裏側へエアを逃がす逃がし孔27が第2開口予定部21外周に沿って円弧スリット状に複数個形成されている。そして、上記基材本体部23と第2開口予定部21とを連結する隣り合う逃がし孔27間の連結部29は、上記基材本体部23の第2開口部13内周縁の裏面に連結されている。
【0023】
そして、図4に示すように、PVA(ポリビニルアルコール)等の水溶性材料からなる水溶性フィルム33に非水溶性の塗膜35が形成された転写フィルム37を塗膜35が上を向くようにして水Wの水面w1に浮かべる。この状態で、上記塗膜35に図示しないスプレー装置を用いてキシレンや他の溶剤等を接着剤として吹き付ける。しばらくすると、水溶性フィルム33が水Wに完全に溶解して塗膜35のみが水面w1に浮かんでいる状態となる(図5参照)。
【0024】
その後、図5に示すように、パネル基材3′の長辺側を上下に向け、タイミングを見計らってパネル基材3′を表面が下に向いた状態で、かつ水面w1に対して所定の傾斜角度αだけ傾けた状態で上記塗膜35の上方に配置し、矢印で示すように斜め下方へゆっくりと移動させ、水面w1に浮かんでいる塗膜35に上記傾斜姿勢のパネル基材3′表面を押し当て、図6に示すように、パネル基材3′を矢印で示すように斜め下方へ移動させて水中に没入させる。このパネル基材3′を水中に没入させる過程で、塗膜35が水圧によりパネル基材3′表面に押し付けられて密着して水圧転写される。
【0025】
この際、センターパネル1の第1及び第2開口部11,13となる箇所は、第1及び第2開口予定部19,21で覆われて貫通せず、第1及び第2凹部25,31が形成されているため、水面に浮かんでいる塗膜35が第1及び第2凹部25,31に流入しても貫通孔に流れ込むが如き水流の乱れは生じない。また、水面に浮かんでいる塗膜35とパネル基材3′の表面との間に介在するエアは第1及び第2凹部25,31内に移動するが、このエアは逃がし孔27からパネル基材3′の裏側へ逃げて塗膜35とパネル基材3′との間に溜まらない。
【0026】
しかる後、水圧がパネル基材3′の表面全体に均等に掛かるようにパネル基材3′を水平姿勢にして水中から引き上げ、洗浄・乾燥させてパネル基材3′の表面に塗膜層5を形成する。
【0027】
その後、パネル基材3′から第1及び第2開口予定部19,21を切り取って第1及び第2開口部11,13を形成し、図7及び図8に示すようなセンターパネル1を得る。
【0028】
このように、この実施形態では、完成品であるセンターパネル1の第1及び第2開口部11,13を第1及び第2開口予定部19,21で塞いだ状態のパネル基材3′を用いて水圧転写するので、該パネル基材3′を水中に没入させた際に水面w1に浮かんでいる塗膜35が開口部に流れ込むことによる水流の乱れをなくし、乱れのない絵柄を有する塗膜層5をパネル基材3′に安定して形成することができる。その後、上記第1及び第2開口予定部19,21を切り取ることで第1及び第2開口部11,13を有する意匠性の優れたセンターパネル1を得ることができる。したがって、特に、絵柄が水流の乱れの影響を受け易い直線の組み合わせからなる幾何学模様の場合等に有効である。
【0029】
また、この実施形態では、第1及び第2開口予定部19,21に逃がし孔27を形成したので、水圧転写時に水面に浮かんでいる塗膜35とパネル基材3′の表面との間に介在するエアを上記逃がし孔27からパネル基材3′の裏側へ逃がすことができる。したがって、上記塗膜35とパネル基材3′との間にエア溜まりが生じず、エア溜まりによる塗膜層5の浮き上がりをなくして良好な絵柄を有する塗膜層5を得ることができる。特に、パネル基材3′が広い平面を有する場合やパネル基材3′の表面が凹形状をなす場合等に有効である。
【0030】
さらに、この実施形態では、上記逃がし孔27を第1及び第2開口予定部19,21外周に沿ってスリット状に複数個形成したので、第1開口予定部19と基材本体部23の第2周壁17とが隣り合う逃がし孔27間の連結部29で間欠的に連続しているとともに、第2開口予定部21と基材本体部23の第2開口部13内周縁とも隣り合う逃がし孔27間の連結部29で間欠的に連続している。したがって、上記第1及び第2開口予定部19,21を容易に切り取ることができ、第1及び第2開口部11,13を正規の形状に確実に形成することができる。
【0031】
加えて、この実施形態では、上記の連結部29を基材本体部23の裏面、つまり第1開口予定部19側では第2周壁17先端に、第2開口予定部21側では第2開口部13内周縁の裏面にそれぞれ連結したので、第1開口予定部19側では基材本体部23の厚みと第2周壁17の突出寸法とを合わせた分だけ凹陥して第1凹部25が形成され、第2開口予定部21側では基材本体部23の厚み分だけ凹陥して第2凹部31が形成されている。したがって、水圧転写により形成される塗膜層5を第1開口予定部19側では第2周壁17にまで形成でき、第2開口予定部21側では第2開口部13内周縁にまで形成でき、基材本体部23(パネル基材3′)の地肌がセンターパネル1表側から見えず、外観見栄えを向上させることができる。
【0032】
(変形例)
図9及び図10はパネル基材3′の変形例を示す。この変形例では、第1開口予定部19外周全体が第2周壁17先端にリング状の薄肉部39を介して一体に連結されているとともに、第2開口予定部21外周全体が第2開口部13内周縁の裏面に同じくリング状の薄肉部39を介して一体に連結されている。そして、パネル基材3′の表面に水圧転写により塗膜層5を形成した後、上記第1及び第2開口予定部19,21を上記薄肉部39から切り取って第1及び第2開口部11,13を形成するようになっている。また、第1開口予定部19の両短片側に円形の逃がし孔27が3個ずつ形成され、第2開口予定部21には同じく円形の逃がし孔27がパネル基材3′の短辺に沿って180°反対側の外周に1個ずつ形成されている。したがって、水圧転写時には、上記逃がし孔27が上下方向に位置付けられるようにパネル基材3′の長辺側を上下に向けた状態でパネル基材3′を水中に没入させるようにする。
【0033】
したがって、この変形例のパネル基材3′を用いても、上記の実施形態と同様の作用効果を奏することができるものである。
【0034】
なお、上記の各実施形態では、製造対象である加飾パネルが自動車のインストルメントパネルの一部を構成するセンターパネル1である場合を例示したが、スイッチパネルやリッド部材、さらには自動車部品以外にも模様を水圧転写するようにした加飾パネルに適用することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
この発明は、水圧転写により塗膜層が形成された加飾パネルの製造方法に関し、特に、加飾パネルが開口部を有する場合の製造方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】パネル基材の斜視図である。
【図2】図1のII−II線における断面図である。
【図3】図2のA部拡大図である。
【図4】転写フィルムを水面に浮かべた状態を示す製造工程図である。
【図5】水溶性シートが溶解し、塗膜の上方に基材パネルを配置した状態を示す製造工程図である。
【図6】パネル基材を水中に没入させて塗膜をパネル基材に転写した状態を示す製造工程図である。
【図7】実施形態に係る製造方法により製造されたセンターパネルの斜視図である。
【図8】図7のVIII−VIII線における断面図である。
【図9】パネル基材の変形例を示す斜視図である。
【図10】図9のX−X線における断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 センターパネル(加飾パネル)
3,3′ パネル基材
5 塗膜層
11 第1開口部
13 第2開口部
19 第1開口予定部
21 第2開口予定部
23 基材本体部
27 逃がし孔
29 連結部
35 塗膜
37 転写フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有し表面に塗膜層が形成された加飾パネルの製造方法であって、
上記開口部に対応する開口予定部が基材本体部に切取り可能に設けられたパネル基材を用意し、
上記パネル基材の表面に、塗膜が形成された転写フィルムを使用して水圧転写により塗膜層を形成した後、上記開口予定部を切り取って開口部を形成することを特徴とする加飾パネルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加飾パネルの製造方法において、
開口予定部には、水圧転写時にパネル基材の裏側へエアを逃がす逃がし孔が形成されていることを特徴とする加飾パネルの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の加飾パネルの製造方法において、
逃がし孔は、開口予定部外周に沿ってスリット状に複数個形成されていることを特徴とする加飾パネルの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の加飾パネルの製造方法において、
基材本体部と開口予定部とを連結する隣り合う逃がし孔間の連結部は、上記基材本体部の裏面に連結されていることを特徴とする加飾パネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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