説明

加飾成型用転写材

【課題】 取扱いが容易で、後工程のために部分マット層を目視または光学的センサーで検知可能にしたインモールド成型用転写材を提供すること。
【解決手段】
表面に粗面処理を施した易接着面11を有する基体シート1と、この基体シート1の易接着面11に部分的に形成された微細な凹凸を有する部分マット層12と、この部分マット層12および基体シート1の易接着面11に形成された離型層13と、この離型層13に形成されたハードコート層21と、このハードコート層21に形成された色彩・図柄などの加飾層23と、この加飾層23に形成された接着層25とを積層したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面または表示部を保護するためのハードコート層を有するハードコート層付き加飾成型用転写材に関し、この加飾成型における加飾部分の一部または全部がマット調に形成されているマットハードコート層付き加飾成型用転写材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パソコン、携帯電話などの電子機器の筐体や表示部には、合成樹脂の成型品が利用されており、成型品の表面は傷がつき易いので、表面を保護するためのハードコート層が形成されている。
【0003】
ハードコート層と加飾層を有する転写材を成型型内に配置した状態で、その閉じた成型金型内に樹脂を注入成型するいわゆるインモールド成型により、ハードコート層と加飾層とを成型品に一体化させるインモールド成型法が実施されている。
【0004】
ハードコート層によって保護される加飾層について、表面のギラツキを防止したりデザインの高級化を図る目的でマット調にしたいという要求があり、部分的にマットを施す処理が実施されている(下記特許文献1参照)。
【0005】
部分的にマットを施す処理に使用される従来の転写材は、図7(a)の断面図および要部を拡大した断面図(b)に示すように、離型層13を有する基体シート1の上に、マット剤を分散させた水溶性樹脂からなる微細な凹凸を有する部分マット層120と、ハードコート層(紫外線硬化樹脂層)21と、絵柄層23と、アンカー層22、24と、接着層25とを積層して転写層2を形成したものである。
【0006】
この転写材を可動型・固定型よりなる金型に入れ、金型を閉じて形成したキャビティ内に溶融樹脂を射出すると、接着層25によりインモールド成型品の表面に部分マット層120を有するマット調の表面Aが転写される。
【0007】
そして、基体シート1の側から紫外線を照射してハードコート層21を硬化させると、基体シート1を容易に剥がすことができ、図7(c)の断面図に示すように、部分マット調の表面Aを有するハードコート層21により成型品の表面硬度が高められて保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−260596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような従来の加飾成型用転写材は、基体シート1の離型層13の上にマット剤を分散させた水溶性樹脂を印刷して、部分マット層120を形成したのち、ハードコート層21を形成している。
【0010】
そのために、成型したとき、成型品に形成されたハードコート層21にマット剤が残存するので、このマット剤を洗い流す後工程が必要であり、マット剤によって金型を汚染することがあった。
【0011】
そこで、この発明の加飾成型用転写材は、このような従来のマット調を形成するための転写材の問題点を解決するために考えられたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の加飾成型用転写材は、基体シートと、この基体シートに部分的に形成された微細な凹凸を有する部分マット層と、この部分マット層および基体シートに形成された離型層と、この離型層に形成されたハードコート層と、このハードコート層に形成された色彩・図柄などの加飾層と、この加飾層に形成された接着層とを積層したものである。
【0013】
この発明の加飾成型用転写材の他の形態は、基体シートと、この基体シートの全面に形成された微細な凹凸を有する全面マット層と、この全面マット層の表面の微細な凹凸を部分的にマスクして、図柄に合わせた平坦に形成された部分マスク層と、この部分マッスク層および上記全面マット層に形成された離型層と、この離型層に形成されたハードコート層と、このハードコート層に形成された色彩・図柄などの加飾層と、この加飾層に形成された接着層とを積層したものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明の転写材によると、成型時に転写面に図柄の微細な凹凸だけが転写されるので、洗浄などの後工程は不要になり、成型品にマット材が移行しないので、金型などを汚染することはないのである。
【0015】
この発明の転写材における部分マット層は、表面が平滑な基体シートの易接着面に直接形成されているので、精細なパターンの形成が可能であり、成型品に形成されるマット調の表面も平滑である。
【0016】
この発明の転写材におけるマット部分またはマスク部分は、目視または光学的センサーで検知できる任意の色彩で着色されているので、色彩・図柄などの加飾層を追い刷りする際に位置合わせが高精度で調整可能である。
【0017】
また、マット部分またはマスク部分が目視または光学的センサーで検知できる任意の色彩で着色されているので、成型時の位置合わせが高精度で調整可能である。
【0018】
形成されたマット部分が基体シートと離型層との間に挟まれているので、転写材を折り曲げても折れたり、マット部分が剥離することがないので取り扱いが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の転写材の第1の実施形態を示す断面図、
【図2】この発明の転写材の第2の実施形態を示す断面図、
【図3】この発明の転写材の第3の実施形態を示す断面図、
【図4】この発明の転写材の第4の実施形態を示す断面図、
【図5】この発明の転写材を用いてインモールド成型する工程を示す断面図、
【図6】転写材に形成したマット調の図柄を例示した平面図、
【図7】従来の転写材の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
この発明の第1の実施形態において、インモールド成型に使用する転写材は、図1(a)の断面図に示すように、コロナ放電により表面に粗面処理を施した易接着面11を有するPETの基体シート1と、この基体シート1の易接着面11上に部分的に形成された部分マット層12と、この部分マット層12および露出している基体シート1の易接着面11の全面に形成された離型層13と、この離型層13の上に形成された紫外線硬化樹脂などのハードコート層21と、第1のアンカー層22と、色彩・図柄などの絵柄層23と、第2のアンカー層24と、接着層25とを積層して転写層2を形成したものである。
【0021】
部分マット層12には、バインダーとして熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂、メラミン樹脂、エポキシ/メラミン共重合樹脂、アクリル樹脂など)に、マット剤(シリカ、酸化チタンなど)およびカーボンブラックなどの着色剤を分散させたものを用いる。
【0022】
図1(b)の断面図に部分マット層12を拡大して示すように、熱硬化樹脂に粒径が0.1μm〜50μmのシリカ粉末およびカーボンブラックを分散させたものを基体シート1の易接着面11にグラビア印刷により印刷して部分マット層12を形成し、その上にメラミン樹脂よりなる離型層13を形成したものである。部分マット層の色彩は、黒色に限ることなく、目視または光学的センサーで認識できる任意の色彩でよいのである。
【0023】
部分マット層12は、図6の平面図の上部に示す絵柄や、図6の下部に示す同じパターンを繰り返す図柄のように、マット調の絵柄や図柄を形成するものであり、絵柄を追刷りする印刷工程において使用する位置合わせ用のマーク124および成型時に使用する位置合わせ用のマーク125、126も同時に印刷する。
【0024】
そして、この部分マット層12および基体シート1の露出している残余の易接着面11の全面に熱硬化性樹脂であるメラミン樹脂よりなる離型層13を形成する。このとき、部分マット層12の微細な凹凸に倣った微細な凹凸が、部分マット層12上の離型層13の表面に形成することができる。
【0025】
このように、部分マット層12および離型層13を形成するために熱硬化性樹脂を使用しているので、加熱工程が必要である。この加熱時間が、後工程の絵柄層22の印刷に要する時間と相違するので、加熱工程終了後、一旦巻き取って、オフラインで絵柄層22のグラビヤ印刷工程に移らなければならない。
【0026】
離型層13の上に紫外線硬化樹脂などのハードコート層21が形成され、その上に第1のアンカー層22が形成される。
【0027】
先に、部分マット層12と同時に黒色の位置合わせ用のマーク124を形成しているので、印刷工程においては、位置合わせ用のマーク124を光学的に検知して、第1のアンカー層22の上に、単色または多色の絵柄層22がグラビヤ印刷される。
【0028】
さらに、この絵柄層23の上に第2のアンカー層24を形成したのち、接着層25を形成して転写材が完成する。
【0029】
次に、このように構成された転写材を用いてインモールド成型品の表面に、マット調の色彩・図柄などの絵柄を付与する方法を図5の断面図に基づいて説明する。
【0030】
図5(a)の断面図に示すように、まず、対向して配置された可動金型51と固定金型52からなる成型用金型を開いて、基体シート1が可動金型51に接するように転写材1を挟み込む。このとき、位置合わせ機構を有する送り装置を使用して、転写材1の絵柄と成型用金型との見当が一致するように挟み込む。
【0031】
図5(b)の断面図に示すように、金型5を閉じてキャビティを形成した後、固定金型52に設けたゲート53より溶融樹脂をキャビティ内に射出して充満させ、成型品3を成型すると同時にその表面に転写層2を接着させる。
【0032】
図5(c)の断面図に示すように、樹脂成型品3を冷却した後、金型を開いて基体シート1を剥離する。そして、成型品3を取り出し、電子線または紫外線を照射することにより転写層2のハードコート層21を完全に架橋硬化させる。
【0033】
このように金型を開いて基体シート1を剥離すると、基体シート1の易接着面11に部分マット層12が離型層13とともに剥離されるので、部分マット層12がハードコート層21の表面に残存することはないのである。
【0034】
このようにして完成したハードコートされた成型品3の表面には、マット調の図柄Aを形成することができる。
【0035】
(第2の実施形態)
以下に説明する各実施の形態の説明においては、同一部分に同一符号を付して図示し、重複する説明は省略する。
【0036】
この発明の第2の実施形態において使用する転写材は、図2(a)の断面図に示すように、コロナ放電により表面に粗面処理を施した易接着面11を有するPETの基体シート1と、このPETの基体シート1の裏面(図示上側)に部分的に部分マット層121を形成し、基体シート1の表面(図示下側)の全面に離型層13を形成する。そして、この離型層13の上に紫外線硬化樹脂などのハードコート層21と、色彩・図柄などの絵柄層23と、アンカー層22、24と、接着層25とを積層して転写層2を形成したものである。
【0037】
この部分マット層121には、エポキシ樹脂とシリカ粉末とを混合して黒色に着色した混合物を使用するが、このシリカ粉末の粒径は、基体シート11の厚み(25〜38μm)に比して大きい0.1μm〜50μmの各種粒径のものを混合して使用する。
【0038】
このように構成された転写材を用いて第1の実施形態と同様に、成型用金型を用いて閉じた金型のキャビティ内に高温度の溶融樹脂を加圧して充満させると、図2の断面図(b)に示すように、部分マット層121の微細な凹凸に倣った微細な凹凸が、基体シート1上の離型層13の表面に形成することができる。すなわち、図2の断面図(c)に示すように、成型品のハードコート層21の表面にマット調の図柄Aを形成することができる。
【0039】
(第3の実施形態)
この発明の第3の実施形態は、マット調の図柄を深く形成するものであって、図3の断面図(a)および要部を拡大した断面図(b)に示すように、第1の実施形態と同様に、コロナ放電により表面に粗面処理を施した易接着面11を有するPETの基体シート1と、この基体シート1の易接着面11の上に部分的に形成された部分マット層12と、この部分マット層12および基体シート1の残余の易接着面11の全面に形成された離型層13と、この離型層13の上に形成された紫外線硬化樹脂などのハードコート層21と、色彩・図柄などの絵柄層23と、アンカー層22、24と、接着層25とを積層した転写層を形成したものである。
【0040】
第3の実施形態は、部分マット層12と対向する基体シート1の裏面にもダミーマット層122を形成したものである。このダミーマットマット層122は、表面の部分マット層12と同じ材料である必要はなく、また、基体シート1の裏面には、必ずしも粗面処理を施しなくてもよく、部分マット層12と同じ図柄であって、ある程度の厚みを有する図柄を形成できるものであればよいのである。
【0041】
第1の実施形態と同様に、成型用金型を用いてインモールド成型を行うと、図3(c)の断面図に示すように、金型を開いて基体シート1を剥離すると、基体シート1の易接着面11および基体シート1の裏面に形成した部分マット層12およびダミーマット層122が離型層13とともに剥離されるので、部分マット層12およびダミーマット層122がハードコート層21の表面に残存することはなく、深いマット調の図柄Aを形成することができる。
【0042】
(第4の実施形態)
この発明の第4の実施形態は、全面に微細な凹凸を有するマット調の下地とし、図柄を平坦面により形成するものである。
【0043】
図4の断面図(a)および要部を拡大した断面図(b)に示すように、コロナ放電によって表面に粗面処理を施した易接着面11を有するPETの基体シート1を用意し、この易接着面11上の全面に全面マット層123を形成する。
【0044】
この全面マット層123の表面の微細な凹凸を部分的にマスクして、図柄に合わせた平坦なマスク層26を形成する。このマスク層26には、エポキシ樹脂、メラミン樹脂を単独または両者を混合してパターン印刷する。この際、全面マット層123には着色せず、マスク層26を目視またはセンサーで検知できる色彩に着色して、絵柄層23の印刷工程および成型工程に便利ならしめる。
【0045】
マスク層26および残余の全面マット層123に離型層13と、紫外線硬化樹脂などのハードコート層21と、色彩・図柄などの絵柄層23と、アンカー層22、24と、接着層25とを積層した転写層2を形成したものである。
【0046】
第1の実施形態と同様に、この第4の実施形態の転写材によって、成型用金型を用いてインモールド成型を行い、金型を開いて基体シート1を剥離すると、図4の断面図(c)に示すように、基体シート1の易接着面11に形成した全面マット層123およびマスク層26が離型層13とともに剥離されるので、全面マット層123およびマスク層26がハードコート層21の表面に残存することはなく、マット調の下地Aの中に平坦面で図柄Bを形成することができる。
【0047】
以上で説明した各実施形態においては、基体シートとして表面をコロナ放電による粗面処理を施したものを使用しているが、粗面処理を施さない基体シートを用いても、実用可能なものを得ることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 基体シート
11 易接着面
12 部分マット層
120 全面マット層
13 離型層
2 転写材
21 ハードコート層
22 アンカー層
23 絵柄層
24 アンカー層
25 接着層
26 マスク層
3 成型品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シートと、
該基体シートの表面に部分的に形成された微細な凹凸を有する部分マット層と、
該部分マット層および上記基体シートの表面に形成された離型層と、
該離型層に形成されたハードコート層と、
該ハードコート層に形成された色彩・図柄などの加飾層と、
該加飾層に形成された接着層とを積層したことを特徴とする加飾成型用転写材。
【請求項2】
基体シートは表面に粗面処理を施した易接着面を有することを特徴とする請求項1に記載の加飾成型用転写材。
【請求項3】
基体シートと、
該基体シートの裏面に部分的に形成された微細な凹凸を有する部分マット層と、
該基体シートの表面に形成された離型層と、
該離型層に形成されたハードコート層と、
該ハードコート層に形成された色彩・図柄などの加飾層と、
該加飾層に形成された接着層とを積層したことを特徴とする加飾成型用転写材。
【請求項4】
基体シートと、
該基体シートの表面に部分的に形成された微細な凹凸を有する部分マット層と、
上記基体シートの裏面に形成され、上記部分マット層と対向するダミーマット層と、
該部分マット層および基体シートの上記易接着面に形成された離型層と、
該離型層に形成されたハードコート層と、
該ハードコート層に形成された色彩・図柄などの加飾層と、
該加飾層に形成された接着層とを積層したことを特徴とする加飾成型用転写材。
【請求項5】
基体シートは表面に粗面処理を施した易接着面を有することを特徴とする請求項4に記載の加飾成型用転写材。
【請求項6】
部分マット層を目視またはセンサーで検知できる色彩に着色したことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の加飾成型用転写材。
【請求項7】
位置合わせ用マークを部分マット層と同時に形成することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の加飾成型用転写材。
【請求項8】
基体シートと、
該基体シートの全面に形成された微細な凹凸を有する全面マット層と、
該全面マット層の表面の微細な凹凸を部分的にマスクして、図柄に合わせた平坦に形成された部分マスク層と、
該部分マスク層および上記全面マット層に形成された離型層と、
該離型層に形成されたハードコート層と、
該ハードコート層に形成された色彩・図柄などの加飾層と、
該加飾層に形成された接着層とを積層したことを特徴とする加飾成型用転写材。
【請求項9】
基体シートは表面に粗面処理を施した易接着面を有することを特徴とする請求項8に記載の加飾成型用転写材。
【請求項10】
部分マスク層を目視またはセンサーで検知できる色彩に着色したことを特徴とする請求項9に記載の加飾成型用転写材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−35483(P2012−35483A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176819(P2010−176819)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(591023859)株式会社千代田グラビヤ (13)
【Fターム(参考)】