説明

効率的な核初期化方法

【課題】人工多能性幹細胞の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法であって、少なくとも1種のmiRNAの存在下で核初期化因子により該体細胞を核初期化する工程を含み、ここで、該miRNAが該miRNAの存在下において該miRNAの非存在下の場合よりも高い核初期化効率を与える性質を有するmiRNAであり、並びに、該核初期化因子が(a)Octファミリーメンバー、(b)Octファミリーメンバー及びKlfファミリーメンバー、(c)Octファミリーメンバー及びNanog、或いは(d)Octファミリーメンバー、Klfファミリーメンバー及びMycファミリーメンバー、を少なくとも含むが、Soxファミリーメンバーを含まないことを特徴とする、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分化した体細胞を初期化して効率的に人工多能性幹細胞を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)はヒトやマウスの初期胚から樹立された幹細胞であり、生体に存在する全ての細胞へと分化できる多能性を維持したまま長期にわたって培養することができるという特徴を有している。この性質を利用してヒトES細胞はパーキンソン病、若年性糖尿病、白血病など多くの疾患に対する細胞移植療法の資源として期待されている。しかしながら、ES細胞の移植は臓器移植と同様に拒絶反応を惹起してしまうという問題がある。また、ヒト胚を破壊して樹立されるES細胞の利用に対しては倫理的見地から反対意見も多い。
【0003】
患者自身の分化体細胞を利用して脱分化を誘導し、ES細胞に近い多能性や増殖能を有する細胞(この細胞を本明細書において「人工多能性幹細胞」又は「iPS細胞」と言うが、この細胞は「誘導多能性幹細胞」、「胚性幹細胞様細胞」又は「ES様細胞」と呼ばれる場合もある)を樹立することができれば、拒絶反応や倫理的問題のない理想的な多能性細胞として利用できるものと期待される。最近、このiPS細胞をマウス及びヒトの分化体細胞から製造できることが報告され、極めて大きな反響を呼んでいる(国際公開WO2007/69666; Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007; Nature, 451, pp.141-147, 2008)。
【0004】
これらの方法では、複数の特定因子(Cell, 126, pp.1-14, 2006ではOct3/4、Sox2、Klf4、及びc-Mycの4因子が用いられている)を体細胞に導入して初期化を行う工程を含んでおり、因子の導入にはレトロウイルス又はレンチウイルスなどのウイルスベクターが用いられている。しかしながら、従来報告されている遺伝子導入による核初期化方法はいずれも効率が低く、人工多能性幹細胞がわずかしか得られないという問題を有している。特に、人工多能性幹細胞から分化した組織や人工多能性幹細胞から作製されたキメラマウスにおいて、腫瘍化が懸念されるc-Mycを除く3因子(Oct3/4、Sox2、及びKlf4)を体細胞に導入して初期化を行った場合には、人工多能性幹細胞の取得効率が非常に低いという問題がある。
【0005】
一方、細胞にはさまざまなスモールRNA(small RNA)が発現していることが知られている。スモールRNAとしては、例えば二本鎖RNA特異的RNaseであるDicerにより切り出される18〜25塩基程度のRNA分子などを挙げることができるが、このスモールRNAは主としてsiRNA(small interfering RNA)とmiRNA(microRNA、以下、本明細書において「miRNA」と略す)に分類される。スモールRNAはRNA干渉(RNAi)/miRNA分子機構を介して翻訳の抑制、mRNAの分解、又はクロマチンの構造変化などの過程で標的を見つけるためのガイド分子として機能することが知られている。また、スモールRNAが発生過程の制御にも重要な機能を有していることも知られている(例えば、総説として実験医学, 24, pp.814-819, 2006;microRNA実験プロトコール、pp20-35,2008,羊土社などを参照のこと)。
【0006】
胚性幹細胞(ES細胞)とmiRNAとの関係については、マウスES細胞において数種のmiRNAを含むmiRNAクラスターがES細胞特異的に発現していることが報告されており(Developmental cell, 5, pp.351-358, 2003)、miRNA-295ががん抑制遺伝子Rbファミリーメンバーの一つであるRbl2の発現を抑制し、さらにメチル化酵素の発現を上昇させることによってDNAのメチル化に関連しているとの報告もある(Nature Structural & Molecular Biology, 15, pp.259-267, 2008; Nature Structural & Molecular Biology, 15, pp. pp.268-279, 2008)。しかしながら、スモールRNAが体細胞の核初期化において何らかの機能を有することは従来全く知られていない。
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2007/69666
【非特許文献1】Cell, 126, pp.663-676, 2006
【非特許文献2】Cell, 131, pp.861-872, 2007
【非特許文献3】Science, 318, pp.1917-1920, 2007
【非特許文献4】Nature, 451, pp.141-147, 2008
【非特許文献5】実験医学, 24, pp.814-819, 2006(羊土社)
【非特許文献6】microRNA実験プロトコール、pp20-35,2008(羊土社)
【非特許文献7】Developmental cell, 5, pp.351-358, 2003
【非特許文献8】Nature Structural & Molecular Biology, 15, pp.259-267, 2008
【非特許文献9】Nature Structural & Molecular Biology, 15, pp.268-279, 2008
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、体細胞を初期化して人工多能性幹細胞を製造するにあたり、効率的に人工多能性幹細胞を製造するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定のmiRNAの存在下で核初期化を誘導する遺伝子を体細胞に導入すると効率的に人工多能性幹細胞を製造できることを見出した。
【0010】
すなわち、第1の態様において、本発明は、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法であって、少なくとも1種のmiRNAの存在下で核初期化因子(又は核初期化因子をコードするDNAの発現産物)により該体細胞を核初期化する工程を含み、該miRNAが該miRNAの存在下において該miRNAの非存在下の場合よりも高い核初期化効率を与える性質を有するmiRNAであり、並びに、該核初期化因子が(a)Octファミリーメンバー、(b)Octファミリーメンバー及びKlfファミリーメンバー、(c)Octファミリーメンバー及びNanog、或いは(d)Octファミリーメンバー、Klfファミリーメンバー及びMycファミリーメンバー、を少なくとも含むが、Soxファミリーメンバーを含まないことを特徴とする、上記方法を提供する。
【0011】
第2の態様において本発明は、体細胞から人工多能性幹細胞を誘導する際に核初期化の効率を高める方法であって、少なくとも1種のmiRNAの存在下で核初期化因子(又は核初期化因子をコードするDNAの発現産物)により該体細胞を核初期化し、これによって、生成される人工多能性幹細胞の細胞数が該miRNAの非存在下の場合よりも増大することを含み、該miRNAが該miRNAの存在下において該miRNAの非存在下の場合よりも高い核初期化効率を与える性質を有するmiRNAであり、並びに、該核初期化因子が(a)Octファミリーメンバー、(b)Octファミリーメンバー及びKlfファミリーメンバー、(c)Octファミリーメンバー及びNanog、或いは(d)Octファミリーメンバー、Klfファミリーメンバー及びMycファミリーメンバー、を少なくとも含むが、Soxファミリーメンバーを含まないことを特徴とする、上記方法を提供する。
【0012】
上記の各発明において、「高い核初期化効率」とは、miRNA存在下での人工多能性幹細胞のコロニー数がmiRNA非存在下と比べて多い場合をいい、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは3倍以上をいう。
【0013】
上記の各発明の実施形態において、miRNAが、胚性幹細胞において体細胞よりも高度にに発現しているmiRNAであり、好ましくは胚性幹細胞において発現し体細胞において全くもしくはほとんど発現しないmiRNAである。
【0014】
上記発明において、核初期化因子は、(a)Octファミリーメンバーの少なくとも1種の因子、(b)Octファミリーメンバーの少なくとも1種の因子とKlfファミリーメンバーの少なくとも1種の因子とからなる組み合せ、(c)Octファミリーメンバーの少なくとも1種の因子とNanogとからなる組み合わせ、(d)Octファミリーメンバーの少なくとも1種の因子、Klfファミリーメンバーの少なくとも1種の因子及びMycファミリーメンバーの少なくとも1種の因子からなる組み合わせ、を含むことができる。したがって、上記発明では、核初期化因子として、少なくとも1種のOctファミリーメンバーの因子を含むが、Soxファミリーメンバーの因子を含まないことが特徴である。
【0015】
上記発明の好ましい実施形態によれば、OctファミリーメンバーはOct3/4であり、KlfファミリーメンバーがKlf4であり、Mycファミリーメンバーがc-MycまたはL-Mycであり、またはSoxファミリーメンバーがSox2である。
【0016】
核初期化因子の好ましい組み合わせは、(a)Oct3/4、(b)Oct3/4及びKlf4、(c)Oct3/4及びNanog、或いは(d)Oct3/4、Klf4及びc-Mycである。
【0017】
また、別の好ましい実施形態によれば、上記方法は、核初期化因子をコードするDNAを含むベクター及び/又は少なくとも1種のmiRNAを体細胞中に導入することを含むことができる。或いは、上記方法は、核初期化因子をコードするDNAを含むベクター及び/又は少なくとも1種のmiRNAもしくはその前駆体RNAをコードするDNAを含むベクターを体細胞中に導入することを含むことができる。
【0018】
体細胞は、哺乳動物の体細胞であり、好ましくは霊長類、げっ歯類、有蹄類及びペット動物の体細胞、より好ましくはヒトの体細胞である。体細胞は、成体由来、新生児(仔)由来、或いは胎児(仔)由来のいずれでもよい。また、体細胞は、例えば、すべての組織由来の細胞、造血系細胞、リンパ系細胞、又は組織幹細胞(体性幹細胞)であってもよいし、或いは健常個体又は疾患をもつ個体由来の体細胞であってもよい。
【0019】
さらに別の好ましい実施形態によれば、miRNAが、後述の表1又は表2に記載されたmiRBaseデータベースの登録名又はアクセッション番号で特定されるRNA配列に含まれる1又は2以上のmiRNAである。すなわち、表1又は表2に記載されたmiRBaseデータベースの登録名(及びアクセッション番号)で特定されるRNA配列のうち、下記の群:hsa-miR-372、hsa-miR-373又はhsa-miR-373/373*、hsa-miR-371-373クラスター、hsa-miR-302b又はhsa-miR-302b/302b*、hsa-miR-302-367クラスター、hsa-miR-520c又はhsa-miR-520c-5p/520c-3p、mmu-miR-291a又はmmu-miR-291a-5p/291a-3p、mmu-miR-294又はmmu-miR-294/294*、及びmmu-miR-295又はmmu-miR-295/295*からなる群から選ばれる1又は2以上のRNA(記号はmiRBaseデータベースの登録名を示す)に含まれる1又は2以上のmiRNAである。或いは、miRNAが、配列表の配列番号1〜14から選択される、好ましくは配列番号1〜5、10〜12及び14から選択される、1又は2以上のRNA配列に含まれる1又は2以上のmiRNAである。上記登録名の「hsa」はヒト(Homo sapiens)、「mmu」はマウス(Mus musculus)をそれぞれ表す記号である。
【0020】
上記発明の実施形態において、miRNAは、18〜25塩基からなる塩基配列を有する。miRNAの好ましい塩基サイズは20〜25塩基、より好ましい塩基サイズは21〜23塩基である。
【0021】
第3の態様において、本発明はさらに、上記の方法により得られることができる人工多能性幹細胞を提供する。また、本発明は、このようにして得られた人工多能性幹細胞から分化誘導された体細胞も提供する。
【0022】
さらに本発明により、幹細胞療法であって、患者から分離採取した体細胞を用いて上記の方法により得られた人工多能性幹細胞を分化誘導して得られる体細胞を該患者に移植する工程を含む療法が提供される。
【0023】
さらに本発明は、上記の方法により得られた人工多能性幹細胞を分化誘導して得られる各種細胞を用いて、化合物、薬剤、毒物などの生理作用や毒性を評価する方法を提供する。
【0024】
さらに本発明は、胚性幹細胞において体細胞よりも高度に発現しているmiRNAであって、該miRNAの存在下において該miRNAの非存在下の場合よりも高い核初期化効率を与える性質を有するmiRNAの、人工多能性幹細胞の製造のための使用を提供する。
【0025】
さらに本発明は、胚性幹細胞において体細胞よりも高度に発現しているmiRNAであって、該miRNAの存在下において該miRNAの非存在下の場合よりも高い核初期化効率を与える性質を有するmiRNAの、体細胞の核初期化のための使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本明細書中で使用される用語は、以下の意味を包含する。その他の用語は、当業界で一般的に使用される意味を含むことが意図されている。
【0027】
本明細書で使用される「人工多能性幹細胞」又は「iPS細胞」という用語は、人工的に作製された分化多能性を有する細胞であり、いわゆる胚性幹(ES)細胞ではないがES細胞に類似した特性を有する細胞である。この細胞は、Takahashi及びYamanaka(Cell 126:663-676 (2006))によってマウス体細胞からはじめて樹立され、その後、ヒト体細胞からも同様に樹立可能であることが示されている(国際公開WO2007/069666;Takahashi, K.ら, Cell 131:861-872 (2007):Yu, J.ら,Science 318:1917-1920 (2007);Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008))。iPS細胞は、動物の体を構成する種々の細胞に分化する能力(すなわち、分化多能性)、核型を保持したまま半永久的に増殖し続ける能力、ES細胞が通常発現する遺伝子群が同様に発現されている、などの特徴を有するために、体細胞の初期化(すなわち、再プログラム化(reprogramming))によって人工的に誘導された細胞であり、分化した体細胞の特性と明らかな相違を示す。
【0028】
本明細書で使用する「初期化」又は「核初期化」という用語は、再プログラム化とも称され、分化した細胞が、未分化細胞、特に分化多能性細胞に誘導、変換される過程及び手段を指す。初期化という現象はもともと、脱核した未受精卵に体細胞の核を注入する、ES細胞を体細胞と融合させる、などの方法によって観察されてきたが、本発明における初期化では、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞に依存することなく、体細胞からiPS細胞への初期化を起こすことができる。
【0029】
このような初期化を可能にする因子が、初期化因子又は核初期化因子である。本明細書で使用される初期化因子は、蛋白質、核酸或いはそれらの組み合わせを含む。初期化因子として公知のものは、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、Lin28などを含むOctファミリー、Soxファミリー、Klfファミリー、Mycファミリー、Linファミリーなどの初期化因子ファミリーから選択される初期化因子の組合せである。
【0030】
なお、本明細書では、初期化因子の遺伝子名は、特に断らない限り、哺乳動物の種類を問わず同じ遺伝子名、例えばOct、Nanog、Sox、Klf、Myc、Linなどの記号を使用する。すなわち、これらの遺伝子名は、通常マウスの遺伝子名として使用されるが、特に断らない限り、本明細書ではマウスのみならず、ヒトやその他の哺乳動物の場合にも上記遺伝子名を使用することにする。
【0031】
また、Oct3/4は、Oct3 、Oct4又はPOU5F1と称されることがあり、いずれも同一の転写因子を指す。本明細書では、これらを総称してOct3/4と呼ぶことにする。
【0032】
本明細書で使用する「DNA」という用語は、ゲノムDNA、遺伝子、cDNAなどのデオキシリボ核酸を包含する意味である。
【0033】
本明細書で使用する「体細胞」とは、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞又は分化全能性細胞を除くあらゆる哺乳動物細胞をいう。
【0034】
本明細書で使用する「哺乳動物」は、すべての哺乳動物を含むことを意図している。特に好ましい哺乳動物には、霊長類、げっ歯類、有蹄類、ペット動物などが含まれる。
【0035】
本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の方法は、人工多能性幹細胞の製造方法であり、miRNAの存在下で核初期化因子により核初期化する工程を含み、該miRNAが該miRNAの存在下において該miRNAの非存在下の場合よりも高い核初期化効率を与える性質を有するmiRNAであることを特徴としている。
【0036】
本発明の別の方法は、体細胞から人工多能性幹細胞を誘導する際に核初期化の効率を高める方法であり、少なくとも1種のmiRNAの存在下で核初期化因子により該体細胞を核初期化し、これによって、生成する人工多能性幹細胞のコロニー数(又は、細胞数でもよい)が該miRNAの非存在下の場合よりも増大することを含み、ここで、該miRNAが該miRNAの存在下において該miRNAの非存在下の場合よりも高い核初期化効率を与える性質を有するmiRNAであることを特徴とする。
【0037】
すなわち、上記の2つの方法は、該miRNAが(a)胚性幹細胞において体細胞よりも高度に発現しており、かつ(b)該miRNAの存在下において該miRNAの非存在下の場合よりも高い核初期化効率を与える性質を有するmiRNAであることを特徴としている。
【0038】
miRNAについては、例えば、実験医学, 24, pp.814-819, 2006;microRNA実験プロトコール、pp20-35,2008,羊土社などに分類、生体内での機能などが説明されている。miRNAの塩基数は、例えば18〜25、好ましくは20〜25、さらに好ましくは21〜23である。現時点で約1,000個程度のmiRNA情報を格納したデータベースを利用することができ(例えばmiRBase、http://microrna.sanger.ac.uk/sequences/ index.shtml)、当業者はこのデータベースから任意のmiRNA情報を引き出すことができ、胚性幹細胞において体細胞よりも高度に発現しているmiRNAを容易に抽出することが可能である。また、miRNAマイクロアレイやリアルタイムPCRなど当業者に利用可能な手法を用いて胚性幹細胞と体細胞との間でmiRNAの発現の違いを確認することにより、胚性幹細胞において体細胞よりも高度に発現しているmiRNAを容易に特定することが可能である。
【0039】
また、miRNAの存在下及び非存在下における核初期化効率の変化については、本明細書の実施例に具体的に示されたように、ES細胞で特異的に発現しているNanog遺伝子のプロモーター領域の下流にEGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein )とpuromycinの耐性遺伝子をコードする配列をつないだトランスジェニックマウス(Nanog-IRES-Puroマウス)作製し、このマウス由来の線維芽細胞に、核初期化因子又は核初期化因子をコードするDNAを含むベクターと各種のmiRNA又はmiRNAもしくはその前駆体RNAをコードするDNAを含むベクターを導入して核初期化を誘導し、人工多能性幹細胞の生成効率を確認すればよい。生成効率は、例えばGFP陽性コロニー数を計測することにより行うことができるが、より具体的には、上記ベクター及びmiRNA導入後約21日目から薬剤選択を開始し、約28日目に全体のコロニー数とNanog GFP陽性コロニー数(Nanogプロモーターによって発現が誘導されるGFPを蛍光顕微鏡で確認することができる)を観察して、コロニー数を比較することができる。もっとも、核初期化効率の確認は上記の方法に限定されることはなく、上記の方法には適宜の変更や改変が可能であり、当業者が適当な方法を採用できることは言うまでもない。
【0040】
miRNAとしては、初期化すべき体細胞と同じ動物種由来のmiRNAを用いることが好ましい。miRNAとしては野生型のmiRNAのほか、野生型miRNAの塩基配列において数個(例えば1〜6個、好ましくは1〜4個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1又は2個、特に好ましくは1個)の塩基が置換、挿入、及び/又は欠失したmiRNAであって、生体内で野生型miRNAと同様の機能を発揮可能なmiRNAを用いることもできる。
【0041】
本発明の方法において好ましく用いられるmiRNAとして、例えばmiRBaseに登録された下記のRNA配列:hsa-miR-372 (MI0000780)、hsa-miR-373 (MI0000781)、hsa-miR-302b (MI0000772)、hsa-miR-302c (MI0000773)、hsa-miR-302a (MI0000738)、hsa-miR-302d (MI0000774)、hsa-miR-367 (MI0000775)、hsa-miR-520c (MI0003158)、mmu-miR-291a (MI0000389)、mmu-miR-294 (MI0000392)、及びmmu-miR-295 (MI0000393)(カッコ内はそれぞれmiRBaseのアクセッション番号を示し、hsa-miR-はヒトmiRNA、mmu-miR-はマウスmiRNAを示す)に含まれる1又は2以上のmiRNAを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0042】
本発明の方法においては、このようにして核初期化効率を高めることが確認されたmiRNAを単独で用いてもよいが、2種以上組み合わせて用いることもできる。また、クラスターを形成している複数のmiRNAを用いることもでき、例えばmiRNAクラスターを含むRNA配列としてhsa-miR-302-367などを利用することもできる。これらのmiRNAを利用するためのRNA配列の例を配列表の配列番号1〜14に示す。配列番号1: mmu-miR-294 (MI0000392); 配列番号2: mmu-miR-295 (MI0000393); 配列番号3: hsa-miR-372 (MI0000780); 配列番号4: hsa-miR-373 (MI0000781); 配列番号5: hsa-miR-302b (MI0000772); 配列番号6: hsa-miR-302c (MI0000773); 配列番号7: hsa-miR-302a (MI0000738); 配列番号8: hsa-miR-302d (MI0000774); 配列番号9: hsa-miR-367 (MI0000775); 配列番号10: hsa-miR-520c (MI0003158);配列番号11: mmu-miR-291a MI0000389;配列番号12: hsa-miR-302b-367クラスター;配列番号13: mmu-miR-290 (MI0000388);及び配列番号14: hsa-miR-371-373 クラスター。これらのRNA配列のなかには1つの配列中に複数のmiRNAを含むRNA配列が含まれており、このようなRNA配列を利用することにより効率的なiPS細胞の製造が可能になる。さらに、1つの配列中に複数のmiRNAを含むRNA配列とその他の1又は2以上のmiRNAを含む1又は2以上のRNA配列とを組み合わせて利用することも可能である。本発明において、好ましくは、miRNAが配列表の配列番号1〜5、10〜12及び14から選択される1又は2以上のRNA配列に含まれる1又は2以上のmiRNAである。
【0043】
miRNA は、タンパク質に翻訳されない非コードRNAである。miRNAは、対応する遺伝子からpri-miRNA が先ず転写され、次にこのpri-miRNAからプロセシングにより特徴的なヘアピン構造を有する約60〜約120塩基又はそれ以上のpre-miRNAが生成し、さらにこのpre-miRNAがDicerが介在したプロセシングを受けることによって生成する。本発明においては本発明の効果を損なわない限り、成熟型のmiRNAのみならず、その前駆体RNAとしてのpri-miRNA又はpre-miRNA、或いはこれらのRNAをコードし生成可能にするDNA(例えばベクター)を用いてもよい。また、本発明で用いるmiRNAは、天然型のRNAのみならず、非天然型のRNAでもよい。
【0044】
本発明で用いるmiRNAの製造方法は特に限定されないが、例えば、化学合成方法、又は遺伝子組換え技術による方法で製造することができる。遺伝子組換え技術による方法で製造する場合には、遺伝子組換えにより取得したDNAテンプレートとRNAポリメラーゼを用いて転写反応を行うことによって本発明で用いるmiRNAを製造することができる。RNAポリメラーゼとしては、例えば、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ又はSP6 RNAポリメラーゼなどを用いることができる。
【0045】
あるいは、miRNA又はその前駆体RNA(pri-miRNAもしくはpre-miRNA)をコードするDNAを発現調節配列(プロモーター、エンハンサー等)の制御下に置かれるように適当なベクター内に組み込むことによって、miRNAを発現可能な組換えベクターを製造することができる。ここで用いるベクターの種類は特に限定されないが、好ましくはDNAベクターであり、例えば、ウイルスベクター、プラスミドベクターなどを挙げることができる。ウイルスベクターとしては、特に限定されないが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどを用いることができる。また上記のプラスミドとしては、当業者にはよく知られた哺乳類細胞用の発現プラスミドを用いることができる。
【0046】
核初期化工程においてmiRNAを存在させる手段は特に限定されないが、例えば、miRNAを体細胞の核内に直接注入する方法やmiRNAを発現可能な組換えベクターを体細胞に導入する方法などが挙げられる。もっとも、これらの方法に限定されることはない。
【0047】
組換えベクターを体細胞に導入する方法も特に限定されず、当業者に公知の方法で行うことができる。例えば、トランスフェクション、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム沈澱法、リポソーム媒介トランスフェクション、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、エレクトロポレーションなどによる方法などを用いることができる。
【0048】
核初期化因子を確認する手段としては、例えば、国際公開WO 2005/80598に記載された核初期化因子のスクリーニング方法を利用することができる。上記刊行物の全ての開示を参照により本明細書の開示に含める。当業者は上記刊行物を参照することにより核初期化因子をスクリーニングし、本発明の方法に利用することができる。また、上記のスクリーニング方法に適宜の変更又は改変を加えた方法を用いて核初期化因子を確認することもできる。
【0049】
初期化因子をコードするDNA(又は初期化因子遺伝子)の組み合わせの一例が国際公開WO2007/69666に開示されている。上記刊行物の全ての開示を参照により本明細書の開示に含める。当業者は上記刊行物を参照することにより本発明の方法に好適に使用可能な初期化因子遺伝子を適宜選択することが可能である。また、初期化因子遺伝子の組み合わせの別の例がScience, 318, pp.1917-1920, 2007、Cell Stem Cell, 3, pp.568-574, 2008などに記載されている。従って、当業者は核初期化因子遺伝子の組み合わせの多様性を理解することができ、国際公開WO 2005/80598に記載された核初期化因子のスクリーニング方法を利用することにより、国際公開WO2007/69666、Science, 318, pp.1917-1920, 2007、及びCell Stem Cell, 3, pp.568-574, 2008に記載された組み合わせ以外の適宜の初期化因子遺伝子の組み合わせを本発明の方法において利用できる。
【0050】
本発明の方法において使用可能な初期化因子又は該初期化因子をコードするDNAとして、Octファミリーメンバー、Klfファミリーメンバー、Soxファミリーメンバー、Mycファミリーメンバー、Linファミリーメンバー、及びNanogからなる群から選ばれる1種以上の初期化因子又は該初期化因子をコードするDNAを挙げることができる。好ましくは、該核初期化因子は、(a)Octファミリーメンバー、(b)Octファミリーメンバー及びKlfファミリーメンバー、(c)Octファミリーメンバー及びNanog、或いは(d)Octファミリーメンバー、Klfファミリーメンバー及びMycファミリーメンバー、を少なくとも含むが、Soxファミリーメンバーを含まない。
【0051】
Octファミリーメンバー、Klfファミリーメンバー、Soxファミリーメンバー、Mycファミリーメンバー、或いはそれらをコードするDNAについては国際公開WO2007/69666にファミリー遺伝子の具体例が示されている。Linファミリー遺伝子についても当業者は同様に該LinファミリーメンバーをコードするDNAを抽出することが可能である。これらのファミリーメンバーの好ましい例は、OctファミリーメンバーがOct3/4であり、KlfファミリーメンバーがKlf4であり、Mycファミリーメンバーがc-MycまたはL-Mycであり、SoxファミリーメンバーがSox2であり、又はLinファミリーメンバーがLin28である。
【0052】
初期化因子をコードするDNAの組み合わせの例は、
(a) Octファミリーメンバー及びSoxファミリーメンバーからなる2種の初期化因子をコードするDNAの組み合わせ;
(b) Octファミリーメンバー、Klfファミリーメンバー、及びSoxファミリーメンバーからなる3種の初期化因子をコードするDNAの組み合わせ;
(c) Octファミリーメンバー、Soxファミリーメンバー、Linファミリーメンバー、及びNanogからなる4種の初期化因子をコードするDNAの組み合わせ;
(d) Octファミリーメンバー、Klfファミリーメンバー、Soxファミリーメンバー及びMycファミリーメンバーからなる4種の初期化因子をコードするDNAの組み合わせ;
(e) Octファミリーメンバーからなる1種の初期化因子をコードするDNA;
(f) Octファミリーメンバー及びKlfファミリーメンバーからなる2種の初期化因子をコードするDNAの組合せ;
(g)Octファミリーメンバー及びNanogからなる2種の初期化因子をコードするDNAの組合せ;
(h) Octファミリーメンバー、Klfファミリーメンバー及びMycファミリーメンバーからなる3種の初期化因子をコードするDNAの組合せ;
などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0053】
本発明において特に好ましい初期化因子をコードするDNAの組み合わせは、
(1)Oct3/4からなる1種の初期化因子をコードするDNA;
(2)Oct3/4及びKlf4からなる2種の初期化因子をコードするDNAの組み合わせ;
(3)Oct3/4及びNanogからなる2種の初期化因子をコードするDNAの組み合わせ;
(4)Oct3/4、Klf4及びc-Mycからなる3種の初期化因子をコードするDNAの組み合わせ;
などである。
【0054】
これらのDNAはいずれも、動物、とりわけヒトを含む哺乳動物において共通して存在する遺伝子であり、本発明において上記DNAを利用するためには、任意の哺乳動物由来(例えばヒト、サルなどの霊長類、マウス、ラットなどのげっ歯類、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなどの有蹄類などの哺乳動物由来)の遺伝子又はcDNAを用いることが可能である。また、野生型の遺伝子産物のほか、数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1〜3個、特に好ましくは1又は2個)のアミノ酸が置換、挿入、及び/又は欠失した変異遺伝子産物であって、野生型の遺伝子産物と同様の機能を有する遺伝子産物も利用可能である。例えば、c-Mycの遺伝子産物としては野生型のほか安定型(T58A)などを用いてもよい。他の遺伝子産物についても同様である。
【0055】
また、上記のDNAに加えて、細胞の不死化を誘導する因子をコードするDNAをさらに組み合わせてもよい。国際公開WO2007/69666に開示されているように、例えば、TERT、SV40 Large T antigen、HPV16 E6、HPV16 E7、及びBmilからなる群から選ばれる1種以上の遺伝子(又はcDNA)を単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
【0056】
さらにまた、上記のDNA又は遺伝子に加えて、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、及びβ-cateninからなる群から選ばれる1種以上の遺伝子(cDNA)を組み合わせてもよく、及び/又はECAT1、Esg1、Dnmt3L、ECAT8、Gdf3、Mybl2、ECAT15-1、Fthl17、Sall4、Rex1、UTF1、Stella、Stat3、及びGrb2からなる群から選ばれる1種以上の遺伝子(cDNA)を組み合わせることもできる。これらの組み合わせについては国際公開WO2007/69666に具体的に説明されている。
【0057】
上記の初期化因子、例えばOct3/4、Nanog、Lin28、Lin28b、ECAT1、ECAT2(ESG1とも称する)、ECAT3(Fbx15とも称する)、ECAT5(Erasとも称する)、ECAT7、ECAT8、ECAT9(Gdf3とも称する)、ECAT10(Sox15とも称する)、ECAT15-1(Dppa4とも称する)、ECAT15-2(Dppa2とも称する)、Fthl17、Sall4、Rex1(Zfp42とも称する)、Utf1、Tcl1、Stella(Dppa3とも称する)、β-catenin(Ctnnb1とも称する)、Stat3、Grb2、c-Myc、Sox1、Sox2、Sox3、Sox4、Sox11、Mybl2、N-Myc、L-Myc、Klf1、Klf2、Klf4、Klf5(以上、国際公開WO2007/069666)、FoxD3、ZNF206、Mybl2、Otx2(以上、国際公開WO2008/118820)などの配列のGenBank登録番号(ヒト、マウス、ラット)は以下のとおりである。これらの因子の各アミノ酸及びヌクレオチド配列は、GenBank(米国NCBI)にアクセスすることによって入手することができる。
【0058】
Oct3/4について、例えばヒトOct3/4、マウスOct3/4、ラットOct3/4の配列は、それぞれ、NM_203289又はNM_002701、NM_013633、NM_001009178として登録されている。
【0059】
Nanogについて、例えばヒトNanog、マウスNanog、ラットNanogの配列は、それぞれ、NM_024865、NM_028016、NM_001100781として登録されている。
【0060】
Lin28について、例えばヒトLin28、マウスLin28、ラットLin28の配列は、それぞれ、NM_024674、NM_145833、NM_001109269として登録されている。
【0061】
Lin28に類似の因子として、同じLinファミリーに属するLin28bが知られている。Lin28bについては、たとえばヒトLin28b、マウスLin28bの配列は、それぞれ、NM_001004317、NM_001031772として登録されている。
【0062】
ECAT1について、ヒトECAT1、マウスECAT1の配列は、それぞれ、AB211062、AB211060として登録されている。
【0063】
ECAT2について、ヒトECAT2、マウスECAT2の配列は、それぞれ、NM_001025290、NM_025274として登録されている。
【0064】
ECAT3について、ヒトECAT3、マウスECAT3の配列は、それぞれ、NM_152676、NM_015798として登録されている。
【0065】
ECAT5について、ヒトECAT5、マウスECAT5の配列は、それぞれ、NM_181532、NM_181548として登録されている。
【0066】
ECAT7について、ヒトECAT7、マウスECAT7の配列は、それぞれ、NM_013369、NM_019448として登録されている。
【0067】
ECAT8について、ヒトECAT8、マウスECAT8の配列は、それぞれ、AB211063、AB211061として登録されている。
【0068】
ECAT9について、ヒトECAT9、マウスECAT9の配列は、それぞれ、NM_020634、NM_008108として登録されている。
【0069】
ECAT10について、ヒトECAT10、マウスECAT10の配列は、それぞれ、NM_006942、NM_009235として登録されている。
【0070】
ECAT15-1について、ヒトECAT15-1、マウスECAT15-1の配列は、それぞれ、NM_018189、NM_028610として登録されている。
【0071】
ECAT15-2について、ヒトECAT15-2、マウスECAT15-2の配列は、それぞれ、NM_138815、NM_028615として登録されている。
【0072】
Fthl17について、ヒトFthl17、マウスFthl17の配列は、NM_031894、NM_031261として登録されている。
【0073】
Sal14について、ヒトSal14、マウスSal14の配列は、それぞれ、NM_020436、NM_175303として登録されている。
【0074】
Rex1について、ヒトRex1、マウスRex1の配列は、それぞれ、NM_174900、NM_009556として登録されている。
【0075】
Utf1について、ヒトUtf1、マウスUtf1の配列は、それぞれ、NM_003577、NM_009482として登録されている。
【0076】
Tcl1について、ヒトTcl1、マウスTcl1の配列は、それぞれ、NM_021966、NM_009337として登録されている。
【0077】
Stellaについて、ヒトStella、マウスStellaの配列は、それぞれ、NM_199286、NM_139218として登録されている。
【0078】
β-cateninについて、ヒトβ-catenin、マウスβ-cateninの配列は、それぞれ、NM_001904、NM_007614として登録されている。
【0079】
Stat3について、ヒトStat3、マウスStat3の配列は、それぞれ、NM_139276、NM_213659として登録されている。
【0080】
Grb2について、ヒトGrb2、マウスGrb2の配列は、それぞれ、NM_002086、NM_008163として登録されている。
【0081】
FoxD3について、ヒトFoxD3、マウスFoxD3の配列は、それぞれ、NM_012183、NM_010425として登録されている。
【0082】
ZNF206について、ヒトZNF206、マウスZNF206の配列は、それぞれ、NM_032805、NM_001033425として登録されている。
【0083】
Mybl2について、ヒトMybl2、マウスMybl2の配列は、それぞれ、NM_002466、NM_008652として登録されている。
【0084】
Otx2について、ヒトOtx2、マウスOtx2の配列は、それぞれ、NM_172337、NM_144841として登録されている。
【0085】
c-Mycについて、ヒトc-Myc、マウスc-Mycの配列は、それぞれ、NM_002467、NM_010849として登録されている。
【0086】
N-Mycについて、ヒトN-Myc、マウスN-Mycの配列は、それぞれ、NM_005378、NM_008709として登録されている。
【0087】
L-Mycについて、ヒトL-Myc、マウスL-Mycの配列は、それぞれ、NM_005376、NM_008506として登録されている。
【0088】
Sox1について、ヒトSox1、マウスSox1の配列は、それぞれ、NM_005986、NM_009233として登録されている。
【0089】
Sox2について、ヒトSox2、マウスSox2の配列は、それぞれ、NM_003106、NM_011443として登録されている。
【0090】
Sox3について、ヒトSox3、マウスSox3の配列は、それぞれ、NM_005634、NM_009237として登録されている。
【0091】
Sox4について、ヒトSox4、マウスSox4の配列は、それぞれ、NM_003107、NM_009238として登録されている。
【0092】
Sox11について、ヒトSox11、マウスSox11の配列は、それぞれ、NM_003108、NM_009234として登録されている。
【0093】
Mybl2について、ヒトMybl2、マウスMybl2の配列は、それぞれ、NM_002466、NM_008652として登録されている。
【0094】
Klf1について、ヒトKlf1、マウスKlf1の配列は、それぞれNM_006563、NM_010635として登録されている。
【0095】
Klf2について、ヒトKlf2、マウスKlf2の配列は、それぞれ、NM_016270、NM_008452として登録されている。
【0096】
Klf4について、ヒトKlf4、マウスKlf4の配列は、それぞれ、NM_004235、NM_010637として登録されている。
【0097】
Klf5について、ヒトKlf5、マウスKlf5の配列は、それぞれ、NM_001730、NM_009769として登録されている。
【0098】
本発明の方法では、初期化因子は、タンパク質(もしくはポリペプチド)又は核酸(もしくはポリヌクレオチド)のいずれかの形態で使用することができる。このようなタンパク質又は核酸は、PCR(polymerase chain reaction)技術、遺伝子組換え技術、ハイブリダイゼーションなどの慣用技術を使用することによって作製することができるし、また、ある動物種由来の既知の核酸の配列に基いて、他の動物種由来の類縁の核酸を組織又はゲノムライブラリーから分離することができる。そのための一般的な技術は、例えばSambrook, J.ら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Ausubel, F.M.ら,Short protocols in Molecular Biology: A Compendium Methods from Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1999)などに記載されている。
【0099】
本発明の核初期化因子には、核初期化因子として機能することができる他の遺伝子産物のほか、分化、発生、又は増殖などに関係する因子あるいはその他の生理活性を有する因子を1又は2以上含むことができ、そのような態様も本発明の範囲に包含されることは言うまでもない。
【0100】
さらにまた、人工多能性幹細胞の樹立効率をさらに高めるために、上記のmiRNAの他に、例えば塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、幹細胞因子(SCF)などのサイトカインを培地に添加してもよいし、或いは、バルプロ酸などのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、5’-アザシチジンなどのDNAメチル化酵素阻害剤、BIX01294(BIX)などのヒストンメチル基転移酵素(G9a)阻害剤などの低分子化合物を細胞内に導入してもよい(D. Huangfuら, Nat. Biotechnol., 26, pp.795-797, 2008; S. Kubicekら, Mol. Cell, 25, pp.473-481, 2007; Y. Shiら, Cell Stem Cell, 3, 568-574, 2008, Yan Shiら, Cell Stem Cell, 2, pp.525-528, 2008)。またp53に対するshRNAやsiRNAなどのp53阻害剤や、UTF1を細胞内に導入しても良い(Yang Zhaoら, Cell Stem Cell, 3, pp475-479, 2008)。他にもシグナル伝達に関して、Wntシグナルの活性化(Marson A.ら, Cell Stem Cell, 3, pp132-135, 2008)、mitogen-activated protein kinaseおよびglycogen synthase kinase-3シグナル伝達の阻害(Silva J.ら, PloS Biology, 6, pp2237-2247 2008)なども、人工多能性幹細胞の樹立効率を高めることができる。
【0101】
初期化すべき体細胞において上記の核初期化因子遺伝子のうちの1種又は2種以上の遺伝子の遺伝子産物がすでに発現している場合には、そのような遺伝子産物を、導入すべき因子から除外することができる。例えば、すでに発現している遺伝子以外の1種又は2種以上のDNAを体細胞に導入するときには、任意の遺伝子導入方法、例えばベクターを用いる方法などで導入することができる。ベクターは、例えばウイルスベクター、プラスミド、人工染色体などであり、特に制限されないものとする。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれ、このうちHAC及びYACは、セントロメア、2つのテロメア及び染色体断片を含むミニ染色体である。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドが使用されうる。核初期化因子をコードするDNAの2種類又はそれ以上を体細胞内に導入する場合には、それら複数のDNAをタンデムに結合したカセットを作製し、各DNAには、それが発現可能なようにプロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を連結し、このカセットをベクターに挿入するか、或いは、各DNAを、それぞれ異なるベクターに発現可能なように挿入することができる。また、このようなベクターには、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、GUS(β-gluclonidase)、FLAGなどのレポーターの遺伝子配列などを含んでもよい。
【0102】
また、核初期化因子は、該初期化因子をコードするDNAから産生されるタンパク質自体のほか、該タンパク質とその他のポリペプチド又はペプチドなどとの融合タンパク質の形態であってもよい。そのようなポリペプチド又はペプチドには、該初期化因子タンパク質の精製を容易にするためのヒスチジンタグ、細胞膜からの核初期化因子の細胞内取り込みを促進するためのHIVウイルス由来のTATペプチドなどが含まれる。
【0103】
本明細書において人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、上記定義のようにES細胞に類似した特性を有する細胞であり、具体的には、体細胞より初期化された未分化細胞であって多能性及び増殖能を有する細胞を包含するが、この用語をいかなる意味においても限定的に解釈してはならず、最も広義に解釈する必要がある。核初期化因子を用いて人工多能性幹細胞を調製する方法については国際公開WO2005/80598に説明されており(上記公報においてはES様細胞という用語が用いられている)、人工多能性幹細胞の分離手段についても具体的に説明されている。また、国際公開WO2007/69666には初期化因子の具体例及びその初期化因子を用いた体細胞の初期化方法の具体例が開示されている。従って、本発明を実施するにあたり当業者はこれらの刊行物を参照することができる。
【0104】
本発明の方法により体細胞から人工多能性幹細胞を調製する方法は特に限定されず、体細胞及び人工多能性幹細胞が増殖可能な環境においてmiRNAの存在下で核初期化因子により体細胞を核初期化できる方法であれば、いかなる方法を採用してもよい。例えば、核初期化因子をコードするDNAを発現可能にするベクターを用いて該DNAを体細胞に導入し、同時に、あるいは時間を変えてmiRNA、或いはmiRNA又はその前駆体RNAであるpri-miRNAやpre-miRNA(すなわち、前駆体RNA)を発現可能にする組換えベクター、を体細胞に導入するなどの手段を採用してもよい。このようなベクターを用いる場合には、ベクターに2種以上のDNAを組み込んでそれぞれのDNAを体細胞において同時に発現させてもよい。
【0105】
上記核初期化因子をコードするDNAを発現可能にするベクター及び/又はmiRNA(miRNAを発現可能にするベクター)を体細胞に導入する場合には、フィーダー細胞上に培養された体細胞、或いは体細胞のみに、該ベクター及びmiRNAを導入することができる。ベクターやmiRNAの導入のために、公知の手法、例えばマイクロインジェクション、リポソーム、リポフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム法、ウイルス感染などを利用することができる。レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどのウイルス感染を用いる方法は、例えば、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007などに記載されている。アデノウイルスベクターを用いる場合については、Science, 322, 945-949 (2008) に記載されている。またプラスミドを用いる具体的手段は、例えばScience, 322, 949-953 (2008) 等に記載されている。
【0106】
フィーダー細胞としては胚性幹細胞の培養に用いられるフィーダー細胞を適宜使用することができるが、例えば、マウス14〜15日胚の線維芽細胞の初代培養細胞や線維芽細胞由来細胞株であるSTO細胞等をマイトマイシンCなどの薬剤で処理した細胞や放射線処理した細胞などを用いることができる。
【0107】
あるいは、核初期化因子をコードするDNAを含む発現ベクター及び/又はmiRNAもしくはその前駆体RNAをコードするDNAを含む発現ベクター(この場合、同一ベクター上に初期化因子をコードするDNA及びmiRNAもしくはその前駆体RNAをコードするDNAが含まれていてもよい)を用いて体細胞に導入して人工多能性幹細胞を得ることができる。このとき、初期化因子及びmiRNAもしくはその前駆体RNAをコードするDNAを導入した体細胞を適する条件下で培養することにより、体細胞内で自律的に初期化が進行し、体細胞から人工多能性幹細胞を誘導することができる。
【0108】
人工多能性幹(iPS)細胞の誘導のための培養培地としては、非限定的に、例えば(1) 10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培地(これらの培地にはさらに、LIF(leukemia inhibiting factor)、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)、(2) bFGF又はSCFを含有するES細胞培養用培地、例えばマウスES細胞培養用培地(例えばTX-WES培地、トロンボX社)又は霊長類ES細胞培養用培地(例えば霊長類(ヒト&サル)ES細胞用培地、リプロセル)、などが含まれる。
【0109】
培養手順の例として、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS含有DMEM又はDMEM/F12培地上で体細胞と初期化因子又は初期化因子をコードするDNA(好ましくは、ベクター)を接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細胞と初期化因子又は初期化因子をコードするDNAの接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培地で培養し、該接触から約30〜約45日又はそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。この培養手順は、ヒトiPS細胞などの霊長類iPS細胞の誘導に適している。
【0110】
或いは、その代替例として、37℃、5% CO2存在下にて、フィーダー細胞(マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培地(これにはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日又はそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。この培養手順は、マウスiPS細胞などのげっ歯類iPS細胞の誘導に使用される。
【0111】
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培地と培地交換を行う。また、初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103〜約5×106細胞の範囲である。
【0112】
ディッシュ上の上記iPS様コロニーを、トリプシン及びコラゲナーゼIVを含む溶液(CTK溶液)を用いて処理し、残ったコロニーを上記フィーダー細胞上に蒔いてES細胞培養用培地で同様に培養することにより、iPS細胞を継代することができる。
【0113】
ES細胞の未分化性及び多能性を維持可能な培地又はその性質を維持することができない培地は当業界で種々知られており、適宜の培地を組み合わせて用いることにより、人工多能性幹細胞を効率よく分離することができる。分離された人工多能性幹細胞の分化能及び増殖能はES細胞について汎用されている確認手段を利用することにより当業者が容易に確認可能である。また、生成した人工多能性幹細胞を適する条件下で増殖すると人工多能性幹細胞のコロニーが得られるが、コロニーの形状から人工多能性幹細胞の存在を特定することも可能である。例えば、マウス人工多能性幹細胞は盛り上がったコロニーを形成するのに対して、ヒト人工多能性幹細胞は扁平なコロニーを形成することが知られており、これらのコロニー形状はそれぞれマウスES細胞及びヒトES細胞のコロニーと極めて類似しているので、当業者はコロニー形状から生成した人工多能性幹細胞を特定することが可能になる。
【0114】
人工多能性幹(iPS)細胞の同定は、例えばES細胞等の分化多能性細胞の特性に基づく試験によって行うことができる。具体的には、ES細胞特異的マーカー遺伝子の発現、半永久的細胞増殖能、分化多能性(三胚葉の形成)などの特性について細胞を試験し、細胞がこれらの特性をもつ場合に、該細胞がiPS細胞であると同定する(Takahashi, K.ら, Cell 131:861-872 (2007))。
【0115】
ES細胞特異的マーカー遺伝子としては、例えばOct3/4, Nanog, Lin28, PH34, Dnmt3b, Noda1, SSEA3, SSEA4, Tra-1-60, Tra-1-81, Tra2-49/6F(alkaline phosphatase)などを挙げることができる。これらの遺伝子の増幅に特異的なプライマーを使用するRT-PCR法によって、細胞内の上記マーカー遺伝子の発現を検出することができる。
【0116】
半永久的細胞増殖能については、約4ヶ月〜6ヶ月以上にわたる細胞の培養試験において、該細胞が指数的増殖をすることを確認する。ヒトiPS細胞のコロニー倍加時間(population doubling time)は、例えば46.9±12.4時間、47.8±6.6時間又は43.2±11.5時間程度であることが知られているので、この値を増殖能の指標とすることができる(Takahashi, K.ら, Cell 131:861-872 (2007))。また、iPS細胞は、高いテロメラーゼ活性をもつため、例えばTRAP(telomeric repeat amplification protocol)法によって該活性を検出してもよい。
【0117】
分化多能性(3胚葉の形成)は、例えばテラトーマの形成及びテラトーマ組織内の3胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)系の各組織(もしくは細胞)の同定によって確認することができる。具体的には、マウスiPS細胞の場合はヌードマウスの皮下に、またヒトiPS細胞の場合はSCIDマウスの精巣内に細胞を注射して腫瘍の形成を確認し、さらに腫瘍組織が、例えば軟骨組織(もしくは細胞)、神経管組織(もしくは細胞)、筋肉組織(もしくは細胞)、脂肪組織(もしくは細胞)、腸管様組織(もしくは細胞)などから構成されていることを確認する。
【0118】
上記の各試験に基づいて、細胞がiPS細胞であることを確認し、iPS細胞コロニーを選択することができる。
【0119】
本発明の方法により初期化すべき体細胞の種類は特に限定されず、任意の体細胞を利用することができる。体細胞が由来する哺乳動物は、特に制限されずいかなる種類の動物も包含する。好ましい哺乳動物は、霊長類(例えばヒト、サル、チンパンジー等)、げっ歯類(例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット等)、有蹄類(ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ等)、ペット動物(イヌ、ネコ等)などであり、さらに好ましい哺乳動物はヒト及びマウスである。体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、及び成熟した体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、及び株化細胞のいずれも包含されるし、さらにまた、組織幹細胞や組織前駆細胞も包含される。具体的には、体細胞は、非限定的に、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞、皮膚細胞等の分化した細胞などを包含する。人工多能性幹細胞を疾病の治療に用いる場合には、患者から分離した体細胞を用いることが望ましく、例えば、疾病に関与する体細胞や疾病治療に関与する体細胞などを用いることができる。
【0120】
本発明は、上記の方法によって体細胞から誘導された人工多能性幹細胞を提供する。また、該人工多能性幹細胞の分化によって誘導された体細胞及びその誘導方法を提供する。
【0121】
本発明の方法により製造される人工多能性幹細胞の用途は特に限定されず、ES細胞を利用して行われているあらゆる試験・研究やES細胞を用いた疾病の治療などに使用することができる。人工多能性幹細胞は、それが分化多能性をもつことから、種々の分化細胞、前駆細胞及び組織に誘導することができる。例えば、本発明の方法により得られた人工多能性幹細胞をレチノイン酸、EGFなどの増殖因子、グルココルチコイド、activin A/BMP4(bone morphogenetic protein 4)、VEGF(vascular endothelial growth factor)などの因子で処理することにより、所望の分化細胞(例えば神経細胞、心筋細胞、血球細胞、インスリン産生細胞など)を誘導することができ、さらに得られた分化細胞又は前駆細胞から組織に変換する技術も知られるようになっている。このようにして得られた分化細胞や組織を患者に戻すことにより自家細胞移植による幹細胞療法などの再生医療のために、人工多能性幹細胞を利用することができる。
【0122】
さらにまた、哺乳動物(ヒトを除く)由来の胚盤胞に人工多能性幹(iPS)細胞を導入し、その胚を、同じ動物種の仮親の子宮に移植することによって、iPS細胞の遺伝子型及び形質の一部を受け継いだキメラ動物を作製することができる(WO2007/069666)。iPS細胞における特定の遺伝子の改変、ノックアウト又はノックインによって遺伝子機能の解明、疾患モデルの作製、物質(蛋白質等)生産などが可能になる。
【実施例】
【0123】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
実施例1:マウス胎児線維芽細胞の核初期化による人工多能性幹細胞の調製
マウス由来Oct3/4、Sox2、及びKlf4の3種の遺伝子、コントロール用のDsRed、及び18種類のmiRNAのそれぞれをコードするpMXsレトロウイルスベクターをPLAT-E細胞にFugene6 (Roche)を用いてトランスフェクトした。翌日、Nanog遺伝子のプロモーター領域の下流にEGFPとpuromycinの耐性遺伝子をコードした配列をつないだトランスジェニックマウス由来の胎児線維芽細胞(Nanog GFP MEF、WO2007/69666)を6 well plateに1×105個ずつまいた。翌日、この細胞にOct3/4、Sox2、及びKlf4、並びに18種類のmiRNAから選ばれる各1種類のmiRNAを発現するレトロウイルスを3因子の発現ウイルスの混合液1 ml+miRNA発現ウイルス液1 mlの割合で感染させ核初期化により人工多能性幹細胞の調製を行った。
【0124】
【表1】

【0125】
感染後3日目からLIFを含むES細胞用培地で培養し、感染後4日目に細胞をはがし、フィーダー細胞上へ全量まきなおした。その後1日おきにLIFを含むES細胞用培地を交換し、感染後21日目から終濃度1.5μg/mlになるようにpuromycinを加えて薬剤選択を開始した。28日目にNanog GFP陽性(Nanogプロモーターによって発現が誘導されるGFPが蛍光顕微鏡で観察できる)コロニー数を計測した。コントロールとしてmiRNAの代わりにDsRedを用いた。結果を図1に示す。mmu-miR-294及びmmu-miR-295はそれぞれOct3/4、Sox2、及びKlf4の3つの因子の遺伝子と共にマウス胎児線維芽細胞に導入した場合に核初期化の効率を高めることができ、効率的な人工多能性幹細胞の調製を可能にすることが分かった。
【0126】
実施例2:マウス尻尾線維芽細胞の核初期化による人工多能性幹細胞の調製
マウス由来Oct3/4、Sox2、及びKlf4の3種の遺伝子、DsRed(コントロール)、mmu-miR-295のそれぞれをコードするpMXsレトロウイルスベクターをPLAT-E細胞にFugene6 (Roche)を用いてトランスフェクトした。翌日、Nanog遺伝子のプロモーター領域の下流にEGFPとpuromycinの耐性遺伝子をコードした配列をつないだトランスジェニックマウス尻尾の線維芽細胞(Nanog GFP tail tip fibroblasts)を6ウエルプレートに1×105個ずつまいた。翌日、この細胞にOct3/4、Sox2、及びKlf4の3遺伝子とDsRedあるいはmmu-miR-295を発現するレトロウイルスを(1:1:1:1)の割合で感染させ核初期化により人工多能性幹細胞の調製を行った。
【0127】
感染後3日目からLIFを含むES細胞用培地で培養し、感染後4日目に細胞をはがし、フィーダー細胞上へ全量まきなおした。その後1日おきにLIFを含むES細胞用培地を交換し、感染後7日目、21日目あるいは28日目から終濃度1.5μg/mlになるようにピューロマイシン(puromycin)を加えて薬剤選択を開始した。39日目に全体のコロニー数とNanog GFP陽性(Nanog プロモーターによって発現が誘導されるGFPが蛍光顕微鏡で観察できる)コロニー数を観察した。結果を図2に示す。mmu-miR-295はそれぞれOct3/4、Sox2、及びKlf4の3つの遺伝子と共にマウス尻尾の線維芽細胞に導入した場合に核初期化の効率を高めることができるだけでなく、初期化のスピードを速め、効率的な人工多能性幹細胞の調製を可能にすることが分かった。
【0128】
実施例3:ヒト成人皮膚細胞の核初期化による人工多能性幹細胞の調製
ヒト由来OCT3/4、SOX2、及びKLF4の3種の遺伝子に加え、コントロール用のDsRedと23種類のmiRNA又はmiRNAクラスターをコードするpMXsレトロウイルスベクターをPLAT-E細胞にFugene6 (Roche)を用いてトランスフェクトした。翌日、マウスレトロウイルスのレセプターであるSlc7a1を発現させたヒト成人皮膚線維芽細胞(adult human dermal fibroblasts;aHDF-Slc7a1)を6cmディッシュに3×105個ずつまいた。翌日、この細胞にOCT3/4、SOX2、及びKLF4の3種の遺伝子と各種miRNAを発現するレトロウイルスを1:1:1:1の割合で感染させ核初期化による人工多能性幹細胞の生成を試みた。
【0129】
【表2】

【0130】
感染後6日目に細胞をはがし、5×105個の細胞をフィーダー細胞上へ全量まきなおした。その後1日おきにbFGFを含むヒトES細胞用培地(リプロセル)を交換し、24日目、32日目、及び40日目に全体のコロニー数とヒトES細胞様の形態を示すコロニー数を計測した。コントロールとしてmiRNAの代わりにDsRedを用いた。結果を図3に示す。hsa-miR-372、373、302b、302-367(302b、302c、302a、302d、及び367を含む)、520c、 mmu-miR-291a、294、又は295の存在下で3遺伝子を導入した場合にES細胞様形態を示すiPS細胞のコロニー数がコントロールに比べて2倍以上に増加することが分かった。
【0131】
実施例4:ヒト成人皮膚線維芽細胞の核初期化による人工多能性幹細胞の調製
3x105 aHDF-Slc7a1 細胞を、60mmゼラチンをコートしたディッシュ上で平板培養し、さらに種々のmiRNAの各々の存在下で、DsRed、4遺伝子(OCT3/4, SOX2, c-MYC, KLF4)又は3遺伝子 (OCT3/4, SOX2, KLF4)を発現するレトロウイルスで感染させた。感染6日後に、5x105個の aHDF-Slc7a1 細胞をマイトマイシン-C処理STO細胞上にまきなおした。感染40日後に、ヒトES細胞様の形態を示すコロニーの数を数えた。これと同じ実験を3回繰り返した。
【0132】
図4A は、独立した3回の実験の結果を示す。それによると、対照と比較して、hsa-miR-372, 373/373* (hsa-miR-373), 371-373 クラスター(371, 372及び373を含む), 302b/302b*(hsa-miR-302b), 302-367クラスター(302b, 302c, 302a, 302d及び367を含む), 520c-5p/520c-3p (hsa-miR-520c), mmu-miR-290-5p/290-3p (mmu-miR-290), mmu-miR-291a-5p/291a-3p (mmu-miR-291a), 294/294* (mmu-miR-294)又は295/295*(mmu-miR-295)の存在下で3因子の遺伝子を導入することによって、人工多能性幹細胞のコロニー数が増加することが判明した。
図4Bは、顕微鏡下で観察されたiPS細胞のES細胞様コロニーの形態を示す。
【0133】
実施例5:4 遺伝子 (Oct3/4, Sox2, c-Myc, Klf4)又は3 遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4)+mmu-miR-295/295*を用いてマウス尻尾の線維芽細胞(TTF)の核初期化によって作製されたiPS細胞中のES細胞マーカーの発現
5x104個のFbNg TTF (Fbx15-βgeo/Nanog-IRES-Puror レポーターマウス由来のTTF) 細胞を、ゼラチンをコーティングした6ウエルプレート上で平板培養し、さらに3遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4)+DsRed (Myc(-)3f+DsRed)、mmu-miR-295/295* (Myc(-)3f+mmu-miR-295/295*)又はc-Myc (4 遺伝子)を発現するレトロウイルス感染により導入した。感染4日後に、すべての細胞(Myc(-)3f + DsRed; Myc(-)3f + mmu-miR-295/295*)又は20倍希釈した細胞(4遺伝子)を、ピューロマイシン及びハイグロマイシン耐性MSTO (PH-MSTO)細胞上にまきなおした。7, 14, 21, 28日目に、ピューロマイシンによる選択を開始した。
【0134】
Rever Tra Ace Kit (Takara)を用いたRT-PCR分析により、4遺伝子 (Oct3/4, Sox2, c-Myc, and Klf4)、或いは3遺伝子 (Oct3/4, Sox2, and Klf4) + mmu-miR-295/295* を導入することにより得られたiPS細胞はES細胞特異的マーカー遺伝子(Oct3/4, Sox2, Nanog)を発現し、かつ、それらの発現量がマウスES細胞(ES)及びマウスiPS細胞(Fbx iPS)を用いて得られた発現量と同等であったことが示された(図5)。
【0135】
実施例6:3 遺伝子 (Oct3/4, Klf4, c-Myc)及びmiRNAを用いるマウス胎児線維芽細胞の核初期化による人工多能性幹細胞の調製
1x105個のNanog MEF(Nanog-IRES-Purorレポーターマウス由来のMEF)細胞を、ゼラチンをコーティングした6ウエルプレート上で平板培養し、さらに3遺伝子 (Oct3/4, c-MycWT(野生型), Klf4)及びmmu-miR-290-295クラスター, 290-5p/290-3p (mmu-miR-290), 291a-5p/291a-3p (mmu-miR-291a), 292-5p/292-3p (mmu-miR-292), 293/293* (mmu-miR-293), 294/294*(mmu-miR-294)又は295/295* (mmu-miR-295) miRNA (1:1)を発現するレトロウイルスを感染させることで導入した。感染4日後に、細胞の半分をピューロマイシン及びハイグロマイシン-C耐性MSTO (PH-MSTO) 細胞上にまきなおした。感染後14日目からピューロマイシンによる選択を開始した。
【0136】
図6Aは、Nanog GFP陽性コロニー数を示す。独立した3回の実験の結果は、色分けして示されている。「DsRed」は、Oct3/4, Klf4, c-Myc 及びDsRedの組み合わせを示す。
【0137】
図6Bは、RT-PCR分析の結果を示す。Rever Tra Ace Kit (Takara) を用いるRT-PCR分析により、4 遺伝子(Oct3/4, Sox2, c-Myc, Klf4)で、或いは、3 遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4) + mmu-miR-290-295クラスターmiRNA, 291a-5p/291a-3p, 294/294*又は295/295* を導入したiPS細胞はES細胞特異的マーカー遺伝子(Oct3/4, Sox2, Nanog)を発現したこと、並びに、それらの発現量が、マウスES細胞 (ES)及びマウスiPS細胞(Fbx iPS)で得られた発現量と同等であったことが示された。
【0138】
実施例7:Oct3/4, c-Myc及びKlf4 (“Sox(-)”) + mmu-miR-295/295*を発現させたFb-Ng MEF (Fbx15-βgeo/Nanog-IRES-Purorレポーターマウス由来のMEF)細胞、又はOct3/4, c-Myc及びKlf4 (“Sox(-)”) + hsa-miR-302-367クラスターmiRNAを発現させたaHDF-Slc7a1細胞を用いるiPS細胞誘導
1x105個のFb-Ng MEF(Fbx15-βgeo/Nanog-IRES-Purorレポーターマウス由来のMEF)細胞を、ゼラチンをコーティングした6ウエルプレート上で平板培養し、さらに3遺伝子 (Oct3/4, c-MycWT(野生型), Klf4) + miR-295/295*又はhsa-miR-302-367クラスターmiRNAを発現するレトロウイルスを感染させることにより導入した。感染4日後に、細胞を、6ウエル又は 10cmディッシュ中のピューロマイシン及びハイグロマイシン-C処理STO 細胞(PH-MSTO)上にまきなおした。感染後7日目からピューロマイシンによる選択を開始した。
【0139】
図7Aは、Oct3/4, c-Myc及び Klf4 (“Sox(-)”) + mmu-miR-295/295*を導入することによって得られたiPS細胞の形態を示す。コロニーは、GFP陽性を示し、かつES細胞と類似した形態を示した。
【0140】
図7Bは、Sox(-)3f + mmu-miR-295/295*を用いて誘導されたiPS細胞からのキメラマウスを示す。
【0141】
図7Cは、ヒトiPS細胞から胚様体(EB)を介し、in vitro で分化を誘導した実験結果を示す。4遺伝子(OCT3/4, KLF4, SOX2, c-MYC, すなわち「OSMK」)又は3遺伝子(OCT3/4, KLF4, c-MYC, すなわち「OMK(SOX(-)」) + hsa-miR-302-367クラスターmiRNAの導入によって樹立されたヒトiPS 細胞(61B1, 61N2)を、ディッシュ上で平板培養し、Takahashiら, Cell 131:861-872, 2007に記載された方法に従って100mmディッシュ上で胚様体を形成させた。2週間培養した後、α-フェトプロテイン (R&D systems)(内胚葉細胞の分化マーカー)、α-平滑筋アクチン(DAKO)(中胚葉細胞の分化マーカー)及びGlial Fibrillary Astrocytic Protein (GFAP) (DAKO)(外胚葉細胞の分化マーカー)に対する抗体を用いて免疫染色を行った。各マーカーの発現は、染色によって確認された。核は、Hoechst 33342 (Invitrogen)で染色された。
【0142】
実施例8:種々のmiRNAの存在又は不在下での4 遺伝子 (OCT3/4, SOX2, MYC, KLF4)、3 遺伝子(OCT3/4, MYC, KLF4, すなわち「SOX(-)3」)又は2遺伝子(OCT3/4, KLF4)によるiPS細胞誘導
3x105個のaHDF-Slc7a1 細胞を、60mmゼラチンコーティングしたディッシュ上で平板培養し、 4 遺伝子(OCT3/4, SOX2, c-MYC, KLF4 (OSMK))、miRNA(OMK:mock又はmiRNAs=2.5:1.5)の存在下あるいは非存在下で3 遺伝子(OCT3/4, c-MYC, KLF4;SOX(-)3遺伝子 (OMK))、又はmiRNAの存在下あるいは非存在下で2遺伝子(OCT3/4 + KLF4 (OK) )のそれぞれの組み合わせの遺伝子がレトロウイルスにより導入された。また、対照としてDsRedが導入された。導入6日後に、5x105aHDF-Slc7a1細胞を、マイトマイシン-C処理STO 細胞 (MSTO細胞)上にまきなおし、感染後40日目にES細胞様コロニー数を計測した。図8においては、観察されたコロニーの形態、及びOK+miRNA導入により得られたiPS細胞がアルカリフォスファターゼ陽性を示し、未分化状態であることが確認された解析結果を示す。
【0143】
表3に、aHDF−Slc7a1細胞にOSMK、 miRNAの存在又は不在下のOMK、或いはmiRNAの存在又は不在下のOKを導入し得られたヒトES(hES)細胞様を示すiPS細胞のコロニー数を示す。OSMK, OMK+miRNA (hsa-miR-371-373 クラスター, hsa-miR-302-367クラスター, 又はhsa-miR-371-373クラスター +302-367 クラスター)、OK+miRNA(hsa-miR-371-373 クラスター, hsa-miR-302-367クラスター, 又はhsa-miR-371-373クラスター +302-367 クラスター)導入により観察されたhES細胞様コロニーは、独立した6回の実験(Exp.54, 61, 63, 114, 130及び133)によって計測された。
【0144】
【表3】

【0145】
図8は、OSMK (61B1); OMK (SOX(-)) + hsa-miR-302-367クラスター miRNA (61N2); 及びOK + hsa-miR-302-367クラスターmiRNA (133O1)を用いて誘導されたiPS細胞の細胞形態を示す(上パネル)。また、OK + hsa-miR-302-367クラスターmiRNA (133O1)を用いて誘導されたiPS細胞がアルカリフォスファターゼ陽性であることを示す(下パネル)。
【0146】
さらにまた、OCT3/4遺伝子及びNANOG遺伝子の組み合わせによって体細胞からiPS細胞(hES様細胞)が誘導されうることも本発明者らは確認している。
【0147】
実施例9:iPS細胞の分化多能性の確認
OCT3/4,KLF4,c-MYC(SOX(-)3F)及びhsa-miR-302-367クラスター導入により得られたヒトiPS細胞(61N2)をSCIDマウスの背側の側腹部へ皮下接種した。接種後9週目に腫瘍を採取、固定後、パラフィン包埋し、薄切切片をヘマトキシリン・エオジン染色した。組織学的観察により、神経管(外胚葉)、心筋細胞様構造(中胚葉)、腸管様上皮組織(内胚葉)、軟骨(中胚葉)を含む様々な組織がテラトーマに含まれていることが示され、iPS細胞(61N2)が三胚葉に分化しうる多能性を示すことが確認された(図9)。
【0148】
実施例10:miRNA存在下での1遺伝子(OCT3/4)によるiPS細胞誘導
aHDF-Slc7a1を6ウエルプレートに1ウエルあたり1x105個ずつまいた。翌日、この細胞に、以下のいずれかの組み合わせの遺伝子をレトロウイルスにより導入した。
1. GFP遺伝子(ネガティブコントロール)
2. OCT3/4遺伝子、SOX2遺伝子、c-MYC遺伝子、KLF4遺伝子(1:1:1:1)
3. OCT3/4遺伝子、SOX2遺伝子、KLF4遺伝子(1:1:1)
4.OCT3/4遺伝子、KLF4遺伝子、mock遺伝子(pMSx空ベクター)(1:1:1)
5.OCT3/4遺伝子、KLF4遺伝子、hsa-miR-302-367クラスター(1:1:1)
6. OCT3/4遺伝子、mock遺伝子(1:1)
7. OCT3/4遺伝子、hsa-miR-302-367クラスター(1:1)
8. KLF4遺伝子、mock遺伝子(1:1)
9. KLF4遺伝子、hsa-miR-302-367クラスター(1:1)
10. hsa-miR-302-367クラスター
【0149】
感染後6日目に細胞をはがし、5×105個の細胞をMSTOフィーダー細胞上へまきなおした。その後1日おきにbFGFを含むヒトES細胞用培地(リプロセル)を交換し、感染から40日目にヒトES細胞様の形態を示すコロニーの数を計測した。2回の独立した実験結果をまとめて表4および図10に示す(図10は表4の結果をグラフにしたものである)。
【0150】
【表4】

【0151】
hsa-miR-302-367クラスターの存在下でOCT3/4遺伝子を導入した場合に、ES細胞様形態を示すiPS細胞のコロニーが得られた。しかもその数は、4遺伝子(OCT3/4遺伝子、SOX2遺伝子、c-MYC遺伝子、KLF4遺伝子)を導入した時よりも多かった。このように本発明により、miRNA存在下であれば、OCT3/4の1遺伝子のみでもiPS細胞が樹立できることが初めて示された。
【0152】
OCT3/4遺伝子およびhsa-miR-302-367クラスターmiRNAの導入により樹立されたiPS細胞(166G1、168G5)のコロニー形成時および1継代目のコロニー像を図11に示す。また、このiPS細胞がアルカリフォスファターゼ陽性を示し、未分化状態であることが確認された結果を図12に示す。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明により人工多能性幹細胞の効率的な製造方法が提供される。本発明の方法は従来の方法に比べて核初期化効率に優れており、初期化因子の数を減らした場合であっても人工多能性幹細胞を効率的に製造することができる。本発明の方法によって作製された人工多能性幹細胞は、分化した体細胞を誘導するために使用することが可能であり、例えば心筋細胞、インスリン産生細胞、神経細胞などの治療上有用な体細胞に変換することによって、心不全、インスリン依存性糖尿病、パーキンソン病、脊髄損傷などの多様な疾患に対する幹細胞移植療法において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】それぞれ一種類のmiRNAの存在下でOct3/4、Klf4、及びSox2からなる3遺伝子の組み合わせ(この組み合わせを「3f」と表記し、「c-Myc(-)」は核初期化効率に優れるOct3/4、Klf4、Sox2、及びc-Mycからなる4遺伝子の組み合わせからc-Mycを除いたことを意味する)によりマウスの胎児腺維芽細胞の核初期化を誘導し、人工多能性幹細胞の生成効率を確認した結果を示す図である。3f+DsRedは対照として上記3遺伝子の組み合わせにDsRed(Discosoma sp. red fluorescent protein)を加えた組み合わせを示す。
【図2】人工多能性幹細胞の生成効率を示した図である。上段はOct3/4、Klf4、及びSox2からなる3遺伝子の組み合わせ(4遺伝子の組み合わせからc-Mycを除いた3遺伝子の組み合わせにDsRedを追加した組み合わせ(対照)の結果を示し、下段はmmu-miR-295の存在下でOct3/4、Klf4、及びSox2からなる3遺伝子の組み合わせによりマウス尻尾線維芽細胞TTF(tail tip fibroblasts)の核初期化を誘導した結果を示す。図中の数字はNanog GFP陽性コロニー数/全コロニー数を示す。
【図3】ヒト成人皮膚細胞を種々のmiRNAの存在下でOCT3/4、KLF4、及びSOX2からなる3遺伝子の組み合わせ(OCT3/4、KLF4、SOX2、及びc-MYCからなる4遺伝子の組み合わせからc-MYCを除いた3遺伝子の組み合わせ:MYC(-)3f)、並びにOCT3/4、KLF4、SOX2、及びc-MYCからなる4遺伝子の組み合わせ(Y4f)により核初期化を誘導し、人工多能性幹細胞の生成効率を確認した結果を示す図である。
【図4】4 遺伝子(OCT3/4, SOX2, KLF4及びc-MYC (OSMK))、或いは種々のmiRNAの存在下の3 遺伝子(OCT3/4, SOX2, KLF4) (OSK+)による形質導入後に生じたES細胞様コロニーの結果を示す。図4A は、4遺伝子(OSMK)、及び3 遺伝子(c-MYC(-))+miRNAs (OSK+)による形質導入によって得られたヒトES細胞様コロニーを示す。図4Bは、図4Aで計数されたES細胞様コロニーの形態を示す。
【図5】4遺伝子 (OCT3/4, SOX2, c-MYC, KLF4)、及び3遺伝子 (Oct3/4, Sox2, Klf4, すなわち「Myc(-)3f」) + mmu-miR-295/295* 又は DsRedによるマウス尻尾線維芽細胞(TTF)の核初期化によって作製されたiPS細胞中のES細胞マーカーの発現をRT-PCRにより解析する結果を示す。
【図6】3遺伝子 (Oct3/4, c-MycWT, Klf4, すなわち「Sox(-)」) + mmu-miR-290-295 クラスター, 290-5p/290-3p(mmu-miR-290), 291a-5p/291a-3p(mmu-miR-291a), 292-5p/292-3p(mmu-miR-292), 293/293*(mmu-miR-293), 294/294*(mmu-miR-294)又は 295/295*(mmu-miR-295)によって感染されたMEF細胞の結果を示す。図 6Aは、Nanog GFP 陽性コロニー数を示す。図6Bは、RT-PCRによるiPS細胞中のES細胞マーカー遺伝子の発現を示す。
【図7】Oct3/4, c-Myc及びKlf4 (「Sox(-)」) + mmu-miR-295/295*又は hsa-miR-302-367 クラスター miRNAを過剰発現するFb-Ng MEFs (Fbx15-βgeo/Nanog-IRES-Purorレポーターマウス由来のMEF)によるiPS細胞誘導の結果を示す。図7A は、Oct3/4, c-Myc及び Klf4 (「Sox(-)」) + mmu-miR-295/295*によって導入されたMEF細胞の細胞形態を示す。図7Bは、Sox(-)3f + mmu-miR-295/295*によって誘導されたiPS細胞からのキメラマウスを示す。図7Cは、ヒトiPS細胞による胚様体 (EB)を介したin vitro分化を示す。ヒトiPS細胞(61B1, 61N2)が、hsa-miR-302-367 クラスターmiRNAの存在下、4 遺伝子(OCT3/4, KLF4, SOX2及びc-MYC,すなわち「OSMK」)又は3遺伝子(OCT3/4, KLF4及びc-MYC,すなわち「OMK(SOX(-))」)の導入によって樹立された。16日間の培養後、α-フェトプロテイン(AFP) (内胚葉細胞の分化マーカー)、α-平滑筋アクチン(α-SMA) (中胚葉細胞の分化マーカー)、及びGFAP (DAKO)(外胚葉細胞の分化マーカー)に対する各抗体を用いて免疫組織化学分析を細胞にて行った。また、Hoechst 33342 (Invitrogen)によって核を染色した。
【図8】OSMK; SOX(-)(OKM) + hsa-miR-302-367クラスターmiRNA (61N2);及びOCT3/4 + KLF4(OK) + hsa-miR-302-367クラスターmiRNA(133O1)により誘導されたiPS細胞の細胞形態を示す(上パネル)。また、OK + hsa-miR-302-367クラスターmiRNA(133O1)を用いて誘導されたiPS細胞がアルカリフォスファターゼ陽性(赤色染色)であることを示す(下パネル)。
【図9】OCT3/4,KLF4,c-MYC,hsa-miR-302-367 cluster導入により得られたヒトiPS細胞を接種したSCIDマウスにおけるテラトーマ形成を示す。ヒト成人由来線維芽細胞(aHDF)にマウスエコトロピックレセプターであるSlc7a1をレンチウイルスにて発現させた細胞(aHDF-Slc7a1)にOCT3/4,KLF4,c-MYC,hsa-miR-302-367 クラスターをレトロウイルスにて導入し得られたヒトiPS細胞をSCIDマウスに接種した。接種後形成されたテラトーマを採取し、薄切後、ヘマトキシリン・エオジンで染色し観察した。
【図10】OCT3/4、KLF4、又はOCT3/4 + KLF4と、hsa-miR-302-367クラスターmiRNAとを組み合わせて、ヒト成人皮膚線維芽細胞(aHDF-Slc7a1)に対して核初期化を試みたときの結果を示す。
【図11】OCT3/4 + hsa-miR-302-367クラスターmiRNAの導入により樹立されたiPS細胞(166G1、168G5)のコロニー形成時および1継代目のコロニー像を示す。
【図12】OCT3/4 + hsa-miR-302-367クラスターmiRNAの導入により樹立されたiPS細胞(Exp. 168)がアルカリフォスファターゼ(AP)陽性であることを示す(上パネル)。また、下パネルに、Crystal Violet (CV)染色の結果を示す。陽性及び陰性対照として、実施例10のExp. 168におけるOSMK及びO + mockから誘導されたiPS細胞に対するAP染色及びCV染色の各結果も示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法であって、少なくとも1種のmiRNAの存在下で核初期化因子により該体細胞を核初期化する工程を含み、ここで、該miRNAが該miRNAの存在下において該miRNAの非存在下の場合よりも高い核初期化効率を与える性質を有するmiRNAであり、並びに、該核初期化因子が(a)Octファミリーメンバー、(b)Octファミリーメンバー及びKlfファミリーメンバー、(c)Octファミリーメンバー及びNanog、或いは(d)Octファミリーメンバー、Klfファミリーメンバー及びMycファミリーメンバー、を少なくとも含むが、Soxファミリーメンバーを含まないことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
体細胞から人工多能性幹細胞を誘導する際に核初期化の効率を高める方法であって、少なくとも1種のmiRNAの存在下で核初期化因子により該体細胞を核初期化し、これによって、生成する人工多能性幹細胞の細胞数が該miRNAの非存在下の場合よりも増大することを含み、ここで、該miRNAが該miRNAの存在下において該miRNAの非存在下の場合よりも高い核初期化効率を与える性質を有するmiRNAであり、並びに、該核初期化因子が(a)Octファミリーメンバー、(b)Octファミリーメンバー及びKlfファミリーメンバー、(c)Octファミリーメンバー及びNanog、或いは(d)Octファミリーメンバー、Klfファミリーメンバー及びMycファミリーメンバー、を少なくとも含むが、Soxファミリーメンバーを含まないことを特徴とする、前記方法。
【請求項3】
miRNAが胚性幹細胞において体細胞よりも高度に発現しているmiRNAである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
OctファミリーメンバーがOct3/4であり、KlfファミリーメンバーがKlf4であり、Mycファミリーメンバーがc-Mycであり、又はSoxファミリーメンバーがSox2である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
核初期化因子が(a)Oct3/4、(b)Oct3/4及びKlf4、(c)Oct3/4及びNanog、或いは(d)Oct3/4、Klf4及びc-Mycである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
核初期化因子をコードするDNAを含むベクター及び/又は少なくとも1種のmiRNAを体細胞中に導入することを含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
核初期化因子をコードするDNAを含むベクター及び/又は少なくとも1種のmiRNAもしくはその前駆体RNAをコードするDNAを含むベクターを体細胞中に導入することを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
miRNAが下記の群:hsa-miR-372、hsa-miR-373又はhsa-miR-373/373*、hsa-miR-371-373クラスター、hsa-miR-302b又はhsa-miR-302b/302b*、hsa-miR-302-367クラスター、hsa-miR-520c又はhsa-miR-520c-5p/520c-3p、mmu-miR-291a又はmmu-miR-291a-5p/291a-3p、mmu-miR-294又はmmu-miR-294/294*、及びmmu-miR-295又はmmu-miR-295/295*からなる群から選ばれる1又は2以上のRNA(記号はmiRBaseデータベースの登録名を示す)に含まれる1又は2以上のmiRNAである請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
miRNAが配列表の配列番号1〜5、10〜12及び14から選択される1又は2以上のRNA配列に含まれる1又は2以上のmiRNAである請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
miRNAが18〜25塩基からなる請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
体細胞がヒトの体細胞である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法によって体細胞から誘導された人工多能性幹細胞。
【請求項13】
請求項12に記載の人工多能性幹細胞の分化によって誘導された体細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−158171(P2010−158171A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335129(P2008−335129)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、機能性RNAプロジェクト委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】