説明

動力伝動用ベルト

【課題】心線のほつれを抑制して、ベルト側面に露出する心線のポップアウトを防止し、それによるベルトの転覆や切断といった故障の発生を減少させる。
【解決手段】スパイラル状の心線2を埋設し伸張層4と圧縮層5を有するとともに側面がV形状を呈した動力伝動用において、無撚りのアラミド繊維をレゾルシン・ホルマリン・ラテックス溶液に浸漬し乾燥した後、該処理済のアラミド繊維を複数本集めて撚りをかけたものを前記心線2として用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスノーモービル、スクーター、バギー車及び一般産業用の変速ベルト等に用いられるVベルトである動力伝動用ベルトに係り、詳しくはベルト側面に露出する心線のほつれを抑制し、心線のポップアウトによるベルトの故障を防止した動力伝動用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スクーターまたは一般産業用の機械分野の駆動系には、駆動プーリと従動プーリに動力伝動用ベルトを懸架し、プーリの有効径を変化させて変速させるベルト式変速装置が用いられている。ここで使用されている動力伝動用ベルトはコグ部を持たないものや圧縮ゴム層と伸張ゴム層のうち少なくとも圧縮ゴム層にコグ山部とコグ谷部を交互に配したコグ部を有し、心線を接着ゴム層内に埋設した構成からなるものが挙げられ、ローエッジベルト、ローエッジシングルコグドベルトあるいはローエッジダブルコグドベルトなどのローエッジベルトとして商品化されている。
【0003】
これらのベルトを補強するために用いる心線として、アラミド繊維が広く用いられているが、このアラミド繊維は高強力、高モジュラスの有機繊維で、良好な耐熱性と高温及び高湿度下における強度及びモジュラスの保持性を有し、高温高湿度中の寸法安定性にも優れているが、一方でゴム配合物との間の接着性には乏しく、ゴム複合体にした場合の屈曲疲労性にも乏しいという決定を有している。
【0004】
また、特に繊維コードのカット面が露出するカットエッジタイプのVベルトでは、そのカット面から繊維が飛び出すほつれやポップアウトという問題が発生する。
【0005】
【特許文献1】特開平5−44131号公報
【特許文献2】特開平6−337037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1にはアラミド繊維コードを心線とする動力伝動用ベルトの屈曲疲労性、心線のほつれ性を改善するために無撚りで集束したアラミド繊維のフィラメントにエポキシ化合物で前処理を施して、下撚りをかけた後、該下撚りをかけた集束糸を複数本引きそろえて前記下撚り方向とは逆方向に上撚りし、得られた撚糸コードをRFL溶液で接着処理してなるアラミド繊維コードを用いることが記載されている。
【0007】
特許文献2には同様にアラミド繊維コードを心線とする動力伝動ベルトの屈曲疲労性と心線のほつれ性を改善するために、エポキシ化合物やイソシアネート化合物からなる液によって無撚りのアラミド繊維フィラメントを接着処理し、下撚りして子なわとし、該子なわを少なくとも2本以上束ねて上撚りしたあと、RFL液且つ/又はゴム糊で接着処理したアラミド繊維コードであり、撚り係数を所定の範囲とすることが記載されている。
【0008】
しかし、RFL溶液の含浸が不十分であるとベルト側面に露出した心線の端面とプーリとの摩擦で心線がほつれてポップアウトしてしまい、ベルトが転覆あるいは切断してしまうという問題があった。
【0009】
そこで、本発明では心線の結束を高めて心線のほつれが起こりにくくポップアウト等の問題を解消した動力伝動ベルトの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のような目的を達成するために本発明の請求項1においては、スパイラル状の心線を埋設し伸張ゴム層と圧縮ゴム層を有するとともに側面がV形状を呈した動力伝動用において、無撚りの繊維をレゾルシン・ホルマリン・ラテックス溶液に浸漬し乾燥した後、該処理済の繊維を複数本集めて撚りをかけたものを前記心線として用いたことを特徴とする動力伝動用ベルト。
【0011】
請求項2では、撚りをかけた後に、更にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス溶液で浸漬して乾燥したものを心線として用いた請求項1記載の動力伝動用ベルトとしている。
【0012】
請求項3では、繊維の種類がアラミド繊維である請求項1〜2記載の動力伝動用ベルトとしている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1によると、心線に用いる繊維のフィラメントに撚りをかける前にRFL溶液で接着処理を行っており、心線を構成する繊維にRFL溶液を十分に含浸させることによって、心線を構成する繊維に十分にRFL溶液が浸透して塗布された状態になり、フィラメント同士の結束力が高まるので、ベルト側面に露出した心線がプーリとの間で摩擦してもほつれを生じにくく動力伝動ベルトの故障を防止し寿命の長いベルトとすることができる。
【0014】
請求項2においては、撚りをかけた後に更にRFL溶液にて接着処理を行っており、心線はより強固に結束された状態になっているので、ほつれの発生を防止する効果をより大きなものとすることができる。
【0015】
請求項3においては、繊維の種類をアラミド繊維としており、ほつれの問題の生じやすい繊維であるアラミド繊維を用いた心線では、本発明の効果をより顕著に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明に係るアラミド製の心線を用いたローエッジコグ付Vベルトである動力伝動用ベルトである。図1において、動力伝動用ベルト1は心線2を埋設する接着層3とその上部にはカバー帆布を積層した伸張層4が形成されており、接着層3の下部には圧縮層5が積層配置されている。
【0017】
接着層3、伸張層4、圧縮層5に用いるゴムとしては、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレン、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマー等既知のゴム材の単一もしくはこれらを適宜ブレンドしたものからなる。
【0018】
接着層3の上に形成される伸張層4は、バイアス帆布もしくは広角度帆布あるいはウーリ加工したナイロンの経糸と通常の横糸を織製したゴム付き伸縮性帆布6が積層されている。その素材としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維等からなり、平織、綾織、朱子織等に製織した布で、経糸と緯糸との交差角が90〜120°程度の広角度帆布でもよい。上記帆布は、RFL処理した後、ゴム組成物をフリクション・コーチングしてゴム付帆布とする。RFL液はレゾルシンとホルマリンとの初期縮合物をラテックスに混合したものであり、ここで使用するラテックスとしてはクロロプレン、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリル、NBRなどである。
【0019】
また圧縮層5には下面に一定ピッチのコグ部7が形成されているとともに、横スダレ帆布8が少なくとも1層、前記コグ部の形状に沿った波形を呈して埋設配置され、ベルトの幅方向の剛性を補強している。本発明においてこの横スダレ帆布8は必須のものではなく、配置しない場合もある。
【0020】
更に圧縮層5には補強のために短繊維9が配合されており、パラ系アラミド繊維(商品名:トワロン、ケブラー、テクノーラ)単独、あるいはパラ系アラミド繊維とナイロン、ポリエステル、ビニロン、綿、メタ系アラミド繊維(商品名:コーネックス)等の短繊維を混合してベルト幅方向へ配向している。これらの短繊維はベルトの幅方向への配向を保って混入されることによってベルトの幅方向の剛性を高めるとともにベルト側面の耐摩耗性を向上させることができる。
【0021】
この短繊維の添加量は、ゴム100質量部に対して5〜40質量部、好ましくは8〜15質量部である。
【0022】
圧縮層5の側面には短繊維9が突出した状態となっており、突出した繊維がベルトとプーリ間の摩擦力を低下させてゴムの粘着摩耗を阻止してベルトスリップによる発音を軽減することができる。
【0023】
また、接着層3中には心線2が埋設されており、心線2としてはアラミド繊維が用いられるが、ポリ−pまたはm−ベンズアミドまたは、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド、ポリ−m−フェニレンイソフタルアミド繊維を挙げることができる。
【0024】
心線2をゴム中に埋設してベルトの張力体として使用するためには心線とゴムとが強固に接着していなければならない。また心線は複数のフィラメントを撚り合せたものであり、複数のフィラメントが結束されていなければならない。それらの理由により心線として用いるロープには接着処理が施される。接着処理としてはRFL液による処理、ゴム糊による処理、イソシアネート化合物やエポキシ化合物などによる処理を挙げることができる。
【0025】
本発明では、フィラメントを撚り合わせるに先立って、RFL液にて処理を行っており、RFL液による処理を行った後にフィラメントを拠り合わせて心線2として用いている。撚り合わせた後にRFL液での処理を行うと撚られたロープの内部にまでRFL液が含浸することができず、接着の不十分な箇所が生まれてそこからロープのほつれが生じて心線がベルト側面から飛び出してしまうポップアウトが起きてベルトが転覆したり切断したりするといった故障につながっていた。しかし、前記のように撚りに先立ってRFL液による処理を行うことによって、RFL液がフィラメント1本1本の表面を完全に覆うことができ、寄り合わせたロープを構成するフィラメント同士がしっかりと接着してひとまとまりになる。よって、ベルトの心線として用いた場合にベルトの側面に心線の一部が露出してプーリとの間で繰り返し擦れあう状況が続いたとしてもほつれが生じるのを抑えることができ、ポップアウトによる故障を防止することができる。
【0026】
本発明において撚る前の原糸の状態でRFL処理を行うことは必須の要件であるが、撚り合わせた後に再度RFL液などによる接着処理を行うことも可能であり、そうすることによって更にほつれの発生を抑止する効果が得られることになる。
【0027】
RFL液で処理した後の撚りであるが、これは従来から行われている通常の方法であり、例えば複数本束ねたフィラメントを下撚りして小縄を作り、その小縄をまた複数本束ねて上撚りをかけるといった方法を採ることができる。RFL液についても従来から通常用いられているものを用いることができる。
【0028】
以上の説明ではアラミド繊維を例にとって説明を行っているが、繊維の種類はアラミド繊維に限られるものではなく、その他にもポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ガラス繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維を挙げることができる。但し、アラミド繊維はほつれの問題の生じやすい繊維であるということができるので、本発明の効果がより顕著に現れる例であるということができる。
【実施例】
【0029】
RFL液による接着処理を撚りの前に行った心線と撚りの後に行った心線の違いを確認するためにそれぞれの方法でVベルトを作製して比較試験を行った。
【0030】
(実施例1)
本発明の実施例1として、無撚りの1500デニールのアラミド繊維フィラメントをRFL液に浸漬した後、200℃で2分間熱処理してよる接着処理を行った。このRFL液による接着処理を行ったアラミド繊維フィラメントを3本束ねて下撚りを施し、更にこれを4本束ねて下撚り方向と逆の方向に上撚りを施し、ひとまとまりのロープとした。このロープを心線としてローエッジコグベルトを作製した。
【0031】
このベルトを図2に示すように、80mmφの駆動プーリと160mmφの従動プーリに巻きかけ85mmφのテンションプーリをベルトの背面に当接させることによってベルトの屈曲角度160°になるようにし、駆動プーリを1800rpmで回転させ、従動側プーリに5psの荷重を与えて、雰囲気温度を70℃として走行させ、寿命になるまでの時間を測定した。その結果を表1に示す
【0032】
(実施例2)
本発明の実施例2として、無撚りの1100デニールのポリエチレンテレフタレート(PET)の未処理コードを準備し、RFL液に浸漬した後、230℃で2分間処理した。このRFL液による接着処理を行ったポリエチレンテレフタレート繊維フィラメントを3本束ねて下撚りを施し、更にこれを5本束ねて下撚りとは逆の方向に上撚りを施して人まとまりのロープとした。このロープを心線としてローエッジコグベルトを作製した。
【0033】
また、このベルトも実施例と同様に図2に示すようなプーリレイアウトで走行させて、寿命になるまでの時間を測定した。その結果を表1に示す。
【0034】
(比較例1)
比較例1のベルトとしては、アラミド繊維フィラメントに下撚りおよび上撚りをかけた後にRFL液による接着処理を行った以外は実施例と全く同様にして接着処理したロープを得て、このロープを心線としてローエッジコグベルトを作製した。
【0035】
また、このベルトも実施例と同様に図2に示すようなプーリレイアウトで走行させて、寿命になるまでの時間を測定した。その結果を表1に示す。
【0036】
(比較例2)
比較例2のベルトとしては、ポリエステル繊維フィラメントに下撚りおよび上撚りをかけた後にRFL液による接着処理を行った以外は実施例と全く同様にして接着処理したロープを得て、このロープを心線としてローエッジコグベルトを作製した。
【0037】
また、このベルトも実施例と同様に図2に示すようなプーリレイアウトで走行させて、寿命になるまでの時間を測定した。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果からわかるようにアラミドおよびポリエステル繊維共に繊維フィラメントの撚りに先立ってRFL液による接着処理を行った実施例では、心線のほつれが抑制されており、ベルトのコグ谷部のクラック発生により寿命を迎えている。それに対して、撚り合わせてからRFL処理を行った比較例のベルトでは、早期に心線のポップアウトが発生し、ベルトが転覆して寿命となっており、本発明の効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は心線のほつれを解消してポップアウトなどの故障によるベルトの寿命を延長しており、農業機械や自動二輪車などの動力伝動用途で用いることができるVベルトに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一態様であるローエッジコグベルトの断面図である。
【図2】試験のプーリレイアウトを示す概要図である。
【符号の説明】
【0042】
1 動力伝動用ベルト
2 心線
3 接着層
4 伸張層
5 圧縮層
6 伸縮性帆布
7 コグ部
8 スダレ帆布
9 短繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパイラル状の心線を埋設し伸張ゴム層と圧縮ゴム層を有するとともに側面がV形状を呈した動力伝動用において、無撚りの繊維をレゾルシン・ホルマリン・ラテックス溶液に浸漬し乾燥した後、該処理済の繊維を複数本集めて撚りをかけたものを前記心線として用いたことを特徴とする動力伝動用ベルト。
【請求項2】
撚りをかけた後に、更にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス溶液で浸漬して乾燥したものを心線として用いた請求項1記載の動力伝動用ベルト。
【請求項3】
繊維の種類がアラミド繊維である請求項1〜2記載の動力伝動用ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−208997(P2008−208997A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18582(P2008−18582)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】