説明

動力伝達装置

【課題】疲労強度を従来と同程度に維持して、静的な破壊トルクを低下させることで、動力源の出力が弱い場合でも、動力源が停止する前に破断部を破断させることが可能な動力伝達装置を提供する。
【解決手段】圧縮機の駆動軸に固定されると共に駆動源によって回転する駆動側回転体からの回転動力を伝達する動力伝達部材を、駆動軸を囲むように周方向に配列された複数の孔を形成することで孔間に径方向で所定の長さを有するブリッジ部22により破断部を構成したハブ4を有して構成する。このハブ4のブリッジ部22の表面には、通常の使用トルク域(弾性変形域)で応力が最大となる箇所を避けた部位に破壊トルクを低減させる溝25を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源からのトルクを圧縮機に伝達するために圧縮機の駆動軸に固定される動力伝達装置に関し、特に、エンジンやモータ等の動力源からの回転動力を圧縮機に伝達する際に用いられる動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機のプーリやマグネットクラッチには、圧縮機がロックした場合に破断する動力伝達機構が設けられている。この動力伝達機構は、マグネットクラッチを用いるものであれば、アマチュアスリップ時の発熱でコイルを断線させる温度ヒューズを設けるものが一般的であり、また、クラッチレスプーリの場合であれば、前記コイルが構造上ないので、プーリと駆動軸とを連結する部分に過剰トルクで破断する破断機構や、リリース機構を設ける構成が一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1においては、クッチレス用圧縮機において、駆動軸に固定されたハブの円板部に駆動軸を中心とした所定半径の仮想円を想定し、この仮想円の円周に沿って駆動軸を囲むように一定間隔おきに複数の円弧状の長孔を打ち抜き、隣り合う長孔間に過剰トルクがかかった場合に破断する破断部を設けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−226451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コスト低減の観点から上述した金属破断式の動力伝達装置を用いた場合において、通常の使用トルク域(弾性変形域)で疲労破壊をしないように破断部の形状寸法を設定すると、この部分を塑性変形させるトルク域が高トルク域へシフトし、破壊トルクが大きくなりがちであった。
このため、動力源のトルクが小さい車両や、アイドル回転等のように動力源の出力が弱い場合には、コンプレッサがロックすると破断部が破断する前に動力源が停止してしまう不都合がある。
【0006】
このような不都合に対応するために、ブリッジ部の幅を狭くすることが考えられるが、ブリッジ部の巾を狭くすると、静的な破壊トルクは下がるが、同時に破断部に作用する曲げ応力に起因して疲労強度も相対的に低下する不都合がある。このため、疲労強度を従来と同程度に維持して、静的な破壊トルクだけを低下させる破断部の構成が模索されていた。
【0007】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、破断部の疲労強度を従来と同程度に維持しつつ、静的な破壊トルクを低下させることで、エンジン等の動力源の出力が弱い場合でも、コンプレッサがロックした場合に動力源が停止するより前に破断部を破断させることが可能な動力伝達装置を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明に係る動力伝達装置は、駆動源からの回転動力を受けて回転する駆動側回転体と、圧縮機の駆動軸に固定されると共に前記駆動側回転体からの回転動力を伝達する動力伝達部材を備えた装置であって、前記動力伝達部材は、前記駆動軸を囲むように周方向に配列された複数の孔を形成することで前記孔間に径方向で所定の長さを有するブリッジ部を備えた破断部を有し、前記ブリッジ部の表面には、当該ブリッジが弾性変形するトルク領域(通常の使用トルク域)で応力が最大となる箇所を避けた部位に破壊トルクを低減させる破壊トルク低減機構が設けられていることを特徴としている。
【0009】
したがって、ブリッジ部には弾性変形域で応力が最大となる箇所を避けた部位に破壊トルク低減機構が形成されているので、この破壊トルク低減機構が設けられた部分で、静的な破壊トルクを低下させることが可能となる。また、疲労破壊は、通常の使用トルク域(弾性変形域)で応力が最大となる箇所で生じるが、この部分には溝が形成されていないので、疲労強度は従来と同程度に保つことが可能となる。
【0010】
また、上記課題を達成するために、動力伝達装置は、駆動源からの回転動力を受けて回転する駆動側回転体と、圧縮機の駆動軸に固定されると共に前記駆動側回転体からの回転動力を伝達する動力伝達部材とを備えた動力伝達装置であって、前記動力伝達部材は、前記駆動軸を囲むように周方向に配列された複数の孔を形成することで前記孔間に径方向で所定の長さを有するブリッジ部を備えた破断部を有し、前記ブリッジ部の表面には、曲げ応力の影響を受けない部位を含む箇所に破壊トルクを低減させる破壊トルク低減機構が設けられていることを特徴としている。
【0011】
したがって、ブリッジ部には、曲げ応力の影響を受けない箇所(ブリッジ部の中央部位)を含むように破壊トルク低減機構が形成されているので、この部分で、静的な破壊トルクを低下させることが可能となり、また、疲労破壊を誘発する曲げ応力は、曲げ応力の影響を受けない箇所から外れた箇所(溝が形成されていない箇所)で最大となるので、破壊トルク低減機構を設けたことにより疲労破壊を誘発する曲げ応力が最大となる部位に変更はなく、疲労強度を従来と同程度に保つことが可能となる。
【0012】
前記動力伝達部材は、例えば、駆動軸に固定されたハブと、このハブに支持されると共に前記駆動側回転体に係合するダンパとを有して構成される場合においては、前記破断部を前記ハブに形成するようにしてもよい。また、上述した溝は、ブリッジ部の片面に設けられるものであってもよいが、両面に設けるようにしてもよい。
さらに、上述した破壊トルク低減機構としては、孔の端部の中心間を結ぶ線上に形成された溝で構成してもよく、前記ブリッジ部を隣り合う孔の互いに対峙する端部が他の部位に比べて径方向で相対的に幅広に形成される場合には、前記溝を、前記ブリッジ部の中央を過ぎるように設けるようにするとよい。例えば、孔の端部を拡径にして径方向で相対的に幅広な円形に形成される場合には、溝をブリッジ部の巾が最も狭くなる部分に形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように、本発明によれば、動力伝達装置の破断部が駆動軸を囲むように周方向に配列された複数の孔を形成することで隣り合う孔間に径方向で所定の長さを有するブリッジ部により構成される場合に、ブリッジ部の表面に、応力が最大となる箇所を避けた部位で破壊トルクを低減させる破壊トルク低減機構(例えば、孔間を渡す溝)を形成したり、曲げ応力の影響を受けない部位を含む箇所で破壊トルクを低減させる破壊トルク低減機構(例えば、孔間を渡す溝)を形成すれば、この部分で、静的な破壊トルクを低下させることが可能となり、また、破断部の疲労強度を従来と同程度に保つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明に係る動力伝達装置が搭載された圧縮機の外観構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明に係る動力伝達装置の全体構成例を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明に係る動力伝達装置を示す図であり、(a)は、軸方向から見た図であり、(b)は、その斜視図である。
【図4】図4は、本発明に係る動力伝達装置を示す分解斜視図である。
【図5】図5は、動力伝達装置の一部を構成するハブを示す図であり、(a)は、その側断面図、(b)は、軸方向から見た図である。
【図6】図6は、ハブの隣り合う孔間に形成された破断部(ブリッジ部)に設けられる溝を示す図であり、(a)は、溝が形成されたハブを示す断面図、(b)は、(a)の溝が形成されている部分を示す拡大断面図、(c)は、溝が形成されている部分をハブの軸方向から見た拡大図である。
【図7】図7は、破断部のフォンミゼス応力を示す有限要素法(FEM)による解析図であり、(a)は、溝が形成されていない破断部のトルクがかかっていない状態を示す図であり、(a−1)は、同破断部に高トルクをかけた場合の状態を示す図であり、(a−2)は、同破断部に低トルクをかけた場合の状態を示す図である。また、(b)は、溝が形成されている破断部のトルクがかかっていない状態を示す図であり、(b−1)は、同破断部に高トルクをかけた場合の状態を示す図であり、(b−2)は、同破断部に低トルクをかけた場合の状態を示す図である。
【図8】図8は、ハブの破断部付近の寸法関係を示した図であり、(a)は、破断部をハブの軸方向から見た図であり、(b)は、破断部の断面を示す図である。
【図9】図9は、溝が形成されていない従来の破断部と溝を形成した破断部とで、公称ひずみ、公称応力、真応力を比較した線図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態を図面により説明する。
【0016】
図1から図4においてこの発明に係るクラッチレス圧縮機1に用いられる動力伝達装置2の一例が示されている。この動力伝達装置2は、駆動側回転体を構成するプーリ3と、動力伝達部材を構成するハブ4及びダンパゴム5とを有して基本的に構成されている。
【0017】
このうち、プーリ3は、例えば合成樹脂製(例えばフェノール樹脂)のもので、内側周面には筒状部材6がインサート成形により固定され、その筒状部材6にラジアル軸受7が圧入固定されており、圧縮機1のハウジング10のボス部10aに対し、ラジアル軸受7を介して回転可能に装着されている。
【0018】
プーリ3の外周面には、ベルト(図示せず)が巻き掛けられ、プーリ3はコンプレッサ1の駆動軸9を回転中心としてエンジン等の動力源(図示せず)からの駆動力により回転されるようになっている。
【0019】
このプーリ3の前面側には、収容凹部8が形成されており、この収容凹部8には、ダンパゴム5と、駆動軸9に固定されてダンパゴム5を支持するハブ4とが収納されている。そして、この収容凹部8の内側周面には、後述するダンパゴム5の係合凸部12が噛み合う多数の係合凹部11が連続的に且つ環状に配設されている。この連続的な係合凹部11によりプーリ側係合部が形成されている。
【0020】
前記駆動軸9の先端部は、ハウジング10から突出し、その先端部にはハブ4がボルト13で固定されている。このボルト13は、フランジ付きで、ワッシャ14を介して駆動軸9の先端に形成された雌ねじ15に螺合されており、したがって、ハブ4と駆動軸9とは一体に回転するようになっている。
【0021】
ハブ4は、例えば、S45C等の機械構造用炭素鋼鋼材によって形成されるもので、図5にも示されるように、前記駆動軸9に外嵌固定されるハブ部4aと、これに接続された円板部4bと、ダンパゴム5に固定されてこれを支持するダンパ支持部4cとから構成されている。
【0022】
ハブ4に支持されるダンパゴム5は、環状体をなす合成ゴムにより構成され、中央にハブ4を内嵌する嵌合穴5aが形成され、この嵌合穴5aにハブ4のダンパ支持部4cが圧着、接着(加硫接着)等の手段により強固に固着されている。また、外周面には、前記プーリ3の係合凹部11に噛み合う多数の係合凸部12が連続的に且つ環状に配設され、この連続的な係合凸部12により、ダンパゴム側係合部が形成されている。
【0023】
したがって、ハブ4が固定されたダンパゴム5をプーリ3の収容凹部8にダンパゴム側係合部(係合凸部12)とプーリ側係合部(係合凹部11)とを係合させることで(ダンパゴム側係合部の係合凸部12とプーリ側係合部の係合凹部11とを噛み合わせることで)、プーリ3にダンパゴム5が装着され、プーリ3からの回転力がダンパゴム5を経てハブ4に伝達され、このハブ4から駆動軸9に伝達されるようになっている。尚、ダンパゴム5は、その材料の性質上、トルク変動を緩和する作用を備えている。
【0024】
ところで、前記ハブ4には、図5及び図6にも示されるように、円板部4bに破断部20が設けられている。この破断部20は、円板部4bに駆動軸9を中心とした所定半径の仮想円を想定し、この仮想円上に一定間隔おきに複数(この例では、3つ)の円弧状の長孔(スリット)21を設けることで、隣り合う長孔間に形成されている。
【0025】
長孔21の両端部には、長孔21の中間部の巾wsよりも大きい巾を備えた拡径部21aが形成されており、この例では、中間部の巾よりも大きい直径2rを備えた円形に形成されている。したがって、破断部20は、ハブ4の径方向に長孔21の中間部の巾Wsよりも長く形成されたブリッジ部22により構成され、この例では、ブリッジ部22の中間部分(仮想円が過ぎる部位)が最も巾狭に形成されている。
【0026】
尚、23は、ハブ4のダンパ支持部4cの内側において、ハブ部4aを覆うように固定され、円板部4bと所定の間隔を開けて対峙させたカバーである。
【0027】
したがって、何らかの原因でコンプレッサ側がロックし、プーリ3に過剰トルクがかかった場合には、ハブ4に設けられた破断部20が破断し、ハブ4は、この破断部20を境として、破断部20からハブ部4aまでの残存部と破断部20からダンパ支持部4cまでの遊離部とに分離し、遊離部が空回りすることとなる。この際、破断部20の破断に伴い遊離部が駆動軸の軸方向先端側へ離脱するおそれがあるが、ハブ部4aの前方にはカバー部材23が設けられているので、破断したハブ4はこのカバー部材23に係止されて離脱することが防止される。
【0028】
ところで、前記ハブ4に形成される破断部20は、動力源のトルクが小さい車両や、アイドル回転等のように動力源の出力が弱い場合でも、コンプレッサ1がロックした場合に、動力源が停止する前に破断することが望ましい。
このため、破断部20には、次のような特徴を持たせている。即ち、図5及び図6に示されるように、ブリッジ部22の両側の表面(フロント側側面とリア側側面)に、長孔間を連設するように形成された破壊トルク低減手段を構成する溝25が設けられている。
【0029】
この溝25は、この例では、破断部20の表面を断面円弧状に切削して形成されているもので、応力が最大となる箇所を避けた部位で長孔間を連接するように設けられている。この応力が最大となる箇所を避けた部位とは、破断部の通常の使用トルク域(破断部が弾性変形する領域であり、トルクが約50Nm以下となる領域)で応力負荷が最大となる箇所を避けた部分、即ち、図7の(b−2)で示すブリッジ部22の根元部分(332.55MPaの応力が係る部分)を避けた部位であり、この例では、長孔21の端部の中心間を結ぶ線上(長孔21の中心線を通る仮想円上)に溝25が形成されている。
【0030】
また、曲げ応力に影響を与えずに(疲労強度を従来と同程度のままとして)、静的な破壊トルクだけを低下させるために、上述のように破断部20が径方向に所定の長さを有するブリッジ部22として形成される場合には、曲げ応力の影響を受けない箇所を含むように孔間を渡すように溝25が形成されている。即ち、ブリッジ部22の中心(隣り合う長孔21のそれぞれの端部の中心を通る仮想線の中点)は、曲げ応力が理論上零となることから、このブリッジ部22の中心点(点O)を過ぎるように溝25を形成すれば、曲げ応力に起因する疲労強度への影響が殆どなくなる(疲労強度が低下しにくくなる)。
【0031】
本出願人によれば、疲労強度を低下させることなく、静的な破壊トルクを低下させる観点から、ブリッジ部22の中心を過ぎるように溝25を形成する場合について、次のような寸法関係に設定すれば、好ましい結果が得られることを確認している。
【0032】
即ち、ハブを炭素鋼材(S45C)で構成し、図8に示されるように、ハブの円板部4bの厚みをb、ブリッジ部22のピッチ円半径(長孔や溝が形成される仮想円の半径)をR,長孔21の両端部の拡径部21aの半径をr、ブリッジ部22のピッチ円半径上の巾をh、長孔21の径方向の巾をws、ブリッジ部22に形成される溝25の断面の曲率半径をrg、ブリッジ部22の溝25が形成された部分での厚みの最小値をwとした場合に、以下のように設定する。
ハブの円板部の厚み:b=2.2mm
ブリッジ部22のピッチ円半径:R=15.5mm
拡径部21aの半径:r=2.1mm
ブリッジ部のピッチ円半径上の巾(ブリッジ部の最短巾):h=2.4mm
長孔の径方向の巾:ws=2.5mm
溝の断面の曲率半径rg=2.0mm
ブリッジ部の溝が形成された部分での最小厚み:w=1.5mm
【0033】
このような溝25を備えた破断部20と、溝25が設けられていない従来の破断部20において、要求される高トルク(70±20Nm)を与えた場合と、疲労破壊に影響を与える低トルク(300MPa未満で±20Nm)を与えた場合について、それぞれの有限要素法による解析図(フォンミゼス応力(vonMises stress))を見ると、図7に示されるように、疲労破壊に影響を与える低トルク(20Nm程度)を与えた場合には、破断部に溝25を形成すると、(b−2)で示されるように、溝25の部分も応力が高まってくるが、ブリッジ部22の根元部分(ブリッジ部22の溝25から径方向で離れた部分)が最大応力となり、(a−2)で示される溝が無い従来の破断部20と同位置で最大応力が得られている。このことから、破断部の弾性変形領域では、溝25の有無に拘わらず、応力が最大となる部位はほぼ同じであり、溝25を設けたことによって破断部20の疲労強度は大きく変化しないことが裏付けられた。
【0034】
これに対して、破壊トルクに近い高トルクを与えた場合には、図7(a−1)に示されるように、溝25が形成されていない従来の構成では、ブリッジ部22の根元部分が最大応力となっているのに対し、溝を形成した今回の構成では、図7(b−1)に示されるように、ブリッジ部22の根本部分よりも溝25の部分に応力が集中している。
【0035】
以上の結果を定量的に表したものが図9で示すグラフである。図9の左側縦軸は応力が最大となる部位の応力を表している。このグラフから明らかなように、疲労破壊強度の尺度となる低トルク領域(約50Nm以下の弾性変形領域)においては、溝の有無に拘わらず、ブリッジ部に作用する応力が最大となる部位に変化がないため、特性線に変化は見られないが、溝25を形成した場合には、塑性領域に入ると、最大応力が作用する部位が溝にシフトするため、この部分のひずみが他の部分よりも大きくなり、その結果、真応力が大きくなり、溝25の部分で破断するものと考えられる。
【0036】
実際、図9で示すグラフから明らかなように、塑性領域に入ってしばらくするとひずみが大きくなり、公称応力に対して真応力が大きくなり始める。公称ひずみが0.1(10%)となるトルクを破壊トルクとすると、溝25が形成されていない従来の破断部では、破壊トルクが108Nmであったのに対し、溝25を形成した破断部20にあっては、破壊トルクは87Nmとなり、破壊トルクは19%程度の低減となった。即ち、溝25を設けたことで、弾性域の特性は従来とほぼ同じであったが、塑性域に入ると、同じ大きさのトルクでも応力が相対的に高くなっており、溝25の部分で破断されやすくなっていることが判る。
【0037】
よって、上述のように溝25を設けたことで、弾性域での挙動を同じにしつつ、塑性域において挙動を大きく異ならせたので、破断部の疲労強度を従来と同程度に維持しつつ、破壊トルクを低下させることが可能となり、動力源の出力が弱い場合でも、コンプレッサがロックした場合に動力源が停止する前に破断部を破断させることが可能となる。
【0038】
尚、上述においては、ブリッジ部22の両面に溝25を形成した例を示したが、片面にのみ形成するようにしても同様の作用効果を得ることが可能となる。
また、上述の構成においては、動力伝達装置をクラッチレス圧縮機に適用した例を示したが、マグネットクラッチを有する圧縮機において、アマーチュア側に同様の破壊トルク低減機構を適用してもよい。
【0039】
さらに、上述の構成においては、ブリッジ部22を形成するために、長孔の端部を円形に拡径させた例を示したが、長孔の端部を径方向に長くした矩形状に形成してもよく、また、溝25の形状も上述した構成に限定されるものではなく、弾性変形域(低トルク域)で応力が最大となる箇所を避けたブリッジ部の部分で高トルク時の応力を集中させることができ、又は、曲げ応力の影響を受けないブリッジ部の部位を含むように溝を形成することができれば、どのような溝形状であってもよい。
また、上述の構成においては、ハブ4に破断部20を設けた構成例を示したが、破断部20が形成される部材は、動力伝達部材であれば足り、ハブ4とは別の部材、例えば、ハブ4とダンパゴム5との間に中間部材を介在させる場合には、その中間部材に設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 圧縮機
2 動力伝達装置
3 プーリ
4 ハブ
9 駆動軸
20 破断部
21 長孔
22 ブリッジ部
25 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの回転動力を受けて回転する駆動側回転体と、圧縮機の駆動軸に固定されると共に前記駆動側回転体からの回転動力を伝達する動力伝達部材を備えた動力伝達装置であって、
前記動力伝達部材は、前記駆動軸を囲むように周方向に配列された複数の孔を形成することで前記孔間に径方向で所定の長さを有するブリッジ部を備えた破断部を有し、
前記ブリッジ部の表面には、当該ブリッジが弾性変形するトルク領域で応力が最大となる箇所を避けた部位に破壊トルクを低減させる破壊トルク低減機構が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
駆動源からの回転動力を受けて回転する駆動側回転体と、圧縮機の駆動軸に固定されると共に前記駆動側回転体からの回転動力を伝達する動力伝達部材とを備えた動力伝達装置であって、
前記動力伝達部材は、前記駆動軸を囲むように周方向に配列された複数の孔を形成することで前記孔間に径方向で所定の長さを有するブリッジ部を備えた破断部を有し、
前記ブリッジ部の表面には、曲げ応力の影響を受けない部位を含む箇所に破壊トルクを低減させる破壊トルク低減機構が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
前記動力伝達部材は、駆動軸に固定されたハブと、このハブに支持されると共に前記駆動側回転体に係合するダンパとを有して構成され、前記破断部は、前記ハブに形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記破壊トルク低減機構は、ブリッジ部の両面に設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記破壊トルク低減機構は、前記孔の端部の中心間を結ぶ線上に形成された溝であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記ブリッジ部は、隣り合う孔の互いに対峙する端部が他の部位に比べて径方向で相対的に幅広に形成されて構成され、前記溝は、前記ブリッジ部の巾が最も狭くなる部分に形成されていることを特徴とする請求項5記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図7】
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