説明

動物の衝突防止設備

【課題】路線内に動物が侵入して、迫り来る列車に追われたとしても、速やかに外部に逃がすことができ、列車との衝突事故を未然に回避することができる、動物の衝突防止設備を提供する。
【解決手段】列車が走行する鉄道軌道1と軌道外領域2との境界に入口5が設けられて、鉄道軌道1上を走る動物を避難させる退避路4を有し、前記退避路4は、前記鉄道軌道1から徐々に離れる位置に設置され、かつ前記鉄道軌道1から離れるに従い路面6が上方傾斜するように設けられるとともに、該路面6の途中に段差7が形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路線上に侵入した鹿、猪などの野生動物が鉄道車両と衝突することを防止する衝突防止設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、野生の鹿の個体数と分布域が増加し、それに伴い鉄道車両と鹿の衝突事故が増えている。鉄道車両が鹿と衝突すると、列車の定時運行に支障を来すことになるため、これを防止する対策が必要となる。
【0003】
例えば、特許文献1に示される動物侵入防止踏み板では、猪やカモシカなどの動物の足の大きさに近い寸法の隙間を複数個開けてなる構造体で、足が隙間にすっぽりと入ることを嫌う習性を利用して、動物を寄せ付けないようにする。
【0004】
特許文献2に示される鉄道敷地への鹿侵入防止のための物品は、ライオンの糞又は同等の臭い物質を染み込ませた紐状もしくは粒状のものを鉄道のフェンス又はその敷地周辺に敷設することで、路線内への動物の侵入を防止する。
【0005】
特許文献3に示される鳥獣害の防止対策用具は、円盤又は光ディスクを回転翼とした風車、および風車の回転翼もしくは軸部分に円盤又は光ディスクを取り付けた風車であって、路線への鳥獣の侵入を防止する。
【0006】
特許文献4に示される路床のコンクリートブロックは、三次元直角座標軸上にその原点から所定距離を隔てて位置する各座標点と原点とを繋ぐ軸線上に位置する3本の軸方向梁と、各座標点相互を繋ぐ斜線上に位置する3本のトラス梁とを備えるもので、単位ブロックの梁の間に、獣や小動物が通過可能な空間を形成する。
【0007】
特許文献5に示される路床の構築用ブロックは、正三角柱の稜部分に位置して端部を互いに一体に連結した梁を備え、正三角柱の1個の周面を突き合わせるようにして2個のブロック相互を連結固定する連結固定手段を備えたもので、獣や小動物はこのブロックの空間を通って横断して行き来きできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−201409号公報
【特許文献2】特開2005−118023号公報
【特許文献3】特開2005−66086号公報
【特許文献4】特開平11−61707公報
【特許文献5】特開平9−217304公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、鹿と鉄道車両との衝突パターンは大きく分けて3つあると考えられている。(1)路線の見通し不良区間における出会いがしら型、(2)線路上を逃げる鹿を轢いてしまう追い付き型、(3)線路脇にいた鹿が突然、列車前を横切る飛び出し型、である。
このうち、(2)で示される追い付き型は、列車に追われた鹿が線路に沿って直線状に逃げる習性によるものであって、少しでも脇に逃がすことができれば、列車との衝突を回避することができる。
【0010】
しかしながら、上記特許文献1〜3は、路線への動物の寄り付きを防止する技術であるため、一旦、路線内に侵入してしまった動物に対しては対処することができない。また、上記特許文献4及び5は、路線上ではない経路を通じて、動物を横断及び行き来させることができる技術であり、上記特許文献1〜3と同様に、路線内に侵入してしまった動物に対しては対処することができないという問題があった。
【0011】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、路線内に動物が侵入して、迫り来る列車に追われたとしても、速やかに外部に逃がすことができ、列車との衝突事故を未然に回避することができる、動物の衝突防止設備を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。すなわち、本発明では、列車が走行する鉄道軌道と軌道外領域との境界に入口が設けられて、鉄道軌道上を走る動物を避難させる退避路を有し、前記退避路は、前記鉄道軌道から徐々に離れるように、かつ前記鉄道軌道から離れるに従い路面が上方傾斜するように設けられるとともに、該路面の途中に段差が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、列車が走行する鉄道軌道と軌道外領域との境界に、鉄道軌道上を走る動物を避難させる退避路の入口を設け、該退避路を、鉄道軌道から徐々に離れる位置関係としたので、鉄道軌道内に動物が侵入して、迫り来る列車に追われたとしても、該動物を、前記退避路に誘導して速やかに外部に逃がすことができ、これによって列車との衝突事故を未然に回避することができる。
【0014】
また、前記退避路は、鉄道軌道から離れるに従い路面が上方傾斜し、かつ該路面の途中に段差を形成するようにしたので、段差に形成される壁面の高さを、適宜設定することによって、鉄道軌道から退避路に入った動物を、軌道外領域の地面に着地させることができ、同時に該軌道外領域から前記鉄道軌道への動物の侵入を防止することができる。
【0015】
また、前記退避路の入口は、鉄道軌道と軌道外領域とを仕切る柵の途中に設けるようにすれば、列車に追われかつ柵によって外部への避難ができなかった動物を、柵の途中に入口が設けられた退避路を通じて、速やかに軌道外領域に誘導することができる。
【0016】
また、前記退避路を、上り方面を走行する列車に追われる動物を軌道外領域に逃がす第一退避路と、下り方面を走行する列車に追われる動物を軌道外領域に逃がす第二退避路とから構成し、さらに、これら二つの待避路を同一直線上に配置すれば、上り下り2方面の列車に対して動物との衝突を有効に回避することができるとともに、仮に、いずれか一方の待避路に動物が侵入したとしても、その直進する性質を利用して、他方の待避路に導いて線路外へ逃がすことができる。
【0017】
また、前記鉄道軌道に、光・音などによる警告を発する警告手段を別途設けることにより、軌道内に侵入した動物を退避路に確実に誘導することができ、これによって列車との衝突事故が発生する確率をさらに減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態である動物の衝突防止設備を示す斜視図である。
【図2】図1に付加される警告手段を示す斜視図である。
【図3】図2の警告手段に球面の反射板を使用した例を示す斜視図である。
【図4】図1の衝突防止装置の他の形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について図1〜図4を参照して説明する。
図1に符号1で示すものは列車が走行する鉄道軌道、符号2で示すものは軌道外領域である。本例の鉄道軌道1は単線であって、上り列車と下り列車が同一の線路を走行する。
【0020】
前記鉄道軌道1の直線区間の両側で、かつ該鉄道軌道1と軌道外領域2とを仕切る境界には柵3が設けられており、該柵3の途中には、鉄道軌道1上を走る動物を避難させる退避路4の入口5が設けられている。
前記退避路4は、鉄道軌道1から徐々に離れる位置関係に設置され、かつ該鉄道軌道1から離れるに従い路面6が上方傾斜するように設けられている。なお、この退避路4の鉄道軌道1の直線区間に対する設置角度(α)は、120〜150°程度の鈍角となるように設定されている。
【0021】
また、前記退避路4の路面6の途中には、段差7が形成されている。この段差7は、前記鉄道軌道1から退避路4に入った動物が前記軌道外領域2の地面に着地でき、かつ該軌道外領域2から前記鉄道軌道1への動物の侵入を防止する高さの壁面8を有している。具体的には、壁面8の高さは、侵入防止の対象となる動物、例えば鹿の運動能力を考慮すると、1m以上とすることが望ましい。
そして、このような壁面8を有する段差7が設けられることで、鉄道軌道1から退避路4に入った動物を軌道外領域2に逃がし、同時に軌道外領域2にいる動物が鉄道軌道1内へ入らないようにしている。
【0022】
また、前記退避路4の両側には柵9が設けられている。この柵9は、退避路4の入口5にて、鉄道軌道1の両側にある柵3と連結されている。これにより外部から鉄道軌道1への動物の侵入を防ぎ、かつ退避路4に対して動物を円滑に誘導する。
【0023】
本実施形態の鉄道軌道1には2つの退避路4が設置されている。
これら2つの退避路4は、鉄道軌道1の一方の側に位置する第一退避路4Aと、該鉄道軌道1の他方の側に位置する第二退避路4Bからなり、ほぼ同一直線上となるように配置されている。
第一退避路4Aは、上り方面(矢印a方向)を走行する列車に追われる動物を軌道外領域2に逃がすためのものであり、第二退避路4Bは下り方面(矢印b方向)を走行する列車に追われる動物を軌道外領域2に逃がすためのものである。
なお、本実施形態は鉄道軌道1が単線であるので、1本の軌道に対して2つの退避路4を設けたが、複線の場合には、上り線の軌道及び下り線の軌道の各側部にある柵に対して、それぞれ第一退避路4A,第二退避路4Bを設けるようにする。
【0024】
また、鉄道軌道1には、図2に示されるような、軌道内に侵入した動物に警告を発し、該動物を退避路4に誘導する警告手段10をオプションで設けても良い。
この警告手段10として、図3に示されるような、電源が不要で、かつ入射光又は外部音を反射して、鉄道軌道1上の動物の走行経路に向けて集中的に送ることができる球面状のパラボラ型反射鏡11が使用される他、電源が確保できるのであれば、電気的に光、音声を発しても良い。
そして、電源を確保できる場合には、光源には消費電力の少ないLED照明、指向性が高い警笛を連続的又は間欠的に発するスピーカといった電気的な警告手段10が使用できる。また、入射光又は音を反射する球面状の反射鏡11には、光触媒により防汚性を高めたものを使用すると良い。また、前記警告手段10は、いずれも鉄道軌道1の側部に立設した支柱12に取り付けられ、光線又は音声が鉄道軌道1上の動物に至るように予め向きが調整されている。
【0025】
以上詳細に説明したように本実施形態に係る動物の衝突防止設備によれば、列車が走行する鉄道軌道1と軌道外領域2との境界に、鉄道軌道1上を走る動物を避難させる退避路4の入口5を設け、該退避路4を、鉄道軌道1から徐々に離れる位置関係としたので、鉄道軌道1内に動物が侵入して、迫り来る列車に追われたとしても、該動物を、前記退避路4に誘導して速やかに外部に逃がすことができ、これによって列車との衝突事故を未然に回避することができる。
【0026】
また、前記退避路4は、鉄道軌道1から離れるに従い路面6が上方傾斜し、かつ該路面6の途中に段差7を形成するようにしたので、該段差7に形成される壁面8の高さを、適宜設定することによって、鉄道軌道1から退避路4に入った動物を、軌道外領域2の地面に着地させることができ、同時に該軌道外領域2から前記鉄道軌道1への動物の侵入を防止することができる。
【0027】
また、前記退避路4の入口5は、鉄道軌道1と軌道外領域2とを仕切る柵3の途中に設けるようにすれば、列車に追われかつ柵3によって外部への避難ができなかった動物を、柵3の途中の入口5から侵入できる退避路4を通じて、速やかに軌道外領域2に誘導することができる。
また、鉄道軌道1が単線である場合、前記退避路4を、上り方面(矢印a方向)を走行する列車に追われる動物を軌道外領域2に逃がす第一退避路4Aと、下り方面(矢印b方向)を走行する列車に追われる動物を軌道外領域2に逃がす第二退避路4Bと、から構成すれば、上り下り2方面の列車に対して動物との衝突を有効に回避することができるとともに、仮に第1の待避路から動物が侵入した場合であっても、そのまま直進すれば、第2の待避路へ導いて鉄道軌道の外へ逃がすことができる。
また、前記鉄道軌道1に、光・音などによる警告を発する警告手段10を別途設けることにより、軌道内に侵入した動物を退避路4に確実に誘導することができ、これによって列車との衝突事故が発生する確率をさらに減少させることができる。
【0028】
なお、上記実施形態では、図1に示すように、鉄道軌道1の一方の側及び他方の側に、該鉄道軌道1を挟むようにそれぞれ第一退避路4A及び第二退避路4Bを設けるようにしたが、軌道の状態によっては、各側に設けるとは限らない。
例えば、図4に示すように、鉄道軌道1がカーブしている区間では、カーブの直前で直線を継続する位置関係となるように、第一退避路4Aと第二退避路4Bとからなる退避路4を設けると良い。
すなわち、第一退避路4Aは、上り方面(矢印a方向)を走行する列車に追われる動物を図中左側の軌道外領域2に逃がすように、カーブの直前に、鉄道軌道1の直線をそのまま継続するように配置される。また、第二退避路4Bは下り方面(矢印b方向)を走行する列車に追われる動物を図中左側の軌道外領域2に逃がすように、同じく、カーブの直前に、鉄道軌道1の直線をそのまま継続するように配置される。
そして、このようなカーブ直前の第一退避路4Aと第二退避路4Bの設置により、動物の行動パターンに従った効率的な軌道外領域2への誘導が可能となる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、路線上に侵入した鹿、猪などの野生動物が鉄道車両と衝突することを防止する衝突防止設備に関する。
【符号の説明】
【0031】
1 鉄道軌道
2 軌道外領域
3 柵
4(4A,4B) 退避路
5 入口
6 路面
7 段差
8 壁面
9 柵
10 警告手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車が走行する鉄道軌道と軌道外領域との境界に入口が設けられて、鉄道軌道上を走る動物を避難させる退避路を有し、
前記退避路は、前記鉄道軌道から徐々に離れるように、かつ前記鉄道軌道から離れるに従い路面が上方傾斜するように設けられるとともに、該路面の途中に段差が形成されることを特徴とする動物の衝突防止設備。
【請求項2】
前記段差は、前記鉄道軌道から退避路に入った動物が前記軌道外領域の地面に着地でき、かつ該軌道外領域から前記鉄道軌道への動物の侵入を防止する高さの壁面を有することを特徴とする請求項1に記載の動物の衝突防止設備。
【請求項3】
前記鉄道軌道の側部には、該鉄道軌道と軌道外領域とを仕切る柵が設けられ、該柵の途中に、前記退避路の入口が設けられていることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の動物の衝突防止設備。
【請求項4】
前記退避路は、一の方面を走行する列車に追われる動物を軌道外領域に逃がす第一退避路と、反対の方面を走行する列車に追われる動物を軌道外領域に逃がす第二退避路とを有し、
前記第1の待避路と第2の待避路とは、ほぼ同一直線上に配置された
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の動物の衝突防止設備。
【請求項5】
前記鉄道軌道には、軌道内に侵入した動物に警告を発し、該動物を前記退避路に誘導する警告手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の動物の衝突防止設備。
【請求項6】
前記警告手段は、光線又は音、又はその双方により動物に対して警告を与えることを特徴とする請求項5に記載の動物の衝突防止設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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