説明

動物接近検知システム

【課題】動物の侵入を阻止すべき境界を越えたか否かを正確に検知する動物接近検知システムの提供。
【解決手段】動物接近検知システムは、動物に取り付けた発信器1が発信する電波を受信するアンテナ2と、アンテナ2に対する発信器1の方位を検出する方位検出手段6と、アンテナ2を基点po0として異なる方位に二つの基準発信地点po1、po2を設定し、この基準発信地点po1、po2を結ぶ位置に制定した境界線BD1上を発信器1と同じ電波特性を有する可動発信器STが移動した場合にアンテナ2が受信する可動発信器STからの電波の基準受信強度を方位と関連付けた基準受信強度情報を記憶し、方位検出手段6によって検出される方位に対応する基準受信強度を基準受信強度情報で取得し、取得した基準受信強度と発信器1から受信される電波の受信強度を比較して発信器1を取り付けた動物が境界線BD1を越えて基点po0側に接近したかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め動物に取り付けられた発信器の電波を受信して動物の接近を検知する動物検知システムに係り、特に、極力簡易な構成で動物の侵入を警戒すべき境界に対する監視機能を適正化した動物接近検知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
動物接近検知システムは、予め野生動物に取り付けられた発信器が発信する電波を受信するためのアンテナと、このアンテナを通じて発信器からの電波を受信するための受信制御手段とを有し、アンテナを通じて発信器の電波を受信し、受信した電波に基づいて動物の検知を行うシステムである。このような動物接近検知システムの一例として特許文献1には、動物の接近を外部に報知する報知手段を更に備え、受信制御手段が、アンテナを通じて発信器の電波を受信したときに報知手段を介して外部に音や光等で動物の接近を報知するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−333911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来の動物接近検知システムは、電波の受信可能範囲に発信器が取り付けられた動物が侵入したか否かのみを検出するだけなので、動物の位置を十分に特定することができない問題がある。かかる問題に対応して動物がいる範囲を正確に特定するためには、アンテナを通じて受信した電波の受信強度がアンテナから発信器までの距離に応じて変化することを利用して、受信強度と距離との相関関係に関する相関情報を事前の計測により同定して記憶しておき、この相関情報と受信した電波の受信強度とに基づいてアンテナと発信器間の距離を算出して推定することが一つの有効な手段として考えられるが、例えば集落の形態や事情によっては、動物の侵入を阻止すべき境界が方位によって異なる場合や、いびつであったりする場合がある。このような場合に、方位ごとに受信強度及び距離を計測して、受信強度から距離を算出推定するための推定アルゴリズムや受信強度と距離との相関関係に関する情報を都度同定するのは極めて煩雑である。
【0005】
また、電波の伝搬特性は、森や山などの障害物等のアンテナ周囲の環境の影響を受けて変化するものであり、方位に応じて電波の伝搬特性が異なるため、方位によらず一律に受信強度を扱うと、動物の接近度に関する正確な情報が得られない場合がある。
【0006】
さらに、電波の伝搬特性は、天候等の影響によって変化するので、同じ距離であっても天候等の違いによって受信する電波の受信強度が変化することがある。この場合、予め同定された相関関係と電波受信時の実際の相関関係とが天候の変化によって一致しなくなり、算出により推定される距離に誤差が生じ、動物の検知精度が低減してしまう問題がある。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、特に動物の侵入を阻止すべき境界を特定して、それを越えたか否かを正確に検知したい事情がある場合に、準備や検知手順、機器類を極力抑えつつこれを効果的に実現できるようにした新たな動物接近検知システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0009】
すなわち、本発明に係る動物接近検知システムは、動物に取り付けるための発信器が発信する電波を受信するためのアンテナと、このアンテナに対する前記発信器の方位を検出する方位検出手段と、前記アンテナを基点として異なる方位に少なくとも二つの基準発信地点を設定しこれら二つの基準発信地点を結ぶ位置に制定した境界線上を前記発信器と同じ電波特性を有する可動発信器が移動したとする場合に前記アンテナが受信するであろう可動発信器からの電波の基準受信強度を前記方位と関連付けた基準受信強度情報を記憶する基準受信強度記憶部と、前記方位検出手段によって検出される方位に対応する基準受信強度を前記基準受信強度記憶部が記憶する基準受信強度情報に基づいて取得し、取得した基準受信強度と動物に取り付けた発信器から現に受信される電波の受信強度とを比較して発信器を取り付けた動物が前記境界線を越えて前記基点側に接近したか否かの接近状況を判定する接近状況判定部とを具備してなることを特徴とする。
【0010】
このように、少なくとも二つの基準発信地点を結ぶ位置に制定した境界線に沿って移動する可動発信器からの電波の基準受信強度を予め記憶しておき、これら基準受信強度のうち方位検出手段によって特定される発信器の方位に対応する基準受信強度を取得し、取得した基準受信強度を発信器からの電波の受信強度が超えるか否かを比較するだけで接近状況を判定するので、受信強度から距離を算出(推定)する場合に比べて動物が境界線を越えたか否かを正確に検出することができる。しかも、接近状況を判定するにあたり、発信器からの電波の受信強度と基準受信強度とを比較するだけなので、複雑な推定アルゴリズムを用いることなく簡素な構成で動物の接近状況を判定することができる。
【0011】
アンテナ周囲の環境条件や天候等の影響によって電波の伝搬特性が変化する場合であっても動物の検知精度が低減することを防止するためには、前記基準発信地点に設置された基準発信器と、所定のタイミングで前記アンテナが受信する前記基準発信器からの電波の受信強度に基づき前記基準受信強度記憶部に記憶される基準受信強度情報を更新する更新部とを更に有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上説明したように、少なくとも二つの基準発信地点を結ぶ位置に制定した境界線に対応する基準受信強度のうちアンテナに対する発信器の方位に対応する基準受信強度を取得して、取得した基準受信強度を発信器からの電波の受信強度が超えるか否かを比較するだけで動物の接近状況を判定するので、受信強度から距離を算出(推定)する場合に比べて動物が境界線を越えたか否かを正確に検出することが可能となるとともに、複雑な推定アルゴリズムを用いることなく簡易な構成で動物の接近状況を判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る動物接近検知システムを模式的に示す構成図。
【図2】同動物接近検知システムの受信制御手段を示す機能ブロック図。
【図3】同動物接近検知システムの受信制御手段で実行される動物検知処理ルーチンを示すフローチャート。
【図4】識別情報に関する説明図。
【図5】基準受信強度を方位と関連付けた基準受信強度情報に関する説明図。
【図6】同動物接近検知システムの動作を示す説明図。
【図7】本発明の他の実施形態に係る動物接近システムを模式的に示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る動物接近検知システムを、図を参照して説明する。
【0015】
動物接近検知システムは、図1に示すように、サル等の野生動物に取り付けるための発信器1が発信する電波を受信するためのアンテナ2と、少なくとも二つの基準発信地点po1、po2に設置される基準発信器5a、5bと、アンテナ2を通じて発信器1からの電波を受信するための受信制御手段3とを有しており、アンテナ2を通じて発信器1の電波を受信し、受信した電波に基づいて動物の所在を検出するシステムである。本実施形態では、動物の接近を外部に報知するマイクやディスプレイ等を用いた報知手段4を更に備え、動物の検出結果に基づいて報知手段4を介して音や光、地図画像等で動物の接近を報知する動物接近報知システムを構成している。
【0016】
発信器1は、野生動物の行動域調査等に使用されるテレメトリ発信器であり、発信器1毎に予め設定された識別情報を含む所定周波数P[Hz]の電波を発信するものである。識別情報は、図4に示すように、サルや熊等の動物の種別を区別するためや個体を識別するための番号であるデータである。
【0017】
図1に示すアンテナ2は、互いに異なる位置に少なくとも三つの無指向性アンテナ21、22、23を配置したもので、無指向性アンテナ21、22、23は、鉛直方向に延びて配置され、水平方向のいずれの方位から電波が飛来してもこれを受信するアンテナであり、アンテナ2に対する発信器1の方位を検出する方位検出手段6の一部を構成している。
【0018】
基準発信器5a、5bは、上記発信器1とほぼ同一仕様のテレメトリ発信器であり、発信器1の電波とは異なることを示す識別情報を含む電波を発信するものである。基準発信器5a、5bは、アンテナ2を基点po0として異なる方位に設置した少なくとも二つの基準発信地点po1、po2にそれぞれ配置されている。これら基準発信器5a、5bがそれぞれ発信する電波の周波数は、上記発信器1や他の基準発信器が発信する電波とのコリジョンを避けるために発信器1の電波の周波数P[Hz]とは異なる周波数Q[Hz]、R[Hz]に設定されている。また、基準発信器5a、5bは、発信器1の電波の出力強度とほぼ同一の出力強度で電波を発信するように設定され、発信器1及び基準発信器5a、5bが発信する電波の受信強度がほぼ同じ変化特性、すなわち発信器1と同じ電波特性を有するようにしている。また、この基準発信器5a、5bの設置に伴って基準発信器5a、5bからの電波を適切に受信処理するように、図2に示すアンテナ受信処理部31を、受信する電波の周波数をP[Hz]とQ[Hz]とR[Hz]とに交互に変更することにより発信器1からの電波と基準発信器5a、5bからの電波とを時分割で切り替えて受信する処理を実行可能に構成している。なお、本実施形態では、基準発信器5a、5bが発信する電波の周波数を互いに異なる周波数に設定しているが、電波発信のタイミングを互いにズラす等の処理を施して複数の基準発信器で同じ周波数の電波を発信するようにしてもよい。
【0019】
図1に示す受信制御手段3は、アンテナ2を通じて発信器1が発信する電波を受信し、受信した電波に基づいて動物の接近を報知するものであり、具体的には、図2に示すように、識別情報記憶部30と、アンテナ受信処理部31と、強度情報取得部32と、方位特定部33と、基準受信強度記憶部34と、接近状況判定部35と、報知制御部36と、更新部37とを含んで構成されている。これら各部30〜37は、CPU、ROM等のメモリ、各種インターフェイス等を備えたマイクロコンピュータ等の情報処理装置においてCPUが予め記憶されている図3に示す動物検知処理ルーチン等を実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現されるものである。
【0020】
図2に示す識別情報記憶部30は、検知対象となる発信器1や基準発信器5a、5bに設定される識別情報を予め記憶するものである。識別情報は、図4に示すように、搬送波にのるディジタルデータであり、このデータのうちの所定nバイトがサルや熊等の動物の種別を区別するための動物種別を表すデータに設定され、他のmバイトが個体を識別するための識別コードを表すデータに設定されている(n、mは自然数)。動物種別は、動物の種別を示すデータであり、本実施形態では図4(b)に示すようにサルを「ID0x01」で表している。識別コードは、識別用に用いられるデータであり、本実施形態では図4(c)に示すようにサルの群れのうち1つの群れ(ここでは群れ1という)を「ID0x11」で表し、サルの群れのうち他の1つの群れ(ここでは群れ2という)を「ID0x12」で表している。ここで、群れ単位で識別コードを割り当てているのは、サルが群れ単位で集団行動するため、群れのうちの少なくとも一匹に発信器1を取り付ければ足り、識別コードの有効活用を図ることができるからである。
【0021】
図2に示すように、アンテナ受信処理部31は、アンテナ2を通じて受ける電波の受信処理を行う。受信処理の一例として、受信した電波が検知対象とされている発信器1や基準発信器5a、5bからの電波であるか否かを識別情報記憶部30の識別情報に基づいて判定する処理などが挙げられる。
【0022】
強度情報取得部32は、アンテナ受信処理部31の受信結果に基づいてアンテナ2が受信する電波の受信強度(RSSI:Received Signal Strength Indication)に関する情報を取得する。
【0023】
方位特定部33は、各々のアンテナ21、22、23で受信する電波の受信強度の違いから周知の三点測量法を用いてアンテナ2に対する発信器1の方位を特定するものであり、方位検出手段6の一部を構成している。
【0024】
基準受信強度記憶部34は、図5(a)に示すように、二つの基準発信地点po1とpo2とを結ぶ位置に制定される境界線BD1上を発信器1と同じ電波特性(出力強度等が同一)を有する可動発信器STが移動する場合にアンテナ2が受信する可動発信器STからの電波の受信強度(基準受信強度と称する)に関する基準受信強度情報を記憶している。基準受信強度記憶部34が記憶する基準受信強度情報は、境界線BD1を構成する複数の点のうちアンテナ2に対する或る点の方位と、この或る点に可動発信器STがある場合の基準受信強度とを関連付けた情報であり、方位から基準受信強度を取得可能とする情報である。本実施形態では、基準受信強度情報は、図5(b)に示すように、境界線BD1上の或る点における基準受信強度とこの或る点の方位を表す角度θとを関連付けたテーブルとして記憶されているが、方位と基準受信強度との相関関係式に関する情報としてシステム上表現してもよい。
【0025】
図2に示す接近状況判定部35は、強度情報取得部32が取得した受信強度に関する情報と、方位特定部33が特定する発信器1の方位に関する情報と、基準受信強度記憶部34に記憶される基準受信強度情報とに基づいて発信器1(動物)が境界線BD1を超えて基点po0(アンテナ2)側に接近したか否かの接近状況を判定する。具体的には、方位特定部33が特定したアンテナ2に対する発信器1の方位を示す角度θに基づいて、この角度θに対応する基準受信強度を図5(b)に示す基準受信強度情報テーブルから取得し、取得した基準受信強度と強度情報取得部32から得られる発信器1の受信強度とを比較することにより接近状況を判定する。図6(b)に示すように、取得した基準受信強度よりも発信器1の受信強度が大きい場合は動物(発信器1)が境界線BD1を超えて基点po0側に接近したと判定している。一方で、図6(a)に示すように、取得した基準受信強度よりも発信器1の受信強度が小さい場合は動物(発信器1)が境界線BD1を超えて基点po0側に接近していないと判定している。
【0026】
図2に示す更新部37は、所定のタイミングでアンテナが受信する基準発信器5a、5bからの電波の受信強度に基づき基準受信強度記憶部34が記憶する基準受信強度を更新するものである。具体的には、図5(b)に示すように、二つの基準発信地点po1、po2における基準受信強度に基づいて、これら基準発信地点po1、po2を結ぶ境界線BD1を構成する各点の基準受信強度を補完してテーブルを更新する。本実施形態では、この更新を、動物に取り付けた発信器1が発信する電波を受信したときを所定のタイミングとして実行しているが、常時又は所定間隔毎に間欠的に実行するように構成してもよい。なお、更新部37を設けずに、可動発信器STを用いて基準受信強度情報を予め同定しておく構成も可能である。
【0027】
図2に示す報知制御部36は、接近状況判定部35によって動物(発信器1)が境界線BD1を超えてアンテナ2(基点po0)側に接近したと判定された場合に、図1に示すように、動物の接近を報知手段4を介して音や光、地図画像等で外部に報知する。
【0028】
上記構成の動物接近検知システムの動作を図1、図2及び図3を主に用いて以下説明する。
【0029】
アンテナ2の電波受信可能範囲(境界線BD1内ではない)に動物(発信器1)が侵入すると、この発信器1から発信する電波をアンテナ2が受信し、図2に示すアンテナ受信処理部31が受信電波から識別情報を取り出して、識別情報記憶部30に検知対象として記憶される識別情報と一致することを以て検知対象の電波を受信したと判定する(図3の処理S1参照)。アンテナ2が基準発信器5a、5bからの電波を受信すると、アンテナ受信処理部31は、上述のように発信器1からの電波を受信した際と同様の受信処理を行って検知対象の電波を受信したと判定する(図3の処理S2参照)。次に、図2に示す強度情報取得部32が基準発信器5a、5bがそれぞれ発信する電波の強度情報を取得し(図3の処理S3参照)、更新部37が、基準発信器5a、5bからの電波の受信強度に基づいて基準受信強度情報を更新する(図3の処理S4参照)。
【0030】
続いて、強度情報取得部32及び方位特定部33が発信器1からの電波に基づいて受信強度及びアンテナ2に対する発信器1の方位を特定する(図3の処理S5参照)。接近状況判定部35は、方位特定部33により特性された発信器1の方位に対応する基準受信強度を図5(b)に示す基準受信強度情報から取得し(図3の処理S6参照)、この基準受信強度と発信器からの電波の受信強度とを比較して動物が境界線BD1を超えたか否かを判定する(図3の処理S7参照)。
【0031】
具体例として図6(a)及び図6(b)に例示するように、方位検出手段6によってアンテナ2を基点po0とする発信器1の方位(角度θ)が特定され、この方位(角度θ)と図5(b)に示す基準受信強度情報とに基づき発信器1及びアンテナ2を結ぶ直線と境界線BD1との交点における基準受信強度(例えば97)が取得される。図6(a)に示すように、動物(発信器1)が境界線BD1の外側にいる場合には、アンテナ2が受信する発信器1からの電波の受信強度が例えば96となり、発信器1の受信強度(96)が基準受信強度(97)よりも小さいので、接近状況判定部35は、動物(発信器1)が境界線BD1を超えて基点po0側に接近してないと判定する。一方、図6(b)に示すように、動物(発信器1)が境界線BD1の内側に侵入した場合には、発信器1の受信強度(98)が基準受信強度(97)よりも大きくなり、この比較結果に基づいて接近状況判定部35は、動物(発信器1)が境界線BD1を超えて基点po0側に接近したと判定し、図1に示すように、報知手段4によって動物の接近が外部に報知されることになる(図3の処理S8参照)。
【0032】
以上のように、本実施形態に係る動物接近検知システムは、動物に取り付けるための発信器1が発信する電波を受信するためのアンテナ2と、このアンテナ2に対する発信器1の方位を検出する方位検出手段6と、アンテナ2を基点po0として異なる方位に少なくとも二つの基準発信地点po1、po2を設定しこれら二つの基準発信地点po1、po2を結ぶ位置に制定した境界線BD1上を発信器1と同じ電波特性を有する可動発信器STが移動したとする場合にアンテナ2が受信するであろう可動発信器STからの電波の基準受信強度を方位を表す角度θと関連付けた基準受信強度情報を記憶する基準受信強度記憶部34と、方位検出手段6によって検出される方位を表す角度θに対応する基準受信強度を基準受信強度記憶部34が記憶する基準受信強度情報に基づいて取得し、取得した基準受信強度と動物に取り付けた発信器1から現に受信される電波の受信強度とを比較して発信器1を取り付けた動物が境界線BD1を越えて基点po0側に接近したか否かの接近状況を判定する接近状況判定部35とを具備している。
【0033】
このように、少なくとも二つの基準発信地点po1、po2を結ぶ位置に制定した境界線BD1に沿って移動する可動発信器STからの電波の基準受信強度を予め記憶しておき、この基準受信強度のうち方位検出手段6によって特定される発信器1の方位に対応する基準受信強度を取得し、取得した基準受信強度を発信器1からの電波の受信強度が超えるか否かを比較するだけで接近状況を判定するので、受信強度から距離を算出(推定)する場合に比べて動物が境界線BD1を越えたか否かを正確に検出することが可能となる。しかも、接近状況を判定するにあたり、発信器1からの電波の受信強度と基準受信強度とを比較するだけなので、複雑な推定アルゴリズムを用いることなく簡素な構成で動物の接近状況を判定することが可能となる。
【0034】
特に、本実施形態では、基準発信地点po1、po2に設置された基準発信器5a、5bと、所定のタイミングでアンテナ2が受信する基準発信器5a、5bからの電波の受信強度に基づき基準受信強度記憶部34に記憶される基準受信強度情報を更新する更新部37とを更に有するので、発信器1からの電波を受信したとき等の所定のタイミングで実測した基準発信器の受信強度に基づき基準受信強度情報をリアルタイムに更新することが可能となり、アンテナ周囲の環境条件や天候等の影響によって電波の伝搬特性が変化する場合であっても動物の検知精度が低減することを防止することが可能となる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0036】
例えば、本実施形態では、二つの基準発信地点po1、po2を設定して単一の境界線BD1を越えて動物に取り付けられた発信器1が接近しているか否かを判定しているが、図7に示すように、複数の基準発信地点po3、po4、po5を設定し、これら基準発信地点を結ぶ境界線BD2、BD3のうちのいずれかを越えて動物に取り付けられた発信器1が基点po0側に接近したか否かを判定するように構成してもよい。このようにすると、例えば動物の侵入を警戒すべき境界が方位によって異なる場合や歪であったりする場合など、種々の集落の形態や事情に対応することが可能となる。さらに、各々の基準発信地点po3、po4、po5にそれぞれ基準発信器5c、5d、5eを設置して基準受信強度情報を適切に更新するようにしてもよい。また、境界線に対してアンテナから垂線を引いたときに垂線と境界線との交点が境界線上にある二つの基準発信地点の間にある場合は、交点における基準受信強度が境界線上の基準受信強度のうちで最も高くなる可能性が高いと考えられるので、かかる交点を基準発信地点に設定して基準発信器を設置することが好ましい。
【0037】
さらに、上記実施形態では、アンテナ2に対する発信器1の方位を検出する方位検出手段6として、複数の無指向性アンテナ21、22、23を設けて、各々のアンテナが受ける電波の受信強度差に基づき方位を検出しているが、方位を検出することができればこれに限定されるものではない。例えば、指向性アンテナを回転させて受信時のアンテナの向きによって方位を検出するように構成することが挙げられる。
【0038】
さらに、上記の実施形態では、受信対象である所定周波数の電波が検出対象の識別コードと一致する識別コードを有するか否かで動物(発信器1)の識別を行っているが、検出対象毎に異なる周波数を割り当て、常に周波数を切り替えながら時分割で電波を受信して動物(発信器1)の識別を行うものであってもよい。
【0039】
さらにまた、上記の実施形態では、発信器1を取り付けたサルを検出するシステムであるが、発信器1を取り付ける動物であれば、サルに限るものではなく、鳥類、魚類、ほ乳類等の種々の動物を検知するシステムに適用可能である。
【0040】
また、図2に示す各機能部は、所定プログラムをプロセッサで実行することにより実現しているが、各機能部を専用回路で構成してもよい。
【0041】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…発信器
2…アンテナ
34…基準受信強度記憶部
35…接近状況判定部
37…更新部
5a、5b、5c、5d、5e…基準発信器
6…方位検出手段
po0…基点
po1、po2、po3、po4、po5…基準発信地点
BD1、BD2、BD3…境界線
ST…可動発信器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物に取り付けるための発信器が発信する電波を受信するためのアンテナと、
このアンテナに対する前記発信器の方位を検出する方位検出手段と、
前記アンテナを基点として異なる方位に少なくとも二つの基準発信地点を設定しこれら二つの基準発信地点を結ぶ位置に制定した境界線上を前記発信器と同じ電波特性を有する可動発信器が移動したとする場合に前記アンテナが受信するであろう可動発信器からの電波の基準受信強度を前記方位と関連付けた基準受信強度情報を記憶する基準受信強度記憶部と、
前記方位検出手段によって検出される方位に対応する基準受信強度を前記基準受信強度記憶部が記憶する基準受信強度情報に基づいて取得し、取得した基準受信強度と動物に取り付けた発信器から現に受信される電波の受信強度とを比較して発信器を取り付けた動物が前記境界線を越えて前記基点側に接近したか否かの接近状況を判定する接近状況判定部とを具備してなることを特徴とする動物接近検知システム。
【請求項2】
前記基準発信地点に設置された基準発信器と、所定のタイミングで前記アンテナが受信する前記基準発信器からの電波の受信強度に基づき前記基準受信強度記憶部に記憶される基準受信強度情報を更新する更新部とを更に有する請求項1に記載の動物接近検知システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate