説明

動的核分極システムの操作方法

クライオスタット(1)と、作用容積内に磁場を発生させるための、クライオスタット内に位置する磁場発生装置(2)と、内部に前記作用容積が位置するマイクロ波キャビティ(8)と、マイクロ波出力を前記マイクロ波キャビティに供給するための導波管(18)と、を含むDNPシステムを操作する方法であって、a)試料を作用容積内に配置し、試料を前記磁場発生装置によって発生される磁場に供するステップと、b)作用容積に液体冷却剤を供給して、試料を冷却するステップと、c)試料内の核スピンを過分極させるように、マイクロ波出力を試料に照射するステップと、d)照射ステップの後で、試料を作用容積内に残しながら液体冷却剤を作用容積から放出することによって、試料を加温するステップと、を含むことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動的核分極システムの操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動的核分極(DNP)は、核磁気共鳴映像法(MRI)及び分析用高分解能NMR分光法(MRS)を含む核磁気共鳴(NMR)分析のような用途で用いるための試料の核分極を増強するために用いられる。MRIは、被侵襲性であり、検査対象の患者をX線のような潜在的に有害な放射線に曝露しないので、医師にとって特に魅力的になってきている診断技術である。分析用高分解能NMR分光法は、分子構造の決定において日常的に用いられている。
【0003】
MRI及びNMR分光法は、用いられる物質の核スピンが、通常、非常に低分極であるため、感度が不足している。この点を考えて、核スピンの分極を増大させるために動的核分極技術が開発された。
【0004】
典型的なDNPプロセスにおいて、液体試料は、分極剤と混合され、試料保持管に取り付けられた試料カップ内に置かれる。次に、試料保持管は、クライオスタット内に位置する超伝導磁石の穴の中に、試料がこの穴の内部の作用容積に入るように挿入され、この作用容積はDNP挿入部によって定められるマイクロ波キャビティ内に位置する。超伝導磁石は、作用容積内に適切な強度及び均一性の磁場を発生させる。
【0005】
試料は、穴の中で液体ヘリウムに曝露されることによって冷却及び固体化され、次に、凍結状態で磁場に曝露された状態でマイクロ波を照射される。
次いで、試料は、液体ヘリウムから、まだ磁場に曝されるが磁場の均一性はおそらく低い位置まで引き上げられる。
次いで、熱溶媒が、分極された試料が溶解されるように、典型的には溶解管若しくはスティック又は他の溶媒運搬システムを通じて試料保持管内の作用容積まで供給される。代替的に、試料は融解されてもよい。次いで、溶液又は融解物は、迅速に取り出され、NMRシステムにおける解析のため、又は生体内用途の場合は患者の体内への注入のためのいずれかの、その後の使用のために移動される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このシステムの1つの欠点は、試料を、熱溶媒を供給する前に液体ヘリウムの影響下から取り出すために、作用容積の外に移動させる必要があることである。これは、機械的に複雑であり、且つ費用がかかる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
クライオスタットと、
作用容積内に磁場を発生させるための、クライオスタット内に位置する磁場発生装置と、
内部に作用容積が位置するマイクロ波キャビティと、
マイクロ波出力をマイクロ波キャビティに供給するための導波管と、を含むDNPシステムの操作方法は、
a)試料を作用容積内に配置し、試料を磁場発生装置によって発生される磁場に供するステップと、
b)作業容積に液体冷却剤を供給して、試料を冷却するステップと、
c)試料内の核スピンを過分極させるように、マイクロ波出力を試料に照射するステップと、
d)照射ステップの後で、試料を作用容積内に残しながら液体冷却剤を作用容積から放出することによって、試料を加温するステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、試料を作用容積及び液体ヘリウムの影響下から移動させる代わりに、試料をその場に残したまま、液体冷却剤が除去される。これにより、本システムは、機械的な複雑さがより低減し、また冷却剤の消費も最小化され、溶解の際に溶媒から失われる熱も少なくなる。
さらなる利点は、溶解管又はスティックをその場に残すことができること、及び液体冷却剤の量を最小化することができることである。
【0009】
液体冷却剤を放出するステップは、多くの方法で行われることができる。最もシンプルなアプローチは、加熱によって液体冷却剤を蒸発させることである。そのために、電気ヒータを作用容積の近くに設けることができる。別のアプローチは、液体冷却剤を、冷却剤がそこから供給された、クライオスタットの液体冷却剤入り容器に戻すことである。これは、穴に加圧するか、又は容器を真空引きすることによって行うことができる。
典型的には、液体冷却剤は液体ヘリウムであるが、本発明は当然、他の冷却剤の使用にも適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
ここで、本発明によるDNPシステムの例を、添付の図面を参照して説明し、従来のシステムと比較する。
図1は、外側真空チャンバ(OVC)1、環状のヘリウム容器3内に位置する、数テスラの均一な磁場を発生させる磁石2、及び熱遮蔽4を備えた標準的な低温磁石を示す(これは、頚部20を通じて漏れ出すHeガスのエンタルピー、又は別個の窒素ジャケットのいずれかによって冷却されることができる)。熱遮蔽穴の内部の低温穴22は、この図面においては強調されており、作用容積24を取り囲み、作用容積24の中では磁場は少なくとも300ppmまで均一であり、好ましくは100ppmまで均一であり、最も好ましくは50ppmよりも良好に均一である。
【0011】
図2は、穴22の内部に位置する可変温度挿入部(VTI)を示す。VTIは、真空チャンバ内に、内側ヘリウム容器5を含む。これは、主LHe容器3からバルブ6を介して供給される。排気ライン6a及びポンプ6bを用いてVTIを排気する。VTIの上部には孔(図示せず)もあり、そこを通って、DNP挿入部が、製造の際に装填される。次いで、これは密封される。このハードウェアは、恒久的に取り付けられている。
【0012】
図3は、ガイド管7、導電性金属マイクロ波キャビティ8、及びこのキャビティに供給するための導波管9を含むDNP挿入部を示す。ガイド管7は、任意の適切な手段(例えば、バルブ、又は図4の11aに示されるようにゴム栓)によってその上部開口部で密封されることができる。導波管9は、LHeに大きな熱負荷を導入することを避けるために、ステンレス鋼である。キャビティ8は、非同調であり、上部が開放されていることができる。キャビティ8には、ヘリウムの自由な進入を可能にする1つ又はそれ以上の孔(図示せず)がある。これらは、小さければ(例えば、mm)電気的特性に顕著な影響を及ぼさない。このハードウェアは、恒久的に取り付けられている。
【0013】
図4は、非金属製(例えば、PTFE)の試料ホルダ管11内部の試料カップ10の中の試料26を示す。試料は、フリーラジカル分極剤と混合された過分極される物質を含む。このハードウェアは、試料をVTI5の内部に下ろすために用いられる。これを行うために、VTIは、加圧され、大気に対して開放され、次いで試料が装填され、次いで、試料ホルダ管の開放された上端部はゴム栓11aで閉鎖され、VTI5に、図28に示されるように、試料が覆われるように(11bはLHeの液面を示す)ヘリウムが補充され、次いで、排気されて、試料を約1.2Kまで過冷却する。次いで、マイクロ波が、供給源(図示せず)から導波管9を介してキャビティ8に供給され、試料26を分極させる。
【0014】
図5は、挿入されようとしている溶解スティック12を示す。試料26が分極されたなら、マイクロ波は止められ、VTI5は加圧され、試料ホルダ11は引き上げられて(試料がLHe液面11bの上になるようにされ、粗い熱隔離が提供される)、ゴム栓11aが取り外される。熱い加圧された溶媒が、溶媒容器(図6において14で示される)内に準備されている。
【0015】
図6で示されるように、溶解スティック12が、VDTの中の試料ホルダ管11の中心に下ろされ、これが試料カップ10とドッキングするとすぐに、バルブ16が開放され、溶媒を注入管13の中に下方に向かって流入させて、試料を溶解させる。溶解された試料は、排出管140を上に向かって流れ、採取カップ17に入る(又は、別個の磁石の中のNMR管の中に直接入る)。
【0016】
従来技術の問題点は、
1.VTI内のヘリウムの液面が、試料を装填し、溶解を行ったときに、VTI中に放出される熱のために大幅に低下すること(高いHe消費とHe液面の遅い回復を引き起こす)。
2.多くの部材がある(高価)
3.自動化するのに費用がかかる可動部材(試料ホルダ及び溶解スティック)がある。
【0017】
本発明の実施形態を示す図7において、熱遮蔽1の内側穴22を用いてマイクロ波キャビティ17の壁17bが形成される。小さい直径のVTI 17aが、ここではマイクロ波キャビティの壁17bの内側に(その逆ではなく)ある。小さい直径のVTI 17aは典型的には約15mmの直径を有し、これは約70mmの直径を有する従来のVTIとは対照的である。これは、排気を可能にするポンプ6bに接続した排気ライン6aと、試料を装填することを可能にする密封可能な上部の入口(ここでは18aの近くに示される)とを有する。VTIの基部19は、金属製であり、マイクロ波キャビティの基部を形成する。VTI 17aの壁、及び試料26の周囲の試料保持管11は、マイクロ波放射が試料に達することができるように、RF透過性(例えば、グラスファイバ)でなければならず、試料保持管11は、超流体ヘリウム(19aで示される)に対して封密でなければならない。導波管18はもはやLHeに接触せず、熱遮蔽穴22に熱的に繋留されることができる。従って、これは銅で作られることができる。これは、導波管におけるマイクロ波の損失を低減し、全体としてのマイクロ波出力の必要量及び供給源のコストを低減する。マイクロ波キャビティ17の側部及び基部は、直接的(galvanically)又は熱的に接続されていない(実際、壁は熱遮蔽の温度となり、基部はLHeの温度となる)。しかしながら、これらは容量結合によって電気的に接続し、従って、試料の周囲のマイクロ波出力密度を局在化し濃縮するための非共振キャビティとして作用する。
【0018】
試料を分極した後、マイクロ波は止められ、VTI 17a内の少量のLHe 19aは(周囲熱負荷若しくは余分のヒータ(図示せず)のいずれかを用いて沸騰させて飛ばすことによって、又は、VTIを加圧しながら、バルブ6を介して排出して主レザバ3に戻すことによってのいずれか、或いはそれらの組み合わせによって)除去される。正味のLHeの損失は従来技術よりもかなり少なく、試料ホルダの移動は必要とされない。VTI 17aは加圧されたら開放され、溶解スティック12が(図8に示されるように)通常の方法で挿入される。代替的に、試料は融解されることができる。
【0019】
代替的な実施形態において、溶解スティック12は、試料26と同時に装填され、分極プロセスの間中その場所に留まる。これは、溶解スティック12を試料の装填のために用いることができ、且つカップ10とスティックとの間の良好な密封が保証されるので(「ドッキング」ステップはない)、設計のためには都合がよい。この実施形態において、マイクロ波キャビティ17は溶解カップの上の金属円盤20で閉鎖することが可能であり、これは、キャビティ内の出力密度を増大させ、さらに、必要とされる供給源の出力を低減させることになる。この場合、溶解スティック12は、分極期間の間にヘリウム温度まで冷却される。溶媒は、低温の管の中を通る場合、凍結することになる。これを避けるために、発熱体を注入管13及び排出管140の周囲に(非誘導的に)巻きつけて、ヘリウムがVTIから排出された後であるが溶媒バルブを開放する直前に、これらの管を迅速に加熱することができる。これは、コンデンサ又は電池からの大電流パルスを用いて達成することができる。
【0020】
上記の例において、試料保持管11に供給される液体ヘリウムは、容器3からバルブ6を介して給送される。これは、生体外用途には適しているが、バルブを介して試料保持管に結合した別個の専用ヘリウム容器(図示せず)を設けることが通常必要とされる生体内用途には適していない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】DNPのための従来のクライオスタット及び磁石の概略断面図である。
【図2】図1と同様であるが、穴の中に位置するVTIを示す図である。
【図3】図2と同様であるが、DNP挿入部が含まれた図である。
【図4】図3と同様であるが、試料、試料カップ及び試料ホルダが追加された図である。
【図5】図4と同様であるが、挿入の準備ができた溶解スティックが含まれた図である。
【図6】図5と同様であるが、完全に挿入された溶解スティックが含まれた図である。
【図7】図4と同様であるが、本発明の例を示す図である。
【図8】図7と同様であるが、挿入された溶解スティックを含み、変更されたマイクロ波キャビティ壁が描かれた図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クライオスタットと、
作用容積内に磁場を発生させるための、前記クライオスタット内に位置する磁場発生装置と、
内部に前記作用容積が位置するマイクロ波キャビティと、
マイクロ波出力を前記マイクロ波キャビティに供給するための導波管と、
を含むDNPシステムを操作する方法であって、
a)試料を前記作用容積内に配置し、前記試料を前記磁場発生装置によって発生される磁場に供するステップと、
b)前記作用容積に液体冷却剤を供給して、前記試料を冷却するステップと、
c)前記試料内の核スピンを過分極させるように、マイクロ波出力を前記試料に照射するステップと、
d)前記照射ステップの後で、前記試料を前記作用容積内に残しながら前記液体冷却剤を該作用容積から放出することによって、該試料を加温するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記液体冷却剤が、前記クライオスタットの冷却剤入り容器から供給されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷却剤が、液体ヘリウムであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記作用容積内の前記液体冷却剤が、蒸発によって除去されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記作用容積内の前記液体冷却剤が、前記クライオスタットの前記液体冷却剤入り容器に該液体冷却剤を戻すことによって除去されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記照射された試料を溶媒中に溶解し、前記溶解された試料を前記作用容積から取り出すステップをさらに含むことを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記試料が、前記ステップ(b)において前記液体冷却剤がその中に供給される試料保持管内に保持されることを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
以下に添付の図面を参照して説明されているのと実質的に同じ、DNPシステムを操作する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−534976(P2008−534976A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504824(P2008−504824)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000653
【国際公開番号】WO2006/106285
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(507246338)オックスフォード インストルメンツ モレキュラー バイオツールス リミテッド (6)