説明

動翼

【課題】応力逃がし溝による翼ネック部に生じる応力を抑制しつつ、フレッティング損傷の回避を図る動翼を提供する。
【解決手段】ロータ外周に取付けられる動翼において、前記動翼を前記ロータに保持するダブテール部3と、該ダブテール部と翼部1とを接続するプラットフォーム部2と、前記プラットフォーム部の側面10と前記ダブテール部の翼荷重受け面4とを接続する応力逃がし溝9とを備え、前記プラットフォーム部の側面と前記応力逃がし溝との接続点から、前記ダブテール部と前記応力逃がし溝との接続点までの範囲における前記ダブテール部の幅が、根元側に向かうに従い増加するように形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械に取り付けられる動翼の植え込み構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にガスタービンには、空気を圧縮して燃焼器へ送るための圧縮機が設けられている。圧縮機の内部には、ガスタービンの中心軸周りに回転する圧縮機ロータが設けられ、このロータに固定されたコンプレッサディスクに圧縮機翼が埋め込まれている。
【0003】
ガスタービン圧縮機の動翼は運転時に、翼自身の重量により生じる遠心力に加え、高圧側では圧力負荷が大きく、起動時に生じる不正規な圧力変動に起因する励振力により、翼ダブテール部に振動応力が作用して疲労による損傷を受けることが懸念される。
【0004】
従来は、翼ダブテールの翼荷重受け面全体でそれら荷重を受け持っていた。しかしながら、翼荷重受け面とロータのロータ荷重受け面との接触端部に高い応力が生じる。この点は高応力が生じることに加えて、摩耗を要因としたフレッティング損傷が生じ、疲労強度信頼性が低下する可能性がある。
【0005】
これに対し、特許文献1ではネック部と圧力面との交点部に大半径部,小半径部,直線部の3つのパートから形成されるアンダーカット(応力逃がし溝)を設けることでこの疲労強度信頼性の低下を回避することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−69781号公報(図3,図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、応力逃がし溝構造はその円弧の大きさや形状、位置を特定することでさらなる信頼性の向上が図れる。特に、特許文献1に記載されたブレードでは、応力逃がし溝によりネック部の幅(断面積)が減少する溝形状となっており、この部分に応力集中が生じてしまう可能性があった。そこで実機においては、フレッティング損傷の回避を図りつつ、より高い信頼性が得られる応力逃がし溝構造を適用することが望ましい。
【0008】
本発明の目的は、応力逃がし溝によるネック部に生じる応力を抑制しつつ、フレッティング損傷の回避を図る動翼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の動翼は、ロータ外周に取付けられる動翼において、前記動翼を前記ロータに保持するダブテール部と、該ダブテール部と翼部とを接続するプラットフォーム部と、前記プラットフォーム部の側面と前記ダブテール部の翼荷重受け面の交点よりも根元側で、且つ前記プラットフォーム部の側面より該プラットフォームの幅方向外側の領域のみに形成した応力逃がし溝とを備え、前記プラットフォーム部の側面と前記応力逃がし溝との接続点から、前記ダブテール部と前記応力逃がし溝との接続点までの範囲における前記ダブテール部の幅が、根元側に向かうに従い増加するように形成したことを特徴とする。
【0010】
なお、上記応力逃がし溝は、前記プラットフォーム部の側面と前記ダブテール部の翼荷重受け面の交点よりも根元側で、且つ前記プラットフォーム部の側面より該プラットフォームの幅方向外側の領域のみに形成することが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、応力逃がし溝によるネック部に生じる応力を抑制しつつ、フレッティング損傷の回避を図る動翼を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例である、回転機械の動翼の植え込み部の詳細図である。
【図2】一般的な翼の嵌合構造を示す図である。
【図3】図2の翼における応力分布を示す図である。
【図4】図1の翼における応力逃がし溝の拡大図である。
【図5】モックアップ疲労試験結果を示した図である。
【図6】応力逃がし溝内にショットピーニングによる圧縮残留応力を付与した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、本発明の比較例となる一般的な動翼の嵌合構造について、ガスタービン圧縮機を例に用いて図2,図3を用いて説明する。
【0014】
ガスタービン圧縮機の動翼は大きく分けて翼部1,翼部1が取り付けられるプラットフォーム部2、および動翼をロータ6の溝に挿入されるダブテール部3によって構成されている。ガスタービン圧縮機の動翼は運転時に、翼自身の重量により生じる遠心力に加え、高圧側では圧力負荷が大きく、起動時に生じる不正規な圧力変動に起因する励振力により、翼ダブテール部に振動応力が作用して疲労による損傷を受けることが懸念される。一般的には、ダブテール部3の翼荷重受け面4全体でそれら荷重を受け持っていた。
【0015】
しかしながら、図3に示す翼荷重受け面相当応力分布5から分かるように、翼荷重受け面4とロータ6のロータ荷重受け面7との接触端部8に高い応力が生じる。この点は高応力が生じることに加えて、摩耗を要因としたフレッティング損傷が生じ、疲労強度信頼性が低下する可能性がある。
【0016】
これに対し、特許文献1に記載されているように、翼部1とダブテール部3の接続部であるネック部(プラットフォーム部)に応力逃がし溝を設けることでフレッティング損傷を回避する構造があるが、ネック部の幅が減少するような応力逃がし溝構造である場合、応力集中が生じてしまう可能性があった。
【0017】
上記の課題を解決する本発明の実施の形態について、図面を用いて以下説明する。
【0018】
(実施例1)
図1は、本発明の実施の形態1として、本発明の特徴を最も良く表わしているタービン翼溝構造を示す図である。図に示すように、ロータ6に形成された翼植え込み部とダブテール部3との嵌合部において、プラットフォーム部の側面10と翼荷重受け面4との交点11よりも内周側でかつ翼荷重受け面4側に応力逃がし溝9を設けている。
【0019】
以下、応力逃がし溝9の詳細について説明する。応力逃がし溝9は、プラットフォーム部の側面10とダブテール部の翼荷重受け面4とを接続する部位に設けられる。このとき、応力逃がし溝9は局所的な応力の集中が発生しないように(部材の幅が狭くなっている部分が無いように)形成されている。具体的には、プラットフォーム部の側面10と応力逃がし溝9との接続点11から、ダブテール部3と応力逃がし溝9との接続点12までの範囲におけるダブテール部の幅が、根元側(図1に向かって下側)に向かうに従い増加するように形している。さらに具体的には、プラットフォーム部の側面とダブテール部の翼荷重受け面4の交点よりも根元側で、且つプラットフォーム部の側面10よりプラットフォームの幅方向外側の領域のみに応力逃がし溝9を形成している。
【0020】
次に、図4を用いて本実施例の作用効果を説明する。本実施例における応力逃がし溝9は、一点差線Aよりも内周側かつ二点差線Bよりもロータ荷重受け面7側に設けている。本構成とすることで、接触端部に生じる応力を低減し、フレッティング損傷による疲労寿命の低下を抑制できる。さらに応力逃がし溝9がプラットフォーム部2(翼とダブテールの接続部)にかからないため、遠心力によって生じる荷重に対し、翼とダブテールの接続部の面積減少に伴う応力の増加を抑制することができる。
【0021】
なお、特許文献1においては、ダブテールプラットフォームとダブテール圧力面との交差部に応力逃がし溝を設けている。この構成では、ダブテールプラットフォーム(又はダブテール)において局所的に部材の幅が狭い部分が発生し、局所的に断面積が狭い部分が存在することになる。つまり、局所的に断面積が狭い部分に応力が集中することとなるため、信頼性の低下をもたらすことになる。
【0022】
一方、本願発明では局所的に断面積が狭い部分がないように応力逃がし溝を形成しているため、応力逃がし溝によるネック部に生じる応力を抑制しつつ、フレッティング損傷を回避することが可能となる。
【0023】
図5に本実施例と比較例のモックアップ疲労試験結果を示す。形状Aは図2,図3に示す構造、形状Bはダブテール部の幅が減少するように応力逃がし溝を設置したもの、形状Cは本実施例にかかる構造である。この3ケースについて、翼に軸方向の負荷が生じた様子を模擬したモックアップ疲労試験を実施した結果を示している。試験結果は、形状Aの結果を用いて無次元化している。
【0024】
本結果から形状Cに係る本実施例の構造とすることで、形状A,Bに比べ疲労寿命が約10倍向上することが分かる。また、ダブテール部の幅が減少するように応力逃がし溝を形成した形状Bは、一般形状の形状Aと差がみられず、翼溝構造の疲労強度信頼性を向上させるには、フレッティング損傷回避に加え、適正な形状を検討する必要があることが分かる。
【0025】
(実施例2)
本発明の実施の形態2を説明する。本実施例では、ダブテール部に局所的に断面積が狭い部分がないように応力逃がし溝を形成する点は実施例1と共通するが、この応力逃がし溝の曲面を1つの円弧で形成したことを特徴としている。単一円弧形状とすることにより、応力逃がし溝の形状を簡素化し、加工を容易にすることができる。
【0026】
(実施例3)
本発明の実施の形態3として、応力逃がし溝9の他の形状を説明する。すなわち、応力逃がし溝9を形成する位置は実施例1,2と共通するが、本実施例では異なる大きさの円弧、或は円弧と直線等の2つのパートを用いて応力逃がし溝9を形成したことを特徴としている。応力逃がし溝9の形状は、製作性や形状の制約等に応じて本実施例のように形成しても良い。
【0027】
(実施例4)
本発明の実施の形態4を図6に示す。本実施例では、応力逃がし溝C−D面にショットピーニングやウォータージェットピーニングの施工により圧縮の残留応力を付与したことを特徴としている。なお、図中C,Dは図1におけるプラットフォーム部の側面10と翼荷重受け面4との交点11,ダブテール部3と応力逃がし溝9との接続点12に相当する。これにより、フレッティング回避を目的とし、形成した応力逃がし溝のR底に生じる応力集中部の疲労強度信頼性を向上させることが可能となる。
【0028】
なお、ショットピーニングやウォータージェットピーニングの施工は、実施例2,3で説明した1つの円弧,異なる大きさの円弧、或は円弧と直線等の2つのパートを用いて応力逃がし溝9を形成したものにも適用してよい。
【0029】
さらに応力逃がし溝のR底に生じる応力集中部の疲労強度信頼性を向上させる方法として、応力逃がし溝部に摩擦撹拌プロセスを用いても効果的であるといえる。摩擦撹拌プロセスは、高速で回転する工具突起部を材料に挿入し、平行移動させることで、材料の結晶を微細にし、疲労強度を向上させることができる。この場合、応力逃がし溝施工後に摩擦撹拌プロセスを施すケース、または予め応力逃がし溝施工位置に摩擦撹拌プロセスを施しておくケースのどちらも疲労強度信頼性の向上に効果がある。
【0030】
(実施例5)
本発明の実施の形態7は、応力逃がし溝をショットピーニング施工により設けたことを特徴としている。この時、応力逃がし溝の形成において、例えばスチールグリット等、切削性に優れた投射材を用いるか、ロータ荷重受け面の端部が翼荷重受け面に接触しない程度の応力逃がし溝を形成できる圧力および投射材を選定する。
【0031】
なお本発明はガスタービン翼溝構造に加え、蒸気タービン等の回転機械における同様の構造において接触端フレッティング損傷回避に適用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 翼部
2 プラットフォーム部
3 ダブテール部
4 翼荷重受け面
5 翼荷重受け面相当応力分布
6 ロータ
7 ロータ荷重受け面
8 接触端部
9 応力逃がし溝
10 プラットフォーム部の側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ外周に取付けられる動翼において、
前記動翼を前記ロータに保持するダブテール部と、
該ダブテール部と翼部とを接続するプラットフォーム部と、
前記プラットフォーム部の側面と前記ダブテール部の翼荷重受け面とを接続する応力逃がし溝とを備え、
前記プラットフォーム部の側面と前記応力逃がし溝との接続点から、前記前記ダブテール部と前記応力逃がし溝との接続点までの範囲における前記ダブテール部の幅が、根元側に向かうに従い増加するように形成したことを特徴とする動翼。
【請求項2】
ロータ外周に取付けられる動翼において、
前記動翼を前記ロータに保持するダブテール部と、
該ダブテール部と翼部とを接続するプラットフォーム部と、
前記プラットフォーム部の側面と前記ダブテール部の翼荷重受け面の交点よりも根元側で、且つ前記プラットフォーム部の側面より該プラットフォームの幅方向外側の領域のみに形成した応力逃がし溝とを備え、
前記プラットフォーム部の側面と前記応力逃がし溝との接続点から、前記ダブテール部と前記応力逃がし溝との接続点までの範囲における前記ダブテール部の幅が、根元側に向かうに従い増加するように形成したことを特徴とする動翼。
【請求項3】
請求項1,2に記載の動翼において、
前記応力逃がし溝は、溝形状を単一円弧により形成したことを特徴とする動翼。
【請求項4】
請求項1,2に記載の動翼において、
前記応力逃がし溝は、溝形状を直線または曲線の2つの異なるパートから形成したことを特徴とする動翼。
【請求項5】
請求項1,2の動翼において、
前記応力逃がし溝は、該応力逃がし溝内にショットピーニングによる圧縮残留応力が付与されていることを特徴とする動翼。
【請求項6】
ロータ外周に取付けられる動翼を備えた回転機械において、
前記動翼は、
該動翼を前記ロータに保持するダブテール部と、
該ダブテール部と翼部とを接続するプラットフォーム部と、
前記プラットフォーム部の側面と前記ダブテール部の翼荷重受け面とを接続する応力逃がし溝により構成し、
前記プラットフォーム部の側面と前記応力逃がし溝との接続点から、前記前記ダブテール部と前記応力逃がし溝との接続点までの範囲における前記ダブテール部の幅が、根元側に向かうに従い増加するように形成したことを特徴とする回転機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−72405(P2013−72405A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213682(P2011−213682)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】