説明

動電型スピーカー

【課題】 音響再生のための動電型スピーカー、特に磁気回路の軽量化を図る動電型スピーカーに関し、軽量化と、能率の向上を両立させ、好ましい音響特性を実現し、かつ、良好な音声再生が可能な動電型スピーカーを提供する。
【解決手段】 本発明の動電型スピーカーは、磁気回路を構成する磁石と、磁石と接合するポールと、振動体を構成するコイルボビンと、ポールに対峙して巻回されてコイルボビンに固着されるボイスコイルと、を備え、振動体のコイルボビンに、ボイスコイルと分離して磁性部材が固着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響再生のための動電型スピーカー、特に磁気回路の軽量化を図る動電型スピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
動電型スピーカーにおいては、フレームに固定された磁気回路に対して、振動板、ボイスコイル(巻回されたボイスコイルおよびコイルボビンを含む)及びダンパーを含む振動体が振動して、音声を再生する。例えば、内磁型磁気回路の場合には、磁気回路は、磁石と、ポールと、ヨークとを備え、ポールとヨークとが規定する磁気空隙中に振動体のボイスコイルが配置され、ボイスコイルに音声信号が印加されると、振動体は駆動力を受けて振動する。磁気回路の磁路を構成するポールおよびヨークは鉄等の軟磁性材料であり、磁気回路の重量が動電型スピーカーの全重量の内で占める割合が高いので、磁気回路の形状等を工夫することにより、動電型スピーカーの軽量化を図るものが従来から検討されている。
【0003】
軽量化を図るスピーカーでは、ポールの上下両面に2つの磁石の同極側を対向するように設置する反発磁気回路や、一の磁石の2つの磁極面にそれぞれポールを設置する磁気回路を備えるものがある。これらにおいては、軽量化のために磁路および磁気空隙を構成するためのヨークが省略され、いわば開放型の磁気回路が構成される。ボイスコイルは、磁束が集中するポールに対峙するように配置される。このとき、ヨークが省略された開放型磁気回路では、ボイスコイルの位置における磁束密度が低下するという問題がある。磁力線が空気中を通過する距離が長くなって磁路の磁気抵抗が高くなることに加えて、ボイスコイルの位置に磁力線が集束しなくなる影響を受けて、ボイスコイルの位置における磁束密度はさらに低下する。したがって、磁気回路の軽量化により動電型スピーカーの能率が低下し、好ましい音響特性が得られない。
【0004】
従来には、磁気回路の軽量化に伴って生じる上記のような問題を、動電型スピーカーのボイスコイルの外周に非晶質金属から成る薄肉の環状心(磁性体)を設け、この非晶質金属から成る薄肉の環状心に磁力線が集束するように図った動電型スピーカーがある(特許文献1)。また、ボイスコイルの線材自体に磁性体の鉄等を配置し、これに銅、アルミ等の導電材をメッキ加工で付着させるものがある(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特公平6−71360号公報 (第1図、第1a図、第2図)
【特許文献2】特開平6−233379号公報 (第6図、第9図、第10図)
【0006】
しかしながら、従来技術の動電型スピーカーでは、軽量化の問題と、好ましい音響特性の実現とを、両立させるには不十分な点がある。すなわち、ボイスコイルの外周面に磁性体を配置すると、もしくは、ボイスコイルの線材を磁性体で構成すると、磁力線が集中するポールに対峙するように配置されたボイスコイルは、ポールに近い磁性体が磁気回路の直流磁束による磁力に捉えられて、ボイスコイルに音声信号が印加されても十分に振動できない、という問題がある。コイルボビンの強度が不足する場合には、磁性体に働く磁力によって、コイルボビンとポールとが接触して動作不良が発生することがあるという問題がある。その結果、従来技術の動電型スピーカーでは、軽量化に伴って能率が低下し、好ましい音響特性が得られないという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、音響再生のための動電型スピーカー、特に磁気回路の軽量化を図る動電型スピーカーに関し、軽量化と、能率の向上を両立させ、好ましい音響特性を実現し、かつ、良好な音声再生が可能な動電型スピーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の動電型スピーカーは、磁気回路を構成する磁石と、磁石と接合するポールと、振動体を構成するコイルボビンと、ポールに対峙して巻回されてコイルボビンに固着されるボイスコイルと、を備え、振動体のコイルボビンに、ボイスコイルと分離して磁性部材が固着されている。
【0009】
好ましくは、本発明の動電型スピーカーは、磁性部材が、コイルボビンにおいて、磁気回路の磁石に対峙する位置ならびに範囲に固着される。
【0010】
さらに好ましくは、本発明の動電型スピーカーは、磁性部材が、鉄、電磁軟鉄、珪素鋼、電磁ステンレス、アモルファス、パーマロイ、パーメンジュールもしくはフェライトのいずれかから選択される軟磁性材料を略環状に成形して構成される。
【0011】
また、好ましくは、本発明の動電型スピーカーは、磁性部材が、鉄、電磁軟鉄、珪素鋼、電磁ステンレス、アモルファス、パーマロイ、パーメンジュールもしくはフェライトのいずれかから選択される軟磁性材料と、樹脂とを含む磁性シートを略環状に成形して構成される。
【0012】
さらに好ましくは、本発明の動電型スピーカーは、磁気回路が、磁石の上面に接合する第1ポールと、磁石の下面に接合する第2ポールと、を備え、振動体が、第1ポールに対峙して巻回される第1ボイスコイルと、第2ポールに対峙して巻回される第2ボイスコイルと、を備え、磁性部材が、第1ボイスコイルと第2ボイスコイルとの間に配置される。
【0013】
また、さらに好ましくは、本発明の動電型スピーカーは、振動体が、振動板を備え、振動板の内周端が、第1ボイスコイルと第2ボイスコイルとの間に配置される磁性部材に固着される。
【0014】
また、さらに好ましくは、本発明の動電型スピーカーは、磁性部材が、第1ボイスコイルの上部と、第2ボイスコイルの下部に、配置される。
【0015】
また、さらに好ましくは、本発明の動電型スピーカーは、磁気回路が、第1ポールの上面に接合する第1副磁石と、第2ポールの下面に接合する第2副磁石と、をさらに備える。
【0016】
また、好ましくは、本発明の動電型スピーカーは、磁気回路が、ポールの上面に接合する第1磁石と、ポールの下面に接合する第2磁石と、を備え、磁性部材が、ボイスコイルの上部と、ボイスコイルの下部とに、それぞれ配置される。
【0017】
以下、本発明の作用について説明する。
【0018】
本発明の動電型スピーカーは、磁気回路を構成する磁石と、磁石と接合するポールと、振動体を構成するコイルボビンと、ポールに対峙して巻回されてコイルボビンに固着されるボイスコイルと、を備え、振動体のコイルボビンに、ボイスコイルと分離して磁性部材が固着されている。したがって、本発明の動電型スピーカーは、例えば、軽量化を図ってヨークを省略した開放型の磁気回路であっても、コイルボビンに固着された磁性部材によって磁力線が集束されるので、ポールに対峙するボイスコイルの位置における磁束密度を高めることができる。したがって、磁気回路の軽量化によっても動電型スピーカーの能率を高くすることができ、好ましい音響特性が得られる。
【0019】
この磁性部材は、ボイスコイルと分離してコイルボビンに固着される。磁性部材は、コイルボビンにおいて、磁気回路の磁石に対峙する位置ならびに範囲に固着されるのが好ましい。つまり、磁性部材は、磁気回路のポールと対峙するボイスコイルの外周面に接して設置されるのではなく、コイルボビン上に、ポールおよびボイスコイルとは分離、離隔して設置される。磁性部材に作用する磁力は、ポールとの距離に反比例して低下するものであり、その結果、コイルボビン上の磁性部材が磁気回路の直流磁束から受ける磁力を低く抑えることができる。したがって、ボイスコイルに音声信号が印加されると、振動体は十分に振動可能となり、コイルボビンの強度が不足する場合であっても、磁性部材に働く磁力によって、コイルボビンとポールとが接触して動作不良が発生するような問題を生じず、本発明の動電型スピーカーでは、好ましい音響特性ならびに音声再生が得られる。
【0020】
磁性部材は、例えば、鉄、電磁軟鉄、珪素鋼、電磁ステンレス、アモルファス、パーマロイ、パーメンジュールもしくはフェライトのいずれかから選択される軟磁性材料を略環状に成形して構成されていてもよく、また、これらの軟磁性材料と、樹脂とを含む磁性シートを略環状に成形して構成されていてもよい。磁性部材には、開放型の磁気回路の磁力線を集束する透磁率が高い軟磁性材料が含まれていればよい。磁性部材は、振動体を構成するコイルボビン上に固着されることから、軽量で薄い部材であることが好ましく、上記の磁性シートの他にも、パンチングメタルもしくは細い繊維状に加工した軟磁性材料を使用してもよい。したがって、本発明の動電型スピーカーは、軽量化した磁気回路を採用するものであっても、能率を高く向上させることができる。
【0021】
具体的には、磁気回路が磁石の上面に接合する第1ポールと磁石の下面に接合する第2ポールとを備え、振動体が第1ポールに対峙して巻回される第1ボイスコイルと第2ポールに対峙して巻回される第2ボイスコイルとを備える、いわゆる2ボイスコイルタイプの動電型スピーカーの場合には、磁性部材が、第1ボイスコイルと第2ボイスコイルとの間のコイルボビン上に配置される。振動体がコーン形状、もしくは平板形状の振動板を備え、振動板の内周端が、第1ボイスコイルと第2ボイスコイルとの間に配置される磁性部材に固着されていてもよい。磁性部材が磁力線を集束し、第1ボイスコイルおよび第2ボイスコイルの位置における磁束密度を高め、その一方で、磁力線が集中する第1ポールおよび第2ポールとは離隔して磁性部材が固着されているので、直流磁束による磁力の影響が少なく、振動体は振動可能となる。また、磁性部材は、磁気回路の第1ポールおよび第2ポールに挟まれた磁石に対峙する位置ならびに範囲に固着されているので、第1ポールならびに第2ポールのそれぞれからの直流磁束による磁力により、磁気回路に対してバランスがとれた位置で中心保持される。したがって、振動体のボイスコイルの静止位置が、磁気回路のポールとの相対関係において明確になり、その結果、磁性部材に固着された振動板を含めた振動体の動作が安定し、能率が高くて好ましい音声再生が可能な動電型スピーカーが実現される。
【0022】
2ボイスコイルタイプの動電型スピーカーの場合には、さらに好ましくは、磁性部材が、第1ボイスコイルの上部と第2ボイスコイルの下部とに、配置されていてもよい。これらの磁性部材をコイルボビン上に設けることにより、第1ボイスコイルおよび第2ボイスコイルの位置における磁束密度を高めることができ、より能率が高い動電型スピーカーが実現される。また、磁気回路が、第1ポールの上面に接合する第1副磁石と第2ポールの下面に接合する第2副磁石とをさらに備えて、第1ポールおよび第2ポールにおいて反発磁界を構成し、さらに第1ボイスコイルおよび第2ボイスコイルの位置における磁束密度を高めてもよい。さらに好ましい音響特性ならびに音声再生が得られる動電型スピーカーが実現される。
【0023】
また、いわゆる1ボイスコイルタイプの動電型スピーカーの場合であっても、その磁気回路が、ポールの上面に接合する第1磁石とポールの下面に接合する第2磁石とを備える反発型磁気回路であれば、振動体のコイルボビンにボイスコイルと分離して磁性部材が固着され、具体的には、磁性部材がボイスコイルの上部とボイスコイルの下部とにそれぞれ配置される。その結果、軽量化を図って磁気回路のヨークが省略されていても、好ましい音声再生が可能な軽量化された動電型スピーカーが実現される。ボイスコイルの上部と下部とに配置された磁性部材によって磁力線が集束されるので、ボイスコイルの位置における磁束密度を高めることができ、磁力線が集中するポールとは離隔して磁性部材が固着されているので、直流磁束による磁力の影響が少なく、振動体は振動可能となるからである。また、ボイスコイルの上部と下部とに配置された磁性部材に作用する直流磁束による磁力で、振動体のボイスコイルはポールに対峙するようにバランスがとれた位置で中心保持され、その結果、本発明の動電型スピーカーは、安定した動作ならびに好ましい音響特性が実現される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の動電型スピーカーは、軽量化と能率の向上を両立させることができ、好ましい音響特性を実現し、良好な音声再生が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の動電型スピーカーは、軽量化と能率の向上を両立させて、好ましい音響特性を実現し、良好な音声再生が可能な動電型スピーカーを提供するという目的を、磁気回路を構成する磁石と、磁石と接合するポールと、振動体を構成するコイルボビンと、ポールに対峙して巻回されてコイルボビンに固着されるボイスコイルと、を備え、振動体のコイルボビンに、ボイスコイルと分離して磁性部材を固着することにより、実現した。
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1について説明する概略断面図であり、中心軸O−O’に対して略軸対称な左半分は省略されている。本実施例の動電型スピーカー1は、磁石を含む磁気回路10と、2つのボイスコイルを含む振動体20とを備え、これらがベース16およびフレーム17に固着されている、いわゆる2ボイスコイルタイプの動電型スピーカーであり、磁気回路10を軽量化することにより、動電型スピーカー全体の重量の軽量化が図られている。
【0028】
具体的には、磁気回路10は、マグネット11と、マグネット11の上面に接合する第1ポール12と、マグネット11の下面に接合する第2ポール13と、第1ポール12の上面に接合するマグネット14と、第2ポール13の下面に接合するマグネット15と、から構成されている。つまり、磁気回路10は、内磁型磁気回路もしくは外磁型磁気回路に見られるような磁路を形成する磁性材料のヨークを備えない、開放型の磁気回路である。比重の重い鉄のヨークを備えないので、磁気回路10の軽量化が実現されている。マグネット11とマグネット14とは、第1ポール12の上下両面にそれぞれのマグネットの同極側が対向するように配置され、第1ポール12の周囲側面に反発磁界S1(図示しない)を形成する。同様に、マグネット11とマグネット15とは、第2ポール13の上下両面にそれぞれのマグネットの同極側が対向するように配置され、第2ポール13の周囲側面に反発磁界S2(図示しない)を形成する。したがって、反発磁界S1と反発磁界S2では磁力線の向きが逆になり、磁気回路10の直流磁力線は、反発磁界S1と反発磁界S2を結ぶように形成される。なお、本実施例では、マグネット11、マグネット14およびマグネット15は、ネオジウム磁石である。
【0029】
振動体20は、コイルボビン21と、第1ボイスコイル22と、第2ボイスコイル23と、コーン振動板24と、ダンパー25と、エッジ26と、ダストキャップ27と、磁性部材30とから構成されている。第1ボイスコイル22は、第1ポール12に対峙して巻回されてコイルボビン21に固着されており、第2ボイスコイル23は、第2ポール13に対峙して巻回されてコイルボビン21に固着されている。したがって、第1ボイスコイル22に音声信号電流が供給されると、反発磁界S1による駆動力F1が作用し、同様に、第2ボイスコイル23に音声信号電流が供給されると、反発磁界S2による駆動力F2が作用し、これらの駆動力の総和F(=F1+F2)で振動体20が振動する。駆動力Fにより、振動体20のダンパー25およびエッジ26で内周端及び外周端を中心支持されたコーン振動板24と、コイルボビンの一方端を塞ぐダストキャップ27とが振動し、音声を再生する。なお、反発磁界S1と反発磁界S2では磁界の向きが逆になることから、第1ボイスコイル22と第2ボイスコイル23とに流れる音声信号電流の向きは相互に逆向きになるように設定される。
【0030】
振動体20において、コイルボビン21には、第1ボイスコイル22と第2ボイスコイル23との間に、これらのボイスコイルとは分離して、磁性部材30が固着されている。磁性部材30は、軟磁性材料と樹脂とを含む磁性シートを円環状に形成した部材であり、具体的には、ノイズ抑制シート、磁性シートもしくは電波吸収体として機能する薄くて柔軟な電磁シールド部材(例:TDK製 ノイズ抑制シート IRL材、IRJ材、IVM材、IRB材、IRE材:厚さ0.05mm〜1.00mm)を、接着剤でコイルボビン21の外周面に固着している。磁性部材30の透磁率は、空気の透磁率よりも高い(つまり比透磁率が高い)ので、磁気回路10の直流磁力線は磁性部材30に集束されるようになり、その結果、第1ボイスコイル22と第2ボイスコイル23の位置における磁束密度が高められる。
【0031】
図2は、ボイスコイルの位置における磁気回路が形成する磁界の磁束密度分布を表すグラフであり、横軸は振動系のコイルボビンに沿った軸方向の距離を示し、縦軸は磁束密度の絶対値を示している。図2(a)は、本発明の実施例の動電型スピーカー1の場合であり、直径がφ25mmのコイルボビン21に、幅5.0mm、厚さ0.05mmの磁性シートを一周の円環状に成形した磁性部材30が接着剤で固着されている。なお、第1ボイスコイル22と第2ボイスコイル23の巻幅はそれぞれ5.0mmで、ボイスコイルと磁性部材30とは0.5mmの間隔を空けている。また、マグネット11の厚みは7.0mm、第1ポール12および第2ポール13の厚みは4.0mm、マグネット14および15の厚みは2.0mmである。また、図2(b)は、従来の開放型の磁気回路を備える動電型スピーカーの比較例の場合であり、磁性部材30を備えない他は、磁気回路10および振動体20の構成は、実施例と同等である。
【0032】
実施例の動電型スピーカー1の場合には、第1ポール12に対峙して巻回されている第1ボイスコイル22の範囲V1と、第2ポール13に対峙して巻回されている第2ボイスコイル23の範囲V2とで、安定して磁束密度が高められている。また、直流磁力線が、第1ボイスコイル22および第2ボイスコイル23の間の駆動力Fとして作用しない範囲V3(つまり、範囲V1と範囲V2との中間の範囲)では、磁束密度が低くなる。一方で、比較例の場合には、範囲V1と範囲V2における磁束密度分布に乱れがあり、範囲V1と範囲V2との中間の範囲V3の磁束密度が高くなる。このように、実施例の動電型スピーカー1は、磁気回路10を開放型の磁気回路として軽量化しても、ボイスコイル位置での磁束密度分布を高くすることができ、能率が向上する。
【0033】
図3は、動電型スピーカーの軸上1mでの1W入力時の音圧周波数特性を表すグラフであり、図3(a)は実施例の動電型スピーカー1の場合であり、図3(b)は比較例の場合である。図2に示されるように、実施例の場合にボイスコイルにおける磁束密度分布が高められているのに対応して、実施例の動電型スピーカー1の音圧レベルは約88dBであり、比較例の場合の約84dBに比べて約4dB高くなる。したがって、実施例の動電型スピーカー1は、能率が高くて好ましい音声再生が可能な動電型スピーカーとなる。
【0034】
磁性部材30の幅は5.0mmであり、磁気回路10の第1ポール12および第2ポール13に挟まれた厚み7.0mmのマグネット11に対峙する位置ならびに範囲に固着されている。磁性部材30は、第1ボイスコイル22ならびに第2ボイスコイル23の外周面近傍に配置されないので、直流磁束による強い磁力に捉えられて十分に振動できないという問題、もしくは、動作不良が発生するというような問題を生じない。磁性部材30は、第1ボイスコイル22ならびに第2ボイスコイル23と分離、離隔して設置していればよく、離隔距離がほとんど無い場合であっても、これらが重ね合わされてなければよい。磁性部材30は、第1ポール12ならびに第2ポール13のそれぞれからの直流磁束による磁力により、磁気回路10に対してバランスがとれた位置で中心保持される。その結果、第1ボイスコイル22ならびに第2ボイスコイル23の静止位置が、磁気回路10の第1ポール12ならびに第2ポール13との相対関係において明確になり、振動体20の動作が安定し、能率が高くて好ましい音声再生が可能な動電型スピーカー1が実現される。
【0035】
振動体20のコーン振動板24は、その内周端が第1ボイスコイル22と第2ボイスコイル23との間に配置される磁性部材30に固着されている。振動体20への駆動力Fは、第1ボイスコイル22における駆動力F1と第2ボイスコイル23における駆動力F2との総和であるので、それぞれのボイスコイルの中間に位置する磁性部材30にコーン振動板24の内周端を固着することにより、より効率よく駆動力をコーン振動板24に伝達可能になる。したがって、音質的に好ましい動電型スピーカー1が実現される。また、振動体20のダンパー25も、その内周端が磁性部材30に固着されている。ダンパー25は、振動体20の重心に近い磁性部材30を支持するので、より動作の安定した動電型スピーカー1が実現される。
【0036】
本実施例では、磁性部材30を軟磁性材料と樹脂とを含む磁性シートを円環状に形成して構成したが、例えば、鉄、電磁軟鉄、珪素鋼、電磁ステンレス、アモルファス、パーマロイ、パーメンジュールもしくはフェライトのいずれかから選択される軟磁性材料を略環状(リング形状)に成形して構成してもよい。磁性部材30の略環状もしくはリング形状は、閉じていなくてもよく、分割された円弧状の部材を配置するものであってもよい。上記の磁性材料に限定されず、磁性部材30には開放型の磁気回路10の直流磁力線を集束する透磁率が高い軟磁性材料が含まれていればよい。磁性部材30は、振動体20を構成するコイルボビン21上に固着されることから、軽量で薄い部材であることが好ましい。磁性部材30には、パンチングメタルもしくは細い繊維状に加工した軟磁性材料を使用してもよい。磁性部材30の材料および形状、重量を調整することにより、動電型スピーカー1は、軽量化と能率の向上を両立させることができ、好ましい音響特性を実現し、良好な音声再生が可能となる。本実施例の磁性部材30は約0.6gであり、好ましくは磁性部材30の重量が約0.1g〜2.0gの範囲であればよい。磁性部材30は、動電型スピーカー1の低域再生限界周波数を規定する最低共振周波数f0を調整するためのウェイトリングとして、使用してもよい。
【0037】
マグネット11、マグネット14およびマグネット15は、内磁型磁気回路もしくは反発型磁気回路で使用される希土類系磁石のアルニコマグネット、ネオジウムマグネット、等であればよく、もちろんフェライト系磁石のフェライトマグネットや、樹脂と細分化された磁石粉体とから構成されるボンド磁石であってもよい。また、磁気回路10を固定するベース16、および振動体20を支持するフレーム17は、開放型の磁気回路10の直流磁力線に影響を与えない非磁性の樹脂材料を使用することが好ましいが、漏洩磁束を低減するために鉄等の軟磁性材料を使用してもよい。また、ベース16は、磁気回路10を固定する強度を確保するため、もしくは、磁気回路10の放熱のためにアルミ合金等の金属材料を使用してもよい。また、コーン振動板24は、コーン型の形状に限定されず、平面型振動板であってもよい。
【実施例2】
【0038】
図4は、本発明の他の好ましい実施形態による動電型スピーカー4について説明する概略断面図であり、中心軸O−O’に対して略軸対称な左半分は省略されている。本実施例の動電型スピーカー4は、磁石を含む磁気回路40と、2つのボイスコイルを含む振動体20とを備え、磁気回路40を軽量化することにより、動電型スピーカー全体の重量の軽量化が図られている。なお、実施例1の動電型スピーカー1と共通するベース16、フレーム17および振動体20のコーン振動板24、等については、説明を省略する。
【0039】
磁気回路40は、具体的には、マグネット41と、マグネット41の上面に接合する第1ポール42と、マグネット41の下面に接合する第2ポール43と、から構成されている。つまり、磁気回路40も磁性材料のヨークを備えない、開放型の磁気回路である。比重の重い鉄のヨークを備えないことに加えて、実施例1の磁気回路10で使用された反発磁界を構成するマグネット12およびマグネット13も備えないので、さらなる磁気回路の軽量化が実現される。なお、本実施例では、マグネット41はネオジウムマグネットである。
【0040】
また、振動体20は、コイルボビン21と、第1ボイスコイル22と、第2ボイスコイル23と、コーン振動板24と、ダンパー25と、エッジ26と、ダストキャップ27と、磁性部材30と、第1副磁性部材31と、第2副磁性部材32と、とから構成されている。第1副磁性部材31および第2副磁性部材32は、磁性部材30と同一厚みの軟磁性材料と樹脂とを含む磁性シートを円環状に形成した部材であり、第1副磁性部材31は第1ボイスコイル22の上側に分離して、第2副磁性部材32は第2ボイスコイル23の下側に分離して、接着剤でコイルボビン21の外周面に固着されている。
【0041】
磁性部材30を第1ボイスコイル22と第2ボイスコイル23の中間に配置することにより、第1ボイスコイル22と第2ボイスコイル23の位置における磁束密度が高められるのに加えて、第1副磁性部材31および第2副磁性部材32を配置することにより、さらに磁束密度を高くすることができる。開放型の磁気回路では、直流磁力線が透磁率の低い空気中を通過するので磁気抵抗が大きく、そのために第1ポール42および第2ポール43の周辺では直流磁力線が漏洩してショートループを形成するが、第1副磁性部材31および第2副磁性部材32の透磁率は空気の透磁率よりも高い(つまり比透磁率が高い)ので、漏洩した直流磁力線も第1副磁性部材31および第2副磁性部材32に集束されるようになり、その結果、第1ボイスコイル22と第2ボイスコイル23の位置における磁束密度が高められ、動電型スピーカー4は、軽量で能率が高くなる。
【0042】
第1副磁性部材31および第2副磁性部材32は、磁性部材30と同一厚みの磁性シートを使用してもよく、異なった厚みもしくは材料の磁性シートでもよい。もちろん、他の軟磁性材料を略環状に形成された磁性部材を使用してもよい。また、磁気回路40は、実施例1の磁気回路10と同様に、反発磁界を形成する副磁石を一つもしくは二つ備えていてもよい。その場合において、第1副磁性部材31および第2副磁性部材32は、これらの副磁石に対峙する位置ならびに範囲に固着されていればよい。第1ボイスコイル22と第2ボイスコイル23の位置における磁束密度が高められる結果、能率が高くて好ましい音声再生が可能な動電型スピーカー4が実現される。
【実施例3】
【0043】
図5は、本発明の他の好ましい実施形態による動電型スピーカー5について説明する概略断面図であり、中心軸O−O’に対して略軸対称な左半分は省略されている。本実施例の動電型スピーカー5は、2つの磁石を含む反発磁気回路50と、1つのボイスコイルを含む振動体20とを備え、反発磁気回路50を軽量化することにより、さらに動電型スピーカー全体の重量の軽量化を図っている。なお、実施例1の動電型スピーカー1と共通するベース16、フレーム17および振動体20のコーン振動板24、等については、実施例2と同様に説明を省略する。
【0044】
反発磁気回路50は、具体的には、ポール51と、ポール51の上面に接合する第1マグネット52と、ポール51の下面に接合する第2マグネット53と、から構成されている。つまり、反発磁気回路50も磁性材料のヨークを備えない、開放型の磁気回路である。比重の重い鉄のヨークを備えないことに加えて、第1マグネット52および第2マグネット53に効率の高い希土類磁石(本実施例ではネオジウムマグネット)を使用することにより、実施例1の磁気回路10、もしくは、実施例2の磁気回路40よりも重量を軽くすることができる。したがって、動電型スピーカー4は、全体の重量がさらに軽量化される。
【0045】
第1マグネット52と第2マグネット53とは、ポール51の上下両面にそれぞれのマグネットの同極側が対向するように配置され、ポール51の周囲側面に反発磁界S5(図示しない)を形成する。振動体20のボイスコイル22は、ポール51に対峙して巻回されてコイルボビン21に固着されており、ボイスコイル22に音声信号電流が供給されると、反発磁界S5による駆動力Fが作用して、振動体20は振動する。その結果、コイルボビン21に内周端が固着されているコーン振動板24が振動して音声再生される。
【0046】
コイルボビン21に巻回されるボイスコイル22の上下には、ボイスコイル22とは分離して磁性部材が配置される。具体的には、上側磁性部材33がボイスコイル22の上側に分離して、下側磁性部材34がボイスコイル22の下側に分離して、接着剤でコイルボビン21の外周面に固着されている。上側磁性部材33および下側磁性部材34は、実施例1もしくは実施例2で説明した磁性部材と同様のものであればよく、好ましくは、軟磁性材料と樹脂とを含む磁性シートを円環状に形成したものであればよい。上側磁性部材33および下側磁性部材34をボイスコイル22と分離してコイルボビン21に固着しているので、ボイスコイル22の位置における磁束密度が高められ、動電型スピーカー5は、軽量で能率が高くなる。さらに、上側磁性部材33および下側磁性部材34は、ボイスコイル22の外周面近傍に配置されないので、直流磁束による強い磁力に捉えられて十分に振動できないという問題、もしくは、動作不良が発生するというような問題を生じない。
【0047】
上側磁性部材33および下側磁性部材34は、同一の材料、形状および重量を備える磁性部材であることが好ましく、また、ボイスコイル22と離隔する距離もほぼ等しく設定することが好ましい。上側磁性部材33および下側磁性部材34には、ポール51からの直流磁束による磁力がそれぞれ作用するため、反発磁気回路50に対してバランスがとれた位置で、振動体20が中心保持されるからである。ボイスコイル22の静止位置が、磁気回路50のポール51との相対関係において明確になり、振動体20の動作が安定し、能率が高くて好ましい音声再生が可能な動電型スピーカー5が実現される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の動電型スピーカーは、軽量化が求められる携帯用電子機器や、車載用のオーディオ機器に使用されるスピーカーに適用が可能であり、家庭用のステレオ再生もしくはマルチチャンネルサラウンド再生に用いられる動電型スピーカーにも適用が可能である。また、動電型スピーカー限られず、動電型マイクロホンにも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカーについて説明する概略断面図である。(実施例1)
【図2】ボイスコイルの位置における磁気回路が形成する磁界の磁束密度分布を表すグラフである。(実施例1)
【図3】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカーの音圧周波数特性を表すグラフである。(実施例1)
【図4】本発明の他の好ましい実施形態による動電型スピーカーについて説明する概略断面図である。(実施例2)
【図5】本発明の他の好ましい実施形態による動電型スピーカーについて説明する概略断面図である。(実施例3)
【符号の説明】
【0050】
1、4、5 動電型スピーカー
10、40、50 磁気回路
11、14、15 マグネット
12、13 ポール
16 ベース
17 フレーム
20 振動体
21 コイルボビン
22、23 ボイスコイル
24 コーン振動板
25 ダンパー
26 エッジ
27 ダストキャップ
30 磁性部材
31、32 副磁性部材
33、34 磁性部材
41、52、53 マグネット
42、43、51 ポール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気回路を構成する磁石と、該磁石と接合するポールと、
振動体を構成するコイルボビンと、該ポールに対峙して巻回されて該コイルボビンに固着されるボイスコイルと、を備え、
該振動体の該コイルボビンに、該ボイスコイルと分離して磁性部材が固着されている、
動電型スピーカー。
【請求項2】
前記磁性部材が、前記コイルボビンにおいて、前記磁気回路の前記磁石に対峙する位置ならびに範囲に固着される、
請求項1に記載の動電型スピーカー。
【請求項3】
前記磁性部材が、
鉄、電磁軟鉄、珪素鋼、電磁ステンレス、アモルファス、パーマロイ、パーメンジュールもしくはフェライトのいずれかから選択される軟磁性材料を略環状に成形して構成された、
請求項1または2に記載の動電型スピーカー。
【請求項4】
前記磁性部材が、
鉄、電磁軟鉄、珪素鋼、電磁ステンレス、アモルファス、パーマロイ、パーメンジュールもしくはフェライトのいずれかから選択される軟磁性材料と、樹脂とを含む磁性シートを略環状に成形して構成された、
請求項1または2に記載の動電型スピーカー。
【請求項5】
前記磁気回路が、前記磁石の上面に接合する第1ポールと、該磁石の下面に接合する第2ポールと、を備え、
前記振動体が、該第1ポールに対峙して巻回される第1ボイスコイルと、該第2ポールに対峙して巻回される第2ボイスコイルと、を備え、
前記磁性部材が、該第1ボイスコイルと該第2ボイスコイルとの間に配置される、
請求項1から4のいずれかに記載の動電型スピーカー。
【請求項6】
前記振動体が、振動板を備え、該振動板の内周端が、前記磁性部材に固着される、
請求項5に記載の動電型スピーカー。
【請求項7】
前記磁性部材が、前記第1ボイスコイルの上部と、前記第2ボイスコイルの下部に、さらに配置される、
請求項5または6に記載の動電型スピーカー。
【請求項8】
前記磁気回路が、前記第1ポールの上面に接合する第1副磁石と、前記第2ポールの下面に接合する第2副磁石と、を備える、
請求項5から7のいずれかに記載の動電型スピーカー。
【請求項9】
前記磁気回路が、前記ポールの上面に接合する第1磁石と、該ポールの下面に接合する第2磁石と、を備え、
前記磁性部材が、前記ボイスコイルの上部と、前記ボイスコイルの下部とに、それぞれ配置される、
請求項1から4のいずれかに記載の動電型スピーカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−279797(P2006−279797A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98800(P2005−98800)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】