説明

匂い識別方法

【課題】匂いサンプルの濃度による影響の小さい特徴量を利用して匂い識別を行う方法の提供。
【解決手段】複数のセンサからの各検出信号の最大変位量に基づき最大値ベクトル(ΔVmaxd,s)を算出する最大値ベクトル算出工程と、匂いサンプルごとの最大値ベクトル(ΔVmaxd,s)のノルム‖ΔVmax‖、及び同一種で濃度が異なる匂いサンプルについてのノルム‖ΔVmax‖の平均値<‖ΔVmax‖>とを算出し、式(1)によって最大値ベクトルのノルムを1にし、前記平均値を掛けることにより濃度情報を含めた正規化を行い濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)とする濃度正規化特徴量算出工程と、取得した濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)に基づき匂い識別のパターン認識の演算処理を行う識別工程とにより匂い識別を行う。ΔVregd,s={(ΔVmaxd,s)/‖ΔVmax‖}・<‖ΔVmax‖>・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の匂いセンサを用いて匂い物質の識別を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、化粧品、香料製造等の分野では物質の匂いを検出して識別することがなされているが、従来、匂い識別には人間の鼻を用いた官能検査が行われてきた。しかし、官能検査は個人差があり、また、体調、鼻の疲労の影響を受ける等の多数の問題が存在している。
そのため、官能検査に変わって、匂いを客観的に評価するための匂い検出用化学センサを用いた検出方法が実用されている(特許文献1参照)。
【0003】
上記文献によれば、それぞれ異なる高分子膜層が形成された複数の水晶振動子からなるセンサ群を用いるとともに、学習機能を有し、かつ、前記センサ群の出力信号のパターン識別を行う神経模倣回路(例えばバックプロパゲーション(BP)法)を備えた匂い検出システムを用いて測定を行い、さまざまな既知物質について得られた出力パターンのデータとの一致性をみることで、未知物質の匂いを識別するようにしている。
【0004】
また、匂い検出のために、複数の検出手段(センサ)を用いるとともに、これら検出手段に導入する測定ガス中の匂い成分の濃度が所定値(例えば1倍、2倍、4倍)になるように調製した複数の濃度ガスを順次検出して、検出信号に対して主成分分析や各種近似式の利用により匂い成分を特徴つける指標を算出して匂いの識別を行うことが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−244335号公報
【特許文献2】特開平11−352088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、匂い識別では、測定データから匂い識別に適した特徴量(特徴ベクトル)を求め、この特徴量に基づいてパターン識別を行うことがなされている。
匂い成分を半導体センサや振動子センサで検出する測定系には、センサが配置されたセル内に匂いサンプルを閉じ込めて測定する静止測定系と、匂いサンプルをセル内に一定流量で流しながら測定するフロー測定系とがある。静止測定系は一定濃度のもとで測定するため再現性が高い測定が可能になるが厳密な測定条件の設定が必要となり、また、測定時間も長くなる。そのため、簡便かつ短時間で測定できるフロー測定系が実用的には適している。
【0007】
このフロー測定系では、匂い識別に用いる特徴量をどのように設定するかが問題となる。例えば、図2はあるコーヒ豆の匂いサンプルを14種類の匂いセンサで測定したときのセンサ出力の時間変化を示す図であり、図3は出力信号の立ち上がり部分を拡大した図である。具体的には半導体センサを匂いセンサとしたときの出力電圧値の時間変化である(振動子センサを用いる場合は出力電圧値に代わり周波数変動値となる)。匂いサンプルを流す前の各センサの出力電圧値を0(基準値)とする。匂いサンプルがセンサに到達すると(到達時点を0秒とする)匂い成分が検出され、出力電圧値が上昇する。そして匂い成分の流入量がピークに達した後、匂い成分が減少しだすと出力電圧値も減衰するようになり、匂い成分がすべて流出してしまうと出力電圧値が0に戻る。
【0008】
このように出力信号がピークを形成するように時間変化する測定データを扱う場合に、特徴量の決め方としては、ある特定時点のデータ、全サンプリングデータ、立ち上がり特性の傾き、最大変化量(最大値と基準値との差)等さまざまな値を特徴量として設定することが考えられるが、これらのいずれを特徴量とするかで得られる結果が異なることになる。
また、特徴量の決め方だけではなく、同じ匂い物質であっても異なる濃度で計測した場合は、センサごとで全く異なる時間変化を示すようになる(後述する図4参照)。したがって匂い識別を行う場合に、濃度に影響されない特徴量を用いて計測することが望ましい。
【0009】
そこで、本発明は、匂いサンプルの濃度による影響の小さい特徴量を利用して匂い識別を行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明では、複数の匂いセンサを用いて計測した測定データから、匂いサンプルの濃度の影響を受けにくい不変量を特徴量として算出し、この特徴量に基づいて、匂いの識別を行うようにしている。
すなわち、第一の発明である匂い識別方法は、匂いに対する特性が異なる複数の匂いセンサ(s)を容器内に設置するとともに、採取した匂いサンプル(d)を一定流量で前記容器内に供給することにより前記匂いセンサ群による匂い測定を所定時間以上行い、前記匂い測定を同一種の匂いサンプルについての異なる濃度の匂いサンプルについても行い、各センサおよび各濃度について得た検出信号群に基づいて匂いサンプルの匂いを識別する匂い識別方法であって、匂いサンプルを流す前の基準信号値と匂いサンプルを流した後の最大信号値との差分である最大変位量を算出し、各検出信号の最大変位量に基づいて最大値ベクトル(ΔVmaxd,s)を算出する最大値ベクトル算出工程と、匂いサンプルごとの前記最大値ベクトル(ΔVmaxd,s)のノルム‖ΔVmax‖、および、同一種で濃度が異なる匂いサンプルについてのノルム‖ΔVmax‖の平均値<‖ΔVmax‖>とを算出し、式(1)によって最大値ベクトルのノルムを1にした上で前記平均値を掛けることにより濃度情報を含めた正規化を行って濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)とする濃度正規化特徴量算出工程と、取得した濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)に基づいて匂い識別の演算処理を行う識別工程とからなる。

ΔVregd,s={(ΔVmaxd,s)/‖ΔVmax‖}・<‖ΔVmax‖> ・・・(1)

ここで、‖ΔVmax‖はノルム、<‖ΔVmax‖> はノルム平均値であり式(2)(3)で定義される値である。

‖ΔVmax‖=√(Σ(ΔVmaxd,s) ・・・(2)

<‖ΔVmax‖>=(Σ(‖ΔVmax‖))/d ・・・(3)

【0011】
また、第二の発明は、匂いに対する特性が異なる複数の匂いセンサ(s)を容器内に設置するとともに、採取した匂いサンプル(d)を一定流量で前記容器内に供給することにより前記匂いセンサ群による匂い測定を所定時間以上行い、前記匂い測定を同一種の匂いサンプルについての異なる濃度の匂いサンプルについても行い、各センサおよび各濃度について得た検出信号群に基づいて匂いサンプルの匂いを識別する匂い識別方法であって、匂いサンプルを流す前の基準信号値と匂いサンプルを流した後の最大信号値との差分である最大変位量を算出し、各検出信号の最大変位量に基づいて最大値ベクトル(ΔVmaxd,s)を算出する最大値ベクトル算出工程と、匂いサンプルごとの前記最大値ベクトル(ΔVmaxd,s)のノルム‖ΔVmax‖、および、同一種で濃度が異なる匂いサンプルについてのノルム‖ΔVmax‖の平均値<‖ΔVmax‖>とを算出し、式(1)によって最大値ベクトルのノルムを1にした上で前記平均値を掛けることにより濃度情報を含めた正規化を行って濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)とする濃度正規化特徴量算出工程と、前記濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)に対し、匂いセンサごとの最大値ベクトルのノルム‖ΔVregs‖を算出し、式(4)によって匂いセンサごとの最大値ベクトルを1にすることにより各センサの反応の大きさ情報を含めた正規化を行ってセンサ別正規化特徴量(Cd,s)とするセンサ別正規化特徴量算出工程と、取得したセンサ別正規化特徴量(Cd,s)に基づいて匂い識別の演算処理を行う識別工程とからなる。

d,s={(ΔVregd,s)/‖ΔVregs‖ ・・・(4)

ここで、
‖ΔVregs‖=√(Σd(ΔVregd,s) ・・・(5)

【発明の効果】
【0012】
本発明の匂い識別方法によれば、匂いセンサ群による匂い測定で、匂い信号のピークが得られるまで計測を行い、最大変位量を算出する。
匂い識別に用いる特徴量として、各匂いセンサの検出信号の最大変位量に基づいて最大値ベクトルを算出し、最大値ベクトルのノルムを1にした後、匂いサンプルごとのノルム平均値を掛けることにより濃度を考慮した正規化を行うようにした濃度正規化特徴量を採用したことにより、濃度のばらつきを低減することができるようになり、濃度に影響されにくい特徴量を用いた匂い識別の演算処理を実現することができる。
さらに、上記濃度正規化特徴量に代えて、濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)に対し、匂いセンサごとの最大値ベクトルのノルム‖ΔVregs‖を算出し、匂いセンサごとの最大値ベクトルを1にすることにより各センサの反応の大きさ情報を含めた正規化を行うようにしたセンサ別正規化特徴量を採用したことにより、反応の小さいセンサからの信号であっても匂い識別に反映させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の匂い識別方法で用いる測定系の一例を示す図である。
【図2】匂いサンプルを測定したときの測定データの一例を示す図である。
【図3】図2の測定データにおける匂い信号の立ち上がり部分を拡大した図である。
【図4】同一種の匂いサンプルにおける異なる濃度について測定したときの測定データを示す図である。
【図5】匂いベクトルを、その濃度が小さい順に横軸方向に並べて示した図である。
【図6】BP法を説明する図である。
【図7】10種類のコーヒおよび茶をBP法により識別を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は必ずしも以下に説明する実施形態のみに特定されるものではなく、本発明の目的が達成され、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更できることは言うまでもない。
【0015】
(測定系)
本発明で用いるフロー測定系について説明する。図1は匂いサンプルから測定データを採取するフロー測定系の一例を示す図である。
測定系10は、主に、キャリアガス(乾燥空気、Nなど)を充填したガスボンベ11と、パーミエータ12と、異なる14種類の匂いセンサS(S1〜S14)が設置されたサンプリングボックス13とを流路接続するようにして構成される。なお、本実施形態では14個の異なる半導体センサを匂いセンサとして用いているが、センサSの個数は測定対象により増減すればよく、また、半導体センサに代えて水晶振動子センサ等を用いてもよい。
【0016】
ガスボンベ11からの流路R1は分岐し、直接サンプリングボックスに接続される第一流路R2と、パーミエータ12を介してサンプリングボックスに接続される第二流路R3とに分かれる。
流路R1には、圧力調整弁14、圧力系15が配置され、第一流路R2には流量計16、ニードル弁17が取り付けられる。第二流路R3には圧力調整弁21、圧力計22、ニードル弁23、流量計24、匂いサンプルを接続するチューブホルダ25が取り付けられ、チューブホルダ25の下流側にサンプリングボックス13が接続されている。チューブホルダ25は、温度を一定にするために恒温水槽26内に設置してある。
【0017】
この測定系10では、ガスボンベ11内に充填されているキャリアガスでチューブホルダ25に接続された匂いサンプルをサンプリングボックス13に押し出すことにより、匂い物質をセンサSに供給する。ニードル弁17,23は、センサSに供給するガスをキャリアガスのみにするか、匂いサンプルにするかを選択するために用いる。キャリアガスのみを流すときは、ニードル弁17のみを開き、流量計16で注入するガス量を定める。匂いサンプルガスを流すときは、ニードル弁23のみを開き、流量計24で注入するガス量(匂いサンプルの濃度)を定める。キャリアガスのみ流した状態の信号レベルを基準値にして、基準値からの出力信号(電圧値や周波数値)の変化をセンサの応答とする。
このようにフロー測定を行うことにより、簡便かつ短時間で測定できるようになる。
【0018】
(測定データ例)
既述のように、図2は、上記測定系10を用いてコーヒ豆の匂いについて測定したときの14種類の匂いセンサSでの測定結果の一例である。図3は図2における信号の立ち上がり部分を拡大し、基準点を揃えたときの測定結果を示す図である。
匂いガスが検出されていない期間は、キャリアガスにより基準値になっているが、匂いガスがサンプリングボックス13に到達すると急激に立ち上がる。そして信号がピークになった後、次第に減衰していく。これは採取されていた匂いサンプルが減少し、次第に枯れてくるためである。
【0019】
このような測定データから、匂い識別に用いる特徴量を抽出することになるが、特徴量としては、「ある時点のデータ」、「採取した全データ」、「立ち上がり部分の傾き」、「最大値(基準値からの最大変位)」などを選ぶことが考えられる。
このうち、「採取した全データ」や「立ち上がり部分の傾き」を特徴量とすると、匂いの濃度やサンプリングボックスへの流入速度に依存して変化してしまう。「ある時点のデータ」を特徴量としても、どの時点を選択するかにより変化する。
そこで、他の3つのデータよりはロバスト性のある「最大値(基準値からの最大変位)」を、以後の演算に用いることにする。
【0020】
ただし、特徴量として最大値を選んだ場合であっても、匂いサンプルの濃度に対しては強く影響を受ける。
図4の3つの測定データは、同一種のコーヒ豆であって、濃度が異なる匂いについて測定したときの測定結果である。これによれば、濃度が異なると、同一種類の匂いであっても全く異なる時間変化をしていることになる。
したがって、匂い識別の特徴量として、濃度に不変の特徴量を選択することが、匂い識別の信頼性を高める上で重要になる。
そこで、以下に説明する演算を用いて、濃度変化による影響が小さい特徴量を別途に定めることとした。
【0021】
(特徴量1)
コーヒ豆の匂いを14種の匂いセンサで複数回(ここでは35回)測定し、各センサの測定結果(すなわち最大値)を成分とする匂いベクトル(最大値ベクトル)を取得する。測定は、それぞれ濃度が異なる同一種のコーヒ豆の匂いを計測する。
図5は、得られた35個の匂いベクトルを、その濃度(平均値)が小さい順に横軸方向に並べて示した図であり、縦軸は各センサの出力値である。
このデータから、各センサは、濃度変化によって出力信号値がほぼ指数関数的に変化することが予測される。そこで、これらの測定データを対数プロットした結果、ほぼ直線的に変化することが判明した。このことは、対数プロット上の差分を算出することで、濃度に依存しない一定値が得られることになる。
したがって、演算上で差分を算出することに対応するように、ある濃度の測定ごとの匂いベクトル(最大値ベクトル)を、そのノルムが1となるように正規化し、さらに濃度を考慮した調整を行うようにする演算を行い、「濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)」として定義した。具体的には、以下の式(1)(2)(3)で示す演算を行うようにした。この濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)は、濃度に影響されにくい特徴量として、後述する匂い識別の演算の入力量として利用することができる。
【0022】
濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)の演算について説明する。
センサS(S1〜S14)で濃度dの匂いサンプルを測定したとする。このとき得られた匂いベクトル(最大値ベクトル)を成分で表記し、{ΔVmaxd,s}とする。
匂いベクトル{ΔVmaxd,s}のノルム‖ΔVmax‖は、式(2)で与えられる。
また、同一の匂いで濃度が異なる匂いベクトル(最大値ベクトル)の平均値<‖ΔVmax‖> は式(3)で与えられる。
このとき、濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)を、式(1)を用いて算出する。

ΔVregd,s={(ΔVmaxd,s)/‖ΔVmax‖}・<‖ΔVmax‖> ・・・(1)

ここで、
‖ΔVmax‖=√(Σ(ΔVmaxd,s) ・・・(2)

<‖ΔVmax‖>=(Σ(‖ΔVmax‖))/d ・・・(3)

【0023】
(特徴量2)
ところで、図3,図4でみられるように、14個のセンサには出力値が他に比べて大きいものや小さいものがあり、濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)を、そのまま特徴量として利用すると、信号が小さいセンサは識別に十分反映されなくなる。
そこで、濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)に対し、大きい特徴量は縮小し、小さい特徴量は拡大するため、匂いセンサごとに、濃度の異なる匂いベクトル(最大値ベクトル)のノルム‖ΔVregs‖を算出し、匂いセンサごとの匂いベクトル(最大値ベクトル)を1にすることにより、各センサの反応の大きさ情報を含めた正規化を行って「センサ別正規化特徴量(Cd,s)」と定義した。具体的には、式(4)(5)で示す演算を行うようにした。
【0024】
このセンサ別正規化特徴量(Cd,s)は、濃度に影響されにくい特徴量であり、しかも信号値が小さなセンサからの情報も含んだ特徴量として、後述する匂い識別の演算の入力量として利用することができる。
【0025】
センサ別正規化特徴量(Cd,s)の演算について説明する。
センサS(S1〜S14)で濃度dの匂いサンプルを測定したとする。このとき得られた濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)匂いベクトル(最大値ベクトル)を成分で表記し、{ΔVmaxd,s}とする。

匂いベクトル{ΔVmaxd,s}のノルム‖ΔVmax‖は、式(2)で与えられる。

d,s={(ΔVregd,s)/‖ΔVregs‖ ・・・(4)

ここで、
‖ΔVregs‖=√(Σd(ΔVregd,s) ・・・(5)

【0026】
(匂い識別)
匂いサンプルの識別を行うために、ここではパターン認識手法を用いて識別を行う。パターン識別手法には、ニューラルネットワークを用いる方法、多変量解析を用いる方法などいろいろとり得るが、上述した濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)、あるいは、センサ別正規化特徴量(Cd,s)を特徴量として入力することができる演算手法であれば特に限定されない。
【0027】
ここでは、BP法(Back Propagation法)を用いた識別手法を説明する。BP法は図6に示す演算構造を有しており、階層型ニューラルネットワークの、教師あり学習アルゴリズムである。ある値xを入力層に与えると、出力yは式(6)(7)で出力される。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、f(x)はシグモイド関数であり、微分可能な連続関数である。中間層と出力層の結合係数vjk、入力層と中間層の結合係数wijは、初期値として、ランダムな小さな値が設定されている。また、目標出力である教師信号dと、実際の出力yの誤差Eを以下の式(8)のように定義する。
【0030】
【数2】

【0031】
この値を減らす方向に、中間層と出力層の結合係数vjk、入力層と中間層の結合係数wijを順次更新していき、最終的に誤差Eが一定の値以下になれば学習が収束したと判断して終了する。そうでなければ、式(6)から繰り返す。vjkとwijは最急降下法により、次の式(9)〜(12)で更新される。
【0032】
【数3】

【0033】
ここで、ηは学習係数であり、0<η<1である。
これらの更新を繰り返すことで、出力yが教師信号dに近づいていく。
【0034】
(計算例)
実際に、10種類のコーヒおよび茶を、BP法により学習し、識別を行った。ここでは、匂いセンサを22個にして入力層ユニットの数を22個とした。そして、式(1)で求めた濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)の値を入力として与えるようにした。なお、中間層ユニットの数を10個、出力層の数を10個とし、学習係数は0.05とした。結合係数の初期値は乱数で与え、学習は誤差が5×10−2以下になるまで繰り返した。
それぞれの試料ごとに10回の計測を行い、4個を学習用データ、残りの6個を識別用データとして使用した。学習用データをランダムに選び出し、3000回繰り返した。
算出結果を図7に示す。全体として91%の精度で識別することができた。
【0035】
この結果は、正規化を行わずに「最大値(基準値からの最大変位)」で識別を行う従来の計算よりも識別結果が改善された。
【0036】
上記実施形態では、「濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)」を用いて匂い識別の演算を行ったが、これに代えて「センサ別正規化特徴量(Cd,s)」を用いて匂い識別の演算を行えば、さらに識別結果が改善される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、匂い識別方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 測定系
11 ガスボンベ
12 パーミエータ
13 サンプリングボックス
S 匂いセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
匂いに対する特性が異なる複数の匂いセンサ(s)を容器内に設置するとともに、採取した匂いサンプル(d)を一定流量で前記容器内に供給することにより前記匂いセンサ群による匂い測定を所定時間以上行い、前記匂い測定を同一種の匂いサンプルについての異なる濃度の匂いサンプルについても行い、各センサおよび各濃度について得た検出信号群に基づいて匂いサンプルの匂いを識別する匂い識別方法であって、
匂いサンプルを流す前の基準信号値と匂いサンプルを流した後の最大信号値との差分である最大変位量を算出し、各検出信号の最大変位量に基づいて最大値ベクトル(ΔVmaxd,s)を算出する最大値ベクトル算出工程と、
匂いサンプルごとの前記最大値ベクトル(ΔVmaxd,s)のノルム‖ΔVmax‖、および、同一種で濃度が異なる匂いサンプルについてのノルム‖ΔVmax‖の平均値<‖ΔVmax‖>を算出し、式(1)によって最大値ベクトルのノルムを1にした上で前記平均値を掛けることにより濃度情報を含めた正規化を行って濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)とする濃度正規化特徴量算出工程と、
取得した濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)に基づいて匂い識別の演算処理を行う識別工程とからなる匂い識別方法。

ΔVregd,s={(ΔVmaxd,s)/‖ΔVmax‖}・<‖ΔVmax‖> ・・・(1)

ここで、
‖ΔVmax‖=√(Σ(ΔVmaxd,s) ・・・(2)

<‖ΔVmax‖>=(Σ(‖ΔVmax‖))/d ・・・(3)

【請求項2】
匂いに対する特性が異なる複数の匂いセンサ(s)を容器内に設置するとともに、採取した匂いサンプル(d)を一定流量で前記容器内に供給することにより前記匂いセンサ群による匂い測定を所定時間以上行い、前記匂い測定を同一種の匂いサンプルについての異なる濃度の匂いサンプルについても行い、各センサおよび各濃度について得た検出信号群に基づいて匂いサンプルの匂いを識別する匂い識別方法であって、
匂いサンプルを流す前の基準信号値と匂いサンプルを流した後の最大信号値との差分である最大変位量を算出し、各検出信号の最大変位量に基づいて最大値ベクトル(ΔVmaxd,s)を算出する最大値ベクトル算出工程と、
匂いサンプルごとの前記最大値ベクトル(ΔVmaxd,s)のノルム‖ΔVmax‖、および、同一種で濃度が異なる匂いサンプルについてのノルム‖ΔVmax‖の平均値<‖ΔVmax‖>を算出し、式(1)によって最大値ベクトルのノルムを1にした上で前記平均値を掛けることにより濃度情報を含めた正規化を行って濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)とする濃度正規化特徴量算出工程と、
前記濃度正規化特徴量(ΔVregd,s)に対し、匂いセンサごとの最大値ベクトルのノルム‖ΔVregs‖を算出し、式(4)によって匂いセンサごとの最大値ベクトルを1にすることにより各センサの反応の大きさ情報を含めた正規化を行ってセンサ別正規化特徴量(Cd,s)とするセンサ別正規化特徴量算出工程と、
取得したセンサ別正規化特徴量(Cd,s)に基づいて匂い識別の演算処理を行う識別工程とからなる匂い識別方法。

ΔVregd,s={(ΔVmaxd,s)/‖ΔVmax‖}・<‖ΔVmax‖> ・・・(1)

ここで、
‖ΔVmax‖=√(Σ(ΔVmaxd,s) ・・・(2)

<‖ΔVmax‖>=(Σ(‖ΔVmax‖))/d ・・・(3)

d,s={(ΔVregd,s)/‖ΔVregs‖ ・・・(4)

ここで、
‖ΔVregs‖=√(Σd(ΔVregd,s) ・・・(5)


【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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