説明

包括固定化担体、その製造方法、及び保管・輸送方法

【課題】
本来の担体性能を損なうことなく、低コストで簡単に担体を保管、運搬する。
【解決手段】
微生物を固定化剤中に包括固定した包括固定化担体において、前記固定化剤中に、包括固定化担体が付着するのを防止する付着防止用フィラーを含有させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括固定化担体、その製造方法及び保管・輸送方法に係り、特に、廃水処理性能を損なうことなく、低コストで簡単に保管、運搬できる包括固定化担体、その製造方法、保管・輸送方法、及び廃水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃水処理に用いられる活性汚泥中に含まれる硝化細菌は、一般の細菌に比べて増殖速度が遅く、特に、冬場の低水温時期においては、硝化細菌の細菌数が少なくなり、硝化活性が著しく低下する。このことは、硝化細菌と同様の性質を有する微生物においても、同様の傾向がある。
【0003】
このことから、硝化細菌を含む活性汚泥をけい砂、活性炭、プラスチック等の付着材の表面に固定化して硝化細菌を高濃度化し、これにより、廃水の硝化性能を改善することが行われている(参考文献:微生物固定化法による水処理 担体固定化法・包括固定化法・生物活性炭法 (株)エヌ・ティー・エス 2000年発行)。
【0004】
しかし、微生物を付着材に付着する付着固定化型の場合、付着した微生物の剥離や目的の微生物である硝化細菌と異なる微生物の付着により、硝化細菌を充分に高濃度化することができなかった。このことから、硝化細菌等の有用微生物を、固定化剤内に包括固定化させる包括固定化担体を製造し、この包括固定化担体を反応槽に充填して硝化細菌の濃度を高めることによって、硝化活性を高め、廃水を高速処理することが行われている。包括固定化担体は、活性汚泥を高分子化合物等の固定化剤と混合して原料液を調製し、この原料液を重合開始剤により重合、ゲル化させて、製造されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
このようにして製造された微生物の包括固定化担体は、若干の水とともに袋やケースに詰められた状態で保管・運搬される。そして、廃水処理設備において、これらの包括固定化担体は袋やケースから取り出され、生物処理槽に投入されて廃水処理に使用されている。
【特許文献1】特許第3422229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の如く製造された包括固定化担体(以下、担体と記す)の表面は、製造条件によっては、固定化剤の未重合物質が残っている場合がある。このため、担体を保管、運搬する際、担体の表面が乾燥すると、担体の表面の未重合物質が粘着性を有し、これにより相互の担体同士が接着して、団子状の塊を形成する場合が多かった。このため、この塊を生物処理槽に投入して水と接触させても、一旦塊となった担体は分離しにくく、本来の担体性能を発揮できなくなるといった問題があった。
【0007】
このため、担体を保管、運搬する際、袋やケースに担体とともに水を投入して、直接的に担体同士が接着して塊を形成することを防止している。しかし、この方法では、保管する袋やケースの容量が増加して嵩張り、重量も増加してしまうため、保管作業の手間やコストがかかるという問題があった。また、この方法では、袋やケースに投入した水が、腐敗して悪臭を放つことも問題であった。このようなことから、袋やケースに水を投入しなくても、塊を形成しないで担体を保管・運搬することが課題であった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、本来の担体性能を損なうことなく、低コストで簡単に保管、運搬することができる包括固定化担体、その製造方法、保管・輸送方法、及び廃水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、微生物を固定化剤中に包括固定した包括固定化担体において、前記固定化剤中に、付着防止用フィラーを含有させたことを特徴とする包括固定化担体を提供する。
【0010】
本発明の請求項1によれば、微生物を固定化剤で包括固定化する際に、付着防止用フィラーを添加する。本発明者らは、微生物を固定化剤で包括固定化する際に、特定の付着防止用フィラーを添加して重合させると、担体同士が接着しにくくなるという知見を得て、これにより、水を投入せずに担体を保管・輸送する方法を見出した。
【0011】
したがって、本来の担体性能を損なうことなく、簡単かつ低コストで担体を保管、輸送することが可能となった。
【0012】
なお、上記付着防止用フィラーとしては、タルク、フライアッシュ、粉末活性炭、炭酸カルシウムであることが好ましい。
【0013】
請求項2は請求項1において、前記付着防止用フィラーが、無機系フィラーであることを特徴とする。
【0014】
微生物を固定化剤中に包括固定化する際に有機系フィラーを用いると、有機系フィラーは、微生物等により分解されやすく、担体の表面に粒子として存在することができないので好ましくない。請求項2によれば、微生物を包括固定化する際に、無機系フィラーを添加するようにしたので、無機系フィラーは、固定化剤に溶解することなく、重合後も担体の表面に粒子として存在することができ、担体同士の接着を防止させる。これにより、本来の担体性能を損なうことなく、簡単かつ低コストで担体を保管・輸送することが可能となる。なお、請求項2において、無機系フィラーは、タルク、フライアッシュ、炭酸カルシウムであることが好ましい。
【0015】
請求項3は請求項1又は2において、前記付着防止用フィラーの平均粒径が、5〜100μmであることを特徴とする。
【0016】
請求項3によれば、付着防止用フィラーの平均粒径が5〜100μmの場合、担体同士が接着しにくくなり、これにより、本来の担体性能を損なうことなく、簡単かつ低コストで担体を保管、輸送することが可能となる。
【0017】
すなわち、付着防止用フィラーの平均粒径が5μm未満の場合、付着防止用フィラーの粒子が小さすぎて均一に分散しにくく、一方、付着防止用フィラーの平均粒径が100μm超の場合、担体表面と付着防止用フィラーの接触面積が小さくなるため、担体に固定された付着防止用フィラーが脱落しやすく、さらに担体にクラックが入りやすくなるため、担体強度も低下しやすく、いずれも好ましくない。なお、平均粒径とは、付着防止用フィラーと同体積の球の粒径である。
【0018】
請求項4は請求項1〜3の何れか1において、前記付着防止用フィラーの濃度が、前記包括固定化担体に対して3〜20質量%であることを特徴とする。
【0019】
請求項4によれば、本発明者らは、付着防止用フィラーの濃度が3〜20質量%である場合、担体同士が接着しにくくなることを見出し、これにより、本来の担体性能を損なうことなく、簡単かつ低コストで担体を保管・輸送することが可能となった。
【0020】
請求項5は請求項1〜4の何れか1において、前記固定化剤が、エチレンオキサイドと、プロピレンオキサイドと、からなるポリマーのアクリレート誘導体又はジアクリレート誘導体を含み、前記アクリレート誘導体又はジアクリレート誘導体の分子量が、1000〜10000であることを特徴とする。
【0021】
請求項5の固定化剤は、水溶性で比較的粘度が低いので、付着防止用フィラーが固定化剤内に均一に分散しやすくなり、これにより、担体の表面にも付着防止用フィラーが均一に分散する。したがって、担体同士が接着しにくくなり、本来の担体性能を損なうことなく、簡単かつ低コストで担体を保管、輸送することが可能となる。
【0022】
請求項6は請求項1〜5の何れか1において、前記付着防止用フィラーが、前記包括固定化担体の表面に偏在していることを特徴とする。
【0023】
請求項6によれば、担体の表面に付着防止用フィラーが多く偏在するので、少ない付着防止用フィラー添加量でも、担体同士が接着しにくくなる。したがって、本来の担体性能を損なうことなく、簡単かつ低コストで担体を保管・輸送することが可能となる。
【0024】
本発明の請求項7は前記目的を達成するために、請求項6の包括固定化担体の製造方法であって、成形容器内又は成形シートにあらかじめ付着防止用フィラーを敷き詰めた上に、少なくとも微生物と固定化剤とを混合した混合液を流し込んだ後、重合させて成形体を作製し、前記成形体をペレット状に切断することを特徴とする包括固定化担体の製造方法を提供する。
【0025】
本発明の請求項7の包括固定化担体の製造方法によれば、付着防止用フィラーを担体の表面に偏在させて固定させることができ、これにより、本来の担体性能を損なうことなく、簡単かつ低コストで担体を保管・輸送することが可能となる。なお、請求項7において、包括固定化担体の製造方法としては、チューブ成形法、滴下造粒法、シート成形法等が好適である。また、成形容器又は成形シートとは、混合液をゲル化させる(成形させる)チューブ状、ブロック状の成形容器、又はシート状の搬送体(ベルトコンベア等)であるが、これに限定されることはない。
【0026】
本発明の請求項8は前記目的を達成するために、請求項1〜6の何れか1の包括固定化担体を、保管容器内で保管・輸送する方法であって、前記保管容器に水を投入しないで、前記包括固定化担体を保管・輸送することを特徴とする包括固定化担体の保管・輸送方法を提供する。
【0027】
本発明の請求項8によれば、袋やケースに水を投入して担体を保管・輸送する従来の方法とは異なり、袋やケースに水を投入することなく担体を保管・輸送するようにした。すなわち、本発明者らは、特定の付着防止用フィラーを添加して重合させた担体は、担体同士が接着しにくいという知見を利用して、袋やケースに水を投入しなくても、担体のみを直接投入して保管・輸送できることを見出し、これにより、低コストかつ簡単に担体を保管・輸送することが可能となった。
【0028】
請求項9の廃水処理装置は、請求項1〜6の何れか1の包括固定化担体を用いたことを特徴とする。
【0029】
請求項9は、本発明に係る包括固定化担体を廃水処理装置に使用したものである。請求項9によれば、本発明に係る包括固定化担体を生物処理槽に投入するので、担体性能を損なうことなく生物処理槽に微生物を高濃度に充填することができ、効率よく廃水処理を行える。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、本来の担体性能を損なうことなく、低コストで簡単に担体を保管、運搬することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、添付図面に従って本発明に係る包括固定化担体、その製造方法、その保管、輸送方法、及び廃水処理装置の好ましい実施の形態について詳説する。図1は、本発明に係る包括固定化担体の製造方法の第1の実施形態を示す説明図であり、付着防止用フィラーを担体全体に分散させて、重合法によりゲル化させる例で説明する。
【0032】
図1に示すように、先ず、微生物を含む活性汚泥と、固定化剤と、付着防止用フィラーと、を混合して原料液Iを調製する。ここで、固定化剤に対する付着防止用フィラーの分散性を向上させ、また包括固定化担体同士の接着性を低減させる観点より、付着防止用フィラーの平均粒径は5〜100μmであり、添加量は3〜20質量%である。次いで、この原料液Iに過硫酸カリウム等の重合開始剤を添加して、重合温度は、15〜40℃、好ましくは20〜30℃で、重合時間は、1〜60分、好ましくは1.5〜60分で重合(ゲル化)させる。その後、ゲル化させた担体シートを、約3mm角の角型形状に切断してペレット化する。これにより、本発明に係る包括固定化担体が製造される。
【0033】
また、上記微生物としては、硝化細菌群、脱窒細菌群、嫌気性アンモニア酸化細菌群等の複合微生物を含む活性汚泥を使用することができる。また、対象微生物の固定化初期濃度を高めるため、活性汚泥濃度は、10000〜40000mg−ss/Lとすることが好ましい。また、上記微生物としては、活性汚泥に限定されることはなく、硝化菌、脱窒菌、嫌気性アンモニア酸化細菌、BOD成分酸化細菌、ビスフェノールA分解菌、アオコ分解菌、PCB分解菌、ダイオキシン分解菌、環境ホルモン分解菌等の純粋微生物等、を使用することができる。
【0034】
また、上記付着防止用フィラーとしては、タルク、板状アルミナ、カオリナイト、シリチン、アクテジル、雲母粉、酸化亜鉛ウイスカー、ウォストナイト、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウムウイスカー、ケイ酸カルシウムウイスカー、マイカ、合成マイカ、黒鉛粉末、炭素繊維、フライアッシュ、粉末活性炭、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、スズ酸亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、珪石粉末、ガラスビーズ、珪藻土、珪酸カルシウム、アタパルジャイト、アスベスト、カーボンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ホワイトカーボン、ロー石クレー、シリカ、綿、ポリエステル、ナイロン、窒化珪素、二硫化モリブデン、酸化鉄、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、アルミナ、酸化ジルコン、ベントナイト、ゼオライト、カオリングクレー、セリナイト、ケイ酸ジルコン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、カオリン、セピオライト、スメクトナイト、バーミキュライト等、を使用することができる。
【0035】
また、上記固定化剤としては、高分子モノマー、プレポリマー、オリゴマー等が挙げられるが、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレングリコール系のポリマー、ポリビニルアルコール系のポリマー等を好ましく使用することができる。具体的には、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの含有比が、7:3のもので、末端基がジアクリレートである分子量4000のプレポリマーを、好ましく使用することができる。
【0036】
その他、上記固定化剤としては、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールメタアクリレート等、を使用することができる。その他、以下のプレポリマーを使用することもできる。
【0037】
(モノメタクリレート類)ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、メタクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、メタクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、3クロロ2ヒドロキシプロピルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2ヒドロキシメタクリレート、エチルメタクリレート等。
【0038】
(モノアクリレート類)2ヒドロキシエチルアクリレート、2ヒドロキシプロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、tブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコールアクリレート、シリコン変性アクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、アクリロイルアキシエチルハイドロジェンサクシネート、ラウリルアクリレート等。
【0039】
(ジメタクリレート類)1,3ブチレングリコールジメタクリレート、1,4ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリプレングリコールジメタクリレート、2ヒドロキシ1,3ジメタクリロキシプロパン、2,2ビス4メタクリロキシエトキシフェニルプロパン、3,2ビス4メタクリロキシジエトキシフェニルプロパン、2,2ビス4メタクリロキシポリエトキシフェニルプロパン等。
【0040】
(ジアクリレート類)エトキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2ビス4アクリロキシヒエトキシフェニルプロパン、2ヒドロキシ1アクリロキシ3メタクリロキシプロパン等。
【0041】
(トリメタクリレート類)トリメチロールプロパントリメタクリレート等。
【0042】
(トリアクリレート類)トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリアクリレート、グリセリンPO付加トリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート等。
【0043】
(テトラアクリレート類)ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等。
【0044】
(ウレタンアクリレート類)ウレタンアクリレート、ウレタンジメチルアクリレート、ウレタントリメチルアクリレート等。
【0045】
(その他)アクリルアミド、アクリル酸、ジメチルアクリルアミド等。
【0046】
また、本実施形態において、包括固定化担体の重合は、過硫酸カリウムを用いたラジカル重合が最適であるが、紫外線や電子線を用いた重合やレドックス重合であってもよい。過硫酸カリウムを用いたラジカル重合においては、過硫酸カリウムの添加量は、0.001〜0.25質量%であることが好ましく、アミン系の重合促進剤の添加量は、0.01〜0.5質量%であることが好ましく、その種類は、βジメチルアミノプロピオニトリル、NNN’N’テトラメチルエチレンジアミン等、であることが好ましい。
【0047】
また、本実施形態において、包括固定化担体の成形方法としては、シート成形法を例示したが、これに限定されることはなく、チューブ成形法、滴下造粒法、ブロック成形法等、を採用することもできる。
【0048】
次に、上記の如く製造された本発明に係る包括固定化担体の主な作用について説明する。
【0049】
図2は、従来の包括固定化担体10の主な作用を示す模式図である。また、図3は本発明に係る包括固定化担体20の主な作用を示す模式図である。なお、図3において、包括固定化担体20の内部にある付着防止用フィラー22は、図示しないものとする。
【0050】
従来の包括固定化担体10(以下、担体10とする)は、図2(A)に示すように、担体10の表面に、未重合物質12が存在している(符号14は、重合物質を示す)。このとき、担体10の表面が乾燥すると、担体10の表面に残存している未重合物質12が、粘着性を呈するようになる。そして、図2(B)に示すように、複数の担体10…が相互に接触すると、担体10の表面にある未重合物質12、12同士が直接接触し、図2(C)に示すように、相互に接着して団子状の塊18を形成する。
【0051】
一方、本発明に係る包括固定化担体20(以下、担体20とする)は、図3(A)に示すように、担体20の表面の未重合物質12中に付着防止用フィラー22が分散して固定されている。このとき、図3(B)に示すように、複数の担体20…が相互に接しても、従来とは異なり、先ず、相互の担体20の付着防止用フィラー22、22同士、又は付着防止用フィラー22と未重合物質12とが接触する。したがって、担体20の表面にある相互の未重合物質12、12同士が直接接触しにくく、団子状の塊を形成しにくい。また、担体20の表面にある付着防止用フィラー22は、この周囲の未重合物質12により固定されているので、担体20の表面から脱落しにくい。
【0052】
その他、担体の表面に付着防止用フィラーを存在させる方法としては、従来の担体の表面に付着防止用フィラーをふりかけてまぶす方法も、一見有効のように考えられる。しかし、この方法は、作業者の多大な労力を要するだけでなく、一部の付着防止用フィラーは、担体の表面に付着せず、適量以上の付着防止用フィラーを必要とするため、大量生産には不適である。
【0053】
以上のように、本発明に係る担体20の作用について説明したが、本発明の効果は、これらの作用のみに起因するものではない。
【0054】
次に、本発明に係る包括固定化担体の作用を利用した、包括固定化担体の保管又は輸送方法について説明する。図4は、包括固定化担体の保管方法を示す模式図であり、このうち、図4(A)は従来の担体10の保管方法を示す図であり、図4(B)は本発明の担体20の保管方法を示す図である。
【0055】
図4(A)に示すように、担体10…同士が直接接触して、接着することを防止する目的で、従来の担体10は、保管ケース30内の水32に浸漬されることによって、保管される。このとき、特に、保管温度が高くなると、水32が腐敗し、悪臭を放つようになる。これは、主に、担体10から水32中へ有機物が溶出したり、付着有機物(未重合物質12等)が溶出したりすることで、微生物が水32中に繁殖して起こることに起因する。このため、担体10及び水32を含む保管ケース32は、一般的に、低温下で保管・輸送される。
【0056】
一方、図4(B)に示すように、本発明の担体20は、乾燥時でも他の担体20と接着しにくいので、水が投入されていない保管ケース30内に、直接投入されて保管される。このとき、保管ケース30は、水が投入されていないので、保管ケース30あたりに収容可能な担体20の容量、重量が増加することがなく、また、保管ケース30は低温下で保管される必要もない。これにより、担体の保管、運搬効率を大幅に向上させることができる。
【0057】
ここで、上記保管ケース30は、担体20と反応しない樹脂製、金属製、ビニル製等であることが好ましい。
【0058】
その後、本発明の担体20は、廃水処理システムにおける生物処理槽に添加されて、原水の生物処理(例えば、硝化処理等)に使用される。生物処理槽の流出口には、スクリーンが設けられているため、担体の流出が防止され、担体が生物処理槽内に安定に保持される。したがって、本発明の担体20を適用した生物処理槽は、高い生物処理性能を維持することができる。
【0059】
以上説明した本発明の実施形態によれば、微生物を固定化剤で包括固定する際に、特定の付着防止用フィラーを添加して重合させると、担体同士が接着しにくくなる。
【0060】
したがって、本来の担体性能を損なうことなく、低コストで簡単に担体を保管、運搬することができる。
【0061】
次に、本発明の包括固定化担体の製造方法の第2の実施形態について、図5及び6により説明する。この実施形態は、担体の一部の表面にのみ付着防止用フィラーを偏在させた担体の製造方法についてである。なお、本実施形態は、担体に付着防止用フィラーを偏在させたこと以外は、第1の実施形態と同様であり、同一部分の詳細な説明については省略する。
【0062】
図5は、包括固定化担体の製造装置50の概略を示す側面図である。図6は、上述の担体の製造方法の操作フローを示す説明図である。
【0063】
図5に示すように、担体の製造装置50は、主に、原料が貯留された原料槽52と、薬品が貯留された薬品槽54、62と、攪拌・押出装置60と、ベルトコンベア66、68と、裁断装置76と、切断装置78と、から構成されている。
【0064】
原料槽52は、微生物を含む活性汚泥等を貯留している。薬品槽54は、固定化剤等を貯蔵している。薬品槽62は、重合開始剤等を貯留している。
【0065】
ベルトコンベア66、68は、攪拌・押出装置60より押し出された原料液II(図6参照)を、搬送させながら、シート状に重合させるものである。このベルトコンベア66、68の表面には、所定量の付着防止用フィラー22が敷かれている。これは、重合を阻害しない程度の粘着性を示すベルトコンベア66、68に、付着防止用フィラー22を付着させて行ってもよいが、これに限定されない。
【0066】
ここで、上記の付着防止用フィラー22の添加量は、担体シートSの表面において、3〜20質量%であることが好ましい。
【0067】
次に、上記の製造装置50を用いて、本実施形態における担体20の製造方法について説明する。
【0068】
まず、原料槽52の活性汚泥等と、薬品槽54の固定化剤は、ポンプ56、58を駆動することによって、混合されながら攪拌・押出装置60に送液される(原料液II)。攪拌・押出装置60に送液された原料液IIは、別の薬品槽62からポンプ64によって送液された重合開始剤等と混合されて攪拌された後、走行中のベルトコンベア66上に押し出される。このとき、原料液IIは、付着防止用フィラー22が敷かれたベルトコンベア66、68によって、挟持搬送されながら重合が進み、ゲル化される。これにより、ベルトコンベア66、68と接した担体シートSの表面は、付着防止用フィラー22が均一に固定される。このようにして、シートの両面に付着防止用フィラー22が分散された長尺状の担体シートSが形成される。
【0069】
そして、担体シートSは、ベルトコンベア66から受け板70の上に押し出された後、搬送方向に回転する円形刃76を備えた裁断装置72により、約3mm幅の格子状に裁断される。その後、担体シートSは、搬送方向に対して直交する回転刃84を備えた切断装置78により、約3mm角の角型形状の担体20に切断され、ペレット化される。このようにして、本実施形態に係る担体20が製造される。
【0070】
以上説明した本発明の実施形態によれば、担体同士の接着が起こる担体の表面にのみ付着防止用フィラーを偏在させるので、少ない付着防止用フィラーの添加量で、担体同士の接着を防止させる。
【0071】
したがって、本来の担体性能を損なうことなく、低コストで簡単に担体を保管、運搬することができる。
【実施例】
【0072】
次に、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
本実施例において、担体20の材料は、表1のものを使用した。また、担体20は、前述の図1の操作フローに従って、製造した。
【0074】
【表1】

1) 付着防止用フィラーの添加量と担体同士の接着性との関係
表1の活性汚泥、固定化剤、及び添加量の異なる付着防止用フィラー22(ここでは、平均粒径50μmの粉末活性炭を用いた)を、それぞれ混合して原料液Iを調製した。次いで、この原料液Iに表1の重合開始剤を添加して、重合温度20℃、0.5時間で重合させて、約10cm角の担体シートSを成形した。その後、この担体シートSを、1cm角の略立方体形状に切断して、包括固定化担体20を製造した。
【0075】
なお、このときの付着防止用フィラー22の添加量を、担体の質量に対して0〜20質量%の範囲で変化させ、付着防止用フィラーの添加量と担体同士の接着性との関係について評価した。
【0076】
担体同士の接着性の評価は、次のように行った。まず、本発明の担体2個を乾燥機(105℃)で1時間乾燥させて、担体の表面に粘着性をもたせた後、担体2個を接触させて72時間放置し、接着させた。次いで、接着させた担体を分離させる強度(引張り強度)を、レオメータで測定した。ここで、一定の力で担体を引っ張る際の、担体20同士が分離する寸前の単位面積あたりの強度を引張り強度とし、付着防止用フィラーを添加しなかった担体同士の引張り強度を1としたときの相対値として表した。この測定結果を、図7に示す。
【0077】
図7に示すように、付着防止用フィラーの添加量が、担体の質量に対して3〜20質量%であれば、引張り強度は0.4以下であり、付着防止用フィラーの添加量が、5〜20質量%であれば、引張り強度は0.2以下とさらに低い値でほぼ一定となった。
【0078】
これより、付着防止用フィラーの添加量が、担体の質量に対して3〜20質量%、好ましくは5〜20質量%であれば、担体同士が接着しにくく、本発明の効果が良好に得られることが解った。
【0079】
2) 付着防止用フィラーの平均粒径と担体同士の接着性との関係
前述の1)において、付着防止用フィラー22(粉末活性炭)の添加量を5質量%に固定し、付着防止用フィラー22の平均粒径を3〜100μmの範囲で変化させたこと以外は、同様にして包括固定化担体20を製造した。
【0080】
そして、付着防止用フィラーの平均粒径と担体同士の接着性との関係について、前述の1)と同様にして評価した。この測定結果を、図8に示す。
【0081】
図8に示すように、付着防止用フィラーの平均粒径が3〜100μmの範囲であれば、引張り強度は0.4以下であり、付着防止用フィラーの平均粒径が5〜100μmの範囲であれば、引張り強度は約0.2とさらに低い値でほぼ一定となった。しかし、付着防止用フィラーの平均粒径が100μm超であれば、引張り強度が大幅に増加した。これは、平均粒径が100μm超の付着防止用フィラーを用いた担体は、担体の表面から付着防止用フィラーが脱落しやすく、担体同士が接着しやすくなったためと考えられる。
【0082】
一方、付着防止用フィラーの平均粒径が5μm未満であれば、引張り強度はやや高くなった。これは、付着防止用フィラーの平均粒径が小さすぎて、固定化剤へ均一に分散しにくくダマになりやすく、担体同士の接着性が増加したためと考えられる。
【0083】
これより、付着防止用フィラーの平均粒径が、3〜100μmの範囲、好ましくは5〜100μmの範囲であれば、担体同士が接着しにくく、本発明の効果が良好に得られることが解った。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に係る包括固定化担体の製造方法の第1の実施形態を示す説明図である
【図2】従来の包括固定化担体の作用を示す模式図である
【図3】本実施形態における包括固定化担体の作用を示す模式図である
【図4】本実施形態における包括固定化担体の保管又は輸送方法を示す模式図である
【図5】他の実施形態の包括固定化担体の製造装置の概略を示す模式図である
【図6】他の実施形態の包括固定化担体の製造方法の操作フローを示す説明図である
【図7】本実施例の結果を示すグラフである
【図8】本実施例の結果を示すグラフである
【符号の説明】
【0085】
10…包括固定化担体(従来)、20…包括固定化担体(本発明)、12…未重合物質、14…重合物質、18…塊、22…付着防止用フィラー、30…保管ケース、32…水、50…製造装置、66、68…ベルトコンベア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を固定化剤中に包括固定した包括固定化担体において、前記固定化剤中に、包括固定化担体が付着するのを防止する付着防止用フィラーを含有させたことを特徴とする包括固定化担体。
【請求項2】
前記付着防止用フィラーが、無機系フィラーであることを特徴とする請求項1の包括固定化担体。
【請求項3】
前記付着防止用フィラーの平均粒径が、5〜100μmであることを特徴とする請求項1又は2の包括固定化担体。
【請求項4】
前記付着防止用フィラーの濃度が、前記包括固定化担体に対して3〜20質量%であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1の包括固定化担体。
【請求項5】
前記固定化剤が、エチレンオキサイドと、プロピレンオキサイドと、からなるポリマーのアクリレート誘導体又はジアクリレート誘導体を含み、前記アクリレート誘導体又はジアクリレート誘導体の分子量が、1000〜10000であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1の包括固定化担体。
【請求項6】
前記付着防止用フィラーが、前記包括固定化担体の表面に偏在していることを特徴とする請求項1〜5の何れか1の包括固定化担体。
【請求項7】
請求項6の包括固定化担体の製造方法であって、
成形容器内又は成形シートにあらかじめ付着防止用フィラーを敷き詰めた上に、少なくとも微生物と固定化剤とを混合した混合液を流し込んだ後、重合させて成形体を作製し、前記成形体をペレット状に切断することを特徴とする包括固定化担体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1の包括固定化担体を、保管容器内で保管・輸送する方法であって、前記保管容器に水を投入しないで、前記包括固定化担体を保管・輸送することを特徴とする包括固定化担体の保管・輸送方法。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか1の包括固定化担体を用いたことを特徴とする廃水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−82485(P2007−82485A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276630(P2005−276630)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】