説明

包接化合物

【課題】高屈折率な包接化合物、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表わされる構造を有する化合物に金属塩を包接させた包接化合物。


(式中、nは1〜1000の整数を示し、Aは環状化合物構造の基を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包接化合物に関する。さらに詳しくは、光学部品の材料として好適な包接化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ、プリズムを始めとする光学用素子は、従来ガラスが用いられていたが、重くて割れやすいという欠点を有することから、近年、プラスチック製品が使用され始めている。
光学用素子に用いられる透明なプラスチック材料としては、ポリメタクリレート、ポリカーボネート等が代表的であるが、これらは透明性、軽量性に優れているものの、屈折率がガラスに比べると低いという欠点を有している。
【0003】
高屈折率の樹脂は、例えば、レンズにした場合に厚みを薄くでき、製品をコンパクトにすることが出来るという利点を有している。また、球面収差等の面でも有利となることから、近年、高屈折率樹脂の研究が盛んに進められている。
高屈折率材料としては、従来から重金属、フッ素以外のハロゲン、芳香環又は硫黄を有する高分子が検討されている。そのなかで、分子屈折率はハロゲン原子の中でヨウ素の屈折率が極めて高いことが知られている。
【0004】
例えば、非特許文献1では、原子屈折の高いヨウ素の導入により波長550nmで1.684〜1.755の高屈折率化を達成している。しかしながら、ヨウ素はかさ高い構造であり、ポリマー中に導入するとポリマーの溶解性が乏しくなり、屈折率の測定は困難であることが多いため、含ヨウ素ポリマーの研究報告例は少ない。
【0005】
一方、クラウンエーテル、カリックスアレーンを始めとする種々の包接化合物は、イオン、分子認識機能を持つために抽出試薬としての応用を広く検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Michael Olshavsky,Harry R.Allcock,Macromolecules,304179(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高屈折率な材料、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、主鎖にクラウンエーテル化合物等の環状化合物を有する化合物に金属塩を包接させたものが、高屈折率な材料となることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の包接化合物及びその製造方法等が提供される。
1.下記式(1)で表わされる構造を有する化合物に金属塩を包接させた包接化合物。
【化1】

(式中、nは1〜1000の整数を示し、Aは環状化合物構造の基を表わす。)
2.前記Aの環状化合物構造がアザクラウンエーテルである1に記載の包接化合物。
3.前記金属塩の対カチオンがLi、Na、K、Mg又はCaのイオンである1又は2に記載の包接化合物。
4.前記金属塩の対アニオンがヨウ素、臭素又は塩素のイオンである1〜3のいずれかに記載の包接化合物。
5.上記1〜4のいずれかに記載の包接化合物を含有する薄膜。
6.上記1〜4のいずれかに記載の包接化合物、又は5に記載の薄膜を含有する光学用材料。
7.屈折率が1.45〜2.00である6に記載の光学用材料。
8.上記6又は7に記載の光学用材料からなる光学部品。
9.下記式(2)で表わされる化合物に環状化合物Aを反応させ、前記式(1)で表わされる構造を有する化合物を合成する工程と、前記式(1)で表わされる構造を有する化合物に金属塩を包接させる工程と、を含む1〜4のいずれかに記載の包接化合物の製造方法。
【化2】

10.上記1〜4のいずれかに記載の包接化合物を含有する液を塗布し、乾燥させる工程を含む、5に記載の薄膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高屈折率な包接化合物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の包接化合物は、下記式(1)で表わされる構造を有する化合物に金属塩を包接させたものである。
【化3】

(式中、nは1〜1000の整数を示し、Aは環状化合物構造の基を表わす。)
【0011】
式(1)の化合物は、主鎖に環状化合物構造の基Aを有することを特徴とする。基Aの環状化合物構造がホストとなり、後述する金属塩をゲスト化合物として取り込み、包接化合物を形成する。
尚、包接化合物とは、空孔を持つ分子又は分子の集合体(ホスト)の中に、他の分子(ゲスト)が取り込まれている化合物の総称である。ホスト化合物として、シクロデキストリンやクラウンエーテル等の筒状、環状化合物が有名である。これらの化合物は空孔の大きさにより、取り込むゲスト分子の大きさに制約があることが知られている。
【0012】
上記式(1)において、環状化合物構造の基Aは、特に溶解性向上効果が高いという理由から、クラウンエーテル、アザクラウンエーテル、及びチアクラウンエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種のヘテロ環化合物から誘導される2価の有機基が好適である。
【0013】
ここで、クラウンエーテルとは、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基等の2価のアルキレンオキシ基が3個以上含まれる環状ポリエーテルを意味する。
クラウンエーテルの例としては、12−クラウン−4−エーテル、14−クラウン−4−エーテル、15−クラウン−5−エーテル、18−クラウン−6−エーテル、ナフチル−12−クラウン−4、ジベンゾ−14−クラウン−4−エーテル、ベンゾ−12−クラウン−4−エーテル、ベンゾ−15−クラウン−5−エーテル、ベンゾ−18−クラウン−6−エーテル、ジベンゾ−12−クラウン−4−エーテル、ジベンゾ−15−クラウン−5−エーテル、ジベンゾ−18−クラウン−6−エーテル、ジシクロヘキサノ−18−クラウン−6−エーテル等を挙げることができる。
【0014】
アザクラウンエーテルとは、上記のクラウンエーテルの酸素原子の一部を窒素原子で置き換えた化合物、即ち、含窒素環状ポリエーテルのことであり、環形成に加わらない窒素原子には水素原子又はアルキル基等の置換基が結合していてもよい。
アザクラウンエーテルの例としては、1−アザ−15−クラウン−5−エーテル、1−アザ−18−クラウン−6−エーテル、ベンゾ−1−アザ−18−クラウン−6−エーテル、4,10−ジアザ−12−クラウン−4−エーテル、4,10−ジアザ−15−クラウン−5−エーテル、4,13−ジアザ−18−クラウン−6−エーテル、5,6,14,15−ジベンゾ−1,4−ジオキサ−8,12−ジアザシクロペンタデカ−5,14−ジエン等を挙げることができる。
【0015】
チアクラウンエーテルとは、上記のクラウンエーテルの酸素原子の一部又は全部を硫黄原子で置き換えた化合物である。
チアクラウンエーテルの例としては、1−チア−15−クラウン−5−エーテル、1−チア−18−クラウン−6−エーテル、1,4,8,11−テトラチアシクロテトラデカン等が挙げられる。
【0016】
これらのヘテロ環化合物の中でも、溶解性向上効果、主鎖に導入し易い等の点で、アザクラウンエーテルが好適であり、特に、ジアザクラウンエーテルが好適である。
【0017】
式(1)中のnは1〜1000の整数であり、好ましくは1〜300である。
【0018】
式(1)で表される化合物は、例えば、下記式(2)で表される化合物に、上述した環状化合物Aを反応させることにより得ることができる。
【化4】

【0019】
上記の反応は、好ましくは塩基存在下で行う。用いる塩基としては、ピリジン、トリエチルアミン等の第3級アミン化合物、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の金属水酸化物等がある。塩基の量はクロライドに対し好ましくは1〜10倍量、より好ましくは1〜5倍量用いる。
【0020】
反応に用いる溶剤は、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、ジクロロメタンやクロロホルム等のハロゲン系溶媒、ヘキサンやトルエン等の炭化水素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンやN−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。また、無溶媒でも反応させることができる。その中でもN−メチルピロリドンを用いるのが好ましい。
【0021】
反応温度は、通常、−78〜100℃の間で行うが好ましくは−30〜70℃、より好ましくは0〜60℃である。反応温度が−78℃未満だと反応時間が長くなる恐れがあり、また反応温度が100℃を超えると副反応が起こる恐れがある。
尚、上記(2)の化合物をAに対応する単量体とともに重合することで重合体が得られる。
【0022】
本発明において、上記式(1)の化合物の数平均分子量は、400〜100,000が好ましく、800〜50,000がより好ましく、さらに1,000〜30,000が好ましい。尚、本発明における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。
【0023】
上記式(1)の化合物とともに、包接化合物を形成する金属塩としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属等の各種金属イオン等の金属塩が挙げられる。
金属塩の対アニオンとしては、ヨウ素、臭素、塩素、フッ素等の各イオンが挙げられる。材料の屈折率を高めるためには、分極率を高めることが一般的な手法であり、分極率を高める要素して、分子屈折率の高いフッ素以外のハロゲン原子(ヨウ素、臭素、塩素)を導入することが好ましい。これらのD線に基づく分子屈折率は、ヨウ素:5.844、臭素:8.741、塩素:5.844、フッ素:0.81であり、ヨウ素の屈折率が極めて高いことから、金属塩の対アニオンとしてヨウ素原子を用いるのが好適である。
【0024】
本発明の包接化合物は、上述した式(1)の化合物に金属塩を包接させることにより製造できる。包接させる方法としては、例えば、式(1)の化合物と金属塩を、溶媒中で混合し、撹拌すればよい。
溶媒としては極性有機溶媒が使用でき、例えば、水、クロロホルム、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルプロピオネート、ジメトキシエタン、グリコール類を用いることが好ましい。
ホスト化合物である上記式(1)の化合物の溶液を撹拝しながら金属塩を添加、撹拌することで選択的に包接させることができる。
【0025】
本発明の包接化合物は、例えば、クロロホルム等の溶媒に溶解し溶液にして、対象物に塗布、乾燥することにより、薄膜とすることができる。
本発明の包接化合物、又は薄膜は、光学用材料として使用することができる。また、金属塩の包接量をコントロールすることにより材料の屈折率を制御することができる。この材料の屈折率は、好ましくは1.45〜2.00、より好ましくは1.50〜1.90である。
【0026】
本発明の光学用材料は、上述した本発明の包接化合物、又は、これらに種々の有機物、無機物を添加した組成物であってもよい。
添加物としては、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリオレフィン、シロキサンポリマー等の各種ポリマーや、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、塗面改良剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、着色剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、溶媒、フィラー、濡れ性改良剤等の各種添加剤を挙げることができる。また、各種感光剤を添加してもよい。
【実施例】
【0027】
実施例1
(1)ホスト化合物の製造
下記式(3)で示される化合物(以下(3)と略す)を合成した。
【化5】

【0028】
50mLの三口フラスコに4,13−ジアザ−18−クラウン6エーテル 0.26g(1mmol)、トリエチルアミン 2mL、NMP 6mL加え、室温で攪拌した。そこにNMP 1mLに溶かしたテレフタロイルジロライド0.2g(1mmol)を加え、室温で6時間攪拌した。反応終了後、反応液をTHFで希釈後、塩をろ過し、再沈澱した(良溶媒:クロロホルム、貧溶媒:エーテル)。再沈殿後、メンブランろ過を行い、減圧乾燥し、白色の固体の(3)を0.36g(収率:83%)得た。構造解析はIR、H−NMRにて行なった。結果を以下に示す。
【0029】
・IR(KRS cm−1):2863(ν −CH),1633(ν C=O),1509,1458(ν C=C aromatic),1292(ν −CN),1116(ν −C−O−C−)
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS):δ(ppm)
3.46〜3.89(m,24H,crown),7.42(m,4H,aromatic)
【0030】
また、得られた化合物の分子量をGPC法で測定したところ、数平均分子量2020、分散度5.4であった。GPC法の測定条件は以下の通りとした。
(a)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(SEC):
東ソー株式会社製、ゲル浸透クロマトグラフィー(SEC)HLC−8020型
(b)カラム:TSKgelG1000H
(c)展開溶媒:DMF
(d)標準物質:ポリスチレン
【0031】
(2)金属塩の包接
上記(1)で合成した(3)0.04g(0.124mmol)をクロロホルム(2ml)に溶解させた。この溶液にヨウ化カリウム(KI)0.105g(0.635mmol)を加えて24時間撹拌し、包接化合物を合成した。
撹拌終了後、過剰なKIをろ別し溶液0.2mlをシリコンウエハー上に滴下し、スピンコータ(浅沼製作所株式会社製)により塗布した。次いで、この溶液が塗布されたシリコンウエハーを室温で24時間減圧乾燥し、薄膜を形成した。
この薄膜について、エリプソメータ(ガードナー社製、115B型)により波長632.8nmにおける屈折率5回測定し、最大値と最小値を除いた3回の測定値の平均を屈折率とした。
その結果、包接化合物の屈折率は1.562であった。尚、包接前の(3)の屈折率は1.560であった。金属塩の包接前後で屈折率が0.002増加した。
上記実施例で合成した主鎖型のクラウンエーテルポリマーは、包接後も製膜性があり、屈折率も上昇した(ΔnD=0.002)ことから、光学材料として有用であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の包接化合物は、高屈折率を有する材料であり、また、金属イオンの対アニオンを変えることで屈折率の調整が可能である。この材料は、光学レンズ、光学フィルム等の光学部品、光学フィルムを用いた液晶表示装置等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表わされる構造を有する化合物に金属塩を包接させた包接化合物。
【化6】

(式中、nは1〜1000の整数を示し、Aは環状化合物構造の基を表わす。)
【請求項2】
前記Aの環状化合物構造がアザクラウンエーテルである請求項1に記載の包接化合物。
【請求項3】
前記金属塩の対カチオンがLi、Na、K、Mg又はCaのイオンである請求項1又は2に記載の包接化合物。
【請求項4】
前記金属塩の対アニオンがヨウ素、臭素又は塩素のイオンである請求項1〜3のいずれかに記載の包接化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の包接化合物を含有する薄膜。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の包接化合物、又は請求項5に記載の薄膜を含有する光学用材料。
【請求項7】
屈折率が1.45〜2.00である請求項6に記載の光学用材料。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の光学用材料からなる光学部品。
【請求項9】
下記式(2)で表わされる化合物に環状化合物Aを反応させ、前記式(1)で表わされる構造を有する化合物を合成する工程と、
前記式(1)で表わされる構造を有する化合物に金属塩を包接させる工程と、を含む請求項1〜4のいずれかに記載の包接化合物の製造方法。
【化7】

【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の包接化合物を含有する液を塗布し、乾燥させる工程を含む、請求項5に記載の薄膜の製造方法。


【公開番号】特開2011−32428(P2011−32428A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182260(P2009−182260)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)研究集会名 応用化学科卒業研究・博士論文・修士論文発表会 主催者名 神奈川大学 開催日 平成21年2月12日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】