説明

包接材料および包接方法

【課題】本発明は、新規な包接材料を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の包接材料は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、含むものである。前記ホスト分子は、環状ポリメタクリル酸オリゴマーである。ここで、限定されるわけではないが、ゲスト分子は、コレステロール、ベヘン酸、ベヘン酸メチル、cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、ホスト分子は、pHが4.8以上14以下の範囲において包接能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な包接材料に関する。また、本発明は、この包接材料を用いる新規な包接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、包接材料が注目されている。包接材料についてについて説明する。包接とは、ホスト分子の有する空洞内部に、ゲスト分子(イオン、原子、分子など)が取り込まれる現象であり、包接材料(ホスト分子)としては、シクロデキストリン類、クラウンエーテル類、カリックスアレン類、大環状アミン類等がよく知られている。包接は、ホスト分子内に存在する外部雰囲気とは異なる極性を有する場に、その場と同様の極性を有し、かつ場の大きさに適したゲスト分子またはゲスト分子の一部が取り込まれることによっておきる。よって、包接では、分子内部に外部とは異なる雰囲気の場が安定に形成されること、取り込みたい分子(ゲスト分子)と場の雰囲気が一致していること、および、その場の大きさが均一であり、ゲスト分子とよく一致している事が重要である。ホスト分子内部の場は安定であるため、ゲスト分子の安定な保存、特定分子の取り込み、輸送、外部溶媒へのゲスト分子の可溶化等に用いられるが、これ以外にも、副反応を起こさない反応場としても用いられている。
【0003】
シクロデキストリン(CD)について説明する。シクロデキストリン(CD)は、D−グルコピラノース単位からなる環状オリゴ糖であり、1分子に含まれるグルコース単位の数により、α-CD(6量体)、β-CD(7量体)、γ-CD(8量体)と呼ばれている。CD類は中空筒状の環状化合物であり、環状化合物の中空筒の外側は水酸基が多く親水性を有するが、中空筒の内側は疎水性となる。この中空筒内側の疎水性により、CD分子内部には疎水場が形成され、疎水性基を有する様々な有機化合物が包接される。この特性を利用し、CD類は、不安定な物質の安定化、異臭原因の物質の吸着除去、脂溶性物質の水溶化等のために利用されている。また毒性が低い事から、食品・医薬品・香粧品への応用が提案されている。例えば、特許文献1には薬理学的に活性な薬剤もしくは抗酸化剤を包接したCD含有薬剤または食品添加剤が提案されており、特許文献2、3にはCDを種々の化合物と組み合わせた担時体が提案されている。しかし、いずれもその包接能は空筒内部の疎水性に起因するものであり、またその空筒構造は強固で、pHにより分子構造が変化しない事から、CDの包接挙動はpH応答性に乏しい。
【0004】
CDを用いた包接材料において、pH応答性を利用したものがあるがそれらはCDの包摂のpH応答性によるものではない。例えば、特許文献4、5ではCDを用いたゲル体の膨潤度をpHによって制御する事が提案されているが、これはCD以外の部分のpH依存性によるものである。また特許文献6は、塩基性CDを提案しているが、これはゲストの解離促進のためのCDの修飾であり、CD自体の包接能の変化に起因するものではない。以上のように、CD類ではpHを変化させる事で、CD誘導体分子自体の包接能を変化させる事は成されていない。
【0005】
カリックスアレンについて説明する。カリックスアレンはフェノールの環状オリゴマーであり、その核体数により4核体、5核体、6核体、7核体、8核体に区別される。フェノール部分の誘導体としては、オクチルフェノール、ノニルフェノール、イソ−プロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、クレゾール等が挙げられる。カリックスアレンは特定の分子を包接する。包接されるゲスト分子としては、金属イオン、C60フラーレンが主である。例えば、非特許文献1では、C60フラーレンとカリックス[8]アレンとの1:1および1:2包接錯体形成が報じられている。また、例えば、非特許文献2では、カリックス[4]アレンと銀イオンの包接錯体形成が報じられている。これらの包接能を基に、センサー類への応用も提案されている。例えば、特許文献7では、C60フラーレンとの包接錯体を用いたバイオセンサーを提案している。しかし、カリックスアレン類はpH依存性を有さないため、pHを変化させることで包接を制御する事はできない。
【0006】
大環状アミンについて説明する。大環状アミンとは、アミノ基を複数有する環状化合物であり、大環状キレート剤である。アミノ基を有するため、中性から酸性領域で包接能を示すpH依存性のホストである。ゲストとしては、金属イオンや塩素イオンが挙げられる。例えば、非特許文献3では、大環状アミンへの銀イオン、水銀イオン、クロムイオン等の包接が、非特許文献4にはマンガン、鉄、コバルト、銅のイオンの包接が報じられている。形成される金属錯体は電子材料として用いられる。特許文献8には大環状アミンと金属との錯体を電荷移動促進材料として用いる事が提案されている。しかし、ゲストはいずれも小さい金属イオンや塩素イオンであり、大きな有機化合物の包接には不適切である。
【0007】
発明者は、環状ポリメタクリル酸オリゴマーについて研究をしている。環状ポリメタクリル酸オリゴマーは、β-CDおよびα-CDの水酸基をメタクリロイル化し、ビニル基を分子内に複数有するマルチビニルモノマー(MVM)を合成する。これを分子内重合し、さらに重合部分のシークエンスの両端を架橋剤(非特許文献5)、またはラジカル連鎖移動により結合し(非特許文献6)、CD環から分離する事で得られる。この環状ポリメタクリル酸オリゴマーの重合度はCD環の一級水酸基側、または二級水酸基側に導入したビニル基数、および、重合時の包接剤の種類により制御する事が可能である。例えば、非特許文献7〜9では、二級水酸基のみにビニル基を導入し、トルエンを包接剤として重合する場合には、重合度はビニル基導入数によく一致したポリメタクリル酸オリゴマー1種類のみが、また、一級、および、二級水酸基側にそれぞれ7個、および14個のビニル基を導入し、トルエンを用いて重合した場合には、重合度7および14のポリメタクリル酸のみが得られることが報じられている。
【0008】
【特許文献1】特開2006-70022号公報
【特許文献2】特開昭56-138122号公報
【特許文献3】特開平6-172189号公報
【特許文献4】特開2005-320392号公報
【特許文献5】特開2005-344097号公報
【特許文献6】特開平9-154597号公報
【特許文献7】特開2005-26452号公報
【特許文献8】特開2005-243615号公報
【非特許文献1】Lara-Ochoa, F.; Cogordan, J. A.; Silaghi-Dumitrescu, I.: Fullerene Science and Technology, 4, 887-896, (1996)
【非特許文献2】Xu, W.; Puddephatt, J.; Muir, K.W.; Torabi, A.A.: Organometallics, 13, 3054, (1994)
【非特許文献3】Yang, Z.; Liu, L.; Zhang, L.; Wang, Y.: J. Appl. Polym. Sci., 98, 407-412, (2005)
【非特許文献4】Belal, A. A.; Abdel-Rahman, L. H.; Amrallah, A. H.: J. Chem. Eng. Data, 42, 1075-1077 (1997)
【非特許文献5】Saito, R.; Kobayashi, H.: J. Incl. Phenom. & Macrocyclic Chem., 44, 303-306 (2002)
【非特許文献6】Saito, R.; Yamaguchi, K.: J. Polym. Sci., Part A. Polym. Chem ., 43, 6262-6271 (2005)
【非特許文献7】Saito, R.; Kobayashi, H.: Macromolecules, 35, 7207-7213 (2002)
【非特許文献8】Saito, R.; Yamaguchi, K.: Macromolecules, 36, 9005-9013 (2003)
【非特許文献9】Saito, R.; Yamaguchi, K.: Macromolecules, 38, 2085-2092 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、例えば、非特許文献7〜9では、二級水酸基のみにビニル基を導入し、トルエンを包接剤として重合する場合には、重合度はビニル基導入数によく一致したポリメタクリル酸オリゴマー1種類のみが、また、一級、および、二級水酸基側にそれぞれ7個、および14個のビニル基を導入し、トルエンを用いて重合した場合には、重合度7および14のポリメタクリル酸のみが得られることが報じられている。
しかし、包接についての知見は得られていないという問題がある。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な包接材料を提供することを目的とする。
また、本発明は、この包接材料を用いる新規な包接方法を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の包接材料は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、含む包接材料において、前記ゲスト分子が有機化合物であり、前記包接能がpHにより制御されることを特徴とする。
【0012】
本発明の包接材料は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、含む包接材料において、前記ゲスト分子が有機化合物であり、前記包接能がpHにより制御され、前記ホスト分子が、一般式(化5)で表される化合物の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種の混合物からなることを特徴とする。
【0013】
ここで、限定されるわけではないが、ゲスト分子は、コレステロールおよびコレステロール誘導体、炭素数6以上の脂肪族炭化水素類および脂肪族炭化水素誘導体、油脂類、有機化合物色素類、炭素数6以上の環状飽和炭化水素類および環状飽和炭化水素誘導体、芳香族炭化水素類および芳香族炭化水素誘導体、ユニットに塩基性基を有さない有機高分子類およびその誘導体、ユニットに塩基性基を有さない無機高分子類およびその誘導体の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、ホスト分子は、pHが4.8以上14以下の範囲において包接能を有することが好ましい。
【0014】
本発明の包接材料は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、含む包接材料において、前記ゲスト分子が有機化合物であり、前記包接能がpHにより制御され、前記ホスト分子は、化学式(化11)で表される化合物のいずれか1種、または2種の混合物からなることを特徴とする。
【0015】
ここで、限定されるわけではないが、ゲスト分子は、コレステロール、ベヘン酸、ベヘン酸メチル、cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、ホスト分子は、pHが4.8以上14以下の範囲において包接能を有することが好ましい。
【0016】
本発明の包接方法は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、使用する包接方法において、前記ゲスト分子が有機化合物であり、前記包接能がpHにより制御されることを特徴とする。
【0017】
本発明の包接方法は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、使用する包接方法において、前記ゲスト分子が有機化合物であり、前記包接能がpHにより制御され、前記ホスト分子が、一般式(化5)で表される化合物の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種の混合物からなることを特徴とする。
【0018】
ここで、限定されるわけではないが、ゲスト分子は、コレステロールおよびコレステロール誘導体、炭素数6以上の脂肪族炭化水素類および脂肪族炭化水素誘導体、油脂類、有機化合物色素類、炭素数6以上の環状飽和炭化水素類および環状飽和炭化水素誘導体、芳香族炭化水素類および芳香族炭化水素誘導体、ユニットに塩基性基を有さない有機高分子類およびその誘導体、ユニットに塩基性基を有さない無機高分子類およびその誘導体の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、ホスト分子は、pHが4.8以上14以下の範囲において包接能を有することが好ましい。
【0019】
本発明の包接方法は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、使用する包接方法において、前記ゲスト分子が有機化合物であり、前記包接能がpHにより制御され、前記ホスト分子は、化学式(化11)で表される化合物のいずれか1種、または2種の混合物からなることを特徴とする。
【0020】
ここで、限定されるわけではないが、ゲスト分子は、コレステロール、ベヘン酸、ベヘン酸メチル、cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、ホスト分子は、pHが4.8以上14以下の範囲において包接能を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0022】
本発明は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、含む包接材料において、前記ゲスト分子が有機化合物であり、前記包接能がpHにより制御されるので、新規な包接材料を提供することができる。
【0023】
本発明は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、含む包接材料において、前記ゲスト分子が有機化合物であり、前記包接能がpHにより制御され、前記ホスト分子が、一般式(化5)で表される化合物の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種の混合物からなるので、新規な包接材料を提供することができる。
【0024】
本発明は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、含む包接材料において、前記ゲスト分子が有機化合物であり、前記包接能がpHにより制御され、前記ホスト分子は、化学式(化11)で表される化合物のいずれか1種、または2種の混合物からなるので、新規な包接材料を提供することができる。
【0025】
本発明は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、使用する包接方法において、前記ゲスト分子が有機化合物であり、前記包接能がpHにより制御されるので、新規な包接方法を提供することができる。
【0026】
本発明は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、使用する包接方法において、前記ゲスト分子が有機化合物であり、前記包接能がpHにより制御され、前記ホスト分子が、一般式(化5)で表される化合物の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種の混合物からなるので、新規な包接方法を提供することができる。
【0027】
本発明は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、使用する包接方法において、前記ゲスト分子が有機化合物であり、前記包接能がpHにより制御され、前記ホスト分子は、化学式(化11)で表される化合物のいずれか1種、または2種の混合物からなるので、新規な包接方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、包接材料および包接方法にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0029】
本発明の包接材料は、ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を含むものである。また、本発明の包接方法は、ゲスト分子を対し包接能を有するホスト分子を使用する方法である。
【0030】
ホスト分子は、一般式(化5)で表される化合物の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種の混合物からなる。
【0031】
【化5】

ここで、
Rは別個独立に、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、カルボキシル基を示す。
R1は、−CH2−基、−CH2−CH2−基、>CH−CH−OH基、−O−CH−O−基、−O−CH−CH−O−基を示す。
R2は、水素原子、メチル基、メトキシ基、エトキシ基を示す。
[ ]内の化学式の結合方向は、一般式(化5)の表示にかかわらず、逆向きであってもよい。n個の前記化学式の結合方向は別個独立である。
nは重合度であり、6から20の整数を示す。
【0032】
上述の通り、一般式(化5)の重合度nの好ましい範囲は6から20である。重合度が6から20では、環内部に安定な疎水場が形成される。また有機化合物の包接に適した空孔サイズとなる。重合度が5以下の場合には、空孔サイズが小さく有機化合物の包接に不適切である。重合度が21以上では、空孔サイズが大きすぎ、有機化合物が包接できない。また、重合度21以上は環構造がねじれ、安定な包接場が形成されなくなる。
【0033】
ゲスト分子としては、塩基性基を有さない疎水性の高い有機化合物類が好ましく、その形状は固体、液体を問わない。ゲスト分子は、以下の化合物の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる。化合物としては、例えば、コレステロールおよびコレステロール誘導体、炭素数6以上の脂肪族炭化水素類および脂肪族炭化水素誘導体、油脂類、有機化合物色素類、炭素数6以上の環状飽和炭化水素類および環状飽和炭化水素誘導体、芳香族炭化水素類および芳香族炭化水素誘導体、ユニットに塩基性基を有さないポリスチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド等有機高分子類およびその誘導体、ユニットに塩基性基を有さないポリジメチルシロキサン等無機高分子類およびその誘導体等を挙げることができる。
【0034】
ゲスト分子は、具体的には以下の化合物の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる。化合物としては、例えば、α−ナフトールオレンジ、コレステロール、ドコサン、アシッドオレンジ7、ベヘン酸、ベヘン酸メチル、cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸等を挙げることができる。
【0035】
ホスト分子の包接能はpHにより制御される。ホスト分子は、pHが4.8以上14以下の範囲において包接能を有する。すなわち、包接化合物を構成するために好ましいpH範囲は4.8以上14以下である。この領域では、カルボン酸が解離するため、環構造が安定し、安定な包接場が形成され、高い包接能を示す。pH範囲が3.5以上4.8未満では、環状メタクリル酸オリゴマーは水に可溶であるが、包接能は失われる。pH範囲が3.5未満では、環状メタクリル酸オリゴマーは水に不溶となり、包接能は有さない。pHを4.8以上にすることで、ゲスト分子を包接させることができる。pHを3.5以上4.8未満とすることで、包接していたゲスト化合物を放出させる事ができる。
【0036】
包接化合物を形成する溶媒としては、水、および、水酸基、エーテル基、エステル基、アミド基、および、スルホニル基からなる群より選ばれた少なくとも1個、通常1〜3個、好ましくは1〜2個の官能基を有する、常温で液状の化合物、および、水とこれら化合物より選ばれた少なくとも1種類の混合溶液が好ましい。混合溶液中の水の重量分率は3%以上が好ましい。
【0037】
このような溶媒としては、水、脂肪族アルコール、鎖状ケトン、鎖状エーテル、環状エーテル、鎖状エステル、環状エステル、鎖状アミド、環状アミド、スルホキシド等を挙げることができる。
【0038】
脂肪族アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等の炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状脂肪族アルコールが挙げられる。
【0039】
鎖状ケトンとしては、例えばアセトン、2-ブタノン、メチルイソブチルケトン、2,5-ヘキサンジオン、2,4-ペンタンジオン等の炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状ケトンが挙げられる。
【0040】
鎖状エーテルとしては、例えばジエチルエーテル等の炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状エーテルが挙げられる。
【0041】
環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、1.4−ジオキサン、1,3−ジオキサン等の炭素数2〜6の環状エーテルが挙げられる。
【0042】
鎖状エステルとしては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸メチル等の炭素数3〜8の直鎖または分岐鎖状エステルが挙げられる。
【0043】
環状エステルとしては、例えばγ―ブチロラクトン等の炭素数3〜8の環状エステルが挙げられる。
【0044】
鎖状アミドとしては、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の炭素数3〜8の直鎖または分岐鎖状アミドが挙げられる。
【0045】
環状アミドとしては、例えばピロリドン、N−メチルピロリドン等の炭素数4〜10の環状がアミド挙げられる。
【0046】
スルホキシドとしては、例えばジメチルスルホキシド等の炭素数2〜8のスルホキシドが挙げられる。
【0047】
包接化合物のpHを調整する塩基としては、水酸化アルカリ金属、含窒素塩基が好ましい。pHを調整する酸としては、カルボン酸基、スルホン酸基のいずれかを1個以上有する有機酸、ならびに塩酸、硝酸、硫酸、リン酸が好ましい。
【0048】
水酸化アルカリ金属としては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウムが挙げられる。
【0049】
含窒素塩基としては、アンモニア、アンモニア水、ピリジン、アミン類が挙げられる。アミン類としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、アニリン等の炭素数1から6の直鎖または、分岐鎖状、または環状アミン等が挙げられる。
【0050】
カルボン酸基、スルホン酸基のいずれかを1個以上有する有機酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、アスコルビン酸、フルオロ酢酸等のカルボン酸類、または、フルオロ硫酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸が挙げられる。
【0051】
包接能をpHでコントロールすることにより得られる用途としては次のような例がある。同一溶媒中において、pHを増加させることで、安定度定数の高い物質から選択的に包接を行う、さらに、pHを低下させる事で、安定度定数の低い物質から選択的に放出を行うことで、物質の選択的回収、または、選択的移動が可能となる。
【0052】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0053】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0054】
参考例1(環状ポリメタクリル酸オリゴマーの合成)
【0055】
1)環状ポリメタクリル酸オリゴマーの合成方法
[β-CDの一級水酸基の保護(化合物Iの合成)]
乾燥β-CD1.0 gをピリジン9.0 gに溶解し、溶液Aとした。塩化p-トルエンスルホニル2.0 gを酢酸2.1 gに溶解し、溶液Bとした。氷冷下、溶液Aに溶液Bを徐々に滴下し、滴下終了後、24時間室温で撹拌した。24時間後、混合溶液をヘキサン60 mlに注ぎ生成物を沈殿させる。得られた沈殿を、ろ過により回収した。沈殿をメタノール10 mlに溶解し、蒸留水120 ml(5 ℃)で再沈殿させ、得られた白色沈殿をろ過により回収し、80 ℃で5時間真空乾燥し、化合物Iとした。
【0056】
【化6】

【0057】
[化合物Iの二級水酸基のメタクリロイル化(化合物IIの合成)]
化合物I 1 g、ヒドロキノン0.05 gをピリジン4 gに溶解した。ここに、無水メタクリル酸1.5 mlを加え、50℃、5時間還流する。還流後、溶液を室温まで放冷し、ヘキサン30 mlに注ぎ、生成物を沈殿させる。沈殿をろ過により回収した。沈殿をメタノール10mlに溶解し、蒸留水120 ml(5 ℃)で再沈殿させ、得られた白色沈殿をろ過により回収し、室温で真空乾燥し、化合物IIとした。
【0058】
【化7】

【0059】
[化合物IIの銅錯体による原子移動ラジカル重合(化合物IIIの合成)]
化合物II 1 gをメタノール100 mlに溶解し、溶液にトルエン0.2 gを添加し5分間撹拌する。次に溶液に11 mlの水を徐々に添加し、窒素雰囲気下5分間撹拌し、系を窒素雰囲気に置換する。置換後、1,3-ジブロモブタン0.09 g、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(Me6-TREN)0.14 g、CuBr0.06 gを加え、系を閉じ、窒素雰囲気下50℃、6時間反応させた。反応後、溶液を氷冷し、酢酸 0.1 mlを添加し、溶液を10分間撹拌した。撹拌終了後、溶液をヘキサン500 ml中に注ぎ、沈殿をろ取した。得られた沈殿を室温で減圧乾燥し、生成物IIIとした。
【0060】
【化8】

【0061】
[化合物IIIの閉環反応(化合物IVの合成)]
化合物III 1 gをメタノール100 mlに溶解し、溶液にトルエン0.2 gを添加し5分間撹拌する。次に溶液に11 mlの水を徐々に添加し、窒素雰囲気下5分間撹拌し、系を窒素雰囲気に置換する。置換後、Me6-TREN0.14 g、CuBr0.06 gを加え、系を閉じ、窒素雰囲気下50℃、6時間反応させた。反応後、溶液を氷冷し、酢酸 0.1 mlを添加し、溶液を10分間撹拌した。撹拌終了後、溶液をヘキサン500 ml中に注ぎ、沈殿をろ取した。得られた沈殿を室温で減圧乾燥し、生成物IVとした。
【0062】
【化9】

【0063】
[環状ポリメタクリル酸オリゴマーの合成(化合物IVの加水分解)]
化合物IV 1 gをメタノール20 mlに溶解し、1N-NaOH溶液 10 mlを加え、溶液が透明になるまで、室温で撹拌した。反応終了後、5N-HNO3を溶液がpH3以下になるまで加え、生成した沈殿をろ取、室温にて減圧乾燥し、環状ポリメタクリル酸オリゴマーとした。
【0064】
【化10】

【0065】
2)環状ポリメタクリル酸オリゴマーを特定する分析結果
環状ポリメタクリル酸オリゴマーの1H-NMR測定結果(溶媒:重水素化メタノール、図1)より、以下の知見を得た。
(a)1.1ppmのmr、rmのメチル基のピーク、1.35ppmのmmのメチル基のピーク、1.4ppmのmrのメチレン基のピーク、2.35ppmのピークはmmmのメチレン基のピークより、生成物は立体規則性のないポリメタクリル酸である。
(b)直鎖の末端を示す2.15 ppmの水酸基のピークは観察されない。また、1.5〜1.65 ppmの水素のピーク及び1.75 ppmの水素のピークは図中の水素Ha、Hbに対応している。2.25 ppmは水素Hcであることから、生成物は環状体である。
【0066】
環状ポリメタクリル酸オリゴマーのMALDI-TOF-Mass測定結果(図2、および表1)より、いずれのピークにおいても、そのポリメタクリル酸の重合度は14であり、他の化合物は検出されない。よって、ここで、例に示した環状ポリメタクリル酸オリゴマーの重合度は14である。
【0067】
【表1】

【0068】
以上より、ここで用いた環状ポリメタクリル酸オリゴマーは重合度14で分子量分布を持たない化合物である。また、1H-NMR、および、分子量測定結果より、その構造は以下の二種類からなる混合物である。
【0069】
【化11】

【0070】
図3に得られた環状ポリメタクリル酸オリゴマーの滴定曲線を示す。図より、pH 3.5〜pH 5.0(領域a)にメタクリル酸の解離に由来する緩衝領域が見られた。また、本曲線より、pKaは4.83であった。
【0071】
MM2による構造計算より、環状ポリメタクリル酸オリゴマーは水中でやや楕円形を取っており、その空孔サイズは長軸11.2Å、短軸9.2Åであった。
【0072】
実施例1(包接錯体形成についての紫外−可視吸収スペクトルによる測定)
【0073】
1)実験方法
メチレンブルーを水に溶解し、水溶液(メチレンブルー濃度:1.0×10-5 mol/l)とした。この中にβ-CD(メチレンブルーに対し、20〜150 mol当量)または、ポリメタクリル酸オリゴマー(メチレンブルーに対し、20〜150 mol当量)を加え30分静置し、溶液の紫外−可視吸収スペクトルを測定した。測定条件は次の通りである。測定温度:23.5±0.9 ℃、測定領域:400 nm〜900 nm、走査速度:200 nm/minである。
【0074】
2)実験結果
メチレンブルーは代表的な色素のひとつであり、β-CDと1:1包接錯体を形成することが知られている。そこで、環状ポリメタクリル酸オリゴマーとメチレンブルーの包接錯体形成についてUV-Vis測定を用い検討した。得られたUV-Vis吸収スペクトルを図4に示す。メチレンブルーでは、水中でメチレンブルーに分子が重なったダイマー構造とモノマー構造の平衡状態にある。UV測定結果より、ダイマー由来の吸収ピーク(612 nm)、及び、モノマー由来の吸収ピーク(666 nm)が観察される。ここにβ-CDまたは環状ポリメタクリル酸を添加し、モノマー由来の吸収ピークのダイマー由来の吸収ピークに対する強度比(M/D比)から、包接錯体の構造を検討した。図5にはM/D比を示した。
【0075】
β-CDを添加した場合、612 nmのダイマー由来のピーク強度が低下し、666 nmのモノマー由来のピークが増大した。これは、メチレンブルーモノマーがβ-CDに包接され、メチレンブルーの平衡がモノマー側に移動したことによる。
【0076】
環状ポリメタクリル酸オリゴマーを添加した場合、666 nmのモノマー由来のピーク強度が低下し、612 nmのダイマー由来のピーク強度が増大した。これは、環状ポリメタクリル酸オリゴマーにはメチレンブルー2分子(ダイマー)が包接され、そのためにメチレンブルーの平衡がダイマー側に移動したことによる。以上より、環状ポリメタクリル酸オリゴマーは、メチレンブルーと1:2包接錯体を形成する。
【0077】
環状ポリメタクリル酸オリゴマーでは解離したカルボン酸が環の周囲に広がり、メチル基が環の内部に凝集する事で環内部に形成された疎水場にメチレンブルーが包接された。また、空孔は11.2Å(長軸)と9.2Å(短軸)の楕円であり、β-CDの空孔サイズの6.4Åよりも大きいため、メチレンブルーは1分子ではなく、2分子からなる会合体(ダイマー)として包接された。
【0078】
実施例2(包接錯体形成に対するpH依存性の測定)
【0079】
1)実験方法
ゲスト分子(コレステロール、またはベヘン酸、またはベヘン酸メチル、またはcis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸(DHA))を0.2 mlのメタノールに溶解し、ゲスト溶液(ゲスト分子濃度:7.8×10-3 mol/l)とした。β-CDまたは、環状ポリメタクリル酸オリゴマーを0.3 mlの水に溶解し、ホスト溶液(ホスト分子濃度:1.3×10-2 mol/l)とした。ゲスト溶液とホスト溶液を室温にて混合し、中性領域用のスポット用サンプル溶液とした。サンプル溶液のpHは6.2〜7.8であった。
【0080】
ゲスト分子(コレステロール、またはベヘン酸、またはベヘン酸メチル、またはDHA)を0.2 mlのメタノールに溶解し、ゲスト溶液(ゲスト分子濃度:7.8×10-3 mol/l)とした。β-CDまたは、環状ポリメタクリル酸オリゴマーを0.3 mlの水に溶解し、ホスト溶液(ホスト分子濃度:1.3×10-2 mol/l)とした。ゲスト溶液、ホスト溶液および酢酸0.05mlを室温にて混合し、酸性領域用のスポット用サンプル溶液とした。サンプル溶液のpHは3.0〜4.5であった。
【0081】
サンプル溶液をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(20×20cm,MERCK Silica gel 60 F254,1.05715.0009)1枚、展開溶媒で分画しRf値を得た。条件は以下の通りである。スポットサイズφ=約0.5 cm、展開溶媒:酢酸エチル:2-プロパノール:水混合溶媒(酢酸エチル: 2-プロパノール:水=5:2:0.5)、展開温度:20±2 ℃、展開距離:約15 cmである。
【0082】
染色には、ヨウ素溶液(1 wt%エタノール溶液)、リンモリブデン酸溶液(4 wt%エタノール溶液)、ブロモクレゾールグリーン(BCG)溶液(0.04 wt%エタノール溶液)、硫酸(10wt%水溶液)を用いた。
【0083】
2)実験結果
表2に環状ポリメタクリル酸オリゴマーにコレステロール、または、ベヘン酸、またはベヘン酸メチル、またはDHAを添加した混合物のRf値を示した。参考のため、同一測定条件における環状ポリメタクリル酸オリゴマー、およびゲスト化合物のRf値も併記した。
【0084】
環状ポリメタクリル酸オリゴマーをホストとする場合の知見は以下の通りである。
環状ポリメタクリル酸オリゴマー単独とコレステロール単独のスポットは、いずれも単一であり、互いに異なる値を示した。環状ポリメタクリル酸オリゴマーとコレステロールの混合体では、中性においては、単一のスポットが観察され、コレステロールが環状ポリメタクリル酸オリゴマーに包接された。酸性領域においては、スポットは2点観察され、両スポットのRf値は、環状ポリメタクリル酸オリゴマー単独、およびコレステロール単独のRf値に等しくなった事から、酸性領域ではコレステロールは環状ポリメタクリル酸オリゴマーに包接されない。
【0085】
環状ポリメタクリル酸オリゴマー単独とベヘン酸単独のスポットは、いずれも単一であり、互いに異なる値を示した。環状ポリメタクリル酸オリゴマーとベヘン酸の混合体では、中性においては、単一のスポットが観察され、ベヘン酸が環状ポリメタクリル酸オリゴマーに包接された。酸性領域においては、スポットは2点観察され、両スポットのRf値は、環状ポリメタクリル酸オリゴマー単独、およびベヘン酸単独のRf値に等しくなった事から、酸性領域ではベヘン酸は環状ポリメタクリル酸オリゴマーに包接されない。
【0086】
環状ポリメタクリル酸オリゴマー単独とベヘン酸メチル単独のスポットは、いずれも単一であり、互いに異なる値を示した。環状ポリメタクリル酸オリゴマーとベヘン酸メチルの混合体では、中性においては、単一のスポットが観察され、ベヘン酸メチルが環状ポリメタクリル酸オリゴマーに包接された。酸性領域においては、スポットは2点観察され、両スポットのRf値は、環状ポリメタクリル酸オリゴマー単独、およびベヘン酸メチル単独のRf値に等しくなった事から、酸性領域ではベヘン酸メチルは環状ポリメタクリル酸オリゴマーに包接されない。
【0087】
環状ポリメタクリル酸オリゴマー単独とDHA単独のスポットは、いずれも単一であり、互いに異なる値を示した。環状ポリメタクリル酸オリゴマーとDHAの混合体では、中性においては、単一のスポットが観察され、DHAが環状ポリメタクリル酸オリゴマーに包接された。酸性領域においては、スポットは2点観察され、両スポットのRf値は、環状ポリメタクリル酸オリゴマー単独、およびDHA単独のRf値に等しくなった事から、酸性領域ではDHAは環状ポリメタクリル酸オリゴマーに包接されない。
【0088】
以上より、環状ポリメタクリル酸オリゴマーは、本条件においては、中性領域ではコレステロール、ベヘン酸、ベヘン酸メチル、DHAを包接するが、酸性領域では包接せず、pH依存性を示す包接材料である。
【0089】
【表2】

【0090】
表3にβ-CDにコレステロール、または、ベヘン酸、またはベヘン酸メチル、またはDHAを添加した混合物のRf値を示した。参考のため、同一測定条件におけるβ−CD、およびゲスト化合物のRf値も併記した。
【0091】
β-CDをホストとする場合の知見は以下の通りである。
コレステロールを混合すると、中性、酸性領域いずれにおいても、混合物のRf値はβ-CD単独に等しくなった。よって、コレステロールは中性および酸性領域で、β-CDに包接され、pH依存性を示さなかった。
【0092】
ベヘン酸を混合すると、中性、酸性領域いずれにおいても、混合物のRf値はβ-CD単独に等しくなった。よって、ベヘン酸は中性および酸性領域で、β-CDに包接され、pH依存性を示さなかった。
【0093】
ベヘン酸メチルを混合すると、中性、酸性領域いずれにおいても、混合物には二つのスポットが現れ、これらのRf値はβ-CD単独および、ベヘン酸メチル単独に等しくなった。よって、ベヘン酸メチルは中性および酸性領域で、β-CDには包接されず、pH依存性を示さなかった。
【0094】
DHAを混合すると、中性、酸性領域いずれにおいても、混合物のRf値はβ-CD単独に等しくなった。よって、DHAは中性および酸性領域で、β-CDに包接され、pH依存性を示さなかった。
【0095】
以上より、β-CDは、本条件においてはpH依存性を示さない。
【0096】
【表3】

【0097】
以上の包接の挙動に関する知見を表4にまとめた。
【0098】
【表4】

【0099】
β-CDはpHを変化させても、その分子構造が変化しないため、包接挙動にpH依存性が発現しない。中性領域では、環状ポリメタクリル酸オリゴマーはカルボン酸が解離し、環の外周に広がり、環内部にメチル基が凝集することで、環内部に疎水場が形成される。ここに疎水性ゲスト分子が包接される。このため、ゲスト分子を包接した環状ポリメタクリル酸オリゴマーが単一のスポットを形成する。酸性領域では、環状ポリメタクリル酸オリゴマーのカルボン酸は解離せず、環内部にメチル基とともに凝集する、このため、環内部の疎水性が低下する。あわせて、環内部の空孔がつぶれ、ゲスト分子の包接が幾何学的に阻害される。その結果、酸性領域では、ゲスト分子が包接されない。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】環状ポリメタクリル酸オリゴマーのH−NMRを示す図である。
【図2】環状ポリメタクリル酸オリゴマーのMALDI-TOF-Massスペクトルを示す図である。
【図3】環状ポリメタクリル酸オリゴマーのpH滴定曲線を示す図である。
【図4】メチレンブルー水溶液のUV-Vis測定結果を示す図である。
【図5】メチレンブルー水溶液の吸光度比(M/D比)(666nm/612nm)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、含む包接材料において、
前記ゲスト分子は、有機化合物であり、
前記包接能は、pHにより制御される
ことを特徴とする包接材料。
【請求項2】
ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、含む包接材料において、
前記ゲスト分子は、有機化合物であり、
前記包接能は、pHにより制御され、
前記ホスト分子は、一般式(化1)で表される化合物の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種の混合物からなる
【化1】

ここで、
Rは別個独立に、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、カルボキシル基を示す。
R1は、−CH2−基、−CH2−CH2−基、>CH−CH−OH基、−O−CH−O−基、−O−CH−CH−O−基を示す。
R2は、水素原子、メチル基、メトキシ基、エトキシ基を示す。
[ ]内の化学式の結合方向は、一般式(化1)の表示にかかわらず、逆向きであってもよい。n個の前記化学式の結合方向は別個独立である。
nは重合度であり、6から20の整数を示す。
ことを特徴とする包接材料。
【請求項3】
ゲスト分子は、コレステロールおよびコレステロール誘導体、炭素数6以上の脂肪族炭化水素類および脂肪族炭化水素誘導体、油脂類、有機化合物色素類、炭素数6以上の環状飽和炭化水素類および環状飽和炭化水素誘導体、芳香族炭化水素類および芳香族炭化水素誘導体、ユニットに塩基性基を有さない有機高分子類およびその誘導体、ユニットに塩基性基を有さない無機高分子類およびその誘導体の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
ことを特徴とする請求項2記載の包接材料。
【請求項4】
ホスト分子は、pHが4.8以上14以下の範囲において包接能を有する
ことを特徴とする請求項2記載の包接材料。
【請求項5】
ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、含む包接材料において、
前記ゲスト分子は、有機化合物であり、
前記包接能は、pHにより制御され、
前記ホスト分子は、化学式(化2)で表される化合物のいずれか1種、または2種の混合物からなる
【化2】

ことを特徴とする包接材料。
【請求項6】
ゲスト分子は、コレステロール、ベヘン酸、ベヘン酸メチル、cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
ことを特徴とする請求項5記載の包接材料。
【請求項7】
ホスト分子は、pHが4.8以上14以下の範囲において包接能を有する
ことを特徴とする請求項5記載の包接材料。
【請求項8】
ゲスト分子を対し包接能を有するホスト分子を、使用する包接方法において、
前記ゲスト分子は、有機化合物であり、
前記包接能は、pHにより制御される
ことを特徴とする包接方法。
【請求項9】
ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、使用する包接方法において、
前記ゲスト分子は、有機化合物であり、
前記包接能は、pHにより制御され、
前記ホスト分子は、一般式(化3)で表される化合物の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種の混合物からなる
【化3】

ここで、
Rは別個独立に、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、カルボキシル基を示す。
R1は、−CH2−基、−CH2−CH2−基、>CH−CH−OH基、−O−CH−O−基、−O−CH−CH−O−基を示す。
R2は、水素原子、メチル基、メトキシ基、エトキシ基を示す。
[ ]内の化学式の結合方向は、一般式(化3)の表示にかかわらず、逆向きであってもよい。n個の前記化学式の結合方向は別個独立である。
nは重合度であり、6から20の整数を示す。
ことを特徴とする包接方法。
【請求項10】
ゲスト分子は、コレステロールおよびコレステロール誘導体、炭素数6以上の脂肪族炭化水素類および脂肪族炭化水素誘導体、油脂類、有機化合物色素類、炭素数6以上の環状飽和炭化水素類および環状飽和炭化水素誘導体、芳香族炭化水素類および芳香族炭化水素誘導体、ユニットに塩基性基を有さない有機高分子類およびその誘導体、ユニットに塩基性基を有さない無機高分子類およびその誘導体の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
ことを特徴とする請求項9記載の包接方法。
【請求項11】
ホスト分子は、pHが4.8以上14以下の範囲において包接能を有する
ことを特徴とする請求項9記載の包接方法。
【請求項12】
ゲスト分子に対し包接能を有するホスト分子を、使用する包接方法において、
前記ゲスト分子は、有機化合物であり、
前記包接能は、pHにより制御され、
前記ホスト分子は、化学式(化4)で表される化合物のいずれか1種、または2種以上の混合物からなる
【化4】

ことを特徴とする包接方法。
【請求項13】
ゲスト分子は、コレステロール、ベヘン酸、ベヘン酸メチル、cis-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸の群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の混合物からなる
ことを特徴とする請求項12記載の包接方法。
【請求項14】
ホスト分子は、pHが4.8以上14以下の範囲において包接能を有する
ことを特徴とする請求項12記載の包接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−302727(P2007−302727A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129872(P2006−129872)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】