説明

化合物の滅菌方法

【課題】
放射線に対して不安定な化合物において、放射線滅菌により該化合物の変性などによる機能低下を抑制し、かつ有害な副生成物の発生が少なく凍結などの処理を必要とせず、かつ乾燥による化合物の変性が少ない滅菌方法を提供する。
【解決手段】
放射線に対して不安定な化合物を有機溶媒に溶解および/または分散させた状態で放射線を照射することを特徴とする化合物の滅菌方法であり、有機溶媒は、少なくとも一つに2級または3級の水酸基を含有し水分率が20%以下であること好ましく、化合物はアミノ酸を構成要素とするものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、医療、プロテオーム解析および食品製造などの分野で好適に用いられる化合物の滅菌技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品や医療器具が医療の現場で使用されるとき、それらは滅菌された状態でなければならない。すなわち、医薬品や医療器具を生産するとき最終的に滅菌する必要がある。日本薬局方において、医薬品や医療用具の最終滅菌方法として加熱法、ガス法および照射法が示されている。
【0003】
照射法は、大きく分けて放射線法と高周波法がある。それらのうち放射線法は、熱による滅菌対象物の変性も少なく、残留ガスによる毒性の問題も少ないので近年広く用いられている滅菌方法である。照射線には高エネルギー放射線が用いられ、なかでもγ線が標準的に用いられる。γ線のエネルギーが物質に吸収されると、物質の分子は電離したり、励起状態になる。そして解離反応を起こし、その結果として、非常に反応性に富んだラジカルが生成され、通常の分子と次々と反応を起こす。この一連の反応が、微生物の生命を維持するのに最も重要な核酸で発生すると、核酸分子が切断され、直接的に微生物を死滅させる。
【0004】
しかしながら、γ線照射により発生したラジカルは微生物だけでなく、医薬品や医療材料を構成する分子とも反応し、その機能や物理特性を劣化させることがある。また近年、基材表面に、化学的または生化学的修飾を行い、特異的な吸着、反応性や生体適合性を付与することが行われるが、これらにより得られた表面特性は、γ線照射により、それら機能が低下することが問題となっている。
【0005】
かかる問題に対して、基材にピロ亜硫酸ナトリウムやアスコルビン酸などの抗酸化剤を含浸させた状態で放射線滅菌する方法(特許文献1参照)や、凍結した状態で放射線滅菌する方法(特許文献2参照)や、残留溶媒量を低下させた状態で放射線滅菌する方法(特許文献3参照)が提案されている。
【0006】
上記の抗酸化剤を基材に含浸させる方法では、抗酸化剤が放射線照射により変性し有害な物質になることが問題となっている。例えば、ピロ亜硫酸ナトリウムを用いると亜硫酸や二酸化硫黄などの有害物質が発生するので、医薬品や医療機器の最終滅菌に用いるのは好ましくない。また、抗酸化剤の原材料費以外にも抗酸化剤を添加するプロセスが増えたり、それに伴う設備が必要となるためコスト的にも不利である。
【0007】
また、凍結した状態で放射線照射する方法は、生理活性を有する化合物などを凍結した場合、生理活性を失ってしまうという大きな問題がある。また、凍結させるために必要な設備やそれに必要な電力、そして凍結状態での輸送などコスト増加が問題となる。
【0008】
また、残留溶媒を低下させた状態で放射線滅菌する方法は、すなわち水分率を2%以下にするということであり、湿潤状態に保つ必要のある化合物に対しては用いることはできない。例えば、血液透析膜などは材料の微多孔構造に依存しており、乾燥によりこれら構造が変化して当初計画した性能が得られないという問題がある。
【特許文献1】特許第3432240号公報
【特許文献2】米国特許4620908号公報
【特許文献3】特表2003−527210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、放射線に対して不安定な化合物において、放射線滅菌により該化合物の変性などによる機能低下を抑制し、かつ有害な副生成物の発生が少なく凍結などの処理を必要とせず、かつ乾燥による化合物の変性が少ない化合物の滅菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の化合物の滅菌方法は以下の構成を有するものである。
(1)放射線に対して不安定な化合物を有機溶媒に溶解および/または分散させた状態で放射線を照射することを特徴とする化合物の滅菌方法。
(2)有機溶媒が水酸基を含有することを特徴とする前記(1)に記載の化合物の滅菌方法。
(3)水酸基が少なくとも一つ2級または3級の水酸基であること特徴とする前記(2)に記載の化合物の滅菌方法
(4)有機溶媒の水分率が20%以下であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物の滅菌方法。
(5)放射線に対して不安定な化合物がアミノ酸を構成要素とするものであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の化合物の滅菌方法。
(6)放射線に対して不安定な化合物が血液抗凝固活性を有することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の化合物の滅菌方法。
(7)放射線に対して不安定な化合物が抗トロンビン活性を有することを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の化合物の滅菌方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放射線に対して不安定な化合物を放射線滅菌する際に、該化合物を有機溶媒に溶解および/または分散することにより、該化合物の変性などによる機能低下を防ぎ、かつ有害な副生成物の発生が少なく凍結などの処理を必要とせず、かつ乾燥による化合物の変性が少ない滅菌を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の化合物の滅菌方法は、放射線に対して不安定な化合物を有機溶媒に溶解および/または分散させた状態で放射線を照射することを特徴とするものである。
【0013】
本発明で用いられる放射線とは、高エネルギーの粒子線および電磁波のことであり、例えば、α線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線および中性子線などが挙げられる。これらのうち、γ線、電子線およびX線が効率よく微生物を殺滅できるので滅菌に好適である。放射線の照射線量は5kGy以上であることが好ましく、10kGy以上がより好ましく、15kGy以上がさらに好ましい。ただし、過剰な放射線の照射は化合物を変性させるだけでなく、照射に要する時間も長くなり生産性が低下するので、5000kGy以下が好ましく、1000kGy以下がより好ましく、100kGy以下がさらに好ましい。
また、本発明で用いられる放射線に対して不安定な化合物とは、放射線が照射されたときに化合物中の少なくとも一部において化学結合の切断や生成、あるいは酸化反応などにより分子構造に変化を生じ、強度などの機械的特性、導電性などの電気的特性、屈折率などの光学特性、表面張力のような物理的機能および/または触媒活性や吸着特性などの化学的な機能および/または生体適合性や酵素活性や抗体活性などの生物的な機能が変化する化合物のことをさす。本発明で用いられる放射線に対して不安定な化合物の詳細については、後述する。
【0014】
放射線に対して不安定な化合物は、当該化合物を単独で滅菌しても良いし、医療材料などの基材と共に滅菌しても良い。このように、本発明では医療材料の滅菌も同時に行うことができるので生産工程数を減らすことができる。この場合、放射線に対して不安定な化合物を基材表面に化学的にグラフトすることも可能である。
本発明で好適に用いられる有機溶媒としては、分子中に炭素原子および/またはケイ素原子を含む溶媒が挙げられる。水酸基は、放射線照射により発生したラジカルを安定化する効果が高く、かつ非イオン性の官能基であり強い表面電荷を有する化合物との相互作用が小さく、かつ酸化還元力も小さく化合物の変性も少ないので、分子中に水酸基を有する有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1,4−ブタンジオールおよびポリエチレングリコールなどが好ましく用いられる。特に、2級および3級の水酸基は、ラジカルを安定化する効果がより高いので、少なくとも一つに2級または3級の水酸基を有する有機溶媒、例えば、グリセリンやプロピレングリコールやイソプロパノール、2−ブタノール、2,3−ブタンジオールおよび1,3−ブタンジオールなどが好ましく用いられる。
また、本発明の化合物の滅菌方法を医療用具に用いる際は、その安全性を考慮する必要があるため、非水溶媒は毒性の低いものが好適に用いられる。有機溶媒量の上限は特にはなく多い方が好ましいが、有機溶媒量が少ないと発生したラジカルの安定化を十分に行うことができないので、有機溶媒量は全溶媒量の0.5%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上であり、更に好ましくは20%以上である。
本発明において、放射線に対して不安定な化合物が溶解するとは、その化合物が有機溶媒に溶けて均一混合物、すなわち溶液になることを指す。また、放射線に対して不安定な化合物が分散するとは、その化合物が有機溶媒中に散在することを指す。化合物の濃度については特に限定されるものではないが、化合物によっては濃度が濃すぎると化合物間で架橋反応が進行してゲル化などにより、化合物本来の物性が失われるおそれがあるので、化合物の濃度は50%以下が好ましく、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは20%以下である。
本発明における水分率とは、次式で定義されるものである。
(放射線に不安定な化合物および該化合物を溶解および/または分散している有機溶媒に含まれる水の重量)/(放射線に対して不安定な化合物および該化合物を溶解および/または分散している有機水溶媒の重量)×100
水分率測定は、第十四改正日本薬局方の水分測定法(カールフィッシャー法)で行うこととする。
水分率が高いと、放射線照射により活性が高いヒドロキシラジカルが発生し、周囲の化合物を変性させるおそれがあるので、水分率は20%以下であることが好ましく、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。また、放射線照射までの保管中に水分率が上がることを抑制するために、シリカゲルなどの乾燥剤を用いても良い。
【0015】
本発明において、アミノ酸を構成要素としている化合物とは、天然に存在するアミノ酸を含有する化合物のことであり、例えば、タンパク質やペプチドなどのアミノ酸だけから構成されるものや、糖タンパク質、アミノ酸錯体およびアミノアシルアデニル酸等のアミノ酸とアミノ酸以外のものから構成されるものも挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
血液抗凝固活性を有する化合物とは、血液に化合物を10μg/mlの濃度となるように加えたとき未添加の血液と比較してプロトロンビン時間が30%以上延長するような化合物を指す。プロトロンビン時間の測定は、次の文献に記載の方法で行うことができる。
金井正光ら、「臨床検査法提要 改訂第30版」、金原出版、1993年、pp.416−418
すなわち、3.2%クエン酸ナトリウム1容と血液の9容を混じて、分取したクエン酸血漿0.1mlを小試験管(内径8mm、長さ7.5cm)にとり、37℃恒温水槽に入れ約3分間加熱する。同温度に保温した組織トロンボプラスチン・カルシウム試薬0.2mlを加えると同時に秒時計を始動し軽く振とうし、傾斜させながらフィブリンが析出するまでの時間を測定する。
血液抗凝固活性を有する化合物としては、ヘパリン、ナファモスタットメシレート、クエン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、αアンチトリプシン、αマクログロブリン、C1インヒビタ、トロンボモジュリンおよびプロテインC等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。血液抗凝固活性を有する化合物の中で、トロンビンの活性を抑制することで強力な血液抗凝固作用を示す化合物がある。
本発明における抗トロンビン活性を有する化合物とは、血液中の凝固関連物質であるトロンビンの活性を抑制する化合物のことであり、化合物を10μg/mlの濃度で加えた血漿のHEAMOSYS社「ECA−T kit」における測定値が、化合物未添加血漿のものと比較して50%以上増加するような化合物を指す。抗トロンビン活性を有する化合物の例として、下記の化学式で示される
4−methoxy−benzenesulfonyl−Asn(PEG2000−Ome)−Pro−4amidinobenzylamide(以下、化合物Aと略す。)、アンチトロンビンIII、およびヒルジンなどが挙げられる。
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、PEGはポリエチレングリコール残基、Meはメチル基を表す。)
以下、実施例を挙げて本発明の化合物の滅菌方法について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
(抗トロンビン活性値の測定)
抗トロンビン活性値の測定には、試薬にHAEMOSYS社製のECA−Tキットを使用し、装置にTECO Medical Instruments Production社製のCOATRON M1(code 80 800 000)を使用した。ヒト血漿(コスモバイオ発売 Human Plasma 12271210, lot.16878)80μl、測定対象溶液を20μl加え攪拌した。この溶液をサンプル溶液とする。サンプル溶液は、測定の直前まで氷浴上で冷却しておく。ECA prothrombin buffer 100μl、サンプル溶液30μl、ECA−T substrate 25μlを混合し37℃の温度で60秒間インキュベートし、装置にセッティングした。ECA ecarin reagent 50μl加えて測定を行った。ブランクとして、測定対象溶液に超純水を用い調製したサンプルで測定を行った。
(水分率の測定)
平沼産業株式会社製AQ−7平沼微量水分測定装置を用い、電解液として平沼産業株式会社製ハイドラナールアクアライトRS、アクアライトCNを用い、装置付属の取扱説明書に従って測定を行った。
(実施例1)
超純水9.95mlとグリセリン(シグマアルドリッチ製 Code 12−1120−5)0.05mlを溶解してグリセリン水溶液を調製した。該グリセリン水溶液に
4−methoxy−benzenesulfonyl−Asn(PEG2000−Ome)−Pro−4amidinobenzylamide(化合物A)を溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aグリセリン水溶液を調製した。該化合物Aグリセリン水溶液の水分率測定を行った。水分率は99.4%であった。該化合物Aグリセリン水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aグリセリン水溶液および放射線照射後の化合物Aグリセリン水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、次式(1)から、抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は6.0%であった。
A=100×(B−D)/(C−D) 式(1)
上記の式(1)中の記号の定義は次のとおりである。
・A:抗トロンビン活性残存率(%)
・B:放射線照射後のサンプル測定値(sec.)
・C:放射線照射前のサンプル測定値(sec.)
・D:ブランク測定値(sec.)。
(実施例2)
超純水8mlとグリセリン(シグマアルドリッチ製 Code 12−1120−5)2mlを溶解してグリセリン水溶液を調製した。該グリセリン水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aグリセリン水溶液を調製した。該化合物Aグリセリン水溶液の水分率測定を行った。水分率は81.2%であった。該化合物Aグリセリン水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aグリセリン水溶液および放射線照射後の化合物Aグリセリン水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は47.6%であった。
(実施例3)
超純水1mlとグリセリン(シグマアルドリッチ製 Code 12−1120−5)9mlを溶解してグリセリン水溶液を調製した。該グリセリン水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aグリセリン水溶液を調製した。該化合物Aグリセリン水溶液の水分率測定を行った。水分率は9.9%であった。該化合物Aグリセリン水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aグリセリン水溶液および放射線照射後の化合物Aグリセリン水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から、抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は73.6%であった。
(実施例4)
超純水0.1mlとグリセリン(シグマアルドリッチ製 Code 12−1120−5)9.9mlを溶解してグリセリン水溶液を調製した。該グリセリン水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aグリセリン水溶液を調製した。該化合物Aグリセリン水溶液の水分率測定を行った。水分率は1.9%であった。該化合物Aグリセリン水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aグリセリン水溶液および放射線照射後の化合物Aグリセリン水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は84.0%であった。
(実施例5)
超純水9.95mlとプロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製 Code 164−04996)0.05mlを溶解してプロピレングリコール水溶液を調製した。該プロピレングリコール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aプロピレングリコール水溶液を調製した。該化合物Aプロピレングリコール水溶液の水分率測定を行った。水分率は99.5%であった。該化合物Aプロピレングリコール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aプロピレングリコール水溶液および放射線照射後の化合物Aプロピレングリコール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は12.2%であった。
(実施例6)
超純水8mlとプロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製 Code 164−04996)2mlを溶解してプロピレングリコール水溶液を調製した。該プロピレングリコール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aプロピレングリコール水溶液を調製した。該化合物Aプロピレングリコール水溶液の水分率測定を行った。水分率は81.7%であった。該化合物Aプロピレングリコール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aプロピレングリコール水溶液および放射線照射後の化合物Aプロピレングリコール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は40.6%であった。
(実施例7)
超純水1mlとプロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製 Code 164−04996)9mlを溶解してプロピレングリコール水溶液を調製した。該プロピレングリコール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aプロピレングリコール水溶液を調製した。該化合物Aプロピレングリコール水溶液の水分率測定を行った。水分率は10.1%であった。該化合物Aプロピレングリコール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aプロピレングリコール水溶液および放射線照射後の化合物Aプロピレングリコール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は69.5%であった。
(実施例8)
超純水0.1mlとプロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製 Code 164−04996)9.9mlを溶解してプロピレングリコール水溶液を調製した。該プロピレングリコール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aプロピレングリコール水溶液を調製した。該化合物Aプロピレングリコール水溶液の水分率測定を行った。水分率は1.4%であった。該化合物Aプロピレングリコール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aプロピレングリコール水溶液および放射線照射後の化合物Aプロピレングリコール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は78.0%であった。
(実施例9)
超純水9.95mlとエチレングリコール(シグマアルドリッチ製 Code 324558)0.05mlを溶解してエチレングリコール水溶液を調製した。該エチレングリコール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aエチレングリコール水溶液を調製した。該化合物Aエチレングリコール水溶液の水分率測定を行った。水分率は99.6%であった。該化合物Aエチレングリコール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aエチレングリコール水溶液および放射線照射後の化合物Aエチレングリコール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は1.6%であった。
(実施例10)
超純水8mlとエチレングリコール(シグマアルドリッチ製 Code 324558)2mlを溶解してエチレングリコール水溶液を調製した。該エチレングリコール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aエチレングリコール水溶液を調製した。該化合物Aエチレングリコール水溶液の水分率測定を行った。水分率は79.9%であった。該化合物Aエチレングリコール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aエチレングリコール水溶液および放射線照射後の化合物Aエチレングリコール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は9.7%であった。
(実施例11)
超純水1mlとエチレングリコール(シグマアルドリッチ製 Code 324558)9mlを溶解してエチレングリコール水溶液を調製した。該エチレングリコール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aエチレングリコール水溶液を調製した。該化合物Aエチレングリコール水溶液の水分率測定を行った。水分率は10.1%であった。該化合物Aエチレングリコール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aエチレングリコール水溶液および放射線照射後の化合物Aエチレングリコール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は20.2%であった。
(実施例12)
超純水0.1mlとエチレングリコール(シグマアルドリッチ製 Code 324558)9.9mlを溶解してエチレングリコール水溶液を調製した。該エチレングリコール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aエチレングリコール水溶液を調製した。該化合物Aエチレングリコール水溶液の水分率測定を行った。水分率は1.1%であった。該化合物Aエチレングリコール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aエチレングリコール水溶液および放射線照射後の化合物Aエチレングリコール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は37.8%であった。
(実施例13)
超純水9.95mlとポリエチレングリコール(ナカライテスク製 ポリエチレングリコール#200Code 282−13)0.05mlを溶解してポリエチレングリコール水溶液を調製した。該ポリエチレングリコール水溶液に化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aポリエチレングリコール水溶液を調製した。該化合物Aポリエチレングリコール水溶液の水分率測定を行った。水分率は99.5%であった。該化合物Aポリエチレングリコール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aポリエチレングリコール水溶液および放射線照射後の化合物Aポリエチレングリコール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は2.9%であった。
(実施例14)
超純水8mlとポリエチレングリコール(ナカライテスク製 ポリエチレングリコール#200Code 282−13)2mlを溶解してポリエチレングリコール水溶液を調製した。該ポリエチレングリコール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aポリエチレングリコール水溶液を調製した。該化合物Aポリエチレングリコール水溶液の水分率測定を行った。水分率は80.8%であった。該化合物Aポリエチレングリコール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aポリエチレングリコール水溶液および放射線照射後の化合物Aポリエチレングリコール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は5.6%であった。
(実施例15)
超純水1mlとポリエチレングリコール(ナカライテスク製 ポリエチレングリコール#200Code 282−13)9mlを溶解してポリエチレングリコール水溶液を調製した。該ポリエチレングリコール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aポリエチレングリコール水溶液を調製した。該化合物Aポリエチレングリコール水溶液の水分率測定を行った。水分率は10.4%であった。該化合物Aポリエチレングリコール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aポリエチレングリコール水溶液および放射線照射後の化合物Aポリエチレングリコール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は9.4%であった。
(実施例16)
超純水0.01mlとポリエチレングリコール(ナカライテスク製 ポリエチレングリコール#200Code 282−13)9.9mlを溶解してポリエチレングリコール水溶液を調製した。該ポリエチレングリコール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aポリエチレングリコール水溶液を調製した。該化合物Aポリエチレングリコール水溶液の水分率測定を行った。水分率は1.1%であった。該化合物Aポリエチレングリコール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aポリエチレングリコール水溶液および放射線照射後の化合物Aポリエチレングリコール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は38.5%であった。
(実施例17)
超純水9.95mlとイソプロパノール(シグマアルドリッチジャパン(株)製 Code 15−2320−5)0.05mlを溶解してイソプロパノール水溶液を調製した。該イソプロパノール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aイソプロパノール水溶液を調製した。該化合物Aイソプロパノール水溶液の水分率測定を行った。水分率は99.5%であった。該化合物Aイソプロパノール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aイソプロパノール水溶液および放射線照射後の化合物Aイソプロパノール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は13.3%であった。
(実施例18)
超純水8mlとイソプロパノール(シグマアルドリッチジャパン(株)製 Code 15−2320−5)2mlを溶解してイソプロパノール水溶液を調製した。該イソプロパノール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aイソプロパノール水溶液を調製した。該化合物Aイソプロパノール水溶液の水分率測定を行った。水分率は81.7%であった。該化合物Aイソプロパノール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aイソプロパノール水溶液および放射線照射後の化合物Aイソプロパノール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は42.1%であった。
(実施例19)
超純水1mlとイソプロパノール(シグマアルドリッチジャパン(株)製 Code 15−2320−5)9mlを溶解してイソプロパノール水溶液を調製した。該イソプロパノール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aイソプロパノール水溶液を調製した。該化合物Aイソプロパノール水溶液の水分率測定を行った。水分率は10.1%であった。該化合物Aイソプロパノール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aイソプロパノール水溶液および放射線照射後の化合物Aイソプロパノール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は68.8%であった。
(実施例20)
超純水0.1mlとイソプロパノール(シグマアルドリッチジャパン(株)製 Code 15−2320−5)9.9mlを溶解してイソプロパノール水溶液を調製した。該イソプロパノール水溶液に実施例1で用いた化合物Aを溶解して濃度5000重量ppmの化合物Aイソプロパノール水溶液を調製した。該化合物Aイソプロパノール水溶液の水分率測定を行った。水分率は1.4%であった。該化合物Aイソプロパノール水溶液にγ線照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の化合物Aイソプロパノール水溶液および放射線照射後の化合物Aイソプロパノール水溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は79.8%であった。
(比較例1)
実施例1で用いた化合物Aを超純水溶解して濃度5000重量ppmの化合物A水溶液を調製した。該水溶液にγ線を照射した。このときγ線の吸収線量は26kGyであった。放射線照射前の溶液および放射線照射後の溶液の抗トロンビン活性値を測定し、上記の式(1)から抗トロンビン活性値の残存率を計算した。その結果、抗トロンビン残存率は0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、放射線に対して不安定な血液抗凝固活性を有する化合物を、その活性を維持しつつ放射線滅菌する方法であり、抗酸化剤を用いることなく滅菌が可能で有害な抗酸化剤分解物のリスクを減らすことが期待できる。このように、本発明によれば、種々の放射線に対して不安定な生理活性物質を変性を抑制しつつ滅菌することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線に対して不安定な化合物を有機溶媒に溶解および/または分散させた状態で放射線を照射することを特徴とする化合物の滅菌方法。
【請求項2】
有機溶媒が水酸基を含有することを特徴とする請求項1記載の化合物の滅菌方法。
【請求項3】
水酸基の少なくとも一つが2級または3級の水酸基であること特徴とする請求項2記載の化合物の滅菌方法。
【請求項4】
有機溶媒の水分率が20%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の化合物の滅菌方法。
【請求項5】
放射線に対して不安定な化合物がアミノ酸を構成要素とするものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の化合物の滅菌方法。
【請求項6】
放射線に対して不安定な化合物が血液抗凝固活性を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の化合物の滅菌方法。
【請求項7】
放射線に対して不安定な化合物が抗トロンビン活性を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の化合物の滅菌方法。

【公開番号】特開2006−289071(P2006−289071A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74030(P2006−74030)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】