説明

化合物の製造方法

【課題】経時変化の少ない長寿命な有機EL素子を提供するための有機化合物を合成する際、工程内のアルキル化において、塩素が含まれないターシャリブチル基を有するピレン誘導体の製造方法の提供。
【解決手段】アルキル化反応の際には塩素化合物ではなく、例えば下記式の様にターシャリブチルブロミド、および臭化アルミニウムを用いて合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物にアルキル基を導入する手段として、フリーデルクラフツ反応(非特許文献1)が、収率が高いなどの点から優れているとして、知られている。フリーデルクラフツ反応は、触媒として固体である塩化アルミニウム、塩化鉄などの塩化物、アルキル化剤として塩化アルキルを用いるのが一般的である。
【0003】
更に溶媒を用いない無溶媒反応、若しくは触媒が可溶という利点から、二硫化炭素、ジクロロメタンなどを溶媒として用いるのが一般的である(特許文献1,非特許文献2)。特に、特許文献2では、ペリレン、デカシクレン、フルオランテンなどの縮合多環芳香族化合物を母骨格とした、有機EL素子用の蛍光性発光材料の合成工程において、フリーデルクラフツ反応を用いたアルキル化反応について言及している。
【0004】
特許文献2では、特に触媒の限定はなされていないが、例として塩化アルミニウム、アルキル化剤としてtert−ブチルクロリドを過剰量用いることにより、アルキル化反応を行っている。
【0005】
しかしながら、前記試薬を用いたアルキル化反応の工程を含んだ製造方法により製造された有機EL用材料を用いた素子では、必ずしも長寿命な素子が得られておらず、更なる改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−325097号公報
【特許文献2】特開平9−241629号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】新実験化学講座14−I,62(昭和52年)丸善
【非特許文献2】L.A.Carpino et.al.J.Org.Chem.,1989,54,4302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アルキル化の際に塩素が含まれないターシャリブチル基(以下、tert−ブチル基)を有するピレン環を有する有機化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
よって本発明は、
下記一般式(1)で示される化合物と
Ar−X (1)
下記一般式(2)で示される臭化アルキルとを
R−B (2)
臭化アルミニウムを触媒として、アルキル化反応を行うことで下記一般式(3)で示される中間体aである化合物を合成し、
R−Ar−X (3)
更に上記一般一般式(3)で示される化合物から下記一般式(4)で示される中間体bである化合物を合成し、
R−Ar−X (4)
そして、上記一般式(4)で示される化合物から下記一般式(5)で示される化合物を合成することを特徴とする化合物の製造方法を提供する。
R−Ar−Ar (5)
(式中、Arは置換または無置換のピレン環を示し、Xは水素原子またはハロゲン原子を示す。Arは置換または無置換のフェニル基、置換または無置換の縮合多環芳香族基を示し、また、Xは、ボロン酸基、ボロン酸エステル基を示す。Rはtert−ブチル基を示す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によればアルキル化の際に塩素が含まれないtert−ブチル基を有するピレン環を有する有機化合物が製造できる。従ってそのようにして得られた化合物を、有機EL素子に用いることで、長時間駆動した際の発光輝度の減衰が少ない、長寿命な素子を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の製造方法によって得られる化合物は以下の一般式で示される。
R−Ar−Ar (5)
式中、Arは置換または無置換のピレン環を示し、Xは水素原子またはハロゲン原子を示す。Arは置換または無置換のフェニル基、置換または無置換の縮合多環芳香族基を示し、また、Xは、ボロン酸基、ボロン酸エステル基を示す。Rはtert−ブチル基を示す。
【0012】
具体的にはRはtert−ブチル基であり、Arはピレン環を示す。Arはナフタレン環である。
【0013】
この一般式(5)で示される化合物を合成する際、一般式(5)で示される化合物の出発物質として以下の一般式(4)で示される化合物を予め合成する。この一般式(4)で示される化合物を中間体bとする。
R−Ar−X (4)
一般式(4)中Xは、ボロン酸基またはボロン酸エステル基である。この中間体bは中間体aから合成される。中間体aは以下の一般式(3)で示される。
R−Ar−X (3)
一般式(3)中Xは、水素原子またはハロゲン原子である。また、この中間体aは一般式(1)で示される化合物をアルキル化させることにより得られる。
Ar−X (1)
即ち一般式(1)の化合物から一般式(5)で示される化合物を合成する反応経路は以下のように示せる。
【0014】
【数1】

【0015】
本発明に係る化合物の製造方法は、一般式(1)の化合物から一般式(3)である中間体aを得るアルキル化反応において以下の条件を全て満たさなくてはならない。
・一般式(1)で示される化合物と反応する化合物としては、臭素を有する化合物を用いるのはよいが塩素を有する化合物は用いてはいけない。
・触媒としては、臭素を有する化合物を用いるのはよいが塩素を有する化合物は用いてはいけない。
・溶媒を用いないか、あるいは用いるとしても非ハロゲン溶媒を用いる。
【0016】
即ちこのアルキル化反応において、ハロゲンのうちの臭素は存在しても良いが、塩素は反応の環境下に存在しないことが重要である。
【0017】
そのため本発明に係る化合物の製造方法において、一般式(5)で示される化合物を合成する第一段階である中間体aの合成、つまり、アルキル化反応においては、上記工夫をより具体的に示す次の3点が必要な条件である。
・一般式(1)で示される化合物と反応させる化合物として臭化アルキルを用いる。
・触媒には臭化アルミニウムを用いる。
・溶媒を用いないか、あるいは用いるとしても非ハロゲン溶媒を用いる。
上記条件を用いたアルキル化反応では、中間体aに類似の塩素付加された副生成物(以後、塩素付加体)が生じない。
【0018】
この中間体a類似の塩素付加体は、中間体aと構造が類似していることから、反応後、一般的な精製によって両者を分離することが非常に難しい。本発明ではこのような中間体a類似の塩素付加体が生じる余地を根本から絶つことに注目した。
【0019】
このように中間体a類似の塩素付加体が無い中間体aから合成される一般式(5)で示される化合物を有した有機EL素子は、長時間駆動させても発光輝度の減衰が少ない、長寿命な有機EL素子を提供することが可能となった。また臭化アルキルや臭化アルミニウムを用いると、一般式(5)で示される化合物に臭素さえも含まれないことが予期せぬ効果として判明した。
【0020】
なお本発明に係わる製造法により合成された中間体aは、アルキル化反応の後に公知の精製方法によって精製されている。公知の精製方法とは例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィー法及び再結晶法である。
【0021】
得られた中間体aに塩素が含有していないということは、中間体aに含まれる塩素の濃度を測定することで確認することが出来る。得られた中間体aにおいて塩素が含まれないということは、塩素が1.0ppm以下で且つ検出装置の検出限界までおよぶ範囲である。なおこのアルキル化反応において塩素を登場させなければこのアルキル化反応の後に続く反応において塩素を含む化合物を用いても良い。
【0022】
本明細書中に示す非ハロゲン溶媒とは、ハロゲン原子が溶媒である有機化合物の構成要素ではないものであり、脂肪族である溶媒と芳香族である溶媒の何れを用いても良い。溶媒のアルキル化副反応が起きない点から、脂肪族溶媒を用いることがより好ましい。なお溶媒を用いない場合も、溶媒を用いる場合も不純物としてハロゲンが混入していないことは言うまでも無い。さらに、本明細書中に示すハロゲンとは塩素、臭素、ヨウ素、のいずれかである。
【0023】
以上説明したアルキル化反応に関して更に説明を続ける。
【0024】
一般式(1)の化合物から一般式(3)で示される化合物、即ち中間体aを得る場合の反応式の例を以下に示す。
【0025】
【数2】

【0026】
このように中間体aは一般式(1)からアルキル化されて得られる。なお、一例として以下の2つの反応式を具体例として示す。(具体例1:X=Hの場合)
【0027】
【数3】

【0028】
(具体例2:X=Brの場合)
【0029】
【数4】

【0030】
ここまでは、即ちこのアルキル化反応までは塩素を用いていない。
【0031】
次に中間体aから中間体bを合成する経路を示す。合成経路の具体例を以下に示す。ここでは式に示すように塩素を有する化合物を用いても良い。
【0032】
【数5】

【0033】
次に、中間体bから最終生成物である一般式(5)に示される化合物を合成する経路について説明する。合成経路の具体例を以下に示す。
【0034】
最終生成物である一般式(5)で示される化合物は、中間体bと中間体cとをカップリングさせることで得ることが出来る。
【0035】
【数6】

【0036】
反応式(vi)中Xは、ハロゲン原子、トリフラート基を示す。
【0037】
なお本発明に係る製造方法ではないが参考として以下のことを示す。
即ち上記反応式(vi)したカップリング反応は、反応部位であるXとXが逆に付加している一般式(6)で示される中間体dと、一般式(7)で示される中間体eを用いても可能である。
R−Ar−X (6)
Ar−X (7)
【0038】
また本発明に係る製造方法ではないが参考として以下のことを示す。
即ち上記のようなアルキル化反応を利用すれば様々な化合物を製造することが出来る。そのような化合物を表現する際に、例えば本発明の一般式(5)を利用するならば、R、Ar、Arは以下を挙げることが出来る。
Rとしてはiso−プロピル基等を挙げることができる。
Arとしてはフルオレン環、ペリレン環、フルオランテン環、クリセン環、アントラセン環等を挙げることができる。
更に、Arとしてはベンゼン環、フェナンスレン環、フルオランテン環、ピレン環、クリセン環、ペリレン環、フルオレン環、アントラセン環等を挙げることができる。
【0039】
この場合Arはこれらに更に別の置換基が設けられていても良い。例えばArがナフタレン環である場合、このナフタレン環にはフルオレン環が結合していても良い。この場合ナフタレン環がArと結合する。
【0040】
ここから本発明の説明に戻る。
【0041】
有機EL素子は陽極と陰極とそれらの間に配置される有機化合物層とから少なくとも構成される。有機EL素子は陽極と陰極の間に電荷が供給されることにより有機化合物層を構成するあるいは有機化合物層に含まれる有機化合物が発光する。有機EL素子は発光するのでこの有機化合物層が発光層や発光領域に対応する。
【0042】
有機EL素子はこの有機化合物層以外に他の層を有していてもよい。他の層とは無機化合物層であったり、有機化合物層でもよい。
【0043】
この他の層とは例えば正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロッキング層、ホールブロッキング層、電子輸送層、電子注入層等である。これら他の層は適宜陽極と陰極の間に配置されればよい。
【0044】
陽極と陰極は適宜好ましい材料によって形成されればよい。光を有機EL素子の外へ取り出す側に配置される電極はその光に対して半透過あるいは透過である。例えばITOが好ましい材料である。
【0045】
また有機EL素子内で光を反射させる必要がある場合は、反射性の高い材料が好ましく用いられる。例えば銀やアルミニウム等である。
【0046】
また有機EL素子内で光を反射させる必要があってもその反射側には半透過あるいは透過な材料の電極を設け、反射部材を別途設ける構成であっても良い。
【0047】
有機EL素子はいわゆるアクティブマトリクス型の駆動法によって駆動されても良いし、単純マトリクス型の駆動法によって駆動されても良い。アクティブマトリクス型の駆動法の場合、有機EL素子を駆動する駆動回路はTFTやキャパシタ等から構成される。
【0048】
有機EL素子は発光点として複数集積されて用いることも出来る。例えば照明器具として用いることが出来る。そのほかにも発光点を画素として表示装置の表示部に用いることが出来る。このような表示装置はPCのディスプレイやテレビジョンや撮像装置に用いることが出来る。
【0049】
撮像装置とはデジタルビデオカメラやデジタルスチルカメラ等のことであり、撮像装置はファインダーと呼ばれる画像表示部を有している。この画像表示部に有機EL素子を有する表示部を用いることが出来る。
【0050】
また他にも種々の電気機器の操作パネル部等に有機EL素子を有する表示部が用いられる。
【0051】
他にもレーザープリンタや複写機等の電子写真方式の画像形成装置において感光体を露光するための光源として有機EL素子を用いることができる。これは感光体の長尺方向にそって複数の有機EL素子を並べた光源として用いることが出来る。
【0052】
このように有機EL素子は種々の装置に好ましく用いることができる。そのためにも長寿命な有機EL素子を提供することが必要で、本発明に係る化合物の製造方法で得られる化合物は好ましく用いることが出来る。
【0053】
以下に実施例を挙げて説明する。
【0054】
合成例1乃至10は、アルキル化反応工程において塩素を含有する化合物が存在しない例である。一方で比較合成例1乃至13は反応工程中に塩素を含有する化合物が存在する例である。
【0055】
以上の例から分かることは、塩素を含有する化合物をアルキル化反応を行う工程から排除すればアルキル化剤や触媒の量に関係なく、中間体aに副生成物である塩素付加体が生成されることを防ぐことが可能である。
【0056】
また、合成例1乃至10から溶媒を用いなくても高い収率で中間体aを得ることができ、更に、素子例1乃至10は合成例1乃至10の中間体aから得られた、一般式(5)で示される化合物を有する有機EL素子の相対輝度比を示している。また比較例として素子比較例1乃至13は、比較合成例1乃至13から得られた化合物を有する有機EL素子の相対輝度比を示している。
【0057】
何れも合成例および比較合成例においても臭素の検出は殆ど無い。一方で、素子比較例1乃至13で用いた化合物は塩素を含んでおり、有機EL素子の相対輝度比が低い。これに対して素子例1乃至10に記載の化合物を有する有機EL素子は相対輝度比が高く、長寿命化が達成できる。
【実施例】
【0058】
(アルキル化反応による中間体aの合成例)
<合成例1>
【0059】
【化1】

【0060】
反応容器内に1−ブロモピレン3.95g(0.0141mmol)、tert−ブチルブロミド138ml(1.23mol、87.8当量)を入れ、0℃で攪拌しているところに臭化アルミニウムを加え、0℃で30分間攪拌した。(転化率93.7%)次に、エタノール5.46ml(3.2eq vs.臭化アルミニウム)を加え、更にトリエチルアミン31.2ml(8eq vs.臭化アルミニウム)を加え、10分間攪拌した後、有機層を純粋で洗浄し、分取した。有機層を硫酸ナトリウムにて脱水したのち、濃縮した。得られた固体を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製、濃縮した。得た粉末をエタノール/ヘプタンの混合液で分散洗浄し、放冷後、ろ過により中間体aである1−ブロモ−7−tert−ブチルピレンを得た。収量2.97g(収率62.7%、純度98.7%)
【0061】
<合成例2>
tert−ブチルブロミドを1−ブロモピレンに対して当量比を表1に示すように変え、その他は合成例1と同様の方法で1−ブロモ−7−tert−ブチルピレンを得た。結果を表1に示す。
【0062】
<合成例3〜10、比較合成例1〜13>
tert−ブチルブロミドと溶媒(ヘキサン、ジクロロメタン、トルエン、1,2−ジクロロベンゼン)の1−ブロモピレンに対する当量比を表1に示すように変え、その他は合成例1と同様の方法で1−ブロモ−7−tert−ブチルピレンを得た。溶媒の当量比の記載がないものは、1−ブロモピレンに対し、質量の20倍量を用いて行った。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1中の「tBu」は、tert−ブチル基を示している。また、各試薬は1−ブロモピレンに対する当量比である。
【0065】
次に、本発明によるアルキル化反応工程により得られた1−ブロモ−7−tert−ブチルピレンを燃焼イオンクロマトグラフィー法により含有される塩素濃度を分析した。
【0066】
使用装置は、ダイアインスツルメンツ社製自動資料燃焼装置AQF−100とダイオネクス社製イオンクロマトグラフィー ICS−1500を組み合わせてシステム化した装置である。
【0067】
まず、内標イオンとして臭化ナトリウムを用いて臭素イオン、また、塩化ナトリウムを用いて塩素イオンの検量線を作成した。次に、実際の試料30mgを前記燃焼装置にて完全燃焼させ、濃度30ppmの過酸化水素水を超純水で希釈した吸収液に吸収させ、その溶液を前記イオンクロマトグラフィーにて分析、測定した。最後に、ブランクの塩素イオン濃度及び臭素イオン濃度を、実際の試料より測定した濃度から差し引くことにより、試料中に含有されるハロゲンイオン濃度の算出を行った。
【0068】
本発明によるアルキル化反応工程により得られた中間体a(1−ブロモ−7−tert−ブチルピレン)の含有塩素濃度は、1ppm以下であった。表1はその一部を示している。
【0069】
それに対し、比較合成例から得られる化合物の何れもが含有塩素濃度が1ppmを超えていた。なお比較合成例1乃至13は、高い転化率を示しているが、その含有塩素濃度は数ppm乃至数百ppm検出された。
【0070】
またアルキル化反応において溶媒を用いない場合、tert−ブチルブロミドの使用量が一般式(1)で示される化合物に対して、より具体的には1−ブロモピレンに対して50当量以上用いることが高い転化率で中間体aが得られるので好ましいことがわかった。
【0071】
(中間体bの合成例)
<合成例11>
【0072】
【化2】

【0073】
窒素気流下の反応容器内に合成例1で合成した中間体a(1−ブロモ−7−tert−ブチルピレン)1.00g(2.97mmol)[1,3−ビス(ジフェニルフォスフィノ)プロパン]−ジクロロニッケル0.321g(0.590mmol、0.2eq)、トルエン(脱水)30ml、トリエチルアミン1.23ml(8.90mmol、3eq)、4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボラン1.29ml(8.90mmol、3eq)を入れ、90℃にて6時間加熱攪拌した。次に、純水を加え攪拌した後、ろ過により固体物質を取り除き、有機層を分取した。有機層を硫酸ナトリウムにて脱水したのち濃縮し、粗結晶を得た。粗結晶を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製、濃縮し、エタノール/メタノールの混合液で分散洗浄後、ろ過により中間体bを得た。収量0.63g(収率54.9%)
なお合成例2乃至合成例10で合成した中間体aもそれぞれ用いて中間体bを合成した。
【0074】
また比較合成例1乃至比較合成例13で合成した塩素を含む中間体aもそれぞれ用いて中間体bを合成した。
【0075】
(中間体cの合成例)
<合成例12>
【0076】
【化3】

【0077】
反応容器内に、6−ブロモ−2−ナフトール3.17g(14.2mmol)、2−(9,9−ジメチル−9H−フルオレン−2−イル)−4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボラン5.00g(15.6mmol)、エタノール96.0ml、炭酸ナトリウム6.78g(21.3mmol)、純水48.0ml、Pd(PPhCl 30mg(14.2×10−3mmol)を入、4時間加熱還流した。冷却後、純水を投入し、ろ過し粗結晶を得た。得られた、粗結晶を、純水、ヘプタンによる洗浄を行うことで、フルオレニルナフトールを得た。収量3.94g(収率82.5%)次に、反応容器内に、フルオレニルナフトール10.5g(31.2mmol)、ピリジン100mlを入れ、氷浴下、トリフルオロメタンスルホン酸無水物15.5ml(93.6mmol)を滴下した。その後、3時間攪拌し、反応液を氷水中に投入し、ろ過を行った。得られた、粗結晶を、メタノールで洗浄し、中間体cを得た。収量6.99g(収率64.7%)
【0078】
<合成例13 最終生成物である一般式(5)の一例である化合物Aの合成例>
【0079】
【化4】

【0080】
反応容器内に、合成例11で得られた中間体b 7.63g(19.8mmol)、中間体c 8.45g(18.0mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム0.63g(0.54mmol)、炭酸ナトリウム3.82g(36.1mmol)、トルエン126.8ml、エタノール25.4ml、純水25.4mlを入れ、1時間還流攪拌を行った。その後、冷却し、エタノールを加え、ろ過し、粗結晶を得た。得られた粗結晶を、純水で洗浄し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することで、目的の化合物Aを得た。収量6.16g(収率72.8%)さらに、得られた化合物Aを昇華により精製した。
【0081】
NMR測定により構造を確認した。ピークの帰属を以下に示す。
H−NMR(500MHz,CDCl):δ(ppm)=8.25−8.21(m,5H),8.12−8.10(m,4H),8.07−8.01(m,3H),
7.91(dd,1H),7.87(D,1H),7.84−7.76(m,4H),7.48(D,1H),7.40−7.33(m,2H),1.60(S,6H)1.59(S,9H)
なお合成例2乃至合成例10で合成した中間体aから合成される中間体bを用いても化合物Aを合成した。
【0082】
また比較合成例1乃至比較合成例13で合成した塩素を含む中間体aから合成される中間体bを用いても化合物Aを合成した。
【0083】
(実施例)
本発明に係わる製造方法の一例は、上記のアルキル化反応による中間体aの合成例と、中間体bの合成例と、最終生成物である一般式(5)の一例である化合物Aの合成例とから構成される。
【0084】
<素子製造例>
<素子例1〜10及び素子比較例1〜13>
ガラス基板上に、スパッタ法により酸化錫インジウム(ITO)を成膜して陽極を形成した。このとき陽極の膜厚を120nmとした。次に、この陽極付基板をアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いで純水で洗浄後乾燥した。次に、UV/オゾン洗浄したものを透明導電性支持基板として使用した。
【0085】
次に、正孔注入材料として下記に示される化合物B−1とクロロホルムとを混合し、濃度0.1重量%のクロロホルム溶液を調製した。
【0086】
【化5】

【0087】
このクロロホルム溶液を陽極上に滴下し、最初に回転数500rpmで10秒、次に回転数1000rpmで40秒スピンコートを行うことで、膜形成を行った。この後80℃の真空オーブンで10分間乾燥し、薄膜中の溶剤を完全に除去することにより正孔注入層を成膜した。このとき正孔注入層の膜厚は15nmであった。
【0088】
次に、正孔注入層上に、真空蒸着法により下記に示される化合物B−2を成膜し、正孔輸送層を形成した。このとき正孔輸送層の膜厚を15nmとした。
【0089】
【化6】

【0090】
次に、正孔輸送層上に、真空蒸着法によりゲスト(発光材料)である下記に示される化合物B−3と、ホストである化合物Aとを、重量比が5:95となるように共蒸着して発光層を形成した。このとき発光層の膜厚を30nm、蒸着時の真空度を1.0×10−4Pa、成膜速度を0.1nm/sec以上0.2nm/sec以下の条件で成膜を行った。
【0091】
【化7】

【0092】
次に、発光層上に真空蒸着法によりハロゲン置換体を含有していない2,9−ビス[2−(9,9‘−ジメチルフルオレニル)]−1,10−フェナントロリンを成膜し、電子輸送層を形成した。このとき電子輸送層の膜厚を30nm、蒸着時の真空度を1.0×10−4Pa、成膜速度を0.1nm/sec乃至0.2nm/secの条件で成膜を行った。
【0093】
次に、電子輸送層上に、真空蒸着法によりフッ化リチウム(LiF)を成膜し、電子注入層を形成した。このとき電子注入層の膜厚を0.5nm、蒸着時の真空度を1.0×10−4Pa、成膜速度を0.01nm/secの条件で成膜を行った。次に、真空蒸着法によりアルミニウム膜を形成し陰極を形成した。このとき陰極の膜厚を150nm、蒸着時の真空度を1.0×10−4Pa、成膜速度を0.5nm/sec乃至1.0nm/secの条件で成膜を行った。
【0094】
次に、水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、アクリル樹脂系接着材で封止した。以上のようにして有機EL素子を得た。
【0095】
以下に、有機EL材料である化合物Aの製造過程におけるアルキル化工程の違いによる含有ハロゲン濃度および素子特性への影響を表2として示す。ハロゲン濃度は、前記燃焼イオンクロマトグラフィー法にて測定した。
【0096】
表中の素子例の番号は、合成例の番号と一致する。つまり各合成例から得られた中間体aごとに化合物Aを合成した。そしてそれぞれの化合物Aを用いて有機EL素子を作成した。それらの有機EL素子に対して素子例の番号が割り当てられている。
【0097】
【表2】

【0098】
ここでL/Lとは、作製した有機EL素子を定電流連続駆動(100mA/cm)させたときの輝度をフォトダイオードにより検出し、100時間後の初期輝度に対する相対輝度比を表した数値である。従って、数値が1.0に近いほど劣化の度合いが小さく、素子として長寿命であるといえる。
【0099】
本発明に係るアルキル化工程により合成された化合物Aは、含有塩素濃度は1ppm以下であった。この化合物Aを用いた有機EL素子は、従来のアルキル化工程による有機EL素子に比べ、劣化しにくいことを示している。化合物A内の含有塩素濃度とそれを用いた有機EL素子の相対輝度比には相関が見られた。より具体的には含有塩素濃度の減少に応じて、相対輝度比は向上し、つまり、ハロゲン付加体を副生しないアルキル化反応工程を用い、有機EL材料を製造することにより、有機EL素子の長寿命化に繋がった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物と
Ar−X (1)
下記一般式(2)で示される臭化アルキルとを
R−B (2)
臭化アルミニウムを触媒として、アルキル化反応を行うことで下記一般式(3)で示される中間体aである化合物を合成し、
R−Ar−X (3)
更に上記一般式(3)で示される化合物から下記一般式(4)で示される中間体bである化合物を合成し、
R−Ar−X (4)
そして、上記一般式(4)で示される化合物から下記一般式(5)で示される化合物を合成することを特徴とする化合物の製造方法。
R−Ar−Ar (5)
(式中、Arは置換または無置換のピレン環を示し、Xは水素原子またはハロゲン原子を示す。Arは置換または無置換のフェニル基、置換または無置換の縮合多環芳香族基を示し、また、Xは、ボロン酸基、ボロン酸エステル基を示す。Rはターシャリブチル基を示す。)
【請求項2】
前記アルキル化反応は、前記一般式(1)で示される化合物と前記臭化アルキルと前記臭化アルミニウムのみが用いられること特徴とする請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
前記アルキル化反応は前記一般式(1)で示される化合物と前記臭化アルキルと前記臭化アルミニウムに加えて非ハロゲン溶媒が用いられることを特徴とする請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項4】
前記アルキル化反応において、前記臭化アルキルが、前記一般式(1)で示される化合物に対し50当量以上用いられることを特徴とする請求項2に記載の化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−150235(P2010−150235A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242636(P2009−242636)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】