説明

化学パルプの製造方法

【課題】製紙用化学パルプの、分子状塩素を用いないECFあるいはTCF漂白方法において、漂白コストを抑えながら、パルプ粘度を保持し、且つパルプ中の残HexA量を減少させパルプの褪色性を改善する方法を提供する。
【解決手段】蒸解処理−酸素脱リグニン処理後の製紙用化学パルプを、無塩素漂白処理により白色度70〜89%に漂白したパルプについて、モノ過硫酸処理をすることを特徴とする、製紙用化学パルプの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用化学パルプの処理に関し、さらに詳しくは、無塩素漂白した化学パルプの褪色性の改善に関する方法である。
【背景技術】
【0002】
製紙用化学パルプの漂白は多段にわたる漂白処理により実施されている。従来より、この多段漂白には漂白剤として塩素系漂白薬品が使用されている。具体的には、塩素(C)、次亜塩素酸塩(H)、二酸化塩素(D)の組み合わせにより、たとえば、C−E−H−D、C/D−E−H−E−D(C/Dは塩素と二酸化塩素の併用漂白段、Eはアルカリ抽出段)などのシーケンスによる漂白が行われてきた。
【0003】
しかし、これらの塩素系漂白薬品は漂白時に環境に有害な有機塩素化合物を副生し、この有機塩素化合物を含む漂白廃水の環境汚染が問題になっている。有機塩素化合物は一般にAOX法、たとえば米国環境庁(EPA;METHOD−9020号)によって分析、評価される。
【0004】
有機塩素化合物の副生を低減・防止するには、塩素系薬品の使用量を低減するか、ないしは使用しない事が最も効果的であり、特に初段に分子状塩素を使用しないことが最も有効な方法である。この方法で製造されたパルプはECF(エレメンタリークロリンフリー)パルプと呼ばれ、更に塩素系薬品を全く用いずに製造されたパルプはTCF(トータリークロリンフリー)と呼ばれている。
【0005】
蒸解−酸素脱リグニン処理したパルプを初段に分子状塩素を用いない漂白方法として、初段に二酸化塩素を用いた、D−Eo−D、D−Eop−D或いは、D−Eo−D−D、D−Eop−D−Dシークエンス、D−Eo−P−D、D−Eop−P−Dシークエンス(pまたはPは過酸化水素)また初段にオゾンを用いたZ−Eop−D、Z−Eo−P−D、Z/D−Eop−Dシークエンス(ZとDの間の/は間に洗浄を行うことなく処理を連続することを意味する)による漂白が一般に知られている。
【0006】
しかしながら、二酸化塩素、オゾンは従来用いられていた塩素と比べると、ヘキセンウロン酸(HexA)の除去能力が低いために、漂白後のパルプに多量のHexAが残存する。この残存HexAがECFあるいはTCF漂白パルプの褪色性悪化の原因となる。
【0007】
ヘキセンウロン酸とは、パルプ中に存在するヘミセルロースであるキシランに結合しているα−グルクロン酸が蒸解工程にて脱メタノールする事により生じる物質である。パルプの白色度への影響は小さいものの、分子内に二重結合を有するため、過マンガン酸カリと反応し、K価あるいはkappa価としてカウントされる。
【0008】
また、紙を製造する方法として、硫酸バンドを使用する酸性抄紙と炭酸カルシウムを使用する中性抄紙がある。中性紙もHexA含有量の増大とともに褪色性が悪化するがその程度は少なく、特に褪色性が悪化する紙は硫酸バンドを使用した酸性紙である。酸性抄紙した紙の褪色性が悪化する原因については、今のところ分かっていないが、HexAの存在、硫酸バンドの使用が原因の一因と考えられている。
【0009】
一般に製紙工場では一連の漂白設備からでてきた無塩素漂白パルプは多数の抄紙機によって、それぞれ中性紙、酸性紙を抄造している。従って、同一漂白工程からでてきた同じ無塩素漂白パルプを使用して、一方では酸性紙を抄造し、他方では中性紙を抄造している。この場合、中性抄紙で製造した紙の褪色性は問題なくても、酸性抄紙した紙の褪色性が問題となる場合がある。
【0010】
この褪色性悪化を改善する方法としては、脱HexA能力のある二酸化塩素あるいはオゾンの使用量を増やしHexAを除去する必要がある。しかし、この場合、褪色対策の必要のない中性紙用パルプも漂白せざるをえず、白色度の上がりすぎ、漂白コストが大幅に増大するとの問題を生じている。
【0011】
モノ過硫酸を漂白に適用する方法として、未晒パルプを塩素漂白または塩素及び二酸化塩素の組み合わせによる脱リグニン処理の代替として、モノ過硫酸、次いでアルカリ性過酸化水素処理するTCF漂白方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法は漂白工程の初段脱リグニンに関する方法であり、またHexA除去、褪色性の改善については何ら記載されていない。
【0012】
未晒パルプを塩素漂白または塩素及び二酸化塩素の組み合わせによる脱リグニン処理の代替として、酵素とモノ過硫酸の組み合わせによる漂白法に関する方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法は漂白工程の初段脱リグニンに関する方法であり、HexA除去、褪色性の改善については何ら記載されていない。
【0013】
未晒パルプを塩素漂白または塩素及び二酸化塩素の組み合わせによる脱リグニン処理の代替として、酸素漂白後、キレート剤処理、アルカリ性過酸化水素処理、モノ過硫酸処理による漂白法に関する方法が提案されている(特許文献3参照)。この方法は漂白工程の初段脱リグニンに関する方法であり、HexA除去、褪色性の改善については何ら記載されていない。
【0014】
未晒パルプを塩素漂白または塩素及び二酸化塩素の組み合わせによる脱リグニン処理の代替として、モノ過硫酸とオゾンの組み合わせで行う漂白法に関する方法が提案されている(特許文献4参照)。この方法は漂白工程の初段脱リグニンに関する方法であり、またHexA除去、褪色性の改善については何ら記載されていない。
【0015】
脱リグニン方法として、キレート剤処理後モノ過硫酸処理、次いでアルカリ性過酸化水素処理の順に実施する方法が提案されている(特許文献5参照)。この方法は漂白工程の初段脱リグニンに関する方法であり、またHexA除去、褪色性の改善については何ら記載されていない。
【0016】
漂白の最終段で過酸およびアルカリ土類金属で処理することが提案されている(特許文献6参照)。本発明法のモノ過硫酸処理も過酸処理であるが、本発明法ではアルカリ土類金属を使用しないところが全く異なっている。また、過酸として過酢酸が使用されているが、この方法の主な目的は白色度アップであり、HexA除去、褪色性の改善については何ら記載されていない。
【0017】
漂白後の後処理方法として、漂白処理後と調成工程の間に漂白剤を添加する方法が提案されている(特許文献7参照)。漂白剤として、オゾン、過酸化水素、過酢酸、過炭酸、過硼酸、二酸化チオ尿素が記載されているが、この方法の主な目的は白色度アップであり、HexA除去、褪色性の改善については何ら記載されていない。
【特許文献1】特表平6−505063号公報
【特許文献2】特表平7−150493号公報
【特許文献3】特表平8−507332号公報
【特許文献4】特表平8−511308号公報
【特許文献5】特表平10−500178号公報
【特許文献6】特表2001−527168号公報
【特許文献7】特開2004−169194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、製紙用化学パルプの製造で、初段に分子状塩素を用いないECF漂白あるいはTCF漂白において、漂白コストの増大を最小限にとどめ、かつパルプ粘度を維持しながら、酸性紙の褪色性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者等は、蒸解−酸素脱リグニン処理したパルプを無塩素漂白処理し、その褪色性改善について鋭意検討した結果、所定の白色度まで無塩素漂白処理したパルプをさらにモノ過硫酸処理することにより褪色性が改善することを見いだし、本発明を完成させた。
すなわち、本願は以下の発明を包含する。
(1)蒸解処理−酸素脱リグニン処理後の化学パルプを無塩素漂白処理により白色度70〜89%に漂白した後、モノ過硫酸処理をする化学パルプの製造方法。
(2)前記無塩素漂白処理により白色度70〜89%に漂白したパルプの無塩素漂白処理後のK価を1.5以上とする(1)記載の化学パルプの製造方法。
(3)前記無塩素漂白処理により白色度70〜89%に漂白したパルプの無塩素漂白処理後のヘキセンウロン酸残量を10μmol/パルプg以上とする(1)又は(2)記載の化学パルプの製造方法。
(4)前記モノ過硫酸処理時にキレート剤及び/又は多価カルボン酸を併用する(1)〜(3)のいずれか1項記載の化学パルプの製造方法
(5)前記キレート剤が、EDTA、DTPA、NTA、HEDTA、EDTMPA、DTPMPA及びNTMPAから選ばれる少なくとも1種である(4)記載の化学パルプの製造方法。
(6)前記キレート剤を対パルプ0.02重量%〜0.3重量%の範囲で添加する(4)又は(5)記載の化学パルプの製造方法。
(7)前記多価カルボン酸が、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、クエン酸、マロン酸、アジピン酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1種である(4)記載の化学パルプの製造方法。
(8)多価カルボン酸を、対パルプ0.02重量%〜0.3重量%添加する(4)又は(7)記載の化学パルプの製造方法。
(9)(1)〜(8)の製造方法により製造された化学パルプを用いて、抄紙pH6以下で製造された紙。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、無塩素漂白における完成漂白パルプを抄造し紙を製造することにおいて、特に酸性紙の褪色性が悪化するとの問題に対して、高価な二酸化塩素やオゾンを増量することなく、また新たな漂白設備を設置することなく、従来からある完成パルプを貯槽する設備を利用して処理することができる。その結果、優れたパルプ物性を保持し、かつ漂白コストを低く抑えながら、ECFあるいはTCF漂白方法で製造された化学パルプの褪色性を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において用いられるパルプは、ポリサルファイトを含む、もしくは通常のクラフトパルプ化法(KP)、サルファイトパルプ化法(SP)、アルカリパルプ化法(AP)等のケミカルパルプ化法由来のパルプが好ましく、より好ましくはクラフトパルプ化法によって得られたパルプである。また、パルプ化に用いられる木本植物、草本植物については特に限定されるものではない。
【0022】
本発明において、処理されるパルプは、前処理としてカッパー価20以下になるように公知の酸素脱リグニン処理を行ったものであり、好ましくはカッパー価12以下のものである。
【0023】
本発明において処理されるパルプは、無塩素処理したパルプが使用される。分子状塩素を用いない漂白シークエンスとしては、D−Ep−D、D−Eop−D、D−Ep−P−D、D−Eop−P−D、D−Ep−D−D、D−Eop−D−D,D−Ep−D−P,D−Eop−D−Pのような二酸化塩素主体のECFシークエンス、Z−Ep−D、Z−Eop−D、Z−Ep−P−D、Z−Eop−P−D、Z−Ep−D−D、Z−Eop−D−D,Z−Ep−D−P、のようなオゾン主体のECFシークエンス、Z/D−Ep−D、Z/D−Eop−D、Z/D−Ep−P−D、Z/D−Eop−P−D、Z/D−Ep−D−D、Z/D−Eop−D−D,Z/D−Ep−D−P、Z/D−Eop−D−Pのようなオゾンと二酸化塩素を併用したECFシークエンス、あるいは、Z−Ep−P、Z−Eop−P、Z−Ep−P−P、Z−Eop−P−P、Z−Ep−Q−P、Z−Eop−Q−PのようなTCFシークエンスが考えられるが、この漂白シークエンスの如何は、本発明をいささかも制限するものではない。
【0024】
上記無塩素漂白シーケンスで漂白されたパルプの白色度は70〜89%であることが好ましい。また、パルプの褪色度の指標になるK価、ヘキセンウロン酸残量は低ければ低いほど好ましいが、そのためには多量の漂白薬剤を必要とし、パルプ粘度低下、コストアップの問題がある。そこで、パルプの褪色問題と漂白コストの両方を解決できる本発明法に好適なパルプ物性としては、K価1.5以上、ヘキセンウロン酸残量10μmol/パルプg以上が好ましい。
【0025】
上記無塩素漂白シーケンスで所望の白色度、K価、ヘキセンウロン酸残量に漂白されたパルプは、貯槽工程をへて抄紙工程へ送られる。漂白後に本発明の褪色性が改善するモノ過硫酸処理工程を経た抄紙用パルプは酸性抄紙紙工程へ送られることが好ましい。本発明では漂白後、モノ過硫酸処理工程前に洗浄することが好ましい。
【0026】
本発明で使用されるモノ過硫酸は、ペルオキソ二硫酸を加水分解により生成したモノ過硫酸でもよく、また過酸化水素と硫酸からオンサイトで生成したモノ過硫酸でもよい。また、モノ過硫酸の複塩(2KHSO・KHSO・KSO)であるオキソンを使用しても良い。ここで、高濃度過酸化水素と高濃度硫酸から製造されるモノ過硫酸が好適に使用される。
【0027】
本発明において行われるモノ過硫酸処理は、処理pH1.0〜12.0、好ましくは1.0〜6.0、さらに好ましくは3.0〜4.0である。処理時間は10分〜12時間であり、好ましくは30分〜6時間、さらに好ましくは2〜5時間である。処理温度は40℃〜100℃、好ましくは45℃〜70℃、さらに好ましくは40〜60℃である。パルプ濃度は5〜30%であり、高パルプ濃度の方がより好ましい。
【0028】
モノ過硫酸処理されたパルプのなかでまれに粘度低下が起こる場合がある。この場合の粘度低下抑制方法として、モノ過硫酸処理を低温長時間で行うか、またはモノ過硫酸処理後のpHを調整することにより回避することができる。即ち、モノ過硫酸処理温度を40〜60℃とし、処理時間を2〜5時間とすることにより粘度低下を抑制できる。また、モノ過硫酸処理後のpHを3〜4の範囲に調整するようにアルカリ剤を添加することにより粘度低下を抑制できる。処理温度、処理時間、処理pHの3者を上記範囲に調整することにより、より粘度低下抑制効果が発揮される。
【0029】
その他の方法として、モノ過硫酸処理時にキレート剤、多価カルボン酸、またはこれらの混合物が併用使用される。
【0030】
本発明で使用されるキレート剤は、エチレンジアミンテトラアセティック酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタアセティック酸(DTPA)、ニトリルトリアセティック酸(NTA)等のカルボン酸タイプ、1−ヒドロキシルエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDPA)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン)酸(EDTMPA)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン)酸(DTPMPA)、ニトロトリ(メチレンホスホン)酸(NTMPA)、等のホスホン酸タイプが使用される。
【0031】
キレート剤の使用量としては、0.02%〜0.3%(対パルプの重量%として)の範囲が好ましい。これ以上添加すると、モノ過硫酸のHexA除去能力が低下し、これ以下ではパルプ粘度低下抑制効果が弱くなるとの問題がある。
【0032】
多価カルボン酸として、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、クエン酸、マロン酸、アジピン酸、リンゴ酸等が使用される。
【0033】
多価カルボン酸の量としては、0.02%〜0.3%(対パルプの重量%として)の範囲が好ましい。これ以上の添加量では、モノ過硫酸のHexA除去能力が低下し、これ以下の添加量ではパルプ粘度低下抑制効果が弱くなるとの問題がある。
【0034】
キレート剤と多価カルボン酸の混合物を使用する時は、0.02%〜0.3%(対パルプの重量%として)の範囲が好ましい。これ以上の添加量では、モノ過硫酸のHexA除去能力が低下し、これ以下の添加量ではパルプ粘度低下抑制効果が弱くなるとの問題がある。
【0035】
モノ過硫酸処理後は、そのまま抄紙工程へ送られるか、pH調整を行って抄紙工程へ送られてもよい。
【0036】
本発明の第1の特徴は、従来の塩素漂白から無塩素漂白へ転換した場合、特に広葉樹パルプの場合、紙の褪色性に関係するHexAが多量に残存した結果、褪色性が悪化するとの問題に対して、従来の方法では二酸化塩素、オゾンを多量に使用せざるをえず、その結果薬品コストのアップ、白色度の上がりすぎ等の問題があった。これ等の問題に対して、本発明法によれば二酸化塩素、オゾンを増量せず、漂白後の貯槽等の設備を利用してモノ過硫酸処理を実施できるために、HexAを効率的に除去できることである。
【0037】
第2の特徴は、漂白後にモノ過硫酸処理を適用するため、漂白の前段に適用するより残存HexA量が少なく、僅かな薬品コストでHexAを除去できることである。
【0038】
第3の特徴は、モノ過硫酸処理によるパルプ粘度低下をキレート剤、多価カルボン酸を併用することにより完全に抑制することができることである。
【0039】
第4の特徴は、無塩素漂白したパルプを中性抄紙と酸性抄紙により抄造している場合、酸性抄紙用パルプのみに本発明法を適用し、褪色性問題のない紙を製造できる結果、無塩素漂白パルプの薬品である高価な二酸化塩素、オゾンを最小限におさえ、安価な過酸化水素が利用できることである。その結果、酸性抄紙パルプと中性抄紙パルプを製造するためのトータルの漂白薬品コストを最小限に抑えることができることである。
【0040】
本発明法は、酸性抄紙無塩素パルプの褪色性悪化に対する改善策として、安価な硫酸と安価な過酸化水素から製造した安価なモノ過硫酸を使用し、また従来からある漂白後のパルプ貯槽を反応槽として利用でき、かつHexAを効率的に除去でき、その結果、無塩素漂白パルプの褪色性悪化問題を解決できる。
【実施例】
【0041】
次に実施例により本発明を具体的に説明する。各薬品の使用量は絶乾パルプ当たりの重量%で示し、過酸化水素の使用量は100%換算である。使用したパルプは、クラフト蒸解−酸素脱リグニン後のL材パルプAを用いた。また、分析評価は下記の方法によった。なお、以下に示す実施例は、本発明を具体的に説明するために示すものであり、何ら本発明を制限するものではない。
【0042】
・パルプ種
A:ハンター白色度 48.3%、K価 6.8、粘度 23.3mPa・s 、
HexA:43.2μmol/g
・白色度:JIS−P8123(ハンター白色度法)
・K価 :TAPPI K価法
・粘度 :J.TAPPI No.44法
・HexA量:絶乾量1gのパルプを、パルプ濃度1%に希釈し、蟻酸にてpH3.0に調製後110℃−300分加熱して、HexAを2−フランカルボン酸と5−ホルミル−2−フランカルボン酸に加水分解する。冷却後パルプと水に分離し、水中の2−フランカルボン酸と5−ホルミル−2−フランカルボン酸を液クロにより、UV265nmの検出器を用いて定量し、その合算をHexA量とした。
・抄紙方法
酸性抄紙:0.8%のパルプスラリー(パルプBD16g)に硫酸バンド(Al2O3 17%溶液)を2.25%(対パルプ)添加し、pH4.5に調整後濾紙上に2枚抄紙する。ステンレス板を挟みプレス後、1夜風乾した。
中性抄紙:硫酸バンドを使用せずpH7に調整後、酸性抄紙と同様に行った。
・褪色試験
80℃−RH65%のオーブンに入れ、24h熱処理した。その後白色度を測定し
PC価を計算した。尚、PC価は下記計算式で表される。
【0043】
【数1】

【0044】
実施例1〜5
クラフト蒸解後酸素漂白を行ったパルプAを用い、下記の漂白条件に従ってD−Eop−Dの漂白シーケンスによる漂白を行った後にモノ過硫酸処理を行った。
初段D :パルプ濃度10%、60℃、60分、ClO/0.6%
Eop :パルプ濃度10%、60℃、60分、NaOH/1.0%、
/0.15%、H/0.3%
最終段D :パルプ濃度10%、70℃、180分、ClO/0.3%
洗浄条件 :各段の漂白終了後、クリン水(濾過水道水)でPC2.5%に希釈し、次いでPC20%に脱水し、次段に移行した。洗浄率89.6%
モノ過硫酸製造条件:60%過水50g(0.882モル)中に、98%硫酸86.44g(1.764モル)を液温を60℃に保ちながら徐々に滴下する。45分後のモノ過硫酸の生成濃度は32.6%(W/W)である。
モノ過硫酸処理 :パルプ濃度20%、70℃、120分、
SO/0.3%、0.6%、0.9%、1.2%、1.5%
【0045】
比較例1
クラフト蒸解後酸素漂白を行ったパルプAを用い、下記の漂白条件に従ってD−Eo−Dの漂白シーケンスによる漂白を行った。
初段D :パルプ濃度10%、60℃、60分、ClO/1.1%
Eo :パルプ濃度10%、60℃、60分、NaOH/0.8%、
/0.15%
最終段D :パルプ濃度10%、60℃、180分、ClO/0.3%
洗浄条件 :実施例1と同様
【0046】
比較例2
初段DにClO/0.6%、Eo段にH/0.3%、NaOH/1.0%(Eop)、最終段DにClO/0.3%添加した以外、比較例1と同様に行った。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示したように、過酸化水素を使用しない二酸化塩素主体ECF漂白(比較例1)では、一般に褪色性に問題ないと思われる、K価1.5以下、PC価4.5以下を得るためには、多量の二酸化塩素が必要となる。その結果、白色度が上がりすぎ、漂白コストが増大する等の問題がある。一方、過酸化水素を使用して、漂白コストを抑えた比較例2では、K価、残存HexA量が多くなり、その結果、酸性PC価が悪化するとの問題がある。以上の従来のECF漂白法の問題に対して、モノ過硫酸を使用した実施例1〜5においては、K価、残存HexA量が効率的に除去された結果、酸性抄紙パルプのPC価も問題ない範囲に下げることができる。
【0049】
比較例3
初段ClO/0.70%、H/0.25%、添加した以外、比較例2と同様に行った。
【0050】
比較例4
初段ClO/0.80%、H/0.20%、添加した以外、比較例2と同様に行った。
【0051】
比較例5
初段ClO/0.90%、H/0.15%、添加した以外、比較例2と同様に行った。
【0052】
実施例6
比較例3のパルプをHSO/0.25%で処理した。
【0053】
実施例7
比較例4のパルプをHSO/0.2%で処理した。
【0054】
実施例8
比較例5のパルプをHSO/0.1%で処理した。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
表2に示したように、中性抄紙パルプの場合、K価1.5以上、HexA10μmol/g以上でも目標PC価4.5をクリアーできる。一方、酸性抄紙パルプの場合、目標K価をクリアーできない。しかし、表3に示したように、モノ過硫酸処理をすることによりPC価4.5以下をクリアーできた。従って、同一の無塩素漂白パルプを中性抄紙と酸性抄紙で紙を抄造する場合、酸性抄紙パルプをモノ過硫酸処理することにより、無塩素漂白工程に安価な過酸化水素が利用でき、その結果、安価な無塩素漂白パルプを製造することができる。
【0058】
実施例9〜13
実施例2において、モノ過硫酸処理時にDTPA、EDTA、NTA、EDTMPA、DTPMPAのキレート剤を各0.1%併用した。
【0059】
【表4】

【0060】
表4に示したように、モノ過硫酸処理によりパルプ粘度がやや低下するとの問題に対して、キレート剤を添加することにより、完全に抑えることができた。
【0061】
実施例14〜23
実施例9、10において、DTPA、EDTA使用量を0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.3%、0.5%に変化させた。
【0062】
【表5】

【0063】
表5に示したように、粘度低下防止剤としてのDTAP、EDTAの効果は、使用量が少なくても効果が小さく、多すぎても効果がない。従って、キレート剤の添加量として、0.02%〜0.3%の範囲が最適であった。
【0064】
実施例24〜33
実施例2において、モノ過硫酸処理時にシュウ酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、酒石酸、クエン酸、マロン酸、アジピン酸、リンゴ酸を各0.1%併用した。
【0065】
【表6】

【0066】
表6に示したように、モノ過硫酸処理によりパルプ粘度がやや低下するとの問題に対して、多価カルボン酸類を添加することにより、完全に抑えることができた。
【0067】
実施例34〜43
実施例24、25において、シュウ酸、コハク酸使用量を0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.3%、0.5%に変化させた。
【0068】
【表7】

【0069】
表7に示したように、粘度低下防止剤としてのシュウ酸、コハク酸の効果は、使用量が少なくても効果が小さく、多すぎても効果がない。従って、多価カルボン酸の添加量として、0.02%〜0.3%の範囲が最適であった。
【0070】
実施例44〜47
実施例2において、モノ過硫酸処理時に下記割合のシュウ酸およびEDTAの混合物を各0.1%併用した。
【0071】
【表8】

【0072】
表8に示したように、多価カルボン酸とキレート剤の併用により、モノ過硫酸処理時の粘度低下を抑制することができた。
【0073】
実施例48〜50
実施例2において、処理温度40℃、50℃、60℃とし、それぞれの処理時間を5時間、4時間、2.5時間とした以外は、実施例2と同様に行った。
【0074】
【表9】

【0075】
表9に示したように、モノ過硫酸処理による粘度低下対策としては、処理温度と処理時間を適性化することにより、パルプ粘度を保持しつつ、目標のK価、HexA量を達成できた。
【0076】
実施例51〜59
実施例2において、NaOH量を1.0%、1.30%、1.60%、1.70%、
・ 78%、1.85%、1.90%、2.06%、2.13%添加しモノ過硫酸処理
pHを調整した以外、実施例2と同様に行った。
【0077】
【表10】

【0078】
表10に示したように、モノ過硫酸処理pHを3以下にした場合は、パルプ粘度低下が大きく、pHを4以上にした場合は、パルプ粘度低下は小さいが、HexA除去効果が劣る。従って、モノ過硫酸処理において、パルプ粘度低下抑制とHexA除去効果の両方の目的を達成する条件は、pH3〜4の間であった。
【0079】
実施例60〜62
実施例48〜50において、NaOH量を1.86%、1.78%、1.72%添加しモノ過硫酸処理pHを調整した以外、実施例48〜50と同様に行った。
【0080】
【表11】

【0081】
表11に示したように、処理温度を40〜60℃の範囲に調整し、処理pHを3〜4の範囲に調整することにより、HexA除去効果を維持しつつ、よりパルプの粘度低下を抑制できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸解処理−酸素脱リグニン処理後の化学パルプを無塩素漂白処理により白色度70〜89%に漂白した後、モノ過硫酸処理をすることを特徴とする、化学パルプの製造方法。
【請求項2】
前記無塩素漂白処理により白色度70〜89%に漂白したパルプの無塩素漂白処理後のK価を1.5以上とすることを特徴とする、請求項1記載の化学パルプの製造方法。
【請求項3】
前記無塩素漂白処理により白色度70〜89%に漂白したパルプの無塩素漂白処理後のヘキセンウロン酸残量を10μmol/パルプg以上とすることを特徴とする、請求項1又は2記載の化学パルプの製造方法。
【請求項4】
前記モノ過硫酸処理時にキレート剤及び/又は多価カルボン酸を併用することを特徴とする、請求項1〜3いずれか1項記載の化学パルプの製造方法。
【請求項5】
前記キレート剤が、EDTA、DTPA、NTA、HEDTA、EDTMPA、DTPMPA、NTMPAから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4記載の化学パルプの製造方法。
【請求項6】
前記キレート剤を対パルプ0.02重量%〜0.3重量%の範囲で添加することを特徴とする、請求項4又は5記載の化学パルプの製造方法。
【請求項7】
前記多価カルボン酸が、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、クエン酸、マロン酸、アジピン酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1種であること特徴とする請求項4記載の化学パルプの製造方法。
【請求項8】
多価カルボン酸を、対パルプ0.02重量%〜0.3重量%添加することを特徴とする、請求項4又は7記載の化学パルプの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8記載の製造方法により製造された化学パルプを用いて、抄紙pH6以下で製造された紙。