説明

化学剤を分類し、そしてその細胞のターゲットを識別する方法

本発明は、例えば哺乳動物における病原性の感染を治療するために有益である化合物のような抗生物質化合物の特徴付け、及びその細胞のターゲットの識別の分野である。本発明はさらに、抗生物質化合物を分類する方法、及びその作用様式を決定する方法、及び分類スキームに基づき新しい抗生物質のターゲットを識別する方法であって、該化合物に1世代時間未満の期間曝露された有機体の生化学的応答プロファイル(例えば、遺伝子発現パターン)を類似性に従いクラスター化することを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば哺乳動物における病原性の感染を治療するために有益である化合物のような抗生物質化合物の特徴付け、及びその細胞のターゲットの識別の分野である。本発明はさらに、抗生物質化合物を分類する方法、及びその作用様式を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品媒介の及び飲料水媒介の感染症の発生は、世界において増加中であり且つ重大な公衆衛生脅威である。さらに悪いことに、抗生物質に対して耐性である微生物の割合がまた急速に増加しており、研究者は、我々が食べる食品及び我々が飲む水に関連付けられた交差耐性に関して益々関心を持つようになっている。特定の関心事は、黄色ブドウ球菌の菌株中のメチシリンに対する耐性(MRSA)、及びエンテロコッカス細菌性菌株における「最後の頼り(last-resort)」バンコマイシンの抗生物質に対する耐性(VRE)、並びに他の有機体へのそれらの広がりである。
【0003】
過去において、細菌耐性に対する解決策は、臨床的に実行可能な抗微生物剤の開発に主に依存した。植物及び動物からの天然の抗菌性ペプチドの発見とは別に、近年に開発された新規な抗生物質はほとんどなかった。その結果、特定の化合物の阻止能力の、生細胞における直接測定に基づく従来の抗生物質スクリーニング方法は、現在ほとんど期待されていない。
【0004】
上述に照らして、リード化合物の分子ターゲット、すなわちヒトに対して非毒性である抗生物質化合物を識別する方法を提供することは技術的に有意な進歩であろう。該方法が抗生物質化合物のための新しい分子ターゲットを識別することができる場合に、更なる進歩であろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、微生物の周囲の環境から微生物によって受けとられた外部刺激から発生する微生物の生化学的組成における固有の変化が刺激の性質に特徴的であるという洞察に基づく。それ故に、これら固有の変化を測定することによって、微生物が、その環境の条件及びより特に、刺激の性質を決定するためのセンサーとして使用されうる。そのような刺激の例は、成長を阻害することが出来る又は微生物を殺すことさえできる化学物質、例えば抗生物質化合物である。物質曝露及び物質が微生物の成長に影響を与える特定の方法に対する微生物の反応は、例えば該物質の作用様式によって、該物質の分子ターゲットによって及び/又は該物質によって影響される代謝経路によってのいずれかで、それら物質を分類するために使用されうることが今驚くべきことに見つけられた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の局面において、化学化合物のための分類スキームを作るための方法であって、有機体を多数の個々の化学化合物に1世代時間未満の期間曝露することによって決定される有機体の生化学的応答プロファイルを類似性に従いクラスター化することを含む方法を提供するために、この発見を今利用する。好ましい実施態様では、類似性に従いクラスター化することが、主成分分析を含む。別の好ましい実施態様では、化学化合物が抗生物質化合物である。さらに別の好ましい実施態様は、該多数の個々の化学化合物が既知の作用様式を有する参照化合物を含み、該プロファイルが作用様式における類似性に従いクラスター化された参照応答プロファイルである。
【0007】
別の局面では、本発明は、本発明の方法によって得られる、化学化合物のための分類スキームを提供する。
【0008】
更なる局面では、本発明は、化学化合物を分類する方法であって、上記された化学化合物の分類スキームを作る本発明の方法を実行することによって、化学化合物のための分類スキームを用意するステップと、有機体を該化学化合物に曝露するステップと、該有機体の生化学的応答プロファイルを決定するステップと、該スキームにおいて該生化学的応答プロファイルのクラスター化された位置を決定するステップとを含む方法を提供する。
【0009】
さらに、更なる局面では、本発明は、作用様式に従い抗生物質化合物を分類するための方法であって、上記された化学化合物の分類スキームを作るための方法を実行することによって化学化合物のための分類スキームを用意するステップであって、該化学化合物が抗生物質化合物であり、該多数の個々の化学化合物が既知の作用様式を有する参照化合物を含み、該プロファイルが作用様式における類似性に従いクラスター化された参照応答プロファイルであるところのステップを含み、該方法はさらに、有機体を該抗生物質化合物に曝露するステップと、該有機体の該生化学的応答プロファイルを決定するステップと、該スキームにおいて該生化学的応答プロファイルのクラスター化された位置を決定するステップと、該抗生物質化合物に参照応答プロファイルの対応するクラスターの作用様式を割り当てる、又は該位置が参照応答プロファイルの何らかの既知のクラスターの外である場合、該抗生物質化合物に新しい作用様式を割り当てるステップとを含む方法を提供する。
【0010】
さらに、更なる局面では、本発明は、抗生物質化合物の作用様式を解析する方法であって、本発明に従う抗生物質化合物を分類する方法を実行するステップであって、該生化学的応答プロファイルが転写応答プロファイルであり、それによって該抗生物質化合物について該転写応答プロファイルのクラスター化された位置を決定するステップと、その発現が該抗生物質化合物への曝露によって実質的に影響され且つそれが該クラスター化された位置を特徴付けるところの該有機体の遺伝子を該転写応答プロファイルから識別するステップと、該抗生物質化合物によって影響される細胞過程を該遺伝子の該識別から決定するステップとを含む方法を提供する。
【0011】
さらに、更なる局面では、本発明は、抗生物質化合物の新しい作用様式を識別する方法であって、本発明に従う抗生物質化合物を分類する方法を実行するステップであって、該生化学的応答プロファイルが転写応答プロファイルであるところのステップと、その対応する転写応答プロファイルが参照応答プロファイルの何からの既知のクラスターの外のクラスター化された位置を有するところの抗生物質化合物を選択するステップと、その発現が該選択された抗生物質化合物への曝露によって実質的に影響され且つそれが該クラスター化された位置を特徴付けるところの該有機体の遺伝子を該選択された化合物の該転写応答プロファイルから識別するステップと、該選択された抗生物質化合物によって影響される細胞過程を該遺伝子の識別から決定し、それによって新しい作用様式を識別するステップとを含む方法を提供する。
【0012】
さらに、更なる局面では、本発明は、抗生物質化合物の分子ターゲットを識別する方法であって、上記された抗生物質化合物の作用様式を解析する方法を実行する又は上記された抗生物質化合物の新しい作用様式を識別する方法を実行するステップと、該抗生物質化合物によって影響される該細胞過程を特徴付ける潜在的な分子ターゲットのグループを選択するステップと、潜在的な分子ターゲットの該グループにおいて該抗生物質化合物の分子ターゲットを識別するステップとを含む方法を提供する。
【0013】
さらに、更なる局面では、本発明は、新しい代謝経路を識別する方法であって、上記された化学化合物を分類する方法を実行するステップであって、該生化学的応答プロファイルが転写応答プロファイルであり、該多数の個々の化学化合物が既知の作用様式を有する参照化合物を含み、該プロファイルが作用様式における類似性に従いクラスター化された参照応答プロファイルであるところのステップと、その対応する転写応答プロファイルが参照応答プロファイルの何からの既知のクラスターの外のクラスター化された位置を有するところの化学化合物を選択するステップと、その発現が該化学化合物への曝露によって実質的に影響され且つそれが該クラスター化された位置を特徴付けるところの該有機体の遺伝子を該転写応答プロファイルから識別するステップと、該化学化合物によって影響される細胞過程を該遺伝子の識別から決定し、それによって新しい代謝経路を識別するステップとを含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書で使用されている語「項目」は、本発明の方法によって分類可能などんなものでもをいい、化学化合物、例えば抗生物質化合物と、生化学的応答プロファイル、例えば転写応答プロファイル又は参照プロファイルとの両方を含む。
【0015】
本明細書で使用されている語「世代時間」は、td=ln2/μ(ここでμは比成長速度である)から計算されうる微生物の成長の対数期の間の各細胞分裂の一定時間間隔(すなわち、倍増時間[td])をいう。細胞数の対数(又は細胞量の対数)と時間の間に直線関係がある場合、対数期は最大成長の期間であり、該直線関係は、dN/dt=μN又はdx/dt=μx(ここで、N=細胞数、x=細胞量(g)、t=時間(時)及びμ=比成長速度(h-1))で記載されうる。多くの因子が、細胞の世代時間に影響しうる:a)物理的成長条件。細胞は、次善条件よりも最適条件下でより速く成長する。例えば、大腸菌では、15℃でtdが180分であり、一方37℃でそれは20分間に過ぎない(全ての他の条件が最適であると仮定する);b)栄養成長条件。細胞は、栄養的に貧弱な培地中よりも豊富な培地中でより早く成長する。例えば、大腸菌では、栄養ブロスにおけるtdはほぼ20分間であり、化学的に定義された培地では50分間ほどでありうる(全ての他の条件が最適であると仮定する);c)有機体のタイプ。幾つかの種は他よりも本来的により早く成長する。例えば、それらの個々の最適条件下で、大腸菌は20分間のtdを有し、一方カゼイ菌(Lactobacillus casei)は60分間のtdを有する。
【0016】
語「分類する」は、その当業者に認識される意味において使用され、すなわち、クラス若しくはカテゴリーにより、又は項目が共通に有する及び/又はそれらを区別する特徴に基づき、それらを論理的に階層のクラス、サブクラス及びサブ−サブクラスに分割することによって、項目、すなわち化学化合物又は応答プロファイルを配列する又は順序づけることをいう。特に、「分類する」は、分類されていない化学化合物又は応答プロファイルを、クラス又は種に割り当てることをいう。次に、「クラス」は、確立されたシステム又はスキームに従い項目を分類する目的のために、それらが共通に有するところの特徴、属性、特性、特質、効果、パラメーターなどの1以上に基づく項目のグループ化である。
【0017】
語「分類スキーム」は、その当業者に認識される意味において使用され、すなわち、項目をそれらの類似性及び相違に基づき1つのコレクションに又は複数のグループへと組織化する目的のために、予め確立された一組の原理に従い配列されたクラスのリストをいう。
【0018】
語「クラスター化する」は、同じ又は類似の要素を有する1又は複数のクラスター項目へと集めること、整理すること又は結合することの活動をいい、「クラスター」は、集められた又は互いに近くで生じる同じ又は類似の項目のグループ又は数をいう。「クラスター化された」は、項目がクラスター化に付されたことを示す。
【0019】
語「クラスター化された位置」は、多くのクラスター間における個々の項目の位置をいい、該位置は該項目をクラスター化することによって決定される。
【0020】
本発明の方法において使用されるクラスター化の過程は、測定可能なパラメーターからのデータを通じて、特徴、属性、特性、特質、効果などにおける類似性のために項目を比較するために知られた何らかの数学的な過程でありうる。例えば多変量解析又は解析の他の方法のような統計的解析が使用されうる。好ましくは解析の方法、例えば自己組織マップ、階層的クラスター化、多次元スケーリング、主成分分析、監督された学習、k-最近傍推定(k-nearest neighbours)、サポートベクトルマシーン、判別分析及び/又は部分最小二乗法が使用される。本発明の方法の最も好ましい実施態様では、主成分分析が、類似性に従い項目をクラスター化するために使用される。
【0021】
本明細書で使用される「生化学的応答プロファイル」は、刺激、すなわち化学化合物への有機体の曝露から生じる有機体の生化学的組成における質的又は量的変化を示す、通常グラフ又はテーブル形式における一組のデータをいう。この記載全体において、該生化学的組成は細胞を一緒に形成する様々な(生)化学化合物の組成を意味し、そして生化学的組成における変化は、刺激前の組成から刺激後の組成を差し引き、一般的試験影響について修正されたものを意味する。
【0022】
本明細書で使用される「転写応答プロファイル」は、刺激、すなわち化学化合物への有機体の曝露から生じる有機体のmRNAプールにおける質的又は量的変化を示す、通常グラフ又はテーブル形式における一組のデータをいう。「転写応答プロファイル」は、転写プロファイリングによって適切に得られることができ、該方法はマイクロアレイにおいて配列された10から何千もの種々のDNAプローブを使用して(各DNAは異なる遺伝子又は遺伝子の一部を示す)、或る時点において細胞に存在する種々のmRNA種の全て又は大部分を同時に定量し、それによってその細胞のトランスクリプトームを特徴付ける。語「応答プロファイル」は、刺激前のmRNA種の組成から刺激後のmRNA種の組成を差し引き、一般的試験影響について修正されたものを示す。
【0023】
原則として、植物、動物(ヒトを含む)及び好ましくは微生物を含む何らかの有機体が、本発明の方法において使用されうる。本発明の方法において有用な微生物は、細菌、古細菌、菌類、酵母、原虫類及び藻類を含んでよい。より好ましくは、細菌、菌類及び/又は酵母が使用される。
【0024】
本明細書の文脈における「感受性のある」有機体は、化学化合物に反応する、すなわち該化学化合物への曝露後にその化学的組成における検出可能な変化を示す有機体である。すなわち、「感受性のある」は、抗生物質による成長阻害に関連するだけでなく、本明細書においてより一般化された文脈において使用される。
【0025】
「参照化合物」は、化学化合物を分類するために使用されるその1以上の特徴が知られており且つ参照応答プロファイルを確立するために使用されるところの化学化合物である。該化合物が抗生物質である場合、既知の特徴は例えば作用様式及び/又はターゲットを含みうる。
【0026】
適切な参照化合物は、タンパク質合成の阻害剤としてエリスロマイシン、テトラサイクリン及びクロラムフェニコールの様な抗生物質、膜完全性を妨害する化合物としてコリスチン及び硫酸ポリミキシンB、核酸合成を妨害する化合物としてシプロフロキサシン及びリファンピシリン、並びに細胞壁合成を妨害する化合物としてセフタジジン及びアンピシリンを含む。
【0027】
語「類似性」は、類似である、すなわち同じ又は幾つかの同じ特徴、例えば作用様式、ターゲット又は生化学的応答プロファイルを有する状態又は特性を示す。
【0028】
参照応答プロファイルの既知のクラスターは、影響されたその作用様式、ターゲット又は細胞過程が知られているところのクラスターである。そのような知識は、文献データから又は経験的試験から又は本発明の方法を実行することから得られうる。
【0029】
語「影響された」は、作用を及ぼされた、影響を及ぼされた又は変更された、転換された、修飾された及び/又は変化されたといった意味を含む。遺伝子発現の文脈では、それは特に、発現の増加又は減少のいずれかを示してよく、一方細胞過程の文脈では、それは特に、その阻害又は刺激を示してよい。
【0030】
「分子ターゲット」は、その機能が抗生物質化合物の作用よって妨害されるところの細胞の構成要素である。当業者に知られた分子ターゲットは、細胞壁におけるペプチドグリカン架橋、リボソームの形状におけるタンパク質合成機構、及び多くのタンパク質、例えばRNaseP、ジヒドロ葉酸還元酵素及びDNAジャイレースを含む。抗生物質の作用様式は例えば、タンパク質合成の妨害、膜完全性又は細胞壁合成の妨害である。
【0031】
一般に、抗生物質のターゲットを識別する先行技術アプローチは、最初に、その発現が影響されるところの遺伝子を識別すること、そして候補のターゲット又は作用様式をこのようにして得られた遺伝的情報から推論することによって特徴付けられる。
【0032】
反対に、本発明のアプローチは、影響を受けた既知の作用様式、既知のターゲット及び/又は既知の代謝的経路と組み合わせて多くの生化学的参照応答プロファイルを作ること、次に共通の特徴についてそれらのプロファイルを解析すること、即ち該プロファイルをクラスター化すること、そして或る化合物についてのユニークなプロファイルが既知のクラスターのうちで見つけられると、該プロファイルを研究して、例えば新しい代謝的経路又は新しいターゲットを確立するために要求される遺伝的情報を与えることを特徴とする。このアプローチは、先行技術の方法よりもはるかにより効率的且つ費用効果的である。
【0033】
本発明の方法は、化学又は生物学の化合物によるターゲット有機体の増殖阻害を試験することの古典的な微生物技術を使用することによる潜在的な抗生物質化合物の選択を含む。好ましくは、該化合物は哺乳類の細胞における細胞毒性試験において否定的に試験し、従って抗生物質として潜在的に使用されうる。有機体の増殖阻害は、化合物に対する有機体の感受性を示す。
【0034】
次に、選択された潜在的に抗生物性の化合物は、下記のように生化学的応答プロファイルを作るために適用される:ターゲット有機体は、高用量(好ましくは最小発育阻止濃度すなわちMICよりも高い)の試験化合物に、好ましくは該有機体の対数培養の中間中で、曝露される。1秒間から24時間の間、好ましくは1から20分間の持続の曝露後に、有機体の細胞における細胞性代謝が固定されるか又はクエンチングされる。クエンチングは、−40℃で4体積の60%メタノールを用いて、細胞性代謝を直ちにクエンチングすることによって適切に生じうる。引き続き、有機体の生化学的組成が決定される。例えば、RNA分子は、DNAマイクロアレイハイブリダイゼーションによって検出されるために、単離され且つ蛍光的にラベル付けされる。該DNAマイクロアレイは、例えば有機体のゲノムを表わす。ハイブリダイゼーション結果、すなわちこの場合曝露された細胞を用いて得られた転写プロファイルは、転写応答プロファイルを提供するために、同一条件下で培養された正常の曝露されていない細胞を用いて得られたハイブリダイゼーション結果と比較される。
【0035】
化学化合物への曝露が短く、及び好ましくは最小発育阻止濃度よりも高い濃度であることが本発明の特徴である。「短い」では、曝露は、有機体が該化合物の存在下で完全な成長サイクルを経ることを本質的に許されないようなものであることを意味される。代わりに、遺伝子発現に対する効果は、化学化合物への曝露から直接的に発する効果に限定され、多面的効果、例えば細胞死から生じるものでないこと又は減少された成長若しくは成長停止に間接的に関連付けられた効果から生じるものでないことが好ましい。一般的に、化学化合物への曝露の適切な持続は、1世代時間未満の期間、より好ましくは約1〜約45分間の範囲の時間、さらにより好ましくは約1〜約15分間の範囲の時間、最も好ましくは約10分間の時間であると表されうる。幾つかの化合物は膜完全性に影響して、細胞の反応のほとんど即時のカスケードを生じ、一方他の化合物はタンパク質合成に対する効果を有して、代謝に対する、例えば発現プロファイルに対するより緩やかな反応を生じるだろう故に、当業者は、微生物に対する化学化合物の真の効果を測定するために、曝露の時間が化合物間で異なりうることを理解するだろう。同様に、曝露の時間は、有機体の間及び種々の培養条件の間で異なりうる。
【0036】
細胞の代謝がクエンチングされることが本発明の好ましい特徴である。これは、細胞の代謝の停止が本質的に即時であることを意味する。先行技術の多くは、制御されない又は定義されない曝露体制に苦しむ。なぜならば、クエンチングが実行されず、その結果、観察された変更された発現の効果がかなり多面的であり得る故に、代謝が、即時に中止又は阻止されないからである。
【0037】
種々の化合物に対する感受性のある有機体の曝露後に得られた転写応答プロファイルは好ましくは、主成分分析によって比較され、これは次に例えば生物学的作用様式における類似性又は他の類似のパラメーターに従い転写プロファイルのクラスター化を提供する。例えば化合物の作用様式に基づく化合物の分類は、このように得られたクラスター化を使用することにより可能である。
【0038】
化合物のこの分類は、この分類から多数の可能性が生じるという点で本発明のアプローチの中心となる。例えば参照化合物に利用可能な知識、例えば影響されるターゲット又は作用様式又は細胞過程に対する知識に基づく様々な分類スキームが生成されうる。代替的に、分類は、応答プロファイルのクラスター化に純粋に基づきうる。
【0039】
分類作業の上記方法の一つに基づき、化合物が更なる分析のために選択されうる。この分析は、第一の例において、その発現が転写プロファイルの或るクラスターにおいて強く影響されるところの遺伝子の選択及び識別を含みうる。これらの結果に基づき、細胞におけるどの生物学的過程が化合物によって影響されるかが決定される。次に、この情報は、関係のある化合物のための潜在的な分子ターゲットの制限されたグループを選択するための基礎を形成する。
【0040】
新しい抗菌薬計画のための探索において、本発明に従う抗生物質化合物の分類が今、例えばデータベースにおいて利用可能な何らかの既知の応答プロファイルに非類似である生化学的応答プロファイルの識別を容易にする。これから、得られた応答プロファイルが新しいこと、且つ化合物のターゲットが新しい又は化合物の作用様式が新しいのいずれかであることが推論される。従って、本発明の方法を使用することによって、人は新しい抗生物質化合物を探索し及び/又は新しいターゲットを探索しうる。
【0041】
その上、本発明は、広範囲に研究されていない有機体のための適切な抗菌性化合物の検出を可能にする。これは先行技術の方法と対照的であり、先行技術では使用される微生物のゲノムの機能の実質的な部分が既に知られている(しばしば、例えばサッカロミセス属が使用される)。そのような先行技術方法は単に、既知の化合物によって影響される代謝経路の識別を可能にする。それ故に、本発明のこの特徴は、それがゲノムの詳細な知識なしに微生物の新しく見つけられた株の成長に影響を与えるために使用されうる抗菌性化合物の特異的な検出を可能にすることである。したがって、小さいスペクトルの抗菌性化合物、すなわち特定の微生物のみ、好ましくは特定の株の成長を阻止することができる化合物を識別することが本発明で可能である。そのような新しい抗菌性化合物が臨床環境において非常に有益であろうことが容易に理解されうる。第一に、それは、身体中の全ての他の微生物(それはしばしば有益である(腸内菌叢))に干渉すること無しに、感染症を引き起こす株に特異的であろう。さらに、そのような抗菌性化合物は交差耐性を生じることができず、それは多耐性細菌株を生成する危険を減らす。
【0042】
実際に、有機体の生化学的組成は、本発明の方法において使用される有機体の、好ましくは微生物の生体分子からの測定されたデータのコレクションである。該測定されたデータは好ましくは定性的測定から得られ、しかし(半)定量的測定がまた使用されうる。
【0043】
測定されたデータの適切なコレクションは有機体の転写発現プロファイルによって形成され、それは例えば、細胞内の様々なメッセンジャーRNA分子、すなわちトランスクリプトームを測定することによって得られうる。測定されたデータの代替コレクションは、細胞内に存在する様々なタンパク質分子を測定することによって得られうる有機体のタンパク質発現プロファイル、すなわちプロテオームによって形成される。さらに他の代替は、代謝物のコレクション、すなわちメタボロームである。
【0044】
従って、細胞の生物学的状態又は条件を映す、有機体の生化学的組成は、転写条件(それによってRNAの量が決定される)、翻訳条件(それによってタンパク質の量が決定される)、活性条件(それによって酵素活性が決定される)若しくは代謝経路の条件(それによって代謝物の量が決定される)を測定することによって、又はそれらの組み合わせを測定することによって適切に測定されうる。実際、多くの種々の生体分子の測定が、本発明の方法において使用されうる有機体の生化学的組成を提供しうる。
【0045】
そのような生体分子は、ポリヌクレオチド、例えば核酸、(ポリ)ペプチド又はタンパク質、多糖類、脂質、リポ多糖類及び/又は他の細胞の高分子を含みうる。また、代謝中間物質、例えばショ糖、有機酸、アルコール、脂肪酸、アミノ酸、ヌクレオチドなどが測定されうる。本発明の観点の好ましい実施態様では、核酸、例えばメッセンジャー、トランスファー及びリボゾーマルRNA、又はそれらの組み合わせを含むRNAが測定される。
【0046】
本発明の方法のより好ましい実施態様では、有機体の生化学的組成が細胞の転写条件を決定することによって、すなわちメッセンジャーRNAの形で測定される場合に決定される。
【0047】
生化学的組成を一緒に提供する測定されたデータのコレクションを生成するために使用されうる有機体の生体分子の測定は好ましくは、並行の生化学的分析法の形で実行される。そのような測定は例えば、細胞の生体分子を分離し、それらを集合的に又は個々にラベル付けし、そしてそれらを定性的に又は定量的に検出することによって実行されうる。
【0048】
この文脈では、細胞の生体分子を分離することは、このようにして分離された生体分子を検出し、そして必要であれば定量化する目的のために、それらの特定の生化学的特徴に基づいて同一の生体分子のグループの物理的分離を意味される。しかしながら、同一の生体分子の様々なグループを物理的に分離することは、必ずしも必要でない。この文脈では、生体分子をラベル付けすることは、検出目的で生体分子の特異的マーカーでの特異的又は非特異的ラベル付けを行い、そして必要であればこのようにしてラベル付けされた生体分子を定量化することを意味する。そのような技術は、当業者に周知である。
【0049】
そのような測定を実行するために、1以上の技術、例えば、
−インシチュー測定技術、例えば核酸プローブテクノロジー及び/又は免疫学的測定技術;これら技術を使用して、様々な細胞の構成要素が、特異的又は非特異的検出技術を使用することによってそれらの事実上の分離無しに、別々に又は個々に測定されることができ、その適合性は検出されるべき物質に依存する;
−電気泳動の及び/又はクロマトグラフの測定技術;これら技術を使用して、細胞の構成要素が、なかんずくサイズ、重量、荷電、変性に対する感受性に基づいて分離されることができ、その後検出が、特異的又は非特異的検出技術を使用することによって生じることができ、その適合性は検出されるべき物質に依存する;
マイクロアレイ及び/又はDNAバイオチップ技術;これら技術を使用して生化学的構成要素が、表面固定された結合パートナーのアフィニティに基づいて分離され、その後検出が、特異的又は非特異的検出技術を使用することによって生じることができ、その適合性は検出されるべき物質に依存する。
【0050】
上記技術と協力して適用されうる適切な検出技術は、オートラジオグラフの検出技術、蛍光、ルミネセンス若しくは燐光に基づく検出技術、又は発色体の検出技術を含む。これら検出技術は、生体分子の検出の当業者において知られている。
【0051】
好ましくは、本発明の方法において、有機体の転写条件は、核酸プローブ又は核酸模倣プローブのアレイへのハイブリダイゼーションを含む技術を使用することによって測定される。
【0052】
有機体の転写条件を決定するために、トータルRNA及びmRNAの両方を含むRNAは、該有機体の1以上の細胞から分離されうる。mRNAを分離することが可能な全てのRNA単離方法は、そのような単離手順のために使用されうる(例えば、Ausubel等、1987-1993頁、Current Protocolsin Molecular Biology、John Wiley & Sons. Inc. NewYorkを参照)。多数のサンプルは、当業者に知られた方法、例えばChomczynskiのシングル-ステップ単離プロセス(1989年、米国特許第4,843,155号)を使用することによって処理されうる。
【0053】
転写物(遺伝子情報を解読する際の最初のステップであるRNAコピー)は、異なるように発現される遺伝子のRNAを表わし、当業者に知られた様々な方法を使用することによって様々なサンプルにおいて識別されうる。例えば、ディファレンシャルスクリーニング(Tedder等、1988年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第85巻:第208〜212頁)、サブトラクティブハイブリダイゼーション(Hedrick等、1984年、Nature、第308巻:第149-153頁;Lee等、1984年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第88巻:第2825頁)、ディファレンシャルディスプレイ(Liang & Pardee、1992年、Science、第257巻:第967-971頁;米国特許第5,262,311号)、発現断片配列(EST,expressed sequence tag)(Adams等、1991年、Science、第52巻:第1656頁)、遺伝子発現の連続分析(SAGE,serial analysis of gene expression)(Kinzler等、米国特許第5,695,937号)又はcDNA AFLP(Vos等、1995年、Nucleic Acids Res.、第23巻、第4407-14頁)技術が使用されうる。
【0054】
次に、そのような異なるように発現される遺伝子の識別は、有機体が受け取る刺激のタイプを示す特定の(レベルの)mRNA種の存在を迅速な様式において決定するために使用されうる特異的マーカー又はラベルを設計するために使用されうる。
【0055】
有機体における様々なmRNA分子を測定するために、mRNAは好ましくは、相補DNA(cDNA)へと最初に転化され、そのために公知の技術、例えばmRNAが逆転写酵素を使用することによってcDNAに転化されるならば逆転写のような既知の技術が当業者に自由に使われる。任意的に、RNAのcDNAへの転化は、任意的に、ネスト化された、多重化された又は非対称のフォーマットにおいて、PCR(Mullis、1987年、米国特許明細書第4,683,195号、第4,683,202号及び第4,800,159号)によって、又はリガーゼ連鎖反応(Barany、1991年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第88巻:第189〜193頁;欧州公開特許公報第320,308号)、自己持続配列複製(3SR:self sustained sequence replication)(Guatelli等、1990年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第87巻:第1874〜1878頁)、ストランド置換増幅(SDA:strand displacement amplification)(米国特許明細書第5,270,184号及び第5,455,166号)、転写増幅システム(Kwoh等、Proc. Natl.Acad. Sci. USA、第86巻:第1173〜1177頁)、Q−ベータレプリカーゼ(Lizardi等、1988年、Bio/Technology第6巻:第1197頁)、ローリングサークル増幅(RCA:Rolling Circle Amplification)又は核酸を増幅するための何らかの他の方法を使用することによって、cDNAの増幅と結びつけられる。代替の方法では、RNAがまた直接的に使用され又は、入手可能なRNA増幅方法、例えば核酸配列に基づく増幅(NASBA:Nucleic Acid Sequence-BasedAmplification)(L. Malek等、1994年、Meth. Molec. Biol.、第28巻、第36章、Isaac PG編集、Humana Press, Inc.、Totowa, N. J.)又は転写介在された増幅(TMA:Transcription Mediated Amplification)を使用することによって、使用前に増幅されうる。
【0056】
核酸アレイを使用することによって遺伝子情報を得るための方法は、当業者に周知である(なかんずくChee等、1996年、Science第274巻(5287):第610〜614頁を参照)。
【0057】
本発明に従う方法では、DNAマイクロアレイの適用が好ましい。オリゴヌクレオチドのそのようなアレイは例えば、或るmRNAに又は遺伝的マーカーに特異的であるDNA配列を含む。特に、該アレイは、機能的遺伝的単位のための結合パートナー、例えば機能的遺伝的分析後に識別される一時的な(予測された)オープンリーディングレーム(ORF)からのみ構成されているわけではないことが好ましい。むしろ、該アレイは、ゲノムの本質的に全ての部分、好ましくはmRNAとして発現されるゲノムの全ての部分にハイブリダイズすることが出来る核酸結合パートナーから構成されるランダムアレイとして生産される。好ましいマイクロアレイは、分析されるべき有機体の本質的に完全なDNAのバラバラの断片を含む。次に、そのようなアレイの有利点は、化学化合物の効果がまた、未だ識別されていない、すなわちそれについてORFが試験有機体のゲノム中に存在することが知られていない代謝的機能について検出されうることである。無作為に生成された核酸断片を有するマイクロアレイを使用することの追加的な有利点は、該方法がまた、その機能的ゲノムが調査されていない又はほとんど調査されていないところの有機体で実行されうることである。
【0058】
微生物の種(例えば、S. aureus)のゲノム全体の表現(representation)を含むアレイを作るために、1つの種のゲノムライブラリー又は有機体の混合されたゲノムライブラリーが例えば、該種の幾つか(2〜20株、例えば該種の8株)(例えば、8つのS. aureus株)のゲノムDNA(gDNA)を混合することによって作られうる。そのような混合においてアセンブルされた該株は例えば、種々の抗生物質耐性プロファイル(感受性のスペクトル)を示すことに基づき、好ましくは抗生物質耐性の既知のタイプのほとんどをカバーして、選択されうる。さらに、該株は例えば、(例えば、単離されたgDNAのアガロースゲル分析によって決定されるように)大量のプラスミドを有しないことに基づき選択されうる。
【0059】
微生物の1種のゲノム全体の表現を含むアレイを調製するために、gDNA又はgDNA混合物が例えば、超音波処理によって剪断されることができ、そして個々の断片が例えば、電気泳動法によって、例えばアガロースゲル上で分離されうる。次に、適切なサイズ(例えば、ほぼ1〜3kb)のDNA断片が切り取られ、そして単離され/精製されうる(例えば、ガラスミルク(glass-milk)に結合することを介して)。次に、単離されたDNA断片は、適切なベクター、例えば細菌性プラスミド内に効率的なクローニングを容易にするために前処理されうる。該クローニングは一般に、ベクター内に該断片をライゲーションすること及び宿主細胞を形質転換すること、そして個々のクローンを再生して単離することを含む。次に、各クローンからのゲノム挿入物が、マイクロアレイ上でゲノムプローブとして使用されうる。該プローブは、ベクター特異的挿入物増幅プライマーでのPCR増幅、好ましくはマイクロアレイ上の様々なPCR増幅生成物の効率的なスポッティング(例えば、ガラス上で)のために、一端で固定化可能なグループを含むプライマーを使用することによって得られうる。
【0060】
DNAマイクロアレイは、当業者に知られている方法によって作られうる。特定の核酸配列の検出のためのDNAマイクロアレイの製造及び使用は、多く記載されている(米国特許明細書第5,571,639号;Sapolsky等、1999年、Genet. Anal. -Biomolecular Eng. 第14巻、第187〜192頁;Shena等、1995年、Science、第270巻、第467〜470頁;Sheldon等、1993年、Clinical Chem.、第39巻、第718〜719頁;Fodor等、1991年、Science、第251巻、第767〜773頁)。
【0061】
当業者は、彼ら自身の設計に対するアレイ及び専門の供給者からの付随する読み取り装置を生産し又は取得することができる(例えば、DNAアレイについて、Affymetrix Corp.、サンタクララ、カリフォルニア州、米国、及びプロテインチップアレイについて、Ciphergen Biosystems、フレモント、カリフォルニア州、米国)。
【0062】
化学化合物への曝露前後の生化学的組成を比較すること及び、対照処理で一般試験影響を訂正することによって、その特定の化学化合物に関連する該有機体の生化学的応答プロファイルが得られうる。多数のそのような生化学的応答プロファイルはデータベース内に格納されることができ、従って測定の結果(新しい生化学的応答プロファイル)は、入手可能なデータと容易に比較されうる。その結果、該データベースそれ自身はサイズ及び詳細において増大し、次回の実験のよりよい解釈のために役立つ。
【0063】
データベースにおける生化学的応答プロファイルの幾つか又は全てを新しく得られた生化学的応答プロファイルでクラスター化し、又はデータベースにおける生化学的応答プロファイルの幾つか又は全てのクラスター化の或るタイプを定義する数学的関係を計算機的分析によって定義し、次にクラスター化の該タイプにおける個々のプロファイルの位置を定義する数式を定義し、そしてその数式を新しく得られた生化学的応答プロファイルに適用することによって、人は、既知のプロファイルの間における、該新しく得られた生化学的応答プロファイルのクラスター化された位置を決定しうる。該クラスター化位置が既知のクラスター、すなわち影響をうけるその作用様式、ターゲット、細胞過程、又は何らかの他の分類可能な特徴が知られているところの参照化合物を含むクラスターの中である場合、次に人は、それで該新しく得られた生化学的応答プロファイルがそれを用いて得られたところの該化合物にその同じ特徴を割り当てうる。
【0064】
データベースのこの予測的な特徴又は一般にこの分類スキームを強くするために、該特徴の存在が経験的に決定されうる。
【0065】
新しく得られた生化学的応答プロファイルのクラスター化された位置が既知のクラスターの外である場合、次に人は、その化合物に特徴を割り当てることができず、該化合物はなお、本質的に及び有機体の細胞に対するその効果の局面の両方で、潜在的に未知の特徴を有する。従って、そのような化合物は研究の興味或る対象を成し、及び細胞に対するそれらの効果はより詳細に分析されうる。
【0066】
原則として、分析の任意のタイプが、そのような化合物によって影響されるターゲット、作用様式又は細胞過程におけるより多くの洞察を得るために実行されうる。
【0067】
本発明は、抗生物質化合物の作用様式が分析されるところの一つのそのような方法をいま提供する。該分析は、該化合物で生成される転写応答プロファイルの分類スキームにおけるクラスター化された位置の決定で始まる。新しい作用様式を分析するために、該化合物は、そのクラスター化された位置が参照応答プロファイルの何らかの既知のクラスターの外である転写応答プロファイルを生成すべきである。本質的に既知の、しかしまだ分析されていない作用様式を分析するために、該化合物は、そのクラスター化された位置が参照応答プロファイルの既知のクラスターの中であるところの転写応答プロファイルを生成すべきである。該クラスター化された位置が参照応答プロファイルの既知のクラスターに対応するかどうか又は参照応答プロファイルの何らかの既知のクラスターの外であるかどうかに関係なく、転写応答プロファイルは、該化合物への試験有機体の曝露の結果としてメッセンジャーRNAのプール内で生じた変化を示す。すなわち、幾つかの遺伝子の発現は、曝露の結果として影響され、そして強度において実質的に増加され又は減少されるマイクロアレイ上のスポットを決定することによって、該影響される遺伝子が識別されうる。その発現が影響される全ての遺伝子が、該化合物の作用様式の解析に等しく関連付けられるとは限らないだろう。代わりに、特定の実験状態及び対照状態の間の相違(例えば、主成分分析よって識別されうる)を主に決定する遺伝子であろうクラスター化された位置を特徴付けるそれらの遺伝子が、主に重要である。特定の過程に関与する複数の遺伝子が影響される場合、影響される遺伝子の組み合わせを解析することによって、人は、抗生物質化合物によって影響される細胞過程、影響される新しい過程を示す何らかの既知のクラスターの外のクラスター化された位置を推論しうる。一つの細胞過程に関与される多くの遺伝子の発現が、試験された該化合物の影響下で変化されることを分析が示す場合、これは該過程が該化合物によって影響されることを指すだろう。例えば、タンパク質合成に関与する遺伝子は、タンパク質合成の細胞過程が影響されることを示し、作用様式が細胞のタンパク質合成の妨害であることを示す。他の指標は、1つの化合物への特定の応答を示すが他の処理又は化合物への特定の応答を示さない遺伝子だろう。
【0068】
さらにさらなる局面において、本発明は、抗生物質化合物の分子ターゲットを識別する方法を提供する。そのような方法における第一ステップは、上記された抗生物質化合物の作用様式(既知のクラスターの中のクラスター化された位置)を分析する方法の実行、又は上記された抗生物質化合物の新しい作用様式(既知のクラスターの外のクラスター化された位置)を識別する方法の実行である。そのような方法は、影響される細胞過程を示す。該影響される過程を特徴付ける或る重要な酵素又は他の細胞性成分が、抗生物質化合物によって影響される潜在的分子ターゲットのグループを形成することに注目される。引き続き、人は、抗生物質化合物の分子ターゲットを識別するために、例えば酵素定量の方法において抗体ラベルを使用することよって、そのグループにズームインしうる。
【0069】
本発明はまた、新しい代謝経路を識別する方法を提供する。本質的に、この方法は、上記された化学化合物を分類し、そしてクラスター化された位置が何らかの既知の参照応答プロファイルの外であることを該化合物について決定する方法の実行を含む。このようにして、該化合物に対する細胞の応答が他の化合物で以前に見られなかったことが確立される。次に、該化学化合物によって影響される細胞過程が、上記された該化合物の新しい作用様式を識別する方法を本質的に使用することによって決定される。該細胞過程が、影響されると以前に知られていない過程である場合、該過程は新しい代謝経路を含むだろう。
【0070】
実施例
【実施例1】
【0071】
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)のRNA発現を測定することによる抗生物質処理の決定
本試験設計では、シュードモナス・プチダS12株が、高用量の種々の抗生物質に曝露された。夫々は、そのような抗生物質化合物について知られているMIC値(最小阻止濃度)よりもはるかに高い濃度で投与された。細胞が固定化され、その後RNAが該細胞から単離された。該単離されたRNAは、シュードモナス・プチダS12からのゲノムDNA断片で覆われたアレイ上でハイブリダイズされた。データ分析は、正規化及び主成分分析(PCA)に従う分析を含んだ。該テストは2回行われ、そして1回繰り返された。
【0072】
細菌株及び成長条件
シュードモナス・プチダS12純粋培養物は、トリプトン・ソイ・アガー(TSA、Oxoid)上に播き、引き続き30℃で20時間のインキュベーションによって得られた。この後、該株は、予備蓄積を得るために、TSB中、30℃で1日間成長された。
【0073】
抗生物質処理
抗生物質処理の結果として特定の生理学的状態にあるシュードモナス・プチダS12培養物は、三角フラスコ中50mlの新鮮なTSB培地中で20倍にシュードモナス・プチダS12の一晩蓄積(35℃)を希釈することによって得られた。このようにして50mlの4つの同時培養物が生産され、これは35℃でほぼ0.5のOD660まで成長することがほぼ7時間許された。これは、30分毎に一つの培養物のOD660を測定することによって確認された。OD660が0.5であったときに、2つの他の培養物が抗生物質処理に付された(この実験において使用された化合物は、エリスロマイシン、テトラサイクリン、コリスチン及び硫酸ポリミキシンBだった)。他の培養物は、対照処理として維持された。10分間後、3つのインキュベートされた培養物からの細胞がクエンチングされ、そしてRNA単離のために収穫された。
【0074】
エリスロマイシン及びコリスチンは、幾つかの独立した実験において試験された。
【0075】
RNA単離
培養物中の代謝活性のクエンチングが、−40℃で維持された冷60%メタノール溶液のかく拌された溶液中に10mlの培養物をスプレーすることによって達成された(基本的に、W. de Koning & K. van Dam 1992年、Anal. Biochem.、第204巻:第118〜123頁に記載されている)。次に、該細胞は、4500g、−20℃で10分間遠心分離によってペレット化された。該ペレットは、−45℃でさらに処理されるか或いは−80℃で保存された。RNAは、Chin-Yi & Wilkins(1994年、Anal. Biochem.、第223巻:第7〜12頁)によって記載されたように本質的に単離された。2mlのスクリューキャップ付エッペンドルフチューブは、0.4gのジルコニウムビーズ及び0℃の500μlのトリゾール(Invitrogen、GibcoBRL)を入れられた。細胞ペレット(−45℃)は、37℃で450μlのホウ酸塩バッファ(Chin-Yi & Wilkins、1994年)中に再懸濁され、次にビーズ及びトリゾールを入れられたエッペンドルフチューブに添加され、手で混合され、そして氷上に置かれた。該細胞は、ビードビーター(Beadbeater)(Biospec Products)中で60秒間それらを振動することによって壊された。該懸濁物は氷上に置かれ、その後100μlのクロロホルムが添加され、ボルテックスされ、次に室温で12,000gで遠心分離された。水相は、純粋な水相を得るために、500μlのフェノール/クロロホルム(1/1)を使用し、次に中間の遠心分離を伴いクロロホルムを使用して抽出された。該水相に、0.4体積のイソプロパノールが添加され、そして0.4体積の0.8Mクエン酸ナトリウム、1.2M塩化ナトリウムが混合され、そして10分間氷上で冷やされた。その後、RNAが4℃で20,000gで遠心分離によってペレット化された。該ペレットは、−20℃の70%エタノールで洗われ、そして遠心分離(4℃で20,000g)後、真空下で乾燥された。該ペレットは、100μlの水中に溶解された。
【0076】
マイクロアレイの構築
シュードモナス・プチダS12における遺伝子発現のゲノム全体の分析を可能にするために、この有機体のゲノムバンクが作成された。この目的のために、50マイクログラムのゲノムDNAが、20%グリセロールを有するTEバッファ中に取り込まれ、そしてネブライザー中1バールで30秒間剪断された。平均断片サイズは、ゲル電気泳動によって2〜3kbと見積もられた。沈殿後、末端が、T4DNAポリメラーゼ、クレノウ(Klenow)ポリメラーゼ及びdNTPの存在下で平滑にされた。酵素の熱不活性化後、該末端がT4ポリヌクレオチドキナーゼを使用してホスホリル化された。熱不活性化後、該混合物は、アガロースゲル上で再び分離され、そして2〜3kb間の断片がゲルから切り出され、そしてQiagenゲル抽出キットを使用して精製された。このようにして得られた該断片は、「クローンスマート平滑クローニングキット(Clone Smart Blunt cloning kit)」プロトコル(Lucigen Corp.)に従いベクターpSMART中にライゲーションされた。このライゲーション混合物の一部が、大腸菌ElectroMax DH10B細胞(Invitrogen)中に形質転換され、そしてアンピシリンプレート上に播かれた。コロニーピッカーを使用して、これらコロニーが取られ、そして96穴のマイクロタイタープレート内に移された。37℃で一晩成長後、グリセロールが、15%の最終濃度まで添加され、そして該グリセロールストックが−80℃で保存された。
【0077】
このバンクからのゲノム挿入物は、96穴PCRプレート中でPCR増幅を使用して増幅された。この目的のために、下記の成分が一緒にされた:5マイクロリットルの10×SuperTaqバッファ;5マイクロリットルの2mMdNTP(Roche Diagnostics);1マイクロリットルのプライマーL1;1マイクロリットルのプライマーR1;37マイクロリットルのMQ水;1マイクロリットルのグリセロールストック;1.5UのSuperTaqポリメラーゼ。プライマーL1は、下記の塩基配列を有する:5'-CAG TCC AGT TAC GCT GGA GTC-3'。プライマーR1は、下記の塩基配列を有する:5'-CTT TCT GCT ATG GAG GTC AGG TAT G-3'。両方のプライマーは、5’−末端で遊離のNH基、引き続きC6リンカーを含む。下記のPCRプログラムが、増幅のために使用された:94℃で4分間、;30回(94℃で30秒、50℃で30秒、72℃で3分);72℃で10分間;4℃。
【0078】
該反応に引き続き、該生成物は、丸底96穴プレートに移され、そしてイソプロパノールを使用して沈殿された。このようにして精製された該PCR生成物は、384穴プレートに移され、その中で該DNAは、乾燥までエバポレーション後、10マイクロリットルの3×SSC内に取り込まれた。これらスポットプレートはマイクロアレイスライドに総計5500個のPCR生成物を移すために使用され、マイクロアレイスライド上でそれらは規則正しい且つ順序づけられたパターンでスポットされた。スポット後、これらマイクロアレイはブロックされ、その後それらはハイブリダイゼーション実験における更なる使用のために準備ずみであった。
【0079】
RNAをラベル付け
トータルRNAの蛍光ラベル付けのために、12.5マイクログラムのRNAが使用された。このRNAに、0.5マイクロリットルのRNAsin、1.25マイクログラムのランダムプライマー(p(dN)6;Roche Diagnostics)及び水が、5マイクロリットルの最終体積まで添加された。この混合物は、70℃で10分間、次に20℃で10分間インキュベーションされ、そして次に氷上に置かれた。次に、下記成分が添加された;0.5マイクロリットルのRNAsin、3マイクロリットルの5X第1ストランドバッファ(SuperScriptII;Life Technologies)、1.5マイクロリットルの0.1M DTT、3マイクロリットルのヌクレオチド混合物(2.5mMのdATP、dCTP、dGTP、1mMのdTTP)、1マイクロリットルのCy5-dUTP又はCy3-dUTP(Amersham Biosciences)及び1マイクロリットルのSuperScriptII酵素(Life Technologies)。混合後、該反応成分は、42℃で2時間インキュベーションされた。次に、該RNAが、95℃で2分間、サンプルを加熱し、それらを簡単に沈降させ、1.5マイクロリットルの新鮮な2.5M NaOHを添加し、そしてこれを56℃で10分間インキュベーションすることによって減成された。1.46マイクロリットルの2.5M酢酸の添加によって、該混合物は中性にされた。この反応混合物は、付属する説明書に従い、Autoseq G50カラム(Amersham Biosciences)での精製によって精製される。この精製後、ラベル付けされた物質の1/10部が分光分析のために別に保存される。
【0080】
プレハイブリダイゼーション/ハイブリダイゼーション/洗浄
ハイブリダイゼーションのための調製において、スライドが、20mlのプレハイブリダイゼーション溶液(0.45マイクロメーターフィルターを介してろ過された1%BSA、5×SSC、0.1%SDS)中のペトリ皿中に置かれ、そして42℃で45分間回転された。次に、該スライドは、フィルター滅菌されたmilliQ水中5回浸積された。次に、該スライドは純粋なmilliQ水で再び洗浄され、その後該スライドはイソプロパノールで5回浸積された。次に、該スライドは窒素ガンを使用して乾燥され、そしてハイブリダイゼーションのために準備ずみであった。
【0081】
一つのハイブリダイゼーションにおいて比較された、Cy5-dUTPで及びCy3-dUTPでラベル付けされたサンプルは、一つのカップ内で一緒にされた。これに、4マイクロリットルの酵母tRNA(25マイクログラム/マイクロリットル)が添加され、その後該混合物は、乾燥までエバポレーションされた。乾燥後、該ペレットは、30マイクロリットルのEasyHyb(Roche Diagnostics)中に取り込まれ、そして変性され(95℃、1.5分)、その後簡単に沈降された。次に、該混合物はプレハイブリダイズされたスライド上にピペットで置かれ、カバー・スリップで覆われ、そしてコーニング・ハイブリダイゼーション・ルーム(Corning Hybridization room)内に持ち込まれ、そして42℃で一晩インキュベーションされた。
【0082】
ハイブリダイゼーション後、該スライドは、ハイブリダイゼーション・ルームから取り出され、そして37℃の20mlの1×SSC/0.2%SDS溶液内に直接的に入れられた。次に、該スライドは、37℃の新鮮な1×SSC/0.2%SDS溶液に移され、該カバー・スリップは最初の洗浄溶液中に残されたままだった。激しいかく拌後、該スライドは、37℃の0.5×SSC洗浄溶液に移され、そして再び十分にかく拌された。次に、該スライドは、0.2×SSC洗浄バッファに移され、そして300rpmで回転台上、20℃で10分間混合された。洗浄バッファを置換後、このステップが繰り返された。次に、該スライドは、Nガンを使用して残留液を吹き飛ばすことによって乾燥された。
【0083】
スキャンニング及び画像分析
洗浄後、該スライドは、暗所で保存され又はスキャンニングのために直接的に使用された。30マイクロメータの解像度でのクイックスキャンは、最適なスキャンニング設定(ScanArray 4000、Perkin Elmer)の選択をもたらした。Cy5及びCy3シグナルの最適なスキャンは、10マイクロメータの解像度で行われ、そして該結果として生じる画像は電子的に保存された。スライドに対応する該画像は、ソフトウェア製品ImaGene(version 4.2、BioDiscovery Inc.)で開かれた。スライド上のDNAサンプルのスポットパターンを表すグリッド及びスポット認識を配置後、シグナル及びバックグラウンドが、スポットあたり計算された。得られたデータは電子ファイルで格納され、そして更なるデータ処理のために使用された。
【0084】
データ前処理
M及びA値(Roberts等、2000年、Science、第287巻、第873〜880頁;Dudoit等、2000年、Statistics, UC Berkeley, Technical reports#578)の計算後、生データがLoess正規化(Cleveland等、1991年、Statistics and Computing、第1(1)巻、第47〜62頁)を使用して正規化され、下記のスポットは考慮されなかった:1)(一つ又は両方のチャンネルにおけるシグナル強度が64000よりも大きい)オーバーロードを有するスポット;2)シグナルよりも大きいバックグラウンドを有するスポット;3)参照スポット;4)画像分析製品によって0と異なるフラッグを割り当てられたスポット。
【0085】
この実験では、全ての実験について良好なシグナルを有することが見つけられたスポットのみが、考慮された。Loess正規化後、個々のアレイ結果が、統一のために正規化された(平方和が1に等しい)。
【0086】
データ分析
次に、該データセットは、主成分分析(PCA)を使用して分析され、平均が選択されたスケーリング方法として中央化された。同等の結果が、種々のサンプリングがそのクラスターの中に存在する情報を使用するかしないかにかかわらず、他のスケーリング方法を使用して又は他の多変量方法を使用して得られうる。
【0087】
結果
シュードモナス・プチダ株S12は、使用された抗生物質の量及び性質に依存して、TSB内で十分に成長する又は成長しないことが見つけられた。抗生物質処理して細胞応答を測定するために、抗生物質処理又は対照処理後のマイクロアレイ上の遺伝子発現パターンの分析が行われた。この目的のために、抗生物質処理の10分後に、該細胞はクエンチングされ、収穫され、そしてマイクロアレイ分析のためにさらに処理された。
【0088】
図4は、実験のセットからのデータがその中で示されるスコアプロットを示す。該図は、様々な実験における抗生物質処理間の明らかな相違を示す。2つの軸は、データセットにおける総変化の合計72%を共に記載する主要成分を示す。
【実施例2】
【0089】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のRNA発現を測定することによる抗生物質処理の決定
本試験設計では、黄色ブドウ球菌ATCC6538株が、高用量の種々の既知の及び未知の抗生物質化合物に曝露された。夫々は、そのような抗生物質化合物について知られているMIC値(最小阻止濃度)よりもはるかに高い濃度で投与された。細胞が固定化され、その後RNAが該細胞から単離された。該単離されたRNAは、黄色ブドウ球菌ATCC6538からのゲノムDNA断片で覆われたアレイ上でハイブリダイズされた。データ分析は、正規化及び主成分分析(PCA)に従う分析を含んだ。該テストは2回行われ、そして1回繰り返された。
【0090】
細菌株及び成長条件
黄色ブドウ球菌ATCC6538純粋培養物は、トリプトン・ソイ・アガー(TSA、Oxoid)上に播き、引き続き37℃で20時間のインキュベーションによって得られた。この後、該株は、予備蓄積を得るために、TSB中、37℃で1日間成長された。
【0091】
抗生物質処理
抗生物質処理の結果として特定の生理学的状態にある黄色ブドウ球菌ATCC6538培養物は、三角フラスコ中40mlの新鮮なTSB培地中で100倍に黄色ブドウ球菌ATCC6538の一晩蓄積(37℃)を希釈することによって得られた。このようにして40mlの幾つかの同時培養物が生産され、これは37℃でほぼ0.5のOD660まで成長することがほぼ3時間許された。これは、30分毎に一つの培養物のOD660を測定することによって確認された。OD660が0.5であったときに、他の培養物が抗生物質処理に付された。この実験において使用された化合物は、エリスロマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、トリメトプリム、ゲンタマイシン、セフタジジン、アクチノマイシン、リファンピシン、シプロフロキサシン、オフロキサシン及びニトロフランチオンだった。また、2つの未知の成長阻止化合物、「box9-e4」及び「box7-x3」が試験された。全ての化合物が、使用の少し前にDMSO中に溶解された。曝露のために使用される濃度は、全ての化合物について、2×MIC値だった。2つの培養物が、純粋のDMSOを添加することによって対照として使用された。10分間後、インキュベートされた培養物からの細胞がクエンチングされ、そしてRNA単離のために収穫された。
【0092】
オフロキサシン、クロラムフェニコール、セフタジジン及びニトロフランチオンが幾つかの独立した実験において試験された。
【0093】
RNA単離
培養物中の代謝活性のクエンチングが、−45℃で、60%メタノール/66.7mM HEPES、pH6.5のかく拌された200mlの溶液中に40mlの培養物をスプレーすることによって達成された(基本的に、W. de Koning & K. van Dam 1992年、Anal. Biochem.、第204巻:第118〜123頁に記載されている)。該細胞は、6000×g、−20℃で20分間遠心分離によってペレット化された。該ペレットは、−45℃で8mlのメタノール/HEPES溶液中に懸濁され、そして4つのエッペンドルフチューブに分けられた。該ペレットは、−45℃でさらに処理されるか或いは−80℃で保存された。4つのエッペンドルフチューブのうちの一つにおける細胞が、6000gで5分間遠心分離によって、4℃でペレット化され、そして0℃で、800μlのトリゾール(Invitrogen、GibcoBRL)中に懸濁された。この懸濁物は、1.5mlのスクリューキャップ付エッペンドルフチューブに加えられ、0.4gの0.1mmジルコニウムビーズを入れられ、手で混合され、そして氷上に置かれた。該細胞は、ビードビーター(Biospec Products)中、最大速度で60秒間それらを振動することによって壊された。該懸濁物は氷上に置かれ、その後160μlのクロロホルムが添加され、ボルテックスされ、次に室温で10分間、7,000×gで遠心分離された。該水相は2mlエッペンドルフチューブに移され、そして等体積の70%エタノールが添加された。混合後、RNA溶液が、Qiagenマニュアルに従いさらなる精製のために、RNeasyカラム(Qiagen)に施与された。該カラムは、20℃で20秒間、8000gで遠心分離され、そして流下液がカラム上に再ロードされた。遠心分離後、該流下液が捨てられ、そして350μlのRW1バッファ(Qiagen)がカラムに施与された。遠心分離後、結合したRNAは、カラムに10μlのDNAse1ストック溶液及び70μlのRDDバッファ(Qiagen)の混合物を添加することによってDNAseI処理に付され、そして37℃で15分間インキュベーションされた。350μlのRW1がカラム上に再び施与され、遠心分離後、該カラムはPPEバッファ(Qiagen)で2回洗浄された。バッファの全ての痕跡を除くために、該カラムは1分間、10,000×gで乾燥遠心分離され、そしてRNAは、カラムに30μlの水を添加することによって溶出された。1分間、10,000×gで遠心分離後、このステップが繰り返され、そして精製されたRNA溶液がラベル付けのために準備ずみであった。RNAの品質及び量を決定するために、サンプルが、バイオアナライザー(BioAnalyzer)(Agilent)で又はゲル電気泳動によって分析された。
【0094】
黄色ブドウ球菌マイクロアレイの構築
黄色ブドウ球菌種のゲノム全体の表現を含むアレイを作成するために、有機体の混合されたゲノムライブラリーが、8つの黄色ブドウ球菌株のgDNAを混合することによって作成された。(a)(抗生物質耐性のほとんどのタイプを共にカバーする)幅広いセットの抗生物質に対する耐性の種々のプロファイルを夫々示し且つ(b)それらの単離されたgDNAのアガロースゲル分析において有意なプラスミドバンドを含まない株が選択された。該gDNA混合物は、ソニケーション(Branson sonifier 450)によってせん断され、そして0.8%アガロースゲルの幾つかのレーンにおいて走査された。DNA断片(ほぼ1〜3kb)は切られ、そしてグラスミルク(Bio101-キット)への結合を介して単離された。該単離された断片は、細菌性プラスミド(pSmartHCkan vector、CloneSmart BluntCloning Kit、Lucigen)内への効果的な(平滑)クローニングを促進するために、DNAターミネーター末端修復キット(DNA-terminator End-repair kit)(Lucigen Corp.)で前処理された。ライゲーション混合物の一部分(1μl)が、エレクトロポレーション(0.1cm-gap cuvettes Eurogentec、BioRad Pulsor、25uF、2オーム、1.6kV)によって25μlの大腸菌細胞(E. cloni 10G supreme electrocompetentcells、Lucigen)に形質転換され、TB培地中で再生され、30μg/mlのカナマイシンを有するTYプレート上に播かれ、そして37℃で一晩成長された。爪楊枝を使用して、コロニーが、96穴のマイクロタイタープレート(32プレート、150μl/穴 30μg/mlカナマイシンを有するTY培地)内に移された。37℃で一晩成長後、グリセロールが添加され(最終濃度15%)、そして該グリセロールストックが−80℃で保存された。
【0095】
該穴プレート内の各コロニーからのゲノム挿入物は、96穴PCRプレート(22枚のプレート)中でPCR増幅を使用して増幅された。PCR反応は、1×SuperTaqバッファ、0.2mMの各dNTP(Roche Diagnostics)、0.4μMの夫々フォワード及びリバースプライマー(ベクター特異的挿入物増幅プライマー)、1.5UのSuperTaq−DNA−ポリメラーゼ及びgDNAバンクの対応する穴からの1μlグリセロールストックを有する50μlの反応混合物/穴を含んだ。両方のプライマーは、プライマーの5’−末端にC6リンカーを介して結合された断片の固定化のための遊離のNH基を含む。下記のPCRプログラムが使用された:94℃で4分、30回(94℃で30秒、50℃で30秒、72℃で3分)、72℃で10分間、そして4℃で浸績された。増幅に引き続き、50μlのPCR生成物が、96穴の丸底プレートに移され、そして150μlのNaAc/イソプロパノール混合物(0.2M NaAc、67%イソプロパノール、夫々最終濃度)を添加することによって沈殿され、1時間、−80℃でインキュベーションされ、回転され(1時間、2.5krpm、4℃)、上清を除去され、そして1μlの70%アルコールで洗浄された。DNAペレットは50μl水/穴中に再懸濁され、384穴プレートに移され、乾燥され(スピード真空)、そして1穴当たり15μlの3×SSCバッファ中に再懸濁された。(2100個の種々のクローンからの)ほぼ2100個の種々のPCR生成物が、マイクロアレイをスポットするために使用された。該PCR生成物は、ESIマイクロアレイプリンターと24 Tele Chem Stealth micro spotting quill-pins(ほぼ100μm直径)を組み合わせて使用して、最大75個の「アルデヒド」で覆われた一連のスライド(Cell Associates)上で2回スポットされた。
【0096】
スポット後、スライド表面は、室温で無水ホウ酸(boro-anhydride)での処理(0.2%SDS中5分を2回、水中5分を2回、100℃の水で2分を1回、無水ホウ酸バッファ(510mlのPBSバッファ及び170mlの1%エタノール中1.7gのNaBH)で10分、0.2%SDS中5分を3回、水中5分を3回、100℃の水中2秒)によってブロックされ、N流下で乾燥された。PBS(phosphate buffered saline)は、6.75mM NaHPO、1.5mM KHPO、140mM NaCl、2.7mM KCl、pH7.0である(1リットル当たり、1.2gのNaHPO、0.2gのKHPO、8.0gのNaCl、0.2gのKCl、pH7.0)。
【0097】
RNAをラベル付け
トータルRNAの蛍光ラベル付けのために、12.5μgの乾燥されたRNAが使用された。このRNAに、0.5μlのRNAsin(40U/μl Promega)、5マイクログラムのランダムプライマー(p(dN)6;Roche Diagnostics)及び水が、5μlの最終体積まで添加された。この混合物は、70℃で5分間、次に20℃で10分間インキュベーションされ、そして氷上に置かれた。下記成分が添加された;0.5μlのRNAsin、2.5μlの5X第1ストランドバッファ(SuperScriptII;Life Technologies)、1μlの0.1M DTT、2μlのヌクレオチド混合物(2.5mMのdATP、dCTP、dGTP、1mMのdTTP)、1μlのCy5-dUTP又はCy3-dUTP(Amersham Biosciences)及び1μlのSuperScriptII酵素(Life Technologies)。混合後、該反応成分は、42℃で2時間インキュベーションされた。該RNAが、2.5μlの新鮮な2.5M NaOHを添加し、そして56℃で15分間これをインキュベーションすることによって減成された。2.5μlの2.5M酢酸の添加によって、該反応混合物は中性にされた。この反応混合物は、製造者の指示書に従い、Autoseq G50カラム(Amersham Biosciences)を使用することによって精製された。この精製後、ラベル付けされた物質の1/10部が分光分析のために別に保存された。
【0098】
プレハイブリダイゼーション/ハイブリダイゼーション/洗浄
ハイブリダイゼーションのための調製において、スライドが、20mlのプレハイブリダイゼーション溶液(0.45マイクロメーターフィルターを介してろ過された1%BSA、5×SSC、0.1%SDS)中のペトリ皿中に置かれ、そして42℃で45分間回転された。大容量のmilliQ水中に1回浸積後、該スライドは、50mlのmilliQ水中で2回洗浄され、そしてNガンを使用して乾燥された。
【0099】
一つのハイブリダイゼーションにおいて比較された、Cy5-dUTPで及びCy3-dUTPでラベル付けされたサンプルは、一つのカップ内で一緒にされた。これに、4μlの酵母tRNA(25μg/μl)が添加され、その後該混合物は、乾燥までエバポレーションされた。乾燥後、該ペレットは、30μlのEasyHyb(Roche Diagnostics)中に溶解され、変性され(95℃、2分)、そして簡単に沈降された。次に、該混合物はプリハイブリダイゼーションされたスライド上にピペットで置かれ、カバー・スリップで覆われ、コーニング・ハイブリダイゼーション・チェンバー(Corning Hybridization Chamber)内に持ち込まれ、そして42℃で一晩インキュベーションされた。
【0100】
ハイブリダイゼーション後、該スライドは、ハイブリダイゼーション・チェンバーから取り出され、そして37℃の50mlの1×SSC/0.2%SDS溶液内に直接的に入れられた。次に、該スライドは、37℃の新鮮な1×SSC/0.2%SDS溶液に移され、該カバー・スリップは最初の洗浄溶液中に残されたままだった。激しいかく拌後、該スライドは、37℃の0.5×SSC洗浄溶液に移され、そして再び十分にかく拌された。次に、該スライドは、0.2×SSC洗浄バッファに移され、そして300rpmで回転台上、20℃で10分間混合された。洗浄バッファを置換後、このステップが繰り返された。次に、該スライドはNガンを使用して、残留液を吹き飛ばすことによって乾燥された。
【0101】
スキャンニング及び画像分析、データ前処理及びデータ分析は、本質的に実施例1に記載された通りだった。
【0102】
結果
黄色ブドウ球菌ATCC6538は、使用された抗生物質の量及び性質に依存して、TSB内で十分に成長する又は成長しないことが見つけられた。抗生物質処理して細胞応答を測定するために、抗生物質処理又は対照処理後にマイクロアレイ上の遺伝子発現パターンの分析が作られた。この目的のために、抗生物質処理の10分後に、該細胞はクエンチングされ、収穫され、そしてマイクロアレイ分析のためにさらに処理された。
【0103】
図5は、実験のセットからのデータがその中で示されるスコアプロットを示す。該図は、様々な実験における抗生物質処理間の明らかな相違を示す。2つの軸は、データセットにおける総変化の合計72%を共に記載する主要成分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】基本的に請求項1に記載された化学化合物のための分類スキームを作る方法のフローチャートを示す。
【図2】基本的に請求項9に記載された化学化合物を分類する方法のフローチャートを示す。
【図3】基本的に請求項10に記載された作用様式に従い抗生物質化合物を分類する方法のフローチャートを示す。
【図4】実施例1に記載された実験からのデータがその中で描かれているところのスコアプロットを示す。
【図5】実施例2に記載された実験からのデータがその中で描かれているところのスコアプロットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学化合物のための分類スキームを作る方法であって、有機体を多数の個々の化学化合物に1世代時間未満の期間曝露することによって決定される有機体の生化学的応答プロファイルを類似性に従いクラスター化することを含む方法。
【請求項2】
該有機体の代謝が曝露時間の直後にクエンチングされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
類似性に従いクラスター化することが、主成分分析を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
化学化合物が哺乳類の細胞に対して細胞毒でない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
有機体が該個々の化学化合物に対して感受性である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
化学化合物が抗生物質化合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
該多数の個々の化学化合物が既知の作用様式を有する参照化合物を含み、該プロファイルが作用様式における類似性に従いクラスター化された参照応答プロファイルである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法によって得られる、化学化合物のための分類スキーム。
【請求項9】
化学化合物を分類する方法であって、
a)請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法を実行することによって、化学化合物のための分類スキームを用意するステップと、
b)有機体を該化学化合物に曝露するステップと、
c)該有機体の生化学的応答プロファイルを決定するステップと、
d)該スキームにおいて該生化学的応答プロファイルのクラスター化された位置を決定するステップと
を含む方法。
【請求項10】
作用様式に従い抗生物質化合物を分類する方法であって、
a)請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法を実行することによって化学化合物のための分類スキームを用意するステップであって、該化学化合物が抗生物質化合物であり、該多数の個々の化学化合物が既知の作用様式を有する参照化合物を含み、該プロファイルが作用様式における類似性に従いクラスター化された参照応答プロファイルであるところのステップと、
b)有機体を該抗生物質化合物に曝露するステップと、
c)該有機体の生化学的応答プロファイルを決定するステップと、
d)該スキームにおいて該生化学的応答プロファイルのクラスター化された位置を決定するステップと、
e)該抗生物質化合物に参照応答プロファイルの対応するクラスターの作用様式を割り当てる、又は該位置が参照応答プロファイルの何らかの既知のクラスターの外である場合、該抗生物質化合物に新しい作用様式を割り当てるステップと
を含む方法。
【請求項11】
抗生物質化合物の作用様式を解析する方法であって、
a)請求項10に記載の抗生物質化合物を分類する方法を実行するステップであって、該生化学的応答プロファイルが転写応答プロファイルであり、それによって該抗生物質化合物について該転写応答プロファイルのクラスター化された位置を決定するステップと、
b)その発現が該抗生物質化合物への曝露によって実質的に影響され且つそれが該クラスター化された位置を特徴付けるところの該有機体の遺伝子を該転写応答プロファイルから識別するステップと、
c)該抗生物質化合物によって影響される細胞過程を該遺伝子の該識別から決定するステップと
を含む方法。
【請求項12】
抗生物質化合物の新しい作用様式を識別する方法であって、
a)請求項10に記載の抗生物質化合物を分類する方法を実行するステップであって、該生化学的応答プロファイルが転写応答プロファイルであるところのステップと、
b)その対応する転写応答プロファイルが参照応答プロファイルの何からの既知のクラスターの外のクラスター化された位置を有するところの抗生物質化合物を選択するステップと、
c)その発現が該選択された抗生物質化合物への曝露によって実質的に影響され且つそれが該クラスター化された位置を特徴付けるところの該有機体の遺伝子を該選択された化合物の該転写応答プロファイルから識別するステップと、
d)該選択された抗生物質化合物によって影響される細胞過程を該遺伝子の識別から決定し、それによって新しい作用様式を識別するステップと
を含む方法。
【請求項13】
抗生物質化合物の分子ターゲットを識別する方法であって、
a)請求項11又は12に記載の方法を実行するステップと、
b)該抗生物質化合物によって影響される該細胞過程を特徴付ける潜在的な分子ターゲットのグループを選択するステップと、
c)該グループにおいて該抗生物質化合物の分子ターゲットを識別するステップと
を含む方法。
【請求項14】
新しい代謝経路を識別する方法であって、
a)請求項9に記載の方法を実行するステップであって、該生化学的応答プロファイルが転写応答プロファイルであり、該多数の個々の化学化合物が既知の作用様式を有する参照化合物を含み、該プロファイルが作用様式における類似性に従いクラスター化された参照応答プロファイルであるところのステップと、
b)その対応する転写応答プロファイルが参照応答プロファイルの何からの既知のクラスターの外のクラスター化された位置を有するところの化学化合物を選択するステップと、
c)その発現が該化学化合物への曝露によって実質的に影響され且つそれが該クラスター化された位置を特徴付けるところの該有機体の遺伝子を該転写応答プロファイルから識別するステップと、
d)該化学化合物によって影響される細胞過程を該遺伝子の識別から決定し、それによって新しい代謝経路を識別するステップと
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−513606(P2007−513606A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535290(P2006−535290)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000719
【国際公開番号】WO2005/035782
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(502015784)ネーデルランドセ オルガニサティエ フォール トエゲパストナトールヴェテンシャッペリク オンデルゾエク ティエヌオー (41)
【Fターム(参考)】