説明

化学反応装置

【課題】
複数のウェル中で化学反応を同時に実施可能な化学反応装置を提供する。
【解決手段】
それぞれ通水孔が設けられた複数のウェル50A, 50B, 50C…を有する基板5、複数の溶液槽100A, 100B, 100C, 100D、基板5を移動して複数のウェル50A, 50B, 50C…を複数の溶液槽100A, 100B, 100C, 100Dのそれぞれの内部の溶液に順次浸し、複数のウェル50A, 50B, 50C…のそれぞれに、通水孔を介して、複数の溶液槽100A, 100B, 100C, 100Dのそれぞれの内部の溶液を順次導入する駆動装置30を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学反応の操作技術に関し、特に化学反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応や生化学反応は複数の手順を必要とするため、人手によらず、装置により自動化されることが望まれている(例えば、特許文献1参照。)。そのため従来より、化学反応の一連の手順を自動化する化学反応装置が提案されてきた。しかし従来の化学反応装置は、シリンジ等を用いて複数のウェルに順次溶液を注入していたので、複数のウェルで化学反応を同時に実施することが不可能であった。
【特許文献1】特開平8-292136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、複数のウェル中で化学反応を同時に実施可能な化学反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の特徴は、(イ)それぞれ通水孔が設けられた複数のウェルを有する基板と、(ロ)複数の溶液槽と、(ハ)基板を移動して複数のウェルを複数の溶液槽のそれぞれの内部の溶液に順次浸し、複数のウェルのそれぞれに、通水孔を介して、複数の溶液槽のそれぞれの内部の溶液を順次導入する駆動装置とを備える化学反応装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、複数のウェル中で化学反応を同時に実施可能な化学反応装置を提供可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0007】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る化学反応装置は、図1に示すように、それぞれ通水孔が設けられた複数のウェル50A, 50B, 50C…を有する基板5、第1の溶液槽100A、第2の溶液槽100B、第3の溶液槽100C、第4の溶液槽100D、及び基板5を移動して複数のウェル50A, 50B, 50C…を第1乃至第4の溶液槽100A〜100Dのそれぞれの内部の溶液に順次浸し、複数のウェル50A, 50B, 50C…のそれぞれに、通水孔を介して、第1乃至第4の溶液槽100A〜100Dのそれぞれの内部の溶液を順次導入する駆動装置30を備える。
【0008】
図2及びA-A方向から見た断面図である図3に示すように、複数のウェル50A, 50B, 50C…は基板5に周期的に設けられている。また図3に示すように、ウェル50Aは底面52Aと側面54Aを備え、ウェル50Bは底面52Bと側面54Bを備え、ウェル50Cは底面52Cと側面54Cを備える。ウェル50Aの底面52Aには、図4に示すように、複数の通水孔55A, 55B, 55C…が設けられている。なお図5に示すように、ウェル50Aの底面52Aをフィルタで構成することによって、複数の通水孔55A, 55B, 55C…を設けてもよい。他のウェル50B, 50Cの底面52B, 52Cの底面にも、複数の通水孔が設けられている。基板5、ウェルの側面54A, 54B, 54C…、及び底面52A, 52B, 52C…は、例えば四フッ化エチレン樹脂(PTFE)等の試薬耐性がある材料から成る。
【0009】
図1乃至図3に示す複数のウェル50A, 50B, 50C…のそれぞれには、例えば複数のセファロースビーズが充填される。セファロースビーズの表面には、抗体、抗原、受容体、あるいはリガンド等の生体分子が固定される。またセファロースビーズの表面には、合成試薬が固定されてもよい。ここでは、セファロースビーズの表面に抗体が結合されるものとして説明する。セファロースビーズの直径は、複数のウェル50A, 50B, 50C…のそれぞれの底面に設けられた通水孔の直径よりも大きい。
【0010】
図1に示す第1乃至第4の溶液槽100A〜100Dは、ステージ10上に配置される。例えば第1の溶液槽100Aには、複数のウェル50A, 50B, 50C…のそれぞれに充填されたセファロースビーズ上の抗体に結合する抗原を含むサンプル溶液が注がれる。第2の溶液槽100Bには、例えば複数のウェル50A, 50B, 50C…のそれぞれの内部を洗浄するための洗浄バッファ(10m mol/l Tris-HCl, pH7.4)が注がれる。第3の溶液槽100Cには、例えば複数のウェル50A, 50B, 50C…のそれぞれの内部の抗体にトラップされた抗原を溶出するための溶出バッファ(0.1m mol/l グリシン-HCl, pH2.7)が注がれる。第4の溶液槽100Dは、複数のウェル50A, 50B, 50C…から排出される溶出液を回収するために用いられる。また、例えばステージ10内部に、第1乃至第4の溶液槽100A〜100Dのそれぞれの内部の溶液の温度を調節する温度調節装置を配置してもよい。
【0011】
駆動装置30は、例えば図6に示すように、基板5をまず第1の溶液槽100Aの上方に移動する。次に駆動装置30は、図7に示すように、基板5を第1の溶液槽100Aに向けて下降させ、複数のウェル50A, 50B, 50C…を第1の溶液槽100A内のサンプル溶液に浸す。これにより、通水孔を介して複数のウェル50A, 50B, 50C…内部にサンプル溶液が侵入し、サンプル溶液中の抗原が、抗体と特異的に結合する。その後、駆動装置30は基板5を第1の溶液槽100Aから上昇させる。上昇後、加圧装置により上方から複数のウェル50A, 50B, 50C…内部に気圧を加え、複数のウェル50A, 50B, 50C…の内部のサンプル溶液を、通水孔から排出してもよい。
【0012】
次に駆動装置30は、例えば図8に示すように、基板5を第2の溶液槽100Bの上方に移動する。さらに駆動装置30は、図9に示すように、基板5を第2の溶液槽100Bに向けて下降させ、複数のウェル50A, 50B, 50C…を第2の溶液槽100B内の洗浄バッファに浸す。これにより、通水孔を介して複数のウェル50A, 50B, 50C…内部に洗浄バッファが侵入し、抗体と未反応の抗原が洗浄される。その後、駆動装置30は基板5を第2の溶液槽100Bから上昇させる。上昇後、加圧装置により上方から複数のウェル50A, 50B, 50C…内部に気圧を加え、複数のウェル50A, 50B, 50C…の内部の洗浄バッファを、通水孔から排出してもよい。
【0013】
次に駆動装置30は、例えば図10に示すように、基板5を第3の溶液槽100Cの上方に移動する。さらに駆動装置30は、図11に示すように、基板5を第3の溶液槽100Cに向けて下降させ、複数のウェル50A, 50B, 50C…を第3の溶液槽100C内の溶出バッファに浸す。これにより、通水孔を介して複数のウェル50A, 50B, 50C…内部に溶出バッファが侵入する。溶出バッファにより、抗体から抗原が遊離する。
【0014】
次に駆動装置30は、例えば図12に示すように、基板5をまず第4の溶液槽100Dの上方に移動する。さらに駆動装置30は、図13に示すように、基板5を空の第4の溶液槽100Dに向けて下降させる。下降後、加圧装置により上方から複数のウェル50A, 50B, 50C…内部に気圧を加え、複数のウェル50A, 50B, 50C…の内部の溶出バッファを、通水孔から排出することにより、精製された抗原が第4の溶液槽100Dに回収される。
【0015】
以上示したように、第1の実施の形態に係る化学反応装置によれば、複数のウェル50A, 50B, 50C…中で、抗体抗原反応等の化学反応を同時に進めることが可能となる。従来の化学反応装置においては、複数のウェルに通水孔が設けられておらず、シリンジ等を用いて、複数のウェルに順次溶液を注入し、あるいは複数のウェル内の溶液を順次吸引していた。そのため、ウェルごとに反応が開始する時間が異なり、また総てのウェルでの反応が終了するまでに時間がかかるという問題があった。また多数のシリンジを用意する方法や、電磁弁等を用いて複数のウェルに溶液を同時に供給する方法もあったが、装置が複雑になるという問題があった。これに対し、第1の実施の形態に係る化学反応装置によれば、装置を複雑化することなく、複数のウェル50A, 50B, 50C…中で、化学反応を同時に進めることが可能となる。
【0016】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態においては、図1に示す複数のウェル50A, 50B, 50C…の総てで同一の抗体抗原反応が進行する。これに対し、第2の実施の形態においては、図14に示すように、第1の溶液槽120Aの内部に仕切り125を設け、第1の溶液槽120Aの内部に異なるサンプル溶液が注がれる。これにより、異なる抗体抗原反応を、同時に進行することが可能となる。第2の実施の形態に係る化学反応装置のその他の構成要素は、図1と同様であるので、説明は省略する。
【0017】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明を実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。例えば第1の実施の形態において、図4に示すウェル50Aの底面52Aに複数の通水孔55A, 55B, 55C…が設けられていると説明したが、ウェル50Aの側面54Aに通水孔が設けられていてもよい。また第1乃至第4の溶液槽100A〜100Dのそれぞれの内部に、DNA合成試薬を含む溶液を注ぎ、複数のウェル50A, 50B, 50C…内に充填された担体上で、DNAを合成してもよい。あるいは複数のウェル50A, 50B, 50C…の内部にゲルを充填し、ゲル内部で酵素等によりタンパク質を分解してもよい。さらに化学反応装置は、複数の通水孔55A, 55B, 55C…から溶液を吸引する吸引装置を備えていてもよい。以上示したように、この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明からは妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る化学反応装置の模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る基板の上面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る基板の断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るウェルの底面の第1の模式図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るウェルの底面の第2の模式図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る化学反応装置の動作を示す第1の模式図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る化学反応装置の動作を示す第2の模式図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る化学反応装置の動作を示す第3の模式図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る化学反応装置の動作を示す第4の模式図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態に係る化学反応装置の動作を示す第5の模式図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態に係る化学反応装置の動作を示す第6の模式図である。
【図12】本発明の第1の実施の形態に係る化学反応装置の動作を示す第7の模式図である。
【図13】本発明の第1の実施の形態に係る化学反応装置の動作を示す第8の模式図である。
【図14】本発明の第2の実施の形態に係る溶液槽の模式図である。
【符号の説明】
【0019】
5…基板
10…ステージ
30…駆動装置
50A, 50B, 50C…ウェル
52A, 52B, 52C…底面
54A, 54B, 54C…側面
55A, 55B, 55C…通水孔
100A, 120A…第1の溶液槽
100B…第2の溶液槽
100C…第3の溶液槽
100D…第4の溶液槽
125…仕切り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ通水孔が設けられた複数のウェルを有する基板と、
複数の溶液槽と、
前記基板を移動して前記複数のウェルを前記複数の溶液槽のそれぞれの内部の溶液に順次浸し、前記複数のウェルのそれぞれに、前記通水孔を介して、前記複数の溶液槽のそれぞれの内部の溶液を順次導入する駆動装置
とを備えることを特徴とする化学反応装置。
【請求項2】
前記複数のウェルの内部に気圧を加え、前記通水孔から前記溶液を排出させる加圧装置を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の化学反応装置。
【請求項3】
前記通水孔から前記溶液を吸引する吸引装置を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の化学反応装置。
【請求項4】
前記複数の溶液槽のそれぞれの内部の溶液の温度を調節する温度調節装置を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の化学反応装置。
【請求項5】
前記複数のウェルのそれぞれが複数のビーズを保持することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の化学反応装置。
【請求項6】
前記複数のビーズのそれぞれに生体分子が固定されていることを特徴とする請求項5に記載の化学反応装置。
【請求項7】
前記複数のウェルのそれぞれがゲルを保持することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の化学反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−162559(P2009−162559A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340490(P2007−340490)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】