化学物質を用いるエピソームリプログラミング
多能性幹細胞の誘導の方法および組成物が、開示される。たとえば、ある態様では、細胞シグナル伝達調節因子を用いて、本質的にベクターを含まない人工多能性幹細胞を生成するための方法が、記載される。さらに、本発明のある態様は、シグナル伝達阻害剤を含む培地の存在下において、外因性のレトロウイルスベクターエレメントを本質的に含まない人工多能性幹細胞を含む新規な組成物を提供する。ある態様では、フィーダーフリーのエピソームリプログラミング方法を提供することもできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本願は、2009年11月4日に出願された米国仮特許出願第61/258,120号の優先権を主張し、この米国仮特許出願の全体の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(1.発明の分野)
本発明は、一般に、幹細胞の発生の分野に関する。特に、本発明は、多能性幹細胞の生成に関する。
【背景技術】
【0003】
(2.先行技術の説明)
ヒト胚性幹(ES)細胞が有する無限の増殖能力および多能性潜在能力は、ヒトの体のすべての細胞型の前例がない入手方法を提供してきた。所望の遺伝的背景を有する患者体細胞から直接誘導されるヒト人工多能性幹(iPS)細胞は、ヒトES細胞のこれらの2つの重要な特性を共有し、これは、これらの細胞を、疾患モデル、薬剤スクリーニング、毒性試験、および移植療法のための優れた候補にした。ヒトiPS細胞の初めの誘導には、リプログラミング導入遺伝子を送達するためにゲノム組み込み型レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターを使用した(Lowryら、2008年;Parkら、2008年;Takahashiら、2007年;Yuら、2007年)。そのようなベクターは、ヒトiPS細胞およびそれらの誘導体の正常な機能に干渉する挿入変異および特異的な系列への分化に影響を及ぼし得る残存性の導入遺伝子発現をもたらし得る(Yuら、2007年)またはなお腫瘍形成をもたらし得る(Okitaら、2007年)。
【0004】
外因性の遺伝エレメントがないiPS細胞は、繰り返しのプラスミドトランスフェクションを用いてマウス胚性線維芽細胞から(Okitaら、2008年)、非組み込み型アデノウイルスベクターを用いてマウス肝細胞およびヒト線維芽細胞から(Stadtfeldら、2008年;ZhouおよびFreed、2009年)、ピギーバックトランスポゾンを用いて体細胞から(Woltjenら、2009年)、oriP/EBNA−1ベースのエピソームベクター(Yuら、2009年)およびタンパク質形質導入を用いてヒト線維芽細胞から誘導された。これらの急速な進歩にもかかわらず、大きなハードルが、外因性の遺伝エレメントがない高品質のヒトiPS細胞を作製するあらゆる個々の技術の幅広い使用を妨げたままである。たとえば、外因性の遺伝エレメントがないヒトiPS細胞の生成を可能にする現在の技術(ピギーバックトランスポゾンアプローチ以外の)はすべて、非常に低いリプログラミング効率をもたらした。この低い効率は、様々な容易に入手可能なヒト体細胞型からならびに異なる遺伝的背景およびドナー年齢を有する細胞からiPS細胞を持続的に得ることを困難にする。ピギーバックトランスポゾンアプローチは、適切なリプログラミング効率を提供する。しかしながら、多くのドナー細胞系が関与する場合、iPS細胞からのトランスポゾンの除去は、かなり重労働となり得る。
【0005】
さらに、ヒトES細胞に対するヒトiPS細胞の高度な類似性にもかかわらず、ヒトiPS細胞の遺伝子発現/後成的な修飾および系列特異的な分化潜在能力の両方において、著しいクローン間の差異が存在する。特に、ヒトES細胞と比較して、ほとんどのヒトiPS細胞は、著しく低い神経分化潜在能力を示し、またマウスES細胞培養をルーチン的に支持するLIF(白血病抑制因子)に対して応答を示さない。さらに、高品質のヒトiPS細胞のための、好適で、容易にアッセイすることができるマーカーの不足により、高品質ヒトiPS細胞クローンの選択は、重労働で、時間がかかり得る。
【0006】
人工多能性幹細胞(iPSC)へのヒト体細胞の遺伝的リプログラミングは、移植療法のための、補充することができる細胞供給源を提供することができる。それらの将来性に応じるためには、ヒトiPSCは、理想的には、フィーダー細胞がない既知組成培地中で誘導および培養され、外因性のDNAがないものであろう(フットプリントフリー(footprint−free))。現在、フットプリントフリーのヒトiPSCの生成のための単純で効率的なフィーダーなしの非ウイルス性の方法はない。以前は、導入遺伝子送達のためにエピソームベクターを使用することによるフットプリントフリーのヒトiPSCについての作業は、非能率的であり、フィーダー細胞を必要とした。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lowry et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,105:2883,2008
【非特許文献2】Park et al.,Nature,451:141,2008
【非特許文献3】Takahashi et al.,Cell,131:861,2007
【非特許文献4】Yu et al.,Science,318:1917,2007.
【非特許文献5】Okita et al.,Nature,448:313−317,2007
【非特許文献6】Okita et al.,Science,322:949−953,2008
【非特許文献7】Stadtfeld et al.,Science,322:945−949,2008
【非特許文献8】Zhou and Freed,Stem Cells,2009 (Ahead of Epub Print)
【非特許文献9】Woltjen et al.,Nature,458:766−770,2009
【非特許文献10】Yu et al.,Science,324:797−801,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そのため、外因性の遺伝成分を本質的に含まない人工多能性幹細胞を調製する際の非効率または他の問題に取り組む必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要旨
本発明の態様は、外因性のベクターエレメントを本質的に含まない人工多能性幹細胞を調製するための新規な方法を提供することによって当技術分野における主要な欠陥を克服し、したがって、iPS細胞の適用の点から特有の利点を提供する。
【0010】
さらに、小分子を使用して、本発明のある例示的な態様は、エピソームリプログラミング効率を大幅に改善し(>70倍;LMYCなどのような形質転換欠損MYCを使用する場合、>300倍)、フットプリントフリーのヒトiPSCの誘導のための既知組成培地を使用して、フィーダーフリーのリプログラミング条件を確立した。これらの改善は、皮膚線維芽細胞およびおそらく他の多くの細胞型からのフットプリントフリーのヒトiPSCの日常的な誘導を可能にし、したがって、その技術を、ヒトiPSCの臨床グレードの作製に容易に適応可能にした。
【0011】
したがって、第1の実施形態では、外因性のレトロウイルスエレメントを本質的に含まないiPS細胞の集団および外部添加のシグナル伝達阻害剤を含む培地を含む組成物が提供される。ある態様では、これらのiPS細胞は、外因性のベクターまたは遺伝エレメントが実質的になくてもよいまたは好ましくは本質的になくてもよい。たとえば、これらのiPS細胞は、1つ以上のヒト細胞から誘導されてもよい。さらなる態様では、集団の細胞は、ヒト患者などのような選択されたヒト個体のゲノムを含んでいてもよい。
【0012】
ある態様では、ヒト細胞は、生きているヒト対象から直接得られる細胞である初代ヒト細胞であり、樹立または不死化細胞系の使用を除外してもよい。いくつかの実施形態は、最終分化ヒト細胞の使用を含んでいてもよい。初代ヒト細胞の非限定的な例は、線維芽細胞、ケラチノサイト、造血細胞、間葉細胞、脂肪細胞、内皮細胞、神経細胞、筋細胞、乳房細胞、肝細胞、腎細胞、皮膚細胞、消化管細胞、卵丘細胞(cumulus cell)、腺細胞、または膵島細胞を含む。特に、初代ヒト細胞は、CD34+細胞などのような造血前駆細胞であってもよい。初代ヒト細胞は、血液試料、毛試料、皮膚試料、または当業者に公知の任意の供給源から得られてもよい。
【0013】
シグナル伝達阻害剤は、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK−3)阻害剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MEK)阻害剤、形質転換増殖因子ベータ(TGF−β)受容体阻害剤、白血病抑制因子(LIF)、およびその組合せから成る群から選択される1つ以上であってもよい。特に、組成物は、細胞集団ならびにGSK−3阻害剤、MEK阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、および任意選択でLIFの組合せを含む。培地は、外部添加のROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤をさらに含んでいてもよい。ROCK阻害剤は、HA−100であってもよい。培地は、外部添加のFGFをさらに含んでいてもよい。ある態様では、組成物は、既知組成培地をさらに含んでいてもよい。既知組成培地の非限定的な例は、TeSR培地、ヒト胚細胞培養培地、N2B27培地、およびその派生物を含む。
【0014】
組成物はまた、細胞集団の培養物を支持するためのフィーダー細胞に取って代わるためのマトリックス構成成分を含んでいてもよい。細胞接着のためのマトリックス構成成分は、幹細胞またはフィーダー細胞(使用される場合)を付着させるように意図される任意の物質とすることができる。マトリックス構成成分の非限定的な例は、コラーゲン、ゼラチン、ポリ−L−リシン、ポリ−D−リシン、ビトロネクチン、ラミニン、およびフィブロネクチンならびにその混合物、たとえばMatrigel(商標)および溶解細胞膜調製物を含む。
【0015】
ある実施形態では、本発明は、iPS細胞の集団を作製するための方法であって、a)1つ以上のリプログラミング因子を発現する染色体外遺伝エレメントを含む体細胞を得るステップと、b)GSK−3阻害剤、MEK阻害剤、および/またはTGF−β受容体阻害剤などのような外部添加の1つ以上のシグナル伝達阻害剤を含むリプログラミング条件において体細胞および/またはその子孫細胞を培養し、それによってiPS細胞の集団を作製するステップとを含む方法に関する。ある態様では、リプログラミング培地は、GSK−3阻害剤、MEK阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、および任意選択でLIFの組合せを含んでいてもよい。
【0016】
さらなる態様では、リプログラミング条件は、照射マウス胚性線維芽細胞(MEF)フィーダー細胞のようなフィーダー細胞が本質的になくてもよい。リプログラミング条件は、Matrigel(商標)などのようなマトリックス構成成分を含んでいてもよい。
【0017】
体細胞は、初代ヒト細胞などのようなヒト細胞または初代細胞であってもよい。体細胞の例は、線維芽細胞、ケラチノサイト、造血細胞、間葉細胞、脂肪細胞、内皮細胞、神経細胞、筋細胞、乳房細胞、肝細胞、腎細胞、皮膚細胞、消化管細胞、卵丘細胞、腺細胞、膵島細胞を含むが、これらに限定されない。造血細胞は、造血前駆細胞(たとえばCD34+細胞)、T細胞、B細胞、またはその組合せなどのような任意の血液細胞を含んでいてもよい。
【0018】
ある態様では、染色体外遺伝エレメントは、エピソームベクターとしてさらに指定されてもよい。たとえば、エピソームベクターは、リプログラミング因子の発現のための複製開始点および1つ以上の発現カセットを含んでいてもよい。そのような1つ以上の発現カセットは、染色体外鋳型を複製するために複製開始点に結合するトランス作用因子をコードするヌクレオチド配列をさらに含んでいてもよい。その代わりに、体細胞は、そのようなトランス作用因子を発現してもよい。染色体外遺伝エレメントは、DNAまたはRNAなどのような任意の遺伝物質または核酸であってもよい。
【0019】
そのようなエピソームベクターは、細菌エレメントが本質的になくてもよい。細菌エレメントは、細菌複製起点、たとえばpUC複製開始点および細菌選択カセット、たとえばアンピシリン選択カセットなどのような、細菌におけるプラスミド増殖のために必要とされるベクターバックボーンの構成成分であってもよい。
【0020】
例示的な実施形態では、複製開始点は、EBVのoriPに対応するリンパ向性ヘルペスウイルスまたはガンマヘルペスウイルスの複製開始点などのような、リンパ向性ヘルペスウイルスもしくはガンマヘルペスウイルス、アデノウイルス、SV40、ウシパピローマウイルス、または酵母の複製開始点であってもよい。さらなる態様では、リンパ向性ヘルペスウイルスは、エプスタインバーウイルス(EBV)、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(Kaposi’s sarcroma)(KSHV)、ヘルペスウイルスサイミリ(HS)、またはマレック病ウイルス(MDV)であってもよい。
【0021】
染色体外遺伝エレメントの複製および一過性の維持のために、トランス作用因子は、好ましくはEBVのOriPに対応する複製開始点の存在下における、EBVのEBNA−1(EBV核抗原1)の野生型タンパク質に対応するポリペプチドまたはその誘導体であってもよい。誘導体は、野生型EBNA−1と比較して、組み込まれた鋳型からの転写を活性化する能力を低下させ、したがって、染色体遺伝子を異所的に活性化して、発癌性の形質転換を引き起こす可能性を低下させてもよい。それに対し、誘導体は、誘導体が複製開始点に結合した後に、染色体外鋳型から、対応する野生型タンパク質の少なくとも5%、転写を活性化してもよい。
【0022】
体細胞のリプログラミングについては、本発明の方法のある態様は、Sox、Oct、Nanog、Lin−28、Klf4、c−Myc、およびSV40LTから成る群から選択される1つ以上、たとえばSox、Oct、Nanog、および任意選択でLin−28のセット、Sox、Oct、Klf4、および任意選択でc−Mycのセット、またはこれらの6つの因子の組合せを含んでいてもよいリプログラミング因子を使用することを含んでいてもよい。ある態様では、c−Myc発現の可能性のある毒性作用を低下させるために、SV40ラージT遺伝子(SV40LT)は、c−Mycと共に含まれていてもよい。リプログラミング効率をさらに改善するためのある態様では、形質転換が欠損したMyc変異体、バリアント、またはホモログが使用されてもよい。非限定的な例は、LMYC(NM_001033081)、N末端の41アミノ酸が欠失したMYC(dN2MYC)、またはアミノ酸136に変異を有するMYC(W136E)などのようなMyc癌原遺伝子ファミリーメンバーを含む(Nakagawaら2010年)。
【0023】
ある態様では、細胞は、少なくとももしくは約1、2、3、4、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日間またはその中で推論できる任意の範囲の間、上記に記載されるシグナル伝達阻害剤を含むリプログラミング培地を有するリプログラミング条件において培養されてもよい。リプログラミング条件は、体細胞への染色体外エレメントの導入後の少なくとも約1日間〜5日間を含む期間、続いてもよい。開始および終了時点は、導入後の1、2、3、4、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日間またはその中で推論できる任意の範囲、たとえば、遺伝エレメントのトランスフェクション後の約1日間〜15日間から選択されてもよい。
【0024】
細胞は、リプログラミング後に、増殖培地を有する増殖条件に移されてもよい。増殖培地は、外部添加のGSK−3阻害剤、MEK阻害剤、およびTGF−β受容体阻害剤が本質的になくてもよい。ある態様では、増殖培地は、シグナル伝達阻害剤および/またはLIFの1つ以上を有していてもよい。ある態様では、この増殖条件、たとえば通常のES細胞培養培地またはTeSR培地を使用することによって、ヒトES細胞に類似するヒトiPS細胞が、得られてもよい。
【0025】
ある態様では、方法は、たとえば、ES細胞様の形態などのような1つ以上の胚細胞特質に基づいて、iPS細胞を選択するステップをさらに含んでいてもよい。さらなる態様では、方法は、増殖培地において、選択されたiPS細胞を培養するステップを含んでいてもよい。
【0026】
さらなる利点として、リプログラミング条件または増殖条件などのような、本明細書において記載される培養条件は、フィーダー細胞が本質的になくてもよい。フィーダーフリーの条件は、フィーダー細胞由来の変異性および副作用を低下させることによって産業上および治療用の適用を改善してもよい。たとえば、マトリックス構成成分は、フィーダー細胞の代わりに使用されてもよい。フィーダーフリーの条件においてエピソームのリプログラミングを増加させるために、シグナル伝達阻害剤および/またはFGFは、リプログラミング培地に追加されてもよい。
【0027】
多能性幹細胞のクローニング効率を増加させるために、リプログラミング培地、第1、または第2の増殖培地は、HA−100またはブレビスタチンなどのようなRho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤またはミオシンII阻害剤をさらに含んでいてもよい。さらに、エピソームのリプログラミングのためになるおよび/またはリプログラミングされた細胞の増殖を増強するために、いくつかの態様では、線維芽細胞増殖因子(FGF)が、リプログラミング培地に追加されてもよい。外部添加のFGFまたはシグナル伝達阻害剤は、少なくとも、約、もしくは多くとも0.1、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、90、100、150、200ng/ml、少なくとも、約、もしくは多くとも0.05、0.1、0.2、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10μMまたはその中で推論できる任意の範囲またはエピソームのリプログラミングを改善するのに有効な任意の濃度の量であってもよい。特定の実施形態では、高濃度のFGF、たとえば約40〜200ng/mlまたは特に約100ng/mlが使用されてもよい。
【0028】
いくつかの態様では、TeSR培地、ヒト胚細胞培養培地、またはN2B27培地などのようなリプログラミング培地または増殖培地は、既知組成培地でもよい。ある態様では、リプログラミング培地は、N2B27培地などのように、TGFβを本質的に含まない培地であってもよい。増殖培地は、TeSR培地またはmTeSR培地であってもよい。
【0029】
たとえば、GSK−3阻害剤は、CHIR99021であってもよく、MEK阻害剤は、PD0325901であってもよく、TGF−β受容体阻害剤は、A−83−01であってもよい。上記の方法に従って作製されるiPS細胞の集団もまた、提供されてもよい。
【0030】
ある態様では、本発明の方法のための開始細胞は、少なくとももしくは約104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013細胞またはその中で推論できる任意の範囲を含んでいてもよい。開始細胞集団は、少なくとももしくは約10、101、102、103、104、105、106、107、108細胞/mlまたはその中で推論できる任意の範囲の接種密度を有していてもよい。
【0031】
本発明の方法および/または組成物と関連して議論される実施形態は、本明細書において記載される他の方法または組成物に関して使用されてもよい。したがって、ある方法または組成物に関する実施形態は、他の方法および本発明の組成物に同様に適用されてもよい。
【0032】
本明細書において使用されるように、核酸に関しての用語「コードする」または「コードすること」は、本発明を当業者によって容易に理解し得るようにするために使用されるが、これらの用語は、それぞれ、「含む」または「含むこと」と区別なく使用されてもよい。
【0033】
本明細書において使用されるように、「1つの(a)」または「1つの(an)」という指定は、1つ以上を意味してもよい。請求項(複数可)において本明細書において使用されるように、単語「含むこと」と共に使用される場合、単語「1つの(a)」または「1つの(an)」は、1つのまたは1つを超える、を意味してもよい。
【0034】
請求項における用語「または」の使用は、選択肢のみを指すようにまたは選択肢が相互に排他的であることが明示的に示されない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は選択肢のみならびに「および/または」を指す定義を支持する。本明細書において使用されるように、「他の」は、少なくとも第2のまたはそれ以上の、を意味してもよい。
【0035】
本出願の全体にわたって、用語「約」は、値が、デバイス、値を決定するために利用される方法についての誤差の固有の差異または研究対象の間で存在する差異を含むことを示すために使用される。
【0036】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の精神および範囲内の様々な変化および修飾が、この詳細な説明から当業者らに明らかになるので、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すが、例証のみのために提供されることが理解されたい。
【0037】
以下の図面は、本明細書の一部を構成し、本発明のある態様をさらに示すために含まれる。本発明は、本明細書において提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて、1つ以上のこれらの図面への参照によってより理解されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1A〜1Cは、小さな化学化合物を用いるヒト包皮線維芽細胞のエピソームリプログラミングの改善を示す図である。図1A.エピソームリプログラミングベクター。pEF:真核生物伸長因子1αプロモーター;pCMV:サイトメガロウイルス前初期プロモーター。導入遺伝子およびベクターの他の特徴は、示されるように異なる色によって示す。図1B.エピソームリプログラミング効率に対する化学化合物の異なる組合せの効果。FF培地:ヒト包皮線維芽細胞培養培地;CM:照射マウス胚性線維芽細胞フィーダー細胞を用いてあらかじめ調整したヒトES細胞培養培地。bFGFは、100ng/ml最終濃度で使用した。B:BIX01294(1μM);P:PD0325901(0.5μM);C:CHIR99021(3μM);A:A−83−01(0.5μM)。合計:アルカリホスファターゼポジティブiPS細胞コロニーの合計数;ラージ:大きなサイズの好適な未分化アルカリホスファターゼポジティブiPS細胞コロニーの数。図1C.化学化合物の存在下においてエピソームリプログラミングによって得られた好適なiPS細胞コロニーの画像。左:明視野;右:アルカリホスファターゼ染色。
【図2】図2A〜2Bは、小さな化学化合物を用いるヒト包皮線維芽細胞のエピソームリプログラミングの改善を示す図である。図2A.エピソームリプログラミング効率に対するbFGFおよび化学化合物の異なる組合せの効果。FF培地:ヒト包皮線維芽細胞培養培地;CM:照射マウス胚性線維芽細胞フィーダー細胞を用いてあらかじめ調整したヒトES細胞培養培地。bFGFは、100ng/ml最終濃度で使用した。H:HA−100(10μM);B:BIX01294(1μM);P:PD0325901(0.5μM);C:CHIR99021(3μM);A:A−83−01(0.5μM);L:hLIF(10ng/ml)。合計:アルカリホスファターゼポジティブiPS細胞コロニーの合計数;ラージ:大きなサイズの好適な未分化アルカリホスファターゼポジティブiPS細胞コロニーの数。図2B.エピソームリプログラミング効率に対する化学化合物処理のタイミング。bFGF(100ng/ml)およびHA−100(10μM)を補足したCMを、リプログラミング培養において使用した。
【図3】図3A〜3Dは、別個のiPS細胞が、化学化合物を用いて処理したエピソームリプログラミング培養から得ることができることを示す図である。図3A.PD0325901(0.5μM)、CHIR99021(3μM)、A−83−01(0.5μM)、およびhLIF(10ng/ml)を補足したCM(照射マウス胚性線維芽細胞フィーダー細胞を用いてあらかじめ調整したヒトES細胞培養培地)における5日間の培養後の分化ヒトH1 ES細胞(p44)および通常のヒトES細胞様のiPS細胞(p20、化学処理の非存在下においてエピソームリプログラミングによってヒト包皮線維芽細胞から誘導)の画像。図3B.PD0325901(0.5μM)、CHIR99021(3μM)、およびA−83−01(0.5μM)の存在下におけるエピソームリプログラミングを用いて42歳の成人皮膚生検材料から誘導された通常のヒトES細胞様のiPS細胞の明視野画像。化学化合物は、コロニーピッキングの3日間前(nucleofection後の23日目)に除去した。iPS細胞コロニーは、採集し、化学化合物の非存在下においてbFGF(100ng/ml)を補足したヒトES細胞培養培地において照射マウス胚性線維芽細胞(MEF)フィーダー細胞上で増殖した。図3C.PD0325901(0.5μM)、CHIR99021(3μM)、A−83−01(0.5μM)、およびhLIF(10ng/ml)の存在下におけるエピソームリプログラミングを用いてヒト包皮線維芽細胞から誘導されたiPS(部分的にリプログラミングされたiPSCについてはpiPSC)細胞の中間段階の明視野画像。化学化合物は、リプログラミング培養の全体にわたって存在した。piPS細胞コロニーは、採集し、PD0325901(0.5μM)、CHIR99021(3μM)、A−83−01(0.5μM)、およびhLIF(10ng/ml)を補足したCMにおいてMEFフィーダー細胞上で増殖した。図3D.化学化合物の除去後の、bFGF(100ng/ml)を補足したヒトES細胞培養培地において培養されたpiPS細胞由来のロゼット塊(神経分化)の明視野画像。
【図4】図4A〜4Bは、化学化合物を補足した既知組成培地におけるエピソームリプログラミングを示す図である。図4A.PD0325901(0.5μM)、CHIR99021(3μM)、A−83−01(0.5μM)、およびhLIF(10ng/ml)の存在下におけるエピソームリプログラミングに対する異なる培地の効果。FF培地:ヒト包皮線維芽細胞培養培地;CM:照射マウス胚性線維芽細胞フィーダー細胞を用いてあらかじめ調整したヒトES細胞培養培地。bFGFは、100ng/ml最終濃度で使用した。H:HA−100(10μM);B:BIX01294(1μM);P:PD0325901(0.5μM);C:CHIR99021(3μM);A:A−83−01(0.5μM);L:hLIF(10ng/ml)。合計:アルカリホスファターゼポジティブiPS細胞コロニーの合計数;ラージ:大きなサイズの好適な未分化アルカリホスファターゼポジティブiPS細胞コロニーの数。図4B。通常のヒトES細胞様のiPS細胞およびpiPS細胞の誘導のための3ステップリプログラミングプロセスの概略図。
【図5】図5A〜5Cは、小分子を用いるエピソームリプログラミング効率の改善を示す図である。図5A.エピソームリプログラミングに対するPD0325901(P、0.5μM)、CHIR99021(C、3μM)、A−83−01(A、0.5μM)、hLIF(L、1000U/ml)、およびHA−100(H、10μM)の効果。図5B エピソームリプログラミングの改善のための小分子処理の一時的な必要。トランスフェクトされたヒト包皮線維芽細胞は、MEFフィーダー細胞に平板培養した。100ng/ml bFGF(CM100)および小分子を補足したMEF馴化ヒトESC培地は、リプログラミングを支持するために使用した。アルカリホスファターゼポジティブiPSCコロニーは、トランスフェクション後の22〜23日目にカウントした。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±標準誤差(s.e.m.)とする(n=3)。図5C.小分子の存在下における、新しく誘導されたiPSC(p3)の分化。採集し、MEFフィーダー細胞上で小分子を補足したヒトESC培地またはMEF馴化ヒトESC培地において増殖した場合、小分子の継続的な存在により誘導されたiPSCは、広範囲な分化を示した。培養培地におけるbFGFの追加は、効果を有していなかった。黒色矢印:未分化iPSCコロニー;白色矢印:分化コロニー。スケールバー:100μm。
【図6−1】図6A〜6Dは、エピソームリプログラミングのためのフィーダーフリー条件の開発を示す図である。図6A.エピソームリプログラミングに対するMEFフィーダー細胞、Matrigel(商標)、および培養培地の効果。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p6)は、MEFフィーダー細胞接種またはMatrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養し、異なるリプログラミング培養条件にかけた。アルカリホスファターゼポジティブ(AP+)コロニーは、トランスフェクション後の18〜21日目にカウントした。AP+コロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。N2B27:N−2およびB−27を補足したDMEM/F12培地;N2B27−100:100ng/ml bFGFを補足したN2B27培地。*はpiPSCを示す。図6B.試験2からのpiPSCコロニーならびに試験1、3、および4からのヒトESC様のiPSCコロニーの明視野画像。スケールバー:100μm。図6C.piPSCクローン1〜4(p3)におけるOCT4およびNANOG発現の定量的RT−PCR分析。合計:内因性および導入遺伝子発現。ヒトH1 ESC(H1ESC、p32)をコントロールとして使用した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。図6D.既知組成培養培地を使用するフィーダーフリーエピソームリプログラミングのための小分子処理の一時的な必要条件。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p7)は、Matrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。PCALHを補足したN2B27−100培地は、異なる期間、リプログラミングを支持するために使用し(段階2)、その後に増殖のためのmTeSR1を使用した。アルカリホスファターゼポジティブiPSCコロニーは、トランスフェクション後の22日目にカウントした。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。
【図6−2】図6A〜6Dは、エピソームリプログラミングのためのフィーダーフリー条件の開発を示す図である。図6A.エピソームリプログラミングに対するMEFフィーダー細胞、Matrigel(商標)、および培養培地の効果。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p6)は、MEFフィーダー細胞接種またはMatrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養し、異なるリプログラミング培養条件にかけた。アルカリホスファターゼポジティブ(AP+)コロニーは、トランスフェクション後の18〜21日目にカウントした。AP+コロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。N2B27:N−2およびB−27を補足したDMEM/F12培地;N2B27−100:100ng/ml bFGFを補足したN2B27培地。*はpiPSCを示す。図6B.試験2からのpiPSCコロニーならびに試験1、3、および4からのヒトESC様のiPSCコロニーの明視野画像。スケールバー:100μm。図6C.piPSCクローン1〜4(p3)におけるOCT4およびNANOG発現の定量的RT−PCR分析。合計:内因性および導入遺伝子発現。ヒトH1 ESC(H1ESC、p32)をコントロールとして使用した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。図6D.既知組成培養培地を使用するフィーダーフリーエピソームリプログラミングのための小分子処理の一時的な必要条件。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p7)は、Matrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。PCALHを補足したN2B27−100培地は、異なる期間、リプログラミングを支持するために使用し(段階2)、その後に増殖のためのmTeSR1を使用した。アルカリホスファターゼポジティブiPSCコロニーは、トランスフェクション後の22日目にカウントした。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。
【図7】図7A〜7Fは、既知組成培地を用いてフィーダーフリー条件下で誘導されたiPSCの特徴付けを示す図である。図7A.ヒト成人皮膚線維芽細胞(iPS(SK46)クローン2)から誘導されたiPSCの明視野画像。スケールバー:100μm。図7B.iPS(SK46)クローン2(p17)のG結合染色体分析。図7C.iPSCにおけるリプログラミングベクターのPCR分析。E:エピソームDNA;G:ゲノムDNA;NF:新生児包皮線維芽細胞(p5);iPSF7クローン1〜3:新生児包皮線維芽細胞(p26)から誘導されたiPSC;AF:成人皮膚線維芽細胞(p6);iPS(SK46)クローン1〜3:成人皮膚線維芽細胞(p22)から誘導されたiPSC。ヒト包皮線維芽細胞(p4)から誘導されたpiPSCは、コントロールとして使用した。T−OCT4:導入遺伝子OCT4;T−SOX2:導入遺伝子SOX2;T−NANOG:導入遺伝子NANOG;T−LIN28:導入遺伝子LIN28;T−c−MYC:導入遺伝子c−MYC;T1−KLF4:導入遺伝子KLF4(1);T2−KLF4:導入遺伝子KLF4(2);T−SV40LT:導入遺伝子SV40LT;OCT4:内因性OCT4。32のPCRサイクルは、すべてのプライマーセットに使用した。図7D.iPSCクローンにおける内因性OCT4、NANOG、SOX2、およびLIN28発現の定量的RT−PCR分析。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。図7E.iPSCクローンにおけるOCT4およびNANOGプロモーターのメチル化ステータスの重亜硫酸配列決定分析。白丸は、非メチル化を示し、黒丸は、メチル化CpGジヌクレオチドを示す。図7F.iPSC(SK46)クローン2の奇形腫切片のヘマトキシリンおよびエオシン染色。奇形腫は、すべてのiPSCクローンから得られた。左のパネル:神経組織(外胚葉);中央のパネル:軟骨(中胚葉);右のパネル:腸上皮(内胚葉)。スケールバー:100μm。
【図8】図8A〜8Cは、小分子の存在下における異なる体細胞型からのiPSC誘導に対する異なるエピソームリプログラミングベクターの組合せの効果を示す図である。図8A.エピソームベクターを用いるヒト包皮線維芽細胞のリプログラミング。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(HFF、p6)は、包皮線維芽細胞培養培地においてMatrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。PD0325901(P、0.5μM)、CHIR99021(C、3μM)、A−83−01(A、0.5μM)、hLIF(L、1000U/ml)、およびHA−100(H、10μM)(PCALH)を補足したN2B27−100培地は、トランスフェクション後の1日目および13日目の間にリプログラミングを支持するために使用し、その後にトランスフェクション後の14日目および21日目の間にmTeSR1を使用した。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±標準誤差(s.e.m.)とする(n=3)。7F−1(pEP4EO2SCK2MEN2LおよびpEP4EO2SET2K);7F−2(pEP4EO2SEN2K、pCEP4−M2L、およびpEP4EO2SET2K);5F(pEP4EO2SEN2LおよびpEP4EO2SET2N)。ベクター地図はすべて、図12中に示す。図8B.エピソームベクターを用いる脂肪組織誘導幹細胞(AdSC)のリプログラミング。AdSC(Zenbio、Research Triangle Park、NC)は、ヒトコラーゲンI(10cm皿当たり60μg、STEMCELL Technologies Inc.)およびフィブロネクチン(10cm皿当たり18μg、Invitrogen)を用いてコーティングした10cm皿上で、1×Glutamax(Invitrogen)を補足したMesenCult(登録商標)−XF培養培地(STEMCELL Technologies Inc.、Vancouver、BC、V5Z 1B3、Canada)において培養した。トランスフェクトAdSC(p9、プログラムA−33を用いるAmaxa VPE−1001)は、AdSC培養培地においてMatrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。PCALHを補足したN2B27−100培地は、トランスフェクション後の2日目および13日目の間にリプログラミングを支持するために使用し、その後にトランスフェクション後の13日目および21日目の間にmTeSR1を使用した。iPSCコロニーの数は、約0.35×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±標準誤差(s.e.m.)とする(n=2)。図8C.エピソームベクターを用いる臍帯血(CB)誘導CD34+細胞のリプログラミング。トランスフェクションに先立って、CB誘導CD34+細胞(STEMCELL Technologies Inc.)は、CB CD34+細胞増殖培地:1×ExCyte培地サプリメント(Millipore、Billerica、MA)、1×Glutamax、250ng/ml SCF(Peprotech、Rocky Hill、NJ)、250ng/ml FLT3L(Peprotech)、100ng/ml TPO(Peprotech)、20ng/ml IL−3(Peprotech)、50ng/ml IL−6(Peprotech)、および10ng/ml sIL6−R(Peprotech)を補足したStemSpan SFEM(STEMCELL Technologies Inc.)において、フィブロネクチンコーティング6ウェルプレート上で4日間、培養した。トランスフェクトCB細胞(プログラムT−16を用いるAmaxa VPA−1003)は、CB CD34+細胞増殖培地におけるフィブロネクチン/Matrigel(商標)コーティング6ウェルプレートに平板培養した。PCALHを補足したN2B27−100培地は、トランスフェクション後の2日目および11日目の間にリプログラミングを支持するために使用し、その後にトランスフェクション後の11日目および17日目の間にmTeSR1を使用した。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した(4日間の培養後)。示すデータは、平均±標準誤差(s.e.m.)とする(n=3)。
【図9】図9は、小分子の存在下における形質転換欠損MYCを用いるエピソームリプログラミングの改善を示す図である。エピソームベクターの組合せ7F−2をiPSC誘導に使用した。ベクターpCEP4−M2Lにおけるc−Mycは、形質転換欠損MYC:LMYC(NM_001033081)、N末端の41アミノ酸が欠失したMYC(dN2MYC)、またはアミノ酸136に変異を有するMYC(W136E)と交換した(Nakagawaら、2010年)。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(HFF、p9)は、包皮線維芽細胞培養培地においてMatrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。PD0325901(P、0.5μM)、CHIR99021(C、3μM)、A−83−01(A、0.5μM)、hLIF(L、1000U/ml)、およびHA−100(H、10μM)(PCALH)を補足したN2B27−100培地は、トランスフェクション後の2日目および13日目の間にリプログラミングを支持するために使用し、その後にトランスフェクション後の14日目および20日目の間にmTeSR1を使用した。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±標準誤差(s.e.m.)とする(n=3)。
【図10A】図10A〜10Cは、エピソームリプログラミングのためのフィーダーフリー条件の開発を示す図である。図10A.piPSC(p6)におけるヒトESC特異的細胞表面マーカー(SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81)ならびに線維芽細胞マーカーCD44のフローサイトメトリー発現分析。白:アイソタイプコントロール;黒:抗原染色。図10B.piPSC(p7)から単離されたエピソームDNAにおけるリプログラミングベクターのPCR分析。レーン1:導入遺伝子OCT4(T−OCT4);レーン2:導入遺伝子NANOG(T−NANOG);レーン3:導入遺伝子KLF4(1)(T1−KLF4);レーン4:導入遺伝子KLF4(2)(T2−KLF4);レーン5:導入遺伝子SV40LT(T−SV40LT);レーン6:導入遺伝子SOX2(T−SOX2);レーン7:導入遺伝子LIN28(T−LIN28);レーン8:導入遺伝子c−MYC(T−c−MYC);レーン9:内因性OCT4(OCT4)。図10C.mTeSR1を使用するフィーダーフリーエピソームリプログラミングのための小分子処理の一時的な必要条件。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p7)は、Matrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。小分子(PCALH)を補足したmTeSR1は、異なる期間、リプログラミングを支持するために使用し(段階2)、その後に増殖のために小分子なしのmTeSR1を使用した。アルカリホスファターゼポジティブiPSCコロニーは、トランスフェクション後の22日目にカウントした。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。
【図10B】図10A〜10Cは、エピソームリプログラミングのためのフィーダーフリー条件の開発を示す図である。図10A.piPSC(p6)におけるヒトESC特異的細胞表面マーカー(SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81)ならびに線維芽細胞マーカーCD44のフローサイトメトリー発現分析。白:アイソタイプコントロール;黒:抗原染色。図10B.piPSC(p7)から単離されたエピソームDNAにおけるリプログラミングベクターのPCR分析。レーン1:導入遺伝子OCT4(T−OCT4);レーン2:導入遺伝子NANOG(T−NANOG);レーン3:導入遺伝子KLF4(1)(T1−KLF4);レーン4:導入遺伝子KLF4(2)(T2−KLF4);レーン5:導入遺伝子SV40LT(T−SV40LT);レーン6:導入遺伝子SOX2(T−SOX2);レーン7:導入遺伝子LIN28(T−LIN28);レーン8:導入遺伝子c−MYC(T−c−MYC);レーン9:内因性OCT4(OCT4)。図10C.mTeSR1を使用するフィーダーフリーエピソームリプログラミングのための小分子処理の一時的な必要条件。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p7)は、Matrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。小分子(PCALH)を補足したmTeSR1は、異なる期間、リプログラミングを支持するために使用し(段階2)、その後に増殖のために小分子なしのmTeSR1を使用した。アルカリホスファターゼポジティブiPSCコロニーは、トランスフェクション後の22日目にカウントした。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。
【図10C】図10A〜10Cは、エピソームリプログラミングのためのフィーダーフリー条件の開発を示す図である。図10A.piPSC(p6)におけるヒトESC特異的細胞表面マーカー(SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81)ならびに線維芽細胞マーカーCD44のフローサイトメトリー発現分析。白:アイソタイプコントロール;黒:抗原染色。図10B.piPSC(p7)から単離されたエピソームDNAにおけるリプログラミングベクターのPCR分析。レーン1:導入遺伝子OCT4(T−OCT4);レーン2:導入遺伝子NANOG(T−NANOG);レーン3:導入遺伝子KLF4(1)(T1−KLF4);レーン4:導入遺伝子KLF4(2)(T2−KLF4);レーン5:導入遺伝子SV40LT(T−SV40LT);レーン6:導入遺伝子SOX2(T−SOX2);レーン7:導入遺伝子LIN28(T−LIN28);レーン8:導入遺伝子c−MYC(T−c−MYC);レーン9:内因性OCT4(OCT4)。図10C.mTeSR1を使用するフィーダーフリーエピソームリプログラミングのための小分子処理の一時的な必要条件。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p7)は、Matrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。小分子(PCALH)を補足したmTeSR1は、異なる期間、リプログラミングを支持するために使用し(段階2)、その後に増殖のために小分子なしのmTeSR1を使用した。アルカリホスファターゼポジティブiPSCコロニーは、トランスフェクション後の22日目にカウントした。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。
【図11】図11A〜11Eは、既知組成培地を用いてフィーダーフリー条件下で誘導されたiPSCの特徴付けを示す図である。図11A.ヒト包皮線維芽細胞から誘導されたiPSCの明視野画像(iPSF7クローン1)。スケールバー:100μm。図11B.iPSF7クローン1(p18)のG結合染色体分析。図11C.iPSCクローンにおける導入遺伝子発現のRT−PCR分析。NF:新生児包皮線維芽細胞(p5);iPSF7クローン1〜3:新生児包皮線維芽細胞(p26)から誘導されたiPSC;AF:成人皮膚線維芽細胞(p6);iPS(SK46)クローン1〜3:成人皮膚線維芽細胞(p22)から誘導されたiPSC。ヒト包皮線維芽細胞から誘導されたH1ESC(p32)およびpiPSC(p4)は、コントロールとして使用した。T−OCT4:導入遺伝子OCT4;T−SOX2:導入遺伝子SOX2;T−NANOG:導入遺伝子NANOG;T−LIN28:導入遺伝子LIN28;T−c−MYC:導入遺伝子c−MYC;T1−KLF4:導入遺伝子KLF4(1);T2−KLF4:導入遺伝子KLF4(2);T−SV40LT:導入遺伝子SV40LT;OCT4:内因性OCT4;GAPDH:内因性コントロール。T−OCT4(30のサイクル)を除いて、32のPCRサイクルをすべてのプライマーセットに使用した。図11D.ヒトESC特異的細胞表面マーカー(SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81)ならびに線維芽細胞に豊富なマーカーCD44のフローサイトメトリー発現分析。白:アイソタイプコントロール;黒:抗原染色。図11E.iPSF7クローン1の奇形腫切片のヘマトキシリンおよびエオシン染色。上部のパネル:神経組織(外胚葉);中央のパネル:軟骨(中胚葉);下部のパネル:腸上皮(内胚葉)。スケールバー:100μm。
【図12】図12は、ピソームリプログラミングベクターを示す図である。エピソームリプログラミングベクターの遺伝成分の詳述。pEF:真核生物伸長因子1αプロモーター;pCMV:サイトメガロウイルス前初期プロモーター;IRES2:配列内リボソーム進入部位;SV40 pA:サル空胞ウイルス40ポリアデニル化シグナル;oriP:EBV複製起点;EBNA−1:EBV核抗原1;Amp:アンピシリン細菌抵抗性選択カセット;pUC開始点:細菌複製起点;Oct4:octamer4転写因子;Sox2:Sox2転写因子;c−Myc:c−Myc転写因子;Klf4:Kreuppel様因子転写修飾因子;SV40LT:SV40ラージT遺伝子;Nanog:NANOG転写因子;Lin28:Lin28 mRNA結合タンパク質。
【発明を実施するための形態】
【0039】
例示的な実施形態の説明
I.導入
本発明は、GSK−3阻害剤、MEK阻害剤、およびTGF−β受容体阻害剤の存在下において、リプログラミングされた細胞を培養することによってエピソームリプログラミング効率および反応速度を改善するために細胞内シグナル伝達の阻害剤が使用されてもよいという驚くべき発見に部分的に基づく。MEK阻害剤およびTGF−β受容体阻害剤を含む化学反応混液を使用することによって、ヒト線維芽細胞のレトロウイルスリプログラミングが改善されたことが報告された(Linら、2009年)が、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)リプログラミングは、レトロウイルスベクターエレメントのゲノム組み込みおよび組み込まれたベクターエレメントの持続的な導入遺伝子発現について、エピソームのリプログラミングとは基本的に異なる。たとえば、実施例において示されるように、これらの3つの阻害剤の組合せの存在下におけるエピソームのリプログラミングは、ベースラインを超える最小限の増強しか有していないMEK阻害剤およびTGF−β受容体阻害剤の存在下における効率と比較して、予想外に高度なリプログラミング効率をもたらした。
【0040】
本発明のある態様の実施におけるエピソームベクターの使用は、ゲノムの中に組み込まれるベクターに対して、いくつかの利点を有する。第1に、その使用は、DNAへのランダムな組み込みの結果として起こる適切でない表現型の改変の原因を低下させる。第2に、エピソームは、腫瘍形成を導き得る挿入変異誘発の可能性を低下させる。第3に、エピソームベクターの複製は、外因性ベクターエレメントの段階的な損失をもたらすことができ、これにより、最小限の外因性遺伝子修飾を有する細胞を残す。しかしながら、低いリプログラミング効率は、体細胞のリプログラミングにおけるエピソームベクターの使用に打ち勝ち、これは、本発明のある態様によって検討することができた。
【0041】
さらなる態様では、改善された産業上および臨床上の適用を有するiPS細胞を作製するための方法が、開発された。方法は、外因性の遺伝エレメントを本質的に含まないiPS細胞を作製するためにフィーダーフリーの条件を使用することを含んでいてもよく、そのため、外因性の遺伝エレメントの残存または変異原性作用およびフィーダー細胞の変異性または望まれない効果によってもたらされる問題を回避してもよい。
【0042】
さらに、iPS細胞集団の作製のための組成物および方法における進歩もまた、下記に記載される。
【0043】
II.定義
本明細書において使用される「初代細胞」は、ある細胞系に樹立されていないまたは固定されていない、生きている生物またはその子孫から直接得られる細胞を指す。「ヒト初代細胞」は、生きているヒト対象から得られる初代細胞を指す。
【0044】
「胚性幹(ES)細胞」は、初期胚から誘導される多能性幹細胞である。ES細胞は、1981年に最初に樹立され、これはまた、1989年以来、ノックアウトマウスの作製に適用されてきた。1998年に、ヒトES細胞が樹立され、これは、現在、再生医療のために利用可能になってきている。
【0045】
一般にiPS細胞またはiPSCと略される「人工多能性幹細胞」は、リプログラミングによって、非多能性細胞、典型的に、成体の体細胞または線維芽細胞、造血細胞、ミオサイト、ニューロン、表皮細胞、もしくはその他同種のものなどのような最終分化細胞から人工的に調製される、多能性幹細胞のタイプを指す。
【0046】
「多能性」は、1つ以上の組織もしくは器官または好ましくは、3つの胚葉:内胚葉(内部の胃内層、胃腸管、肺)、中胚葉(筋肉、骨、血液、泌尿生殖器)、もしくは外胚葉(表皮組織および神経系)のいずれかを構成するすべての細胞に分化するための潜在能力を有する幹細胞を指す。本明細書において使用される「多能性幹細胞」は、3つの胚葉のいずれかから誘導される細胞に分化することができる細胞、たとえば、全能性細胞、胚性幹細胞、または人工多能性細胞の直接的な子孫を指す。
【0047】
本明細書において使用されるように、用語「体細胞」は、次世代にそのDNAを直接伝達しない、卵子、精子、またはその他同種のものなどのような生殖細胞以外の任意の細胞を指す。典型的に、体細胞は、多能性が限られているまたは多能性がない。本明細書において使用される体細胞は、天然に存在してもよいまたは遺伝子改変されてもよい。
【0048】
「リプログラミング」は、リプログラミングなしの同じ条件下で有するよりも、培養またはin vivoにおいて少なくとも1つの新しい細胞型の子孫を形成するための測定可能な程度に増加した性能を細胞に与えるプロセスである。特に、リプログラミングは、多能性潜在能力を体細胞に与えるプロセスである。これは、十分な増殖後に、本質的に、そのような子孫がリプログラミング前に形成することができなかった場合に、新しい細胞型の表現型の特質を有する子孫の測定可能な割合が、他の場合には、新しい細胞型の特質を有する割合が、リプログラミング前よりも測定可能な程度に多いことを意味する。ある条件下で、新しい細胞型の特質を有する子孫の割合は、望ましい順に、少なくとも約0.05%、0.1%、0.5%、1%、5%、25%以上であってもよい。
【0049】
細胞は、それらが10%未満のエレメント(複数可)を有する場合、本明細書において使用されるように、外因性の遺伝エレメントまたはベクターエレメントが「実質的になく」、それらが1%未満のエレメント(複数可)を有する場合、外因性の遺伝エレメントまたはベクターエレメントが「本質的にない」。しかしながら、全細胞集団の0.5%未満または0.1%未満が、外因性の遺伝エレメントまたはベクターエレメントを含む細胞集団がさらに望ましい。培地が、当業者に公知の従来の検出方法を使用して検出可能なレベルよりも低いこれらの試薬のレベルを有する場合、培地は、MEK阻害剤、GSK阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、LIFなどのようなある種の試薬が「本質的にない」。
【0050】
用語「外因性」は、細胞もしくは生物におけるタンパク質、遺伝子、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝エレメント、もしくはベクターエレメントに関して使用される場合、人工的もしくは自然の手段によって細胞もしくは生物の中に導入されたタンパク質、遺伝子、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝エレメント、もしくはベクターエレメントを指すまたは細胞に関して、単離され、続いて、人工的なもしくは自然の手段によって他の細胞もしくは生物に導入された細胞を指す。外因性の核酸は、異なる生物もしくは細胞由来のものであってもよいまたはそれは、生物もしくは細胞内で自然に生じる核酸の1つ以上のさらなるコピーであってもよい。外因性の細胞は、異なる生物由来のものであってもよいまたはそれは、同じ生物由来のものであってもよい。非限定的な例として、外因性の核酸は、自然の細胞とは異なる染色体上の位置にあるまたは他の場合には、それが自然界において見つけられるものとは異なる核酸配列が側面に位置する。
【0051】
「複製起点」(「ori」)または「複製開始点」は、細胞中のプラスミド中に存在する場合、プラスミド中の連結された配列を維持することができる、たとえばリンパ向性ヘルペスウイルス中のDNA配列および/またはDNA合成が開始される場所の部位もしくはその近くの部位である。EBVについてのoriは、FR配列(30bpリピートの20の不完全なコピー)および好ましくはDS配列を含むが、しかしながら、EBVにおける他の部位がEBNA−1に結合する、たとえば、Rep*配列は、複製起点としてDSと置換することができる(KirchmaierおよびSugden、1998年)。したがって、EBVの複製開始点は、核酸改変を介した、FR、DS、もしくはRep*配列または任意の機能的に等価な配列またはそれらに由来する合成的な組合せを含む。たとえば、本発明はまた、Lindnerら(2008年)において特に記載されるように、個々のエレメントの挿入または変異によってなどのように、EBVの遺伝的に操作された複製開始点を使用してもよい。
【0052】
「リンパ向性」ヘルペスウイルスは、リンパ芽球(たとえばヒトBリンパ芽球)または他の細胞型において複製し、その自然の生活環の少なくとも一部の間、染色体外で複製するヘルペスウイルスである。宿主に感染した後に、これらのウイルスは、プラスミドとしてウイルスゲノムを維持することによって潜在的に宿主に感染する。単純ヘルペスウイルス(HSV)は、「リンパ向性」ヘルペスウイルスではない。例示的なリンパ指向性ヘルペスウイルスは、EBV、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV)、ヘルペスウイルスサイミリ(HS)、およびマレック病ウイルス(MDV)を含むが、これらに限定されない。
【0053】
「ベクター」または「構築物」(時に遺伝子送達または遺伝子移入「ビヒクル」と呼ばれる)は、in vitroまたはin vivoにおいて宿主細胞に送達されることとなるポリヌクレオチドを含む高分子または分子の複合体を指す。
【0054】
「プラスミド」は、一般的なタイプのベクターであり、染色体DNAとは無関係に複製することができる、染色体DNAと別々の染色体外DNA分子である。ある場合には、プラスミドは、環状で二重鎖をしている。
【0055】
本明細書において使用される「鋳型」は、複製開始点を含有するDNAまたはRNAの分子である。「組み込まれた鋳型」は、細胞のゲノムにおいて安定して維持される、たとえば、その細胞の染色体の中に組み込まれた鋳型である。「染色体外鋳型」は、細胞において維持され、安定して維持されるが、染色体の中に組み込まれない鋳型である。
【0056】
「発現構築物」または「発現カセット」によって、転写を指示することができる核酸分子を意味する。発現構築物は、少なくとも、プロモーターまたはプロモーターに機能的に等価な構造を含む。エンハンサーおよび/または転写終結シグナルなどのようなさらなるエレメントもまた、含まれていてもよい。核酸分子は、DNAまたはRNAであってもよい。
【0057】
用語「に対応する」は、ポリヌクレオチド配列が、参照ポリヌクレオチド配列のすべてもしくは一部分と相同性である(つまり同一であり、厳密ではないが進化的に関連する)またはポリペプチド配列が、参照ポリペプチド配列と同一であるということを意味するために本明細書において使用される。対比して、用語「に相補的な」は、相補的配列が、参照ポリヌクレオチド配列のすべてまたは一部分と相同性であることを意味するために本明細書において使用される。例証のために、ヌクレオチド配列「TATAC」は、参照配列「TATAC」に対応し、参照配列「GTATA」に対して相補的である。
【0058】
III.iPS細胞
人工多能性幹細胞は、一般にiPS細胞またはiPSCと略され、非多能性細胞、典型的に、成体の体細胞から人工的に誘導される多能性幹細胞のタイプである。人工多能性幹細胞は、ある種の幹細胞遺伝子およびタンパク質の発現、クロマチンメチル化パターン、倍加時間、胚様体形成、奇形腫形成、生存可能なキメラ形成、ならびに潜在能および分化可能性(differentiability)の点からなどのように、多くの点において、胚性幹細胞などのような自然の多能性幹細胞と同一ではなくても、類似していると考えられるが、自然の多能性幹細胞とのそれらの関係の詳細な程度は、なお評価され続けている。
【0059】
胚性起源以外のヒト組織から誘導される人工多能性細胞の生成は、胚および胚組織の実験用の使用に関する倫理的な問題を緩和するのに望まれる。人工多能性細胞の治療用の適用の将来性が、喧伝されている。医療用の適用は、いくつかを挙げると、アルツハイマー病、糖尿病、および脊椎損傷のための治療を含む。他の適用は、疾患モデリングおよび医薬品スクリーニングを含む。
【0060】
IPS細胞は、マウス細胞から2006年に(Takahashiら、2006年)およびヒト細胞から2007年に(Takahashiら、2007年;Yuら、2007年)、最初に作製された。これは、研究者が、研究において重要であり、論争の的になっている胚の使用を伴うことなく治療用の適用を可能性として有する多能性幹細胞を得ることを可能にし得るので、それは、幹細胞研究における重要な進歩として引き合いに出されてきた。マウスまたはヒト組織由来の人工多能性細胞(iPS細胞)を生成するための第1の成功した実証は、転写因子の特異的なセットを発現するレトロウイルスベクターの使用を含んだ。James ThomsonおよびShinya Yamanakaの研究室における研究は、マウスまたはヒト線維芽細胞へのレトロウイルスベクターによる特異的な転写因子の導入が、それらの細胞を未分化多能性幹細胞にリプログラミングするのに十分であることを実証した。Thomsonが使用した因子は、Oct4、Sox2、Nanog、およびLin28を含む。Yamanakaが使用した因子は、Oct4、Sox2、Klf4、およびc−Mycを含む。どちらかの遺伝子セットを介してのリプログラミングは、宿主細胞ゲノムへの組み込みおよび転写因子の発現によって達成される。Oct4およびSox2は、リプログラミングのために必要とされる本質的な転写因子であるように思われる。リプログラミングの効率は、低く、開始細胞集団の0.01〜0.02%の範囲の頻度である。
【0061】
本発明のある実施形態では、現在のリプログラミング方法を改善するために、染色体外遺伝エレメントを有する体細胞にリプログラミング因子を導入し、その後に続いて、上記に記載される1つ以上のシグナル伝達阻害剤を含むリプログラミング培地において培養することによる、体細胞をリプログラミングする方法が開示される。これらの細胞の子孫は、下記に記載される様々な態様において胚性幹細胞と同一になり得るが、外因性の遺伝エレメントを本質的に含まない。
【0062】
本来の胚性幹細胞(ES細胞)は、胚盤胞、初期の胚の内部細胞塊から誘導される多能性幹細胞である。ES細胞は、2つの特有の特性:それらの多能性およびそれら自体を無限に自己再生するそれらの能力によって区別される。ES細胞は、多能性である、すなわち、それらは、3つの一次胚葉のすべて:外胚葉、内胚葉、および中胚葉の誘導体に分化することができる。さらに、胚性幹細胞は、特定されている条件下で、無限に自己増殖することができる。胚性幹細胞が、継続的な研究または臨床上の使用のためにそれら自体を無限の数、生み出すことができるので、これは、研究および再生医療の両方のための有用なツールとしてそれらを利用することを可能にする。
【0063】
しかしながら、マウスおよびヒトES細胞の間に顕著な差異がある。ヒトES細胞は、James Thomsonによって発見されたとき、それらの潜在能およびそれらの培養条件がマウスES細胞と異なることが分かり、これは、LIF(マウスES細胞の培養において必要とされるエレメント)に対して全く応答しないことによって顕著であり、これは、ヒトES細胞における不活性白血病抑制因子経路に起因する。既存のヒトIPS細胞は、これらの点においてヒトES細胞に類似し、そのため、それらは、ヒトES細胞様のiPS細胞と称することができる。
【0064】
IV.リプログラミングのための染色体外遺伝エレメント
ヒト体細胞からの多能性幹細胞の誘導は、遺伝子をリプログラミングするために異所性の発現のためにレトロウイルスまたはレンチウイルスベクターを使用して達成されてきた。モロニーマウス白血病ウイルスなどのような組換えレトロウイルスは、安定した方法において宿主ゲノムの中に組み込まれる能力を有する。組換えレトロウイルスは、宿主ゲノムへの組み込みを可能にするリバーストランスクリプターゼを含有する。レンチウイルスは、レトロウイルスのサブクラスである。レンチウイルスは、非分裂および分裂細胞のゲノムに組み込まれる能力のおかげでベクターとして広く適応されている。ウイルスが細胞に入ったとき、RNAの形態をしたウイルスゲノムが逆転写されて、DNAを産生し、DNAは、次いで、ウイルスインテグラーゼ酵素によってランダムな位置でゲノムの中に挿入される。そのため、リプログラミングの成功のための現在の技術は、組み込みベースのウイルスアプローチに依存している。
【0065】
しかしながら、現在の技術を用いても、標的指向性の組み込みはなお、ルーチン的なものではなく(Bodeら、2000年)、従来の代替のランダム組み込みは、人工多能性幹細胞における予測不能の結果を伴う挿入変異誘発を導き得る。同じ理由で、導入遺伝子の発現は、組み込み部位のクロマチンの状況に依存しているので、コントロールすることができない(Baerら、2000年)。高レベルの発現は、好都合なゲノム遺伝子座でのみ達成することができるが、高度に発現される部位へのその組み込みが人工多能性幹細胞の重大な細胞の機能に干渉する危険性が存在する。
【0066】
さらに、DNAメチル化が伴うプロセスにおいて導入遺伝子をダウンレギュレートすることによって作動する、外来性DNAに対する細胞の防御メカニズムの存在を立証する証拠が増加している(Bingham、1997年、Garrickら、1998年)。さらに、ウイルスの構成成分は、他の因子と作用して、細胞を形質転換し得る。多くのウイルス遺伝子由来の継続的な発現が伴って、細胞内のウイルスゲノムの少なくとも一部の残存により、細胞形質転換が引き起こされ得る。これらの遺伝子は、細胞のシグナル伝達経路に干渉し、細胞の実際の表現型の変化を引き起こし、細胞分裂の増加を示す形質転換細胞を導き得、これは、ウイルスにとって好都合となる。
【0067】
そのため、ある実施形態では、本発明は、以前の方法において使用されるレトロウイルスまたはレンチウイルスベクターエレメント由来のなどのような外因性の遺伝エレメントを本質的に含まない人工多能性幹細胞を生成するための新規な方法を開発する。本発明におけるこれらの方法は、最適なリプログラミング効率および反応速度を達成するために、細胞シグナル伝達阻害剤の存在下においてリプログラミングされた細胞を培養することと組み合わせて、染色体外で複製するベクターまたはエピソームとして複製することができるベクターを使用する(参照によって本明細書において組み込まれるU.S.出願第12/478,154号を参照されたい)。
【0068】
アデノウイルス、サル空胞ウイルス40(SV40)、ウシパピローマウイルス(BPV)、または出芽酵母ARS(自己複製配列)含有プラスミドなどのような多くのDNAウイルスは、哺乳動物細胞において染色体外で複製する。これらのエピソームプラスミドは、組み込み型ベクターと関連するすべての不都合(Bodeら、2001年)を本質的に含まない。エプスタインバーウイルス(EBV)を含むリンパ向性ヘルペスウイルスベースの系もまた、染色体外で複製し、リプログラミング遺伝子を体細胞に送達するのを助けてもよい。
【0069】
たとえば、本発明において使用されるエピソームベクターベースのアプローチは、詳細に下記に記載されるように、臨床設定における扱いやすさを損なうことなく、EBVエレメントベースの系の複製の成功および維持のために必要な強いエレメントを抽出する。有用なEBVエレメントは、OriPおよびEBNA−1またはそれらのバリアントもしくは機能的な等価物である。この系のさらなる利点は、これらの外因性のエレメントが細胞の中に導入された後に時間と共に失われ、これらのエレメントを本質的に含まない自立したiPS細胞が導かれるであろうということである。
【0070】
A.エプスタインバーウイルス
ヒトヘルペスウイルス4(HHV−4)と呼ばれるエプスタインバーウイルス(EBV)は、ヘルペスファミリー(単純ヘルペスウイルスおよびサイトメガロウイルスを含む)のウイルスであり、ヒトにおいて最も一般的なウイルスの1つである。EBVは、そのゲノムを染色体外で維持し、効率的な複製および維持のために宿主細胞機構と共同で作用し(LindnerおよびSugden、2007年)、細胞分裂の間の細胞内でのその複製およびその保持のために2つの本質的な特徴にもっぱら依存する(Yatesら 1985年;Yatesら 1984年)。一般にoriPと呼ばれる1つのエレメントは、シスで存在し、複製起点として役立つ。他の因子、EBNA−1は、プラスミドDNAの複製および維持を促進するためにoriP内の配列に結合することによってトランスで機能する。非限定的な例として、本発明のある態様は、これらの2つの特徴を抽出し、従来のプラスミドに対して、これらの遺伝子の複製および発現の保持を促進するために、体細胞をリプログラミングするのに必要な遺伝子を往復させるためのベクターと関連してそれらを使用する。
【0071】
B.複製開始点
ある態様では、EBVの複製開始点、OriPが使用されてもよい。OriPは、DNA複製が開始する部位にありまたはその近くにあり、family of repeats(FR)およびdyad symmetry(DS)として公知の、およそ1キロ塩基対離れた2つのシス作用性配列から構成される。
【0072】
FRは、30bpリピートの21の不完全なコピーから構成され、20の高親和性EBNA−1結合部位を含有する。FRにEBNA−1が結合すると、FRは、共に、10kbも離れたシスのプロモーターの転写エンハンサーとして働き(ReismanおよびSugden、1986年;Yates、1988年;SugdenおよびWarren、1989年;WysokenskiおよびYates、1989年;GahnおよびSugden、1995年;KennedyおよびSugden、2003年;Altmannら、2006年)、FR含有プラスミドの核内係留および正確な維持に寄与する(Langle−Rouaultら、1998年;KirchmaierおよびSugden、1995年;Wangら、2006年;NanboおよびSugden、2007年)。oriPプラスミドの効率的な分配もまた、おそらくFRに起因する。ウイルスは、FRにおける20のEBNA−1結合部位を維持するように進化してきたが、効率的なプラスミド維持は、これらの部位の7つのみを必要とし、合計12のEBNA−1−結合部位を有する、DSの3つのコピーのポリマーによって再構成することができる(WysokenskiおよびYates、1989年)。
【0073】
dyad symmetryエレメント(DS)は、EBNA−1の存在下におけるDNA合成の開始に十分であり(Aiyarら、1998年;Yatesら、2000年)、開始は、DSでまたはその近くで起こる(GahnおよびSchildkraut、1989年;Nillerら、1995年)。2Dゲル電気泳動によって観察されるように、FRにEBNA−1が結合すると、FRが複製フォークバリアとして機能するので、ウイルスDNA合成の停止は、FRで起こると考えられる(GahnおよびSchildkraut、1989年;Ermakovaら、1996年;Wangら、2006年)。DSからのDNA合成の開始は、細胞周期当たり1回まで許可され(Adams、1987年;YatesおよびGuan、1991年)、細胞複製系の構成成分によって調節される(Chaudhuriら、2001年;Ritziら、2003年;Dharら、2001年;Schepersら、2001年;Zhouら、2005年;Julienら、2004年)。FRにおいて見つけられるものよりも低い親和性を有するにもかかわらず、DSは、4つのEBNA−1結合部位を含有する(Reismanら、1985年)。DSのトポロジーは、4つの結合部位が2対の部位として配置され、それぞれの対の間に21bpの中心間距離および2つの非対内部結合部位の間に33bpの中心間距離を有するようなものである(Baerら、1984年;Rawlinsら、1985年)。
【0074】
DS内のエレメントの機能的な役割は、Rep*と称されるEBVのゲノムの他の領域に関する研究によって確認されており、DSと非効率的に置換することができるエレメントとして同定された(KirchmaierおよびSugden、1998年)。Rep*を8回重合することにより、複製のその支持においてDSと同じくらい効率的なエレメントがもたらされた(Wangら、2006年)。Rep*の生化学的な分析により、その複製の機能にとって決定的な21bpの中心間距離を有する1対のEBNA−1結合部位が同定された(同書)。ポリマー中のすべてのフランキング配列がラムダファージに由来する配列と交換された後でさえ、複製機能が保持されたので、Rep*の最小限のレプリケーターは、対のEBNA−1結合部位であることが分かった。DSおよびRep*の比較は、共通のメカニズムを明らかにした:これらのレプリケーターは、EBNA−1によって曲げられ、EBNA−1が結合した1対の適切に間隔を置かれた部位を介して、細胞複製機構を動員することによってDNA合成の開始を支持する。
【0075】
EBVに関係がない哺乳動物細胞において複製し、ある点で、EBVのRaji株内の開始のゾーンに類似するように思われる他の染色体外の許可されたプラスミドがある。Hans Lippsおよび彼の同僚は、「核骨格/マトリックス付着領域」(S/MAR)および強い転写ユニットを含有するプラスミドを開発し、研究した(Piechaczekら、1999年;Jenkeら、2004年)。それらのS/MARは、ヒトインターフェロン−ベータ遺伝子に由来し、A/Tリッチであり、それが核マトリックスに随伴することおよび低イオン強度においてまたはスーパーコイルDNAに埋め込まれた場合にそれが優先的に巻き戻されることによって操作的に定義された(Bodeら、1992年)。これらのプラスミドは、半保存的に複製し、ORCタンパク質に結合し、それらのDNAの全体にわたってDNA合成の開始を有効にランダムに支持する(Schaarschmidtら、2004年)。これらのプラスミドは、薬剤選択を伴うことなく、増殖するハムスターおよびヒト細胞において効率的に維持され、ブタ胚の中に導入された場合、胎児動物のほとんどの組織においてGFPの発現を支持することができる(Manziniら、2006年)。
【0076】
C.トランス作用因子
トランス作用因子の特定の例は、エプスタイン−バー核抗原1(EBNA−1)とすることができ、これは、それぞれの細胞分裂の間に、細胞染色体と無関係であるが、それと協力する複製および娘細胞へのEBVベースのベクターの正確な分配を促進するために、oriPのFRおよびDSまたはRep*に結合するDNA結合タンパク質である。
【0077】
EBNA−1の641のアミノ酸(AA)は、変異および欠失分析によって、その様々な機能と関連するドメインに分類された。AA40−89およびAA329−378の間の2つの領域は、EBNA−1が結合した場合にシスまたはトランスで2つのDNAエレメントを連結することができ、したがって、連結領域1および2(LR1、LR2)と称された(MiddletonおよびSugden、1992年;FrappierおよびO’Donnell、1991年;Suら、1991年;Mackeyら、1995年)。GFPへのEBNA−1のこれらのドメインの融合は、有系分裂染色体にGFPを向かわせる(Marechalら、1999年;Kandaら、2001年)。LR1およびLR2は、複製にとって機能的に余分であり、どちらか1つの欠失は、DNA複製を支持することができるEBNA−1の誘導体をもたらす(MackeyおよびSugden、1999年;Searsら、2004年)。LR1およびLR2は、アルギニンおよびグリシン残基が豊富であり、A/TリッチDNAに結合するATフックモチーフに似ている(AravindおよびLandsman、1998年)、(Searsら、2004年)。EBNA−1のLR1およびLR2のin vitroにおける分析は、A/TリッチDNAに結合するそれらの能力を実証した(Searsら、2004年)。1つのそのようなATフックを含有するLR1がEBNA−1のDNA結合ドメインおよび二量体化ドメインに融合された場合、野生型EBNA−1ほど効率的ではないにもかかわらず、oriPプラスミドのDNA複製に十分であることが分かった(同書)。
【0078】
しかしながら、LR1およびLR2は、異なる。LR1のC末端半分は、N末端半分の繰り返しArg−Gly以外のアミノ酸から構成され、特有の領域1(UR1)と称される。UR1は、EBNA−1が、FRを含有する、トランスフェクトされ、組み込まれたレポーターDNAから効率的に転写を活性化するのに必要である(Wuら、2002年;KennedyおよびSugden、2003年;Altmannら、2006年)。UR1はまた、EBVが感染したB細胞の効率的な形質転換にとって不可欠である。このドメインを欠くEBNA−1の誘導体が、ウイルス全体と関連して野生型タンパク質に取って代わる場合、これらの誘導体ウイルスは、野生型ウイルスの形質転換能力の0.1%を有する(Altmannら、2006年)。
【0079】
LR2は、oriP複製のEBNA−1の支持に必要とされない(Shireら、1999年;MackeyおよびSugden、1999年;Searsら、2004年)。さらに、EBNA−1のN末端半分は、HMGA1aなどのようなATフックモチーフを含有する細胞タンパク質と交換することができ、なお複製機能を保持することができる(Hungら、2001年;Searsら、2003年;Altmannら、2006年)。これらの発見は、ヒト細胞においてoriPの維持に必要とされるのは、おそらく、LR1およびLR2のATフック活性であることを示す。
【0080】
第3のEBNA−1の残基(AA91−328)は、プロテオソーム分解および提示を阻害することによって宿主免疫応答を回避するEBNA−1の能力に関係するグリシン−グリシン−アラニン(GGA)リピートから成る(Levitskayaら、1995年;Levitskayaら、1997年)。これらのリピートはまた、in vitroおよびin vivoにおいてEBNA−1の翻訳を阻害することが分かっている(Yinら、2003年)。しかしながら、このドメインの多くの欠失は、細胞培養におけるEBNA−1の機能に対して明らかな効果を有しておらず、このドメインが果たす役割を解明するのを困難にしている。
【0081】
核移行シグナル(NLS)は、AA379−386によってコードされ、これはまた、細胞核輸入機構と関連する(Kimら、1997年;Fischerら、1997年)。LR1およびLR2のArg−Glyリッチ領域内の配列はまた、それらの高度に塩基性の含有率によりNLSとして機能し得る。
【0082】
最後に、C末端(AA458−607)は、EBNA−1の部分的に重なるDNA結合ドメインおよび二量体化ドメインをコードする。DNAに結合したこれらのドメインの構造は、X線結晶解析によって解明されており、パピローマウイルスのE2タンパク質のDNA結合ドメインに類似することが分かった(Hegdeら、1992年;Kimら、2000年;Bochkarevら、1996年)。
【0083】
本発明の特定の実施形態では、リプログラミングベクターは、oriPおよび細胞分裂の間のプラスミド複製およびその適切な維持を支持する能力がある一種のEBNA−1をコードする短縮配列の両方を含有するであろう。アミノ末端の3分の1の野生型EBNA−1内の高頻度反復配列および様々な細胞において毒性を示した25アミノ酸領域の除去は、oriPと関連するEBNA−1のトランス作用性機能にとって不要である(Yatesら 1985年;Kennedyら 2003年)。そのため、一実施形態では、このエピソームベクターベースの系内のoriPと一緒に、deltaUR1として公知のEBNA−1の短縮形態を使用することができる。
【0084】
ある態様では、本発明において使用されてもよいEBNA−1の誘導体は、対応する野生型ポリペプチドと比較して、改変されたアミノ酸配列を有するポリペプチドである。結果として生じる誘導体が所望の特性を有する限り、たとえば、oriPに対応するoriを含有するDNAを二量体化させ、結合し、核に局所化し、細胞毒性ではなく、染色体外からの転写を活性化するが、組み込まれた鋳型からの転写を実質的に活性化しない限り、改変は、EBNA−1におけるLR1(残基約40〜約89)の特有の領域(残基約65〜約89)に対応する領域において少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、挿入、または置換を含み、EBNA−1の他の残基に対応する領域、たとえば、約残基1〜約残基40、残基約90〜約328(「Gly−Gly−Ala」リピート領域)、残基約329〜約377(LR2)、残基約379〜約386(NLS)、残基約451〜約608(DNA結合および二量体化)、または残基約609〜約641において1つ以上のアミノ酸残基の欠失および挿入および/または置換を含んでいてもよい。
【0085】
D.残留物なしの特徴
重要なことには、oriPベースのエピソームベクターの複製および維持は、不完全であり、それが細胞の中に導入される最初の2週間以内に細胞から急に(細胞分裂当たり25%)失われるが、プラスミドを保持する細胞は、それをそれほど頻繁に失わない(細胞分裂当たり3%)(LeightおよびSugden、2001年;NanboおよびSugden、2007年)。一度、プラスミドを持つ細胞についての選択を除いたら、プラスミドは、結果として生じる娘細胞内にその前者の存在のフットプリントを残すことなく、それらがすべてある期間にわたって排除されるまで、それぞれの細胞分裂の間に失われるであろう。本発明のある態様は、iPS細胞を生成するための遺伝子を送達するための現在のウイルス関連アプローチに対する代わりとして、oriPベースの系のこのフットプリントレスの特徴を使用する。他の染色体外ベクターもまた、宿主細胞の複製および増殖の間に失われるであろうし、これらもまた、本発明において利用することができる。
【0086】
E.リプログラミング因子
iPS細胞の生成では、誘導に使用される遺伝子が決定的である。以下の因子またはその組合せは、本発明において開示されるベクター系において使用することができる。ある態様では、SoxおよびOct(好ましくはOct3/4)をコードする核酸は、リプログラミングベクターの中に含まれるであろう。たとえば、リプログラミングベクターは、Sox2、Oct4、Nanog、および任意選択でLin−28をコードする発現カセットまたはSox2、Oct4、Klf4、および任意選択でc−mycをコードする発現カセットを含んでいてもよい。これらのリプログラミング因子をコードする核酸は、同じ発現カセット、異なる発現カセット、同じリプログラミングベクター、または異なるリプログラミングベクターにおいて含まれてもよい。
【0087】
Oct−3/4ならびにSox遺伝子ファミリーのある種のメンバー(Sox1、Sox2、Sox3、およびSox15)が、不在だと誘導を不可能にする、誘導プロセスに関与する決定的な転写調節因子として同定された。しかしながら、Klfファミリー(Klf1、Klf2、Klf4、およびKlf5)、Mycファミリー(C−myc、L−myc、およびN−myc)、Nanog、ならびにLIN28のある種のメンバーを含むさらなる遺伝子が、誘導効率を増加させると同定された。
【0088】
Oct−3/4(Pou5f1)は、八量体(「Oct」)転写因子のファミリーの1つであり、多能性を維持する際に決定的な役割を果たす。割球および胚性幹細胞などのようなOct−3/4+細胞におけるOct−3/4の不在により、自発的な栄養膜分化が導かれ、したがって、Oct−3/4の存在により、胚性幹細胞の多能性および分化潜在能力が生じる。Oct−3/4の類縁体、Oct1およびOct6を含む「Oct」ファミリーにおける様々な他の遺伝子は、誘導を誘発しない。
【0089】
遺伝子のSoxファミリーは、Oct−3/4に類似して、多能性の維持と関連するが、それは、多能性幹細胞において排他的に発現されるOct−3/4とは対照的に多分化能(multipotent)および単能性幹細胞と関連する。Sox2は、Takahashiら(2006年)、Wernigら(2007年)、およびYuら(2007年)によって誘導に使用された初めの遺伝子であったが、Soxファミリーにおける他の遺伝子は、誘導プロセスにおいて同様に作用することが分かった。Sox1は、Sox2と類似する効率によりiPS細胞をもたらし、効率は減少するが、遺伝子Sox3、Sox15、およびSox18もまた、iPS細胞を生成する。
【0090】
Nanogは、未分化胚性幹細胞の自己再生と決定的に関連する転写因子である。ヒトでは、このタンパク質は、NANOG遺伝子によってコードされる。Nanogは、胚性幹細胞(ESC)において発現される遺伝子であり、多能性を維持する重要な因子であると考えられる。NANOGは、ESCの独自性を樹立するためにOct4(POU5F1)およびSox2などのような他の因子と協力して機能すると考えられる。
【0091】
LIN28は、分化および増殖と関連する、胚性幹細胞および胚性癌腫細胞において発現されるmRNA結合タンパク質である。Yuら(2007年)は、LIN28が、不可欠ではないが、iPS生成における因子であることを実証した。
【0092】
遺伝子のKlfファミリーのKlf4は、最初に、Takahashiら(2006年)によって同定され、マウスiPS細胞の生成のための因子としてWernigら(2007年)によって確認され、Takahashiら(2007年)によってヒトiPS細胞の生成のための因子として示された。しかしながら、Yuら(2007年)は、Klf4が、ヒトiPS細胞の生成にとって不可欠ではないことを報告した。Klf2およびKlf4は、iPS細胞を生成することができる因子であると分かり、効率は低下するが、関係する遺伝子Klf1およびKlf5も同様であった。
【0093】
遺伝子のMycファミリーは、癌に関係する癌原遺伝子である。Takahashiら(2006年)およびWernigら(2007年)は、c−mycが、マウスiPS細胞の生成に関係する因子であることを実証し、Yamanakaらは、それが、ヒトiPS細胞の生成に関係する因子であることを実証した。しかしながら、Yuら(2007年)およびTakahashiら(2007年)は、c−mycが、ヒトiPS細胞の生成にとって不必要であることを報告した。c−myc誘導iPS細胞を移植したマウスの25%が、致死的な奇形腫を発症したので、iPS細胞の誘導における遺伝子の「myc」ファミリーの使用は、臨床上の療法として、iPS細胞の不測の事態のために問題がある。N−mycおよびL−mycは、同様の効率により、c−mycの代わりに多能性を誘導することが同定された。ある態様では、細胞の形質転換が低下している変異体などのようなMyc変異体、バリアント、ホモログ、または誘導体が、使用されてもよい。例として、LMYC(NM_001033081)、N末端の41アミノ酸が欠失したMYC(dN2MYC)、またはアミノ酸位置136に変異を有するMYC(たとえばW136E)を含む。
【0094】
V.細胞シグナル伝達阻害剤
本発明のある態様では、リプログラミングプロセスの少なくとも一部の間に、細胞は、シグナル伝達カスケードに関与するシグナルトランスデューサーを阻害する1つ以上のシグナル伝達阻害剤の存在下において、たとえば、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、MEK阻害剤およびGSK3阻害剤の両方、GSK3阻害剤およびTGF−β受容体阻害剤の両方、MEK阻害剤およびTGF−β受容体阻害剤の両方、3つの阻害剤すべての組合せ、または、これらの同じ経路内の他のシグナルトランスデューサーの阻害剤の存在において維持されてもよい。ある態様では、HA−100などのようなROCK阻害剤またはブレビスタチンなどのようなミオシンII阻害剤は、リプログラミングされた細胞および結果として生じるiPS細胞のクローン増殖を促進するために使用されてもよい。馴化ヒトES細胞培養培地などのような特定のリプログラミング培地または無血清限定N2B27培地(serum−free defined N2B27 medium)などのような既知組成培地(chemically defined medium)と組み合わせた高濃度のFGFもまた、リプログラミング効率を増加させるために使用されてもよい。
【0095】
ある実施形態では、染色体外遺伝エレメントによって、1つ以上のリプログラミング因子(たとえば本明細書において記載される2つまたは3つ以上の)で細胞に形質導入することに加えて、細胞は、MEK阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、GSK3阻害剤、および任意選択でLIFを含むリプログラミング培地を用いて処理され、それにより、リプログラミング効率および反応速度を改善し、初代リプログラミング培養におけるiPS細胞の同定を促進し、したがってiPS細胞クローン性を保つような利点が伴う。
【0096】
これらの態様および実施形態では、同じシグナル伝達経路(たとえばERK1またはERK2カスケード)のシグナル伝達構成成分を阻害する他のシグナル伝達阻害剤が、望まれる場合、MEK阻害剤と置換されてもよいことが理解されるであろう。これは、FGF受容体を通してのMAPK経路の上流の刺激の阻害を特に含んでいてもよい(Ying、2008年)。同様に、GSK3阻害剤は、望まれる場合、インスリン合成およびWnt/β−カテニンシグナル伝達などのようなGSK3関連シグナル伝達経路の他の阻害剤と置換されてもよく、LIFは、望まれる場合、Stat3またはgp130シグナル伝達の他の活性化因子と置換されてもよい。
【0097】
そのようなシグナル伝達阻害剤、たとえばMEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF−β受容体阻害剤は、少なくとももしくは約0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、100、150、200、500〜約1000μMまたはその中で推論できる任意の範囲の有効濃度で使用されてもよい。
【0098】
阻害剤は、従来の手段によって当業者らによってまたは従来の供給源から提供されてもよいまたは得られてもよい(WO2007113505もまた参照されたい)。
【0099】
A.グリコーゲン合成酵素キナーゼ3阻害剤
グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK−3)は、特定の細胞基質におけるあるセリンおよびトレオニンアミノ酸上へのリン酸分子の追加を媒介するセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。GSK−3によるこれらの他のタンパク質のリン酸化は、普通、標的タンパク質(「基質」とも呼ばれる)を阻害する。述べられるように、GSK−3は、グリコーゲン合成酵素をリン酸化し、したがって不活性化することが公知である。それはまた、損傷DNAおよびWntシグナル伝達に対する細胞の応答のコントロールに関係する。GSK−3はまた、Hedgehog(Hh)経路においてCiをもリン酸化し、タンパク質分解のためにそれを不活性形態に向ける。グリコーゲン合成酵素に加えて、GSK−3は、他の多くの基質を有する。しかしながら、GSK−3は、それが、普通、基質を最初にリン酸化するために「プライミングキナーゼ」を必要とするという点で、キナーゼの中で珍しい。
【0100】
GSK−3リン酸化の結果は、普通、基質の阻害である。たとえば、GSK−3が、もう1つのその基質、転写因子のNFATファミリーをリン酸化する場合、これらの転写因子は、核に移行することができず、そのため、阻害される。発生の間の組織パターンニングを確立するのに必要とされるWntシグナル伝達経路におけるその重要な役割に加えて、GSK−3はまた、骨格筋肥大などのような設定において誘導されるタンパク質合成にとっても決定的である。NFATキナーゼとしてのその役割もまた、それを、分化および細胞増殖の両方の重要な調節因子にする。
【0101】
GSK3阻害は、1つ以上のGSK3酵素の阻害を指してもよい。GSK3酵素のファミリーは、周知であり、多くのバリアントが記載されている(たとえばSchafferら、2003を参照されたい)。特定の実施形態では、GSK3−βが、阻害される。GSK3−α阻害剤もまた、適しており、ある態様では、本発明で使用される阻害剤は、GSK3−αおよびGSK3−βの両方を阻害する。
【0102】
GSK3の阻害剤は、GSK3に結合する抗体、GSK3のドミナントネガティブバリアント、ならびにGSK3を標的とするsiRNAおよびアンチセンス核酸を含むことができる。GSK3阻害剤の例は、Bennettら(2002年)およびRingら(2003年)において記載される。
【0103】
GSK3阻害剤の特定の例は、Kenpaullone、l−Azakenpaullone、CHIR99021、CHIR98014、AR−A014418(たとえばGouldら、2004年を参照されたい)、CT 99021(たとえばWagman、2004年を参照されたい)、CT 20026(Wagman、前掲を参照されたい)、SB415286、SB216763(たとえばMartinら、2005年を参照されたい)、AR−A014418(たとえばNobleら、2005年を参照されたい)、lithium(たとえばGouldら、2003年を参照されたい)、SB 415286(たとえばFrameら、2001年を参照されたい)、およびTDZD−8(たとえばChinら、2005年を参照されたい)を含むが、これらに限定されない。Calbiochemから入手可能な、さらなる例示的なGSK3阻害剤は(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるDaltonら、WO2008/094597を参照されたい)、BIO(2’Z,3’£)−6−ブロモムジルブム−3’−オキシム(GSK3阻害剤IX);BIO−アセトキシム(2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−アセトキシム(GSK3阻害剤X);(5−メチル−lH−ピラゾール−3−イル)−(2−フェニルキナゾリン−4−イル)アミン(GSK3阻害剤XIII);ピリドカルバゾール−シクロペンタジエニルルテニウム複合体(GSK3阻害剤XV);TDZD−8 4−ベンジル−2−メチル−l,2,4−チアジアゾリジン−3,5−ジオン(GSK3ベータ阻害剤I);2−チオ(3−ヨードベンジル)−5−(l−ピリジル)−[l,3,4]−オキサジアゾール(GSK3ベータ阻害剤II);OTDZT 2,4−ジベンジル−5−オキソチアジアゾリジン−3−チオン(GSK3ベータ阻害剤III);アルファ−4−ジブロモアセトフェノン(GSK3ベータ阻害剤VII);AR−AO 14418 N−(4−メトキシベンジル)−N’−(5−ニトロ−l,3−チアゾール−2−イル)尿素(GSK−3ベータ阻害剤VIII);3−(l−(3−ヒドロキシプロピル)−lH−ピロロ[2,3−b]ピリジン−3−イル]−4−ピラジン−2−イル−ピロール−2,5−ジオン(GSK−3ベータ阻害剤XI);TWSl 19ピロロピリミジン化合物(GSK3ベータ阻害剤XII);L803 H−KEAPP APPQSpP−NH2またはそのミリストイル化形態(GSK3ベータ阻害剤XIII);2−クロロ−l−(4,5−ジブロモ−チオフェン−2−イル)−エタノン(GSK3ベータ阻害剤VI);AR−AO144−18;SB216763;およびSB415286を含むが、これらに限定されない。
【0104】
GSK3阻害剤は、たとえば、Wnt/β−カテニン経路を活性化することができる。多くのβ−カテニン下流遺伝子は、多能性遺伝子ネットワークを同時制御する。たとえば、GSK阻害剤は、cMyc発現を活性化し、そのタンパク質安定性および転写活性を増強する。したがって、いくつかの実施形態では、GSK3阻害剤は、細胞における内因性のMycポリペプチド発現を刺激するために使用され、それによって、Myc発現が多能性を誘導する必要性を排除することができる。
【0105】
さらにGSK3−βの活性部位の構造は、特徴付けられており、特異的および非特異的な阻害剤と相互作用する重要な残基が同定されている(Bertrandら、2003年)。この構造の特徴付けは、さらなるGSK阻害剤が容易に同定されるのを可能にする。
【0106】
本明細書において使用される阻害剤は、好ましくは、キナーゼを標的とすることに特異的である。ある実施形態の阻害剤は、GSK3−βおよびGSK3−αに特異的であり、erk2を実質的に阻害せず、cdc2を実質的に阻害しない。好ましくは、阻害剤は、マウスerk2および/またはヒトcdc2を超えて、ヒトGSK3に対して、IC50値の比として測定される、少なくとも100倍、より好ましくは少なくとも200倍、好ましくは少なくとも400倍の選択性を有し、GSK3 IC50値への言及は、ヒトGSK3−βおよびGSK3−αについての平均値を指す。好適な結果が、GSK3に特異的なCHIR99021により得られた。CHIR99021の使用に適した濃度は、0.01〜100、好ましくは0.1〜20、より好ましくは0.3〜10マイクロモルの範囲である。
【0107】
B.MEK阻害剤
マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPK/ERKキナーゼもしくはMEK)またはMAPKカスケードのようなその関係するシグナル伝達経路の阻害剤を含むMEK阻害剤が、本発明のある態様において使用されてもよい。マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(sic)は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼをリン酸化するキナーゼ酵素である。マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼはまた、MAP2Kとしても知られている。細胞外刺激は、MAPキナーゼ、MAPキナーゼキナーゼ(MEK、MKK、MEKK、またはMAP2K)、およびMAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MKKKまたはMAP3K)から構成されるシグナル伝達カスケード(「MAPKカスケード」)を介してMAPキナーゼの活性化を導く。
【0108】
本明細書におけるMEK阻害剤は、一般のMEK阻害剤を指す。したがって、MEK阻害剤は、MEK1、MEK2、およびMEK5を含むプロテインキナーゼのMEKファミリーのメンバーの任意の阻害剤を指す。MEK1、MEK2、およびMEK5阻害剤もまた、言及される。当技術分野において既に公知の適したMEK阻害剤は、MEK1阻害剤PD184352およびPD98059、MEK1およびMEK2の阻害剤U0126およびSL327、ならびにDaviesら(2000年)において議論されるものを含む。
【0109】
特に、PD184352およびPD0325901は、他の公知のMEK阻害剤と比較した場合、高度の特異性および潜在能を有することが分かった(Bainら、2007年)。他のMEK阻害剤およびMEK阻害剤のクラスは、Zhangら(2000年)において記載される。
【0110】
MEKの阻害剤は、MEKに対する抗体、そのドミナントネガティブバリアント、ならびにその発現を抑制するsiRNAおよびアンチセンス核酸を含むことができる。MEK阻害剤の特定の例は、PD0325901(たとえばRinehartら、2004年を参照されたい)、PD98059(たとえばCell Signaling Technologyから入手可能)、U0126(たとえばCell Signaling Technologyから入手可能)、SL327(たとえばSigma−Aldrichから入手可能)、ARRY−162(たとえばArray Biopharmaから入手可能)、PD184161(たとえばKleinら、2006を参照されたい)、PD184352(CI−1040)(たとえばMattinglyら、2006年を参照されたい)、スニチニブ(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるVossら、US2008004287を参照されたい)、ソラフェニブ(Voss 前掲を参照されたい)、バンデタニブ(Voss 前掲を参照されたい)、パゾパニブ(たとえばVoss 前掲を参照されたい)、アキシチニブ(Voss 前掲を参照されたい)、およびPTK787(Voss 前掲を参照されたい)を含むが、これらに限定されない。
【0111】
現在、いくつかのMEK阻害剤は、臨床試験の評価を受けている。CI−1040は、癌のためのフェーズIおよびIIの臨床試験において評価された(たとえばRinehartら、2004年を参照されたい)。臨床試験において評価されている他のMEK阻害剤は、PD 184352(たとえばEnglishら、2002年を参照されたい)、BAY 43−9006(たとえばChowら、2001年を参照されたい)、PD−325901(さらにPD0325901)、GSKl 120212、ARRY−438162、RDEAl 19、AZD6244(さらにARRY−142886またはARRY−886)、RO5126766、XL518、およびAZD8330(さらにARRY−704)を含む。
【0112】
MEKの阻害はまた、RNA干渉(RNAi)を使用して好都合に達成することもできる。典型的に、MEK遺伝子のすべてまたは一部に相補的な二重鎖RNA分子は、多能性細胞の中に導入され、したがって、MEKコードmRNA分子の特異的な分解を促進する。この転写後メカニズムは、標的MEK遺伝子の発現の低下または消失をもたらす。RNAiを使用してMEK阻害を達成するための適した技術およびプロトコールは、公知である。
【0113】
GSK3阻害剤およびMEK阻害剤を含むキナーゼ阻害剤を同定するための多くのアッセイが、公知である。たとえば、Daviesら(2000年)は、キナーゼが、ペプチド基質および放射標識ATPの存在下においてインキュベートされるキナーゼアッセイを記載する。キナーゼによる基質のリン酸化は、基質への標識の組み込みをもたらす。それぞれの反応の一定分量は、ホスホセルロース紙上に固定され、遊離ATPを除去するためにリン酸中で洗浄される。次いで、インキュベーション後の基質の活性は、測定され、キナーゼ活性の指標を提供する。候補キナーゼ阻害剤の存在下および非存在下における相対的なキナーゼ活性は、そのようなアッセイを使用して容易に決定することができる。Downeyら(1996年)はまた、キナーゼ阻害剤を同定するために使用することができるキナーゼ活性のためのアッセイを記載する。
【0114】
C.TGF−β受容体阻害剤
TGF−β受容体阻害剤は、一般に、TGFシグナル伝達の任意の阻害剤またはTGF−β受容体(たとえばALK5)阻害剤に特異的な阻害剤を含んでいてもよく、これらは、TGFベータ受容体(たとえばALK5)に対する抗体、そのドミナントネガティブバリアント、ならびにその発現を抑制するsiRNAおよびアンチセンス核酸を含むことができる。例示的なTGFβ受容体/ALK5阻害剤は、SB431542(たとえばInmanら、2002年を参照されたい)、3−(6−メチル−2−ピリジニル)−N−フェニル−4−(4−キノリニル)−lH−ピラゾール−1−カルボチオアミドとしても公知であるA−83−01、(たとえばTojoら、2005年を参照されたい、たとえばToicris Bioscienceから市販で入手可能である);2−(3−(6−メチルピリジン−2−イル)−lH−ピラゾール−4−イル)−l,5−ナフチリジン、Wnt3a/BIO(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるDaltonら、WO2008/094597を参照されたい)、BMP4(Dalton、前掲を参照されたい)、GW788388(−(4−[3−(ピリジン−2−イル)−lH−ピラゾール−4−イル]ピリドム−2−イル}−N−(テトラヒドロ−2H−ピラン−4−イル)ベンズアミド)(たとえばGellibertら、2006年を参照されたい)、SM16(たとえばSuzukiら、2007を参照されたい)、IN−1130(3−((5−(6−メチルピリジン−2−イル)−4−(キノキサリン−6−イル)−lH−イミダゾール−2−イル)メチル)ベンズアミド)(たとえばKimら、2008年を参照されたい)、GW6604(2−フェニル−4−(3−ピリジン−2−イル−lH−ピラゾール−4−イル)ピリジン)(たとえばde Gouvilleら、2006年を参照されたい)、SB−505124(2−(5−ベンゾ[l,3]ジオキソール−5−イル−2−tert−ブチル−3H−イミダゾール−4−イル)−6−メチルピリジンハイドロクロライド)(たとえばDaCostaら、2004年を参照されたい)、およびピリミジン誘導体(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるStieflら、WO2008/006583において列挙されるものを参照されたい)を含むが、これらに限定されない。
【0115】
さらに、「ALK5阻害剤」は、非特異的キナーゼ阻害剤を包含するようには意図されないが、「ALK5阻害剤」は、たとえばSB−431542などのような、ALK5に加えてALK4および/またはALK7を阻害する阻害剤を包含することを理解されたい(たとえばInmanら、2002年を参照されたい)。本発明の範囲を限定することを意図するものではないが、ALK5阻害剤は、間葉系から上皮への転換/移行(MET)プロセスに影響を与えると考えられる。TGFβ/アクチビン経路は、上皮から間葉系への移行(EMT)のための駆動体である。発明者は、TGFβ/アクチビン経路の阻害が、MET(つまりリプログラミング)プロセスを促進することができることを企図する。
【0116】
TGFβ/アクチビン経路の阻害は,同様の効果を有するであろうということが考えられる。したがって、TGFβ/アクチビン経路の任意の阻害剤(たとえば上流または下流の)を、本明細書において記載されるTGF−β/ALK5阻害剤と組み合わせてまたはその代わりに使用することができる。例示的なTGFβ/アクチビン経路阻害剤は、TGFベータ受容体阻害剤、SMAD 2/3リン酸化の阻害剤、SMAD 2/3およびSMAD 4の相互作用の阻害剤、ならびにSMAD 6およびSMAD 7の活性化因子/アゴニストを含むが、これらに限定されない。さらに、本明細書において記載される分類は、単に構成上の目的のためのものであり、当業者は、化合物が経路内の1つ以上の段階に影響を与えることができることを知っているであろう、また、したがって、化合物は、1つを超える定義されたカテゴリーにおいて機能してもよい。
【0117】
TGFベータ受容体阻害剤は、TGFベータ受容体に対する抗体、そのドミナントネガティブバリアント、およびそれを標的とするsiRNAまたはアンチセンス核酸を含むことができる。阻害剤の特定の例は、SU5416;(2−(5−ベンゾ[l,3]ジオキソール−5−イル−2−tert−ブチル−3H−イミダゾール−4−イル)−6−メチルピリジンハイドロクロライド(SB−505124);lerdelimumb(CAT−152);metelimumab(CAT−192);GC−1008;IDl 1;AP−12009;AP−11014;LY550410;LY580276;LY364947;LY2109761;SB−505124;SB−431542;SD−208;SM16;NPC−30345;Ki26894;SB−203580;SD−093;Gleevec;3,5,7,2’,4’−ペンタヒドロキシフラボン(pentahydroxyfiavone)(Morin);アクチビン−M108A;P144;可溶性TBR2−Fc;およびTGFベータ受容体を標的とするアンチセンストランスフェクト腫瘍細胞(たとえばWrzesinskiら、2007年;Kaminskaら、2005年;およびChangら、2007年を参照されたい)を含むが、これらに限定されない。
【0118】
D.ROCK阻害剤およびミオシンII ATPアーゼ阻害剤
多能性幹細胞、特にヒトES細胞およびiPS細胞は、細胞の脱離および解離に際してアポトーシスを受けやすく、細胞の脱離および解離は、クローンの単離または増殖および分化誘導にとって重要である。最近、ROCK関連シグナル伝達経路のための阻害剤であるRho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤、たとえばRho特異的阻害剤、ROCK特異的阻害剤、またはミオシンII特異的阻害剤などのような小さなクラスの分子は、解離した多能性幹細胞のクローンの効率および生存を増加させることが分かった。本発明のある態様では、ROCK阻害剤は、多能性幹細胞の培養および継代そして/または幹細胞の分化のために使用されてもよい。そのため、ROCK阻害剤は、接着培養液または浮遊培養液などのような、多能性幹細胞が成長する、解離する、凝集物を形成する、または分化を受ける任意の細胞培養培地中に存在することができる。本明細書においてその他に述べられない限り、ブレビスタチンなどのようなミオシンII阻害剤は、ROCK阻害剤の実験的な使用のために代用することができる。
【0119】
ROCKシグナル伝達経路は、RhoファミリーGTPアーゼ;Rhoの下流の主要なエフェクターキナーゼであるROCK;ROCKの下流の主なエフェクターであるミオシンII(Harbら、2008年);および任意の中間、上流、または下流のシグナルプロセッサーを含んでいてもよい。ROCKは、ミオシン制御軽鎖(MRLC)の脱リン酸化を通してミオシン機能を負に調節するROCKの主な下流の標的の1つであるミオシンホスファターゼ標的サブユニット1(MYPT1)をリン酸化し、不活性化し得る。
【0120】
ROCKは、Rhoについての標的タンパク質として果たすセリン/トレオニンキナーゼである(この3つのアイソフォームが存在する−−RhoA、RhoB、およびRhoC)。これらのキナーゼは、RhoA誘導性のストレスファイバーの形成および局所的な接着の媒介物質として最初に特徴付けられた。2つのROCKアイソフォーム−ROCK1(ROKβとも呼ばれるp160ROCK)およびROCK2(ROKα)−は、Rho結合ドメインを含有するコイルドコイルドメインが後続するN末端キナーゼドメインおよびプレクストリン相同ドメイン(PH)から構成される。両方のROCKは、細胞骨格調節因子であり、ストレスファイバー形成、平滑筋収縮、細胞接着、膜ラフリング、および細胞運動性に対するRhoAの効果を媒介する。ROCKは、ミオシンII、ミオシン軽鎖(MLC)、MLCホスファターゼ(MLCP)、およびホスファターゼテンシンホモログ(PTEN)などのような下流の分子を標的とすることによって、それらの生物学的活性を働かせてもよい。
【0121】
ROCK阻害剤の非限定的な例は、HA−100、Y−27632、H−1152、ファスジル(HA1077とも呼ばれる)、Y−30141(米国特許第5,478,838号において記載される)、Wf−536、HA−1077、ヒドロキシル−HA−1077、GSK269962A、SB−772077−B、およびその誘導体、ならびにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉を誘導する核酸(たとえばsiRNA)、競合性ペプチド、アンタゴニストペプチド、阻害性抗体、抗体−ScFV断片、ドミナントネガティブバリアント、およびその発現ベクターを含む。さらに、他の低分子化合物がROCK阻害剤として公知であるので、そのような化合物またはその誘導体もまた、実施形態において使用することができる(たとえば、参照によってこれによって組み込まれる米国特許出願公開第20050209261号、第20050192304号、第20040014755号、第20040002508号、第20040002507号、第20030125344号、および第20030087919号ならびに国際特許出願公開第2003/062227号、第2003/059913号、第2003/062225号、第2002/076976号、および第2004/039796号を参照されたい)。本発明のある態様では、1つまたは2つ以上のROCK阻害剤の組合せもまた、使用することができる。
【0122】
Clostridium botulinum C3細胞外酵素などのようなRho特異的阻害剤および/またはミオシンII特異的阻害剤もまた、本発明のある態様においてROCK阻害剤として使用されてもよい。
【0123】
VI.リプログラミングされた細胞の培養
開始細胞および目的のリプログラミングされた細胞は、一般に、培養培地および培養条件について異なる必要条件を有する。細胞のリプログラミングが起こることをも可能にしながらこれを可能にするために、開始細胞の成長に適することが公知の培地の存在下においておよび培養条件下で、リプログラミング因子の導入後に、培養の少なくとも1つの初期段階を実行することは普通である。血清を有するフィーダー上での、リプログラミング培地の存在下におけるおよび多能性細胞に適することが公知の条件下でのまたは既知組成培地もしくはフィーダーフリーの条件を使用する培養の続く期間が、これに続く。適したフィーダーは、それらがリプログラミングされている細胞の成長を押しのけないように典型的に不活性化された初代または不死化線維芽細胞系を含む。リプログラミングのための十分な時間の後に、リプログラミングされた細胞は、増殖培地において、iPS細胞の選択の前またはその後に、iPS細胞の増殖のためにさらに培養されてもよい。そのような増殖培地は、上記に記載される1つ以上のシグナル伝達阻害剤を含むまたはこれらの阻害剤を本質的に含まない培養培地を含んでいてもよい。
【0124】
培養の初期段階は、好ましくは6日間までの、より好ましくは4日間までの、特に、下記に記載される実施形態では、3日間以下の、特に1日間までまたは約1日間の期間の間である。1つ以上のシグナル伝達阻害剤を含むリプログラミング培地における培養の続く段階は、適宜、少なくとももしくは約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33日間またはその中で推論できる任意の範囲の期間の間であり、70日間までの、好ましくは56日間まで、またはiPS細胞の検出までの期間の間とすることができる。リプログラミングヒト細胞を生成するために使用される下記に記載される特定の実施形態では、培養の初期段階は、約1日間の期間の間であり、続く段階は、MEK阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、およびGSK3阻害剤を含むリプログラミング培地の存在下におけるリプログラミング条件における培養による約9〜28日間の間とした。リプログラミング条件は、フィーダー細胞が本質的になくてもよい。さらなる態様では、リプログラミング培地は、既知組成培地であってもよい。リプログラミングを改善するために、リプログラミング培地は、高濃度のFGFをさらに含んでいてもよく、TGFβが本質的になくてもよい。
【0125】
MEK阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、およびGSK3阻害剤の組合せは、リプログラミング効率の増加およびリプログラミング時間の短縮を含めて、リプログラミングプロセスを促進し得る。LIFは、gp130シグナル伝達の活性化因子の例であり、他は、可溶性IL−6受容体と結合するIL−6であり、細胞がリプログラミングされつつあるとき、細胞の成長および生存を促進する。リプログラミングの間に、細胞は、LIFの存在下において培養されてもよく、LIFの使用は、本発明のある態様においてリプログラミングされた細胞が細胞生存およびクローン形成能を改善するのを助けてもよい。
【0126】
A.一般の幹細胞培養条件
本発明による培養条件は、使用される培地および幹細胞に依存して、適切に決定されるであろう。本発明のある態様による培地は、TeSR、BME、BGJb、CMRL 1066、Glasgow MEM、Improved MEM Zinc Option、IMDM、Medium 199、Eagle MEM、αMEM、DMEM、Ham、RPMI 1640、およびFischerの培地ならびにその任意の組合せのいずれかなどのような、その基本培地として、動物細胞を培養するために使用される培地を使用して調製することができるが、培地は、動物細胞を培養するためにそれを使用することができる限り、その培地に特に限定されない。
【0127】
本発明による培地は、血清含有または無血清培地とすることができる。無血清培地は、未処理または未精製血清を有していない培地を指し、したがって、精製血液由来構成成分または動物組織由来構成成分(増殖因子など)を有する培地を含むことができる。異種性の動物由来構成成分による混入を予防する側面から、血清は、幹細胞(複数可)と同じ動物に由来することができる。
【0128】
本発明による培地は、血清に対する任意の代替物を含有していてもよいまたは含有していなくてもよい。血清に対する代替物は、アルブミンを適切に含有する物質(脂質が豊富なアルブミン、組換えアルブミンなどのようなアルブミン代用物、植物デンプン、デキストラン、およびタンパク加水分解物など)、トランスフェリン(または他の鉄輸送体)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオグリセロール(thiolgiycerol)、またはそれに対する等価物を含むことができる。たとえば、血清に対する代替物は、国際特許出願公開第98/30679号において開示される方法によって調製することができる。その代わりに、任意の市販で入手可能な物質は、さらなる利便性のために使用することができる。市販で入手可能な物質は、knockout Serum Replacement(KSR)、Chemically−defined Lipid concentrated(Gibco)、およびGlutamax(Gibco)を含む。
【0129】
本発明の培地はまた、脂肪酸または脂質、アミノ酸(非必須アミノ酸など)、ビタミン(複数可)、増殖因子、サイトカイン、抗酸化物質、2−メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、および無機塩類を含有することができる。たとえば、2−メルカプトエタノールの濃度は、たとえば、約0.05〜1.0mM、特に約0.1〜0.5mMとすることができるが、濃度が幹細胞を培養するのに適切な限り、濃度は、特にそれに限定されない。
【0130】
幹細胞(複数可)を培養するために使用される培養容器は、それが幹細胞をその中で培養することができる限り、フラスコ、組織培養用のフラスコ、皿、ペトリ皿、組織培養用の皿、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、チューブ、トレー、CellSTACK(登録商標)チャンバー、培養袋、およびローラーボトルを含むことができるが、特にこれらに限定されない。幹細胞は、培養の必要性に依存して、少なくとももしくは約0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、40、50ml、100ml、150ml、200ml、250ml、300ml、350ml、400ml、450ml、500ml、550ml、600ml、800ml、1000ml、1500mlまたはその中で推論できる任意の範囲の容量において培養されてもよい。ある実施形態では、培養容器は、バイオリアクターであってもよく、これは、生物学的に活性な環境を支持する任意のデバイスまたはシステムを指してもよい。バイオリアクターは、少なくとももしくは約2、4、5、6、8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、500リットル、1、2、4、6、8、10、15立方メートルまたはその中で推論できる任意の範囲の容量を有していてもよい。
【0131】
培養容器は、細胞接着性または非接着性とすることができ、目的に依存して選択することができる。細胞接着性培養容器は、容器表面の細胞への接着性を改善するために細胞外マトリックス(ECM)などのような細胞接着のための基質のいずれかを用いてコーティングすることができる。細胞接着のための基質は、幹細胞またはフィーダー細胞(使用される場合)を付着させるように意図される任意の物質とすることができる。細胞接着のための基質は、コラーゲン、ゼラチン、ポリ−L−リシン、ポリ−D−リシン、ビトロネクチン、ラミニン、およびフィブロネクチンならびにその混合物、たとえばMatrigel(商標)および溶解細胞膜調製物を含む(Klimanskayaら、2005年)。
【0132】
他の培養条件は、適切に決定することができる。たとえば、培養温度は、約30〜40℃、たとえば、少なくともまたは約31、32、33、34、35、36、37、38、39℃とすることができるが、これらに特に限定されない。CO2濃度は、約1〜10%、たとえば約2〜5%またはその中で推論できる任意の範囲とすることができる。酸素分圧は、少なくとももしくは約1、5、8、10、20%またはその中で推論できる任意の範囲とすることができる。
【0133】
たとえば、ある態様における本発明の方法は、幹細胞の接着培養に使用することができる。この場合、細胞は、フィーダー細胞の存在下において培養することができる。フィーダー細胞が本発明の方法において使用される場合には、胎児線維芽細胞などのような間質細胞は、フィーダー細胞として使用することができる(たとえばHoganら、Manipulating the Mouse Embryo, A Laboratory Manual(1994年);Gene Targeting, A Practical Approach(1993年);Martin(1981年);vansおよびKaufman(1981年);Jainchillら、(1969年);Nakanoら(1996年);Kodamaら(1982年);ならびに国際特許出願公開第01/088100号および第2005/080554号を参照されたい)。
【0134】
ある態様における本発明の方法はまた、キャリヤー上での浮遊培養(Fernandesら、2004年)またはゲル/生体高分子カプセル化(米国特許出願公開第2007/0116680号)を含む、幹細胞の浮遊培養に使用することができる。幹細胞の浮遊培養という用語は、幹細胞が、培地中で、培養容器またはフィーダー細胞(使用される場合)に関して非接着性の条件下で培養されることを意味する。幹細胞の浮遊培養は、幹細胞の解離培養および幹細胞の凝集浮遊培養を含む。幹細胞の解離培養という用語は、浮遊した幹細胞が、培養され、幹細胞の解離培養が、単細胞の幹細胞の培養または複数の幹細胞(たとえば約2〜400の細胞)から構成される小細胞凝集物の培養を含むことを意味する。前述の解離培養が継続される場合、培養され、解離した細胞は、幹細胞のより大きな凝集物を形成し、その後、凝集浮遊培養を実行することができる。凝集浮遊培養は、胚子様培養法(Kellerら、1995年を参照されたい)およびSFEB法(Watanabeら、2005年;国際特許出願公開第2005/123902号を参照されたい)を含む。
【0135】
B.多能性幹細胞の培養
培養条件に依存して、多能性幹細胞は、分化細胞または未分化の細胞のコロニーを産生することができる。用語「分化する」は、発生経路に沿った細胞の進行を意味する。用語「分化した」は、他の細胞と比較した、発生経路に沿った細胞の進行を説明する相対的な用語である。たとえば、多能性細胞は、体のあらゆる細胞を誘発することができるが、造血細胞などのようなより分化した細胞は、より少ない細胞型を誘発するであろう。
【0136】
多能性幹細胞の培養物は、集団における幹細胞およびそれらの誘導体の実質的な割合が、未分化の細胞の形態学的特質を示す場合、「未分化の」として記載され、胚または成体の起源の分化した細胞をそれらと明確に区別する。未分化のESまたはiPS細胞は、当業者らによって認識され、高度な核/細胞質比および顕著な核小体を有する細胞のコロニーにおいて二次元の顕微鏡視野に典型的に現れる。未分化の細胞のコロニーは、分化した隣りの細胞を有することができることが理解される。
【0137】
ES細胞は、血清およびフィーダー層、典型的にマウス胚性線維芽細胞の存在下において細胞を培養することによって、未分化の状態で維持することができる。未分化の状態において幹細胞を維持する他の方法もまた、公知である。たとえば、マウスES細胞は、フィーダー層を伴わないでLIFの存在下において培養することによって、未分化の状態で維持することができる。しかしながら、マウスES細胞と異なり、先在するヒトES細胞は、LIFに応答しない。ヒトES細胞は、塩基性線維芽細胞増殖因子の存在下において線維芽細胞のフィーダー層上でES細胞を培養することによって(Amitら、2000年)またはフィーダー層を伴わないでかつ線維芽細胞条件培地および塩基性線維芽細胞増殖因子の存在下においてMatrigel(商標)もしくはラミニンなどのようなタンパク質マトリックス上で培養することによって(Xuら、2001年;米国特許第6,833,269号)、未分化の状態で維持することができる。
【0138】
ES細胞を調製し、培養するための方法は、すべて参照によって本明細書において組み込まれるteratocarcinomas and embryonic stem cells: A practical approach(1987年);Guide to Techniques in Mouse Development(1993年);Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro(1993年);Properties and uses of Embryonic Stem Cells: Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy(1998年)を含む、細胞生物学、組織培養、および発生学における標準的な教科書および概説において見つけることができる。組織培養において一般に使用される標準的な方法は、Animal Cell Culture(1987年);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(1987年);およびCurrent Protocols in Molecular Biology and Short Protocols in Molecular Biology(1987年&1995年)において記載されている。
【0139】
体細胞に、リプログラミング因子を導入したまたは接触させた後に、これらの細胞は、多能性および未分化の状態を維持するのに十分な培地において培養されてもよい。本発明において生成される人工多能性幹(iPS)細胞の培養は、参照によってこれによって組み込まれる米国特許出願公開第20070238170号および米国特許出願公開第20030211603号および米国特許出願公開第20080171385号において記載されるように、霊長動物多能性幹細胞、特に胚性幹細胞を培養するために開発された様々な培地および技術を使用することができる。当業者に公知であろう、多能性幹細胞の培養および維持のためのさらなる方法は、本発明と共に使用されてもよいことが十分に理解される。
【0140】
ある実施形態では、定義されていない条件が、使用されてもよい;たとえば、多能性細胞は、未分化の状態に幹細胞を維持するために、線維芽細胞フィーダー細胞または線維芽細胞フィーダー細胞に曝露された培地上で培養されてもよい。
【0141】
代わりに、多能性細胞は、TeSR培地などのような定義されるフィーダー非依存性の培養系を使用して培養され、本質的に未分化の状態で維持されてもよい(Ludwigら、2006a;Ludwigら、2006b)。フィーダー非依存性の培養系および培地は、多能性細胞を培養し、維持するために使用されてもよい。これらのアプローチは、誘導ヒトiPS細胞およびヒト胚性幹細胞が、マウス線維芽細胞「フィーダー層」の必要性を伴わないで本質的に未分化の状態で残ることを可能にする。本明細書において記載されるように、様々な修飾は、所望されるとおり、費用を下げるためにこれらの方法になされてもよい。
【0142】
様々なマトリックス構成成分は、ヒト多能性幹細胞を培養し、維持するのに使用されてもよい。たとえば、組合せのMatrigel(商標)、コラーゲンIV、フィブロネクチン、ラミニン、およびビトロネクチンは、それらの全体が参照によって組み込まれるLudwigら(2006a;2006b)において記載されるように、多能性細胞成長のための固体担体を提供する手段として培養表面をコーティングするために使用されてもよい。特に、Matrigel(商標)は、ヒト多能性幹細胞の細胞培養および維持のための基質を提供するために使用されてもよい。Matrigel(商標)は、マウス腫瘍細胞によって分泌されるゼラチン状のタンパク質混合物であり、BD Biosciences(New Jersey、USA)から市販で入手可能である。この混合物は、多くの組織において見つけられる複雑な細胞外環境に類似しており、細胞培養のための基質として細胞生物学者によって使用される。
C.細胞継代
本発明のある態様は、幹細胞を解離させるステップをさらに含むことができる。幹細胞解離は、任意の公知の手順を使用して実行することができる。これらの手順は、キレート剤(EDTAなど)、酵素(トリプシン、コラゲナーゼなど)、またはその他同種のものを用いる処理および機械的な解離(ピペット操作など)などのような操作を含む。幹細胞(複数可)は、解離後におよび/または前にROCK阻害剤を用いて処理することができる。たとえば、幹細胞(複数可)は、解離後にのみ処理することができる。
【0143】
多能性幹細胞培養のいくつかのさらなる実施形態では、一度、培養容器が一杯になったら、コロニーは、解離に適した任意の方法によって、凝集細胞またはさらに単細胞に分割されてもよく、これらの細胞は、次いで、継代のために新しい培養容器の中に配置される。細胞継代は、長期間、培養条件下で、細胞を生きたまま、成長し続けるよう保つのを可能にする技術である。細胞は、普通、約70%〜100%コンフルエントになった場合に、継代されるであろう。
【0144】
単細胞継代が後続する多能性幹細胞の単細胞の解離は、細胞増殖、細胞選別、および分化のための定義される接種を促進し、かつ培養手順およびクローン増殖の自動化を可能にするようないくつかの利点を伴って、本方法において使用されてもよい。たとえば、単細胞からクローン誘導可能な子孫細胞は、遺伝子構造が均質であり得、かつ/または細胞周期が同調したものであり得、これは、標的指向性の分化を増加させ得る。単細胞継代のための例示的な方法は、参照によって本明細書において組み込まれる米国特許出願第20080171385号において記載されるとおりであってもよい。
【0145】
ある実施形態では、多能性幹細胞は、個々の単細胞に解離されたものでも、個々の単細胞と2、3、4、5、6、7、8、9、10以上の細胞を含む小さな細胞塊との組合せに解離されたものでもよい。解離は、機械力またはクエン酸ナトリウム(NaCitrate)などのような細胞解離剤もしくは酵素、たとえばトリプシン、トリプシン−EDTA、TrypLE Select、もしくはその他同種のものによって達成され得る。
【0146】
多能性幹細胞の供給源および増殖の必要性に依存して、解離させた細胞は、少なくとももしくは約1:2、1:4、1:5、1:6、1:8、1:10、1:20、1:40、1:50、1:100、1:150、1:200またはその中で推論できる任意の範囲などのような分割比で、新しい培養容器に個々にまたは小さな塊で移されてもよい。浮遊細胞系分割比は、培養細胞浮遊液の容量に基づいて決められてもよい。継代間隔は、少なくとももしくは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日間またはその中で推論できる任意の範囲毎であってもよい。たとえば、異なる酵素による継代プロトコールについての達成可能な分割比は、3〜7日間毎に1:2、4〜7日間毎に1:3、およびおよそ7日間毎に1:5〜1:10、7日間毎に1:50〜1:100であってもよい。高分割比が使用される場合、継代間隔は、過度の自発的な分化または細胞死による細胞損失を伴うことなく、少なくとも12〜14日間または任意の期間まで延長されてもよい。
【0147】
ある態様では、単細胞継代は、上記に記載されるROCK阻害剤などのような、クローニング効率および細胞生存を増加させるのに有効な小分子の存在下であってもよい。そのようなROCK阻害剤、たとえばY−27632、HA−1077、H−1152、またはブレビスタチンは、有効濃度、たとえば、少なくとももしくは約0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50〜約100μMまたはその中で推論できる任意の範囲で使用されてもよい。
【0148】
VII.iPS細胞の選択
本発明のある態様では、1つ以上の染色体外遺伝エレメントが体細胞の中に導入された後に、細胞は、増殖のために培養されてもよく、(トランスフェクトされた細胞を濃縮するために、ポジティブ選択マーカーまたはスクリーニング可能なマーカーのようなベクターエレメントの存在について任意選択で選択されてもよく)、これらの遺伝エレメントは、これらの細胞においてリプログラミング因子を発現し、複製し、細胞分裂と共に分割するであろう。これらの発現されたリプログラミング因子は、体細胞ゲノムをリプログラミングして、自立多能性状態を確立し、その間にまたはベクターの存在についてのポジティブ選択を除いた後に、外因性の遺伝エレメントは、徐々に失われるであろう。これらの人工多能性幹細胞は、それらが、多能性胚性幹細胞と実質的に同一であると予想されるので、胚性幹細胞の特質に基づいて、これらの体細胞から誘導された子孫から選択することができる。さらなるネガティブセレクションステップは、リプログラミングベクターDNAの不在を試験するまたは選択マーカーを使用することによって、外因性の遺伝エレメントを本質的に含まないiPS細胞についての選択を速めるまたは助けるために利用することができる。
【0149】
A.胚性幹細胞の特質についての選択
従来の研究からの生成に成功したiPSCは、以下の点において、自然に単離された多能性幹細胞(マウスおよびヒト胚性幹細胞、それぞれmESCおよびhESCなど)に著しく類似し、したがって、自然に単離された多能性幹細胞に対するiPSCの同一性、確実性、および多能性を確認した。したがって、本発明において開示される方法から生成される人工多能性幹細胞は、1つ以上の以下の胚性幹細胞の特質に基づいて選択することができる。
【0150】
i.細胞の生物学的特性
形態:iPSCは、ESCに形態学的に類似する。細胞はそれぞれ、円形、大きな核小体、およびわずかな細胞質を有していてもよい。iPSCのコロニーもまた、ESCに類似し得る。ヒトiPSCは、hESCに類似する鋭い縁の平らな、しっかりと詰まったコロニーを形成し、マウスiPSCは、mESCに類似するコロニー、hESCよりも平らではなく、より凝集したコロニーを形成する。ある実施形態では、本方法は、大きなヒトiPS細胞を生成してもよく、これらは、少なくとももしくは約1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5mmまたはその中で推論できる任意の範囲の直径を有していてもよく、非iPS細胞から容易に認識できてもよい。
【0151】
成長特性:幹細胞がそれらの定義の一部として自己再生しなければならないので、倍加時間および有系分裂活性は、ESCの基本となる。iPSCは、有系分裂活性となり得、活動的に自己再生することができ、増殖することができ、ESCと等しい速度で分裂することができる。
【0152】
幹細胞マーカー:iPSCは、ESC上に発現される細胞表面抗原マーカーを発現してもよい。ヒトiPSCは、SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60、TRA−1−81、TRA−2−49/6E、およびNanogを含むが、これらに限定されない、hESCに特異的なマーカーを発現した。マウスiPSCは、mESCに類似して、SSEA−1を発現したが、SSEA−3もSSEA−4も発現しなかった。
【0153】
幹細胞遺伝子:iPSCは、Oct−3/4、Sox2、Nanog、GDF3、REX1、FGF4、ESG1、DPPA2、DPPA4、およびhTERTを含む、未分化のESCにおいて発現される遺伝子を発現してもよい。
【0154】
テロメラーゼ活性:テロメラーゼは、約50回の細胞分裂というHayflick限界によって制限されない細胞分裂を保持するのに必要である。ヒトESCは、自己再生および増殖を保持するために高度なテロメラーゼ活性を発現し、iPSCもまた、高度なテロメラーゼ活性を示し、テロメラーゼタンパク質複合体における必要な構成成分であるhTERT(ヒトテロメラーゼリバーストランスクリプターゼ)を発現する。
【0155】
多能性:iPSCは、完全に分化した組織への、ESCに類似する方法での分化が可能であろう。
【0156】
神経分化:iPSCは、ニューロンに分化し、βIIIチューブリン、チロシンヒドロキシラーゼ、AADC、DAT、ChAT、LMX1B、およびMAP2を発現することができる。カテコールアミン関連酵素の存在は、iPSCが、hESCのように、ドーパミン作動性ニューロンに分化可能であり得ることを示してもよい。幹細胞関連遺伝子は、分化後にダウンレギュレートされるであろう。
【0157】
心臓分化:iPSCは、自発的に鼓動し始めた心筋細胞に分化することができた。心筋細胞は、TnTc、MEF2C、MYL2A、MYHCβ、およびNKX2.5を発現した。幹細胞関連遺伝子は、分化後にダウンレギュレートされるであろう。
【0158】
奇形腫形成:免疫不全マウスの中に注射されたiPSCは、9週間などのような一定の時間後に奇形腫を自発的に形成し得る。奇形腫は、3つの胚葉、内胚葉、中胚葉、および外胚葉から誘導された組織を含有する複数の系列の腫瘍である;これは、典型的に1つの細胞型のみである他の腫瘍と異なる。奇形腫形成は、多能性についてのランドマーク試験である。
【0159】
胚様体:培養中のヒトESCは、「胚様体」と称されるボール様で胚様の構造を自発的に形成し、これらは、有系分裂活性で、分化しているhESCのコアおよび3つの胚葉すべてから完全に分化した細胞の周辺から成る。iPSCもまた、胚様体を形成し、周辺の分化細胞を有していてもよい。
【0160】
胚盤胞注射:ヒトESCは、胚盤胞の内部細胞塊(胚結節)内に自然に存在し、胚盤胞のシェル(栄養膜)が胚外組織に分化する間に、胚結節において、胚に分化する。くぼんだ栄養膜は、生きている胚を形成することができず、したがって、胚結節内の胚性幹細胞が分化し、胚を形成することが必要である。レシピエントメスに移される胚盤胞を生成するためにマイクロピペットによって栄養膜の中に注射されるiPSCは、キメラ生マウスの子:10%〜90で、それらの体全体にわたって組み込まれたiPSC誘導体およびキメラ現象を有するマウスをもたらしてもよい。
ii.後成的なリプログラミング
プロモーター脱メチル化:メチル化は、DNA塩基に対するメチル基の移入、典型的に、CpG部位(近接するシトシン/グアニン配列)におけるシトシン分子に対するメチル基の移入である。遺伝子の広範囲のメチル化は、発現タンパク質の活性を妨げるまたは発現に干渉する酵素を動員することによって、発現に干渉する。したがって、遺伝子のメチル化は、転写を妨げることによって有効にそれをサイレンシングする。Oct−3/4、Rex1、およびNanogを含む、多能性関連遺伝子のプロモーターは、iPSCにおいて脱メチル化され、iPSCにおいて、それらのプロモーター活性ならびに多能性関連遺伝子の活性促進および発現を示してもよい。
【0161】
ヒストン脱メチル化:ヒストンは、様々なクロマチン関連の修飾を通してそれらの活性を引き起こすことができるDNA配列に構造上局所化する圧縮タンパク質である。Oct−3/4、Sox2、およびNanogと関連するH3ヒストンは、Oct−3/4、Sox2、およびNanogの発現を活性化するために脱メチル化されてもよい。
【0162】
B.残留物なしの特徴についての選択
本発明におけるoriPベースのベクターなどのようなリプログラミングベクターは、染色体外で複製し、数代後に宿主細胞においてその存在を失わせることができる。しかしながら、外因性のベクターエレメントを本質的に含まない子孫細胞についてのさらなる選択ステップは、このプロセスを容易にしてもよい。たとえば、子孫細胞の試料は、当技術分野において公知の外因性のベクターエレメントの存在または損失を試験するために抽出されてもよい(LeightおよびSugden、2001年)。
【0163】
リプログラミングベクターは、選択マーカーを本質的に含まない子孫細胞を選択するために、そのような選択マーカー、特に、チミジンキナーゼをコードする遺伝子などのようなネガティブセレクションマーカーをさらに含んでいてもよい。ヒト単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ1型遺伝子(HSVtk)は、哺乳動物細胞における条件致死マーカーとして作用する。HSVtkにコードされる酵素は、ある種のヌクレオシドアナログ(たとえばガンシクロビル、抗ヘルペス剤)をリン酸化し、したがって、それらを、毒性のDNA複製阻害剤に変換することができる。代替のまたは補足のアプローチは、RT−PCR、PCR、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)、遺伝子アレイ、またはハイブリダイゼーション(たとえばサザンブロット)などのような従来の方法を使用して、子孫細胞における外因性の遺伝エレメントの不在を試験することである。
【0164】
VIII.ベクター構築および送達
ある実施形態では、リプログラミングベクターは、細胞においてリプログラミング因子を発現するために、上記に記載されるこれらのリプログラミング因子をコードする核酸配列に加えて、さらなるエレメントを含むように構築することができる。これらの方法の1つの特徴は、染色体外複製ベクターの使用であり、これは、宿主細胞ゲノムの中に組み込まれないであろう、また、多数の複製の間に失われてもよい。これらのベクターの構成成分および送達の方法の詳細については、下記に開示される。
【0165】
A.ベクター
プラスミドもしくはリポソームベースの染色体外ベクター、たとえばoriPベースのベクターおよび/またはEBNA−1の誘導体をコードするベクターの使用は、DNAの大きな断片が細胞に導入され、染色体外で維持され、細胞周期当たり1回複製され、娘細胞に効率的に分割し、免疫応答を実質的に誘発しないことを可能にする。特に、oriPベースの発現ベクターの複製を担うウイルスタンパク質であるEBNA−1は、それが、MHCクラスI分子上のその抗原の提示に必要とされる処理を迂回するための効率的なメカニズムを発達させたので、細胞性免疫応答を誘発しない(Levitskayaら、1997年)。さらに、EBNA−1は、クローニング遺伝子の発現を増強するために、トランスで作用し、いくつかの細胞系において、100倍まで、クローニング遺伝子の発現を誘導することができる(Langle−Rouaultら、1998年;Evansら、1997年)。最後に、そのようなoriPベースの発現ベクターの製造は、低費用である。
【0166】
他の染色体外ベクターは、他のリンパ向性ヘルペスウイルスベースのベクターを含む。リンパ向性ヘルペスウイルスは、リンパ芽球(たとえばヒトBリンパ芽球)において複製し、その自然の生活環の一部の間、プラスミドになるヘルペスウイルスである。単純ヘルペスウイルス(HSV)は、「リンパ向性」ヘルペスウイルスではない。例示的なリンパ向性ヘルペスウイルスは、EBV、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV);ヘルペスウイルスサイミリ(HS)、およびマレック病ウイルス(MDV)を含むが、これらに限定されない。さらに、酵母ARS、アデノウイルス、SV40、またはBPVなどのようなエピソームベースのベクターの他の供給源が、企図される。
【0167】
当業者は、標準的な組換え技術を通してベクターを構築するのに十分に備えられているであろう(たとえば、共に参照によって本明細書において組み込まれるManiatisら、1988年およびAusubelら、1994年を参照されたい)。
【0168】
ベクターはまた、遺伝子送達および/もしくは遺伝子発現をさらに調整するまたは他の場合には、標的細胞に有利な特性を提供する他の構成成分または機能性をも含むことができる。他のそのような構成成分は、たとえば、細胞への結合またはターゲティングに影響を及ぼす構成成分(細胞型または組織特異的な結合を媒介する構成成分を含む);細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を及ぼす構成成分;取り込み後に細胞内のポリヌクレオチドの局所化に影響を及ぼす構成成分(核局所化を媒介する作用物質など);およびポリヌクレオチドの発現に影響を及ぼす構成成分を含む。
【0169】
そのような構成成分はまた、ベクターによって送達される核酸を取り込み、発現している細胞を検出するまたは選択するために使用することができる検出可能なおよび/または選択マーカーなどのようなマーカーを含んでいてもよい。そのような構成成分は、ベクターの自然の特徴として提供することができる(結合および取り込みを媒介する構成成分もしくは機能性を有する、ある種のウイルスベクターの使用など)またはベクターは、そのような機能性をもたらすように改変することができる。種々様々のそのようなベクターは、当技術分野において公知で、一般に入手可能である。ベクターが宿主細胞において維持される場合、ベクターは、自律性の構造物として、有糸分裂の間に細胞によって安定して複製され、宿主細胞のゲノム内に組み込まれるまたは宿主細胞の核もしくは細胞質中に維持される。
【0170】
B.調節エレメント
ベクター中に含まれる真核生物発現カセットは、好ましくは、コード配列に操作可能に連結された真核生物転写プロモータータンパク質、介在配列を含むスプライスシグナル、および転写終結/ポリアデニル化配列を含有する(5’から3’方向に)。
i.プロモーター/エンハンサー
「プロモーター」は、転写の開始および速度がコントロールされる核酸配列の領域であるコントロール配列である。プロモーターは、核酸配列の特異的な転写を開始するために、RNAポリメラーゼおよび他の転写因子などのような調節タンパク質および分子が、結合してもよい遺伝エレメントを含有していてもよい。語句「作動可能に位置する」、「作動可能に連結された」、「コントロール下の」、および「転写コントロール下の」は、プロモーターが、その配列の転写開始および/または発現をコントロールするために、核酸配列に関して適正な機能的な場所にあるおよび/または方向づけをされていることを意味する。
【0171】
本発明のEBNA−1コードベクターにおいて使用するのに適したプロモーターは、EBNA−1タンパク質をコードする発現カセットの発現を指示して、十分な定常状態のレベルのEBNA−1タンパク質をもたらし、EBV oriP−含有ベクターを安定して維持するものである。プロモーターはまた、リプログラミング因子をコードする発現カセットの効率的な発現のために使用されてもよい。
【0172】
プロモーターは、一般に、RNA合成のための開始部位を位置づけるために機能する配列を含む。この最もよく知られている例は、TATAボックスであるが、たとえば哺乳動物末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ遺伝子についてのプロモーターおよびSV40後期遺伝子についてのプロモーターなどのようなTATAボックスを欠くいくつかのプロモーターでは、開始の場所を固定するのを助けるために開始部位それ自体を覆う孤立性のエレメントである。さらなるプロモーターエレメントは、転写開始の頻度を調節する。典型的に、これらは、開始部位の30〜110bp上流の領域に位置するが、多くのプロモーターは、同様に、開始部位の下流の機能エレメントを含有することが示されている。プロモーター「のコントロール下の」コード配列をもたらすために、転写リーディングフレームの転写開始部位の5’端を、選ばれたプロモーターの「下流に」(つまり、3’に)位置づける。「上流の」プロモーターは、DNAの転写を刺激し、コードRNAの発現を促進する。
【0173】
プロモーターエレメントの間の間隔は、しばしば可動性であり、エレメントが互いに反転するまたは移動する場合、プロモーター機能は保たれる。tkプロモーターでは、プロモーターエレメントの間の間隔は、50bpの間隔まで増加させることができ、それを超えると活性が下がり始める。プロモーターに依存して、個々のエレメントは、転写を活性化するために、協力的にまたは非依存的に機能することができるように思われる。プロモーターは、「エンハンサー」と共に使用されてもよくまたは使用されなくてもよく、これは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用性調節配列を指す。
【0174】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエキソンの上流に位置する5’非コード配列を単離することによって得られるかもしれないので、核酸配列と自然に関連するものである。そのようなプロモーターは、「内因性」と呼ぶことができる。同様に、エンハンサーは、その配列の下流または上流に位置する核酸配列と自然に関連するものであってもよい。その代わりに、ある種の利点は、その自然環境において核酸配列と通常関連しないプロモーターを指す組換えまたは異種プロモーターのコントロール下にコード核酸セグメントを位置づけることによって、獲得されるであろう。組換えまたは異種エンハンサーはまた、その自然環境において核酸配列と通常関連しないエンハンサーを指す。そのようなプロモーターまたはエンハンサーは、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサーならびに他のウイルスまたは原核もしくは真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサーならびに「天然に存在しない」、つまり、異なる転写調節領域の異なるエレメントおよび/または発現を改変する変異を含有するプロモーターまたはエンハンサーを含んでいてもよい。たとえば、組換えDNA構築において最も一般に使用されるプロモーターは、β−ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトース、およびトリプトファン(trp)プロモーター系を含む。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成的に産生することに加えて、配列は、本明細書において開示される組成物に関連して、組換えクローニングおよび/またはPCR(商標)を含む核酸増幅技術を使用して産生されてもよい(それぞれ参照によって本明細書において組み込まれる米国特許第4,683,202号および第5,928,906号を参照されたい)。さらに、ミトコンドリア、葉緑体、およびその他同種のものなどのような非核細胞小器官内の配列の転写および/または発現を指示するコントロール配列を同様に利用することができることが企図される。
【0175】
当然ながら、発現のために選ばれた細胞小器官、細胞型、組織、器官、または生物におけるDNAセグメントの発現を有効に指示するプロモーターおよび/またはエンハンサーを利用することが重要であろう。分子生物学の当業者らは、一般に、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサー、および細胞型の組合せの使用を知っている(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるSambrookら 1989年を参照されたい)。利用されるプロモーターは、組換えタンパク質および/またはペプチドの大規模生産において有利であるなどのように、導入されたDNAセグメントの高レベルの発現を指示するのに適切な条件下で、恒常的、組織特異的、誘導性、および/または有用であってもよい。プロモーターは、異種または内因性のものであってもよい。
【0176】
さらに、任意のプロモーター/エンハンサーの組合せ(たとえば、Eukaryotic Promoter Data Base EPDB、World Wide Web at epd.isb−sib.ch/)もまた、発現を駆動するために使用することができる。T3、T7、またはSP6細胞質発現系の使用は、他の可能な実施形態である。真核細胞は、送達複合体の一部としてまたはさらなる遺伝子発現構築物として適切な細菌ポリメラーゼが提供される場合、ある種の細菌プロモーターからの細胞質転写を支持することができる。
【0177】
プロモーターの非限定的な例は、SV40初期にまたは後期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、ニワトリ肉腫ウイルス(RSV)初期プロモーターなどのような初期または後期ウイルスプロモーター;たとえば、ベータアクチンプロモーター(Ng、1989年、Quitscheら、1989年)、GADPHプロモーター(Alexanderら、1988年、Ercolaniら、1988年)、メタロチオネインプロモーター(Karinら、1989年;Richardsら、1984年)などのような真核細胞プロモーター;ならびに環状AMP応答エレメントプロモーター(cre)、血清応答エレメントプロモーター(sre)、ホルボールエステルプロモーター(TPA)、および最小限のTATAボックスの近くの応答エレメントプロモーター(tre)などのような連鎖状応答エレメントプロモーターを含む。ヒト成長ホルモンプロモーター配列(たとえば、Genbank、受入番号X05244に記載されるヒト成長ホルモンの最小限のプロモーター、ヌクレオチド283〜341)またはマウス乳癌プロモーター(ATCC、カタログ番号ATCC 45007から入手可能)を使用することもまた、可能である。特定の例は、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターとすることができる。
【0178】
ii.開始シグナルおよび内部リボソーム結合部位
特異的な開始シグナルもまた、コード配列の効率的な翻訳のために必要とされてもよい。これらのシグナルは、ATG開始コドンまたは近接する配列を含む。ATG開始コドンを含む外因性翻訳コントロールシグナルが提供される必要があってもよい。当業者はこれを容易に決定し、必要なシグナルを提供することができるであろう。開始コドンは、挿入物全体の翻訳を確実にするために、所望のコード配列のリーディングフレームとインフレームでなければならないことは周知である。外因性翻訳コントロールシグナルおよび開始コドンは、自然または合成のものであってもよい。発現の効率は、適切な転写エンハンサーの包含によって増強されてもよい。
【0179】
本発明のある実施形態では、配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントの使用は、多重遺伝子または多シストロン性メッセージを生成するために使用されてもよい。IRESエレメントは、5’メチル化キャップ依存性の翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回し、内部の部位で翻訳を始めることができる(PelletierおよびSonenberg、1988年)。ピコルナウイルスファミリーの2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)由来のIRESエレメントが、記載されており(PelletierおよびSonenberg、1988年)、そのうえ、哺乳動物メッセージ由来のIRES(MacejakおよびSarnow、1991年)も記載されている。IRESエレメントは、異種オープンリーディングフレームに連結することができる。複数のオープンリーディングフレームは、共に転写することができ、IRESによってそれぞれ分離され、多シストロン性メッセージを生成することができる。IRESエレメントによって、オープンリーディングフレームはそれぞれ、効率的な翻訳のためにリボソームに到達できる。複数の遺伝子は、単一のメッセージを転写するために単一のプロモーター/エンハンサーを使用して効率的に発現することができる(参照によって本明細書において組み込まれる米国特許第5,925,565号および第5,935,819号を参照されたい)。
iii.マルチクローニング部位
ベクターは、マルチクローニング部位(MCS)を含むことができ、これは、複数の制限酵素部位を含有する核酸領域であり、これらのいずれも、ベクターを消化するための標準的な組換え技術と共に使用することができる(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるCarbonelliら、1999年、Levensonら、1998年、およびCocea、1997年を参照されたい)。「制限酵素消化」は、核酸分子中の特異的な場所でのみ機能する酵素を用いる核酸分子の触媒性の切断を指す。これらの制限酵素の多くは、市販で入手可能である。そのような酵素の使用は、当業者らによって広く理解されている。しばしば、ベクターは、外因性の配列がベクターにライゲーションされるのを可能にするために、MCS内を切断する制限酵素を使用して、直線化されるまたは断片化される。「ライゲーション」は、2つの核酸断片の間にホスホジエステル結合を形成するプロセスを指し、これらは、互いに隣接していてもよいまたは隣接していなくてもよい。制限酵素およびライゲーション反応に関する技術は、組換え技術の当業者らに周知である。
【0180】
iv.スプライシング部位
ほとんどの転写真核生物RNA分子は、一次転写物からイントロンを除去するためにRNAスプライシングを受けるであろう。ゲノム真核生物配列を含有するベクターは、タンパク質発現のための転写の適切な処理を確実にするために、ドナーおよび/またはアクセプタースプライシング部位を必要としてもよい(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるChandlerら、1997年を参照されたい)。
【0181】
v.終結シグナル
本発明のベクターまたは構築物は、一般に、少なくとも1つの終結シグナルを含むであろう。「終結シグナル」または「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写の特異的な終結に関与するDNA配列から構成される。したがって、ある実施形態では、RNA転写物の産生を終了する終結シグナルが企図される。ターミネーターは、望ましいメッセージレベルを達成するためにin vivoにおいて必要であってもよい。
【0182】
真核生物系では、ターミネーター領域はまた、ポリアデニル化部位を曝露するように、新しい転写物の部位特異的な切断を可能にする特異的なDNA配列を含んでいてもよい。これは、約200のA残基(ポリA)のストレッチを転写物の3’端に追加するように、特殊化した内因性のポリメラーゼにシグナル伝達する。このポリAテイルを用いて修飾されたRNA分子は、より安定しているように思われ、より効率的に翻訳される。したがって、真核生物に関する他の実施形態では、そのターミネーターが、RNAの切断のためのシグナルを含むことが好まれ、ターミネーターシグナルが、メッセージのポリアデニル化を促進することがより好まれる。ターミネーターおよび/またはポリアデニル化部位エレメントは、メッセージレベルを増強し、かつカセットから他の配列へのリードスルーを最小限にするように果たすことができる。
【0183】
本発明において使用するために企図されるターミネーターは、たとえば、たとえばウシ成長ホルモンターミネーターなどのような遺伝子の終結配列またはたとえばSV40ターミネーターなどのようなウイルス終結配列を含むが、これらに限定されない、本明細書において記載されるまたは当業者に公知の転写の任意の公知のターミネーターを含む。ある実施形態では、終結シグナルは、配列切断によるなどのように、転写可能なまたは翻訳可能な配列の欠如であってもよい。
vi.ポリアデニル化シグナル
発現、特に真核生物の発現では、典型的に、転写物の適切なポリアデニル化を引き起こすためのポリアデニル化シグナルを含むであろう。ポリアデニル化シグナルの性質は、本発明の実施の成功に重大であると考えられず、任意のそのような配列が利用されてもよい。好ましい実施形態は、様々な標的細胞において十分に機能するのに好都合であり、そのことが公知であるSV40ポリアデニル化シグナルまたはウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルを含む。ポリアデニル化は、転写物の安定性を増加させてもよいまたは細胞質輸送を促進してもよい。
【0184】
vii.複製起点
宿主細胞においてベクターを増殖させるために、ベクターは、複製が開始される特異的な核酸配列である、1つ以上の複製起点部位(多くの場合、「ori」と称される)、たとえば、上記に記載されるEBVのoriPに対応する核酸配列を含有していてもよい。その代わりに、上記に記載される他の染色体外で複製するウイルスの複製開始点または自己複製配列(ARS)を利用することができる。
viii.選択マーカーおよびスクリーニング可能なマーカー
本発明のある実施形態では、本発明の核酸構築物を含有する細胞は、発現ベクター中にマーカーを含むことによって、in vitroまたはin vivoにおいて同定されてもよい。そのようなマーカーは、細胞に同定可能な変化を与え、発現ベクターを含有する細胞の容易な同定を可能にするであろう。一般に、選択マーカーは、選択を可能にする特性を与えるものである。ポジティブ選択マーカーは、マーカーの存在がその選択を可能にするものであるが、ネガティブ選択マーカーは、その存在がその選択を妨げるものである。ポジティブ選択マーカーの例は、薬剤抵抗性マーカーである。
【0185】
普通、薬剤選択マーカーの包含は、形質転換体のクローニングおよび同定を援助し、たとえば、ネオマイシン、ブラストサイジン、ピューロマイシン、ヒグロマイシン、DHFR、GPT、zeocin、およびヒスチジノールに対する抵抗性を与える遺伝子は、有用な選択マーカーである。条件の実行に基づく形質転換体の識別を可能にする表現型を与えるマーカーに加えて、その基準が比色分析であるGFPなどのようなスクリーニング可能なマーカーを含む他のタイプのマーカーもまた、企図される。その代わりに、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などのようなネガティブ選択マーカーとしてスクリーニング可能な酵素が、利用されてもよい。当業者はまた、おそらくFACS分析と共に、免疫マーカーを利用する方法をも知っているであろう。マーカーが遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現されることができる限り、使用されるマーカーは、重要であると考えられない。さらに、選択およびスクリーニング可能なマーカーの例は、当業者に周知である。
【0186】
C.ベクター送達
本発明を用いる体細胞へのリプログラミングベクターの導入は、本明細書において記載されるようにまたは当業者に公知であるように、細胞の形質転換のために、任意の核酸送達に適した方法を使用してもよい。そのような方法は、ex vivoトランスフェクションによって(Wilsonら、1989年、Nabelら、1989年);マイクロインジェクション(HarlandおよびWeintraub、1985年;参照によって本明細書において組み込まれる米国特許第5,789,215号)を含む注射によって(それぞれ参照によって本明細書において組み込まれる米国特許第5,994,624号、第5,981,274号、第5,945,100号、第5,780,448号、第5,736,524号、第5,702,932号、第5,656,610号、第5,589,466号、および第5,580,859号);エレクトロポレーションによって(参照によって本明細書において組み込まれる米国特許第5,384,253号;Tur−Kaspaら、1986年;Potterら、1984年);リン酸カルシウム沈殿によって(GrahamおよびVan Der Eb、1973年;ChenおよびOkayama、1987年;Rippeら、1990年);ポリエチレングリコールが後続するDEAEデキストランの使用によって(Gopal、1985年);直接的な音波ローディングによって(Fechheimerら、1987年);リポソーム媒介性のトランスフェクションによって(NicolauおよびSene、1982年;Fraleyら、1979年;Nicolauら、1987年;Wongら、1980年;Kanedaら、1989年;Katoら、1991年)ならびに受容体媒介性のトランスフェクション(WuおよびWu、1987年;WuおよびWu、1988年)によって;微粒子銃によって(それぞれ、参照によって本明細書において組み込まれるPCT出願WO94/09699および95/06128;米国特許第5,610,042号;第5,322,783号 第5,563,055号、第5,550,318号、第5,538,877号、および第5,538,880号);炭化ケイ素繊維を用いる撹拌によって(それぞれ参照によって本明細書において組み込まれるKaepplerら、1990年;米国特許第5,302,523号および第5,464,765号);乾燥/阻害媒介性のDNA取り込み(Potrykusら、1985年)によって、ならびにそのような方法の任意の組合せなどのように、DNAの直接的な送達を含むが、これらに限定されない。これらの技術などのような技術の適用を通して、細胞小器官(複数可)、細胞(複数可)、組織(複数可)、または生物(複数可)は、安定してまたは一時的に形質転換されてもよい。
【0187】
i.リポソーム媒介性のトランスフェクション
本発明のある実施形態では、核酸は、たとえばリポソームなどのような脂質複合体中に封入されてもよい。リポソームは、リン脂質二重層膜および内部水性媒体によって特徴付けられる小胞性の構造物である。多重膜リポソームは、水性媒体によって分離される複数の脂質層を有する。多重膜リポソームは、リン脂質が過剰な水溶液中に懸濁される場合、自発的に形成される。脂質成分は、閉鎖した構造物の形成の前に自己再配列を受けて、脂質二分子膜の間に水および溶解した溶質を封入する(GhoshおよびBachhawat、1991年)。Lipofectamine(Gibco BRL)またはSuperfect(Qiagen)と複合体を形成した核酸もまた、企図される。使用されるリポソームの量は、リポソームの性質および使用される細胞次第で変動してもよく、たとえば、1〜10百万の細胞当たり約5〜約20μgベクターDNAが企図されてもよい。
【0188】
in vitroにおける外来性DNAのリポソーム媒介性の核酸送達および発現は、非常に成功してきた(NicolauおよびSene、1982年;Fraleyら、1979年;Nicolauら、1987年)。培養ニワトリ胚、HeLa、および肝癌細胞における外来性DNAのリポソーム媒介性の送達および発現の実現可能性もまた示された(Wongら、1980年)。
【0189】
本発明のある実施形態では、リポソームは、赤血球凝集ウイルス(HVJ)と複合体を形成させてもよい。これは、細胞膜との融合を促進し、かつリポソームカプセル化DNAの細胞侵入を促進することが示された(Kanedaら、1989年)。他の実施形態では、リポソームは、核非ヒストン染色体タンパク質(HMG−1)と複合体を形成させてもよいまたはそれと共に利用されてもよい(Katoら、1991年)。さらなる実施形態では、リポソームは、HVJおよびHMG−1の両方と複合体を形成させてもよいまたはそれらと共に利用されてもよい。他の実施形態では、送達ビヒクルは、リガンドおよびリポソームを含んでいてもよい。
【0190】
ii.エレクトロポレーション
本発明のある実施形態では、核酸は、エレクトロポレーションを介して、細胞小器官、細胞、組織、または生物の中に導入される。エレクトロポレーションは、細胞およびDNAの懸濁液の高電圧放電への曝露を含む。レシピエント細胞は、機械的な傷によって形質転換に対してより感受性にすることができる。さらに、使用されるベクターの量は、使用される細胞の性質次第で変動してもよく、たとえば、1〜10百万の細胞当たり約5〜約20μgベクターDNAが企図されてもよい。
【0191】
エレクトロポレーションを使用する真核細胞のトランスフェクションは、かなり成功してきた。マウス前Bリンパ球は、ヒトカッパ免疫グロブリン遺伝子をトランスフェクトされ(Potterら、1984年)、ラット肝細胞は、このようにしてクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子をトランスフェクトされた(Tur−Kaspaら、1986年)。
【0192】
iii.リン酸カルシウム
本発明の他の実施形態では、核酸は、リン酸カルシウム沈殿を使用して、細胞に導入される。ヒトKB株細胞は、この技術を使用して、アデノウイルス5 DNA(GrahamおよびVan Der Eb、1973年)がトランスフェクトされた。さらに、このようにして、マウスL(A9)、マウスC127、CHO、CV−1、BHK、NIH3T3、およびHeLa細胞は、ネオマイシンマーカー遺伝子がトランスフェクトされ(ChenおよびOkayama、1987年)、ラット肝細胞は、様々なマーカー遺伝子がトランスフェクトされた(Rippeら、1990年)。
【0193】
iv.DEAE−デキストラン
他の実施形態では、核酸は、ポリエチレングリコールが後続するDEAE−デキストランを使用して、細胞の中に送達される。このようにして、レポータープラスミドは、マウス骨髄腫細胞および赤白血病細胞の中に導入された(Gopal、1985年)。
【0194】
v.超音波処理ローディング
本発明のさらなる実施形態は、直接的な音波ローディングによる核酸の導入を含む。LTK−線維芽細胞は、音波処理ローディングによってチミジンキナーゼ遺伝子がトランスフェクトされた(Fechheimerら、1987年)。
【0195】
vi.受容体媒介性のトランスフェクション
さらに、核酸は、受容体媒介性の送達ビヒクルを介して目的の細胞に送達されてもよい。これらは、標的細胞において起こるであろう受容体媒介性のエンドサイトーシスによる高分子の選択的な取り込みを利用する。様々な受容体の細胞型に特異的な分布を考慮して、この送達方法は、本発明に他の特異性を追加する。
【0196】
ある種の受容体媒介性の遺伝子ターゲティングビヒクルは、細胞受容体特異的リガンドおよび核酸結合剤を含む。他のものは、送達されることとなる核酸が作動可能に付着された細胞受容体特異的リガンドを含む。いくつかのリガンドは、受容体媒介性の遺伝子移入(WuおよびWu、1987年;Wagnerら、1990年;Peralesら、1994年;Myers、EPO0273085)のために使用され、これは、技術の実施可能性を確立する。他の哺乳動物細胞型と関連する特異的な送達が記載されている(WuおよびWu、1993年;参照によって本明細書において組み込まれる)。本発明のある態様では、リガンドは、標的細胞集団上に特異的に発現される受容体に対応するように選ばれるであろう。
【0197】
他の実施形態では、細胞特異的核酸ターゲティングビヒクルの核酸送達ビヒクル構成成分は、リポソームと結合する特異的な結合リガンドを含んでいてもよい。送達されることとなる核酸(複数可)は、リポソーム内に収容され、特異的な結合リガンドは、リポソーム膜の中に機能的に組み込まれる。リポソームは、したがって、標的細胞の受容体(複数可)に特異的に結合し、細胞に内容物を送達するであろう。そのような系は、たとえば、上皮増殖因子(EGF)を、EGF受容体のアップレギュレーションを示す細胞への核酸の受容体媒介性の送達において使用する系を使用して、機能的であることが示された。
【0198】
さらなる実施形態では、標的送達ビヒクルの核酸送達ビヒクル構成成分は、リポソームそれ自体であってもよく、リポソームは、細胞特異的な結合を指示する1つ以上の脂質または糖タンパク質を好ましくは含むであろう。たとえば、ラクトシル−セラミド、ガラクトース末端アシアロガングリオシド(asialganglioside)は、リポソームの中に組み込まれ、肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加が観察された(Nicolauら、1987年)。本発明の組織特異的形質転換構築物は、同様の方法において標的細胞の中に特異的に送達することができることが企図される。
vii 微粒子銃
微粒子銃技術は、少なくとも1つの細胞小器官、細胞、組織、または生物の中に核酸を導入するために使用することができる(米国特許第5,550,318号;米国特許第5,538,880号;米国特許第5,610,042号;およびPCT出願WO94/09699;それぞれ、参照によって本明細書において組み込まれる)。この方法は、DNAをコーティングする微粒子を高速度まで加速し、それらが細胞膜を貫通し、かつそれらを死滅させることなく細胞に入ることを可能にする能力に依存する(Kleinら、1987年)。当技術分野において公知の種々様々の微粒子銃技術があり、これらの多くは、本発明に適用可能である。
【0199】
この微粒子銃では、1つ以上の粒子は、少なくとも1つの核酸を用いてコーティングされ、発射力によって細胞の中に送達されてもよい。小さな粒子を加速するためのいくつかのデバイスが開発されている。1つのそのようなデバイスは、電流を生成するために高圧放電に依存し、これにより、さらには、原動力がもたらされる(Yangら、1990年)。使用される微粒子は、タングステンもしくは金の粒子またはビーズなどのような生物学的に不活性の物質から成った。例示的な粒子は、タングステン、白金、および好ましくは金から構成されるものを含む。いくつかの実例では、金属粒子上へのDNA沈殿は、微粒子銃を使用するレシピエント細胞へのDNA送達に必要ではないであろうということが企図される。しかしながら、粒子は、DNAを用いてコーティングされるのではなく、DNAを含有していてもよいことが企図される。DNAコーティングされた粒子は、粒子銃を介して、DNA送達のレベルを増加させてもよいが、それら自体、必要ではない。
【0200】
衝撃のために、懸濁液中の細胞は、フィルターまたは固体培養培地上で濃縮される。その代わりに、未成熟の胚または他の標的細胞は、固体培養培地上に配置されてもよい。衝撃を与えられることとなる細胞は、微粒子を止めるプレートより下の適切な距離に置かれる。
【実施例】
【0201】
IX.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。続く実施例において開示される技術は、本発明の実施において十分に機能するように、発明者によって発見された技術を示し、したがって、その実施のための好ましいモードを構成すると考えることができることが、当業者らによって十分に理解されるはずである。しかしながら、当業者らは、本開示を考慮して、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多くの変化が、開示される特定の実施形態において成され、同様のまたは類似する結果をなお得ることができることを十分に理解するはずである。
【0202】
(実施例1)
小さな化学化合物を用いるヒト包皮線維芽細胞のエピソームリプログラミング
iPS細胞誘導に影響を与える公知の化学化合物のスクリーニングを通して、発明者らは、ヒト包皮線維芽細胞のエピソームリプログラミング効率を著しく改善したいくつかの化合物を同定した。BIX01294(B)は、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼの選択的阻害剤である。BayK8644と組み合わせて、それは、Oct4およびKlf4のみが形質導入されたマウス胚性線維芽細胞のリプログラミングを可能にすることができた小分子として最初に同定された(Shiら、2008年)。PD0325901(P)は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPK/ERKキナーゼまたはMEK)の阻害剤である。CHIR99021(C)は、GSK3βの最も選択的な阻害剤であり、一方、A−83−01(A)は、TGF−βI型受容体ALK5、アクチビン/Nodal受容体ALK4、およびnodal受容体ALK7の強力な阻害剤である。PD0325901およびCHIR99021の組合せ(2i)は、不応性株からのマウスES細胞の効率的な誘導を可能にした(Yingら、2008年)。2i条件において、重要でないが、マウスES細胞培養に決まって使用される白血病抑制因子(LIF)は、マウスES細胞のクローン形成能および誘導を促進した(Yingら、2008年)。この2i/LIF条件は、マウス神経幹細胞の真の多能性へのリプログラミングを促進することが示された(Silvaら、2008年)。興味深いことに、真のラットES細胞は、この2i/LIF条件において初期胚から直ちに誘導することができたが(Buehrら、2008年;Liら、2008年)、A−83−01の追加は、ラットiPS細胞の長期的な培養を保持するために必要とされることが示された(Liら、2009年)。PD0325901、CHIR99021、A−83−01、およびLIFの組合せもまた、レンチウイルス媒介性のリプログラミング培養由来の異型マウスES細胞様ヒトiPS細胞を選択し、安定化することができることが示された(Liら、2009年)が、リプログラミング、特にエピソームリプログラミングに対するこれらの阻害剤の組合せの効果は、立証されていない。
【0203】
細胞培養のために、ヒトES細胞およびiPS細胞は、20%ノックアウト血清リプレーサー、0.1mM非必須アミノ酸、1mM Glutamax(すべてInvitrogen、Carlsbad、CAから)、0.1mM β−メルカプトエタノール、および100ng/mlゼブラフィッシュ塩基性線維芽細胞増殖因子(zbFGF)を補足したDMEM/F12培養培地において照射マウス胚性線維芽細胞(MEF)上で維持した(Amitら、2000年;Ludwigら、2006a;Thomsonら、1998年)。馴化培地を用いる、Matrigel(商標)(BD Biosciences、Bedford、MA)上でのフィーダーフリーの培養は、100ng/ml zbFGFを用いる以外は先に記載される(Xuら、2001年)ように実行した。ヒト新生児包皮線維芽細胞(Cat# CRL−2097(商標)、ATCC、Manassas、VA)および42歳の皮膚生検材料由来の成人線維芽細胞は、10%限定ウシ胎仔血清(FBS、Hyclone Laboratories、Logan、UT)、0.1mM非必須アミノ酸、2mM Glutamax(すべてInvitrogenから)、0.1mM β−メルカプトエタノール、および4ng/ml zbFGFを補足したDMEM(Invitrogen)において培養した。mTeSR(商標)1は、Stem Cell Technologies Inc.(Vancouver、Canada)から得た。N2B27培地は、以下のように調製した:1×N2サプリメント、1×B−27サプリメント、0.1mM非必須アミノ酸、1mM Glutamax(すべてInvitrogenから)、0.1mM β−メルカプトエタノールを補足したDMEM/F12培養培地。
【0204】
ヒト体細胞、ヒト包皮線維芽細胞のエピソームリプログラミングのために、エピソームベクター(図1A、7.3μgのpEP4EO2SCK2MEN2Lおよび3.2μgのpEP4EO2SET2K)(Yuら、2009年)は、nucleofection(プログラムU−20を用いるNHDF−VPD−1001、Amaxa、Walkersville、MD)を介して1×106細胞の中にコトランスフェクトした。それぞれのnucleofectionからのトランスフェクト包皮線維芽細胞は、線維芽細胞培養培地において3×10cm MEF接種皿に直接平板培養した。成人皮膚線維芽細胞については、7.3μgのpEP4EO2SCK2MEN2Lおよび6.4μgのpEP4EO2SET2Kは、nucleofection(プログラムU−20を用いるNHDF−VPD−1001、Amaxa、Walkersville、MD)を介して1×106細胞の中にコトランスフェクトした。それぞれのnucleofectionからのトランスフェクト成人皮膚線維芽細胞は、より低い細胞生存のために、線維芽細胞培養培地において1×10cm MEF接種皿に直接平板培養した。翌日、線維芽細胞培養培地は、zbFGF(100ng/ml)を補足したまたはなしの、以下の化合物:H−HA−100(10μM);B−BIX01294(1μM);P−PD0325901(0.5μM);C−CHIR99021(3μM);A−A−83−01(0.5μM)およびL−hLIF(10ng/ml)ありのまたはなしの新鮮な線維芽細胞培養培地または様々なリプログラミング培地(たとえば、MEF−CMを用いてあらかじめ調整したヒトES細胞培養培地、ヒトES細胞培養培地、mTeSR(商標)1、N2B27)と交換した。ヒトES細胞様のiPS細胞を得るために、リプログラミング培地は、トランスフェクション後の13〜20日目に、100ng/ml zbFGFまたはmTeSR(商標)1を補足したCMと交換した。別個のタイプのiPS(部分的にリプログラミングされたiPSCについてはpiPSC)細胞を得るために、リプログラミング培地は、PCALを補足したCMまたはN2B27培地と交換した。アルカリホスファターゼ染色(Cat# SCR004、Millipore、Billerica、MA)は、リプログラミング効率をチェックするために、トランスフェクション後の18日目および24日目の間に実行した。
【0205】
BIX01294は、それだけで、エピソームベクターによるリプログラミングを改善することができ(図1A)、PD0325901、CHIR99021、およびA−83−01の組合せにおける利益を示さなかったまたはわずかに示したのみであった(図1Bおよび2A)。PD0325901およびCHIR99021のみが十分であったマウス神経幹細胞リプログラミング(Silvaら、2008年)と異なり、3つすべての化学化合物(PD0325901、CHIR99021、およびA−83−01)が、最善のリプログラミング効率を達成するために必要とされた(図1B)。得られたiPS細胞コロニーは、3つすべての化学化合物の存在下において非iPS細胞コロニーと容易に識別可能になり得る(図1C)。これは、ピッキングおよび増殖の間のiPS細胞クローン性の維持、初代リプログラミング培養の継代が、非iPS細胞からiPS細胞を同定するために必要とされた以前のプロトコール(Yuら、2009年)からの大きな改善を可能にするであろう。HA−100は、ヒトES細胞クローニング効率を改善することが示された。HA−100は、実験のサブセットに含めた。ヒトLIF(hLIF、またはL)の追加は、PD0325901、CHIR99021、およびA−83−01を用いるエピソームリプログラミングをさらに促進した(図2A)。さらに、LIFを追加すると、iPS細胞の最初の出現が、およそ3〜4日早くなり(トランスフェクション後、約14日目)、より多くの大きなiPS細胞コロニーが存在した(図2A)。
【0206】
PD0325901が、bFGFシグナル伝達の下流の標的であるMEK活性を効率的に阻害するので、リプログラミングに対するbFGFの効果もまた、検査した。図2Aにおいて示されるように、高濃度のbFGF(100ng/ml)は、この特定のリプログラミング条件下で有利であった。この効果は、高度なbFGFレベルの非MEK媒介性の効果に起因した可能性が最も高い。高度なbFGFレベルの効果は、特定のリプログラミング培養培地に依存するように思われた。たとえば、bFGFは、馴化ヒトES細胞培養培地(CM)および無血清限定N2B27培地が使用された場合、有益な効果を示した(図2Aおよび4A)が、無馴化ヒトES細胞培養培地が試験された場合、逆効果が観察された(図4A)。図2Bにおいて示されるように、化学化合物の早期の追加は、リプログラミング効率を増加させ、より長い化学処理が、最善のリプログラミング効率を達成するために必要とされた。
【0207】
ヒトES細胞およびヒトES細胞様のiPS細胞の増殖は、移植後のマウス胚盤葉上層から誘導されるマウスEpiSCに類似して、FGFおよびTGFβ/アクチビンシグナル伝達経路の活性化を必要とする。PD0325901は、FGFシグナル伝達の下流の標的であるMEKを阻害し、A−83−01は、TGFβ/アクチビンシグナル伝達を阻害する。両方の薬剤がリプログラミングを増加させたという観察は、むしろ驚くべきことであった。図3Aにおいて示されるように、ヒトES細胞およびヒトES細胞様のiPS細胞の両方は、リプログラミング化学カクテル(PD0325901、CHIR99021、A−83−01、およびhLIF)の存在下において効率的な分化を受けた。化学カクテルの存在下において誘導されたiPS細胞の同一性を確認するために、iPS細胞は、通常のヒトES細胞培養条件における増殖のために採集した。初めの試験は、未分化細胞の小さな塊を有する多くの分化コロニーをもたらし、これは、ほとんどのコロニーが未分化のままであった、化学カクテルの非存在下において誘導されたiPS細胞とは非常に異なっていた。この結果は、化学カクテルの存在下において誘導されたほとんどのiPS細胞が通常のヒトES細胞様のiPS細胞とは異なっていたことを示唆する。
【0208】
化学カクテルの存在下において、iPS細胞は、採集し、マウス胚性線維芽細胞フィーダー上で増殖することができ(図3C)、多くの分化を伴うが、培養最適化の必要性を示唆する。通常のヒトES細胞培養条件下でこれらのiPS細胞を培養することによる化学カクテルの除去は、著しい分化をもたらし、これらの多くは、ロゼット構造物を形成し(図3D)、これらの細胞が、以前に誘導されたほとんどのヒトiPS細胞とは対照的に、効率的なin vitroにおける神経分化が可能であることを示唆する。hLIFがリプログラミングを改善したというこれらのデータおよび観察は、このタイプのヒトiPS細胞が、通常のヒトES細胞様のiPS細胞とは異なることを示唆し、リプログラミング細胞の中間段階であることがその後、分かった。
【0209】
化学的に誘導されたiPS細胞を採集し、通常のヒトES細胞培養条件下で増殖した場合の小さな未分化細胞塊の存在は、通常のヒトES細胞様のiPS細胞もまた、化学処理したリプログラミング培養から誘導することができる可能性を高めた。実際に、化学カクテルが、最低10日間の処理後にリプログラミング培養から除去された場合、通常のヒトES細胞様のiPS細胞は、通常のヒトES細胞培養条件下で直ちに増殖した(図3B)。これらのiPS細胞の起源は、興味深い問題のままである。これらのiPS細胞は、先在する通常のヒトES細胞様のiPS細胞から増殖することができるまたはそれらは、piPS細胞が、通常のヒトES細胞培養条件下で通常のヒトES細胞様のiPS細胞を直ちに誘発することができるので、piPS細胞から誘導することができる。
【0210】
ヒト体細胞のリプログラミングは、一般に、MEFを用いてあらかじめ調整したヒトES細胞培養培地(CM)を用いてMEFフィーダー上で実行した。MEFの品質は、異なるバッチの間に著しく変動し、これは、リプログラミング効率の一貫性に非常に影響を与える。また、MEFおよびCMの調製は、かなり重労働となり得る。さらに、MEFフィーダーおよびCMの両方は、種々様々の細胞型の成長を支持し、これらは、リプログラミングの間の非iPS細胞の増殖がリプログラミングに負に影響を与え得るので、リプログラミング効率に対する著しい制限をもたらす。この問題を克服するために、異なる培地を試験した。図4Aにおいて示されるように、TeSR、bFGFサプリメントなしの無馴化ヒトES細胞培養培地、およびN2B27培地は、bFGFを補足したCMよりも高い、強いエピソームリプログラミングを支持した。
【0211】
さらに、異なるリプログラミング培地(ステップ2、図4B)は、異なる効率で、2つのタイプのiPS細胞を誘発した。どのリプログラミング培地を使用したかに依存して、2つのタイプのiPS細胞を得る効率は、図4Aにおいて示されるように異なった。たとえば、hESC培地(+PCALH)をリプログラミングにおいて使用した場合、ヒトES細胞様のiPS細胞は、CM+bFGFまたはTeSR増殖培地を使用して、リプログラミング培養から直ちに得ることができ、N2B27+PCAL増殖培地を使用した場合、piPS細胞を得ることができる。しかしながら、N2B27培地(+PCALH)をリプログラミング培地として使用した場合、ヒトES細胞様のiPS細胞を得ることができないまたはめったに得ることができない。
【0212】
これは、リプログラミング培地(ステップ2、図4B)および増殖培地(ステップ3、図4B)の組合せが、おそらく、リプログラミング培養におけるiPS細胞の不均一性のレベルに影響を与えるであろうということを示唆する。それぞれのiPS細胞型の誘導に最適な培地の組合せは、iPS細胞のクローン間の差異を最小限にするために選択することができる。
【0213】
(実施例2)
小分子を用いるフィーダーフリーエピソームリプログラミング
ヒトiPSCは、ヒト胚性幹細胞(ESC)に類似して、無限の増殖が可能であり、体のすべての細胞型に分化するための潜在能力を有する。これらの細胞は、したがって、基本的な生物学、疾患モデリング、薬剤開発、および移植療法における適用を有する。リプログラミング因子の決定されたセットの発現によって、iPSCは、異なる種の多くの細胞型から生成された(Takahashiら、2007年;Yuら、2007年;TakahashiおよびYamanaka、2006年;Liuら、2008年;Estebanら、2009年;Lohら、2009年;Sunら、2009年;Shimadaら、2010年)。iPSC生成のための初めの方法は、ゲノム組み込み型レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターを利用した(Yuら、2007年;TakahashiおよびYamanaka、2006年)。これらのアプローチは、腫瘍形成性の挿入変異をもたらし得、iPSC分化の間の導入遺伝子発現の残留または再活性化は、iPSC誘導体の系列選択および機能性に影響を与え得た(Yuら、2007年;Okitaら、2007年)。これらの問題を克服するために、リプログラミング因子(プラスミド、小環状DNA、非組み込み型アデノウイルスベクター、およびタンパク質)を用いる繰り返しの処理、トランスポゾン、ならびにRNAウイルスベクター(Okitaら、2008年;Stadtfeldら、2008年;Fusakiら、2009年;Kajiら、2009年;Woltjenら、2009年;Zhouら、2009年;Jiaら、2010年)を含む様々な方法が、フットプリントフリーのiPSCを誘導するために開発された。しかしながら、これらの方法は、以下の1つ以上の制限を受ける:容認できない低リプログラミング効率;iPSCからのリプログラミング因子の重労働な除去;ウイルスパッケージ細胞またはフィーダー細胞の必要。したがって、多くのヒトドナー試料からのフットプリントフリーのiPSCのルーチン的な誘導および最終的に、臨床グレードのヒトiPSCの誘導を可能にするための単純で効率的なフィーダーフリーの方法を開発するための必要性がある。
【0214】
フットプリントフリーのヒトiPSCは、リプログラミング遺伝子(OCT4、SOX2、NANOG、LIN28、c−MYC、KLF4、およびSV40LT)を送達するためにoriP/EBNA−1(エプスタイン−バー核抗原−1)エピソームベクターを使用して、先に生成された(Yuら、2009年)。他の方法と比較して、このアプローチは、いくつかの利点を有する。第1に、oriP/EBNA−1ベクターは、幅広い宿主細胞の範囲を有し、多くのヒト細胞型へのこの方法の適用を可能にする。第2に、それは、ウイルスパッケージングを必要としない。第3に、リプログラミング因子を用いる繰り返しの処理が必要とされない。ヒトiPSCの誘導には、エピソームベクターの1回のトランスフェクションで十分である。さらに、より高度なトランスフェクション効率は、ベクターDNAのoriP/EBNA−1媒介性の核移入および保持によりこれらのベクターを用いて達成することができる(MiddletonおよびSugden、1994年)。第4に、oriP/EBNA−1ベクターは、細胞周期当たりに1回複製し、一般に、細胞当たり低コピー数で存在し、したがって、DNA再配列およびゲノム組み込みを最小限にする(YatesおよびGuan、1991年)。最後に、ヒトiPSCからのエピソームベクターの除去は、iPSCにおけるEBNA−1発現を駆動するウイルスのプロモーターのサイレンシングおよびoriP/EBNA−1エピソーム状態の固有の不安定性により、さらなる操作を伴わないで単純な細胞培養によって達成することができ、安定して確立されたエピソームは、ベクター合成および分割における欠損により、細胞世代当たり約5%の率で細胞から失われる(Nanboら、2007年)。これらの利点にもかかわらず、発明者らの最初のoriP/EBNA−1エピソームアプローチは、低リプログラミング効率を示し(約1×106のインプットヒト包皮線維芽細胞から約3つのiPSCコロニー)、マウス胚性線維芽細胞(MEF)フィーダー細胞を使用したが、これは、この方法の産業上および治療上の適用を深刻に制限する。
【0215】
これらの制限を克服するために、発明者らは、最初に、エピソームリプログラミング効率の改善のために小分子をスクリーニングした。oriP/EBNA−1ベクターは、トランスフェクト細胞の1〜10%のみにおいて、安定したエピソームを確立することができる(LeightおよびSugden、2001年)。トランスフェクション後の最初の2週間の間、トランスフェクト細胞は、細胞世代当たり>25%でoriP/EBNA−1ベクターを失い、これには、おそらくDNAメチル化を通して媒介される導入遺伝子サイレンシングが伴う(Kamedaら、2006年)。ベクター損失または導入遺伝子サイレンシングによる、トランスフェクション後の最初の2週間の間の導入遺伝子発現の損失は、主として、低エピソームリプログラミング効率の原因となる。したがって、リプログラミングプロセスを速めるまたは導入遺伝子サイレンシングを低下させるまたは安定したエピソーム確立の効率を増加させることができる小分子が、リプログラミングを改善することが予想される。リプログラミングを促進することが先に示された小分子を試験することによって、発明者らは、MEK阻害剤PD0325901、GSK3β阻害剤CHIR99021、およびTGF−β/アクチビン/Nodal受容体阻害剤A−83−01の追加によりエピソームリプログラミング効率を大幅に増強することができることを発見した(図5A)。以前の研究は、TGF−βシグナル伝達阻害剤が、MEK阻害剤PD0325901と共に、ウイルスのリプログラミング効率の>100倍の増加をもたらしたことを示した(Linら、2009年)。図1aにおいて示されるように、TGF−βシグナル伝達阻害剤A−83−01は、単独でまたはMEK阻害剤PD0325901と共に、エピソームリプログラミングに対して最小限の効果を有した。3つの阻害剤PD0325901、CHIR99021、およびA−83−01すべてが、リプログラミング効率の最大の増加を達成するために必要とされた。ヒト白血病抑制因子(hLIF)は、エピソームリプログラミング効率を著しく改善しなかったが、リプログラミング中間体の増殖を増加させた。ROCK阻害剤HA−100は、それだけで最小限の効果を有したが、PD0325901、CHIR99021、A−83−01、およびhLIFの存在下においてエピソームリプログラミング効率をさらに増加させた。HA−100の効果は、それを、類似する機能を有する他の阻害剤、たとえばH−1152およびブレビスタチンと交換することができなかったので、個別化されたヒトiPSCの細胞生存を促進する際にその機能を通して媒介されなかったかもしれない(Watanabeら、2007年;Chenら、2010年)。エピソームリプログラミング効率の増加は、小分子処理の期間と相関した(図5B)。トランスフェクション後の1日目および5日目の間の処理は、特に、それらの最大の効果にとって重要であるように思われた。
【0216】
ヒトESCは、マウス胚盤葉上層誘導幹細胞(EpiSC)と類似する遺伝子発現および培養必要条件を示し、初期の胚盤胞段階から誘導されたマウスESCと異なる。以前の研究は、あらかじめこれらの阻害剤に曝露されなかったリプログラミング培養物からのマウスESC様のヒトiPSCを増殖するためのPD0325901、CHIR99021、A−83−01、およびhLIFの能力を示した(Liら、2009年)。これらのマウスESC様のヒトiPSCは、これらの小分子の除去後に直ちに分化した。ヒトESCは、これに反して、これらの小分子の存在下において速やかに分化した。驚いたことに、小分子の継続的な存在下において得られるヒトエピソームiPSCは、ヒトESCについての条件下(小分子なし)で最小限の分化と共に好適な増殖を示したが、採集され、それらの誘導に使用した同じ条件において、つまり小分子の存在下において増殖した場合、広範囲な分化を受け(図5C)、これらのiPSCが、おそらく、マウスESCではなくヒトESCに類似する多能性状態にあることを示唆する。外見的には相いれない結果は、小分子の存在下におけるヒトESC様の多能性状態の生成を可能にするかもしれないリプログラミングに使用したMEF馴化ヒトESC培地における、小分子の有効性を軽減した活性の存在によって説明することができるかもしれない(たとえばbFGFおよびTGF−βシグナル伝達に対するリガンド)。
【0217】
ヒトESC培地において使用されるKnockOut(商標)血清代替品が、リプログラミングに干渉するかもしれない未知の因子を含有するので、小分子を軽減する活性を欠く培養培地を使用することによって、発明者らがマウスESC様のiPSCを効率的に生成することができるかどうかを知るために、また、特定されたリプログラミング条件を同定するために、エピソームリプログラミングを支持することができる限定培地を見つけるために実験を設定した。特に、限定N2B27培地を試験し、これは、単純な配合を有し、サイトカインを補足した場合に、ヒトESCの増殖を支持することができた(Liuら、2006年)。図6Aにおいて示されるように、小分子を補足したN2B27培地は、約6倍高い数の、アルカリホスファターゼ(ヒト多能性幹細胞マーカー)についてポジティブ染色されたコロニーを誘発した(試験2対試験1)。これらのコロニー(部分的にリプログラミングされたiPSCについてはpiPSC)は、マウスESC様のドーム形の形態を有し、これは、ヒトESC様のiPSCコロニーの典型的な平らな形態と異なる(図6B)。それらは、採集し、小分子を補足したN2B27培地において7回以上の継代の間、増殖することができた。しかしながら、これらの細胞のフローサイトメトリー分析は、ヒト多能性幹細胞に特異的な抗原(SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81)の発現を検出しなかったが、線維芽細胞マーカーCD44の発現が存在した(図10A)。定量的RT−PCR分析もまた、ヒト多能性幹細胞についての2つの本質的なマーカーである内因性のOCT4およびNANOGのいかなる発現をも検出しなかった(図6C)。これらの結果は、コロニーが、MEF馴化ヒトESC培地を用いて誘導されたものとしてのヒトESC様のiPSC(試験1)またはPD0325901、CHIR99021、およびLIFの存在下においてウイルスにより誘導されたものとしてのマウスESC様のiPSCではなく、部分的にリプログラミングされたiPSCであることを示唆し、したがって、iPSCの多能性状態に対するリプログラミング培養条件の重要な影響を示した(Hannaら、2010年;Bueckerら、2010年)。興味深いことに、piPSCは、小分子を補足したN2B27培地における複数回の継代後にさえ、豊富なエピソームベクターを含有し、高レベルの導入遺伝子発現を維持し(図6Cおよび図10B)、エピソームベクターおよび導入遺伝子発現の保持への小分子の可能性の高い関与を示唆した。小分子の除去は、限定ヒトESC培地mTeSR1におけるpiPSCの2週間の培養後に、広範囲な分化の中に、ヒトESC様のiPSCのところどころの出現を導いた。したがって、現在のリプログラミング条件は、マウスESC様のヒトエピソームのiPSCをもたらさなかったが、N2B27培地におけるヒトESC様のiPSCの誘導を可能にするためにリプログラミングプロトコールにおいて修飾を成すことができるかもしれない。
【0218】
この目的のために、発明者らは、リプログラミングプロセスを3つの段階:トランスフェクション(段階1)、リプログラミング(段階2)、および増殖(段階3)に分割し、mTeSR1を使用した(図6A)。小分子を補足したN2B27培地をリプログラミングを支持するために段階2で使用した場合、ヒトESC様のiPSCへのpiPSCのまれな変換のみを観察することができ、mTeSR1における増殖の間の導入遺伝子発現が、ほとんどのpiPSCにおける内因性の多能性遺伝子の発現を再活性化するのに不十分であったことを示唆した。したがって、発明者らは、小分子を補足したN2B27培地中へのさらなるサイトカインの追加によって、エピソームリプログラミングを改善することが可能であるかどうかを検査した(段階2)。ヒトESCの増殖に関係する因子のうちで、bFGFおよびTGF−β/アクチビン/Nodalシグナル伝達は、特に重要である。A−83−01によるTGF−β/アクチビン/Nodalシグナル伝達の阻害がリプログラミングを促進したので(図5A)、発明者らは、エピソームリプログラミングに対するbFGFの効果を試験した。実際に、N2B27培地への高濃度bFGFの追加は、ヒトESC様のiPSCコロニーの適切な数をもたらした(試験3)(図6A)。この結果は、高濃度bFGFがMEKに加えて複数の経路を通してヒトESC増殖を支持したという以前の観察と一致した。重要なことには、Matrigel(商標)は、さらに高度なリプログラミング効率でMEFフィーダー細胞に取って代わることができた(試験4)(図6A)。時間的経過実験は、小分子処理の最適期間についての必要条件を示した(図6D)。驚くほどのことではないが、段階2での、N2B27培地のTGF−β含有mTeSR1との置換は、エピソームリプログラミング効率を著しく減少させた(図10C)。したがって、小分子および限定培地を使用して、発明者らは、著しく改善された効率により、フィーダーフリーエピソームリプログラミング方法を確立した(1×106インプットヒト包皮線維芽細胞から>220のiPSCコロニー、>70倍の増加)(図6D)。
【0219】
新しく開発されたフィーダーフリーリプログラミング条件を用いて、発明者らは、成人皮膚線維芽細胞からのヒトESC様のiPSCの誘導に成功した。採集し、mTeSR1において増殖した場合、これらのiPSCは、典型的なヒトESC形態(たとえば密度の高いコロニー、高度な核−細胞質比、および顕著な核小体)を示し、正常な核型を有した(図7A〜7Fおよび図11A〜11E)。ほとんどのiPSCコロニーは、導入遺伝子発現もゲノム組み込みも示さず、PCRおよびRT−PCR分析によって示されるように複数回の継代(>14)後にエピソームベクターを完全に失った(図7Cおよび図11C)。それらのiPSCコロニーは、典型的なヒトESC特異的抗原(SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81)を発現し、線維芽細胞マーカーCD44の発現をダウンレギュレートし(図11D)、内因性多能性遺伝子(OCT4、NANOG、SOX2、およびLIN28)の発現を再活性化した(図7D)。OCT4およびNANOGの両方のプロモーターは、ヒトESCに類似してならびに親の線維芽細胞およびpiPSCとは対照的に、これらのiPSCにおいて脱メチル化された(図7E)。免疫無防備状態のマウスに注射した場合、それらのマウスは、3つの胚葉すべての誘導体から成る奇形腫を形成し、これらのiPSCの多能性を示した(図7Fおよび図11E)。
【0220】
フィーダーフリーエピソームリプログラミングに対する小分子の効果は、細胞型特異的でないが、異なる体細胞型に適用される(図8A〜8C)。さらに、このデータは、それぞれの細胞型に最適なリプログラミング効率を達成するための、エピソームベクターの正しい組合せ(異なるリプログラミング導入遺伝子の組合せおよび異なる導入遺伝子の発現レベル)を同定する重要性を示す。
【0221】
エピソームリプログラミング効率の著しい改善は、形質転換欠損MYCにより達成され(図9)、たとえば、LMYCは、1×106インプットヒト包皮線維芽細胞当たり、約1000のiPSCコロニーをもたらした。
【0222】
要約すると、遺伝学的および化学的アプローチの組合せを使用して、発明者らは、非ウイルスフィーダーフリーエピソームリプログラミング方法の確立に成功し、効率が非常に改善された。この方法は、線維芽細胞を用いて開発されたが、脂肪組織および末梢血などのような生きているヒトドナーから容易に得られる組織の細胞型に適用可能である。異なる細胞型が、リプログラミング因子の特異的な組合せおよび発現レベルについての選択性を有するように思われるので、最適な効率のために異なるエピソームリプログラミングベクターを試験することが必要であるかもしれない。さらなる特徴は、リプログラミング効率をさらに改善するためにエピソームベクターの中に導入することができる。たとえば、現在のエピソームベクターは、細菌の増殖に必要なエレメントを有し、これは、導入遺伝子サイレンシングの一因となる公知の多くのCpG島を含有する(Chenら、2004年)。小環状oriP/EBNA−1エピソームベクターを産生するために部位特異的組換えを使用して細菌ベクター構成成分を除去することによって導入遺伝子サイレンシングを最小限にすることが可能である。しかしながら、新しい方法は、多数のヒトドナー試料からのフットプリントフリーのiPSCのルーチン的な誘導に十分に単純で、効率的であり、ドナー細胞付着およびiPSC増殖を支持する限定マトリックス(defined matrix)を用いると、この方法は、臨床グレードのヒトiPSCの産生に容易に適応することができる。
【0223】
細胞培養.ヒトESCおよびiPSCは、20%KnockOut(商標)血清代替品、0.1mM非必須アミノ酸、1mM GlutaMAX(すべてInvitrogen、Carlsbad、CAから)、0.1mM β−メルカプトエタノール(Sigma,St.Louis、MO)、および100ng/mlゼブラフィッシュ塩基性線維芽細胞増殖因子(zbFGF)を補足したDMEM/F12培養培地において照射MEF上で維持した(Yuら、2009年)。MEF馴化ヒトESC培地は、先に記載されるように調製した(Xuら、2001年)。ヒト新生児包皮線維芽細胞(Cat# CRL−2097(商標)、ATCC、Manassas、MA)および成人皮膚線維芽細胞(Cat# CRL−2106(商標)、ATCC)は、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS、Hyclone Laboratories、Loan、UT)、0.1mM非必須アミノ酸、1mM GlutaMAX、0.1mM β−メルカプトエタノール、および4ng/ml zbFGFを補足したDMEM(Invitrogen)において培養した。
【0224】
mTeSR(商標)1(STEMCELL Technologies、Vancouver、BC、Canada)におけるMatrigel(商標)(BD Biosciences、Bedford、MA)上でのヒトESCおよびiPSCのフィーダーフリー培養は、継代手順における修飾と共に、先に記載されるように実行した(Ludwigら、2006c)。手短かに言えば、EDTA分解方法を利用した。ヒトESCおよびiPSCがコンフルエンスに達した場合、細胞は、Ca2+およびMg2+なしのPBSを用いて1回洗浄し、37℃で8分間、0.5mM EDTAと共にインキュベートした(2ml/6ウェルプレートのウェル)。インキュベーション後に、EDTA溶液を除去し、新鮮なmTeSR1(2ml/6ウェルプレートのウェル)を、細胞脱離のためにそれぞれのウェルに滴下して追加した。ほとんどの細胞は、緩やかな振盪によりプレートから離れた。次いで、解離した細胞は、mTeSR1を用いてあらかじめ充填した新たに調製したMatrigel(商標)プレートの中に直ちに等分した。細胞付着および生存を改善するために、ROCK阻害剤HA−100(10μM、Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA)を、継代の間に1日間、mTeSR1に追加した。この方法を用いて、ヒトESCおよびiPSCは、最適な増殖のために1:8の分割比で3〜4日毎に継代した。
【0225】
ヒト線維芽細胞のリプログラミング.ヒトOCT4、SOX2、NANOG、LIN28、c−MYC、KLF4、およびSV40LT導入遺伝子のための発現カセットを含有するエピソームリプログラミングベクターは、先に記載されている(Yuら、2009年)。特に、ベクターpEP4EO2SCK2MEN2LおよびpEP4EO2SET2K(組合せ4)は、リプログラミング最適化のために使用した。約7.3μgのベクターpEP4EO2SCK2MEN2Lおよび3.2μgのpEP4EO2SET2Kは、nucleofection(U−20プログラムを用いるNHDF−VPD−1001、Amaxa、Walkersville、MD )を介してヒト新生児包皮線維芽細胞の中にコトランスフェクトした。トランスフェクト線維芽細胞(nucleofection当たり約1.0×106細胞)は、線維芽細胞培養培地において、3×10cm MEF接種皿または3×10cm Matrigel(商標)コーティング皿に直接平板培養した。トランスフェクション後の翌日、線維芽細胞培地は、100ng/ml zbFGF(CM100)を補足したMEF馴化ヒトESC培地または合成N2B27培地(N2B27)もしくは100ng/ml zbFGFを補足したN2B27培地(N2B27−100)またはmTeSR1と交換した。N2B27培地は、N−2サプリメント(1×、Invitrogen)、B−27サプリメント(1×、Invitrogen)、0.1mM非必須アミノ酸、1mM GlutaMAX、および0.1mM β−メルカプトエタノールを補足したDMEM/F12培養培地から成る。加える場合、小分子PD0325901(P、0.5μM)、CHIR99021(C、3μM)、A−83−01(A、0.5μM)(すべてStemgent、San Diego、CAから)、hLIF(L、1000U/ml、Millipore、Billerica、MA)、およびHA−100(H、10μM)は、リプログラミング培養に追加した。培養培地は、2日毎にリフレッシュした。アルカリホスファターゼ染色(Cat# SCR004、Millipore)は、iPSCの同定を促進するためにリプログラミング実験のサブセットにおいて実行した。限定培養培地を使用するヒト成人皮膚線維芽細胞のフィーダーフリーエピソームリプログラミングは、プロトコールにおける最小限の変化を伴って、包皮線維芽細胞と同様に実行し、トランスフェクト成人線維芽細胞は、nucleofection後に、より低い細胞生存により、3枚の代わりに1枚の10cm Matrigel(商標)皿に平板培養した。フィーダーフリー条件下で誘導されたiPSCを特徴付けるために、典型的なiPSC形態を有するコロニーは、mTeSR1におけるMatrigel(商標)コーティング12ウェルプレート上に直接採集した。EDTA分解方法は、継代の間の分化細胞の持ち越し汚染を最小限にしながらiPSC増殖を促進するために利用した。エピソームリプログラミングベクターの完全な損失は、ヒト包皮線維芽細胞および成人皮膚線維芽細胞の両方から誘導されたすべてのiPSCクローンについて14継代のあたりで一般に達成された。
【0226】
RT−PCR発現分析、エピソームベクターのPCR分析、重亜硫酸配列決定分析、フローサイトメトリー分析、および核型分析。PCR、RT−PCR、フローサイトメトリー分析は、先に記載されるように実行した(Yuら、2007年;Yuら、2009年)。OCT4およびNANOGのプロモーターのメチル化ステータスは、MethylCode(商標)Bisulfite Conversion Kit(Invitrogen)を用いて重亜硫酸配列決定を使用して分析した(Yuら、2009年)。プライマーはすべて表1中のものとし、抗体は、表2中のものとした。標準的なG結合染色体分析は、Cytogenetics Lab at WiCell Research Institute(Madison、WI)で実行した。
【0227】
表1.PCR、RT−PCR、および重亜硫酸配列決定PCR用のプライマー
【0228】
【表1−1】
【0229】
【表1−2】
表2.フローサイトメトリー分析用の抗体
【0230】
【表2】
奇形腫形成.フィーダーフリー条件下で誘導されたヒトiPSCのin vivoにおける発生多能性を検査するために、mTeSR1におけるMatrigel(商標)上で成長させたiPSCは、1回の継代のためにMEFフィーダー細胞に移した。細胞は、コラゲナーゼ処理を用いて収集し、6週齢の免疫無防備状態のSCIDベージュマウスの後ろ足の筋肉の中に注射した(マウス当たり50〜80%コンフルエンスのおよそ1枚の10cm皿)(Harlan、Madison、WI)。6〜8週間後に、奇形腫を解剖し、10%ホルマリン(Fisher、Pittsburgh、PA)中で固定した。試料は、パラフィン中に包埋し、Experimental Pathology Department of McArdle Laboratory for Cancer Research、University of Wisconsin−Madison、WIにおいてヘマトキシリンおよびエオシン染色を用いて処理した。
【0231】
本明細書において開示され、主張される方法はすべて、本開示を考慮して、不必要な実験作業を伴わないで成され、かつ実行することができる。本発明の組成物および方法は、好ましい実施形態の点から記載されるが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書において記載される方法、ステップ、または方法のステップの順序において変更が適用されてもよいことは、当業者らに明らかであろう。特に、化学的にまた生理学的に関係するある種の作用物質は、本明細書において記載される作用物質と置換されてもよく、そのうえ、同じまたは類似する結果が達成されることが明らかであろう。当業者らに明らかなすべてのそのような類似する代用物および修飾は、添付の請求項によって定義されるように、本発明の精神、範囲、および概念内にあると考えられる。
【0232】
参考文献
以下の参考文献は、それらが、本明細書において記載されるものに対して補足的な、例示的な手順のまたは他の詳細を提供する程度まで、参照によって本明細書において明確に組み込まれる。
【0233】
【数1】
【0234】
【数2】
【0235】
【数3】
【0236】
【数4】
【0237】
【数5】
【0238】
【数6】
【0239】
【数7】
【0240】
【数8】
【0241】
【数9】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本願は、2009年11月4日に出願された米国仮特許出願第61/258,120号の優先権を主張し、この米国仮特許出願の全体の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(1.発明の分野)
本発明は、一般に、幹細胞の発生の分野に関する。特に、本発明は、多能性幹細胞の生成に関する。
【背景技術】
【0003】
(2.先行技術の説明)
ヒト胚性幹(ES)細胞が有する無限の増殖能力および多能性潜在能力は、ヒトの体のすべての細胞型の前例がない入手方法を提供してきた。所望の遺伝的背景を有する患者体細胞から直接誘導されるヒト人工多能性幹(iPS)細胞は、ヒトES細胞のこれらの2つの重要な特性を共有し、これは、これらの細胞を、疾患モデル、薬剤スクリーニング、毒性試験、および移植療法のための優れた候補にした。ヒトiPS細胞の初めの誘導には、リプログラミング導入遺伝子を送達するためにゲノム組み込み型レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターを使用した(Lowryら、2008年;Parkら、2008年;Takahashiら、2007年;Yuら、2007年)。そのようなベクターは、ヒトiPS細胞およびそれらの誘導体の正常な機能に干渉する挿入変異および特異的な系列への分化に影響を及ぼし得る残存性の導入遺伝子発現をもたらし得る(Yuら、2007年)またはなお腫瘍形成をもたらし得る(Okitaら、2007年)。
【0004】
外因性の遺伝エレメントがないiPS細胞は、繰り返しのプラスミドトランスフェクションを用いてマウス胚性線維芽細胞から(Okitaら、2008年)、非組み込み型アデノウイルスベクターを用いてマウス肝細胞およびヒト線維芽細胞から(Stadtfeldら、2008年;ZhouおよびFreed、2009年)、ピギーバックトランスポゾンを用いて体細胞から(Woltjenら、2009年)、oriP/EBNA−1ベースのエピソームベクター(Yuら、2009年)およびタンパク質形質導入を用いてヒト線維芽細胞から誘導された。これらの急速な進歩にもかかわらず、大きなハードルが、外因性の遺伝エレメントがない高品質のヒトiPS細胞を作製するあらゆる個々の技術の幅広い使用を妨げたままである。たとえば、外因性の遺伝エレメントがないヒトiPS細胞の生成を可能にする現在の技術(ピギーバックトランスポゾンアプローチ以外の)はすべて、非常に低いリプログラミング効率をもたらした。この低い効率は、様々な容易に入手可能なヒト体細胞型からならびに異なる遺伝的背景およびドナー年齢を有する細胞からiPS細胞を持続的に得ることを困難にする。ピギーバックトランスポゾンアプローチは、適切なリプログラミング効率を提供する。しかしながら、多くのドナー細胞系が関与する場合、iPS細胞からのトランスポゾンの除去は、かなり重労働となり得る。
【0005】
さらに、ヒトES細胞に対するヒトiPS細胞の高度な類似性にもかかわらず、ヒトiPS細胞の遺伝子発現/後成的な修飾および系列特異的な分化潜在能力の両方において、著しいクローン間の差異が存在する。特に、ヒトES細胞と比較して、ほとんどのヒトiPS細胞は、著しく低い神経分化潜在能力を示し、またマウスES細胞培養をルーチン的に支持するLIF(白血病抑制因子)に対して応答を示さない。さらに、高品質のヒトiPS細胞のための、好適で、容易にアッセイすることができるマーカーの不足により、高品質ヒトiPS細胞クローンの選択は、重労働で、時間がかかり得る。
【0006】
人工多能性幹細胞(iPSC)へのヒト体細胞の遺伝的リプログラミングは、移植療法のための、補充することができる細胞供給源を提供することができる。それらの将来性に応じるためには、ヒトiPSCは、理想的には、フィーダー細胞がない既知組成培地中で誘導および培養され、外因性のDNAがないものであろう(フットプリントフリー(footprint−free))。現在、フットプリントフリーのヒトiPSCの生成のための単純で効率的なフィーダーなしの非ウイルス性の方法はない。以前は、導入遺伝子送達のためにエピソームベクターを使用することによるフットプリントフリーのヒトiPSCについての作業は、非能率的であり、フィーダー細胞を必要とした。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lowry et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,105:2883,2008
【非特許文献2】Park et al.,Nature,451:141,2008
【非特許文献3】Takahashi et al.,Cell,131:861,2007
【非特許文献4】Yu et al.,Science,318:1917,2007.
【非特許文献5】Okita et al.,Nature,448:313−317,2007
【非特許文献6】Okita et al.,Science,322:949−953,2008
【非特許文献7】Stadtfeld et al.,Science,322:945−949,2008
【非特許文献8】Zhou and Freed,Stem Cells,2009 (Ahead of Epub Print)
【非特許文献9】Woltjen et al.,Nature,458:766−770,2009
【非特許文献10】Yu et al.,Science,324:797−801,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そのため、外因性の遺伝成分を本質的に含まない人工多能性幹細胞を調製する際の非効率または他の問題に取り組む必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要旨
本発明の態様は、外因性のベクターエレメントを本質的に含まない人工多能性幹細胞を調製するための新規な方法を提供することによって当技術分野における主要な欠陥を克服し、したがって、iPS細胞の適用の点から特有の利点を提供する。
【0010】
さらに、小分子を使用して、本発明のある例示的な態様は、エピソームリプログラミング効率を大幅に改善し(>70倍;LMYCなどのような形質転換欠損MYCを使用する場合、>300倍)、フットプリントフリーのヒトiPSCの誘導のための既知組成培地を使用して、フィーダーフリーのリプログラミング条件を確立した。これらの改善は、皮膚線維芽細胞およびおそらく他の多くの細胞型からのフットプリントフリーのヒトiPSCの日常的な誘導を可能にし、したがって、その技術を、ヒトiPSCの臨床グレードの作製に容易に適応可能にした。
【0011】
したがって、第1の実施形態では、外因性のレトロウイルスエレメントを本質的に含まないiPS細胞の集団および外部添加のシグナル伝達阻害剤を含む培地を含む組成物が提供される。ある態様では、これらのiPS細胞は、外因性のベクターまたは遺伝エレメントが実質的になくてもよいまたは好ましくは本質的になくてもよい。たとえば、これらのiPS細胞は、1つ以上のヒト細胞から誘導されてもよい。さらなる態様では、集団の細胞は、ヒト患者などのような選択されたヒト個体のゲノムを含んでいてもよい。
【0012】
ある態様では、ヒト細胞は、生きているヒト対象から直接得られる細胞である初代ヒト細胞であり、樹立または不死化細胞系の使用を除外してもよい。いくつかの実施形態は、最終分化ヒト細胞の使用を含んでいてもよい。初代ヒト細胞の非限定的な例は、線維芽細胞、ケラチノサイト、造血細胞、間葉細胞、脂肪細胞、内皮細胞、神経細胞、筋細胞、乳房細胞、肝細胞、腎細胞、皮膚細胞、消化管細胞、卵丘細胞(cumulus cell)、腺細胞、または膵島細胞を含む。特に、初代ヒト細胞は、CD34+細胞などのような造血前駆細胞であってもよい。初代ヒト細胞は、血液試料、毛試料、皮膚試料、または当業者に公知の任意の供給源から得られてもよい。
【0013】
シグナル伝達阻害剤は、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK−3)阻害剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MEK)阻害剤、形質転換増殖因子ベータ(TGF−β)受容体阻害剤、白血病抑制因子(LIF)、およびその組合せから成る群から選択される1つ以上であってもよい。特に、組成物は、細胞集団ならびにGSK−3阻害剤、MEK阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、および任意選択でLIFの組合せを含む。培地は、外部添加のROCK阻害剤またはミオシンII阻害剤をさらに含んでいてもよい。ROCK阻害剤は、HA−100であってもよい。培地は、外部添加のFGFをさらに含んでいてもよい。ある態様では、組成物は、既知組成培地をさらに含んでいてもよい。既知組成培地の非限定的な例は、TeSR培地、ヒト胚細胞培養培地、N2B27培地、およびその派生物を含む。
【0014】
組成物はまた、細胞集団の培養物を支持するためのフィーダー細胞に取って代わるためのマトリックス構成成分を含んでいてもよい。細胞接着のためのマトリックス構成成分は、幹細胞またはフィーダー細胞(使用される場合)を付着させるように意図される任意の物質とすることができる。マトリックス構成成分の非限定的な例は、コラーゲン、ゼラチン、ポリ−L−リシン、ポリ−D−リシン、ビトロネクチン、ラミニン、およびフィブロネクチンならびにその混合物、たとえばMatrigel(商標)および溶解細胞膜調製物を含む。
【0015】
ある実施形態では、本発明は、iPS細胞の集団を作製するための方法であって、a)1つ以上のリプログラミング因子を発現する染色体外遺伝エレメントを含む体細胞を得るステップと、b)GSK−3阻害剤、MEK阻害剤、および/またはTGF−β受容体阻害剤などのような外部添加の1つ以上のシグナル伝達阻害剤を含むリプログラミング条件において体細胞および/またはその子孫細胞を培養し、それによってiPS細胞の集団を作製するステップとを含む方法に関する。ある態様では、リプログラミング培地は、GSK−3阻害剤、MEK阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、および任意選択でLIFの組合せを含んでいてもよい。
【0016】
さらなる態様では、リプログラミング条件は、照射マウス胚性線維芽細胞(MEF)フィーダー細胞のようなフィーダー細胞が本質的になくてもよい。リプログラミング条件は、Matrigel(商標)などのようなマトリックス構成成分を含んでいてもよい。
【0017】
体細胞は、初代ヒト細胞などのようなヒト細胞または初代細胞であってもよい。体細胞の例は、線維芽細胞、ケラチノサイト、造血細胞、間葉細胞、脂肪細胞、内皮細胞、神経細胞、筋細胞、乳房細胞、肝細胞、腎細胞、皮膚細胞、消化管細胞、卵丘細胞、腺細胞、膵島細胞を含むが、これらに限定されない。造血細胞は、造血前駆細胞(たとえばCD34+細胞)、T細胞、B細胞、またはその組合せなどのような任意の血液細胞を含んでいてもよい。
【0018】
ある態様では、染色体外遺伝エレメントは、エピソームベクターとしてさらに指定されてもよい。たとえば、エピソームベクターは、リプログラミング因子の発現のための複製開始点および1つ以上の発現カセットを含んでいてもよい。そのような1つ以上の発現カセットは、染色体外鋳型を複製するために複製開始点に結合するトランス作用因子をコードするヌクレオチド配列をさらに含んでいてもよい。その代わりに、体細胞は、そのようなトランス作用因子を発現してもよい。染色体外遺伝エレメントは、DNAまたはRNAなどのような任意の遺伝物質または核酸であってもよい。
【0019】
そのようなエピソームベクターは、細菌エレメントが本質的になくてもよい。細菌エレメントは、細菌複製起点、たとえばpUC複製開始点および細菌選択カセット、たとえばアンピシリン選択カセットなどのような、細菌におけるプラスミド増殖のために必要とされるベクターバックボーンの構成成分であってもよい。
【0020】
例示的な実施形態では、複製開始点は、EBVのoriPに対応するリンパ向性ヘルペスウイルスまたはガンマヘルペスウイルスの複製開始点などのような、リンパ向性ヘルペスウイルスもしくはガンマヘルペスウイルス、アデノウイルス、SV40、ウシパピローマウイルス、または酵母の複製開始点であってもよい。さらなる態様では、リンパ向性ヘルペスウイルスは、エプスタインバーウイルス(EBV)、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(Kaposi’s sarcroma)(KSHV)、ヘルペスウイルスサイミリ(HS)、またはマレック病ウイルス(MDV)であってもよい。
【0021】
染色体外遺伝エレメントの複製および一過性の維持のために、トランス作用因子は、好ましくはEBVのOriPに対応する複製開始点の存在下における、EBVのEBNA−1(EBV核抗原1)の野生型タンパク質に対応するポリペプチドまたはその誘導体であってもよい。誘導体は、野生型EBNA−1と比較して、組み込まれた鋳型からの転写を活性化する能力を低下させ、したがって、染色体遺伝子を異所的に活性化して、発癌性の形質転換を引き起こす可能性を低下させてもよい。それに対し、誘導体は、誘導体が複製開始点に結合した後に、染色体外鋳型から、対応する野生型タンパク質の少なくとも5%、転写を活性化してもよい。
【0022】
体細胞のリプログラミングについては、本発明の方法のある態様は、Sox、Oct、Nanog、Lin−28、Klf4、c−Myc、およびSV40LTから成る群から選択される1つ以上、たとえばSox、Oct、Nanog、および任意選択でLin−28のセット、Sox、Oct、Klf4、および任意選択でc−Mycのセット、またはこれらの6つの因子の組合せを含んでいてもよいリプログラミング因子を使用することを含んでいてもよい。ある態様では、c−Myc発現の可能性のある毒性作用を低下させるために、SV40ラージT遺伝子(SV40LT)は、c−Mycと共に含まれていてもよい。リプログラミング効率をさらに改善するためのある態様では、形質転換が欠損したMyc変異体、バリアント、またはホモログが使用されてもよい。非限定的な例は、LMYC(NM_001033081)、N末端の41アミノ酸が欠失したMYC(dN2MYC)、またはアミノ酸136に変異を有するMYC(W136E)などのようなMyc癌原遺伝子ファミリーメンバーを含む(Nakagawaら2010年)。
【0023】
ある態様では、細胞は、少なくとももしくは約1、2、3、4、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日間またはその中で推論できる任意の範囲の間、上記に記載されるシグナル伝達阻害剤を含むリプログラミング培地を有するリプログラミング条件において培養されてもよい。リプログラミング条件は、体細胞への染色体外エレメントの導入後の少なくとも約1日間〜5日間を含む期間、続いてもよい。開始および終了時点は、導入後の1、2、3、4、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日間またはその中で推論できる任意の範囲、たとえば、遺伝エレメントのトランスフェクション後の約1日間〜15日間から選択されてもよい。
【0024】
細胞は、リプログラミング後に、増殖培地を有する増殖条件に移されてもよい。増殖培地は、外部添加のGSK−3阻害剤、MEK阻害剤、およびTGF−β受容体阻害剤が本質的になくてもよい。ある態様では、増殖培地は、シグナル伝達阻害剤および/またはLIFの1つ以上を有していてもよい。ある態様では、この増殖条件、たとえば通常のES細胞培養培地またはTeSR培地を使用することによって、ヒトES細胞に類似するヒトiPS細胞が、得られてもよい。
【0025】
ある態様では、方法は、たとえば、ES細胞様の形態などのような1つ以上の胚細胞特質に基づいて、iPS細胞を選択するステップをさらに含んでいてもよい。さらなる態様では、方法は、増殖培地において、選択されたiPS細胞を培養するステップを含んでいてもよい。
【0026】
さらなる利点として、リプログラミング条件または増殖条件などのような、本明細書において記載される培養条件は、フィーダー細胞が本質的になくてもよい。フィーダーフリーの条件は、フィーダー細胞由来の変異性および副作用を低下させることによって産業上および治療用の適用を改善してもよい。たとえば、マトリックス構成成分は、フィーダー細胞の代わりに使用されてもよい。フィーダーフリーの条件においてエピソームのリプログラミングを増加させるために、シグナル伝達阻害剤および/またはFGFは、リプログラミング培地に追加されてもよい。
【0027】
多能性幹細胞のクローニング効率を増加させるために、リプログラミング培地、第1、または第2の増殖培地は、HA−100またはブレビスタチンなどのようなRho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤またはミオシンII阻害剤をさらに含んでいてもよい。さらに、エピソームのリプログラミングのためになるおよび/またはリプログラミングされた細胞の増殖を増強するために、いくつかの態様では、線維芽細胞増殖因子(FGF)が、リプログラミング培地に追加されてもよい。外部添加のFGFまたはシグナル伝達阻害剤は、少なくとも、約、もしくは多くとも0.1、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、90、100、150、200ng/ml、少なくとも、約、もしくは多くとも0.05、0.1、0.2、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10μMまたはその中で推論できる任意の範囲またはエピソームのリプログラミングを改善するのに有効な任意の濃度の量であってもよい。特定の実施形態では、高濃度のFGF、たとえば約40〜200ng/mlまたは特に約100ng/mlが使用されてもよい。
【0028】
いくつかの態様では、TeSR培地、ヒト胚細胞培養培地、またはN2B27培地などのようなリプログラミング培地または増殖培地は、既知組成培地でもよい。ある態様では、リプログラミング培地は、N2B27培地などのように、TGFβを本質的に含まない培地であってもよい。増殖培地は、TeSR培地またはmTeSR培地であってもよい。
【0029】
たとえば、GSK−3阻害剤は、CHIR99021であってもよく、MEK阻害剤は、PD0325901であってもよく、TGF−β受容体阻害剤は、A−83−01であってもよい。上記の方法に従って作製されるiPS細胞の集団もまた、提供されてもよい。
【0030】
ある態様では、本発明の方法のための開始細胞は、少なくとももしくは約104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013細胞またはその中で推論できる任意の範囲を含んでいてもよい。開始細胞集団は、少なくとももしくは約10、101、102、103、104、105、106、107、108細胞/mlまたはその中で推論できる任意の範囲の接種密度を有していてもよい。
【0031】
本発明の方法および/または組成物と関連して議論される実施形態は、本明細書において記載される他の方法または組成物に関して使用されてもよい。したがって、ある方法または組成物に関する実施形態は、他の方法および本発明の組成物に同様に適用されてもよい。
【0032】
本明細書において使用されるように、核酸に関しての用語「コードする」または「コードすること」は、本発明を当業者によって容易に理解し得るようにするために使用されるが、これらの用語は、それぞれ、「含む」または「含むこと」と区別なく使用されてもよい。
【0033】
本明細書において使用されるように、「1つの(a)」または「1つの(an)」という指定は、1つ以上を意味してもよい。請求項(複数可)において本明細書において使用されるように、単語「含むこと」と共に使用される場合、単語「1つの(a)」または「1つの(an)」は、1つのまたは1つを超える、を意味してもよい。
【0034】
請求項における用語「または」の使用は、選択肢のみを指すようにまたは選択肢が相互に排他的であることが明示的に示されない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は選択肢のみならびに「および/または」を指す定義を支持する。本明細書において使用されるように、「他の」は、少なくとも第2のまたはそれ以上の、を意味してもよい。
【0035】
本出願の全体にわたって、用語「約」は、値が、デバイス、値を決定するために利用される方法についての誤差の固有の差異または研究対象の間で存在する差異を含むことを示すために使用される。
【0036】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の精神および範囲内の様々な変化および修飾が、この詳細な説明から当業者らに明らかになるので、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すが、例証のみのために提供されることが理解されたい。
【0037】
以下の図面は、本明細書の一部を構成し、本発明のある態様をさらに示すために含まれる。本発明は、本明細書において提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて、1つ以上のこれらの図面への参照によってより理解されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1A〜1Cは、小さな化学化合物を用いるヒト包皮線維芽細胞のエピソームリプログラミングの改善を示す図である。図1A.エピソームリプログラミングベクター。pEF:真核生物伸長因子1αプロモーター;pCMV:サイトメガロウイルス前初期プロモーター。導入遺伝子およびベクターの他の特徴は、示されるように異なる色によって示す。図1B.エピソームリプログラミング効率に対する化学化合物の異なる組合せの効果。FF培地:ヒト包皮線維芽細胞培養培地;CM:照射マウス胚性線維芽細胞フィーダー細胞を用いてあらかじめ調整したヒトES細胞培養培地。bFGFは、100ng/ml最終濃度で使用した。B:BIX01294(1μM);P:PD0325901(0.5μM);C:CHIR99021(3μM);A:A−83−01(0.5μM)。合計:アルカリホスファターゼポジティブiPS細胞コロニーの合計数;ラージ:大きなサイズの好適な未分化アルカリホスファターゼポジティブiPS細胞コロニーの数。図1C.化学化合物の存在下においてエピソームリプログラミングによって得られた好適なiPS細胞コロニーの画像。左:明視野;右:アルカリホスファターゼ染色。
【図2】図2A〜2Bは、小さな化学化合物を用いるヒト包皮線維芽細胞のエピソームリプログラミングの改善を示す図である。図2A.エピソームリプログラミング効率に対するbFGFおよび化学化合物の異なる組合せの効果。FF培地:ヒト包皮線維芽細胞培養培地;CM:照射マウス胚性線維芽細胞フィーダー細胞を用いてあらかじめ調整したヒトES細胞培養培地。bFGFは、100ng/ml最終濃度で使用した。H:HA−100(10μM);B:BIX01294(1μM);P:PD0325901(0.5μM);C:CHIR99021(3μM);A:A−83−01(0.5μM);L:hLIF(10ng/ml)。合計:アルカリホスファターゼポジティブiPS細胞コロニーの合計数;ラージ:大きなサイズの好適な未分化アルカリホスファターゼポジティブiPS細胞コロニーの数。図2B.エピソームリプログラミング効率に対する化学化合物処理のタイミング。bFGF(100ng/ml)およびHA−100(10μM)を補足したCMを、リプログラミング培養において使用した。
【図3】図3A〜3Dは、別個のiPS細胞が、化学化合物を用いて処理したエピソームリプログラミング培養から得ることができることを示す図である。図3A.PD0325901(0.5μM)、CHIR99021(3μM)、A−83−01(0.5μM)、およびhLIF(10ng/ml)を補足したCM(照射マウス胚性線維芽細胞フィーダー細胞を用いてあらかじめ調整したヒトES細胞培養培地)における5日間の培養後の分化ヒトH1 ES細胞(p44)および通常のヒトES細胞様のiPS細胞(p20、化学処理の非存在下においてエピソームリプログラミングによってヒト包皮線維芽細胞から誘導)の画像。図3B.PD0325901(0.5μM)、CHIR99021(3μM)、およびA−83−01(0.5μM)の存在下におけるエピソームリプログラミングを用いて42歳の成人皮膚生検材料から誘導された通常のヒトES細胞様のiPS細胞の明視野画像。化学化合物は、コロニーピッキングの3日間前(nucleofection後の23日目)に除去した。iPS細胞コロニーは、採集し、化学化合物の非存在下においてbFGF(100ng/ml)を補足したヒトES細胞培養培地において照射マウス胚性線維芽細胞(MEF)フィーダー細胞上で増殖した。図3C.PD0325901(0.5μM)、CHIR99021(3μM)、A−83−01(0.5μM)、およびhLIF(10ng/ml)の存在下におけるエピソームリプログラミングを用いてヒト包皮線維芽細胞から誘導されたiPS(部分的にリプログラミングされたiPSCについてはpiPSC)細胞の中間段階の明視野画像。化学化合物は、リプログラミング培養の全体にわたって存在した。piPS細胞コロニーは、採集し、PD0325901(0.5μM)、CHIR99021(3μM)、A−83−01(0.5μM)、およびhLIF(10ng/ml)を補足したCMにおいてMEFフィーダー細胞上で増殖した。図3D.化学化合物の除去後の、bFGF(100ng/ml)を補足したヒトES細胞培養培地において培養されたpiPS細胞由来のロゼット塊(神経分化)の明視野画像。
【図4】図4A〜4Bは、化学化合物を補足した既知組成培地におけるエピソームリプログラミングを示す図である。図4A.PD0325901(0.5μM)、CHIR99021(3μM)、A−83−01(0.5μM)、およびhLIF(10ng/ml)の存在下におけるエピソームリプログラミングに対する異なる培地の効果。FF培地:ヒト包皮線維芽細胞培養培地;CM:照射マウス胚性線維芽細胞フィーダー細胞を用いてあらかじめ調整したヒトES細胞培養培地。bFGFは、100ng/ml最終濃度で使用した。H:HA−100(10μM);B:BIX01294(1μM);P:PD0325901(0.5μM);C:CHIR99021(3μM);A:A−83−01(0.5μM);L:hLIF(10ng/ml)。合計:アルカリホスファターゼポジティブiPS細胞コロニーの合計数;ラージ:大きなサイズの好適な未分化アルカリホスファターゼポジティブiPS細胞コロニーの数。図4B。通常のヒトES細胞様のiPS細胞およびpiPS細胞の誘導のための3ステップリプログラミングプロセスの概略図。
【図5】図5A〜5Cは、小分子を用いるエピソームリプログラミング効率の改善を示す図である。図5A.エピソームリプログラミングに対するPD0325901(P、0.5μM)、CHIR99021(C、3μM)、A−83−01(A、0.5μM)、hLIF(L、1000U/ml)、およびHA−100(H、10μM)の効果。図5B エピソームリプログラミングの改善のための小分子処理の一時的な必要。トランスフェクトされたヒト包皮線維芽細胞は、MEFフィーダー細胞に平板培養した。100ng/ml bFGF(CM100)および小分子を補足したMEF馴化ヒトESC培地は、リプログラミングを支持するために使用した。アルカリホスファターゼポジティブiPSCコロニーは、トランスフェクション後の22〜23日目にカウントした。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±標準誤差(s.e.m.)とする(n=3)。図5C.小分子の存在下における、新しく誘導されたiPSC(p3)の分化。採集し、MEFフィーダー細胞上で小分子を補足したヒトESC培地またはMEF馴化ヒトESC培地において増殖した場合、小分子の継続的な存在により誘導されたiPSCは、広範囲な分化を示した。培養培地におけるbFGFの追加は、効果を有していなかった。黒色矢印:未分化iPSCコロニー;白色矢印:分化コロニー。スケールバー:100μm。
【図6−1】図6A〜6Dは、エピソームリプログラミングのためのフィーダーフリー条件の開発を示す図である。図6A.エピソームリプログラミングに対するMEFフィーダー細胞、Matrigel(商標)、および培養培地の効果。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p6)は、MEFフィーダー細胞接種またはMatrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養し、異なるリプログラミング培養条件にかけた。アルカリホスファターゼポジティブ(AP+)コロニーは、トランスフェクション後の18〜21日目にカウントした。AP+コロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。N2B27:N−2およびB−27を補足したDMEM/F12培地;N2B27−100:100ng/ml bFGFを補足したN2B27培地。*はpiPSCを示す。図6B.試験2からのpiPSCコロニーならびに試験1、3、および4からのヒトESC様のiPSCコロニーの明視野画像。スケールバー:100μm。図6C.piPSCクローン1〜4(p3)におけるOCT4およびNANOG発現の定量的RT−PCR分析。合計:内因性および導入遺伝子発現。ヒトH1 ESC(H1ESC、p32)をコントロールとして使用した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。図6D.既知組成培養培地を使用するフィーダーフリーエピソームリプログラミングのための小分子処理の一時的な必要条件。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p7)は、Matrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。PCALHを補足したN2B27−100培地は、異なる期間、リプログラミングを支持するために使用し(段階2)、その後に増殖のためのmTeSR1を使用した。アルカリホスファターゼポジティブiPSCコロニーは、トランスフェクション後の22日目にカウントした。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。
【図6−2】図6A〜6Dは、エピソームリプログラミングのためのフィーダーフリー条件の開発を示す図である。図6A.エピソームリプログラミングに対するMEFフィーダー細胞、Matrigel(商標)、および培養培地の効果。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p6)は、MEFフィーダー細胞接種またはMatrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養し、異なるリプログラミング培養条件にかけた。アルカリホスファターゼポジティブ(AP+)コロニーは、トランスフェクション後の18〜21日目にカウントした。AP+コロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。N2B27:N−2およびB−27を補足したDMEM/F12培地;N2B27−100:100ng/ml bFGFを補足したN2B27培地。*はpiPSCを示す。図6B.試験2からのpiPSCコロニーならびに試験1、3、および4からのヒトESC様のiPSCコロニーの明視野画像。スケールバー:100μm。図6C.piPSCクローン1〜4(p3)におけるOCT4およびNANOG発現の定量的RT−PCR分析。合計:内因性および導入遺伝子発現。ヒトH1 ESC(H1ESC、p32)をコントロールとして使用した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。図6D.既知組成培養培地を使用するフィーダーフリーエピソームリプログラミングのための小分子処理の一時的な必要条件。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p7)は、Matrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。PCALHを補足したN2B27−100培地は、異なる期間、リプログラミングを支持するために使用し(段階2)、その後に増殖のためのmTeSR1を使用した。アルカリホスファターゼポジティブiPSCコロニーは、トランスフェクション後の22日目にカウントした。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。
【図7】図7A〜7Fは、既知組成培地を用いてフィーダーフリー条件下で誘導されたiPSCの特徴付けを示す図である。図7A.ヒト成人皮膚線維芽細胞(iPS(SK46)クローン2)から誘導されたiPSCの明視野画像。スケールバー:100μm。図7B.iPS(SK46)クローン2(p17)のG結合染色体分析。図7C.iPSCにおけるリプログラミングベクターのPCR分析。E:エピソームDNA;G:ゲノムDNA;NF:新生児包皮線維芽細胞(p5);iPSF7クローン1〜3:新生児包皮線維芽細胞(p26)から誘導されたiPSC;AF:成人皮膚線維芽細胞(p6);iPS(SK46)クローン1〜3:成人皮膚線維芽細胞(p22)から誘導されたiPSC。ヒト包皮線維芽細胞(p4)から誘導されたpiPSCは、コントロールとして使用した。T−OCT4:導入遺伝子OCT4;T−SOX2:導入遺伝子SOX2;T−NANOG:導入遺伝子NANOG;T−LIN28:導入遺伝子LIN28;T−c−MYC:導入遺伝子c−MYC;T1−KLF4:導入遺伝子KLF4(1);T2−KLF4:導入遺伝子KLF4(2);T−SV40LT:導入遺伝子SV40LT;OCT4:内因性OCT4。32のPCRサイクルは、すべてのプライマーセットに使用した。図7D.iPSCクローンにおける内因性OCT4、NANOG、SOX2、およびLIN28発現の定量的RT−PCR分析。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。図7E.iPSCクローンにおけるOCT4およびNANOGプロモーターのメチル化ステータスの重亜硫酸配列決定分析。白丸は、非メチル化を示し、黒丸は、メチル化CpGジヌクレオチドを示す。図7F.iPSC(SK46)クローン2の奇形腫切片のヘマトキシリンおよびエオシン染色。奇形腫は、すべてのiPSCクローンから得られた。左のパネル:神経組織(外胚葉);中央のパネル:軟骨(中胚葉);右のパネル:腸上皮(内胚葉)。スケールバー:100μm。
【図8】図8A〜8Cは、小分子の存在下における異なる体細胞型からのiPSC誘導に対する異なるエピソームリプログラミングベクターの組合せの効果を示す図である。図8A.エピソームベクターを用いるヒト包皮線維芽細胞のリプログラミング。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(HFF、p6)は、包皮線維芽細胞培養培地においてMatrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。PD0325901(P、0.5μM)、CHIR99021(C、3μM)、A−83−01(A、0.5μM)、hLIF(L、1000U/ml)、およびHA−100(H、10μM)(PCALH)を補足したN2B27−100培地は、トランスフェクション後の1日目および13日目の間にリプログラミングを支持するために使用し、その後にトランスフェクション後の14日目および21日目の間にmTeSR1を使用した。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±標準誤差(s.e.m.)とする(n=3)。7F−1(pEP4EO2SCK2MEN2LおよびpEP4EO2SET2K);7F−2(pEP4EO2SEN2K、pCEP4−M2L、およびpEP4EO2SET2K);5F(pEP4EO2SEN2LおよびpEP4EO2SET2N)。ベクター地図はすべて、図12中に示す。図8B.エピソームベクターを用いる脂肪組織誘導幹細胞(AdSC)のリプログラミング。AdSC(Zenbio、Research Triangle Park、NC)は、ヒトコラーゲンI(10cm皿当たり60μg、STEMCELL Technologies Inc.)およびフィブロネクチン(10cm皿当たり18μg、Invitrogen)を用いてコーティングした10cm皿上で、1×Glutamax(Invitrogen)を補足したMesenCult(登録商標)−XF培養培地(STEMCELL Technologies Inc.、Vancouver、BC、V5Z 1B3、Canada)において培養した。トランスフェクトAdSC(p9、プログラムA−33を用いるAmaxa VPE−1001)は、AdSC培養培地においてMatrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。PCALHを補足したN2B27−100培地は、トランスフェクション後の2日目および13日目の間にリプログラミングを支持するために使用し、その後にトランスフェクション後の13日目および21日目の間にmTeSR1を使用した。iPSCコロニーの数は、約0.35×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±標準誤差(s.e.m.)とする(n=2)。図8C.エピソームベクターを用いる臍帯血(CB)誘導CD34+細胞のリプログラミング。トランスフェクションに先立って、CB誘導CD34+細胞(STEMCELL Technologies Inc.)は、CB CD34+細胞増殖培地:1×ExCyte培地サプリメント(Millipore、Billerica、MA)、1×Glutamax、250ng/ml SCF(Peprotech、Rocky Hill、NJ)、250ng/ml FLT3L(Peprotech)、100ng/ml TPO(Peprotech)、20ng/ml IL−3(Peprotech)、50ng/ml IL−6(Peprotech)、および10ng/ml sIL6−R(Peprotech)を補足したStemSpan SFEM(STEMCELL Technologies Inc.)において、フィブロネクチンコーティング6ウェルプレート上で4日間、培養した。トランスフェクトCB細胞(プログラムT−16を用いるAmaxa VPA−1003)は、CB CD34+細胞増殖培地におけるフィブロネクチン/Matrigel(商標)コーティング6ウェルプレートに平板培養した。PCALHを補足したN2B27−100培地は、トランスフェクション後の2日目および11日目の間にリプログラミングを支持するために使用し、その後にトランスフェクション後の11日目および17日目の間にmTeSR1を使用した。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した(4日間の培養後)。示すデータは、平均±標準誤差(s.e.m.)とする(n=3)。
【図9】図9は、小分子の存在下における形質転換欠損MYCを用いるエピソームリプログラミングの改善を示す図である。エピソームベクターの組合せ7F−2をiPSC誘導に使用した。ベクターpCEP4−M2Lにおけるc−Mycは、形質転換欠損MYC:LMYC(NM_001033081)、N末端の41アミノ酸が欠失したMYC(dN2MYC)、またはアミノ酸136に変異を有するMYC(W136E)と交換した(Nakagawaら、2010年)。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(HFF、p9)は、包皮線維芽細胞培養培地においてMatrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。PD0325901(P、0.5μM)、CHIR99021(C、3μM)、A−83−01(A、0.5μM)、hLIF(L、1000U/ml)、およびHA−100(H、10μM)(PCALH)を補足したN2B27−100培地は、トランスフェクション後の2日目および13日目の間にリプログラミングを支持するために使用し、その後にトランスフェクション後の14日目および20日目の間にmTeSR1を使用した。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±標準誤差(s.e.m.)とする(n=3)。
【図10A】図10A〜10Cは、エピソームリプログラミングのためのフィーダーフリー条件の開発を示す図である。図10A.piPSC(p6)におけるヒトESC特異的細胞表面マーカー(SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81)ならびに線維芽細胞マーカーCD44のフローサイトメトリー発現分析。白:アイソタイプコントロール;黒:抗原染色。図10B.piPSC(p7)から単離されたエピソームDNAにおけるリプログラミングベクターのPCR分析。レーン1:導入遺伝子OCT4(T−OCT4);レーン2:導入遺伝子NANOG(T−NANOG);レーン3:導入遺伝子KLF4(1)(T1−KLF4);レーン4:導入遺伝子KLF4(2)(T2−KLF4);レーン5:導入遺伝子SV40LT(T−SV40LT);レーン6:導入遺伝子SOX2(T−SOX2);レーン7:導入遺伝子LIN28(T−LIN28);レーン8:導入遺伝子c−MYC(T−c−MYC);レーン9:内因性OCT4(OCT4)。図10C.mTeSR1を使用するフィーダーフリーエピソームリプログラミングのための小分子処理の一時的な必要条件。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p7)は、Matrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。小分子(PCALH)を補足したmTeSR1は、異なる期間、リプログラミングを支持するために使用し(段階2)、その後に増殖のために小分子なしのmTeSR1を使用した。アルカリホスファターゼポジティブiPSCコロニーは、トランスフェクション後の22日目にカウントした。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。
【図10B】図10A〜10Cは、エピソームリプログラミングのためのフィーダーフリー条件の開発を示す図である。図10A.piPSC(p6)におけるヒトESC特異的細胞表面マーカー(SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81)ならびに線維芽細胞マーカーCD44のフローサイトメトリー発現分析。白:アイソタイプコントロール;黒:抗原染色。図10B.piPSC(p7)から単離されたエピソームDNAにおけるリプログラミングベクターのPCR分析。レーン1:導入遺伝子OCT4(T−OCT4);レーン2:導入遺伝子NANOG(T−NANOG);レーン3:導入遺伝子KLF4(1)(T1−KLF4);レーン4:導入遺伝子KLF4(2)(T2−KLF4);レーン5:導入遺伝子SV40LT(T−SV40LT);レーン6:導入遺伝子SOX2(T−SOX2);レーン7:導入遺伝子LIN28(T−LIN28);レーン8:導入遺伝子c−MYC(T−c−MYC);レーン9:内因性OCT4(OCT4)。図10C.mTeSR1を使用するフィーダーフリーエピソームリプログラミングのための小分子処理の一時的な必要条件。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p7)は、Matrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。小分子(PCALH)を補足したmTeSR1は、異なる期間、リプログラミングを支持するために使用し(段階2)、その後に増殖のために小分子なしのmTeSR1を使用した。アルカリホスファターゼポジティブiPSCコロニーは、トランスフェクション後の22日目にカウントした。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。
【図10C】図10A〜10Cは、エピソームリプログラミングのためのフィーダーフリー条件の開発を示す図である。図10A.piPSC(p6)におけるヒトESC特異的細胞表面マーカー(SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81)ならびに線維芽細胞マーカーCD44のフローサイトメトリー発現分析。白:アイソタイプコントロール;黒:抗原染色。図10B.piPSC(p7)から単離されたエピソームDNAにおけるリプログラミングベクターのPCR分析。レーン1:導入遺伝子OCT4(T−OCT4);レーン2:導入遺伝子NANOG(T−NANOG);レーン3:導入遺伝子KLF4(1)(T1−KLF4);レーン4:導入遺伝子KLF4(2)(T2−KLF4);レーン5:導入遺伝子SV40LT(T−SV40LT);レーン6:導入遺伝子SOX2(T−SOX2);レーン7:導入遺伝子LIN28(T−LIN28);レーン8:導入遺伝子c−MYC(T−c−MYC);レーン9:内因性OCT4(OCT4)。図10C.mTeSR1を使用するフィーダーフリーエピソームリプログラミングのための小分子処理の一時的な必要条件。トランスフェクトヒト包皮線維芽細胞(p7)は、Matrigel(商標)コーティング10cm皿に平板培養した。小分子(PCALH)を補足したmTeSR1は、異なる期間、リプログラミングを支持するために使用し(段階2)、その後に増殖のために小分子なしのmTeSR1を使用した。アルカリホスファターゼポジティブiPSCコロニーは、トランスフェクション後の22日目にカウントした。iPSCコロニーの数は、約0.33×106インプット細胞に由来した。示すデータは、平均±s.e.m.とする(n=3)。
【図11】図11A〜11Eは、既知組成培地を用いてフィーダーフリー条件下で誘導されたiPSCの特徴付けを示す図である。図11A.ヒト包皮線維芽細胞から誘導されたiPSCの明視野画像(iPSF7クローン1)。スケールバー:100μm。図11B.iPSF7クローン1(p18)のG結合染色体分析。図11C.iPSCクローンにおける導入遺伝子発現のRT−PCR分析。NF:新生児包皮線維芽細胞(p5);iPSF7クローン1〜3:新生児包皮線維芽細胞(p26)から誘導されたiPSC;AF:成人皮膚線維芽細胞(p6);iPS(SK46)クローン1〜3:成人皮膚線維芽細胞(p22)から誘導されたiPSC。ヒト包皮線維芽細胞から誘導されたH1ESC(p32)およびpiPSC(p4)は、コントロールとして使用した。T−OCT4:導入遺伝子OCT4;T−SOX2:導入遺伝子SOX2;T−NANOG:導入遺伝子NANOG;T−LIN28:導入遺伝子LIN28;T−c−MYC:導入遺伝子c−MYC;T1−KLF4:導入遺伝子KLF4(1);T2−KLF4:導入遺伝子KLF4(2);T−SV40LT:導入遺伝子SV40LT;OCT4:内因性OCT4;GAPDH:内因性コントロール。T−OCT4(30のサイクル)を除いて、32のPCRサイクルをすべてのプライマーセットに使用した。図11D.ヒトESC特異的細胞表面マーカー(SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81)ならびに線維芽細胞に豊富なマーカーCD44のフローサイトメトリー発現分析。白:アイソタイプコントロール;黒:抗原染色。図11E.iPSF7クローン1の奇形腫切片のヘマトキシリンおよびエオシン染色。上部のパネル:神経組織(外胚葉);中央のパネル:軟骨(中胚葉);下部のパネル:腸上皮(内胚葉)。スケールバー:100μm。
【図12】図12は、ピソームリプログラミングベクターを示す図である。エピソームリプログラミングベクターの遺伝成分の詳述。pEF:真核生物伸長因子1αプロモーター;pCMV:サイトメガロウイルス前初期プロモーター;IRES2:配列内リボソーム進入部位;SV40 pA:サル空胞ウイルス40ポリアデニル化シグナル;oriP:EBV複製起点;EBNA−1:EBV核抗原1;Amp:アンピシリン細菌抵抗性選択カセット;pUC開始点:細菌複製起点;Oct4:octamer4転写因子;Sox2:Sox2転写因子;c−Myc:c−Myc転写因子;Klf4:Kreuppel様因子転写修飾因子;SV40LT:SV40ラージT遺伝子;Nanog:NANOG転写因子;Lin28:Lin28 mRNA結合タンパク質。
【発明を実施するための形態】
【0039】
例示的な実施形態の説明
I.導入
本発明は、GSK−3阻害剤、MEK阻害剤、およびTGF−β受容体阻害剤の存在下において、リプログラミングされた細胞を培養することによってエピソームリプログラミング効率および反応速度を改善するために細胞内シグナル伝達の阻害剤が使用されてもよいという驚くべき発見に部分的に基づく。MEK阻害剤およびTGF−β受容体阻害剤を含む化学反応混液を使用することによって、ヒト線維芽細胞のレトロウイルスリプログラミングが改善されたことが報告された(Linら、2009年)が、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)リプログラミングは、レトロウイルスベクターエレメントのゲノム組み込みおよび組み込まれたベクターエレメントの持続的な導入遺伝子発現について、エピソームのリプログラミングとは基本的に異なる。たとえば、実施例において示されるように、これらの3つの阻害剤の組合せの存在下におけるエピソームのリプログラミングは、ベースラインを超える最小限の増強しか有していないMEK阻害剤およびTGF−β受容体阻害剤の存在下における効率と比較して、予想外に高度なリプログラミング効率をもたらした。
【0040】
本発明のある態様の実施におけるエピソームベクターの使用は、ゲノムの中に組み込まれるベクターに対して、いくつかの利点を有する。第1に、その使用は、DNAへのランダムな組み込みの結果として起こる適切でない表現型の改変の原因を低下させる。第2に、エピソームは、腫瘍形成を導き得る挿入変異誘発の可能性を低下させる。第3に、エピソームベクターの複製は、外因性ベクターエレメントの段階的な損失をもたらすことができ、これにより、最小限の外因性遺伝子修飾を有する細胞を残す。しかしながら、低いリプログラミング効率は、体細胞のリプログラミングにおけるエピソームベクターの使用に打ち勝ち、これは、本発明のある態様によって検討することができた。
【0041】
さらなる態様では、改善された産業上および臨床上の適用を有するiPS細胞を作製するための方法が、開発された。方法は、外因性の遺伝エレメントを本質的に含まないiPS細胞を作製するためにフィーダーフリーの条件を使用することを含んでいてもよく、そのため、外因性の遺伝エレメントの残存または変異原性作用およびフィーダー細胞の変異性または望まれない効果によってもたらされる問題を回避してもよい。
【0042】
さらに、iPS細胞集団の作製のための組成物および方法における進歩もまた、下記に記載される。
【0043】
II.定義
本明細書において使用される「初代細胞」は、ある細胞系に樹立されていないまたは固定されていない、生きている生物またはその子孫から直接得られる細胞を指す。「ヒト初代細胞」は、生きているヒト対象から得られる初代細胞を指す。
【0044】
「胚性幹(ES)細胞」は、初期胚から誘導される多能性幹細胞である。ES細胞は、1981年に最初に樹立され、これはまた、1989年以来、ノックアウトマウスの作製に適用されてきた。1998年に、ヒトES細胞が樹立され、これは、現在、再生医療のために利用可能になってきている。
【0045】
一般にiPS細胞またはiPSCと略される「人工多能性幹細胞」は、リプログラミングによって、非多能性細胞、典型的に、成体の体細胞または線維芽細胞、造血細胞、ミオサイト、ニューロン、表皮細胞、もしくはその他同種のものなどのような最終分化細胞から人工的に調製される、多能性幹細胞のタイプを指す。
【0046】
「多能性」は、1つ以上の組織もしくは器官または好ましくは、3つの胚葉:内胚葉(内部の胃内層、胃腸管、肺)、中胚葉(筋肉、骨、血液、泌尿生殖器)、もしくは外胚葉(表皮組織および神経系)のいずれかを構成するすべての細胞に分化するための潜在能力を有する幹細胞を指す。本明細書において使用される「多能性幹細胞」は、3つの胚葉のいずれかから誘導される細胞に分化することができる細胞、たとえば、全能性細胞、胚性幹細胞、または人工多能性細胞の直接的な子孫を指す。
【0047】
本明細書において使用されるように、用語「体細胞」は、次世代にそのDNAを直接伝達しない、卵子、精子、またはその他同種のものなどのような生殖細胞以外の任意の細胞を指す。典型的に、体細胞は、多能性が限られているまたは多能性がない。本明細書において使用される体細胞は、天然に存在してもよいまたは遺伝子改変されてもよい。
【0048】
「リプログラミング」は、リプログラミングなしの同じ条件下で有するよりも、培養またはin vivoにおいて少なくとも1つの新しい細胞型の子孫を形成するための測定可能な程度に増加した性能を細胞に与えるプロセスである。特に、リプログラミングは、多能性潜在能力を体細胞に与えるプロセスである。これは、十分な増殖後に、本質的に、そのような子孫がリプログラミング前に形成することができなかった場合に、新しい細胞型の表現型の特質を有する子孫の測定可能な割合が、他の場合には、新しい細胞型の特質を有する割合が、リプログラミング前よりも測定可能な程度に多いことを意味する。ある条件下で、新しい細胞型の特質を有する子孫の割合は、望ましい順に、少なくとも約0.05%、0.1%、0.5%、1%、5%、25%以上であってもよい。
【0049】
細胞は、それらが10%未満のエレメント(複数可)を有する場合、本明細書において使用されるように、外因性の遺伝エレメントまたはベクターエレメントが「実質的になく」、それらが1%未満のエレメント(複数可)を有する場合、外因性の遺伝エレメントまたはベクターエレメントが「本質的にない」。しかしながら、全細胞集団の0.5%未満または0.1%未満が、外因性の遺伝エレメントまたはベクターエレメントを含む細胞集団がさらに望ましい。培地が、当業者に公知の従来の検出方法を使用して検出可能なレベルよりも低いこれらの試薬のレベルを有する場合、培地は、MEK阻害剤、GSK阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、LIFなどのようなある種の試薬が「本質的にない」。
【0050】
用語「外因性」は、細胞もしくは生物におけるタンパク質、遺伝子、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝エレメント、もしくはベクターエレメントに関して使用される場合、人工的もしくは自然の手段によって細胞もしくは生物の中に導入されたタンパク質、遺伝子、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝エレメント、もしくはベクターエレメントを指すまたは細胞に関して、単離され、続いて、人工的なもしくは自然の手段によって他の細胞もしくは生物に導入された細胞を指す。外因性の核酸は、異なる生物もしくは細胞由来のものであってもよいまたはそれは、生物もしくは細胞内で自然に生じる核酸の1つ以上のさらなるコピーであってもよい。外因性の細胞は、異なる生物由来のものであってもよいまたはそれは、同じ生物由来のものであってもよい。非限定的な例として、外因性の核酸は、自然の細胞とは異なる染色体上の位置にあるまたは他の場合には、それが自然界において見つけられるものとは異なる核酸配列が側面に位置する。
【0051】
「複製起点」(「ori」)または「複製開始点」は、細胞中のプラスミド中に存在する場合、プラスミド中の連結された配列を維持することができる、たとえばリンパ向性ヘルペスウイルス中のDNA配列および/またはDNA合成が開始される場所の部位もしくはその近くの部位である。EBVについてのoriは、FR配列(30bpリピートの20の不完全なコピー)および好ましくはDS配列を含むが、しかしながら、EBVにおける他の部位がEBNA−1に結合する、たとえば、Rep*配列は、複製起点としてDSと置換することができる(KirchmaierおよびSugden、1998年)。したがって、EBVの複製開始点は、核酸改変を介した、FR、DS、もしくはRep*配列または任意の機能的に等価な配列またはそれらに由来する合成的な組合せを含む。たとえば、本発明はまた、Lindnerら(2008年)において特に記載されるように、個々のエレメントの挿入または変異によってなどのように、EBVの遺伝的に操作された複製開始点を使用してもよい。
【0052】
「リンパ向性」ヘルペスウイルスは、リンパ芽球(たとえばヒトBリンパ芽球)または他の細胞型において複製し、その自然の生活環の少なくとも一部の間、染色体外で複製するヘルペスウイルスである。宿主に感染した後に、これらのウイルスは、プラスミドとしてウイルスゲノムを維持することによって潜在的に宿主に感染する。単純ヘルペスウイルス(HSV)は、「リンパ向性」ヘルペスウイルスではない。例示的なリンパ指向性ヘルペスウイルスは、EBV、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV)、ヘルペスウイルスサイミリ(HS)、およびマレック病ウイルス(MDV)を含むが、これらに限定されない。
【0053】
「ベクター」または「構築物」(時に遺伝子送達または遺伝子移入「ビヒクル」と呼ばれる)は、in vitroまたはin vivoにおいて宿主細胞に送達されることとなるポリヌクレオチドを含む高分子または分子の複合体を指す。
【0054】
「プラスミド」は、一般的なタイプのベクターであり、染色体DNAとは無関係に複製することができる、染色体DNAと別々の染色体外DNA分子である。ある場合には、プラスミドは、環状で二重鎖をしている。
【0055】
本明細書において使用される「鋳型」は、複製開始点を含有するDNAまたはRNAの分子である。「組み込まれた鋳型」は、細胞のゲノムにおいて安定して維持される、たとえば、その細胞の染色体の中に組み込まれた鋳型である。「染色体外鋳型」は、細胞において維持され、安定して維持されるが、染色体の中に組み込まれない鋳型である。
【0056】
「発現構築物」または「発現カセット」によって、転写を指示することができる核酸分子を意味する。発現構築物は、少なくとも、プロモーターまたはプロモーターに機能的に等価な構造を含む。エンハンサーおよび/または転写終結シグナルなどのようなさらなるエレメントもまた、含まれていてもよい。核酸分子は、DNAまたはRNAであってもよい。
【0057】
用語「に対応する」は、ポリヌクレオチド配列が、参照ポリヌクレオチド配列のすべてもしくは一部分と相同性である(つまり同一であり、厳密ではないが進化的に関連する)またはポリペプチド配列が、参照ポリペプチド配列と同一であるということを意味するために本明細書において使用される。対比して、用語「に相補的な」は、相補的配列が、参照ポリヌクレオチド配列のすべてまたは一部分と相同性であることを意味するために本明細書において使用される。例証のために、ヌクレオチド配列「TATAC」は、参照配列「TATAC」に対応し、参照配列「GTATA」に対して相補的である。
【0058】
III.iPS細胞
人工多能性幹細胞は、一般にiPS細胞またはiPSCと略され、非多能性細胞、典型的に、成体の体細胞から人工的に誘導される多能性幹細胞のタイプである。人工多能性幹細胞は、ある種の幹細胞遺伝子およびタンパク質の発現、クロマチンメチル化パターン、倍加時間、胚様体形成、奇形腫形成、生存可能なキメラ形成、ならびに潜在能および分化可能性(differentiability)の点からなどのように、多くの点において、胚性幹細胞などのような自然の多能性幹細胞と同一ではなくても、類似していると考えられるが、自然の多能性幹細胞とのそれらの関係の詳細な程度は、なお評価され続けている。
【0059】
胚性起源以外のヒト組織から誘導される人工多能性細胞の生成は、胚および胚組織の実験用の使用に関する倫理的な問題を緩和するのに望まれる。人工多能性細胞の治療用の適用の将来性が、喧伝されている。医療用の適用は、いくつかを挙げると、アルツハイマー病、糖尿病、および脊椎損傷のための治療を含む。他の適用は、疾患モデリングおよび医薬品スクリーニングを含む。
【0060】
IPS細胞は、マウス細胞から2006年に(Takahashiら、2006年)およびヒト細胞から2007年に(Takahashiら、2007年;Yuら、2007年)、最初に作製された。これは、研究者が、研究において重要であり、論争の的になっている胚の使用を伴うことなく治療用の適用を可能性として有する多能性幹細胞を得ることを可能にし得るので、それは、幹細胞研究における重要な進歩として引き合いに出されてきた。マウスまたはヒト組織由来の人工多能性細胞(iPS細胞)を生成するための第1の成功した実証は、転写因子の特異的なセットを発現するレトロウイルスベクターの使用を含んだ。James ThomsonおよびShinya Yamanakaの研究室における研究は、マウスまたはヒト線維芽細胞へのレトロウイルスベクターによる特異的な転写因子の導入が、それらの細胞を未分化多能性幹細胞にリプログラミングするのに十分であることを実証した。Thomsonが使用した因子は、Oct4、Sox2、Nanog、およびLin28を含む。Yamanakaが使用した因子は、Oct4、Sox2、Klf4、およびc−Mycを含む。どちらかの遺伝子セットを介してのリプログラミングは、宿主細胞ゲノムへの組み込みおよび転写因子の発現によって達成される。Oct4およびSox2は、リプログラミングのために必要とされる本質的な転写因子であるように思われる。リプログラミングの効率は、低く、開始細胞集団の0.01〜0.02%の範囲の頻度である。
【0061】
本発明のある実施形態では、現在のリプログラミング方法を改善するために、染色体外遺伝エレメントを有する体細胞にリプログラミング因子を導入し、その後に続いて、上記に記載される1つ以上のシグナル伝達阻害剤を含むリプログラミング培地において培養することによる、体細胞をリプログラミングする方法が開示される。これらの細胞の子孫は、下記に記載される様々な態様において胚性幹細胞と同一になり得るが、外因性の遺伝エレメントを本質的に含まない。
【0062】
本来の胚性幹細胞(ES細胞)は、胚盤胞、初期の胚の内部細胞塊から誘導される多能性幹細胞である。ES細胞は、2つの特有の特性:それらの多能性およびそれら自体を無限に自己再生するそれらの能力によって区別される。ES細胞は、多能性である、すなわち、それらは、3つの一次胚葉のすべて:外胚葉、内胚葉、および中胚葉の誘導体に分化することができる。さらに、胚性幹細胞は、特定されている条件下で、無限に自己増殖することができる。胚性幹細胞が、継続的な研究または臨床上の使用のためにそれら自体を無限の数、生み出すことができるので、これは、研究および再生医療の両方のための有用なツールとしてそれらを利用することを可能にする。
【0063】
しかしながら、マウスおよびヒトES細胞の間に顕著な差異がある。ヒトES細胞は、James Thomsonによって発見されたとき、それらの潜在能およびそれらの培養条件がマウスES細胞と異なることが分かり、これは、LIF(マウスES細胞の培養において必要とされるエレメント)に対して全く応答しないことによって顕著であり、これは、ヒトES細胞における不活性白血病抑制因子経路に起因する。既存のヒトIPS細胞は、これらの点においてヒトES細胞に類似し、そのため、それらは、ヒトES細胞様のiPS細胞と称することができる。
【0064】
IV.リプログラミングのための染色体外遺伝エレメント
ヒト体細胞からの多能性幹細胞の誘導は、遺伝子をリプログラミングするために異所性の発現のためにレトロウイルスまたはレンチウイルスベクターを使用して達成されてきた。モロニーマウス白血病ウイルスなどのような組換えレトロウイルスは、安定した方法において宿主ゲノムの中に組み込まれる能力を有する。組換えレトロウイルスは、宿主ゲノムへの組み込みを可能にするリバーストランスクリプターゼを含有する。レンチウイルスは、レトロウイルスのサブクラスである。レンチウイルスは、非分裂および分裂細胞のゲノムに組み込まれる能力のおかげでベクターとして広く適応されている。ウイルスが細胞に入ったとき、RNAの形態をしたウイルスゲノムが逆転写されて、DNAを産生し、DNAは、次いで、ウイルスインテグラーゼ酵素によってランダムな位置でゲノムの中に挿入される。そのため、リプログラミングの成功のための現在の技術は、組み込みベースのウイルスアプローチに依存している。
【0065】
しかしながら、現在の技術を用いても、標的指向性の組み込みはなお、ルーチン的なものではなく(Bodeら、2000年)、従来の代替のランダム組み込みは、人工多能性幹細胞における予測不能の結果を伴う挿入変異誘発を導き得る。同じ理由で、導入遺伝子の発現は、組み込み部位のクロマチンの状況に依存しているので、コントロールすることができない(Baerら、2000年)。高レベルの発現は、好都合なゲノム遺伝子座でのみ達成することができるが、高度に発現される部位へのその組み込みが人工多能性幹細胞の重大な細胞の機能に干渉する危険性が存在する。
【0066】
さらに、DNAメチル化が伴うプロセスにおいて導入遺伝子をダウンレギュレートすることによって作動する、外来性DNAに対する細胞の防御メカニズムの存在を立証する証拠が増加している(Bingham、1997年、Garrickら、1998年)。さらに、ウイルスの構成成分は、他の因子と作用して、細胞を形質転換し得る。多くのウイルス遺伝子由来の継続的な発現が伴って、細胞内のウイルスゲノムの少なくとも一部の残存により、細胞形質転換が引き起こされ得る。これらの遺伝子は、細胞のシグナル伝達経路に干渉し、細胞の実際の表現型の変化を引き起こし、細胞分裂の増加を示す形質転換細胞を導き得、これは、ウイルスにとって好都合となる。
【0067】
そのため、ある実施形態では、本発明は、以前の方法において使用されるレトロウイルスまたはレンチウイルスベクターエレメント由来のなどのような外因性の遺伝エレメントを本質的に含まない人工多能性幹細胞を生成するための新規な方法を開発する。本発明におけるこれらの方法は、最適なリプログラミング効率および反応速度を達成するために、細胞シグナル伝達阻害剤の存在下においてリプログラミングされた細胞を培養することと組み合わせて、染色体外で複製するベクターまたはエピソームとして複製することができるベクターを使用する(参照によって本明細書において組み込まれるU.S.出願第12/478,154号を参照されたい)。
【0068】
アデノウイルス、サル空胞ウイルス40(SV40)、ウシパピローマウイルス(BPV)、または出芽酵母ARS(自己複製配列)含有プラスミドなどのような多くのDNAウイルスは、哺乳動物細胞において染色体外で複製する。これらのエピソームプラスミドは、組み込み型ベクターと関連するすべての不都合(Bodeら、2001年)を本質的に含まない。エプスタインバーウイルス(EBV)を含むリンパ向性ヘルペスウイルスベースの系もまた、染色体外で複製し、リプログラミング遺伝子を体細胞に送達するのを助けてもよい。
【0069】
たとえば、本発明において使用されるエピソームベクターベースのアプローチは、詳細に下記に記載されるように、臨床設定における扱いやすさを損なうことなく、EBVエレメントベースの系の複製の成功および維持のために必要な強いエレメントを抽出する。有用なEBVエレメントは、OriPおよびEBNA−1またはそれらのバリアントもしくは機能的な等価物である。この系のさらなる利点は、これらの外因性のエレメントが細胞の中に導入された後に時間と共に失われ、これらのエレメントを本質的に含まない自立したiPS細胞が導かれるであろうということである。
【0070】
A.エプスタインバーウイルス
ヒトヘルペスウイルス4(HHV−4)と呼ばれるエプスタインバーウイルス(EBV)は、ヘルペスファミリー(単純ヘルペスウイルスおよびサイトメガロウイルスを含む)のウイルスであり、ヒトにおいて最も一般的なウイルスの1つである。EBVは、そのゲノムを染色体外で維持し、効率的な複製および維持のために宿主細胞機構と共同で作用し(LindnerおよびSugden、2007年)、細胞分裂の間の細胞内でのその複製およびその保持のために2つの本質的な特徴にもっぱら依存する(Yatesら 1985年;Yatesら 1984年)。一般にoriPと呼ばれる1つのエレメントは、シスで存在し、複製起点として役立つ。他の因子、EBNA−1は、プラスミドDNAの複製および維持を促進するためにoriP内の配列に結合することによってトランスで機能する。非限定的な例として、本発明のある態様は、これらの2つの特徴を抽出し、従来のプラスミドに対して、これらの遺伝子の複製および発現の保持を促進するために、体細胞をリプログラミングするのに必要な遺伝子を往復させるためのベクターと関連してそれらを使用する。
【0071】
B.複製開始点
ある態様では、EBVの複製開始点、OriPが使用されてもよい。OriPは、DNA複製が開始する部位にありまたはその近くにあり、family of repeats(FR)およびdyad symmetry(DS)として公知の、およそ1キロ塩基対離れた2つのシス作用性配列から構成される。
【0072】
FRは、30bpリピートの21の不完全なコピーから構成され、20の高親和性EBNA−1結合部位を含有する。FRにEBNA−1が結合すると、FRは、共に、10kbも離れたシスのプロモーターの転写エンハンサーとして働き(ReismanおよびSugden、1986年;Yates、1988年;SugdenおよびWarren、1989年;WysokenskiおよびYates、1989年;GahnおよびSugden、1995年;KennedyおよびSugden、2003年;Altmannら、2006年)、FR含有プラスミドの核内係留および正確な維持に寄与する(Langle−Rouaultら、1998年;KirchmaierおよびSugden、1995年;Wangら、2006年;NanboおよびSugden、2007年)。oriPプラスミドの効率的な分配もまた、おそらくFRに起因する。ウイルスは、FRにおける20のEBNA−1結合部位を維持するように進化してきたが、効率的なプラスミド維持は、これらの部位の7つのみを必要とし、合計12のEBNA−1−結合部位を有する、DSの3つのコピーのポリマーによって再構成することができる(WysokenskiおよびYates、1989年)。
【0073】
dyad symmetryエレメント(DS)は、EBNA−1の存在下におけるDNA合成の開始に十分であり(Aiyarら、1998年;Yatesら、2000年)、開始は、DSでまたはその近くで起こる(GahnおよびSchildkraut、1989年;Nillerら、1995年)。2Dゲル電気泳動によって観察されるように、FRにEBNA−1が結合すると、FRが複製フォークバリアとして機能するので、ウイルスDNA合成の停止は、FRで起こると考えられる(GahnおよびSchildkraut、1989年;Ermakovaら、1996年;Wangら、2006年)。DSからのDNA合成の開始は、細胞周期当たり1回まで許可され(Adams、1987年;YatesおよびGuan、1991年)、細胞複製系の構成成分によって調節される(Chaudhuriら、2001年;Ritziら、2003年;Dharら、2001年;Schepersら、2001年;Zhouら、2005年;Julienら、2004年)。FRにおいて見つけられるものよりも低い親和性を有するにもかかわらず、DSは、4つのEBNA−1結合部位を含有する(Reismanら、1985年)。DSのトポロジーは、4つの結合部位が2対の部位として配置され、それぞれの対の間に21bpの中心間距離および2つの非対内部結合部位の間に33bpの中心間距離を有するようなものである(Baerら、1984年;Rawlinsら、1985年)。
【0074】
DS内のエレメントの機能的な役割は、Rep*と称されるEBVのゲノムの他の領域に関する研究によって確認されており、DSと非効率的に置換することができるエレメントとして同定された(KirchmaierおよびSugden、1998年)。Rep*を8回重合することにより、複製のその支持においてDSと同じくらい効率的なエレメントがもたらされた(Wangら、2006年)。Rep*の生化学的な分析により、その複製の機能にとって決定的な21bpの中心間距離を有する1対のEBNA−1結合部位が同定された(同書)。ポリマー中のすべてのフランキング配列がラムダファージに由来する配列と交換された後でさえ、複製機能が保持されたので、Rep*の最小限のレプリケーターは、対のEBNA−1結合部位であることが分かった。DSおよびRep*の比較は、共通のメカニズムを明らかにした:これらのレプリケーターは、EBNA−1によって曲げられ、EBNA−1が結合した1対の適切に間隔を置かれた部位を介して、細胞複製機構を動員することによってDNA合成の開始を支持する。
【0075】
EBVに関係がない哺乳動物細胞において複製し、ある点で、EBVのRaji株内の開始のゾーンに類似するように思われる他の染色体外の許可されたプラスミドがある。Hans Lippsおよび彼の同僚は、「核骨格/マトリックス付着領域」(S/MAR)および強い転写ユニットを含有するプラスミドを開発し、研究した(Piechaczekら、1999年;Jenkeら、2004年)。それらのS/MARは、ヒトインターフェロン−ベータ遺伝子に由来し、A/Tリッチであり、それが核マトリックスに随伴することおよび低イオン強度においてまたはスーパーコイルDNAに埋め込まれた場合にそれが優先的に巻き戻されることによって操作的に定義された(Bodeら、1992年)。これらのプラスミドは、半保存的に複製し、ORCタンパク質に結合し、それらのDNAの全体にわたってDNA合成の開始を有効にランダムに支持する(Schaarschmidtら、2004年)。これらのプラスミドは、薬剤選択を伴うことなく、増殖するハムスターおよびヒト細胞において効率的に維持され、ブタ胚の中に導入された場合、胎児動物のほとんどの組織においてGFPの発現を支持することができる(Manziniら、2006年)。
【0076】
C.トランス作用因子
トランス作用因子の特定の例は、エプスタイン−バー核抗原1(EBNA−1)とすることができ、これは、それぞれの細胞分裂の間に、細胞染色体と無関係であるが、それと協力する複製および娘細胞へのEBVベースのベクターの正確な分配を促進するために、oriPのFRおよびDSまたはRep*に結合するDNA結合タンパク質である。
【0077】
EBNA−1の641のアミノ酸(AA)は、変異および欠失分析によって、その様々な機能と関連するドメインに分類された。AA40−89およびAA329−378の間の2つの領域は、EBNA−1が結合した場合にシスまたはトランスで2つのDNAエレメントを連結することができ、したがって、連結領域1および2(LR1、LR2)と称された(MiddletonおよびSugden、1992年;FrappierおよびO’Donnell、1991年;Suら、1991年;Mackeyら、1995年)。GFPへのEBNA−1のこれらのドメインの融合は、有系分裂染色体にGFPを向かわせる(Marechalら、1999年;Kandaら、2001年)。LR1およびLR2は、複製にとって機能的に余分であり、どちらか1つの欠失は、DNA複製を支持することができるEBNA−1の誘導体をもたらす(MackeyおよびSugden、1999年;Searsら、2004年)。LR1およびLR2は、アルギニンおよびグリシン残基が豊富であり、A/TリッチDNAに結合するATフックモチーフに似ている(AravindおよびLandsman、1998年)、(Searsら、2004年)。EBNA−1のLR1およびLR2のin vitroにおける分析は、A/TリッチDNAに結合するそれらの能力を実証した(Searsら、2004年)。1つのそのようなATフックを含有するLR1がEBNA−1のDNA結合ドメインおよび二量体化ドメインに融合された場合、野生型EBNA−1ほど効率的ではないにもかかわらず、oriPプラスミドのDNA複製に十分であることが分かった(同書)。
【0078】
しかしながら、LR1およびLR2は、異なる。LR1のC末端半分は、N末端半分の繰り返しArg−Gly以外のアミノ酸から構成され、特有の領域1(UR1)と称される。UR1は、EBNA−1が、FRを含有する、トランスフェクトされ、組み込まれたレポーターDNAから効率的に転写を活性化するのに必要である(Wuら、2002年;KennedyおよびSugden、2003年;Altmannら、2006年)。UR1はまた、EBVが感染したB細胞の効率的な形質転換にとって不可欠である。このドメインを欠くEBNA−1の誘導体が、ウイルス全体と関連して野生型タンパク質に取って代わる場合、これらの誘導体ウイルスは、野生型ウイルスの形質転換能力の0.1%を有する(Altmannら、2006年)。
【0079】
LR2は、oriP複製のEBNA−1の支持に必要とされない(Shireら、1999年;MackeyおよびSugden、1999年;Searsら、2004年)。さらに、EBNA−1のN末端半分は、HMGA1aなどのようなATフックモチーフを含有する細胞タンパク質と交換することができ、なお複製機能を保持することができる(Hungら、2001年;Searsら、2003年;Altmannら、2006年)。これらの発見は、ヒト細胞においてoriPの維持に必要とされるのは、おそらく、LR1およびLR2のATフック活性であることを示す。
【0080】
第3のEBNA−1の残基(AA91−328)は、プロテオソーム分解および提示を阻害することによって宿主免疫応答を回避するEBNA−1の能力に関係するグリシン−グリシン−アラニン(GGA)リピートから成る(Levitskayaら、1995年;Levitskayaら、1997年)。これらのリピートはまた、in vitroおよびin vivoにおいてEBNA−1の翻訳を阻害することが分かっている(Yinら、2003年)。しかしながら、このドメインの多くの欠失は、細胞培養におけるEBNA−1の機能に対して明らかな効果を有しておらず、このドメインが果たす役割を解明するのを困難にしている。
【0081】
核移行シグナル(NLS)は、AA379−386によってコードされ、これはまた、細胞核輸入機構と関連する(Kimら、1997年;Fischerら、1997年)。LR1およびLR2のArg−Glyリッチ領域内の配列はまた、それらの高度に塩基性の含有率によりNLSとして機能し得る。
【0082】
最後に、C末端(AA458−607)は、EBNA−1の部分的に重なるDNA結合ドメインおよび二量体化ドメインをコードする。DNAに結合したこれらのドメインの構造は、X線結晶解析によって解明されており、パピローマウイルスのE2タンパク質のDNA結合ドメインに類似することが分かった(Hegdeら、1992年;Kimら、2000年;Bochkarevら、1996年)。
【0083】
本発明の特定の実施形態では、リプログラミングベクターは、oriPおよび細胞分裂の間のプラスミド複製およびその適切な維持を支持する能力がある一種のEBNA−1をコードする短縮配列の両方を含有するであろう。アミノ末端の3分の1の野生型EBNA−1内の高頻度反復配列および様々な細胞において毒性を示した25アミノ酸領域の除去は、oriPと関連するEBNA−1のトランス作用性機能にとって不要である(Yatesら 1985年;Kennedyら 2003年)。そのため、一実施形態では、このエピソームベクターベースの系内のoriPと一緒に、deltaUR1として公知のEBNA−1の短縮形態を使用することができる。
【0084】
ある態様では、本発明において使用されてもよいEBNA−1の誘導体は、対応する野生型ポリペプチドと比較して、改変されたアミノ酸配列を有するポリペプチドである。結果として生じる誘導体が所望の特性を有する限り、たとえば、oriPに対応するoriを含有するDNAを二量体化させ、結合し、核に局所化し、細胞毒性ではなく、染色体外からの転写を活性化するが、組み込まれた鋳型からの転写を実質的に活性化しない限り、改変は、EBNA−1におけるLR1(残基約40〜約89)の特有の領域(残基約65〜約89)に対応する領域において少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、挿入、または置換を含み、EBNA−1の他の残基に対応する領域、たとえば、約残基1〜約残基40、残基約90〜約328(「Gly−Gly−Ala」リピート領域)、残基約329〜約377(LR2)、残基約379〜約386(NLS)、残基約451〜約608(DNA結合および二量体化)、または残基約609〜約641において1つ以上のアミノ酸残基の欠失および挿入および/または置換を含んでいてもよい。
【0085】
D.残留物なしの特徴
重要なことには、oriPベースのエピソームベクターの複製および維持は、不完全であり、それが細胞の中に導入される最初の2週間以内に細胞から急に(細胞分裂当たり25%)失われるが、プラスミドを保持する細胞は、それをそれほど頻繁に失わない(細胞分裂当たり3%)(LeightおよびSugden、2001年;NanboおよびSugden、2007年)。一度、プラスミドを持つ細胞についての選択を除いたら、プラスミドは、結果として生じる娘細胞内にその前者の存在のフットプリントを残すことなく、それらがすべてある期間にわたって排除されるまで、それぞれの細胞分裂の間に失われるであろう。本発明のある態様は、iPS細胞を生成するための遺伝子を送達するための現在のウイルス関連アプローチに対する代わりとして、oriPベースの系のこのフットプリントレスの特徴を使用する。他の染色体外ベクターもまた、宿主細胞の複製および増殖の間に失われるであろうし、これらもまた、本発明において利用することができる。
【0086】
E.リプログラミング因子
iPS細胞の生成では、誘導に使用される遺伝子が決定的である。以下の因子またはその組合せは、本発明において開示されるベクター系において使用することができる。ある態様では、SoxおよびOct(好ましくはOct3/4)をコードする核酸は、リプログラミングベクターの中に含まれるであろう。たとえば、リプログラミングベクターは、Sox2、Oct4、Nanog、および任意選択でLin−28をコードする発現カセットまたはSox2、Oct4、Klf4、および任意選択でc−mycをコードする発現カセットを含んでいてもよい。これらのリプログラミング因子をコードする核酸は、同じ発現カセット、異なる発現カセット、同じリプログラミングベクター、または異なるリプログラミングベクターにおいて含まれてもよい。
【0087】
Oct−3/4ならびにSox遺伝子ファミリーのある種のメンバー(Sox1、Sox2、Sox3、およびSox15)が、不在だと誘導を不可能にする、誘導プロセスに関与する決定的な転写調節因子として同定された。しかしながら、Klfファミリー(Klf1、Klf2、Klf4、およびKlf5)、Mycファミリー(C−myc、L−myc、およびN−myc)、Nanog、ならびにLIN28のある種のメンバーを含むさらなる遺伝子が、誘導効率を増加させると同定された。
【0088】
Oct−3/4(Pou5f1)は、八量体(「Oct」)転写因子のファミリーの1つであり、多能性を維持する際に決定的な役割を果たす。割球および胚性幹細胞などのようなOct−3/4+細胞におけるOct−3/4の不在により、自発的な栄養膜分化が導かれ、したがって、Oct−3/4の存在により、胚性幹細胞の多能性および分化潜在能力が生じる。Oct−3/4の類縁体、Oct1およびOct6を含む「Oct」ファミリーにおける様々な他の遺伝子は、誘導を誘発しない。
【0089】
遺伝子のSoxファミリーは、Oct−3/4に類似して、多能性の維持と関連するが、それは、多能性幹細胞において排他的に発現されるOct−3/4とは対照的に多分化能(multipotent)および単能性幹細胞と関連する。Sox2は、Takahashiら(2006年)、Wernigら(2007年)、およびYuら(2007年)によって誘導に使用された初めの遺伝子であったが、Soxファミリーにおける他の遺伝子は、誘導プロセスにおいて同様に作用することが分かった。Sox1は、Sox2と類似する効率によりiPS細胞をもたらし、効率は減少するが、遺伝子Sox3、Sox15、およびSox18もまた、iPS細胞を生成する。
【0090】
Nanogは、未分化胚性幹細胞の自己再生と決定的に関連する転写因子である。ヒトでは、このタンパク質は、NANOG遺伝子によってコードされる。Nanogは、胚性幹細胞(ESC)において発現される遺伝子であり、多能性を維持する重要な因子であると考えられる。NANOGは、ESCの独自性を樹立するためにOct4(POU5F1)およびSox2などのような他の因子と協力して機能すると考えられる。
【0091】
LIN28は、分化および増殖と関連する、胚性幹細胞および胚性癌腫細胞において発現されるmRNA結合タンパク質である。Yuら(2007年)は、LIN28が、不可欠ではないが、iPS生成における因子であることを実証した。
【0092】
遺伝子のKlfファミリーのKlf4は、最初に、Takahashiら(2006年)によって同定され、マウスiPS細胞の生成のための因子としてWernigら(2007年)によって確認され、Takahashiら(2007年)によってヒトiPS細胞の生成のための因子として示された。しかしながら、Yuら(2007年)は、Klf4が、ヒトiPS細胞の生成にとって不可欠ではないことを報告した。Klf2およびKlf4は、iPS細胞を生成することができる因子であると分かり、効率は低下するが、関係する遺伝子Klf1およびKlf5も同様であった。
【0093】
遺伝子のMycファミリーは、癌に関係する癌原遺伝子である。Takahashiら(2006年)およびWernigら(2007年)は、c−mycが、マウスiPS細胞の生成に関係する因子であることを実証し、Yamanakaらは、それが、ヒトiPS細胞の生成に関係する因子であることを実証した。しかしながら、Yuら(2007年)およびTakahashiら(2007年)は、c−mycが、ヒトiPS細胞の生成にとって不必要であることを報告した。c−myc誘導iPS細胞を移植したマウスの25%が、致死的な奇形腫を発症したので、iPS細胞の誘導における遺伝子の「myc」ファミリーの使用は、臨床上の療法として、iPS細胞の不測の事態のために問題がある。N−mycおよびL−mycは、同様の効率により、c−mycの代わりに多能性を誘導することが同定された。ある態様では、細胞の形質転換が低下している変異体などのようなMyc変異体、バリアント、ホモログ、または誘導体が、使用されてもよい。例として、LMYC(NM_001033081)、N末端の41アミノ酸が欠失したMYC(dN2MYC)、またはアミノ酸位置136に変異を有するMYC(たとえばW136E)を含む。
【0094】
V.細胞シグナル伝達阻害剤
本発明のある態様では、リプログラミングプロセスの少なくとも一部の間に、細胞は、シグナル伝達カスケードに関与するシグナルトランスデューサーを阻害する1つ以上のシグナル伝達阻害剤の存在下において、たとえば、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、MEK阻害剤およびGSK3阻害剤の両方、GSK3阻害剤およびTGF−β受容体阻害剤の両方、MEK阻害剤およびTGF−β受容体阻害剤の両方、3つの阻害剤すべての組合せ、または、これらの同じ経路内の他のシグナルトランスデューサーの阻害剤の存在において維持されてもよい。ある態様では、HA−100などのようなROCK阻害剤またはブレビスタチンなどのようなミオシンII阻害剤は、リプログラミングされた細胞および結果として生じるiPS細胞のクローン増殖を促進するために使用されてもよい。馴化ヒトES細胞培養培地などのような特定のリプログラミング培地または無血清限定N2B27培地(serum−free defined N2B27 medium)などのような既知組成培地(chemically defined medium)と組み合わせた高濃度のFGFもまた、リプログラミング効率を増加させるために使用されてもよい。
【0095】
ある実施形態では、染色体外遺伝エレメントによって、1つ以上のリプログラミング因子(たとえば本明細書において記載される2つまたは3つ以上の)で細胞に形質導入することに加えて、細胞は、MEK阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、GSK3阻害剤、および任意選択でLIFを含むリプログラミング培地を用いて処理され、それにより、リプログラミング効率および反応速度を改善し、初代リプログラミング培養におけるiPS細胞の同定を促進し、したがってiPS細胞クローン性を保つような利点が伴う。
【0096】
これらの態様および実施形態では、同じシグナル伝達経路(たとえばERK1またはERK2カスケード)のシグナル伝達構成成分を阻害する他のシグナル伝達阻害剤が、望まれる場合、MEK阻害剤と置換されてもよいことが理解されるであろう。これは、FGF受容体を通してのMAPK経路の上流の刺激の阻害を特に含んでいてもよい(Ying、2008年)。同様に、GSK3阻害剤は、望まれる場合、インスリン合成およびWnt/β−カテニンシグナル伝達などのようなGSK3関連シグナル伝達経路の他の阻害剤と置換されてもよく、LIFは、望まれる場合、Stat3またはgp130シグナル伝達の他の活性化因子と置換されてもよい。
【0097】
そのようなシグナル伝達阻害剤、たとえばMEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF−β受容体阻害剤は、少なくとももしくは約0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、100、150、200、500〜約1000μMまたはその中で推論できる任意の範囲の有効濃度で使用されてもよい。
【0098】
阻害剤は、従来の手段によって当業者らによってまたは従来の供給源から提供されてもよいまたは得られてもよい(WO2007113505もまた参照されたい)。
【0099】
A.グリコーゲン合成酵素キナーゼ3阻害剤
グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK−3)は、特定の細胞基質におけるあるセリンおよびトレオニンアミノ酸上へのリン酸分子の追加を媒介するセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。GSK−3によるこれらの他のタンパク質のリン酸化は、普通、標的タンパク質(「基質」とも呼ばれる)を阻害する。述べられるように、GSK−3は、グリコーゲン合成酵素をリン酸化し、したがって不活性化することが公知である。それはまた、損傷DNAおよびWntシグナル伝達に対する細胞の応答のコントロールに関係する。GSK−3はまた、Hedgehog(Hh)経路においてCiをもリン酸化し、タンパク質分解のためにそれを不活性形態に向ける。グリコーゲン合成酵素に加えて、GSK−3は、他の多くの基質を有する。しかしながら、GSK−3は、それが、普通、基質を最初にリン酸化するために「プライミングキナーゼ」を必要とするという点で、キナーゼの中で珍しい。
【0100】
GSK−3リン酸化の結果は、普通、基質の阻害である。たとえば、GSK−3が、もう1つのその基質、転写因子のNFATファミリーをリン酸化する場合、これらの転写因子は、核に移行することができず、そのため、阻害される。発生の間の組織パターンニングを確立するのに必要とされるWntシグナル伝達経路におけるその重要な役割に加えて、GSK−3はまた、骨格筋肥大などのような設定において誘導されるタンパク質合成にとっても決定的である。NFATキナーゼとしてのその役割もまた、それを、分化および細胞増殖の両方の重要な調節因子にする。
【0101】
GSK3阻害は、1つ以上のGSK3酵素の阻害を指してもよい。GSK3酵素のファミリーは、周知であり、多くのバリアントが記載されている(たとえばSchafferら、2003を参照されたい)。特定の実施形態では、GSK3−βが、阻害される。GSK3−α阻害剤もまた、適しており、ある態様では、本発明で使用される阻害剤は、GSK3−αおよびGSK3−βの両方を阻害する。
【0102】
GSK3の阻害剤は、GSK3に結合する抗体、GSK3のドミナントネガティブバリアント、ならびにGSK3を標的とするsiRNAおよびアンチセンス核酸を含むことができる。GSK3阻害剤の例は、Bennettら(2002年)およびRingら(2003年)において記載される。
【0103】
GSK3阻害剤の特定の例は、Kenpaullone、l−Azakenpaullone、CHIR99021、CHIR98014、AR−A014418(たとえばGouldら、2004年を参照されたい)、CT 99021(たとえばWagman、2004年を参照されたい)、CT 20026(Wagman、前掲を参照されたい)、SB415286、SB216763(たとえばMartinら、2005年を参照されたい)、AR−A014418(たとえばNobleら、2005年を参照されたい)、lithium(たとえばGouldら、2003年を参照されたい)、SB 415286(たとえばFrameら、2001年を参照されたい)、およびTDZD−8(たとえばChinら、2005年を参照されたい)を含むが、これらに限定されない。Calbiochemから入手可能な、さらなる例示的なGSK3阻害剤は(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるDaltonら、WO2008/094597を参照されたい)、BIO(2’Z,3’£)−6−ブロモムジルブム−3’−オキシム(GSK3阻害剤IX);BIO−アセトキシム(2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−アセトキシム(GSK3阻害剤X);(5−メチル−lH−ピラゾール−3−イル)−(2−フェニルキナゾリン−4−イル)アミン(GSK3阻害剤XIII);ピリドカルバゾール−シクロペンタジエニルルテニウム複合体(GSK3阻害剤XV);TDZD−8 4−ベンジル−2−メチル−l,2,4−チアジアゾリジン−3,5−ジオン(GSK3ベータ阻害剤I);2−チオ(3−ヨードベンジル)−5−(l−ピリジル)−[l,3,4]−オキサジアゾール(GSK3ベータ阻害剤II);OTDZT 2,4−ジベンジル−5−オキソチアジアゾリジン−3−チオン(GSK3ベータ阻害剤III);アルファ−4−ジブロモアセトフェノン(GSK3ベータ阻害剤VII);AR−AO 14418 N−(4−メトキシベンジル)−N’−(5−ニトロ−l,3−チアゾール−2−イル)尿素(GSK−3ベータ阻害剤VIII);3−(l−(3−ヒドロキシプロピル)−lH−ピロロ[2,3−b]ピリジン−3−イル]−4−ピラジン−2−イル−ピロール−2,5−ジオン(GSK−3ベータ阻害剤XI);TWSl 19ピロロピリミジン化合物(GSK3ベータ阻害剤XII);L803 H−KEAPP APPQSpP−NH2またはそのミリストイル化形態(GSK3ベータ阻害剤XIII);2−クロロ−l−(4,5−ジブロモ−チオフェン−2−イル)−エタノン(GSK3ベータ阻害剤VI);AR−AO144−18;SB216763;およびSB415286を含むが、これらに限定されない。
【0104】
GSK3阻害剤は、たとえば、Wnt/β−カテニン経路を活性化することができる。多くのβ−カテニン下流遺伝子は、多能性遺伝子ネットワークを同時制御する。たとえば、GSK阻害剤は、cMyc発現を活性化し、そのタンパク質安定性および転写活性を増強する。したがって、いくつかの実施形態では、GSK3阻害剤は、細胞における内因性のMycポリペプチド発現を刺激するために使用され、それによって、Myc発現が多能性を誘導する必要性を排除することができる。
【0105】
さらにGSK3−βの活性部位の構造は、特徴付けられており、特異的および非特異的な阻害剤と相互作用する重要な残基が同定されている(Bertrandら、2003年)。この構造の特徴付けは、さらなるGSK阻害剤が容易に同定されるのを可能にする。
【0106】
本明細書において使用される阻害剤は、好ましくは、キナーゼを標的とすることに特異的である。ある実施形態の阻害剤は、GSK3−βおよびGSK3−αに特異的であり、erk2を実質的に阻害せず、cdc2を実質的に阻害しない。好ましくは、阻害剤は、マウスerk2および/またはヒトcdc2を超えて、ヒトGSK3に対して、IC50値の比として測定される、少なくとも100倍、より好ましくは少なくとも200倍、好ましくは少なくとも400倍の選択性を有し、GSK3 IC50値への言及は、ヒトGSK3−βおよびGSK3−αについての平均値を指す。好適な結果が、GSK3に特異的なCHIR99021により得られた。CHIR99021の使用に適した濃度は、0.01〜100、好ましくは0.1〜20、より好ましくは0.3〜10マイクロモルの範囲である。
【0107】
B.MEK阻害剤
マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPK/ERKキナーゼもしくはMEK)またはMAPKカスケードのようなその関係するシグナル伝達経路の阻害剤を含むMEK阻害剤が、本発明のある態様において使用されてもよい。マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(sic)は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼをリン酸化するキナーゼ酵素である。マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼはまた、MAP2Kとしても知られている。細胞外刺激は、MAPキナーゼ、MAPキナーゼキナーゼ(MEK、MKK、MEKK、またはMAP2K)、およびMAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MKKKまたはMAP3K)から構成されるシグナル伝達カスケード(「MAPKカスケード」)を介してMAPキナーゼの活性化を導く。
【0108】
本明細書におけるMEK阻害剤は、一般のMEK阻害剤を指す。したがって、MEK阻害剤は、MEK1、MEK2、およびMEK5を含むプロテインキナーゼのMEKファミリーのメンバーの任意の阻害剤を指す。MEK1、MEK2、およびMEK5阻害剤もまた、言及される。当技術分野において既に公知の適したMEK阻害剤は、MEK1阻害剤PD184352およびPD98059、MEK1およびMEK2の阻害剤U0126およびSL327、ならびにDaviesら(2000年)において議論されるものを含む。
【0109】
特に、PD184352およびPD0325901は、他の公知のMEK阻害剤と比較した場合、高度の特異性および潜在能を有することが分かった(Bainら、2007年)。他のMEK阻害剤およびMEK阻害剤のクラスは、Zhangら(2000年)において記載される。
【0110】
MEKの阻害剤は、MEKに対する抗体、そのドミナントネガティブバリアント、ならびにその発現を抑制するsiRNAおよびアンチセンス核酸を含むことができる。MEK阻害剤の特定の例は、PD0325901(たとえばRinehartら、2004年を参照されたい)、PD98059(たとえばCell Signaling Technologyから入手可能)、U0126(たとえばCell Signaling Technologyから入手可能)、SL327(たとえばSigma−Aldrichから入手可能)、ARRY−162(たとえばArray Biopharmaから入手可能)、PD184161(たとえばKleinら、2006を参照されたい)、PD184352(CI−1040)(たとえばMattinglyら、2006年を参照されたい)、スニチニブ(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるVossら、US2008004287を参照されたい)、ソラフェニブ(Voss 前掲を参照されたい)、バンデタニブ(Voss 前掲を参照されたい)、パゾパニブ(たとえばVoss 前掲を参照されたい)、アキシチニブ(Voss 前掲を参照されたい)、およびPTK787(Voss 前掲を参照されたい)を含むが、これらに限定されない。
【0111】
現在、いくつかのMEK阻害剤は、臨床試験の評価を受けている。CI−1040は、癌のためのフェーズIおよびIIの臨床試験において評価された(たとえばRinehartら、2004年を参照されたい)。臨床試験において評価されている他のMEK阻害剤は、PD 184352(たとえばEnglishら、2002年を参照されたい)、BAY 43−9006(たとえばChowら、2001年を参照されたい)、PD−325901(さらにPD0325901)、GSKl 120212、ARRY−438162、RDEAl 19、AZD6244(さらにARRY−142886またはARRY−886)、RO5126766、XL518、およびAZD8330(さらにARRY−704)を含む。
【0112】
MEKの阻害はまた、RNA干渉(RNAi)を使用して好都合に達成することもできる。典型的に、MEK遺伝子のすべてまたは一部に相補的な二重鎖RNA分子は、多能性細胞の中に導入され、したがって、MEKコードmRNA分子の特異的な分解を促進する。この転写後メカニズムは、標的MEK遺伝子の発現の低下または消失をもたらす。RNAiを使用してMEK阻害を達成するための適した技術およびプロトコールは、公知である。
【0113】
GSK3阻害剤およびMEK阻害剤を含むキナーゼ阻害剤を同定するための多くのアッセイが、公知である。たとえば、Daviesら(2000年)は、キナーゼが、ペプチド基質および放射標識ATPの存在下においてインキュベートされるキナーゼアッセイを記載する。キナーゼによる基質のリン酸化は、基質への標識の組み込みをもたらす。それぞれの反応の一定分量は、ホスホセルロース紙上に固定され、遊離ATPを除去するためにリン酸中で洗浄される。次いで、インキュベーション後の基質の活性は、測定され、キナーゼ活性の指標を提供する。候補キナーゼ阻害剤の存在下および非存在下における相対的なキナーゼ活性は、そのようなアッセイを使用して容易に決定することができる。Downeyら(1996年)はまた、キナーゼ阻害剤を同定するために使用することができるキナーゼ活性のためのアッセイを記載する。
【0114】
C.TGF−β受容体阻害剤
TGF−β受容体阻害剤は、一般に、TGFシグナル伝達の任意の阻害剤またはTGF−β受容体(たとえばALK5)阻害剤に特異的な阻害剤を含んでいてもよく、これらは、TGFベータ受容体(たとえばALK5)に対する抗体、そのドミナントネガティブバリアント、ならびにその発現を抑制するsiRNAおよびアンチセンス核酸を含むことができる。例示的なTGFβ受容体/ALK5阻害剤は、SB431542(たとえばInmanら、2002年を参照されたい)、3−(6−メチル−2−ピリジニル)−N−フェニル−4−(4−キノリニル)−lH−ピラゾール−1−カルボチオアミドとしても公知であるA−83−01、(たとえばTojoら、2005年を参照されたい、たとえばToicris Bioscienceから市販で入手可能である);2−(3−(6−メチルピリジン−2−イル)−lH−ピラゾール−4−イル)−l,5−ナフチリジン、Wnt3a/BIO(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるDaltonら、WO2008/094597を参照されたい)、BMP4(Dalton、前掲を参照されたい)、GW788388(−(4−[3−(ピリジン−2−イル)−lH−ピラゾール−4−イル]ピリドム−2−イル}−N−(テトラヒドロ−2H−ピラン−4−イル)ベンズアミド)(たとえばGellibertら、2006年を参照されたい)、SM16(たとえばSuzukiら、2007を参照されたい)、IN−1130(3−((5−(6−メチルピリジン−2−イル)−4−(キノキサリン−6−イル)−lH−イミダゾール−2−イル)メチル)ベンズアミド)(たとえばKimら、2008年を参照されたい)、GW6604(2−フェニル−4−(3−ピリジン−2−イル−lH−ピラゾール−4−イル)ピリジン)(たとえばde Gouvilleら、2006年を参照されたい)、SB−505124(2−(5−ベンゾ[l,3]ジオキソール−5−イル−2−tert−ブチル−3H−イミダゾール−4−イル)−6−メチルピリジンハイドロクロライド)(たとえばDaCostaら、2004年を参照されたい)、およびピリミジン誘導体(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるStieflら、WO2008/006583において列挙されるものを参照されたい)を含むが、これらに限定されない。
【0115】
さらに、「ALK5阻害剤」は、非特異的キナーゼ阻害剤を包含するようには意図されないが、「ALK5阻害剤」は、たとえばSB−431542などのような、ALK5に加えてALK4および/またはALK7を阻害する阻害剤を包含することを理解されたい(たとえばInmanら、2002年を参照されたい)。本発明の範囲を限定することを意図するものではないが、ALK5阻害剤は、間葉系から上皮への転換/移行(MET)プロセスに影響を与えると考えられる。TGFβ/アクチビン経路は、上皮から間葉系への移行(EMT)のための駆動体である。発明者は、TGFβ/アクチビン経路の阻害が、MET(つまりリプログラミング)プロセスを促進することができることを企図する。
【0116】
TGFβ/アクチビン経路の阻害は,同様の効果を有するであろうということが考えられる。したがって、TGFβ/アクチビン経路の任意の阻害剤(たとえば上流または下流の)を、本明細書において記載されるTGF−β/ALK5阻害剤と組み合わせてまたはその代わりに使用することができる。例示的なTGFβ/アクチビン経路阻害剤は、TGFベータ受容体阻害剤、SMAD 2/3リン酸化の阻害剤、SMAD 2/3およびSMAD 4の相互作用の阻害剤、ならびにSMAD 6およびSMAD 7の活性化因子/アゴニストを含むが、これらに限定されない。さらに、本明細書において記載される分類は、単に構成上の目的のためのものであり、当業者は、化合物が経路内の1つ以上の段階に影響を与えることができることを知っているであろう、また、したがって、化合物は、1つを超える定義されたカテゴリーにおいて機能してもよい。
【0117】
TGFベータ受容体阻害剤は、TGFベータ受容体に対する抗体、そのドミナントネガティブバリアント、およびそれを標的とするsiRNAまたはアンチセンス核酸を含むことができる。阻害剤の特定の例は、SU5416;(2−(5−ベンゾ[l,3]ジオキソール−5−イル−2−tert−ブチル−3H−イミダゾール−4−イル)−6−メチルピリジンハイドロクロライド(SB−505124);lerdelimumb(CAT−152);metelimumab(CAT−192);GC−1008;IDl 1;AP−12009;AP−11014;LY550410;LY580276;LY364947;LY2109761;SB−505124;SB−431542;SD−208;SM16;NPC−30345;Ki26894;SB−203580;SD−093;Gleevec;3,5,7,2’,4’−ペンタヒドロキシフラボン(pentahydroxyfiavone)(Morin);アクチビン−M108A;P144;可溶性TBR2−Fc;およびTGFベータ受容体を標的とするアンチセンストランスフェクト腫瘍細胞(たとえばWrzesinskiら、2007年;Kaminskaら、2005年;およびChangら、2007年を参照されたい)を含むが、これらに限定されない。
【0118】
D.ROCK阻害剤およびミオシンII ATPアーゼ阻害剤
多能性幹細胞、特にヒトES細胞およびiPS細胞は、細胞の脱離および解離に際してアポトーシスを受けやすく、細胞の脱離および解離は、クローンの単離または増殖および分化誘導にとって重要である。最近、ROCK関連シグナル伝達経路のための阻害剤であるRho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤、たとえばRho特異的阻害剤、ROCK特異的阻害剤、またはミオシンII特異的阻害剤などのような小さなクラスの分子は、解離した多能性幹細胞のクローンの効率および生存を増加させることが分かった。本発明のある態様では、ROCK阻害剤は、多能性幹細胞の培養および継代そして/または幹細胞の分化のために使用されてもよい。そのため、ROCK阻害剤は、接着培養液または浮遊培養液などのような、多能性幹細胞が成長する、解離する、凝集物を形成する、または分化を受ける任意の細胞培養培地中に存在することができる。本明細書においてその他に述べられない限り、ブレビスタチンなどのようなミオシンII阻害剤は、ROCK阻害剤の実験的な使用のために代用することができる。
【0119】
ROCKシグナル伝達経路は、RhoファミリーGTPアーゼ;Rhoの下流の主要なエフェクターキナーゼであるROCK;ROCKの下流の主なエフェクターであるミオシンII(Harbら、2008年);および任意の中間、上流、または下流のシグナルプロセッサーを含んでいてもよい。ROCKは、ミオシン制御軽鎖(MRLC)の脱リン酸化を通してミオシン機能を負に調節するROCKの主な下流の標的の1つであるミオシンホスファターゼ標的サブユニット1(MYPT1)をリン酸化し、不活性化し得る。
【0120】
ROCKは、Rhoについての標的タンパク質として果たすセリン/トレオニンキナーゼである(この3つのアイソフォームが存在する−−RhoA、RhoB、およびRhoC)。これらのキナーゼは、RhoA誘導性のストレスファイバーの形成および局所的な接着の媒介物質として最初に特徴付けられた。2つのROCKアイソフォーム−ROCK1(ROKβとも呼ばれるp160ROCK)およびROCK2(ROKα)−は、Rho結合ドメインを含有するコイルドコイルドメインが後続するN末端キナーゼドメインおよびプレクストリン相同ドメイン(PH)から構成される。両方のROCKは、細胞骨格調節因子であり、ストレスファイバー形成、平滑筋収縮、細胞接着、膜ラフリング、および細胞運動性に対するRhoAの効果を媒介する。ROCKは、ミオシンII、ミオシン軽鎖(MLC)、MLCホスファターゼ(MLCP)、およびホスファターゼテンシンホモログ(PTEN)などのような下流の分子を標的とすることによって、それらの生物学的活性を働かせてもよい。
【0121】
ROCK阻害剤の非限定的な例は、HA−100、Y−27632、H−1152、ファスジル(HA1077とも呼ばれる)、Y−30141(米国特許第5,478,838号において記載される)、Wf−536、HA−1077、ヒドロキシル−HA−1077、GSK269962A、SB−772077−B、およびその誘導体、ならびにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉を誘導する核酸(たとえばsiRNA)、競合性ペプチド、アンタゴニストペプチド、阻害性抗体、抗体−ScFV断片、ドミナントネガティブバリアント、およびその発現ベクターを含む。さらに、他の低分子化合物がROCK阻害剤として公知であるので、そのような化合物またはその誘導体もまた、実施形態において使用することができる(たとえば、参照によってこれによって組み込まれる米国特許出願公開第20050209261号、第20050192304号、第20040014755号、第20040002508号、第20040002507号、第20030125344号、および第20030087919号ならびに国際特許出願公開第2003/062227号、第2003/059913号、第2003/062225号、第2002/076976号、および第2004/039796号を参照されたい)。本発明のある態様では、1つまたは2つ以上のROCK阻害剤の組合せもまた、使用することができる。
【0122】
Clostridium botulinum C3細胞外酵素などのようなRho特異的阻害剤および/またはミオシンII特異的阻害剤もまた、本発明のある態様においてROCK阻害剤として使用されてもよい。
【0123】
VI.リプログラミングされた細胞の培養
開始細胞および目的のリプログラミングされた細胞は、一般に、培養培地および培養条件について異なる必要条件を有する。細胞のリプログラミングが起こることをも可能にしながらこれを可能にするために、開始細胞の成長に適することが公知の培地の存在下においておよび培養条件下で、リプログラミング因子の導入後に、培養の少なくとも1つの初期段階を実行することは普通である。血清を有するフィーダー上での、リプログラミング培地の存在下におけるおよび多能性細胞に適することが公知の条件下でのまたは既知組成培地もしくはフィーダーフリーの条件を使用する培養の続く期間が、これに続く。適したフィーダーは、それらがリプログラミングされている細胞の成長を押しのけないように典型的に不活性化された初代または不死化線維芽細胞系を含む。リプログラミングのための十分な時間の後に、リプログラミングされた細胞は、増殖培地において、iPS細胞の選択の前またはその後に、iPS細胞の増殖のためにさらに培養されてもよい。そのような増殖培地は、上記に記載される1つ以上のシグナル伝達阻害剤を含むまたはこれらの阻害剤を本質的に含まない培養培地を含んでいてもよい。
【0124】
培養の初期段階は、好ましくは6日間までの、より好ましくは4日間までの、特に、下記に記載される実施形態では、3日間以下の、特に1日間までまたは約1日間の期間の間である。1つ以上のシグナル伝達阻害剤を含むリプログラミング培地における培養の続く段階は、適宜、少なくとももしくは約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33日間またはその中で推論できる任意の範囲の期間の間であり、70日間までの、好ましくは56日間まで、またはiPS細胞の検出までの期間の間とすることができる。リプログラミングヒト細胞を生成するために使用される下記に記載される特定の実施形態では、培養の初期段階は、約1日間の期間の間であり、続く段階は、MEK阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、およびGSK3阻害剤を含むリプログラミング培地の存在下におけるリプログラミング条件における培養による約9〜28日間の間とした。リプログラミング条件は、フィーダー細胞が本質的になくてもよい。さらなる態様では、リプログラミング培地は、既知組成培地であってもよい。リプログラミングを改善するために、リプログラミング培地は、高濃度のFGFをさらに含んでいてもよく、TGFβが本質的になくてもよい。
【0125】
MEK阻害剤、TGF−β受容体阻害剤、およびGSK3阻害剤の組合せは、リプログラミング効率の増加およびリプログラミング時間の短縮を含めて、リプログラミングプロセスを促進し得る。LIFは、gp130シグナル伝達の活性化因子の例であり、他は、可溶性IL−6受容体と結合するIL−6であり、細胞がリプログラミングされつつあるとき、細胞の成長および生存を促進する。リプログラミングの間に、細胞は、LIFの存在下において培養されてもよく、LIFの使用は、本発明のある態様においてリプログラミングされた細胞が細胞生存およびクローン形成能を改善するのを助けてもよい。
【0126】
A.一般の幹細胞培養条件
本発明による培養条件は、使用される培地および幹細胞に依存して、適切に決定されるであろう。本発明のある態様による培地は、TeSR、BME、BGJb、CMRL 1066、Glasgow MEM、Improved MEM Zinc Option、IMDM、Medium 199、Eagle MEM、αMEM、DMEM、Ham、RPMI 1640、およびFischerの培地ならびにその任意の組合せのいずれかなどのような、その基本培地として、動物細胞を培養するために使用される培地を使用して調製することができるが、培地は、動物細胞を培養するためにそれを使用することができる限り、その培地に特に限定されない。
【0127】
本発明による培地は、血清含有または無血清培地とすることができる。無血清培地は、未処理または未精製血清を有していない培地を指し、したがって、精製血液由来構成成分または動物組織由来構成成分(増殖因子など)を有する培地を含むことができる。異種性の動物由来構成成分による混入を予防する側面から、血清は、幹細胞(複数可)と同じ動物に由来することができる。
【0128】
本発明による培地は、血清に対する任意の代替物を含有していてもよいまたは含有していなくてもよい。血清に対する代替物は、アルブミンを適切に含有する物質(脂質が豊富なアルブミン、組換えアルブミンなどのようなアルブミン代用物、植物デンプン、デキストラン、およびタンパク加水分解物など)、トランスフェリン(または他の鉄輸送体)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオグリセロール(thiolgiycerol)、またはそれに対する等価物を含むことができる。たとえば、血清に対する代替物は、国際特許出願公開第98/30679号において開示される方法によって調製することができる。その代わりに、任意の市販で入手可能な物質は、さらなる利便性のために使用することができる。市販で入手可能な物質は、knockout Serum Replacement(KSR)、Chemically−defined Lipid concentrated(Gibco)、およびGlutamax(Gibco)を含む。
【0129】
本発明の培地はまた、脂肪酸または脂質、アミノ酸(非必須アミノ酸など)、ビタミン(複数可)、増殖因子、サイトカイン、抗酸化物質、2−メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、および無機塩類を含有することができる。たとえば、2−メルカプトエタノールの濃度は、たとえば、約0.05〜1.0mM、特に約0.1〜0.5mMとすることができるが、濃度が幹細胞を培養するのに適切な限り、濃度は、特にそれに限定されない。
【0130】
幹細胞(複数可)を培養するために使用される培養容器は、それが幹細胞をその中で培養することができる限り、フラスコ、組織培養用のフラスコ、皿、ペトリ皿、組織培養用の皿、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、チューブ、トレー、CellSTACK(登録商標)チャンバー、培養袋、およびローラーボトルを含むことができるが、特にこれらに限定されない。幹細胞は、培養の必要性に依存して、少なくとももしくは約0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、40、50ml、100ml、150ml、200ml、250ml、300ml、350ml、400ml、450ml、500ml、550ml、600ml、800ml、1000ml、1500mlまたはその中で推論できる任意の範囲の容量において培養されてもよい。ある実施形態では、培養容器は、バイオリアクターであってもよく、これは、生物学的に活性な環境を支持する任意のデバイスまたはシステムを指してもよい。バイオリアクターは、少なくとももしくは約2、4、5、6、8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、500リットル、1、2、4、6、8、10、15立方メートルまたはその中で推論できる任意の範囲の容量を有していてもよい。
【0131】
培養容器は、細胞接着性または非接着性とすることができ、目的に依存して選択することができる。細胞接着性培養容器は、容器表面の細胞への接着性を改善するために細胞外マトリックス(ECM)などのような細胞接着のための基質のいずれかを用いてコーティングすることができる。細胞接着のための基質は、幹細胞またはフィーダー細胞(使用される場合)を付着させるように意図される任意の物質とすることができる。細胞接着のための基質は、コラーゲン、ゼラチン、ポリ−L−リシン、ポリ−D−リシン、ビトロネクチン、ラミニン、およびフィブロネクチンならびにその混合物、たとえばMatrigel(商標)および溶解細胞膜調製物を含む(Klimanskayaら、2005年)。
【0132】
他の培養条件は、適切に決定することができる。たとえば、培養温度は、約30〜40℃、たとえば、少なくともまたは約31、32、33、34、35、36、37、38、39℃とすることができるが、これらに特に限定されない。CO2濃度は、約1〜10%、たとえば約2〜5%またはその中で推論できる任意の範囲とすることができる。酸素分圧は、少なくとももしくは約1、5、8、10、20%またはその中で推論できる任意の範囲とすることができる。
【0133】
たとえば、ある態様における本発明の方法は、幹細胞の接着培養に使用することができる。この場合、細胞は、フィーダー細胞の存在下において培養することができる。フィーダー細胞が本発明の方法において使用される場合には、胎児線維芽細胞などのような間質細胞は、フィーダー細胞として使用することができる(たとえばHoganら、Manipulating the Mouse Embryo, A Laboratory Manual(1994年);Gene Targeting, A Practical Approach(1993年);Martin(1981年);vansおよびKaufman(1981年);Jainchillら、(1969年);Nakanoら(1996年);Kodamaら(1982年);ならびに国際特許出願公開第01/088100号および第2005/080554号を参照されたい)。
【0134】
ある態様における本発明の方法はまた、キャリヤー上での浮遊培養(Fernandesら、2004年)またはゲル/生体高分子カプセル化(米国特許出願公開第2007/0116680号)を含む、幹細胞の浮遊培養に使用することができる。幹細胞の浮遊培養という用語は、幹細胞が、培地中で、培養容器またはフィーダー細胞(使用される場合)に関して非接着性の条件下で培養されることを意味する。幹細胞の浮遊培養は、幹細胞の解離培養および幹細胞の凝集浮遊培養を含む。幹細胞の解離培養という用語は、浮遊した幹細胞が、培養され、幹細胞の解離培養が、単細胞の幹細胞の培養または複数の幹細胞(たとえば約2〜400の細胞)から構成される小細胞凝集物の培養を含むことを意味する。前述の解離培養が継続される場合、培養され、解離した細胞は、幹細胞のより大きな凝集物を形成し、その後、凝集浮遊培養を実行することができる。凝集浮遊培養は、胚子様培養法(Kellerら、1995年を参照されたい)およびSFEB法(Watanabeら、2005年;国際特許出願公開第2005/123902号を参照されたい)を含む。
【0135】
B.多能性幹細胞の培養
培養条件に依存して、多能性幹細胞は、分化細胞または未分化の細胞のコロニーを産生することができる。用語「分化する」は、発生経路に沿った細胞の進行を意味する。用語「分化した」は、他の細胞と比較した、発生経路に沿った細胞の進行を説明する相対的な用語である。たとえば、多能性細胞は、体のあらゆる細胞を誘発することができるが、造血細胞などのようなより分化した細胞は、より少ない細胞型を誘発するであろう。
【0136】
多能性幹細胞の培養物は、集団における幹細胞およびそれらの誘導体の実質的な割合が、未分化の細胞の形態学的特質を示す場合、「未分化の」として記載され、胚または成体の起源の分化した細胞をそれらと明確に区別する。未分化のESまたはiPS細胞は、当業者らによって認識され、高度な核/細胞質比および顕著な核小体を有する細胞のコロニーにおいて二次元の顕微鏡視野に典型的に現れる。未分化の細胞のコロニーは、分化した隣りの細胞を有することができることが理解される。
【0137】
ES細胞は、血清およびフィーダー層、典型的にマウス胚性線維芽細胞の存在下において細胞を培養することによって、未分化の状態で維持することができる。未分化の状態において幹細胞を維持する他の方法もまた、公知である。たとえば、マウスES細胞は、フィーダー層を伴わないでLIFの存在下において培養することによって、未分化の状態で維持することができる。しかしながら、マウスES細胞と異なり、先在するヒトES細胞は、LIFに応答しない。ヒトES細胞は、塩基性線維芽細胞増殖因子の存在下において線維芽細胞のフィーダー層上でES細胞を培養することによって(Amitら、2000年)またはフィーダー層を伴わないでかつ線維芽細胞条件培地および塩基性線維芽細胞増殖因子の存在下においてMatrigel(商標)もしくはラミニンなどのようなタンパク質マトリックス上で培養することによって(Xuら、2001年;米国特許第6,833,269号)、未分化の状態で維持することができる。
【0138】
ES細胞を調製し、培養するための方法は、すべて参照によって本明細書において組み込まれるteratocarcinomas and embryonic stem cells: A practical approach(1987年);Guide to Techniques in Mouse Development(1993年);Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro(1993年);Properties and uses of Embryonic Stem Cells: Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy(1998年)を含む、細胞生物学、組織培養、および発生学における標準的な教科書および概説において見つけることができる。組織培養において一般に使用される標準的な方法は、Animal Cell Culture(1987年);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(1987年);およびCurrent Protocols in Molecular Biology and Short Protocols in Molecular Biology(1987年&1995年)において記載されている。
【0139】
体細胞に、リプログラミング因子を導入したまたは接触させた後に、これらの細胞は、多能性および未分化の状態を維持するのに十分な培地において培養されてもよい。本発明において生成される人工多能性幹(iPS)細胞の培養は、参照によってこれによって組み込まれる米国特許出願公開第20070238170号および米国特許出願公開第20030211603号および米国特許出願公開第20080171385号において記載されるように、霊長動物多能性幹細胞、特に胚性幹細胞を培養するために開発された様々な培地および技術を使用することができる。当業者に公知であろう、多能性幹細胞の培養および維持のためのさらなる方法は、本発明と共に使用されてもよいことが十分に理解される。
【0140】
ある実施形態では、定義されていない条件が、使用されてもよい;たとえば、多能性細胞は、未分化の状態に幹細胞を維持するために、線維芽細胞フィーダー細胞または線維芽細胞フィーダー細胞に曝露された培地上で培養されてもよい。
【0141】
代わりに、多能性細胞は、TeSR培地などのような定義されるフィーダー非依存性の培養系を使用して培養され、本質的に未分化の状態で維持されてもよい(Ludwigら、2006a;Ludwigら、2006b)。フィーダー非依存性の培養系および培地は、多能性細胞を培養し、維持するために使用されてもよい。これらのアプローチは、誘導ヒトiPS細胞およびヒト胚性幹細胞が、マウス線維芽細胞「フィーダー層」の必要性を伴わないで本質的に未分化の状態で残ることを可能にする。本明細書において記載されるように、様々な修飾は、所望されるとおり、費用を下げるためにこれらの方法になされてもよい。
【0142】
様々なマトリックス構成成分は、ヒト多能性幹細胞を培養し、維持するのに使用されてもよい。たとえば、組合せのMatrigel(商標)、コラーゲンIV、フィブロネクチン、ラミニン、およびビトロネクチンは、それらの全体が参照によって組み込まれるLudwigら(2006a;2006b)において記載されるように、多能性細胞成長のための固体担体を提供する手段として培養表面をコーティングするために使用されてもよい。特に、Matrigel(商標)は、ヒト多能性幹細胞の細胞培養および維持のための基質を提供するために使用されてもよい。Matrigel(商標)は、マウス腫瘍細胞によって分泌されるゼラチン状のタンパク質混合物であり、BD Biosciences(New Jersey、USA)から市販で入手可能である。この混合物は、多くの組織において見つけられる複雑な細胞外環境に類似しており、細胞培養のための基質として細胞生物学者によって使用される。
C.細胞継代
本発明のある態様は、幹細胞を解離させるステップをさらに含むことができる。幹細胞解離は、任意の公知の手順を使用して実行することができる。これらの手順は、キレート剤(EDTAなど)、酵素(トリプシン、コラゲナーゼなど)、またはその他同種のものを用いる処理および機械的な解離(ピペット操作など)などのような操作を含む。幹細胞(複数可)は、解離後におよび/または前にROCK阻害剤を用いて処理することができる。たとえば、幹細胞(複数可)は、解離後にのみ処理することができる。
【0143】
多能性幹細胞培養のいくつかのさらなる実施形態では、一度、培養容器が一杯になったら、コロニーは、解離に適した任意の方法によって、凝集細胞またはさらに単細胞に分割されてもよく、これらの細胞は、次いで、継代のために新しい培養容器の中に配置される。細胞継代は、長期間、培養条件下で、細胞を生きたまま、成長し続けるよう保つのを可能にする技術である。細胞は、普通、約70%〜100%コンフルエントになった場合に、継代されるであろう。
【0144】
単細胞継代が後続する多能性幹細胞の単細胞の解離は、細胞増殖、細胞選別、および分化のための定義される接種を促進し、かつ培養手順およびクローン増殖の自動化を可能にするようないくつかの利点を伴って、本方法において使用されてもよい。たとえば、単細胞からクローン誘導可能な子孫細胞は、遺伝子構造が均質であり得、かつ/または細胞周期が同調したものであり得、これは、標的指向性の分化を増加させ得る。単細胞継代のための例示的な方法は、参照によって本明細書において組み込まれる米国特許出願第20080171385号において記載されるとおりであってもよい。
【0145】
ある実施形態では、多能性幹細胞は、個々の単細胞に解離されたものでも、個々の単細胞と2、3、4、5、6、7、8、9、10以上の細胞を含む小さな細胞塊との組合せに解離されたものでもよい。解離は、機械力またはクエン酸ナトリウム(NaCitrate)などのような細胞解離剤もしくは酵素、たとえばトリプシン、トリプシン−EDTA、TrypLE Select、もしくはその他同種のものによって達成され得る。
【0146】
多能性幹細胞の供給源および増殖の必要性に依存して、解離させた細胞は、少なくとももしくは約1:2、1:4、1:5、1:6、1:8、1:10、1:20、1:40、1:50、1:100、1:150、1:200またはその中で推論できる任意の範囲などのような分割比で、新しい培養容器に個々にまたは小さな塊で移されてもよい。浮遊細胞系分割比は、培養細胞浮遊液の容量に基づいて決められてもよい。継代間隔は、少なくとももしくは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日間またはその中で推論できる任意の範囲毎であってもよい。たとえば、異なる酵素による継代プロトコールについての達成可能な分割比は、3〜7日間毎に1:2、4〜7日間毎に1:3、およびおよそ7日間毎に1:5〜1:10、7日間毎に1:50〜1:100であってもよい。高分割比が使用される場合、継代間隔は、過度の自発的な分化または細胞死による細胞損失を伴うことなく、少なくとも12〜14日間または任意の期間まで延長されてもよい。
【0147】
ある態様では、単細胞継代は、上記に記載されるROCK阻害剤などのような、クローニング効率および細胞生存を増加させるのに有効な小分子の存在下であってもよい。そのようなROCK阻害剤、たとえばY−27632、HA−1077、H−1152、またはブレビスタチンは、有効濃度、たとえば、少なくとももしくは約0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50〜約100μMまたはその中で推論できる任意の範囲で使用されてもよい。
【0148】
VII.iPS細胞の選択
本発明のある態様では、1つ以上の染色体外遺伝エレメントが体細胞の中に導入された後に、細胞は、増殖のために培養されてもよく、(トランスフェクトされた細胞を濃縮するために、ポジティブ選択マーカーまたはスクリーニング可能なマーカーのようなベクターエレメントの存在について任意選択で選択されてもよく)、これらの遺伝エレメントは、これらの細胞においてリプログラミング因子を発現し、複製し、細胞分裂と共に分割するであろう。これらの発現されたリプログラミング因子は、体細胞ゲノムをリプログラミングして、自立多能性状態を確立し、その間にまたはベクターの存在についてのポジティブ選択を除いた後に、外因性の遺伝エレメントは、徐々に失われるであろう。これらの人工多能性幹細胞は、それらが、多能性胚性幹細胞と実質的に同一であると予想されるので、胚性幹細胞の特質に基づいて、これらの体細胞から誘導された子孫から選択することができる。さらなるネガティブセレクションステップは、リプログラミングベクターDNAの不在を試験するまたは選択マーカーを使用することによって、外因性の遺伝エレメントを本質的に含まないiPS細胞についての選択を速めるまたは助けるために利用することができる。
【0149】
A.胚性幹細胞の特質についての選択
従来の研究からの生成に成功したiPSCは、以下の点において、自然に単離された多能性幹細胞(マウスおよびヒト胚性幹細胞、それぞれmESCおよびhESCなど)に著しく類似し、したがって、自然に単離された多能性幹細胞に対するiPSCの同一性、確実性、および多能性を確認した。したがって、本発明において開示される方法から生成される人工多能性幹細胞は、1つ以上の以下の胚性幹細胞の特質に基づいて選択することができる。
【0150】
i.細胞の生物学的特性
形態:iPSCは、ESCに形態学的に類似する。細胞はそれぞれ、円形、大きな核小体、およびわずかな細胞質を有していてもよい。iPSCのコロニーもまた、ESCに類似し得る。ヒトiPSCは、hESCに類似する鋭い縁の平らな、しっかりと詰まったコロニーを形成し、マウスiPSCは、mESCに類似するコロニー、hESCよりも平らではなく、より凝集したコロニーを形成する。ある実施形態では、本方法は、大きなヒトiPS細胞を生成してもよく、これらは、少なくとももしくは約1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5mmまたはその中で推論できる任意の範囲の直径を有していてもよく、非iPS細胞から容易に認識できてもよい。
【0151】
成長特性:幹細胞がそれらの定義の一部として自己再生しなければならないので、倍加時間および有系分裂活性は、ESCの基本となる。iPSCは、有系分裂活性となり得、活動的に自己再生することができ、増殖することができ、ESCと等しい速度で分裂することができる。
【0152】
幹細胞マーカー:iPSCは、ESC上に発現される細胞表面抗原マーカーを発現してもよい。ヒトiPSCは、SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60、TRA−1−81、TRA−2−49/6E、およびNanogを含むが、これらに限定されない、hESCに特異的なマーカーを発現した。マウスiPSCは、mESCに類似して、SSEA−1を発現したが、SSEA−3もSSEA−4も発現しなかった。
【0153】
幹細胞遺伝子:iPSCは、Oct−3/4、Sox2、Nanog、GDF3、REX1、FGF4、ESG1、DPPA2、DPPA4、およびhTERTを含む、未分化のESCにおいて発現される遺伝子を発現してもよい。
【0154】
テロメラーゼ活性:テロメラーゼは、約50回の細胞分裂というHayflick限界によって制限されない細胞分裂を保持するのに必要である。ヒトESCは、自己再生および増殖を保持するために高度なテロメラーゼ活性を発現し、iPSCもまた、高度なテロメラーゼ活性を示し、テロメラーゼタンパク質複合体における必要な構成成分であるhTERT(ヒトテロメラーゼリバーストランスクリプターゼ)を発現する。
【0155】
多能性:iPSCは、完全に分化した組織への、ESCに類似する方法での分化が可能であろう。
【0156】
神経分化:iPSCは、ニューロンに分化し、βIIIチューブリン、チロシンヒドロキシラーゼ、AADC、DAT、ChAT、LMX1B、およびMAP2を発現することができる。カテコールアミン関連酵素の存在は、iPSCが、hESCのように、ドーパミン作動性ニューロンに分化可能であり得ることを示してもよい。幹細胞関連遺伝子は、分化後にダウンレギュレートされるであろう。
【0157】
心臓分化:iPSCは、自発的に鼓動し始めた心筋細胞に分化することができた。心筋細胞は、TnTc、MEF2C、MYL2A、MYHCβ、およびNKX2.5を発現した。幹細胞関連遺伝子は、分化後にダウンレギュレートされるであろう。
【0158】
奇形腫形成:免疫不全マウスの中に注射されたiPSCは、9週間などのような一定の時間後に奇形腫を自発的に形成し得る。奇形腫は、3つの胚葉、内胚葉、中胚葉、および外胚葉から誘導された組織を含有する複数の系列の腫瘍である;これは、典型的に1つの細胞型のみである他の腫瘍と異なる。奇形腫形成は、多能性についてのランドマーク試験である。
【0159】
胚様体:培養中のヒトESCは、「胚様体」と称されるボール様で胚様の構造を自発的に形成し、これらは、有系分裂活性で、分化しているhESCのコアおよび3つの胚葉すべてから完全に分化した細胞の周辺から成る。iPSCもまた、胚様体を形成し、周辺の分化細胞を有していてもよい。
【0160】
胚盤胞注射:ヒトESCは、胚盤胞の内部細胞塊(胚結節)内に自然に存在し、胚盤胞のシェル(栄養膜)が胚外組織に分化する間に、胚結節において、胚に分化する。くぼんだ栄養膜は、生きている胚を形成することができず、したがって、胚結節内の胚性幹細胞が分化し、胚を形成することが必要である。レシピエントメスに移される胚盤胞を生成するためにマイクロピペットによって栄養膜の中に注射されるiPSCは、キメラ生マウスの子:10%〜90で、それらの体全体にわたって組み込まれたiPSC誘導体およびキメラ現象を有するマウスをもたらしてもよい。
ii.後成的なリプログラミング
プロモーター脱メチル化:メチル化は、DNA塩基に対するメチル基の移入、典型的に、CpG部位(近接するシトシン/グアニン配列)におけるシトシン分子に対するメチル基の移入である。遺伝子の広範囲のメチル化は、発現タンパク質の活性を妨げるまたは発現に干渉する酵素を動員することによって、発現に干渉する。したがって、遺伝子のメチル化は、転写を妨げることによって有効にそれをサイレンシングする。Oct−3/4、Rex1、およびNanogを含む、多能性関連遺伝子のプロモーターは、iPSCにおいて脱メチル化され、iPSCにおいて、それらのプロモーター活性ならびに多能性関連遺伝子の活性促進および発現を示してもよい。
【0161】
ヒストン脱メチル化:ヒストンは、様々なクロマチン関連の修飾を通してそれらの活性を引き起こすことができるDNA配列に構造上局所化する圧縮タンパク質である。Oct−3/4、Sox2、およびNanogと関連するH3ヒストンは、Oct−3/4、Sox2、およびNanogの発現を活性化するために脱メチル化されてもよい。
【0162】
B.残留物なしの特徴についての選択
本発明におけるoriPベースのベクターなどのようなリプログラミングベクターは、染色体外で複製し、数代後に宿主細胞においてその存在を失わせることができる。しかしながら、外因性のベクターエレメントを本質的に含まない子孫細胞についてのさらなる選択ステップは、このプロセスを容易にしてもよい。たとえば、子孫細胞の試料は、当技術分野において公知の外因性のベクターエレメントの存在または損失を試験するために抽出されてもよい(LeightおよびSugden、2001年)。
【0163】
リプログラミングベクターは、選択マーカーを本質的に含まない子孫細胞を選択するために、そのような選択マーカー、特に、チミジンキナーゼをコードする遺伝子などのようなネガティブセレクションマーカーをさらに含んでいてもよい。ヒト単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ1型遺伝子(HSVtk)は、哺乳動物細胞における条件致死マーカーとして作用する。HSVtkにコードされる酵素は、ある種のヌクレオシドアナログ(たとえばガンシクロビル、抗ヘルペス剤)をリン酸化し、したがって、それらを、毒性のDNA複製阻害剤に変換することができる。代替のまたは補足のアプローチは、RT−PCR、PCR、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)、遺伝子アレイ、またはハイブリダイゼーション(たとえばサザンブロット)などのような従来の方法を使用して、子孫細胞における外因性の遺伝エレメントの不在を試験することである。
【0164】
VIII.ベクター構築および送達
ある実施形態では、リプログラミングベクターは、細胞においてリプログラミング因子を発現するために、上記に記載されるこれらのリプログラミング因子をコードする核酸配列に加えて、さらなるエレメントを含むように構築することができる。これらの方法の1つの特徴は、染色体外複製ベクターの使用であり、これは、宿主細胞ゲノムの中に組み込まれないであろう、また、多数の複製の間に失われてもよい。これらのベクターの構成成分および送達の方法の詳細については、下記に開示される。
【0165】
A.ベクター
プラスミドもしくはリポソームベースの染色体外ベクター、たとえばoriPベースのベクターおよび/またはEBNA−1の誘導体をコードするベクターの使用は、DNAの大きな断片が細胞に導入され、染色体外で維持され、細胞周期当たり1回複製され、娘細胞に効率的に分割し、免疫応答を実質的に誘発しないことを可能にする。特に、oriPベースの発現ベクターの複製を担うウイルスタンパク質であるEBNA−1は、それが、MHCクラスI分子上のその抗原の提示に必要とされる処理を迂回するための効率的なメカニズムを発達させたので、細胞性免疫応答を誘発しない(Levitskayaら、1997年)。さらに、EBNA−1は、クローニング遺伝子の発現を増強するために、トランスで作用し、いくつかの細胞系において、100倍まで、クローニング遺伝子の発現を誘導することができる(Langle−Rouaultら、1998年;Evansら、1997年)。最後に、そのようなoriPベースの発現ベクターの製造は、低費用である。
【0166】
他の染色体外ベクターは、他のリンパ向性ヘルペスウイルスベースのベクターを含む。リンパ向性ヘルペスウイルスは、リンパ芽球(たとえばヒトBリンパ芽球)において複製し、その自然の生活環の一部の間、プラスミドになるヘルペスウイルスである。単純ヘルペスウイルス(HSV)は、「リンパ向性」ヘルペスウイルスではない。例示的なリンパ向性ヘルペスウイルスは、EBV、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV);ヘルペスウイルスサイミリ(HS)、およびマレック病ウイルス(MDV)を含むが、これらに限定されない。さらに、酵母ARS、アデノウイルス、SV40、またはBPVなどのようなエピソームベースのベクターの他の供給源が、企図される。
【0167】
当業者は、標準的な組換え技術を通してベクターを構築するのに十分に備えられているであろう(たとえば、共に参照によって本明細書において組み込まれるManiatisら、1988年およびAusubelら、1994年を参照されたい)。
【0168】
ベクターはまた、遺伝子送達および/もしくは遺伝子発現をさらに調整するまたは他の場合には、標的細胞に有利な特性を提供する他の構成成分または機能性をも含むことができる。他のそのような構成成分は、たとえば、細胞への結合またはターゲティングに影響を及ぼす構成成分(細胞型または組織特異的な結合を媒介する構成成分を含む);細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を及ぼす構成成分;取り込み後に細胞内のポリヌクレオチドの局所化に影響を及ぼす構成成分(核局所化を媒介する作用物質など);およびポリヌクレオチドの発現に影響を及ぼす構成成分を含む。
【0169】
そのような構成成分はまた、ベクターによって送達される核酸を取り込み、発現している細胞を検出するまたは選択するために使用することができる検出可能なおよび/または選択マーカーなどのようなマーカーを含んでいてもよい。そのような構成成分は、ベクターの自然の特徴として提供することができる(結合および取り込みを媒介する構成成分もしくは機能性を有する、ある種のウイルスベクターの使用など)またはベクターは、そのような機能性をもたらすように改変することができる。種々様々のそのようなベクターは、当技術分野において公知で、一般に入手可能である。ベクターが宿主細胞において維持される場合、ベクターは、自律性の構造物として、有糸分裂の間に細胞によって安定して複製され、宿主細胞のゲノム内に組み込まれるまたは宿主細胞の核もしくは細胞質中に維持される。
【0170】
B.調節エレメント
ベクター中に含まれる真核生物発現カセットは、好ましくは、コード配列に操作可能に連結された真核生物転写プロモータータンパク質、介在配列を含むスプライスシグナル、および転写終結/ポリアデニル化配列を含有する(5’から3’方向に)。
i.プロモーター/エンハンサー
「プロモーター」は、転写の開始および速度がコントロールされる核酸配列の領域であるコントロール配列である。プロモーターは、核酸配列の特異的な転写を開始するために、RNAポリメラーゼおよび他の転写因子などのような調節タンパク質および分子が、結合してもよい遺伝エレメントを含有していてもよい。語句「作動可能に位置する」、「作動可能に連結された」、「コントロール下の」、および「転写コントロール下の」は、プロモーターが、その配列の転写開始および/または発現をコントロールするために、核酸配列に関して適正な機能的な場所にあるおよび/または方向づけをされていることを意味する。
【0171】
本発明のEBNA−1コードベクターにおいて使用するのに適したプロモーターは、EBNA−1タンパク質をコードする発現カセットの発現を指示して、十分な定常状態のレベルのEBNA−1タンパク質をもたらし、EBV oriP−含有ベクターを安定して維持するものである。プロモーターはまた、リプログラミング因子をコードする発現カセットの効率的な発現のために使用されてもよい。
【0172】
プロモーターは、一般に、RNA合成のための開始部位を位置づけるために機能する配列を含む。この最もよく知られている例は、TATAボックスであるが、たとえば哺乳動物末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ遺伝子についてのプロモーターおよびSV40後期遺伝子についてのプロモーターなどのようなTATAボックスを欠くいくつかのプロモーターでは、開始の場所を固定するのを助けるために開始部位それ自体を覆う孤立性のエレメントである。さらなるプロモーターエレメントは、転写開始の頻度を調節する。典型的に、これらは、開始部位の30〜110bp上流の領域に位置するが、多くのプロモーターは、同様に、開始部位の下流の機能エレメントを含有することが示されている。プロモーター「のコントロール下の」コード配列をもたらすために、転写リーディングフレームの転写開始部位の5’端を、選ばれたプロモーターの「下流に」(つまり、3’に)位置づける。「上流の」プロモーターは、DNAの転写を刺激し、コードRNAの発現を促進する。
【0173】
プロモーターエレメントの間の間隔は、しばしば可動性であり、エレメントが互いに反転するまたは移動する場合、プロモーター機能は保たれる。tkプロモーターでは、プロモーターエレメントの間の間隔は、50bpの間隔まで増加させることができ、それを超えると活性が下がり始める。プロモーターに依存して、個々のエレメントは、転写を活性化するために、協力的にまたは非依存的に機能することができるように思われる。プロモーターは、「エンハンサー」と共に使用されてもよくまたは使用されなくてもよく、これは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用性調節配列を指す。
【0174】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエキソンの上流に位置する5’非コード配列を単離することによって得られるかもしれないので、核酸配列と自然に関連するものである。そのようなプロモーターは、「内因性」と呼ぶことができる。同様に、エンハンサーは、その配列の下流または上流に位置する核酸配列と自然に関連するものであってもよい。その代わりに、ある種の利点は、その自然環境において核酸配列と通常関連しないプロモーターを指す組換えまたは異種プロモーターのコントロール下にコード核酸セグメントを位置づけることによって、獲得されるであろう。組換えまたは異種エンハンサーはまた、その自然環境において核酸配列と通常関連しないエンハンサーを指す。そのようなプロモーターまたはエンハンサーは、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサーならびに他のウイルスまたは原核もしくは真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサーならびに「天然に存在しない」、つまり、異なる転写調節領域の異なるエレメントおよび/または発現を改変する変異を含有するプロモーターまたはエンハンサーを含んでいてもよい。たとえば、組換えDNA構築において最も一般に使用されるプロモーターは、β−ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトース、およびトリプトファン(trp)プロモーター系を含む。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成的に産生することに加えて、配列は、本明細書において開示される組成物に関連して、組換えクローニングおよび/またはPCR(商標)を含む核酸増幅技術を使用して産生されてもよい(それぞれ参照によって本明細書において組み込まれる米国特許第4,683,202号および第5,928,906号を参照されたい)。さらに、ミトコンドリア、葉緑体、およびその他同種のものなどのような非核細胞小器官内の配列の転写および/または発現を指示するコントロール配列を同様に利用することができることが企図される。
【0175】
当然ながら、発現のために選ばれた細胞小器官、細胞型、組織、器官、または生物におけるDNAセグメントの発現を有効に指示するプロモーターおよび/またはエンハンサーを利用することが重要であろう。分子生物学の当業者らは、一般に、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサー、および細胞型の組合せの使用を知っている(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるSambrookら 1989年を参照されたい)。利用されるプロモーターは、組換えタンパク質および/またはペプチドの大規模生産において有利であるなどのように、導入されたDNAセグメントの高レベルの発現を指示するのに適切な条件下で、恒常的、組織特異的、誘導性、および/または有用であってもよい。プロモーターは、異種または内因性のものであってもよい。
【0176】
さらに、任意のプロモーター/エンハンサーの組合せ(たとえば、Eukaryotic Promoter Data Base EPDB、World Wide Web at epd.isb−sib.ch/)もまた、発現を駆動するために使用することができる。T3、T7、またはSP6細胞質発現系の使用は、他の可能な実施形態である。真核細胞は、送達複合体の一部としてまたはさらなる遺伝子発現構築物として適切な細菌ポリメラーゼが提供される場合、ある種の細菌プロモーターからの細胞質転写を支持することができる。
【0177】
プロモーターの非限定的な例は、SV40初期にまたは後期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、ニワトリ肉腫ウイルス(RSV)初期プロモーターなどのような初期または後期ウイルスプロモーター;たとえば、ベータアクチンプロモーター(Ng、1989年、Quitscheら、1989年)、GADPHプロモーター(Alexanderら、1988年、Ercolaniら、1988年)、メタロチオネインプロモーター(Karinら、1989年;Richardsら、1984年)などのような真核細胞プロモーター;ならびに環状AMP応答エレメントプロモーター(cre)、血清応答エレメントプロモーター(sre)、ホルボールエステルプロモーター(TPA)、および最小限のTATAボックスの近くの応答エレメントプロモーター(tre)などのような連鎖状応答エレメントプロモーターを含む。ヒト成長ホルモンプロモーター配列(たとえば、Genbank、受入番号X05244に記載されるヒト成長ホルモンの最小限のプロモーター、ヌクレオチド283〜341)またはマウス乳癌プロモーター(ATCC、カタログ番号ATCC 45007から入手可能)を使用することもまた、可能である。特定の例は、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターとすることができる。
【0178】
ii.開始シグナルおよび内部リボソーム結合部位
特異的な開始シグナルもまた、コード配列の効率的な翻訳のために必要とされてもよい。これらのシグナルは、ATG開始コドンまたは近接する配列を含む。ATG開始コドンを含む外因性翻訳コントロールシグナルが提供される必要があってもよい。当業者はこれを容易に決定し、必要なシグナルを提供することができるであろう。開始コドンは、挿入物全体の翻訳を確実にするために、所望のコード配列のリーディングフレームとインフレームでなければならないことは周知である。外因性翻訳コントロールシグナルおよび開始コドンは、自然または合成のものであってもよい。発現の効率は、適切な転写エンハンサーの包含によって増強されてもよい。
【0179】
本発明のある実施形態では、配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントの使用は、多重遺伝子または多シストロン性メッセージを生成するために使用されてもよい。IRESエレメントは、5’メチル化キャップ依存性の翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回し、内部の部位で翻訳を始めることができる(PelletierおよびSonenberg、1988年)。ピコルナウイルスファミリーの2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)由来のIRESエレメントが、記載されており(PelletierおよびSonenberg、1988年)、そのうえ、哺乳動物メッセージ由来のIRES(MacejakおよびSarnow、1991年)も記載されている。IRESエレメントは、異種オープンリーディングフレームに連結することができる。複数のオープンリーディングフレームは、共に転写することができ、IRESによってそれぞれ分離され、多シストロン性メッセージを生成することができる。IRESエレメントによって、オープンリーディングフレームはそれぞれ、効率的な翻訳のためにリボソームに到達できる。複数の遺伝子は、単一のメッセージを転写するために単一のプロモーター/エンハンサーを使用して効率的に発現することができる(参照によって本明細書において組み込まれる米国特許第5,925,565号および第5,935,819号を参照されたい)。
iii.マルチクローニング部位
ベクターは、マルチクローニング部位(MCS)を含むことができ、これは、複数の制限酵素部位を含有する核酸領域であり、これらのいずれも、ベクターを消化するための標準的な組換え技術と共に使用することができる(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるCarbonelliら、1999年、Levensonら、1998年、およびCocea、1997年を参照されたい)。「制限酵素消化」は、核酸分子中の特異的な場所でのみ機能する酵素を用いる核酸分子の触媒性の切断を指す。これらの制限酵素の多くは、市販で入手可能である。そのような酵素の使用は、当業者らによって広く理解されている。しばしば、ベクターは、外因性の配列がベクターにライゲーションされるのを可能にするために、MCS内を切断する制限酵素を使用して、直線化されるまたは断片化される。「ライゲーション」は、2つの核酸断片の間にホスホジエステル結合を形成するプロセスを指し、これらは、互いに隣接していてもよいまたは隣接していなくてもよい。制限酵素およびライゲーション反応に関する技術は、組換え技術の当業者らに周知である。
【0180】
iv.スプライシング部位
ほとんどの転写真核生物RNA分子は、一次転写物からイントロンを除去するためにRNAスプライシングを受けるであろう。ゲノム真核生物配列を含有するベクターは、タンパク質発現のための転写の適切な処理を確実にするために、ドナーおよび/またはアクセプタースプライシング部位を必要としてもよい(たとえば、参照によって本明細書において組み込まれるChandlerら、1997年を参照されたい)。
【0181】
v.終結シグナル
本発明のベクターまたは構築物は、一般に、少なくとも1つの終結シグナルを含むであろう。「終結シグナル」または「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写の特異的な終結に関与するDNA配列から構成される。したがって、ある実施形態では、RNA転写物の産生を終了する終結シグナルが企図される。ターミネーターは、望ましいメッセージレベルを達成するためにin vivoにおいて必要であってもよい。
【0182】
真核生物系では、ターミネーター領域はまた、ポリアデニル化部位を曝露するように、新しい転写物の部位特異的な切断を可能にする特異的なDNA配列を含んでいてもよい。これは、約200のA残基(ポリA)のストレッチを転写物の3’端に追加するように、特殊化した内因性のポリメラーゼにシグナル伝達する。このポリAテイルを用いて修飾されたRNA分子は、より安定しているように思われ、より効率的に翻訳される。したがって、真核生物に関する他の実施形態では、そのターミネーターが、RNAの切断のためのシグナルを含むことが好まれ、ターミネーターシグナルが、メッセージのポリアデニル化を促進することがより好まれる。ターミネーターおよび/またはポリアデニル化部位エレメントは、メッセージレベルを増強し、かつカセットから他の配列へのリードスルーを最小限にするように果たすことができる。
【0183】
本発明において使用するために企図されるターミネーターは、たとえば、たとえばウシ成長ホルモンターミネーターなどのような遺伝子の終結配列またはたとえばSV40ターミネーターなどのようなウイルス終結配列を含むが、これらに限定されない、本明細書において記載されるまたは当業者に公知の転写の任意の公知のターミネーターを含む。ある実施形態では、終結シグナルは、配列切断によるなどのように、転写可能なまたは翻訳可能な配列の欠如であってもよい。
vi.ポリアデニル化シグナル
発現、特に真核生物の発現では、典型的に、転写物の適切なポリアデニル化を引き起こすためのポリアデニル化シグナルを含むであろう。ポリアデニル化シグナルの性質は、本発明の実施の成功に重大であると考えられず、任意のそのような配列が利用されてもよい。好ましい実施形態は、様々な標的細胞において十分に機能するのに好都合であり、そのことが公知であるSV40ポリアデニル化シグナルまたはウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルを含む。ポリアデニル化は、転写物の安定性を増加させてもよいまたは細胞質輸送を促進してもよい。
【0184】
vii.複製起点
宿主細胞においてベクターを増殖させるために、ベクターは、複製が開始される特異的な核酸配列である、1つ以上の複製起点部位(多くの場合、「ori」と称される)、たとえば、上記に記載されるEBVのoriPに対応する核酸配列を含有していてもよい。その代わりに、上記に記載される他の染色体外で複製するウイルスの複製開始点または自己複製配列(ARS)を利用することができる。
viii.選択マーカーおよびスクリーニング可能なマーカー
本発明のある実施形態では、本発明の核酸構築物を含有する細胞は、発現ベクター中にマーカーを含むことによって、in vitroまたはin vivoにおいて同定されてもよい。そのようなマーカーは、細胞に同定可能な変化を与え、発現ベクターを含有する細胞の容易な同定を可能にするであろう。一般に、選択マーカーは、選択を可能にする特性を与えるものである。ポジティブ選択マーカーは、マーカーの存在がその選択を可能にするものであるが、ネガティブ選択マーカーは、その存在がその選択を妨げるものである。ポジティブ選択マーカーの例は、薬剤抵抗性マーカーである。
【0185】
普通、薬剤選択マーカーの包含は、形質転換体のクローニングおよび同定を援助し、たとえば、ネオマイシン、ブラストサイジン、ピューロマイシン、ヒグロマイシン、DHFR、GPT、zeocin、およびヒスチジノールに対する抵抗性を与える遺伝子は、有用な選択マーカーである。条件の実行に基づく形質転換体の識別を可能にする表現型を与えるマーカーに加えて、その基準が比色分析であるGFPなどのようなスクリーニング可能なマーカーを含む他のタイプのマーカーもまた、企図される。その代わりに、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などのようなネガティブ選択マーカーとしてスクリーニング可能な酵素が、利用されてもよい。当業者はまた、おそらくFACS分析と共に、免疫マーカーを利用する方法をも知っているであろう。マーカーが遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現されることができる限り、使用されるマーカーは、重要であると考えられない。さらに、選択およびスクリーニング可能なマーカーの例は、当業者に周知である。
【0186】
C.ベクター送達
本発明を用いる体細胞へのリプログラミングベクターの導入は、本明細書において記載されるようにまたは当業者に公知であるように、細胞の形質転換のために、任意の核酸送達に適した方法を使用してもよい。そのような方法は、ex vivoトランスフェクションによって(Wilsonら、1989年、Nabelら、1989年);マイクロインジェクション(HarlandおよびWeintraub、1985年;参照によって本明細書において組み込まれる米国特許第5,789,215号)を含む注射によって(それぞれ参照によって本明細書において組み込まれる米国特許第5,994,624号、第5,981,274号、第5,945,100号、第5,780,448号、第5,736,524号、第5,702,932号、第5,656,610号、第5,589,466号、および第5,580,859号);エレクトロポレーションによって(参照によって本明細書において組み込まれる米国特許第5,384,253号;Tur−Kaspaら、1986年;Potterら、1984年);リン酸カルシウム沈殿によって(GrahamおよびVan Der Eb、1973年;ChenおよびOkayama、1987年;Rippeら、1990年);ポリエチレングリコールが後続するDEAEデキストランの使用によって(Gopal、1985年);直接的な音波ローディングによって(Fechheimerら、1987年);リポソーム媒介性のトランスフェクションによって(NicolauおよびSene、1982年;Fraleyら、1979年;Nicolauら、1987年;Wongら、1980年;Kanedaら、1989年;Katoら、1991年)ならびに受容体媒介性のトランスフェクション(WuおよびWu、1987年;WuおよびWu、1988年)によって;微粒子銃によって(それぞれ、参照によって本明細書において組み込まれるPCT出願WO94/09699および95/06128;米国特許第5,610,042号;第5,322,783号 第5,563,055号、第5,550,318号、第5,538,877号、および第5,538,880号);炭化ケイ素繊維を用いる撹拌によって(それぞれ参照によって本明細書において組み込まれるKaepplerら、1990年;米国特許第5,302,523号および第5,464,765号);乾燥/阻害媒介性のDNA取り込み(Potrykusら、1985年)によって、ならびにそのような方法の任意の組合せなどのように、DNAの直接的な送達を含むが、これらに限定されない。これらの技術などのような技術の適用を通して、細胞小器官(複数可)、細胞(複数可)、組織(複数可)、または生物(複数可)は、安定してまたは一時的に形質転換されてもよい。
【0187】
i.リポソーム媒介性のトランスフェクション
本発明のある実施形態では、核酸は、たとえばリポソームなどのような脂質複合体中に封入されてもよい。リポソームは、リン脂質二重層膜および内部水性媒体によって特徴付けられる小胞性の構造物である。多重膜リポソームは、水性媒体によって分離される複数の脂質層を有する。多重膜リポソームは、リン脂質が過剰な水溶液中に懸濁される場合、自発的に形成される。脂質成分は、閉鎖した構造物の形成の前に自己再配列を受けて、脂質二分子膜の間に水および溶解した溶質を封入する(GhoshおよびBachhawat、1991年)。Lipofectamine(Gibco BRL)またはSuperfect(Qiagen)と複合体を形成した核酸もまた、企図される。使用されるリポソームの量は、リポソームの性質および使用される細胞次第で変動してもよく、たとえば、1〜10百万の細胞当たり約5〜約20μgベクターDNAが企図されてもよい。
【0188】
in vitroにおける外来性DNAのリポソーム媒介性の核酸送達および発現は、非常に成功してきた(NicolauおよびSene、1982年;Fraleyら、1979年;Nicolauら、1987年)。培養ニワトリ胚、HeLa、および肝癌細胞における外来性DNAのリポソーム媒介性の送達および発現の実現可能性もまた示された(Wongら、1980年)。
【0189】
本発明のある実施形態では、リポソームは、赤血球凝集ウイルス(HVJ)と複合体を形成させてもよい。これは、細胞膜との融合を促進し、かつリポソームカプセル化DNAの細胞侵入を促進することが示された(Kanedaら、1989年)。他の実施形態では、リポソームは、核非ヒストン染色体タンパク質(HMG−1)と複合体を形成させてもよいまたはそれと共に利用されてもよい(Katoら、1991年)。さらなる実施形態では、リポソームは、HVJおよびHMG−1の両方と複合体を形成させてもよいまたはそれらと共に利用されてもよい。他の実施形態では、送達ビヒクルは、リガンドおよびリポソームを含んでいてもよい。
【0190】
ii.エレクトロポレーション
本発明のある実施形態では、核酸は、エレクトロポレーションを介して、細胞小器官、細胞、組織、または生物の中に導入される。エレクトロポレーションは、細胞およびDNAの懸濁液の高電圧放電への曝露を含む。レシピエント細胞は、機械的な傷によって形質転換に対してより感受性にすることができる。さらに、使用されるベクターの量は、使用される細胞の性質次第で変動してもよく、たとえば、1〜10百万の細胞当たり約5〜約20μgベクターDNAが企図されてもよい。
【0191】
エレクトロポレーションを使用する真核細胞のトランスフェクションは、かなり成功してきた。マウス前Bリンパ球は、ヒトカッパ免疫グロブリン遺伝子をトランスフェクトされ(Potterら、1984年)、ラット肝細胞は、このようにしてクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子をトランスフェクトされた(Tur−Kaspaら、1986年)。
【0192】
iii.リン酸カルシウム
本発明の他の実施形態では、核酸は、リン酸カルシウム沈殿を使用して、細胞に導入される。ヒトKB株細胞は、この技術を使用して、アデノウイルス5 DNA(GrahamおよびVan Der Eb、1973年)がトランスフェクトされた。さらに、このようにして、マウスL(A9)、マウスC127、CHO、CV−1、BHK、NIH3T3、およびHeLa細胞は、ネオマイシンマーカー遺伝子がトランスフェクトされ(ChenおよびOkayama、1987年)、ラット肝細胞は、様々なマーカー遺伝子がトランスフェクトされた(Rippeら、1990年)。
【0193】
iv.DEAE−デキストラン
他の実施形態では、核酸は、ポリエチレングリコールが後続するDEAE−デキストランを使用して、細胞の中に送達される。このようにして、レポータープラスミドは、マウス骨髄腫細胞および赤白血病細胞の中に導入された(Gopal、1985年)。
【0194】
v.超音波処理ローディング
本発明のさらなる実施形態は、直接的な音波ローディングによる核酸の導入を含む。LTK−線維芽細胞は、音波処理ローディングによってチミジンキナーゼ遺伝子がトランスフェクトされた(Fechheimerら、1987年)。
【0195】
vi.受容体媒介性のトランスフェクション
さらに、核酸は、受容体媒介性の送達ビヒクルを介して目的の細胞に送達されてもよい。これらは、標的細胞において起こるであろう受容体媒介性のエンドサイトーシスによる高分子の選択的な取り込みを利用する。様々な受容体の細胞型に特異的な分布を考慮して、この送達方法は、本発明に他の特異性を追加する。
【0196】
ある種の受容体媒介性の遺伝子ターゲティングビヒクルは、細胞受容体特異的リガンドおよび核酸結合剤を含む。他のものは、送達されることとなる核酸が作動可能に付着された細胞受容体特異的リガンドを含む。いくつかのリガンドは、受容体媒介性の遺伝子移入(WuおよびWu、1987年;Wagnerら、1990年;Peralesら、1994年;Myers、EPO0273085)のために使用され、これは、技術の実施可能性を確立する。他の哺乳動物細胞型と関連する特異的な送達が記載されている(WuおよびWu、1993年;参照によって本明細書において組み込まれる)。本発明のある態様では、リガンドは、標的細胞集団上に特異的に発現される受容体に対応するように選ばれるであろう。
【0197】
他の実施形態では、細胞特異的核酸ターゲティングビヒクルの核酸送達ビヒクル構成成分は、リポソームと結合する特異的な結合リガンドを含んでいてもよい。送達されることとなる核酸(複数可)は、リポソーム内に収容され、特異的な結合リガンドは、リポソーム膜の中に機能的に組み込まれる。リポソームは、したがって、標的細胞の受容体(複数可)に特異的に結合し、細胞に内容物を送達するであろう。そのような系は、たとえば、上皮増殖因子(EGF)を、EGF受容体のアップレギュレーションを示す細胞への核酸の受容体媒介性の送達において使用する系を使用して、機能的であることが示された。
【0198】
さらなる実施形態では、標的送達ビヒクルの核酸送達ビヒクル構成成分は、リポソームそれ自体であってもよく、リポソームは、細胞特異的な結合を指示する1つ以上の脂質または糖タンパク質を好ましくは含むであろう。たとえば、ラクトシル−セラミド、ガラクトース末端アシアロガングリオシド(asialganglioside)は、リポソームの中に組み込まれ、肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加が観察された(Nicolauら、1987年)。本発明の組織特異的形質転換構築物は、同様の方法において標的細胞の中に特異的に送達することができることが企図される。
vii 微粒子銃
微粒子銃技術は、少なくとも1つの細胞小器官、細胞、組織、または生物の中に核酸を導入するために使用することができる(米国特許第5,550,318号;米国特許第5,538,880号;米国特許第5,610,042号;およびPCT出願WO94/09699;それぞれ、参照によって本明細書において組み込まれる)。この方法は、DNAをコーティングする微粒子を高速度まで加速し、それらが細胞膜を貫通し、かつそれらを死滅させることなく細胞に入ることを可能にする能力に依存する(Kleinら、1987年)。当技術分野において公知の種々様々の微粒子銃技術があり、これらの多くは、本発明に適用可能である。
【0199】
この微粒子銃では、1つ以上の粒子は、少なくとも1つの核酸を用いてコーティングされ、発射力によって細胞の中に送達されてもよい。小さな粒子を加速するためのいくつかのデバイスが開発されている。1つのそのようなデバイスは、電流を生成するために高圧放電に依存し、これにより、さらには、原動力がもたらされる(Yangら、1990年)。使用される微粒子は、タングステンもしくは金の粒子またはビーズなどのような生物学的に不活性の物質から成った。例示的な粒子は、タングステン、白金、および好ましくは金から構成されるものを含む。いくつかの実例では、金属粒子上へのDNA沈殿は、微粒子銃を使用するレシピエント細胞へのDNA送達に必要ではないであろうということが企図される。しかしながら、粒子は、DNAを用いてコーティングされるのではなく、DNAを含有していてもよいことが企図される。DNAコーティングされた粒子は、粒子銃を介して、DNA送達のレベルを増加させてもよいが、それら自体、必要ではない。
【0200】
衝撃のために、懸濁液中の細胞は、フィルターまたは固体培養培地上で濃縮される。その代わりに、未成熟の胚または他の標的細胞は、固体培養培地上に配置されてもよい。衝撃を与えられることとなる細胞は、微粒子を止めるプレートより下の適切な距離に置かれる。
【実施例】
【0201】
IX.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。続く実施例において開示される技術は、本発明の実施において十分に機能するように、発明者によって発見された技術を示し、したがって、その実施のための好ましいモードを構成すると考えることができることが、当業者らによって十分に理解されるはずである。しかしながら、当業者らは、本開示を考慮して、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多くの変化が、開示される特定の実施形態において成され、同様のまたは類似する結果をなお得ることができることを十分に理解するはずである。
【0202】
(実施例1)
小さな化学化合物を用いるヒト包皮線維芽細胞のエピソームリプログラミング
iPS細胞誘導に影響を与える公知の化学化合物のスクリーニングを通して、発明者らは、ヒト包皮線維芽細胞のエピソームリプログラミング効率を著しく改善したいくつかの化合物を同定した。BIX01294(B)は、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼの選択的阻害剤である。BayK8644と組み合わせて、それは、Oct4およびKlf4のみが形質導入されたマウス胚性線維芽細胞のリプログラミングを可能にすることができた小分子として最初に同定された(Shiら、2008年)。PD0325901(P)は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPK/ERKキナーゼまたはMEK)の阻害剤である。CHIR99021(C)は、GSK3βの最も選択的な阻害剤であり、一方、A−83−01(A)は、TGF−βI型受容体ALK5、アクチビン/Nodal受容体ALK4、およびnodal受容体ALK7の強力な阻害剤である。PD0325901およびCHIR99021の組合せ(2i)は、不応性株からのマウスES細胞の効率的な誘導を可能にした(Yingら、2008年)。2i条件において、重要でないが、マウスES細胞培養に決まって使用される白血病抑制因子(LIF)は、マウスES細胞のクローン形成能および誘導を促進した(Yingら、2008年)。この2i/LIF条件は、マウス神経幹細胞の真の多能性へのリプログラミングを促進することが示された(Silvaら、2008年)。興味深いことに、真のラットES細胞は、この2i/LIF条件において初期胚から直ちに誘導することができたが(Buehrら、2008年;Liら、2008年)、A−83−01の追加は、ラットiPS細胞の長期的な培養を保持するために必要とされることが示された(Liら、2009年)。PD0325901、CHIR99021、A−83−01、およびLIFの組合せもまた、レンチウイルス媒介性のリプログラミング培養由来の異型マウスES細胞様ヒトiPS細胞を選択し、安定化することができることが示された(Liら、2009年)が、リプログラミング、特にエピソームリプログラミングに対するこれらの阻害剤の組合せの効果は、立証されていない。
【0203】
細胞培養のために、ヒトES細胞およびiPS細胞は、20%ノックアウト血清リプレーサー、0.1mM非必須アミノ酸、1mM Glutamax(すべてInvitrogen、Carlsbad、CAから)、0.1mM β−メルカプトエタノール、および100ng/mlゼブラフィッシュ塩基性線維芽細胞増殖因子(zbFGF)を補足したDMEM/F12培養培地において照射マウス胚性線維芽細胞(MEF)上で維持した(Amitら、2000年;Ludwigら、2006a;Thomsonら、1998年)。馴化培地を用いる、Matrigel(商標)(BD Biosciences、Bedford、MA)上でのフィーダーフリーの培養は、100ng/ml zbFGFを用いる以外は先に記載される(Xuら、2001年)ように実行した。ヒト新生児包皮線維芽細胞(Cat# CRL−2097(商標)、ATCC、Manassas、VA)および42歳の皮膚生検材料由来の成人線維芽細胞は、10%限定ウシ胎仔血清(FBS、Hyclone Laboratories、Logan、UT)、0.1mM非必須アミノ酸、2mM Glutamax(すべてInvitrogenから)、0.1mM β−メルカプトエタノール、および4ng/ml zbFGFを補足したDMEM(Invitrogen)において培養した。mTeSR(商標)1は、Stem Cell Technologies Inc.(Vancouver、Canada)から得た。N2B27培地は、以下のように調製した:1×N2サプリメント、1×B−27サプリメント、0.1mM非必須アミノ酸、1mM Glutamax(すべてInvitrogenから)、0.1mM β−メルカプトエタノールを補足したDMEM/F12培養培地。
【0204】
ヒト体細胞、ヒト包皮線維芽細胞のエピソームリプログラミングのために、エピソームベクター(図1A、7.3μgのpEP4EO2SCK2MEN2Lおよび3.2μgのpEP4EO2SET2K)(Yuら、2009年)は、nucleofection(プログラムU−20を用いるNHDF−VPD−1001、Amaxa、Walkersville、MD)を介して1×106細胞の中にコトランスフェクトした。それぞれのnucleofectionからのトランスフェクト包皮線維芽細胞は、線維芽細胞培養培地において3×10cm MEF接種皿に直接平板培養した。成人皮膚線維芽細胞については、7.3μgのpEP4EO2SCK2MEN2Lおよび6.4μgのpEP4EO2SET2Kは、nucleofection(プログラムU−20を用いるNHDF−VPD−1001、Amaxa、Walkersville、MD)を介して1×106細胞の中にコトランスフェクトした。それぞれのnucleofectionからのトランスフェクト成人皮膚線維芽細胞は、より低い細胞生存のために、線維芽細胞培養培地において1×10cm MEF接種皿に直接平板培養した。翌日、線維芽細胞培養培地は、zbFGF(100ng/ml)を補足したまたはなしの、以下の化合物:H−HA−100(10μM);B−BIX01294(1μM);P−PD0325901(0.5μM);C−CHIR99021(3μM);A−A−83−01(0.5μM)およびL−hLIF(10ng/ml)ありのまたはなしの新鮮な線維芽細胞培養培地または様々なリプログラミング培地(たとえば、MEF−CMを用いてあらかじめ調整したヒトES細胞培養培地、ヒトES細胞培養培地、mTeSR(商標)1、N2B27)と交換した。ヒトES細胞様のiPS細胞を得るために、リプログラミング培地は、トランスフェクション後の13〜20日目に、100ng/ml zbFGFまたはmTeSR(商標)1を補足したCMと交換した。別個のタイプのiPS(部分的にリプログラミングされたiPSCについてはpiPSC)細胞を得るために、リプログラミング培地は、PCALを補足したCMまたはN2B27培地と交換した。アルカリホスファターゼ染色(Cat# SCR004、Millipore、Billerica、MA)は、リプログラミング効率をチェックするために、トランスフェクション後の18日目および24日目の間に実行した。
【0205】
BIX01294は、それだけで、エピソームベクターによるリプログラミングを改善することができ(図1A)、PD0325901、CHIR99021、およびA−83−01の組合せにおける利益を示さなかったまたはわずかに示したのみであった(図1Bおよび2A)。PD0325901およびCHIR99021のみが十分であったマウス神経幹細胞リプログラミング(Silvaら、2008年)と異なり、3つすべての化学化合物(PD0325901、CHIR99021、およびA−83−01)が、最善のリプログラミング効率を達成するために必要とされた(図1B)。得られたiPS細胞コロニーは、3つすべての化学化合物の存在下において非iPS細胞コロニーと容易に識別可能になり得る(図1C)。これは、ピッキングおよび増殖の間のiPS細胞クローン性の維持、初代リプログラミング培養の継代が、非iPS細胞からiPS細胞を同定するために必要とされた以前のプロトコール(Yuら、2009年)からの大きな改善を可能にするであろう。HA−100は、ヒトES細胞クローニング効率を改善することが示された。HA−100は、実験のサブセットに含めた。ヒトLIF(hLIF、またはL)の追加は、PD0325901、CHIR99021、およびA−83−01を用いるエピソームリプログラミングをさらに促進した(図2A)。さらに、LIFを追加すると、iPS細胞の最初の出現が、およそ3〜4日早くなり(トランスフェクション後、約14日目)、より多くの大きなiPS細胞コロニーが存在した(図2A)。
【0206】
PD0325901が、bFGFシグナル伝達の下流の標的であるMEK活性を効率的に阻害するので、リプログラミングに対するbFGFの効果もまた、検査した。図2Aにおいて示されるように、高濃度のbFGF(100ng/ml)は、この特定のリプログラミング条件下で有利であった。この効果は、高度なbFGFレベルの非MEK媒介性の効果に起因した可能性が最も高い。高度なbFGFレベルの効果は、特定のリプログラミング培養培地に依存するように思われた。たとえば、bFGFは、馴化ヒトES細胞培養培地(CM)および無血清限定N2B27培地が使用された場合、有益な効果を示した(図2Aおよび4A)が、無馴化ヒトES細胞培養培地が試験された場合、逆効果が観察された(図4A)。図2Bにおいて示されるように、化学化合物の早期の追加は、リプログラミング効率を増加させ、より長い化学処理が、最善のリプログラミング効率を達成するために必要とされた。
【0207】
ヒトES細胞およびヒトES細胞様のiPS細胞の増殖は、移植後のマウス胚盤葉上層から誘導されるマウスEpiSCに類似して、FGFおよびTGFβ/アクチビンシグナル伝達経路の活性化を必要とする。PD0325901は、FGFシグナル伝達の下流の標的であるMEKを阻害し、A−83−01は、TGFβ/アクチビンシグナル伝達を阻害する。両方の薬剤がリプログラミングを増加させたという観察は、むしろ驚くべきことであった。図3Aにおいて示されるように、ヒトES細胞およびヒトES細胞様のiPS細胞の両方は、リプログラミング化学カクテル(PD0325901、CHIR99021、A−83−01、およびhLIF)の存在下において効率的な分化を受けた。化学カクテルの存在下において誘導されたiPS細胞の同一性を確認するために、iPS細胞は、通常のヒトES細胞培養条件における増殖のために採集した。初めの試験は、未分化細胞の小さな塊を有する多くの分化コロニーをもたらし、これは、ほとんどのコロニーが未分化のままであった、化学カクテルの非存在下において誘導されたiPS細胞とは非常に異なっていた。この結果は、化学カクテルの存在下において誘導されたほとんどのiPS細胞が通常のヒトES細胞様のiPS細胞とは異なっていたことを示唆する。
【0208】
化学カクテルの存在下において、iPS細胞は、採集し、マウス胚性線維芽細胞フィーダー上で増殖することができ(図3C)、多くの分化を伴うが、培養最適化の必要性を示唆する。通常のヒトES細胞培養条件下でこれらのiPS細胞を培養することによる化学カクテルの除去は、著しい分化をもたらし、これらの多くは、ロゼット構造物を形成し(図3D)、これらの細胞が、以前に誘導されたほとんどのヒトiPS細胞とは対照的に、効率的なin vitroにおける神経分化が可能であることを示唆する。hLIFがリプログラミングを改善したというこれらのデータおよび観察は、このタイプのヒトiPS細胞が、通常のヒトES細胞様のiPS細胞とは異なることを示唆し、リプログラミング細胞の中間段階であることがその後、分かった。
【0209】
化学的に誘導されたiPS細胞を採集し、通常のヒトES細胞培養条件下で増殖した場合の小さな未分化細胞塊の存在は、通常のヒトES細胞様のiPS細胞もまた、化学処理したリプログラミング培養から誘導することができる可能性を高めた。実際に、化学カクテルが、最低10日間の処理後にリプログラミング培養から除去された場合、通常のヒトES細胞様のiPS細胞は、通常のヒトES細胞培養条件下で直ちに増殖した(図3B)。これらのiPS細胞の起源は、興味深い問題のままである。これらのiPS細胞は、先在する通常のヒトES細胞様のiPS細胞から増殖することができるまたはそれらは、piPS細胞が、通常のヒトES細胞培養条件下で通常のヒトES細胞様のiPS細胞を直ちに誘発することができるので、piPS細胞から誘導することができる。
【0210】
ヒト体細胞のリプログラミングは、一般に、MEFを用いてあらかじめ調整したヒトES細胞培養培地(CM)を用いてMEFフィーダー上で実行した。MEFの品質は、異なるバッチの間に著しく変動し、これは、リプログラミング効率の一貫性に非常に影響を与える。また、MEFおよびCMの調製は、かなり重労働となり得る。さらに、MEFフィーダーおよびCMの両方は、種々様々の細胞型の成長を支持し、これらは、リプログラミングの間の非iPS細胞の増殖がリプログラミングに負に影響を与え得るので、リプログラミング効率に対する著しい制限をもたらす。この問題を克服するために、異なる培地を試験した。図4Aにおいて示されるように、TeSR、bFGFサプリメントなしの無馴化ヒトES細胞培養培地、およびN2B27培地は、bFGFを補足したCMよりも高い、強いエピソームリプログラミングを支持した。
【0211】
さらに、異なるリプログラミング培地(ステップ2、図4B)は、異なる効率で、2つのタイプのiPS細胞を誘発した。どのリプログラミング培地を使用したかに依存して、2つのタイプのiPS細胞を得る効率は、図4Aにおいて示されるように異なった。たとえば、hESC培地(+PCALH)をリプログラミングにおいて使用した場合、ヒトES細胞様のiPS細胞は、CM+bFGFまたはTeSR増殖培地を使用して、リプログラミング培養から直ちに得ることができ、N2B27+PCAL増殖培地を使用した場合、piPS細胞を得ることができる。しかしながら、N2B27培地(+PCALH)をリプログラミング培地として使用した場合、ヒトES細胞様のiPS細胞を得ることができないまたはめったに得ることができない。
【0212】
これは、リプログラミング培地(ステップ2、図4B)および増殖培地(ステップ3、図4B)の組合せが、おそらく、リプログラミング培養におけるiPS細胞の不均一性のレベルに影響を与えるであろうということを示唆する。それぞれのiPS細胞型の誘導に最適な培地の組合せは、iPS細胞のクローン間の差異を最小限にするために選択することができる。
【0213】
(実施例2)
小分子を用いるフィーダーフリーエピソームリプログラミング
ヒトiPSCは、ヒト胚性幹細胞(ESC)に類似して、無限の増殖が可能であり、体のすべての細胞型に分化するための潜在能力を有する。これらの細胞は、したがって、基本的な生物学、疾患モデリング、薬剤開発、および移植療法における適用を有する。リプログラミング因子の決定されたセットの発現によって、iPSCは、異なる種の多くの細胞型から生成された(Takahashiら、2007年;Yuら、2007年;TakahashiおよびYamanaka、2006年;Liuら、2008年;Estebanら、2009年;Lohら、2009年;Sunら、2009年;Shimadaら、2010年)。iPSC生成のための初めの方法は、ゲノム組み込み型レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターを利用した(Yuら、2007年;TakahashiおよびYamanaka、2006年)。これらのアプローチは、腫瘍形成性の挿入変異をもたらし得、iPSC分化の間の導入遺伝子発現の残留または再活性化は、iPSC誘導体の系列選択および機能性に影響を与え得た(Yuら、2007年;Okitaら、2007年)。これらの問題を克服するために、リプログラミング因子(プラスミド、小環状DNA、非組み込み型アデノウイルスベクター、およびタンパク質)を用いる繰り返しの処理、トランスポゾン、ならびにRNAウイルスベクター(Okitaら、2008年;Stadtfeldら、2008年;Fusakiら、2009年;Kajiら、2009年;Woltjenら、2009年;Zhouら、2009年;Jiaら、2010年)を含む様々な方法が、フットプリントフリーのiPSCを誘導するために開発された。しかしながら、これらの方法は、以下の1つ以上の制限を受ける:容認できない低リプログラミング効率;iPSCからのリプログラミング因子の重労働な除去;ウイルスパッケージ細胞またはフィーダー細胞の必要。したがって、多くのヒトドナー試料からのフットプリントフリーのiPSCのルーチン的な誘導および最終的に、臨床グレードのヒトiPSCの誘導を可能にするための単純で効率的なフィーダーフリーの方法を開発するための必要性がある。
【0214】
フットプリントフリーのヒトiPSCは、リプログラミング遺伝子(OCT4、SOX2、NANOG、LIN28、c−MYC、KLF4、およびSV40LT)を送達するためにoriP/EBNA−1(エプスタイン−バー核抗原−1)エピソームベクターを使用して、先に生成された(Yuら、2009年)。他の方法と比較して、このアプローチは、いくつかの利点を有する。第1に、oriP/EBNA−1ベクターは、幅広い宿主細胞の範囲を有し、多くのヒト細胞型へのこの方法の適用を可能にする。第2に、それは、ウイルスパッケージングを必要としない。第3に、リプログラミング因子を用いる繰り返しの処理が必要とされない。ヒトiPSCの誘導には、エピソームベクターの1回のトランスフェクションで十分である。さらに、より高度なトランスフェクション効率は、ベクターDNAのoriP/EBNA−1媒介性の核移入および保持によりこれらのベクターを用いて達成することができる(MiddletonおよびSugden、1994年)。第4に、oriP/EBNA−1ベクターは、細胞周期当たりに1回複製し、一般に、細胞当たり低コピー数で存在し、したがって、DNA再配列およびゲノム組み込みを最小限にする(YatesおよびGuan、1991年)。最後に、ヒトiPSCからのエピソームベクターの除去は、iPSCにおけるEBNA−1発現を駆動するウイルスのプロモーターのサイレンシングおよびoriP/EBNA−1エピソーム状態の固有の不安定性により、さらなる操作を伴わないで単純な細胞培養によって達成することができ、安定して確立されたエピソームは、ベクター合成および分割における欠損により、細胞世代当たり約5%の率で細胞から失われる(Nanboら、2007年)。これらの利点にもかかわらず、発明者らの最初のoriP/EBNA−1エピソームアプローチは、低リプログラミング効率を示し(約1×106のインプットヒト包皮線維芽細胞から約3つのiPSCコロニー)、マウス胚性線維芽細胞(MEF)フィーダー細胞を使用したが、これは、この方法の産業上および治療上の適用を深刻に制限する。
【0215】
これらの制限を克服するために、発明者らは、最初に、エピソームリプログラミング効率の改善のために小分子をスクリーニングした。oriP/EBNA−1ベクターは、トランスフェクト細胞の1〜10%のみにおいて、安定したエピソームを確立することができる(LeightおよびSugden、2001年)。トランスフェクション後の最初の2週間の間、トランスフェクト細胞は、細胞世代当たり>25%でoriP/EBNA−1ベクターを失い、これには、おそらくDNAメチル化を通して媒介される導入遺伝子サイレンシングが伴う(Kamedaら、2006年)。ベクター損失または導入遺伝子サイレンシングによる、トランスフェクション後の最初の2週間の間の導入遺伝子発現の損失は、主として、低エピソームリプログラミング効率の原因となる。したがって、リプログラミングプロセスを速めるまたは導入遺伝子サイレンシングを低下させるまたは安定したエピソーム確立の効率を増加させることができる小分子が、リプログラミングを改善することが予想される。リプログラミングを促進することが先に示された小分子を試験することによって、発明者らは、MEK阻害剤PD0325901、GSK3β阻害剤CHIR99021、およびTGF−β/アクチビン/Nodal受容体阻害剤A−83−01の追加によりエピソームリプログラミング効率を大幅に増強することができることを発見した(図5A)。以前の研究は、TGF−βシグナル伝達阻害剤が、MEK阻害剤PD0325901と共に、ウイルスのリプログラミング効率の>100倍の増加をもたらしたことを示した(Linら、2009年)。図1aにおいて示されるように、TGF−βシグナル伝達阻害剤A−83−01は、単独でまたはMEK阻害剤PD0325901と共に、エピソームリプログラミングに対して最小限の効果を有した。3つの阻害剤PD0325901、CHIR99021、およびA−83−01すべてが、リプログラミング効率の最大の増加を達成するために必要とされた。ヒト白血病抑制因子(hLIF)は、エピソームリプログラミング効率を著しく改善しなかったが、リプログラミング中間体の増殖を増加させた。ROCK阻害剤HA−100は、それだけで最小限の効果を有したが、PD0325901、CHIR99021、A−83−01、およびhLIFの存在下においてエピソームリプログラミング効率をさらに増加させた。HA−100の効果は、それを、類似する機能を有する他の阻害剤、たとえばH−1152およびブレビスタチンと交換することができなかったので、個別化されたヒトiPSCの細胞生存を促進する際にその機能を通して媒介されなかったかもしれない(Watanabeら、2007年;Chenら、2010年)。エピソームリプログラミング効率の増加は、小分子処理の期間と相関した(図5B)。トランスフェクション後の1日目および5日目の間の処理は、特に、それらの最大の効果にとって重要であるように思われた。
【0216】
ヒトESCは、マウス胚盤葉上層誘導幹細胞(EpiSC)と類似する遺伝子発現および培養必要条件を示し、初期の胚盤胞段階から誘導されたマウスESCと異なる。以前の研究は、あらかじめこれらの阻害剤に曝露されなかったリプログラミング培養物からのマウスESC様のヒトiPSCを増殖するためのPD0325901、CHIR99021、A−83−01、およびhLIFの能力を示した(Liら、2009年)。これらのマウスESC様のヒトiPSCは、これらの小分子の除去後に直ちに分化した。ヒトESCは、これに反して、これらの小分子の存在下において速やかに分化した。驚いたことに、小分子の継続的な存在下において得られるヒトエピソームiPSCは、ヒトESCについての条件下(小分子なし)で最小限の分化と共に好適な増殖を示したが、採集され、それらの誘導に使用した同じ条件において、つまり小分子の存在下において増殖した場合、広範囲な分化を受け(図5C)、これらのiPSCが、おそらく、マウスESCではなくヒトESCに類似する多能性状態にあることを示唆する。外見的には相いれない結果は、小分子の存在下におけるヒトESC様の多能性状態の生成を可能にするかもしれないリプログラミングに使用したMEF馴化ヒトESC培地における、小分子の有効性を軽減した活性の存在によって説明することができるかもしれない(たとえばbFGFおよびTGF−βシグナル伝達に対するリガンド)。
【0217】
ヒトESC培地において使用されるKnockOut(商標)血清代替品が、リプログラミングに干渉するかもしれない未知の因子を含有するので、小分子を軽減する活性を欠く培養培地を使用することによって、発明者らがマウスESC様のiPSCを効率的に生成することができるかどうかを知るために、また、特定されたリプログラミング条件を同定するために、エピソームリプログラミングを支持することができる限定培地を見つけるために実験を設定した。特に、限定N2B27培地を試験し、これは、単純な配合を有し、サイトカインを補足した場合に、ヒトESCの増殖を支持することができた(Liuら、2006年)。図6Aにおいて示されるように、小分子を補足したN2B27培地は、約6倍高い数の、アルカリホスファターゼ(ヒト多能性幹細胞マーカー)についてポジティブ染色されたコロニーを誘発した(試験2対試験1)。これらのコロニー(部分的にリプログラミングされたiPSCについてはpiPSC)は、マウスESC様のドーム形の形態を有し、これは、ヒトESC様のiPSCコロニーの典型的な平らな形態と異なる(図6B)。それらは、採集し、小分子を補足したN2B27培地において7回以上の継代の間、増殖することができた。しかしながら、これらの細胞のフローサイトメトリー分析は、ヒト多能性幹細胞に特異的な抗原(SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81)の発現を検出しなかったが、線維芽細胞マーカーCD44の発現が存在した(図10A)。定量的RT−PCR分析もまた、ヒト多能性幹細胞についての2つの本質的なマーカーである内因性のOCT4およびNANOGのいかなる発現をも検出しなかった(図6C)。これらの結果は、コロニーが、MEF馴化ヒトESC培地を用いて誘導されたものとしてのヒトESC様のiPSC(試験1)またはPD0325901、CHIR99021、およびLIFの存在下においてウイルスにより誘導されたものとしてのマウスESC様のiPSCではなく、部分的にリプログラミングされたiPSCであることを示唆し、したがって、iPSCの多能性状態に対するリプログラミング培養条件の重要な影響を示した(Hannaら、2010年;Bueckerら、2010年)。興味深いことに、piPSCは、小分子を補足したN2B27培地における複数回の継代後にさえ、豊富なエピソームベクターを含有し、高レベルの導入遺伝子発現を維持し(図6Cおよび図10B)、エピソームベクターおよび導入遺伝子発現の保持への小分子の可能性の高い関与を示唆した。小分子の除去は、限定ヒトESC培地mTeSR1におけるpiPSCの2週間の培養後に、広範囲な分化の中に、ヒトESC様のiPSCのところどころの出現を導いた。したがって、現在のリプログラミング条件は、マウスESC様のヒトエピソームのiPSCをもたらさなかったが、N2B27培地におけるヒトESC様のiPSCの誘導を可能にするためにリプログラミングプロトコールにおいて修飾を成すことができるかもしれない。
【0218】
この目的のために、発明者らは、リプログラミングプロセスを3つの段階:トランスフェクション(段階1)、リプログラミング(段階2)、および増殖(段階3)に分割し、mTeSR1を使用した(図6A)。小分子を補足したN2B27培地をリプログラミングを支持するために段階2で使用した場合、ヒトESC様のiPSCへのpiPSCのまれな変換のみを観察することができ、mTeSR1における増殖の間の導入遺伝子発現が、ほとんどのpiPSCにおける内因性の多能性遺伝子の発現を再活性化するのに不十分であったことを示唆した。したがって、発明者らは、小分子を補足したN2B27培地中へのさらなるサイトカインの追加によって、エピソームリプログラミングを改善することが可能であるかどうかを検査した(段階2)。ヒトESCの増殖に関係する因子のうちで、bFGFおよびTGF−β/アクチビン/Nodalシグナル伝達は、特に重要である。A−83−01によるTGF−β/アクチビン/Nodalシグナル伝達の阻害がリプログラミングを促進したので(図5A)、発明者らは、エピソームリプログラミングに対するbFGFの効果を試験した。実際に、N2B27培地への高濃度bFGFの追加は、ヒトESC様のiPSCコロニーの適切な数をもたらした(試験3)(図6A)。この結果は、高濃度bFGFがMEKに加えて複数の経路を通してヒトESC増殖を支持したという以前の観察と一致した。重要なことには、Matrigel(商標)は、さらに高度なリプログラミング効率でMEFフィーダー細胞に取って代わることができた(試験4)(図6A)。時間的経過実験は、小分子処理の最適期間についての必要条件を示した(図6D)。驚くほどのことではないが、段階2での、N2B27培地のTGF−β含有mTeSR1との置換は、エピソームリプログラミング効率を著しく減少させた(図10C)。したがって、小分子および限定培地を使用して、発明者らは、著しく改善された効率により、フィーダーフリーエピソームリプログラミング方法を確立した(1×106インプットヒト包皮線維芽細胞から>220のiPSCコロニー、>70倍の増加)(図6D)。
【0219】
新しく開発されたフィーダーフリーリプログラミング条件を用いて、発明者らは、成人皮膚線維芽細胞からのヒトESC様のiPSCの誘導に成功した。採集し、mTeSR1において増殖した場合、これらのiPSCは、典型的なヒトESC形態(たとえば密度の高いコロニー、高度な核−細胞質比、および顕著な核小体)を示し、正常な核型を有した(図7A〜7Fおよび図11A〜11E)。ほとんどのiPSCコロニーは、導入遺伝子発現もゲノム組み込みも示さず、PCRおよびRT−PCR分析によって示されるように複数回の継代(>14)後にエピソームベクターを完全に失った(図7Cおよび図11C)。それらのiPSCコロニーは、典型的なヒトESC特異的抗原(SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81)を発現し、線維芽細胞マーカーCD44の発現をダウンレギュレートし(図11D)、内因性多能性遺伝子(OCT4、NANOG、SOX2、およびLIN28)の発現を再活性化した(図7D)。OCT4およびNANOGの両方のプロモーターは、ヒトESCに類似してならびに親の線維芽細胞およびpiPSCとは対照的に、これらのiPSCにおいて脱メチル化された(図7E)。免疫無防備状態のマウスに注射した場合、それらのマウスは、3つの胚葉すべての誘導体から成る奇形腫を形成し、これらのiPSCの多能性を示した(図7Fおよび図11E)。
【0220】
フィーダーフリーエピソームリプログラミングに対する小分子の効果は、細胞型特異的でないが、異なる体細胞型に適用される(図8A〜8C)。さらに、このデータは、それぞれの細胞型に最適なリプログラミング効率を達成するための、エピソームベクターの正しい組合せ(異なるリプログラミング導入遺伝子の組合せおよび異なる導入遺伝子の発現レベル)を同定する重要性を示す。
【0221】
エピソームリプログラミング効率の著しい改善は、形質転換欠損MYCにより達成され(図9)、たとえば、LMYCは、1×106インプットヒト包皮線維芽細胞当たり、約1000のiPSCコロニーをもたらした。
【0222】
要約すると、遺伝学的および化学的アプローチの組合せを使用して、発明者らは、非ウイルスフィーダーフリーエピソームリプログラミング方法の確立に成功し、効率が非常に改善された。この方法は、線維芽細胞を用いて開発されたが、脂肪組織および末梢血などのような生きているヒトドナーから容易に得られる組織の細胞型に適用可能である。異なる細胞型が、リプログラミング因子の特異的な組合せおよび発現レベルについての選択性を有するように思われるので、最適な効率のために異なるエピソームリプログラミングベクターを試験することが必要であるかもしれない。さらなる特徴は、リプログラミング効率をさらに改善するためにエピソームベクターの中に導入することができる。たとえば、現在のエピソームベクターは、細菌の増殖に必要なエレメントを有し、これは、導入遺伝子サイレンシングの一因となる公知の多くのCpG島を含有する(Chenら、2004年)。小環状oriP/EBNA−1エピソームベクターを産生するために部位特異的組換えを使用して細菌ベクター構成成分を除去することによって導入遺伝子サイレンシングを最小限にすることが可能である。しかしながら、新しい方法は、多数のヒトドナー試料からのフットプリントフリーのiPSCのルーチン的な誘導に十分に単純で、効率的であり、ドナー細胞付着およびiPSC増殖を支持する限定マトリックス(defined matrix)を用いると、この方法は、臨床グレードのヒトiPSCの産生に容易に適応することができる。
【0223】
細胞培養.ヒトESCおよびiPSCは、20%KnockOut(商標)血清代替品、0.1mM非必須アミノ酸、1mM GlutaMAX(すべてInvitrogen、Carlsbad、CAから)、0.1mM β−メルカプトエタノール(Sigma,St.Louis、MO)、および100ng/mlゼブラフィッシュ塩基性線維芽細胞増殖因子(zbFGF)を補足したDMEM/F12培養培地において照射MEF上で維持した(Yuら、2009年)。MEF馴化ヒトESC培地は、先に記載されるように調製した(Xuら、2001年)。ヒト新生児包皮線維芽細胞(Cat# CRL−2097(商標)、ATCC、Manassas、MA)および成人皮膚線維芽細胞(Cat# CRL−2106(商標)、ATCC)は、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS、Hyclone Laboratories、Loan、UT)、0.1mM非必須アミノ酸、1mM GlutaMAX、0.1mM β−メルカプトエタノール、および4ng/ml zbFGFを補足したDMEM(Invitrogen)において培養した。
【0224】
mTeSR(商標)1(STEMCELL Technologies、Vancouver、BC、Canada)におけるMatrigel(商標)(BD Biosciences、Bedford、MA)上でのヒトESCおよびiPSCのフィーダーフリー培養は、継代手順における修飾と共に、先に記載されるように実行した(Ludwigら、2006c)。手短かに言えば、EDTA分解方法を利用した。ヒトESCおよびiPSCがコンフルエンスに達した場合、細胞は、Ca2+およびMg2+なしのPBSを用いて1回洗浄し、37℃で8分間、0.5mM EDTAと共にインキュベートした(2ml/6ウェルプレートのウェル)。インキュベーション後に、EDTA溶液を除去し、新鮮なmTeSR1(2ml/6ウェルプレートのウェル)を、細胞脱離のためにそれぞれのウェルに滴下して追加した。ほとんどの細胞は、緩やかな振盪によりプレートから離れた。次いで、解離した細胞は、mTeSR1を用いてあらかじめ充填した新たに調製したMatrigel(商標)プレートの中に直ちに等分した。細胞付着および生存を改善するために、ROCK阻害剤HA−100(10μM、Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA)を、継代の間に1日間、mTeSR1に追加した。この方法を用いて、ヒトESCおよびiPSCは、最適な増殖のために1:8の分割比で3〜4日毎に継代した。
【0225】
ヒト線維芽細胞のリプログラミング.ヒトOCT4、SOX2、NANOG、LIN28、c−MYC、KLF4、およびSV40LT導入遺伝子のための発現カセットを含有するエピソームリプログラミングベクターは、先に記載されている(Yuら、2009年)。特に、ベクターpEP4EO2SCK2MEN2LおよびpEP4EO2SET2K(組合せ4)は、リプログラミング最適化のために使用した。約7.3μgのベクターpEP4EO2SCK2MEN2Lおよび3.2μgのpEP4EO2SET2Kは、nucleofection(U−20プログラムを用いるNHDF−VPD−1001、Amaxa、Walkersville、MD )を介してヒト新生児包皮線維芽細胞の中にコトランスフェクトした。トランスフェクト線維芽細胞(nucleofection当たり約1.0×106細胞)は、線維芽細胞培養培地において、3×10cm MEF接種皿または3×10cm Matrigel(商標)コーティング皿に直接平板培養した。トランスフェクション後の翌日、線維芽細胞培地は、100ng/ml zbFGF(CM100)を補足したMEF馴化ヒトESC培地または合成N2B27培地(N2B27)もしくは100ng/ml zbFGFを補足したN2B27培地(N2B27−100)またはmTeSR1と交換した。N2B27培地は、N−2サプリメント(1×、Invitrogen)、B−27サプリメント(1×、Invitrogen)、0.1mM非必須アミノ酸、1mM GlutaMAX、および0.1mM β−メルカプトエタノールを補足したDMEM/F12培養培地から成る。加える場合、小分子PD0325901(P、0.5μM)、CHIR99021(C、3μM)、A−83−01(A、0.5μM)(すべてStemgent、San Diego、CAから)、hLIF(L、1000U/ml、Millipore、Billerica、MA)、およびHA−100(H、10μM)は、リプログラミング培養に追加した。培養培地は、2日毎にリフレッシュした。アルカリホスファターゼ染色(Cat# SCR004、Millipore)は、iPSCの同定を促進するためにリプログラミング実験のサブセットにおいて実行した。限定培養培地を使用するヒト成人皮膚線維芽細胞のフィーダーフリーエピソームリプログラミングは、プロトコールにおける最小限の変化を伴って、包皮線維芽細胞と同様に実行し、トランスフェクト成人線維芽細胞は、nucleofection後に、より低い細胞生存により、3枚の代わりに1枚の10cm Matrigel(商標)皿に平板培養した。フィーダーフリー条件下で誘導されたiPSCを特徴付けるために、典型的なiPSC形態を有するコロニーは、mTeSR1におけるMatrigel(商標)コーティング12ウェルプレート上に直接採集した。EDTA分解方法は、継代の間の分化細胞の持ち越し汚染を最小限にしながらiPSC増殖を促進するために利用した。エピソームリプログラミングベクターの完全な損失は、ヒト包皮線維芽細胞および成人皮膚線維芽細胞の両方から誘導されたすべてのiPSCクローンについて14継代のあたりで一般に達成された。
【0226】
RT−PCR発現分析、エピソームベクターのPCR分析、重亜硫酸配列決定分析、フローサイトメトリー分析、および核型分析。PCR、RT−PCR、フローサイトメトリー分析は、先に記載されるように実行した(Yuら、2007年;Yuら、2009年)。OCT4およびNANOGのプロモーターのメチル化ステータスは、MethylCode(商標)Bisulfite Conversion Kit(Invitrogen)を用いて重亜硫酸配列決定を使用して分析した(Yuら、2009年)。プライマーはすべて表1中のものとし、抗体は、表2中のものとした。標準的なG結合染色体分析は、Cytogenetics Lab at WiCell Research Institute(Madison、WI)で実行した。
【0227】
表1.PCR、RT−PCR、および重亜硫酸配列決定PCR用のプライマー
【0228】
【表1−1】
【0229】
【表1−2】
表2.フローサイトメトリー分析用の抗体
【0230】
【表2】
奇形腫形成.フィーダーフリー条件下で誘導されたヒトiPSCのin vivoにおける発生多能性を検査するために、mTeSR1におけるMatrigel(商標)上で成長させたiPSCは、1回の継代のためにMEFフィーダー細胞に移した。細胞は、コラゲナーゼ処理を用いて収集し、6週齢の免疫無防備状態のSCIDベージュマウスの後ろ足の筋肉の中に注射した(マウス当たり50〜80%コンフルエンスのおよそ1枚の10cm皿)(Harlan、Madison、WI)。6〜8週間後に、奇形腫を解剖し、10%ホルマリン(Fisher、Pittsburgh、PA)中で固定した。試料は、パラフィン中に包埋し、Experimental Pathology Department of McArdle Laboratory for Cancer Research、University of Wisconsin−Madison、WIにおいてヘマトキシリンおよびエオシン染色を用いて処理した。
【0231】
本明細書において開示され、主張される方法はすべて、本開示を考慮して、不必要な実験作業を伴わないで成され、かつ実行することができる。本発明の組成物および方法は、好ましい実施形態の点から記載されるが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書において記載される方法、ステップ、または方法のステップの順序において変更が適用されてもよいことは、当業者らに明らかであろう。特に、化学的にまた生理学的に関係するある種の作用物質は、本明細書において記載される作用物質と置換されてもよく、そのうえ、同じまたは類似する結果が達成されることが明らかであろう。当業者らに明らかなすべてのそのような類似する代用物および修飾は、添付の請求項によって定義されるように、本発明の精神、範囲、および概念内にあると考えられる。
【0232】
参考文献
以下の参考文献は、それらが、本明細書において記載されるものに対して補足的な、例示的な手順のまたは他の詳細を提供する程度まで、参照によって本明細書において明確に組み込まれる。
【0233】
【数1】
【0234】
【数2】
【0235】
【数3】
【0236】
【数4】
【0237】
【数5】
【0238】
【数6】
【0239】
【数7】
【0240】
【数8】
【0241】
【数9】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
iPS細胞の集団を作製するための方法であって、
a)1つ以上のリプログラミング因子を発現する染色体外遺伝エレメントを含む体細胞を得るステップと、
b)外部添加のGSK−3阻害剤、MEK阻害剤、およびTGF−β受容体阻害剤を含むリプログラミング条件において該体細胞およびその子孫細胞を培養し、それによってiPS細胞の集団を作製するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記リプログラミング条件は、フィーダー細胞を本質的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リプログラミング条件は、マトリックス構成成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記マトリックス構成成分は、Matrigel(商標)を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記体細胞は、ヒト細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記体細胞は、線維芽細胞、ケラチノサイト、造血細胞、間葉細胞、脂肪細胞、内皮細胞、神経細胞、筋細胞、乳房細胞、肝細胞、腎細胞、皮膚細胞、消化管細胞、卵丘細胞、腺細胞、または膵島細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記染色体外遺伝エレメントは、DNAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記染色体外遺伝エレメントは、RNAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記染色体外遺伝エレメントは、エピソームベクターとしてさらに定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記エピソームベクターは、細菌エレメントを本質的に含まない、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記エピソームベクターは、リプログラミング因子の発現のための複製開始点および1つ以上の発現カセットを含み、該発現カセットの1つ以上は、染色体外鋳型を複製するために複製開始点に結合するトランス作用因子をコードするヌクレオチド配列をさらに含み、そして/または前記体細胞は、そのようなトランス作用因子を発現する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記複製開始点は、リンパ向性ヘルペスウイルスの複製開始点であり、エプスタインバーウイルス(EBV)のoriPに対応する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記複製開始点は、EBV、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV)、ヘルペスウイルスサイミリ(HS)、またはマレック病ウイルス(MDV)の複製開始点である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記トランス作用性因子は、EBV核抗原1(EBNA−1)である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記リプログラミング因子は、Sox、Oct、Nanog、Lin−28、Klf4、c−Myc、形質転換が欠損しているmyc変異体またはホモログ、およびSV40LTから成る群から選択される1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記リプログラミング因子は、形質転換が欠損しているmyc変異体またはホモログを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記リプログラミング因子は、LMYC(NM_001033081)、N末端の41アミノ酸が欠失したMYC(dN2MYC)、またはアミノ酸136に変異を有するMYC(W136E)を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞は、少なくとも5日間、前記リプログラミング条件において培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞は、前記体細胞への前記染色体外遺伝エレメントの導入後の少なくとも約1日間〜5日間を含む期間、前記リプログラミング条件において培養される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞は、前記体細胞への前記染色体外遺伝エレメントの導入後の約1日間〜15日間を含む期間、前記リプログラミング条件において培養される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
外部添加のGSK−3阻害剤、MEK阻害剤、およびTGF−β受容体阻害剤を本質的に含まない増殖培地を有する増殖条件において前記iPS細胞を培養するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記増殖培地は、既知組成培地である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記増殖培地は、TeSR培地またはmTeSR培地である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記iPS細胞を選択するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記iPS細胞は、1つ以上の胚細胞の特質に基づいて選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記リプログラミング培地は、外部添加のLIFをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
リプログラミング培地は、外部添加のRho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤またはミオシンII阻害剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記ROCKシグナル伝達阻害剤は、HA−100である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記リプログラミング培地は、外部添加の線維芽細胞増殖因子(FGF)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記リプログラミング培地は、既知組成培地である、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記既知組成培地は、TeSR培地、ヒト胚細胞培養培地、またはN2B27培地である請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記リプログラミング培地は、外部添加のFGFを有する、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記リプログラミング培地は、外部添加のTGFβを本質的に含まない、請求項30記載の方法。
【請求項34】
外因性の遺伝エレメントを本質的に含まない人工多能性幹(iPS)細胞の集団ならびに外部添加のグリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK−3)阻害剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MEK)阻害剤、および形質転換増殖因子ベータ(TGF−β)受容体阻害剤を含む培地を含む組成物。
【請求項35】
前記培地は、既知組成培地である、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
マトリックス構成成分をさらに含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項37】
前記マトリックス構成成分は、Matrigel(商標)を含む、請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
前記培地は、外部添加のLIFをさらに含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項39】
前記培地は、外部添加のHA−100をさらに含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項40】
前記培地は、外部添加のFGFをさらに含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項1】
iPS細胞の集団を作製するための方法であって、
a)1つ以上のリプログラミング因子を発現する染色体外遺伝エレメントを含む体細胞を得るステップと、
b)外部添加のGSK−3阻害剤、MEK阻害剤、およびTGF−β受容体阻害剤を含むリプログラミング条件において該体細胞およびその子孫細胞を培養し、それによってiPS細胞の集団を作製するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記リプログラミング条件は、フィーダー細胞を本質的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リプログラミング条件は、マトリックス構成成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記マトリックス構成成分は、Matrigel(商標)を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記体細胞は、ヒト細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記体細胞は、線維芽細胞、ケラチノサイト、造血細胞、間葉細胞、脂肪細胞、内皮細胞、神経細胞、筋細胞、乳房細胞、肝細胞、腎細胞、皮膚細胞、消化管細胞、卵丘細胞、腺細胞、または膵島細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記染色体外遺伝エレメントは、DNAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記染色体外遺伝エレメントは、RNAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記染色体外遺伝エレメントは、エピソームベクターとしてさらに定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記エピソームベクターは、細菌エレメントを本質的に含まない、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記エピソームベクターは、リプログラミング因子の発現のための複製開始点および1つ以上の発現カセットを含み、該発現カセットの1つ以上は、染色体外鋳型を複製するために複製開始点に結合するトランス作用因子をコードするヌクレオチド配列をさらに含み、そして/または前記体細胞は、そのようなトランス作用因子を発現する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記複製開始点は、リンパ向性ヘルペスウイルスの複製開始点であり、エプスタインバーウイルス(EBV)のoriPに対応する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記複製開始点は、EBV、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV)、ヘルペスウイルスサイミリ(HS)、またはマレック病ウイルス(MDV)の複製開始点である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記トランス作用性因子は、EBV核抗原1(EBNA−1)である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記リプログラミング因子は、Sox、Oct、Nanog、Lin−28、Klf4、c−Myc、形質転換が欠損しているmyc変異体またはホモログ、およびSV40LTから成る群から選択される1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記リプログラミング因子は、形質転換が欠損しているmyc変異体またはホモログを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記リプログラミング因子は、LMYC(NM_001033081)、N末端の41アミノ酸が欠失したMYC(dN2MYC)、またはアミノ酸136に変異を有するMYC(W136E)を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞は、少なくとも5日間、前記リプログラミング条件において培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞は、前記体細胞への前記染色体外遺伝エレメントの導入後の少なくとも約1日間〜5日間を含む期間、前記リプログラミング条件において培養される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞は、前記体細胞への前記染色体外遺伝エレメントの導入後の約1日間〜15日間を含む期間、前記リプログラミング条件において培養される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
外部添加のGSK−3阻害剤、MEK阻害剤、およびTGF−β受容体阻害剤を本質的に含まない増殖培地を有する増殖条件において前記iPS細胞を培養するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記増殖培地は、既知組成培地である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記増殖培地は、TeSR培地またはmTeSR培地である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記iPS細胞を選択するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記iPS細胞は、1つ以上の胚細胞の特質に基づいて選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記リプログラミング培地は、外部添加のLIFをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
リプログラミング培地は、外部添加のRho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤またはミオシンII阻害剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記ROCKシグナル伝達阻害剤は、HA−100である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記リプログラミング培地は、外部添加の線維芽細胞増殖因子(FGF)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記リプログラミング培地は、既知組成培地である、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記既知組成培地は、TeSR培地、ヒト胚細胞培養培地、またはN2B27培地である請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記リプログラミング培地は、外部添加のFGFを有する、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記リプログラミング培地は、外部添加のTGFβを本質的に含まない、請求項30記載の方法。
【請求項34】
外因性の遺伝エレメントを本質的に含まない人工多能性幹(iPS)細胞の集団ならびに外部添加のグリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK−3)阻害剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MEK)阻害剤、および形質転換増殖因子ベータ(TGF−β)受容体阻害剤を含む培地を含む組成物。
【請求項35】
前記培地は、既知組成培地である、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
マトリックス構成成分をさらに含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項37】
前記マトリックス構成成分は、Matrigel(商標)を含む、請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
前記培地は、外部添加のLIFをさらに含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項39】
前記培地は、外部添加のHA−100をさらに含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項40】
前記培地は、外部添加のFGFをさらに含む、請求項34に記載の組成物。
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6−1】
【図6−2】
【図8】
【図9】
【図10C】
【図12】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6−1】
【図6−2】
【図8】
【図9】
【図10C】
【図12】
【公表番号】特表2013−509864(P2013−509864A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537223(P2012−537223)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/055444
【国際公開番号】WO2011/056971
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(510003830)セルラー ダイナミクス インターナショナル, インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/055444
【国際公開番号】WO2011/056971
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(510003830)セルラー ダイナミクス インターナショナル, インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
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