説明

化学物質増強洗浄方法を用いた木材チップの加水分解および蒸解のための単一槽反応装置系

【課題】セルロース材料の加水分解が完了するまで、リグニンおよび他の木材成分の沈殿を減少できる容器を提供する。
【解決手段】セルロース材料が材料投入部から材料排出部へ流れる反応容器であって、加水分解物・液体取り出しスクリーンと、材料投入部と加水分解物・液体取り出しスクリーンとの間に設けられた加水分解領域Bと、加水分解物・液体取り出しスクリーンと洗浄液取り出しスクリーンとの間に設けられた洗浄領域Cと、少なくともその一部が洗浄領域を通過して前記加水分解物・液体取り出しスクリーンによって取り出される洗浄液を注入し、洗浄領域へ導入するための洗浄液注入口61と、洗浄領域と材料排出部との間に設けられた蒸解領域D、Eと、蒸解領域またはその下方および材料排出部の上方に設けられた蒸解溶液取り出しスクリーンと、を含むことを特徴とする反応容器とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系繊維材料の加水分解処理に用いられる方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシステムにおいては、米国特許第3,380,883号および第3,413,189号に記載されるような、蒸解器における処理または蒸解の前に、木材チップ(あるいは他のセルロースまたは繊維材料)に対して単一の容器内で加水分解処理を行うことができる。このようなシステムにおいては、加水分解は容器の最上部を通過する木材チップ、例えばセルロース材料などのスラリーにおいて酸性条件下に起こり、容器の下部において蒸解の継続した処理が行われ、容器の底部において洗浄が行われる。容器の上部領域では、加水分解物、例えばペントースやヘキソースなどの糖が木材チップから取り出され、回収される。
【0003】
加水分解は、蒸気、酸、および/または水を上部領域内に並流に導入することによって容器の上部領域全体において起こる。容器の下部領域では、セルロース材料は蒸解・洗浄された後、パルプとして容器から排出される。
【発明の開示】
【0004】
パルピングシステムのための新しい加水分解システムが開発された。セルロース材料、例えば木材チップの加水分解および蒸解は、単一の加圧反応容器内で行われる。セルロース材料は容器の上部領域で加水分解される。加水分解は、容器内においてpH値が1〜6、好ましくは3〜4、および150℃〜170℃の温度範囲、好ましくは160℃〜170℃の温度範囲の状態で起こる。加水分解物および液体は、容器内の上側取り出しスクリーンを通して反応器から除去される。容器の洗浄領域は上側取り出しスクリーンの下方および容器の蒸解領域の上方に設けられている。洗浄液は洗浄領域内を取り出しスクリーンに向かって上方に流れる。また、洗浄液は洗浄領域の底部に設けられた洗浄液取り出しスクリーンを通して容器から取り出される。
【0005】
冷たい洗浄液が洗浄領域を流れるセルロース材料の温度を低減し、セルロース材料の加水分解反応を抑制する。実質的にすべての加水分解反応が洗浄領域において抑制され、多くの加水分解物が洗浄領域の最上部に設けられた上側取り出しスクリーンを通過する洗浄液および溶液と共に、および(1つあるいはそれ以上の)洗浄領域の底部に設けられた(1つあるいはそれ以上の)取り出しスクリーンから除去される。上側取り出しスクリーンの下方および蒸解領域の上方に設けられた複数の洗浄領域は、セルロース材料から加水分解物を洗い流し、蒸解領域に先立ち加水分解が停止することを確保するために用いられる。
【0006】
洗浄領域に追加される洗浄液には、容器内のスラリーに含まれる木材の例えば0.01パーセント(%)〜5%、好ましくは0.1パーセント〜1パーセントの量の化学物質が含まれていてもよい。洗浄水あるいは洗浄液(化学物質が添加される場合)は取り出しスクリーンの下方にあるセルロース材料における加水分解反応を抑制する。この洗浄液は加水分解温度よりも10℃〜70℃、好ましくは20℃〜50℃、最も好ましくは25℃〜35℃の範囲で低い温度を有する。更に、洗浄液は好ましくは3〜7の範囲、最も好ましくは4〜5の範囲のPHを有する。水酸化ナトリウム(NaOH)、本質的に無硫黄の白液、あるいはこれらの混合物などの化学物質が洗浄液に添加されてもよい。この化学物質は洗浄水に添加され、加水分解を抑制して加水分解物を除去し、必要であれば洗浄液のpH値を調整する。洗浄水に化学物質を添加することにより、洗浄液が純水であった場合に起こるように、洗浄領域を通過するセルロース材料から実質的により多くの加水分解物を取り出すことができる。
【0007】
セルロース材料の化学蒸解は加水分解および洗浄領域の下方で行われる。蒸解化学物質は容器内の洗浄領域の下方に設けられた蒸解領域に導入される。セルロース材料の蒸解によって生成されたパルプは容器の底部から排出される。
【0008】
ここに開示されるプロセスでは、加水分解が完了するまでアルカリの導入を遅らせることによってリグニンおよび他の木材成分が沈殿するリスクを減少させる。このプロセスにより、セルロース材料の化学蒸解におけるアルカリ消費量も低減することができる。
【0009】
反応容器が開発されたが、この反応容器は、セルロース材料を投入する材料投入部および前記セルロース材料を排出する材料排出部を含み、前記セルロース材料が前記材料投入部から前記材料排出部へ流れる反応容器であって、加水分解物・液体取り出しスクリーンと、前記材料投入部と前記加水分解物・液体取り出しスクリーンとの間に設けられ、前記セルロース材料において加水分解反応が起こる加水分解温度以上の温度に維持される加水分解領域と、前記加水分解物・液体取り出しスクリーンと洗浄液取り出しスクリーンと洗浄液取り出しスクリーンとの間に設けられ、加水分解が実質的に抑制される洗浄領域と、前記加水分解温度より低い温度で前記洗浄領域に導入され、前記第2の容器領域における加水分解を抑止し、少なくともその一部が前記洗浄領域を通過して前記加水分解物・液体取り出しスクリーンへ向かう洗浄液を注入し、前記洗浄領域へ導入するための洗浄液注入口と、前記洗浄領域の下方に設けられ、蒸解溶液注入口を有する蒸解領域と、前記蒸解領域の下方に設けられた蒸解溶液取り出しスクリーンと、前記蒸解溶液取り出しスクリーンの下方に設けられ、蒸解セルロース材料を排出するパルプ排出部と、を含むことを特徴とする反応容器である。
【0010】
他の反応容器が開発されたが、この反応容器は、セルロース材料を投入する材料投入部および前記セルロース材料を排出する材料排出部を含み、前記セルロース材料が前記材料投入部から前記材料排出部へ流れる反応容器であって、前記容器内の前記セルロース材料を加熱および加圧する蒸気が導入される蒸気入口と、加水分解物・液体取り出しスクリーンと、前記材料投入部の下方および前記加水分解物・液体取り出しスクリーンの上方に設けられ、前記セルロース材料において加水分解反応が起こる加水分解温度以上の温度に維持される加水分解領域と、前記加水分解物・液体取り出しスクリーンの下方および冷却液取り出しスクリーンの上方に設けられ、前記加水分解温度より低い温度に維持される冷却領域と、前記冷却液注入口に注入され、前記加水分解温度より低い温度で前記冷却領域に導入され、少なくともその一部が前記冷却領域を上方へ流れて前記加水分解物・液体取り出しスクリーンによって取り出される水を、前記冷却領域へ導入するための水注入口と、前記冷却領域の下方および蒸解溶液注入口を有する蒸解領域の上方に設けられた第1の液体取り出しスクリーンと、前記蒸解領域あるいはそれより下方および前記材料排出部より上方に設けられた蒸解溶液取り出しスクリーンと、を含むことを特徴とする反応容器である。
【0011】
セルロース材料からパルプを製造する方法も開発され、この方法は、加圧された反応容器の上部投入口にセルロース材料を投入する工程と、前記容器に圧力および熱エネルギーを与える工程と、前記反応容器の加水分解領域において前記セルロース材料を加水分解する工程と、前記セルロース材料から、前記容器の前記加水分解領域の下方および冷却領域の上方に設けられた加水分解物・溶液取り出しスクリーンを通して加水分解物および液体を取り出す工程と、前記冷却領域における前記セルロース材料の加水分解を抑制し、少なくともその一部が前記セルロース材料を通って上方に流れ、前記取り出しスクリーンによって取り出される冷却液を前記冷却領域に注入する工程と、前記冷却領域の下方に設けられた蒸解領域において、前記蒸解領域に冷却溶液を注入することにより前記セルロース材料を蒸解する工程と、前記容器の前記蒸解領域の下方に設けられた排出口から前記蒸解されたセルロース材料を排出する工程と、を含むことを特徴とするパルプ製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は蒸気相加水分解および蒸解システムの単一容器10を示す。この容器は垂直に配置された円筒形反応容器であってよく、100フィートを超える高さを有していてもよい。この容器は大気圧より高い圧力で加圧されてもよい。この容器はパルプ処理プラントの一構成要素であってもよい。
【0013】
容器10はその内部に上部セパレータ12を有する。その上部セパレータに従来形のチップ供給システム16からパイプ14を介してセルロース材料のスラリーが搬送される。セルロース材料のスラリーは、セパレータ12内のスクリューコンベアによって容器の上部領域に排出される。上部セパレータはスラリーから液体の取り出しも行う。取り出された液体はパイプ13を介して容器から排出され、チップ供給システムに再循環されてもよい。
【0014】
セルロース材料およびスラリーに残留する液体は上部セパレータ12から排出され、容器内の上方位置にある気相20を通って落下する。この容器が気相容器である場合、排出されたセルロース材料は気相を通って容器内のチップレベル22の最上部に落下する。この容器が水圧(満液)容器である場合、上部セパレータから排出された材料は容器内に満たされたスラリーに直接入り込む。
【0015】
新しいセルロース材料がセパレータから落下するに伴い、すでにチップレベル22あるいはその下方にある材料は容器のさらに下方に押しやられる。容器における溶液レベル24はチップレベルと同じか、その近傍であってよい。液体レベルは、チップレベル22の最上部によって一般に示されるセルロース材料の固体チップの最上部が、全体的に液体レベル24の下に沈んでいるような状態が好ましい。
【0016】
大気圧より高い圧力の蒸気または他の加圧流体17がパイプ18を介して容器の最上部にある気相領域20に導入され、容器に熱および圧力を供給する。容器への熱エネルギーの主要な外部源は、蒸気であることが好ましい。容器の制御は、容器の最上部に導入される蒸気(または不活性ガス)によって供給される圧力に基づいて行われてもよい。気相あるいは蒸気相容器10を使用することにより、容器の最上部で起こり得る加水分解による気体形成に関連する操作上の問題を低減することができる。しかし、ここで開示するように、上側洗浄領域における洗浄液の導入に関しては水圧(満液)容器にも利点がある。
【0017】
加水分解は液面レベル24の下方で容器の上部領域(A)において起こる。上部領域(A)は通常液面レベル24から(1つあるいはそれ以上の)第1(上部)取り出しスクリーン26まで延在している。上部領域(A)は加水分解を促進する状態、例えば少なくとも150℃、好ましくは170℃の温度に維持される。ただし、例えば上部領域(A)の液に化学物質、例えば酸性溶液を加えた場合、加水分解を促進する温度は150℃〜170℃よりも低い場合もある。加水分解物は上部領域Aにおいて生成され、第1取り出しスクリーン(あるいはスクリーンセット)26によって除去される。
【0018】
上部領域(A)の溶解リグニンは、洗浄水と共に透過スクリーン26を通過してしまうことがあるため望ましくない。例えば11よりも高いpH値のアルカリ性条件下で溶解されたリグニンは、pHレベルが11よりも低くなると沈殿しやすくなる。上部領域(A)のpH値は11より低いことが好ましく、上部領域は相当量のリグニンがこの領域で溶解しないような状態に維持されることが好ましい。
【0019】
スクリーン26から取り出された液体はパイプ28を通ってフラッシュタンク30へ送られる。蒸発タンクで生成された蒸気31は、例えば容器の上部領域を加熱するなど、パルププラントの熱エネルギーとして使用されてもよい。フラッシュタンクの液体はパイプ130を介してチップ供給システムへ再循環され、セルロース材料のスラリーを容器10へ搬送するのに使用されてもよく、回収されて例えば加水分解物から糖を取り出すのに使用されてもよい。
【0020】
容器の洗浄領域(B)は第1取り出しスクリーン26と洗浄液取り出しスクリーン33との間に設けられている。洗浄液36が洗浄領域Bへ供給され、領域Bにおける加水分解をある程度抑制する。洗浄領域Bでは、容器内を下方に移動するチップ材料に対して向流洗浄が起こる。容器を通過する材料の流れは通常下向きで、向流液体の流れは通常上向きである。例えば洗浄水単独あるいは化学物質を含む洗浄水などの洗浄液の領域Bにおける通常の向流方向は上向きであり(領域Bの上向き矢印参照)、セルロース材料が容器を通過する通常の流れ方向は下向きである(領域Bの下向き矢印参照)。
【0021】
例えば単なる水あるいは水と化学物質の混合液などの洗浄液の温度は、加水分解温度よりも10℃〜70℃低いことが好ましく、20℃〜50℃低いことがより好ましく、25℃〜35℃低いことが最も好ましい。洗浄液のpH値は3〜7が好ましく、4〜5がより好ましい。洗浄液は、洗浄液給源36から、また洗浄液取り出しスクリーン33から取り出された溶液を再循環することにより領域Bなどの容器内の上方位置に供給される。この洗浄液および再循環溶液により、領域Bを通って上方取り出しスクリーン26へ向かう上昇流を十分に発生させることができる。セルロース材料の洗浄のほとんどが領域Bにおいて行われることが好ましい。
【0022】
洗浄液給源36内の洗浄液は単なる洗浄水であっても、洗浄水と、水酸化ナトリウム(NaOH)および本質的に無硫黄の白液などの化学物質のうちの1つ以上とを組み合わせたものであってもよい。本質的に無硫黄の白液に含まれる硫黄化合物は、0.10百万分の一(ppm)を超えないことが好ましい。例えば、洗浄水に添加される化学物質の量は、容器内を流れるスラリーにおける例えば木材などのセルロース材料の量の0.01%〜5%であってよく、好ましくは0.1%〜1%である。化学物質は化学物質給源53から供給され、パイプ57を通って洗浄液給源36において洗浄水34と混ざり合う。洗浄液と化学物質(供給される場合)の混合物36は洗浄液パイプ59を通過し、洗浄液取り出しパイプ37を流れる取り出された溶液の再循環流と混ざり合い、洗浄液注入口61から洗浄領域Bに戻される。
【0023】
洗浄液は、上方の取り出しスクリーン26へ向かって領域Bを上方へ流れるに伴って、上方の取り出しスクリーン26へ向かって領域Bを下方へ流れるセルロース材料と混ざり合う。洗浄液は材料を冷却し、酸や他の化合物を材料から洗い流す傾向がある。酸や他の化合物は取り出しスクリーン26を通って流出する。セルロース材料の冷却および洗浄により、セルロース材料内で起こる加水分解反応が抑制され、好ましくは停止する。
【0024】
セルロース材料が第3取り出しスクリーン38に向かって下方に流れるに伴って(領域Cの矢印参照)、第2スクリーン33の下方で並流洗浄が起こる。領域Cにおいては、流体は通常下方に向かって並行して、例えばセルロース材料と同じ方向に流れる。領域Cは、残留する加水分解物をセルロース材料から除去するための洗浄・緩衝領域である。残留加水分解物は取り出しスクリーン38を通過する流体内に取り出され、パイプ40を通ってフラッシュタンク42へ送られる。フラッシュタンク30と同様に、フラッシュタンク42からの蒸気は、例えば容器10の最上部に導入するなど、熱エネルギーとして回収してもよく、タンク42の液体はチップ供給システムに再循環して、加水分解物からの糖の回収など他の用途のために回収してもよい。スクリーン38および26からの加水分解物は、必要に応じてライン19Aおよび19Bを介して処理容器の最上部へ循環できる。
【0025】
加水分解冷却および洗浄領域(BおよびC)では、容器内を下方に移動するセルロース材料から加水分解物が除去される。領域BおよびCは、領域Aにおいて加水分解を行うセルロース材料と、領域DおよびEにおいて蒸解、例えば蒸煮を行うセルロース材料との緩衝領域である。これらの洗浄領域は、容器内の加水分解領域(A)の真下に設けられている。洗浄液の温度は、領域Bにおける材料よりも温度の低い洗浄液の領域Bへの供給量および洗浄液36に供給される洗浄水34の量を調整することにより、セルロース材料の加水分解温度よりも意図的に低くなるよう維持されてもよい。洗浄液は、加水分解を抑制するためにセルロース材料のスラリーおよび領域Bの溶液を冷却し、洗浄液がスクリーン26を通って取り出されるに従って加水分解物をセルロース材料から洗い流して除去することにより、セルロース材料からの加水分解物の除去を促進する。
【0026】
緩衝領域(領域C)から下方に移動するセルロース材料の温度は通常の加水分解温度よりも低いことが好ましい。セルロース材料の温度は、領域Bおよび必要に応じて領域Cへ流れ込む通常の加水分解温度よりも低い温度の洗浄液によって冷却される。
【0027】
また、洗浄液により、蒸解領域(DおよびE)に入る前の材料のpHレベルを中性近傍あるいは中性より高い値になるよう調整してもよい。通常、加水分解物の除去およびセルロース材料のpHレベルの調整を蒸解領域より上方で行うことにより、蒸解化学物質内の溶解リグニンが蒸解領域において沈殿するのを最小限に、あるいは防止することができる。
【0028】
洗浄液および溶液の取り出し・再循環パイプ37には、pHモニター44が設けられていてもよい。スクリーン33を通して取り出され、パイプ37を通して容器に戻される再循環洗浄液および溶液のpH値は、44によってモニタリングされる。パイプ37内の再循環洗浄液および溶液に追加される洗浄液36の量は、ライン37から容器へ流れる洗浄液および溶液のpH値がpH4〜pH10、あるいはより狭いpH6〜pH10、あるいはpH6〜pH8などの所定の範囲内に維持されるようにある程度決定されてもよい。パイプ37内の取り出された洗浄液および溶液のpH値が所定の範囲のpH値よりも高い場合、パイプ37に追加される洗浄液36の量を増加してもよい。洗浄液のpH値は通常は7であり、パイプ37に追加される洗浄液の量を増加すると、パイプ37内の液体のpH値はpH7に向かって減少することになる。さらに、パイプを通って容器へ流れる洗浄液および溶液のpH制御を援助するために、再循環パイプ37に酸性の化学物質(化学物質ソース53参照)を追加してもよい。パイプ37内の取り出された洗浄液および溶液のpH値が所定の範囲のpH値の最低値あるいはそれより低い場合、給源53からパイプ37の流れに導入される洗浄液36にpH値の高い化学物質を追加してもよい。
【0029】
加水分解および洗浄部(領域A〜C)における容器10の直径は、比較的均一であってよい。同様に、蒸解領域(領域D〜F)における容器の直径も比較的均一であってよく、領域A〜Cに対して均一であってもよい。あるいは、1つ以上の領域、例えばD〜Fが、より上方位置の領域よりも大きな直径を有していてもよい。
【0030】
セルロース材料の蒸解は、容器の洗浄・緩衝領域(A〜C)の下方にある領域DおよびEにおいて起こる。蒸解とは、セルロース材料を化学的に処理し、セルロース材料からリグニンを溶解させることである。蒸解化学物質は容器10の最上部には導入されないことが好ましく、第3取り出しスクリーン38より上方に導入されないことが好ましい。
【0031】
蒸解領域(D〜E、必要に応じてF)は洗浄・緩衝領域(BおよびC)の下方に設けられている。蒸解領域には蒸解化学物質が注入され、セルロース材料に速やかにかつ完全に浸透する。上側の蒸解領域(D)が下側の蒸解領域(EおよびF)に比べて低い温度で働くように蒸解領域が配置されてもよい。蒸解領域における溶液の流れは、並流であっても向流であってもよい。蒸解領域DおよびFにおいては溶液の流れは向流であり、領域Eにおいては溶液の流れは並流である。
【0032】
蒸解化学物質(溶液)50は容器の好ましくは領域Dに導入される。蒸解溶液再循環パイプ52は、領域Dの真下に設けられた取り出しスクリーン54から黒液を回収する。例えば白液などの付加的な蒸解溶液50がパイプ52から再循環され領域Dに導入された蒸解溶液と混ざり合う。セルロース材料の蒸解を開始するため、蒸解溶液は加熱されてもよい。蒸解プロセスは蒸解溶液が領域Dなどの蒸解領域に導入されることにより開始されてもよい。付加的な蒸解溶液は、領域EおよびFにおける様々な高さ位置にある1つ以上の取り出しスクリーン58において除去されてもよい。材料が領域EおよびFを容器最下部32のパルプ排出部56に向かって移動する際、セルロース材料の温度は比較的一定に保たれてもよい。
【0033】
容器における蒸解は、第1段(上方位値領域D)を通過するセルロース材料の温度が他段(下方位値領域EおよびF)におけるセルロース材料の温度より低いような複数の段で行われてもよい。任意の蒸解作業として、セルロース材料を蒸解溶液に導入しながら材料の蒸解を行ってもよい。また別の蒸解作業として、蒸解溶液に導入した後、蒸解プロセスが進むにつれて異なる温度で(例えば領域Dの温度が領域EおよびFよりも高くなるようにして)セルロース材料の蒸解を行ってもよい。
【0034】
領域Fは、最終蒸解領域あるいは洗浄領域である。洗浄水給源34から洗浄水が容器の最下部32へ導入され、洗浄水の給源34から最下領域Fを上方へ向かって流れる。セルロース材料が処理容器あるいは蒸解容器から排出される直前に、この洗浄水により最終洗浄領域、例えば領域Fにおいて、セルロース材料から蒸解化学物質が除去される。
【0035】
蒸発タンクおよび取り出しスクリーン26、33から排出される熱エネルギーを回収するために、熱回収方法を連続的に使用してもよい。例えば、洗浄液および溶液の取り出し・再循環パイプ37の循環流などから熱が回収できる場合、熱回収を行うには熱交換器などを使用する必要がある。また、予熱液体18を容器の最上部に注入する必要もある。この予熱は、循環パイプとの熱交換接触において容器から取り出される高温流を使用することにより達成することができる。
【0036】
以上、本発明を現状で最も実用的かつ好ましいと考えられる実施形態をもとに説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、むしろ付記されたクレームの意図および範囲における様々な変形および等価な変更等を包含することが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】セルロース材料の加水分解および蒸解を行う連続パルピング容器の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース材料を投入する材料投入部および前記セルロース材料を排出する材料排出部を含み、前記セルロース材料が前記材料投入部から前記材料排出部へ流れる反応容器であって、
加水分解物・液体取り出しスクリーンと、
前記材料投入部と前記加水分解物・液体取り出しスクリーンとの間に設けられ、前記セルロース材料において加水分解反応が起こる加水分解温度以上の温度に維持される加水分解領域と、
前記加水分解物・液体取り出しスクリーンと洗浄液取り出しスクリーンとの間に設けられ、加水分解が実質的に抑制される洗浄領域と、
前記加水分解温度より低い温度で前記洗浄領域に導入され、少なくともその一部が前記洗浄領域を通過して前記加水分解物・液体取り出しスクリーンによって取り出される洗浄液を注入し、前記洗浄領域へ導入するための洗浄液注入口と、
前記洗浄領域と前記材料排出部との間に設けられ、蒸解溶液注入口を有する蒸解領域と、
前記蒸解領域またはその下方および前記材料排出部の上方に設けられた蒸解溶液取り出しスクリーンと、
を含み、
前記洗浄液は水と、水酸化ナトリウムおよび本質的に無硫黄の白液の少なくとも一方の混合液である、
ことを特徴とする反応容器。
【請求項2】
前記洗浄液に含まれる水酸化ナトリウムおよび本質的に無硫黄の白液の少なくとも一方の量は、容器内のセルロース材料の0.01パーセント〜5パーセントの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の反応容器。
【請求項3】
前記水酸化ナトリウムおよび本質的に無硫黄の白液の少なくとも一方の量は、容器内のセルロース材料の0.1パーセント〜1パーセントの範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の反応容器。
【請求項4】
加水分解は前記容器内で150℃〜170℃の範囲の温度において行われることを特徴とする請求項1に記載の反応容器。
【請求項5】
前記範囲は160℃〜170℃であることを特徴とする請求項4に記載の反応容器。
【請求項6】
前記加水分解領域において、前記容器内の前記材料のpH値は1〜6の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の反応容器。
【請求項7】
前記範囲はpH3〜pH4であることを特徴とする請求項6に記載の反応容器。
【請求項8】
前記容器の前記加水分解領域あるいはそれより上方に加熱流体を導入するための熱エネルギー導入口を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の反応容器。
【請求項9】
前記洗浄領域は第1の洗浄領域であって、前記洗浄液取り出しスクリーンは第1の洗浄液取り出しスクリーンであり、前記容器は前記第1の洗浄領域の下方に第2の洗浄領域と、前記第2の洗浄領域の下方で前記蒸解領域の上方に第2の洗浄液取り出しスクリーンを更に含み、前記洗浄液注入口は前記第1の洗浄液取り出しスクリーンの上方に設けられ、前記洗浄液注入口に注入される前記洗浄液の少なくとも一部が前記第1および第2の洗浄液取り出しスクリーンにて取り出されることを特徴とする請求項1に記載の反応容器。
【請求項10】
前記洗浄領域に導入される際の前記洗浄液の温度は、前記加水分解温度よりも10℃〜70℃の範囲で低いことを特徴とする請求項1に記載の反応容器。
【請求項11】
前記範囲は20℃〜50℃であることを特徴とする請求項10に記載の反応容器。
【請求項12】
前記範囲は25℃〜35℃であることを特徴とする請求項10に記載の反応容器。
【請求項13】
前記洗浄領域に導入される際の前記洗浄液のpH値は3〜7の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の反応容器。
【請求項14】
前記反応容器は前記洗浄液取り出しスクリーンの排出部に連結された洗浄液取り出しパイプを更に含み、前記洗浄液取り出しスクリーンを通して取り出された液体は前記取り出しパイプ内を流れ、前記容器の外部にある洗浄液のソースから供給される洗浄液と混合され、前記混合された取り出された液および洗浄液は前記洗浄液注入口から前記洗浄領域に導入されることを特徴とする請求項1に記載の反応容器。
【請求項15】
前記反応容器は前記洗浄液取り出しスクリーンを通して取り出される前記液体のpHレベルをモニタリングするpHセンサーを更に含み、前記洗浄液取り出しスクリーンから取り出された前記液体に混合される前記洗浄液の量は前記モニタリングされたpHレベルに基づいて決定されることを特徴とする請求項14に記載の反応容器。
【請求項16】
前記加水分解物・液体取り出しスクリーンから取り出される液体が流入し、前記容器の前記加水分解領域あるいはそれより上方に蒸気を供給し、加水分解物を加水分解物回収システムへ排出する蒸発タンクを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の反応容器。
【請求項17】
前記加水分解領域における前記材料のpH値は11より低い値に維持されることを特徴とする請求項1に記載の反応容器。
【請求項18】
セルロース材料を投入する材料投入部および前記セルロース材料を排出する材料排出部を含み、前記セルロース材料が前記材料投入部から前記材料排出部へ流れる反応容器であって、
前記容器内の前記セルロース材料を加熱および加圧する蒸気が導入される蒸気入口と、
加水分解物・液体取り出しスクリーンと、
前記材料投入部の下方および前記加水分解物・液体取り出しスクリーンの上方に設けられ、前記セルロース材料において加水分解反応が起こる加水分解温度以上の温度に維持される加水分解領域と、
前記加水分解物・液体取り出しスクリーンの下方および冷却液取り出しスクリーンの上方に設けられ、前記加水分解温度より低い温度に維持される冷却領域と、
前記冷却液注入口に注入され、前記加水分解温度より低い温度で前記冷却領域に導入され、少なくともその一部が前記冷却領域を上方へ流れて前記加水分解物・液体取り出しスクリーンによって取り出される洗浄液を、前記冷却領域へ導入するための洗浄液注入口と、
前記冷却領域の下方および蒸解溶液注入口を有する蒸解領域の上方に設けられた第1の液体取り出しスクリーンと、
前記蒸解領域あるいはそれより下方および前記材料排出部より上方に設けられた蒸解溶液取り出しスクリーンと、
を含み、
前記洗浄液は水と、水酸化ナトリウムおよび本質的に無硫黄の白液の少なくとも一方の混合液である、
ことを特徴とする反応容器。
【請求項19】
前記洗浄液に含まれる水酸化ナトリウムおよび本質的に無硫黄の白液の少なくとも一方の量は、容器内のセルロース材料の0.01パーセント〜5パーセントの範囲にあることを特徴とする請求項18に記載の反応容器。
【請求項20】
前記加水分解温度は150℃〜170℃の範囲の温度であることを特徴とする請求項18に記載の反応容器。
【請求項21】
前記加水分解領域におけるpH値は1〜6の範囲にあることを特徴とする請求項18に記載の反応容器。
【請求項22】
前記加水分解領域あるいはそれより上方に加熱流体を導入するための熱エネルギー導入口を更に含むことを特徴とする請求項18に記載の反応容器。
【請求項23】
前記加熱流体は、前記加水分解物・溶液取り出しスクリーンから取り出された流体から回収された蒸気であることを特徴とする請求項22に記載の反応容器。
【請求項24】
前記反応容器は前記冷却領域の下方に洗浄領域と前記洗浄領域の下方および前記蒸解領域の上方に第2の液体取り出しスクリーンを更に含み、前記第1および第2の液体取り出しスクリーンは少なくとも前記水注入口から注入される前記水の一部を取り出すことを特徴とする請求項18に記載の反応容器。
【請求項25】
前記反応容器は前記冷却液取り出しスクリーンの排出部に連結された液体取り出しパイプを更に含み、前記冷却液取り出しスクリーンを通して取り出された液体は前記取り出しパイプ内を流れて前記洗浄液と混合され、前記冷却液注入口から前記冷却領域に導入されることを特徴とする請求項18に記載の反応容器。
【請求項26】
前記洗浄液注入口における前記洗浄液の温度は、前記加水分解温度よりも10℃〜70℃低いことを特徴とする請求項18に記載の反応容器。
【請求項27】
前記洗浄液注入口における前記洗浄液のpH値は3〜7の範囲にあることを特徴とする請求項18に記載の反応容器。
【請求項28】
前記反応容器は前記冷却液取り出しスクリーンを通して取り出される前記液体のpHレベルをモニタリングするpHセンサーを更に含み、前記冷却液取り出しスクリーンから取り出された前記液体に混合される前記洗浄液の量は前記モニタリングされたpHレベルに基づいて決定されることを特徴とする請求項27に記載の反応容器。
【請求項29】
前記反応容器は実質的に垂直であり、少なくとも100フィートの高さを有し、前記材料投入部は前記容器の上部に設けられ、前記材料排出部は前記容器の底部近傍に設けられていることを特徴とする請求項18に記載の反応容器。
【請求項30】
前記加水分解物・液体取り出しスクリーンから取り出される液体が流入し、前記容器の前記加水分解領域あるいはそれより上方に蒸気を供給し、加水分解物を加水分解物回収システムへ排出する蒸発タンクを更に含むことを特徴とする請求項18に記載の反応容器。
【請求項31】
前記反応容器は前記加水分解領域の下方および前記蒸解領域の上方に第2の冷却液取り出しスクリーンを更に含み、前記蒸解溶液の少なくとも一部が前記冷却液取り出しスクリーンの両方を通して取り出されることを特徴とする請求項18に記載の反応容器。
【請求項32】
加圧された反応容器の上部投入口にセルロース材料を投入する工程と、
前記容器に圧力および熱エネルギーを与える工程と、
前記反応容器の加水分解領域において前記セルロース材料を加水分解する工程と、
前記セルロース材料から、前記容器の前記加水分解領域の下方および冷却領域の上方に設けられた加水分解物・溶液取り出しスクリーンを通して加水分解物および液体を取り出す工程と、
前記冷却領域における前記セルロース材料の加水分解を抑制し、少なくともその一部が前記セルロース材料を通って上方に流れ、前記取り出しスクリーンによって取り出される冷却液を前記冷却領域に注入する工程と、
前記冷却領域の下方に設けられた蒸解領域において、前記蒸解領域に冷却溶液を注入することにより前記セルロース材料を蒸解する工程と、
前記容器の前記蒸解領域の下方に設けられた排出口から前記蒸解されたセルロース材料を排出する工程と、
を含むセルロース材料からパルプを製造する方法であって、
前記洗浄液は水と、水酸化ナトリウムおよび本質的に無硫黄の白液の少なくとも一方の混合液である、
ことを特徴とするパルプ製造方法。
【請求項33】
前記洗浄液に含まれる水酸化ナトリウムおよび本質的に無硫黄の白液の少なくとも一方の量は、容器内のセルロース材料の0.01パーセント〜5パーセントの範囲にあることを特徴とする請求項32に記載のパルプ製造方法。
【請求項34】
前記加水分解領域におけるpH値は1〜6の範囲にあることを特徴とする請求項32に記載のパルプ製造方法。
【請求項35】
前記加水分解領域における前記セルロース材料は加水分解温度より高い温度に維持され、前記冷却領域における前記セルロース材料は前記加水分解温度よりも少なくとも10℃低い温度に維持されることを特徴とする請求項32に記載のパルプ製造方法。
【請求項36】
前記加水分解温度は150℃〜170℃の範囲の温度であることを特徴とする請求項35に記載のパルプ製造方法。
【請求項37】
前記冷却領域に導入される際の前記冷却液の温度は、前記加水分解温度よりも10℃〜70℃低いことを特徴とする請求項35に記載のパルプ製造方法。
【請求項38】
前記冷却領域あるいはそれより下方に設けられた液体取り出しスクリーンから液体を取り出す工程と、前記取り出された液に前記加水分解温度よりも低い温度の洗浄液を追加する工程と、前記取り出された液および追加洗浄液を前記冷却領域へ注入する工程とを更に含むことを特徴とする請求項32に記載のパルプ製造方法。
【請求項39】
前記取り出された液のpH値をモニタリングする工程と、前記モニタリングされたpH値が所定のpHレベルを超えた場合に前記取り出された液に追加される洗浄液の流れを増加させる工程とを更に含むことを特徴とする請求項38に記載のパルプ製造方法。
【請求項40】
前記加水分解物・溶液取り出しスクリーンを通して取り出された前記加水分解物および液体を蒸発させる工程と、
前記蒸発させた加水分解物および液体から前記容器回収された蒸気を注入する工程と、前記蒸発させた加水分解物および液体から加水分解物を分離する工程とを更に含むことを特徴とする請求項32に記載のパルプ製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−52188(P2009−52188A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−132893(P2008−132893)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(502075342)アンドリッツ インコーポレーテッド (27)
【Fターム(参考)】