説明

化学物質検出体及びそれを備えた化学物質検出装置

【課題】多種類の化学物質を同時に検出可能な化学物質検出器及びそれを備えた化学物質検出装置を安価に且つ容易に提供する。
【解決手段】複数の化学物質の濃度を検出するための検出素子(30)は、入射した光が全反射を繰り返して伝搬し出射する光導波路と、該光導波路の光反射面にそれぞれ形成され、それぞれ異なる化学物質に反応して発色する異なる検出試薬を担持させた複数のメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質検出体及び化学物質検出装置に関し、特に、光学特性の変化を利用した化学物質検出体及び化学物質検出装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気中に含まれるホルムアルデヒド等の健康被害を及ぼす虞のある空気中の化学物質を検出する手段として、該化学物質と反応する検出試薬を保持させたフィルタを用いて化学物質を検出する検出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の検出装置は、ホルムアルデヒドを検出するための検出装置であり、ホルムアルデヒドと呈色反応する検出試薬を含浸させたフィルタを備えている。該フィルタを被測定ガスに曝露することで、被測定ガス中のホルムアルデヒドと検出試薬とが反応してフィルタの表面が発色する。このフィルタに所定波長の光を照射し、フィルタからの反射光を受光する。上記検出装置では、上記発色によって所定の吸収帯域の光が吸収されることから、反射光を検出することによってホルムアルデヒドの濃度を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−345390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記検出装置は、ホルムアルデヒド単体の検出のみを目的として構成されたものであり、ホルムアルデヒド単体の検出しか行えなかった。そのため、本来同時に検出したい他の化学物質を検出するためには、その検出対象となる化学物質毎に応じた検出装置を別途用意しなければならなかった。その結果、コスト及び手間がかかるという問題があった。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、多種類の化学物質を同時に検出可能な化学物質検出器及びそれを備えた化学物質検出装置を安価に且つ容易に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(構成)
第1の発明乃至第5の発明は化学物質検出体に係る発明であり、第6の発明乃至第8の発明は上記化学物質検出体を備えた化学物質検出装置に係る発明である。
【0008】
第1の発明は、特定の化学物質と該化学物質に対応した検出試薬との反応による発色に基づく光学特性の変化によって上記化学物質の濃度を検出するための化学物質検出体であって、入射した光が全反射を繰り返して伝搬する複数の光導波路と、上記光導波路毎に、該各光導波路における光反射面にそれぞれ形成され、それぞれ異なる化学物質に反応して発色する異なる検出試薬を担持させた複数の試薬担持層(32a,32b,32c,32d)とを備えている。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、上記複数の光導波路は、単一の矩形平板状の基材(31)に形成され、上記複数の試薬担持層(32a,32b,32c,32d)は、上記基材(31)における光反射面に所定間隔を空けて形成されている。
【0010】
第3の発明は、第2の発明において、上記複数の試薬担持層(32a,32b,32c,32d)は、上記基材(31)に形成された複数の溝(33a,33b,33c,33d)内にそれぞれ形成されている。
【0011】
第4の発明は、第1の発明において、上記複数の光導波路は、それぞれ別個の基材(31)に形成されている。
【0012】
第5の発明は、第4の発明において、上記複数の基材(31)は、それぞれ円柱体によって構成され、それぞれ螺旋状に湾曲形成されている。
【0013】
第6の発明は、第1乃至5のいずれか1つの発明に係る化学物質検出体(30)を備えて各化学物質の濃度を検出する化学物質検出装置であって、上記各光導波路に光を入射させる発光手段と、上記各光導波路から出射する光を受光する受光手段(62)と、該受光手段(62)からの光信号を受け、上記各化学物質と該各化学物質に対応する検出試薬との反応による発色に基づく光学特性の変化を検出し、該光学特性の変化から上記各化学物質の濃度をそれぞれ検出する信号処理手段(40)とを備えている。
【0014】
第7の発明は、第6の発明において、上記発光手段は、上記各光導波路毎に設けられ、該各光導波路に対応する試薬担持層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬と該検出試薬に対応する化学物質との反応による発色によって吸収される帯域の光(60a,60b,60c,60d)を発光するように構成された複数の発光体(61)を有している。
【0015】
第8の発明は、第6の発明において、上記発光手段は、上記各試薬担持層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬と該検出試薬に対応する化学物質との反応による発色によって吸収される帯域の光(60a,60b,60c,60d)の全てを含む広帯域の光を発光する広帯域発光体(63)を有し、上記広帯域発光体(63)から発せられる光(66)を分岐させて上記各光導波路にそれぞれ入射させる分岐回路(64)と、上記各光導波路から出射された広帯域の光(66)に対し、通過した試薬担持層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬と該検出試薬に対応する化学物質との反応による発色によって吸収される帯域の光(66a,66b,66c,66d)のみをそれぞれ透過させるフィルタ(65)とを備えている。
【0016】
(作用)
第1及び第6乃至第8の発明では、各光導波路における光反射面を被測定ガスに曝露すると、複数種の化学物質のそれぞれに対応して呈色反応を生ずる検出試薬が個別に担持された複数の試薬担持層(32a,32b,32c,32d)が被測定ガスに同時に曝露される。この曝露により、各試薬担持層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬が各化学物質と反応して発色する。一方、上記各光導波路に、該各光導波路における光反射面に形成された各試薬担持層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬の発色によって吸収される帯域の光を含む光をそれぞれ入射させる。
【0017】
具体的には、例えば、第6の発明では、発光手段によって各光導波路に光を入射させる。
【0018】
また、第7の発明では、複数の発光体(61)によって、各光導波路に、該各光導波路の光反射面に形成された試薬担持層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬とそれに対応する各化学物質との呈色反応によって吸収される帯域の光(60a,60b,60c,60d)をそれぞれ入射させる。
【0019】
また、第8の発明では、各試薬担持層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬と該検出試薬に対応する化学物質との反応による発色によって吸収される帯域の光(60a,60b,60c,60d)の全てを含む広帯域の光を発光する広帯域発光体(63)から出射された広帯域の光(66)を分岐回路(64)において複数条の光(66)に分岐し、各光導波路に入射させる。
【0020】
第1及び第6乃至第8の発明において、各光導波路に入射された光(60a,60b,60c,60d)(66)は、各光導波路において全反射を繰り返して伝搬して該各光導波路から出射される。そして、各光導波路から出射された光を受光し、被測定ガス中の各化学物質の濃度を検出する。
【0021】
具体的には、例えば、第6及び第7の発明では、受光手段(62)によって各光導波路から出射された光(60a,60b,60c,60d)を受光し、該受光手段(62)からの光信号を受けて信号処理手段(40)が各化学物質の濃度を検出する。
【0022】
また、第8の発明では、各光導波路から出射された複数条の広帯域の光(66)は、フィルタ(65)によって、通過した各試薬担持層(32a,32b,32c,32d)における上記発色によって吸収される帯域外の光が吸収され、吸収帯域の光(66a,66b,66c,66d)のみがそれぞれ透過される。そして、各帯域の光(66a,66b,66c,66d)を受光手段(62)によって受光し、該受光手段(62)からの光信号を受けて信号処理手段(40)が各化学物質の濃度を検出する。
【0023】
なお、第1及び第6乃至第8の発明において、各試薬担持層(32a,32b,32c,32d)では、上記検出試薬と該検出試薬に対応する化学物質との反応による発色によって所定波長の光(60a,60b,60c,60d)(66a,66b,66c,66d)が吸収され、この所定波長の光(60a,60b,60c,60d)(66a,66b,66c,66d)の強度が減衰する。この光学特性の変化を検出し、被測定ガス中の各化学物質の濃度を検出する。
【0024】
また、第2の発明では、複数の光導波路が単一の矩形平板状の基材(31)に形成される一方、第4の発明では、複数の光導波路はそれぞれ別個の基材(31)に形成されている。
【0025】
また、第3の発明では、複数の試薬担持層(32a,32b,32c,32d)は、上記単一の基材(31)に形成された複数の溝(33a,33b,33c,33d)内にそれぞれ収容されている。これにより、複数の試薬担持層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬は、溝(33a,33b,33c,33d)内に留められることとなる。
【0026】
第5の発明では、複数の基材(31)をそれぞれ円柱体によって構成すると共に、それぞれ螺旋状に湾曲形成することとした。これにより、各光導波路の長さが長くなり、基材(31)に入射された光の反射回数が増大する。
【発明の効果】
【0027】
第1乃至第8の発明によれば、各光導波路毎に、該各光導波路の光反射面に、異なる種類の検出試薬が個別に担持された複数の試薬担持層(32a,32b,32c,32d)をそれぞれ形成したため、複数の化学物質の濃度を同時に且つ容易に検出することができる。また、検出する化学物質の種類に応じて複数の検出体を設けるのではなく、異なる検出試薬が担持された複数の試薬担持層(32a,32b,32c,32d)を設けるだけで、多種類の化学物質を検出可能な化学物質検出体(30)及びそれを備えた化学物質検出装置(10)を安価に且つ容易に提供することができる。
【0028】
特に、第8の発明によれば、各化学物質と検出試薬との反応による発色によって吸収される帯域の光を発光する発光体を複数設ける必要がなく、発光体の個数を削減することができる。よって、化学物質検出装置(10)のさらなる小型化を図ることができる。
【0029】
また、第2の発明によれば、複数の光導波路を単一の基材(31)に形成することで、化学物質検出体の小型化を図ることができる。また、単一の基材(31)に対して複数の試薬担持層(32a,32b,32c,32d)を所定間隔を空けて形成することによって各光導波路を伝搬する光の干渉を容易に防止することができる。
【0030】
一方、第4の発明によれば、複数の光導波路を別個の基材(31)に形成することで、各光導波路を伝搬する光の干渉を容易に防止することができる。また、各光導波路を伝搬する光どうしが干渉しないため、該各光導波路の配置間隔を狭めることができる。そのため、化学物質検出体の小型化を図ることができる。
【0031】
また、第3の発明によれば、隣り合う試薬担持層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬どうしが混ざり合うことなく、溝(33a,33b,33c,33d)によって分離される。従って、各試薬担持層(32a,32b,32c,32d)の間隔を狭く形成することができ、化学物質検出体(30)のさらなる小型化を図ることができる。
【0032】
また、第5の発明によれば、各基材(31)をそれぞれ円柱体によって構成すると共にそれぞれ螺旋状に湾曲形成することにより、光導波路を長く形成することができる。そのため、基材(31)に入射された光の反射回数を増大させることができる。その結果、十分な光学変化を確保して各化学物質の濃度の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、実施形態1に記載の化学物質検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、実施形態1に記載の化学物質検出装置の要部を示す概略斜視図である。
【図3】図3は、実施形態1に記載の検出素子の縦断面を示す概略図である。
【図4】図4は、実施形態1に記載の検出素子の概略構成を示す斜視図である。
【図5】図5は、実施形態1に記載の検出素子の概略構成を示す平面図である。
【図6】図6は、実施形態2に記載の検出素子の概略構成を示す斜視図である。
【図7】図7は、実施形態3に記載の検出素子の概略構成を示す平面図である。
【図8】図8は、実施形態4に記載の検出素子の概略構成を示す斜視図である。
【図9】図9は、実施形態5に記載の検出素子の概略構成を示す斜視図である。
【図10】図10は、実施形態6に記載の検出素子の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0035】
図1及び図2に示すように、本実施形態の化学物質検出装置(10)は、室内空気などの各種の被測定ガスに含まれる揮発性の化学物質の濃度を検出するものである。特に、上記化学物質検出装置(10)は、複数種の化学物質とそれに応じた検出試薬(認識分子)との反応による発色を利用したものであって、この発色により光学特性が変化する性質に基づき各化学物質の濃度を検出するものである。
【0036】
上記化学物質検出装置(10)は、ケーシング(11)内にガス吸引部(20)と、ホルムアルデヒド等の揮発性の化学物質を検出するための検出素子(30)と、検出信号の信号処理部(40)と、表示及び操作を行うための入出力部(50)とが設けられている。
【0037】
上記ガス吸引部(20)は、図示しないが、ポンプ等を備え、被測定ガスをケーシング(11)内に吸い込み、検出素子(30)に被測定ガスを吹き付けるように構成されている。
【0038】
上記検出素子(30)は、本願発明の最も特徴とするものであって、複数の化学物質の濃度を検出する本発明に係る化学物質検出体を構成している。上記検出素子(30)は、図3乃至図5に示すように、複数の光導波路が形成された基材(31)と、該基材(31)の片面にそれぞれ積層形成された複数のメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)とを備えている。なお、本実施形態では、メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、4つ設けられている。
【0039】
上記各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、直径が数nmである細孔を多数有するメソポーラスシリカ薄膜で構成されている。そして、上記各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の細孔には、それぞれ異なる検出試薬が担持されている。つまり、各検出試薬が細孔内に保持されている。上記各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、表面が被測定ガスの曝露面となり、裏面が基材(31)との接着面(測定面)となり、曝露面から化学物質が細孔に侵入することにより該化学物質とそれに対応する検出試薬とが反応し、裏面側の測定面まで発色するように構成されている。
【0040】
検出対象となる上記化学物質の例としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、アセトアルデヒド、メチルベンゼン等が挙げられる。一方、検出試薬は、これらの化学物質との化学反応により、他化学物質を生成して発色するものが選定される。例えば、ホルムアルデヒドの検出試薬としては、以下のものを用いることができる。
【0041】
i) 4‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン(4-aminopent-3-en-2-one)
ii) 4‐アミノ‐3‐オクテン‐2‐オン(4-aminooct-3-en-2-one)
iii)5‐アミノ‐4‐ヘプテン‐3‐オン(5-aminohept-4-en-3-one)
iv) 4‐アミノ‐4‐フェニル‐3‐ブテン‐2‐オン(4-amino-4-phenylbut-3-en-2-one)
v) 3‐アミノ‐1,3‐ジフェニル‐2‐プロペン‐1‐オン(3-amino-1,3-diphenylprop-2-en-1-one)
上記(i)は、株式会社同仁化学研究所から製品名「Fluoral-P」として販売されているものである。また、ホルムアルデヒド検出のための検出試薬として、B.J.Compton et.al により発表された論文Analytica Chimica Acta, 119(1980)349-357がある。
【0042】
上記(ii)及び(iii)は本願発明者らが新たに合成したものである。
【0043】
上記(iv)及び(v)は、財団法人神奈川科学アカデミー鈴木孝治(慶応大学)等により開示されているものである(具体的には、特開2003−207498号公報「ホルムアルデヒド測定用検出試薬及びそれを用いたホルムアルデヒドの測定方法」及び特開2004−157103号公報「ホルムアルデヒド検知材」参照)。
【0044】
また、ホルムアルデヒドの検出試薬として、上記i)〜v)の他、2‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン(2-aminopent-3-en-2-one)等のエナミノン誘導体を用いてもよい。
【0045】
上述のように、これらの検出試薬は、対応する化学物質との化学反応により、他化学物質を生成し、発色する。そして、この生成物は、所定の波長領域の光を最も吸収する吸収ピークを示す特性を有している。例えば、検出対象となる化学物質がホルムアルデヒドの場合、検出試薬は、該ホルムアルデヒドとの化学反応により、ルチジンを生成する。そして、この生成物であるルチジンは、波長405nm付近の光を最も吸収する吸収ピークを示す特性を有している。
【0046】
つまり、上記各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、各々が担持する検出試薬に対応して、該検出試薬とそれに対応する化学物質との反応による発色によって吸収される帯域の光を透過する層に構成されている。
【0047】
また、上記各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の細孔は、各々が担持する検出試薬とそれに対応する化学物質との反応による発色によって吸収される帯域の光の波長(λa,λb,λc,λd)に対し、それぞれ該波長(λa,λb,λc,λd)の10分の1以下の平均直径に設定されている。
【0048】
更に、上記各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、各々が担持する検出試薬とそれに対応する化学物質との反応による発色によって吸収される帯域の光に対応した厚さに構成され、例えば、厚さが0.01〜2μmに設定されている。
【0049】
一方、上記基材(31)は、矩形平板のガラス基板で構成され、後述する4つの発光体(61)からの光(60a,60b,60c,60d)を封じ込め、内部には該各光(60a,60b,60c,60d)が伝搬する4つの光導波路が形成されている。上記基材(31)は、厚さが0.05〜2mmに構成され、厚さ方向の4つの端面のうち相対向する2つの端面が光(60a,60b,60c,60d)の入射面(31a)と出射面(31b)に構成されている。
【0050】
そして、上記基材(31)の入射面(31a)に対峙して4つの発光体(61)(発光手段)が配置される一方、出射面(31b)に対峙して4つの受光体(62)(受光手段)が配置されている。上記基材(31)は、入射した複数条の光(60a,60b,60c,60d)が各光導波路においてそれぞれ全反射を繰り返して伝搬するように構成されている。
【0051】
なお、本実施形態では、4つの光導波路は、互いに平行に基材(31)の入射面(31a)から出射面(31b)に亘って形成されている。つまり、本実施形態では、各光導波路は、各化学物質とそれに対応する検出試薬との反応による発色によって吸収される帯域の光を透過する無色透明の平板によって構成され、該4つの光導波路を構成する平板が一体形成されて一つの基材(31)として構成されている。
【0052】
一方、上記メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、単一の基材(31)に形成された各光導波路毎に、該各光導波路における片側の光反射面に形成されている。具体的には、上記各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、平面視において矩形状に形成され、基材(31)の入射面(31a)から出射面(31b)に向かって互いに平行に延びている。また、各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、所定間隔を空けて同一方向に長く延びるように形成されている。上記基材(31)に形成された各光導波路において伝搬する光(60a,60b,60c,60d)は、互いに干渉することなく全反射を繰り返して伝搬し、全反射の際に各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)に染み出す。そして、該各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)では、担持された検出試薬とそれに対応する化学物質との反応による発色によってそれぞれ所定波長(λa,λb,λc,λd)の光が吸収される(図3参照)。具体的には、メソポーラス層(32a)では波長λaの光が吸収され、メソポーラス層(32b)では波長λbの光が吸収され、メソポーラス層(32c)では波長λcの光が吸収され、メソポーラス層(32d)では波長λdの光が吸収される。
【0053】
上記発光体(61)は、上記光導波路及びメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の数と等しい数だけ設けられ、これらに対応するように設けられている。つまり、本実施形態では、発光体(61)は、4つ設けられている。
【0054】
上記各発光体(61)は、レーザダイオード又は発光ダイオードで構成され、基材(31)の入射面(31a)に対して入射角θが33度になるように設定されている。各発光体(61)からは、各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬とそれに対応する化学物質との反応による発色によって吸収される帯域の波長(λa,λb,λc,λd)の光を含む光(60a,60b,60c,60d)が照射される。つまり、メソポーラス層(32a)に向けて照射される光(60a)は波長λaの光を含み、メソポーラス層(32b)に向けて照射される光(60b)は波長λbの光を含み、メソポーラス層(32c)に向けて照射される光(60c)は波長λcの光を含み、メソポーラス層(32d)に向けて照射される光(60d)は波長λdの光を含んでいる。
【0055】
具体的には、例えば、メソポーラス層(32a)にホルムアルデヒドに対応する検出試薬が担持されている場合、該メソポーラス層(32a)に向けられた発光体(61)が照射する光(60a)は、波長が405nm付近である光を含んでいる。つまり、該ホルムアルデヒドと検出試薬との反応生成物がルチジンの場合、吸収帯域の光の波長が405nmであるところ、上記発光体(61)が照射する光(60a)は、発色によって吸収される光(λa=405nm)を含むように設定されている。
【0056】
一方、上記受光体(62)は、上記発光体(61)と等しい数だけ設けられている。つまり、上記光導波路及びメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の数と等しい数だけ設けられ、各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)に対応するように設けられている。本実施形態では、受光体(62)は、4つ設けられている。
【0057】
上記各受光体(62)は、フォトダイオードで構成され、対応する発光体(61)から出射されて基材(31)を伝搬した光(60a,60b,60c,60d)をそれぞれ受光するように構成されている。
【0058】
上記信号処理部(40)は、各受光体(62)からの光信号を受けて該光信号を処理する信号処理手段を構成している。上記信号処理部(40)は、発色の光学特性の変化、つまり、各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)における上記発色によって吸収される所定波長(λa、λb、λc、λd)の光の強度低下を検出し、この低下に基づいてエンドポイント法又はレート法によって各化学物質の濃度を検出するように構成されている。
【0059】
上記入出力部(50)は、各化学物質の濃度を表示する表示手段を構成すると共に、測定のON及びOFFなどの操作を行う操作手段を構成している。上記入出力部(50)は、信号処理部(40)からの信号を受けて各化学物質の濃度の絶対値などをデジタル表示するように構成されている。
【0060】
なお、上記検出素子(30)は、図示しないが、ケーシング(11)に対して着脱自在に設けられている。
【0061】
〈検出素子の製造〉
次に、上述した検出素子(30)の製造方法について説明する。
【0062】
上記メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、規則正しい細孔を有する周知の多孔質シリカの層であり、周知の材料で構成されている(再表99/026881号公報、特開平11−049511号公報、特開2002−250713号公報参照)。つまり、上記メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、メソポーラスシリカであればよく、代表的には、界面活性剤又はブロックコポリマーのミセルを分子鋳型として用いてオルトケイ酸エチルからゾルゲル法により合成された規則性メソ細孔構造を有するメソポーラスシリカ層である。
【0063】
この組成物を所定のガラス基板である基材(31)に滴下し、スピンコート等により薄膜化し、電気炉等により350〜450℃に焼成することにより、基材(31)の表面上に形成されたメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)であるメソポーラスシリカ薄膜を得ることができる。
【0064】
より具体的には、例えば、オルトケイ酸エチルに、1‐プロパノール、希塩酸、2‐ブタノールを加えて攪拌する。これに、セチルトリメチルアンモニウムクロライド(C16TMA)の水溶液を加えて攪拌する。その後、得られた溶液上に数滴滴下し、スピンコータで薄膜化する。続いて、得られたものを電気炉により大気中で400℃で焼成する。薄膜内の構造の評価はX線回折装置(XRD)により確認した。
【0065】
次に、各検出試薬を揮発性の貧溶媒に溶かした溶液を調製し、該各溶液を先に作製したメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の表面に塗布する。そして、各溶媒を除去することにより、細孔内に呈色検出試薬を導入する。
【0066】
具体的には、例えば、ホルムアルデヒドを検出するためのメソポーラス層(32a)の場合、エナミノン(2‐アミノ‐3‐ペンテン‐2‐オン)50mgをエタノール0.006mLとn‐ペンタン6mLの混合溶媒に加えた溶液を調整し、その溶液を筆によりメソポーラス薄膜面に塗布する。その後、室温でドライヤの冷風に十分に曝して溶媒を除去する。
【0067】
〈化学物質の検出動作〉
次に、上述した化学物質検出装置(10)による化学物質の検出動作について検出方法と共に説明する。なお、検出動作及び検出方法は、各化学物質間においてほぼ同様であるため、以下ではホルムアルデヒドの検出動作及び検出方法についてのみ説明し、他の化学物質についての説明は省略する。
【0068】
先ず、化学物質検出装置(10)を所定の被測定ガス雰囲気に設置する。そして、入出力部(50)から測定スイッチをONすると、ガス吸引部(20)が被測定ガスをケーシング(11)内に吸引し、被測定ガスを検出素子(30)に吹き付ける。つまり、基材(31)に形成された4つの光導波路の片面の光反射面にそれぞれ積層形成されたメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)を被測定ガスに曝露する(曝露工程)。例えば、この曝露は、1分間行われる。
【0069】
上記各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)を被測定ガスに曝露すると、被測定ガス中に含まれるホルムアルデヒドは、メソポーラス層(32a)の細孔内に侵入し、検出試薬と反応する。この検出試薬はホルムアルデヒドと反応すると、発色し、メソポーラス層(32a)の表面が変色する。
【0070】
例えば、検出試薬がエナミノン誘導体の場合、ホルムアルデヒドとの化学反応により、ルチジンが生成される。このルチジンの場合、発色によって吸収される帯域の光の波長が405nmとなる。
【0071】
そこで、発光体(61)より波長が405nmの光(60a)を照射し、この光(60a)を基材(31)の入射面(31a)からメソポーラス層(32a)に向けて入射させる。基材(31)に入射した光(60a)は、基材(31)に形成された光導波路において全反射を繰り返して伝搬する。この基材(31)を伝搬する光(60a)は、全反射の際にメソポーラス層(32a)に染み出す一方、検出試薬の発色により、所定波長λa(405nm)の光が吸収され、この波長の光強度が低下する。
【0072】
上記基材(31)の出射面(31b)から出射した光(60a)は、フォトダイオードの受光体(62)によって受光され、該受光体(62)によって光信号が信号処理部(40)に入力される。該信号処理部(40)は、光学特性の変化を検出し、つまり、光の強度を検出し、この強度の低下に基づいてホルムアルデヒドを検出すると同時にその濃度を測定する(信号処理工程)。
【0073】
その後、上記信号処理部(40)の出力信号に基づき入出力部(50)がホルムアルデヒド濃度を表示する(表示工程)。
【0074】
尚、上記信号処理部(40)は、例えば、エンドポイント法によってホルムアルデヒド濃度を検出する。つまり、曝露前の透過光強度をI0とし、エンドポイントに達したときの透過光強度をIとする。濃度Cに対して−log(I/I0)を算出し、透過光強度の減少量からホルムアルデヒド濃度を検出する。
【0075】
上記信号処理部(40)は、例えば、レート法を適用してもよい。つまり、曝露前の透過光強度に対する透過光強度の減少度合い(傾き)に基づき、ホルムアルデヒド濃度を検出するようにしてもよい。
【0076】
〈実施形態の効果〉
以上のように、本実施形態によれば、基材(31)に形成された各光導波路の光反射面に、異なる種類の検出試薬を個別に担持させた複数のメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)をそれぞれ積層形成したことにより、複数の化学物質の濃度を同時に且つ容易に検出することができる。また、単一の化学物質のみ検出可能な検出体を、検出する化学物質の種類に応じて複数個設けるのではなく、異なる検出試薬が担持されたメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)を複数個設けることにより、多種類の化学物質を同時に検出可能な検出素子(30)及びそれを備えた化学物質検出装置(10)を安価に且つ容易に提供することができる。また、上記検出素子(30)を備えることで、化学物質検出装置(10)の小型化を図ることができる。
【0077】
また、本実施形態によれば、複数の光導波路を単一の基材(31)に形成することで、検出素子(30)の小型化を図ると共に化学物質検出装置(10)の小型化を図ることができる。また、単一の基材(31)に対して複数のメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)を所定間隔を空けて形成することによって各光導波路を伝搬する光の干渉を容易に防止することができる。また、複数の光導波路を互いに平行に延びるように配設することにより、単一の基材(31)に形成された複数の光導波路内における光が略平行に伝搬して干渉しないため、各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の間隔を狭くすることができる。よって、検出素子(30)のさらなる小型化を図ることができる。
【0078】
〈発明の実施形態2〉
実施形態1では、複数のメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、基材(31)の片面に積層形成されていた。実施形態2では、図6に示すように、複数のメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、基材(31)の片面に形成された複数の溝(33a,33b,33c,33d)内に積層形成されている。
【0079】
具体的には、複数の溝(33a,33b,33c,33d)は、基材(31)の片面側に平面視において矩形状になるように形成され、入射面(31a)から出射面(31b)に向かって長く延びている。また、複数の溝(33a,33b,33c,33d)は、横断面形状が矩形となるように形成されている。
【0080】
一方、複数のメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、それぞれ複数の溝(33a,33b,33c,33d)内に形成され、基材(31)の入射面(31a)から出射面(31b)に向かって長く延びている。
【0081】
なお、光導波路は、図6におけるメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の下方に形成されることとなる。
【0082】
このような構成により、実施形態2によれば、複数のメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬が溝(33a,33b,33c,33d)内に留められることとなる。つまり、複数のメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の間は、基材(31)によって仕切られ、隣り合うメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬どうしが混ざり合うことがない。そのため、本形態によれば、各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の間隔を狭く形成することができ、検出素子(30)のさらなる小型化を図ることができる。
【0083】
〈発明の実施形態3〉
図7に示すように、実施形態3では、実施形態1においてメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の数と等しい数(実施形態1では4つ)だけ設けられていた所定の帯域の光しか発光しない発光体(61)を、1つの広帯域発光体(63)に置き換え、新たに分岐回路(64)とフィルタ(65)とを設けている。
【0084】
具体的には、広帯域発光体(63)は、各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬と該検出試薬に対応する化学物質との反応による発色によって吸収される帯域の光(60a,60b,60c,60d)の全てを含む広帯域の光を発光するように構成されている。そして、広帯域発光体(63)は、基材(31)の入射面(31a)側において、複数のメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の中央付近に設けられている。該広帯域発光体(63)は、広帯域の光(66)を発光し、該光(66)は分岐回路(64)に入射される。
【0085】
上記分岐回路(64)は、広帯域発光体(63)によって発光された広帯域の光(66)をメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の数と等しい数(4つ)に分岐し、各分岐光を各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)に向けて基材(31)の各光導波路に入射するように構成されている。基材(31)の入射面(31a)から各光導波路に入射された複数条の光は、各光導波路において全反射を繰り返して伝搬し、出射面(31b)から出射される。基材(31)の各光導波路から出射された光は、フィルタ(65)に入射される。
【0086】
上記フィルタ(65)は、各光導波路から出射された広帯域の光(66)を、それぞれ通過したメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)において吸収される帯域の光(66a,66b,66c,66d)のみが透過されるように構成されている。つまり、フィルタ(65)に入射された広帯域の光(66)のうち、それぞれ通過したメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬とそれに対応する化学物質との反応による発色の光吸収帯域外の光はフィルタ(65)に吸収され、該吸収帯域の光(66a,66b,66c,66d)のみが透過される。
【0087】
これにより、メソポーラス層(32a)を通過した広帯域の分岐光のうち、波長がλa付近の光(66a)のみがフィルタ(65)を透過する。メソポーラス層(32b)を通過した広帯域の分岐光のうち、波長がλb付近の光(66b)のみがフィルタ(65)を透過する。メソポーラス層(32c)を通過した広帯域の分岐光のうち、波長がλc付近の光(66c)のみがフィルタ(65)を透過する。メソポーラス層(32d)を通過した広帯域の分岐光のうち、波長がλd付近の光(66d)のみがフィルタ(65)を透過する。そして、フィルタ(65)を透過した光(66a,66b,66c,66d)は、それぞれ対応する受光体(62)に受光される。
【0088】
このように、複数の発光体(61)を用いるのではなく、広帯域発光体(63)を用いることとしても、上記実施形態1と同様に、多種類の化学物質を検出可能な検出素子(30)を安価に且つ容易に提供することができる。
【0089】
また、実施形態3によれば、実施形態1のように各化学物質と検出試薬との反応による発色によって吸収される帯域の光を発光する発光体を複数設ける必要がなく、発光体の個数を削減することができる。よって、化学物質検出装置(10)のさらなる小型化を図ることができる。
【0090】
〈発明の実施形態4〉
上記各実施形態では、本発明に係る化学物質検出体を構成する検出素子(30)では、複数の光導波路が単一の基材(31)に形成されていたが、本発明に係る化学物質検出体はこれに限られない。図8に示すように、複数の光導波路が、それぞれ別個の基材(31)に形成されていてもよい。
【0091】
具体的には、検出素子(30)は、内部に光導波路が形成された矩形平板のガラス基板からなる基材(31)を4つ備えている。そして、該4つの基材(31)の片面には、それぞれメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)が積層形成されている。
【0092】
このように、複数の光導波路をそれぞれ別個の基材(31)に形成し、該基材(31)毎にメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)を積層形成することとしても、上記実施形態1と同様に、多種類の化学物質を検出可能な検出素子(30)を安価に且つ容易に提供することができる。
【0093】
〈発明の実施形態5〉
また、本発明に係る化学物質検出体を構成する検出素子(30)は、図9に示すように形成されていてもよい。
【0094】
具体的には、実施形態5では、検出素子(30)は、円柱形状に形成されて内部に光導波路が形成されたガラス棒からなる基材(31)を4つ備えている。そして、該4つの基材(31)の外周面には、それぞれメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)が積層形成されている。該メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、各基材(31)の両端部以外の部分において全周に亘って形成され、筒状に形成されている。
【0095】
このように、実施形態5では、光導波路を構成する基材(31)をファイバ形式に構成している。そして、円柱形状の基材(31)は、実施形態1と同様にして発光体(61)から照射された光が、一端部から入射し、内部において全反射を繰り返して他端部まで伝搬し、他端部から出射されるように構成されている。
【0096】
このような形態によっても、実施形態1と同様に、多種類の化学物質を検出可能な検出素子(30)及びそれを備えた化学物質検出装置(10)を安価に且つ容易に提供することができる。
【0097】
また、実施形態5によれば、基材(31)をファイバ形式に構成することによって、十分な長さの光導波路を容易に形成することができる。そのため、十分な光学変化を確保して各化学物質の濃度の測定精度を向上させることができる。
【0098】
〈発明の実施形態6〉
さらに、本発明に係る化学物質検出体を構成する検出素子(30)は、図10に示すように形成されていてもよい。
【0099】
具体的には、実施形態6では、実施形態5における4つの円柱体からなる基材(31)が螺旋状に湾曲形成されている。
【0100】
このような形態によっても、実施形態1と同様に、多種類の化学物質を検出可能な検出素子(30)及びそれを備えた化学物質検出装置(10)を安価に且つ容易に提供することができる。
【0101】
また、実施形態6によれば、4つの基材(31)を螺旋状に形成することによって、実施形態5よりも長い光導波路をコンパクトに形成することができる。そのため、各化学物質の濃度の測定精度をさらに向上させることができる。
【0102】
〈その他の実施形態〉
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0103】
上記各実施形態では、本発明に係る試薬担持層をメソポーラス層によって構成していたが、試薬担持層はメソポーラス層に限られない。
【0104】
上記各実施形態では、検出素子(30)は、4つのメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)を備えていたが、メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の個数はこれに限られるものではなく、検出したい化学物質の数に応じて設ければよい。
【0105】
また、上記検出素子(30)によって検出される化学物質及び該化学物質を検出するための検出試薬は、上述した各実施形態に記載されたものに限られない。
【0106】
また、メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)は、上述した各実施形態に記載されたものに限られず、検出試薬に対応し、各化学物質と検出試薬の反応生成物に対応した素材等を用いればよい。したがって、各化学物質と検出試薬の反応生成物に対応してメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)の細孔の直径等が定められる。
【0107】
また、上記基材(31)においても、各化学物質と検出試薬の反応生成物に対応した素材等を用いればよい。
【0108】
また、上記実施形態1乃至3において、上記各メソポーラス層(32a,32b,32c,32d)を基材(31)の両面にそれぞれ積層形成するようにしてもよい。つまり、光導波路の両反射面にメソポーラス層(32a,32b,32c,32d)をそれぞれ積層形成することとしてもよい。この場合、光(60a,60b,60c,60d)の反射をより有効に利用することができる。
【0109】
また、上記実施形態は、化学物質検出装置(10)について説明したが、本発明は、検出素子(30)である化学物質検出体のみでもよいことは勿論である。
【0110】
尚、以上の各実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0111】
以上説明したように、本発明は、光学特性の変化を利用した化学物質検出体及び化学物質検出装置について有用である。
【符号の説明】
【0112】
10 化学物質検出装置
30 検出素子
31 基材
32a〜32d メソポーラス層(試薬担持層)
33a〜33d 溝
40 信号処理部(信号処理手段)
60a〜60d 光
61 発光体
62 受光体(受光手段)
63 広帯域発光体
64 分岐回路
65 フィルタ
66 光(広帯域の光)
66a〜66d 光(吸収帯域の光)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の化学物質と該化学物質に対応した検出試薬との反応による発色に基づく光学特性の変化によって上記化学物質の濃度を検出するための化学物質検出体であって、
入射した光が全反射を繰り返して伝搬する複数の光導波路と、
上記光導波路毎に、該各光導波路における光反射面にそれぞれ形成され、それぞれ異なる化学物質に反応して発色する異なる検出試薬を担持させた複数の試薬担持層(32a,32b,32c,32d)とを備えている
ことを特徴とする化学物質検出体。
【請求項2】
請求項1において、
上記複数の光導波路は、単一の矩形平板状の基材(31)に形成され、
上記複数の試薬担持層(32a,32b,32c,32d)は、上記基材(31)における光反射面に所定間隔を空けて形成されている
ことを特徴とする化学物質検出体。
【請求項3】
請求項2において、
上記複数の試薬担持層(32a,32b,32c,32d)は、上記基材(31)に形成された複数の溝(33a,33b,33c,33d)内にそれぞれ形成されている
ことを特徴とする化学物質検出体。
【請求項4】
請求項1において、
上記複数の光導波路は、それぞれ別個の基材(31)に形成されている
ことを特徴とする化学物質検出体。
【請求項5】
請求項4において、
上記複数の基材(31)は、それぞれ円柱体によって構成され、それぞれ螺旋状に湾曲形成されている
ことを特徴とする化学物質検出体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つに記載の化学物質検出体(30)を備えて各化学物質の濃度を検出する化学物質検出装置であって、
上記各光導波路に光を入射させる発光手段と、
上記各光導波路から出射する光を受光する受光手段(62)と、
該受光手段(62)からの光信号を受け、上記各化学物質と該各化学物質に対応する検出試薬との反応による発色に基づく光学特性の変化を検出し、該光学特性の変化から上記各化学物質の濃度をそれぞれ検出する信号処理手段(40)とを備えている
ことを特徴とする化学物質検出装置。
【請求項7】
請求項6において、
上記発光手段は、上記各光導波路毎に設けられ、該各光導波路に対応する試薬担持層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬と該検出試薬に対応する化学物質との反応による発色によって吸収される帯域の光(60a,60b,60c,60d)を発光するように構成された複数の発光体(61)を有している
ことを特徴とする化学物質検出装置。
【請求項8】
請求項6において、
上記発光手段は、上記各試薬担持層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬と該検出試薬に対応する化学物質との反応による発色によって吸収される帯域の光(60a,60b,60c,60d)の全てを含む広帯域の光を発光する広帯域発光体(63)を有し、
上記広帯域発光体(63)から発せられる光(66)を分岐させて上記各光導波路にそれぞれ入射させる分岐回路(64)と、
上記各光導波路から出射された広帯域の光(66)に対し、通過した試薬担持層(32a,32b,32c,32d)に担持された検出試薬と該検出試薬に対応する化学物質との反応による発色によって吸収される帯域の光(66a,66b,66c,66d)のみをそれぞれ透過させるフィルタ(65)とを備えている
ことを特徴とする化学物質検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−281794(P2010−281794A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137505(P2009−137505)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】