説明

化学物質検出方法

本発明は、サンプル中の被分析物(10)の検出方法であって、焦電または圧電素子および電極を有する、エネルギー変化を電気信号へ変換することが可能な変換器(3)と、その変換器上に固定化された、被分析物またはその被分析物の誘導体と結合することが可能な結合部位を有する第1の試薬(9)とを準備する工程、第1の試薬−被分析物複合体(13)を形成するために、その変換器にサンプルを曝露しそれによって被分析物またはその被分析物の誘導体を第1の試薬と結合させる工程、電磁放射線を吸収して無放射性崩壊によりエネルギーを発生することが可能な標識(12)を有する、第1の試薬−被分析物複合体と選択的に結合することが可能な結合部位を有する第2の試薬を導入する工程、そのサンプルに電磁放射線を照射する工程、発生したエネルギーを電気信号へ変換する工程、およびその電気信号を検出する工程を含む方法に関する。本発明はまた、その方法を実施するためのキットも提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
技術分野
本発明は、化学物質の検出方法、特に、圧/焦電変換器を有する化学物質検出装置を使用するイムノアッセイに関する。
【0002】
背景技術
イムノアッセイは、体液中の被分析物の存在、すなわち、より一般的には濃度を測定する試験である。イムノアッセイは、一般に抗原と抗体の特異的結合を伴う。この抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体には製造の再現性や一つのエピトープと被分析物との結合の束縛などいくつかの利益がある。被分析物の濃度の定量化可能な指標を与えるために、反応を既知濃度の標準サンプルと比較する。抗体または抗原の濃度は様々な方法によって決定し得るが、最も一般的な方法の一つが、抗原または抗体のいずれかを標識し、その標識の存在を検出することである。
【0003】
イムノアッセイは競合する場合も競合しない場合もある。競合イムノアッセイでは、未知サンプル中の抗原は、一般に固相上に固定化された、抗体と結合するために標識抗原と競合する。そこで、抗体部位と結合した標識抗原の量を測定し、通常は、固相と結合した標識抗原を分離し測定することによる。明らかにこの反応は未知サンプル中の抗原の濃度に反比例するであろう。類似のアッセイ原理では、溶液中の標識抗体が固相上に固定化された抗原やサンプル中に存在するものと競合し、同様に反比例する。免疫測定法とも呼ばれている非競合イムノアッセイでは、未知サンプル中の抗原は、過剰の固定化された抗体(「捕捉」抗体)と結合し、この結合抗原の量を測定する。競合法とは異なり、非競合法の結果は、抗原の濃度に正比例するであろう。「サンドイッチアッセイ」とも呼ばれているいわゆる「2−サイト」免疫測定法では、抗原を捕捉抗体部位に結合し、その後、捕捉抗体と結合した抗原と結合する標識抗体を導入する。その部位での標識抗体の量を測定する。
【0004】
典型的なサンドイッチイムノアッセイでは、目的の抗原に対して特異的な抗体をポリスチレンシートのようなポリマー支持体に付ける。1滴の試験サンプル、例えば、細胞抽出物または血清もしくは尿のサンプル、をシート上に置き、抗体−抗原複合体の形成後洗浄する。その後、抗原の異なる部位に特異的な抗体を加え、支持体を再び洗浄する。この第2の抗体は、高感度で検出することができるように標識を有する(標識リポーター)。シートに結合した第2の抗体の量はサンプル中の抗原の量に比例する。このアッセイおよびこの種のアッセイの他の変形は周知である(例えば、" The Immunoassay Handbook, 2nd Ed." David Wild, Ed., Nature Publishing Group, 2001参照)。
【0005】
この種のイムノアッセイは、主に、3以上のエピトープを扱うことができ、被分析物と抗体との相補性領域が比較的大きく、例えば、ペプチド中の少なくとも一つのアミノ酸によって、被分析物間に比較的大きな相違が生じるという理由から、高分子量の被分析物に特に有効である。小分子のイムノアッセイでは、二つのエピトープが存在しないことで「サンドイッチ」の形成が妨げられる。これはさらなる技術を開発する動機づけを与えた。
【0006】
一つの比較的新しいイムノアッセイ技術は、小分子検出の特異性および感度がを向上するように設計された、いわゆる「抗複合体抗体」イムノアッセイである(CH. Self at al. Clin. Chem. 1994, 40, 2035-2041、 ibid 1994, 40, 2035-2041、およびL.A. Winger et al J. Immunol. Methods 1996, 199, 185-191参照)。このイムノアッセイには、競合イムノアッセイで一般的に見られる反比例関係ではなく、被分析物の濃度と信号との間に直接的な関係を与えるという利点もある。
【0007】
このプロトコールは、小分子被分析物が、支持体上に固定化された(に付けられた)特異的一次抗体と結合したときに形成される複合体に対して二次抗体を作製できることに基づいている。第2の抗体を慎重に選択することにより、一次抗体と抗原との結合部に形成されたエピトープに対して反応性を選択することができる。それゆえ、最初の結合事象が起こるまでエピトープが形成されないため、標識リポーターは「非占有」捕捉抗体とも遊離被分析物とも結合することができないという点において複合体との結合は選択的である。これは、現在実施されているように、感度および特異性が非常に高いことが分かっているが、複数の洗浄工程が必要であり、最も重要なことには、存在する標識抗体の量を決定する前に過剰の非結合標識を除去するために必要である。このことがこのアッセイの複雑さを増大させ、この技術の適用性を実質的に制限している。
【発明の概要】
【0008】
よって、本発明は、サンプル中の被分析物の検出方法であって、
焦電または圧電素子および電極を有する、エネルギー変化を電気信号へ変換することが可能な変換器と、その変換器上に固定化された、被分析物またはその被分析物の誘導体と結合することが可能な結合部位を有する第1の試薬とを準備する工程、
第1の試薬−被分析物複合体を形成するために、その変換器にサンプルを曝露し、それによって被分析物またはその被分析物の誘導体を第1の試薬と結合させる工程、
電磁放射線を吸収して無放射性崩壊(non-radiative decay)によりエネルギーを発生することが可能な標識を有する、第1の試薬−被分析物複合体と選択的に結合することが可能な結合部位を有する第2の試薬を導入する工程、
そのサンプルに電磁放射線を照射する工程、
発生したエネルギーを電気信号へ変換する工程、および
その電気信号を検出する工程
を含む方法を提供する。
【0009】
よって、標識した第2の試薬(リポーター)は、第1の試薬(捕捉試薬に固定化された)と被分析物との複合体とのみ結合することができる。むしろ、従来の2−サイト免疫測定イムノアッセイのように、被分析物の非存在下では変換器表面へのリポーターの結合は起こらない。しかしながら、この場合、リポーターは、従来のサンドイッチアッセイに必要な二つのエピトープではなく単一エピトープ(被分析物−第1の試薬複合体から形成される)を必要とするだけであり、それによって小分子の検出が容易になる。圧/焦電性フィルムを有する変換器を使用する結果として、分離および洗浄工程を用いずに、リアルタイムに第2の(標識した)試薬の結合を検出することができるという利益が得られる。
【0010】
本発明はまた、(i)サンプル中の被分析物の検出装置において、焦電または圧電素子および電極を有する、エネルギー変化を電気信号へ変換することが可能な変換器と、その変換器上に固定化された、被分析物またはその被分析物の誘導体と結合することが可能な結合部位を有する第1の試薬と、電磁放射線源と、その電気信号を検出するための検出器とを含む装置、および(ii)放射線源により発生した電磁放射線を吸収して無放射性崩壊によりエネルギーを発生することが可能な標識を有する、第1の試薬と被分析物またはその被分析物の誘導体との間で形成された複合体と選択的に結合することが可能な結合部位を有する第2の試薬を含むキットも提供する。本発明はさらに、抗複合体抗体イムノアッセイにおいて結合事象を検出するための、焦電または圧電素子および電極を含む変換器の使用も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明は図面を参照して、理解されるであろう。
【図1】WO2004/090512号公報による装置を示す図である。
【図2】本発明の方法の模式図を示す図である。
【図3】本発明による装置を示す図である。
【図4】本発明の方法を用いた、時間に対するカウントのグラフを示す図である。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明の方法は、サンプル中の被分析物の検出を提供する。第1の工程として、この方法は、焦電または圧電素子および電極を有する、エネルギー変化を電気信号へ変換することが可能な変換器を準備することおよびその変換器にサンプルを曝露することを含む。そのような変換器は当技術分野で公知である(例えば、WO90/13017号公報およびWO2004/090512号公報参照)。これに関連して、図1は、本発明における使用に好適な化学的検出装置1の原理を示す。装置1は、電磁放射線で物質2を照射した時の物質2における発熱に依存する。装置1は、電極被覆4,5を施した焦電または圧電変換器3を含む。変換器3は、好ましくは、フィルム、例えば、分極したポリフッ化ビニリデンフィルムである。電極被覆4,5は、酸化インジウムスズから形成され、厚さが約35nmであることが好ましいが、1nmの下限から(1nm未満では導電性が低すぎる)100nmの上限(100nmを超えると光透過率が低すぎる)でほとんど総ての厚さが可能である(95%T未満にしてはならない)。物質2は、任意の好適な技術を用いて変換器3の上または近位に保持するが、ここでは、上側の電極被覆4上に付けた状態を示す。この試薬は、いかなる好適な形態にあってもよく、複数の試薬を被着してもよい。好ましくは、物質2は、上側の電極に吸着させる、例えば、共有結合させるかまたは分子間力、例えば、イオン結合、水素結合、もしくはファンデルワールス力により結合させる。この装置の重要な特徴は、電磁放射線(例えば、光、好ましくは可視光)源6により照射した時に、物質2が発熱することである。光源は、例えば、LEDであってよい。光源6は、適当な波長(例えば、補色)の光で物質2を照射する。理論に縛られたくはないが、物質2は、光を吸収して励起状態となり、この励起状態は、その後無放射性崩壊を受け、それによって、図1において曲線で示すエネルギーを発生すると考えられる。このエネルギーは、主として熱形態(すなわち、環境における熱運動)であるが、他の形態のエネルギー、例えば、衝撃波も発生する可能性がある。しかしながら、このエネルギーは、変換器によって検出され、電気信号へ変換される。本発明の装置は測定している特定の試薬に対して較正され、従って、無放射性崩壊によって発生するエネルギーの正確な形態を決定する必要はない。特に断りのない限り「熱」という用語は、無放射性崩壊によって発生するエネルギーを意味するように本明細書において用いられる。光源6は、物質2を照射するように配置する。好ましくは、光源6は、変換器3および電極4,5に対して実質的に垂直に配置し、変換器3および電極4,5を通して物質2を照射する。光源は、変換器内の内部光源であってもよく、その場合、光源は被嚮導波系である。導波管は、変換器自体であってよいし、導波管は、その変換器上に付けた追加の層であってもよい。照射の波長は用いる標識によって決まる。例えば、40nm金標識の場合には好ましい波長は525nmであり、炭素標識の場合には好ましい波長は650nmである。
【0013】
物質2より発生したエネルギーは、変換器3により検出され、電気信号へ変換される。電気信号は、検出器7により検出される。光源6および検出器7は、どちらも制御装置8の制御下にある。
【0014】
一つの実施形態において、光源6は、「チョップトライト(chopped light)」と呼ばれる一連の光パルス(本明細書において用いる「光」という用語は、特定の波長が記載されていない限り、いかなる形の電磁放射線をも意味する)を生成する。原理として、単一閃光、すなわち、1回の電磁放射線パルスは、変換器3から信号を発生させるのに十分である。しかしながら、再現性のある信号を得るには、複数回の閃光を使用し、これは実際にはチョップトライトを必要とする。印加電磁放射線パルスの周波数は変更し得る。下限において、パルス間の時間遅延は、各パルスと、電気信号の発生との間の時間遅延を決定するのに十分でなければならない。上限において、各パルス間の時間遅延は、データの記録に要する時間が不合理に延びる程大きくてはならない。好ましくは、前記パルスの周波数は、2〜50Hz、より好ましくは5〜15Hz、最も好ましくは10Hzである。これは、パルス間の時間遅延20〜500ミリ秒、66〜200ミリ秒、および100ミリ秒にそれぞれ相当する。加えて、いわゆる「マーク−スペース」比、すなわち、オン信号とオフ信号との比は、好ましくは1であるが、他の比もある特定の状況において有利に用い得る。様々なチョッピング周波数または様々なマーク−スペース比のチョップトライトを発生させる電磁放射線源は当技術分野で公知である。検出器7は、光源6からの各光パルスと、変換器3からの、検出器7により検出される対応する電気信号との間の時間遅延(すなわち、「相関遅延」)を決定する。本出願者は、この時間遅延が距離dの関数であることを見出した。
【0015】
各光パルスと、対応する電気信号との間の時間遅延を決定するための、再現性のある結果をもたらすいかなる方法も用いてもよい。好ましくは、時間遅延は、各光パルスの開始から熱吸収に対応する電気信号の最大値が検出器7により検出される時点まで測定する。
【0016】
上述のように、物質2は変換器表面から分離し得、信号も検出し得る。さらに、変換器3へエネルギーを伝達することが可能な介在媒質を通じて信号を検出できるだけでなく、様々な距離dも識別し得(これは、「デプスプロファイリング」と呼ばれている)、受信される信号の強度は、変換器3の表面からの特定の距離dにおける物質2の濃度に比例する。
【0017】
図2は、本発明による抗複合体イムノアッセイにおける図1の装置1の取り込みを示す。変換器3を垂直配置で示すが、他の配向も可能であり、ある状況においてはそれも実に有利である。変換器3は、第1の試薬(図2では第1の抗体9(固定化した捕捉抗体)として示した)で被覆されている。サンプルは、被分析物10と、標識12(図1の物質2に対応する)と結合した第2の抗体11も含む。
【0018】
第1の試薬9は、被分析物10またはその被分析物の誘導体と結合することが可能な結合部位(パラトープ)を有する。被分析物10またはその被分析物の誘導体は、第1の試薬と結合して第1の試薬−被分析物複合体を形成する。第1の試薬と、被分析物10またはその誘導体とが結合することにより第1の試薬−被分析物複合体に領域(エピトープ)が形成される。第2の試薬11は、第1の試薬−被分析物複合体において上記のように形成された領域と選択的に結合することが可能な結合部位(パラトープ)とを有し、従って、第2の試薬11を加えると、それがその複合体と結合する。最初の結合事象が起こるまで第1の試薬−被分析物複合体において形成される領域は存在しないため、その結合は選択的である。好ましい実施形態において、サンプルと第2の試薬は同時に導入される。
【0019】
第1の抗体9は、被分析物10に対するものであり、サンプルの導入時に被分析物10と選択的に結合する。第2の抗体11を慎重に選択することにより、第1の抗体9と被分析物10との結合部に形成されたエピトープに対して反応性を選択することができる、すなわち、第2の試薬11は、第1の試薬−被分析物複合体13と選択的に結合することが可能な結合部位を有する。よって、第2の抗体11は、第1の抗体9と被分析物10との複合体13とのみ結合することができる。被分析物10の非存在下では第2の抗体11の結合は起こり得ず、従って、第2の抗体11に付いている標識12から得られる信号は、被分析物濃度に正比例する。しかしながら、第2の抗体11はその複合体の一つのエピトープを認識するため、このアッセイでは、被分析物10に二つの別のエピトープが存在する必要がなく、小分子検出が容易になる。重要なことには、本発明の方法は、分離および洗浄工程を用いずに、リアルタイムに第2の抗体11と、第1の試薬−被分析物複合体13との結合の検出を可能にする。これは、当技術分野において重要な利点である。よって、好ましい実施形態において、アッセイは、変換器3にサンプルを曝露する工程と、そのサンプルを照射する工程との間に変換器3からサンプルを取り出すこと無しに実施される。さらに、変換器をサンプルに曝露することとそのサンプルを照射することとの間にさらなる介入(例えば、結合している第2の試薬と結合していない第2の試薬とを分離すること)を必要としない。
【0020】
表面に結合していない第2の試薬は、表面から離れて自由に拡散する。好ましくは、第2の試薬が拡散だけで表面から分離されるようにする
【0021】
図2では、第1の試薬および第2の試薬を第1の抗体および第2の抗体により例示しているが、本発明はそれに限定されない。従って、第1の試薬および第2の試薬は、好ましくは抗体であるが、他の試薬、例えば、核酸も用い得る。好ましい実施形態において、本発明は、サンプル中の被分析物(「ハプテン」と呼ばれることもあり、「ハプテン」はタンパク質などの大きな担体と結合した時に免疫応答を引き起こし得る小分子である)を検出するために抗複合体抗体イムノアッセイを実施する方法であって、焦電または圧電素子および電極を有する、エネルギー変化を電気信号へ変換することが可能な変換器と、その変換器上に固定化された、被分析物またはその被分析物の誘導体と結合することが可能な結合部位を有する第1の抗体とを準備する工程、第1の抗体−被分析物複合体を形成するために、その変換器にサンプルを曝露し、それによって被分析物またはその被分析物の誘導体を第1の抗体と結合させる工程、電磁放射線を吸収して無放射性崩壊によりエネルギーを発生することが可能な標識を有する、第1の抗体−被分析物複合体と選択的に結合することが可能な結合部位を有する第2の抗体を導入する工程、そのサンプルに電磁放射線を照射する工程、発生したエネルギーを電気信号へ変換する工程、およびその電気信号を検出する工程を含む方法を提供する。第1の抗体は、被分析物またはその誘導体に対して作製され、第2の抗体は、第1の抗体と被分析物またはその誘導体との間で形成される複合体には存在するが単独では第1の抗体にも被分析物/その誘導体にも存在しない一つのエピトープを含むように、その複合体に対して作製される。
【0022】
図2では、変換器3の表面に付けた第1の試薬9を示しており、好ましくは、変換器に吸着させる。この表面はまた、表面を安定させるためにさらなる被覆剤、例えば、SurModics Inc, Eden Prairie, MN, USAのStabilcoatにより被覆し得る。
【0023】
図2を参照して論じたとおり、第2の試薬11には標識12を有する。標識12は、放射線源により発生した電磁放射線を吸収して無放射性崩壊によりエネルギーを発生することが可能である。よって、変換器3の近位にある標識12の存在を検出するために、サンプルに一連の電磁放射線パルスを照射する。変換器3は、発生したエネルギーを電気信号へ変換し、その電気信号は検出器7により検出される。
【0024】
標識12は、放射線源により発生した電磁放射線と相互作用して無放射性崩壊によりエネルギーを発生することが可能な任意の材料であり得る。好ましくは、この標識は、限定されるものではないが、炭素粒子、着色ポリマー粒子(例えば、着色ラテックス)、色素分子、酵素、蛍光分子、金属(例えば、金)粒子、ヘモグロビン分子、磁性粒子、非導電性コア材料および少なくとも一つの金属シェル層を有するナノ粒子、赤血球、およびそれらの組合せから選択される。
【0025】
磁性粒子の場合、電磁放射線は高周波である。上述した他の標識は総て光線を使用し、光線にはIRまたは紫外線放射が含まれ得る。好ましくは、標識は金粒子または炭素粒子である。炭素粒子は、対象となる総ての波長において本質的に均一に吸収し、ほとんどの金属粒子よりずっと密度が低くアッセイ中のそれらの沈降を最小限に抑えるという点において利点がある。金粒子は市販されており、公知の方法を用いて調製もし得る(例えば、G. Frens, Nature, 241, 20-22 (1973)参照)。ナノ粒子標識のさらに詳細な説明については米国特許第6,344,272号公報およびWO2007/141581号公報参照。炭素粒子は、例えば、Degussa, Essen, Germanyから市販されており、タンパク質および小分子とのそれらのコンジュゲーションについての方法は、例えば、Van Doomらの米国特許第5641689号公報により、当技術分野で公知である。
【0026】
好ましくは、本発明は、粒径20〜1,000nm、より好ましくは100〜500nmの粒子を使用する。粒径とは、最も広い部分における粒子の直径を意味する。
【0027】
標識12は、結合事象が起こると変換器の近位に存在する。すなわち、標識は、サンプルの照射によって標識より発生したエネルギーを変換器が検出できるほど変換器の表面に近い。しかしながら、標識と変換器の表面との実際の距離は、複数の変数、例えば、標識の大きさおよび性質、第1の抗体および第2の抗体および被分析物の大きさおよび性質、サンプル媒質の性質、ならびに電磁放射線の性質およびそれに対応する検出器の設定に依存するであろう。電磁放射線の性質に関しては、本発明の装置は、一連の電磁放射線パルスを生成するように構成された放射線源と、放射線源からの各電磁放射線パルスと電気信号の発生との間の時間遅延を決定するように構成された検出器を備え得、それによって、図1を参照して論じたように、変換器に対する標識の位置の正確な決定が可能になる。
【0028】
未知サンプルは被分析物を含有すると予想されるが、当然、被分析物の存在または非存在を決定するために本発明のアッセイを用い得る。被分析物は、好ましくは小分子であり、それは本発明のアッセイがそのような分子に理想的に適している範囲においてであるが、本発明はそれに限定されない。本明細書において用いる「小分子」という用語は、当技術分野の用語であり、タンパク質および核酸などの高分子とその分子を区別するために用いられる。イムノアッセイの分野では小分子は「ハプテン」と呼ばれることが多く、「ハプテン」はタンパク質などの大きな担体分子と結合した時に免疫応答を引き起こし得る小分子であり、ホルモンおよび合成薬物などの分子が含まれる。この種の小分子は、一般に、分子量が2,000以下、多くの場合には1,000以下、さらには500以下でもあろう。第1の試薬は、被分析物自体と結合するように構成し得るが、その被分析物は第1の試薬との結合の前に化学反応または初期複合体形成事象を受ける可能性がある。例えば、被分析物は、アッセイ条件のpHにおいてプロトン化/脱プロトン化を受ける可能性がある。よって、第1の試薬と結合する被分析物は、被分析物自体またはその被分析物の誘導体でありえ、そのどちらも本発明の範囲内に含まれる。
【0029】
対象となる被分析物を含有するか否か不明なサンプルは、一般的には流体サンプル、通常は、体液などの生体サンプル(従って、液体)(例えば、血液、血漿、唾液、血清、または尿)であろう。このようなサンプルは、浮遊粒子を含む可能性があり、全血であってもよい。本発明の方法の利点は、浮遊粒子を含むサンプルにおいてアッセイの結果に不都合に影響を及ぼすことなくアッセイを実施し得るということである。このようなサンプルは、一般に、マイクロリットルのオーダー(例えば、1〜100μL、好ましくは1〜10μL)であろう。流体サンプルを維持するために、変換器は、好ましくは、サンプルチャンバー、より好ましくはウェル内に設置されている。好ましい実施形態において、変換器は、チャンバーと一体となっている、すなわち、変換器は、そのチャンバーを規定する壁の一つを形成する。サンプルは、表面張力により、例えば、毛細管チャネル内に簡単に保持され得る。
【0030】
本発明はまた、本明細書に記載のアッセイを実施するためのキットも提供する。このキットは、実質的には図1を参照して本明細書に記載した通りに、サンプル中の被分析物の検出装置を含んでなる。この装置は、焦電または圧電素子および電極を有する、エネルギー変化を電気信号へ変換することが可能な変換器と、その変換器上に固定化された第1の試薬(第1の試薬は、被分析物またはその被分析物の誘導体と結合することが可能な結合部位を有する)と、電磁放射線源と、その電気信号を検出するための検出器とを有する。このキットは第2の試薬をさらに含んでなる。好ましい実施形態において、第2の試薬は、使用前にチャンバーの内面の一つに解離可能なように結合される。解離可能に結合されるとは、第2の試薬は、例えば、表面に乾燥させることにより、表面に結合しているが、サンプルの導入時に解離するということを意味する。好ましい実施形態において、この装置は上記の特徴から本質的になる。「本質的に」とは、アッセイを実施するために他の特徴を必要としないということを意味する。
【0031】
この装置は、変換器を有する手持ち式携帯読取装置や使い捨ての装置の形態をとり得る。サンプルを本質的に閉鎖的なシステムに導入し、第2の試薬と混合し、サンプルの照射と、生じた電気信号の検出とを実施する読取装置内に置く。
【0032】
本発明はさらに、抗複合体抗体イムノアッセイにおいて結合事象を検出するための、焦電または圧電素子および電極を含む変換器の使用も提供する。抗複合体抗体イムノアッセイは、第2の抗体を、第1の抗体と被分析物またはその被分析物の誘導体との複合体と結合させることを必要とするアッセイである。
【実施例】
【0033】
実施例1
活性ピエゾ/パイロフィルムバイオセンサーの調製
次の実施例において検出装置として使用する、酸化インジウムスズで被覆した、分極した圧電性ポリフッ化ビニリデン(PVDF)バイモルフフィルムを低湿度環境においてポリスチレン溶液(トルエン中1%)により浸漬被覆して、酸化インジウムスズの上にポリスチレン層を施した。次いで、これをポリストレプトアビジン溶液(PBS中200μg/mL−10mmol/Lリン酸バッファー、2.7mmol/L KCl、137mmol/L NaClおよび0.05%Tweenを含有する)中で、室温で一晩のインキュベーションにより被覆した。Tischer らによる米国特許第5,061,640号公報に記載されている通り、ポリストレプトアビジンを調製した。
【0034】
「捕捉」表面を調製するために、ポリストレプトアビジン表面を、ビオチン化抗テストステロン(M1)とともにインキュベートして抗体被覆表面(C1)を与えた。PBS中10μg/mLのビオチン化抗テストステロン(HyTest Ltd, Turku, Finland, カタログ番号2T2−ビオチン、またはAccurate Chemical Co, Westbury, New York, USA, カタログ番号BHS113)を室温で一晩インキュベートした後、過剰のPBSで洗浄し、Stabilcoat(SurModics Inc, Eden Prairie, MN, USA)で被覆し、その後40℃で乾燥させた。
【0035】
実施例2
二次抗体の調製
本質的にはC.H. Self et al Clin. Chem. 1996, 42, 1527-1531に記載されている通りに、二次モノクローナル抗体(M2)(捕捉抗体(M1)−テストステロン複合体と反応する)を作製し、当業者に公知の方法によりビオチン化した。例えば、PBS(NaCl 150mmol/L、リン酸塩 20mmol/L、pH7.5)中5mg/ml抗体溶液を、凍結乾燥抗体を溶解することによるか、または希釈により調製する。この溶液が他のタンパク質またはTrisもしくは他の干渉物を含む場合には、透析またはゲル濾過により精製する。次いで、無水DMSO中20mmol/LのNHS−ビオチン溶液を調製し、15μLのNHS−ビオチン溶液を抗体(1mL)に加える。室温で1時間インキュベートした後、アジ化ナトリウムを含有するPBS(0,01%)で抗体を透析する。このビオチン化抗体は、−20℃または+4℃で保存するために0.1%アジ化ナトリウムおよび20%のグリセロールで1mg/mLまで希釈することができる。ビオチン化度は、IgG当たり1〜3ビオチンの範囲内でなければならない。これはビオチンの定量によりまたは高ビオチン化率についてはアミンの分別定量により評価することができる。
【0036】
実施例3
リポーターコンジュゲートの調製
本質的にはVan Doomらによる米国特許第5,641,689号公報に記載されている通りに、炭素標識リポーターコンジュゲートを調製した。抗体被覆リポーターコンジュゲート(R1)を調製するために、5mmol/Lリン酸バッファー、pH6.2中1mLのSpecial Black-4 RCCの名目上150nmの炭素粒子(Degussa, Essen, Germany)を200μg/mLポリストレプトアビジン溶液とともに室温で一晩振盪しながらインキュベートし、結果としてストレプトアビジン被覆表面(A1)を得た。得られた炭素コンジュゲートを(遠心分離、ペレット化および再懸濁により)洗浄した。次いで、このストレプトアビジン被覆炭素粒子懸濁液1mLとともにPBS中、10μg/mLのビオチン化二次モノクローナル抗体(M2)(捕捉抗体(M1)−テストステロン複合体と反応する)を一晩振盪しながらインキュベートした。得られた炭素コンジュゲート(C2)をpH8.5の0.05mol/Lホウ酸バッファーを用いて(遠心分離、ペレット化および再懸濁により)3回洗浄し、このバッファー中、暗所4℃で保存した。
【0037】
実施例4
アッセイ−抗体被覆ピエゾ/パイロフィルムセンサー
図3で示されるように、センサー1を作製して、このアッセイを実施した。センサー1は、1枚の抗体被覆ピエゾフィルム3(C1、上記)と、1枚の透明なポリカーボネート蓋材フィルム14とから作製する。これらのフィルムは、1枚の粘着ポリエステルフィルムダイカットからなるスペーサー15を用いおよそ500μmの距離をおいて配置して、大きさの異なる二つのチャンバー16,17を形成する、アッセイ反応用のおおよその寸法30x10x0.5mmの一つのチャンバー16および対照反応用の寸法10x10x0.5mmの小さい方の第2のチャンバー17。発生した電荷を検出するためにピエゾフィルムの上面および底面への電気接続を可能にするようになっている。
【0038】
大きい方のチャンバー16に(充填ホール18を通じて)0.150mol/L MgClおよび0.075%Tween 20溶液を含有し、ビオチン化抗体(C2、上記)(捕捉抗体(M1)−テストステロン複合体と反応する)で被覆した150nmコロイド状炭素粒子を含む0.1mol/L Trisバッファー(終濃度0.0025%固体)と、PBS中のテストステロン標準品との混合物を充填して終濃度範囲0.1〜100nmol/Lとすることによりアッセイを実施する。同時に、対照チャンバー17には、テストステロン標準品をPBSに置き換えている、前記アッセイチャンバーのものと同じ反応混合物を充填する。入口および出口ホールを塞ぎ、ピエゾフィルム3がチャンバーの側面に対して垂直に向くようにチャンバーアセンブリーを試験計器に接続する。そこで、チョップトLEDライト(chopped LED light)を用いて四つのLED(波長625nm)で連続的にピエゾフィルムを照射し、そのうちの三つのLEDはアッセイチャンバーの表面の異なる領域を照射し、一つのLEDは対照チャンバーのピエゾフィルム表面を照射する。各LEDパルスについて、ロックイン増幅器およびアナログ・デジタル(ADC)コンバーターを使用してピエゾフィルムを通した電圧を測定する。ADC信号を経時的にプロットし、テストステロン濃度とADC数/分との関係を図4に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の被分析物の検出方法であって、
焦電または圧電素子および電極を有する、エネルギー変化を電気信号へ変換することが可能な変換器と、その変換器上に固定化された、被分析物またはその被分析物の誘導体と結合することが可能な結合部位を有する第1の試薬とを準備する工程、
第1の試薬−被分析物複合体を形成するために、その変換器にサンプルを曝露し、それによって被分析物またはその被分析物の誘導体を第1の試薬と結合させる工程、
電磁放射線を吸収して無放射性崩壊によりエネルギーを発生することが可能な標識を有する、第1の試薬−被分析物複合体と選択的に結合することが可能な結合部位を有する第2の試薬を導入する工程、
そのサンプルに電磁放射線を照射する工程、
発生したエネルギーを電気信号へ変換する工程、および
その電気信号を検出する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の試薬および第2の試薬が抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標識が、炭素粒子、着色ポリマー粒子、色素分子、酵素、蛍光分子、金属粒子、ヘモグロビン分子、磁性粒子、非導電性コア材料および少なくとも一つの金属シェル層を有するナノ粒子、赤血球、およびそれらの組合せから選択されるものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の試薬が前記変換器に吸着されているものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記変換器がサンプルチャンバー内に設置されているものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記チャンバーがウェルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記変換器が前記チャンバーと一体となっているものである、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプルが浮遊粒子を含むものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記サンプルが全血である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記放射線源が、一連の電磁放射線パルスを生成するように構成され、前記検出器が、前記放射線源からの各電磁放射線パルスと、前記電気信号の発生との間の時間遅延を決定するように構成されるものである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記サンプルを前記変換器に曝露する工程と、前記サンプルを照射する工程との間に前記変換器から前記サンプルを取り出すこと無しに実施されるものである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
(i)サンプル中の被分析物の検出装置において、焦電または圧電素子および電極を有する、エネルギー変化を電気信号へ変換することが可能な変換器と、その変換器上に固定化された、被分析物またはその被分析物の誘導体と結合することが可能な結合部位を有する第1の試薬と、電磁放射線源と、その電気信号を検出するための検出器とを含む装置、および(ii)放射線源により発生した電磁放射線を吸収して無放射性崩壊によりエネルギーを発生することが可能な標識を有する、第1の試薬と被分析物またはその被分析物の誘導体との間で形成された複合体と選択的に結合することが可能な結合部位を有する第2の試薬を含む、キット。
【請求項13】
前記第1の試薬および第2の試薬が抗体である、請求項13に記載のキット。
【請求項14】
前記標識が、炭素粒子、着色ポリマー粒子、色素分子、酵素、蛍光分子、金粒子、ヘモグロビン分子、磁性粒子、非導電性コア材料および少なくとも一つの金属シェル層を有するナノ粒子、赤血球、およびそれらの組合せから選択されるものである、請求項13または14に記載のキット。
【請求項15】
前記第1の試薬が前記変換器に吸着されているものである、請求項13〜15のいずれか一項に記載のキット。
【請求項16】
前記装置がサンプルチャンバーをさらに含んでなり、前記変換器が前記サンプルチャンバー内に設置されているものである、請求項1〜15のいずれか一項に記載のキット。
【請求項17】
前記チャンバーがウェルである、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記変換器が前記チャンバーと一体となっているものである、請求項16または17に記載のキット。
【請求項19】
前記放射線源が、一連の電磁放射線パルスを生成するように構成され、前記検出器が、前記放射線源からの各電磁放射線パルスと、前記電気信号の発生との間の時間遅延を決定するように構成されるものである、請求項13〜18のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
抗複合体抗体イムノアッセイにおいて結合事象を検出するための、焦電または圧電素子および電極を含む変換器の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−518319(P2011−518319A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502434(P2011−502434)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050310
【国際公開番号】WO2009/122206
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(507251192)ビバクタ、リミテッド (13)
【氏名又は名称原語表記】VIVACTA LIMITED
【Fターム(参考)】