説明

化学繊維織物

【課題】寒い環境下で着用した際、発熱によってすみやかに衣服内が快適な温度となることを助け、また運動により発生する過剰な熱を換気および吸熱によって速やかに系外に排出することにより、衣服内の温度を快適に保つことができる化学繊維織物およびそれを用いた外衣を提供する。
【解決手段】吸湿発熱性試験で測定した上昇温度ΔT1が1.5℃以上であり、かつ同じく除湿吸熱試験で測定した加工温度ΔT2が1.5℃以上である化学繊維織物およびこの織物を用いた外衣。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒い環境下で着用した際に、発熱によってすみやかに衣服内が快適な温度となることを助け、また運動によって発生する過剰な熱を換気および吸熱によって速やかに系外に排出することにより、衣服内の温度を快適に保つことができる化学繊維織物およびそれを用いた外衣に関するものである。
【背景技術】
【0002】
寒い環境下においては、体温を保温することを目的として衣服を着用するが、近年では、衣服を構成する繊維織物を積極的に発熱させることによって、衣服内の温度環境を快適にしようとする試みが見られる。
【0003】
たとえば、繊維布帛の少なくとも片面を高吸放湿吸湿発熱性有機微粒子を含有してなる樹脂層を有する布帛とすることにより、吸湿発熱温度差を特定の範囲とした透湿防水布帛(例えば、特許文献1参照)が提案されている。この透湿防水布帛によれば、吸湿による発熱保温と、透湿防水布帛としての衣服内の結露防止とを期待できるが、布帛に樹脂層を形成するため、風合いの硬化、通気性の低下を避けることができず、また保温は狙いとしているものの、衣服内温度が上がりすぎたときには低下を促してしまい、衣服内環境を常に快適に保つ機能は認められないという問題があった。
【0004】
また、特許文献2においては、生地表面の少なくとも一部が吸放湿発熱性繊維を含む糸で構成され、裏面の一部が吸放湿発熱性繊維を含む糸によって構成されており、生地表面に露出している吸放湿発熱性繊維を含む糸の少なくとも一部と、生地裏面を構成している吸放湿発熱性繊維を含む糸の少なくとも一部とが生地内部で接触していて、通気量が特定範囲内である織物(例えば、特許文献2参照)が提案されている。この織物は、吸放湿発熱性繊維を通り道として裏面から表側に水蒸気を通すことにより、生地の裏面で吸湿し続け、生地裏面で発熱反応を持続的に起こすことができるようにしたものである。しかしながら、この織物においても、保温を狙いとしているものの、衣服内温度が上がりすぎたときには低下を促すことになるため、衣服内環境を常に快適に保つ機能は認められなかった。
【特許文献1】特許第3342002号公報([0003]〜[0011])
【特許文献2】特開2001−40547号公報([0007]、[0046])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0006】
したがって、本発明の目的は、保温のために上着等を羽織ったときに、着用直後の衣服内温度を発熱によってすみやかに快適温度となることを促し、また運動によって発生する過剰な熱を換気および吸熱によって速やかに系外に排出することにより、衣服内の温度を快適に保つことができる化学繊維織物およびそれを用いた外衣を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために本発明によれば、化学繊維からなる織物であって、財団法人 日本化学繊維検査協会での「吸湿発熱性評価」に準じた吸湿発熱性試験で測定した上昇温度ΔT1が1.5℃以上であり、かつ同じく除湿吸熱試験で測定した加工温度ΔT2が1.5℃以上であることを特徴とする化学繊維織物が提供される。
【0008】
なお、本発明の化学繊維織物においては、
JIS L1096:1999 8.15.5 引裂強さ D法(ペンジュラム法)に準じて測定した引裂強さが5N以上であること、
前記化学繊維が、吸湿ポリマーもしくは吸湿性無機粒子を添加したポリエステル繊維もしくはポリアミド繊維であること、
上記吸湿ポリマーがポリビニルピロリドンであること、および
JIS L1096:1999 8.27.1 通気性 A法(フラジール形法)に準じて測定した通気度が1〜50cm/cm・secであること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0009】
また、本発明の外衣は、上記の化学繊維織物を用いてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に説明するとおり、保温のために上着等を羽織ったときに、着用直後の衣服内温度を発熱によってすみやかに快適温度となることを促し、また着用中に運動等で体温が上昇することで発生する過剰な熱を換気および吸熱によって速やかに系外に排出することにより、衣服内の温度を快適に保つことができる化学繊維織物およびそれを用いた外衣を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の化学繊維織物は、上記吸湿発熱性試験における上昇温度ΔT1が1.5℃以上であり、かつ上記除湿吸熱試験における下降温度ΔT2が1.5℃以上であるとの条件を満たす織物である。
【0012】
すなわち、着用シーンを想定したときに、比較的低温低湿度で保管されていた織物は、着用によって比較的高温高湿度の空気と接することとなり、したがって織物の発熱によって衣服内の温度を速やかに上昇させて、衣服内環境を快適化するのを助ける。この機能については、従来より提案されていたが、本発明の化学繊維織物は、さらに運動等で衣服内温度の過度な上昇が生じた際に、換気によって衣服内湿度が下がることにより、衣服内の温度低下を促す効果がある。これにより、着用時および着用中の衣服内温度が快適な状態に保たれることをサポートするものである。
【0013】
ここで、上記吸湿発熱性試験および除湿吸熱発熱試験は、(財)日本化学繊維検査協会の吸湿発熱性評価試験に基づいて実施した(参考文献 加工技術 Vol.37, No.10(2002) 602〜607)。この測定法によれば、吸湿発熱および除湿吸熱を精度よく測定することができる。
【0014】
衣服内の温度環境が快適となるためには、吸湿発熱性試験において、ΔT1>1.5℃かつ除湿吸熱試験においてΔT2>1.5℃の条件を満たす織物である必要がある。これは後述のごとく、各種織物を用いて、着用から、静止状態、運動状態、静止状態を取ったときに、衣服内温度が快適な範囲に保たれるためである。吸湿発熱性試験において、ΔT1が1.5℃未満の場合、または除湿吸熱試験においてΔT2が1.5℃未満の場合には、着用時の保温性や運動時の衣服内温度の温度上昇が、従来の織物と差が見いだせないものとなるため好ましくない。
【0015】
本発明の織物は化学繊維からなる織物である。これは、吸湿性に優れた天然繊維は、綿や麻、羊毛等で存在するものの、これらは化学繊維、特に合成繊維に比べて強度に劣り、取り扱いに注意する必要があるからである。さらには、上述のような着用シーンである運動を行う場合には、運動を妨げない薄地であることが要求され、かつ保温性、着用快適性、耐久性、イージーケア性が求められるため、化学繊維からなる織物が求められるからである。本発明における化学繊維とは、第3版 繊維便覧(平成16年12月15日発行、社団法人 繊維学会編、丸善株式会社発行)P2 表1.2の繊維分類表に基づく。また、上記と同様な理由のため、化学繊維の中でも合成繊維が好ましい。
【0016】
なお、本発明においては、混紡、合糸、交織等により天然繊維を用いることは可能であるが、上記の理由から、天然繊維の使用量は50%以下であることが好ましく、化学繊維のみから構成されることがさらに好ましい。
【0017】
また、糸の形態としては、紡績糸、フィラメントを問わないが、耐久性、薄地化、通気性向上、さらにスポーティーな表面感の追求のためには、フィラメントを用いた織物であることが好ましい。
【0018】
衣服内温度の過度の上昇が生じる着用シーンを想定した場合には、体を動かすことが容易に推測され、そのため衣服には耐久性に必要な引裂強さが求められる。したがって、本発明の化学繊維織物の引裂強さとしては、たて糸引裂強さ、よこ糸引裂強さともに、5N以上であることが好ましく、10N以上であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明の化学繊維織物においては、吸湿時の発熱および除湿時の吸熱を発現させるために、繊維として水と親和性の高いポリマーを採用したり、水と親和性の高い粒子やポリマーなどを添加したり、もしくは繊維や織物親水性の高い物質を付与したりする必要があるが、その手段については特に限定されるものではない。たとえば、ポリエステル重合時にポリエチレングリコールまたはその誘導体を共重合させた共重合ポリエステルは、上記の要求性能を満たすポリマーとして好ましく用いられる。
【0020】
なかでも、上記化学繊維が、吸湿ポリマーもしくは吸湿性無機粒子を添加したポリエステル繊維もしくはポリアミド繊維であることが好ましい。これは、外衣用途の織物を考えたとき、耐久性、風合い、メインテナンス性、さらに製糸性、コストから、ポリエステルもしくはポリアミドがベースポリマーであることが好ましく、吸湿ポリマーもしくは吸湿性無機粒子を添加することにより、上記特性を保ちながら吸湿性を付与することができるからである。
【0021】
吸湿ポリマーや吸湿性無機粒子としては、耐熱性、安定性、安全性等を考慮して選定すれば、限定されるではない。なかでも、吸湿性の高さ、耐熱性等を考慮した場合、ポリアミドにポリビニルピロリドンを添加することが、特に好ましく行われる。またポリエチレンオキサイド架橋物をポリアミドに添加した後、繊維として芯鞘構造の芯部に配置させることなどが好ましく行われる。
【0022】
ここで、ポリアミドとしては、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体であって、その種類は特に制限されないが、好ましくは、染色性、洗濯堅牢性、機械特性に優れる点から、主としてポリカプラミドまたはポリヘキサメチレンアジパミドである。ここでいう主としてとは、カプラミド単位、またはヘキサメチレンアジパミド単位として80モル%以上であることをいい、さらには90モル%以上であることが好ましい。その他の成分としては、特に制限はないが、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミンなどの単位が挙げられる。
【0023】
本発明でいうポリエステルは、いわゆる多塩基酸と多価アルコールがエステル結合を介して連結された高分子量体であって、その種類には特に制限されないが、好ましくは、主としてポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸からなるポリエステルである。ここでいう主としてとは、上記ポリエステル群を構成するモノマー単位が80モル%以上であることをいい、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0024】
また、ポリエステルとしては、フタル酸、イソフタル酸、スルホイソフタル酸から選んでなる一種以上の第3成分を加え共重合させて得られる共重合ポリエステルも好ましく用いられる。
【0025】
本発明でいうポリアミドやポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲において種々の添加剤を含んでも良い。この添加剤を例示すれば、マンガン化合物などの安定剤、酸化チタンなどの着色剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、導電性付与剤、繊維状強化剤等が挙げられる。
【0026】
本発明の化学繊維織物とは、寒い環境下で着用した際、発熱によってすみやかに衣服内が快適な温度となることを助ける一方、運動によって発生した過剰な熱を換気および吸熱によって速やかに系外に排出することにより、衣服内の温度を快適に保つものである。上記の通り除湿により吸熱作用を有する織物であるが、吸熱作用を発現させるためには、湿度が高くなったとき、衣服内の湿度を衣服外に移動させる必要がある。その方法としては、(1)繊維を通す方法、(2)織物の隙間を通す方法、(3)外衣として袖や襟、裾または脇の下や背中に換気のための隙間を設けることで通す方法が挙げられる。
【0027】
さらに吸湿性の高い化学繊維を用いることにより、衣服内の湿度を繊維を通して衣服外に放湿する作用が高い。衣服内の湿度を下げる作用があると共に、放湿の際、潜熱によっても衣服内の温度を下げる作用を有しており、これらの相乗効果により衣服内の温度を快適に保つものである。この内(1)の繊維を通す方法は、吸湿性の高い繊維を用いていることから、効果が期待できる。
【0028】
さらに、(2)の織物の隙間を通す方法においては、化学繊維織物の通気度を1〜50cm/cm・secとすることが好ましい。通気度が1cm/cm・sec未満では、密閉性が高すぎるために織物を通しての湿度の移動が妨げられることがあり、一方、50cm/cm・secを越えると、防風性が悪すぎるため、寒い時期に風を受けると衣服内の温度を維持することが困難となることがある。
【0029】
さらに(3)の隙間を設ける方法では、使用用途や使用環境、保温性能や換気性能にあわせて、外衣として袖や襟、裾の形や大きさを設計したり、または脇の下や背中に換気のための隙間を設けることで換気することが好ましく行われる。
【0030】
これら衣服内の湿度が衣服外に移動したり、換気によって衣服内の空気が入れ替わることにより、過剰な湿度が除去されると共に、除湿による吸熱作用が織物で発現するため、衣服内の温湿度は快適に保たれることとなる。
【0031】
本発明における織物とは、平織物、綾織物、朱子織物の3原組織およびそれらの変化織物等をいい、特に限定されるものではない。中でも外衣、特にスポーツ・カジュアル用途を目的としているときには、薄地でありながら引裂強さが高い必要があり、平織またはその変化織物、または綾織またはその変化織物が好ましく、特に平織またはその変化織物が好ましい。
【0032】
織物密度は、使用糸、織組織、目標とする通気性等により適宜設計することができ、特に制限されるものではない。同様に目付も使用する外衣や耐久性、通気性等により適宜設計することが可能である。
【0033】
織物の使用糸としては、吸湿ポリマーもしくは吸湿性無機粒子を添加した化学繊維のみで構成することもできるが、必要とする衣服内温湿度環境、耐久性、目付、外観等を考慮して本発明の吸湿発熱性試験、除湿吸熱試験を満たす範囲内で一部を他の繊維とすることも可能である。
【0034】
織物への後加工としては、撥水、防汚、吸湿、制電等の機能を付与するために下降することは必要に応じて適宜実施できる。付着方法、付着量等も目的、風合い、繊維の種類等に応じて適宜設計選択することができる。ただし、繊維の吸湿性特性を阻害するような後加工とならない配慮が必要である。
【0035】
本発明の化学繊維織物を用いてなる外衣とは、外出する時などに、普段の衣服の上に着るコート・マントの類ものの他にも、下着や中着の上に着る上着を含むものである。例えば、ウインドブレーカー、コート、合羽、ジャケット、ズボン、ウォームアップスーツ等が含まれる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0037】
なお、実施例および比較例における各測定値は、次の方法で得たものである。
【0038】
A.吸湿発熱性試験および除湿吸熱試験
財団法人 日本化学繊維検査協会での「吸湿発熱性評価」に準じて測定した。(参考文献:加工技術 Vol.37,No.10(2002)602〜607、特開2003−337111号公報)
【0039】
B.引裂強さ
JIS L1096:1999 8.15.5 引裂強さ D法(ペンジュラム法)に準じて測定した。
【0040】
C.通気度
JIS L1096:1999 8.27.1 通気性 A法(フラジール形法)に準じて測定した。
【0041】
[実施例1]
98%硫酸相対粘度が2.7のポリカプラミド(以下ナイロン6)に、ポリビニルピロリドン5重量%、メジアン径0.44μmの硫酸バリウム微粒子1重量%を添加した状態で、265℃で溶融し(紡糸温度260℃)、直径0.2mmの丸孔を有する紡糸口金から吐出させ、油剤と交絡を付与し、一旦第1ゴデーロールに引取り、引き続き第2ゴデーロールとの間で伸度44%となるように延伸した後、4500m/minで巻き取り、78デシテックス52フィラメントの高吸湿性ポリアミドフィラメントを得た。
【0042】
さらに、98%硫酸相対粘度が2.6ナイロン6(酸化チタン1.8%添加)を、270℃で溶融し(紡糸温度265℃)、直径0.2mmの丸孔を有する紡糸口金から吐出させ、油剤と交絡を付与し、一旦第1ゴデーロールに引取り、引き続き第2ゴデーロールとの間で伸度44%となるように延伸した後、4000m/minで巻き取り、44デシテックス34フィラメントのフルダルポリアミドフィラメントを得た。
経糸として上記フルダルポリアミドフィラメント、緯糸として高吸湿性ポリアミドフィラメントを用い、綾織にて生機を織り上げた。精練温度80℃、中間セット160℃、染色温度95℃(黒色)にて染色後、撥水剤を生地表面片面に付着するように加工し、ファイナルセット160℃にて仕上げた。仕上げ経密度184本/2.54cm、緯密度109本/2.54cm、目付80g/mとなった。また、生地の通気量は14.0cm/cm・sec、たて糸引裂強さ、よこ糸引裂強さ引裂強さ14Nであった。
【0043】
衣料での評価のため、上記生地を用いて両袖を持ち、胸部から首にかけて着脱および換気用のファスナー、さらに両脇の下に換気用のメッシュ部を設けてベンチレーション用の換気孔を有し、裏地として84デシテックス、36フィラメントのセミダルPETによるメッシュ編み地を前面に配置したウインドブレーカーを縫製した。
【0044】
[比較例1]
経糸として酸化チタン量0.3%のポリエチレンテレフタレートからなる56デシテックス96フィラメント、緯糸として経糸と同じポリマーを用い、78デシテックス144フィラメントの延伸糸を用い、綾織にて生機を織り上げた。精練温度98℃、アルカリ減量10%、中間セット180℃、染色温度120℃(黒色)にて染色後、撥水剤を含む溶液の中に織物をディップ、キュア、ドライにより付着させ、ファイナルセット160℃にて仕上げた。仕上げ経密度232本/2.54cm、緯密度116本/2.54cm、目付82g/mとなった。また、生地の通気量は5.2cm/cm・sec、たて糸引裂強さ11N、よこ糸引裂強さ引裂強さ9Nであった。
【0045】
衣料での評価のため、生地のみ変えて実施例と同様のウインドブレーカーを縫製した。
【0046】
上記で得られた2種類の織物について、吸湿発熱性試験および除湿吸熱試験を行ったところ、実施例1の生地では、雰囲気空気を20℃、10%RHから20℃、90%RHに急激に湿度上昇させることで、生地の表面温度は20.1℃から22.0℃に上昇し、上昇温度ΔT1:1.9℃と高い吸湿発熱を発現した。その後、湿度90%RHで安定した後、逆に10%RHに急激に湿度下降させると、生地の表面温度は20.5℃から17.2℃に下降し、下降温度ΔT2:3.3℃高い除湿吸熱を発現した。
【0047】
また、比較例1の生地では、雰囲気空気を20℃、10%RHから20℃、90%RHに急激に湿度上昇させることで、生地の表面温度は19.9℃から20.7℃に上昇したにすぎず、上昇温度ΔT1:0.8℃と低い吸湿発熱であった。その後、湿度90%RHで安定した後、逆に10%RHに急激に湿度下降させると、生地の表面温度は20.71から18.8℃に下降したにすぎず、下降温度ΔT2:1.3℃と低い値にとどまった。
【0048】
ここで、加工技術 Vol.37, No.10(2002) 607には、各繊維での吸湿発熱測定での上昇温度ΔT1が記載されており、ナイロン(経糸、緯糸とも7.8tex、織物密度経糸214本/5cm、同緯糸150本/5cm、目付70g/m2)では1.2℃、綿(経糸20tex、緯糸16tex、織物密度経糸141本/5cm、同緯糸135本/5cm、目付100g/m2、かなきん3号)では2.6℃、ウール(経糸19tex、緯糸15tex、織物密度経糸142本/5cm、同緯糸136本/5cm、目付102g/m2、モスリン)でも3.5℃であった。
【0049】
一般に、公定水分率が高くなるほど吸湿発熱は高くなるといわれており、ナイロン4.5%、綿8.5%、羊毛15%である。
【0050】
したがって、実施例1の織物は、吸湿性の高い天然繊維の織物に迫る値となっていることがわかる。一方、天然繊維の場合、吸湿特性は優れているものの、本発明が目指すスポーツ用途の織物としては、耐久性から生地が厚く、重くなること。さらにイージーケアー性やフィラメント織物で得られるフラットな表面感(スポーティーでエレガント)は得られない。
【0051】
本発明の化学繊維織物が吸湿により発熱し、除湿により吸熱することをより実着用に近い条件にて評価した。上記実施例および比較例の織物を縫い合わる。バットのなかに温度33℃のお湯を入れ、水面から14cmの高さに縫い目が中央部に来るように表側を水面側に向けて織物を被せた(測定環境室温20℃、湿度60%RH)。織物の温度をサーマルカメラにて測定した。実施例の織物は取付直後から速やかに温度が上昇し始め、最大値として45秒後には25.5℃まで上昇した。一方、比較例の織物は、温度上昇が遅く、最大値として45秒後23℃までしか上昇しなかった。さらに被せてから5分経過後、お湯の入っていないバットに縫い目が中央部に来るように表側を下に向けて織物を被せ直した(測定環境は同じく室温20℃、湿度60%RH)。同様に織物の温度をサーマルカメラにて測定したところ、実施例の織物は速やかに温度低下を示し、最低値として45秒後に17.5℃まで低下した。一方比較例の織物は、生地温度の低下が遅く、最低値として45秒後に19℃までしか低下しなかった。
【0052】
したがって、本発明の化学繊維織物は、衣服内の湿度に合わせて着用時には発熱して速やかに衣服内温度上昇に寄与し、衣服内の温度・湿度が高くなり、換気により湿度が低下した際には吸熱して衣服内の温度を抑制して衣服内の温度を快適に保つことができる。
【0053】
本発明の化学繊維織物は、このような高い吸湿発熱および除湿吸熱特性を有していることから、肌寒い時に着用することにより、衣服内の高い湿度による生地温度上昇とそれに伴う衣服内温度の上昇が期待される。また、運動発汗時に、高吸湿性繊維による衣服内から衣服外への湿度の移動および換気による衣服内湿度が低下した場合の生地温度の低下とそれに伴う衣服内温度の低下が期待される。これらの作用により、衣服内温湿度が快適な状態に保たれる作用が期待されるため、特に運動時およびその後の回復時の温湿度上昇抑制と、換気による温度低下効果を以下の環境下で実着用評価を実施した。
【0054】
被験者は、日常から運動をしており、測定間の発汗の差が出にくい者を選出し、飲食による発汗・発熱への影響が出にくいように、飲食から2時間以上の時間をあけて測定した。
【0055】
また、被験者は衣服内温湿度としてポロシャツの上(胸部および背中部)および皮膚上(胸部および背中部)に固定した温湿度センサーを用いて測定した。被験者は温湿度センサーをつけながらポリシャツの上に実施例1および比較例1の生地から縫製したウインドブレーカーを着用した。(下半身にはスラックスを着用)室内環境20℃、60%RHの測定室に入室し、いすに座って5分間安静にして、衣服内の温湿度を安定させた。
【0056】
10分安静後、トレッドミルによる歩行運動(5.5km/h、斜行7%)を15分間実施した。両水準とも着用状態や腕の振り方、歩幅等はあわせている。運動に伴い、両水準とも温湿度が上昇したが、運動開始からポリシャツ上の湿度が上昇する時間が、実施例1の場合は、比較例1に比べて平均で5分遅く、衣服内の湿度上昇を抑制していることが判った。高かった。
【0057】
その後、いすに15分間安静に座った。着座においても両手を大腿部の上に軽く乗せて、両水準間の間に姿勢の差が出ないようにした。いすに着座直後、各測定ポイントでの温湿度は上昇を初め、ピークを迎えたが、比較例1の場合はポロシャツ上の絶対湿度が40mmHgであったのに対して、実施例1の場合では33mmHgに抑制されており、衣服内の湿度上昇が抑制されていることを確認した。
【0058】
さらに、安静状態に入って10分後に一度立ち上がり、10秒間だけ風速2m/minの微風を吹かせて換気による影響を確認したところ、実施例1の場合では比較例1と比べて、衣服内および皮膚上とも速やかに温度、湿度低下が生じ、例えば胸部の絶対湿度として、実施例1が25mmHg低下したのに対して、比較例1では3mmHgしか低下しなかった。また、温度においても衣服内の胸部として実施例1では7℃低下したのに対して、比較例1では1℃しか低下しなかった。したがって、運動によって高まった衣服内の温湿度を換気により快適な温度まで低下させ、衣服内の温湿度を快適に保つのを助ける作用が認められた。さらに被験者の着用感の自己申告では、実施例1は、比較例1に比べてべとつき、蒸れ感、汗のかき方が少なく、快適性も良好であった。
【0059】
上記の結果から、実施例1の生地を用いたウインドブレーカーは、比較例1のものに比べて、衣服内温度を快適な状態に保つ機能があることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の化学繊維織物は、保温のために上着等を羽織ったときに、着用直後の衣服内温度を発熱によってすみやかに快適温度となることを促し、また着用中に運動等で体温が上昇することで発生する過剰な熱を換気および吸熱によって速やかに系外に排出することにより、衣服内の温度を快適に保つことができるため、コート、マント、ウインドブレーカー、コート、合羽、ジャケット、ズボン、ウォームアップスーツ等の外衣素材としての利用価値が高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学繊維からなる織物であって、財団法人 日本化学繊維検査協会での「吸湿発熱性評価」に準じた吸湿発熱性試験で測定した上昇温度ΔT1が1.5℃以上であり、かつ同じく除湿吸熱試験で測定した加工温度ΔT2が1.5℃以上であることを特徴とする化学繊維織物。
【請求項2】
JIS L1096:1999 8.15.5 引裂強さ D法(ペンジュラム法)に準じて測定した引裂強さが5N以上であることを特徴とする請求項1記載の化学繊維織物。
【請求項3】
前記化学繊維が、吸湿ポリマーもしくは吸湿性無機粒子を添加したポリエステル繊維もしくはポリアミド繊維であることを特徴とする請求項1または2記載の化学繊維織物。
【請求項4】
上記吸湿ポリマーがポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の化学繊維織物。
【請求項5】
JIS L1096:1999 8.27.1 通気性 A法(フラジール形法)に準じて測定した通気度が1〜50cm/cm・secであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の化学繊維織物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の化学繊維織物を用いたことを特徴とする外衣。