説明

化学蓄熱器及びその製造方法

【課題】器壁で拘束された化学蓄熱材構造体の器壁への固着が防止され、剪断破損が抑制された化学蓄熱器を提供する。
【解決手段】平均一次粒子径がd[μm]である粒状の化学蓄熱材を含む化学蓄熱材構造体21と、前記化学蓄熱材構造体21を収容すると共に前記化学蓄熱材構造体21の少なくとも一部を拘束し、前記化学蓄熱材構造体21と接する内壁面の、JIS B 0601に準拠した十点表面粗さRz[μm]が前記平均一次粒子径dより小さい構造体収容部材30と、を備えた化学蓄熱器100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸放熱を担う化学蓄熱材を用いた化学蓄熱器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応を利用して熱の吸収、放出を行なうことのできる物質である化学蓄熱材は、従来より広く知られており、種々の分野で利用が検討されている。
【0003】
例えば、多数の気孔を有する生石灰を主体とした化学蓄熱材が開示されており、多数の気孔を有していることにより、穴等の余剰空間が全くない従来の化学蓄熱材に比べ、生石灰から消石灰に変化する過程における体積膨張が吸収され、粒子の破壊、粉化がなくなるとされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−225686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、化学蓄熱材を用いたシステムでは、例えば上記のように水酸化カルシウムを化学蓄熱材として用いた場合、システム作動中に酸化カルシウムと水酸化カルシウムとの間の下記の可逆反応を繰り返すことになるが、このとき各粒子は数十%に及ぶ体積の膨張・収縮を伴なう。
CaO + HO ⇔ Ca(OH)
そのため、上記従来の技術のように、粒子が気孔を有することである程度の粒子破壊は抑えられることが期待されるが、実際には気孔を有しているだけではその体積変化が大きいために、体積膨張・収縮による影響を吸収しきれないのが実情である。そのため、繰り返される体積変化で化学蓄熱材を構成する粒子が崩壊し、粒子の粉体化を招いて剥離や反応性の低下を来たす課題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、化学蓄熱材を拘束して体積変化を制限すると共に、拘束された化学蓄熱材構造体の収容部材の壁等への固着が防止され、剪断破損が抑制された化学蓄熱器及びその製造方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、化学蓄熱材の成形体である化学蓄熱材構造体をその膨張等による体積変化(膨張差)が著しく生じないように収容部材内の壁等で拘束した場合、壁等と化学蓄熱材構造体との間で剪断応力が生じやすく、その応力で構造体が内部で破損することがあるが、この応力を抑えて化学蓄熱材の破損を防ぐには、化学蓄熱材の一次粒子の粒径に対し、化学蓄熱材を拘束する壁面の粗さが一定の関係を有していることが重要であるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0008】
前記目的を達成するために、第1の発明である化学蓄熱器は、
<1> 平均一次粒子径がd[μm]である粒状の化学蓄熱材を含む化学蓄熱材構造体と、前記化学蓄熱材構造体を収容すると共に少なくとも一部を拘束し、前記化学蓄熱材構造体と接する内壁面の、JIS B 0601に準拠した十点表面粗さRz[μm]が前記平均一次粒子径dより小さい構造体収容部材と、を設けて構成したものである。
【0009】
第1の発明においては、成形体である化学蓄熱材構造体を形成する化学蓄熱材の粒子の平均一次粒子径dが、化学蓄熱材構造体を収容すると共にその少なくとも一部を拘束する構造体収容部材の、化学蓄熱材構造体と接する内壁面におけるRz(JIS B 0601に準拠した十点表面粗さ;μm)より大きい関係にあることで、化学蓄熱材の反応時に繰り返し体積変化する場合に、化学蓄熱材の粒子が壁面の凹状の隙間に入り込んで固着するのが回避される。これにより、化学蓄熱材がその反応時における著しい膨張・収縮による体積変化を防ぐために構造体を収容部材の内壁等で拘束する構造でも、壁等と化学蓄熱材構造体との間の剪断が抑えられ、剪断応力の影響を受けて起きる化学蓄熱材の破損が防止され、ひいては化学蓄熱材の耐久性が向上する。また、化学蓄熱材の着脱(交換)時の破壊が生じ難く、着脱交換適性が向上する。
【0010】
本発明において、「拘束」とは、化学蓄熱材構造体の使用時等における著しい膨張、収縮を制限することを意味する。具体的には、蓄熱反応媒体(例えば水)の脱離(例えば脱水)による化学蓄熱材構造体の収縮と、蓄熱反応媒体の結合(例えば水和)に伴なう化学蓄熱材構造体の膨張との差から生じる化学蓄熱材構造体の崩壊を抑制するのに必要とされる程度に、化学蓄熱材構造体にその体積変化を所定の面で制限する状態が形成されていることをいう。具体的には、構造体収容部材中に化学蓄熱材構造体の真密度比が45%以上63%以下を満たす範囲で収容された状態が好ましい。
【0011】
<2> 前記<1>に記載の第1の発明に係る化学蓄熱器において、化学蓄熱材は、脱水反応に伴なって吸熱し、水和反応に伴なって放熱する水和反応性蓄熱材であることが好ましい。
【0012】
このような水和反応性の蓄熱材で構成される場合に、吸発熱時に生じる体積膨張、体積収縮が大きく、この体積変化で起きやすい割れ等の破損や変形、及びそれに伴なう反応性の低下を効果的に防止することができる。
【0013】
<3> 前記<1>又は前記<2>に記載の第1の発明に係る化学蓄熱器において、化学蓄熱材は、アルカリ土類金属の水酸化物であることが更に好ましい。
【0014】
化学蓄熱材として、アルカリ土類金属の水酸化物を用いるので、上記体積変化が大きいことで本発明の効果がより奏効することに加え、蓄熱・放熱反応(水和・脱水)に対する材料安定性が高い。そのため、長期に亘って安定した蓄熱効果を得ることができる。
【0015】
<4> 前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の第1の発明に係る化学蓄熱器において、化学蓄熱材構造体を6面体構造に構成し、6面体構造の少なくとも1面を構造体収容部材の内壁と接触させて拘束した態様が好ましい。
【0016】
化学蓄熱材構造体の6面のうち、1面又は2面以上を、該化学蓄熱材構造体を収容する収容部材の内部壁面に接触させて、化学蓄熱材が膨張・収縮できる空間を規制した状態にすることで、構造体内部の粒子間が適性距離に維持され、化学蓄熱材構造体の著しい体積変化が制限される。これにより、化学蓄熱材構造体及び内壁間での剪断力が軽減され、成形体である構造体の崩壊を防ぐことができる。
【0017】
<5> 前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の第1の発明では、収容部材内に収容されている化学蓄熱材構造体の真密度比は、45〜63%である場合が好ましい。
【0018】
真密度が前記範囲内である場合に化学蓄熱材は粒子同士が結着性を示し、粒子間距離が適性距離に保たれる。これより、蓄熱反応媒体(例えばCa(OH)等の金属水酸化物を用いた場合は水)の結合反応が良好に進行すると共に、脱水反応時の体積収縮時には、過剰な変形が抑制され、化学蓄熱材構造体の内壁からの界面分離を小さく抑えることができる。
【0019】
<6> 前記<4>又は前記<5>に記載の第1の発明においては、構造体収容部材として、6面の壁を有して6面の内壁で形成された室を有する容器(例えば6つの壁からなる内部中空の6面体)を用い、前記壁の少なくとも1面を蓄熱反応媒体が透過する透過壁とし、前記壁の少なくとも1面を熱伝導性の伝熱壁とした形態が好ましい。
【0020】
少なくとも1面が蓄熱反応媒体(例えばCa(OH)等の金属水酸化物を用いた場合は水)が透過する透過壁であるため、蓄熱反応媒体の通過抵抗を小さく抑えた反応(例えば水和反応)が可能になり、化学蓄熱の高効率化、高出力化が図れる。また、少なくとも1面が伝熱壁であるため、熱交換が良好に行なえる。
【0021】
<7> 前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の第1の発明における構造体収容部材は、筒状体(例えば少なくとも4面の壁を有する筒状体)と該筒状体の一端及び他端の少なくとも一方を閉塞する蓋材とを有しており、前記筒状体への前記化学蓄熱材構造体の着脱が可能に構成することができる。
【0022】
構造体収容部材が筒状体と蓋材とを別に有しており、一体型構造に構成されていないことで、化学蓄熱材構造体の交換時の着脱の際に、膨張による加圧で固着状態にあるために破損したり蓄熱材を脱離できない状態を回避し、蓄熱材構造体の交換効率を高めることができる。
【0023】
また、第2の発明である化学蓄熱器の製造方法は、
<8> 平均一次粒子径がd[μm]である粒状の化学蓄熱材を含む化学蓄熱材構造体を準備する工程と、前記化学蓄熱材構造体を収容すると共に前記化学蓄熱材構造体の少なくとも一部を拘束する構造体収容部材の内壁面の少なくとも一部に表面処理を施し、前記内壁面にJIS B 0601に準拠した十点表面粗さRz[μm]が前記平均一次粒子径dより小さい表面を形成する工程と、前記内壁面を有する構造体収容部材に前記化学蓄熱材構造体を、Rzが平均一次粒子径dより小さい前記表面で該化学蓄熱材構造体の少なくとも一部が拘束されるように収容する工程と、を設けて構成したものである。
【0024】
第2の発明においては、化学蓄熱材構造体を収容すると共に少なくとも一部を拘束する構造体収容部材の内壁面に対して、該内壁面の一部又は全面のRz(JIS B 0601に準拠した十点表面粗さ;μm)が化学蓄熱材の粒子の平均一次粒子径dより小さくなるように、表面処理を施すことで、化学蓄熱材がその反応時における著しい膨張・収縮による体積変化を防ぐために壁等で拘束された構造でも、化学蓄熱材の粒子が壁面の凹状の隙間に入り込んで固着するのが回避される。
これにより、化学蓄熱材構造体を構造体収容部材に収容した場合に、壁等と化学蓄熱材との間の剪断が小さく抑えられ、剪断応力の影響を受けて起きる化学蓄熱材の破損が防止され、ひいては化学蓄熱材の耐久性が向上する。また、化学蓄熱材の着脱(交換)時の破壊が生じ難く、着脱交換適性が向上する。
【0025】
<9> 前記<8>に記載の第2の発明に係る化学蓄熱器の製造方法において、化学蓄熱材構造体を収容する構造体収容部材の内壁面の少なくとも一部に施す表面処理としては、(1)ラッピング加工による研磨、(2)メッキ処理、又は(3)樹脂被覆処理、あるいは(4)ポリイミド材、フッ素樹脂材、及び不織布から選ばれるいずれかを貼付する処理が好ましい態様である。ポリイミド材及びフッ素樹脂材には、例えば、ポリイミドフィルムやポリイミドシート、フッ素樹脂フィルムやフッ素樹脂シートなどを用いることができる。
【0026】
上記のうち、(1)ラッピング加工による研磨又は(2)メッキ処理による表面処理では、所望とする耐熱温度を確保することが可能であり、300℃を超える比較的高温に曝される可能性があるときの表面処理法として適している。また、(3)樹脂被覆処理又は(4)ポリイミド材、フッ素系樹脂材、又は不織布の貼付処理では、300℃以下での比較的低温での使用が想定される場合に、より低コストで簡易に所望とする滑り性を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、化学蓄熱材を拘束して体積変化を制限すると共に、拘束された化学蓄熱材構造体の収容部材の壁等への固着が防止され、剪断破損が抑制された化学蓄熱器及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る化学蓄熱器を示す斜視図である。
【図2】図1に示す化学蓄熱器の構造を分解して示す分解図である。
【図3】成形体を拘束するための2つのL字型治具を間隔を空けて配置した状態を示す写真である。
【図4】(A)は構造体を取り出しときに破損し、治具に固着した化学蓄熱材が残存している状態を示す写真であり、(B)は化学蓄熱材構造体に割れが生じている状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の化学蓄熱器の実施形態について詳細に説明すると共に、該説明を通じて、本発明の化学蓄熱器の製造方法の実施形態についても詳述する。なお、下記の実施形態において、化学蓄熱材としてアルカリ土類金属の水酸化物である水酸化カルシウム(Ca(OH))を用いた形態を中心に説明する。但し、本発明においては、下記の実施形態に制限されるものではない。
【0030】
本発明の化学蓄熱器及びその製造方法に係る実施形態を図1〜図4を参照して説明する。本実施形態は、化学蓄熱材としてCa(OH)の粒状物を用い、これを6面体である直方体に成形した化学蓄熱材構造体を、6壁を有し、そのうち広幅な2壁は水分(蓄熱反応媒体)を透過する不織布(透過壁)で形成され、他の4つの側壁は熱伝導性のステンレス鋼板(伝熱壁)で形成された6面体容器に収容し、構造体の6面全てが6壁で拘束されている構造となっている。
【0031】
図1〜図2に示すように、本実施形態の化学蓄熱器100は、狭幅長尺状の2つのステンレス鋼材11及び狭幅短尺状の2つのステンレス鋼材13とステンレス鋼製の枠材(不図示)に不織布を取り付けてなる2つの水分透過壁15とを用いて内部中空の6面体構造に形成された構造体拘束容器(構造体収容部材)30と、この構造体拘束容器に収容され、Ca(OH)の粉体をプレス成形法により成形した直方体のCa(OH)構造体21とを備えている。
【0032】
構造体拘束容器30は、図1〜図2に示すように、ステンレス鋼材11及びステンレス鋼材13で無端枠の構造を形成する4つの伝熱壁と、ステンレス鋼製の枠材(不図示)に不織布を取り付けてなる2つの水分透過壁(透過壁)15とで形成されたものである。4つの伝熱壁は連結された状態で熱伝導性を有する側壁として設けられている。Ca(OH)構造体21の6面は、構造体拘束容器30の6面の内壁に少なくとも接触した状態となっている。Ca(OH)構造体21が水和反応により膨張すると、構造体の外形は内壁で規制されて形状が保たれると共に、内壁との密着が上がり、伝熱壁を介して外部に放熱できるようになっている。また、水和反応時の体積膨張は、Ca(OH)構造体と各内壁との間の僅かな隙間と構造体中の気孔体積分の空間で吸収される。逆に、Ca(OH)構造体21が脱水反応により収縮すると、構造体は内壁との密着により収縮が制限され、形状が保たれる。
【0033】
水分透過壁15は、化学繊維を用いて作製された不織布であり、その枠材の部分でステンレス鋼材11及びステンレス鋼材13と互いに接合されている。水分透過壁15が設けられることで、構造体拘束容器30の内部に収容されたCa(OH)構造体21での水和反応又は脱水反応の際に発生する水分移動が可能な構成になっている。
【0034】
水分透過壁15には、水分透過が可能な孔を有する板状の材料を制限なく使用することが可能であり、例えばステンレス鋼(例えばSUS316L)製のメッシュ材であってもよい。また、メッシュ状のものに限られず、他の形状を任意に選択して孔が設けられたものを用いることができる。例えば複数の円形の孔が所定間隔で設けられているものでもよい。
【0035】
また、水分透過壁の材質としては、化学蓄熱材構造体(本実施形態ではCa(OH)構造体)の膨張・収縮に追従又は制限を与えられるものであればよく、蓄放熱反応媒体(本実施形態では水)で腐食、軟化等や錆などの劣化を起こし難いものが好ましい。具体的には、ステンレス鋼材やアルミニウム材などの金属材料、樹脂材料などでもよい。
【0036】
ステンレス鋼材11及びステンレス鋼材13は、蓄放熱反応媒体(本実施形態では水)で腐食、軟化等や錆などの劣化を起こし難く、熱伝導性を付与できる材質が好ましい。例えば、ステンレス鋼材やアルミニウム材などの金属材料が挙げられる。
【0037】
構造体拘束容器30の中空内部は、6面の内壁で50mm×30mm×3mmのサイズに形成されており、中空部の内寸は後述のようにCa(OH)構造体21のサイズとほぼ同サイズとなっている。
【0038】
中空内部の大きさは、目的や収容される化学蓄熱材構造体(本実施形態ではCa(OH)構造体)の種類(すなわち膨張・収縮率)、体積に合わせて任意に選択することができる。
【0039】
6面の内壁のうち、ステンレス鋼材11及びステンレス鋼材13で形成される4面の内壁には、耐熱性のポリイミドフィルム(カプトン(登録商標)Hタイプ、東レ・デュポン(株)製)が貼付され、十点表面粗さ(Rz)が内部に収容されるCa(OH)構造体21のCa(OH)粉の一次粒子の平均粒径(平均一次粒子径d)より小さくなるように調整されている。RzがCa(OH)粉の平均一次粒子径dより大きくなると、Ca(OH)の粒子が壁に存在する凹状の隙間に入り込んで固着しやすくなる。したがって、Rz<平均一次粒子径dの関係を満足することにより、Ca(OH)構造体21が体積変化した際でも壁面を移動できる滑り性が得られ、Ca(OH)構造体21が内壁面で拘束された構造とした場合に、内壁面とCa(OH)構造体との間の剪断が抑えられ、剪断力の影響で生じる構造体の破損が防止される。これにより、化学蓄熱材の耐久性が向上する。また、化学蓄熱材構造体21の着脱(交換)時には、その破壊が生じ難くなり、着脱交換が容易に行なえる。
【0040】
Rz<平均一次粒子径dの関係を満たす表面処理としては、ポリイミドフィルムのほかポリイミドシートを用いてもよい。また、該表面処理の方法として、テフロン(登録商標)やグラファイトテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂フィルムやシートなどのフッ素系樹脂材、又は不織布を貼付する方法を挙げることができる。また、貼付処理する方法のほか、ラッピング加工による研磨、メッキ処理、及び樹脂被覆処理などを挙げることができる。
前記ラッピング加工は、ラップ定盤と被加工物(本実施例では構造体拘束容器30)との間にダイヤモンド砥粒と研磨液を介して両者を擦り合わせながら回転させ、超微小の除去を行なう研磨方法である。
前記メッキ処理は、構造体拘束容器30の内壁面をなす表面を電気めっきや無電解めっき等の方法により金属薄膜で覆う表面処理方法である。
前記樹脂被覆処理は、樹脂を溶剤に溶解又は分散させた塗布液をコーティングする方法である。ここで用いる樹脂に特に制限はなく、所望とするRzに合わせて適宜選択することができる。
【0041】
Rzが化学蓄熱材の平均一次粒子径dより小さい関係を満たす限り、平均一次粒子径d及びRzの範囲に特に制限はないが、Rzの範囲としては、脱離の点で、1.5μm以下の範囲が好適であり、より好ましくは1μm以下の範囲である。
【0042】
ここで、十点表面粗さ(Rz)は、JIS B 0601(1994)に準拠して測定される値である。
【0043】
本実施形態における構造体拘束容器30は、Ca(OH)構造体21を収容すると共にその6面全体を拘束していることにより、脱水反応に伴なって吸熱し、水和反応に伴なって放熱する際に著しい体積膨張・体積収縮が起きないようになっている。
【0044】
Ca(OH)構造体21が拘束されるとは、Ca(OH)構造体21の使用時等における著しい膨張、収縮を制限することを意味する。本実施形態の場合、脱水反応(蓄熱反応媒体の脱離)したときのCa(OH)構造体21の収縮と、水和反応(蓄熱反応媒体の結合)したときのCa(OH)構造体21の膨張との差を、Ca(OH)構造体21の崩壊が抑制される程度に、Ca(OH)構造体21に構造体拘束容器30の器壁が接触して体積変化が小さく制限された状態が形成されていることをいう。
【0045】
−化学蓄熱材−
Ca(OH)構造体21は、化学蓄熱材であるCa(OH)の粒状物(平均一次粒子径6〜8μm)をプレス成形した真密度比57%の成形体である。化学蓄熱材は、化学反応を利用して熱の吸収、放出を行なうことのできる物質であり、構造体内部に粉体として存在させる。化学蓄熱材が粒体又は粒状であるとは、粒子を含む粉末の状態をいう。
【0046】
化学蓄熱材としては、例えば、水酸化カルシウム(Ca(OH))のほか、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化バリウム(Ba(OH))及びその水和物(Ba(OH)・HO)などのアルカリ土類金属の無機水酸化物や、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)などのアルカリ金属の無機水酸化物、酸化アルミニウム三水和物(Al・3HO)などの無機酸化物などを挙げることができる。中でも、脱水反応に伴なって吸熱し、水和反応に伴なって放熱する水和反応性蓄熱材が好ましく、特に水酸化カルシウム(Ca(OH))好ましい。
【0047】
ここで、水酸化カルシウム(Ca(OH))を例に蓄熱と放熱について説明する。
化学蓄熱材であるCa(OH)は、脱水に伴なって蓄熱(吸熱)し、水和(水酸化カルシウムへの復原)に伴なって放熱(発熱)する構成となる。すなわち、Ca(OH)は、以下に示す反応により蓄熱、放熱を可逆的に繰り返することができる。
Ca(OH) ⇔ CaO + H
またこれに、蓄熱量、発熱量Qを併せて示すと、以下のようになる。
Ca(OH) + Q → CaO + H
CaO + HO → Ca(OH) + Q
【0048】
粒状の化学蓄熱材の平均粒径としては、平均一次粒子径(d)で50μm以下が好ましい。成形体内部に存在している化学蓄熱材の平均一次粒子径dが50μm以下であると、成形性の点で好適であると共に、粘土鉱物を併用したときには粘土鉱物との間の反応生成物が得られ、より強固な多孔構造が得られる。中でも、平均一次粒子径は、30μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましい。また、平均一次粒子径の下限は、0.1μmが望ましい。
【0049】
本発明においては、「十点表面粗さ(Rz)<化学蓄熱材の平均一次粒子径d」の関係を満たす範囲で構成されるが、中でも化学蓄熱材構造体の固着をより効果的に防ぎ、体積変化に伴なう剪断の影響で生じる化学蓄熱材構造体の破壊をより回避する観点から、化学蓄熱材の平均一次粒子径dとRzとの差(=d−Rz;μm)は、1.5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
【0050】
なお、化学蓄熱材の平均一次粒子径dは、レーザー回折・散乱粒度分布計SALD−2000A〔(株)島津製作所製〕を用いて、レーザー回折散乱法により測定される値である。
【0051】
Ca(OH)構造体21の真密度比は57%であるが、化学蓄熱材構造体の真密度比としては、45〜63%の範囲に調節することが好ましい。真密度比とは、気孔を除いた構造体を構成する実質的な成分比率がどの程度であるかを示し、気孔が少ないほど真密度比は高くなる。真密度比が45〜63%の範囲であると、化学蓄熱材は粒子同士が結着性を示し、粒子間距離が適性距離に保たれる。具体的には、真密度が45%以上であると、体積変化を構造体の崩壊等が起きない程度に抑えることができ、また真密度が63%以下であると、堆積膨張できる許容体積が確保され、良好な反応性が得られる。
これにより、Ca(OH)構造体21での水和反応(蓄熱反応媒体の結合反応)が良好に進行すると共に、脱水反応時の体積収縮時には、過剰な変形が抑制され、Ca(OH)構造体21の内壁からの界面分離を小さく抑えることができる。
本発明における化学蓄熱材構造体の真密度比は、51〜60%の範囲がより好ましく、55〜59%の範囲が特に好ましい形態である。
【0052】
前記真密度比は、化学蓄熱材構造体の質量[g]と体積[ml]とを計測し、計測値をもとに下記式から算出される値である。
真密度比[%]=(質量/体積)/真密度×100
【0053】
また、Ca(OH)構造体21は、50mm×30mm×3mmのサイズに形成されており、構造体拘束容器30の内寸と同サイズに成形されることで、拘束状態が形成されており、成形時の蓄熱材粉体の粒子間距離を略一定に保つことができる。これにより、Ca(OH)構造体21の体積膨張・収縮に伴なう内部クラックの発生が抑制されると共に、発生した内部クラックを自己補修することができる。また、外形上の曲げ、反り等の変形を抑制することで外部欠損が抑制される効果も期待でき、収縮時の欠損は膨張時に自己修復できる効果が得られる。
【0054】
このような観点から、化学蓄熱材構造体は、プレス成形後の外寸が、構造体収容部材の内寸と同等ないし同等とみなせる範囲にある場合が好ましい。また、化学蓄熱材構造体のプレス成形後の外形が、構造体拘束容器の中空内部の形状と相似の関係にある態様であってもよく、この場合は、蓄放熱反応媒体の少なくとも一部を脱離した後の化学蓄熱材構造体の各面と、構造体拘束部材の中空部の各面との相似比が等しい状態にある態様が好ましい。互いに相似比が等しいと、化学蓄熱材構造体を収容し、使用時の化学蓄熱材構造体の膨張、収縮させた場合に、構造体拘束容器の中空部の内壁面に対して良好な密着が得られる。相似比は、対比する形状間で各辺等の比が同じことをさし、例えば、6面体の場合は3次元座標軸(XYZ軸)の3軸方向における各辺の比が等しいことをいう。この場合、化学蓄熱材構造体の膨潤・収縮したときに、構造体拘束容器30内で各面が均等に拘束される。更に加えて、上記と同様の理由から、Ca(OH)構造体などアルカリ土類金属の水酸化物の化学蓄熱材構造体が用いられ、真密度比55〜59%の範囲で充填されている形態が好ましい。
【0055】
化学蓄熱材の化学蓄熱材構造体中における含有比率としては、体積比率では、構造体全体積に対して20〜80体積%(構造体全質量に対して20〜80質量%)が好ましく、30〜70体積%(構造体全質量に対して30〜70質量%)がより好ましい。化学蓄熱材の含有量は、20体積%以上又は20質量%以上であると、吸発熱量を高く保つことができ、80体積%以下又は80質量%以下であると、構造強度のより高い構造体が得られる。
【0056】
−有機バインダー−
化学蓄熱材構造体(本実施形態ではCa(OH)構造体21)は、粒状の化学蓄熱材(本実施形態ではCa(OH))と共に、有機バインダーを用いて成形されてもよい。
【0057】
粒状の化学蓄熱材は、一般に粒子同士のくっつきが悪く成形し難いため、構造体成形性の付与(結着成分)のために有機バインダーを併用してもよい。また、有機バインダーの併用により、結晶制御、多孔化なども向上させることができる。
【0058】
有機バインダーとしては、例えば、変性又は未変性の各種ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂、水性ウレタン等のウレタン樹脂、デンプンなどの樹脂成分や、ジエチレングリコール(DEG)、エタノールなどの溶剤成分、等を好適に用いることができる。
【0059】
−粘土鉱物−
化学蓄熱材構造体(本実施形態ではCa(OH)構造体21)は、粒状の化学蓄熱材(及び必要に応じて前記有機バインダー)を用いるほか、さらに粘土鉱物を用いて成形してもよい。この場合には、化学蓄熱材の粉体間に粘土鉱物が介在した構造が得られ、粘土鉱物が多孔の骨格構造をなし、その中に化学蓄熱材の粉体が分散保持された構造に形成されてもよい。構造中、化学蓄熱材の粉体は分散状態で保持され、多孔により水蒸気の拡散性に優れているため、多くの粉体において上記反応を起こしやすいようになっている。
【0060】
化学蓄熱材構造体(本実施形態ではCa(OH)構造体21)は、層リボン構造を有する粘土鉱物の少なくとも1種を含有することが好ましい。層リボン構造を有する粘土鉱物は、輝石に似た単鎖が複数本結合して四面体リボンを形成している粘土鉱物(層状珪酸塩鉱物)であり、化学蓄熱材に粘度を与え、多孔構造を形成すると共に、構造体の構造強度を高く保つことができる。また、水蒸気の拡散性も付与できる。
【0061】
粘土鉱物としては、例えば、セピオライト〔MgSi1230(OH)・(OH・8HOで表される含水マグネシウム珪酸塩〕、アタパルジャイト〔パリゴルスカイト;=(Mg・AL)Si10(OH)・4HOで表されるパリゴルスカイト構造を有する含水珪酸マグネシウム、線径5μm以下〕、カオリナイト〔カオリン;=Al(Si)(OH)で表されるアルミニウム珪酸塩、線径1μm以下〕などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、粘土鉱物は上市された市販品を用いてもよく、市販品の例として、近江鉱業(株)製のトルコ産セピオライトなどを使用できる。
【0062】
層リボン構造を有する粘土鉱物は、これに属しない下記ベントナイトと比較し、シンタリング(凝集化)が少ない利点がある。特にセピオライトは、化学蓄熱材の脱水温度に近い温度で焼結され、該温度ではシンタリングによる比表面積の減少が少ない利点がある。
粘土鉱物は、このような利点を考慮して用途等に応じて適宜選択すればよい。
【0063】
なお、化学蓄熱材構造体(本実施形態ではCa(OH)構造体21)は、層リボン構造を有する粘土鉱物に属しないベントナイトを含んでもよく、粘土鉱物とベントナイトとを混合してもよい。ベントナイトは、層リボン構造を有する粘土鉱物と比較し、接着力が強い粘土鉱物であり、単体で(粘土鉱物と混合されない状態で)強固な多孔質構造を得ることができる。また、例えば金属壁への接合強度を向上することに寄与し、ベントナイトを用いた組成でも化学蓄熱材の粉体間に細孔が形成された多孔質構造が得られる。
本発明においては、層リボン構造の粘土鉱物とベントナイトとを混合した粘土鉱物を粒状の化学蓄熱材と混合する構成であってもよい。この場合、ベントナイトの比率は、層リボン構造を有する粘土鉱物に対して10〜40質量%とするのが好ましい。
【0064】
粘土鉱物の化学蓄熱材構造体(本実施形態ではCa(OH)構造体21)中における含有量としては、構造体全質量に対して、10〜40質量%の範囲が好ましく、25〜35質量%の範囲がより好ましい。粘土鉱物の含有量は、10質量以上であると、より高い構造強度が得られやすく、40質量%以下であると、より高い吸発熱量が得られやすい。
【0065】
−他の成分−
化学蓄熱材構造体(本実施形態ではCa(OH)構造体21)には、上記した成分以外に、場合により不可避的不純物や添加剤などの他の成分が含有されていてもよい。
【0066】
次に、本実施形態に係る化学蓄熱器100の製造方法について説明する。
本実施形態に係る化学蓄熱器100の作製にあたり、まず、平均一次粒子径dμmの粒状の化学蓄熱材としてCa(OH)を用い、プレス成形して図2に示すように50mm×30mm×3mmのサイズの直方体のCa(OH)構造体(化学蓄熱材構造体)21を作製する(以下、この工程を「構造体準備工程」ともいう。)。プレス成形時の成形条件は、化学蓄熱材の組成や性状及び厚み等の形状に合わせて適宜選択すればよい。
【0067】
本実施形態における構造体準備工程では、Ca(OH)粉をプレス成形することにより成形体を形成するが、必ずしもプレス成形を行なって準備する必要はなく、市販のCa(OH)の成形体を使用してもよい。成形加工は、プレス成形に限らず、他の成形方法を用いて行なってもよい。
【0068】
図2に示すように50mm×30mm×3mmの断面矩形の筒状の構造体拘束容器(構造体収容部材)30を用意し、その内壁面の全面に耐熱性のポリイミドフィルム(カプトン(登録商標)Hタイプ、東レ・デュポン(株)製)を貼付することによって、表面処理を施す(以下、この工程を「表面処理工程」ともいう。)。表面処理の詳細については、既述の通りである。これにより、JIS B 0601に準拠した十点表面粗さ(Rz)を、内部に収容されるCa(OH)構造体21のCa(OH)粉の平均一次粒子径dより小さくなるように調整することができる。
【0069】
そして、構造体拘束容器30の開口する一端から、得られたCa(OH)構造体21を挿入し、構造体拘束容器30の開口する前記一端及びその他端を蓋材13で閉塞する(以下、この工程を「構造体収容工程」ともいう。)。このとき、Ca(OH)構造体21のCa(OH)粒子の平均一次粒子径dは、構造体拘束容器30の表面処理された内壁面(カプトン貼付面)のRzより大きくなっている。
【0070】
構造体拘束容器30は、図1〜図2に示すように、ステンレス鋼材11及びステンレス鋼材13で無端形状を形成する4つの伝熱壁と、ステンレス鋼製の枠材(不図示)に不織布を取り付けてなる2つの水分透過壁(透過壁)15とで形成されたものである。このとき、Ca(OH)構造体21の6面が構造体拘束容器30の6面の内壁に密着はしていないが接触した状態となっている。Ca(OH)構造体21が水和反応して膨張したときには、構造体の外形は内壁で規制されることで形状が保たれ、内壁との密着が上がって伝熱壁を介して外部に放熱することができる。また、水和反応時の体積膨張は、Ca(OH)構造体と各内壁との間の僅かな隙間と構造体中の気孔体積分の空間で吸収される。
【0071】
以上のようにして、化学蓄熱材構造体であるCa(OH)構造体21の6面を、構造体拘束容器30の「Rz<Ca(OH)構造体21の平均一次粒子径d」の関係を満たす6面の内壁で拘束した化学蓄熱器が作製される。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
化学蓄熱材として、平均一次粒子径が0.8μmの水酸化カルシウム(Ca(OH))の白色粉末(JIS R 9001 等級:特号)を用意し、この白色粉末と、有機バインダーとして前記白色粉末との合計量に対して1質量%となる量のポリビニルアルコール(PVA)と、イオン交換水とを混合し、スプレードライを用いて造粒することにより、蓄熱材構造体を作製するための前駆組成物を調製した。
なお、平均一次粒子径は、レーザー回折・散乱粒度分布計SALD−2000A〔(株)島津製作所製〕を用いて、レーザー回折散乱法により測定した値である。
【0074】
得られた前駆組成物をプレス成形法により成形し、縦50mm×横30mm×厚さ3mmのサイズの成形体を得た。得られた成形体の真密度比は、57%であった。
【0075】
次いで、この成形体に対して、700℃で60分間の加熱処理(焼成)を施し、前駆組成物中のCa(OH)を脱水すると共に、PVAを除去し、これと同時に雰囲気中の炭酸カルシウムを分解して脱炭酸を施した。
【0076】
次に、上記のような加熱処理を終えた成形体を、その6面を支持、拘束することができる所定の治具にセットした。
具体的には、ステンレス鋼板の一方面に材質が化学繊維の不織布を取り付け、この不織布の上にステンレス鋼製の2つのL字型治具を、その長辺と短辺とが互いに向き合うように図3に示すようにして配置しておき、L字型治具で取り囲まれた中(50mm×30mm×3mm)に、上記の成形体をセットした。続いて、一方面に不織布が取り付けられたステンレス鋼板をさらに1枚用意し、この不織布付のステンレス鋼板を前記成形体上に、その不織布面が成形体と接する向きに重ね合わせた。このようにして、成形体の2つの平面を不織布からなるガス透過性の透過壁で支持、拘束されるようにすると共に、4つの側面をL字型治具で支持、拘束されるようにした。
【0077】
このとき、2つのL字型治具の、これらで取り囲まれる領域に面した各表面、すなわち成形体の4つの側面と接する各表面は、耐熱性のポリイミドフィルム(カプトン(登録商標)Hタイプ、東レ・デュポン(株)製)を貼付することにより、十点表面粗さ(Rz)が0.2μmに調整されている。また、不織布(透過壁)の表面における前記Rzは、1μmである。
なお、十点表面粗さ(Rz)は、JIS B 0601(1994)に準拠して測定される値である。
【0078】
上記のように、成形体の6面を覆った状態で200℃にて30分間保持し、成形体を水和反応させた。その後、再び加熱して500℃に昇温し15分間保持(脱水・焼成)した後、降温して200℃に保持(水和)した。このように温度を昇降させて焼成、水和させる操作を4回繰り返して行なった。
【0079】
焼成、水和の反応終了後、成形体を不織布が付いた状態で取り出し、化学蓄熱構造体を得た。このとき、成形体(化学蓄熱構造体)側面のL字型治具(カプトン面)への固着はみられず、剥れや割れ等の発生なく、綺麗な矩形の状態で取り外すことができた。
【0080】
取り外した化学蓄熱構造体を、図2に示すようにステンレス鋼材(SUS316L)で成形された50mm×30mm×3mmサイズの筒断面が矩形の筒状体の中に挿入し、挿入方向における筒状体の底部と天部とをSUS316L製の蓋材で閉塞し、化学蓄熱器を作製した。ここで、筒状体の4つの内壁及び蓋材の内壁は、上記同様に、耐熱性のポリイミドフィルム(カプトン(登録商標)Hタイプ、東レ・デュポン(株)製)が貼付されて、Rz=0.2μmに調整されている。
これにより、化学蓄熱構造体は、6面全てが金属壁に接して支持されていることで、反応時の膨張等に伴なう崩壊を防ぎ、筒状体から取り出す際には内壁面への固着が抑制されて剥れや割れ等の発生が防止される。
【0081】
(実施例2)
実施例1において、2つのL字型治具の、成形体の4つの側面と接する各表面に貼付したポリイミドフィルム(カプトンHタイプ)を、テフロン(登録商標)テープに変更し、Rzを0.7μmに調整したこと以外は、実施例1と同様にして、化学蓄熱構造体及び化学蓄熱器を作製した。結果を下記表1に示す。
【0082】
(実施例3)
実施例1において、PVA(白色粉末との合計量に対して1質量%)を、近江鉱業(株)製のミラクレー(登録商標)Pシリーズ トルコ産セピオライト粉末P−300(MgSi1230(OH)(OH・8HO;白色粉末との合計量に対して1質量%)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、化学蓄熱構造体及び化学蓄熱器を作製した。結果を下記表1に示す。
【0083】
(比較例1〜3)
実施例1において、2つのL字型治具の、成形体の4つの側面と接する各表面にポリイミドフィルム(カプトンHタイプ)を貼付する処理を、下記表1に示すような処理に変更してRzを調整するようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、化学蓄熱構造体及び化学蓄熱器を作製した。
なお、比較例1では、L字型治具をワイヤーカットして得たままのものを用いた。
【0084】
【表1】



【0085】
前記表1に示すように、実施例2〜3では、実施例1と同様に、成形体を取り出して化学蓄熱構造体を得る際に、成形体(化学蓄熱構造体)側面のL字型治具(カプトン面)への固着はみられず、剥れや割れ等の発生なく、綺麗な矩形の状態で取り外すことができた。したがって、得られた化学蓄熱構造体を用いて化学蓄熱器を作製した場合、6面全てが金属壁に接して拘束されていることで、反応時の膨張等に伴なう崩壊を防ぎ、筒状体から取り出す際には、内壁面への固着が抑制されて剥れや割れ等の発生を防止することができた。
【0086】
また、比較例1〜3では、前記表1に示すように、内壁のRzで表される表面粗さが、用いた化学蓄熱材の平均一次粒子径より大きいために、水和反応させた際に蓄熱材粒子が凹状の隙間に入り込んで固着してしまい、図4(A)に示すように、いずれも取り外した際に治具に付着残りが発生し、比較例1では図4(B)のように割れが発生した。
【0087】
上記の実施形態及び実施例では、表面処理としてポリイミドフィルムを貼付する方法を中心に説明したが、ポリイミド材以外のフッ素系樹脂材や不織布を貼付する方法でも同様に固着の発生が防止され、剪断破損に対して良好な結果が得られる。また、表面処理として、貼付する方法のほか、ラッピング加工による研磨やメッキ処理、樹脂被覆処理を行なった場合にも、同様に固着の発生が防止され、剪断破損に対して良好な結果が得られる。
【符号の説明】
【0088】
11,13・・・伝熱壁
15・・・透過壁
21・・・Ca(OH)構造体(化学蓄熱材構造体)
23・・・ポリイミドフィルム(ポリイミド材)
30・・・構造体拘束容器(構造体収容部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径がd[μm]である粒状の化学蓄熱材を含む化学蓄熱材構造体と、
前記化学蓄熱材構造体を収容すると共に前記化学蓄熱材構造体の少なくとも一部を拘束し、前記化学蓄熱材構造体と接する内壁面の、JIS B 0601に準拠した十点表面粗さRz[μm]が前記平均一次粒子径dより小さい構造体収容部材と、
を備えた化学蓄熱器。
【請求項2】
前記化学蓄熱材は、脱水反応に伴なって吸熱し、水和反応に伴なって放熱する水和反応性蓄熱材である請求項1に記載の化学蓄熱器。
【請求項3】
前記化学蓄熱材は、アルカリ土類金属の水酸化物である請求項1又は請求項2に記載の化学蓄熱器。
【請求項4】
前記化学蓄熱材構造体は、6面体構造を有し、前記6面体構造の少なくとも1面は前記構造体収容部材の内壁と接して拘束されている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の化学蓄熱器。
【請求項5】
前記化学蓄熱材構造体は、真密度比が45〜63%である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の化学蓄熱器。
【請求項6】
前記構造体収容部材は、6面の壁を有し、前記壁の少なくとも1面は蓄熱反応媒体が透過する透過壁であり、前記壁の少なくとも1面は熱伝導性の伝熱壁である請求項4又は請求項5に記載の化学蓄熱器。
【請求項7】
前記構造体収容部材は、筒状体と該筒状体の一端及び他端の少なくとも一方を閉塞する蓋材とを有し、前記筒状体への前記化学蓄熱材構造体の着脱が可能に構成されている請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の化学蓄熱器。
【請求項8】
平均一次粒子径がd[μm]である粒状の化学蓄熱材を含む化学蓄熱材構造体を準備する工程と、
前記化学蓄熱材構造体を収容すると共に前記化学蓄熱材構造体の少なくとも一部を拘束する構造体収容部材の内壁面の少なくとも一部に表面処理を施し、前記内壁面にJIS B 0601に準拠した十点表面粗さRz[μm]が前記平均一次粒子径dより小さい表面を形成する工程と、
前記内壁面を有する構造体収容部材に前記化学蓄熱材構造体を、Rzが平均一次粒子径dより小さい前記表面で該化学蓄熱材構造体の少なくとも一部が拘束されるように収容する工程と、
を有する化学蓄熱器の製造方法。
【請求項9】
前記表面処理として、前記内壁面の少なくとも一部に、ラッピング加工による研磨、メッキ処理、及び樹脂被覆処理から選ばれるいずれかの処理を行なう請求項8に記載の化学蓄熱器の製造方法。
【請求項10】
前記表面処理として、前記内壁面の少なくとも一部に、ポリイミド材、フッ素系樹脂材、及び不織布から選ばれるいずれかを貼付する処理を行なう請求項8に記載の化学蓄熱器の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate