説明

化学装置

【課題】簡便な構成でマイクロリアクタに一定量の原料を供給し、かつプライミング時の気泡の残留を抑えることができる化学装置を提供すること。
【解決手段】、種類の異なる複数の原料を反応器に供給し、反応器内部の微細流路で混合あるいは反応させて生成物を得る化学装置で、前記反応器を複数設けるとともに、種類の異なる複数の原料を循環させる複数のループ流路と、前記各ループ流路の途中から前記複数の反応器に前記原料を供給する複数の分岐流路を備え、前記ループ流路は、前記反応器内部の微細流路のスケールに比べ十分に大きなスケールに設定されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微小流路を利用した反応器(以下、マイクロリアクタと呼ぶ)の生産処理量をスケールアップするための化学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロマシーニング技術、微小スケールでのメリットを、化学プロセスヘ積極的に応用するマイクロリアクタが近年盛んに研究、開発されている。マイクロリアクタでは様々なメリットが期待されているが、その一つに、処理量のスケールアップの容易性が挙げられる。通常、化学製品の研究開発、製造では、ラボレペルでの研究、製品開発、テストプラントを経て、量産プラントヘと生産量を段階的にスケールアップしていく。
【0003】
一般にビーカレベルでの少量の化学反応と、生産用反応槽の中での多量の化学反応では、化学反応が行われる諸条件が異なるため、ラボレベルから量産レベルヘのスケールアップには技術的な課題がしばしば生じる。
【0004】
マイクロリアクタではこの課題を極力回避するために、ラボレベルで開発・適用した少量処理向けマイクロリアクタを、そのまま量産レベルの必要量に応じて複数実装することで処理量のスケールアップを一気に行う戦略が提案されている。一つあたりの処理量は少量である単体のマイクロリアクタを、プラントヘ実装する数によって処理量を稼ぐこの処理用スケールアップの手法は、ナンバリングアップと呼ばれることがある。マイクロリアクタを用いたラボレベルの処理量からプラントでの量産レベルヘの処理量のスケールアップでは、このナンバリングアップを具体的にどのような配管で各マイクロリアクタヘ原料を均等に分配するかが品質のより生成物を得る上で重要となる。
【0005】
ナンバリングアップによるラボレベルからプラントレベルヘのスケールアップでは、例えば、特許文献1、特許文献2に開示されているように、マイクロリアクタを並列に接続して実装数を稼ぐ方法がしばしば採用される。この並列接続配管の最大のメリットは、一つの送液手段(ポンプ、ヘッダータンク)から原料を分岐させるために、送液設備のコストが抑えられる点であるが、デメリットとしては、分岐部から複数分岐したとき、分岐部で極端に送液圧が減少するとともに均一性が保たれず、分岐後の微細流路が毛管現象の影響による気泡の付着・残留、マイクロリアクタ内の反応物の流路壁への沈着などで閉塞した場合、その流路抵抗の不均衡が他の全ての分岐流路に及ぼされ、各マイクロリアクタヘの所期の送液量が乱される点である。
【0006】
また、プライミング時、すなわちプラントの原料配管およびマイクロリアクタ内が空の状態から運転を開始し、原料で置換される初期の状態において生じる置換不良すなわち気相の残留は、その気泡がいつ乖離して後段へ流れていくか不確定性が高く、マイクロリアクタ内の微小空間での化学操作の性能低下の要因になり得る。
【0007】
マイクロリアクタ内の反応物の流路壁への沈着などの問題を解決する手段のーつとして、特許文献1では各流路を流れる原料の送液状態をモニタし、その情報に基づき弁や送液手段を制御して各流路を流れる原料を所望の流量に維持する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−80306号公報
【特許文献2】特開2004−344877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、分岐流路毎にその流量や圧力などをモニタする手段、および弁などの流路抵抗を能動的に制御する手段の実装、さらに、これらが常に正しく機能し続ける事が前提となる。従って、特許文献1記載の技術では、信頼性を維持するために化学装置の構成が複雑で高コストとなってしまう。また、特許文献2にも並列接続配管の実施例が示されているが、上述した毛管現象の影響による気泡の付着・残留が問題となる配管構成である。
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、各分岐流路に流量のモニタリングや制御手段を実装するのではなく、より簡便な構成と方法で各マイクロリアクタに一定量の原料を供給し、かつプライミング時の気泡の残留を抑えることができる化学装置、すなわち、送液開始後、流路内が原料によって完全に置換できる化学装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、種類の異なる複数の原料を反応器に供給し、反応器内部の微細流路で混合あるいは反応させて生成物を得る化学装置において、
前記反応器を複数設けるとともに、種類の異なる複数の原料を循環させる複数のループ流路と、前記各ループ流路の途中から前記複数の反応器の微細流路に前記原料を供給する複数の分岐流路を備え、前記ループ流路は、前記分岐流路または前記反応器内部の微細流路のスケールに比べ十分に大きなスケールに設定されたことを特徴とする。
【0012】
また、上記の化学装置において、前記ループ流路内の原料の流量、圧力および温度を所望の値に制御する制御部を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、上記の化学装置において、前記ループ流路、分岐流路および反応器が、材料平面部に溝加工、穴あけ加工により形成されたことを特徴とする。
【0014】
また、上記の化学装置において、前記複数のループ流路と複数の分岐流路を前記反応器の内部に配置されたことを特徴とする。
【0015】
また、上記の化学装置を複数段連結して構成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ループ流路内のみをポンプや弁で制御するために、プラント全体で使用する流量モニタやポンプおよび弁の要素数が大幅に減少し、プラントとして間便な構成で信頼性の高いシステムを構成できる。また、各マイクロリアクタ内の流路に比べ、スケールの大きなループ配管から原料が供給され、かつ、そのループ配管内の原料の流れ、特にその圧力が一定になるように制御されている。このため、一部のマイクロリアクタが閉塞したとしても、他のマイクロリアクタには常に一定の圧力が印加された状態となるので、所期の流量で原料が常に配分される。さらに、本発明では、一つの流れを一度に複数の微細な流路へ分配する分岐部がないために途中で送液圧の減少がなく、毛管現象の影響によって従来の並列分岐配管部で頻発していた流路壁への気泡の付着・残留の問題が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1の基本構成の説明図。
【図2】実施例1を多段反応へ適用の実施例2の説明図。
【図3】実施例3のY字混合/反応流路の説明図。
【図4】同じくループ配管を反応器内に設置した場合の分解斜視図。
【図5】同じく反応器の組み立て斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施例1)
図1に本発明実施例1の配管および原料の送液制御の基本構成の説明図を示す。本実施例は、原料Aと原料Bを混合あるいは反応させ、生成物Cを得るための2原料1ステップ反応、あるいは混合のプロセスの例である。
【0019】
原料Aおよび原料Bは、それぞれのリザーバータンク101および102に貯蔵用されており、それぞれループ配管(流路)109および110内を、ポンプ103および104によって循環的に流動させられる。このループ配管109、110内を流れる流量111、112は、その原料の特性に適した流量となるように、流量計107および108によってモニタ302で監視される。さらに、その原料の流れ(送液条件)は、モニタの結果に基いてポンプ103、104の出力および、その流路開口度が能動的に調節可能な流量調節弁105、106を調整することで所望の条件(流量、圧力、温度など)に制御される。これらの制御は、制御部301によってコントロールされている。
【0020】
ポンプ103、104によって、それぞれのループ配管109および110に吸込まれた原料AおよびBは、ほとんどの量の原料が一巡して再びリザーバータンク101、102へ戻ってくる。その途中、一部の原料は、ループ配管109の一部である分岐流路部113、およびループ配管110の一部である分岐流路部114に接続された複数の各マイクロリアクタ115に、微細な分配流路117および118を介して分配される。
【0021】
分配流路117および118は、マイクロリアクタ115内の微細流路(図1に図示せず)に接続されて、原料を供給する。従って、微細な分配流路117および118は、接続される微細流路と同じ流量と圧力を有することになる。分配された原料AおよびBは、微細流路で混合あるいは反応し、生成物Cとなって集められて流路116を経由してタンク119に回収される。
【0022】
ループ配管109および110は、マイクロリアクタ115内の微細流路の合計のスケールに比べ十分に大きな流路のスケールで構成される。ここで、マイクロリアクタ115内の各微細流路の合計のスケールとは、原料の毛管現象、すなわち、主に流路壁面の濡れ性が、特にプライミング時の原料の挙動に影響を及ぼすレベルのスケールの合計を指しており、ループ配管109および110の十分に大きな流路のスケールとは、上記毛管現象の影響を無視できるレベルのスケール(流量、圧力)を指している。例えば、ループ配管109と110の流量または圧力が、複数の分配流路117と118(または複数の微細流路)の全ての合計流量又は合計圧力の10倍以上となるように、それぞれのスケールが設定される。
【0023】
本実施例によれば次のような効果が得られる。ループ配管の分岐流路部113および114の流路のスケールは、各マイクロリアクタ115への分配流結117および118に比べ十分にスケールが大きいため、プライミング時の各マイクロリアクタ内の原料の挙動(分配)は、微細な分配流路117、118や、マイクロリアクタ115内の微細流路における毛管現象ではなく、ループ配管109、110内の圧力によって支配される。従って、微細流路117、118における毛管現象の影響が少ないために、プライミング時における気泡の残留・付着が回避される。
【0024】
さらに、原料がタンク等に貯留している場合と比べ、ループ配管109、110内の原料の循環的な流動によって液相が攪拌されるので、液相中に密度の異なる他の組成物が浮遊しているスラリーのような原料の場合に、均一分散効果も得られる。
【0025】
リアクタ115の実装数は、マイクロリアクタ1個あたりの処理量とプラント全体の所望の処理量によって決定され、また、その実装数に応じて原料を循環させるループ配管の管径や、原料の流量、圧力といった流動条件を適切に設計されるが、本実施例によればこれらを容易に実現できる。
【0026】
(実施例2)
図2に示す本発明の実施例2では、原料Aと原料Bから生成物Cを得た後に、さらにその生成物Cと原料Dを混合あるいは反応させ生成物Eを得る、3原料2ステップ混合あるいは反応のプロセスの例である。図2で点線で囲われた部分201は、図1にて説明した構成と同じである。また、点線で囲われた部分202も、部分201において得られた生成物Cが部分202の原料タンク204に導かれている点以外は、図1あるいは部分201の構成と同じである。このように、本実施例2では、1段、2段と混合あるいは反応を構成することで、複数の多段プロセスに適用している。
【0027】
また、図1、図2で示した実施例1、実施例2では、2つの原料から1つの生成物を得る2入力1出力タイプの混合・反応を例として示しているが、3つ以上の原料から生成物を得るプロセスでも、その原料の種類数に応じてループ配管数を構成することで対応可能であることは言うまでもない。
【0028】
図1、図2に示した実施例はいずれも、複数のマイクロリアクタの外部にループ配管(流路)を構成し、各マイクロリアクタヘ原料を配分するものであったが、処理量がさほど大きくない場合には、この配管(流路)構成をマイクロリアクタ内部にマニホールド化することも可能である。以下の実施例にその一例を示す。
【0029】
(実施例3)
図3は、2種類の原料を混合あるいは反応させる代表的なマイクロリアクタの例である。Y字型の微細流路の2流路部304、305にそれぞれ原料F301と原料G302を流し、混合/反応流路部303で両原料間の分子拡散を利用して混合または反応させるものである。このY字型の混合/反応流路(微細流路)の形状をそのまま踏襲して、マイクロリアクタ内でナンバリングアップした実施例3を図4と図5に示す。
【0030】
この図4には、図3に示したY字型の混合/反応流路(微細流路)が、406で示されるように同心円状に放射状に複数(図4では22本)溝加工されて表面に配置された板状部品408と、Y字型の混合/反応流路(微細流路)より十分大きなスケールの溝加工で同心円状に形成される環状のループ流路(図1、図2のループ配管に相当)404と405が、表面に配置された板状部品409が示されている。
【0031】
上記Y字型の混合/反応流路(微細流路)406の、一方の放射状に長く延びる入口には穴あけ加工により形成された下方に抜ける流路502(分岐流路)が連通しており、他方の放射状に短く延びる入口にも穴あけ加工により形成された下方に抜ける流路503(分岐流路)が連通している。また、上記ループ流路404の両端には穴あけ加工により形成された下方向に抜けるポート401および410が連通しており、上記ループ流路405の両端には穴あけ加工により形成された下方向に抜けるポート402および403が連通している。
【0032】
上記Y字型の混合/反応流路(微細流路)406の下方に抜ける複数の各流路502は、上記ループ流路404の円弧に沿って真上に対向するように環状に配置され、Y字型の混合/反応流路406の下方に抜ける複数の各流路503は、上記ループ流路405の円弧に沿って真上に対向するように環状に配置される。従って、板状部品409の上に板状部品408が重なった状態では、複数の流路502が上記ループ流路404に円弧に沿った形で連通し、複数の流路503が上記ループ流路405に円弧に沿った形で連通する。
【0033】
流路407は、板状部材409の上記ループ流路404、405の同心円の中心に位置して、上下に貫通して開けられた回収流路で、上記の複数(図4では22本)のY字型の混合/反応流路(微細流路)406の放射中心に対応している。従って、板状部品409の上に板状部品408が重なった状態では、上記の多数のY字型の混合/反応流路406の中心と、上記回収流路407とが連通する。
【0034】
本実施例のマイクロリアクタは、板状部品409に板状部品408に重ねて配置され、更に板状部品408の上に蓋となる板状材料501を重ねて全体を結合することで、構成され、その組立てられた状態のマイクロリアクタを図5に示す。
【0035】
図5において、マイクロリアクタ外部から供給される原料Aおよび原料Bは、それぞれポート401および402より導入され、ループ流路404および405を流動(還流)して、それぞれポート410および403より吐出される。この間、ループ配管を流れる原料A、原料Bの一部は、複数のY字型の混合/反応流路406に連通している分岐流路としての流路502および503を通り、各Y字流路へと導かれ、混合/反応して、その生成物が複数のY字型の混合/反応流路406の中心に集まり、回収流路407を経由してマイクロリアクタ外部へと回収される。
【0036】
本実施例によれば、上記実施例1、2に記載された効果に加え、処理量がさほど大きくないアプリケーションでは、マイクロリアクタ内部で処理量のスケールアップをコンパクトに行う事ができる。また、ループ流路404、405から回収流路407に至る、各Y字型の混合/反応流路406が同一長さとなるので、各反応流路406での混合/反応条件が同一となり、均質な混合/反応液を集めることができる。なお、上記ループ流路404、405内の原料の送液状態、圧力、温度は、マイクロリアクタ外部に設けられた図示しないモニタリング手段でなされる。
【0037】
また、本実施例によれば、上記実施例1、2と同等な処理量であっても、ループ流路404、405が短くなって、その設置スペースが小さくて済むので、装置をコンパクトに構成できる。
【0038】
以上、本発明のいくつかの実施例を説明したが、本発明は上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0039】
115、…反応器、117、118、502、503…分岐流路、109、110、113、114、404、405…ループ流路(ループ配管)、301…制御部、303〜305、406…微細流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種類の異なる複数の原料を反応器に供給し、反応器内部の微細流路で混合あるいは反応させて生成物を得る化学装置において、
前記反応器を複数設けるとともに、種類の異なる複数の原料を循環させる複数のループ流路と、前記各ループ流路の途中から前記複数の反応器の微細流路に前記原料を供給する複数の分岐流路を備え、前記ループ流路は、前記反応器内部の微細流路のスケールに比べ十分に大きなスケールに設定されたことを特徴とする化学装置。
【請求項2】
請求項1記載の化学装置において、前記ループ流路内の原料の流量、圧力および温度を所望の値に制御する制御部を備えたことを特徴とする化学装置。
【請求項3】
請求項1記載の化学装置において、前記ループ流路、分岐流路および反応器が、材料平面部に溝加工、穴あけ加工により形成されたことを特徴とする化学装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の化学装置において、前記複数のループ流路と複数の分岐流路を前記反応器の内部に配置したことを特徴とする化学装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の化学装置を複数段連結して構成してなる化学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−115754(P2011−115754A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277594(P2009−277594)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】