説明

化学防護服用布片の接合方法

【課題】 従来方法に比べて工程数が少ない化学防護服用布片の接合方法を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂フィルム表面層と熱可塑性樹脂フィルム裏面層と、少なくとも耐薬品透過性樹脂フィルム中間層とを有する多層構造の化学防護服用布を、布の縁と布の縁とを互いに対峙させて重畳させ、前記縁に沿って且つ前記縁近傍の布重畳部を縫合し、布重畳部の縫合線近傍部位で且つ縫合線を間に挟んで前記縁に対峙する所定幅の部位を縫合線に沿って高周波誘電加熱して溶着接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学防護服用布片の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、合成ゴムフィルム表面層と合成ゴムフィルム裏面層と、少なくとも耐薬品透過性樹脂フィルム中間層とを有する多層構造の2枚の布片12、13を、縁12aと縁13aを互いに対峙させて重畳させ、縁12a、13aに沿って且つ縁12a、13a近傍の布片重畳部を縫合し(縫合線14の生成)、縫合線14を間に挟んで縁12aに対峙する所定幅の部位を残して布片12を縫合線14方向へ折返し(折り返し線12bの生成)、折り返し線12b近傍の三重重畳部を縫合し(縫合線15の生成)、折り返し線12bを間に挟む布片12、13の所定幅の部位と折り返し線12bとを覆って合成ゴムテープ16を布片12、13に貼着し、外部熱源を用いて合成ゴムテープ16と布片12、13との重畳部を溶着接合し、縁12a、13aを間に挟む布片12、13の所定幅の部位と縁12a、13aとを覆ってゴム引き布17を接着することを特徴とする化学防護服用布片の接合方法が、化学防護服製造工程において従来から実施されている。化学防護服が形成された時、合成ゴムテープ16は外気に暴露され、ゴム引き布17は内気に暴露される。
上記工程では、布片12、13の重畳部の外気側と折り返し線12bとに合成ゴムテープ16を溶着し、布片12、13の重畳部の内気側と縁12a、13aとにゴム引き布17を接着して、布片12、13の重畳部の布間隙間を外気及び内気から遮断することにより、布12、13の接合部の気密性、耐薬品性を確保している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の接合方法には、縫合線14の生成、縫合線15の生成、合成ゴムテープ16の貼着、外部熱源を用いた合成ゴムテープ16の溶着、ゴム引き布17の接着の5工程を要するので、工数増加を招くという問題がある。
本発明は、従来方法に比べて工程数が少ない化学防護服用布片の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明においては、熱可塑性樹脂フィルム表面層と熱可塑性樹脂フィルム裏面層と、少なくとも耐薬品透過性樹脂フィルム中間層とを有する多層構造の化学防護服用布を、布の縁と布の縁とを互いに対峙させて重畳させ、前記縁に沿って且つ前記縁近傍の布重畳部を縫合し、布重畳部の縫合線近傍部位で且つ縫合線を間に挟んで前記縁に対峙する所定幅の部位を縫合線に沿って高周波誘電加熱して溶着接合することを特徴とする化学防護服用布の接合方法を提供する。
本発明の好ましい態様においては、縫合線に近接すると共に縫合線を間に挟んで布縁に対峙する所定幅の部位を残して重畳する布の一方を縫合線方向へ折返し、布の三重重畳部を高周波誘電加熱して溶着接合する。
本発明においては、布重畳部の縫合線近傍部位で且つ縫合線を間に挟んで布の縁に対峙する所定幅の部位を、縫合線に沿って溶着接合することにより、前記所定幅の部位において布重畳部の布間の隙間を消滅させている。布重畳部の布間隙間が所定幅に亙って消滅することにより、布接合部の気密性、耐薬品性が確保される。
本発明を図1のような折り返し部を有する布接合部に適用した場合、折り返し線近傍の三重重畳部を高周波誘電加熱して溶着接合することになるので、従来技術で必要であった、折り返し線近傍の三重重畳部の縫合と、合成ゴムテープの貼着と、ゴム引き布の接着の3工程を、削減できる。
【0005】
本発明の好ましい態様においては、表面層と裏面層とを形成する熱可塑性樹脂フィルムはポリウレタン樹脂フィルムである。
本発明の好ましい態様においては、表面層と裏面層とを形成する熱可塑性樹脂フィルムはポリ塩化ビニル樹脂フィルムである。
ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂は、高周波誘電加熱による溶着に好適な素材である。
本発明の好ましい態様においては、化学防護服用布は格子織布中間層を有する。
耐薬品透過性樹脂フィルム中間層の保護のために、化学防護服用布は格子織布中間層を有することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】従来技術によって接合された化学防護服用布片の接合部の断面図である。
【図2】本発明の実施例に係る接合方法で使用される化学防護服用布の断面図である。
【図3】本発明の実施例に係る第1の接合方法で接合された化学防護服用布片の接合部の断面図である。
【図4】本発明の実施例に係る第2の接合方法で接合された化学防護服用布片の接合部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の実施例に係る化学防護服用布片の接合方法を説明する。
図2に示すように、化学防護服用布1は、防護服に形成された時に外気側に位置するポリウレタン樹脂フィルム表面層1aと、防護服に形成された時に内気側に位置するポリウレタン樹脂フィルム裏面層1dと、表面層1aと裏面層1dとの間に挟まれると共に表面層1a寄りに位置する格子織布中間層1bと、表面層1aと裏面層1dとの間に挟まれると共に裏面層1d寄りに位置する耐薬品透過性樹脂フィルムであるEVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂)フィルム中間層1cと、各層間に配設されて各層を接着する接着剤とで構成された多層構造物である。
布1を所定の形に裁断して形成した複数の布片を接合して、化学防護服を製造する。
【0008】
図3に示すように、布片の第1の接合方法においては、表面層1aを図中下方へ差し向けた布片2の縁2aと表面層1aを図中上方へ差し向けた布片3の縁3aとを互いに対峙させて布片2、3の縁部を重畳させ、縁2a、3aに沿って且つ縁2a、3a近傍の布片重畳部を縫合し(縫合線4の生成)、縫合線4に近接すると共に縫合線4を間に挟んで縁2aに対峙する所定幅の部位を残して布片2を縫合線4方向へ折返し、布片2が二重に重畳し更に布片3が重畳した布片2、3の三重重畳部の、縫合線4に近接する部位であって且つ縫合線4を間に挟んで縁2a、3aに対峙する所定幅Lの部位を、縫合線4に沿って高周波誘電加熱して溶着接合する。
布1が、熱可塑性のポリウレタン樹脂フィルム表面層とポリウレタン樹脂フィルム裏面層とを有しているので、高周波誘電加熱によって、重畳した布片2、3同士を溶着させることができる。
溶着接合部は布片2の折り返し線を含むのが望ましい。
布片が接合されて化学防護服が形成された時、布片2の折り返し部は外気に暴露される。
所定幅Lの部位が、縫合線4に沿って溶着接合されることにより、所定幅Lの部位において三重重畳部の布片2、3間の隙間が消滅する。三重重畳部の布片2、3間の隙間が所定幅Lに亙って消滅することにより、布片2、3の接合部の気密性、耐薬品性が確保される。
上記第1の接合方法においては、図1の従来技術で必要であった、折り返し線近傍の三重重畳部の縫合と、合成ゴムテープの貼着と、ゴム引き布の接着の3工程を、削減できる。
溶着接合部が布片2の折り返し線を含むことにより、布片2の折り返し部と布片3との間の隙間に異物が挟まって、溶着部が時間経過と共に徐々に剥離する事態の発生が防止される。
格子織布中間層1bがEVOHフィルム中間層1cよりも外気側に存在することにより、EVOHフィルム中間層1cが外力による損傷から保護される。
第1の接合方法は、化学防護服の脚部、胴部、腕部、頭部の成形に利用可能である。
【0009】
図4に示すように、布片の第2の接合方法においては、表面層1aを図中上方へ差し向けた布片2の縁2aと表面層1aを図中下方へ差し向けた布片3の縁3aとを互いに対峙させて布片2、3の縁部を重畳させ、縁2a、3aに沿って且つ縁2a、3a近傍の布片重畳部を縫合し(縫合線4の生成)、布2、3の重畳部の縫合線4に近接する部位であって且つ縫合線4を間に挟んで縁2a、3aに対峙する所定幅Lの部位を、縫合線4に沿って高周波誘電加熱して溶着接合する。
所定幅Lの部位が、縫合線4に沿って溶着接合されることにより、所定幅Lの部位において重畳部の布片2、3間の隙間が消滅する。縫合線4よりも内気側で布片2、3間の隙間が消滅することにより、布片2、3の接合部の気密性、耐薬品性が確保される。
上記第2の接合方法においても、図1の従来技術に比べて3工程削減できる。
第2の接合方法は、ふくらはぎから足指に至る足部を有する化学防護服の足部の形成に利用可能である。
【0010】
上記実施例では、布の表面層と裏面層とにポリウレタン樹脂フィルムを使用したが、ポリウレタン樹脂フィルム以外の高周波誘電加熱で溶着可能な熱可塑性樹脂フィルムを使用しても良い。ポリ塩化ビニル樹脂フィルムは布の表面層と裏面層とに好適に使用することができる。
溶着部の所定幅Lは、使用する樹脂フィルム毎に決定される。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明は、化学防護服の製造に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0012】
1 化学防護服用布
2、3 布片
4 縫合線
L 溶着部の所定幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルム表面層と熱可塑性樹脂フィルム裏面層と、少なくとも耐薬品透過性樹脂フィルム中間層とを有する多層構造の化学防護服用布を、布の縁と布の縁とを互いに対峙させて重畳させ、前記縁に沿って且つ前記縁近傍の布重畳部を縫合し、布重畳部の縫合線近傍部位で且つ縫合線を間に挟んで前記縁に対峙する所定幅の部位を縫合線に沿って高周波誘電加熱して溶着接合することを特徴とする化学防護服用布の接合方法。
【請求項2】
縫合線に近接すると共に縫合線を間に挟んで布縁に対峙する所定幅の部位を残して重畳する布の一方を縫合線方向へ折返し、布の三重重畳部を高周波誘電加熱して溶着接合することを特徴とする請求項1に記載の化学防護服用布の接合方法。
【請求項3】
表面層と裏面層とを形成する熱可塑性樹脂フィルムはポリウレタン樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の化学防護服用布片の接合方法。
【請求項4】
表面層と裏面層とを形成する熱可塑性樹脂フィルムはポリ塩化ビニル樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の化学防護服用布片の接合方法。
【請求項5】
化学防護服用布は格子織布中間層を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の化学防護服用布片の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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