説明

化成処理性に優れたアルミニウム合金材およびその洗浄方法

【課題】 化成処理ムラの発生が抑えられた、化成処理性に優れたアルミニウム合金材およびその洗浄方法を提供する。
【解決手段】 アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる化成処理後塗装されて用いられるアルミニウム合金材であって、酸またはアルカリに接触させてエッチング面を形成した後、CaおよびSi濃度がそれぞれ5mg/l以下の水を接触させて、エッチング面を洗浄し、前記アルミニウム合金材の表面から深さ方向に1μmまでの表層部の元素濃度の最大値が、Ca濃度において0.04原子%以下であると共に、Si濃度において2.5原子%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成処理後塗装されて用いられるアルミニウム合金材およびその洗浄方法であって、特に、自動車のパネル材として使用されるアルミニウム合金材およびその洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム合金材は、自動車、船舶あるいは車両などの輸送機の外板や構造材あるいは部材、また家電製品の構造材あるいは部材、さらには屋根材などの建築、構造物の部材(建材)として使用され、特に、自動車のドアやフェンダーあるいはボンネットなどのパネル材として好適に使用されている。なお、自動車パネル用途のアルミニウム合金材は、他の鋼材と同様に焼付塗装が施されるが、その塗装下地として、リン酸亜鉛等の化成処理が施される。また、建材用途でもリン酸塩等の化成処理が施され、家電製品用途でもクロメートおよびノンクロメート等の化成処理が施される。
【0003】
自動車メーカーにおいて、自動車の一般的な生産工程は、以下のように行なわれている。まず、素材メーカーから納入されたアルミニウム合金材がプレス等により部品として成型され、その後、部品が接着、溶接または機械接合などにより接合され、車体が組み立てられる。そして、車体に脱脂処理、表面調整、化成処理、電着塗装、スプレー塗装、焼付処理が施され、エンジンのマウント、内装等を施し、自動車が生産される。
【0004】
ここで、前記した自動車パネル用途、建材用途または家電製品用途におけるアルミニウム合金材は、素材メーカーにおいて、圧延等によって厚さ1mm程度に作製され、必要に応じて溶体化および焼入処理が施される。その後、アルミニウム合金材の表面に、酸またはアルカリを接触させて、または、アルカリと酸を順次接触させて、エッチングが行われている(例えば、特許文献1参照)。このエッチングは、冷間圧延などの塑性加工や溶体化処理によりアルミニウム合金材表面に付着している油や汚れを除去する、あるいは前記自動車生産工程における溶接性、接着性、脱脂性等を阻害するMgOを含有する酸化皮膜を除去する目的で行われるものである。その後、アルミニウム合金材は、その表面に残存する酸またはアルカリ等を除去するために、水で洗浄処理され、そして、乾燥処理が施される。
【特許文献1】特開2000-345364号公報(段落0019)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸またはアルカリ等の除去に使用される水は、工業用水等が使用されることが多く、Ca化合物、Si化合物等の不純物が含有されている。そのため、洗浄処理後、アルミニウム合金材表面にCa化合物およびSi化合物が濃縮して、固着する。そして、例えば、自動車生産工程の化成処理において、Ca化合物およびSi化合物が固着した領域では、Ca化合物およびSi化合物により化成皮膜の生成が阻害される。このように自動車生産工程に限らず、Ca化合物、Si化合物等の不純物が含有されている工業用水等を使用する場合には、アルミニウム合金材表面にCa化合物およびSi化合物が濃縮して固着し、化成処理ムラが発生するという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題を解決すべく創案されたもので、その目的は、化成処理ムラの発生が抑えられた、化成処理性に優れたアルミニウム合金材およびその洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる化成処理後塗装されて用いられるアルミニウム合金材であって、前記アルミニウム合金材の表面から深さ方向に1μmまでの表層部の元素濃度の最大値が、Ca濃度において0.04原子%以下であると共に、Si濃度において2.5原子%以下であるアルミニウム合金材として構成したものである。
【0008】
前記構成によれば、アルミニウム合金材の表層部におけるCa濃度およびSi濃度が低く抑えられているため、アルミニウム合金材の化成処理の際、Ca化合物およびSi化合物によって化成皮膜の生成が阻害される領域が形成されず、アルミニウム合金材の表面全体が均一に化成処理される。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる化成処理後塗装されて用いられるアルミニウム合金材の洗浄方法であって、前記アルミニウム合金材の表面に酸またはアルカリを接触させて、または、アルカリと酸を順次接触させて、エッチング面を形成する第1工程と、前記第1工程の終了後に、前記エッチング面にCa濃度が5mg/L以下、かつ、Si濃度が5mg/L以下の水を接触させて、前記エッチング面を洗浄する第2工程とを含むアルミニウム合金材の洗浄方法としたものである。
【0010】
前記手順によれば、アルミニウム合金材の洗浄に使用される水のCa濃度およびSi濃度が所定濃度以下であるため、洗浄後のアルミニウム合金材表面にCa化合物およびSi化合物が濃縮されず、固着することもない。その結果、アルミニウム合金材の表層部におけるCa濃度およびSi濃度が低く抑えられ、アルミニウム合金材の化成処理の際、Ca化合物およびSi化合物によって化成皮膜の生成が阻害される領域が形成されず、アルミニウム合金材の表面全体が均一に化成処理される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアルミニウム合金材は、化成処理ムラの発生が抑えられ、化成処理性に優れたものとなる。また、本発明の洗浄方法は、化成処理性に優れたアルミニウム合金材を提供できる。
しかも、化成処理ムラの発生が抑えられるため、本発明のアルミニウム合金材を化成処理後塗装して、自動車パネル、建材、家電製品等を製造する際、塗装仕上がり性を従来より向上させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態について詳細に説明する。
<アルミニウム合金材>
本発明のアルミニウム合金材について説明する。
アルミニウム合金材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり、成形性に優れたAl−Mg系合金、または、成形性および焼付硬化性に優れたAl−Mg−Si系合金が好ましい。しかしながら、自動車パネル用途、建材用途または家電製品用途に使用できるものであれば、純アルミニウム、Al−Cu系合金、Al−Mn系合金、Al−Si系合金、Al−Zn−Mg系合金等であってもよい。そして、アルミニウム合金材としては、圧延材、押出材、鋳造材、鍛造材、鋳鍛材のいずれであってもよい。
【0013】
Al−Mg系合金は、Mg含有量が2〜12質量%のAl合金がより好ましい。Mg含有量が2質量%未満では、加工硬化量が低下して、プレス成形や曲げ加工を受けた際の剪断変形に耐えられず、割れを生じる可能性がある。また、人工時効でも十分な強度が得られない可能性がある。一方、Mg含有量が12質量%を超えると、強度(耐力)が高くなりすぎて成形性を阻害する可能性がある。したがって、Mgの含有量は2〜12質量%がより好ましく、4〜6質量%が最適範囲である。
【0014】
Al−Mg−Si系合金は、Mg含有量が0.2〜1.6質量%、Si含有量が0.2〜1.8質量%がより好ましい。MgとSiは、人工時効処理により、MgSiとして析出して、使用時の高強度(耐力)を付与する元素であるが、Mg含有量が0.2質量%未満および/またはSi含有量が0.2質量%未満では、人工時効で十分な強度が得られない。一方、Mg含有量が1.6質量%を超える、および/または、Si含有量が1.8質量%を超えると、鋳造時および焼き入れ時に粗大な粒子として析出して、伸びが低くなるなど、成形性を阻害する。したがって、Mgの含有量は0.2〜1.6質量%、Siの含有量は0.2〜1.8質量%が好ましい。また、特に、Siの粒界への析出の抑制のために、連続熱処理炉にて溶体化および焼入れ処理することを前提に、人工時効処理後の高耐力化を狙うためには、Mg含有量が0.4〜1.3質量%、Si含有量は0.5〜1.2質量%が最適範囲である。
【0015】
また、用途および要求特性に応じて、Cu、Mn、Zn、Fe、Ni、Cr、Ti、B、Be、Zr、V 、Sc、Agなどの他の元素を適宜含むことは許容される。
【0016】
アルミニウム合金材は、その表面から深さ方向に1μmまでの表層部の元素濃度の最大値が、Ca濃度において0.04原子%以下であると共に、Si濃度において2.5原子%以下である必要がある。また、Ca濃度において0.02原子%以下であると共に、Si濃度において1.5原子%以下であることが好ましい。そして、このような表層部のCa濃度およびSi濃度は、後記するように、アルミニウム合金材をエッチング後、所定濃度以下の水で洗浄することによって達成される。
【0017】
なお、Ca濃度およびSi濃度は、高周波グロー放電発光分光分析(Glow Discharge−Optical Emission Spectroscopy、以下、GD−OESと称す)によって測定された、深さ方向プロファイルでのCa濃度およびSi濃度の最大値を採用するのが好ましい。しかしながら、測定法は、GD−OESと同精度を持つ測定法であれば、GD−OESに限定されない。
【0018】
以下にCa濃度およびSi濃度の数値限定理由を述べる。
(表層部のCa濃度の最大値:0.04原子%以下)
表層部のCa濃度の最大値が0.04原子%を超える場合には、アルミニウム合金材に化成処理を施した際に、化成処理ムラが発生する。すなわち、Ca化合物が濃縮して固着した領域では化成皮膜の生成が阻害される。そして、この化成処理ムラは、本発明のアルミニウム合金材を化成処理後塗装して自動車パネル、建材、家電製品等を製造する際、塗装仕上がり性を低下させる原因となる。
【0019】
(表層部のSi濃度の最大値:2.5原子%以下)
表層部のSi濃度の最大値が2.5原子%を超える場合には、アルミニウム合金材に化成処理を施した際に、化成処理ムラが発生する。すなわち、Si化合物が濃縮して固着した領域では化成皮膜の生成が阻害され、一方、Si化合物の固着のない健全部では化成皮膜の生成が通常より過剰に促進される。そして、この化成処理ムラは塗装仕上がり性を低下させる原因となる。
【0020】
(表層部のMg濃度の最大値)
また、アルミニウム合金材は、その表層部のMg濃度を所定濃度に制限することが好ましい。例えば、Al−Mg−Si系合金からなるアルミニウム合金材においては2.0原子%以下、Al−Mg系合金からなるアルミニウム合金材においては6.5原子%以下が好ましい。そして、このような表層部のMg濃度は、アルミニウム合金材の表面に酸またはアルカリを接触させて、または、アルカリと酸を順次接触させて、エッチングすることによって達成される。なお、Mg濃度の測定は、GD−OESを使用するのが好ましい。
【0021】
例えば、自動車メーカー等においては、アルミニウム合金材を化成処理する前に脱脂処理が施されることが多い。この脱脂処理は、プレス等による部品成形および保管の際に部品表面(アルミニウム合金材表面)に付着した油分、粉塵、金属粉等を除去して表面を清浄にした後、表面調整により処理表面を活性化し、次工程の化成処理に適した表面状態に整えるために行なわれる。脱脂処理方法としては、部品(アルミニウム合金材)を炭酸ソーダ系脱脂浴またはリン酸ソーダ系脱脂浴等に浸漬する方法、部品表面に炭酸ソーダ系脱脂溶液またはリン酸ソーダ系脱脂溶液をスプレーする方法等が挙げられる。
【0022】
そして、表層部のMg濃度が所定濃度を満足しないと、前記脱脂処理において脱脂性の低下、すなわち、油分等の除去不足が発生し易くなる。したがって、脱脂性の低下により、化成処理が阻害される領域が形成され、化成処理ムラが発生し易くなる。そして、この化成処理ムラは塗装仕上がり性を低下させる原因となる。また、表層部のMg濃度が高いと、MgOを含有する酸化皮膜が形成され易くなり、このMgOを含有する酸化皮膜も脱脂処理を阻害する原因となり、化成処理ムラがより一層発生し易くなる。
【0023】
<アルミニウム合金材の洗浄方法>
次に、本発明のアルミニウム合金材の洗浄方法について説明する。
アルミニウム合金材の洗浄方法は、アルミニウム合金材の表面にエッチング面を形成する第1工程と、前記第1工程の終了後に、前記エッチング面を洗浄する第2工程とを含む。さらに、第2工程終了後に、常法の乾燥処理をアルミニウム合金材に施す。
【0024】
ここで、アルミニウム合金材は常法により製造されたものである。例えば、所定の成分組成に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造圧延法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。次いで、このアルミニウム合金鋳塊に、均質化熱処理を施した後、熱間圧延および冷間圧延(必要により中間焼鈍)、押出または鍛造などの塑性加工方法により、板材、型材、線棒材、鍛造材など、所望の形状に塑性加工して、アルミニウム合金材を製造する。そして、必要により、アルミニウム合金材に、溶体化処理(T4)、時効処理(T6)、過時効処理(T7)などの調質処理を施す。
【0025】
(第1工程)
前記のようにして製造されたアルミニウム合金材の表面に、酸またはアルカリを接触させて、または、アルカリと酸を順次接触させて、エッチング面を形成する、所謂、エッチングを行なう。エッチング方法は、酸またはアルカリ等をアルミニウム合金材表面にスプレーする方法、または、酸浴またはアルカリ浴に浸漬する方法等が挙げられる。酸としては、1〜20質量%無機酸水溶液、例えば、硝酸水溶液、硫酸水溶液等が好ましく、硝酸と硫酸との混酸水溶液でもよい。また、無機酸水溶液に微量の界面活性剤等を添加したものであってもよい。アルカリは、0.5〜5質量%炭酸ソーダ系、0.5〜5質量%珪酸ソーダ系、0.5〜5質量%リン酸ソーダ系、0.1〜1質量%苛性ソーダ系脱脂溶液等が好ましい。なお、エッチング温度は60〜90℃、エッチング時間は1〜15秒が好ましいが、アルミニウム合金材の表面状態に合わせて適宜変更してもよい。
【0026】
(第2工程)
前記第1工程の終了後、エッチング面に水を接触させて、エッチング面を洗浄する。洗浄方法は、前記エッチングと同様に、スプレーまたは浸漬する方法等が挙げられ、洗浄温度は40〜90℃、洗浄時間は1〜5秒、洗浄回数2〜4回が好ましい。しかしながら、エッチング後のアルミニウム合金材の表面状態に合わせて、前記の洗浄条件(洗浄温度、洗浄時間、洗浄回数)を適宜変更してもよいが、洗浄(最終洗浄)後のアルミニウム合金材の表層部のCa濃度の最大値が0.04原子%以下であると共に、Si濃度の最大値が2.5原子%以下となるように、洗浄条件を設定する。そして、洗浄に使用される水は、前記したように、アルミニウム合金材の表層部のCaおよびSi濃度を決定するため、Ca濃度において5mg/L以下、かつ、Si濃度において5mg/L以下の水を使用する。また、好ましくは、Ca濃度およびSi濃度が共に2.5mg/L以下の水を使用する。
【0027】
洗浄に使用される水のCa濃度およびSi濃度が共に、5mg/Lを超えると、洗浄後のアルミニウム合金材の表面にCa化合物およびSi化合物が濃縮、固着して、アルミニウム合金材の表層部のCa濃度(最大値)が0.04原子%を越えると共に、Si濃度(最大値)も2.5原子%を超えるものとなる。そして、固着したCa化合物およびSi化合物は、アルミニウム合金材を化成処理した際、化成皮膜の生成を阻害し、アルミニウム合金材の表面に化成処理ムラを発生させる。
【0028】
なお、Ca濃度およびSi濃度は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Inductively Coupled Plasma Emission Spectrometer、以下、ICPと称す)によって測定されたCa濃度およびSi濃度を採用するのが好ましい。しかしながら、測定法は、ICPと同精度をもつ測定法であれば、ICPに限定されない。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜8)
表1に示す組成のアルミニウム合金の鋳塊をDC鋳造法により溶製後、500℃×4時間の範囲で均質化熱処理を施し、厚さ3mmまで熱間圧延した。次に厚さ1mmまで冷間圧延し、連続熱処理炉において、500℃で数秒間溶体化処理した後、水冷による急冷を行ってアルミニウム合金板(No.1、2)を作製した。
【0030】
【表1】

【0031】
次に、前記アルミニウム合金板(No.1、2)の表面に、10質量%硝酸水溶液を60℃×5秒間スプレーして、アルミニウム合金板(No.1、2)の表面をエッチングした。その後、表2に示すように、Ca濃度およびSi濃度を変化させた洗浄水を用いて、アルミニウム合金板(No.1、2)の表面を60℃×5秒間、2回スプレー洗浄した。ここで、洗浄水のCa濃度およびSi濃度は、ICP(サーモ社製、型式IRIS Intrepid 2)を用いて測定した。
【0032】
その後、洗浄後のアルミニウム合金板(No.1、2)を、乾燥炉で80〜110℃×5〜30秒間乾燥処理した。そして、乾燥処理後のアルミニウム合金板(No.1、2)の表面(表層部)におけるCa濃度およびSi濃度の最大値を、GD−OES(ホリバ・ジョバンイボン社製、型式JY−5000RF)を用いて測定した。その結果(最大値)を表2に示す。
【0033】
(比較例1〜4)
表2に示すように、洗浄水のCaおよびSi濃度を請求項2で規定する濃度範囲を満足しないものを使用した以外は、実施例1〜8と同様にして、アルミニウム合金板(No.1、2)にエッチング、スプレー洗浄、乾燥処理を施した。そして、乾燥処理後のアルミニウム合金板(No.1、2)の表面(表層部)におけるCa濃度およびSi濃度の最大値を、実施例1〜8と同様にして測定した。その結果(最大値)を表2に示す。
【0034】
次に、実施例1〜8、比較例1〜4で作製した乾燥処理後のアルミニウム合金板(No.1、2)を、40℃炭酸ソーダ系脱脂浴に2分間浸漬(攪拌浸漬)して、アルミニウム合金板(No.1、2)の表面を脱脂処理した。その後、35℃リン酸亜鉛浴に2分間浸漬(攪拌浸漬)して、アルミニウム合金板(No.1、2)の表面を化成処理した。そして、化成処理後のアルミニウム合金板(No.1、2)の表面に発生する化成処理ムラを、目視にて評価した。その結果(化成処理性)を表2に示す。
【0035】
なお、表2の化成処理性の評価において、「◎」は、化成処理ムラの発生がなく、優れたもの、「○」は、軽度の化成処理ムラが発生し、良好のもの、「△」は、中度の化成処理ムラが発生し、やや不良のもの、「×」は、重度の化成処理ムラが発生し、不良のものを示す。ここで、「軽度の化成処理ムラ」とは、アルミニウム合金板に電着塗装(下塗り塗装)、中塗り塗装、上塗り塗装の三段階の塗装を施して自動車パネルを作製する際に、いずれの段階の塗膜にも外観不良を発生させないもの、「中度の化成処理ムラ」とは、電着塗装の塗膜には外観不良を発生させるが、その外観不良が上塗り塗装の塗膜にまで影響しないもの、「重度の化成処理ムラ」とは、上塗り塗装の塗膜に外観不良を発生させるものを意味する。
【0036】
【表2】

【0037】
表2の結果から、請求項を満足する実施例1〜8のアルミニウム合金板には、化成処理後の塗膜に影響を与える化成処理ムラが発生せず、請求項を満足しない比較例1〜4には塗膜に影響を与える化成処理ムラが発生した。したがって、実施例1〜8は、比較例1〜4に比べて、化成処理性に優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる化成処理後塗装されて用いられるアルミニウム合金材であって、
前記アルミニウム合金材の表面から深さ方向に1μmまでの表層部の元素濃度の最大値が、Ca濃度において0.04原子%以下であると共に、Si濃度において2.5原子%以下であることを特徴とするアルミニウム合金材。
【請求項2】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる化成処理後塗装されて用いられるアルミニウム合金材の洗浄方法であって、
前記アルミニウム合金材の表面に酸またはアルカリを接触させて、または、アルカリと酸を順次接触させて、エッチング面を形成する第1工程と、
前記第1工程の終了後に、前記エッチング面にCa濃度が5mg/L以下、かつ、Si濃度が5mg/L以下の水を接触させて、前記エッチング面を洗浄する第2工程とを含むことを特徴とするアルミニウム合金材の洗浄方法。

【公開番号】特開2007−70653(P2007−70653A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255654(P2005−255654)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】