説明

化粧フィルムおよび化粧板

【課題】白濁による色調の変化の発生を有効に防止しながら、優れたエンボス加工性を実現できる化粧フィルムを提供すること。
【解決手段】基材樹脂層、印刷層、および表面樹脂層を順に積層してなり、前記表面樹脂層が、表面側にポリブチレンテレフタレート樹脂または変性ポリブチレンテレフタレート樹脂からなる第1層と、前記印刷層側に、温度230℃に加熱した後、急冷した場合における分光式色差計によるΔL*値(ΔL*)と除冷した場合における分光式色差計によるΔL*値(ΔL*)との差(|ΔL*−ΔL*|)が、1.0以下である透明樹脂からなる第2層とを有し、前記第1層の厚みが、3〜20μmの範囲であることを特徴とする化粧フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種基板の意匠性を高めるために基板上に積層するための化粧フィルム、および該化粧フィルムを用いて得られる化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家具、家電機器、建築物の室内壁や屋外壁に用いる板材として、意匠性を高めるために金属板等の基板に化粧フィルムを積層してなる化粧板が多用されている。
【0003】
このような化粧フィルムとして、たとえば、特許文献1では、着色ポリブチレンテレフタレート樹脂からなる層と、印刷インキ層と、透明樹脂からなる層とを下から順に積層してなる化粧フィルムが開示されている。なお、この特許文献1では、最表層を構成する透明樹脂として、ポリブチレンテレフタレート樹脂や、ポチエチレンテレフタレート樹脂、あるいは、変性ポチエチレンテレフタレート樹脂などが例示されている。しかしながら、この特許文献1の技術では、化粧フィルムに意匠性を付与するためにエンボス加工を行なった際に、エンボス加工時の熱により、最表層を構成する透明樹脂が結晶化し、これにより白濁が発生してしまい、結果として、色調が変化してしまうという不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−62215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、白濁による色調の変化の発生を有効に防止しながら、優れたエンボス加工性を実現できる化粧フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、基材樹脂層、印刷層、および表面樹脂層を順に積層してなる化粧フィルムにおいて、表面樹脂層を、ポリブチレンテレフタレート樹脂または変性ポリブチレンテレフタレート樹脂からなる層と、所定の温度から急冷した場合および除冷した場合の分光式色差計によるΔL*値の差が所定の範囲にある透明樹脂からなる層との2層で構成し、かつ、ポリブチレンテレフタレート樹脂または変性ポリブチレンテレフタレート樹脂からなる層の厚みを所定の範囲に制御することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、基材樹脂層、印刷層、および表面樹脂層を順に積層してなり、前記表面樹脂層が、表面側にポリブチレンテレフタレート樹脂または変性ポリブチレンテレフタレート樹脂からなる第1層と、前記印刷層側に、温度230℃に加熱した後、急冷した場合における分光式色差計によるΔL*値(ΔL*)と除冷した場合における分光式色差計によるΔL*値(ΔL*)との差(|ΔL*−ΔL*|)が、1.0以下である透明樹脂からなる第2層とを有し、前記第1層の厚みが、3〜20μmの範囲であることを特徴とする化粧フィルムが提供される。
【0008】
本発明の化粧フィルムにおいて、前記第2層を構成する透明樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂または変性ポリエチレンテレフタレート樹脂であることが好ましく、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂であることがより好ましい。
本発明の化粧フィルムは、前記印刷層と、前記表面樹脂層との間に、接着剤層をさらに備えることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、上記いずれかの化粧フィルムと、基板上に積層してなる化粧板が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、白濁による色調の変化の発生が有効に防止され、かつ、優れたエンボス加工性を有する化粧フィルム、および該化粧フィルムを用いて得られる化粧板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本実施形態に係る化粧フィルム100の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る化粧フィルム100の構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る化粧フィルム100は、基材樹脂層10、印刷層20、接着剤層30および表面樹脂層40を、この順に形成されてなる。
【0013】
基材樹脂層10は、着色樹脂フィルムから構成される。基材樹脂層10を構成する着色樹脂フィルムとしては、特に限定されないが、ポリエステル樹脂に5〜30重量%の着色顔料を添加してなる着色ポリエステル樹脂フィルムなどが挙げられる。
【0014】
着色ポリエステル樹脂フィルムを構成するポリエステル樹脂しては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、エチレンテレフタレート/エチレンイソフタレート共重合体(ET/EI)、ブチレンテレフタレート/ブチレンイソフタレート共重合体(BT/BI)、エチレンテレフタレート/シクロヘキサンジメタノール共重合体(ET/CHDM)などが挙げられ、これらは1種単独で、あるいは、2種以上をブレンドして用いることができる。また、着色ポリエステル樹脂フィルムを構成する着色顔料としては、黒色や白色の無彩色顔料や赤色、黄色、青色、緑色などの有彩色顔料などが挙げられ、これらは1種単独で、あるいは、2種以上を併用して用いることができる。なお、着色ポリエステル樹脂フィルムは、フィルムに製膜した無延伸の状態であってもよく、さらには、一軸方向または二軸方向に延伸した状態のいずれであってもよい。
【0015】
基材樹脂層10の厚みは、好ましくは15〜300μmであり、より好ましくは40〜170μmである。
【0016】
印刷層20は、上述した基材樹脂層10の上に、印刷インキを塗布することにより形成される印刷インキからなる層であり、下層となる基材樹脂層10の前面を隠蔽するベタ印刷層、または、木目、石目、天然皮革の表面柄、布目、抽象柄などの模様を表現した絵柄印刷層のいずれであってもよい。あるいは、印刷層20は、ベタ印刷層を印刷下地とし、その上に絵柄印刷層を重ねて意匠性を向上させたものであってもよい。印刷層20を形成するための印刷インキとしては、たとえば、ニトロセルロース、酢酸セルロースなどのセルロース誘導体、あるいは、ポリエステル樹脂やウレタン変性ポリエステル樹脂などをビヒクルとする印刷インキを用いることができる。これらのなかでも、密着性および熱接着性の両観点からニトロセルロース−アルキド樹脂系インキが好ましい。
【0017】
接着剤層30は、印刷層20と、後述する表面樹脂層40とを接着させるための層である。接着剤層30を形成する接着剤としては、十分な透明性を有し、これにより印刷層20により付与される意匠性を損なわないものであり、かつ、印刷層20および表面樹脂層40との接着性が良好なものであればよく、特に限定されない。接着剤層30を形成する接着剤の具体例としては、たとえば、酢酸ビニル樹脂系、エチレン−ビニルアセテート樹脂系、尿素樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系、ポリエステル樹脂系、ポリエステルウレタン樹脂系などのエマルジョン型接着剤や、エポキシ−フェノール樹脂系などの熱硬化型接着剤などが挙げられる。
【0018】
表面樹脂層40は、図1に示すように、第1透明樹脂層41および第2透明樹脂層42の2層からなる層である。
【0019】
第1透明樹脂層41は、本実施形態に係る化粧フィルム100の最表層を構成する層であり、ポリブチレンテレフタレート(PBT)または変性ポリブチレンテレフタレート(変性PBT)からなる第1透明樹脂から構成される。変性ポリブチレンテレフタレートの具体例としては、たとえば、ポリブチレンテレフタレートの酸成分の一部をイソフタル酸で置換してなるイソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0020】
ここで、本実施形態の化粧フィルム100は、その意匠性を高めるために、温度230℃程度に加熱した状態で、化粧フィルム100の最表層を構成する第1透明樹脂層41側から、エンボスロールにより圧縮することにより、その表面にエンボス加工を施した状態で用いられる。そのため、本実施形態では、化粧フィルム100の最表層を構成する第1透明樹脂層41として、エンボス加工性および透明性に優れたポリブチレンテレフタレートまたは変性ポリブチレンテレフタレートからなる第1透明樹脂を用いる。
【0021】
一方、第2透明樹脂層42は、上述した第1透明樹脂層41と、接着剤層30との間に形成される層であり、温度230℃に加熱した後、急冷した場合における分光式色差計によるΔL*値(ΔL*)と除冷した場合におけるΔL*値(ΔL*)との差(|ΔL*−ΔL*|)が1.0以下である第2透明樹脂から構成される。
【0022】
ここで、ΔL*は、フィルム状の第2透明樹脂を、上述した化粧フィルム100にエンボス加工を行なう際の温度である230℃に加熱した後、たとえば、温度20℃の水に入れることにより急冷することで、室温(25℃)まで冷却し、これを着色板(たとえば、赤色の板や、青色の板、黄色の板)に載置した状態とし、分光式色差計を用いて測定することにより得られるΔL*値である。また、ΔL*は、フィルム状の第2透明樹脂を、エンボス加工を行なう際の温度である230℃に加熱した後、たとえば、室温(25℃)に放置することにより除冷することで、室温(25℃)まで冷却し、これを着色板に載置した状態とし、分光式色差計を用いて測定することにより得られるΔL*値である。なお、ΔL*、ΔL*は、第2透明樹脂を載置していない着色板について、分光式色差計により測定したΔL*値の値を基準値として算出することができる。
【0023】
本実施形態において、ΔL*、ΔL*は、ともに白さを表す指標であり、たとえば、エンボス加工を行なう際の温度である230℃に加熱した後、冷却を行なった際に、透明樹脂が白濁してしまった場合には、印刷層の色を阻害するため、ΔL*、ΔL*の値も大きくなる傾向にある。その一方で、エンボス加工を行なう際の温度である230℃に加熱した後、急冷した場合のΔL*値(ΔL*)と除冷した場合のΔL*値(ΔL*)との差(|ΔL*−ΔL*|)が小さいほど、エンボス加工のための加熱を行なった後の冷却条件によらず、分光式色差計によるΔL*値の値が安定しているといえる。そのため、本実施形態では、第2透明樹脂層42を構成する第2透明樹脂として、ΔL*とΔL*との差(|ΔL*−ΔL*|)が1.0以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下である透明樹脂を用いるものである。これにより、エンボス加工のための加熱を行なった後の冷却条件によらず、白濁による色調の変化の発生を有効に防止することができる。
【0024】
なお、第2透明樹脂層42を構成する透明樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂または変性ポリエチレンテレフタレート樹脂が挙げられ、これらのなかでも、ΔL*とΔL*との差(|ΔL*−ΔL*|)がより小さく、そのため、加熱後の冷却条件によらず、ΔL*値が安定しているという点より、変性ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。また、変性ポリエチレンテレフタレート樹脂としては、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂などが挙げられるが、これらのなかでも、ΔL*とΔL*との差(|ΔL*−ΔL*|)がより小さいという点より、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましく用いられる。
【0025】
そして、本実施形態では、化粧フィルム100の表面樹脂層40を、上述したポリブチレンテレフタレートまたは変性ポリブチレンテレフタレートからなる第1透明樹脂からなる第1透明樹脂層41と、温度230℃に加熱した後、急冷した場合におけるΔL*値(ΔL*)と除冷した場合におけるΔL*値(ΔL*)との差(|ΔL*−ΔL*|)が1.0以下である第2透明樹脂からなる第2透明樹脂層42との2層で構成し、しかも、第1透明樹脂層41の厚みを特定の範囲に制御するものである。すなわち、第1透明樹脂層41の厚みt1を3〜20μmの範囲に制御するものである。
【0026】
本実施形態によれば、化粧フィルム100の表面樹脂層40を、第1透明樹脂層41と、第2透明樹脂層42との2層で構成し、かつ、厚みt1を上記範囲とすることにより、表面樹脂層40を、第1透明樹脂層41を構成する第1透明樹脂の有するエンボス加工性と、第2透明樹脂層41を構成する第2透明樹脂の有する、エンボス加工のための加熱を行なった際における白濁による色調の変化の発生の防止効果とを両立させることができ、これにより、化粧フィルム100を、エンボス加工を行なった際における、白濁による色調の変化の発生が有効に防止され、かつ、優れたエンボス加工性を有するものとすることができる。
【0027】
特に、本発明者等は以下の知見により、上記構成に至ったものである。
すなわち、化粧フィルム100の表面樹脂層40を、上述した第1透明樹脂からなる第1透明樹脂層41のみで形成した場合には、優れたエンボス加工性を有するものとなる一方で、エンボス加工のための加熱を行なった際に、第1透明樹脂が結晶化してしまい、結晶化に起因する白濁による色調の変化が発生してしまうという問題がある。その一方で、化粧フィルム100の表面樹脂層40を、上述した第2透明樹脂からなる第2透明樹脂層42のみで形成した場合には、エンボス加工のための加熱を行なった際における白濁による色調の変化の発生を防止できるものの、エンボス加工性に極めて劣るものとなってしまうという問題がある。
【0028】
これに対し、本発明者等は、化粧フィルム100の表面樹脂層40を、第1透明樹脂層41と、第2透明樹脂層42との2層で構成し、かつ、第1透明樹脂層41の厚みt1を上記範囲とすることにより、最表面に位置する第1透明樹脂層41を構成する第1透明樹脂の作用により、エンボス加工性を良好なものとすることができ、さらには、第1透明樹脂層41の下層に形成された第2透明樹脂層42を構成する第2透明樹脂の作用により、エンボス加工のための加熱を行なった際における、第1透明樹脂層41を構成する第1透明樹脂の結晶化による白濁の影響を抑制することが可能となるものを見出したものである。そして、これにより、化粧フィルム100を、エンボス加工を行なった際における、白濁による色調の変化の発生が有効に防止され、かつ、優れたエンボス加工性を有するものとすることが可能となる。
【0029】
表面樹脂層40を構成する第1透明樹脂層41の厚みt1が厚過ぎると、エンボス加工を行なった際に、エンボス加工のための加熱および冷却により、第1透明樹脂が結晶化してしまい、白濁による色調の変化の発生が顕著となる。一方、第1透明樹脂層41の厚みt1が薄過ぎると、エンボス加工性が極端に悪化してしまう。
【0030】
なお、第1透明樹脂層41の厚みt1と、第2透明樹脂層42の厚みt2との合計厚み(表面樹脂層40の厚み)は、好ましくは15〜300μmであり、より好ましくは30〜150μmである。表面樹脂層40の厚みが厚過ぎると、印刷柄の鮮明さが失われるという不具合が発生する場合があり、一方、薄過ぎると、表面の傷が印刷層まで到達するという不具合が発生する場合がある。
【0031】
また、第2透明樹脂層42を構成する透明樹脂としては、ΔL*とΔL*との差(|ΔL*−ΔL*|)が上記範囲であればよいが、温度230℃に加熱した後、急冷した場合および除冷した場合のヘイズ値が、0〜60の範囲にあるものが好ましく、35〜55の範囲にあるものがより好ましい。ヘイズ値が、上記範囲である透明樹脂を用いることにより、エンボス加工を行なった際における、白濁による色調の変化の発生の抑制効果をより高めることができる。
【0032】
本実施形態において、接着剤層30上に、表面樹脂層40を形成する方法としては、特に限定されないが、たとえば、第1透明樹脂層41を形成することとなる第1透明樹脂のフィルムと、第2透明樹脂層42を形成することとなる第2透明樹脂のフィルムとを熱融着等により積層し、得られた積層フィルムを接着剤層30上に接着させる方法などが挙げられる。なお、第1透明樹脂のフィルムおよび第2透明樹脂のフィルムは、フィルムに製膜した無延伸の状態であってもよく、さらには、一軸方向または二軸方向に延伸した状態のいずれであってもよい。
【0033】
そして、このように構成される化粧フィルム100を、基材樹脂層10側において、基材上に積層することにより、化粧板を得ることができる。なお、化粧板を構成する化粧フィルム100は、基材上に積層する前または基材上に積層した後に、通常、化粧フィルム100の最表層を構成する第1透明樹脂層41側から、たとえば、温度230℃程度に加熱した状態で、エンボスロールにより圧縮することにより、エンボス加工が施される。
【0034】
また、化粧フィルム100と積層される基材としては、特に限定されないが、たとえば、鋼板、ティンフリースチール、アルミニウム合金板、亜鉛めっき鋼板、亜鉛―コバルトーモリブデン複合めっき鋼板、亜鉛―ニッケル合金めっき鋼板、亜鉛―鉄合金めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、銅めっき鋼板あるいはステンレス鋼板等の金属板を挙げることができる。
【0035】
なお、化粧フィルム100を、基材上に積層する際には、基材樹脂層10の表面に、基材と接着させるための接着剤層を予め形成してもよい。この場合に用いる接着剤としては、上述した接着剤層30と同様のものを用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0037】
<実施例1>
所定厚みのポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)フィルムと、所定厚みのイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET/IA)フィルムとを、180℃で熱融着することにより、透明樹脂フィルム積層体を得た。なお、得られた透明樹脂フィルム積層体における、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)層の厚みは5.5μmであり、また、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET/IA)層の厚みは33μmであった。
【0038】
そして、得られた透明樹脂フィルム積層体を用いて、以下の方法により、エンボス加工性および白濁抑制効果の評価、ならびに、透明樹脂フィルム積層体の製造に用いたポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)フィルムおよびイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET/IA)フィルムの加熱・冷却試験を行った。
【0039】
エンボス加工性
得られた透明樹脂フィルム積層体を、表面にポリエステル系接着剤を塗布した鋼板上に貼り付け、エンボス加工が可能な温度である230℃まで加熱した後、エンボスロールで圧接し、エンボス絞を転写させた後、直ちに温度20℃の水中へ投入して急冷することにより、評価用サンプルを得た。
【0040】
そして、得られた評価用サンプルについて、JIS K5600に準拠して、光沢度Gs(60°)の測定を行なった。また、本実施例では、得られた評価用サンプルについて、粗度計(製品名「サーフコム 1500A」、株式会社東京精密社製)を用いて、表面粗度の測定を行い、測定結果から、評価用サンプルの最大深度(Rmax_sample)を求め、下記式(1)にしたがって、エンボス転写率を求めた。
エンボス転写率(%)=(評価用サンプルの最大深度Rmax_sample/エンボスロールの最大深度Rmax_roll)×100 …(1)
なお、エンボスロールの最大深度Rmax_rollは、粗度計を用いて測定した値を用いることができる。
光沢度Gsが低いほど、また、エンボス転写率が高いほど、エンボス加工性に優れていると判断することができる。
【0041】
白濁抑制効果
得られた透明樹脂フィルム積層体を、表面に離型剤を塗った鋼板上に積層し、エンボス加工が可能な温度である230℃まで加熱した後、25℃空気中で放置することで除冷した。そして、冷却後、透明樹脂フィルム積層体を鋼板から剥離することで、評価用サンプルを得た。
【0042】
また、上記とは別に、白系のベース板、青系のベース板、赤系のベース板、および黄系のベース板を準備し、これらについて、分光式色差計(製品名「CM−3500d」、ミノルタ社製)を用いて測定を行い、得られた値を基準値とした。なお、青系のベース板、赤系のベース板、および黄系のベース板は、白色原反に、それぞれ、赤、藍、および黄のインキを塗布することにより作製した。また、白系のベース板としては、白色原反をそのまま使用した。
【0043】
そして、上記にて得られた評価用サンプルを、白系のベース板、青系のベース板、赤系のベース板、および黄系のベース板の上に、それぞれ貼り付けて、評価用サンプルを貼り付けた各ベース板について、分光式色差計を用いて測定を行い、得られた測定結果と、上記にて測定した基準値とから、各ベース板を用いた場合における、評価用サンプルを貼り付ける前後の色差(ΔE*)を求めた。色差(ΔE*)が小さいほど、加熱および冷却による、透明樹脂フィルム積層体の白濁が抑えられており、白濁による色調の変化の抑制効果が高いと判断できる。
【0044】
PBTフィルム、PET/IAフィルムの加熱・冷却試験
厚さ40μmのポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)フィルムおよびイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET/IA)フィルムについて、温度230℃まで加熱した。その後、直ちに温度20℃の水中へ投入し急冷することにより、急冷サンプルを、また、25℃空気中で放置し除冷することにより、除冷サンプルをそれぞれ作製した。
【0045】
そして、得られたPBTフィルムおよびPET/IAフィルムの急冷サンプル、ならびに、PBTフィルムおよびPET/IAフィルムの除冷サンプルを、上述した白濁抑制効果の評価と同様にして、青系のベース板、赤系のベース板、および黄系のベース板に貼り付けて、各ベース板を用いた場合における、各サンプルを貼り付ける前後のΔL*値を求めた。また、本実施例では、PBTフィルムおよびPET/IAフィルムの急冷サンプル、ならびに、PBTフィルムおよびPET/IAフィルムの除冷サンプルについて、測定装置として濁度計(製品名「NDH2000」、日本電色工業株式会社社製)を用いてヘイズ値の測定を行なった。分光式色差計によるΔL*値の測定結果を表1に、ヘイズ値の測定結果を表2にそれぞれ示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
表1に示すように、本実施例で用いたイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET/IA)フィルムは、急冷サンプルのΔL*値(ΔL*)と、除冷サンプルのΔL*値(ΔL*)との差(|ΔL*−ΔL*|)が、各ベース板を用いたいずれの場合でも、1.0以下となり、加熱後の冷却条件により、色差のΔL*値の変動が少ないものであることが確認できる。一方、本実施例で用いたポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)フィルムにおいては、急冷サンプルのΔL*値(ΔL*)と、除冷サンプルのΔL*値(ΔL*)との差(|ΔL*−ΔL*|)が、各ベース板を用いたいずれの場合でも、3.0以上となり、加熱後の冷却条件により、分光式色差計によるΔL*値が大きく変化するものであった。
【0049】
さらに、表2に示すように、本実施例で用いたイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET/IA)フィルムは、急冷サンプルおよび除冷サンプルのいずれにおいても、ヘイズ値が低く、高い透明性を維持していた。その一方で、本実施例で用いたポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)フィルムは、急冷サンプルおよび除冷サンプルのいずれにおいても、ヘイズ値が高く、結晶化による白濁が発生していることが確認できる。
【0050】
<実施例2>
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)層の厚みを9μmとし、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET/IA)層の厚みを28.5μmとした以外は、実施例1と同様にして、透明樹脂フィルム積層体を得て、実施例1と同様にして、エンボス加工性および白濁抑制効果の測定を行なった。
【0051】
<実施例3>
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)層の厚みを20μmとし、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET/IA)層の厚みを23μmとした以外は、実施例1と同様にして、透明樹脂フィルム積層体を得て、実施例1と同様にして、エンボス加工性および白濁抑制効果の測定を行なった。
【0052】
<比較例1>
透明樹脂フィルム積層体の代わりに、厚み39μmのイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET/IA)フィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして、透明樹脂フィルム積層体を得て、実施例1と同様にして、エンボス加工性および白濁抑制効果の測定を行なった。
【0053】
<比較例2>
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)層の厚みを26μmとし、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET/IA)層の厚みを14μmとした以外は、実施例1と同様にして、透明樹脂フィルム積層体を得て、実施例1と同様にして、白濁抑制効果の測定を行なった。
【0054】
<比較例3>
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)層の厚みを31μmとし、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET/IA)層の厚みを12μmとした以外は、実施例1と同様にして、透明樹脂フィルム積層体を得て、実施例1と同様にして、白濁抑制効果の測定を行なった。
【0055】
<比較例4>
透明樹脂フィルム積層体の代わりに、厚み40μmのポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)フィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして、透明樹脂フィルム積層体を得て、実施例1と同様にして、エンボス加工性および白濁抑制効果の測定を行なった。
【0056】
実施例1〜3、比較例1〜4のエンボス加工性および白濁抑制効果の測定結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表1に示すように、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)層と、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET/IA)層とからなり、PBT層の厚みを5.5〜20μmの範囲とした場合には、エンボス加工性、および加熱・冷却を行なった際における白濁抑制効果に優れる結果となった(実施例1〜3)。なお、このような傾向は、実施例1〜3で作製した透明樹脂フィルム積層体を、基材樹脂層、印刷層および接着剤層からなる積層体上に積層し、化粧フィルムとした場合、さらには、これを鋼板に積層して、化粧板とした場合にも同様であった。
【0059】
一方、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET/IA)のみを用いた場合には、エンボス加工性に劣る結果となり、逆に、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)のみを用いた場合には、加熱・冷却を行なった際における白濁抑制効果に劣る結果となった(比較例1,4)。
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)層の厚みが厚過ぎる場合には、加熱・冷却を行なった際における白濁抑制効果に劣る結果となった(比較例2,3)。
【符号の説明】
【0060】
100…化粧フィルム
10…基材樹脂層
20…印刷層
30…接着剤層
40…表面樹脂層
41…第1透明樹脂層
42…第2透明樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材樹脂層、印刷層、および表面樹脂層を順に積層してなり、
前記表面樹脂層が、表面側にポリブチレンテレフタレート樹脂または変性ポリブチレンテレフタレート樹脂からなる第1層と、前記印刷層側に、温度230℃に加熱した後、急冷した場合における分光式色差計によるΔL*値(ΔL*)と除冷した場合における分光式色差計によるΔL*値(ΔL*)との差(|ΔL*−ΔL*|)が、1.0以下である透明樹脂からなる第2層とを有し、
前記第1層の厚みが3〜20μmの範囲であることを特徴とする化粧フィルム。
【請求項2】
前記第2層を構成する透明樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂または変性ポリエチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の化粧フィルム。
【請求項3】
前記変性ポリエチレンテレフタレート樹脂が、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の化粧フィルム。
【請求項4】
前記印刷層と、前記表面樹脂層との間に、接着剤層をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の化粧フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の化粧フィルムを、基板上に積層してなる化粧板。

【図1】
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【公開番号】特開2013−86377(P2013−86377A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229425(P2011−229425)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】