説明

化粧基材の製造方法

【課題】基材1表面の凸部5にインクジェット塗装を行う際に印刷のズレが生じた場合でも、それを目立ちにくくすることができ、意匠性を高めることができる化粧基材の製造方法を提供する。
【解決手段】凸部5を有する基材1表面に化粧を施すことで化粧基材9を製造する方法であって、以下の(1)乃至(3)のステップを順次経る。
(1)基材1表面全体に第一の化粧層2を設けるステップ、(2)基材1表面の凸部5の全部または一部にのみ受理層3を設けるステップ、及び(3)受理層3が設けられた部分に第二の化粧層4をインクジェットにより印刷するステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装が施された化粧基材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セメント系外装板等の建築用基材に塗装を施すにあたっては、従来からスプレー塗装機、ロールコーター塗装機、フローコーター塗装機などを用いて、基材の表面に塗料を塗布することによって行なうのが一般的である。しかしこのようなスプレー、ロールコート、フローコートなどでは、複雑な柄模様に塗装を施すことが難しく、特に外装板のように表面にレンガ調などの凹凸を設けた建築用基材に追随させて塗装を施すことは困難である。一方、凸版や凹版などの印刷ロールを用いて塗装することも行なわれているが、この場合には同じ柄模様が繰り返して現れる塗装になって、単調な模様になり易く、また塗装する柄模様を変更する場合には印刷ロールを取り替える必要があって、基材ごとに異なる模様を塗装することはできない。
【0003】
そこで最近、塗装の一方式として、コンベア上で搬送される基材の表面に向けて、この基材の搬送速度と同期させてインクジェットノズルヘッドより塗料を噴射するインクジェット塗装が考えられている(特許文献1参照)。このようなインクジェット塗装は、これまで一般的に用いられてきた塗装ロール等に比べ、局所的なしかも位置制御された塗装が可能であり、したがって、基材の任意の位置に任意の柄模様となるように塗料を噴射して塗装を行なうことができる。
【0004】
さらに、インクジェット式の塗装機では、基材の表面に対して非接触で塗装を行なうことができるので、基材に凹凸模様があっても、凹凸模様に同調した色柄模様で塗装を行なうことが容易になる。これにより化粧基材の意匠性を高めることができるものである。
【0005】
そして、上記のようなインクジェット塗装を行なう場合には、まず、基材表面全体にインクを定着しやすくするための受理層を設けた後、その受理層の上からインクジェット塗装を行なうことにより、インクの滲みや弾きを抑えることができるものである。
【0006】
しかしながら、一方で、インクジェット塗装を用いて基材表面の塗装を行なう際に、基材1に位置ズレが生じると、印刷のズレが生じてしまうといった問題が存在した。
【0007】
例えば、基材1表面に、図5に示すように複数の凸部5の間に目地状の凹部を形成したり、図6に示すように小割状の複数の凸部5を形成してモザイク柄等の小割のデザインを形成したりする場合、凸部5とそれ以外の領域との表面にインクジェット塗装によりそれぞれ異なる色の化粧層22(22a、22b)を印刷するにあたり、基材1の凸部5以外の領域の表面に、凸部5に印刷すべき色の化粧層22aが印刷されてしまうことがある。このような印刷のズレが生じた場合、そのズレが僅かであっても目立つものとなってしまう。
【0008】
そこで、上記のような印刷のズレを目立ちにくくするために、凸部5に印刷される化粧層22aの印刷領域を凸部に対して小さくしたり、凸部5に印刷される化粧層22aとそれ以外の部分に印刷される化粧層22bとの境界部21周囲の印刷データをぼかしたりして対応しているが、意匠性の向上には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−74686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、基材表面の凸部にインクジェット塗装を行う際に印刷のズレが生じた場合でも、それを目立ちにくくすることができ、意匠性を高めることができる化粧基材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る化粧基材の製造方法は、凸部5を有する基材1表面に化粧を施すことで化粧基材9を製造する方法であって、以下の(1)乃至(3)のステップを順次経ることを特徴とするものである。(1)基材1表面全体に第一の化粧層2を設けるステップ、(2)基材1表面の凸部5の全部または一部にのみ受理層3を設けるステップ、及び(3)受理層3が設けられた部分に第二の化粧層4をインクジェットにより印刷するステップ。
【0012】
また、本発明において、(2)のステップで、受理層3をロール塗装により設けることが好ましい。この場合、基材1表面の凸部5の全部または一部にのみ受理層3を設けることが容易になる。
【0013】
また、本発明において、第二の化粧層4が印刷される範囲を、受理層3を設けた範囲より僅かに広くすることが好ましい。この場合、受理層3上への第二の化粧層4の塗り残しを無くすことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基材表面全体に第一の化粧層を設け、その後基材表面の凸部5の全部または一部にのみ受理層を設けて、この受理層上に第二の化粧層をインクジェットにより印刷することによって、凸部にインクジェット塗装を行なう際に印刷のズレが発生しても、それを目立ちにくくすることができ、化粧基材の意匠性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の一例における化粧基材を示すものであり、(a)は一部の概略上面図、(b)は(a)の概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の一例を示す概略工程図である。
【図3】インクジェット塗装工程の一例を示す概略図である。
【図4】本発明で用いる基材の他例を示す概略斜視図である。
【図5】従来例における問題点を示す概略上面図である。
【図6】従来例における問題点を示す(a)概略上面図、(b)概略断面図である。
【図7】(a)および(b)は本発明の実施の形態の他例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図1、図2を示して説明する。
【0017】
本発明は、図2に示すように、基材1表面に、塗装機18によって第一の化粧層2を形成する工程と、ロールコーター19によって受理層3を形成する工程と、インクジェット式塗装機14によって第二の化粧層4を形成する工程と、必要に応じて塗装機20によってクリア層を形成する工程とを順次経るものであり、これらの工程は、搬送手段15に基材1を供給することで一連の作業とすることもできるし、別個に作業を行なうこともできる。
【0018】
本実施形態における基材1は、その表面に複数の凸部5を有するものであり、基材1表面の凸部5が形成された部分以外の領域は平坦なベース部6となっている。また、前記凸部5は、平坦な面からなる頂部7と、頂部7端縁からベース部6に向けて下り傾斜する傾斜面からなる立下り面8とを有している。尚、凸部5の頂部7は、平坦な場合だけでなく、凸部5の高さより小さな凹凸部分を有していてもよく、ベース部6も平坦な場合だけでなく、小さな凹凸を有していてもよい。
【0019】
以下では、この基材1の表面のうち、凸部5とベース部6とを、それぞれ異なる色の塗料で塗装する場合について説明する。
【0020】
尚、説明は省略するが、本発明においては、その表面に複数の凸部5の間に目地状のベース部6を形成した基材1を用いることもできるし、その他、凸部5を有する基材1であれば適宜のものを用いることができる。
【0021】
基材1としては、例えばセメント系の無機質板を用いることができる。無機質板の作製には、セメントと補強繊維を主成分とする湿潤シート(グリーンシート)を用いることができる。この湿潤シートは、セメント系の水性スラリーを原料組成物として用いて、長網式、丸網式の各種の抄造法により抄造することができるが、押出成形等の他の適宜の手法も採用することができる。原料組成物としては、例えば水硬性のセメント成分が30〜95質量%、シリカ、珪石粉、フライアッシュ等の充填材が2〜60質量%、パルプ等の補強繊維が3〜10質量%を占める固形分からなるものとし、この固形分100質量部に対し、水15〜2000質量部程度の割合としたスラリーを用いることができる。尚、セメント成分は、普通ポルトランドセメントをはじめ、高炉セメント等の、適宜に組成調整されたものを用いることができる。補強繊維のパルプは、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、古紙パルプ、あるいはこれらのうち二種以上の混合物等を用いることができる。この湿潤シートにプレス加工を施すなどして凸部5を形成した後、養生硬化することにより、基材1を得ることができる。
【0022】
上記基材1の養生硬化は適宜の手法で行うことができるが、オートクレーブ養生をすることが望ましく、その際の温度としては140℃以上とすることが好適である。また、実際的には、養生は、オートクレーブ養生と、これに先行しての促進前養生、つまり加温のために水蒸気が投入される前養生との二段階での養生であることが望ましい。これによって、基材1の強度が向上し、組織と性能の均一化が図られることになる。
【0023】
この養生時には、養生前の湿潤シートの表面にシーラー(図示しない)を塗布することが望ましい。このシーラーを塗布することにより、養生時にエフロレッセンスが発生することを防止することができ、更にシーラーの塗膜が耐透水性を発揮することで、化粧基材9の耐透水性を向上することができる。
【0024】
シーラーは特に制限されないが、例えばアクリル系、酢酸ビニル系、エポキシ系、塩化ゴム系、ウレタン系、シリコン系、フッ素系等の水性樹脂エマルションを用いることができる。
【0025】
また、このようなシーラー中には、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、顔林、ベントナイト、セリサイト、ドロマイト、タルク、クレー、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、珪藻土等の無機粒子を混合することができる。
【0026】
そして、このようなシーラーを湿潤シートの表面に塗布し、加熱成膜することでシーラーの塗膜を形成することができる。
【0027】
このようなシーラーの塗装は、養生前に行うものであるが、上記のように促進前養生を行う場合には促進前養生後にシーラーを塗布し、次いでオートクレーブ養生を行うことが好ましく、これにより化粧基材9の耐凍害性や寸法安定性を向上することができる。
【0028】
このような養生硬化により得られた基材1には、必要に応じて乾燥処理や切削加工が施される。
【0029】
このようにして得られた基材1の表面全体に、塗装機18によって第一の化粧層2を設ける。
【0030】
第一の化粧層2は、着色用塗料を基材1表面全体に塗布することによって形成されるものであり、後述するように第二の化粧層4を印刷するためのインクとの親和性が非常に高いか、もしくは親和性が非常に低いものであることが好ましく、特に親和性が非常に低いものが好ましい。
【0031】
前記着色用塗料としては、アクリル系エマルションをベースにしたアクリル樹脂塗料や、アクリルシリコン系エマルションをベースにしたアクリルシリコン樹脂塗料などに着色顔料を配合させたものを用いることができる。着色顔料としては、酸化チタン、弁柄、オーカー、炭酸カルシウム、複合金属酸化物等の無機顔料や、カーボンブラック、キナクリドン、ナフトールレッド、シアニンブルー、シアニングリーン、ハンザイエロー、群青等の有機顔料を用いることができる。顔料は1種のみを用いたり、2種以上を組み合わせて用いたりすることができる。
【0032】
上記の着色用塗料は、ポリエチレンワックスを塗料中に5〜20重量%含むことが好ましい。この場合、着色用塗料によって形成される第一の化粧層2を、第二の化粧層4を印刷するためのインクとの親和性が非常に低いものにすることができる。
【0033】
着色用塗料を基材1表面全体に塗装して第一の化粧層2を形成する塗装機18としては、スプレーコーター、フローコーターなどを採用することができる。
【0034】
次に、上記のようにして得られた基材1の凸部5のみに、第一の化粧層2の上から受理層3を設ける。
【0035】
ここで、受理層3は凸部5の少なくとも頂部7全てを覆うように設けられることが好ましい。また更に、凸部5の立下り面8に設けられていてもよい。受理層3を頂部7と立下り面8に設ける場合は、立下り面8全体を受理層3で覆ってもよく、また、図1に示すように、立下り面8の上部のみに、頂部7を取り囲むように設けてもよい。
【0036】
上記受理層形成組成物としては、アクリル系エマルションをベースにしたアクリル樹脂塗料や、アクリルシリコン系エマルションをベースにしたアクリルシリコン樹脂塗料を用いることができる。受理層形成組成物には、体質顔料と吸湿性樹脂のうちの少なくとも一方を配合しておくのが好ましい。これにより、インクの定着性を向上させることができる上に、後で水性塗料でクリア層を形成する際に滲みを防止することができると共に、発色性も向上させることができるものである。ここで、体質顔料としては、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、多孔質シリカ、珪藻土等を用いることができ、吸湿性樹脂としては、酢酸ビニル、ウレタン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリビニルアルコール等のインキ吸収性ポリマー等を用いることができる。また、受理層3を受理層形成組成物で形成するにあたっては、基材1の表面に受理層形成組成物を塗布量30〜200g/m・wetで塗布するのが好ましい。
【0037】
受理層形成組成物の塗布は、ロールコーター19によるロール塗装で行うことが好ましい。この場合、基材1の凸部5の頂部7や立下がり面8に受理層形成組成物が塗布されるため、凸部5のみに受理層3を設けることが容易になる。
【0038】
また、受理層形成組成物の塗布をロールコーター19によるロール塗装で行う場合には、ローラーの硬度、押圧、受理層形成組成物の塗布量等を単独で又は組み合わせて変化させることにより、立下り面8における受理層3の形成領域を調節することができる。すなわち、ローラーの硬度を低くするほど、ローラーの押圧を大きくするほど、そして受理層形成組成物の塗布量を多くするほど、立下り面8における受理層3の形成領域を大きくすることができるものである。
【0039】
このように受理層3を形成した後、この受理層3の表面上、すなわち基材1表面の凸部5のみにインクジェット塗装により第二の化粧層4を印刷する。
【0040】
インクジェット塗装に用いるインクとしては、水性インクを用いることが好ましい。水性インクとしては従来から知られている顔料を分散剤で分散した顔料インクも使用可能であるが、インクジェット塗装では顔料濃度を高めることが困難で、かつバインダー樹脂量も少ないことから印刷物の色合いが暗くなりやすく、内装装飾材としての品位が著しく減少しやすい。このような観点からは、少なくとも一部が塩基で中和された酸基を有する皮膜形成性樹脂によって顔料粒子が被覆された着色樹脂粒子水性分散体からなる水性顔料タイプのインクが、優れた耐候性と共に色再現範囲が広く、高い印刷品位を得ることが可能なことから好適である。
【0041】
前記の酸基を有する皮膜形成性樹脂は、公知の酸基を有するものであれば特に種類の制限はないが、好ましくは酸価が50〜280のカルボキシル基を有する樹脂が好ましい。また、その少なくとも一部が塩基で中和されてなる自己水分散性樹脂の場合は、特に優れたジェットインクとしての安定性を有する。
【0042】
このような樹脂としては、例えばアクリル酸樹脂、マレイン酸樹脂、ポリエステル樹脂等があるが、特に好ましくは、スチレン−(メタ)アクリル酸系樹脂である。なお、(メタ)アクリルとは、アクリルとメタクリルとの両方を包含する。
【0043】
スチレン−(メタ)アクリル酸系樹脂とは、スチレン系モノマーを必須成分として、(メタ)アクリル酸系モノマー、例えば(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステル、を共重合させた樹脂である。
【0044】
当該樹脂としては、例えばスチレンあるいはα−メチルスチレンのような置換スチレンと、アクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル、アクリル酸ブチルエステル、アクリル酸2−エチルヘキシルエステル等のアクリル酸エステルと、メタクリル酸メチルエステル、メタクリル酸エチルエステル、メタクリル酸ブチルエステル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステルとから選ばれる少なくとも一つ以上のモノマー単位と、アクリル酸、メタクリル酸から選ばれる少なくとも一つ以上のモノマー単位とを含む共重合体である。これらの共重合体は、少なくともその一部が共有結合性の架橋や多価金属によるイオン架橋されていても良い。
【0045】
前記樹脂を用いて自己水分散性樹脂として用いる場合には、そのカルボキシル基の少なくとも一部を塩基で中和すればよい。塩基、即ちアルカリ性中和剤による中和は、得られる自己水分散性樹脂が水に溶解しない程度に中和すればよい。塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエチルアミン、モルホリン等の塩基性物質の他、特にトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアルコールアミンとりわけトリエタノールアミンがジェットインクとして好ましい。
【0046】
最終的に塩基の存在下のインクのpHとして、7〜10、好ましくは8〜9の範囲にある場合には顔料を包含している樹脂のインク中への溶解も少なく、ノズル目詰まりを防止すると共に鮮やかな発色を得ることができ、鮮明な絵柄模様が得られる。
【0047】
上述した水性インクに用いる顔料は特に限定されるものはなく、例えばカーボンブラック、チタンブラック、チタンホワイト、硫化亜鉛、ベンガラ等の無機顔料や、フタロシアニン顔料、モノアゾ系、ジスアゾ系等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料等の有機顔料がある。かかる顔料の使用量(含有量)は、特に規定されないが、最終的に得られるインク中で0.5〜10重量%となるような量が好ましい。
【0048】
前記の樹脂によって顔料が包含された着色樹脂粒子を作製する方法は、特に限定されるものではないが、より好ましい具体的な例は、特開平10−88042号公報で示される工程にて得ることが出来る。このようにして得られた分散液に、必要に応じて以下の添加剤類を併用することが好ましい。
【0049】
乾燥防止剤は、水性インクに添加される場合が多く、インクジェットの噴射ノズル口でのインクの乾燥を防止する効果を与えるものであり、通常、水以上の沸点を有する水溶性有機溶剤が使用される。このような乾燥防止剤としては、特に限定されるものではなく、従来知られているエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン等のピロリドン類、アミド類、ジメチルスルホオキサイド、イミダゾリジノン等が使用可能である。乾燥防止剤の使用量は、種類によって異なり、通常水100重量部に対して1〜150重量部の範囲から適宜選択される。
【0050】
水性インクの受理層3への浸透をより良好とするために、公知慣用の浸透剤の必要量を用いることが好ましい。浸透剤として、受理層3への浸透性付与効果を示す、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、ジエチレングリコール−N−ブチルエーテル等のグリコールエーテル、プロピレングリコール誘導体、ピロリドン化合物等の水溶性有機溶媒やノニオン性やアニオン性、両性界面活性剤を加えてもよい。その他、必要に応じて水溶性樹脂、防腐剤、キレート剤等の添加剤を加えることができる。
【0051】
インクジェット塗装を行うために用いるインクジェット式塗装機14としては、図3に示すものを挙げることができる。このインクジェット式塗装機14は、噴射ノズル10を設けた塗装ノズルヘッド11、塗装ノズルヘッド11の噴射ノズル10に塗料を供給する塗料供給タンク12、塗装ノズルヘッド11の噴射ノズル10からの塗料の噴射を制御する塗装制御システム13などを備えている。また、インクジェット式塗装機14の下方には、基材1を搬送する搬送手段15が設けられている。
【0052】
塗装ノズルヘッド11はインクジェット式塗装機14の下端に設けられているものであり、建築板1の送り方向と垂直な方向に長いラインヘッドとして形成してある。
【0053】
塗装ノズルヘッド11はイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色の塗料を噴出する4種類の塗装ノズルヘッド11y,11c,11m,11kから形成してあり、フルカラー印刷による塗装を行なうことができるようにしてある。塗装ノズルヘッド11の個数はこれに限られず、使用するインクの種類に応じた個数が設けられる。塗料供給タンク12も同様に4種類のものからなるものであり、イエローの塗料を供給する塗料供給タンク12yは塗装ノズルヘッド11yに、シアンの塗料を供給する塗料供給タンク12cは塗装ノズルヘッド11cに、マゼンタの塗料を供給する塗料供給タンク12mは塗装ノズルヘッド11mに、ブラックの塗料を供給する塗料供給タンク12kは塗装ノズルヘッド11kにそれぞれ接続してある。そして各塗装ノズルヘッド11y,11c,11m,11kは基材1の搬送方向に沿って配列してある。
【0054】
塗装制御システム13は、各種のCPU、ROM、RAM等から構成されるものであり、塗装データ作成部、塗装制御部、噴射ノズル制御部等を備えて形成してある。塗装データ作成部は、原画をスキャナ等して得た色柄パターンのデータを入力して保存するものであり、塗装制御部は、塗装を行なう基材1に応じた色柄パターンのデータを塗装データ作成部から取り出し、この色柄パターンのデータに基づいて、噴射ノズル制御部に制御信号を出力するものである。また噴射ノズル制御部は塗装ノズルヘッド11y,11c,11m,11kの各噴射ノズル10に接続してあり、噴射ノズル制御部から入力される制御信号に基づいて各噴射ノズル10を制御するものである。各噴射ノズル10は例えばピエゾ制御方式により噴射を制御されるようになっており、噴射ノズル制御部で各噴射ノズル10を制御することによって、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各塗料の噴射と停止を個別に制御して、色柄パターンに対応したフルカラー印刷による塗装を行なうことができるものである。
【0055】
搬送手段15はタイミングベルトなどの無限帯状のベルト16をプーリ17間に懸架したベルトコンベア15aで形成することができ、インクジェット式塗装機14の下側に配置されるものである。
【0056】
搬送手段15にて搬送される基材1は、塗装ノズルヘッド11の下方を通過する。このとき塗装ノズルヘッド11から基材1上の受理層3に向けてインクがインクジェット方式で噴射されて塗装が施され、意匠模様が付与された化粧基材9が得られる。
【0057】
上記のようなインクジェット塗装を行ない、第二の化粧層4を第一の化粧層2とは異なる色や柄模様で形成することで、基材1表面の凸部5とベース部6を異なる色や柄模様とすることができる。このとき、複数の凸部5に同じ色や柄模様の第二の化粧層4を形成することもできるし、複数の凸部5にそれぞれ異なった色や柄模様の第二の化粧層4を形成することもできる。
【0058】
上記のように凸部5のみに受理層3を設け、さらに受理層3の上に第二の化粧層4を印刷することによって、第二の化粧層4の印刷範囲にズレが生じてしまった場合でも、この印刷のズレを目立たなくすることができるものである。
【0059】
このとき、第一の化粧層2が、第二の化粧層4を印刷するためのインクと親和性が非常に高いものであれば、印刷のズレが生じて第二の化粧層4の印刷部分が受理層3からはみ出た場合でも、第二の化粧層4を印刷するためのインクが第一の化粧層2によって滲むことにより、印刷のズレが目立たなくなる。
【0060】
また、第一の化粧層2が、第二の化粧層4を印刷するためのインクと親和性が非常に低いものであれば、印刷のズレが生じて第二の化粧層4の印刷部分が受理層3からはみ出た場合でも、第二の化粧層4を印刷するためのインクが第一の化粧層2によって収縮して発色性が低下することにより、印刷のズレが目立たなくなる。
【0061】
また、第二の化粧層4の塗装色を第一の化粧層2の塗装色に同化するような色にすることで、印刷のズレを更に目立たなくすることもできる。ここで、ある2色が同化するような色であるためには、マンセル表色系において2色の明度差が2以内の範囲であることが好ましく、また、2色が基本10色相において同一色相内にある(例えば両色がRの色相に該当する色であったり、両色がYRの色相に該当する色であったりする)ことが好ましい。
【0062】
第二の化粧層4を印刷する際には、第二の化粧層4の印刷面の領域を、受理層3の形成された部分と同じ形状寸法にすることができる。
【0063】
また、第二の化粧層4を印刷する際に、受理層3が形成された範囲よりも僅かに広い範囲に第二の化粧層4が印刷されることも好ましい。この場合、第二の化粧層4の印刷のズレが生じても、受理層3全体に第二の化粧層4を印刷することができ、受理層3上への第二の化粧層4の塗り残しを無くすことができる。尚、前記受理層3が形成された範囲よりも僅かに広い範囲とは、基材1製造時の寸法誤差、印刷時の位置合わせ誤差に対応するように設定することが好ましい。
【0064】
さらに、第二の化粧層4の印刷範囲を受理層3が形成された範囲よりも僅かに広い範囲にする場合には、第二の化粧層4の印刷範囲のうち受理層3と同じ形状寸法の領域の外側の部分の色を、第一の化粧層2の塗装色と同化するような色にすることも好ましい。この場合、印刷のズレを更に目立たなくすることができる。
【0065】
また、複数の凸部5のうち、一部の凸部5のみに第二の化粧層4を印刷してもよい。例えば、図4に示す基材1は、基材1表面の一面に突出寸法の高い凸部5aと、凸部5aより突出寸法の低い凸部5bが複数形成されていて、凸部5aの突出寸法高さがそれぞれ等しいものであるが、この基材1に第二の化粧層4を印刷する場合には、ロール塗装によって受理層3を形成する際に、突出寸法の高い凸部5aのみに受理層3が形成され、凸部5aより突出寸法の低い凸部5bには受理層3が形成されないため、凸部5aにのみ受理層3及び第二の化粧層4を形成することができる。
【0066】
また、例えば基材1が、石柄等のように凸部5の頂部7が、凸部5の高さより小さな凹凸を有するものであった場合、ロールコーター19におけるローラーの硬度、押圧、受理層形成組成物の塗布量等を単独で又は組み合わせて変化させることにより、頂部7における受理層3の形成領域を調節することもできる。すなわち、ローラーの硬度を高く、押圧を小さく、受理層形成組成物の塗布量を少なくすると、図7(a)に示すように頂部7の平坦部7aのみに受理層3を設けることができる。また、ローラーの硬度を低くするほど、ローラーの押圧を大きくするほど、そして受理層形成組成物の塗布量を多くするほど、頂部7の凹凸部分7bのうち受理層3が設けられる部分を増やすことができるものであり、図7(b)に示すように頂部7全面を塗装することもできる。このとき、立下り部8の一部又は全体を塗装することもできる。そして、頂部7の受理層3の形成領域にインクジェット塗装により第二の化粧層4を形成することができる。このように、頂部7における受理層3および第二の化粧層4の形成領域を変化させることで、化粧基材9の表現に変化をつけて意匠性を高めることができるものである。
【0067】
以上のように、基材1表面全体に第一の化粧層2を設け、その後基材1表面の凸部5のみに受理層3を設けて、この受理層3上に第二の化粧層4をインクジェットにより印刷することによって、凸部5にインクジェット塗装を行なう際に印刷のズレが発生しても、それを目立ちにくくすることができ、化粧基材9の意匠性を高めることができるものである。また、基材1の凸部5のみにインクジェット塗装を行なうことによって、インク量の軽減をはかることができると共に、基材1表面の凸部5とそれ以外の領域で塗料種の塗り分けができて低コスト化を図ることができるものである。
【0068】
また、上記のように第二の化粧層4を形成した後に、必要に応じて、基材1表面に表面保護用のクリア層を塗装機20によって形成することもできる。クリア層は適宜のクリア塗料を塗布成膜することにより形成することができ、例えばアクリルシリコン系塗料や、アクリルエマルション系塗料等を用い、これを建築板1のインクジェット塗装が施された面にスプレー等して塗布した後、80〜150℃で焼き付け乾燥等することにより成膜することにより、クリア層を形成することができる。このクリア層の厚みは特に制限されないが、1〜10μmの範囲であることが好ましい。
【符号の説明】
【0069】
1 基材
2 第一の化粧層
3 受理層
4 第二の化粧層
5 凸部
9 化粧基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸部を有する基材表面に化粧を施すことで化粧基材を製造する方法であって、以下の(1)乃至(3)のステップを順次経ることを特徴とする化粧基材の製造方法。
(1)基材表面全体に第一の化粧層を設けるステップ、
(2)基材表面の凸部の全部または一部にのみ受理層を設けるステップ、及び
(3)受理層が設けられた部分に第二の化粧層をインクジェットにより印刷するステップ。
【請求項2】
(2)のステップで、受理層をロール塗装により設けることを特徴とする請求項1に記載の化粧基材の製造方法。
【請求項3】
第二の化粧層が印刷される範囲を、受理層を設けた範囲より僅かに広くすることを特徴とする請求項1又は2に記載の化粧基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−56362(P2011−56362A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207200(P2009−207200)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(503367376)ケイミュー株式会社 (467)
【Fターム(参考)】