説明

化粧建築板の製造方法

【課題】インクジェット印刷におけるインク吸収性に優れ、画像品質が高く、保護層に気泡混入の故障が無い化粧建築板の製造方法に関する。
【解決手段】基材上に、無機微粒子を含有し細孔容積を0.3mL/g以上有するインク受容層とその上に熱可塑性有機粒子含有層を設けるA工程、インクジェット印刷画像を形成するB工程、前記熱可塑性有機粒子の最低成膜温度以上の温度で加熱することにより熱可塑性有機粒子含有層を緻密化するC工程、および緻密化した熱可塑性有機粒子含有層上に保護層を設けるD工程を、少なくとも備える化粧建築板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷を施した化粧建築板の製造方法に関し、詳しくはインクジェット印刷におけるインク吸収性に優れ、画像品質が高く、保護層に気泡混入の故障が無い化粧建築板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット印刷を施した化粧建築板は、例えば特開2004−60241号公報(特許文献1)に記載されているように、次のような工程で作製される。まず金属板やセメント板等の基材上にアクリル系等の塗料を塗布し、インク受容層を作製する。続いてインク受容層の上に、インクジェット装置で目的の画像を印刷し、インクジェット印刷画像を作製する。その後、このインクジェット印刷層上にアクリル系等の塗料を塗布して保護層を作製することによって、化粧建築板を得る。
【0003】
しかしながら、上記のような従来の化粧建築板のインク受容層は、インク吸収性が乏しく、インク受容層表面でインクが弾かれたり溢れ広がったりするため、高精細な画像が作製できなかった。また高い発色性を得たくとも、インク打ち込み量を増加させることも困難であった。
【0004】
この課題を改良するため、例えば特開2007−154432号公報(特許文献2)ではインク受容層に含有させる顔料の質量濃度を50〜70%にすることで、インクの発色性を向上させる技術が開示されており、顔料の質量濃度を高めることでインク受容層表面が粗面化され、インク吸収性が向上するとある。しかしながら、効果のある箇所はインク受容層表面に留まるため、依然としてインク受容層のインク吸収性が満足できるものではなかった。
【0005】
一方、写真などのインクジェット印刷分野では、インク受容層として多孔質層を用いることで高いインク吸収性を得る技術が開示されている。例えば、特開平10−119423号公報、特開2000−211235号公報、特開2000−309157号公報等に気相法シリカの使用例が、特開平9−286165号公報、特開平10−181190号公報等に沈降法シリカの使用例が、特開2001−277712号公報にゲル法シリカの使用例が、特開2001−277712号公報にはアルミナあるいはアルミナ水和物の使用例が開示されている。しかしながら、多孔質層の表面に耐久性等を付与する目的で更に保護層を作製する際には、この多孔質層内部に存在する空気が保護層塗布液の浸透により上昇し、保護層に気泡が混入してしまうことが避けられない。
【0006】
すなわち、化粧建築板のインク受容層としてこの多孔質層を用いると、保護層を作製する際に気泡が混入し故障となってしまい、保護層に求められる機能である、耐久性、意匠性等に問題が生じてしまう。このため、優れたインク吸収性と高い画像品質、及び保護層の気泡故障の防止を共に実現できていなかった。
【0007】
また、インクジェット印刷分野においては、例えば特許第3768017号公報(特許文献3)のように、多孔質のインク受容層とその上に熱可塑性有機粒子を含有する層を配置して、インクジェット印字後に有機粒子層を緻密化する記録用紙及び記録方法も多数提案されている。この緻密化処理により熱可塑性粒子を含有する層が成膜されて耐水性、耐候性及び光沢性を発現するという提案であるが、保護層の気泡混入に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−60241号公報
【特許文献2】特開2007−154432号公報
【特許文献3】特許第3768017号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、インクジェット印刷におけるインク吸収性に優れ、画像品質が高く、更に保護層に気泡混入の故障が無い化粧建築板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、以下の化粧建築板により達成された。
(1)基材上に、無機微粒子を含有し細孔容積を0.3mL/g以上有するインク受容層とその上に熱可塑性有機粒子含有層を設けるA工程、インクジェット印刷画像を形成するB工程、前記熱可塑性有機粒子の最低成膜温度以上の温度で加熱することにより熱可塑性有機粒子含有層を緻密化するC工程、および緻密化した熱可塑性有機粒子含有層上に保護層を設けるD工程を、少なくとも備える化粧建築板の製造方法。
(2)前記インク受容層が含有する無機微粒子が、平均二次粒子径が500nm以下の無機微粒子であることを特徴とする(1)に記載の化粧建築板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化粧建築板の製造方法によれば、インク吸収性に優れ、画像品質が高く、更に保護層に気泡混入の故障が無い化粧建築板が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明における化粧建築板の製造方法は、基材上に、無機微粒子を含有し細孔容積を0.3mL/g以上有するインク受容層とその上に熱可塑性有機粒子含有層を設けるA工程、インクジェット印刷画像を形成するB工程、前記熱可塑性有機粒子の最低成膜温度以上の温度で加熱することにより熱可塑性有機粒子含有層を緻密化するC工程、および緻密化した熱可塑性有機粒子含有層上に保護層を設けるD工程を、少なくとも備える。
【0013】
本発明のA工程で用いる基材としては特に限定されるものではないが、例えばセメント板や金属板のような無機質の基材や、樹脂板のような有機質の基材が使用できる。
【0014】
また、セメント板のような窯業系基材の場合には、必要に応じてまず基材上にシーラー層(目止め層)を作製してもよい。これにより、基材へのインク受容層塗布液の浸透性を整えたり、基材とインク受容層との層間接着性を向上させることができる。シーラー層塗布液としては、アクリル系などの水系合成樹脂エマルションや、塩化ビニル系などの溶剤系などが好適に用いられる。シーラー層塗布液の塗布は、スプレーガン、ロールコーター、フローコーター、カーテンコーター等を用いて行うことができる。乾燥は、シーラー層塗布液や基材の特性に合わせて適宜設定されるが、例えば温風乾燥機を用いて、100〜150℃、30秒以上の条件で行うのが好ましい。
【0015】
続いて、A工程で設けるインク受容層について説明する。本発明におけるインク受容層は、無機微粒子を含有し、細孔容積を0.3mL/g以上有する。
【0016】
本発明におけるインク受容層の無機微粒子含有量は、インク受容層の全固形分に対して50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。このように無機微粒子の含有比率が高いインク受容層は、細孔容積の大きい多孔質なインク受容層となる。
【0017】
本発明におけるインク受容層に用いられる無機微粒子としては、非晶質合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、二酸化チタン等公知の各種微粒子が挙げられるが、生産性の点で非晶質合成シリカ、アルミナまたはアルミナ水和物が好ましい。非晶質合成シリカとしては、インク吸収性と画像品質の観点から後述する気相法シリカ及び湿式法シリカが特に好ましく用いられる。
【0018】
非晶質合成シリカは、製造法によって湿式法シリカ、気相法シリカ、及びその他に大別することができる。湿式法シリカは、更に製造方法によって沈降法シリカ、ゲル法シリカ、ゾル法シリカに分類される。沈降法シリカはケイ酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカ粒子が凝集・沈降し、その後濾過、水洗、乾燥、粉砕・分級の行程を経て製品化される。沈降法シリカとしては、例えば東ソー・シリカ(株)からニップシールとして、(株)トクヤマからトクシールとして市販されている。ゲル法シリカはケイ酸ソーダと硫酸を酸性条件下で反応させて製造する。熟成中に微小粒子は溶解し、他の一次粒子同士を結合するように再析出するため、明確な一次粒子は消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。例えば、東ソー・シリカ(株)からニップゲルとして、グレースジャパン(株)からサイロイド、サイロジェットとして市販されている。ゾル法シリカは、コロイダルシリカとも呼ばれ、ケイ酸ソーダの酸などによる複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られ、例えば日産化学工業(株)からスノーテックスとして市販されている。
【0019】
気相法シリカは、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化ケイ素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化ケイ素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカは日本アエロジル(株)からアエロジル、(株)トクヤマからQSタイプとして市販されている。
【0020】
本発明には、気相法シリカが好ましく使用できる。本発明に用いられる気相法シリカの平均一次粒子径は30nm以下が好ましい。更に好ましくは平均一次粒子径が3〜15nm(特に3〜10nm)でかつBET法による比表面積が200m/g以上(好ましくは250〜500m/g)のものを用いることである。なお、本発明でいう平均一次粒子径とは、微粒子の電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する100個の一次粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子径として平均粒子径を求めたものである。また本発明でいうBET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ吸着量を被吸着気体の圧、または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて表面積が得られる。
【0021】
気相法シリカの平均二次粒子径は、好ましくは5μm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは10〜300nmである。このような平均二次粒子径とするには、カチオン性、アニオン性いずれの化合物の存在下で分散しても良いが、カチオン性化合物を用いることが好ましい。分散方法としては、通常のプロペラ撹拌、タービン型撹拌、ホモミキサー型撹拌等で気相法シリカと分散媒を予備混合し、次にボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機、及び薄膜旋回型分散機等を使用して分散を行うことが好ましい。なお、本発明でいう平均二次粒子径とは、透過型電子顕微鏡による写真撮影で求めることができるが、簡易的にはレーザー散乱式の粒度分布計(例えば、堀場製作所製LA920)を用いて、個数メジアン径として測定することができる。
【0022】
本発明では、湿式法シリカも好ましく使用できる。ここで用いられる湿式法シリカとしては沈降法シリカあるいはゲル法シリカが好ましく、特に沈降法シリカが好ましい。本発明に用いられる湿式法シリカ粒子としては、平均一次粒子径50nm以下、好ましくは3〜40nmであり、且つ平均二次粒子径が5μm以下である湿式法シリカ粒子が好ましく、更には500nm以下、特に20〜200nm程度まで微粉砕した湿式法シリカ微粒子を使用することが好ましい。
【0023】
湿式法シリカは、カチオン性、アニオン性いずれの化合物の存在下で粉砕しても良いが、カチオン性化合物を用いることが好ましい。粉砕方法としては、水性媒体中に分散したシリカを機械的に粉砕する湿式分散法が好ましく使用できる。湿式法シリカを粉砕する好ましい方法を以下に示す。まず、水を主体とする分散媒中に湿式法シリカとカチオン性化合物を混合し、のこぎり歯状ブレード型分散機、プロペラ羽根型分散機、またはローターステーター型分散機等の分散装置の少なくとも一つを用いてシリカ予備分散液を得る。必要であれば水分散媒中に適度の低沸点溶剤等を添加してもよい。シリカ予備分散液の固形分濃度は高い方が好ましいが、あまり高濃度になると分散不可能となるため、好ましい範囲としては15〜40質量%、より好ましくは20〜35質量%である。次に、シリカ予備分散液をより強い剪断力を持つ機械的手段にかけてシリカ粒子を粉砕し、湿式法シリカ微粒子分散液が得られる。機械的手段としては公知の方法が採用でき、例えば、ボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機及び薄膜旋回型分散機等を使用することができる。
【0024】
上記気相法シリカ及び湿式法シリカの分散あるいは粉砕に使用するカチオン性化合物としては、カチオン性ポリマーを好ましく使用できる。カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン、ポリアリルアミン、アルキルアミン重合物、特開昭59−20696号公報、特開昭59−33176号公報、特開昭59−33177号公報、特開昭59−155088号公報、特開昭60−11389号公報、特開昭60−49990号公報、特開昭60−83882号公報、特開昭60−109894号公報、特開昭62−198493号公報、特開昭63−49478号公報、特開昭63−115780号公報、特開昭63−280681号公報、特開平1−40371号公報、特開平6−234268号公報、特開平7−125411号公報、特開平10−193776号公報等に記載された1〜3級アミノ基、4級アンモニウム塩基を有するポリマーが好ましく用いられる。特に、カチオン性ポリマーとしてジアリルアミン誘導体が好ましく用いられる。分散性及び分散液粘度の面で、これらのカチオン性ポリマーの質量平均分子量は2,000〜10万程度が好ましく、特に2,000〜3万程度が好ましい。
【0025】
本発明に用いられるアルミナとしては、酸化アルミニウムのγ型結晶であるγ−アルミナが好ましく、中でもδグループ結晶が好ましい。γ−アルミナは一次粒子を10nm程度まで小さくすることが可能であるが、通常は数千から数万nmの二次粒子結晶を超音波や高圧ホモジナイザー、対向衝突型ジェット粉砕機等で平均二次粒子径を好ましくは5μm以下、更には500nm以下、より好ましくは20〜300nm程度まで粉砕したものが使用できる。
【0026】
本発明に用いられるアルミナ水和物はAl・nHO(n=1〜3)の構成式で表される。本発明に使用されるアルミナ水和物はアルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドの加水分解、アルミニウム塩のアルカリによる中和、アルミン酸塩の加水分解等の公知の製造方法により得られる。本発明に使用されるアルミナ水和物の平均二次粒子径は好ましくは5μm以下、更には500nm以下、より好ましくは20〜300nmである。
【0027】
本発明に用いられる上記のアルミナ、及びアルミナ水和物は、カチオン性、アニオン性いずれの化合物の存在下で分散しても良い。カチオン性化合物としては、酢酸、乳酸、ぎ酸、硝酸等の公知の分散剤によって分散されたものが好ましく用いられる。
【0028】
インク受容層は上記した無機微粒子の中から2種以上の無機微粒子を併用することもできる。例えば、微粉砕した湿式法シリカと気相法シリカとの併用、微粉砕した湿式法シリカとアルミナあるいはアルミナ水和物との併用、気相法シリカとアルミナあるいはアルミナ水和物との併用が挙げられる。
【0029】
本発明において無機微粒子と共にバインダーを使用することが好ましい。インク受容層を構成するバインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、デキストラン、デキストリン、カラギーナン(κ、ι、λ等)、寒天、プルラン、キトサン誘導体、カゼイン、大豆蛋白、水溶性ポリビニルブチラール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。これらバインダーは2種類以上併用することも可能である。バインダーの使用に当たっては、バインダーがインクの初期の浸透時に膨潤して空隙を塞いでしまわないことが重要であり、この観点から比較的膨潤性の低いバインダーが好ましく用いられる。好ましいバインダーは完全または部分ケン化のポリビニルアルコールや、カチオン変成ポリビニルアルコールである。また、バインダーとして各種ラテックスを使用してもよい。
【0030】
ポリビニルアルコールの中でも特に好ましいのは、ケン化度が80%以上の部分または完全ケン化したものである。平均重合度200〜5000のものが好ましい。
【0031】
カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば特開昭61−10483号公報に記載されているような、第1〜3級アミノ基や第4級アンモニウム基をポリビニルアルコールの主鎖あるいは側鎖中に有するポリビニルアルコールである。
【0032】
またインク受容層は、インク受容層を構成する上記バインダーと共に必要に応じ硬膜剤を用いることもできる。硬膜剤の具体的な例としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドの如きアルデヒド系化合物、ジアセチル、クロルペンタンジオンの如きケトン化合物、ビス(2−クロロエチル)尿素、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン、米国特許第3,288,775号記載の如き反応性のハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、米国特許第3,635,718号記載の如き反応性のオレフィンを持つ化合物、米国特許第2,732,316号記載の如きN−メチロール化合物、米国特許第3,103,437号記載の如きイソシアナート類、米国特許第3,017,280号、米国特許第2,983,611号記載の如きアジリジン化合物類、米国特許第3,100,704号記載の如きカルボジイミド系化合物類、米国特許第3,091,537号記載の如きエポキシ化合物、ムコクロル酸の如きハロゲンカルボキシアルデヒド類、ジヒドロキシジオキサンの如きジオキサン誘導体、クロム明ばん、硫酸ジルコニウム、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩類の如き無機架橋剤等があり、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0033】
バインダーとしてケン化度が80%以上の部分または完全ケン化したポリビニルアルコールを用いる場合には、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩類が好ましく、ホウ酸が特に好ましい。
【0034】
また、インク受容層を構成するバインダーとしてケト基を有するバインダーを用いることもできる。ケト基を有するバインダーは、ケト基を有するモノマーと他のモノマーを共重合する方法、ポリマー反応でケト基を導入する方法等によって合成することができる。特にケト基を有する変性ポリビニルアルコールが好ましい。ケト基を有する変性ポリビニルアルコールとしては、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0035】
アセトアセチル変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールとジケテンの反応等の公知の方法によって製造することができる。アセトアセチル化度は0.1〜20モル%が好ましく、更に1〜15モル%が好ましい。ケン化度は80モル%以上が好ましく、更に85モル%以上が好ましい。重合度としては、500〜5000のものが好ましく、特に2000〜4500のものが更に好ましい。また、完全または部分ケン化のポリビニルアルコールや、カチオン変成ポリビニルアルコールと、ケト基を有するバインダーを併用することも可能である。
【0036】
本発明において、インク受容層が含有するケト基を有するバインダーは、架橋剤で架橋されることが好ましい。かかる架橋剤としては、脂肪族ポリアミン類、脂環式ポリアミン、複素環式ポリアミン、芳香族ポリアミン類、ポリアミドポリアミン、ポリエーテルポリアミン、ジシアンジアミド誘導体、ヒドラジン化合物、ポリヒドラジド化合物、アルデヒド類、メチロール化合物、活性化ビニル化合物、エポキシ化合物、多価金属塩等の化合物が挙げられる。特に、ポリヒドラジド化合物、及び多価金属塩が好ましい。また、アセトアセチル変性、ジアセトンアクリルアミド変性された部位以外は、通常のポリビニルアルコールと同様の構造を持つため、硬膜剤を併用することができる。特にホウ砂あるいはホウ酸、ホウ酸塩を併用することが好ましい。
【0037】
また、本発明におけるインク受容層におけるバインダーの含有量は、インク受容層の全固形分に対して1〜50質量%の範囲が好ましく、特に5〜40質量%がインク受容層内に微細な細孔を形成し、多孔質な層を形成するために好ましい。
【0038】
インク受容層には更に、カチオン性ポリマー、防腐剤、界面活性剤、着色染料、着色顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料の分散剤、消泡剤、レベリング剤、蛍光増白剤、粘度安定剤、pH調節剤などを添加することもできる。
【0039】
本発明におけるインク受容層の乾燥塗布量は、10〜50g/mの範囲が好ましく、12〜40g/mの範囲がより好ましく、特に15〜35g/mの範囲が好ましい。
【0040】
本発明におけるインク受容層は、インクジェット印刷前の細孔容積を0.3mL/g以上有することを特徴とする多孔質なインク受容層である。より好ましいインクジェット印刷前の細孔容積は0.8mL/g以上である。インクジェット印刷されたインクは、この細孔内に吸収されるため、インク受容層表面で溢れることが無く、高い画像品質を得ることができる。細孔容積は、例えば水銀ポロシメータ(マイクロメリテックス社製オートポアIV9500など)を用いて水銀圧入法で測定できる。
【0041】
本発明におけるインク受容層は、2層以上から構成されていてもよく、この場合、それらのインク受容層の構成はお互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0042】
本発明において、インク受容層の塗布に用いられる塗布方式としては、公知の各種塗布方式を用いることができる。例えば、スプレーガン方式、スライドビード方式、スライドカーテン方式、エクストルージョン方式、スロットダイ方式、グラビアロール方式、エアナイフ方式、ブレードコーティング方式、ロッドバーコーティング方式等がある。
【0043】
本発明のA工程でインク受容層上に設けられる熱可塑性有機粒子含有層は、インクを速やかに透過させて下層のインク受容層まで輸送する役割を担う。熱可塑性有機粒子含有層を透過したインクは、インク受容層に定着し、画像が形成される。続いてB工程において、インクジェット印刷画像が形成された後、更にC工程において熱可塑性有機粒子含有層を熱可塑性有機粒子の最低成膜温度(MFT)以上の温度で加熱し、熱可塑性有機粒子含有層を緻密化する。これにより、後述する保護層を作製するD工程において、保護層塗布液を多孔質なインク受容層内に浸透させず、保護層に気泡が混入することを防止できる。
【0044】
本発明の熱可塑性有機微粒子含有層に使用できる熱可塑性有機微粒子としては、例えばポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリメトキシスチレン、ポリクロルスチレン等のポリモノビニリデン芳香族、ポリ塩化ビニル、ポリビニルシクロヘキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン等のポリオレフィン及びポリハロオレフィン類、ポリメタクリレート、ポリクロルアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のα、β−エチレン性不飽和酸のエステル類の重合体等及びこれらの共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のオレフィン単独または共重合体あるいはこれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、NBRゴム等が挙げられ、単独あるいは混合して用いられる。上記熱可塑性有機粒子は熱可塑性有機粒子含有層の全固形分に対して、50質量%以上であることが好ましく、更に80質量%以上であることがより好ましい。
【0045】
該熱可塑性有機粒子は、例えば1種またはそれ以上のビニル単量体からエマルジョン重合して作った、スラリー状のプラスチックピグメントやラテックス、及びその乾燥物や固体状のプラスチックを各種手段によって粉砕した微粉末や微粒状に成型した粉末等として得られる。
【0046】
上述のように、インク受容層の上に設けられた熱可塑性有機粒子含有層は、インクを速やかに透過させて、下層のインク受容層まで輸送することが重要である。熱可塑性有機粒子の大きさとしては通常平均粒子径が0.01μm〜30μmのものが好ましく使用される。平均粒子径が0.01μmより小さいと、形成される空隙が小さくなりすぎてインク吸収性が低下するおそれがある。また、熱可塑性有機粒子の平均粒子径が30μmを超える場合には、熱可塑性有機粒子を加熱緻密化する際に十分な緻密性が得られず、品質が低下するおそれがある。本発明に用いる熱可塑性有機粒子の平均粒子径は、インク吸収性と保護層への気泡混入を防止する観点から、1〜20μmの範囲であることがより好ましい。
【0047】
本発明における熱可塑性有機粒子の最低成膜温度(MFT)は40℃から150℃の範囲にあることが好ましい。最低成膜温度とは熱可塑性有機粒子が結合して成膜するのに最低必要な温度を意味する。この最低成膜温度は室井宗一著「高分子ラテックスの化学」(1997年)等に記載されているように温度勾配板法により測定することができる。熱可塑性有機粒子の最低成膜温度が40℃よりも低い場合は、熱可塑性有機粒子含有層塗布液の乾燥時に熱可塑性有機粒子が成膜してしまいインクの吸収性が悪化するおそれがある。一方、熱可塑性有機粒子の最低成膜温度が150℃を超える場合には、均一な皮膜を得るために温度を最低成膜温度以上に上げると、インク受容層など他の層が熱によって変形、変質するおそれがある。皮膜形成の容易さ、皮膜の均一性、皮膜の強度を最適にするために本発明における熱可塑性有機粒子の最低成膜温度は60℃から130℃の範囲にあることがより好ましい。
【0048】
本発明において、熱可塑性有機粒子含有層には不定形多孔質シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム等の無機顔料、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ等のコロイド状無機微粒子等を適宜加えても良い。
【0049】
本発明の熱可塑性有機粒子含有層には、バインダーとして高分子化合物を含んでもよい。好ましい高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、スチレン−アクリル共重合体、無水マレイン酸重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、でんぷん、ポリビニルピリジン、ゼラチン、カゼイン、アイオノマー、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、プルラン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等である。また、非水溶性の高分子化合物としては、例えば、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル類、ブチラール樹脂などのポリアセタール類、ポリアクリル酸エチルなどのポリアクリル酸エステル類等のラテックス類である。好ましくは、ポリビニルピロリドンである。これらの高分子化合物は、単独乃至複数を併用してもよく、その含有量は、熱可塑性有機粒子に対して1〜20質量%程度で、好ましくは1〜10質量%である。バインダーの含有量が多くなりすぎると、耐水性が著しく低下するおそれがあるので好ましくない。好ましい水溶性バインダーとしては、ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0050】
本発明において、熱可塑性有機粒子含有層の塗布量としては、固形分として0.5〜50g/mが好ましい。熱可塑性有機粒子含有層の塗布量が0.5g/m未満では加熱緻密化した際の皮膜が十分でなく、保護層に気泡が混入するおそれがある。また、50g/mを超えて多い場合には、インク吸収性が悪化するばかりでなく皮膜にひびが入りやすくなり、保護層に気泡が混入しやすくなる。インク吸収性や気泡の混入を防止する観点から、熱可塑性有機粒子含有層の塗布量は1.0〜20g/m、更には1.0〜10g/mとすることがより好ましい。
【0051】
熱可塑性有機粒子含有層を塗工する方法としては、スプレーガン、ロールコーター、フローコーター、カーテンコーター等、インク受容層作製に用いられる塗布方式と同様の方式を用いて行うことができるが、熱可塑性有機粒子含有層塗布液の湿分塗布量は、インク受容層の細孔容量の90容量%以下とすることが好ましい。これにより、多孔質層からの気泡の影響を低減し、熱可塑性有機粒子含有層を均一に設けることができる。また、熱可塑性有機微粒子含有層を塗設する際の乾燥温度は、前記熱可塑性有機粒子の最低成膜温度よりも低いことが好ましい。
【0052】
次に、本発明のB工程で所望の画像をインクジェット印刷することによって、インクジェット印刷画像を形成する。ここで、インクジェット印刷をするためのインクジェット装置としては、特に限定されるものではなく、通常のピエゾ方式やサーマル方式等を適宜使用できる。
【0053】
前記インクジェット印刷画像は、インク受容層の全面に形成されることもあれば、一部にのみ形成される場合もある。
【0054】
インクジェット印刷のためのインクとしては、媒質として水系・溶剤系、色材として染料・顔料等の分類があるが、いずれも適宜使用できる。耐候性等の耐久性の観点から、色材としては顔料が好ましい。また、環境負荷低減の観点から、水系媒質を選択することが好ましい。
【0055】
本発明において好ましく用いられる水性顔料インクとしては、例えば主として色材顔料、水溶性有機溶剤、及び水を含むものである。色材顔料は、カーボンブラック等の無機顔料、フタロシアニン等の有機顔料、金属微粒子、酸化鉄等の金属酸化物、金属化合物等、等を用いることができる。水溶性有機溶剤としては、メチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類、ケトンアルコール類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール類、エチレングリコール等のアルキレン基が炭素数2〜6のアルキレングリコール類、グリセリン、多価アルコールの低級アルキルエーテル類等が挙げられる。その他の添加剤として可溶化剤、粘度調整剤、界面活性剤、pH調整剤、防カビ剤等が適宜使用可能である。
【0056】
また、本発明の好ましい様態である平均二次粒子径が500nm以下の無機微粒子を含有するインク受容層では、細孔径分布が数十から数百nmである細孔が形成される。この微細な細孔径により、顔料インク色材をインク受容層の表層付近に定着させることができ、優れたインク吸収性と高い画像品質が共に実現される。
【0057】
本発明はC工程において、熱可塑性有機粒子含有層を、印字後熱可塑性有機粒子の最低成膜温度以上の温度で加熱により緻密化する。これにより、更に上層として作製する保護層への気泡混入を抑止することができる。加熱手段としては特に制限はないが、外壁材は表面に凹凸を有する場合が多いため、熱ローラー等の圧着方式よりも、熱風を直接当てる方法が好ましく用いられる。
【0058】
続いて、D工程において熱可塑性有機粒子含有層上に保護層を作製する。本発明における保護層は、溶剤系塗料・水性塗料いずれを用いても作製することができる。溶剤系塗料には、非水エマルション型シリコン変性アクリル樹脂を主成分としたシリコンウレタン塗料や、2液反応硬化形エポキシ・シリコン変性ポリウレタン樹脂塗料等が用いられるが、環境保護の観点から水性塗料が好ましく用いられる。
【0059】
上記水性塗料としては、アクリル系エマルションやアクリルシリコン系エマルションをベースにした樹脂塗料を用いるのが耐久性の面等で好ましい。水性塗料には、アクリルビーズ、マイカ等の骨材を配合すると意匠性を向上させることもできる。
また、保護層塗布液の塗布は、スプレーガン、ロールコーター、フローコーター、カーテンコーター等、インク受容層作製に用いられる塗布方式と同様の方式を用いて行うことができる。
【0060】
本発明の化粧建築板の製造方法において、耐候性等の耐久性を向上させるために、前記保護層の表面に無機質塗料層を作製する工程を設けてもよい。無機質塗料層は、SiO骨格で構成された塗膜で、例えば、特開平9−249822号公報に記載された無機コーティング剤、すなわち加水分解性オルガノシランを有機溶媒または水に分散されたコロイダルシリカ中で部分加水分解してなる、オルガノシランのシリカ分散オリゴマー溶液等で作製することができる。無機質塗料層には、更に紫外線吸収剤や艶消し剤等を含有させることもできる。
【0061】
更に、本発明においては、前記無機質塗料層の表面に光触媒塗料層を作製する工程を設けてもよい。光触媒塗料層は、超親水性を有しており、化粧建築板の防汚性を向上させるために有効である。化粧建築板の表面に付着した有機物などの汚れは、光触媒塗料層の光触媒作用によって分解されると共に、光触媒塗料層が超親水性を発現することにより、分解した汚れを雨水等によって容易に除去することができるので、化粧建築板の防汚性を高く得ることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。なお、部及び%は、特に断りの無い限り質量部及び質量%を示す。
【0063】
《化粧建築板1の作製》
以下に示す方法で化粧建築板1を作製した。
<基材1の作製>
セメント基板上に、下記組成のシーラー塗布液1をスプレー塗布装置を用いて塗布し、120℃の熱風を吹き付けて乾燥し、基材1を得た。シーラー層塗布液の塗布量は、乾燥固形分換算で20g/mであった。
【0064】
<シーラー層塗布液1>
アクリルエマルション分散液 (樹脂固形分として) 100部
固形分濃度が30%になるように水で調整した。
【0065】
<インク受容層の作製>
上記基材1の表面に、下記組成のインク受容層塗布液1をスプレー塗布装置を用いて塗布し、40℃の熱風を吹き付けて乾燥した。インク受容層塗布液の乾燥塗布量は25g/mであった。また、インク受容層の細孔容量は、水銀圧入式細孔分布測定装置で測定し、1.0mL/gであった。
【0066】
<シリカ分散液1の作製>
水にジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(分子量9,000)4部と気相法シリカ(平均一次粒子径7nm、比表面積300m/g)100部を添加し予備分散液を作製した後、高圧ホモジナイザーで3パス処理して、固形分濃度20%のシリカ分散液を製造した。平均二次粒子径は、粒度分布計(堀場製作所製、LA920)を用いて測定すると130nmであった。
【0067】
<インク受容層塗布液1>
シリカ分散液1 (シリカ固形分として) 100部
ポリビニルアルコール (ケン化度88%、平均重合度3500) 21部
ホウ酸 4部
固形分濃度が12%になるように水で調整した。全固形分に対する無機微粒子量は80%である。
【0068】
<熱可塑性有機粒子含有層の作製>
前記インク受容層の表面に、下記組成の熱可塑性有機粒子分散液1をスプレー塗布装置を用いて塗布し、40℃の熱風を吹き付けて乾燥した。熱可塑性有機粒子含有層の湿分塗布量は10mL/m(前述のインク受容層の乾燥固形分と細孔容積の積で算出される全細孔容積(25mL/m)の40%)とした。乾燥塗布量は3.0g/mとなった。
【0069】
<熱可塑性有機粒子含有層塗布液1>
エチレン−酢酸ビニル共重合体分散液1 (固形分として) 100部
(MFT:90℃、平均粒子径:2μm)
固形分濃度が30%になるように水で調整した。
【0070】
<インクジェット印刷画像の形成>
インクジェット印刷画像は、市販のインクジェット装置 MNP74000(マスターマインド社製、ピエゾ方式)を用い、インク受容層の表面に水性顔料インクをインクジェット印刷し、40℃の熱風を3分間吹き付けて乾燥することによって形成した。印刷した画像は、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、ブルー、グリーン、ブラックの矩形画像を用いた。
【0071】
ここで、水性顔料インクとしては、水性顔料分散体を50%、ジエチレングリコールを10%、グリセリンを20%、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを10%、水を10%含有するものを用いた。上記水性顔料分散体としては、顔料と水溶性樹脂(アクリル酸共重合体)と水とを、顔料/水溶性樹脂/水=10/4/86となるように混合したものを用いた。なお、上記顔料としては、シアン(フタロシアニンブルー)、マゼンタ(ベンガラ)、イエロー(黄色酸化鉄)、ブラック(カーボンブラック)を用い、各色の顔料ごとに水性インクを調製した。
【0072】
続いて、上記印刷画像を形成した化粧建築板1の表面に、120℃の熱風を5分間吹き付けることにより、熱可塑性有機粒子含有層を加熱緻密化した。
【0073】
<保護層の作製>
保護層は、インクジェット印刷層の表面に下記の保護層塗布液1をスプレー塗布した後120℃の熱風を5分間吹き付けて乾燥することによって作製した。保護層の塗布量は、乾燥固形分換算で20g/mであった。
【0074】
<保護層塗布液1>
アクリルエマルション分散液 (樹脂固形分として) 100部
固形分濃度が30%になるように水で調整した。
【0075】
《化粧建築板2の作製》
上記化粧建築板1のインク受容層塗布液1を、下記組成のインク受容層塗布液2に変更した以外は化粧建築板1と同様にして作製した。インク受容層の細孔容量は、水銀圧入式細孔分布測定装置で測定し、0.5mL/gであった。また、熱可塑性有機粒子含有層の湿分塗布量は10mL/m(前述のインク受容層の乾燥固形分と細孔容積の積で算出される全細孔容積(12.5mL/m)の80%)とした。乾燥塗布量は3.0g/mとなった。
【0076】
<インク受容層塗布液2>
シリカ分散液1 (シリカ固形分として) 100部
ポリビニルアルコール (ケン化度88%、平均重合度3500) 62部
ホウ酸 4部
固形分濃度が12%になるように水で調整した。全固形分に対する無機微粒子量は60%である。
【0077】
《化粧建築板3の作製》
上記化粧建築板1のインク受容層塗布液1を、下記組成のインク受容層塗布液3に変更した以外は化粧建築板1と同様にして作製した。インク受容層の細孔容量は、水銀圧入式細孔分布測定装置で測定し、0.1mL/gであった。また、熱可塑性有機粒子含有層の湿分塗布量は10mL/m(前述のインク受容層の乾燥固形分と細孔容積の積で算出される全細孔容積(2.5mL/m)の400%)とした。乾燥塗布量は3.0g/mとなった。
【0078】
<インク受容層塗布液3>
シリカ分散液1 (シリカ固形分として) 100部
ポリビニルアルコール (ケン化度88%、平均重合度3500) 146部
ホウ酸 4部
固形分濃度が12%になるように水で調整した。全固形分に対する無機微粒子量は40%である。
【0079】
《化粧建築板4の作製》
上記化粧建築板1のインク受容層塗布液1を、下記組成のインク受容層塗布液4に変更した以外は化粧建築板1と同様にして作製した。インク受容層の細孔容量は、水銀圧入式細孔分布測定装置で測定し、0mL/gであった。また、熱可塑性有機粒子含有層の湿分塗布量は10mL/m、乾燥塗布量は3.0g/mとなった。
【0080】
<インク受容層塗布液4>
ポリビニルアルコール (ケン化度88%、平均重合度3500) 100部
固形分濃度が12%になるように水で調整した。全固形分に対する無機微粒子量は0%である。
【0081】
《化粧建築板5の作製》
上記化粧建築板1のインク受容層塗布液1を、下記組成のインク受容層塗布液5に変更した以外は化粧建築板1と同様にして作製した。インク受容層の細孔容量は、水銀圧入式細孔分布測定装置で測定し、1.1mL/gであった。また、熱可塑性有機粒子含有層の湿分塗布量は10mL/m(前述のインク受容層の乾燥固形分と細孔容積の積で算出される全細孔容積(27.5mL/m)の36%)とした。乾燥塗布量は3.0g/mとなった。
【0082】
<シリカ分散液2>
水にジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(分子量9,000)4部と気相法シリカ(平均一次粒子径7nm、比表面積300m/g)100部を添加し予備分散液を作製した後、高圧ホモジナイザーで2パス処理して、固形分濃度20%のシリカ分散液2を製造した。平均二次粒子径は、粒度分布計(堀場製作所製、LA920)を用いて測定すると200nmであった。
【0083】
<インク受容層塗布液5>
シリカ分散液2 (シリカ固形分として) 100部
ポリビニルアルコール (ケン化度88%、平均重合度3500) 21部
ホウ酸 4部
固形分濃度が12%になるように水で調整した。全固形分に対する無機微粒子量は80%である。
【0084】
《化粧建築板6の作製》
上記化粧建築板1のインク受容層塗布液1を、下記組成のインク受容層塗布液6に変更した以外は化粧建築板1と同様にして作製した。インク受容層の細孔容量は、水銀圧入式細孔分布測定装置で測定し、1.2mL/gであった。また、熱可塑性有機粒子含有層の湿分塗布量は10mL/m(前述のインク受容層の乾燥固形分と細孔容積の積で算出される全細孔容積(30mL/m)の33%)とした。乾燥塗布量は3.0g/mとなった。
【0085】
<シリカ分散液3の作製>
水にジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(分子量9,000)4部と気相法シリカ(平均一次粒子径7nm、比表面積300m/g)100部を添加し予備分散液を作製した後、高圧ホモジナイザーで1パス処理して、固形分濃度20%のシリカ分散液を製造した。平均二次粒子径は、粒度分布計(堀場製作所製、LA920)を用いて測定すると800nmであった。
【0086】
<インク受容層塗布液6>
シリカ分散液3 (シリカ固形分として) 100部
ポリビニルアルコール (ケン化度88%、平均重合度3500) 21部
ホウ酸 4部
固形分濃度が12%になるように水で調整した。
【0087】
《化粧建築板7の作製》
上記化粧建築板1のインク受容層塗布液1を、下記組成のインク受容層塗布液7に変更した以外は化粧建築板1と同様にして作製した。インク受容層の細孔容量は、水銀圧入式細孔分布測定装置で測定し、0.9mL/gであった。また、熱可塑性有機粒子含有層の湿分塗布量は10mL/m(前述のインク受容層の乾燥固形分と細孔容積の積で算出される全細孔容積(22.5mL/m)の44%)とした。乾燥塗布量は3.0g/mとなった。
【0088】
<シリカ分散液4>
水にジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(分子量9,000)4部と沈降法シリカ(吸油量200mL/100g、平均一次粒子径16nm、平均二次粒子径9μm)100部を添加し、のこぎり歯状ブレード型分散機(ブレード周速30m/秒)を使用して予備分散液を作製した。次に得られた予備分散液をビーズミルで60分間処理して、固形分濃度30%のシリカ分散液4を得た。平均二次粒子径は160nmであった。
【0089】
<インク受容層塗布液7>
シリカ分散液4 (シリカ固形分として) 100部
ポリビニルアルコール (ケン化度88%、平均重合度3500) 21部
ホウ酸 4部
固形分濃度が12%になるように水で調整した。全固形分に対する無機微粒子量は80%である。
【0090】
《化粧建築板8の作製》
上記化粧建築板1のインク受容層塗布液1を、下記組成のインク受容層塗布液8に変更した以外は化粧建築板1と同様にして作製した。インク受容層の細孔容量は、水銀圧入式細孔分布測定装置で測定し、0.8mL/gであった。また、熱可塑性有機粒子含有層の湿分塗布量は10mL/m(前述のインク受容層の乾燥固形分と細孔容積の積で算出される全細孔容積(20mL/m)の50%)とした。乾燥塗布量は3.0g/mとなった。
【0091】
<アルミナ水和物分散液1の作製>
水に硝酸(2.5部)とアルミナ水和物(擬ベーマイト、一次粒子径14nm)を添加し、のこぎり歯状ブレード型分散機を用いて、固形分濃度30%のアルミナ水和物分散液1を作製した。平均二次粒子径は160nmであった。
【0092】
<インク受容層塗布液8>
アルミナ水和物分散液1 (アルミナ固形分として) 100部
ポリビニルアルコール (ケン化度88%、平均重合度3500) 10部
ホウ酸 0.6部
固形分濃度が12%になるように水で調整した。全固形分に対する無機微粒子量は90%である。
【0093】
《化粧建築板9の作製》
上記化粧建築板1のインク受容層塗布液1を、下記組成のインク受容層塗布液9に変更した以外は化粧建築板1と同様にして作製した。インク受容層の細孔容量は、水銀圧入式細孔分布測定装置で測定し、0.6mL/gであった。また、熱可塑性有機粒子含有層の湿分塗布量は10mL/m(前述のインク受容層の乾燥固形分と細孔容積の積で算出される全細孔容積(15mL/m)の67%)とした。乾燥塗布量は3.0g/mとなった。
【0094】
<シリカ分散液5>
水にジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(分子量9,000)4部と沈降法シリカ(吸油量200mL/100g、平均一次粒子径16nm、平均二次粒子径9μm)100部を添加し、のこぎり歯状ブレード型分散機(ブレード周速30m/秒)を使用して予備分散液を作製した。次に得られた予備分散液を、ビーズミルで10分間処理して、固形分濃度30%のシリカ分散液5を得た。平均二次粒子径は2000nmであった。
【0095】
<インク受容層塗布液9>
シリカ分散液5 (シリカ固形分として) 100部
アクリル樹脂 (樹脂固形分として) 150部
固形分濃度が12%になるように水で調整した。全固形分に対する無機微粒子量は40%である。
【0096】
《化粧建築板10の作製》
上記化粧建築板1の作製において、熱可塑性有機粒子含有層塗布液1の代わりに熱可塑性有機粒子含有層塗布液2を用いた以外は化粧建築板1と同様にして作製した。
【0097】
<熱可塑性有機粒子含有層塗布液2>
エチレン−酢酸ビニル共重合体分散液2 (固形分として) 100部
(MFT:90℃、平均粒子径:0.1μm)
固形分濃度が30%になるように水で調整した。
【0098】
《化粧建築板11の作製》
上記化粧建築板1の作製において、熱可塑性有機粒子含有層塗布液1の代わりに熱可塑性有機粒子含有層塗布液3を用いた以外は化粧建築板1と同様にして作製した。
【0099】
<熱可塑性有機粒子含有層塗布液3>
エチレン−酢酸ビニル共重合体分散液3 (固形分として) 100部
(MFT:90℃、平均粒子径:10μm)
固形分濃度が30%になるように水で調整した。
【0100】
《化粧建築板12の作製》
上記化粧建築板1の作製において、熱可塑性有機粒子含有層塗布液1の代わりに熱可塑性有機粒子含有層塗布液4を用いた以外は化粧建築板1と同様にして作製した。
【0101】
<熱可塑性有機粒子含有層塗布液4>
エチレン−酢酸ビニル共重合体分散液4 (固形分として) 100部
(MFT:90℃、平均粒子径:30μm)
固形分濃度が30%になるように水で調整した。
【0102】
《化粧建築板13の作製》
上記化粧建築板1の作製において、熱可塑性有機粒子含有層塗布液1の代わりに熱可塑性有機粒子含有層塗布液5を用いた以外は化粧建築板1と同様にして作製した。
【0103】
<熱可塑性有機粒子含有層塗布液5>
アクリル酸−メタクリル酸共重合体分散液1 (固形分として) 100部
(MFT:70℃、平均粒子径:1μm)
固形分濃度が30%になるように水で調整した。
【0104】
《化粧建築板14の作製》
上記化粧建築板13の作製において、熱可塑性有機粒子含有層塗布液5の乾燥塗布量を5.0g/mに変更した以外は化粧建築板13と同様にして作製した。熱可塑性樹脂層の湿分塗布量は16.7mL/m(インク受容層の固形分塗布量と細孔容積の積で算出される全細孔容積(25mL/m)の66.7%)とした。
【0105】
《化粧建築板15の作製》
上記化粧建築板1の作製において、熱可塑性有機粒子含有層塗布液1の代わりに熱可塑性有機粒子含有層塗布液6を用いた以外は化粧建築板1と同様にして作製した。
【0106】
<熱可塑性有機粒子含有層塗布液6>
スチレン−メタクリル酸共重合体分散液1 (固形分として) 100部
(MFT:140℃、平均粒子径:1μm)
固形分濃度が30%になるように水で調整した。
【0107】
《化粧建築板16の作製》
上記化粧建築板1の作製において、熱可塑性有機粒子含有層を加熱緻密化する際の熱風の温度を、80℃とした以外は化粧建築板1と同様にして作製した。
【0108】
《化粧建築板17の作製》
上記化粧建築板1の作製において、熱可塑性有機粒子含有層の作製を行わず、あわせて熱可塑性有機粒子含有層の緻密化処理も行わないこととした以外は化粧建築板1と同様にして作製した。
【0109】
上記化粧建築板1〜17について、下記の評価方法に準じて評価した結果を表1に示す。
【0110】
<吸収性評価>
インクジェット印刷層の矩形画像を目視観察し、下記の基準で評価した。
○:インク溢れが見られない。
△:インク溢れがわずかに見られるが、実用上問題ないレベル。
×:インク溢れによる画像の乱れが見られる。
【0111】
<画像品質評価>
インクジェット印刷層の矩形画像を目視観察し、下記の基準で評価した。
○:鮮明度の高い画像と高い発色性が得られている。
△:発色性がやや低いが、実用上問題ないレベル。
×:インク溢れやムラ等により画像の鮮明度が低く、また目的の発色性が得られていない。
【0112】
<保護層表面の気泡故障評価>
保護層表面の気泡による故障を目視観察し、下記の基準で評価した。
○:気泡が存在せず、良好。
△:気泡がわずかに観察されるが、実用上問題ないレベル。
×:気泡が観察され、品質に問題がある。
【0113】
【表1】

【0114】
上記結果から明らかなように、本発明の製造方法によれば、インクジェット印刷におけるインク吸収性に優れ、画像品質が高く、保護層に気泡混入の故障が無い化粧建築板が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、無機微粒子を含有し細孔容積を0.3mL/g以上有するインク受容層とその上に熱可塑性有機粒子含有層を設けるA工程、インクジェット印刷画像を形成するB工程、前記熱可塑性有機粒子の最低成膜温度以上の温度で加熱することにより熱可塑性有機粒子含有層を緻密化するC工程、および緻密化した熱可塑性有機粒子含有層上に保護層を設けるD工程を、少なくとも備える化粧建築板の製造方法。
【請求項2】
前記インク受容層が含有する無機微粒子が、平均二次粒子径が500nm以下の無機微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の化粧建築板の製造方法。

【公開番号】特開2011−179290(P2011−179290A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47269(P2010−47269)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】