説明

化粧建築板及びその模様形成方法

【課題】インクジェット塗装を利用した高意匠模様を有する化粧建築板を提供する。
【解決手段】基材2の一面側には複数の傾斜面3が形成されて傾斜方向が同一な複数の傾斜面3にて構成される群が複数形成されると共に各群間の傾斜面3の傾斜方向が互いに異なっている。インクジェット塗装により少なくとも一つの群を構成する傾斜面3に形成されている色柄パターンが、他の群を構成する傾斜面3とは異なっている。傾斜面3の面積や幅寸法が小さい場合でも各群ごとに傾斜面3にインクジェット塗装にて異なる色柄パターンが正確且つ容易に形成され、この化粧建築板1を各傾斜面3の傾斜方向からそれぞれ観察すると化粧建築板1に異なる色柄パターンの模様が現れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット塗装が施された化粧建築板及びこの化粧建築板への模様形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外壁材、屋根材、塀材などの建築用外装材には、セメント系の化粧建築板が広く用いられている。このような化粧建築板は、建物の外観の形成を担うため、各種の意匠を実現する表面化粧について技術的な検討が加えられている。たとえばセメント系成形材料を抄造、押出成形、注型成形等により成形して得られる湿潤シートを養生硬化させ、得られる無機質基材に塗装を施すことが一般的に行われている。
【0003】
塗装の一方式として、最近、コンベア上で搬送される無機質基材の表面に向けて、この無機質基材の搬送速度と同期させてインクジェットノズルヘッドより塗料を噴射するインクジェット塗装が考えられている。このようなインクジェット塗装は、これまで一般的に用いられてきた塗装ロール等に比べ、局所的なしかも位置制御された塗装が可能である。したがって、濃淡表現などにより自然な風合いの高意匠塗装された化粧建築板が製造可能であるという利点がある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−17007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、近年の建材に対する更なる高意匠化への要請により、単に基材に対してインクジェット塗装を施すだけでなく、更に変化に富んだ高意匠模様を形成することが求められるようになってきている。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、インクジェット塗装を利用した高意匠模様を有する化粧建築板及びその模様形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る化粧建築板1は、基材2の一面側にインクジェット塗装が施された化粧建築板1であって、前記基材2の一面側には複数の傾斜面3が形成されて傾斜方向が同一な複数の傾斜面3にて構成される群が複数形成されると共に各群間の傾斜面3の傾斜方向が互いに異なっており、インクジェット塗装により少なくとも一つの群を構成する傾斜面3に形成されている色柄パターンが、他の群を構成する傾斜面3とは異なっていることを特徴とする。これにより、傾斜面3の面積や幅寸法が小さい場合でも各群ごとに傾斜面3にインクジェット塗装にて異なる色柄パターンが正確且つ容易に形成され、この化粧建築板1を各傾斜面3の傾斜方向からそれぞれ観察すると化粧建築板1に異なる色柄パターンの模様が現れる。
【0007】
上記基材2の一面側の少なくとも一部の領域4においては、傾斜面3が各群ごとに異なる色に塗装されていると共に、同一の群中の傾斜面3は同一又は近似する色に塗装されているようにすることが好ましい。この場合、化粧建築板1の前記領域4に現れる色が、化粧建築板1を見る方向が変化するに従って明確に変化し、意匠模様の変化が明確に認識できる。
【0008】
また、基材2の一面側に複数条のV字溝5を平行並列に形成して前記V字溝5の内面にて傾斜面3を形成することも好ましい。この場合、基材2の両側の二方向それぞれから化粧建築板1を観察した場合に異なる色柄パターンが現れ、例えばこの化粧建築板1を外壁等に適用すると人がこの化粧建築板1の前を通過する際にそれに応じて色柄パターンの変化が現れ、変化に富んだ外観が得られる。
【0009】
また、基材2の一面側に角錐状の凸部6を複数形成して前記凸部6の表面の各面にて傾斜面3を形成しても良い。この場合、異なる四方向のうち少なくとも一方向と他の方向とから化粧建築板1を観察した場合に異なる色柄パターンが現れ、変化に富んだ外観が得られる。
【0010】
本発明に係る化粧建築板1の模様形成方法は、基材2の一面側に複数の傾斜面3を形成することにより、傾斜方向が同一な複数の傾斜面3にて構成される群を複数形成すると共に各群間の傾斜面3の傾斜方向を互いに異ならせ、この基材2の前記一面側にインクジェット塗装を施すことにより、少なくとも一つの群を構成する傾斜面3に、他の群を構成する傾斜面3とは異なる色柄パターンを形成することを特徴とする。これにより、傾斜面3の面積や幅寸法が小さい場合でも各群ごとに傾斜面3にインクジェット塗装にて異なる色柄パターンを正確且つ容易に形成することができ、得られる化粧建築板1を各傾斜面3の傾斜方向からそれぞれ観察すると化粧建築板1に異なる色柄パターンの模様が現れる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、化粧建築板を観察する方向によってこの化粧建築板に異なる色柄パターンが現れて、変化に富んだ意匠模様を付与することができ、また傾斜面の寸法が小さくても正確かつ容易に各群に異なる模様が形成されて、各傾斜面側から観察した際に現れる模様の違和感を低減することができ、化粧建築板の高意匠化を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0013】
化粧建築板1の下地となる基材2としては、適宜のものを用いることができるが、例えばセメント系の無機質板を用いることができる。無機質板の作製には、セメントと補強繊維を主成分とする湿潤シート(グリーンシート)を用いることができる。この湿潤シートは、セメント系の水性スラリーを原料組成物として用いて、長網式、丸網式の各種の抄造法により抄造することができるが、押出成形等の他の適宜の手法も採用することができる。原料組成物としては、例えば水硬性のセメント成分が30〜95質量%、シリカ、珪石粉、フライアッシュ等の充填材が2〜60質量%、パルプ等の補強繊維が3〜10質量%を占める固形分からなるものとし、この固形分100質量部に対し、水50〜2000質量部程度の割合としたスラリーを用いることができる。尚、セメント成分は、普通ポルトランドセメントをはじめ、高炉セメント等の、適宜に組成調整されたものを用いることができる。補強繊維のパルプは、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、古紙パルプ、あるいはこれらのうち二種以上の混合物等を用いることができる。この湿潤シートを養生硬化することにより、基材2を得ることができる。
【0014】
上記湿潤シートの養生硬化は適宜の手法で行うことができるが、オートクレーブ養生をすることが望ましく、その際の温度としては140℃以上とすることが好適である。また、実際的には、養生は、オートクレーブ養生と、これに先行しての促進前養生、つまり加温のために水蒸気が投入される前養生との二段階での養生であることが望ましい。これによって、基材2の強度が向上し、組織と性能の均一化が図られることになる。
【0015】
この養生時には、養生前の湿潤シートの表面にシーラーを塗布することが望ましい。このシーラーを塗布することにより、養生時にエフロレッセンスが発生することを防止することができ、更にシーラーの塗膜が耐透水性を発揮することで、基材2の耐透水性を向上することができる。
【0016】
シーラーは特に制限されないが、例えばアクリル系、酢酸ビニル系、エポキシ系、塩化ゴム系、ウレタン系、シリコン系、フッ素系等の水性樹脂エマルションを用いることができる。
【0017】
また、このようなシーラー中には、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、顔林、ベントナイト、セリサイト、ドロマイト、タルク、クレー、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、珪藻土等の無機粒子を混合することができる。
【0018】
そして、このようなシーラーを湿潤シートの表面に塗布し、加熱成膜することでシーラーの塗膜を形成することができる。
【0019】
このようなシーラーの塗装は、養生前に行うものであるが、上記のように促進前養生を行う場合には促進前養生後にシーラーを塗布し、次いでオートクレーブ養生を行うことが好ましく、これにより基材2の耐凍害性や寸法安定性を向上することができる。
【0020】
このような養生硬化により得られた基材2には、必要に応じて乾燥処理や切削加工が施される。
【0021】
この基材2の、インクジェット塗装が施される一面側には、複数の傾斜面3を形成する。このとき、傾斜方向が同一な複数の傾斜面3にて構成される群を複数形成し、各群間では傾斜面3の傾斜方向が互いに異なるようにする。この傾斜面3は、例えば湿潤シートをプレス成形や押出成形等により形成する際に同時に形成することができる。各群を構成する傾斜面3は、それぞれ基材2の一面側の全面に亘って分散するように形成することが好ましく、また基材2を一の群を構成する傾斜面3の傾斜方向側から斜め方向に観察した場合に他の群の傾斜面3が遮蔽されて見えなくなるように形成することが好ましい。
【0022】
図1(a)に示す例では、基材2の一面側の全面に亘り、複数条の平行並列なV字溝5を隣接して形成することにより、断面三角波状に形成している。この場合、基材2の一面側には全面に亘って、互いに傾斜方向が異なる傾斜面3a,3bが交互に隣接して設けられることとなり、このとき、V字溝5の長手方向と直交する方向の一方向に向けて傾斜する傾斜面3aの群と、他方向に向けて傾斜する傾斜面3bの群とが形成される。
【0023】
また、図1(b)に示す例では、基材2の一面側に四角錐状の複数の凸部6を縦横複数列に亘って隣接させて設けている。この場合、基材2の一面側には、一つの凸部6につき、傾斜方向の異なる四個の傾斜面3が形成され、これが複数形成されることにより傾斜方向が同一な傾斜面3からなる四つの群が形成される。
【0024】
また、この他適宜の傾斜面3を形成することができる。
【0025】
傾斜面3の寸法は適宜設定されるが、例えば図1(a)に示す例では傾斜面3の幅寸法が3〜50mmの範囲になるようにし、また図1(b)に示す例では傾斜面3の一辺の寸法が3〜50mmの範囲になるようにすることができる。ここで、傾斜面3の塗装はインクジェット塗装にてなされるため、この寸法が小さくても正確且つ容易な塗装が為し得る。
【0026】
このようにして得られた基材2におけるシーラーの塗膜の表面に、必要に応じてインク受理層(インク受容層)を形成する。インク受理層はインクジェット塗装時に塗布されるインクを滲みなく定着させる機能を有し、インクを吸収する性質を有するもの、例えば吸水性を有する多孔質の層を形成するものであるが、このようなインク受理層を形成するための組成物(インク受理層形成組成物)としては、水性のものを用いることが好ましい。
【0027】
上記インク受理層形成組成物としては、アクリル系エマルションをベースにしたアクリル樹脂塗料や、アクリルシリコン系エマルションをベースにしたアクリルシリコン樹脂塗料を用いることができる。インク受理層形成組成物には、体質顔料と吸湿性樹脂のうちの少なくとも一方を配合しておくのが好ましい。これにより、インクの定着性を向上させることができる上に、後で水性塗料でクリアー層を形成する際に滲みを防止することができると共に、発色性も向上させることができるものである。ここで、体質顔料としては、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、多孔質シリカ、珪藻土等を用いることができ、吸湿性樹脂としては、酢酸ビニル、ウレタン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリビニルアルコール等のインキ吸収性ポリマー等を用いることができる。また、インク受理層をインク受理層形成組成物で形成するにあたっては、基材2の表面にインク受理層形成組成物を塗布量30〜200g/m・wetで塗布するのが好ましい。なお、インク受理層形成組成物の塗布は、スプレーガン、ロールコーター、フローコーター、カーテンコーター等を用いて行うことができる。
【0028】
また、インク受理層形成組成物中の顔料は、上述した体質顔料のほか、着色顔料も意味する。着色顔料としては、酸化チタン、弁柄、オーカー、炭酸カルシウム、複合金属酸化物等の無機顔料や、カーボンブラック、キナクリドン、ナフトールレッド、シアニンブルー、シアニングリーン、ハンザイエロー、群青等の有機顔料を用いることができる。顔料は一種のみを用いたり、二種以上を組み合わせて用いたりすることができる。化粧化粧建築板1の耐候性を向上させることができることから、顔料の中でも無機顔料を用いるのが好ましい。顔料の粒径は、特に限定されるものではないが、平均粒径で0.01〜4μm程度が好ましい。また、顔料の分散は通常の方法で行うことができ、また、その際に分散剤、分散助剤、増粘剤、カップリング剤等を使用することが可能である。
【0029】
このような水性のインク受理層形成組成物を用いると、インクジェット塗装において水性インクを用いる場合の塗装模様の発色性が高くなる。
【0030】
上記のようなインク受理層形成組成物を、シーラーが設けられた基材2の表面に例えばスプレーコート、カーテンコート、浸漬、ワイヤーバーコート、アプリケーターコート、スピンコート、ロールコート、電着コート、刷毛塗り等の適宜の手法にて塗布し、加熱硬化することでインク受理層を形成することができる。
【0031】
インク受理層の形成後、このインク受理層の表面にインクジェット塗装を施すが、このとき、それぞれ複数の傾斜面3からなる複数の各群について、少なくとも一つの群を構成する傾斜面3が、他の群を構成する傾斜面3とは異なる色柄パターンが形成されように塗装する。例えば図1(a)に示す例では、異なる二方向に向く二種類の傾斜面3a,3bのうち、V字溝5と直交する方向の一方向に向けて傾斜する複数の傾斜面3aにて構成される群におけるこの傾斜面3aと、他方向に向けて傾斜する複数の傾斜面3bにて構成される群におけるこの傾斜面3bとに、それぞれ異なる色柄パターンを塗装するものである。また、図1(b)に示す例では異なる四方向に向く四種類の傾斜面3のうち、同方向に向く傾斜面3にて構成される少なくとも一つの群に、他の群とは異なる色柄パターンを塗装するものであり、このとき四つの群全てにそれぞれ異なる色柄パターンを形成しても良い。このようにすると、得られる化粧建築板1を、一の群の傾斜面3側から観察した場合に現れる色柄パターンと、他の群の傾斜面3側から観察した場合に現れる色柄パターンとが異なるものとなり、看者が見る方向によって異なる色柄パターンが現れることとなって、変化に富んだ意匠模様が得られる。
【0032】
異なる色柄パターンの形成方法としては、適宜のものを挙げることができるが、絵柄が異なる色柄パターンをそれぞれ形成するほか、基材2の一面側の全体に同一の絵柄を形成すると共にこの基材2の少なくとも一部の領域4において傾斜面3を各群ごとに異なる色に塗装することもできる。この場合、得られる化粧建築板1をどの方向から見ても同一の絵柄が現れて統一した外観が得られるが、見る角度が異なると化粧建築板1の少なくとも一部の領域4の色が異なることとなって変化に富んだ外観が得られる。
【0033】
具体的な例を挙げると、図2(a)に示す例では、図2(b)に拡大して示すように基材2に平行並列な縦方向の複数条のV字溝5を形成した場合において、基材2にインクジェット塗装により人物の胸像を示す絵柄16を形成した化粧建築板1を示している。ここで、横方向に並ぶ複数の傾斜面3のうち、図面の左方向に向けて下り傾斜する傾斜面3aの群をA群、右方向に向けて下り傾斜する傾斜面3bの群をB群とする。化粧建築板1に表されている模様のうち人物を示す絵柄16では、A群とB群とは共に同一の色が塗装されている。また人物を除く背景は二つの領域4(4a,4b)に分割され、一方の領域4aと他方の領域4bではA群は異なる色に塗装され、B群の色も一方の領域4aと他方の領域4bとでは異なる色に塗装されている。また各領域4a,4bそれぞれではA群とB群とが互いに異なる色に塗装されている。すなわち例えば一方の領域4aではA群を赤系統の色、B群の色を青系統の色に塗装し、他方の領域4bではA群を青系統の色、B群を赤系統の色に塗装する。
【0034】
このようにすると、化粧建築板1を斜め左斜め方向から見た場合は図2(c)に示すようにB群の傾斜面3bは隠れて見えなくなってA群の傾斜面3aのみが観察され、また右斜め方向から見た場合は図2(d)に示すようにA群の傾斜面3aは隠れて見えなくなってB群の傾斜面3bのみが観察される。このため、いずれの方向から見た場合も人物を示す絵柄16は同じように見えるが、背景の色は、左斜め方向から見た場合は前記の例でいえば一方の領域4aは赤系統の色、他方の領域4bは青系統の色に見え、右斜め方向から見た場合は一方の領域4aは青系統の色、他方の領域4bは赤系統の色に見えることとなる。
【0035】
勿論、各傾斜面3に塗装される色柄パターンは上記のものに限られず、適宜の色柄パターンに形成することができる。
【0036】
このようにして各群の傾斜面3を塗装するにあたり、基材2の一面側の少なくとも一部の領域4において、同一の群中の傾斜面3は同一又は近似する色に塗装することも好ましい。この場合、各群同士の傾斜面3は異なる色とすることが好ましい。例えば上記図2に示す例では、一方の領域4aにおいてA群を構成する傾斜面3aは全て赤系統の色に塗装し、B群を構成する傾斜面3bは全て青系統の色に塗装しており、また他方の領域4bではA群を構成する傾斜面3aは全て青系統の色に塗装し、B群を構成する傾斜面3bは全て赤系統の色に塗装している。このようにすると、化粧建築板1を見る角度を変えた場合に化粧建築板1に現れる色の変化が明確となり、更に変化に富んだ外観が発現する。ここで、色が同一又は近似するとは、人の目で観察した場合に同一又は似通った色であると認識される程度であることを意味するが、具体的には同一の群中の傾斜面3の、マンセル値表示による色相、明度、彩度のばらつきが全て1.5以内の範囲に収まる状態を、同一の群中の傾斜面3の色が同一又は近似する色であるとみなせる。例えばマンセル値表示(色相 明度/彩度)で7.5YR 8.0/3.0の色に対して、色相が6.0〜3.0YR、明度が6.5〜9.5、彩度が1.5〜4.5の範囲の色は、同一又は近似する色となる。またこの範囲を外れる色が、異なる色となる。
【0037】
このようにして得られる化粧建築板1は、看者が見る方向によって異なる色柄パターンが現れて、化粧建築板1に高い意匠性が付与される。
【0038】
また塗装を、塗装位置精度の高いインクジェット塗装にて施すため、複数の傾斜面3ごとの色の塗り分けを容易且つ正確に行うことができ、各傾斜面3の幅寸法が小さい場合でも容易に塗装が可能である。このとき、傾斜面3の寸法が大きいと、建築板を斜め方向から観察する場合には最も近い傾斜面3間であってもその間の距離が大きく離れる箇所が生じ、一の群を構成する傾斜面3にて現出される模様を一体的に把握することは難しくなるが、傾斜面3の寸法が小さいと傾斜面3間の距離を小さくすることができて、傾斜面3にて現出される前記模様を一体的に把握することができ、違和感の少ない模様を現出させることができる。
【0039】
ここで、インクジェット塗装を行うために用いる塗装装置としては、図3に示すものを挙げることができる。この塗装装置は、噴射ノズル10を設けた塗装ノズルヘッド8、塗装ノズルヘッド8の噴射ノズル10に塗料を供給する塗料供給タンク9、塗装ノズルヘッド8の噴射ノズル10からの塗料の噴射を制御する塗装制御システム11などを設けたインクジェット式塗装機12と、基材2を搬送する搬送手段7とを備えて形成されるものである。
【0040】
塗装ノズルヘッド8はインクジェット式塗装機12の下端に設けられているものであり、基材2の送り方向と垂直な方向に長いラインヘッドとして形成してある。
【0041】
塗装ノズルヘッド8はイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色の塗料を噴出する4種類の塗装ノズルヘッド8y,8c,8m,8kから形成してあり、フルカラー印刷による塗装を行うことができるようにしてある。塗装ノズルヘッド8の個数はこれに限られず、使用するインクの種類に応じた個数が設けられる。塗料供給タンク9も同様に4種類のものからなるものであり、イエローの塗料を供給する塗料供給タンク9yは塗装ノズルヘッド8yに、シアンの塗料を供給する塗料供給タンク9cは塗装ノズルヘッド8cに、マゼンタの塗料を供給する塗料供給タンク9mは塗装ノズルヘッド8mに、ブラックの塗料を供給する塗料供給タンク9kは塗装ノズルヘッド8kにそれぞれ接続してある。そして各塗装ノズルヘッド8y,8c,8m,8kは基材2の搬送方向に沿って配列してある。
【0042】
塗装制御システム11は、各種のCPU、ROM、RAM等から構成されるものであり、塗装データ作成部、塗装制御部、噴射ノズル制御部等を備えて形成してある。塗装データ作成部は、原画をスキャナ等して得た色柄パターンのデータを入力して保存するものであり、塗装制御部は、塗装を行う基材2に応じた色柄パターンのデータを塗装データ作成部から取り出し、この色柄パターンのデータに基づいて、噴射ノズル制御部に制御信号を出力するものである。また噴射ノズル制御部は塗装ノズルヘッド8y,8c,8m,8kの各噴射ノズル10に接続してあり、噴射ノズル制御部から入力される制御信号に基づいて各噴射ノズル10を制御するものである。前記色柄パターンは、塗装に供される基材2上の傾斜面3の配置位置に応じ、複数の傾斜面3からなる複数の各群にそれぞれ所望の色柄パターンが形成されるように生成しておく。各噴射ノズル10は例えばピエゾ制御方式や光熱交換素子にレーザ光を照射する制御方式により噴射を制御されるようになっており、噴射ノズル制御部で各噴射ノズル10を制御することによって、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各塗料の噴射と停止を個別に制御して、色柄パターンに対応したフルカラー印刷による塗装を行うことができるものである。
【0043】
搬送手段7はタイミングベルトなどの無限帯状のベルト13をプーリ14間に懸架したベルトコンベア7aで形成することができ、無限帯状のベルト13の上面で構成される搬送面15がインクジェット式塗装機12の下側に配置されるものである。
【0044】
インクジェット塗装を行うにあたっては、まず搬送手段7に基材2を供給する。このとき、複数の基材2を順次間隔をあけて搬送することができる。
【0045】
このように搬送手段7にて搬送される基材2は、塗装ノズルヘッド8の下方を通過する。このとき塗装ノズルヘッド8から基材2のインク受理層に向けてインクがインクジェット方式で噴射されて塗装が施され、意匠模様が付与された基材2が得られる。
【0046】
かかるインクジェット塗装により、基材2に所望の意匠模様を発現させることができる。またこのようなインクジェット塗装を施すことで位置制御された塗装が可能である。また、濃淡表現や、シャープ或いはソフトな表現などにより自然な風合いの高意匠塗装が可能となる。また、このときインク受理層にインクが浸入して定着することで、鮮明な意匠模様が付与される。
【0047】
次に、必要に応じて、インクジェット塗装が施されたインク受理層の表面に、表面保護用のクリアー層を形成する。クリアー層は適宜のクリアー塗料を塗布成膜することにより形成することができ、例えばアクリル系エマルション等を用い、これをスプレー等にて塗布した後、100〜150℃で30秒以上加熱乾燥することにより成膜して、クリアー層を形成することができる。このクリアー層の厚みは特に制限されないが、5〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0048】
また、化粧建築板1には、更に無機質塗料層を形成することもできる。無機質塗料層はクリアー層の表面に無機質塗料を塗布成膜することで形成することができ、これにより化粧建築板1の耐候性を向上することができる。無機質塗料としては適宜のものを用いることができるが、例えばオルガノシランのシリカ分散オリゴマー溶液に、ポリオルガノシロキサンや、アルキルチタン酸塩等の縮合反応触媒を加え、或いは更にシリカを加えたケイ素アルコキシド系塗料等を用い、これを静電塗装等して塗布した後、60〜120℃で焼き付け乾燥等することにより成膜することにより、無機質塗料層を形成することができる。この無機質塗料層の厚みは特に制限されないが、1〜10μmの範囲であることが好ましい
また、更に光触媒層を形成することも好ましい。光触媒層は、無機質塗料層の表面に光触媒を含有する無機質塗料を塗布成膜することで形成することができ、これにより化粧建築板1の防汚性を向上することができる。光触媒を含有する無機質塗料としては適宜のものを用いることができるが、例えば上記のようなケイ素アルコキシド系塗料に酸化チタン等の光触媒を加えたものを等を用い、これをスプレー塗装等して塗布した後、60〜120℃で焼き付け乾燥等することにより成膜することにより、光触媒層を形成することができる。この光触媒層の厚みは特に制限されないが、0.2〜1.0μmの範囲であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態の例を示すものであり、(a)及び(b)は一部破断した斜視図である。
【図2】同上の(a)は全体の平面図、(b)は(a)のイ部分の拡大図、(c)は(b)を紙面の左斜め方向からみた斜視図、(d)は(b)を紙面の左斜め方向からみた斜視図である。
【図3】インクジェット塗装装置の構成の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0050】
1 化粧建築板
2 基材
3 傾斜面
4 領域
5 V字溝
6 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一面側にインクジェット塗装が施された化粧建築板であって、前記基材の一面側には複数の傾斜面が形成されて傾斜方向が同一な複数の傾斜面にて構成される群が複数形成されると共に各群間の傾斜面の傾斜方向が互いに異なっており、インクジェット塗装により少なくとも一つの群を構成する傾斜面に形成されている色柄パターンが、他の群を構成する傾斜面とは異なっていることを特徴とする化粧建築板。
【請求項2】
基材の一面側の少なくとも一部の領域において、傾斜面が各群ごとに異なる色に塗装されていると共に、同一の群中の傾斜面は同一又は近似する色に塗装されていることを特徴とする請求項1に記載の化粧建築板。
【請求項3】
基材の一面側に複数条のV字溝を平行並列に形成して前記V字溝の内面にて傾斜面を形成して成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の化粧建築板。
【請求項4】
基材の一面側に角錐状の凸部を複数形成して前記凸部の表面の各面にて傾斜面を形成して成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の化粧建築板。
【請求項5】
基材の一面側に複数の傾斜面を形成することにより、傾斜方向が同一な複数の傾斜面にて構成される群を複数形成すると共に各群間の傾斜面の傾斜方向を互いに異ならせ、この基材の前記一面側にインクジェット塗装を施すことにより、少なくとも一つの群を構成する傾斜面に、他の群を構成する傾斜面とは異なる色柄パターンを形成することを特徴とする化粧建築板の模様形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−196198(P2007−196198A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21140(P2006−21140)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】