説明

化粧料

【課題】 美顔、美白効果のある作用物質を徐放する化粧料。
【解決手段】 酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質の酸化チタンから選ばれる少なくとも一種の中空ファイバを含む化粧料であって、前記中空ファイバの内部に作用物質を充填してあって、前記作用物質が前記中空ファイバの外部へ徐放することを特徴とする化粧料を提供する。本発明の化粧料は、内部に内包した薬理効果のある作用物質を徐放することができ、効果を長時間発揮することができる。また、皮膚にダメージを与える紫外線照射時には大量の作用物質を放出することができ、効果的な美顔、美白作用を発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
美白、美顔等の薬理効果のある作用物質を徐放することができる化粧料に関わる。細孔内に内包した作用物質の放出が外部刺激によって制御(コントロールド・リリース)できる。
【背景技術】
【0002】
ファンデーション等の肌に塗布する化粧料は、紫外線カット効果のある白色の酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム等の粉末をベースに開発されてきた。人間の肌に近い色をもたせるため、一般に前記酸化物の粉末には鉄などの遷移金属をドープさせた形で使用する。
一方、化粧料に付加価値をつけるため、美顔、美白効果のある物質との複合化も検討されている。例えば、美白効果のあるアスコルビン酸を含む化粧料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。L-アスコルビン酸はビタミンCとも呼ばれ、薬理作用や免疫増強作用を有しており、美白作用やしわ防止などにも効果があるとされている。特許文献1に記載の化粧料において、アスコルビン酸等の美白剤は顔料等の他の構成成分と混合するだけなので、汗に含まれる水分や油分で流れ落ちてしまい、長時間の効果が期待できない。一方、長時間の美白効果を得るため、アスコルビン酸を取り込んだ層状複水酸化物を利用した化粧料が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この場合、複水酸化物の層間にアスコルビン酸が内包されるため、アスコルビン酸は安定に存在することが可能となる。しかし、人体の皮膚に直接作用させるためには、皮膚とアスコルビン酸を直接接触させることが好ましく、特許文献2に記載したような化粧料においては、水酸化物の層間に存在するアスコルビン酸が人体に接触する効率は悪い。また、水酸化物はごく短波長の紫外線しか吸収できず、近紫外の光を透過してしまうため、紫外線カットの効果が不十分となり、皮膚にダメージをもたらす。
【0003】
美白、美顔効果のある作用物質を内包させるための安定な粒子として、無機系の酸化物粒子が期待されている。特に、チタン系の酸化物は生体適合性が高く、紫外線の遮蔽能も高い。従来、チタン系の酸化物で特定の細孔径を持つ物質の合成は、出発原料が不安定のため困難とされてきたが、近年、水熱合成法による酸化チタンないしチタン酸の中空状ファイバの合成が報告されている(例えば、特許文献3、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001-335498号公報
【特許文献2】特開2004-91421号公報
【特許文献3】特開平10-152323号公報
【非特許文献1】L. M. Peng et al., Adv. Mater. 14, 1208 (2002)
【非特許文献2】T. Rajh et al., J. Phys. Chem. B 106, 10543 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
美顔、美白等の薬理効果のある作用物質を徐放する化粧料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質の酸化チタンから選ばれる少なくとも一種の中空ファイバを含む化粧料であって、前記中空ファイバの内部に作用物質を充填してあって、前記作用物質が前記中空ファイバの外部へ徐放することを特徴とする化粧料を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、美顔、美白作用等の薬理効果のある作用物質を徐放することが可能となり、前記作用物質が効率的に人体の肌に接触し、効果的な薬理作用を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る中空ファイバ状の化粧料は酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質の酸化チタンから選ばれる少なくとも一種からなる。これらの材料はいずれも、無毒で生体適合性の高い材料として知られており、紫外線の遮蔽効果も高い。本発明に係る中空ファイバが酸化チタンの場合、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型、TiO2(B)が好適に使用できる。本発明に係る中空ファイバがチタン酸塩の場合、三チタン酸、四チタン酸、五チタン酸、六チタン酸、七チタン酸、八チタン酸等のプロトンを含む多価チタン酸や、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸セシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の多価チタン酸塩であっても構わない。
【0008】
本発明に係る中空ファイバの内径(r)は、3nm〜8nmの範囲である。この大きさより小さい作用物質を中空ファイバの内部に内包することができる。
前記中空ファイバの内径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて直接観察しても良いし、BET法によって細孔径分布を測定しても構わない。
【0009】
本発明の中空ファイバ状の化粧料の内部には作用物質が充填してある。中空ファイバの両端が開気口となっており、内部に充填された作用物質はこの開気口から放出される。通常の粒子状物質に作用物質が吸着した場合の化粧料に比較して、本発明の化粧料においては作用物質が長時間安定に存在し、作用物質の徐放性を有する。また、作用物質は中空ファイバの内部に内包されていると、中空ファイバによるマスキング効果により作用物質の熱的化学的な変質を防止することができる。作用物質として例えば、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンF、ビタミンK等のビタミン類、アントシアニン、コラーゲン、ヒアルロン酸、カルコン誘導体等から選択される少なくとも一種を好適に使用することができる。
【0010】
本発明の化粧料は、内包した作用物質を外部刺激によってコントロールドリリースすることが可能となる。コントロールドリリースによって、作用物質を皮膚に接触させる量が制御できるため、効果的な薬理効果が得られる。
【0011】
人体の皮膚は特に紫外線照射時にダメージを受ける。このため、紫外線照射時に前記作用物質が効率的に皮膚に接触するのが好ましい。本発明の化粧料は、特に、外部刺激として紫外線照射を用いた場合、前記作用物質を大量に放出し、皮膚への接触効率が高くなる。本発明の好ましい態様においては、前記作用物質が前記中空ファイバの内壁に化学結合してある。前記中空ファイバの励起を伴う光照射によって光触媒反応が誘起され、中空ファイバの表面にて酸化、還元反応が進行する。この結果、前記作用物質と中空ファイバの間の化学結合が解裂し、前記作用物質が中空ファイバの外側へ放出し、人体の皮膚に作用する。前記光の照射エネルギーは波長によって作用物質の放出速度がコントロールできる。前記光照射は太陽光をはじめ、蛍光灯、白熱電球等の室内照明や、ブラックライト、殺菌ランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色、青、緑、赤)、レーザー光等でも構わない。
【0012】
本発明の好ましい態様として、前記作用物質と作用物質の間は脱水縮合している。より好ましくは、前記作用物質には水酸基が存在し、この水酸基と前記中空ファイバの内壁にある水酸基が反応して、脱水縮合で結合する。この結合は比較的弱いので、前記中空ファイバの励起をともなう光照射によって分断され、作用物質の水酸基が再生される形で外部に放出され、作用物質そのものが分解されにくい。
【0013】
本発明の更に好ましい態様において、前記中空ファイバの内壁に脱水縮合で結合している作用物質として、ジオール基を有する分子を使用する。これらの分子は水に溶かした場合は無色透明であるが、ジオール基に含まれる2個の水酸基の双方が中空ファイバと脱水中縮合すると、非特許文献2に示すように、界面準位により着色する。つまり、結合していると着色し、脱離すると無色化するため、着色の度合いが作用物質が放出したかどうかを確認するためのインジケーターとして利用できる。また、ファンデーションとしての応用を考えた場合、前記界面準位の生成により人肌に近い色を呈することが可能となる。前記ジオール基を有する分子として、例えば、カテコール、メチルカテコール、ターシャリーブチルカテコール等のカテコール類、ジハイドロキシシクロブテンジエン、ドーパミン、アリザリン、ビナフタレンジオール等が好適に使用できる。また、色合いを調節するために、本発明の化粧料に更に遷移金属等をドープしても構わない。
【0014】
本発明の更に好ましい態様として、前記作用物質としてアスコルビン酸を使用することができる。L-アスコルビン酸はビタミンCとも呼ばれ、薬理作用や免疫増強作用を有しており、美白作用やしわ防止などに大きな効果があるとされている。L-アスコルビン酸を内包した本発明の化粧料は、紫外線照射に応じて内包物を放出するので、紫外線によって生じ得る皮膚のダメージを、L-アスコルビン酸の上記作用によって効率的に抑制することができる。
【0015】
本発明の別の外部刺激の態様として、pHの変化を用いることができる。肌は発汗や雑菌の増殖によって、そのpHは変化する。本発明の化粧料はpHの変化に応じて薬理効果のある作用物質を放出することができる。中空ファイバの表面は多くの酸化物や水酸化物と同様、酸性ではカチオン性、アルカリ性ではアニオン性となる。つまり、pHを変化させることで表面の電荷を変化させることができる。例えば、中空ファイバとして巻物状の層状のチタン酸の場合、等電点でのpHが5.5となるので、この値よりも低いpH領域ではカチオン性、高い領域ではアニオン性となる。作用物質が電荷を帯びていると、クーロン力によって、中空ファイバの表面との間に引力、ないし、斥力が働く。中空ファイバと作用物質の間に斥力が働くような状況にすれば、内部に充填してある作用物質を外部に放出することが可能となる。例えば、作用物質がカチオン性であれば、中空ファイバの表面をカチオン性にすることで作用物質を放出することが可能となる。一方、作用物質がアニオン性であれば、中空ファイバの表面をアニオン性にすることで作用物質を放出させることができる。
【0016】
前記電荷を帯びた作用物質は粒子状であっても構わない。例えば、前記作用物質として、粒子状物質に薬理効果のある物質を担持させたものを使用しても良い。この際、粒子状物質の大きさは、中空ファイバの内径よりも小さいものを用いる。
【0017】
本発明の好ましい態様においては、本発明の中空ファイバは巻物状の層状のチタン酸で構成されている。前記巻物状の層状のチタン酸は、均一な細孔径を有しており、比表面積も大きく、水に分散することが可能である。また、前記巻物状の層状のチタン酸は低コストで大量合成することが出来る。結晶性を高めるため、熱処理をしても構わない。熱処理温度としては、50℃〜600℃が好適である。
【0018】
本発明の好ましい態様においては、中空ファイバの内壁と外壁の少なくともいずれか一方の表面に修飾分子が固定化してあって、前記修飾分子にはリンカー部と主鎖部が存在し、前記リンカー部と中空ファイバの表面が結合している。本発明のより好ましい態様においては、前記修飾分子のリンカー部と中空ファイバの表面は、共有結合、水素結合、イオン結合、配位結合からなる郡より選択される少なくとも一つの結合で固定化されている。単純な物理吸着で固定化されるよりも熱的、化学的な安定性が高い。修飾分子の結合は中空ファイバの表面の一部であっても全て覆ってもかまわない。本発明に係る修飾分子のリンカー部として、例えば、カルボンキシル基、リン酸基、スルホン基、水酸基、アミノ基、ピリジン、アセチルアセトン等のジケトン類、ポリエチレングリコール等のエチレンオキサイド類、シロキサン類からなる郡より選択される少なくとも一つの官能基を使用することができる。これらの官能基と中空ファイバとの間の結合力は高い。
【0019】
前記修飾分子の主鎖部は、使用環境に応じて適宜選択すればよい。例えば、両親媒性の主鎖部を持つ修飾分子を外壁に結合した場合、中空ファイバの化粧ノリ、汗落ち、水落ちを防止する効果を発揮する。両親媒性の主鎖部として、好ましくは、親水基と疎水基の双方を含んでなる。親水基としては、カルボンキシル基、リン酸基、スルホン基、水酸基、アミノ基、ピリジン、アセチルアセトン等のジケトン類、ポリエチレングリコール等のエチレンオキサイド類等から選択される少なくとも一つの選択できる。一方、疎水基としては、アルキル、フッ素樹脂、芳香族系分子等から選択される少なくとも一つの疎水基が好適に使用できる。
【0020】
一方、難分解性の主鎖部を持つ修飾分子を中空ファイバの外壁に修飾した場合、皮膚と接触する外壁部の光触媒活性を抑制することができ、光触媒反応によって生成した活性酸素による肌へのダメージを抑制することができる。難分解性の主鎖部を持つ修飾分子として、例えば、シランカップリング剤やアルキルアミン等が好適に使用することができる。
【0021】
一方、中空ファイバの内壁に修飾分子を結合した場合、作用物質と中空ファイバ間の相互作用が変化するので、徐放速度を速めたり、遅くしたりすることが可能となる。
【0022】
修飾分子を中空ファイバに結合する方法として、例えば、修飾分子を含む溶媒に中空ファイバを浸漬することで中空ファイバの表面に修飾分子を固定化することができる。結合を促進するため、加熱処理や酸、アルカリなどの化学処理をしてもかまわない。この際、前記修飾分子の分子長によって、内壁部と外壁部への双方、ないし、外壁部のみに結合することが可能となる。内壁と外壁の双方に長鎖の修飾分子を固定化する場合、前記修飾分子の分子長(R)の2倍(2R)を前記中空ファイバの内径よりも小さく設計する。一般的に、修飾分子は極性を有するため、多くの界面活性剤と同様、中空ファイバの中ではミセルを形成し得る。中空ファイバの内部において、修飾分子の親水部が中空ファイバ側へ固定化され、疎水部が中空ファイバの中心に向かって配向する構造をとり、いわゆる「ロッドライクミセル」を形成する。このロッドライクミセルの径は修飾分子の長さ(R)の2倍(2R)に相当するため、内壁にミセルを形成させるためには、2Rの値が中空ファイバの内径よりも小さいことが望ましい。このように内径を設定することで、修飾分子を中空ファイバの内部まで結合させることが可能となる。例えば、中空ファイバの内径が3.5nmである場合、前記修飾分子の2Rは3.5nmよりも小さく設計する。
一方、前記修飾分子を中空ファイバの外壁のみに結合させる場合、前記修飾分子の分子長(R)の2倍(2R)を前記中空ファイバの内径よりも大きく設計する。例えば、中空ファイバの内径が3.5nmである場合、前記修飾分子の2Rは3.5nmよりも大きく設計する。ミセル形成時の分子の大きさに相当する修飾分子の長さの2倍(2R)が中空ファイバの内径よりも大きいと、内壁にミセルを形成しにくくなり、外壁のみに修飾分子が結合する。
【0023】
本発明に係る中空ファイバの内壁のみに修飾分子を結合させる方法として、前記修飾分子を内壁と外壁の双方に結合した後に、酸、アルカリ処理等の化学的処理や、アルゴンスパッタリング等のプラズマエッチングによって、外壁に結合した修飾分子のみを除去することができる。
【0024】
また、前記修飾分子を中空ファイバに結合する別の方法として、例えば、CVD、PVD、真空蒸着、レーザーアブレーション、イオンプレーティング、スパッタ等から選択される少なくとも一つの乾式コーティング法を用いても構わない。
【0025】
本発明に係る中空ファイバと前記修飾分子が化学結合しているかを検証するためには、FT-IRやNMR等の機器分析が好適に使用できる。例えば、前記修飾分子がアルキルアミンの場合、フリーのアミンイオンと中空ファイバに吸着させたアミンイオンのNH伸縮振動をFT-IRで測定すれば、化学結合したか否かが判定できる。フリーのアミンイオンにて3300cm-1付近に観察されるNH伸縮振動が、中空ファイバに化学結合すると低波数側にシフトする。また、化学結合の指標として中空ファイバのOH基の伸縮振動を観察しても構わない。中空ファイバのOH基に修飾分子が化学結合した場合、中空ファイバにもともと存在する化学吸着したOH基からの信号が消失する。
【0026】
本発明の化粧料において、作用物質の徐放速度を精密に制御するため、前記中空ファイバの開口部の両端に、分子扉のような開閉機構を付与しても構わない。扉となる材料として、金微粒子やCdS、CdSe等のような量子ドットを用いても良いし、アゾベンゼン、スピロピラン、クマリン等の光異性材料を用いても構わない。前記光異性体を使用した場合、光照射の波長によって分子扉の開閉を制御することが可能となる。また、化学的処理によって扉に相当する物質を外し、内包されている作用物質を放出させても構わない。
【0027】
本発明の中空ファイバを含む化粧料は、内部に内包した美顔、美白効果等の薬理効果のある作用物質を徐放することができ、効果を長時間発揮することができる。また、皮膚にダメージを与える紫外線照射時には大量の作用物質を放出することができ、効果的な美顔、美白作用を発揮することができる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例になんら制限されるものではない。
1.サンプルの作製
1−1.中空ファイバの作製
酸化チタン粉末(商品名F6、昭和電工(株))0.64gを10M水酸化ナトリウム水溶液80mlに投入し、ガラス棒にて1分間攪拌することにより、白色懸濁液を得た。この白色懸濁液を100mlフッ素樹脂製容器に入れ、さらにステンレス製容器にこのフッ素樹脂製の容器を入れた。乾燥器の中にこのステンレス容器を入れて、110℃で20時間保持した。反応終了後、室温までステンレス容器を自然放冷させ、白色沈殿物を含む溶液を回収した。洗浄工程として、この白色沈殿物を含む溶液から、上澄み液をまずスポイトにて除去した。残った白色沈殿物に0.1M塩酸水溶液100mlを少量ずつ添加した。塩酸水溶液を全量添加後、室温(20℃)で3時間静置した。静置後、上澄み液を除去した。この洗浄工程を合計3回行い、上澄み液がpH7以下であることを確認した。これらの中和操作の後、残った白色沈殿物を蒸留水で2回洗浄することにより、白色粉末を得た。この白色粉末を走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察したところ、15万倍の倍率において、この方法で得られる白色粉末が中空ファイバの集合体であり、各ファイバの中心部は直径3.5nmの中空構造になっていることを確認した。また、XRD(マック・サイエンス製、MXP-18)で結晶構造を解析したところ、チタン酸構造であることがわかった。更に、比表面積/細孔分布測定装置(アサップ2000,マイクロメリティックス社製)を用いて解析したところ、細孔径分布については中空ファイバの内径3.5nmに相当する急峻なピークが観察され、比表面積は78m2/gであった。ここで得られた粉末を#1試料とする。
【0029】
1−2.中空ファイバが担持された薄膜の作製
1−1記載の方法で作製した#1試料の粉末を2M硝酸水溶液64ml中に添加し、室温で15時間マグネティックスターラーによって攪拌した。攪拌後、得られた半透明溶液を遠心分離機(佐久間製作所(株) M200−IVD)により5000rpmで30分遠心分離することで、プロトンを付加した白色ゲルを得た。さらに、この白色ゲルを0.1Mの水酸化テトラブチルアンモニウムの水溶液に加え、室温で24時間マグネティックスターラーによって攪拌し、半透明な溶液を得た。更にこの溶液に100mmolの塩酸を加えpHが9.5になるように調整し、中空ファイバが分散した水溶液を作製した。基材として石英ガラス(東芝ガラス、T-4040)を用い、熱濃硫酸中で表面に付着した有機物を除去した後、純水で洗浄した。この基材をポリエチレンイミン(和光純薬工業、平均分子量:10000)の0.25wt%の水溶液に10分間浸漬した後、純水で洗浄した。更に、前記中空ファイバを含む溶液中に10分間浸漬し、純水で洗浄した。また、更に、この基材を、ポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウム(PDDA:Aldrich社製、平均分子量:100000- 200000)の2wt%水溶液に10分間浸漬し、純水で洗浄した。以後、中空ファイバを含む溶液とPDDA水溶液への浸漬と洗浄を繰り返し、中空ファイバの層が5層となるような薄膜を作製した。いずれも、最表面は中空ファイバが露出している。得られた薄膜に対し、紫外線照射によって層間のカチオン性ポリマーを除去した。紫外線照射は200Wの水銀-キセノンランプ(林時計工業製、LA-210UV)を用い、24時間照射した。得られた薄膜の断面を走査型電子顕微鏡(日立、S-4100)で観察したところ、膜厚は50nmであった。
【0030】
2.中空ファイバのゼータ電位の測定
各種pHにおける中空ファイバのゼータ電位を電気泳動光散乱光度計(型名:ELS-6000、大塚電子製)によって測定した。1−2で作製した、中空ファイバが分散した水溶液1mgを200gの10mmol/Lの塩化ナトリウム水溶液に滴下し、pHの調節は10mmol/Lの塩酸および水酸化ナトリウムを使用した。
結果を図1に示す。ゼータ電位が0になるpHが等電点である。この結果、本発明に係る中空ファイバの等電点におけるpHは5.5となった。
【0031】
3.pHによる作用物質(メチレンブルー)の放出
1−2で得られた薄膜(1.5cm×2.5cm)を1mMのメチレンブルー水溶液に室温で15時間浸漬した後、暗所で乾燥させた。この後、メチレンブルーが吸着した薄膜を5mLの各pHに調節した水中に暗所にて浸漬し、水中のメチレンブルーの濃度変化(660nmでの吸光度の変化)を分光光度計(島津製作所、UV-3150)を用いて測定した。pHは塩酸を用いて調整し、6.0(HCl添加無し)および、1.0(HCl添加)とした。
結果を図2に示す。この結果、低いpH(pH:1.0)の方がメチレンブルーの放出速度が早かった。pHが1.0では中空ファイバの表面はカチオン性となる。メチレンブルーは水中で溶解するとカチオン性となり、カチオン同士の反発により放出が促進されることがあきらかになった。
【0032】
4.pHによる作用物質(イブプロフェン)の放出
1−2で得られた薄膜(1.5cm×2.5cm)を0.1wt%のイブプロフェン水溶液に室温で15時間浸漬した後、暗所で乾燥させた。この後、イブプロフェンが吸着した薄膜を5mLの各pHに調節した水中に暗所にて浸漬し、水中のイブプロフェンの濃度変化(220nmでの吸光度の変化)を分光光度計(島津製作所、UV-3150)を用いて測定した。pHは水酸化ナトリウムおよび塩酸を用いて調整し、14.0(NaOH添加)、6.0(HCl添加無し)および、1.0(HCl添加)とした。
結果を図3に示す。この結果、イブプロフェンに関しては高いpHの方が放出速度が速かった。アルカリ性になると中空ファイバがアニオン性となる。イブプロフェンは水に溶解するとアニオン性となり、アニオン同士の反発により放出が促進されることがあきらかになった。
【0033】
5.作用物質の固定化による中空ファイバの着色
1.で得られた#1試料の粉末を0.1Mのビナフタレンジオールおよびアスコルビン酸水溶液に、60℃で24時間浸漬した。粉末を回収し、エタノールで洗浄、乾燥して粉末を得た。得られた粉末を写真で撮影した。また、分光光度計(島津製作所、UV-3150)を用い、拡散反射法によって粉末の反射率を測定した。得られた粉末の写真を図4に、反射率を図5に示したが、ジオール基を有するビナフタレンジオール、アスコルビン酸を中空ファイバに固定化すると着色することがわかった。中空ファイバ自体のバンドギャップは約3.4eVのため、可視光を吸収しないが、中空ファイバにジオール基を有する分子を結合することで400nm以上の可視光領域に吸収が発現することが明らかとなった。ビナフタレンジオール、アスコルビン酸は分子状では無色透明で可視光に吸収を持たない。これらの作用物質が中空ファイバに固定化することで可視光領域に着色を呈したことから、これらの分子のジオール基が中空ファイバの水酸基と脱水重縮合していることが示唆された。
【0034】
6.光照射による作用物質の放出
1−2で得られた薄膜(1.5cm×2.5cm)を0.1Mのビナフタレンジオールおよびアスコルビン酸水溶液に、60℃で24時間浸漬した。この後、これらの薄膜を暗所にて5mLの純水中に浸漬し、水中のビナフタレンジオールおよびアスコルビン酸の濃度変化を分光光度計(島津製作所、UV-3150)を用いて測定した。この際、ビナフタレンジオールの濃度として波長276nmでの吸光度を観察し、アスコルビン酸の濃度として波長264nmでの吸光度を測定した。暗所にて所定時間が経過した後に、20Wのブラックライト(東芝)を用い、紫外線の照射をおこなった。紫外線照度は紫外線照度計(トプコン、UVR-2)を用い、500μW/cm2となるように照射した。
紫外線照射前後のアスコルビン酸の濃度変化を図6に、ビナフタレンジオールの濃度変化を図7に示す。この結果、紫外線の照射によってアスコルビン酸、ビナフタレンジオールの濃度が増加していることがあきらかになった。以上の結果から、ジオール基を有する分子を光照射によって放出できることが明らかになった。
【0035】
7.修飾分子(アルキルアミン)の固定化
各種分子長のアルキルアミンイオン水溶液に前記粉末状の#1試料を添加した。アルキルアミンは、エチルアミン(炭素鎖C=2)、ヘキシルアミン(C=6)、オクチルアミン(C=8)、デシルアミン(C=10)、ドデシルアミン(C=12)の5種類とした。前記各種アルキルアミンの濃度はいずれも0.2mM、50mLの水溶液中に#1試料0.1gを添加し、室温、暗所にてスターラーで攪拌した。表面へ固定化量を測定するため、水溶液中に残存している各種アルキルアミンイオンの濃度をキャピラリー電気泳動システム(HP 3DCE、HEWLETT PACKARD)を用いて測定した。暗所にて結合させる時間は2時間とした。
アミンイオンの分子長の2倍値(2R)と固定化量の関係を図8に示す。アルキルアミンの分子の長さはdensity functional theory (DFT)を用いて計算した(Accelyl社、Dmol3)。この結果、2Rが3nmよりも小さい領域ではアルキルアミンの長さに応じて固定化量が増加した。アルキルアミンの分子長が長くなると分子の双極子が大きくなり、吸着力が増大する。一方、アルキルアミンの長さが3.0nmよりも長くなると、固定化量が減少することがわかった。2Rの値が中空ファイバの内径と同等になると、アルキルアミンの中空ファイバの内部への拡散が抑制される。2Rの値が中空ファイバの内径よりも大きいと、アルキルアミンは外壁のみに固定化することが示唆された。
【0036】
8.修飾分子(シランカップリング剤)の固定化
粉末状の#1試料を、トルエンに溶解したオクタデシルトリエトキシシラン(アヅマックス、SIO6642.0)溶液中に投入した。オクタデシルトリエトキシシランの濃度は1w%、反応温度、反応時間は、60℃×一晩とした。この試料を水中に投入した場合の写真を図9に示す。未処理の中空ファイバ(#1)についても示した。この結果、シランカップリング剤を修飾した中空ファイバは水に浮かぶことがあきらかになった。修飾分子であるシランカップリング剤の分子長(R)の2倍(2R)は中空ファイバの内径(r)よりもは長いため、シランカップリング剤は中空ファイバの外壁に固定化される。外壁が疎水的になるため、粒子が水面に浮くようになる。
【0037】
9.修飾分子と中空ファイバの間の化学結合の検証
#1試料(未処理の中空ファイバ)と4.のアルキルアミンの修飾の際に作製したデシルアミンを修飾した中空ファイバのFT-IRを装置(Nicholet、710)を用い測定した。比較のため、中空ファイバに吸着していない分子状のフリーのデシルアミンについても測定した。物理吸着水を除去するための前処理として、真空中で150℃の熱処理をおこなった。結果を図10に示す。この結果、フリーのデシルアミンで観察されたNH伸縮振動(3219 cm-1, 1649 cm-1)が中空ファイバに吸着すると低波数側(3219 cm-1, 1607 cm-1)にシフトし、ピークがブロード化した。このシフトは修飾分子末端のアミノ基と中空ファイバの間で水素結合がおこった結果、誘起される。更に、未処理の中空ファイバ(#1試料)に存在した化学吸着水のピーク(3660 cm-1)が修飾分子を結合させることによって消失した。これらの結果から、修飾分子の末端にあるアミノ基が中空ファイバの水酸基に水素結合で結合していることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、美顔、美白等の薬理効果のある作用物質が徐放できる化粧料を提供することができる。外部刺激によって作用物質の放出量をコントロールできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る中空ファイバのゼータ電位を示す図
【図2】本発明に係る中空ファイバのメチレンブルー放出特性を示す図
【図3】本発明に係る中空ファイバのイブプロフェン放出特性を示す図
【図4】本発明に係る中空ファイバの写真
【図5】本発明に係る中空ファイバの反射率を示す図
【図6】本発明に係る中空ファイバのアスコルビン酸放出特性を示す図
【図7】本発明に係る中空ファイバのビナフタレンジオール放出特性を示す図
【図8】本発明に係る修飾分子(アルキルアミン)の固定化量を示す図
【図9】本発明に係る修飾分子(シランカップリング剤)を固定化した化粧料の写真
【図10】本発明に係る修飾分子(アルキルアミン)を固定化した化粧料のFT-IRを示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質の酸化チタンから選ばれる少なくとも一種の中空ファイバを含む化粧料であって、前記中空ファイバの内部に作用物質を充填してあって、前記作用物質が前記中空ファイバの外部へ徐放することを特徴とする化粧料。
【請求項2】
前記中空ファイバの内径(r)が3nm〜8nmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
前記作用物質の大きさが前記中空ファイバの内径(r)よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし2に記載の化粧料。
【請求項4】
請求項1に記載の化粧料であって、外部刺激によって前記作用物質が放出することを特徴とする請求項1〜3に記載の化粧料。
【請求項5】
前記外部刺激が前記中空ファイバの光励起を伴う光照射であることを特徴とする請求項1〜4に記載の化粧料
【請求項6】
前記作用物質と中空ファイバの間が脱水縮合で結合していることを特徴とする請求項1〜5に記載の化粧料
【請求項7】
前記作用物質には水酸基が存在することを特徴とする請求項1〜6に記載の化粧料。
【請求項8】
前記作用物質が、ジオール基を有する分子であることを特徴とする請求項1〜7に記載の化粧料。
【請求項9】
前記作用物質が、アスコルビン酸であることを特徴とする請求項1〜8に記載の化粧料。
【請求項10】
前記作用物質としてジオール基を結合させた化粧料であって、400nm以上の波長の可視光の吸収を有することを特徴とする請求項8ないし9に記載の化粧料。
【請求項11】
前記外部刺激がpHの変化であることを特徴とする請求項1〜4に記載の化粧料
【請求項12】
請求項11に記載の化粧料であって、前記作用物質が電荷をもつ分子または粒子であることを特徴とする請求項11に記載の化粧料。
【請求項13】
前記中空ファイバが、巻物状の層状のチタン酸であることを特徴とする請求項1〜12に記載の化粧料。
【請求項14】
前記中空ファイバの内壁と外壁の少なくともいずれか一方の表面に修飾分子が固定化してあって、前記修飾分子にはリンカー部と主鎖部が存在し、前記リンカー部と中空ファイバの表面が結合していることを特徴とする請求項1〜13に記載の化粧料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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