説明

医学的診断及び治療法のための神経細胞突起局在mRNAの使用

【課題】本発明の目的は、神経細胞突起cDNAクローンの同定方法であって、特定の神経細胞突起中のmRNA発現を測定し、mRNA発現の相対的レベルを比較し、mRNA発現レベルに基づいて神経細胞突起cDNAクローンを同定することを含む方法を提供することである。
【解決手段】特定神経細胞突起中のmRNA発現を測定し、比較することによって神経細胞突起cDNAクローンを同定する方法を提供する。この方法によって同定されたcDNAクローンをも提供する。さらに、mRNA発現をプロファイリングし、mRNA発現プロフィルを測定することによってmRNA発現パターンに関連した病気を診断し、治療する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
序論
本発明は国立衛生研究所によって支援された研究の過程でなされたものである。合衆国政府は本発明にある一定の権利を有するといってよい。
【0002】
発明の背景
最近数年間に、精神遅滞に関連した障害を包含する神経精神医学的障害の遺伝学的根拠についての理解が大きく進歩している。このような障害の遺伝学的欠陥はそれぞれ本質的に異なり、それぞれのメカニズムは新規であるように思われ、これらの疾患の発生を裏付ける統一的なテーマは脳の発達及び神経学的ネットワークの維持である。
神経学的ネットワークは個々のニューロンから構成され、各ニューロンは別々の構造的及び機能的細胞単位である。ニューロンは他のニューロンからの神経インパルスを受けるための特定の特徴を有し、これらの特徴の効果は神経インパルスの励起又は抑制のいずれかと伝導とであると考えられる。ニューロンは一般に、末端が他の細胞の表面に密接に接近する神経細胞突起(neurite)として知られる長い細胞質突起を有する。これらの神経細胞突起の末端はシナプス端部と呼ばれ、それらが形成する細胞と細胞との接触はシナプシスとして知られる。高等動物の神経細胞突起は通常、それぞれ細胞体方向へと細胞体からのインパルスを伝導する樹状突起と軸索とを形成するように特殊化される。端部にインパルスが到着すると、シナプス伝達のプロセスが誘導される。このイベント(event)は通常、シナプス後細胞内で反応を行う、ニューロン細胞質からの化学化合物の放出を含む。中枢神経系のニューロンは細胞体、樹状突起及び軸索を包含する、本質的に異なるセグメントから成る。大抵の神経細胞はこの基本的な構造に従うが、身体内の細胞の特有の機能に基づいて広範囲な構造的多様性が存在する。
【0003】
これらの分極細胞が、ニューロンの軸索、樹状突起及び細胞体の全体に示差的に分布した、種々の細胞質タンパク質及び膜結合タンパク質を含有することが判明している。中枢神経系のニューロンが細胞体から独立したシナプス後部位において又は近くで局部的にタンパク質を合成すると考えられる。ポリリボソームがシナプス後部位の下方に又は時には樹状突起上に膜分化に関連して優先的に局在することを、超微細構造的研究が明らかにしている。これらの解剖学的構造が、ニューロン中の異なる種類のタンパク質を翻訳し、翻訳後修飾するために必要なタンパク質合成機構であることが示唆されている。ニューロン中のRNAの選択的輸送のためのエネルギー依存性機構も判明している。しかし、これらの細胞中に存在するRNAの性質と分布状態とはあまり理解されていない。
【0004】
in situ ハイブリッド形成(ISH)の研究はニューロン突起中の非常に僅かなmRNAの同定に好結果を収めている。AMPA−GluR1、−GluR2、−GluR3及び-GluR4とカイネート(kainate)感受性GluR5及びGluR6受容体とを有するシナプトソームRNA(synaptosomal RNA)フラクションの、in situ ハイブリッド形成とノーザンブロット分析法(Northern blot analyses)とを用いた研究は、樹状突起位置におけるmRNAを検出することができなかった(Graig,A.等,Neuron 1993,10,1055〜1068;Chicurel,M.等,J.Neurosci.1993,13,4054〜4063)。
【0005】
個々の神経細胞突起の顕微解剖(microdissection)は、海馬神経細胞突起中に存在する、グルタメート受容体ファミリーの要素、二次メッセンジャー要素(second messenger component)、及び翻訳調節装置の要素を包含する、多数のmRNAを現在明らかにしている。同一ニューロンの本質的に異なるセグメントからの発現mRNAのプロフィルが異なる特徴を有することも、現在判明している。発現mRNAにおけるこれらの相違を、ニューロンの本質的に異なるセグメントを特異的に標的にして、分子レベルの遺伝学的な神経学的障害を同定し、診断するための手段として用いることができる。
【0006】
発明の概要
本発明の目的は、神経細胞突起cDNAクローンの同定方法であって、特定の神経細胞突起中のmRNA発現を測定し、mRNA発現の相対的レベルを比較し、mRNA発現レベルに基づいて神経細胞突起cDNAクローンを同定することを含む方法を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、神経細胞突起cDNAクローンを提供することである。
本発明の他の目的は、特定の神経細胞突起におけるmRNA発現をプロファイリング(profiling)する方法であって、特定の神経細胞突起の細胞体又は突起中のmRNA集団をcDNAに転化し、このcDNAを二重鎖にし、この二重鎖cDNAをaRNAに線状に増幅させ、このaRNAを逆相ノーザン分析におけるプローブとして用いて、mRNA発現プロフィルを作成することを含む方法を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、mRNA発現パターンに関連した病気(condition)を診断する方法であって、特定の病気に関連した特定の細胞におけるmRNA発現の相対的レベルを測定し、測定された相対的レベルを確認された対照と比較し、mRNA発現レベルの比較に基づいて病気を診断することを含む方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、mRNA発現パターンに関連した病気の治療方法であって、特定の病気に関連した特定の細胞におけるmRNA発現の相対的レベルを測定し、mRNA発現を変化させることができる有効量の作用物質によって相対的レベルを変化させることを含む方法を提供することである。
【0010】
発明の詳細な説明
中枢神経系の異なる領域が機能的及び解剖学的に異なるシナプス結合によって占められる。シナプスの形成、維持及びリモデリング(remodeling)中に、タンパク質がこれらの異なる結合に選択的に輸送されると考えられる。その結果、これらのタンパク質標的設定機構(protein targeting mechanism)によって、少なくとも部分的に、神経系の特異性が確立され、修飾される。mRNA発現プロフィルが神経細胞突起中に見られるメッセージに関して特異的であることが今回発見された。特定の神経細胞突起中のmDNA発現を測定し、mRNA発現の相対的レベルを比較し、このmRNA発現レベルに基づいて神経細胞突起cDNAクローンを同定することによって、神経細胞突起cDNAクローンの同定方法が今回開発された。
【0011】
隣接細胞からの重複突起を含まない単離された海馬細胞を低密度培養物中で同定した。これらの条件下で、ニューロンは単離された細胞として又は小さい2〜4細胞群として、直接基質上で又はグリア細胞上で成長する。ニューロンはシナプス相互作用を含めた形態学的基準によって同定される。個々の近位神経細胞突起と遠位神経細胞突起とを、それらを細胞体からの異なる距離において離断し、アンチセンスRNA(aRNA)増幅処理の第1工程に必要な試薬を含むマイクロピペット中に吸引することによって、回収した。多くの場合、単一細胞から多重の突起を単離した後に、細胞体を吸引した。個々の神経細胞突起又は細胞体を下記aRNA増幅処理によって処理して、mRNA発現プロフィルを得た。細胞体中又は細胞突起中のmRNA集団をオリゴ−dT−T7プライマーを用いて相補的DNA(cDNA)に転化させた。cDNAを二重鎖にした後に、T7RNAポリメラーゼを用いてこれを線状に増幅させてaRNAにした。逆ノーザン分析のために、aRNAはmRNA発現プロフィルのプローブとして役立った。この後の実験では、aRNAを二重鎖cDNAにして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる実験のための鋳型として用いた。
【0012】
神経細胞突起中のmRNA集団を最初にmRNA発現プロファイリングによって評価した。イオノトロピック(ionotropic)グルタメート受容体ファミリーの構成要素(element)をコードするクローン化cDNAを含有するサザンブロット(Southern blot)を個々の神経細胞突起又は細胞体からの放射性標識aRNAによって調べた。N−メチル−D−アスパルテート(NMDA)、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−イソキサゾール−4−プロピオネート(AMPA;GluR1−4)及びカイネート(GluR5−7)サブタイプに分類されるグルタメート受容体は脳における興奮性シナプス伝達の主要な仲介体である。これらの受容体は刺激性毒性(excitotoxicity)及び長期間相乗作用(long-term potentiation)(LTP)、特殊な形のシナプス可塑性に関連した生化学的イベントにも役割を果たす。グルタメート受容体ファミリーの多数の構成要素の定性的なmRNA発現を試験した。全ての神経細胞突起はGluR1、GluR2、GluR4及びNMDAR1 mRNAを発現した。大部分の神経細胞突起では、GluR3(15/19)、GluR5(14/19)のmRNA発現が観察されたが;GluR6 mRNAの発現は調べた神経細胞突起の約1/2において検出可能であった。これらのサブユニットの存在はサブユニット特異的PCRによって確認された。これに反して、NR2a及びNR2c mRNAの検出可能なハイブリダイゼーションシグナルを示したのは1つの神経細胞突起のみであった。したがって、グルタメート受容体のmRNA発現を測定することによって、神経細胞突起cDNAクローンを同定することができる。好ましいグルタメート受容体の例としては、GluR1、GluR2、GluR3、GluR4、GluR5、GluR6、GluR7、NR2a及びNR2bが挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
本発明の方法によって、幾つかの神経細胞突起cDNAクローンが現在同定されている。これらのクローンの中の2つは、2つの遠位突起中で同定されたファルネシルニリン酸(FPP)シンターゼmRNAに相当することが判明している。イソプレン生合成経路の一部として、FPPシンターゼはファルネシル部分を形成し、これは最終的に哺乳動物ラス(ras)タンパク質のCOOH末端CaaXモチーフに転移される。他の2つのcDNAはインターロイキン−2受容体のγ−サブユニットと腫瘍壊死因子誘導性タンパク質A20とに関してmRNAと配列類似性を有することが判明している。残りのcDNAクローンは、発表されている如何なる遺伝子配列とも殆ど配列類似性を有さない。全長RNAに相当するcDNAクローンの配列を決定することによって、mRNAの一次配列と二次構造特徴とがmRNAの標的設定と輸送とに認識要素として果たす役割を同定することができる。本発明のcDNAクローンは表1において配列番号:1〜配列番号:28として確認されている。
【0014】
【表1】

【0015】
本発明のcDNAクローンは神経精神病的疾患の診断に用いることができる。
不安定なトリプレット反復を含有するヒト遺伝子は、非限定的に、ハンチングトン病、脊髄及び延髄(bulbur)筋萎縮症と脊髄小脳性運動失調1型を包含する、幾つかの神経精神病的疾患に関連する。これらの疾患は多様な臨床病気を示し、このことがこれらの疾患の診断を困難にしている。しかし、これらの疾患を分子レベルで理解することは、臨床診断の確認として又は何らかの病気が現れる前に、個体のDNAが疾患誘導性突然変異(disease-causing mutation)を含有するか否かを直接試験する可能性を診断検査室に与える。例えば、精神遅滞を有する大抵の男性(male)における精神遅滞及び、男性より低い度合いで、精神遅滞に関してヘテロ接合体である女性(female)の一部における精神遅滞に関連した、脆弱なX染色体を配列番号:1〜配列番号:15を有する本発明のcDNAクローンによって同定することができる。本発明のcDNAクローンは出生前のスクリーニングにも利用することができる。
【0016】
mRNA発現の明確な相対的変化は逆ノーザンブロット分析法を用いても確認されている。同じ細胞からの単一の若しくは複数のニューロン突起とその細胞体との間に発現するグルタメート受容体mRNAの相対的レベルの相違が観察されている。幾つかの細胞では、定性的発現パターンが非常に類似しており、しかもハイブリダイゼーションシグナルの相対的強度は特定のサブユニットに関してより顕著であった。例えば、NMDAR1及びGluR5 mRNAの相対的レベルはHP9a、尖端神経細胞突起では、HP9b、基底神経細胞突起又は細胞体に比べて明らかに高かった。この傾向は、グルタメート受容体mRNA発現の分化した(differentiated)定性的パターンを示す他の細胞では、顕著であった。
【0017】
mRNA発現のこの分化したパターンはシナプスの生理学的機能に寄与する。mRNA発現の相対的レベルのこれらの差異は同じ細胞における異なるニューロン突起の発生をもたらす。グルタメート受容体の他に、他の幾つかのcDNAの発現を逆ノーザンブロット分析法によって評価した。Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ(CaMK II)mRNAのα−サブユニットの樹状突起局在を以前のレポートが実証している。単離された神経細胞突起の遠位セグメントと近位セグメントとにおけるmRNA発現がCaMK IIに関して強度に陽性(positive)であることが、今回判明した。したがって、突起に含まれるmRNA発現のプロフィルを測定し、高レベルの発現を示すmRNAを同定し、作用物質をこのmRNAに標的設定させることによって、ニューロンの特定のセグメントと突起とを標的にすることができる。
【0018】
アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病及び癲癇は全て、神経系における不連続領域における特定のニューロン群の変性を含む障害の例である。神経系の異なる領域、詳しくは異なる種類のニューロンが作用物質に対して異なる感受性を有するように思われる。それ故、作用物質の神経毒性を評価するためには、幾つかの種類のニューロンは他の種類よりも高感受性であると思われるので、種々な領域から単離されたニューロンにおいて作用物質を評価すべきである。しかし、特定のニューロン中のmRNA発現を測定し、特定ニューロン中のmRNA発現レベルを既知ニューロン中のレベルと比較し、mRNA発現レベルに基づいてニューロン種類を同定することによって、ニューロンの種類を同定することができることが、今回判明した。したがって、特定のニューロン種類に対する作用物質の神経毒性を混合された幾つかのニューロン種類の培養物中で評価することができる。この方法では、mRNA発現をaRNA増幅処理によって測定することが好ましい。
【0019】
さらに、Liang P.等,Science,1993,257,967〜970頁によって開発されたPCRに基づく分析法、示差的表示を用いて、ニューロン中の複雑なmRNA発現を研究した。これらの実験では、2塩基伸長(two base extension)を含む、5’−プライマー及び修飾ポリチミジンプライマーとして役立つ単一10mer(OPA−5;5’−AGGGGTCTTG−3’,配列番号:29(SEQ ID NO:29))を用いて、ポリアデニル化RNAプールの特定の集団を増幅した。これらの反応の各々では、細胞体又は突起と用いられるプライマーの組合せとに特有なバンドパターン(banding pattern)が観察された。3セットの細胞からのmRNAの示差的表示(DD)を図1に示す。神経細胞突起のDDプロフィルの補体(complement)は多数のmRNA種を示した。PCR生成物のこれらのパターンは、mRNAが示差的に分布することを実証する。例えば、2個の神経細胞突起が離断され、単離された典型的な細胞では、同じ分子サイズで個々の神経細胞突起間を移動する転写産物(transcript)が存在する。この状況は同じ突起の近位セグメントと遠位セグメントにおいて、及び単一突起の遠位分岐点において繰り返して見られる。1つ以上の神経細胞突起において及び神経細胞突起とそれらの対応細胞体との間に幾らかの生成物が同時に検出されるが、個々の神経細胞突起と、個々の神経細胞突起のセグメントとに特有である非常に多くの転写産物が存在する。媒質とtRNAのサンプルは示差的表示を用いてもバンドパターンを全く表示しなかった。
【0020】
周囲のグリア突起及び大グリア突起による神経細胞突起の汚染を、グリアフィブリル酸性タンパク質(GFAP)mRNAによって評価した。これらの実験に用いた神経細胞突起と細胞体とはGFAPmRNAを含まないように定めた。ニューロン突起中の多重mRNAの存在は、mRNA輸送と局部的タンパク質合成がニューロンの生理学と、発達と、再生との調節に役割を果たしていることを示唆する。
【0021】
本発明では、mRNA発現パターンを用いて、合成されたタンパク質の有無に関連した病気を診断することができる。最近数年間に、トリヌクレオチド反復(repeat)の伸長に起因する幾つかの神経学的疾患が同定されている。これらのトリプレット反復単位は通常、多形的かつエキソン的(exonic)であるが、必ずしも遺伝コードを指定(coding)しない。疾患状態では、これらは明らかに不安定であり、単一世代において中等度に又は数千反復まで伸長し、それによって遺伝子発現、メッセージ安定性又はタンパク質構造を変えることができる。したがって、疾患状態では、正常なmRNA発現パターン又はプロフィルの変化が予想される。mRNA発現パターンに付随した病気の診断に関連した方法は、特定の病気に付随した特定細胞中のmRNA発現の相対的レベルを測定し;測定された相対的レベルを確認された対照と比較し;mRNA発現レベルの比較に基づいて病気を診断することを含む。この方法では、特定の細胞がニューロンであることが好ましい。
【0022】
本発明に開示した通りのmRNA発現パターンの測定は、mRNA発現パターンに関連した病気の治療方法にも用いることができる。特定の病気に関連した特定細胞中のmRNA発現レベルを測定し、同じ種類の細胞中の正常レベルと比較した。mRNA発現レベルが異常である場合には、mRNA発現を変えることができる有効量の作用物質を投与する。この方法では、mRNA発現レベルをニューロン中で測定することが好ましい。mRNA発現を変えることができる作用物質の例は、非限定的に、アンチセンスオリゴヌクレオチドと、例えばドパミン、セロトニン及びサイクリックAMPのような薬剤とを包含する。このような作用物質は単独で又は薬剤学的に受容される適当なキャリヤーと組合せて、有効量で投与される。“有効量”とは、mRNA発現を調節するために充分である、投与されるべき作用物質の濃度を意味する。このような濃度は本明細書の開示に基づいて当業者によってルーチンに決定されることができ、患者の年齢、体重及び病気に依存する。適当な薬剤学的に受容されるキャリヤーは技術上周知であり、例えばGennaro,Alfonso編集,Remington’s Pharmaceutical Sciences,第18版(1990),Mack Publishing Co.,ペンシルバニア州,イーストン,この分野における標準的な参考書に述べられている。製薬的キャリヤーは予定の投与ルートと、標準的な製薬法(standard pharmaceutical practice)とに従って選択することができる。
【0023】
例示のために、以下に非限定的実施例を記載する。
実施例
実施例1:神経細胞突起の用意
海馬をED20−21ラット胎児から離断し、トリプシン中で解離させ、培地1mlにつき30,000〜100,000の生存細胞で、35mm培養ペトリ皿中に維持したポリリシン被覆ガラスカバースリップ上にプレーティングした(plated)。プレーティング後1日目に、0.5mlの培地を20mMカリウム含有培地と置換した。その後、培養物に1週間に1回、1滴の高K+培地を供給した。
【0024】
21〜28日間の培養後に、実験を実施した。細胞体とそれらの神経細胞突起とを同じ条件下で異なる3日間、異なる動物から培養された細胞から採取した。これらの各期間中に、培養培地のサンプルも吸引して、aRNA処理によって処理して、死にかかっている細胞(dying cell)からの培養培地中のmRNAの可能な存在を評価した。
【0025】
実施例2:mRNAバンドパターンの測定
1.5〜1の上下比(upper-lower ratio)でのHot Start方法(パーキンエルマー(Perkin Elmer);製品#N808−0100)を用いて、25μl量で反応を実施した。反応は200μMのdATP、dGTP及びTTPと、4μMのdCTPと、5μCiの33P−dCTP又は4μCiの32P−dCTP又は18.75μCiの35S−dATP(NEN/Dupont)と、0.4μMのOPA−5又は他の10mers(オペロンテクノロジーズ(Operon Technologies))と、0.6μMのオリゴA、B又はCと、2.5mMのMgCl2と、1.25単位のAmpliTaqポリメラーゼ(パーキンエルマー(Perkin Elmer))と、1ラウンドのみのaRNA増幅によって予め処理したDNAの1:10希釈物 1μlとを含有した。これらの条件下で、プライマーは反応に用いた鋳型の量に対して非常に過剰である。Biosyclerサーモサイクラー(thermocycler)において、反応を94℃において30秒間、40℃において90秒間及び72℃において45秒間、30ラウンド循環させ、最終的に72℃において5分間延長して実施した。約5μlの反応を6%アクリルアミド/7M尿素ゲル上に担持させた。ゲルを真空乾燥させ、XARフィルムに接触させた。図1に示したゲルは33P−dCTPを用いた。これらの反応はサンプルに特有なバンディングパターンを示した。
【0026】
実施例3:cDNA合成
第1鎖cDNA(first strand cDNA)合成のための試薬を含むマイクロピペットは、また5μMジチオトレイトールと、0.5単位/μlでのRNAsin(プロメガ(Promega),ウイスコンシン州,マジソン(Madison))をも含有した。トリクロロ酢酸沈降カウントと、mRNAのサイズ分布を評価するためのノーザンブロット分析とに基づく増幅効率はジギトニンの有無によって異ならなかった。2ラウンドの増幅によって処理したアンチセンスRNAを、適当な制限酵素によって線状にし、スロットブロット装置上に真空によって塗布した、等量のグルタメート受容体cDNAを含むサザンブロットに加えた。無作為につくられた様々な配列を持った(random-primed)ベクターcDNAクローン、pBluescript SK(ストラテジーン(Stratagene),カリフォルニア州,ラジョラ(La Jolla))を剥離したブロットに加えて、各スロット中のDNAの存在を実証した。走査レーザーデンシトメーター(Scanning Laser Densitometer)(モレキュラーダイナミックス(Molecular Dynamics),カリフォルニア州,サニーベール(Sunnyvale))を用いて、オートラジオグラフ上で走査デンシトメトリー分析を実施した。試験した各神経細胞突起又は細胞体に関して、ハイブリダイゼーションシグナルをリボソームRNAに標準化した。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】図1は3種類の代表的な細胞の示差的な表示である。単一オリゴヌクレオチド、OPA−5を3’−プライマーとして用いた。3種類の修飾オリゴ−dT11プライマー(オリゴA,5’−T11AC−3’;オリゴB,5’−T11CA−3’;オリゴC,5’−T11GC−3’)と共に、示差的な表示反応が単一海馬細胞からの別々の神経細胞突起(HP3−7とHP3−8)(図1Aに示したパネルa)、同じ突起の近位セグメント(HP2−10)と遠位セグメント(HP2−12)と別の分離突起(HP2−11)(図1Bに示したパネルb)、及び同じ突起の遠位分岐点(HP3−5とHP3−6)(図1Cに示したパネルc)上で行われた。これらの神経細胞突起の各々は実施例1に記載した通りに単離した。パネルaとb(図1Aと1B)においては、対応する細胞体(パネルaにおけるHP3−9;及びパネルbにおけるHP2−13)が単離された。幾つかの神経細胞突起(例えば、図1Aに示したパネルa中のレーン5)中に発現された多数のmRNAの他に、神経細胞突起間又は神経細胞突起セグメント間(閉鎖矢じり)と、神経細胞突起とそれらの細胞体の間(開放矢じり)に幾つかの共有されるPCR生成物が存在する。これらのデータは少なくとも3回再現された。各パネルには、単離前の細胞と問題の神経細胞突起との位相差顕微鏡写真を示す。各突起に垂直な黒ずんだ棒状部分(dark bars)はおおよその離断点(transection point)を表す。
【図1B】図1は3種類の代表的な細胞の示差的な表示である。単一オリゴヌクレオチド、OPA−5を3’−プライマーとして用いた。3種類の修飾オリゴ−dT11プライマー(オリゴA,5’−T11AC−3’;オリゴB,5’−T11CA−3’;オリゴC,5’−T11GC−3’)と共に、示差的な表示反応が単一海馬細胞からの別々の神経細胞突起(HP3−7とHP3−8)(図1Aに示したパネルa)、同じ突起の近位セグメント(HP2−10)と遠位セグメント(HP2−12)と別の分離突起(HP2−11)(図1Bに示したパネルb)、及び同じ突起の遠位分岐点(HP3−5とHP3−6)(図1Cに示したパネルc)上で行われた。これらの神経細胞突起の各々は実施例1に記載した通りに単離した。パネルaとb(図1Aと1B)においては、対応する細胞体(パネルaにおけるHP3−9;及びパネルbにおけるHP2−13)が単離された。幾つかの神経細胞突起(例えば、図1Aに示したパネルa中のレーン5)中に発現された多数のmRNAの他に、神経細胞突起間又は神経細胞突起セグメント間(閉鎖矢じり)と、神経細胞突起とそれらの細胞体の間(開放矢じり)に幾つかの共有されるPCR生成物が存在する。これらのデータは少なくとも3回再現された。各パネルには、単離前の細胞と問題の神経細胞突起との位相差顕微鏡写真を示す。各突起に垂直な黒ずんだ棒状部分(dark bars)はおおよその離断点(transection point)を表す。
【図1C】図1は3種類の代表的な細胞の示差的な表示である。単一オリゴヌクレオチド、OPA−5を3’−プライマーとして用いた。3種類の修飾オリゴ−dT11プライマー(オリゴA,5’−T11AC−3’;オリゴB,5’−T11CA−3’;オリゴC,5’−T11GC−3’)と共に、示差的な表示反応が単一海馬細胞からの別々の神経細胞突起(HP3−7とHP3−8)(図1Aに示したパネルa)、同じ突起の近位セグメント(HP2−10)と遠位セグメント(HP2−12)と別の分離突起(HP2−11)(図1Bに示したパネルb)、及び同じ突起の遠位分岐点(HP3−5とHP3−6)(図1Cに示したパネルc)上で行われた。これらの神経細胞突起の各々は実施例1に記載した通りに単離した。パネルaとb(図1Aと1B)においては、対応する細胞体(パネルaにおけるHP3−9;及びパネルbにおけるHP2−13)が単離された。幾つかの神経細胞突起(例えば、図1Aに示したパネルa中のレーン5)中に発現された多数のmRNAの他に、神経細胞突起間又は神経細胞突起セグメント間(閉鎖矢じり)と、神経細胞突起とそれらの細胞体の間(開放矢じり)に幾つかの共有されるPCR生成物が存在する。これらのデータは少なくとも3回再現された。各パネルには、単離前の細胞と問題の神経細胞突起との位相差顕微鏡写真を示す。各突起に垂直な黒ずんだ棒状部分(dark bars)はおおよその離断点(transection point)を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューロンの種類を決定する方法であって、
(a)特定のニューロン中のmRNA発現を測定すること、
(b)特定ニューロン中のmRNA発現レベルを既知ニューロン中のレベルと比較すること、および
(c)mRNA発現レベルに基づいてニューロン種類を同定すること
を含む方法。
【請求項2】
mRNA発現をaRNA増幅処理によって測定する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
特定神経細胞突起におけるmRNA発現をプロファイリングする方法であって、
(a)特定の神経細胞突起の細胞体又は突起中のmRNA集団をcDNAに転化すること、
(b)該cDNAを二重鎖にすること、
(c)該二重鎖cDNAをaRNAに線状に増幅させること、および
(d)該aRNAを逆相ノーザン分析におけるプローブとして用いて、mRNA発現プロフィルを作成すること
を含む方法。
【請求項4】
特定神経細胞突起の細胞体又は突起中のmRNA集団をオリゴ−dT−T7プライマーを用いてcDNAに転化させる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
二重鎖cDNAをT7RNAポリメラーゼを用いてaRNAに線状に増幅させる、請求項3記載の方法。
【請求項6】
mRNA発現パターンに関連した病気を判定する方法であって、
(a)特定の病気に関連した特定の細胞におけるmRNA発現の相対的レベルを測定すること、
(b)測定された相対的レベルを確認された対照と比較すること、および
(c)mRNA発現レベルの比較に基づいて、病気を判定すること
を含む方法。
【請求項7】
特定の細胞がニューロンである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
病気が神経精神病障害である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
病気が脆弱性X症候群である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
配列番号:1から配列番号:28までを含むcDNAクローン。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【公開番号】特開2006−68021(P2006−68021A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310167(P2005−310167)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【分割の表示】特願平8−515541の分割
【原出願日】平成7年11月3日(1995.11.3)
【出願人】(500429103)ザ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ペンシルバニア (102)
【Fターム(参考)】