説明

医用器具、脈管内ステント及び投薬用カテーテル

【課題】治療中、少なくとも一部が血管壁に接触する外面を備えた本体部分を有する医用器具、例えば、ステント又はバルーンカテーテルのバルーンを提供すること。
【解決手段】本体部分は、血管管腔内へ挿入可能な大きさになっている第1の位置から、外面の少なくとも一部が血管管腔壁と接触する第2の位置になるよう拡張できる。医用器具は、本体部分の外面の少なくとも一部に被着され、外面からの制御された放出が意図されている薬又は治療物質を含む第1の被膜を有する。医用器具は、第1の被膜の少なくとも実質的な部分を覆う第2の被膜を更に有している。第2の被膜は、本体部分が血管管腔内への挿入の際、第1の位置にあるときに薬又は治療物質の溶出をほぼ阻止する。第2の被膜の材料は、第2の位置への医用器具の本体部分の拡張中に亀裂を生じ、治療物質が第2の被膜に生じた多数の裂け目を通って溶出できるように比較的非弾性的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被膜が表面の一部に被着された医用器具、特に拡張可能なステントに関する。特に、本発明は、ほぼ不浸透性の表面被膜に関し、この表面被膜は、治療物質の放出が望まれ、表面被膜の裂け目を通ってかかる放出が達成されるときまでかかる治療物質を周囲環境から保護する。
【背景技術】
【0002】
血管形成術が広く行われているが、後で生じる可能性のある出来事として突然の閉鎖及び再狭窄が認識されている。突然の閉鎖は、拡張術実施後最初の数時間経過後直ぐに又はその間に生じる血管の急性閉塞をいう。突然の閉鎖が起こると、その結果、もし血液の流れが適宜回復されなければ心筋梗塞になる場合がある。突然の閉鎖の主要なメカニズムは、動脈の断裂及び(又は)血栓症である。再狭窄は、当初の血管形成術が首尾よく行われた後、動脈が再び狭くなることをいう。再狭窄は主として、血管形成術の実施後最初の6か月以内に起こり、これは、動脈壁の細胞成分の増殖及び移動に起因すると考えられている。
【0003】
突然の閉鎖及び再狭窄の影響を機械的に抑制するために脈管内ステントが血管管腔の拡張セグメント内に配置される。米国特許第5,514,154号では、発明者のロー(Lau )氏等は、長手方向軸線に沿って比較的可撓性のある拡張可能なステントを開示している。この可撓性により、曲りくねった体内管腔を通るステントの送達が容易になる。さらに、ステントは、拡張状態では、埋め込み時に体内管腔、例えば動脈の開存性を維持するのに十分、半径方向に剛性且つ安定性がある。しかしながら、かかるステムを用いても、突然の閉鎖は無くならず、再狭窄も無くならなかった。
【0004】
最近における開発は、血管形成術又は他の介入法によって治療された血管の領域にトロンボゲン形成抑制剤及び他の薬物を与えようとするステントに向けられた。米国特許第5,464,650号において、発明者であるバーグ(Berg)氏等は、溶剤、溶剤中に溶解させたポリマー及び溶媒中に分散させた治療物質を含む溶液をステント、特にその組織接触面に塗布することにより脈管内ステントを製造する方法を開示している。溶液をステントに塗布した後、次に溶剤を蒸発させると後にポリマーと治療剤による表面処理部が残る。バーグ氏等は、これら器具が、治療後の最初の数時間及び数日にわたる短期投薬と治療後数週間及び数か月後にわたる長期動脈の両方を行うことができるということを主張している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
各種器具、例えばステントに被着される現在の薬放出被膜に関する目下の課題は、望ましくない全身性の副作用を生じさせないで、体内の標的部位のところでの局所的な薬の治療濃度を達成することにある。脈管ステントの埋込みは、これまた望ましくない全身性の副作用を生じさせる薬に関して局所療法が必要とされる最も重要な事例の一つである。ステントは、留置中及び埋込みの際、流動中の血液の流れの中に置かれるので、望ましくない量の治療物質が血流中に入ることにより望ましくない全身性の副作用が起こる恐れがある。さらに、ステントの位置決め中に、何回にもわたって治療物質が血流中に放出されると、ステントを拡張させた時に実際の局所治療に使える量が殆ど無く、その結果、不適切な局所投薬となる。脈管内手段を介して局所投薬を行う多くの試みは、埋込み中及び埋込み後に全身的観点からの治療物質の放出制御に対する取組に失敗した。
【0006】
したがって、当該技術分野において、望ましくない副作用を生じさせずに、例えば望ましくない量の薬が血流に入らないようにして所定部位のところに治療薬の高い局所濃度を維持できる局所療法を提供する手段及び方法が要望されている。特に、標的治療野のところにおける血管壁近くの血流の境界層に直に適当な濃度の治療剤を与え、それにより全身性の副作用を大幅に減少させると共に治療の成功を達成するのに必要な薬の量を大幅に減らすことが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、放出可能な薬又は治療物質層に覆い被さる薄い層を含む医療器具及びこの医用器具の製造方法を提供する。この薄い被覆層は、体内管腔内における医療器具の位置決め及び展開中、薬層を保護する。薄い被覆層は、医用器具が体内管腔内の所望の位置に配置され、拡張されるまで治療物質の溶出を本質的に阻止する選択された厚さのポリマー材料のものであるように選択されている。医用器具の拡張は、被覆層全体にわたり裂け目を生じ、かかる裂け目を通って治療物質が溶出する。この設計では、治療物質は、薬が血液の流れに入って展開部位から散らばることに起因する全身性の副作用を実質的に減少させた状態で選択された局所投与部位に適用されると考えられる。
【0008】
本発明は、脈管系内に挿入される拡張可能なステントに付着された状態の薬又は治療物質を局所投与と連携させると有用である。本発明は、血液又は他の身体流体環境内で溶けて移動する傾向のある水溶性の薬又は治療物質を利用すると特に有利である。また、薬を親水性ポリマーキャリヤで医用機器上に設けた状態で被覆保護層を用いても有利であり、この親水性ポリマーキャリヤは、医用器具を体内管腔内で選択された部位に配置すると長期間にわたって薬又は治療物質を溶解させて放出するようになっている。医用器具の拡張の際に亀裂を生じる保護材料の第2の又は覆い被さる層は好ましくは、生分解性ポリマーであり、この生分解性ポリマーは、長期間にわたり身体によって吸収されるが、医用器具を血管管腔内に配置するのに必要な時間の間、薬又は治療物質の溶出を阻止する。
【0009】
本発明の好ましい実施形態では、医用器具は、同一場所での狭窄部の治療と関連して血管管腔壁、例えば動脈壁を治療するために設計されたものである。この医用器具は好ましくは、外面を備え、血管管腔内へ挿入可能な大きさになっている第1の位置から、外面の少なくとも一部が管腔壁と接触する第2の位置になるよう拡張可能な本体部分を有する。好ましい医用器具は、医用器具の本体部分の外面の少なくとも一部に被着され、少なくとも一部が血管壁の治療のための治療物質から成る第1の被膜を有する。好ましい実施形態では、第1の被膜は、好ましくは長期間にわたる薬又は治療物質の放出量を制御するポリマーキャリヤと組み合わせて薬又は治療物質を有する。治療物質又は薬は、好ましい実施形態では、血管管腔内又は血管壁のところでの流体との接触に応答して第1の被膜から出る。
【0010】
第1の被膜に混ぜ込むことができ、或いはポリマーキャリヤを用いて第1の被膜中に含ませることができる好ましい薬又は治療物質としては、ヘパリン、抗生物質、ラジオパク剤、トロンボゲン形成抑制剤、増殖抑制剤、脈管形成抑制剤及びこれらの組合せが挙げられる。特定の薬は、タクソル、タクソル誘導体、コルヒチン、ビンブラスチン及びエポチロンであるのがよい。薬又は治療物質の好ましいポリマーキャリヤは、生分解性物質であり、かかる生分解性物質は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、酸化ポリエチレン、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリ(オルトエステル)、これらの混合物又はコポリマーであるのがよい。また、ポリマー材料は、非生分解性ポリマー、例えばポリウレタン、ポリシロキサン、ポリアクリレート及びこれらポリマー材料の混合物及びコポリマーを含むよう選択されたものであってよい。
【0011】
本発明は、好ましくは第1の被膜の少なくとも実質的な部分を覆う第2の被膜を有する。第2の被膜は少なくとも一部が、医用器具の本体部分が管腔内への挿入の際及び管腔内に配置されている間、第1の位置にあるときに薬又は治療物質の溶出をほぼ阻止する。さらに、第2の被膜の材料は、第2の位置への医用器具の本体部分の拡張中に亀裂を生じ、薬又は治療物質が第2の被膜に生じた裂け目を通って溶出できるように比較的非弾性的であることが好ましい。本発明の第2の被膜は、拡張可能なステント又は投薬バルーンと組み合わせて用いられると良好に働く。第2の被膜は好ましくは、ポリマー材料であり、かかるポリマー材料としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリ(オルトエステル)、これらの混合物及びコポリマーが挙げられる。好ましい実施形態では、第2の被膜の厚さは、約0.01μm〜約5.0μmである。
【0012】
本発明の好ましい医用器具は、複数の相互に連結された柱状部材で構成された外面を備え、柱状部材相互間に隙間が形成されている全体として管状の構造体を有するステントである。全体として管状の構造体は、ステントが脈管内へ挿入可能な大きさになっている第1の位置から、ステントの外面のうち少なくとも一部が血管壁に接触する第2の位置になるよう拡張可能である。ステントの拡張に伴って、相互に連結された柱状部材の撓み及び曲げが全体として管状の構造体全体にわたり生じる。ステント表面を覆っていて、配置中、治療物質又は薬を保護する第2の被膜は、拡張中のステント上における柱状部材の撓み及び曲げの際に亀裂を生じる。
【0013】
本発明の第2の被膜は又、医用器具、例えばバルーンカテーテルに利用でき、この場合、第2の被膜は、バルーンの少なくとも一部に被着状態で設けられ、このバルーンは、折畳み又は非膨張状態の第1の位置から、バルーンの外面の少なくとも一部との接触によって脈管系管腔壁の治療に適した膨張状態の第2の位置になるよう膨張可能である。薬又は治療物質を覆っている第2の被膜はこの場合も又、バルーンの膨張時に、被膜が亀裂を生じ、それにより被膜に生じた裂け目を通る薬又は治療物質の溶出を可能にするよう比較的非弾性的である。
【0014】
本発明によれば、管腔壁を治療する医用器具であって、外面を備え、前記管腔内へ挿入可能な大きさになっている第1の位置から、前記外面の少なくとも一部が前記管腔壁と接触する第2の位置になるよう拡張可能な本体部分と、前記本体部分の前記外面の少なくとも一部に被着され、少なくとも一部が治療物質から成る第1の被膜と、前記第1の被膜の少なくとも実質的な部分を覆う第2の被膜とを有し、前記第2の被膜は、前記本体部分が前記管腔内への挿入の際、前記第1の位置にあるときに前記治療物質の溶出をほぼ阻止し、しかも前記第2の被膜が、前記第2の位置への前記本体部分の拡張中に亀裂を生じ、前記治療物質が第2の被膜に生じた裂け目を通って溶出できるように比較的非弾性的である材料から成ることを特徴とする医用器具が提供される。
【0015】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記医用装置は、拡張可能なステントである。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記医用器具は、バルーンカテーテルである。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記治療物質は、前記第2の被膜の不在下で流体との接触に応答して前記外面から出る。
【0016】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記治療物質は、ヘパリン、抗生物質、ラジオパク剤、トロンボゲン形成抑制剤、増殖抑制剤、脈管形成抑制剤及びこれらの組合せから成る群から選択されている。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記増殖抑制剤及び脈管形成抑制剤は、タクソル(Taxol)、タクソル誘導体、コルヒチン、ビンブラスチン及びエポチロン(epothilone)から成る群から選択されている。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記流体接触は、前記管腔内の血液との接触を含む。
【0017】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記第1の被膜は、前記治療物質を通過分散させるポリマーキャリヤを更に有している。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記ポリマーキャリヤは、生分解性である。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記ポリマーキャリヤは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸(polyglycolic acid)、酸化ポリエチレン、ポリカプロラクトン(polycaprolactone)、ポリジオキサノン(polydioxanones)、ポリ無水物(polyanhydrides)、ポリホスファゼン(polyphosphazenes)、ポリ(オルトエステル)(poly(orthoesters))、これらの混合物及びコポリマーから成る群から選択されている。
【0018】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記第2の被膜は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリ(オルトエステル)、これらの混合物及びコポリマーから成る群から選択されたポリマー材料から成る。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記第2の被膜の厚さは、約0.01μm〜約5.0μmである。
【0019】
本発明の他の態様によれば、血管壁を治療するための脈管内ステントであって、複数の相互に連結された柱状部材で構成された外面を備え、柱状部材相互間に隙間が形成されている全体として管状の構造体を有し、前記全体として管状の構造体は、前記ステントが脈管内へ挿入可能な大きさになっている第1の位置から、前記外面のうち少なくとも一部が前記血管壁に接触する第2の位置になるよう拡張可能であり、前記全体として管状の構造体の前記拡張に伴って、前記相互に連結された柱状部材の撓み及び曲げが生じ、前記脈管内ステントは、前記全体として管状の構造体の前記外面の少なくとも一部に被着され、少なくとも一部が治療物質から成る第1の被膜と、前記第1の被膜の少なくとも実質的な部分を覆う第2の被膜とを有し、前記第2の被膜は、前記本体部分が前記脈管の管腔内の前記第1の位置にあるときに前記治療物質の溶出をほぼ阻止し、しかも前記第2の被膜が、前記第2の位置への拡張中に前記柱状部材の撓み及び曲げに応答して亀裂を生じ、前記治療物質が第2の被膜に生じた裂け目を通って溶出できるように比較的非弾性的である材料から成ることを特徴とする脈管内ステントが提供される。
【0020】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記治療物質は、前記第2の被膜の不在下で流体との接触に応答して前記外面から出る。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記治療物質は、ヘパリン、抗生物質、ラジオパク剤、トロンボゲン形成抑制剤、増殖抑制剤、脈管形成抑制剤、及びこれらの組合せから成る群から選択されている。
【0021】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記増殖抑制剤及び脈管形成抑制剤は、タクソル(Taxol)、タクソル誘導体、コルヒチン、ビンブラスチン及びエポチロン(epothilone)から成る群から選択されている。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記流体接触は、前記管腔内の血液との接触を含む。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記第1の被膜は、前記治療物質を通過分散させるポリマーキャリヤを更に有している。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記ポリマーキャリヤは、生分解性である。
【0022】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記ポリマーキャリヤは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸(polyglycolic acid)、酸化ポリエチレン、ポリカプロラクトン(polycaprolactone)、ポリジオキサノン(polydioxanones)、ポリ無水物(polyanhydrides)、ポリホスファゼン(polyphosphazenes)、ポリ(オルトエステル)(poly(orthoesters))及びこれらの混合物又はコポリマーから成る群から選択されている。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記治療物質は、前記第2の被膜の不在下で流体を含む水との接触の際に溶出可能である。
【0023】
本発明の他の態様によれば、外面が形成された本体部分を有する脈管内医用器具において、前記本体部分の少なくとも一部が、脈管の管腔内への挿入に適した折畳み又は非拡張状態の第1の位置から、前記外面の少なくとも一部との接触により脈管の管腔壁の治療に適した拡張状態の第2の位置になるよう拡張可能であり、前記脈管内医用器具は、前記本体部分の前記外面の少なくとも一部に被着され、少なくとも一部が治療物質から成る第1の被膜と、前記第1の被膜の少なくとも実質的な部分を覆う第2の被膜とを有し、前記第2の被膜は、前記第2の被膜が、前記第2の位置への前記本体部分の拡張中に亀裂を生じ、前記治療物質が第2の被膜に生じた裂け目を通って溶出できるように比較的非弾性的である材料から成る。
【0024】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記治療物質は、前記第2の被膜の不在下で流体との接触に応答して前記外面から出る。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記治療物質は、ヘパリン、抗生物質、ラジオパク剤、トロンボゲン形成抑制剤、増殖抑制剤、脈管形成抑制剤、及びこれらの組合せから成る群から選択されている。
【0025】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記増殖抑制剤及び脈管形成抑制剤は、タクソル(Taxol)、タクソル誘導体、コルヒチン、ビンブラスチン及びエポチロン(epothilone)から成る群から選択されている。
【0026】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記第1の被膜は、前記治療物質を通過分散させるポリマーキャリヤを更に有している。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記ポリマーキャリヤは、生分解性である。
【0027】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記ポリマーキャリヤは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸(polyglycolic acid)、酸化ポリエチレン、ポリカプロラクトン(polycaprolactone)、ポリジオキサノン(polydioxanones)、ポリ無水物(polyanhydrides)、ポリホスファゼン(polyphosphazenes)、ポリ(オルトエステル)(poly(orthoesters))、これらの混合物及びコポリマーから成る群から選択されている。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記治療物質は、前記第2の被膜の不在下で流体を含む水との接触の際に溶出可能である。
【0028】
本発明の他の態様によれば、投薬用カテーテルであって、遠方側端部及び手元側端部を備えると共に膨張用内腔を備えた長手方向に延びるシャフトと、外面を備え、前記膨張用内腔と流体連通状態で前記シャフトの遠方側端部に近接して位置したバルーン部材とを有し、前記バルーン部材は、脈管内へ挿入可能な大きさになっている萎んだ第1の位置から、前記外面のうち少なくとも一部が血管壁に接触する第2の位置になるよう膨張可能であり、前記カテーテルは、前記バルーン部材の前記外面の少なくとも一部に被着され、少なくとも一部が治療物質から成る第1の被膜と、前記第1の被膜の少なくとも実質的な部分を覆う第2の被膜とを有し、前記第2の被膜は、前記第2の被膜が、前記第2の位置への前記バルーン部材の膨張に応答して亀裂を生じ、前記治療物質が第2の被膜に生じた裂け目を通って溶出できるように比較的非弾性的である材料から成ることを特徴とするカテーテルが提供される。
【0029】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記治療物質は、前記第2の被膜の不在下で流体との接触に応答して前記外面から出る。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記ポリマーキャリヤは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸(polyglycolic acid)、酸化ポリエチレン、ポリカプロラクトン(polycaprolactone)、ポリジオキサノン(polydioxanones)、ポリ無水物(polyanhydrides)、ポリホスファゼン(polyphosphazenes)、ポリ(オルトエステル)(poly(orthoesters))、これらの混合物及びコポリマーから成る群から選択されたポリマー材料である。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記治療物質は、タクソル(Taxol)、タクソル誘導体、コルヒチン、ビンブラスチン及びエポチロン(epothilone)から成る群から選択されている。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記治療物質は、前記第2の被膜の不在下で流体を含む水との接触の際に溶出可能である。
【0030】
本発明の追加の特徴及びこれから得られる利点並びに本発明の種々の構成及び特徴は、図面の記載、好ましい実施形態の詳細な説明及び請求の範囲から明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1に示され、1997年6月13日に出願された米国特許出願第08/874,190号(発明の名称:Polymeric Layered Stents)に開示されている形式のステントは、人間の体内の種々の管腔通路を拡張させてその開存性を維持する所望の処置を行う。上記出願は、本発明の譲受人に譲渡されており、かかる出願の開示内容を本明細書の一部を形成するものとしてここに引用する。
【0032】
次に図面を参照すると(図中、同一の参照符号は、同一の要素を示している)、図1は、本発明のステント10を非拡張形態で示す斜視図である。ステント10の骨格的フレームは、好ましくは、独特な曲りくねった又は蛇行したパターンの繰り返しを形成するワイヤ状部材12を有している。この、繰り返し蛇行パターンは、多数のU字形曲り部14から成る。これらU字形曲り部14は、隙間空間16を形成している。この蛇行パターンについてその始め又は終りが認識できない状態で、ワイヤ12は、拡張可能な蛇行要素18を形成している。蛇行要素18は、ステント10の長手方向軸線に沿って配置され、互いに当接する蛇行要素18のU字形曲り部14を相互連結要素20で互いに接合できるようになっている。相互連結要素20により連続したワイヤ12から成るフレーム構造が、ステント10を形成する多数の蛇行要素18相互間に得られている。
【0033】
表面処理部30が、ステント10の骨格フレームに選択的に被着されている。この表面処理部30は、ワイヤ状部材12の外面の少なくとも一部に選択的に被着された少なくとも2つの覆い被さる被膜から成る。2つの覆い被さる被膜の機能は、図2及び図3の記載から最もよく理解され、これについては以下に説明する。
【0034】
次に図2を参照すると、図1のステントの一部が、拡大されて示されており、第1の被膜32が、ワイヤ状部材12の外面の少なくとも一部に被着されている。第1の被膜32は、少なくとも一部が治療物質又は薬から成る。好ましい実施形態では、治療物質は少なくとも一部が増殖抑制薬(anti-proliferative)又は脈管形成抑制剤(anti-angiogenic)で構成されている。この治療物質は代表的には、第1の被膜32を形成するポリマーキャリヤマトリックス中に分散状態で含まれている。マトリックスを用いることにより、混ぜ込まれた薬又は治療物質についての選択的に制御された溶出速度が得られる。ポリマーキャリヤと治療物質の比を変えることにより、治療物質がキャリヤから溶出する能力の増減が達成される。さらに別の好ましい実施形態では、治療物質の溶出速度を、生分解性ポリマーキャリヤを用いることによって制御できる。かかるポリマーキャリヤの例として、ポリ乳酸(polylactri acid :PLA)、ポリグリコール酸(polyglycolic acid)、酸化ポリエチレン(PEO)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone)が挙げられる。これら物質のホモポリマー又はコポリマー形態のいずれかを、治療物質と一緒に混ぜ込み状態で利用することができる。利用可能な他のポリマーキャリヤとしては、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリアクリレート及びこれらの混合物又はコポリマーが挙げられる。
【0035】
他の治療物質又は薬も、単独で或いは増殖抑制剤又は脈管形成抑制剤と組み合わせて第1の被膜中に混ぜ込むことができる。これら薬としては、ヘパリン、抗生物質、ラジオパク剤及びトロンボゲン形成抑制剤(anti-thrombogenic agents)を挙げることができる。
【0036】
治療物質の機能を改変するためにこれら物質を増殖抑制薬又はトロンボゲン形成抑制薬に添加するのがよい。好ましい実施形態では、ステント10の埋め込みの結果としての血液の血小板、フィブリン(線維素)、凝固因子及び細胞要素の凝集を防止するため、増殖抑制薬又は脈管形成抑制薬は、第1の被膜32を形成する他の薬と共に混ぜ込むことが可能な追加のトロンボゲン形成抑制薬を更に含有するのがよい。さらに別の好ましい実施形態では、脈管形成抑制剤は、タクソル(Taxol)、タクソル誘導体、コルヒチン(colchicine)、ビンブラスチン(vinblastine)又はエポチロン(epothilone)である。
【0037】
第2の被膜34、好ましくは最も外側の被膜は、第1の又は先に被着された被膜32の少なくとも実質的な部分を覆っている。この第2の被膜34は、第1の被膜32内に混ぜ込まれた治療物質又は薬の溶出をほぼ阻止する材料から成る。第2の被膜34は、血管管腔内の治療部位への適正な配置前に、薬又は治療物質の溶出を防止する薬又は治療物質の保護被膜として働く。さらに、この保護層は、挿入中における薬被膜層の物理的な損傷を防止する。好ましい実施形態では、治療物質の放出は、血管又は他の体内管腔内に存在する水又は他の液体との接触により高められる。このことは特に、水溶性の薬又は治療物質又は親水性であって液体、例えば水との接触時に一層多くの治療物質を放出させる傾向のあるポリマーキャリヤを用いる実施形態に当てはまる。かくして、第2の被膜34又は保護被膜の上側層は好ましくは、少なくとも血管管腔内における治療部位のところへのステントの配置に必要な時間の間、水又は体内流体に対して好ましくは不浸透性である。このように、薬の溶出は、医用器具又はステントが所要の治療部位に配置されるまで防止される。
【0038】
かくして、使用にあたり、本発明のステント又は他の医用器具をまず最初に薬又は治療物質で被覆し、次に第2の被膜又は保護被膜をこの上に被着する。第1の被膜を非拡張形態で医用器具上に被着させるのがよく、或いは変形例として、医用器具を拡張させて被覆を行い、次に血管内への配置のために収縮させてもよい。第2の被膜又は保護被膜を、医用器具が管腔内への挿入のための第1の位置にある間に、第1の被膜に覆い被さるよう形成する。好ましい実施形態では、第2の被覆材料は、第2の位置への医用器具の本体部分の拡張中、亀裂を生じるように比較的非弾性的である。図2に示すステントの部分は、図3では拡張状態で示されており、これは、第2の被膜32全体にわたり多数の割れ目又は裂け目40をはっきりと示しており、薬又は治療物質30は、裂け目40を通って溶出する。
【0039】
上述したように、第2の被膜は好ましくは、ステント又は他の医用器具の拡張により、割れ目が被膜面内に生じるよう比較的非弾性的である。これら割れ目により、これを通る薬又は治療物質の溶出が可能になる。好ましいポリマー材料としては、ポリ乳酸(polylactic acid)、ポリグリコール酸(polyglycolic acid)、ポリ無水物(polyanhydrides)、ポリホスファゼン(polyphosphazenes)又はポリ(オルトエステル)(poly(orthoesters))が挙げられる。第2の被膜の厚さは好ましくは、約0.01μm〜約5.0μmである。第2の被膜は好ましくは、生分解性であり又は生吸収性であって時間の経過につれて第2の被膜が身体によって吸収されるようになっている。
【0040】
本発明を好ましいステントとの関連で説明した。しかしながら、本明細書において開示した本発明を、第1の位置から第2の位置になるよう拡張され、結果的に第2の保護被膜の割れ目が生じるような設計になった任意のステントに用いることができる。好ましいステントは、複数の相互に連結された柱状部材又はストラットによって構成された外面を備え、これら柱状部材相互間に隙間が形成されている全体として管状の構造部材を含む。第1の位置では、ステントは、脈管系の管腔内に挿入可能な大きさ又はサイズになっている。いったん治療箇所に配置されると、ステントを拡張させて少なくとも一部が血管管腔の壁に接触する第2の位置を呈するようにするのがよい。
【0041】
ステントについて上述したような第2の保護被膜の使用法は又、医用器具、例えばバルーンタイプの投薬カテーテル又はバルーン拡張カテーテルに採用できる。図4及び図5は、バルーンカテーテル設計への本発明の適用例を示している。上述の材料及び治療物質は、このバルーンカテーテルの実施形態にそのまま適用できる。
【0042】
次に図4を参照すると、脈管系内の血管50が、狭窄部54によって部分的に閉塞状態の管腔52を備えた状態で概略的に示されている。管腔は、図示のような管腔壁56によって画定されている。バルーンカテーテル58が、血管管腔52内に挿入された状態で示されている。バルーンカテーテル58は、その遠位部分に膨らまし可能なバルーン62を備えたシャフト60を有している。バルーン62は、血管50の管腔52内への挿入に適した折り畳み又は非膨らまし形態で示されている。
【0043】
バルーン62の表面には薬又は治療物質が被着されている。好ましい実施形態では、バルーンの表面全体が薬又は治療物質を有するようバルーンが膨張位置にある間に、バルーンの表面全体を薬又は治療物質で単独或いはポリマーキャリヤに混ぜ込んだ状態で被覆する。バルーンが萎んだ又はロープロフィール状態にある間、第2の被膜又は保護被膜を被着させる。この場合もまた、この保護被膜は、治療部位のところでのバルーン膨張前のカテーテルの挿入中に露出されるバルーンの表面からの薬の溶出を防止する。
【0044】
次に、図5に参照すると、図4のバルーンカテーテル58は、バルーンが膨らまし状態で狭窄部位54を横切って配置された状態で示されている。図5に示すように、バルーンは、薬又は治療物質を含む第1の被膜30及びバルーンが萎んだ状態にあるときに被着された保護被膜である第2の被膜を有している。図5は、バルーンの膨張時にバルーンの表面被膜32中に生じる多数の裂け目40を概略的に示している。この結果、治療部位中へのかかる裂け目を通る薬又は治療物質30の溶出が生じることになる。
【0045】
本明細書に記載した本発明の多くの特徴及び利点について上述した。しかしながら、この開示は、多くの点において例示に過ぎないことは理解されよう。本発明の範囲を越えることなく、構成部分の細部、特に形状、寸法及び配置状態に関する変更を想到できる。当然のことながら、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって定められる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の例示の実施形態としてのステントの斜視図である。
【図2】第1の非拡張形態で示す図1の拡大部分斜視図であり、ワイヤ部材に選択的に被着されたポリマー表面被膜を示す図である。
【図3】第2の拡張形態で示す図2の拡大部分斜視図であり、ステントの拡張に起因して生じるポリマー表面の割れ目及びその後の治療物質の溶出を示す図である。
【図4】血管管腔内に挿入された第1の位置にある折畳み状態のバルーンを備えた本発明のカテーテルの略図である。
【図5】血管壁の治療のため第2の拡張位置にあるバルーンを備えた図4のカテーテルの略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管腔壁を治療する医用器具であって、
外面を備え、前記管腔内へ挿入可能な大きさになっている第1の位置から、前記外面の少なくとも一部が前記管腔壁と接触する第2の位置になるよう拡張可能な本体部分と、
前記本体部分の前記外面の少なくとも一部に被着され、少なくとも一部が治療物質から成る第1の被膜と、
前記第1の被膜の少なくとも実質的な部分を覆う第2の被膜とを有し、前記第2の被膜は、前記本体部分が前記管腔内への挿入の際、前記第1の位置にあるときに前記治療物質の溶出をほぼ阻止し、しかも前記第2の被膜が、前記第2の位置への前記本体部分の拡張中に亀裂を生じ、前記治療物質が第2の被膜に生じた裂け目を通って溶出できるように比較的非弾性的である材料から成る、
ことを特徴とする医用器具。
【請求項2】
血管壁を治療するための脈管内ステントであって、
複数の相互に連結された柱状部材で構成された外面を備え、柱状部材相互間に隙間が形成されている全体として管状の構造体を有し、前記全体として管状の構造体は、前記ステントが脈管内へ挿入可能な大きさになっている第1の位置から、前記外面のうち少なくとも一部が前記血管壁に接触する第2の位置になるよう拡張可能であり、前記全体として管状の構造体の前記拡張に伴って、前記相互に連結された柱状部材の撓み及び曲げが生じ、前記脈管内ステントは、前記全体として管状の構造体の前記外面の少なくとも一部に被着され、少なくとも一部が治療物質から成る第1の被膜と、前記第1の被膜の少なくとも実質的な部分を覆う第2の被膜とを有し、前記第2の被膜は、前記本体部分が前記脈管の管腔内の前記第1の位置にあるときに前記治療物質の溶出をほぼ阻止し、しかも前記第2の被膜が、前記第2の位置への拡張中に前記柱状部材の撓み及び曲げに応答して亀裂を生じ、前記治療物質が第2の被膜に生じた裂け目を通って溶出できるように比較的非弾性的である材料から成る、
ことを特徴とする脈管内ステント。
【請求項3】
投薬用カテーテルであって、遠方側端部及び手元側端部を備えると共に膨張用内腔を備えた長手方向に延びるシャフトと、外面を備え、前記膨張用内腔と流体連通状態で前記シャフトの遠方側端部に近接して位置したバルーン部材とを有し、前記バルーン部材は、脈管内へ挿入可能な大きさになっている萎んだ第1の位置から、前記外面のうち少なくとも一部が血管壁に接触する第2の位置になるよう膨張可能であり、前記カテーテルは、前記バルーン部材の前記外面の少なくとも一部に被着され、少なくとも一部が治療物質から成る第1の被膜と、前記第1の被膜の少なくとも実質的な部分を覆う第2の被膜とを有し、前記第2の被膜は、前記第2の被膜が、前記第2の位置への前記バルーン部材の膨張に応答して亀裂を生じ、前記治療物質が第2の被膜に生じた裂け目を通って溶出できるように比較的非弾性的である材料から成る、
ことを特徴とするカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−39576(P2009−39576A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300509(P2008−300509)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【分割の表示】特願2000−596868(P2000−596868)の分割
【原出願日】平成12年1月12日(2000.1.12)
【出願人】(501309129)ボストン サイエンティフィック リミテッド (1)
【Fターム(参考)】