説明

医療器具及びその製造方法

【課題】基材の材質が制限されにくく、耐久性に優れた潤滑性を有する医療器具及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の医療器具10は、管状の基材11と、基材11の外周面及び内周面の一方または両方に形成されたプライマ層12と、プライマ層12の表面に形成された架橋膜13とを有し、プライマ層12は、反応性官能基を有する高分子を含有する層であり、架橋膜13は、酸無水物基を有する高分子の加水分解物とポリオール構造を有する高分子とが架橋した膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、気管、消化管、尿道、その他の体腔あるいは組織中に挿入される医療器具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気管、消化管、尿道、その他の体腔あるいは組織中に医療器具を挿入することがある。その際に用いる医療器具としては、組織を損傷せずに、また、目的部位までに確実に挿入することを可能にする挿入性や、滑らかさが要求される。さらには、組織内に留置している間に摩擦によって組織の損傷、炎症を引き起こすことを防止するため、表面の潤滑性に優れることが要求される。
これら要求に対し、例えば、医療器具の表面にシリコーンオイル、オリーブオイル、グリセリン等の潤滑液を塗布して潤滑性を向上させることがある。しかし、この方法では、潤滑液が流れ落ちて潤滑性を維持できないことがある。
そこで、特許文献1では、酸無水物基を有する高分子とポリオールとを基材表面で反応させ、次いで水系媒体中に浸漬して架橋膜を形成させて、表面潤滑性の持続性に優れた医療器具を得る方法が提案されている。
【特許文献1】特許第3776195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の方法によってポリオレフィン等の難接着性材料製基材の表面に架橋膜を形成した場合には、架橋膜の接着性が低く、剥離しやすいため、耐久性に優れた潤滑性を有するものが得られにくかった。医療器具においては、治療用途に応じた性能を有するものが求められるが、基材の材質に制限があると、治療用途が制限される場合がある。近年、治療用途が多様化しているため、基材の材質に制限がないことは特に重要な性能である。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであって、基材の材質が制限されにくく、耐久性に優れた潤滑性を有する医療器具及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 管状の基材と、該基材の外周面及び内周面の一方または両方に形成されたプライマ層と、該プライマ層の表面に形成された架橋膜とを有し、
プライマ層は、反応性官能基を有する高分子を含有する層であり、
架橋膜は、酸無水物基を有する高分子の加水分解物とポリオール構造を有する高分子とが架橋した膜であることを特徴とする医療器具。
[2] プライマ層における反応性官能基を有する高分子が、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体を含むことを特徴とする[1]に記載の医療器具。
[3] 架橋膜における酸無水物基を有する高分子の加水分解物が無水マレイン酸共重合体の加水分解物、ポリオール構造を有する高分子がセルロースであることを特徴とする[1]または[2]に記載の医療器具。
[4] 管状の基材の外周面及び内周面の一方または両方にプライマ層を形成する工程と、
該プライマ層の表面に、酸無水物基を有する高分子の加水分解物とポリオール構造を有する高分子とを含有する塗布膜を形成し、該塗布膜を架橋処理して架橋膜を形成する工程とを有することを特徴とする医療器具の製造方法。
[5] 架橋膜を形成する工程における塗布膜の形成では、酸無水物基を有する高分子とポリオール構造を有する高分子と温度40〜90℃の温水とを混合して酸無水物基を有する高分子の加水分解物を生成させると共に塗布液を得た後、該塗布液をプライマ層の表面に塗布することを特徴とする[4]に記載の医療器具の製造方法。
[6] 酸無水物基を有する高分子Aとポリオール構造を有する高分子Bと温水Cとの質量比率(A:B:C)を1〜200:1:1〜200にすることを特徴とする[5]に記載の医療器具の製造方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明の医療器具では、基材の材質が制限されにくく、耐久性に優れた潤滑性を有している。
本発明の医療器具において、プライマ層における反応性官能基を有する高分子が、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体を含めば、架橋膜を、ポリオレフィン製の基材にも充分な接着強度で接着させることができる。
本発明の医療器具において、架橋膜における酸無水物基を有する高分子の加水分解物が無水マレイン酸共重合体の加水分解物、ポリオール構造を有する高分子がセルロースであれば、より耐久性に優れた潤滑性を付与できる。
本発明の医療器具の製造方法によれば、基材の材質が制限されにくく、耐久性に優れた潤滑性を有する医療器具を製造できる。
また、本発明の医療器具の製造方法における塗布膜の形成にて、酸無水物基を有する高分子とポリオール構造を有する高分子と温度40〜90℃の温水とを混合して酸無水物基を有する高分子の加水分解物を形成させると共に塗布液を得た後、該塗布液をプライマ層の表面に塗布すれば、充分な潤滑性、プライマ層に対する充分な密着性を確保した架橋膜を形成できる。
その際、酸無水物基を有する高分子Aとポリオール構造を有する高分子Bと温水Cとの質量比率(A:B:C)を1〜200:1:1〜200にすれば、酸無水物基の加水分解によってカルボキシ基を充分な量で形成させることができる。その結果、充分に架橋し、より高い潤滑性、プライマ層に対するより高い密着性を確保した架橋膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
<医療器具>
本発明の医療器具の一実施形態例について説明する。
図1に、本実施形態例の医療器具を長手方向に対して垂直に切断した際の断面図を示す。本実施形態の医療器具10は、管状の基材11と、基材11の外周面及び内周面に形成されたプライマ層12と、プライマ層12の表面に形成された架橋膜13とを有する。
【0007】
(基材)
基材11の材質としては、例えば、ポリウレタン、スチレン系エラストマー(スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、または、これらの水素添加物等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体)、シリコーン樹脂等の樹脂、あるいは、これら樹脂の2種以上の混合物などが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果がとりわけ発揮される点では、ポリオレフィンが好ましい。
基材11は多孔質であってもよいし、無孔質であってもよい。また、基材11の表面は平滑状であってもよいし、凹凸状であってもよい。
医療器具10として好適に用いられる点では、基材11の外径は0.2〜100mmであることが好ましく、孔径は0.1〜99mmであることが好ましい。
【0008】
(プライマ層)
プライマ層12は、基材11と架橋膜13との密着性を向上させるための層であり、具体的には、反応性官能基を有する高分子を含む層である。
反応性官能基を有する高分子としては、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体、変性ポリオレフィン(例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等)などの変性樹脂が挙げられる。プライマ層12に含まれる変性樹脂は1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
前記変性樹脂の中でも、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体が好ましい。変性樹脂が塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体であれば、基材11と架橋膜13との接着性をより高くして、架橋膜13をより剥離しにくくできるから、より耐久性に優れた潤滑性を付与できる。また、プライマ層12が塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体を含めば、基材11の材質の制限がより小さくなる。
【0009】
(架橋膜)
架橋膜13は、酸無水物基を有する高分子の加水分解物とポリオール構造を有する高分子とが架橋した膜である。
ここで、酸無水物基を有する高分子の加水分解物とは、酸無水物基を有する高分子の酸無水物基を加水分解してカルボキシ基を形成させたものである。
【0010】
酸無水物基を有する高分子としては、例えば、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体のエステル誘導体、無水マレイン酸−エチレン共重合体等の無水マレイン酸共重合体、エチレン−無水カルボン酸共重合体等の無水カルボン酸共重合体などが挙げられる。これら酸無水物基を有する高分子は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリオール構造を有する高分子としては、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース、例えば、グリセリン、ポリビニルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。これらポリオール構造を有する高分子は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】
酸無水物基を有する高分子の加水分解物とポリオール構造を有する高分子の好ましい組み合わせとしては、酸無水物基を有する高分子の加水分解物が無水マレイン酸共重合体の加水分解物、ポリオール構造を有する高分子がセルロースであることが好ましい。酸無水物基を有する高分子の加水分解物が無水マレイン酸共重合体の加水分解物、ポリオール構造を有する高分子がセルロースであれば、架橋膜13のプライマ層12に対する密着性をより高くして、架橋膜13をより剥離しにくくできるから、より耐久性に優れた潤滑性を付与できる。
【0012】
酸無水物基を有する高分子の加水分解物及びポリオール構造を有する高分子の質量平均分子量は、共に5〜500万が好ましい。これら高分子の質量平均分子量が5万以上であれば、充分な強度を有する架橋膜13を形成でき、500万以下であれば、架橋膜13を容易に形成できる。また、質量平均分子量が5〜500万であれば、架橋膜13により優れた潤滑性を付与できる。
【0013】
(作用効果)
以上説明した医療器具1では、プライマ層12を介して基材11の外周面及び内周面に架橋膜13が形成されている。したがって、架橋膜13は、高い接着性で基材11に接着され、剥離しにくいから、耐久性に優れた潤滑性を有する。また、プライマ層12によって、基材11としてポリオレフィン製のものを用いることができるから、材質の制限が小さくなる。
このような医療器具は、例えば、体内に挿入される内視鏡、内視鏡用部品、内視鏡用処置具、カテーテル、ガイドワイヤなどに適用される。
【0014】
<医療器具の製造方法>
上記医療器具10の製造方法の一実施形態例について説明する。
本実施形態例の医療器具の製造方法は、図2に示すように、プライマ層形成工程S1と、架橋膜形成工程S2とを有する方法である。
【0015】
(プライマ層形成工程)
プライマ層形成工程S1は、具体的には、第1塗布処理と乾燥処理を有して、基材11の外周面及び内周面にプライマ層12を形成する工程である。
【0016】
第1塗布処理では、基材11の外周面及び内周面にプライマ塗布液を塗布する。
ここで、プライマ塗布液は、反応性官能基を有する高分子と溶媒とを含有する塗布液である。溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、環状脂肪族類(シクロヘキサン等)、エステル類(酢酸ブチル、酢酸エチル等)、エーテル類(テトラヒドロフラン等)、芳香族類(トルエン、キシレン等)などが挙げられる。
プライマ塗布液の塗布方法としては、例えば、ディップコート、スプレーコート、カーテンコート等が適用される。
【0017】
プライマ塗布液の濃度は0.5〜15質量%であることが好ましい。プライマ塗布液の濃度が0.5質量%以上であれば、1回の塗布で充分な乾燥塗工量を確保でき、15質量%以下であれば、容易に塗工できる。
【0018】
乾燥処理では、第1塗布処理にて塗布したプライマ塗布液を乾燥する。
乾燥処理における乾燥方法としては、例えば、熱風による乾燥、赤外線照射による乾燥、真空乾燥などが挙げられる。
乾燥処理において加熱する場合には、室温〜80℃であることが好ましい。また、加熱時間は5分から48時間であることが好ましい。加熱温度が室温以上または加熱時間が5分以上であれば、確実に乾燥でき、加熱温度が80℃以下または加熱時間が48時間以下であれば、乾燥処理の生産性を高くできる。
【0019】
(架橋膜形成工程)
架橋膜形成工程S2は、具体的には、第2塗布処理と架橋処理を有して、プライマ層12の表面に架橋膜13を形成する工程である。
【0020】
第2塗布処理では、プライマ層12の表面に架橋膜形成用塗布液を塗布する。
ここで、架橋膜形成用塗布液は、酸無水物基を有する高分子の加水分解物とポリオール構造を有する高分子とを必須成分として含有し、溶媒を任意成分として含有する塗布液である。架橋膜形成用塗布液に含まれてもよい溶媒としては、酸無水物基を有する高分子の加水分解物とポリオール構造を有する高分子を溶解できるものであり、プライマ塗布液に含まれる溶媒と同じものが挙げられる。架橋膜形成用塗布液に含まれる溶媒は、プライマ塗布液に含まれる溶媒と同一であってもよいし、異なってもよい。
また、架橋膜形成用塗布液の塗布方法は、プライマ塗布液の塗布方法と同様の方法が適用される。しかし、架橋膜形成用塗布液の塗布方法は、プライマ塗布液の塗布方法と同一であってもよいし、異なってもよい。
【0021】
架橋膜形成用塗布液の濃度は0.5〜15質量%であることが好ましい。架橋膜形成用塗布液の濃度が0.5質量%以上であれば、1回の塗布で充分な乾燥塗工量を確保でき、15質量%以下であれば、容易に塗工できる。
【0022】
本実施形態例では、酸無水物基を有する高分子とポリオール構造を有する高分子とを混合した後、温水を添加して架橋膜形成用塗布液を調製する。このような調製方法によれば、潤滑性の高い架橋膜13を容易に形成できる。
ここで、温水とは、温度40〜90℃の水である。温水を混合することによって、酸無水物基を有する高分子の酸無水物基を加水分解して、カルボキシ基を形成させる。温水の温度が40℃未満であると、酸無水物基からカルボキシ基を形成させにくくなり、90℃を超えると、蒸発しやすくなるため、取り扱い性が困難になる。
【0023】
上記架橋膜形成用塗布液の調製方法では、架橋膜13における酸無水物基を有する高分子Aとポリオール構造を有する高分子Bと温水Cとの質量比率(A:B:C)を1〜200:1:1〜200にすることが好ましい。すなわち、ポリオール構造を有する高分子を1とした際に、酸無水物基を有する高分子の質量比率を1〜200、温水の質量比率を1〜200にすることが好ましい。
ポリオール構造を有する高分子を1とした際に、酸無水物基を有する高分子の質量比率を1以上にすれば、充分に架橋させつつ、充分な潤滑性、プライマ層12に対する充分な密着性を確保できる。ただし、酸無水物基を有する高分子の質量比率が200を超えると、架橋が過度になって潤滑性を損ねることがある。
ポリオール構造を有する高分子を1とした際に、温水の質量比率を1以上にすれば、酸無水物基を充分に加水分解させて、充分な量のカルボキシ基を形成させることができる。その結果、充分に架橋させつつ、充分な潤滑性、プライマ層12に対する充分な密着性を確保できる。ただし、温水の質量比率が200を超えると、酸無水物基の加水分解に寄与しない温水量が増えるため、無益である。
また、より好ましい質量比率は、ポリオール構造を有する高分子を1とした際に、酸無水物基を有する高分子の質量比率が50〜150、温水の質量比率が1〜100である。
さらに、特に好ましい質量比率は、ポリオール構造を有する高分子を1とした際に、酸無水物基を有する高分子の質量比率が50〜125、温水の質量比率が25〜75である。
【0024】
架橋処理では、第2塗布処理にて形成された塗布膜を加熱する。その際の加熱方法としては、プライマ層形成工程における乾燥処理と同じ方法を適用することができる。架橋処理における加熱方法は、乾燥処理と同一であってもよいし、異なってもよい。
架橋処理における加熱温度は基材11が加熱により変形しない温度であればよく、30〜150℃であることが好ましい。また、加熱時間は基材11が加熱により変形しない時間であればよく、5分〜48時間であることが好ましい。加熱温度が30℃以上または加熱時間が5分以上であれば、確実に架橋でき、加熱温度が150℃以下または加熱時間が48時間以下であれば、架橋処理の生産性を高くできる。
【0025】
さらに、架橋処理によって得られた架橋膜13を温水または水蒸気で5分〜48時間程度処理することが好ましい。このような処理によって、水との親和性が短時間で得られるようになり、潤滑性を短時間で発揮させることができる。
【0026】
(作用効果)
上述した製造方法では、プライマ層形成工程にて、基材11表面に、反応性官能基を有するプライマ層12を形成することができる。
また、架橋膜形成工程にて、酸無水物基を有する高分子の酸無水物基から形成させたカルボキシ基及びポリオールのヒドロキシ基を、プライマ層12の反応性官能基と反応させることができる。さらに、架橋処理により、酸無水物基由来のカルボキシ基とポリオールのヒドロキシル基とを反応させることによって、酸無水物基を有する高分子の加水分解物とポリオール構造を有する高分子とを架橋させて架橋膜13を形成することができる。このようにして形成された架橋膜13は親水性を有する上に、架橋構造によって水分を囲い込んで保持できるため、高い潤滑性を持続させることができる。
また、このような医療器具10の製造方法では、プライマ層12を介して基材11の表面に架橋膜13を形成するため、基材11がポリオレフィン製であっても架橋膜13の接着力を高くすることができる。したがって、基材11の材質が制限されにくくなり、しかも架橋膜13が剥がれにくくなるため、潤滑性の耐久性を向上させることができる。
【0027】
(他の実施形態例)
なお、本発明は、上記実施形態例に限定されない。上記実施形態例では、基材11の外周面と内周面の両方にプライマ層12及び架橋膜13を形成したが、いずれか一方の面にプライマ層12を形成し、そのプライマ層12の表面に架橋膜13を形成してもよい。しかし、組織内に挿入する医療器具の用途を考慮すれば、少なくとも外周面にプライマ層12を形成して、そのプライマ層12の表面に架橋膜13を形成することが好ましい。
【0028】
また、本発明における架橋膜の形成では、酸無水物基を有する高分子の加水分解物とポリオール構造を有する高分子とを含有する塗布膜を形成しながら、塗布膜を架橋させても構わない。具体的には、酸無水物基を有する高分子とポリオール構造を有する高分子と水とを含む塗布液をプライマ層に塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜を加熱し、酸無水物基を加水分解して塗布膜中に加水分解物を生成させると共に該加水分解物とポリオール構造を有する高分子とを架橋させても構わない。
しかし、確実に架橋膜を形成できる点では、上記実施形態例のように、酸無水物基を有する高分子とポリオール構造を有する高分子と温水とを混合して酸無水物基を有する高分子の加水分解物を生成させると共に塗布液を得た後、該塗布液をプライマ層の表面に塗布することが好ましい
【実施例】
【0029】
(実施例1)
塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三共重合体であるVAGH(ダウケミカル社製)をアセトン(和光純薬製)に溶解して、濃度が1質量%のプライマ塗布液A−1を調製した。
これとは別に、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体(VEMA、インターナショナル・スペシャルティ・プロダクツ(ISP)社製、ガントレッツ AN 169)をアセトン(和光純薬製)に溶解して、濃度が1質量%のVEMA溶液を得た。
また、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC、日本曹達製、セルニー)をアセトンに溶媒して、濃度が1質量%のHPC溶液を得た。
次いで、VEMA溶液とHPC溶液とを、VEMAとHPCの質量比率(VEMA:HPC)が50:1になるように混合し、これにより得た混合物を60℃に加熱した温水に添加し、VEMAの無水マレイン酸基を加水分解して、架橋膜形成用塗布液B−1を調製した。その際、VEMA:HPC:温水の質量比率を50:1:25とした。
次いで、前記プライマ塗布液A−1を、基材であるポリプロピレンチューブ基材にディップコート機(マインテスラ社製、MD−048)により引き上げ速度20mm/secで塗布した後、60℃で1時間乾燥させてプライマ層を形成させた。
次いで、前記架橋膜形成用塗布液A−1をプライマ層の表面にディップコート機(マインテスラ社製、MD−048)により引き上げ速度20mm/secで塗布した後、60℃で12時間乾燥させて架橋させ、さらに、60℃の温水に30分間浸漬した後、60℃で24時間乾燥させて、医療器具を得た。
【0030】
(実施例2)
基材をポリエチレンチューブ基材に変更したこと以外は実施例1と同様にして医療器具を得た。
【0031】
(実施例3)
基材をスチレン系エラストマー(クラレ社製セプトン)製のチューブ基材に変更したこと以外は実施例1と同様にして医療器具を得た。
【0032】
(実施例4)
実施例1における架橋膜形成用塗布液の調製において、VEMA:HPC:温水の質量比率を100:1:100に変更したこと以外は実施例1と同様にして医療器具を得た。
【0033】
(実施例5)
実施例1における架橋膜形成用塗布液の調製において、VEMA:HPC:温水の質量比率を50:1:50に変更したこと以外は実施例1と同様にして医療器具を得た。
【0034】
(比較例1)
架橋膜形成用塗布液に温水を添加しなかったこと以外は実施例5と同様にして医療器具を得た。
【0035】
(比較例2)
架橋膜形成用塗布液の調製において温水を添加しなかったこと以外は実施例5と同様にして架橋膜形成用塗布液B−2を調製し、この架橋膜形成用塗布液B−2をポリプロピレンチューブ基材にディップコート機(マインテスラ社製、MD−048)により引き上げ速度20mm/secで塗布した後、60℃で12時間乾燥させた。その後、60℃の温水に30分間浸漬した後、60℃で24時間乾燥させて、医療器具を得た。
【0036】
得られた実施例1〜5及び比較例1,2の医療器具の摩擦係数を以下のように測定した。測定結果を表1に示す。なお、摩擦係数は、表面潤滑性を示す指標であり、摩擦係数が小さい程、潤滑性に優れる。
【0037】
摩擦係数は、図3に示す摩擦係数測定器(新東科学社製HEIDON)により測定した。この摩擦係数測定器30は、測定試料Aが固定されると共に一方向に沿って往復動する移動台31と、測定試料Aに接する相手部材32と、相手部材32に荷重を負荷する錘33と、相手部材32及び錘33に電気的に接続されて摩擦係数を測定するための荷重変換機34とで構成されている。
この摩擦係数測定器30では、測定試料Aを移動台31に固定すると共に、測定試料Aに相手部材32を接触させる。このとき、相手部材32には錘33によって垂直荷重がかけられる。次いで、移動台31を往復動させて、測定試料Aと相手部材32とを摩擦させる。このときに生じた摩擦力を荷重変換機34によって測定して、摩擦係数を求める。
実施例1〜5及び比較例1,2の医療器具の摩擦係数の測定では、測定試料Aを水中に浸漬させた状態で行い、移動台31を1往復させたときの摩擦係数と、300往復させたときの摩擦係数を測定した。移動台31を1往復させたときの摩擦係数と、300往復させたときの摩擦係数とを比較することによって、潤滑性の耐久性を評価できる。
【0038】
【表1】

【0039】
プライマ層を介して基材表面に架橋膜が形成された実施例1〜5の医療器具では、移動台31を1往復させたときの摩擦係数と、300往復させたときの摩擦係数とに大きな差はなかった。すなわち、耐久性に優れた潤滑性を有していた。
これに対し、温水を含まない架橋膜形成用塗布液を用いて得た比較例1の医療器具では、300往復させたときの摩擦係数が、1往復させたときの摩擦係数より大幅に増加していた。
プライマ層を有していなかった比較例2の医療器具でも、300往復させたときの摩擦係数が、1往復させたときの摩擦係数より大幅に増加していた。
すなわち、比較例1,2の医療器具では、長時間の摩擦により架橋膜が剥離するため、潤滑性の耐久性が低い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の医療器具の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の医療器具の製造方法を示すフロー図である。
【図3】実施例及び比較例の医療器具の摩擦係数を測定するための装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0041】
10 医療器具
11 基材
12 プライマ層
13 架橋膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の基材と、該基材の外周面及び内周面の一方または両方に形成されたプライマ層と、該プライマ層の表面に形成された架橋膜とを有し、
プライマ層は、反応性官能基を有する高分子を含有する層であり、
架橋膜は、酸無水物基を有する高分子の加水分解物とポリオール構造を有する高分子とが架橋した膜であることを特徴とする医療器具。
【請求項2】
プライマ層における反応性官能基を有する高分子が、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の三元共重合体を含むことを特徴とする請求項1に記載の医療器具。
【請求項3】
架橋膜における酸無水物基を有する高分子の加水分解物が無水マレイン酸共重合体の加水分解物、ポリオール構造を有する高分子がセルロースであることを特徴とする請求項1または2に記載の医療器具。
【請求項4】
管状の基材の外周面及び内周面の一方または両方にプライマ層を形成する工程と、
該プライマ層の表面に、酸無水物基を有する高分子の加水分解物とポリオール構造を有する高分子とを含有する塗布膜を形成し、該塗布膜を架橋処理して架橋膜を形成する工程とを有することを特徴とする医療器具の製造方法。
【請求項5】
架橋膜を形成する工程における塗布膜の形成では、酸無水物基を有する高分子とポリオール構造を有する高分子と温度40〜90℃の温水とを混合して酸無水物基を有する高分子の加水分解物を生成させると共に塗布液を得た後、該塗布液をプライマ層の表面に塗布することを特徴とする請求項4に記載の医療器具の製造方法。
【請求項6】
酸無水物基を有する高分子Aとポリオール構造を有する高分子Bと温水Cとの質量比率(A:B:C)を1〜200:1:1〜200にすることを特徴とする請求項5に記載の医療器具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−5002(P2010−5002A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165707(P2008−165707)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】