説明

医療器具用の反応押出によるハイブリッドポリマー材料

【課題】ハイブリッドポリマー、該ハイブリッドポリマーの製造方法、および該ハイブリッドポリマーを含む医療器具を提供する。
【解決手段】このようなハイブリッドポリマーは医療器具および医療器具部品中での使用のための所定の形状の生体材料を形成するのに適切である。本開示のハイブリッドポリマーは医療器具または医療器具部品の所定の形状に形成される前に、反応押出過程を通して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ハイブリッド材料中のポリマーとセラミックスの組み合わせは、材料研究の活動的な分野である。
【背景技術】
【0002】
これらの複合材は、ポリマーの利点、例えば柔軟性、強度および易加工性と、セラミックスの利点、例えば硬度、耐久性、および熱安定性を結び付ける。ポリマーおよびセラミックスの選択と比率を変更することによって、広範囲の構造および化学的特性を有するハイブリッド材料を形成することができる。これは、医療器具の分野で非常に有用であることができる。
ナノ技術は、科学と工学の原理を用いてナノメータスケールの大きさの材料または構造を作っている新興の分野である。現在研究されているいくつかのナノ構造は、量子ドットおよび量子細線、ナノスケールの自己組織化体および薄膜、ナノ結晶、ナノチューブ、ナノワイヤー、ナノロッド、ナノ発泡体、ナノ粒子、及びナノ繊維を含んでいる。ナノスケール材料は、マクロ材料に比べて、独特で独自の特性側面を示すことができる。これらの材料によって示される、物理的な、化学的な、また生物学的な特性、例えば独特の形状、配向性、表面化学、形態(topology)および反応性は、それらの小さな寸法に由来している。これらの材料特性は、これらの材料の、独特の電気的、光学的、磁気的、機械的、熱的および生物学的特性に言い換えることができる。
【0003】
最近では、医療器具カテーテル、およびより小さな寸法が好ましい他の種類の医療器具は、寸法および質量を更に低減する必要性を有している。この寸法および質量の低減は、患者の肉体的な傷および回復時間を最小限に抑えることをもたらす改善された製品性能を可能にすることができる。ハイブリッドポリマーの耐久性および表面特性(例えば、耐磨耗性)の両方を改善する目的で、セラミックのナノ構造体をポリマーマトリックス中に混合するという試みがなされてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のナノ構造体は、ポリマーマトリックス中に効果的に混合することが困難であった。この問題への適切な解決策が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、ハイブリッドポリマー、該ハイブリッドポリマーの製造方法、およびハイブリッドポリマーを含む医療器具を提供するものである。このようなハイブリッドポリマーは、医療器具および医療器具部品中での使用のために、医用材料を所定の形状に形成するのに適切である。本開示のハイブリッドポリマーは、医療器具および医療器具部品の所定の形状に形成される前に、反応押出過程を通して形成される。
本開示はとりわけ、溶融押出の間に、反応押出過程を通してハイブリッドポリマーを造る方法を提供する。この方法で生成されたハイブリッドポリマーは、反応押出過程中に、ポリマーからのゾルゲル調製品の分離を妨げるように、ポリマーを通じて分散し、またポリマーに共有結合しているゾルゲル調製品を含んでいる。本開示の、結果として得られるハイブリッドポリマーは、高められた衝撃強度、および引張強度を有し、一方でポリマーの弾性率および結晶性への影響を最小限に抑えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は有機ポリマー(例えば、ポリオレフィン)およびゾルゲル調製品の反応押出方法を提供する。ここで用いられる「反応押出方法」は、所望の製品を形成するための、ポリマー押出過程の間の化学反応の使用である。特に、本開示は、1つの実施態様において、反応押出過程の1回の通過の間に、環状無水物の有機ポリマーへのグラフトと、それに続く無機ゾルゲル構造体の有機ポリマーへの共有結合での結合(coupling)を提供する。更なる実施態様ではまた、反応押出過程の1回の通過の間に、環状無水物が既にグラフトされているポリマーに、無機ゾルゲル構造体を共有結合で結合することが可能である。
【0007】
フリーラジカル開始剤、架橋剤、および他の反応性添加剤を反応押出過程の中へ注入することができ、ここで議論しているグラフト反応を起こすこと、および/または促進することができる。更に、反応押出方法は均一な製品の生成をもたらす一方で、いくらか不均一な製品もまた本開示の範囲内である。このような方法および/または技術の例は、とりわけスクリュー押出(単一または二軸)を含む混合過程を含むことができるが、これに限定されない。
【0008】
更に、本開示のハイブリッドポリマーから形成された所定の形状の医療器具および/または医療器具部品は、それらが体液および体内組織に実質的に不溶であること、体内に、もしくは身体の上に取り付けるように、または体液もしくは体内組織と接触するように設計もしくは構成されることで特徴付けられる。理想的には、ハイブリッドポリマーは、生物学的に安定で、生体適合性があり、また体内で、血液凝固、組織死、腫瘍形成、アレルギー反応、異物反応(拒絶反応)または炎症反応などの反応を誘発せず、意図された目的のために機能するのに要求される強度、弾力性、浸透性および柔軟性などの物理的特性を有し、清浄にでき、組立可能で、そして滅菌でき、またそれが体内に埋め込まれたまま、もしくは身体と接触したままの間に、その物理的特性と機能を実質的に維持している。この開示の目的において、「生物学的に安定な」材料は身体によって破壊されない材料であり、一方で「生体適合性」材料は、身体によって拒絶されない材料である。
【0009】
ここで用いられる「医療器具」および/または「医療器具部品」はそれぞれ、それらの作用の過程において血液もしくは他の体液および/または組織に接触する表面を備えた所定の形状を有する器具または器具部品と定義することができる。それには、例えば、手術で用いられる体外器具、例えば血液酸素供給器具、血液ポンプ、血液センサー、血液を運ぶのに用いられる管、および血液と接触し、血液はその後患者に戻される同様のものが挙げられる。これにはまた、埋め込み可能な器具、例えば代用血管、ステント、電気刺激導線、心臓系における使用のための弁(例えば、心臓弁)、矯正器具、細長いカテーテル(例えば、誘導カテーテル、バルーンカテーテル、ステントデリバリーカテーテル)、カテーテルシャフト部品、フィルタ、誘導線、シャント、センサー、膜、拡張バルーン、髄核の代替器具、蝸牛の、もしくは中耳の移植物、眼球内レンズ、それらの器具の被覆、などが挙げられる。
【0010】
本開示のハイブリッドポリマーは、医療器具の外に、非医療器具にも用いることができる。議論したように、それらは医療器具および医療器具部品に用いることができ、また生体材料として適切である。医療器具の例はここに列挙されている。非医療器具の例としては、発泡体、絶縁体、衣類、履物、塗料、被覆剤、接着剤および建築材料が挙げられる。
【0011】
ここで用いられる「a」、「an」、「the」、「1つまたはそれ以上」、および「少なくとも1つ」の用語は、交換可能に用いられ、また複数の指示対象を、文脈が違うように明確に指示していない限り、含んでいる。全ての科学用語および技術用語は、違うように定義してない限り、当技術分野において通常用いられるのと同じ意味を有していると理解される。本発明の目的のために、更に特別な用語が定義されている。
【0012】
本開示の反応押出方法で用いられる溶融押出機は、溶融反応押出の調製の間に、いくつかの作用を行うように設計されている。本開示のハイブリッドポリマーは反応押出過程の中で生成される。本開示によれば、有機ポリマー、環状無水物、フリーラジカル源、およびゾルゲル調製品を、一軸スクリューもしくは二軸スクリュー押出機などの押出機中で、混合を確実にする適切な温度、そして剪断/圧力条件下で、混和または混合することが望ましい。
【0013】
特に望ましい反応装置は、1つまたはそれ以上の口を有している。例えば、反応装置は、共回転、二軸スクリュー押出機であり、それは複数の供給口およびベント口を可能にし、また有機ポリマー中でゾルゲル調製品が均一な組成で、また均質に分布しているグラフトポリマーを生成するのに不可欠な、分配的および分散性の高強度の混合を提供する。反応は望ましくは、ポリマー溶融相中で、すなわち大量の溶媒の不存在下で、行われる。これは高度に効率的な方法である、何故なら、この方法では溶媒の除去は必要でないからである。
【0014】
1つの実施態様では、有機ポリマーは溶融押出機中へと供給され、そしてその中で溶融する。有機ポリマーが溶融した後に、環状無水物が溶融押出機中へと供給され、そしてその中で溶融混合され、そして更に押出機のバレルの下流で、フリーラジカル源、例えば過酸化物が押出機に供給され、環状無水物の有機ポリマーへの改善されたグラフト効率が得られる。ここで議論されたように、既にグラフトされた環状無水物を有するポリマーでこの方法を開始することもまた可能である。このようなポリマーの例としては、ポリ(エチレンオキサイド)−グラフト−多価電解質ポリ(アクリル酸ナトリウム)(PEO−g−PAA)、および「フサボンド(Fusabond)」の商品名で販売されている、フサボンド(Fusabond)N493D(デュポン、デラウェア州、ウィルミントン)などが挙げられるが、これらに限定されない。グラフトされた環状無水物基を有する他のポリマーの使用もまた可能である。
【0015】
有機ポリマーへの環状無水物のグラフトを成し遂げるのに十分な押出の経過の後に、すなわち、十分な時間の後に、ゾルゲル調製品が溶融され、グラフトされた有機ポリマー流へと、ペレットもしくは粉末で押出機の開放口を通して供給されるか、または、サブ押出機を通して供給される溶融物流として供給される。グラフトポリマーとゾルゲル調製品の溶融混和の後に、所望により真空口が用いられグラフトしなかった、または反応しなかった環状無水物を除去する。結果として得られるハイブリッドポリマーは、次いで、所定の形状へと、ダイを通して押出すこと、射出成形すること、またはブロー成形することを含む多くの方法で処理することができる。更に、結果として得られるハイブリッドポリマーはまた、医療用器具部品の形成において、基材の上を被覆すること、または基材と共押出することが可能である。
【0016】
環状無水物を有機ポリマー上にグラフトすることによって、結果として得られるグラフト有機ポリマーは、ゾルゲル調製品に対して、より相溶性であり、またより反応性となる。本発明のグラフトポリマーのゾルゲル調製品との相溶性は、環状無水物の選択、グラフトの水準および混合過程の条件、によって制御することができる。改質された有機ポリマーのゾルゲル調製品との相溶性を適合させること(tailoring)は、結果として得られるハイブリッドポリマーのよりよい加工性および改善された物理的特性をもたらす。
【0017】
本発明の、環状無水物がグラフトしたポリマーを形成するのに適切に用いられる有機ポリマーとしては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリブチルテレフタレート(PBT)、フッ素ポリマー、ポリアミド、ブロック共重合体、例えばペバックス(PEBAX)(登録商標)、エチレンビニルアセテート(EVA)、およびそれらの混合物などのポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。用語「ポリオレフィン」は「飽和炭化水素」としても記載することができるポリマーを指しており、その主鎖および側鎖は、付加された水素(重水素)だけを有している飽和炭素原子の単位からもっぱら構成されている。「ポリオレフィン」としては、フリーラジカル、有機金属、または他の知られたオレフィンの重合方法によって生成されたこれらの飽和炭化水素ポリマーが挙げられ、また例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、およびポリ−4−メチル−1−ペンテンが挙げられる。
【0018】
ポリオレフィンとしてはまた、イソブチレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ドデセン、4−ビニルチクロへキサン、4−ビニルシクロヘキセン、シクロアルケン、例えば、シクロヘキセン、ノルボルニレンなどの他のオレフィンモノマーと、それらとのランダム共重合体が挙げられ、また例えば、重合と水素添加に続いて、当技術分野でしばしば「ポリオレフィン」と呼ばれる「オレフィンポリマー」を生じる、ジエンモノマー、例えばブタジエン、イソプレン、シクロジエン、例えばジシクロペンタジエン、ノルボルニルジエンなどを含んでいる。エチレン−アルファオレフィン、例えばエチレン−プロピレン、共重合体および1−ブテン、1−ヘキセン、1−ペンテン、1−オクテンとのエチレン共重合体(例えば、ポリエチレン−オクテンエラストマー(POE))、および4−メチル−1−ペンテンとのエチレン共重合体も挙げることができ、通常線状低密度ポリエチレンと呼ばれる高いエチレン含有の共重合体と共に、より少ない量のエチレンを含む共重合体も含まれる。ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、プロピレン共重合体、またはエチレン/アルファオレフィンランダム共重合体、例えばエチレン/プロピレン共重合体が挙げられる。ポリプロピレンポリマーおよびその共重合体はアイソタクティック、シンジオタクティック、またはアタクティックであってよい。
【0019】
ハイブリッドポリマーに用いられる有機ポリマーの分子量は、望まれる特性および用途によって変わり得る。更に、本開示のハイブリッドポリマーの有機ポリマーの含量の質量パーセントもまた、望まれる特性および用途によって変わり得る。例えば、本開示によるハイブリッドポリマーの環状無水物の含量は、約0.1〜約20.0質量%、好ましくは約0.1〜約5.0質量%であることができる。ハイブリッドポリマーを作るのに有用な環状無水物の分子量もまた、望まれる特性および用途によって変わり得る。更に、本開示によるハイブリッドポリマーの有機ポリマーの含量は、約60〜100質量%、好ましくは80〜95質量%である。
【0020】
本開示によるハイブリッドポリマー用の環状無水物グラフトポリマーを作るために有用な環状無水物の例としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、ヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ドデシルコハク酸無水物、無水フタル酸、ナド酸無水物、ピロメリット酸無水物、およびそれらの混合物が挙げられる。本開示の特定の実施態様で特に有用な環状無水物は、無水マレイン酸である(アルドリッチケミカルカンパニー(Aldrich Chemical Company)、CAS番号108−31−6)。
【0021】
無機のゾルゲル構造体を有機ポリマーに共有結合で結合するために、ここに与えられた化合物に加えて、他の化合物を、単独でもしくは組み合わせてのいずれかで用いることもまた可能である。そのような化合物の例としては、フマル酸、ケイ酸、アクリル酸、エポキシグラフトポリマー、およびポリ無水物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
本開示の方法で用いられるのに適切なフリーラジカル源は、ここで提供される有機ポリマーに通常用いられるフリーラジカル源物質であり、有機ポリマーに通常用いられる溶融加工の範囲でフリーラジカルの発生を示すものである。具体例としては、アシルペルオキシド、例えばベンゾイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジアルキル、ジアリール、もしくはアラルキルペルオキシド、例えば、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、クミルブチルペルオキシド、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、およびビス(a−t−ブチルペルオキシイソプロピルベンゼン)、ペルオキシエステル、例えばt−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオクトエート、t−ブチルペルベンゾエート、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ジ(ペルベンゾエート)t−ブチルジ(ペルフタレート)、ジアルキルペルオキシモノカーボネート、およびペルオキシジカーボネート、ヒドロペルオキシド、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メタンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシドおよびクメンヒドロペルオキシドおよびケトンペルオキシド、例えばシクロヘキサノンペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシドなどが挙げられる。
【0023】
本開示による方法においては、フリーラジカル源は、通常グラフトを生じさせるのを可能にするのに十分な量が用いられる。更に、その量は必要とされる最小限の量を超えないことが望ましい、何故なら、ラジカル発生剤の過剰分は有機ポリマーの分解をもたらすか、および/または有機ポリマーの望ましくない架橋を生じる可能性があるためである。
【0024】
本開示のゾルゲル調製品は少なくとも1種のケイ素アルコキシドから形成することができ、結果として得られたゾルゲル調製品はグラフト有機ポリマーに結合させることができる。1つの実施態様では、ゾルゲル調製品は、下記の式(式I)の少なくとも1種のケイ素アルオキシドから形成される。
Si(OR)
【0025】
ここで、Rは有機基である。このような有機基の例としては、直鎖もしくは分岐したアルキル基、直鎖もしくは分岐したアルキレン基が挙げられ、Rは所望によりヘテロ原子を含んでおり、ヘテロ原子は該鎖中にあってもよく、または官能基などとしての該鎖からの側鎖(pendant)中にあってもよい。
【0026】
他の実施態様では、ゾルゲル調製品は、金属アルコキシド、金属酢酸塩、短鎖および長鎖脂肪酸の金属塩(例えば、M(OOCR)、Rはここで議論した有機基、またxは金属Mの酸化状態による)、およびアセチルアセトネートの金属塩からなる群から選ぶことができる。
【0027】
ここで用いられる用語「有機基」は、この開示の目的のためには、脂肪族基として分類される炭化水素基を意味するように用いられる。この開示の文脈中では、この開示のケイ素アルコキシドの適切な有機基は、ゾルゲル調製品の形成を妨げないものである。本開示の文脈中では、用語「脂肪族基」は、飽和のもしくは不飽和の、線状もしくは分岐した炭化水素基を意味している。この用語は、例えばアルキル基(例えば、−CH、これは一価の基と考えられる)(もしくは、もし−CH−のように鎖中にあるならば、アルキレン、これは二価の基と考えられる)、アルケニル(もしくは、もし鎖中にあればアルケニレン)、およびアルキニル(もしくは、もし鎖中にあればアルキニレン)基を包含するように用いられる。用語「アルキル基」は、飽和線状(すなわち、直鎖)、もしくは分岐した一価の炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、アミル、ヘプチル、ドデシル、オクタデシル、2−エチルヘキシルなどが挙げられる。用語「アルケニル基」は、1つまたはそれ以上のオレフィン系不飽和基(すなわち、炭素−炭素二重結合)を持つ、不飽和で、線状もしくは分岐状一価炭化水素基、例えばビニル基を意味する。用語「アルキニル基」は、1つまたはそれ以上の炭素−炭素三重結合を持つ、不飽和の、線状もしくは分岐した一価の炭化水素基を意味する。用語「ヘテロ原子」は、炭素以外の元素を意味する(例えば、フッ素、窒素、酸素、硫黄、塩素など)。
【0028】
1つの実施態様では、それぞれのRは独立して直鎖または分岐したアルキル基であり、所望により窒素、酸素、リン、硫黄、およびハロゲンなどのヘテロ原子を含んでいる。ヘテロ原子はRの主鎖中、または主鎖からの側鎖中にあってもよく、またヘテロ原子は、ヘテロ原子含有基(例えば、官能基)などの官能基を形成していてもよく、官能基としては、例えば、アルコール、カルボニル、エーテル、アセトキシ、エステル、アルデヒド、アクリレート、アミン、アミド、イミン、イミド、およびニトリルが挙げられ、それらは保護されていても、または保護されていなくてもよい。1つの実施態様ではRはヘテロ原子を含まない。更なる実施態様では、それぞれのRは独立して、18個以下の炭素原子を含む直鎖の、もしくは分岐したアルキル基である。更なる実施態様では、それぞれのRは独立して直鎖の、もしくは分岐したC〜Cのアルキル基である。他の実施態様では、それぞれのRは独立して直鎖の、もしくは分岐したC〜Cのアルキル基(例えば、エチル、n−プロピル、イソプロピル、またはブチル)である。1つの例としては、RはCアルキル基である。
【0029】
理解されるように、式Iについて、Rはゾルゲル調製品のいずれかの1つの中において異なっていてもよい。例えば、それぞれのSi(OR)間でRが同じか、もしくは異なっているのに加えて、ゾルゲル調製品のいずれかの1種の中においても、OR基は同じでも異なっていてもよい。
【0030】
特定のゾルゲル調製品をここに記載したが、本開示で用いられるゾルゲル調製品は、式Iの広範囲のケイ素アルコキシドからの架橋過程の中で形成することができる。例えば、ゾルゲル調製品の調製方法は、少なくとも1つの式Iのケイ素アルコキシドを、ゾルゲル反応条件の下で結合して反応混合物を形成することを含み、ゾルゲル調製品が反応混合物中で形成されることを可能にする。
【0031】
ゾルゲル法は、例えば「ゾルゲル科学:ゾルゲル法の物理と化学」(ブリンカー(Brinker)他、アカデミックプレス(Academic Press)、1990年)中に一般的に記載されている。ここで用いられる「ゾルゲル」は、少なくとも1つの前駆体が水性もしくは有機の分散体、ゾルまたは溶液である工程を含む、いずれかのゾルゲル調製品の合成方法を指している。
【0032】
ゾルゲル法を記載するのに通常3つの反応が用いられる、すなわち、加水分解、アルコール凝縮、および水凝縮である。式Iの化合物を用いたゾルゲル法を通して形成されたゾルゲル調製品の特徴と特性は、加水分解と凝縮反応の速度に影響を与える多くの因子に関係している可能性があり、それらの因子としては、例えば、pH、反応温度および反応時間、試薬濃度、触媒の性質と濃度、養生温度および時間、および乾燥が挙げられる。これらの因子を制御することで、ゾルゲル調製品の構造および特性を望むように変えることができる。
【0033】
ゾルゲル法を通した本開示のゾルゲル調製品の調製方法は、(1)式Iの1種またはそれ以上の化合物の混合物および(2)ゾルゲル反応が起こるような条件下で与えられた少なくとも1種のアルコールおよび触媒を含む試薬の水性もしくは有機の分散体またはゾル、を結合することを含んでいる。式Iのケイ素アルコキシドの例としては、直鎖および分岐したブトキシド、プロポキシド、エトキシドおよびメトキシドが挙げられる。式Iの適切なケイ素アルコキシドの具体的な例としては、テトラエトキシシラン(TEOS)が挙げられる。適切な金属アルコキシドの具体的な例としては、チタンイソプロポキシド(TMOS)、チタン(IV)n−ブトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)エトキシド、タンタル(V)エトキシド、タンタル(V)メトキシド、およびタンタル(V)トリフルオロエトキシドが挙げられる。他の金属アルコキシドの使用もまた可能である。
【0034】
更なる実施態様では、本開示のゾルゲル調製品は、アルコキシケイ素に共有結合で結合している、非金属の炭素アルコキシドおよびシルセスキオサン(POSS)カーボンナノチューブを更に含むことができる。例えば、カーボンナノチューブはアルコール(−OH)および/またはイソシアネート(−N=C=O)官能基を含んでいてよく、それらは官能化されたアルコキシケイ素、例えば(RO)Si−R−N=C=O(イソシアネートで官能化された)および/または(RO)Si−R−NH(一級もしくは二級アミンで官能化された)および/または更に官能基を有するアルコキシケイ素と、ゾルゲル反応中に反応することができる。
【0035】
適切な触媒の例としては、無機酸、例えば塩酸(HCl)、アンモニア、酢酸、水酸化カリウム(KOH)、チタンアルコキシド、バナジウムアルコキシド、アミン、KF、およびHFが挙げられる。更に、加水分解反応の速度および程度は、酸または塩基触媒の強度および濃度によって最も影響を受けることが観察されている。1つの実施態様では、酸または塩基触媒の濃度は、0.01M〜7Mであることができる。更に、ゾルゲル反応の性質は酸または塩基触媒の選択によって影響を受ける可能性があり、酸触媒条件下ではゾルゲル反応は主として線状の、または不規則に分岐したポリマーを生じ、それはからまり、また更なる分岐を形成してゲル化をもたらす。一方、塩基触媒条件下で得られるゾルゲル反応の結果は、より分離した塊(cluster)のように挙動する、より高度に分岐した塊を生じる。
【0036】
適切なアルコールの例としては、無水アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールおよびそれらの混合物が挙げられる。適切なアルコールは約1質量%未満、特に約0.5質量%未満または約0.1質量%未満の水分含量を有している。他の成分と混和性の、他の有機溶媒(または溶媒の混合物)もまた用いることができる。
【0037】
本開示によれば、ゾルゲル反応は、液相、半液相、および/または気相のいずれかである試薬と共に起こることができる。1つの実施態様では、液相中では適切な溶媒としてはテトラヒドロフラン(THF、アルドリッチケミカルカンパニー(Aldrich Chemical Company)、CAS番号109−99−9)が挙げられる。ゾルゲル反応の通常の反応条件では、20℃〜100℃の範囲の温度で起こることができる。他の温度範囲もまた可能である。
【0038】
このような方法は例示のためだけのものである。本開示は、式Iの化合物から得られるゾルゲル調製品の製造のためにここに記載された方法によって限定されない。
【0039】
医療器具および/または医療器具部品の製造方法はまた、(1)環状無水物グラフトポリマーとゾルゲル調製品との反応押出過程の中でハイブリッドポリマーを調製すること、また(2)押出で調製されたハイブリッドポリマーを医療器具部品の所定の形状へと形成すること、含むことができる。ここで議論したように、反応押出過程の中でハイブリッドポリマーを調製することには、ハイブリッドポリマーを形成する溶融過程の間にゾルゲル調製品をグラフトポリマーと結合することを含んでいる。
【0040】
ハイブリッドポリマーは、ゾルゲルの調製および/またはハイブリッドポリマーの加工を妨げない、十分な質量パーセント量のゾルゲル調製品を含んでいることができる。
【0041】
本開示のハイブリッドポリマーは、いくつかの異なる仕方で利用することができ、(1)それ自身で、(2)ハイブリッドポリマーの最終的な特性を変えるために、1つまたはそれ以上の更なる熱可塑性プラスチック(ブロック共重合体、ペバックス(PEBAX)(登録商標)、ポリアミド類)、PET、PBTなどと混合して、利用することができる。更に、最終的な材料の特性を更に高めるために、当技術分野で知られた他の成分を、この発明のグラフトポリマーに加えることができる。これらの添加剤の全ては、最終的な組成物の質量パーセントと比較して、通常は比較的に少量用いられる。本開示によって製造された反応押出されたハイブリッドポリマーの用途としては、フィルム、射出成形品、異形押出品、繊維添加剤、およびバリアー性容器が挙げられる。
【0042】
適切なポリマーは、ここで議論したように、混合および/または溶融加工に適切な粘度および分子量を有することができる。ここで議論したポリマーに加えて、本開示のハイブリッドポリマーはまた多くの種類の添加剤を含むことができる。これらの添加剤としては、酸化防止剤、着色剤、加工滑剤、安定剤、結像促進剤、充填剤などが挙げられる。本開示はまた、そのようなポリマーを形成するのに用いられるポリマーおよび化合物、また医療器具に用いることのできるそのようなポリマーから形成される生体材料を提供する。
【0043】
更なる添加剤として、金属アルコキシドM(ORを挙げることができ、nの値は金属Mの酸化状態により、またRはここで議論した有機基であるが、これらに限定されない。1つの実施態様では、金属アルコキシドはゾルゲル過程の前に式Iの混合物に混合することができる。Mは2、4、5、8、9、13、14および15族からなる金属の群から選ぶことができる。例えば、MはSi、Fe、Ti、Zr、Ir、Ru、Bi、Ba、Al、TaおよびSrからなる金属の群から選ぶことができる。他の実施態様では、M元素の例としては、非金属元素Cおよび多面体のオリゴマーシルセスキオキサン(POSS)が挙げられる。金属アルコキシドなどの添加剤の添加を、結果として得られるハイブリッドポリマーの性質を改質するために、ゾルゲル過程の中で用いることができる。
【実施例】
【0044】
表1に与えた試料を処理するために、レオコード(Rheocord)基本装置およびレオミックス(RheoMix)測定混合機を備えた、サーモハークポリラボミキサーレオメーター(ThermoHaake PolyLab Mixer rheometer)装置を配置した。レオミックス(RheoMix)混合機を160℃の温度、および50rpmの混合速度で作動させた。下記の表1に与えた量のフサボンド(Fusabond)N−493Dをレオミックス(RheoMix)測定混合機中で溶融物として調製した。次いで表1に与えた量の、予混合したTEOS、THFおよびHClのゾルゲル溶液を、表1に従って、フサボンド(Fusabond)N−493Dの溶融物中へ供給した。次いで、各試料のフサボンド(Fusabond)N−493Dをゾルゲル溶液と12.5分間混合した。試料をレオミックス(RheoMix)測定混合機から取り出し、そして乾燥させた。
【0045】
【表1】

【0046】
本発明を、種々の具体的また好ましい実施態様を参照して記載してきた。しかしながら、詳細な説明中に示した本発明の基本的な主題に対して、多くの拡張、変化、および修正があることは理解され、それらは本発明の精神と範囲の内にある。
【0047】
ここに引用した特許、特許文献、および刊行物の全ての開示は、参照によってそれの全てを、それぞれが個々に組み込まれるように、組み込まれる。この開示の範囲と精神から離れることのない、この開示への種々の修正と代替が、当業者には明らかとなるであろう。この開示は、ここに説明した具体的な実施態様によって不当に限定されないこと、およびこのような実施態様は例示のためだけに、ここに説明される特許請求の範囲によってのみ限定することを意図される開示の範囲とともに提示されていることが理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状のハイブリッドポリマーを含む医療器具部品であって、該ハイブリッドポリマーは環状無水物グラフトポリマーおよびゾルゲル調製品の反応押出の間に形成される、医療器具部品。
【請求項2】
環状無水物グラフトポリマーが、環状無水物グラフトペバックス(PEBAX)(登録商標)、環状無水物グラフトポリエチレン、環状無水物グラフトポリエチレン−オクテンエラストマー、環状無水物グラフトポリプロピレン、環状無水物グラフトポリスチレン、環状無水物グラフトポリブチルテレフタレート、環状無水物グラフトフッ素ポリマー、環状無水物グラフトポリアミド、環状無水物グラフトエチレンビニルアセテート、環状無水物グラフトポリプロピレン、環状無水物グラフトポリエチレン、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1記載の医療器具部品。
【請求項3】
環状無水物グラフトポリマーが、無水マレイン酸グラフトポリマー、無水コハク酸グラフトポリマー、ヘキサヒドロフタル酸無水物グラフトポリマー、テトラヒドロフタル酸無水物グラフトポリマー、ドデシルコハク酸無水物グラフトポリマー、無水フタル酸グラフトポリマー、ナド酸無水物グラフトポリマー、ピロメリット酸無水物グラフトポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1記載の医療器具部品。
【請求項4】
環状無水物グラフトポリマーが、無水マレイン酸グラフトグラフトポリエチレン−オクテンエラストマーである請求項1記載の医療器具部品。
【請求項5】
ゾルゲル調製品が、テトラエトキシシラン、チタンイソプロポキシド、チタン(IV)n−ブトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)エトキシド、タンタル(V)エトキシド、タンタル(V)メトキシド、およびタンタル(V)トリフルオロエトキシド、およびそれらの混合物からなる群から選ばれた化合物からゾルゲル反応を通して調製される、請求項1〜4のいずれか1項記載の医療器具部品。
【請求項6】
押出がスクリュー押出である請求項1〜5のいずれか1項記載の医療器具部品。
【請求項7】
所定の形状が射出成形を通して形成される請求項1〜6のいずれか1項記載の医療器具部品。
【請求項8】
所定の形状がブロー成形を通して形成される請求項1〜6のいずれか1項記載の医療器具部品。
【請求項9】
所定の形状が基材上の被覆である請求項1〜6のいずれか1項記載の医療器具部品。
【請求項10】
被覆が基材と共押出される請求項9記載の医療器具部品。
【請求項11】
所定の形状が拡張バルーンである請求項1〜8のいずれか1項記載の医療器具部品。
【請求項12】
所定の形状が細長いカテーテルである請求項1〜8のいずれか1項記載の医療器具部品。
【請求項13】
医療器具部品を形成する方法であって、
ハイブリッドポリマーを、環状無水物グラフトポリマーおよびゾルゲル調製品の反応押出の中で調製すること、および
押出から調製されたハイブリッドポリマーを医療器具部品の所定の形状に形成すること、を含む方法。
【請求項14】
反応押出中にハイブリッドポリマーを調製することが、ゾルゲル調製品と環状無水物グラフトポリマーを溶融過程で結合することを含む請求項13記載の方法。
【請求項15】
ゾルゲル調製品と環状無水物グラフトポリマーを結合することが、ハイブリッドポリマーをスクリュー押出機中で調製することを含む請求項14記載の方法。
【請求項16】
ハイブリッドポリマーを所定の形状に形成することが、ハイブリッドポリマーを所定の形状に射出成形することを含む請求項13〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
ハイブリッドポリマーを所定の形状に形成することが、ハイブリッドポリマーを所定の形状にブロー成形することを含む請求項13〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
ハイブリッドポリマーを所定の形状に形成することが、ハイブリッドポリマーを拡張バルーンに形成することを含む請求項13〜17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
ハイブリッドポリマーを所定の形状に形成することが、ハイブリッドポリマーを細長いカテーテルに形成することを含む請求項13〜17のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
ハイブリッドポリマーを所定の形状に形成することが、ハイブリッドポリマーを基材上の被覆に形成することを含む請求項13〜17のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
環状無水物グラフトポリマーが、環状無水物グラフトペバックス(PEBAX)(登録商標)、環状無水物グラフトポリエチレン、環状無水物グラフトポリエチレン−オクテンエラストマー、環状無水物グラフトポリプロピレン、環状無水物グラフトポリスチレン、環状無水物グラフトポリブチルテレフタレート、環状無水物グラフトフッ素ポリマー、環状無水物グラフトポリアミド、環状無水物グラフトエチレンビニルアセテート、環状無水物グラフトポリプロピレン、環状無水物グラフトポリエチレン、およびこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項13〜20のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
環状無水物グラフトポリマーが、無水マレイン酸グラフトポリマー、無水コハク酸グラフトポリマー、ヘキサヒドロフタル酸無水物グラフトポリマー、テトラヒドロフタル酸無水物グラフトポリマー、ドデシルコハク酸無水物グラフトポリマー、無水フタル酸グラフトポリマー、ナド酸無水物グラフトポリマー、ピロメリット酸無水物グラフトポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項13〜20のいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
環状無水物グラフトポリマーが、無水マレイン酸グラフトグラフトポリエチレン−オクテンエラストマーである請求項13〜20のいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
ゾルゲル調製品が、テトラエトキシシラン、チタンイソプロポキシド、チタン(IV)n−ブトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)エトキシド、タンタル(V)エトキシド、タンタル(V)メトキシド、およびタンタル(V)トリフルオロエトキシド、およびそれらの混合物からなる群から選ばれた化合物からゾルゲル反応を通して調製される、請求項13〜23のいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2009−528133(P2009−528133A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557384(P2008−557384)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際出願番号】PCT/US2007/005299
【国際公開番号】WO2007/103142
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】