説明

医療検体用ケース

【課題】 細長い形状の医療検体を迅速かつ的確に処理することが可能な医療検体用ケースを提供すること。
【解決手段】 片側の開放面7に検体Sを収容可能な検体収容溝6を設けた本体部2と、開放面7を覆うようにして本体部2に着脱可能に組み付けられる蓋部3と、両部2,3を連結するヒンジ部4とを備えた医療検体用ケース1であって、検体Sを採取針101の採取溝部103から本体部2に移動可能に構成されているものによって達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療検体用ケースに関するものであり、特に細長い形状の医療検体を円滑に処理可能な医療検体用ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオプシー・手術などによって、患者から採取された医療検体は、ろ紙の上に載置され適当に水分が除去された後、ピンセットで所定のケースに収容された後、水洗・アルコール処理・キシレン処理等を経る。このようにして処理された検体は、パラフィンに包埋された後、ミクロトームによってスライス加工され、染色・その他の処理が施されることによって、顕微鏡標本とされる。
例えば、前立腺ガンの検査では、まず前立腺特異抗原(PSA:Prostate-specific antigen)を血液マーカーとして検査を行った後、バイオプシーが行われることが一般的である。このバイオプシーの際には、検査の精度を向上させるために、一ヶ所の検体の採取のみではなく、複数ヶ所(6ヶ所〜20ヶ所程度)の検体を採取する。このため、これらの検体について、顕微鏡標本を調製することは大変な労力となる。
医療検体の処理には、人手を介することが避けられず、繁雑な作業であることから、それらを解消するために各種の工夫がなされている(特許文献1、2)。
【特許文献1】特開2005−98780号公報
【特許文献2】特開2006−220588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献では、医療検体として様々な組織から採取されたものを念頭において開発されている。つまり、検体の形状としても、一定の形状を考慮してはおらず、塊状・棒状などの各種の形状に対応可能な開発がなされていた。このため、細長い棒状の検体であっても、少なくとも数度の検体の入れ換えを手作業で行うことが必要であった。
一方、バイオプシー用の医療機器については、先端が針状となったものが市販されている(例えば、アサップバイオプシーシステム(ボストン・サイエンティフェック社製))。図13には、この機器100を用いて、医療検体を採取する様子を示した。
【0004】
この機器100の先端には、採取針101と、その採取針101の周囲を取り囲む筒部102とが設けられている。採取針101は、例えば18ゲージ(外径1.2mm)の太さを備えている。採取針101において、先端からやや後方位置には、生体組織Bの一部をサンプリングする採取溝部103が設けられている。この採取溝部103の長さは、約17mmである。採取針101を生体組織Bの近傍におき(図13(A))、手元側のスイッチ(図示せず)を押すと、まず採取針101のみが生体組織Bに素早く差し込まれる(図13(B))。次いで、筒部102が採取針101の周囲に沿いながら採取針101の先端方向に移動する(図13(C))。このとき、採取溝部103には、生体組織Bの一部が周囲から切り取られて検体Sとなる。この方法によって採取された検体Sは、採取溝部103の形状に沿っていることから、針金のように細長い形状(外径が約0.7mm〜1.0mm程度、長さが約17mm〜20mm程度)をしている。
【0005】
上記機器100は、簡易に操作できることから、例えば前立腺、腎臓、肝臓、乳腺、その他の臓器などからバイオプシーを行うために多く用いられている。このような針状の機器によって採取された医療検体については、上記特許文献1、2に記載された構造に比べて、更に作業性の良好なものを提供できる余地があった。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、特に細長い形状の医療検体を迅速かつ的確に処理することが可能な医療検体用ケースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための発明に係る医療検体用ケースは、耐薬品材料から成り複数の孔部を有すると共に片側の開放面に検体を載置可能な本体部と、耐薬品材料から成り複数の孔部を有し、前記開放面を覆うようにして前記本体部に着脱可能に組み付けられる蓋部とが備えられており、検体採取用の機器に備えられた採取針によって採取された検体を収容するものであって、前記開放面には、前記検体を前記採取針から直接移し換えのできる検体収容溝が前記本体部に凹設されていることを特徴とする。
耐薬品材料とは、検体を処理するときに用いられる薬品(例えば、アルコール、キシレン、ホルマリンなど)に耐性を備えた材料を意味する。本発明に係る医療検体用ケースは、その内部に検体を収容した状態で、これらの薬品にさらされることになるからである。そのような耐薬品材料としては、合成樹脂材料、金属材料などを用いることができる。このうち、合成樹脂材料としては、例えばポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリプロピレン、フッ素系樹脂などが例示される。また、金属材料としては、ステンレス材が例示される。
【0007】
また、本体部と蓋部とは、同じ材料で構成することもできるし、別々の材料で構成することもできる。例えば、本体部と蓋部とを共に合成樹脂材料で構成する態様、本体部を合成樹脂材料で構成し蓋部を金属材料で構成する態様、本体部を金属材料で構成し蓋部を合成樹脂材料で構成する態様、本体部と蓋部とを共に金属材料で構成する態様がある。これらのうち、本体部と蓋部とを共に合成樹脂材料で構成する場合には、両部の間をヒンジ部で連結して一体に形成することができるので好ましい態様とできる。
また、本発明のケースが薬品にさらされたときに、内部の検体に薬品が接触しなければならないことから、複数の孔部を備えることが必要となる。なお、この孔は、棒状の検体の外径よりも小さいことが好ましい。
【0008】
検体収容溝は、採取針に存在する検体を(ピンセットなどの補助器具を用いることなく)直接に本体部に移動可能な構成とされている。そのような構成としては、例えば(1)検体収容溝の一部に突起を設けておき、その突起で検体を引っ掛けて本体部に移動させる構成、(2)検体収容溝の全部または一部を採取針よりも大きな摩擦係数を備えたものとする(例えば、複数の細孔(例えば、内径が300μm〜500μm程度のもの)を設ける、メッシュ(例えば、メッシュの径が300μm〜500μm程度のもの)を設ける、複数のトゲ(例えば、長さが100μm〜200μm程度であり、径が3μm〜5μm程度のもの)を設ける、フェルト地を設ける)構成などがある。
上記発明においては、前記検体収容溝の長さ方向の両側が、前記本体部の側壁側に開放して形成されていることが好ましい。このような構成とすることにより、検体を採取した検体採取針を容易に検体収容溝に位置させ、検体を本体側に移動させる操作が行いやすくなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特に細長い形状の医療検体を迅速かつ的確に処理することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0011】
図1には、本実施形態の医療検体用ケース1(以下、単に「ケース1」という)を示した。このケース1には、例えば前立腺から採取した検体S(一人あたり、6個〜20個の検体が採取される)が収容される。なお図中には、1個のケース当り、7個の検体が収容可能に構成してあるが、本発明によれば、この収容個数は、ケース1の大きさ・設計段階において、適宜に変更することができる。また、同一人について、7個以上の検体Sが採取された場合には、別のケース1を使用して、検体Sを収容する。検体Sは、前述のように機器100によって採取されたものであり、細長い棒状のものである。ケース1は、耐薬品材料である合成樹脂から形成されており、本体部2と蓋部3がヒンジ部4によって連結された一体として製造されている。
【0012】
本体部2は、略長方形状をしており、樹脂の厚さ方向に貫通する複数の孔部5A,5Bを備えている。この孔部5A,5Bの孔径は、検体Sの孔径よりも小さくなっており、孔部5A,5Bからの検体Sの脱落が規制されている。また、検体収容溝6(後に詳述する)に設けられた孔部5Aは、内側から外側に向かって拡開するテーパー状とされており(図7を参照)、薬品が検体収容溝6に浸入しやすく、かつ検体Sが脱落しにくくなっている。
また、本体部2の片側の開放面7には、検体Sを載置可能な検体収容溝6が凹設されている。検体収容溝6の長さ方向については、図1等に示すように、本体部2の側壁8の両側に開放するようにして形成されている。この検体収容溝6の内径は、機器100の採取針101の外径よりも僅かに大きく形成されている。
【0013】
また、検体収容溝6の長さは、採取針101に設けられた採取溝部103の長さよりも長くされている。検体収容溝6の深さは、検体Sの外径と同等かそれよりも僅かに大きくされている。本体部2の先端部分(ヒンジ部4が設けられている側とは逆側)には、係合溝9が設けられている。この係合溝9には、蓋部3に設けられた弾性係合爪10が着脱可能に組み付けられる。また、本体部2の先端には、傾斜面状のラベル部11が設けられている。このラベル部11には、直接に記載またはシールを貼ることで、内部に収容された検体Sが同定できるようになっている。また、左右両側壁8の高さ方向中央には、長さ方向に段差部12が設けられている。この段差部12には、蓋部3の閉止側片13が位置することで、検体収容溝6の左右(長さ方向の端部)が閉止されるようになっている。
【0014】
蓋部3は、開放面7を覆うようにして本体部2に着脱可能に組み付けられる。蓋部3は、略長方形状をしており、その左右には、検体収容溝6を閉止する閉止側片13が突設されている。また、蓋部3には、樹脂の厚さ方向に貫通する複数の孔部14が設けられている。孔部14の孔径は、検体Sの外径よりも小さくされている。また、蓋部3の先端(ヒンジ部4とは逆側の端)において、片側には、閉止位置(下記参照)にある蓋部3を外すための操作部15が突設されている。
本体部2と蓋部3とはヒンジ部4の回りに、開放面7を開放する開放位置(図1、図2に示す位置)と、弾性係合爪10が係合溝9に嵌り込んだ閉止位置(図3、図4に示す位置)との間を移動することができる。このうち閉止位置では、検体収容溝6は、蓋部3と両閉止側片13とによって閉止されており、このとき検体収容溝6に収容された検体Sは脱落を規制される。
【0015】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用および効果について説明する。まず前述のように、機器100を用いて、採取針101の採取溝部103に検体Sを採取する。次いで、筒部102を後退させ、検体Sをむき出しにし、図6に示すように、開放位置としたケース1の検体収容溝6に採取針101の先端を載置する。ここで、採取針101を回し付けるようにして、検体Sを検体収容溝6に移動させる。このとき、採取溝部103の摩擦抵抗に比べて、孔部5Aの孔縁の摩擦抵抗の方が大きいので、検体Sは検体収容溝6の内部に移動する。
この操作を繰り返して、必要な検体Sを検体収容溝6に収容し終えたら、ケース1を閉止位置とする。このときには、図7に示すように、検体Sは検体収容溝6の内部に閉止された状態となる。
【0016】
こうして、全ての検体Sをケース1に収容した後には、図8〜図10に示すように、ケース1を薬品処理箱20に入れる。薬品処理箱20は、蓋体21と一対とされており、その内部には2個のケース1を収容した状態で薬品を注ぎ入れることができる。すなわち、薬品処理箱20と蓋体21とは、耐薬品材料から構成されており、薬品処理箱20の内部は、中空状とされると共に、その外壁からは、ケース1を支持できるように合計6本のリブ22,23が設けられている。このうち、長辺側の一対のリブ22は、ケース1の蓋部3または本体部2の中央部分に当接して支持する一方、短辺側のリブ23は、二個のケース1を区画すると共に本体部2または蓋部3の側縁に当接して支持する。
【0017】
このように本実施形態によれば、細長い形状の検体Sを採取した後には、ケース1に入れることにより、その検体Sを不必要に出し入れすることなく、迅速かつ的確に薬品処理することができる。
<変形例>
図11及び図12には、上記実施形態の変形例を示した。なお、両図において、上記と同様の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
図11では、検体収容溝6の内部に複数のトゲ30が突設されている。このトゲ30は、長さが約0.1mm〜0.2mm程度のものであり、径が約0.03mm〜0.05mm程度のものである。このようにしても上記実施形態と同様の作用及び効果を奏することができる。
【0018】
また、図12では、検体収容溝6の片側溝縁の中央部分に突起31が設けられている。この突起31の突設高さは、検体収容溝6の内径の1/6〜1/3程度のものとされている。また、突起31の長さは、採取針101の採取溝部103の長さよりも短くされている。このように構成した例では、検体Sを突起31に引っかけつつ、採取針101を回すようにして、検体Sを検体収容溝6に収容することができる。なお、この例では、検体収容溝6の内径は、採取針101の外径と同等かそれよりも小さくすることもできる。このため、一つのケース1あたりに設ける検体収容溝6の数を多く設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態における医療検体用ケースを開放位置としたときの斜視図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】医療検体用ケースを閉止位置としたときの斜視図である。
【図4】図3におけるB−B線断面図である。
【図5】本体部の開放面を示す拡大斜視図である。
【図6】検体収容溝に検体を収容しているときの様子を示す斜視図である。
【図7】検体を収容し、閉止位置としたときのケースの側断面図である。
【図8】薬品処理箱の斜視図である。
【図9】薬品処理箱にケースを収容したときの斜視図である。
【図10】薬品処理箱にケースを収容したときの平断面図である。
【図11】変形例における検体収容溝の構成を示す拡大側断面図である。
【図12】変形例における検体収容溝の構成を示す拡大斜視図である。
【図13】機器により検体を採取するときの様子を示す側面図である。(A)は検体採取前の様子を、(B)は採取針のみが生体組織に差し込まれた様子を、(C)は筒部が前進して、検体が採取されたときの様子をそれぞれ示している。
【符号の説明】
【0020】
1…医療検体用ケース
2…本体部
3…蓋部
4…ヒンジ部
5A,5B…孔部
6…検体収容溝
7…開放面
8…側壁
30…トゲ
31…突起
100…機器
101…採取針
S…検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐薬品材料から成り複数の孔部を有すると共に片側の開放面に検体を載置可能な本体部と、耐薬品材料から成り複数の孔部を有し、前記開放面を覆うようにして前記本体部に着脱可能に組み付けられる蓋部とが備えられており、検体採取用の機器に備えられた採取針によって採取された検体を収容する医療検体用ケースであって、
前記開放面には、前記検体を前記採取針から直接移し換えのできる検体収容溝が前記本体部に凹設されていることを特徴とする医療検体用ケース。
【請求項2】
前記検体収容溝の長さ方向の両側が、前記本体部の側壁側に開放して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の医療検体用ケース。
【請求項3】
前記本体部と蓋部とが合成樹脂材料によって、ヒンジ部を介して一体に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の医療検体用ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−128749(P2008−128749A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312365(P2006−312365)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】