説明

医療用チューブ及びこれを用いたカテーテル

【課題】
放射線不透過性の素線を有する編組を備えた医療用チューブにおいて、放射線不透過性を劣化させること無く、一部分の柔軟性を向上させることができる医療用チューブと、これを用いたカテーテルを提供することを課題とする。
【解決手段】
カテーテル本体40(医療用チューブ)は、管状の内層24と、内層24上に配設され、複数の素線26a、26bが網目状に巻回され、少なくとも一本の素線26aが放射線不透過性である編組26と、編組26における放射線不透過性の素線26aが切断されて成る素線片126aが、切断されていない素線126bと内層24との間に位置する柔軟編組部30と、編組26及び柔軟編組部30を被覆する外層とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管等に挿入される医療用チューブ及びこれを用いたカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管、消化管、尿管等の管状器官や体内組織に挿入されて使用されるカテーテル等に用いられる医療用チューブは、放射線透視下で使用される。このため医療用チューブの内部に配設されている編組を構成する素線を放射線不透過性の金属、例えば、タングステンから構成したものがある(例えば、下記特許文献1、2参照)。
【0003】
このような放射線不透過性の編組を用いた構成は、医療用チューブ全体の視認性を向上させることができる利点がある。
【0004】
一方、このような医療用チューブにおける一部分の剛性を低下させて柔軟性を向上させるためには、柔軟にしたい部分における編組を被覆する樹脂に硬度が小さいものを用いることが行われる。また、樹脂の硬度を調整するのみでは十分に医療用チューブの柔軟性が得られない場合には、柔軟としたい部分の編組の素線数を減少させることが行われている(例えば、下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−515778号公報
【特許文献2】米国特許第7,833,218号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した医療用チューブでは、放射線不透過性を編組の素線に求めるため、編組の素線数を減少させた場合には、放射線不透過性が劣化してしまうという問題がある。特に、医療用チューブの柔軟性が求められるのは、カテーテルの先端部分であることが通常であるため、カテーテルの先端部分の放射線不透過性が劣化することには問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、放射線不透過性の素線を有する編組を備えた医療用チューブにおいて、放射線不透過性を劣化させること無く、一部分の柔軟性を向上させることができる医療用チューブと、これを用いたカテーテルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下に列挙される手段により解決がなされる。
【0009】
<1>管状の内層と、前記内層上に配設され、複数の素線が網目状に巻回され、少なくとも一本の素線が放射線不透過性である編組と、前記編組における放射線不透過性の前記素線が切断されて成る素線片が、切断されていない前記素線と前記内層との間に位置する柔軟編組部と、前記編組及び前記柔軟編組部を被覆する外層とを備えることを特徴とする医療用チューブ。
【0010】
<2>前記編組の前記素線は、機械的強度の大きい強素線と、機械的強度の小さい弱素線とからなり、前記素線片は前記弱素線からなることを特徴とする態様1に記載の医療用チューブ。
【0011】
<3>前記強素線が一方向に巻回され、前記弱素線が他方向に巻回されていることを特徴とする態様2に記載の医療用チューブ。
【0012】
<4>前記強素線と前記弱素線の機械的強度の違いは、断面積の違いによって構成されていることを特徴とする態様2に記載の医療用チューブ。
【0013】
<5>態様1から4のいずれか1態様に記載の医療用チューブをカテーテル本体として用いたカテーテル。
【0014】
<6>前記柔軟編組部は、前記カテーテル本体の先端部分に形成されていることを特徴とする態様5に記載のカテーテル。
【発明の効果】
【0015】
<1>本発明の医療用チューブは、柔軟編組部において、素線が切断されているため、柔軟編組部により、医療用チューブの柔軟性を向上させることができる。また、素線が切断されても、柔軟編組部では、放射線不透過性の素線片が、切断されていない素線と内層との間に位置し、残存しているため、素線数を減らすことによって、柔軟性を向上させる従来の方法に比べ、柔軟編組部の放射線不透過性を向上させることができる。また、柔軟編組部においても、切断されない素線が存在しているため、医療用チューブの押し込み特性を向上させることができる。ここで、押し込み特性とは、医療用チューブを軸方向に押して体内に挿入する力である押し込み力を医療用チューブの手元側から先端側へ伝達する性能のことを言う。
【0016】
<2>本発明の態様2の医療用チューブは、編組の素線が、機械的強度の大きい強素線と、機械的強度の小さい弱素線とからなり、素線片は弱素線からなるものである。機械的強度とは、素線の切断し難さを示すものであり、素線の直径、素線の断面積、素線の厚み(径方向の長さ)、材料の硬度等が挙げられる。この構成により、バフ研磨等を用いて一方の素線(強素線)が切断することなく、他方の素線(弱素線)を切断することができるため、容易に、素線片と、これを固定する切断されていない素線を製造することができる。
【0017】
<3>本発明の態様3の医療用チューブは、態様2の強素線が一方向に巻回され、弱素線が他方向に巻回されている。このため、一方向に巻回された強素線が切断されることなく、コイル状の編組を構成するため、医療用チューブの柔軟性を一層向上させることができる。
【0018】
<4>本発明の態様4の医療用チューブは、態様2における強素線と弱素線の機械的強度の違いを、断面積の違いによって構成している。よって、バフ研磨等を用いて医療用チューブの外周から研磨を行うことにより、断面積の大きい強素線を切断することなく、断面積の小さい弱素線を切断して、素線片と、これを固定する切断されていない素線を容易に製造することができる。
【0019】
<5>本発明の態様5は、上記した医療用チューブをカテーテル本体として用いたカテーテルである。よって、このように作成されたカテーテルは、柔軟編組部によって、カテーテル本体の柔軟性を向上させることができる。また、柔軟編組部では、編組の素線数を減らすことによって、柔軟性を向上させる従来の方法に比べ、放射線不透過性の素線片によって、柔軟編組部の放射線不透過性を向上させることができる。更に、柔軟編組部においても、切断されない素線が存在しているため、カテーテルの押し込み特性を向上させることができる。
【0020】
<6>本発明の態様6のカテーテルは、柔軟編組部がカテーテル本体の先端部分に形成されているため、カテーテルを先端程柔軟な構成とすることができる。このため、カテーテルの押し込み特性を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本実施の形態の医療用チューブを用いたカテーテルの全体図である。
【図2】図2は、図1のA部の拡大図である。
【図3】図3は、編組を示した図である。
【図4】図4は、図3のA−A断面を示した図である。
【図5】図5は、柔軟編組部を示した図である。
【図6】図6は、図5のB−B断面を示した図である。
【図7】図7は、柔軟編組部を形成する工程を示した図である。
【図8】図8は、編組の素線の他の実施の形態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜図6を参照しつつ、本実施の形態の医療用チューブをカテーテル10の本体を構成する医療用チューブ(以下、カテーテル本体40)とした場合について説明する。カテーテル10は、肝臓用のマイクロカテーテルの場合を例として説明する。図1、図2、及び図5において、図示左側が体内に挿入される遠位側(先端側)、右側が医師等の手技者によって操作される近位側(後端側、基端側)である。
尚、各図において、以下に示される編組26の素線26a、26b等の他の部分に比べて小さな部材は、理解を容易にするために、他の部材の寸法との関係でやや誇張して図示されている。
【0023】
図1に示されるカテーテル10は、全長が約1550mmの管状の医療用機器である。カテーテル10は、主に、可撓性を有するカテーテル本体40と、このカテーテル本体40の遠位端に固定されたチップ14と、カテーテル本体40の近位端に固定されたコネクタ16とからなる。
【0024】
カテーテル本体40は、図2及び図4に示す様に、半径方向に内側から順に内層24、補強部材としての編組26、中間層27、及び外層28からなる。
【0025】
内層24は、樹脂から形成され、内部にガイドワイヤや他のカテーテルを挿入するためのルーメン29を構成する。内層24を形成する樹脂材料は、特に限定されるものではないが、本実施の形態では、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が用いられる。
【0026】
内層24の表面には補強部材としての編組26が配設されている。編組26は、図2〜図4に示す様に複数の機械的強度の小さい弱素線26aと機械的強度の大きい強素線26bとが網目状(メッシュ状)に編み込まれたものである。弱素線26a及び強素線26bの材料は、放射線不透過性の金属が用いられる。本実施の形態では、タングステンが用いられている。
【0027】
本実施の形態の場合、機械的強度の大小は、弱素線26a及び強素線26bの材料が同じであり、素線26a、26bの断面形状は、何れも円形であるため、素線の直径の違いを意味する。素線の直径は、カテーテル本体40の厚みを考慮して決定される。本実施の形態の場合、2本の素線が重なり合った際の合計が、約0.03mm〜約0.05mmの範囲となることが好ましく、約0.04mmに設定されている。このため、弱素線26aの直径は約0.010mmであり、強素線26bの直径は約0.030mmである。
このように一方の素線の直径(機械的強度)を他方の素線の直径(機械的強度)より小さくすることによって、後述するように、直径が小さい弱素線26aを切断しても、直径の大きな強素線26bが切断されることを防止することができる。
【0028】
即ち、機械的強度とは、素線の切断され難さを示すものであり、素線の直径の他に、素線の断面積、素線の厚み(径方向の長さ)、材料の硬度等が挙げられる。
【0029】
編組26は、8本の弱素線26aと8本の強素線26bの合計16本(8本×8本)の素線が2本毎に交互に編み込まれている。即ち、一方向には、直径の小さい弱素線26aが巻回されており、他方向には、直径の大きい強素線26bが巻回されている。図3に示すように、1本の弱素線26a又は強素線26bが内層24の表面を1周巻回する1ピッチPは、本実施の形態の場合、約1.0mm〜約1.5mmの範囲が好ましく、約1.0mmに設定されている。
【0030】
尚、編組の素線の組み合わせは、このように8本×8本に限られるものではなく、例えば、4本×4本、2本×2本の様な対称の組み合わせだけでなく、4本×8本、2本×4本等の非対称の組み合わせも採用し得る。
また、上記したように複数本、即ち、2本毎に交互に編み込む方法は、後述する素線片126aを切断されていない素線126bによって保持する上で有効であるが、1本毎に交互に編み込まれた編組を用いても良い。
【0031】
編組26の表面は樹脂からなる中間層27によって被覆されている。中間層27を形成する樹脂材料も、特に限定されるものではなく、ポリアミド、ポリアミドエラストマ、ポリエステル、ポリウレタン等が用いられる。本実施の形態では、ポリアミドエラストマが用いられている。
【0032】
中間層27の表面は外層28によって被覆されている。より詳細には、後述する柔軟部15を構成するカテーテル本体40の先端から長さL(約5.0mm)の部分以外の部分が外層28によって被覆されている。外層28は、カテーテル10の先端に位置する程柔軟になるように、硬度の異なる5〜12程度の樹脂チューブが中間層27上に配置され、溶着によって結合された構成となっている。本実施の形態の場合、7本の樹脂チューブ28a〜28gが中間層27上に配置されている。外層28の樹脂材料も、特に限定されるものではなく、ポリアミド、ポリアミドエラストマ、ポリエステル、ポリウレタン等が用いられる。本実施の形態では、ポリアミドエラストマが用いられている。
【0033】
カテーテル本体40は、先端に向けて細径化されており、先端側から後端側に向けて順に、小径部40a、テーパ部40b、及び大径部40cに分けられる。
【0034】
小径部40aは、大径部40cに比べ、外径及び内径が小さくされた部分である。小径部40aの外径は本実施の形態の場合、約0.50mm〜約0.70mmの範囲が好ましく、約0.60mmに設定されている。内径は、本実施の形態の場合、約0.35mm〜約0.55mmの範囲が好ましく、約0.45mmに設定されている。
小径部40aの軸方向の長さの合計は、約50mmである。小径部40aの軸方向の長さの内、先端の長さL(約5.0mm)の部分が後述する柔軟部15となっており、この柔軟部15より後方の部分が、上記した外層28を構成する樹脂チューブの内の最先端に位置する樹脂チューブ28aによって被覆された部分となっている。
【0035】
小径部40aの先端には、柔軟部15が形成されている。柔軟部15の軸方向の長さLは、本実施の形態の場合、約2.0mm〜約5.0mmの範囲が好ましく、約5.0mmに設定されている。
【0036】
図5は、柔軟部15の編組26の外周面を示した平面図である。図6は、図5のB−B断面、即ち、柔軟部15をカテーテル本体40の周方向に切断した断面図である。図5及び図6に示すように、柔軟部15において、編組26は、柔軟編組部30を構成している。柔軟編組部30において、直径の大きい強素線26bの外側に位置する直径の小さい弱素線26aは、切断された状態となっている。この構成は、後述するバフ研磨等の研磨過程において、編組26の外面から内面に向けて、直径の小さい弱素線26aの直径を切断するに十分な位置Gまで、研磨を行うことによって達成される。この過程によって、直径の大きい強素線26bの外側に位置する直径の小さい弱素線26aは、研磨によって除去される。この際、直径の大きい強素線26bの断面形状は維持される。
【0037】
一方、強素線26bの内側に位置する弱素線26aは、研磨によって除去されないが、両端が上記研磨によって切断されることによって、素線片126aとして、強素線26bの内側に残存した状態となる。ここで、弱素線26aの外側に位置する強素線26bは、外周が研磨されて、断面形状が非円形の素線126bとなるが、切断されることなく連続した状態となっている。従って、この素線126bに素線片126aは押さえつけられた状態で、その位置を維持するようになっている。
【0038】
このように、直径の小さい弱素線26aのみを切断すると共に、直径の大きい強素線26bを切断することなく、維持することで、素線片126aによって放射線不透過性を劣化させることなく、柔軟部15の柔軟性を向上させることができる。また、強素線26bは切断されていないため、カテーテル10の押し込み力の伝達性が劣化することを防止できるようになっている。
【0039】
柔軟編組部30の先端の外周には、リング状の放射線不透過性のマーカ17が取り付けられている。マーカ17の軸方向の長さは、本実施の形態の場合、約0.5mmに設定されている。マーカ17の材料は、放射線不透過性であれば、特に限定されるものではないが、本実施の形態では、プラチナ合金が用いられている。このマーカ17も内層24との間で、素線片126aを位置決めする役割を果たすようになっている。
【0040】
柔軟部15において、柔軟編組部30とマーカ17は、樹脂によって被覆されており、柔軟外層18を構成している。この柔軟外層18の樹脂は、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマ等、特に限定されるものは無いが、上記した外層28の樹脂材料よりも硬度の低い、柔軟な樹脂が用いられる。本実施の形態の場合、後述するチップ14を構成する樹脂と同じ、ポリウレタンが用いられている。
【0041】
テーパ部40bは、小径部40aと大径部40cを接続するテーパ状の部分である。テーパ部40bの軸方向の長さは、本実施の形態の場合、約50mm〜約150mmの範囲が好ましく、約100mmに設定されている。テーパ部40bは、本実施の形態の場合、上記した外層28を構成する樹脂チューブの内、樹脂チューブ28bによって被覆された部分となっている。
【0042】
大径部40cは、カテーテル本体40における小径部40aとテーパ部40b以外の部分を構成している。大径部40cの外径は、本実施の形態の場合、約0.90mm〜約1.00mmの範囲が好ましく、約0.90mmに設定されている。内径は、本実施の形態の場合、約0.50mm〜約0.65mmの範囲が好ましく、約0.55mmに設定されている。大径部40cは、本実施の形態の場合、上記した外層28を構成する樹脂チューブの内、樹脂チューブ28c〜28gによって被覆された部分となっている。
【0043】
カテーテル本体40の先端、即ち、柔軟部15の先端には、チップ14が取り付けられている。チップ14はカテーテル10の先端開口部14aを構成する円筒状の部材である。チップ14の先端の外周は、円弧状のテーパが設けられている。チップ14の軸方向の長さの合計は、本実施の形態の場合、約0.50mm〜約1.0mmの範囲が好ましく、約0.5mmに設定されている。
チップ14の外径及び内径は、カテーテル本体40の小径部40aと同等となっている。
【0044】
チップ14は樹脂のみからなる。チップ14が形成される樹脂は特に限定されるものは無いが、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマ等からなる。本実施の形態の場合、ポリウレタンが用いられている。そして、この樹脂は、放射線不透過性の粉末を含有している。本実施の形態の場合、約65w%〜約90w%の範囲の放射線不透過性の粉末を含有することが好ましく、約85w%のタングステン粉末を含有している。他の放射線不透過性の粉末としてはビスマス等が用いられる。
【0045】
次に、上述した柔軟部15を製造する方法を、図7に基づいて説明する。
まず、芯金60上に配置された、内層24、編組26、中間層27、及び外層28から成るカテーテル本体40が準備される(図7(a))。この状態において、カテーテル本体40の先端部分は、柔軟部15を形成するために、外層28によって被覆されていない、中間層27が露出した状態となっている。
【0046】
この露出した中間層27の樹脂をブラシ研磨等によって可及的に除去し、編組26を露出させる(図7(b))。この後、バフ研磨等によって、直径の小さい弱素線26aの直径を切断できる位置Gまで、研磨を行う。これによって、直径の大きい強素線26bの外側に位置する直径の小さい弱素線26aは、切断されて、除去される。また、直径の大きい強素線26bの内側に位置する直径の小さい弱素線26aは、素線片126aとして残存した状態となる。外側に位置する強素線26bは外周の一部が研磨されて、非円形の部分を有する素線126bとなる。よって、切断されることなく連続する直径の大きい強素線26bからなる非円形の部分を有する素線126bに素線片126aは押し付けられて、その位置に保持される。これによって、柔軟編組部30が形成される。
尚、ブラシ研磨を用いることなく、バフ研磨の押圧力を調整することによって、中間層27を除去すると共に、直径の大きい強素線26bの外側に位置する直径の小さい弱素線26aを切断することもできる。
【0047】
次に、この柔軟編組部30の先端にリング状のマーカ17を取り付ける。
更に、この柔軟編組部30とマーカ17に、柔軟部15の柔軟外層18を構成する樹脂チューブを被せて溶着する(図7(c))。
このように柔軟編組部30を柔軟外層18によって被覆することによって、素線片126aは強素線26bからなる非円形の部分を有する素線126bの内側に確実に固定される。
【0048】
次に、芯金60を抜き取った後、柔軟部15の先端にチップ14を構成する樹脂チューブを溶着することによって、チップ14を形成する。
この作業は、例えば、図略の型の内部にチップ14を構成する樹脂チューブを挿入した後、この樹脂チューブに上記した柔軟部15を型内で加熱しながら押し付けて溶着することによって行われる。
【0049】
カテーテル本体40の後端には、コネクタ16が取り付けられている。コネクタ16に取り付けられた図示しないシリンジから造影剤等の薬液が供給されると、薬液はルーメン29を通って先端開口部14aから放出されるようになっている。
【0050】
以上の構成に基づいて、本実施の形態のカテーテル本体40(医療用チューブ)を用いたカテーテル10を肝臓用のマイクロカテーテルとして使用した場合を例として、本実施の形態の作用を説明する。
【0051】
治療の目標部位がある肝臓の動脈には、予め図示しない案内用のカテーテルと、この案内用のカテーテル内に図示しないガイドワイヤが挿入されており、このガイドワイヤに沿ってカテーテル10が体内に挿入される。ガイドワイヤは、カテーテル10のチップ14の先端開口部14aから挿入され、ルーメン29を通過して、コネクタ16の後端から延出される。
【0052】
カテーテル10をガイドワイヤに沿って血管内を進行させる際、医師等の手技者は、カテーテル10を近位側から軸方向に押したり、所定の角度回動させたりしながら、カテーテル10を体内に挿入させていく。この際、編組26は、直径の異なる素線26a、26bが網目状(メッシュ状)に編み込まれたものであるため、一方向に素線が巻回されたコイル状の補強部材よりも押し込み特性が高い。ここで、押し込み特性とは、カテーテルを軸方向に押して体内に挿入する力である押し込み力をカテーテルの手元側から先端側へ伝達する性能のことを言う。
また、カテーテル本体40の先端の柔軟部15において、一方向に巻回された直径の大きな強素線26bは、研磨により一部の断面積が減少した素線126bとなるものの、切断されることなく連続した状態となっている。このため柔軟部15において押し込み特性が劣化することが防止される。
【0053】
更に、柔軟編組部30において、他の方向に巻回された直径の小さな弱素線26aは、切断されているものの、その放射線不透過性の素線片126aは、柔軟編組部30に保持された状態となっている。このため、柔軟編組部30の放射線不透過性が劣化することを防止できる。
【0054】
従って、手技者は、放射線透視下において、カテーテル10の全体像については、放射線不透過性の素線26a、26bからなる編組26と、柔軟部15における素線126bと素線片126aを手がかりに認識することができる。また、カテーテル10の先端については、柔軟部15に取り付けられたマーカ17によって認識することができる。更に、チップ14は、放射線不透過性の粉末を含有していることから、チップ14によっても、カテーテル10の先端位置を知ることができる。
また、チップ14、マーカ17、素線片126aを有する柔軟部15、及び、この柔軟部15より後端の編組26は、それぞれ放射線不透過性の視認性が異なるため、手技者はこのような放射線不透過性の視認性の違いを手がかりにカテーテル10の正確な位置を認識しながら操作することができる。
【0055】
手技者が放射線透視下において、上記した放射線不透過性の部材に基づいてカテーテル10を目的部位に位置決めした後、手技者は、コネクタ16からガイドワイヤを抜去し、コネクタ16に接続された図示しないシリンジから、造影剤や治療のための薬剤を放出させる。
この後、カテーテル10は体外へ引き出されて、手技が終了する。
【0056】
以上述べた実施の形態における、柔軟部15の製造方法では、柔軟部15の中間層27をブラシ研磨等によって可及的に除去し、露出した柔軟編組部30を柔軟外層18によって被覆している。この方法は柔軟な樹脂からなる柔軟外層18の厚みを増加させて、柔軟部15の柔軟性を向上させる上で有効である。
しかし、中間層27を除去する範囲を直径の小さい弱素線26aを切断するのに十分な位置Gまで除去するだけでも、本実施の形態の効果は得られる。この場合は、内側に位置する素線片126aを残存する中間層27によって保持することができるため、素線片126aを強固に保持する上で有効である。
従って、柔軟編組部30も、柔軟編組部30以外の編組26と同様に、中間層27で被覆し、更に外層28によって被覆する構成とすることも可能である。
【0057】
また、以上述べた実施の形態では、カテーテル本体40が内層24、編組26、中間層27、及び外層28から成っているが、中間層を廃し、内層上に配設された編組を直接外層によって被覆する構成としても良い。
即ち、柔軟編組部30と、これ以外の編組26を共に、外層のみで被覆することも可能である。
【0058】
以上述べた実施の形態では、柔軟部15の柔軟外層18を含む、チップ14より後端側の外層28を形成する樹脂は放射線不透過性の粉末を含有していない。このような構成は、上記した通り、チップ14、柔軟部15、及び、その後端側の部分を放射線不透過性の視認性の違いによって認識する上で有効である。しかし、柔軟外層18及び外層28を形成する樹脂に放射線不透過性の粉末を含有させることも可能である。
【0059】
以上述べた実施の形態では、編組26を構成する素線に、断面が円形の直径の異なる弱素線26aと強素線26bを用いている。このような構成は、カテーテルの肉厚に制限がある中で、放射線不透過性の部分の割合を増加させて視認性を向上させることができる利点がある。また、直径の大きい強素線26bを切断することなく、直径の小さい弱素線26aを切断し、素線片126aを形成する上で有利である。しかし、必ずしも両方の素線の直径の異なる断面が円形の素線である必要は無い。例えば、断面積が同じであっても、一方の素線の半径方向の長さが、他方の素線の径方向の長さより短ければ、短い素線の方が切断されるため、同一の効果を得ることができる。
また、少なくとも一方の方向に巻回される素線を断面が略長方形の所謂、平線としても良い。図8に示す例は、編組226において断面積の大きい、切断され難い強素線226bを平線とし、断面積の小さい切断され易い弱素線226aを丸線とした例を示している。
尚、断面が略長方形とは、図8に示されるように、素線の断面形状が厳密に直角な四隅を有する長方形だけではなく、四隅が円弧状のものや、側面の辺に対応する部分が円弧状の形状を含むことを意味する。
【0060】
以上述べた実施の形態では、切断され易い弱素線26aを一方向に巻回し、切断され難い強素線26bを他方向に巻回した構成としている。この構成は、切断されない強素線26bによってコイル状の編組を形成することにより、カテーテル10の押し込み特性を向上させつつ、柔軟性をも向上させる上で有利である。しかし、素線片126aによって放射線不透過性を向上させる上では、必ずしも弱素線と強素線が異なる方向に巻回されている必要は無く、弱素線と強素線が網目状(メッシュ状)に組み合わされていても良い。
【0061】
以上述べた実施の形態では、弱素線26aと強素線26bは、両者共に放射線不透過性のタングステンが材料として用いられている。このような構成は、カテーテル本体40全体の視認性を向上させる上で好ましい。しかし、本実施の形態の効果を得るためには、素線片126aを構成する弱素線26aが放射線不透過性であれば足りるため、弱素線26aを放射線不透過性の材料とし、強素線26bを放射線透過性の材料として編組を構成しても良い。
【0062】
以上述べた実施の形態では、機械的強度(直径)の小さい弱素線26aと機械的強度(直径)の大きい強素線26bを用いている。この構成により、バフ研磨等の方法によって、一方の素線(強素線26b)を切断することなく、他方の素線(弱素線26a)を切断し、容易に素線片126aと切断されていない素線126bを製造している。しかし、レーザ等を使用することにより、一方の素線のみを切断することは可能であるため、素線は必ずしも機械的強度が異なる必要は無い。即ち、同じ機械的強度の素線を用いた編組を使用しても良い。
【0063】
以上述べた実施の形態では、カテーテル本体40(医療用チューブ)の先端部分に柔軟編組部30を有する柔軟部15を設けた構成であるが、必ずしも先端部分である必要はなく、カテーテル本体40の中間部分又は後端部分に柔軟編組部30を有する柔軟部15を設けても良い。
【0064】
以上述べた実施の形態では、カテーテル10を肝臓用のマイクロカテーテルに適用したものであるが、本実施の形態のカテーテルは、マイクロカテーテルに限られるものでは無く、ガイディングカテーテル、造影用カテーテル等の他の種類のカテーテルに適用できる。また、治療される臓器も肝臓に限られるものでは無く、心臓、脳等の各種の臓器に用いることができる。
更に、本実施の医療用チューブはカテーテル本体以外の医療用の管状部材にも用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
10 カテーテル
14 チップ
18 柔軟外層
24 内層
26 編組
26a 弱素線
26b 強素線
28 外層
30 柔軟編組部
40 カテーテル本体
126a 素線片
126b 切断されていない素線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の内層と、
前記内層上に配設され、複数の素線が網目状に巻回され、少なくとも一本の素線が放射線不透過性である編組と、
前記編組における放射線不透過性の前記素線が切断されて成る素線片が、切断されていない前記素線と前記内層との間に位置する柔軟編組部と、
前記編組及び前記柔軟編組部を被覆する外層と
を備えることを特徴とする医療用チューブ。
【請求項2】
前記編組の前記素線は、機械的強度の大きい強素線と、機械的強度の小さい弱素線とからなり、前記素線片は前記弱素線からなることを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項3】
前記強素線が一方向に巻回され、前記弱素線が他方向に巻回されていることを特徴とする請求項2に記載の医療用チューブ。
【請求項4】
前記強素線と前記弱素線の機械的強度の違いは、断面積の違いによって構成されていることを特徴とする請求項2に記載の医療用チューブ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の医療用チューブをカテーテル本体として用いたカテーテル。
【請求項6】
前記柔軟編組部は、前記カテーテル本体の先端部分に形成されていることを特徴とする請求項5に記載のカテーテル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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