説明

医療用マイクロカプセル及び担持体、医療用マイクロカプセルを製造する製造方法、その使用

【課題】何度も人体の創傷部の温度を測定するなど、煩雑な作業を必要とすることなく、温度に関して薬剤を塗布するタイミングをコントロールすることが可能な医療用マイクロカプセルを提供することにある。
【解決手段】皮膜11が融解することによって、その皮膜11の内部に包含された薬剤12が外部に出る医療用マイクロカプセル1において、皮膜11は、例えば切り傷,うちみ,ねんざなどの人体の創傷部Xが所定温度になることを契機として融解することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜が融解することによって、その皮膜の内部に包含された薬剤が外部に出る医療用マイクロカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マイクロカプセルは、記録材料,工業材料,農業材料,香料,化粧品,食品,そして医薬品など様々な分野で用いられている。マイクロカプセルとは、液体状,固体状,気体状の芯物質を、ゼラチン,グリセリン等の素材からなる皮膜により包含したものの総称をいう。そして、その大きさは、数μmから数百μm程度である。
【0003】
マイクロカプセルには、様々な働きがある。例えば、芯物質を周囲の環境から隔離・保護する働き、芯物質の状態によらず常に固体として扱える働き、小さな孔が開いている皮膜を通して芯物質を放出する働き、必要なときに皮膜を破壊して芯物質を放出する働きなどである。
【0004】
ところで、このようなマイクロカプセルの様々な働きのうち、必要なときに皮膜を破壊して芯物質を放出する働きに着目し、芯物質に薬剤を採用した医療用マイクロカプセルを用いて、人体の創傷部を治療する技術がある。
【0005】
例えば、特許文献1に記載された発明は、マイクロカプセルが担持された粘着性包帯を人間の皮膚の傷に当てて、マイクロカプセルの皮膜を、その傷口から滲出した液体によって融解して破壊する、というものである。かかる発明によれば、マイクロカプセルの皮膜内に薬剤を包含させておくことで、皮膚の傷をその薬剤によって治療することが可能となる。
【0006】
【特許文献1】特開2003−10235号公報(段落番号[0012])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1記載の発明は、傷口から滲出した液体によってマイクロカプセルの皮膜を破壊するものであるため、薬剤を塗布するタイミングが、傷口から液体が滲出したタイミング(湿度)に依存することとなる。その結果、使用者が、薬剤を塗布するタイミングをコントロールすることができない、という問題がある。また、上述した特許文献1記載の発明では、薬剤の塗布を停止するタイミングをコントロールすることができない。すなわち、一旦湿気を帯びてしまえば皮膜が破壊されて元に戻ることがないため、皮膜内部に包含された薬剤は全て放出され、薬剤の塗布自体をコントロールすることができない。
【0008】
かかる問題は、例えば解熱に用いる外用薬をマイクロカプセルの芯物質として採用した場合などに、特に顕在化する。すなわち、解熱に用いる外用薬は、創傷部において自己治癒する段階で炎症が生じたときに(例えば発熱したときに)塗布されることが望ましいものであるが、上述した特許文献1記載の発明では、創傷部が発熱していない平熱時であっても、傷口から液体が滲出することを契機として外用薬が塗布されてしまう。
【0009】
この点、例えば特開2001−301334号公報に開示されている技術を適用すれば、熱分解性発泡剤を用いて所定の温度で皮膜を破壊することができる。しかしながら、本技術は、マイクロカプセルの皮膜内に、芯物質とともに熱分解性発泡剤を包含させ、この熱分解性発泡剤による内圧の上昇に基づき皮膜を破壊する、というものであるため、内圧上昇による皮膜破壊時に創傷部を痛めてしまう可能性があり、また、熱分解性発泡剤という別の物質を入れたことによって薬用効果が減る可能性もある。
【0010】
このようなことから、創傷部を痛めることなく温度に関して薬剤を塗布するタイミングをコントロールするためには、創傷部の温度を何分か毎に測定し、発熱を確認したら、例えばマイクロカプセルを担持する絆創膏を皮膚に貼り付けるなど、煩雑な作業を強いられてしまうのである。
【0011】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、その目的は、何度も人体の創傷部の温度を測定するなど、煩雑な作業を必要とすることなく、温度に関して薬剤を塗布するタイミングをコントロールすることが可能な医療用マイクロカプセルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上のような課題を解決するため、本発明は、以下のものを提供する。
【0013】
(1) 皮膜が融解することによって、当該皮膜の内部に包含された薬剤が外部に出る医療用マイクロカプセルにおいて、前記融解は、発熱する患部の作用によっておこることを特徴とする医療用マイクロカプセル。
【0014】
本発明によれば、皮膜が融解することによって、その皮膜の内部に包含された薬剤が外部に出る(放出される,滲み出る,漏れ出るなど、外部に出る態様であれば如何なる態様であってもよい)医療用マイクロカプセルにおいて、その皮膜は、例えば切り傷,うちみ,ねんざなどの人体や動物体の患部が、例えば37度といった所定温度になることを契機として融解するようにしたから、医療用マイクロカプセルの皮膜の内部に、殺菌効果のある薬剤や炎症が生じたときに塗布すべき抗生剤などの各種薬剤を包含すれば、薬剤の塗布タイミング(すなわち、炎症が生じたときに薬剤が自動的に塗布されるタイミング)を適切にコントロールすることができる。
【0015】
従って、例えば、人体や動物体の患部(創傷部)の温度を数分毎に測定し、発熱を確認したら薬剤を塗布する、といったような、煩雑な作業を必要とすることなく、塗布タイミングをコントロールしつつ、人体の患部(創傷部)に薬剤を塗布することができる。また、マイクロカプセル内に抗生剤などを入れた場合には、皮膜が融解し始めると薬の薬用効果が発揮され、炎症が改善される。炎症が改善されると、体温が下がり、残りの薬は余分となる。しかし、体温が下がったことによって皮膜の融解は停止し、ゲル化を始めて凝固するので、薬剤が皮膜から出て塗布されることもなくなり、薬用効果も停止する。このように、薬剤塗布を停止するタイミングをコントロールしつつ、人体等の創傷部といった発熱する患部に薬剤を塗布することも可能になる。ここで、「皮膜」の一例としては、例えば、入手容易なゼラチンを用いることができる。融点の異なる複数のゼラチンの混合比率を細かく調整することで、マイクロカプセルの融解温度を0.1℃間隔で設定することも可能である。
【0016】
また、本発明は、人体等の創傷部といった発熱する患部の発熱を契機として、皮膜自体が融解することとしたから、傷口から滲出した液体や外圧によって医療用マイクロカプセルの皮膜を破壊する従来技術と比べて、創傷部を傷つける心配もない。加えて、熱分解性発泡剤を入れたときのように、薬用効果が減ることもない。
【0017】
さらに、本発明は、医療用マイクロカプセルの皮膜の内部に薬剤を包含させることとしたから、外気に触れる状態で時間が経つと劣化してしまうような薬剤であっても、外気に触れさせずに保存することができ、かつ、使用時にも人体の創傷部といった患部が発熱するまで外気に触れさせずに保存しておくことができ、その結果、衛生面を保ちつつ、かかる薬剤の効果を十分に発揮させることができる。なお、患部が所定の温度にならなかった場合には、既に体内に取り込まれて皮膜が破壊されていない、または一旦は融解したが皮膜が再凝固した医療用マイクロカプセルを回収することも可能である。
【0018】
(2) 前記皮膜は、ゼラチンとコラーゲンペプチドとが配合されていることを特徴とする医療用マイクロカプセル。
【0019】
本発明によれば、ゼラチンとコラーゲンペプチドとが配合されている皮膜によって、人体の患部による発熱で作用する膜の融解温度を有する医療用マイクロカプセルを作製することが可能となり、発熱する患部に応じて融解温度をコントロールすることができる。
【0020】
(3) 前記皮膜は、o−トルニトリル,2−オキソ酪酸,1−クロロメチルナフタレンのうちの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする医療用マイクロカプセル。
【0021】
本発明によれば、上述した皮膜は、o−トルニトリル,2−オキソ酪酸,1−クロロメチルナフタレンのうちの少なくともいずれか一つを含むこととしたから、結果として人体の平静体温よりも融点の高い素材によって製造された皮膜を、人体の患部(創傷部)が所定温度になることを契機として融解させることができ、ひいては薬剤を塗布する開始タイミングと薬剤塗布を停止する停止タイミングをコントロールしつつ、人体の患部(創傷部)に薬剤を塗布することができる。
【0022】
(4) 前記皮膜は、p‐トルエンスルホン酸メチル,ジ‐p‐トリルメタン,ウンデカン酸,o-トルニトリル,デカン酸,エルカ酸のうち少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする医療用マイクロカプセル。
【0023】
本発明によれば、上述した皮膜は、p‐トルエンスルホン酸メチル,ジ‐p‐トリルメタン,ウンデカン酸,o-トルニトリル,デカン酸,エルカ酸のうち少なくともいずれか一つを含むこととしたから、人体の平静体温よりも融点が高いだけでなく、不水溶(又は難水溶)の素材によって製造された皮膜を、汗や体液によって不必要に融解するのを防ぎつつ、人体の患部(創傷部)が所定温度になることを契機として融解させることができる。従って、薬剤を塗布する開始タイミングと薬剤塗布を停止する停止タイミングをコントロールしつつ、人体の患部(創傷部)に薬剤を塗布することが可能になる。
【0024】
(5) (1)から(4)のいずれか記載の医療用マイクロカプセルを担持する担持体。
【0025】
本発明によれば、医療用マイクロカプセルを担持する担持体において、その皮膜は、例えば37度といった所定温度になることを契機として融解するようにしたから、その患部(創傷部)に担持体を貼るだけで、例えば患部(創傷部)の温度を数分毎に測定し、発熱を確認したら薬剤を塗布する、というような、煩雑な作業を必要とすることなく、所望のタイミングで人体の患部(創傷部)に薬剤を塗布することができ、薬剤塗布を停止するタイミングをコントロールすることもできる。
【0026】
(6) 発熱する患部が所定温度になることを契機として皮膜が融解し、当該皮膜の内部に包含された薬剤が外部に出る医療用マイクロカプセルの製造方法であって、前記被膜は、ゼラチンに含有率の異なるコラーゲンペプチドを配合することによって、前記融解温度を変化させた複数種類の医療用マイクロカプセルを製造する製造方法。
【0027】
本発明によれば、ゼラチンとコラーゲンペプチドとが配合されている皮膜によって、人体の患部による発熱で作用する膜の融解温度を有する医療用マイクロカプセルを作製することが可能となる。
【0028】
例えば、コラーゲンペプチドの含有率が増加すると、皮膜の融解温度が低下することから、各器官や臓器の体内温度が低い箇所には、コラーゲンペプチドの含有率を多くした皮膜を採用することができ、また、コラーゲンペプチドの含有率が低下すると、皮膜の融解温度が上昇することから、各器官や臓器の体内温度が高い箇所には、コラーゲンペプチドの含有率を低くした皮膜を採用することができる。
【0029】
(7) 皮膜が融解することによって、当該皮膜の内部に包含された薬剤が外部に出る医療用マイクロカプセルの使用において、前記融解は、発熱する患部の作用によっておこることを特徴とする医療用マイクロカプセルの使用。
【0030】
本発明によれば、皮膜が融解することによって、その皮膜の内部に包含された薬剤が外部に出る医療用マイクロカプセルの使用において、その皮膜は、例えば切り傷,うちみ,ねんざなどの人体や動物体の患部が、例えば37度といった所定温度になることを契機として融解するようにして、融解は、発熱する患部の作用によっておこることから、医療用マイクロカプセルの皮膜の内部に、殺菌効果のある薬剤や炎症が生じたときに塗布すべき抗生剤などの各種薬剤を包含すれば、薬剤の塗布タイミング(すなわち、炎症が生じたときに薬剤が自動的に塗布されるタイミング)を適切にコントロールすることができる。
【0031】
また、本発明の使用によって薬の薬用効果が発揮され、炎症が改善される。炎症が改善されると、体温が下がり、残りの薬は余分となる。しかし、体温が下がったことによって皮膜の融解は停止し、ゲル化を始めて凝固するので、薬剤が皮膜から出て塗布されることもなくなり、薬用効果も停止する。このように、薬剤塗布を停止するタイミングをコントロールしつつ、発熱する患部に薬剤を塗布することも可能になる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、発熱する患部が所定温度になることを契機として医療用マイクロカプセルの皮膜が融解するので、例えば何度も人体の創傷部の温度を測定するなど、煩雑な作業を必要とすることなく、温度によって薬剤を塗布したり、塗布を停止したりするタイミングをコントロールすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
[医療用マイクロカプセルの構成]
【0034】
図1は、本発明の実施の形態に係る医療用マイクロカプセル1の断面図である。
【0035】
図1において、本発明の実施の形態に係る医療用マイクロカプセル1は、皮膜11と、芯物質としての薬剤12と、からなる。皮膜11は、例えば、パラフィンワックス,カルナウバワックス(Carnauba wax),ダンマル樹脂,ビーワックス(蜜蝋)等の素材を用いて製造する。また、皮膜11は、例えば34.0度〜43.0度の間において、0.5℃程度の幅で融点が異なるものを複数種類製造する。さらに、皮膜11は、必ずしも一重である必要はなく、二重、三重等にしてもよい。
【0036】
なお、皮膜11は、上記素材の他に、アクリル酸,アセチルアセトン,アセト酢酸エチル,アセト酢酸メチル,アセトン,安息香酸エチル,安息香酸ベンジル,安息香酸メチル,エチレングリコール,オイゲノール,チオ安息香酸,チオ酢酸,チオフェノール,ベンゼン,メタクリル酸,メルカプト酢酸等の素材を用いて製造することもできる。
【0037】
また、皮膜11は、例えば、o−トルニトリル(融点29.5℃),2−オキソ酪酸(融点32℃),1−クロロメチルナフタレン(融点32℃)など,融点の高い素材を混合させて製造することもできる。これにより、患部が所定温度(例えば37℃)になることを契機として融解する皮膜11を提供することができる。このとき、融点より低い一定の温度で融解する現象(クリープ現象)を利用してもよい。
【0038】
また、皮膜11は、例えば、p‐トルエンスルホン酸メチル(不水溶,融点28℃〜29℃),ジ‐p‐トリルメタン(不水溶,融点28.5℃),ウンデカン酸(難水溶,融点29.3℃),o-トルニトリル(不水溶,融点29.5℃),デカン酸(不水溶,融点31.3℃),エルカ酸(不水溶,融点33.8℃)など、融点が高く、かつ、不水溶である素材を混合させて製造することもできる。これにより、汗や体液によって皮膜11が破壊されるのを防ぐとともに、患部が所定温度(例えば37℃)になることを契機として融解する皮膜11を提供することができる。
【0039】
さらに、皮膜11は、融点の異なるゼラチンを所定の割合で混ぜて、カプセル化することによって製造することもできる。例えば、融点43〜44℃のゼラチンAに対し、これよりも融点の低いゼラチンBを、A:B=17:3の割合で混ぜて、カプセル化することによって、融点39℃〜40℃の皮膜11を製造することができる。なお、混合比率を細かく設定することで、マイクロカプセルの融解温度を0.1℃間隔で設定することができる。
【0040】
一方で、薬剤12は、例えば、ステロイド薬、抗真菌薬、抗生物質、抗ウイルス薬などが挙げられる。また、例えばベルクミン(商品名 松浦漢方株式会社製造)など、傷,うちみ,ねんざ,おでき,ひょうそ(ひょう疽),化膿などの創傷部の発熱を抑える解熱薬を用いてもよい。さらに、殺菌・消毒効果がある薬剤を用いてもよい。
【0041】
本発明の実施の形態に係る医療用マイクロカプセル1で用いられる皮膜11の製造方法としては、一般的なものを採用することができる。すなわち、噴霧乾燥法,乾式混合法などの機械的方法、液中乾燥法,コアセルベーション法などの物理化学的方法,in−site重合法,界面重合法などの化学的方法を採用することができる。
【0042】
例えば、化学反応を利用してカプセル壁を形成する界面重合法について説明すると、まず、芯物質が融解或いは分散している水溶液に、反応物A(例えばヘキサメチレンジアミン)を融解しておく。この水溶液を油相に注入して激しく攪拌すると、水溶液は小さな液滴となって油相の中に分散する。このような分散系に、油相に溶ける別の反応物質B(例えばセバコイルジクロライド)を注入すると、水滴内に溶けている反応物Aとの反応が水滴と油相の界面で生ずる。そうすると、反応物質Cが水滴を囲むように生成されるため、カプセル化が行われる。なお、水相と油相の順序を入れ替えても、同様に、カプセル化を行うことができる。
【0043】
また、in−site重合法について説明すると、まず一種類の反応物(例えばモノマーなど)だけを芯物質溶液の中に融解させておく。そうすると、モノマー同士が多数結合して分子量の大きいポリマーを生成し、カプセル壁となり、カプセル化を行うことができる。
【0044】
また、液中乾燥法について説明すると、まず、カプセル壁を形成する物質(例えばポリマー)を油相に融解しておく。そして、ここに芯物質(水溶液など)を注入して、激しく攪拌すると、芯物質は微小滴となって分散し、分散系が生成される。この分散系を別の水相に注入して攪拌すると、微小滴が分散した油滴が、さらに水相に分散したような系が出現する。ここで、系全体の温度を高くしていくと、カプセル壁となる物質が融解している油相が蒸発していき、この物質の濃度が濃くなっていく。そして、最終的にはカプセル壁が形成され、カプセル化を行うことができる。
【0045】
また、コアセルベーション法について説明すると、まず、カプセル壁を形成する物質を油相に融解しておく。そして、ここに芯物質となる水相を激しい攪拌によって微小滴とし分散させる。このような分散系の油相にカプセル壁物質をあまり溶かすことのできない液体(貧溶媒)を注入していく。そうすると、壁物質の融解度が低下するために、壁物質が微小滴を取り囲むように析出する。このようにして、カプセル化を行うことができる。
【0046】
さらに、乾式混合法について説明すると、新物質と、この芯物質の1/10くらいの大きさの粒子状のカプセル壁物質を混合しながら機械的な力を加えていく。そうすると、カプセル壁物質が圧縮されて、芯物質粒子の表面を覆うようにカプセル壁を形成していく。このような方法を繰り返せば、性質が異なる物質で二重三重のカプセル壁を形成することができ、ひいてはカプセル化を行うことができる。
【0047】
[医療用マイクロカプセルの使用方法]
次に、本発明の実施の形態に係る医療用マイクロカプセル1の使用方法について説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る医療用マイクロカプセル1の使用方法を示す工程説明図である。
【0048】
図2において、人の腕に創傷部Xともいうべき患部があるとする(図2(a))。まず、医療用マイクロカプセル1が混ぜられた軟膏基材13を創傷部Xに直接塗布する(図2(b))。なお、軟膏基材13としては、例えば、脂肪,ワセリン,蝋,天然樹脂,高級アルコール,高級脂肪酸の一種又は二種以上の混合物などの軟膏剤、或いは亜鉛華,澱粉混合物などの粉末剤を用いることができる。
【0049】
次に、医療用マイクロカプセル1を塗布した創傷部Xは炎症によって発熱しているので、その創傷部Xが所定温度(医療用マイクロカプセル1の皮膜11の融点)になったとき、医療用マイクロカプセル1の皮膜11がかかる創傷した発熱した患部によって融解する。皮膜11が融解すると、医療用マイクロカプセル1の芯物質として皮膜11の内部に包含されていた薬剤12が軟膏基材13内で放出される(或いは漏れ出る)。そうすると、結果的に、医療用マイクロカプセル1内の薬剤12が、人体の創傷部Xに塗布されることとなる(図2(c))。
【0050】
このように、本実施形態によれば、医療用マイクロカプセル1の皮膜の内部に各種薬剤を包含し、所望のタイミングで人体の創傷部Xに塗布することができるので、例えば、創傷部の温度を数分毎に測定し、発熱を確認したら薬剤を塗布する、といったような、煩雑な作業を不要とすることができる。また、創傷部Xに通常塗布される軟膏基材13中の医療用マイクロカプセル1は、創傷部Xの炎症によって発熱する部位、すなわち発熱部位で膜材が融解して薬剤12が放出されるが、創傷部Xの近傍で炎症による発熱のない部位、すなわち無発熱部位では膜材が融解さず薬剤12が放出されることなく、医療用マイクロカプセル1が原形を留めていることとなるので、薬剤の無用な使用を控えることができる。
【0051】
[絆創膏]
次に、本発明の実施の形態に係る担持体について説明する。ここでは、担持体の一例として、絆創膏を考える。図3は、絆創膏2の外観図である。特に、図3(a)は、絆創膏2を上から見た平面図であり、図3(b)は、絆創膏2のA−A'の切断面を矢視方向から見た断面図である。
【0052】
図3において、絆創膏2は、粘着シート21と、医療用マイクロカプセル1を担持する担持体22と、からなる。粘着シート21の面のうち、皮膚に接する側の面、すなわち担持体22が接着されている側の面は、皮膚に密着して貼り付くことのできる程度の粘着力を有し、汗及び体温が放出されることのできる孔が多数空いている(図3(a))。
【0053】
担持体22は、伝導膜22aと、医療用マイクロカプセル帯22bと、緩衝膜22cと、からなる。伝導膜22aは、創傷部の熱を医療用マイクロカプセル帯22bに伝えるものである。例えば、金属繊維を、ガーゼ状に織ったものを使用することができる。医療用マイクロカプセル帯22bは、医療用マイクロカプセル1を実際に担持するものである。なお、例えば軟膏基材等で、医療用マイクロカプセル1を膜状に均一に分布させておくことができる。緩衝膜22cは、医療用マイクロカプセル1を外圧から守るものである。例えばガーゼを使用することができる。
【0054】
絆創膏2は、担持体22を創傷部に密着させる形で皮膚に貼り付けて使用する。
【0055】
図4は、人体の腕に、医療用マイクロカプセル1を担持させた絆創膏2を貼り付けた様子を示した図である。
【0056】
図4によれば、創傷部に絆創膏2を貼っておくだけで、その創傷部の温度が所定温度になったとき、担持体22に担持された医療用マイクロカプセルの皮膜11が自動的に融解するので、例えば創傷部の温度を数分毎に測定し、発熱を確認したら薬剤を塗布する、というような、煩雑な作業を必要とすることなく、所望のタイミングで人体の創傷部に薬剤を塗布することができる。また、創傷部の炎症が改善されて体温が下がると、皮膜11の融解は停止することから、薬剤塗布のタイミングをコントロールすることができる。
【0057】
[実施例]
本発明の実施例について説明する。まず、概要について説明すると、マイクロカプセル1の膜材となるゼラチン(融点32.3℃)と、これにコラーゲンペプチド(融点15.9℃)を配合した試料を作製し、融解温度やゲル化温度を測定した。また、ゼラチンとコラーゲンペプチドを配合したものを膜材としたマイクロカプセルを作製して、膜の融解温度も測定した。なお、人体の体温により薬物が漏出する温度依存性マイクロカプセルの考案にあたり、平常時体温が35℃後半〜36℃前半の人もいれば、37℃前後の人もいるが、本発明の実施例では、37℃前後で融解、凝固するマイクロカプセルの皮膜を念頭においた。以下、詳細に説明する。
【0058】
図5は、マイクロカプセルの膜材の融解温度とゲル化温度の測定結果を示す図である。より具体的には、12%ゼラチンのみと、これにコラーゲンペプチドを10,20,30,40,50%添加した円柱状試料(直径5mm,高さ3mmと6mmの2種類)を作製した。図6に示すように、各々の試料110をゆっくりヒーター100で加熱し(試料110はホールスライドグラス101に載せてある)、試料が融解し始めた温度(図6(a)参照)と、試料全体が融解した温度(図6(b)参照)を測定した。また、ヒーター100の電源を切り、室温放冷によりゲル化した温度(図6(c)参照)も測定した。
【0059】
その結果が表1及び図5である。なお、表1においては、含有率(コラーゲンペプチドの含有率)は%、その他数値は温度℃を示している。また、図5(a)は試料高さ3mmの結果、図5(b)は試料高さ6mmの結果を示しており、データの95%信頼性区間は、0.605である。
【0060】
【表1】

【0061】
図5(a)によれば、マイクロカプセルの膜材が溶解する温度(溶け始め)は、コラーゲンペプチドの含有率が増加するほど低下し、37.0℃〜40.3℃で融解する膜材と含有率との関係が示されている。また、図5(b)によれば、図5(a)と同じく、マイクロカプセルの膜材が溶解する温度(溶け始め)は、コラーゲンペプチドの含有率が増加するほど低下し、37.0℃〜43.0℃で融解する膜材と含有率との関係が示されている。
【0062】
以上より、コラーゲンペプチドの含有率が増加すると、マイクロカプセルの膜材の融解温度(37.0℃〜43.0℃)及びゲル化温度(22.0℃〜24.7℃)が低下していることが分かる。また、試料長が長くなる、すなわち試料が高くなると、融解温度及びゲル化は上昇していることが分かる。
【0063】
図7は、温度依存性マイクロカプセルの融解温度の測定結果を示す図である。特に、図7(a)は、マイクロカプセルの各融解状態の温度を示し、図7(b)は、粒径がマイクロカプセルの融解状態温度に与える影響を示し、図7(c)は、コラーゲンペプチドの配合率がマイクロカプセルの融解温度に与える影響を示している。より具体的には、まず、ゼラチン−アラビアゴム系の複合コアセルベーション法により、マイクロカプセルを作製した。組成は、12%ゼラチンのみと、これにコラーゲンペプチドを20,40,60%添加した計4種類とし、マイクロカプセル自体の粒子径は75μm以下,75〜106μm,106〜125μmに分級した。
【0064】
次に、図8に示すように、ヒーター100の上にホールスライドグラス101を載せ、作製した各マイクロカプセル(試料110)0.5mlを注入し、熱電対102の先端を設置した。そして、試料110をヒーターで温めて、顕微鏡でマイクロカプセルの融解を観察して、各融解状態の温度を測定した。
【0065】
図7(a)によれば、膜材が融解した温度(左の棒グラフ)は34℃前後であり、マイクロカプセル1個の内容物が溶出した温度(真ん中の棒グラフ)は約60℃であり、マイクロカプセルの内容物全部が溶出した温度(右の棒グラフ)は約110℃であることが分かる。すなわち、マイクロカプセルの膜が融解する温度は34℃前後で、マイクロカプセル1個の内容物が溶出した温度、全てのマイクロカプセルが融解した温度は、次第に高くなっていることが分かる。
【0066】
また、図7(b)によれば、粒子径75μm以下では融解温度は約67℃であり、粒子径75〜106μmでは融解温度は約68℃であり、粒子径106〜125μmでは融解温度は約67℃であり、マイクロカプセルの粒子径(75〜125μm)は融解温度にさほど影響を与えないが、1℃単位では変化していることが分かる。
【0067】
さらに、図7(c)によれば、コラーゲンペプチドの配合率が増加すると、マイクロカプセルの膜の融解温度は減少していることが分かる。また、マイクロカプセルの粒子径やコラーゲンペプチドの含有率を変えることによって、膜の融解温度が32.3〜36.7℃となるマイクロカプセルを作製することができる。
【0068】
以上説明したように、図5〜図8に示す本発明の実施例によれば、ゼラチンにコラーゲンペプチドを配合して皮膜を形成することにより、膜の融解温度が32.3℃〜43.0℃、より具体的には、32.3℃〜36.7℃、37.0℃〜40.3℃、37.0℃〜43.0℃となるマイクロカプセルを作製することができることが分かる。また、体内温度と表面温度とは大きく異なり、人体の部位にもよるが、顔面では、一般に体内温度が36℃〜37℃の場合に皮膚の表面温度は30℃であるから、表面温度が32.3℃〜36.7℃であっても、かかる温度で融解するマイクロカプセルは非常に有益となる。このように、医療用マイクロカプセルを体内に摂取するか、人体表面に塗布等するかによっても、その膜材を変えることができ、炎症により発熱した部位のみに薬物を漏出させることができる医療用マイクロカプセルを作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る医療用マイクロカプセル及び絆創膏は、温度に関して薬剤を塗布するタイミングをコントロールすることができるものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態に係る医療用マイクロカプセルの断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る医療用マイクロカプセルの使用方法を示す工程説明図である。
【図3】絆創膏の外観図である。
【図4】人体の腕に、医療用マイクロカプセルを担持させた絆創膏を貼り付けた様子を示した図である。
【図5】マイクロカプセルの膜材の融解温度とゲル化温度の測定結果を示す図である。
【図6】融解温度を測定する様子を示す図である。
【図7】温度依存性マイクロカプセルの融解温度の測定結果を示す図である。
【図8】融解温度を測定する様子を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 医療用マイクロカプセル
11 皮膜
12 薬剤
13 軟膏基材
2 絆創膏
21 粘着シート
22 担持体
22a 伝導膜
22b 医療用マイクロカプセル帯
22c 緩衝膜
X 創傷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膜が融解することによって、当該皮膜の内部に包含された薬剤が外部に出る医療用マイクロカプセルにおいて、
前記融解は、発熱する患部の作用によっておこることを特徴とする医療用マイクロカプセル。
【請求項2】
前記皮膜は、ゼラチンとコラーゲンペプチドとが配合されていることを特徴とする請求項1記載の医療用マイクロカプセル。
【請求項3】
前記皮膜は、o−トルニトリル,2−オキソ酪酸,1−クロロメチルナフタレンのうちの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1記載の医療用マイクロカプセル。
【請求項4】
前記皮膜は、p‐トルエンスルホン酸メチル,ジ‐p‐トリルメタン,ウンデカン酸,o-トルニトリル,デカン酸,エルカ酸のうち少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1記載の医療用マイクロカプセル。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか記載の医療用マイクロカプセルを担持する担持体。
【請求項6】
発熱する患部が所定温度になることを契機として皮膜が融解し、当該皮膜の内部に包含された薬剤が外部に出る医療用マイクロカプセルの製造方法であって、
前記被膜は、ゼラチンに含有率の異なるコラーゲンペプチドを配合することによって、前記融解温度を変化させた複数種類の医療用マイクロカプセルを製造する製造方法。
【請求項7】
皮膜が融解することによって、当該皮膜の内部に包含された薬剤が外部に出る医療用マイクロカプセルの使用において、
前記融解は、発熱する患部の作用によっておこることを特徴とする医療用マイクロカプセルの使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−290867(P2006−290867A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366082(P2005−366082)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(595077050)
【出願人】(501145136)
【Fターム(参考)】