説明

医療用ワイヤーの製造方法および医療用ワイヤー

【課題】 本発明の課題は、医療用ワイヤーの直径を自在に調節できるとともに医療用ワイヤーに所望の柔軟性を付与することが可能であり、さらに医療用ワイヤーの外表面の滑り性を向上させることができる医療用ワイヤーの製造方法を提供することにある。
【解決手段】 医療用ワイヤーの製造方法は、第2被覆ワイヤー製造工程、第3被覆ワイヤー製造工程、および第4被覆ワイヤー製造工程を備える。第2被覆ワイヤー製造工程では、第1被覆ワイヤーの外周に、第2樹脂が被覆されて第2被覆ワイヤーが製造される。第3被覆ワイヤー製造工程では、第2被覆ワイヤーの外周に、フッ素樹脂含有液またはフッ素樹脂の粉体が塗装されて第3被覆ワイヤーが製造される。第4被覆ワイヤー製造工程では、第3被覆ワイヤーが冷却されながら加熱されて第4被覆ワイヤーが製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管、尿管、または気管などに挿入して治療を行うための医療用ワイヤーや、血管、尿管、または気管などにカテーテルを挿入する際においてカテーテルを誘導する役割を担う医療用ワイヤーの製造方法、およびその製造方法により製造された医療用ワイヤーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療業界では、患者の身体的負担を低減する目的で、カテーテルや医療用ワイヤーを利用した体内検査や治療が行われている。血管、尿管、または気管などにカテーテルを挿入する場合、先ず、血管、尿管、または気管などに医療用ワイヤーを挿入して、これを患部へ到達せしめる。次いで、カテーテルを、医療用ワイヤーに被せるようにして血管、尿管、または気管などに挿入していき患部へ到達させる。また、医療用ワイヤーをカテーテルのガイドとしてではなく治療器具として血管、尿管、または気管などに挿入することもあり得る。このように血管、尿管、または気管などの内部に医療用ワイヤーを挿入する際には、医療用ワイヤーと血液の流れとの摩擦抵抗や、医療用ワイヤーと血管、尿管、または気管などの内壁との摩擦抵抗によりトラブルが発生しやすい。また、医療用ワイヤーにカテーテルを挿入していく場合にも、カテーテルと医療用ワイヤーとの隙間が非常に小さいために医療用ワイヤーの表面がカテーテルの内壁面に接してスムーズな操作が難しくなる場合がある。ちなみに、カテーテルと医療用ワイヤーとの隙間が非常に小さいのは、カテーテルから血液などの体液が漏れ出るのを防ぐためである。このような問題を解決するために、過去に「医療用ワイヤーを50〜300μmの厚みを有するフッ素樹脂熱収縮チューブにより被覆する」という技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−41254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、通常、血管は曲がりくねっているため、医療用ワイヤーには血管に損傷を与えることのない十分な柔軟性が要求される。この柔軟性は、通常、主に医療用ワイヤーの芯材である金属製ワイヤーの直径を変化させることにより調節されている。つまり、柔軟性を向上させたい場合には金属製ワイヤーの直径を小さくし、逆に柔軟性を低下させたい場合(つまり、剛性を持たせたい場合)には金属製ワイヤーの直径を大きくする。
【0004】
ところが、医療用ワイヤーの直径は、上述したようにカテーテルの内直径よりも若干小さい程度でなければならなかったり、挿入する血管、尿管、または気管などに対して程度な大きさでならなかったりする。このため、医療用ワイヤーの直径は、通常、金属製ワイヤーに樹脂を被覆することにより調節されている。このような直径調節用の樹脂としては、一般にポリウレタンやナイロン等が採用されている。ここで、直径調節用の樹脂として、上述した50〜300μmの厚みを有するフッ素樹脂熱収縮チューブを採用すれば、医療用ワイヤーの直径を調節できるのと同時に医療用ワイヤーの滑り性を向上させることができ、好適であるように思える。しかし、フッ素樹脂は比較的硬い樹脂であるため、内直径が比較的大きいカテーテルに対応する医療用ワイヤーや、十分な柔軟性を有する直径の大きい医療用ワイヤーなどを製造する場合、医療用ワイヤーの直径を調節できたとしても、医療用ワイヤーに所望の柔軟性を付与できない場合が想定される。また、ポリウレタンやナイロンが被覆された金属製ワイヤー(以下、第1被覆ワイヤーという)に、例えば特開2004−130123号公報に開示されるフッ素樹脂のディスパージョンなどを利用して薄いフッ素被膜を形成することも考えられる。しかし、代表的なフッ素樹脂の融点は280℃(FEP)、310℃(PFA)、327℃(PTFE)と非常に高温であり、しかもフッ素樹脂の持つ優れた特性を得るためにはこれらのフッ素樹脂をそれぞれの融点まで加熱し焼成しなければならない。ところが、フッ素樹脂のディスパージョンなどを塗布した第1被覆ワイヤーを単純にフッ素樹脂の融点以上に加熱すると、ポリウレタンやナイロンが融解または分解し第1被覆ワイヤーの形状を維持できなくなるという不都合がある。
【0005】
本発明の課題は、医療用ワイヤーの直径を自在に調節できるとともに医療用ワイヤーに所望の柔軟性を付与することが可能であり、さらに医療用ワイヤーの外表面の滑り性を向上させることができる医療用ワイヤーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る医療用ワイヤーの製造方法は、第2被覆ワイヤー製造工程、第3被覆ワイヤー製造工程、および第4被覆ワイヤー製造工程を備える。第2被覆ワイヤー製造工程では、第1被覆ワイヤーに、第2樹脂が被覆されて第2被覆ワイヤーが製造される。なお、このとき、第2樹脂は所定の厚みとなるように被覆される。ここで「所定の厚み」は5〜40μm(マイクロメートル)であることが好ましい。また、第2樹脂の被覆は、第2樹脂を含む液である第2樹脂含有液、第2樹脂の前駆体、第2樹脂の前駆体を含む液である第2樹脂前駆体含有液、第2樹脂の粉体、または第2樹脂の前駆体の粉体を第1被覆ワイヤーの外周に液塗装あるいは粉体塗装(静電塗装などを含む)した後に乾燥処理または加熱処理するなどして行われる。そして、ここにいう「第1樹脂」は、フッ素樹脂以外の樹脂である。そして、この第1樹脂は、少なくとも150℃以上の融点を有する樹脂であることが好ましい(例えば、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、シリコンゴム、ポリウレタンおよびこれらのブレンド物など)。また、ここにいう「第1被覆ワイヤー」とは、第1樹脂により被覆された金属製ワイヤーである。また、ここにいう「金属製ワイヤー」とは、ステンレス線やピアノ線などの弾性金属線、またはNi−Ti合金やNi−Al合金などの超弾性金属線などである。また、ここにいう「第2樹脂」は、フッ素樹脂単体でない樹脂である(フッ素樹脂が一部含まれているものは第2樹脂に該当する)。この第2樹脂は、例えば、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルアミド樹脂、ポリスルフォン樹脂、およびポリイミド樹脂、ならびにこれらの誘導体などである。第3被覆ワイヤー製造工程では、第2被覆ワイヤーの外周に、フッ素樹脂含有液またはフッ素樹脂の粉体が塗装されて第3被覆ワイヤーが製造される。なお、このとき、フッ素樹脂含有液またはフッ素樹脂粉体は、フッ素樹脂が所定の厚みとなるように塗装される。ここで「所定の厚み」は第1樹脂の被膜の厚みより薄く且つ1〜50μmの範囲内にあるのが好ましい。また、ここにいう「塗装」には、液塗装や粉体塗装(静電塗装などを含む)などが含まれる。そして、ここにいう「フッ素樹脂含有液」とは、フッ素樹脂を含む液である。第4被覆ワイヤー製造工程では、第3被覆ワイヤーが冷却されながら加熱されて第4被覆ワイヤーが製造される。なお、「第3被覆ワイヤーが冷却されながら加熱され」るという態様としては、例えば、「第3被覆ワイヤーが第1温度まで冷却されつつ第3被覆ワイヤーに第2温度の加熱流体が供給される」という態様や「第3被覆ワイヤーが第1温度まで冷却されつつ第3被覆ワイヤーに所定波長の電磁波(赤外線や紫外線などの光を含む)が照射される」という態様などが挙げられる。また、ここにいう「第1温度」および「第2温度」はフッ素樹脂のみを効果的に焼成できるように設定される。
【0007】
この医療用ワイヤーの製造方法では、第2被覆ワイヤー製造工程の前に、所望の直径および所望の柔軟性を有する第1被覆ワイヤーを選択または製造することができる。そして、第2被覆ワイヤー製造工程で、第1被覆ワイヤーに、第2樹脂が被覆されて第2被覆ワイヤーが製造される。なお、このとき、第2樹脂は所定の厚みとなるように被覆される。次に、第3被覆ワイヤー製造工程で、第2被覆ワイヤーの外周に、フッ素樹脂含有液またはフッ素樹脂粉体が塗装されて第3被覆ワイヤーが製造される。なお、このとき、フッ素樹脂含有液またはフッ素樹脂粉体は、フッ素樹脂が所定の厚みとなるように塗装される。続いて、第4被覆ワイヤー製造工程で、第3被覆ワイヤーが第1温度まで冷却されながら加熱されて第4被覆ワイヤーが製造される。このため、この医療用ワイヤーの製造方法では、第4被覆ワイヤー製造工程において、第3被覆ワイヤーの表面付近のみの温度をフッ素樹脂の焼成温度とすることができる。また、第4被覆ワイヤー製造工程において、フッ素樹脂が加熱焼成されるときに、余剰の熱が第2樹脂および第1樹脂へと伝達されることになるが、第2樹脂が第1樹脂に対して熱緩衝材として作用するため、第1樹脂の形状を保持することが可能となる。もちろん、このとき、第2樹脂には、ある程度の耐熱性が要求される。したがって、この医療用ワイヤーの製造方法では、第4被覆ワイヤーの形状を維持するとともに、第4被覆ワイヤーの外周に薄いフッ素樹脂の被膜を形成することができる。フッ素樹脂の被膜が十分に薄い場合、フッ素樹脂の被膜は、金属製ワイヤーの柔軟性にほとんど影響を及ぼさない。この結果、この医療用ワイヤーの製造方法を採用すれば、医療用ワイヤーの直径を調節できるとともに医療用ワイヤーに所望の柔軟性を付与することが可能であり、さらに医療用ワイヤーの外表面の滑り性を向上させることができる。なお、フッ素樹脂の粉体を塗装した場合には、第4被覆ワイヤー製造工程の温度条件により第4被覆ワイヤーの表面に凹凸構造を形成することができる。一般に、表面の材質が同じである場合、平滑な表面よりも凹凸のある表面の方が低摩擦になりやすい。これは接触表面積が小さくなるためであると言われている。このため、この医療用ワイヤーの製造方法では、第3被覆ワイヤー製造工程においてフッ素樹脂の粉体を採用した場合、更に摩擦抵抗の低い医療用ワイヤーを製造することができる。
【0008】
第2発明に係る医療用ワイヤーの製造方法は、第1発明に係る医療用ワイヤーの製造方法であって、第2樹脂には、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルアミド樹脂、ポリスルフォン樹脂、およびポリイミド樹脂、ならびにこれらの誘導体より成る群から選択される少なくとも1つの樹脂とフッ素樹脂とが含まれる。
【0009】
上記選択肢として列挙される樹脂は、比較的耐熱性の高いエンジニアリング樹脂として知られている。したがって、この医療用ワイヤーの製造方法では、第4被覆ワイヤー製造工程において、第3被覆ワイヤーが加熱されても第3被覆ワイヤーの形状を保つことが可能となる。また、この第2樹脂には、フッ素樹脂も含まれる。かかる場合、第2樹脂とフッ素樹脂とは相分離する傾向が非常に強く、フッ素樹脂が空気側表面に、第2樹脂が基材側表面に集まる傾向がある(この現象は表面自由エネルギーの差によって説明される)。このため、この医療用ワイヤーの製造方法では、第2被覆ワイヤーの外表面がフッ素樹脂で覆われることになる。したがって、この医療用ワイヤーの製造方法では、第2被覆ワイヤーとフッ素樹脂との接着性を向上することができる。
【0010】
第3発明に係る医療用ワイヤーの製造方法は、第1発明または第2発明に係る医療用ワイヤーの製造方法であって、フッ素樹脂には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、およびテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(PETFE)より成る群から選択される少なくとも1つのフッ素樹脂が含まれる。
上記選択肢として列挙されるフッ素樹脂は、フッ素樹脂の中でも特に摩擦抵抗が低い素材としてよく知られている。したがって、この医療用ワイヤーの製造方法では、摩擦抵抗の低い医療用ワイヤーを得ることができる。
【0011】
第4発明に係る医療用ワイヤーの製造方法は、第1発明から第3発明のいずれかに係る医療用ワイヤーの製造方法であって、第3被覆ワイヤー製造工程では、第2被覆ワイヤーの外周に、フッ素樹脂含有液またはフッ素樹脂粉体が塗装されて第3被覆ワイヤーが製造される。なお、このとき、フッ素樹脂含有液またはフッ素樹脂粉体は、フッ素樹脂の厚みが第1樹脂の被膜の厚みより薄く且つ1〜50μmの範囲に収まるように塗装される。
本願発明者らは、フッ素樹脂の厚みが50μmよりも大きいと医療用ワイヤーの柔軟性を損ない、フッ素樹脂の厚みが1μmよりも小さいと医療用ワイヤーの耐久性を損なうという知見を得ている。このため、この医療用ワイヤーの製造方法では、使用に耐え得る柔軟性と耐久性とを兼ね備えた医療用ワイヤーを製造することができる。
【0012】
第5発明に係る医療用ワイヤーの製造方法は、第1発明から第4発明のいずれかに係る医療用ワイヤーの製造方法であって、第1樹脂は、150℃以上の融点を有する。
本願発明者らは、第1樹脂の融点が150℃未満であると第4被覆ワイヤー製造工程において第1樹脂が変形しやすいという結果を得ている。このため、この医療用ワイヤーの製造方法では、第1樹脂を変形させることなく所望の形状の医療用ワイヤーを製造することができる。
【0013】
第6発明に係る医療用ワイヤーは、第1発明から第5発明のいずれかの製造方法によって得られる。このため、この医療用ワイヤーは、カテーテルの内直径に適した直径を有するとともに適切な柔軟性を有し、さらに優れた外表面の滑り性を備えている。
【0014】
第7発明に係る医療用ワイヤーは、金属製ワイヤー、第1樹脂層、第2樹脂層、およびフッ素樹脂層を備える。なお、ここにいう「金属製ワイヤー」とは、ステンレス線やピアノ線などの弾性金属線、またはNi−Ti合金やNi−Al合金などの超弾性金属線などである。第1樹脂層は、金属製ワイヤーの外周に設けられる。なお、ここにいう「第1樹脂」とは、例えば、ポリウレタンなどである。第2樹脂層は、第1樹脂層の外周に設けられる。なお、ここにいう「第2樹脂層」には、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルアミド樹脂、ポリスルフォン樹脂、およびポリイミド樹脂、ならびにこれらの誘導体より成る群から選択される少なくとも1つの樹脂が含まれている。フッ素樹脂層は、第2樹脂層の外周に設けられる。なお、ここにいう「フッ素樹脂層」には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、およびテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(PETFE)より成る群から選択される少なくとも1つのフッ素樹脂が含まれる。このため、この医療用ワイヤーは、カテーテルの内直径に適した直径を有するとともに適切な柔軟性を有し、さらに優れた外表面の滑り性を備えている。
【0015】
第8発明に係る医療用ワイヤーは、第7発明に係る医療用ワイヤーであって、フッ素樹脂層の厚みは、第1樹脂層の厚みより薄く且つ1〜50μmの範囲内である。
本願発明者らは、フッ素樹脂の厚みが50μmよりも大きいと医療用ワイヤーの柔軟性を損ない、フッ素樹脂の厚みが1μmよりも小さいと医療用ワイヤーの耐久性を損なうという知見を得ている。このため、この医療用ワイヤーは、使用に耐え得る柔軟性と耐久性とを兼ね備えている。
【0016】
第9発明に係る医療用ワイヤーは、第7発明または第8発明に係る医療用ワイヤーであって、フッ素樹脂層は、表面に凹凸構造を有する。
一般に、表面の材質が同じである場合、平滑な表面よりも凹凸のある表面の方が低摩擦になりやすい。これは主に接触表面積が小さくなるためであると言われている。このため、この医療用ワイヤーは、更に摩擦抵抗の低いものになる。
【0017】
第10発明に係る医療用ワイヤーの製造方法は、第5被覆ワイヤー製造工程および第6被覆ワイヤー製造工程を備える。第5被覆ワイヤー製造工程では、第1被覆ワイヤーの外周に、フッ素樹脂を含む第2樹脂が被覆されて第5被覆ワイヤーが製造される。なお、このとき、第2樹脂は所定の厚みとなるように被覆される。ここで「所定の厚み」は5〜40μm(マイクロメートル)であることが好ましい。また、第2樹脂の被覆は、第2樹脂を含む液である第2樹脂含有液、第2樹脂の前駆体、第2樹脂の前駆体を含む液である第2樹脂前駆体含有液、第2樹脂の粉体、または第2樹脂の前駆体の粉体を第1被覆ワイヤーの外周に液塗装あるいは粉体塗装(静電塗装などを含む)した後に乾燥処理または加熱処理するなどして行われる。そして、ここにいう「第1樹脂」は、フッ素樹脂以外の樹脂である。そして、この第1樹脂は、少なくとも150℃以上の融点を有する樹脂であることが好ましい(例えば、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、シリコンゴム、ポリウレタンおよびこれらのブレンド物など)。また、ここにいう「第1被覆ワイヤー」とは、第1樹脂により被覆された金属製ワイヤーである。また、ここにいう「金属製ワイヤー」とは、ステンレス線やピアノ線などの弾性金属線、またはNi−Ti合金やNi−Al合金などの超弾性金属線などである。また、ここにいう「第2樹脂」は、フッ素樹脂でない樹脂である。この第2樹脂は、例えば、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルアミド樹脂、ポリスルフォン樹脂、およびポリイミド樹脂、ならびにこれらの誘導体などであり、フッ素樹脂を含有する。第6被覆ワイヤー製造工程では、第5被覆ワイヤーが冷却されながら加熱されて第6被覆ワイヤーが製造される。なお、「第5被覆ワイヤーが冷却されながら加熱され」るという態様としては、例えば、「第5被覆ワイヤーが第3温度まで冷却されつつ第5被覆ワイヤーに第4温度の加熱流体が供給される」という態様や「第5被覆ワイヤーが第3温度まで冷却されつつ第5被覆ワイヤーに所定波長の電磁波(赤外線や紫外線などの光を含む)が照射される」という態様などが挙げられる。また、ここにいう「第3温度」および「第4温度」はフッ素樹脂のみを効果的に焼成できるように設定される。
【0018】
この医療用ワイヤーの製造方法では、第2被覆ワイヤー製造工程の前に、所望の直径および所望の柔軟性を有する第1被覆ワイヤーを選択または製造することができる。そして、第5被覆ワイヤー製造工程で、第1被覆ワイヤーに、フッ素樹脂を含む第2樹脂が被覆されて第5被覆ワイヤーが製造される。なお、このとき、第2樹脂は所定の厚みとなるように被覆される。続いて、第6被覆ワイヤー製造工程で、第5被覆ワイヤーが冷却されながら加熱されて第6被覆ワイヤーが製造される。第2樹脂にフッ素樹脂が含まれている場合、第2樹脂とフッ素樹脂とは相分離する傾向が非常に強く、フッ素樹脂が空気側表面に、第2樹脂が基材側表面に集まる傾向がある(この現象は表面自由エネルギーの差によって説明される)。このため、第6被覆ワイヤー製造工程では、第5被覆ワイヤーの外表面に向かってフッ素樹脂が移動し、外表面およびその近傍に集合したフッ素樹脂が加熱焼成されることとなる。したがって、この医療用ワイヤーの製造方法では、第2被覆ワイヤーの外表面がフッ素樹脂で覆われることになる。なお、第6被覆ワイヤー製造工程において、フッ素樹脂が加熱焼成されるときに、余剰の熱が第2樹脂および第1樹脂へと伝達されることになるが、第2樹脂が第1樹脂に対して熱緩衝材として作用するため、第1樹脂の形状を保持することが可能となる。もちろん、このとき、第2樹脂には、ある程度の耐熱性が要求される。したがって、この医療用ワイヤーの製造方法では、第6被覆ワイヤーの形状を維持するとともに、第6被覆ワイヤーの外周に薄いフッ素樹脂の被膜を形成することができる。フッ素樹脂の被膜が十分に薄い場合、フッ素樹脂の被膜は、金属製ワイヤーの柔軟性にほとんど影響を及ぼさない。この結果、この医療用ワイヤーの製造方法を採用すれば、医療用ワイヤーの直径を調節できるとともに医療用ワイヤーに所望の柔軟性を付与することが可能であり、さらに医療用ワイヤーの外表面の滑り性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る医療用ワイヤーの製造方法では、医療用ワイヤーの直径を調節できるとともに医療用ワイヤーに所望の柔軟性を付与することが可能であり、さらに医療用ワイヤーの外表面の滑り性を向上させることができる。なお、フッ素樹脂の粉体を塗装した場合には、第4被覆ワイヤー製造工程の温度条件により第4被覆ワイヤーの表面に凹凸構造を形成することができる。一般に、表面の材質が同じである場合、平滑な表面よりも凹凸のある表面の方が低摩擦になりやすい。これは主に接触表面積が小さくなるためであると言われている。このため、この医療用ワイヤーの製造方法では、第3被覆ワイヤー製造工程においてフッ素樹脂の粉体を採用した場合、更に摩擦抵抗の低い医療用ワイヤーを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〔本発明の実施の形態に係る医療用ワイヤーの製造方法の概要〕
本発明の実施の形態に係る医療用ワイヤーの製造方法は、主に、合成樹脂被覆工程、中間樹脂被覆工程、フッ素樹脂被覆工程、フッ素樹脂焼成工程、およびラビング処理工程から構成される。また、この医療用ワイヤーの製造方法では、原材料として、主に、金属製ワイヤー、合成樹脂、中間樹脂、およびフッ素樹脂が必要とされる。
【0021】
以下、本製造方法を実施するのに必要な原材料について述べた後に、本製造方法の各工程について詳述する。
【0022】
〔原材料〕
(1)金属製ワイヤー
本発明の実施の形態に用いられる金属製ワイヤーとしては、ストレート形状のもの又は先端先細りのテーパ形状のものが好適である。また、この金属製ワイヤー1は超弾性合金から形成されるのが好ましい。超弾性合金としては、例えば、Ti-Ni(Ni:49-51 atomic%, Ti-Niに第3元素を添加したものも含む), Cu-Al-Zn(Al:3-8 atomic%,Zn:15-28 atomic%), Fe-Mn-Si(Mn:30 atomic%,Si:5 atomic%), Cu-Al-Ni(Ni:3-5 atomic%,Al:28-29 atomic%), Ni-Al(Al:36-38 atomic%), Mn-Cu(Cu:5-35 atomic%), Au-Cd(Cd:46-50 atomic%)などが挙げられる。なお、この超弾性合金は、形状記憶合金としても知られている。本発明には、Ti-Ni合金が好適である。金属製ワイヤーの太さは、組み合わせて使用されるカテーテルの内径および用途に適した柔軟性を考慮して選定されることが好ましい。具体的には、約0.3〜約1mm程度の直径の金属製ワイヤーがよく利用される。
(2)合成樹脂
合成樹脂は、金属製ワイヤーの外周を被覆する。この合成樹脂としては、ワイヤーの柔軟性を損なわず、化学的、熱的に安定なナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、シリコンゴム、ポリウレタンおよびこれらの複合体など、一般的な合成樹脂を採用することができる。また、本実施の形態では、フッ素樹脂焼成工程においてフッ素樹脂を焼成するため、合成樹脂は、フッ素樹脂の加熱焼成温度の条件から考慮して少なくとも150℃以上の融点を有する樹脂が好ましい。150℃以下の融点を有する合成樹脂は、フッ素樹脂の加熱焼成時にその加熱温度により変形するおそれがあるため好ましくない。また、体内に挿入したワイヤーの位置確認を容易にするため、タングステン粉末やバリウム粉末などのX線造影性物質を合成樹脂に混合しておくのが好ましい。なお、この合成樹脂は、粉体(熱可塑性樹脂の場合のみ)、溶液、前駆体溶液、ディスパージョン等、種々の状態で使用可能である。
【0023】
(3)中間樹脂
中間樹脂は、最外層のフッ素樹脂との接着剤およびフッ素樹脂焼成工程における高温加熱に対する熱緩衝材としての役割を担うため、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルアミド樹脂、ポリスルフォン樹脂、およびポリイミド樹脂ならびにこれらの誘導体より成る群から選択される少なくとも1つの樹脂であることが好ましい。なお、この中間樹脂は、粉体(熱可塑性樹脂の場合のみ)、溶液、ディスパージョン、前駆体液、前駆体溶液など、種々の状態で採用可能である。耐熱性や接着性の改善のために、中間樹脂に、セラミックスやカーボンなどの粉末を混合してもよい。また、最外層のフッ素樹脂との接着性を向上させるために、中間樹脂にフッ素樹脂の粉体などを混合してもよい。このフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、もしくはテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(PETFE)、またはこれらのブレンド物が挙げられる。なお、中間樹脂にフッ素樹脂の粉体が混合される場合は、中間樹脂とフッ素樹脂との重量比は10〜50:90〜50であることが好ましい。中間樹脂が10重量%未満では、合成樹脂層との接着力が低下するおそれがあるとともに、合成樹脂を包み込む形状保持能力やフッ素樹脂焼成工程における熱緩衝能力が低下するおそれがあるため、好ましくない。その一方、中間樹脂が90重量%を越えると、最外層のフッ素樹脂との接着力が低下するおそれがあり、好ましくない。
なお、この中間樹脂はフッ素樹脂焼成工程においてフッ素樹脂が加熱焼成される際に中間樹脂が熱硬化または被膜化して合成樹脂層に対して熱緩衝材として作用すると考えられる。また、中間樹脂層が熱硬化される場合、その内側の合成樹脂を包み込み、形状を保持する役割を果たすと考えられる。
【0024】
(4)フッ素樹脂
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリ弗化ビニリデン(PVDF)、ポリ弗化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(PETFE)より成る群から選択される少なくとも1つのフッ素樹脂であることが好ましい。フッ素樹脂は、化学的に安定で不活性であり、体内に挿入しても血液と接触しても安全だからである。
【0025】
〔各製造工程〕
(1)合成樹脂被覆工程
合成樹脂被覆工程では、コーティング加工や熱溶融押出加工によって金属製ワイヤーの外周に合成樹脂が被覆される(以下、このワイヤーを合成樹脂被覆ワイヤーという)。なお、このとき、最終的な医療用ワイヤーの柔軟性や剛性などの必要特性を考慮して、最適な合成樹脂を選定するのが好ましい。また、このとき、合成樹脂にフィラーを混合して金属製ワイヤーの柔軟性を調節するようにしてもかまわない。また、このとき、対応するカテーテルの内直径を考慮して、合成樹脂の被膜の厚みを決定すべきである。なお、通常、合成樹脂の厚みとしては、0.1〜0.3mmの範囲内が好ましい。
【0026】
(2)中間樹脂被覆工程
中間樹脂被覆工程では、エポキシ樹脂の前駆体やポリアミドイミド樹脂などの溶液中にフッ素樹脂の粉体が均一に分散されたコーティング剤が、合成樹脂被覆ワイヤーに塗布される。なお、このとき、コーティング剤の粘度を調節した上で、コーティング剤タンクからの合成樹脂被覆ワイヤーの引き上げ速度を制御すれば、中間樹脂の厚みをコントロールすることができる。そして、その後、コーティング剤は乾燥させられて、合成樹脂被覆ワイヤー上に中間樹脂層が形成される(以下、このワイヤーを中間樹脂被覆ワイヤーという)。なお、このときの中間樹脂の厚みは、5〜40μmの範囲内であることが好ましい。より好ましい範囲は10〜30μmである。中間樹脂層の厚みが5μm以下の場合、フッ素樹脂焼成工程において合成樹脂層が変形する場合があり、また40μmを超えると最終的な医療用ワイヤーの柔軟性に影響を及ぼすからである。
【0027】
なお、フッ素樹脂被覆工程において中間樹脂被覆ワイヤーにフッ素樹脂粉体が粉体塗装される場合、この中間樹脂被覆工程でコーティング剤を乾燥させなくてもよい。
(3)フッ素樹脂被覆工程
フッ素樹脂被覆工程では、フッ素樹脂ディスパージョンや、フッ素樹脂含有エナメル溶液、フッ素樹脂粉体などが、中間樹脂被覆ワイヤーに塗装される。なお、フッ素樹脂ディスパージョンやフッ素樹脂含有エナメル溶液が中間樹脂被覆ワイヤーに塗装される場合、フッ素樹脂ディスパージョンやフッ素樹脂含有エナメル溶液の粘度を調節した上で、フッ素樹脂ディスパージョンやフッ素樹脂含有エナメル溶液からの中間樹脂被覆ワイヤーの引き上げ速度を制御すれば、フッ素樹脂の厚みをコントロールすることができる。そして、その後、フッ素樹脂ディスパージョンやフッ素樹脂含有エナメル溶液は乾燥させられて、中間樹脂被覆ワイヤー上にフッ素樹脂層が形成される(以下、このワイヤーをフッ素樹脂被覆ワイヤーという)。また、フッ素樹脂粉体が中間樹脂被覆ワイヤーに粉体塗装される場合、フッ素樹脂粉体の粒子径を適切に選択すれば、フッ素樹脂の厚みをコントロールすることができる。なお、このときのフッ素樹脂層の厚みは、1〜50μmの範囲であって、合成樹脂の厚みより薄いことが好ましい。フッ素樹脂層の厚みが50μmを超えると、フッ素樹脂の持つ剛性がワイヤーの柔軟性に影響を及ぼすことになり、また、厚みが1μm以下では十分な滑り特性や耐久性が得られないからである。また、5〜30μmの厚みで被覆することがより好ましい。また、5〜20μmの厚みで被覆することがさらに好ましい。また、フッ素樹脂ディスパージョンやフッ素樹脂含有エナメル溶液に、金属やセラミックスなどの無機粉末物やフッ素樹脂粉末が添加されていてもかまわない。このようにすれば、フッ素樹脂層表面に微細な突起を形成することができ、カテーテルの内壁との摩擦抵抗をさらに小さくすることができる。
【0028】
なお、中間樹脂被覆工程で十分な量のフッ素樹脂が被覆される場合には、この工程を省いてもかまわない。
(4)フッ素樹脂焼成工程
フッ素樹脂焼成工程では、フッ素樹脂被覆ワイヤーが図1に示される焼成装置30にセットされ、フッ素樹脂被覆ワイヤーの最外層を構成するフッ素樹脂が加熱焼成される(以下、このワイヤーを焼成済みワイヤーという)。
【0029】
この焼成装置30は、図1に示されるように、主に、ヒートガン35、フッ素樹脂被覆ワイヤー支持台36、および冷却水タンク(図示せず)から構成される。ヒートガン35は、周囲の空気を吸い込み、吸い込んだ空気を設定温度にまで加熱した後に吹出口から吹き出す装置である。このヒートガン35は、フッ素樹脂被覆ワイヤー支持台36のフッ素樹脂被覆ワイヤー32の支持溝に対して平行に設けられるヒートガンガイド37にスライド可能に固定されている。なお、このヒートガン35は、吹出口とフッ素樹脂被覆ワイヤー支持台36のフッ素樹脂被覆ワイヤー32の支持溝とが対抗するようにヒートガンガイド37に固定されており、ヒートガンガイド37に沿って一定速度で移動することが可能となっている。フッ素樹脂被覆ワイヤー支持台36は、空洞構造を有しており、フッ素樹脂被覆ワイヤー32を支持溝に沿って支持するだけでなく冷却水ジャケットとしての機能をも果たす。なお、フッ素樹脂被覆ワイヤー支持台36に置かれたフッ素樹脂被覆ワイヤー32は、フッ素樹脂被覆ワイヤー32の加熱焼成中、例えばモータ等の回転駆動機構(図示せず)によってフッ素樹脂被覆ワイヤー32の長手方向を回転軸として回転駆動される。また、このフッ素樹脂被覆ワイヤー支持台36には、内部空間に連通する入口ポート33と出口ポート34とが設けられている。冷却タンクには、冷却水が貯留されている。なお、この冷却水の温度は、チラーユニット(図示せず)により常時5℃に保たれる。この冷却タンクは、フッ素樹脂被覆ワイヤー支持台36の入口ポート33および出口ポート34に連絡チューブ(図示せず)を介して接続されている。そして、冷却タンクの冷却水は、水流ポンプ(図示せず)により、連絡チューブおよび入口ポート33を通ってフッ素樹脂被覆ワイヤー支持台36の内部空間に送り込まれる。内部空間に送り込まれた冷却水は、ヒートガン35により加熱されたフッ素樹脂被覆ワイヤー32と熱交換を行い、フッ素樹脂被覆ワイヤー32を冷却する。なお、このとき、冷却水の温度は上昇する。温度が上昇した冷却水は、出口ポート34から排出され、連絡チューブを通って冷却タンクに戻される。フッ素樹脂被覆ワイヤー32の加熱焼成中は、このようにして、冷却水が循環し、フッ素樹脂被覆ワイヤー32を冷却し続ける。
【0030】
また、この焼成装置30の代わりとして、冷却パイプと環状炉とを組み合わせた焼成装置、またはマイクロ波加熱装置などの電磁波加熱装置を利用することも可能である。なお、電磁波加熱装置を利用する場合には、フッ素樹脂にのみ金属粉末を混入するようにすると効率的に加熱処理を行うことでき、好適である。また、紫外線ランプや赤外線ヒータ等も採用することが可能である。
【0031】
(5)ラビング処理工程
ラビング処理工程では、焼成済みワイヤーが、手で擦られたり、金属チューブや螺旋状に維持されたポリウレタンチューブに通されながら金属チューブやポリウレタンチューブの内面で擦られたりする(以下、このワイヤーを医療用ワイヤーという)。なお、螺旋状に維持されたポリウレタンチューブによってラビング処理を行うと、焼成済みワイヤーの半径方向全面がほぼ均一に擦られるので好適である。
なお、焼成済みワイヤーが十分な特性を有する場合には、このラビング処理工程を省いてもかまわない。
【0032】
〔本発明の実施の形態に係る医療用ワイヤーの断面構造〕
本発明の実施の形態に係る医療用ワイヤーの製造方法によって製造された医療用ワイヤーの断面構造を図2に示す。図2において、符号1が金属製ワイヤーであり、符号2が合成樹脂層であり、符号3が中間樹脂層であり、符号4が焼成フッ素樹脂層である。
【0033】
〔ワイヤーの摩擦抵抗値の測定方法〕
ワイヤーの摩擦抵抗値は、図3に示されるような摩擦抵抗値測定装置10によって測定される。
この摩擦抵抗値測定装置10を使用するに際しては、先ず、直径90mmの金属製円形治具13の下半周分にポリウレタン樹脂チューブ(内径2.5mm、外径4.0mm長さ200mm)12を接着固定する。そして、この金属製円形治具13を引張試験機20の固定側チャック27に取り付ける。その後、本発明に係る医療用ワイヤー11をポリウレタン樹脂チューブ12に挿入し、この医療用ワイヤー11の一方を引張試験機20のクリップ24に固定する。そして、この状態で、医療用ワイヤー11を50mm/分の速度で鉛直上方(図3の白抜き矢印)に引っ張り上げ、このときの荷重をロードセル25により測定する。つまり、本測定方法では、医療用ワイヤー11とポリウレタン樹脂チューブ12との摩擦抵抗値が測定されることになる。なお、このとき、引張り荷重が小さいほど摩擦抵抗が小さいことになる。また、本実施の形態では、測定するに際して、医療用ワイヤー11の任意の位置から50mm長さに至るまでの摩擦抵抗値を測定し、その摩擦抵抗値をチャート用紙に記録した。また、本実施の形態では、複数回、このような測定を繰り返して得られる複数の摩擦抵抗値の平均値を求め、最終的な摩擦抵抗値とした。
【0034】
〔実施例〕
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0035】
あらかじめ直径0.485mmのTi-Ni(Ni:49-51 atomic%)超弾性合金ワイヤーに0.175mmの厚みでポリウレタン樹脂が被覆されているポリウレタン被覆ワイヤーを用意した。このポリウレタン樹脂の融点は、示差走査熱量計(DSC−60:株式会社島津製作所製)により分析した結果160℃であった。また、このポリウレタン樹脂の分解開始温度は、250℃であった。ついで、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂とエポキシ樹脂の前駆体を基本にしたバインダー樹脂とを混合した中間樹脂エナメル液(954−103:デュポン社製商品名)の粘度を50センチポイズに調整し、この中間樹脂エナメル液にポリウレタン被覆ワイヤーを浸漬した。その後、このポリウレタン被覆ワイヤーを、200mm/分の速度で中間樹脂エナメル液から引き上げ、130℃の温度で乾燥した。この結果、ポリウレタン被覆ワイヤー上に厚み15μmの中間樹脂層が形成された(以下、ここで生成したワイヤーを、中間樹脂被覆ワイヤーという)。
【0036】
次に粘度を70センチポイズに調整したFEPディスパージョン(856−200:デュポン社製商品名)に、中間樹脂被覆ワイヤーを浸漬した。その後、この中間樹脂被覆ワイヤーを、200mm/分の速度で引き上げ、130℃で乾燥した。この結果、中間樹脂被覆ワイヤー上に20μm厚みのFEP樹脂層が形成された(以下、ここで生成したワイヤーをFEP樹脂被覆ワイヤーという)。そして、FEP樹脂被覆ワイヤーを図1に示す焼成装置30にセットしてFEP樹脂を焼成した。
【0037】
この焼成装置30では、FEP樹脂被覆ワイヤーが3分の1回転/秒の速度で回転された。また、ヒートガン35はフッ素樹脂被覆ワイヤー支持台36の片端からヒートガンガイド37に沿って10mm/分の速度で移動された。また、ヒートガン35の加熱空気の吹出口直下のFEP樹脂被覆ワイヤーの表面温度は360℃であった。
また、FEP樹脂の焼成中、冷却水タンクの冷却水の温度を5℃に制御し、この冷却水を水流ポンプにより入口ポート33からフッ素樹脂被覆ワイヤー支持台36内に送り込み、フッ素樹脂被覆ワイヤー支持台36から出口ポート34を通って排出される冷却水を再度冷却タンクに戻して、冷却水を循環するようにした。以上のような条件でFEP樹脂被覆ワイヤーのFEP樹脂層を焼成し、最終的な医療用ワイヤーを得た(以下、このワイヤーを医療用ワイヤーという)。なお、この実施例では、ラビング処理は行われなかった。この医療用ワイヤーの摩擦抵抗値を上述した方法に従って測定したところ22.1mNであり、ポリウレタン樹脂被覆面の摩擦抵抗値149mNと比較すると約1/7になり、非常に摩擦抵抗の低い医療用ワイヤーを得ることができた。また、顕微鏡観察の結果、この医療用ワイヤーの最外層には平滑なFEP樹脂被膜が形成されており、FEP樹脂が十分に焼成されていた。また、ポリウレタン樹脂層には熱による影響は見られず、ポリウレタン樹脂層は優れた柔軟性と外径の均一性をそのまま保持していた。
【実施例2】
【0038】
あらかじめ直径0.575mmのTi-Ni(Ni:49-51 atomic%)超弾性合金ワイヤーに0.138mmの厚みでポリウレタン樹脂が被覆されているポリウレタン被覆ワイヤーを用意した。このポリウレタン樹脂の融点および分解開始温度は、実施例1と同様、160℃および250℃であった。ついで、実施例1と同一の中間樹脂エナメル液(954−103:デュポン社製商品名)の粘度を50センチポイズに調整し、この中間樹脂エナメル液にポリウレタン被覆ワイヤーを浸漬した。その後、このポリウレタン被覆ワイヤーを、200mm/分の速度で中間樹脂エナメル液から引き上げ、中間樹脂エナメル液の表面が乾燥しきらない内に、規定のメッシュで篩い分けされたFEP樹脂粉体を吹き付けた。この後、中間樹脂エナメル液およびFEP樹脂粉体が塗装されたポリウレタン被覆ワイヤーを130℃の温度で10分間乾燥させた(以下、ここで生成したワイヤーを、FEP樹脂被覆ワイヤーという)。
【0039】
次に、FEP樹脂被覆ワイヤーを焼成装置30にセットして中間樹脂エナメル液に含まれているエポキシ樹脂の前駆体の硬化反応とFEP樹脂の焼成とを行った。
この焼成装置30では、FEP樹脂被覆ワイヤーが8.5分の1回転/秒の速度で回転された。また、ヒートガン35はフッ素樹脂被覆ワイヤー支持台36の片端からヒートガンガイド37に沿って10mm/分の速度で移動された。また、ヒートガン35の加熱空気の吹出口直下のFEP樹脂被覆ワイヤーの表面温度は190℃であった。この後、ヒートガン35の設定温度値を上げるとともに、FEP樹脂被覆ワイヤーの回転速度を4.5分の1回転/秒に設定し直した。また、このときも、ヒートガン35はフッ素樹脂被覆ワイヤー支持台36の片端からヒートガンガイド37に沿って10mm/分の速度で移動された。このときの、FEP樹脂被覆ワイヤーの表面温度は310℃であった。なお、冷却水については実施例1と同様に制御した。この結果、ポリウレタン被覆ワイヤー上に29μm厚みの樹脂層(中間樹脂層およびフッ素樹脂を含む)が形成された(以下、ここで生成したワイヤーを、焼成済みワイヤーという)。
【0040】
そして、さらに、この焼成済みワイヤーをラビング処理(1回のみ)して、最終的な医療用ワイヤーを得た(以下、このワイヤーを医療用ワイヤーという)。この医療用ワイヤーのFEP樹脂層の厚みは、11μmであった。また、この医療用ワイヤーの摩擦抵抗値を上述した方法に従って測定したところ103.8mNであった。また、顕微鏡観察の結果、この医療用ワイヤーの最外層であるFEP樹脂層は十分に焼成されていた。また、ポリウレタン樹脂層には熱による影響は見られず、ポリウレタン樹脂層は優れた柔軟性と外径の均一性をそのまま保持していた。
【実施例3】
【0041】
実施例2において、実施例1と同一の中間樹脂エナメル液(954−103:デュポン社製商品名)に40重量%のFEP樹脂粉体(532−8000:デュポン社製商品名)と20重量%のPTFE樹脂粉体(MP1300:デュポン社製商品名)とを加えた以外は、実施例2と同様の条件で医療用ワイヤーを作製した。この医療用ワイヤーの摩擦抵抗値は、54.9mNであった。また、この医療用ワイヤーの最外層は顕微鏡観察の結果、凹凸表面を有するFEP樹脂被膜が形成されており、FEP樹脂が十分に焼成されていた。また、ポリウレタン樹脂層には熱による影響は見られず、ポリウレタン樹脂層は優れた柔軟性と外径の均一性をそのまま保持していた。
【実施例4】
【0042】
実施例3において、ラビング処理を行わなかった以外は実施例2と同様の条件で医療用ワイヤーを作製した。この医療用ワイヤーの摩擦抵抗値は、74.5mNであった。
【実施例5】
【0043】
実施例3において、ラビング処理を4回行った以外は実施例2と同様の条件で医療用ワイヤーを作製した。この医療用ワイヤーの摩擦抵抗値は、39.5mNであった。
【実施例6】
【0044】
実施例3において、ラビング処理を6回行った以外は実施例2と同様の条件で医療用ワイヤーを作製した。この医療用ワイヤーの摩擦抵抗値は、45.6mNであった。
【実施例7】
【0045】
実施例1においてポリウレタン被覆ワイヤーとしてあらかじめ直径0.575mmのTi-Ni(Ni:49-51 atomic%)超弾性合金ワイヤーに0.138mmの厚みでポリウレタン樹脂が被覆されているポリウレタン被覆ワイヤーを採用した以外は、実施例1と同様の条件で医療用ワイヤーを作製した。この医療用ワイヤーの摩擦抵抗値は、91.6mNであった。なお、この摩擦抵抗値が実施例1の摩擦抵抗値よりも大きいのは、本例の超弾性合金ワイヤーの直径が実施例1の超弾性合金ワイヤーの直径よりも大きいことに起因する(摩擦抵抗値測定装置10の装置特性)。
【実施例8】
【0046】
実施例3において、FEP樹脂粉体を吹き付けずに中間樹脂エナメル液が塗装されたポリウレタン被覆ワイヤーを130℃の温度で10分間乾燥させた以外は実施例3と同様の条件で医療用ワイヤーを作製した。この医療用ワイヤーのFEP樹脂層の厚みは20μmであり、摩擦抵抗値は56.4mNであった。
(比較例1)
実施例1において中間樹脂層をコーティングしない以外は実施例1と同様の条件で医療用ワイヤーを製作した。この実験ではFEP樹脂層は焼成できていたがポリウレタン樹脂層が溶融し、形状が崩れ、医療用ワイヤーとして使用することができなかった。
(比較例2)
実施例1と同じ条件でポリウレタン被覆ワイヤーに中間樹脂層およびFEPディスパージョンをコーティングし、図1の焼成装置30で冷却水を止めた以外は実施例1と同一条件で焼成し、医療用ワイヤーを製作した。この医療用ワイヤーは焼成を開始すると瞬時にポリウレタン樹脂層が大きく膨らみ、FEP樹脂の焼成が不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る医療用ワイヤーの製造方法は、医療用ワイヤーの直径を自在に調節できるとともに医療用ワイヤーに所望の柔軟性を付与することが可能であり、さらに医療用ワイヤーの外表面の滑り性を向上させることができるという特徴を有し、種々の医療用ワイヤーを製造する上で非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態に係る焼成装置の概略説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る医療用ワイヤーの製造方法によって得られる医療用ワイヤーの断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る摩擦抵抗値測定装置の概略説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 超弾性合金ワイヤー
2 合成樹脂層
3 中間樹脂層
4 フッ素樹脂層
10 摩擦抵抗値測定装置
11 本発明の医療用ワイヤー
12 ポリウレタン樹脂製チューブ
13 金属製円形治具
20 引張試験機
24 クリップ
25 ロードセル
27 固定チャック
30 焼成装置
32 フッ素樹脂被覆ワイヤー
33 入口ポート
34 出口ポート
35 ヒートガン
36 フッ素樹脂被覆ワイヤー支持台
37 ヒートガンガイド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1樹脂(フッ素樹脂を除く)により被覆された金属製ワイヤーである第1被覆ワイヤーに、第2樹脂(フッ素樹脂単体を除く)を、第2樹脂が所定の厚みとなるように被覆して第2被覆ワイヤーを製造する第2被覆ワイヤー製造工程と、
前記第2被覆ワイヤーの外周に、フッ素樹脂を含む液であるフッ素樹脂含有液または前記フッ素樹脂の粉体を、前記フッ素樹脂が所定の厚みとなるように塗装して第3被覆ワイヤーを製造する第3被覆ワイヤー製造工程と、
前記第3被覆ワイヤーを冷却しながら加熱して第4被覆ワイヤーを製造する第4被覆ワイヤー製造工程と、
を備える、医療用ワイヤーの製造方法。
【請求項2】
前記第2樹脂には、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルアミド樹脂、ポリスルフォン樹脂、およびポリイミド樹脂、ならびにこれらの誘導体より成る群から選択される少なくとも1つの樹脂とフッ素樹脂とが含まれる、
請求項1に記載の医療用ワイヤーの製造方法。
【請求項3】
前記フッ素樹脂には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、およびテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(PETFE)より成る群から選択される少なくとも1つのフッ素樹脂が含まれる、
請求項1または2に記載の医療用ワイヤーの製造方法。
【請求項4】
第3被覆ワイヤー製造工程では、前記第2被覆ワイヤーの外周に、前記フッ素樹脂含有液または前記フッ素樹脂粉体が、前記フッ素樹脂の厚みが前記第1樹脂の被膜の厚みより薄く且つ1〜50μmの範囲に収まるように塗装されて第3被覆ワイヤーが製造される、
請求項1から3のいずれかに記載の医療用ワイヤーの製造方法。
【請求項5】
前記第1樹脂は、150℃以上の融点を有する、
請求項1から4のいずれかに記載の医療用ワイヤーの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかの製造方法によって得られる、
医療用ワイヤー。
【請求項7】
金属製ワイヤーと、
前記金属製ワイヤーの外周に設けられる第1樹脂層と、
前記第1樹脂層の外周に設けられる第2樹脂層と、
前記第2樹脂層の外周に設けられるフッ素樹脂層と、
を備える、医療用ワイヤー。
【請求項8】
前記フッ素樹脂層の厚みは、前記第1樹脂層の厚みより薄く且つ1〜50μmの範囲内である、
請求項7に記載の医療用ワイヤー。
【請求項9】
前記フッ素樹脂層は、表面に凹凸構造を有する、
請求項7または8に記載の医療用ワイヤー。
【請求項10】
第1樹脂(フッ素樹脂を除く)により被覆された金属製ワイヤーである第1被覆ワイヤーに、フッ素樹脂を含有する第2樹脂を、前記第2樹脂が所定の厚みとなるように被覆して第5被覆ワイヤーを製造する第5被覆ワイヤー製造工程と、
前記第5被覆ワイヤーを冷却しながら加熱して第6被覆ワイヤーを製造する第6被覆ワイヤー製造工程と、
を備える、医療用ワイヤーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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